変形性股関節症患者における歩行制御
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(2) 824. 理学療法学 第 42 巻第 8 号. して歩行時のプッシュオフを強める意識での練習を行い,もう 一方の群には,プッシュオフを弱める意識での歩行練習を実施 した。練習の前後で自然歩行を測定し,その変化を分析した。 結果として,プッシュオフを強める練習を行った群では,股 関節屈曲角度が減少し,股屈曲モーメント・股屈筋パワーが低 下した。一方,プッシュオフを弱める練習を行った群では,股 伸展角度の増加と股屈筋パワーの増加を認めた。これらの結果 から,股疾患患者における股屈筋と足底屈筋との協調関係が再 確認された。また,その協調関係を利用することで,THA 患 者の歩行パターンを変化させられる可能性が示され,THA 術 後理学療法における新たな視点が提供された。 ただし,プッシュオフを弱める練習による股屈筋パワーの変 化率は, 9.8%から 32.1%と個人差が大きかった。そこで,練 習前の歩行パターンと練習による改善率との関係性を分析した ところ,練習前に足底屈筋パワーが過剰な患者ほど,プッシュ オフを弱める練習が有効であることが明らかとなった。つま り,本研究で用いた方法は,過剰な足底屈筋の代償を抑制する という意味において有効であり,個人の動作特性に応じた練習 方法の検討が重要であることが確認された。. 股 OA 患者における環境との接点での制御 5) 著者らの研究も含めて先行研究では,股 OA 患者の歩行制御. 図 股 OA 患者における方向転換歩行時の運動制御 運動課題(a)。クロスターン時に股 OA 患者では足底屈モーメ ントが立脚期前半において増大した(b)。立脚期の足角変化量 (足部回旋量)もクロスターン時に股 OA 患者で増大した(c)。 直線歩行に対するクロスターン時の足底屈モーメントの比率と Harris hip score の機能項目点が相関を示した(d) 。. は直線歩行を対象として研究されてきた。しかし,日常生活で は,屋内,屋外を問わず必ず方向転換動作が含まれる。そして,. おわりに. 臨床における観察では,直線歩行よりもむしろ方向転換時など に,患者固有の代償的制御が顕在化することをよく経験する。. 股 OA 患者あるいは THA 術後患者は,床面との接点での制. そこで著者らは,股 OA 患者の歩行制御をさらに深く理解する. 御も含めて足底屈筋の作用を強めることで股関節の機能障害を. ために,歩行転換を含む動作の詳細な解析を行った。. 代償していることが示された。この股屈筋と足底屈筋の機能的. 実験では,末期股 OA 患者 14 名(平均年齢 59.3 歳)と年齢. 協調関係を理解することは,股 OA の進行抑制や動作能力維持. を合わせた健常者 13 名を対象として,直線歩行に加えて,歩. のための保存療法において,あるいは,THA 術後の理学療法. 行路の途中で患側と反対側下肢を外側 45 に踏みだして方向を. において,一助となると考えられる。. 変え歩行を続けるステップターンと,反対側下肢を内側に踏み. 今後は,身体内部あるいは環境との協調関係の中で,どのよ. だすクロスターンの 3 課題の測定を行った(図 a)。股・膝・. うな問題が股 OA の進行に関わるのか,また,そのような観点. 足関節の関節角度,関節モーメント,および立脚期の足角変化. から展開する理学療法が,どの程度股 OA の進行抑制や機能改. 量(足部回旋量)を算出した。. 善に有効であるかを,明らかにしていく予定である。. その結果,予想通り股関節の角度やモーメントは患者で低値 を示したが,特に立脚期前半の足底屈モーメントは,直線歩行 では有意差を認めなかったがステップターン(P = 0.07)およ びクロスターンにおいて,患者群で増加を認めた(図 b) 。さ らに,クロスターンでは,立脚期の足角変化量も有意に増加し ていた(図 c)。これらの結果から,股 OA 患者は,方向転換 時には立脚期前半から足底屈モーメントを強め前足部に荷重す ることで前足部を支点とした足部の回旋により身体の方向を制 御していることが考えられた。つまり,身体内部での代償だけ でなく,環境(床面)との接点での制御も巧みに変化させるこ とで代償を行っているといえる。そしてさらに重要なことは, 直線歩行に対するクロスターンでの足底屈モーメントの比率が 高いほど Harris hip score の機能項目点が高いという傾向がみ られたことである(図 d) 。すなわち,このような制御は,股 関節機能が大きく障害された末期股 OA にとっては,動作能力 を維持していくために必要な戦略であると考えられる。. 文 献 1) Tateuchi H, Tsukagoshi R, et al.: Dynamic hip joint stiffness in individuals with total hip arthroplasty: Relationships between hip impairments and dynamics of the other joints. Clin Biomech. 2011; 26: 598‒604. 2) 建内宏重,沖田祐介,他:動作時の下肢筋張力低下による筋張力 バランスと関節負荷の変化―筋骨格モデルを用いた順動力学シ ミュレーション解析―.理学療法学.2013; 40: S‒A 基礎 ‒038. 3) 建内宏重,塚越 累,他:人工股関節全置換術術後患者における 歩行時の下肢筋張力の推定―患者個別筋骨格モデルシミュレー ション解析による予備的研究―.第 38 回日本股関節学会学術集会 抄録集.2011; 38: 412. 4) Tateuchi H, Tsukagoshi R, et al.: Immediate effects of different ankle pushoff instructions during walking exercise on hip kinematics and kinetics in individuals with total hip arthroplasty. Gait Posture. 2011; 33: 609‒614. 5) Tateuchi H, Tsukagoshi R, et al.: Compensatory turning strategies while walking in patients with hip osteoarthritis. Gait Posture. 2014; 39: 1133‒1137..
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