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変形性股関節症患者における歩行制御

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 42 巻第 8 号 823 ∼ 824運動療法の 頁(2015 年) 2 型糖尿病に対する効果とそのメカニズム. 823. 分科学会シンポジウム 12(日本基礎理学療法学会). 変形性股関節症患者における歩行制御* ―身体内部の協調と環境との接点での制御―. 建 内 宏 重**. はじめに  変形性股関節症(以下,股 OA)患者は,関節変性や疼痛,機 能障害などにより,日常生活における移動動作に大きな支障をき. を増加させることで代償する傾向にあることが示された。. 数値計算シミュレーションによる筋間の協調関係の解 明 2)3). たす。しかし同時に,慢性進行性の股 OA 患者は,長い年月を.  次に著者らは,筋のレベルでどのような機能的協調関係が認. かけて独自の代償的制御を獲得しており,それは動作能力の維持. められるかを明らかにする目的で,数値計算シミュレーション. に貢献する場合もあれば,機能改善を阻害する場合もある。した. 技術を用いた調査を行った。. がって著者は,歩行における代償メカニズムを明らかにすること.  まず,健常若年者の自然歩行を前述と同様の方法で測定し,. が,股 OA 患者あるいは人工股関節全置換術(以下,THA)術. 全身のマーカー座標データを基に,ソフトウエア(LifeModule. 後患者の動作能力の維持・改善に必要であると考え,一連の研究. 社製)により筋骨格モデル(片側下肢につき 45 筋装備)を作. を行ってきた。本稿では,それらの研究について概要を説明する。. 成した。順動力学解析により,動作時に大殿筋,腸腰筋,大. 股 OA 患者における身体内部の機能的協調関係の解明 1). 直筋,ハムストリングス,広筋群,腓腹筋,ヒラメ筋の各々が 発揮する筋張力を算出した。分析は,筋張力バランスを変化さ.  股 OA 患者の歩行における代償メカニズムを明らかにする目. せない条件(normal),大殿筋,腸腰筋,広筋群,ヒラメ筋そ. 的で,まず疼痛の要因を除外するため THA 術後患者 24 名(平. れぞれの張力を 0N とした条件でシミュレーション解析を行い,. 均年齢 61.7 歳:片側手術例 12 名,両側手術例 12 名)および. 各筋の張力の最大値を比較した。なお,normal 条件よりも. 年齢を合わせた健常者 12 名を対象とした調査を実施した。. ± 10%の増減があった場合を有意な変化とした。本稿では,.  3 次元動作解析装置(Vicon motion systems 社製,サンプリ. 腸腰筋の張力低下の結果についてのみ述べる。. ング周波数 200 Hz)と床反力計(Kistler 社製,サンプリング.  腸腰筋の張力を低下させると,代償的に大. 周波数 1,000 Hz)を用いて,各対象者の自然歩行を記録した。. 筋の張力が増大した。この結果は,歩行時においては,腸腰筋. 歩行速度やストライド長に加えて,股・膝・足関節角度,関節. と大. モーメント・パワーを求めた。加えて,動的関節スティフネス. しており,これらは機能的な協調関係にあるといえる。. 直筋および腓腹. 直筋および腓腹筋が類似した作用を有していることを示. (ある区間の外的関節モーメント変化量を同区間の関節角度変.  また,著者らは,実際の THA 患者の歩行データを基に,歩. 化量で除した値)として,立脚中期以降,股関節が伸展する区. 行時の下肢筋の筋張力の推定を試みた。歩行速度に大差ない健. 間で動的股関節スティフネスを算出した。. 常者との比較(歩行速度:健常者 1.18 m/s,THA 患者 1.12 m/s).  その結果,片側 THA 例では,一次的障害(健常者より有意に. において,立脚期後半の股屈曲モーメントは患者で約 14%の. 低値を示す変数)として,股関節屈筋パワーの低下が抽出され,. 低下を示した。しかし筋張力においては,患者は腸腰筋におい. それに対して対側の足関節底屈筋パワーの増加が有意に相関し. て約 68%と著明な低下を示した。なお,足底屈モーメントお. た。一方,両側 THA 例では,一次的障害として,股伸展角度. よび腓腹筋の筋張力は患者でそれぞれ約 12%,約 26%の増加. の低下や股屈曲モーメント・股屈筋パワーの低下などに加えて,. を示した。. 動的股関節スティフネスの増大が著しく,それに対して,同側.  これらの結果から,THA 患者では股屈筋として腸腰筋の筋. の足底屈モーメントの増大が関連した(標準化係数 β = 0.64)。. 張力低下が顕著であり,それは足底屈筋の中でも腓腹筋により.  これらの結果から,総じて THA 患者は,立脚中期以降の股. 代償される傾向にあることが示された。. 関節の動きの硬さや股屈筋の力発揮の不足を足底屈筋の力発揮 *. Dynamic Walking Control in Patients with Hip Osteoarthritis 京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻 助教 (〒 606‒8507 京都市左京区聖護院川原町 53) Hiroshige Tateuchi, PT, PhD: Human Health Sciences, Graduate School of Medicine, Kyoto University キーワード:変形性股関節症,歩行,動作解析. **. 歩行練習を通じた股 OA 患者の機能的協調関係の変化 4)  さらに著者らは,明らかとなってきた股屈筋と足底屈筋との 協調関係を利用して,THA 患者の歩行パターンの改善を図った。  24 名の THA 患者(平均年齢 60.8 歳)を無作為に二群に分 類し,一方の群には,実験室での歩行練習(10 ∼ 15 分間)と.

(2) 824. 理学療法学 第 42 巻第 8 号. して歩行時のプッシュオフを強める意識での練習を行い,もう 一方の群には,プッシュオフを弱める意識での歩行練習を実施 した。練習の前後で自然歩行を測定し,その変化を分析した。  結果として,プッシュオフを強める練習を行った群では,股 関節屈曲角度が減少し,股屈曲モーメント・股屈筋パワーが低 下した。一方,プッシュオフを弱める練習を行った群では,股 伸展角度の増加と股屈筋パワーの増加を認めた。これらの結果 から,股疾患患者における股屈筋と足底屈筋との協調関係が再 確認された。また,その協調関係を利用することで,THA 患 者の歩行パターンを変化させられる可能性が示され,THA 術 後理学療法における新たな視点が提供された。  ただし,プッシュオフを弱める練習による股屈筋パワーの変 化率は, 9.8%から 32.1%と個人差が大きかった。そこで,練 習前の歩行パターンと練習による改善率との関係性を分析した ところ,練習前に足底屈筋パワーが過剰な患者ほど,プッシュ オフを弱める練習が有効であることが明らかとなった。つま り,本研究で用いた方法は,過剰な足底屈筋の代償を抑制する という意味において有効であり,個人の動作特性に応じた練習 方法の検討が重要であることが確認された。. 股 OA 患者における環境との接点での制御 5)  著者らの研究も含めて先行研究では,股 OA 患者の歩行制御. 図 股 OA 患者における方向転換歩行時の運動制御 運動課題(a)。クロスターン時に股 OA 患者では足底屈モーメ ントが立脚期前半において増大した(b)。立脚期の足角変化量 (足部回旋量)もクロスターン時に股 OA 患者で増大した(c)。 直線歩行に対するクロスターン時の足底屈モーメントの比率と Harris hip score の機能項目点が相関を示した(d) 。. は直線歩行を対象として研究されてきた。しかし,日常生活で は,屋内,屋外を問わず必ず方向転換動作が含まれる。そして,. おわりに. 臨床における観察では,直線歩行よりもむしろ方向転換時など に,患者固有の代償的制御が顕在化することをよく経験する。.  股 OA 患者あるいは THA 術後患者は,床面との接点での制. そこで著者らは,股 OA 患者の歩行制御をさらに深く理解する. 御も含めて足底屈筋の作用を強めることで股関節の機能障害を. ために,歩行転換を含む動作の詳細な解析を行った。. 代償していることが示された。この股屈筋と足底屈筋の機能的.  実験では,末期股 OA 患者 14 名(平均年齢 59.3 歳)と年齢. 協調関係を理解することは,股 OA の進行抑制や動作能力維持. を合わせた健常者 13 名を対象として,直線歩行に加えて,歩. のための保存療法において,あるいは,THA 術後の理学療法. 行路の途中で患側と反対側下肢を外側 45 に踏みだして方向を. において,一助となると考えられる。. 変え歩行を続けるステップターンと,反対側下肢を内側に踏み.  今後は,身体内部あるいは環境との協調関係の中で,どのよ. だすクロスターンの 3 課題の測定を行った(図 a)。股・膝・. うな問題が股 OA の進行に関わるのか,また,そのような観点. 足関節の関節角度,関節モーメント,および立脚期の足角変化. から展開する理学療法が,どの程度股 OA の進行抑制や機能改. 量(足部回旋量)を算出した。. 善に有効であるかを,明らかにしていく予定である。.  その結果,予想通り股関節の角度やモーメントは患者で低値 を示したが,特に立脚期前半の足底屈モーメントは,直線歩行 では有意差を認めなかったがステップターン(P = 0.07)およ びクロスターンにおいて,患者群で増加を認めた(図 b) 。さ らに,クロスターンでは,立脚期の足角変化量も有意に増加し ていた(図 c)。これらの結果から,股 OA 患者は,方向転換 時には立脚期前半から足底屈モーメントを強め前足部に荷重す ることで前足部を支点とした足部の回旋により身体の方向を制 御していることが考えられた。つまり,身体内部での代償だけ でなく,環境(床面)との接点での制御も巧みに変化させるこ とで代償を行っているといえる。そしてさらに重要なことは, 直線歩行に対するクロスターンでの足底屈モーメントの比率が 高いほど Harris hip score の機能項目点が高いという傾向がみ られたことである(図 d) 。すなわち,このような制御は,股 関節機能が大きく障害された末期股 OA にとっては,動作能力 を維持していくために必要な戦略であると考えられる。. 文  献 1) Tateuchi H, Tsukagoshi R, et al.: Dynamic hip joint stiffness in individuals with total hip arthroplasty: Relationships between hip impairments and dynamics of the other joints. Clin Biomech. 2011; 26: 598‒604. 2) 建内宏重,沖田祐介,他:動作時の下肢筋張力低下による筋張力 バランスと関節負荷の変化―筋骨格モデルを用いた順動力学シ ミュレーション解析―.理学療法学.2013; 40: S‒A 基礎 ‒038. 3) 建内宏重,塚越 累,他:人工股関節全置換術術後患者における 歩行時の下肢筋張力の推定―患者個別筋骨格モデルシミュレー ション解析による予備的研究―.第 38 回日本股関節学会学術集会 抄録集.2011; 38: 412. 4) Tateuchi H, Tsukagoshi R, et al.: Immediate effects of different ankle pushoff instructions during walking exercise on hip kinematics and kinetics in individuals with total hip arthroplasty. Gait Posture. 2011; 33: 609‒614. 5) Tateuchi H, Tsukagoshi R, et al.: Compensatory turning strategies while walking in patients with hip osteoarthritis. Gait Posture. 2014; 39: 1133‒1137..

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