要旨 地域社会と積極的に関わり,課題解決型の学習を取り入れることにより,ゼミナールの学生たちはマーケ ティングの実践力を鍛えている。また,アウトキャンパス・スタディやおにぎりやスイーツの商品開発など, 地域における多角的な活動は,多彩なコンピテンスを育成することも可能とし,学生が得られる学習効果は 少なくない。 他方で,短大生であるため活動に取り組む時間が限られ,活動の継続と進展が難しい。また,学生全員の 個性を活かしつつ,ゼミナール全体で得られる成果を最大化する方策を探ることが,継続的な課題としてあ げられる。 そのための対応として,個々の学生に対して,丁寧に個別対応し,熱意を持って活動を進めていくことが 考えられる。 キーワード:ゼミナール,マーケティング,地域,実践力,課題解決型学習
Ⅰ.活動の目的
担当するゼミナールのテーマはマーケティングであ り,学生が授業内容を理解するだけではなく,その知 識・技能を使いこなすことに主眼を置いている。本学 の在学生は約 9 割が長野県内出身者であり、卒業後は 地元企業に就職し,地元で生きていく。生涯にわたり 地域社会と積極的に関わり,地域からの要請に応え, 地域の課題を解決していく力を育む観点からも、本学 では従来から地域での実践的学習を支援する体制が整 えられている。 そのような背景もあり,ゼミナールにおいても,地 域に目を向け,地域の人と関わりながら取組む実践的 な学習に注力し,継続的に展開してきた。 とりわけ課題解決型の学習は,学びを深化させ,実 践力を身につけることができるなど,学生が得ること のできる成果は多岐に渡る。加えて,地域社会に対す る理解を深め,「地域人」としての自覚と,社会人基 礎力や豊かな人間性を身につけるといった副次的効果 も期待される。Ⅱ.地域で実践するゼミナールの活動
1.ゼミナールの機能 本学ではゼミナールが必修科目に位置づけられてい る。入学時に学生は「基礎ゼミナール」に割り振られ, 2 ヶ月程度は初年次教育を主な目的としてゼミナール は機能する。その後,学生は「専門ゼミナール」を選 び,卒業まで所属することとなる。 本学は簿記とパソコン,ビジネス系の科目のほか, 医療事務,ブライダル,ファッション,図書館司書な ど,16 分野の学びを可能にしている(図 1 参照)。そ のため,教員の専門分野は多様で,「専門ゼミナール」 における研究テーマもゼミナールの担当教員によって 異なる。学生は,研究テーマに沿った卒業論文をまと めることを前提として,「専門ゼミナール」を選ぶ。 ゼミナール当たり学生数は 15 名程度であり,「専門 ゼミナール」は少人数制の研究グループとして捉える ことができる。大学祭や体育大会など学校行事への参 加はゼミナール単位であることも多く,自ずとゼミ地域で実践する
ゼミナールの学習効果
The Journal of Economic Education No.36, September, 2017Effects of Learning in My Seminar Practicing in Locary KANEKO, Noko
ナールの結束は強化される。ゼミナールの担当教員は, 学生の就職活動をサポートするなど,学生生活全般を 支援する役割も果たしている。 2.ゼミナールでの活動内容 (1)アウトキャンパス・スタディ 地域で実践するゼミナールでの活動内容は,図 2 に 示した通りで,3 つの学びから構成される。 本ゼミナールのテーマは〝マーケティング〟であり, 実践力を身につけることを目標に据えている。アウト キャンパス・スタディは,地域に出向き,企業や人か ら現場で学ぶことにより,実践に繋がるような現場感 覚を磨くことができる。 長期休暇中や,授業期間中に設けられているアウト キャンパスディを活用し,これまで県内の食品加工会 社,ワイナリー,卸売市場,ハーブ園,道の駅,農業 の生産現場,商業施設や外資系小売店舗など,多彩な 学習の場を得てきた。 事前学習をしていても,実際に現地に赴き,見聞き すると,少なからず驚かされることがある。現場で五 感を使って学ぶことは,学生にとって刺激的な体験と なり,知識の吸収を促すとともに,マーケティングの 活用力を強化することとなる。 アウトキャンパス・スタディで学んだことがきっか けとなり,熱心な就職活動に取り組んだ結果,職を得 た学生もいる。アウトキャンパス・スタディは,就職 活動に結びつく学習機会ともいえる。 (2)おにぎりの商品開発 地域におけるゼミナールの活動で,メインに位置づ けているのが,おにぎりの商品開発である。この活動 の始まりは 200₉ 年で,近隣の JA による依頼がきっか けとなった。以後継続的に JA のブランド米を使用し たおにぎりの商品開発を行っている。 当初は調査活動,情報収集に力を注ぎ,活動のベー スづくりに尽力した。これにより,2 年目以降のゼミ 活動をスムースに進めることができた。毎年,前年ま での活動を進化させることを目標とし,新たな挑戦を 取り入れながら活動を展開している。 たとえば,活動の過程で行うようになったのが,テ ストマーケティングである。ゼミナールの時間を使っ て試作したおにぎりを,学生が互いに試食して意見を 交換するだけでなく,学内の教職員に味見を依頼し, アンケート調査などを実施して,幅広い意見を集める ようにした。 また,活動 5 年目から,おにぎりのレシピ集を作成 するようになった。学生たちはレシピにまとめること を前提とし,手順をなるべく単純化し,説明を明瞭に するよう心がけるなど,多くの人が活用しやすいよう 努めている。短大生ならではの,若さあふれるアイ ディアが盛り込まれたレシピ集は,JA 等で活用して いただいている。 さらに,おにぎりの商品開発に取り組むゼミナール として認知されるようになると,近隣の高校から,お にぎりづくりに挑戦したいとの要請があった。それな らばと高校の文化祭に参画し,高校生と一緒にたくさ んのおにぎりを作り,イベントを盛り上げた。これに より,高大接続に結びつく活動にも発展させることが 図 1 カリキュラムとゼミナール
できた。 昨年は大学職員による全国規模のイベントが本学で 開催され,懇親会では学生が作ったおにぎりが紹介さ れることとなった。学生たちは,他県から集まるゲス トに喜んでいただけるよう,長野県らしいおにぎりを 考案した。それらのおにぎりを本学の職員たちが事前 に味見をし,イベント時に提供するおにぎりを投票で 決定した。イベントの当日は 200 個ほどのおにぎりを 学生が握り,ゼミナールの活動やおにぎりについて, プレゼンテーションをする機会も得た。 短大生であるため,活動に取り組めるのは,実質 1 年程度である。よって,1 年次の 6 月に専門ゼミが決 まるとすぐに,2 年生が試作したおにぎりの試食など, 活動に参加させている。早期から活動に対する意識を 高めることを狙いとしているが,1,2 年生が接触す る機会を増やし,ゼミナール全体のチームで働く力の 強化も図っている。 12 月には 2 年生から 1 年生におにぎりづくりが伝授 される。具材のはかり方やおにぎりの握りかた方など, 要領やコツを 2 年生が 1 年生に教え込む。 新年度に入ると,新 2 年生が各々自宅で研究を重ね, ゼミの時間に試作・試食をして議論をする。これを繰 り返してレシピの完成度を上げていく。 おにぎりづくりにおいては,自分がおいしいかどう かではなく,ニーズを重視しなければならない。2 年 生の学生が,おにぎりの作り方を 1 年生に教える時に も,相手の立場になってわかりやすい説明を心がけな ければならない。 レシピを作る上でも、それを見ておにぎりを作る人 が,同じ味を容易に再現することができるよう,明瞭 な内容にしなければならない。常に,自分以外の人が 何を求めているかを想像し,行動に移す必要がある。 こうしたことを実践しようとすると,困難にぶつか ることが実に多い。時には悩んだり,苦しんだりする こともある。だからこそ,鍛えられる力があると考え る。 (3)その他の活動 アウトキャンパス・スタディ,及び,おにぎりの商 品活動は継続的に取り組んでいる活動である。その他 の活動については,地域からの要請があった場合に臨 機応変に対応している。 2010 年には,地元のハーブセンターから依頼があ り,店舗のディスプレイを改善する活動に取り組んだ。 店内をリニューアルするタイミングで,棚からすべて 商品を撤去し,そこから学生がアイディアを形にする ようにディスプレイを完成させた。実店舗で大がかり なディスプレイを任される機会は得難く,貴重な体験 になった。緊張感を持って取り組むこともでき,学生 にとってまたとない学びのチャンスとなった。 2011 年には近隣の理容室より,DM(ダイレクト メール)広告づくりを頼まれた。販売促進に繋がるよ う効果的な広告を学生が各々考案し,パソコンを駆使 して完成させた。それらの中からコンペスタイルで選 ばれた DM を地域に配布することで,集客に貢献する ことができた。 さらに 2012 年には,新宿高島屋で開催されている 『大学は美味しい!!』フェアに参加することとなった。 フェアには,併設されている大学部のゼミナールや教 員が携わった 13 品目を出品した。 ゼミナールの学生は,商品知識をほとんど持たな かったため,商品化の経緯や,関わった人たちの思い などを学び,商品理解を深めた。その上で,商品をア ピールするポイントなどを議論し,セールストークの 内容や POP について検討した。 アピールポイントの絞り込みや,POP づくりには 時間をかけ,丁寧に作成した。当然のことながら,ゼ ミナールの授業時間だけでは足りず,学生たちは授業 の合間や放課後に作業を進めた。 フェアの前日には全員で上京し,フェアの会場で売 図 2 地域で実践するゼミナールの活動 アウト キャンパス (年 2 〜 3 回) おにぎりの 商品開発 (2009 〜) ディスプレイ考案(2010) DM づくり(2011) 『大学は美味しい!!』フェア(2012) スイーツ企画(2013)
り場づくりを行い,フェアの開催中も交替で上京し, 接客にあたるなど,実践力に結びつく活動に取り組む ことができた。 2013 年には,近隣の JA から依頼があり,摘果リン ゴを原料としたリキュールの商品化に携わることと なった。学生たちは,リキュールの商品名やパッケー ジデザインなどを考案した。あわせて,リキュールに 合うリンゴのスイーツの企画も依頼され,商品開発に 挑戦した。 学生たちは,リキュールやスイーツのターゲットを 設定し,ニーズを踏まえてコンセプトを決めるなど, マーケティングの知識を活用して,企画化を進めるこ とができた。 リキュールは大人の女性が魅力を感じるような上品 でシックなデザインが採用された。またスイーツは, 3 種類の商品を生み出すことができた。JA の収穫祭 でテストマーケティングを実施するなど,販売促進に も参画し,売上に貢献することもできた。 2013 年以降は,期間限定の活動として,バレンタ インスイーツの企画・販売も手がけている。今年の 2 月には 3 回目となるこの活動に取り組んだ。 ゼミナールの学生は,昨年末にはターゲットを絞り 込み、ニーズに合った企画書を完成させた。学生全員 の企画書の中から,地元のパティシエが選んだスイー ツが商品化され,デパートの催事場でバレンタイン デー直前の週末に販売を行った。 この活動で,学生は自分たちの思いがこもった商品 をいかにお客様にアピールするか,試行錯誤すること となる。マーケティング力が試されるとともに,実践 力が売上に直結するため,真剣味を帯びた学習となっ た。 地域からの要請に応える地域活動や,学外でのイベ ントに参加することは,多くの教育効果を得られる機 会であると捉え,積極的に取り入れていくことをゼミ ナールの方針としている。 学生たちは個々に考え抜くだけでなく,学生同士が 協力し合って成果を上げようとする。授業での学び, 資格取得に向けた勉強,そして就職活動などと同時に 進めることになるため,学生が感じる負荷は決して小 さくはない。しかしながら,このような活動をしてい ることが,結果的には成績や資格取得,就職活動にも 役立つことが多いように感じる。
Ⅲ.活動の成果
1.マーケティングの実践力 地域で実践する活動により,講義で学んだマーケ ティングを自分のものとして,より深く理解すること ができる。そして,知識を活用して活動するため,実 践力も身につくことになる。 マーケティング活動においては,ニーズを先回りす るような対応が求められる。しかしながら,活動のプ ロセスにおいて,学生は自分ではなく,ニーズに目を 向けることの難しさを実感する。 ニーズに合致した商品を完成させることを目標とし ても,実際にはニーズを把握することだけでも,どれ だけ難しいことか,身にしみるはずである。このこと こそが,実践的な活動を通じて得られる最も大きな成 果である。本気でニーズを追究した者でなければ得ら れない苦しみの感覚ともいえる。 そして苦しみを感じるからこそ,相手の気持ちをく 写真 1 アウトキャンパスで学ぶ学生たち (筆者撮影) 写真 2 おにぎりを試作する学生たち (筆者撮影)み取ることができるよう,真剣に向き合うようになる。 物事に対しても,謙虚な気持ちで取り組む姿勢が育ま れるように思う。 2.コンピテンスの育成 地域での課題解決型学習においては,企画から販売 に至るまで,ビジネスの現場で通用するアイディアを 出し合い,行動する過程で,あらゆるコンピテンスを 育成することもできる。 継続的に取り組んでいるおにぎりの商品開発では, 自ら考え、調べ、アイディアを〝かたち〟にするプロ セスを通して、主体的に一歩前に進む力を強化するこ とができ,学生は自分の成長を実感することができる。 企画の実現に至るまでには,発想力と実行力が鍛え られる。また,レシピを完成させたり,卒業論文を作 成する作業においては,まとめる力も強化される。 バレンタインスイーツのプロジェクトにおいては, 商品化を前提に魅力的なアイディアを盛り込む企画力 と創造力,それをどのように相手に伝えるかといった 表現力も強化することができる。販売中の商品説明で はプレゼンテーション能力も磨かれる。 チームで作業を進める中で協調性が身につくことも ある。チームで動くことが得意になったり,聴く力や 相手の求めに応えようとするコミュニケーション能力 も向上することが期待される。 グループ,あるいはゼミナール全体で議論する際, 自分の意見をわかりやすく伝える力も必要になる。目 標を達成するために,時には互いに厳しい意見をぶつ け合わなければならない場面もある。そのような時に も,感情的になるのではなく,伝え方を工夫すること ができるようになる。また,相手の意見を傾聴しよう とする思いも強くなる。相手の意見や立場を尊重し, 理解しようとすることで,考え方に柔軟性も示される ようになる。 ゼミナールで取り組むプロジェクトにおいては、自 分の役割を意識しながら全体の成果を上げようと努力 する姿勢が見られ,あらためてチームワークは〝個人 の力〟を向上することにつながると感じる。 チームワークを強く意識するようになると,自分の ためではなく,チームのために自分が何をすべきかを 第一に考えるようになる。状況に応じて,自らの発言 や行動を適切に律する必要もあり,ルールや人との約 束を守ることを重視する。真剣になればなるほど,ス トレスを抱えることもあるが,対応する力も生まれる。
Ⅳ.課題
学生は,1 年程度しか活動に取り組むことができな いため,継続と進展が大きな課題になっている。ゼミ ナールでの活動に取り組める 2 年次には,就職活動も 本格化する。そして,卒業論文をまとめる作業も加わ るため,じっくりと時間をかけて活動に取り組むこと は難しい。 さらに,学内でのイベントやアウトキャンパス・ス タディでは,コミュニケーションを促し,一体感を持 たせるよう努めているものの,基本的に 1,2 年生が 一緒に活動に取り組む機会は少ない。よって,先輩か ら後輩へといった活動の引き継ぎが十分にできず,活 動をバージョンアップさせていくことが容易でない。 また,同じゼミナールの学生とはいえ,学年ごとに 雰囲気や個性が異なるため,前年と同様の指導を繰り 返していても,進展どころか活動が後退してしまうこ 写真 3 スイーツを企画・販売する学生たち (筆者撮影)写真 4 地域で配布しているおにぎりのレシピ(筆者撮影)ともあり得る。学年ごとに対応を変えるなど,ゼミ ナールの学生たちをよく観察し,見極めながら指導す る必要がある。 他方で、ゼミナールでの活動においては、個人差が 目立つ。とりわけ活動に対するモチベーションの格差 は、全体のモチベーションを下げることにつながりか ねない。学生全員の個性を活かしつつ,ゼミナール全 体で得られる成果を最大化する方策を探ることは,継 続的な課題である。 今後の対応として,いかに一人ひとりの力が大切か を理解させ,モチベーションの維持につながる働きか けができるよう努めていきたい。また,個々の学生が 得られるコンピテンスの育成にも目を向け,丁寧に個 別対応し,熱意を持って活動を進めていくことが求め られよう。活動を継続する中で、取り組むべき課題が 明確になってきたといえる。 写真 5 グループディスカッションをする学生たち (筆者撮影)