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腰椎椎間板ヘルニアを有する症例についてのクリニカルリーズニングに基づく症例検討

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Academic year: 2021

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はじめに  クリニカルリーズニングは,セラピストが患者およびその家 族,医療に携わるチームのメンバーと共同し,臨床データやク ライアントが選択した事柄と専門的な診断と知識に基づき,意 義,到達目標,医療の方策を構築するプロセスである1)。セラ ピストが臨床を行う中で,クリニカルリーズニングに基づく思 考過程はとても重要である。しかし,実際に臨床にどのように 用いるべきかについて具体的に提示された論文はあまりみられ ない。そこで今回,実際の症例を呈示し,クリニカルリーズニ ングに基づき,どのような思考過程で理学療法介入を決定した かについて具体的に示した。 症例呈示  症例は 40 歳代の男性であった。職業は電気工事関係だが, 管理職であり,主にデスクワークを行っていた。現在,休職中 で,疼痛が落ち着き次第,仕事復帰を予定していた。家族構成 は妻と 3 人の子がおり,家族は症例の治療に協力的であった。 趣味はゴルフで,疼痛出現前は週 3 回練習に通っており,早く ゴルフの練習を再開させたいと希望していた。  主訴は,常に左殿部から大 後外側,下 外側,足背部のズ キズキとした疼痛とそれに伴う同部位のピリピリとしたしびれ であった。座位や立位の同肢位保持や体幹の前屈,左側屈,左 回旋にて疼痛増悪がみられ,右側臥位にて疼痛緩和が得られる とのことであった。疼痛の程度における日内変動はみられな かった。  現病歴は,仕事で 20 kg の荷物を左下方から右上方へと上げ 下げする動作を 20 回ほど繰り返した 3 日後の夜より,きっか けなく腰痛,左下肢痛出現し,体動困難となった。普段はデス クワークであるため,久々に重量物を持ったという発言が聞か れた。疼痛出現後,自宅で 3 日間安静にしていたが,症状軽減 しないために当院受診し,即日入院となった。入院翌日に硬膜 外ブロックを行い,疼痛半減したが,常に左下肢痛は持続して いた。疼痛出現から 1 週間後,理学療法を開始した。  既往として,15 歳頃に右第 4,5 腰椎間(以下,L4/5)椎間 板ヘルニアと診断され,その後より無理をすると右大 外側, 下 外側痛が出現していたが,安静にて症状消失していた。昨 年もフルマラソンに出場し,右下肢外側痛増悪したが,安静に て症状消失した。その翌月からゴルフをはじめ,週 3 回の練習 実施しており,ゴルフの練習時に左大 外側の重だるさを感じ ていたが,本人は特に問題視していない様子であった。  医師の見解としては,第 5 腰椎,第 1 仙骨間(以下,L5/ S1)の左側に外側ヘルニアがあり(図 1),第 5 腰椎(以下, L5)神経根の圧迫による症状である。疼痛が続くようであれば, 神経根ブロックを行い,疼痛が軽減しない場合は,手術を検討 する予定である。まずは内服,理学療法で経過観察を行うとい うことであった。 機能的トリアージ  理学療法を行ううえで,禁忌徴候の確認は不可欠である。禁 忌徴候を示すパターンとして,レッドフラッグを身体的要因, イエローフラッグを心理的要因,ブルーフラッグを家族要因, ブラックフラッグを職場的要因とされ,これらは回復の阻害と なる可能性を含んだものである1)。  症例の健康状態は問題なく,血液検査の結果も異常はみられ なかった。画像においても,骨折や腫瘍,感染の所見はみられ なかった。疼痛は強いが,症状の進行性はなく,馬尾症候群を 疑う所見もなかった。上記の結果より,レッドフラッグと考え られる所見はなく,内臓や脈管系由来の疼痛が生じている可能 性は低いと判断した。  また,患者の訴えより仕事や家庭は治療に協力的な環境で, それらが症状に影響しているとは考え難いため,ブルーフラッ グやブラックフラッグの可能性も低いと判断した。  可動に対する不安感からイエローフラッグの可能性は否定で きないが,理学療法への期待,理解がみられたため,理学療法

腰椎椎間板ヘルニアを有する症例についての

クリニカルリーズニングに基づく症例検討

城 内 若 菜

1)

 大 津 知 昌

1)

 木 藤 伸 宏

2)

常 盤 直 孝

3)

 成尾政一郎

4)

 成 尾 政 國

4)

運動器理学療法研究部会

Case Study Based on Clinical Reasoning Regarding Lumbar Disc Herniation

1) 医療法人社団誠療会 成尾整形外科病院リハビリテーション科 (〒 862‒0958 熊本県熊本市中央区岡田町 12‒24)

Wakana Shirouchi, PT, Chiaki Otu, PT: Department of Rehabilitation, Naruo Orthopedic Hospital

2) 広島国際大学総合リハビリテーション学部理学療法学専攻 Nobuhiro Kito, PT, PhD: Department of Integrated Rehabilitation,

Faculty of Rehabilitation, Hiroshima International University 3) 医療法人慶心会 川越整形外科リハビリテーション科

Naotaka Tokiwa, PT: Department of Rehabilitation, Kawagoe Orthopedic Hospital

4) 医療法人社団誠療会 成尾整形外科病院

Seiichiro Naruo, MD, Masakuni Naruo, MD: Naruo Orthopedic Hospital

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の適応であると判断した。 活動および参加能力と制限  体幹前傾位での歩行器歩行は可能であり,1,2 分ごとに体 位変換を行えば,日常生活活動も可能である。痛み止めを服用 し,右側臥位であれば,7 時間ほどの睡眠も可能である。制限 としては,体幹正中位保持での立位保持,独歩困難であり,2 分以上の同肢位保持も困難である。疼痛により仕事が行えず, 現在休職中である。 心理社会的因子  症例は 15 歳のときから腰椎椎間板ヘルニアと指摘されてい たため,腰に負担のかからない生活を心がけてきたと訴えてお り,腰椎椎間板ヘルニアについての知識や今までの生活習慣に 自信をもっていた。しかし,今回はじめて左下肢に症状が出現 し,安静にしていても疼痛が軽減しないため,症例自身が今ま でとはなにか違うと感じ,可動や予後への不安が強まっていた。 疼痛メカニズム  症例の訴える疼痛部位の原因となり得る組織を表 1 に示し た。様々な原因が考えられるが,症例の訴える疼痛はすべて同 時に出現し,疼痛が増減する動作も一致していた。さらに,症 例の疼痛表現はどの肢位もズキズキする痛みと一致していた。 症例には初回介入時に問診票の記載を依頼した。問診票にはボ ディーチャート,Visual Analogue Scale,疼痛の日内変動を図 示するグラフが示されている(図 2)。症例が記したボディー チャートは疼痛部位を明確に記載していた。神経幹痛の特徴と して,ズキズキと切られるような痛みの種類で,深部で神経幹 に沿った常時持続した疼痛であり,動作時痛があり,休息や姿 勢を変えることで軽快がみられると報告されている3)。症例の 訴えに類似しており,症例の場合は L5 神経根の支配領域に沿っ た疼痛部位であると考えられた。MRI 所見では,左 L5/S1 間 に外側ヘルニアを呈していることからもヘルニアによる L5 神 経根の圧迫の関与が示唆された。増悪因子となる同肢位保持や 体幹前屈動作は髄核を後方へ圧迫する負担が生じるが,体幹の 左側屈,左回旋に関しては詳細な動作分析が必要と判断した。 硬膜外ブロックにて疼痛が半減していることからも神経原性疼 痛の可能性が高いと考えられた。また,疼痛部位から坐骨神経 の関与も示唆され,梨状筋の過緊張による坐骨神経の圧迫や末 梢神経感作の可能性も否定できないため,より詳細な評価が必 図 1 L4/5(左),L5/S1(右)間の MRI 水平面像 表 1 症例の訴える疼痛部位の原因となり得る組織 左殿部痛 左大 外側痛 左下 外側痛 左足背部痛 体性局所組織 ・股関節 ・仙腸関節 ・骨盤の骨 ・殿筋群 ・梨状筋 (股関節外旋筋群) ・大 骨 ・大 筋膜張筋 ・腸脛靭帯 ・大 二頭筋 ・外側広筋 ・腓骨,脛骨 ・前脛骨筋 ・腓骨筋群 ・足趾伸筋群 ・足部の骨 ・各足部関節 ・腓骨筋群 ・足趾伸筋群 ・足背部の靭帯 体性関連痛 ・椎間関節 (L4/5,L5/S1) ・仙腸関節 ・椎間関節 (L3/4,L4/5,L5/S1) ・股関節 ・仙腸関節 神経障害性 ・坐骨神経 ・L2‒S5 神経根 ・坐骨神経 ・大 外側皮神経 ・上殿皮神経 ・中殿皮神経 ・下殿皮神経 ・L4,5 神経根 ・浅腓骨神経 (坐骨神経) ・外側腓腹皮神経 ・L5,S1 神経根 ・浅・深腓骨神経 (坐骨神経) ・腓腹神経 ・L5,S1 神経根

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要であった。さらに疼痛部位周囲の筋性疼痛の可能性も確認す る必要があった。  症状が出現して 1 週間以上経過しているが,未だ持続してい る。組織の炎症期を過ぎても症状が持続している要因として, 上記した L5/S1 間の外側ヘルニアによる持続した機械的刺激 や末梢神経感作の他に,アロディニアや痛覚過敏,心因性疼痛 の可能性が考えられた。松原ら4)によると,痛みの感作とは, 同じ刺激に対する痛みの反応性が増強した現象を意味している と示されている。また,アロディニアとは,非侵害刺激を侵害 受容ニューロンが伝えて痛みと知覚する現象であり,痛覚過敏 とは,痛みの閾値を超えた軽微な侵害刺激に対して,刺激以上 に強い反応を示し,強い痛みを感じる現象を意味していると示 されている4)。症例が記載した問診票を参照すると,日常生活 活動の制限と比較し,疼痛を表す値は低値であった。このこと より,アロディニアや痛覚過敏の可能性は低いと判断した。ま た,簡易型 McGill 痛みの質問表(図 3)への記載も依頼した。 これは,痛みを表す質問のうち 1 ∼ 11 は感覚を表し,12 ∼ 15 は感情を表すとされている5)。その結果を参照すると,精神的 に負担を感じているような訴えもなく心因性疼痛も否定的であ ると判断した。  症例は 15 歳頃より右下肢外側に同様の疼痛を経験しており, 安静にてその疼痛が消失することも同時に経験していた。この 経験と今回の経過が異なることから可動や予後への不安を引き 起こし,可動時に全身的な筋緊張を高める傾向を示していた。 しかし,症例は可動への不安はあるものの,疼痛軽快肢位にて 疼痛は比較的早期に緩和するため,イリタビリティの可能性は 低いと考えられた。Maitland ら6)によると,イリタビリティ とは,わずかな活動によりかなりの疼痛が生じ,その疼痛が消 失するまでに長時間を要する状態として定義されており,理学 療法を行ううえで注意が必要となる。 客観的評価  L5 神経根の伸張痛を確認するため,下肢伸展挙上テスト (straight leg raising test;以下,SLR テスト)を実施した結 果,左側が 45°で陽性であった。しかし,坐骨神経に沿った圧 痛や梨状筋の圧痛,圧迫による放散痛はみられなかった。下肢 MMT では,左下肢にて中殿筋 2+,母趾・足趾伸筋 4,長・短 腓骨筋 3 と L5 神経根支配の筋力低下がみられたが,感覚鈍麻 はみられなかった。これらの評価より梨状筋による坐骨神経へ の圧迫の可能性,坐骨神経感作の可能性は低いと判断した。次 に,椎間関節性の疼痛を確認するため,Lee ら7)が示す椎間関 節の疼痛誘発テストや不安定テストを実施した。椎間関節の圧 迫や離開による疼痛増悪はなく,不安定性もみられなかった。 さらに仙腸関節性の疼痛の関与を確認するため,仙腸関節の疼 痛誘発テストや不安定テスト7)を行ったが,すべて陰性であっ た。このことより,腰椎椎間関節や仙腸関節の疼痛への関与は 低いと判断した。また疼痛部位周囲に走行する筋の緊張や圧痛 の確認を行ったが,症例が訴える疼痛の再現性はなかった。  姿勢や動作と疼痛の関係性を考慮するため,姿勢・動作観察 を行った。立位姿勢の特徴として,骨盤後傾・左側屈,左寛骨 後方回旋,左股関節屈曲・外転・外旋,左膝関節屈曲を呈し, 左 L5 神経根の伸張を避けた疼痛回避と考えられる肢位がみら れた。しかし,L5/S1 間では屈曲・右側屈・右回旋を呈してお り,髄核を左後方へ圧迫し,ヘルニアによる神経根の圧迫を増 悪させる肢位がみられた(図 4)。この特徴は座位でも同様に 図 2 問診票(初期介入時) 図 4  左寛骨後方回旋に伴う L5/S1 間での屈曲・右 側屈・右回旋 図 3 簡易型 McGill 痛みの質問表(初期介入時)

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みられた。  疼痛が増悪する体幹前屈,左側屈,左回旋を観察すると,体 幹前屈動作では,早期より L5 の後方への並進運動が生じ,全 体的に股関節の屈曲が少なく,骨盤後傾,胸腰椎後弯が著明に 観察された。L5 の後方への並進運動と左下肢痛出現のタイミ ングがほぼ一致していたことより,腰椎の動きと疼痛増悪の関 与が示唆された。体幹の左側屈と回旋では,共通した動きが観 察された。Panjabi ら8)によると,胸椎の回旋には対側への側 屈と対側への並進運動が組合わさると示している。また,同時 に肋骨の回旋もみられ,左回旋においては右肋横突関節の前方 回旋と左肋横突関節の後方回旋が伴う8)。しかし,症例は第 8 胸椎の左回旋がうまく行えず,代償として骨盤の左回旋,左寛 骨後方回旋を強めていた(図 5)。さらに左 L5 神経根の左側へ の伸張を避けるため,左股関節屈曲・外転・外旋,膝関節屈曲 をとることで骨盤の左回旋が強まり,相対的に L5/S1 間での 屈曲・右側屈・右回旋を強めていた。側屈でも同様に第 8 胸椎 の動きがうまく生じず,骨盤左側屈,左寛骨後方回旋での代償 がみられ,結果的に L5/S1 間での屈曲・右側屈・右回旋を強 めていた。  腰椎椎間関節や仙腸関節の不安定性がみられないことより, 関連因子となる股関節と胸椎部の機能評価も実施した。左股関 節の他動での可動域は屈曲 80°,伸展 ‒ 20°であり,その範囲以 外では大 骨頭の前方偏位が生じていた。股関節屈曲の代償と して,左寛骨後方回旋がみられた。胸椎部では,第 8 胸椎と肋 骨部で左回旋,右側への並進運動が生じていた。それにより, 左回旋,左側屈において上記した骨盤後傾・左回旋での代償が 観察された。  また,体幹筋の収縮を確認した結果,内腹斜筋と脊柱起立筋 の過緊張がみられ,深層筋である腹横筋や多裂筋の収縮は不十 分であった。下肢,体幹の動きに先行して,内腹斜筋と脊柱起 立筋の同時収縮がみられ,体幹深層筋である腹横筋や多裂筋の 選択的な収縮は困難であった。 疼痛メカニズムの再考  仙腸関節や腰椎椎間関節の疼痛誘発テスト,不安定テストが 陰性であったことより,仙腸関節や骨盤帯周囲組織,腰椎椎間 関節の疼痛への関与は低いと考えられた。また,疼痛部位周囲 筋の過緊張や圧痛はみられたものの症例が訴える疼痛の再現痛 ではなかったことより,筋性疼痛の関与も低いと考えられた。 様々な評価の結果と,L5 神経根支配領域に沿った疼痛,しび れが生じていること,SLR テストが陽性であること,L5 神経 根領域での筋力低下がみられることから,今回の疼痛は L5/S1 間の外側ヘルニアによる L5 神経根の圧迫が原因である可能性 が高いと考えられた。しかし,坐骨神経に沿った圧痛はみられ ないことより,坐骨神経の末梢神経感作の可能性は低いと判断 し,梨状筋の圧痛や放散痛が生じないことから梨状筋による坐 骨神経圧迫による症状の可能性も低いと判断した。  疼痛発生から 1 週間以上経過しても症状が持続している要因 の一つとして,神経根内浮腫が考えられた。Olmarker ら9)に よると,末梢神経の圧迫は血管の透過性を亢進させ,神経内浮 腫をきたすとされ,さらに神経内浮腫は線維化を引き起こし, 回復の遅延に関連がある。また,髄核ヘルニアと機械的侵害の 組み合わせが疼痛を引き起こすことは間違いないようであると 報告した。以上のことから症例は,姿勢や動作において持続的 に髄核を左後方へ圧迫しており,それが疼痛持続の要因となっ ていると考えられた。  症例は,L5 神経根の伸張を避けるような姿勢・動作を呈し ていた。神経系の正常なメカニズムを失った際,患者は神経系 の鎮痛的姿勢をとる3)。しかし,症例は,その鎮痛姿勢に対し, 適切な代償が行えなかった結果,L5/S1 間での屈曲・右側屈・ 右回旋を引き起こし,髄核への圧迫を強めたと推測した。これ は,腰椎,骨盤のコントロール不全の関与が考えられた。腰痛 患者は,体幹の深層筋の活性が遅延,低下し,表層筋の活性は 増加する10)。腰椎の分節的な動きや安定化において,体幹の 深層筋である腹横筋や多裂筋が重要であり,その機能不全によ り,神経系の鎮痛的姿勢への対応不足を引き起こしていると考 えた。また,同時収縮を利用した固める戦略は,関節の圧縮増 大や腹腔内圧の上昇など代償を伴うという報告があり7),症例 も同様に表層筋による同時収縮にて髄核への圧迫を増悪させて いる可能性が示唆された。症例は可動に対する不安により,動 きに伴い全身的に筋緊張を高める傾向がみられた。この反応も 神経系の鎮痛的姿勢への対応を適切に行えていない要因になる と考えた。さらに関連因子として,股関節や胸椎の可動性低下 が,腰椎への負担を強める要因になると考えられた。 予後予測  上記内容を踏まえ,症例の疼痛は L5 神経根圧迫による神経 原性疼痛である可能性が高いと判断した。菊池ら11)によると, 結果として手術に至った症例の 95%はブロック施行後 24 時間 以内に症状や所見が再燃していると報告されている。症例は入 院時の硬膜外ブロックにて疼痛が半減しており,その効果が理 学療法開始時にも持続していた。  また,職場や家庭での精神的負担が少なく協力的であるこ と,可動への不安はあるが理学療法への期待や理解があること からも,症例の予後は比較的良好であると判断した。  Lee らの報告6)に隣接関節の可動性と制御を活用すること で,障害のある分節の負担を減らすことが可能と示されている 図 5 体幹左回旋に伴う骨盤・腰椎の動き

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ことからも,股関節や胸椎部へのアプローチにて理学療法効果 が期待されると判断した。 理学療法介入  はじめに,関連因子である股関節と胸椎部の機能改善からア プローチを行う計画を立てた。症例の特徴として,可動による 不安にて全身的に筋緊張を高める傾向にあり,初回介入後に疼 痛が増悪することで,可動や理学療法への恐怖感を強めてしま う可能性が考えられた。実際に腰椎,股関節を動かす際,特に 全身的な筋緊張を亢進させる傾向がみられた。そこで,胸椎の アライメント改善を最初の介入とした。アライメント修正にて 体幹の回旋,側屈の動きやすさは改善したが,疼痛が完全に消 失しなかったこと,骨盤のアライメント改善まで動きが波及し なかったことにより,症例に対しても初回介入後の治療効果は 低い可能性があることや疼痛増悪を避けるために胸椎からアプ ローチを行ったことについて説明した。介入 2 回目,やはり左 下肢痛は持続していた。しかし,患者の反応として,可動に対 して全身的な筋緊張を高める傾向が軽減していた。セラピスト が股関節を動かす際にも筋緊張の亢進が強くみられなかったた め,自動,他動ともに股関節の可動域改善を図った。自動での 股関節可動域を獲得するためには体幹の深層筋を賦活する必要 もあった。体幹深層筋の賦活には呼吸を用い,腹横筋の収縮を 症例自身へ学習してもらい,そこに自動での股関節屈伸運動を 取り入れた。背臥位にて運動を行った後,起き上がるとすぐに 効果がみられ,左殿部から大 外側,下 外側,足背部痛は入 院時の 1 ∼ 2 割へ軽減していた。これは,股関節の可動域改善 にて左寛骨後方回旋での代償が軽減し,立位や動作での L5/S1 間の屈曲・右側屈・右回旋が軽減したことで,機械的侵害の緩 和につながったと考えられる(図 6)。理学療法後すぐに疼痛軽 減が図れたことで,可動への不安感が消失すると同時に,疼痛 軽減と予防のために自分になにができるのかという関心も生ま れていた。この反応から,症例自身が今までの腰椎椎間板ヘル ニアの知識に対する過信を修正する準備ができたと判断した。  介入 2 回目までの症例の反応を観察し,今後の理学療法の計 画として,動作中の機械的侵害の緩和を目標とした。姿勢や動 作の指標としては,仕事で必要となる座位持続,趣味のゴルフ で必要なスイング動作,受傷機転の可能性が考えられるしゃが みこみ動作を挙げ,身体機能面と意識面の双方へ働きかけた。 理学療法実施において,急激な坐骨神経の伸張や過度な腰椎の 可動に注意を払い,自動運動を中心に行った。 結  果  入院後 2 週間で退院の運びとなり,退院時は日常生活活動上 の疼痛は消失した。問診票の記載でも改善がみられている(図 7)。SLR テストも陰性となり,70°まで下肢挙上可能となった。 指標とした座位持続,ゴルフのスイング,しゃがみこみ動作で も L5/S1 間の屈曲・右側屈・右回旋は改善した。L5 神経根領 図 6 2 回目介入後の骨盤・腰椎の動き 図 7 問診票と簡易型 McGill 痛みの質問表(退院時)

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域の筋力低下は,数回の介入にて筋力の改善がみられた。また, 疼痛に伴うしびれもほぼ消失した。この結果より,Seddon 分 類を参照すると,今回の L5 神経根の圧迫による症状は,一過 性神経伝達障害であった可能性が考えられた。一過性神経伝達 障害は,軸索の異常を伴わず,原因を取り除くことができれば 1 週間から 1 ヵ月で完全に回復すると報告されている12)。今 回の症例も筋力低下を呈した筋への筋力増強訓練は行うことな く,腰椎アライメントの改善や疼痛軽減後に筋力改善がみられ たことから,髄核の持続的な圧迫の軽減が筋力向上にも関与し ていた可能性があると推察された。退院時には,症例自身が自 己での疼痛コントロールを学習した状態で帰宅された。退院 後,外来へ来院された際には仕事復帰され,疼痛はなく,自宅 での運動は行えている様子であった。 おわりに  クリニカルリーズニングに基づき,患者と共同して理学療法 を進めていくことで,早期より信頼関係が築け,また患者自身 も自ら治療していくという思考をもつことができた。我々セラ ピストが患者に対し,今できることを随時明確に呈示していく ことで,患者の過度な期待や誤認も減り,結果的により的確な 理学療法効果が見込まれると考える。クリニカルリーズニング は,我々セラピストに「賢い」行動を促してくれるもの13)で あることを実感している。 文  献

1) Jones MA, Rivett DA:マニュアルセラピーに対するクリニカル リーズニングのすべて.藤縄 理,他(訳),協同医書出版社,東京,

2010,p. 3.

2) Kendall N, Linton S, et al.: Guide to Assessing Psychosocial Yellow Flags in Acute Low Back Pain. Risk Factor for Long Term Disability and Work Loss. Wellington. New Zealang, Accident Rehabilitation and Compensation Insurance Corporation of New Zealand and the National Health Committee, 1997.

3) Butler DS:バトラー・神経モビライゼーション.伊藤直栄,他 (訳),協同医書出版社,東京,2000,pp. 75‒76, 81‒82. 4) 松原貴子,沖田 実,他:Pain Rehabilitation.三輪書店,東京, 2011,pp. 40‒42, 138‒142. 5) 平川奈緒美:痛みの評価スケール.Anesthesia 21Century.2011; 13: 2540‒2542.

6) Maitland G, Hengeveld E, et al.: 脊 柱 マ ニ ピ ュ レ ー シ ョ ン( 原 著第 7 版).赤坂清和,他(訳),エルゼビア・ジャパン,東京, 2008,p. 108.

7) Lee D:骨盤帯─臨床の専門技能とリサーチの統合(原著第 4 版). 石井美和子(監訳),医歯薬出版,東京,2013,pp. 207‒222,p. 109. 8) Lee D: The Thorax: An Integrated Approach. Orthopedic

Physical Therapy, 2003, pp. 51‒54.

9) Olmarker K, Rydevik B, et al.: 腰椎椎間板ヘルニアと脊柱管狭窄症 における坐骨神経痛と神経根性疼痛:基礎科学のレビューと臨床 への展望.The Spine 脊椎・脊髄外科.小宮節郎(総監訳),金芳 堂,京都,2009,pp. 94‒103.

10) Richardson C, Hides J, et al.:腰痛に対するモーターコントロール アプローチ.齋藤昭彦(訳),医学書院,東京,2008,pp. 129‒134. 11) 菊池臣一:腰痛.医学書院,東京,2003,pp. 240‒241.

12) 沖田 実,松原貴子,他:機能障害科学入門.神陵文庫,神戸, 2010,pp. 160‒161.

13) Cervero RM: Effective Continuing Education for Professionals. San Francisco, CA, Jossey-Bass, 1988.

参照

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