(整 形 外 科 と災 害 外 科 第31巻 第4号 1983) 891
上 腕 骨 骨 幹 部 骨 折 の 治 療 成 績 に つ い て
済生会福岡総合病院
金
敬
夫 ・横
田
清
司
内
尾
伸
行 ・下
山
議 七 郎
岩永整形外科医院
岩
永
安
弘
安部整形外科医院
安
部
龍 太 郎
A Study
of Humeral
Shaft
Fractures
by
N. Kin, K. Yokota,
N. Uchio
and G. Shimoyama
Department of Orthopedic Surgery, Fukuoka Saiseikai Hospital
Y. Iwanaga
Iwanaga orthoperic Hospital, Fukuoka
R. Abe
Abe Orthopedic Hospital, Fukuoka
Twenty-nine
cases of fracture
of the
humeral
shaft
were
treated
for
the past 11
years (between
1971 and 1981).
Eighteen
cases of those
were
observed
clinically
and roentogenologically.
Conser-vative treatment
was done for 9 cases.
Hanging
cast
was used
for 4 cases
of spiral
and oblique fractures,
traction
and shoulder
spica
cast
for 4 cases
and shoulder
spica
cast for 1 case.
All cases showed good result.
Surgical
treatment
was done
for 9 cases.
Five
cases
of those
were
transverse
fractures.
Two cases
resulted
in psudoarthorosis.
From our result,
we suggest
that
the majority
of cases
should
be treated
conservatively
except
for
the cases
of
trans-verse,
open fracture
or the case with radial nerve
injury.
は じ め に 上 腕 骨 骨 幹 部 骨 折 は 比 較 的骨 癒 合 が良 好 な部 位 で あ るが,い っ たん 偽 関節 が形 成 さ れ る と,そ の 治 療 は 非 常 に 困難 と な る.従 って 初 期 治療 が 重 要 とな って く る. わ れ われ は 原 則 と して保 存 的 治療 を第 一 と考 え,現 在 で はHanging cast法 を 用 いて い る が,症 例 に よ
って はShoulder spica cast法,牽 引 法 を用 い て い る.し か し開 放創,神 経 血 管 損 傷 例 や 骨 折 型 に よ って は 観 血 的 治 療 を行 う こと もあ る. 今 回 過 去11年 間 に29症 例 を 経 験 した の で主 に治 療 上 の 問 題 に つ いて 報 告 す る. 対 象 昭 和46年 か ら昭 和56年 の11年 間 に 済生 会 福 岡総 合 病 院整 形 外 科 に て 加療 した上 腕 骨 骨 幹 部 骨 折 の 患者 は29症 例29骨 折 で あ っ た.年 令 は7∼74才 ま で で平 均35.6才 で あ っ た.性 別 は 男 性19例,女 性10例 で あ った.受 傷 原 因 別 で は 交 通 事 故 に よる もの が11例 と最 も多 く,以 下 転 落 に よ る もの7例,転 倒4例,ベ ル トコ ンベ ア ー に巻 き こ まれ た もの3例,そ の他 比 較 的稀 な投 球骨 折,腕 相 撲 骨 折 な どが各1例 あ っ た(表 1).
-167-表1 表2 骨 折 部 位 ():開 放 骨 折 今 回29症 例 の うち経 過観 察 が可 能 で あ った の は18 例 で 骨 折 部 位 に よ り 上 中1/3部,中 央1/3部,中 下 1/3部 に 分 け,ま た骨 折 型 に よ り横 骨 折,斜 骨 折,ラ セ ン骨 折,粉 砕 骨 折 に分 類 して み る と骨 折 部 位 で は 中 央1/3部 が10例,中 下1/3部 が7例 と 両 者 が 圧 倒 的 に多 か っ た.ま た骨 折 型 で は横 骨 折 が7例,ラ セ ン骨 折 が6例 と両 者 に多 か った(表2).
治 療 法 と結 果
a)保 存 的 治 療 保 存 的 治 療 を 行 っ た の は9例 で あ り,Hanging cast法,Shoulder spica cast法,Traction+ Shoulder spica cast法 を 行 っ た(表3).Hanging cast法 は 斜 骨 折1例,ラ セ ン 骨 折3例 に 対 し て 行 っ た.Shoulder spica cast法 は 腹 部 外 傷 を 伴 い 外 科 的 手 術 が 優 先 さ れ た 開 放 性 粉 砕 骨 折 に 対 し行 っ た.Traction+Shoulder spica cast法 は 横 骨 折, 斜 骨 折 各1例,ラ セ ン 骨 折2例 に 行 っ た.横 骨 折 の1 例 は7才 の 学 童 児 でHanging cast法 が 困 難 で あ る
た め ラ バ ー 牽 引 後Shoulder spica cast法 を 行 っ た. ま た 斜 骨 折 の1例 と ラ セ ン骨 折 の2例 に 対 し て は 鋼 線 牽 引 に てalignmentを 整 え た 後,Shoulder spica cast法 を 行 っ た. 治 療 成 績 は12週 以 内 に 骨 癒 合 が 得 られ た も の を 良 好 と 判 定 す る と,全 例 良 好 で 満 足 す べ き 結 果 を 得 た. b)観 血 的 治 療 観 血 的 治 療 を 行 っ た の は9例 で あ り,受 傷 後 早 期 に 当 科 を 受 診 し た い わ ゆ る 新 鮮 骨 折 は8例 で あ っ た.新 鮮 骨 折 に 対 し て は 内 副 子 固 定 法,Rush pinに よ る 髄 内 固 定 法 を 行 っ た が,主 に 内 副 子 を 用 い,骨 折 型 と し て は,主 に 横 骨 折 に 用 い た.斜 骨 折 の1例 は 第3骨 片 を 有 し 保 存 的 に は 困 難 と 考 え られ,ラ セ ン 骨 折 の1例 は 高 令 者 の た め 早 期 離 床 を 目 的 と し て,粉 砕 骨 折 の1 例 は 橈 骨 神 経 麻 痺 を 合 併 し て い た た め 内 副 子 固 定 を 行 っ た.Rush pinの1例 は 感 染 創 を 有 し た 開 放 骨 折
表4
新 鮮 骨 折 ():開 放 骨 折表3
():開 放 骨 折-168-(整 形 外 科 と 災 害 外 科 第31巻 第4号 1983) 893 で,上 腕 の 固 定 が 困 難 の た め に あ えてblindに 刺 入 した(表4). 治療 成績 は12週 以 内 に骨 癒 合 を 認 あ た 良好 例 は6 例 で,内 副 子 固 定 を 行 った 粉 砕 骨 折 の1例 とRush pin刺 入 し た1例 が偽 関節 に移 行 し た. c)偽 関 節 他 院 にて 何 等 か の 治 療 を受 け た あ と偽 関 節 に移 行 し 当科 を 受診 した1例 と,当 科 に お いて 新 鮮 骨 折 に 対 し て 一 次 的手 術 を行 った 後,偽 関節 に移 行 し た2例 に対 して 治 療 を行 った. 当科 で 新 鮮 骨折 に対 してRush pinに よ る骨 接合 術 を 行 ったが,化 膿 性 偽 関節 に 移 行 し た 開 放 横 骨 折 は,onlay bone graftに て2カ 月 後 良 好 な骨 癒 合 を 得 た.同 じ く内副 子 固 定 で 偽 関節 に移 行 した粉 砕 骨 折
は,内 副 子+髄 内釘 にdecorticationを 併 用 し 術後
7ヵ 月 の レ線 で ほ ぼ満 足 す べ き骨 癒合 を得 た.ま た他 院で 内副 子 固定 に よ る骨 接 合 術 を うけ る も失 敗 し,再 びonlay bone graftを 施 行す る も骨 癒 合 が 得 られ
ず,当 科 で 内 副子+髄 内釘 にdecorticationを 施 行 した症 例 は,術 後3週 にて 後 療 法 を 開始 したが,1カ 月 後 に急 性 心 不 全 の た め死 亡 した 結 果 予後 不 明 で あ る 図 1 図 2 表 5 偽 関 節 ():開 放 骨 折 (表5).
症
例
症 例1:11才 女 鉄 棒 よ り転 落 し受 傷.受 傷 後 直 ちに 当 科 受 診.レ 線 よ り 中下1/3部 の ラセ ン骨 折 と 分 類 . 直 ちにHang-ing cast法 施 行.4週 後Hanging cast除 去,6週 にて 良 好 な 骨 癒合 を 認 め る(図1). 症 例2:19才 男 乗 用 車 を 右 手 を 窓 わ くに 出 して 運 転 中 ス リップ して 土手 に激 突 し受 傷 開 放 骨 折 で創 縫 合 を受 け た後3日 目に 当科 紹 介 され る.レ 線 よ り中下1/3部 の 横 骨 折 と 分 類 創 部 は すで に感 染 し嫌 気性 菌 を検 出 したが,疼 痛 著 明 の た め 受傷10日 目 にblindにRush pinに よ る髄 内 固定 を行 った と こ ろ,患 者 の苦 痛 は 軽 減 し, 強 力 な 化 学 療法 で 創 も 治 癒 した が,大 学 受 験 の た め SarmientoのFunctional braceを 装 着 し仮 退 院 す . 受 傷 後11ヵ 月,偽 関節 の た めRush pin抜 釘 後 onlay bone graft施 行.3年6カ 月 後 の現 在 良好 な 骨 癒 合 を 認 める(図2). 症 例3:35才 男 乗 用 車 助 手 席 に 乗 車 中衝 突事 故 にて 受 傷 . 受傷 後 直 ち に 当科 受 診.開 放 骨 折 で レ線 よ り中央1/3部 の 粉砕 骨 折 と分類.橈 骨 神 経 麻 痺 を 認 める た め,内 副 子 固定 に よ る観 血 的 治 療 を 行 う同術 中 骨 片 間 に橈 骨 神 経 の 嵌 入 を 認 め る.術 後3カ 月 に な る も骨 癒 合 を 認 め ない た め,内 副 子+髄 内釘 にdeco-rticationを 併 用 した再 手 術 を 行 う. 再 手 術7カ 月 後 ほぼ満 足 すべ き骨 癒 合 を認 め る. な お橈 骨 神経 麻痺 は4カ 月 後 ほ ぼ治 癒 し たが,肘 関 節 の屈 曲,伸 展 に軽 度 制 限 を 認 めた(図3).-169-図 3
考
察
上 腕 骨 骨幹 部 骨 折 に対 す る 保 存 的 治 療 は,Cald-wel1の 推 奨 す るHanging cast法 を第1と して 用 い て お り,こ の 方 法 は ギ プ ス の重 量 を 応 用 し整復,固 定 を同 時 に平 行 して 行 い 得 る 同 しか も肩 関 節 拘 縮 も予 防 出来 る 利点 を有 し,比 較 的 に機 能 的 な治 療 法 と思 わ れ る. しか し1日 中 起 床 位,起 座 位 の 保持 が 必 要 で,小 児,老 人等 で は適 応 に 制 限 を生 じる.し か も時 に は ギ プス の 重量 が 重 す ぎ るた め に 逆 に骨 折 線 に伸展 力 と し て の 力 が加 わ り,遷 延 治 癒,偽 関節 が 発 生 す る 危 険 も あ る. 従 って わ れ われ は成 人 の 横 骨折 に は使 用 せ ず,比 較 的骨 折 面 の広 い斜 骨 折,ラ セ ン骨 折,粉 砕 骨 折 に 応 用 して い る.わ れ わ れ は,こ のHanging cast法 の装 着 に際 して 整 復,固 定 に 加 え て早 期 にalignmentを 整 え るた め,骨 折 線 を 含 め 出来 る だ け 中枢 まで ギ プス 巻 きを 行 うよ うに心 が けて い る.わ れ わ れ は4例 に行 い良 好 な結 果 を得 た.装 着 後4∼6週 で す で に仮 骨形 成 が み られて お り,ギ プ ス 装 着期 間 は1カ 月 程 度 で あ る.
Shoulder spica cast法 の適 応 に関 して は,Wat-son-Jonesは 骨 癒 合 が 遷 延 す る 場 合 に応 用 して い る が,他 に長期 臥床 の 必 要 な 症 例 に も適 応 が あ る. しか しわれ われ の症 例 の 内で ギ プ ス 内 に て再 転 位 を 起 し, 他 の 治 療 を よ ぎな く した 症 例 が あ り,受 傷 直 後 よ り施 行す る よ り も牽 引等 に よ りalignmentを 整 え て2∼
3週 後 にinitial stabilityを 得 て か らShoulder spica castを 応 用 し た方 が安 全 で あ る. 観 血 的 治 療 と して は,主 に 内 副 子 固定 を使 用 して い る.適 応 と して は横 骨 折 型,合 併損 傷 例 で あ る.内 副 子 固 定 法 は,上 外 側 切 開法 を用 い,必 ず 橈 骨 神 経 を 露 出 し,神 経 損 傷 の 有 無 を 確 認 した 上 で 固定 を行 って い る.し か し, 上 腕 骨 の 解 剖 学 的 問 題 に よ り骨 折 部の 広 範 囲 展 開 が 困 難 な こ とが あ り,固 定 範 囲 が 狭 くな りが ちで あ る . わ れ われ は8例 中2例 に 偽 関 節 が 発生 して お り,余 り内 固 定 に 過 信 す ぎな い よ う必 ず 外 固 定 を併 用 す べ きで あ る. 偽 関 節 に 関 して わ れ わ れ が経 験 した偽 関 節 は3例 で,1例 目は 開放 骨 折 に起 因 す る化 膿 性 偽 関 節 で,2例 目は開 放 骨 折 で粉 砕 形 を 呈 し橈 骨 神 経 麻 痺 を合 併 して い た. この 症 例 は 内副 子 が 短 か す ぎ,早 期 よ り運 動 を 開始 した た め で,周 囲軟 部組 織 損 傷 の 強 か った こ と も原 因 と思 われ る同3例 目 は他 医 で2回 の 手 術 を受 け て い たが,治 癒 せ ず偽 関節 の 状 態 で 来 院 した.来 院 時 の レ線 か らは, 螺 子数 が多 か った こ と も原 因 の1つ と考 え られ る. 手 術 方 法 に 関 して は多 種 多 様 で あ る が,宮 城 は骨 折 の 固 定 を確 実,強 固 に行 う こ とが 第 一 義 で あ り,方 法 と して は長 管 骨 で は骨 髄 内固 定 法 と内 副 子 法 の併 用 を 試 み て お り,主 に大 腿 骨,脛 骨 に て 良 好 な結 果 を 得て い る. わ れ わ れ は,こ の方 法 を 上 腕 骨 に 追 試 し,1例 は術 後1カ 月 目に 死亡 したが,2例 目は 良 好 な結 果 を 得 た.こ の 方 法 は 固定 性 も強固 で,早 期 に後 療 法 に移 行 す る こ とが 可能 で 優秀 な方 法 と思 われ る. 化 膿 性 偽 関 節 の 手術 適 応 と して,宮 城 は 血 沈,白 血 球 数 を参 考 に 治 癒後3カ 月 は待 期 した方 が 安 全 で あ る と述 べ て お り,わ れ わ れ の症 例 も11カ 月 後 にonlay bone graftを 行 い良 好 な結 果 を得 た. ま と め 1)上 腕 骨 骨 幹 部 骨 折 は,受 傷 原 因 で は 交 通 事 故 が 最 も多 く,骨 折 部 位 で は 中 央1/3部 と 中 下1/3部 が 多 く み られ,骨 折 型 で は 横 骨 折,ラ セ ン骨 折 が 多 くみ ら れ た. 2.保 存 的 治 療 は 主 に ラ セ ン骨 折,斜 骨 折 に 対 し て Hanging cast法 を 使 用 し,小 児 例,腹 部 損 傷 合 併 例 で はShoulder spica cast法,Traction法 を 使 用
し全 例 良 好 で あ っ た.
3.観 血 的 治 療 は 主 に 横 骨 折 に 対 して 内 副 子 固 定 を 使 用 し た が,8例 中2例 に 偽 関 節 が 発 生 し た.
4. 偽 関 節 に 対 して 内 副 子+髄 内 釘 にdecortica-
-170-(整 形 外 科 と災 害 外 科 第31巻 第4号 1983) 895 tionを 併 用 し た. (ご 校 閲 し て 頂 い た 宮 城 成 圭 教 授 な ら び に 矢 野 禎 二 教 授 に 深 謝 致 し ま す.) 文 献 1)赤 堀 治 ・他:上 腕 骨 偽 関 節.Mook,22:153 -162 ,1982. 2)三 浪 明 男 ・他:上 腕 骨 骨 幹 部 骨 折 の 観 血 的 治 療.北 海 道 整 災 誌,19:63-69,1974. 3)宮 城 成 圭:骨 折 に 対 す る キ ュ ン チ ャ ー 氏 骨 髄 内 固 定 法 の 吟 味.臨 床 と 研 究,4:1-5,1953. 4)宮 城 成 圭:偽 関 節 に 対 す る 髄 内 固 定 法 と 内 副 子 固 定 法 の 併 用.災 害 外 科,17:181-186,1974. 5)岡 田 院 ・他:上 腕 骨 骨 折 の 保 存 的 療 法 。 災 害 外科,23:1085-1092,1980. 6)桜 井 修:上 腕 骨 骨 体 部 骨 折 の 手 術 的 療 法.臨 整 外,2:645-649,1967. 7)高 尾 良 英 ・他:上 腕 骨 骨 幹 部 骨 折 に 対 す る わ れ わ れ の 行 っ たFunctional bracing.災 害 外 科, 23:1071-1083,1980. 8)高 瀬 武 平 ・ 他:上 腕 骨 骨 折.災 害 外 科,14: 1179-1187,1971.
9)
Watson-Jones:
FRACTURES
AND JOINT
INJURIES. Livingstone,
London,
1956.
質 問 九 大 整 形 野 村 茂 治 内副 子 とDecorticationを 併 用 す る の は技 術 的 に 困 難 で は な いで し ょうか. 解 答 我 々は 偽 関節 例 に対 して は,剥 離 を 内 副子 固 定 に必 要 な最 小 限 の範 囲 に と どめ 内 副子 固定 後 にDecorti-cationを す るよ うに して い るの で 技術 的 に可 能 で あ る。