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山梨大学医科学雑誌23-2

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認知神経科学よりみた情動/認知機能の発達

−発達障害を理解するために−

相 原 正 男

山梨大学医学部小児科 要 旨:脳における情報処理システムは,認知処理背側経路と情動処理腹側経路の二重のシステム 構造になっている。情動処理と認知処理が統合する脳領域は前頭葉と考えられている。認知処理系 である背外側前頭野で判断,計画が立案され,情動処理系である前頭葉眼窩・腹内側部で生物学的, 社会的評価を受ける。ヒトの社会的適応において,認知機能が文脈(context)を形成し,情動機 能がバイアス(bias)として関わることで,将来の目的に向けて判断,計画,行動するために必要 な実行機能(executive function)が作動して意思決定がなされ行為に進展するものと考えられる。 近年,これらの高次脳機能を非侵襲的に評価できる認知神経科学(cognitive neuroscience)という 学際的な研究分野が発展してきており,健常小児や発達障害児の脳内メカニズムが急速に解明され てきているので紹介する。 キーワード 情動,認知,前頭葉機能,発達障害,認知神経科学 はじめに 発達障害は,自閉性障害,学習障害(Learn-ing Disorders; LD), 注 意 欠 陥 / 多 動 性 障 害 (Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder; ADHD)

などが対象として挙げられる。文部科学省の調 査では,全国の小中学生の 6.3 %が発達障害の 可能性があると報告されている。発達障害の背 景には,全般的な知的障害である精神遅滞とは 異なり内面的な能力障害(情動,注意,思考) をきたすために周囲の人達に気づかれずに社会 的不利益を被るとした障害概念が存在し,社会 的問題として注目されてきている。したがって, 発達障害児への対応は緊急かつ重要な課題とし て,すでに個別の教育的ニーズに応じた特別支 援教育体制の整備が文部科学省主導で進行して いる。さらに,平成 17 年 4 月発達障害者支援 法が成立,施行され,厚生労働省の指導で圏域 支援体制整備事業,多種職連携を目的に発達障 害者支援センターの設立がなされており,発達 障害は重要な疾患概念となってきた。 一方,脳における情報処理システムは,感覚 器からの情報が視床を経由して扁桃体に転送さ れる情動処理経路と,大脳皮質を経由する認知 処理経路の二重のシステム構造になっており, 情動処理と認知処理が相互作用を行う脳領域 は,前頭葉と考えられている(図 1)1,2)。発達 障害は神経心理学的に前頭葉の機能障害である ことが近年明らかになるにつれて,認知処理経 路においては行動抑制やワーキングメモリーモ デルに基づく認知心理学的解析が最近活発に行 われてきている3,4)。さらに,発達障害児は, 情動処理経路の障害から,その発達過程におい 〒 409-3898 山梨県中央市下河東 1110 受付: 2008 年 2 月 15 日 受理: 2008 年 2 月 25 日

総  説

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て感情(feeling)の言語化能力(情動認知)が 乏しく,共感不全に陥りやすい。その結果心身 症,転換障害さらに感情のコントロールが不能 となり衝動的行動(行為障害)へと進展して人 格障害や引きこもりなどの社会的適応障害にな ることがたびたび経験される。 発達障害児に対する理解の進展は,知覚と認 知,学習と記憶,言語・感情とコミュニケーシ ョン,理論と思考などの「心の神経メカニズム」 を探る神経心理学的立場からの作業仮説によ る。従来から,神経心理学が人の脳損傷あるい は機能障害によって生じた症状から,神経学 (脳)と心理学(心)を統合する役割を担って きた。さらに,高次脳機能を非侵襲的に測定す る脳科学の進歩とともに認知神経科学(cogni-tive neuroscience)という学際的な研究分野が 発展して5),発達障害児の脳内メカニズムが急 速に解明されてきているので紹介する。 I.神経心理学的にみた前頭葉機能の発達 近年,ADHD を理解する神経心理学的理論 として,Barkley によって提案された行動抑制 と 実 行 機 能 ( executive function) の 障 害 が , ADHD の病態生理を考えるときの中心モデル となってきた3,4)。発達心理学領域での「自己 抑制」と神経心理学領域での「実行機能」とい う概念を中心に据えたハイブリッドなモデルと なっている。発達の順序性からは,まず自己抑 制が出現し,次に実行機能が順次認められてく る。したがって,自己抑制には実行機能の遂行 をサポートする役割が課せられていることにな る(表 1)。 生後数か月から人は反応や行動を遅らせる能 力(反応・行動抑制)が認められるようになる。 これは,瞬時の情動(emotion)を抑制するこ とであり,動機(motivation)づけの形成を促 すことになる。もし,反応を抑制できなければ, 短期的な報酬を求め,嫌なことから逃げ,間違 った行動を繰り返し,さらに自分の思考を内・ 外からの干渉から抑制できない。ADHD は, まずこの自己抑制機能の発達障害,換言すれば 自己制御が未熟と考えられる。行動観察から, ADHD 児は多動,衝動性と映り,注意の持続 障害,注意の転導といった臨床症状が認められ る よ う に な る 。 ADHD 児 に 衝 動 性 眼 球 運 動 (サッケード)のうち記憶誘導性課題を試行す ると,行動抑制の障害(脱抑制)が認められ る6) 人は,このように外から入ってくる刺激に対 して反応を遅らせることで,長谷川が例えた 「認知のぜいたく」の恩恵を受けることが可能 になると考えられる7)。我々は行動を遂行する 際,その行動が将来にどのような利益(報酬) をもたらすか,あるいは不利益(罰)を受ける か予想して行動を随時調節している5)。このよ 図 1.意思決定,行為に至る脳内情報処理過程 内外からの情報は,認知回路と情動回路の二重のシステムに より処理される.

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うな行動様式には,他者の行動や自分の過去の 経験から学習し,将来の自己をイメージする非 言語性作業記憶(non-verbal working memory) が必要とされる。近年,必要な情報を適切に選 び(set),一時的に保持しつつ(short-term memory),不必要になったら消去する(reset) といった一連の情報処理過程すなわちワーキン グメモリ(working memory)が,前頭葉機能 とくに認知・行動の時間的統合化(temporal in-tegration)に関わっていることが提唱されてい る(図 2)。この能力から,時間知覚が発達し, 過去,将来そして現在ある自己認識が形成され, 自己の実現と他者との関わりに必要なソーシャ ル ス キ ル と い っ た も の が 備 わ っ て く る8 ) ADHD 児は,この将来のイメージを使えない ため,未来に向かって意図した行動がとれず, 現在の情動に依存した行動となる。 5 ∼ 6 歳頃より言語の内在化によって,言語 を用いて思考し,行動を制御できる能力すなわ ち言語性作業記憶(verbal working memory) が発達する。その結果,自分自身に言語により 指示できることで,セルフコントロールが可能 となり,自由意思が形成される。さらに,自己 に向けた言葉から,自分自身の脳の活動をモニ ターできる能力である自己意識(メタ意識)が 芽生えてく9)。すなわち言葉がヒトの心を操作 表 1.神経心理学的にみた心の発達と前頭前野機能 図 2.ワーキングメモリと前頭前野機能との関係 ワーキングメモリとは,構え(set)から短期記憶(short-term memory),reset に至る一連の思考の流れであり,set ができないと不注意(inattention),短期記憶ができないと 注意の転導(distractibility),注意持続障害(impersistence), reset ができないと保続(perseveration)という注意障害が おきる.

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できるようになっていく。また,情動も内在化 するため,行動に直接結びつく怒り,恐れとい った基本感情は複合化され,二次的な混合感情 が意識されるようになる10)。このように情動 が内在化された状況が,将来への動機づけられ た状態となっていく11)。ADHD 児は,これら の言語・情動の内在化が未熟なため,報酬がな くても自分自身を動機づけて継続的に作業する ことが困難になる。 最後の実行機能は,将来の目的に向けて判断, 計画,行動するためのオペレーション機能のこ とで,外の世界を自分の世界(脳)に取り込み 目 的 指 向 的 行 動 ( 行 為 ) が で き る 能 力 で あ る12,13)。カオスの状況にある外界の事実を,自 己の中で分解,分析して,自己の真実をつくり あげるために再構築する能力のことである。こ の能力により,人は自己中心性文脈(egocen-tric context)を獲得し14)

,自己を形成(men-tal self)し,自己実現という動機付けに向かえ ることができる。 このような心の発達と前頭葉機能との関係を 認知神経科学的に我々は検討してきた。ここで は外界刺激と行為の間の蓋然的な連合の形成に 不可欠な実行機能である文脈依存性理論(con-text-dependent reasoning)を神経生理学的に 解析した。 II.前頭前野の認知・論理機能 (文脈依存性理論) 1994 年 Goldberg が考案した前頭葉機能の側 性化 (lateralization)を検出する神経心理学的 検査である cognitive bias task(CBT)の検討か ら,右前頭葉は新奇な刺激に対する処理(文脈 非依存性理論)を,左前頭葉は既存の情報に基 づく内的提示により行動を導く(文脈依存性理 論)という仮説(cognitive novelty and cogni-tive routinization theory)が提唱されている15)

検査方法は「形」「色」「数」「塗り方」の 4 つ のカテゴリーからなる図形が描かれた標的カー ドを提示する。次に 2 枚の選択カードを同時に 提示し,そのうち 1 枚を被験者の自由に選択さ せる(図 3)。選択したカードの図形と標的カ ードの図形とのカテゴリーの一致数を類似度と する。たとえば図の上の選択カードを選択した 場合,形,色,数が標的カードと一致している ので類似度は 3 となる。この選択試行を 30 回 行った合計の類似度から,標的に依存しない選 択 を し た と き に 予 想 さ れ る 類 似 度 の 合 計 値 (60)を減じたものの絶対値を依存度と定義す る。このように前頭葉機能を評価するためには, 一つの質問に一つの解答を求める課題(収束思 考)ではなく,ひとつの質問に複数の解答を求 める課題(拡散思考)設定が必要である(図 4)。 右利気,正常男児において 5 ∼ 6 歳は標的カー ドに依存しない選択をしているが,年齢ととも に標的カードへの依存度は高まり,15 歳頃成 人レベルに達した(図 5)16)。年齢に伴い右前 頭葉機能である文脈非依存的理論 (context-in-dependent reasoning)から左前頭葉機能であ

図 3.Cognitive bias task の施行法

図 4.自己中心性文脈(egocentric context)を形成 する拡散思考 前頭葉機能を評価するためには,一つの質問に一つ の解答を求める課題(収束思考)ではなく,ひとつ の質問に複数の解答を求める課題(拡散思考)設定 が必要である.

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る文脈依存的理論 (context-dependent reason-ing)へシフトしていくものと考えられる。8 名の右利き健常者で CBT とコントロール課題 施行中の脳血流量を測定し統計学的検討を行っ たところ(SPECT activation study),有意に脳 血流が上昇した脳内部位は,左右前頭前野,左 下前頭野,左後側頭部であった(図 6)17)。す なわち,CBT 遂行にはこれらの脳部位が情報 処理を相互に協調して行っているものと考えら れる。 CBT の臨床応用として左前頭部脳梗塞児や 左前頭葉てんかん児を対象に検討を行った。両 疾患とも,前提条件に影響されない思考である 文脈非依存性理論,すなわち前頭葉の側性化障 害のため前提条件の表象(representation)機 能が低下していることが明らかとなった(図 7)18)。さらに,文脈依存性理論の獲得は,出 生直後の脳損傷児でも代償されないことから生 得的制約(innateness)があることが確認され ている。 図 5.CBT スコアーの年齢による変化 (Aihara M, et al, 200316) 右利気,正常男児において 5 ∼ 6 歳は標的カードに依存しない 選択をしているが,年齢とともに標的カードへの依存度は高ま り,15 歳頃成人レベルに達した. 図 6.CBT 施行中の脳血流有意差マップ ―(SPECT activation study)― (Shimoyama H, et al, 200417) 賦活された脳部位が黄色で表示されている.

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III.認知(注意)と情動(生理的覚醒)の 相互関係 情動の生理学的側面は,外部環境や体内変化 などの感覚入力に対する記憶,経験との照合に より数秒単位で出現する生物学的価値判断であ り,適応行動への動機づけを発生させる。情動 研究は,情動的意義を決定する脳内情報処理す なわち感覚入力の情動的評価,主観的に体験さ れる情動体験,客観的に観察できる情動表出の 三側面から検討されてきた1)。認知神経科学で は,情動的評価(脳内表象),情動表出(情動 行動,情動性自律反応)を扱うことが多い。注 意,認知機能といった高次脳機能の客観的評価 と し て , 事 象 関 連 電 位 ( event-related poten-tial; ERP)は広く臨床応用されてきている19,20)

交感神経皮膚反応(sympathetic skin response; SSR)も,求心性電気刺激による体性感覚−交 感神経系の自律神経検査として汎用されている が,新奇刺激による定位反射として情動(生理 的覚醒)と行動を関連付ける生理的指標として 最近注目されている21,22) このような観点から,異なる注意課題におけ る認知と情動の相互関係を検討するため,ERP と SSR を同時に測定した。情動表出には生理 的覚醒(注意)を伴うため,神経心理学的に考 察したさまざまな注意課題における ERP と情 動性自律反応である SSR を同時に記録して認 知と情動の相互作用を検討した。対象は,健康 成人 12 名である。まず被験者を明るい遮音さ れた室内で安静座位に保ち,覚醒開眼の状態で 注視点を定め,その 1 点を凝視するように指示 し た 。 測 定 機 器 に は , 日 本 光 電 社 製 N e u -ropack8 を用い,右正中神経に感覚閾値の 3 倍, 0.3 Hz の頻度で電気刺激した。 注意課題は,1) 受動的注意課題(C 課題):音楽を聴くのみで 課題が与えられないコントロール課題,2)能 動的注意課題(A 課題):電気刺激の差異を答 えさせる持続的注意を要する課題,3)刺激後 にボタン押しをする課題(B 課題),4)自発的 に ボ タ ン を 押 さ せ る ボ タ ン 押 し 課 題 ( self-paced key- pushing paradigm; S 課題)である。 課題は 10 回施行し,1 回施行ごとに ERP 及び SSR を同時記録した。体性感覚事象関連電位 ( somatosensory event-related potential; SERP)

の記録電極は頭部 Cz に,基準電極は連結両耳 朶におき,SSR の記録電極は右手掌に,基準電 極は右手背においた。さらに,Cz のほかに手 の運動野(C3’,C4’; C3,C4 の 2 cm 前方) にも記録電極をおき,注意あるいはボタン押し を行う前の準備電位(readiness potential; RP) あるいは運動準備電位(movement related cor-tical potential; MRCP)を B,S 課題で同時記録 した。各注意課題における継時的 SERP と SSR の代表的波形を示す(図 8)。C,A,B 課題の 順で各波形とも慣性化(habituation)は抑制 され,とくに S 課題では振幅の減衰が認められ ない。次に,A 課題,B 課題,S 課題施行前に 出現する陰性電位を記録した(図 9)。A 課題, B 課題では左右対称性に緩徐電位が出現してい るのに対し,S 課題ではボタン押し側(左)の 対側(C4’)優位に陰性電位が出現している。 このことから A 課題,B 課題施行時に刺激前か ら出現する波形は次の刺激を期待することで得 られる準備様電位(RP)で,S 課題で出現した のは MRCP であることが確認された。したが って各課題施行時に出現する ERP は,A 課題, B 課題では,刺激を予知することで出現する SERP の P250 成分であり23),S 課題の場合は 図 7.文脈理論形成に影響する前頭葉損傷の側方性 効果(Aoyagi K, et al, 200518)

LLF; left-sided lesions/epileptic foci, RLF; right-sided lesions/epileptic foci

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MRCP の成分である P+300 と考えられる。さら に,A,B,S 課題施行時に出現する P250・ P+300 振幅値と SSR 振幅値の相関を検討したと ころ有意に相関しており,中枢内電位と情動性 自立反応が coupling していることが判明した。 SSR には,top down と bottom up の SSR が存 在することが明らかとなった21)。したがって,

神経心理学的課題施行中に SSR を記録するこ とにより,情動と認知機能を客観的に評価する ことができるものと考えられる。

S S R の 臨 床 応 用 と し て 前 頭 葉 て ん か ん (frontal lobe epilepsy; FLE)児を対象とした検

討を行った。FLE 児は,発作間欠期にも多動, 衝動性,感情不安,さらに社会的判断の未熟性 が思春期前後で臨床上経験されることが少なく ない。このような観点から,FLE 児と中心・側 頭部に棘波を伴う良性部分てんかん(benign partial epilepsy centrotemporal spikes; BECT) を対象に,突発波出現時に能動的注意を要する 課題によって得られる SERP を経時的に記録し た。今回用いた能動的注意課題は,0.3 Hz の電 気刺激を 32 回ずつ右手関節部正中神経に与え, 「刺激の変化に積極的に注意を向け,あとで変 化した刺激の数を答えてもらいます。」と指示 図 8.各注意課題における経時的 SERP,MRCP,SSR の推移 (Aihara M, et al, 200321)

SERP; somatosensory event-related potential, MRCP; move-ment related cortical potential, SSR; sympathetic skin re-sponse

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したものである。このような能動的注意課題を 行いながら,焦点性突発波をトリガ−に正中神 経に電気刺激を与え(図 10),その際 250 msec 前後に出現する陽性波(P250)の経時的変化 を検討した。 焦点性突発波をトリガ−する詳細な方法は, 文献を参照されたい24)。各ブロック(8 回の SERP 加算平均)の P250 の振幅の動揺と潜時 の jitter を観察すると,control SERP の P250 に 比較して trigger SERP の P250 振幅の減衰と潜 時の動揺が明らかに認められる(図 11 − A)。 BECT,10 歳,女児。左中心部の棘波をトリ ガ−として,同様の方法で得られた SERP を示 す(図 11 − B)。Trigger SERP の振幅と潜時の 動揺は,control SERP に比較しても変化がな いことが確認される。FLE の焦点性突発波は一 過性認知障害すなわち持続的な注意障害をもた らすことが判明し,FLE に認められる注意欠陥 /多動性障害(AD/HD)に類似した臨床症状 の生理学的根拠が確認された。 IV.前頭葉離断症候群における認知と 情動機能の乖離 脳における情報処理システムは,情動処理腹 側経路と認知処理背側経路の二重のシステム構 造になっており,両者の情報が相互作用する脳 領域は前頭葉と考えられている。前頭葉離断症 候群(前頭葉背外部への離断と前頭葉眼窩部へ の離断)である認知と感情機能の乖離症例を提 示する。2 症例の神経心理学的検査所見は,前 頭葉背外部への離断例(症例 1)では軽度の知 能障害と保続を認めたが,前頭葉眼窩部への離 断例(症例 2)では知能は正常で代表的な前頭 葉機能検査である WCST は好成績であったが 行為障害を認めた。これらの症例に対し誘発性 と覚醒性の 2 次元モデルで析出した視覚的情動 刺激による SSR を同時記録して検討した(図 12)25,26)。症例 1 は,生理的嫌悪や非道徳な誘 発性の低い画像に対し SSR はすべて出現して いたが,症例 2 は,画像の内容を正確に認知評 図 9.各注意課題における RP,MRCP RP; readiness potential, MRCP; movement related cortical potential

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価が可能で正しく答えているにも関わらず,非 道徳な誘発性の低い画像に対し SSR はすべて 消失していた(図 13)27)。すなわち,認知とと もに身体反応が出現しないと,的確な判断や意 思決定ができないものと考えられる。情動は感 情を基礎づけている生理的身体過程であり,認 知的評価と結び合わされて情動は言語化可能な 感情になり,社会的ルール/文化,倫理等の思 考により,感情は社会的行動として表出される ものと考えられる28,29) 図 11.棘波による SERP への影響 前頭葉てんかんでは,コントロール SERP に比して trigge-SERP の振幅と潜時の動揺が著明 であるが(A),中心・側頭部に棘波を伴う良性部分てんかんでは,コントロール SERP, trigge-SERP ともに振幅と潜時の動揺は認められず,安定した波形が得られた(B). SERP; somatosensory event-related potential

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V.結  語 情動は注意や認知過程の選択的絞込みに重要 な役割を果たしているものと思われる。ヒトの 社会的適応を保障する実行機能 (executive function)において,認知機能が文脈(context) を形成し,情動機能はバイアス(bias)として 関わることで意思決定がなされ,行為へと進展 するものと考えられる2,5,20,28) 文  献 1) 堀 哲郎:脳と情動−感情のメカニズム.共立 出版,東京,1995.

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Hashikawa K, Goldberg E, et al: Context-depen-dent reasoning in a cognitive bias task; part II. 図 13.前頭葉離断症候群の SSR

(青柳閣郎,ら,200522)

前頭葉眼窩部と扁桃体離断症例では,生理的不快画像に対して SSR は出現しているが(a),すべての社会的不快画像に対して SSR は認められなかった(b).

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SPECT activation study. Brain Dev, 26: 37–42, 2004.

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