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目次 1 研究の目的 2 Thin Gap Chamber 2-1 TGC について 2-2 TGC の構造 2-3 TGC の動作原理 カソード面にカーボンが使われる理由 印加電圧による動作の違い TGC に封入するガスは何が適しているのか 2-4 TGC の測

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2008 年度卒業論文

基板型 TGC の研究

信州大学理学部物理科学科

高エネルギー物理学研究室

05S2028D

竹村洋

2009 年 3 月

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目次

1 研究の目的

2 Thin Gap Chamber 2-1 TGC について 2-2 TGC の構造 2-3 TGC の動作原理 2-3-1 カソード面にカーボンが使われる理由 2-3-2 印加電圧による動作の違い 2-3-3 TGC に封入するガスは何が適しているのか 2-4 TGC の測定方法、既存 TGC による練習 2-4-1 実験準備 2-4-2 オシロスコープでの信号確認 2-4-3 計数率の測定 2-4-4 電荷量の測定 3 基板型 TGC 3-1 基板型 TGC の構造 3-2 基板型 TGC の作成方法 3-3 基板型 TGC の動作確認 3-3-1 オシロスコープでの信号確認 3-3-2 計数率の測定 3-3-3 ADC 分布の測定 3-3-4 考察 4 まとめ 4-1 作成した検出器 4-2 動作確認の結果 4-3 今後の課題

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1 研究の目的

TGC をもとに、ワイヤーを用いず、壊れにくく容易に作成できるガス放射線検出器を考 案し、動作確認をする。 TGC の詳しい構造については 2-2 で説明するが、実際に使われているものは 1 枚に約 1000 本のワイヤーが張ってあり、そのうち 1 本でも切れると全体が使えなくなってしまう ので、取扱いに慎重さがもとめられる。また、ワイヤーに張力をかけ均等に張る作業は、 容易であるとは言えない。 TGC は既に完成された装置だが、こういった部分を解消させるために、ワイヤーを用い ないガス放射線検出器を考案することが本研究の目的である。

2 Thin Gap Chamber

2-1 TGC について TGC は主に衝突型加速器の実験の飛跡検出器などとして使われています。衝突型加速器 実験とは、粒子を電場により高速まで加速して衝突させ、そのときに発生する二次粒子を 観測することにより私達の生きるこの世界の仕組を物理的に理解しようとする試みのこと である。飛跡検出器とは、衝突型加速器実験で発生した荷電粒子がどの位置を通って飛ん でいったかを教えてくれる装置です。

具体的な例として TGC は、CERN の LHC 加速器の ATLAS 測定器に設置されています。CERN はジュネーブ郊外のスイスとフランスの国境にある世界最大の高エネルギー素粒子物理学 の多国籍研究所である。

LHC 加速器は CERN に作られた円形の大型ハドロン衝突型加速器(Large Hadron

Collider)で(図 1)、地下約 100 m にあり、一周の長さが約 26.6 km の円形のトンネル 内に多数の超伝導磁石(8.33 T)を並べ、2 本のビームパイプ内で陽子ビームを約 7 TeV(重心系では 14 TeV)まで加速し、互いに正面衝突させる装置である。

図 1 空から見た CERN の LHC 加速器のトンネル

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衝突箇所は 4 箇所あり、それぞれの箇所に ATLAS や CMS、ALICE、LHC-B という大型の測 定器が設置されている。これらのいろいろな測定器のうち、TGC が設置されている ATLAS についての説明を続ける。 ATLAS は図 2 のようにあらゆる方向に飛び出す粒子を測定するため、陽子ビームの衝突 点を取り囲むように配置されている円筒形の巨大な測定器群であり、大きさは直径 25 m 、全長 44 m、重量 7000 トンである。いろいろな測定器で構成されており、そのすべてが それぞれの役割で衝突により生まれた粒子を検出し、粒子の種類、エネルギー、運動量等 を精度よく測定する。この ATLAS を使った ATLAS 実験は標準理論におけるヒッグス粒子の 探索や、標準理論を越える物理法則の探求が研究目標である。 図 2 ATLAS TGC はこの ATLAS の測定器群のなかでエンドキャップ部分にあり、ミューオンのトリガー 検出器の役割をしている。エンドギャップ部分とは円筒のフタにあたる円盤部分で実際の 写真は図 3 である。 図 3 ATLAS 実験装置のエンドギャップ部分の TGC

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トリガーとは、「いつ興味のある物理現象が起きたか」を判別する(引き金を引く)ため のしくみの事を表す。衝突の際、陽子を形成しているクォーク同士、クォークとグルーオ ン、グルーオン同士などが衝突を起こすため、一回の衝突で約 100 個の粒子が発生するう え、陽子ビームが衝突する回数は 1 秒間に約 4000 万回であり、とてつもない量の粒子を 測定することになる。よってすべての粒子を測定、解析してその中から興味のあるデータ を選別しようとしても、データ量が莫大すぎて、困難なものとなる。そのため、トリガー 検出器からの信号があった時のみ他の測定器のデータを有効なものとして扱うというしく みが必要なのである。

ATLAS には L1、L2、Event filter の3段階のトリガーがあり、L1 のトリガー検出器の ひとつとして設置されている TGC の役割は、ミューオン以外の粒子によるチェンバーの信 号や検出器などのノイズを落し、高い Pt(ビーム軸と垂直方向の運動量)のミューオンを 含む事象を選択することである。そのためにミューオンの Pt について閾値を設けて、そ の閾値以上の Pt を持つミューオンだけを選択する。Pt は磁場でミューオンを曲げ、その 飛跡から計算する。 このように TGC は今、LHC 計画という大きな実験にかかわっている。また、LHC 加速器 の始動は 2008 年 9 月 10 日に開始した。 2-2 TGC の構造

TGC の構造は、多線式比例計数管(Multi Wire Proportional Chamber : MWPC)と呼ばれ るガス放射線検出器の一種で、図 4 のように 2 枚の接地された陰極板が向かい合わさって いて、そのすき間に正の高電圧(H.V)が印加された多数の細い陽極ワイヤーが並行に張 られている。 図 4 TGC の全体図 ここからのスケールについては ATLAS で用いられている TGC を例にとって説明していく。 まず、TGC の断面図は図 5 のようになっている。上下にある 2 枚の陰極板はカソード面と いい、内部に張られた陽極ワイヤーはアノードワイヤーという。 アノードワイヤーの直径は 0.05 mm、材質はタングステン、金メッキされており、1.8 mm 間隔、350 g 重で張られている。H.V は約 3 kV を印加して動作させている。 カソード面の厚さは 1.6 mm、材質は FR4 で、内側はカーボン(面抵抗は約 1MΩ/□)、 外側が銅で挟まれている。FR4 自体に導電性はないので、内側のカーボン面が実際のカソー ドとなる。 アノードワイヤーとカソード面の間隔は 1.4 mm で、この間隔の方がアノードワイヤー の間隔に比べて短いことが Thin Gap Chamber の Thin(薄い)の由来である。

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図 5 TGC の断面図 この2枚のカソード面の間(ガスギャップ)にはガス( CO2 と n-ペンタンの混合気 体など)を充満させてある。基本的には漏れないように密閉されているが、このガスは常 に循環していて、入れ替わるしくみになっている。 1枚あたりの面積は、ATLAS 実験装置に使われている TGC は約 1.5 m×1.5 m(畳 1 枚く らいの大きさ)で、約 1000 本のワイヤーが張られている。本測定に使用した信州大学に あるテスト用 TGC(図 6)は 10 cm×15 cm に 16 本のワイヤーが張られている。 図 6 信州大学にあるテスト用 TGC カソード面は接地されていて、アノードワイヤーには H.V(約 3 kV)が印加されている ので、ワイヤー付近には非常に強い電場が作られる(図 7)。軸 X,Y は図 6 と対応してお り、Z 軸は電場の強さである。高くなっている部分(オレンジ色の部分)がちょうどワイ ヤーの位置となっている。

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図 7 ワイヤーのまわりに作られる電場(断面図、z 軸は電場の強さ) 2-3 TGC の動作原理(ガス増幅) 粒子検出器というものは基本的には物質と荷電粒子の相互作用によって発生したエネル ギーを検出することで粒子の情報を得ようとするものである。TGC の場合、その物質にガ スを使用していて、これは荷電粒子が物質中を通過する際にエネルギーを失う 3 つの原因、 電離損失、制動輻射、チェレンコフ輻射の内、電離損失を使ったものである。 この TGC に充填されているガスの中を荷電粒子(ミューオン、電子など)が通過すると そのガス分子を電離させ(一次電離)、荷電粒子の軌道に沿ってガスイオン・電子(一次 電子)対が生成される(図 8 の①)。 アノードワイヤーに印加された H.V によって形成された電場により、生成された電子は 最も近くにあるアノードワイヤーに向かって移動していく(図 8 の②)。 そしてアノードワイヤーの近傍まで移動した電子は、そこに作られている非常に強い電 場によって急激に加速され、他のガス分子を電離するのに十分なエネルギーを得て、再び 他のガス分子を電離させ(二次電離)、ガスイオン・電子(二次電子)対を生成する。こ のような過程を繰り返すことにより、アノードワイヤー近傍では雪崩がおきるように急激 に電子が増加する(図 8 の③)。この現象を電子雪崩(electron avalanche)という。一 方電離したガスイオンは電子よりも重いので急激な加速はされず、ゆっくりとした速度で カソード面に引かれていく。 電子雪崩がおこる電場の強さは( 106 V/m)で、増幅する割合(ガス増幅率)が 105 程度ならば、TGC はこの電子雪崩で生じた電子と、ガスイオンがカソード面に移動してい く際に誘起される信号をアノードワイヤーやカソード面で読み出すことができる。 そして信号を読み出したワイヤーの位置を調べることによって荷電粒子が通過した位置 を知ることができ、飛跡検出器としての役目を果たすのである。ちなみに、電子雪崩によ りガスイオン・電子対が増えることをガス増幅、電子雪崩がおきるガスの領域をガス増幅 領域と呼ぶ。 最終的にアノードワイヤーに達した電子はここで吸収され、カソード面に達したガスイ オンはここで電子を受け取り再びガス分子にもどる。このガス増幅はすべての電子がアノー ドワイヤーに吸収されるまで続く。 電子の動きは速く、ガスイオンの動きは遅いので、TGC からの信号の波形は、電子の移 動と吸収により急激に立ち上がり、ガスイオンの移動によりテールをひく形になる。

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図 8 動作原理(ガス増幅)の図 2-3-1 カソードにカーボンが使われる理由 カソード面は面抵抗の値が重要で、この値が低すぎるとここから信号を読み出す場合は その信号が出ない。逆に高すぎるとガスイオンがここで電子をもらってもとの中性のガス 分子に戻ることができず、ガスイオンが溜ってチャージアップすることにより電場の形成 に影響をあたえてしまい、信号が出なくなる原因のひとつとなる。カーボンの場合、この 面抵抗が適切な値なのである(1 MΩ/□程度)。 またカーボンの仕事関数が高いことも理由のひとつとしてあげられる。入射した荷電粒 子が TGC 内部のガス分子を電離させる際、エネルギー不足のため完全にガスイオンと電子 に電離されず電子が励起しただけにとどまったガス分子や、ガスイオンと電子が再結合し たガス分子は、電子が再び元のエネルギー準位に戻る際にエネルギーとして、光を放出す る。この光は TGC 内部の壁との光電効果で電子をはじき出す。また、再結合の際に放出さ れた光は他のガス分子を電離してガスイオン・電子対を生成したり、光電効果も起こす。 TGC の印加電圧が低ければ特に問題はないが、高電圧をかけていた際にはこの影響が無視 できなくなり、この光子が TGC 内部に広がってしまうと、内部のいろいろな場所でガス増 幅が起こり、位置精度の悪化、放電などの不安定動作の原因となる。よってカソードを仕 事関数が高い(光電効果で電子が出にくい)物質にすることで、こういった状態がおこり にくくなるのである。 以上のような理由でカソードにはカーボンが使われている。

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2-3-2 印加電圧による動作に違い 次に、印加電圧による動作の違い(動作モード)について説明する。動作モードを決定 するのは電場の強さである。さらに、電場を強くするために印加電圧を上げると、それに ともなって、ガス増幅領域も大きくなる。図 10 のように、動作モードは 6 つの領域に分 別することができ、以下のようになる。 図 9 印加電圧と出力波高の関係 ① 再結合領域 ② 電離領域 ③ 比例領域 ④ 制限比例領域 ⑤ ガイガーミュラー領域(GM領域) ⑥ 連続放電領域 ① 再結合領域 この領域の動作モードでは、一次電離により生成されたガスイオン・電子対はガス増幅 を起こすほどのエネルギーを得られず、アノードワイヤーの作る電場に沿って移動するだ けである。移動する際に、ガス分子との衝突などによる拡散、ガスイオンと電子の再結合 などによって、電極に到達する前に消滅してしまう。 ② 電離領域 この領域の動作モードでもガス増幅は起きず、一次電離により生成されたガスイオン・ 電子対はアノードワイヤーの作る電場に沿って、電極に移動するだけである。①との違い は、一次電離で生成したガスイオン・電子対が消滅せず、電極に到達することである。こ の領域では、印加電圧を上げて一次電子が電場から受け取るエネルギーが増加しても、他 のガス分子を電離する程ではないので、飽和状態が続く。一方で、印加電圧を上げると、 途中で消滅するガスイオン・電子対の数が減っていくため、収集される電荷量は増加する。

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この印加電圧と収集される電荷量も関係は、一次電離で生成したガスイオン・電子対がす べて電極で収集されるようになるまで続く。 ③ 比例領域 この領域の動作モードでは、一次電子が受け取るエネルギーが閾値を超え、ガス増幅が 始まる。電子雪崩はアノードワイヤーの周辺で、電子の進行方向に放射状に形成され、ガ ス増幅領域が狭いため、電子がアノードワイヤーに吸収されることで終結する。電極で収 集される電荷量は一次電離で生成したガスイオン・電子対の数に比例する。 ④ 制限比例領域 この領域の動作モードでは、電極で収集される電荷量は一次電離で生成したガスイオン・ 電子対の数に比例しなくなる。 一次電子によって発生した電子雪崩(一次電子雪崩)はアノードワイヤーが作る電場① と電子雪崩内部のガスイオン・電子対が形成する電場②が等しくなるまで続く。そうして 電場①と電場②が平衡状態になると、一次電子雪崩がアノードワイヤーに向かう動きも止 まり、一次電子雪崩のうち、よりアノードワイヤーに近い部分の電子群とアノードワイヤー の間で再び電子雪崩が生成する(二次電子雪崩)。二次電子雪崩の発端になるのは一次電 子雪崩内で発生した光子である。二次電子雪崩がアノードワイヤーに達すると、一次電子 雪崩を含めてプラズマ状態が形成され、この中の電子はアノードワイヤーにすばやく吸収 される。この間、ガスイオンはほとんど移動しないので、アノードワイヤーの周りには高 密度のガスイオン群が残る。このガスイオン群は密度が高いため、アノードワイヤーが形 成する電場を著しく歪ませ、後続の電子なだれの成長を阻害する。 よって、電極で収集される電荷量は、一次電離で発生したガスイオン・電子対の数にし たがって増大するが線形性は失う。 ⑤ GM領域 この領域の動作モードでは④と同じく、一次電子雪崩はアノードワイヤーの作る電場と 一次電子雪崩内部の電場が平衡状態になるまで続く。この一次電子雪崩内部には多くの励 起したガス分子やガスイオン・電子対が存在し、2-3-1で述べたように電子が元の準位に 戻ったり、再結合する際に光を放出する。放出された光は他のガス増幅領域でガス分子を 電離をしたり、TGC内部の壁で光電効果を起こして光電子を叩き出す。そして、ガス増幅 領域も十分に広く形成されているので、この光を発端とするガス増幅が検出器全体で起こ り、ガイガー放電と呼ばれる持続放電状態になる。この動作モードでは常に一定の電荷量 を収集し、もはや収集される電荷量が1次電子の数に依存しなくなる。 また、充填ガスとして紫外線の吸収能力が高いガスを使うことで、ガイガー放電が検出 器全体に広がるのを回避し、局所的にした制限ストリーマモードの存在する。管内の内圧 を上げて平均自由工程を短くした場合や印加電圧を下げてガス増幅領域を局所的にした場 合にもGM領域のモードからの変更が可能である。この動作モードでは、二次電子雪崩は一 次電子雪崩の近傍に生成される。このように二次電子雪崩が一次電子雪崩の前後で成長し、 陽極側から陰極側にジグザグに成長する放電をストリーマと呼ぶ。ストリーマの成長は二 次電子雪崩からガスイオン・電子対の再結合により放出された光が減少した場合に電離相 互作用を起こさなくなり収束する。 ⑥ 連続放電領域 この領域の動作モードまで印加電圧をあげてしまうと放電が止まらなくなってしまう。 この領域を検出器の動作モードとして用いることはできない。

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2-3-3 TGC に充填するガスは何が適しているのか TGC はトリガー検出器であり、入射粒子のエネルギーに関係なく全ての粒子を検出でき なければならないので、高いガス増幅率を得る必要がある。よって、電子捕獲率の小さい ガスが適している。なぜなら、1次電子がアノードワイヤーに引きよせられていく過程で ガス分子に捕獲されにくいので、高いガス増幅率をを得られるからである。 さらに高いガス増幅率を得るために、動作モードは、比例モード以下と比べてガス増幅 によって得られる電荷量が 10〜100 倍と大きく、信号の対雑音比も高い制限比例モードを 使用する。しかし、高いガス増幅率の場合、 2-3-1 で述べたように紫外線によるガス分 子の電離の影響が無視できなくなるので、紫外線吸収能力の高いクエンチガスも必要とな る。これらは高分子ガスで、紫外線を分子自身の回転エネルギー、または低分子への解離 エネルギーとして使用している。 具体的に、ATLAS 実験装置では充填ガスとして CO2 と n-ペンタンを混合比 55:45 で使 用している。図 10 からわかるように CO2 は電子捕獲率が非常に小さい。また、自然界 に大量に存在するので、経済的にも優れている。n-ペンタンは、図 11 からわかるように 非常に大きな紫外線吸収能力を持つ。図 12 より、炭素数にしたがって紫外線吸収断面積 が高くなっていることがわかるが、n-ペンタンは沸点が 36.07℃、炭素数が一つ上のヘキ サンは 69℃、イソオクタンは 99℃であり、メタン系炭化水素のうち n-ペンタンより高い 炭素数のものは、気体として扱いずらいので、使用をさけている。 以上より、 CO2 と n-ペンタンの混合ガスを用いると安定した動作が期待できる。 図 10 4種類のガスの電子捕獲率 図 11 5種類のガスの紫外線吸収断面積

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2-4 TGC の測定方法 ここでは、測定方法の手順を信州大学にあるテスト用 TGC で実際に行った基本的な測定 をもとに説明していく。TGC まわりの回路は図 12 のとおりである。アノードワイヤーから コンデンサーをはさんで導線を伸ばし、信号を読み出す。カソード面からも信号は読み出 せるが、本測定ではワイヤーからの信号のみを取り扱った。 図 12 TGC 周辺の回路の図 2-4-1 実験準備 まず測定の準備として、TGC にガスを充填させる。今回は CO2 のみを使用した。図 13 のように CO2 ガスボンベ、レギュレータ、ニードルバルブ付き流量計、TGC、バブラー の順につなげる。 図 13 ガスまわりの写真

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レギュレータはガスの圧力をコントロールする装置で、1 気圧以下に調節する。 流量計はガスの流量を調節する装置で、毎分約 30 cc で流れるように調節する。ガス流 量と実験装置の体積からの計算では、30 分〜60 分で実験装置内の空気が CO2 に置き換 わることになるが、さらに数時間は時間をおくのが理想的である。 バブラーはガスの出口に設置されている装置で、空気の逆流を防ぐと共に、液面の高さ (液体(水)の量)で内部の圧力を調節する働きを担っている。テスト用 TGC は接着剤で 密閉している。TGC の面積を 10 cm×15 cm として計算すると、1.32 気圧になっただけで も、内側から 50kg 重の力で押されることになる。このように、内部の圧力が少しでもあ がってしまうと、接着が取れてしまう可能性があるので、テスト用 TGC は特に慎重にガス を流すことが必要である。 ガスが充填されたら、次に焼き出しを行う。TGC 内に塵などの不純物があると、目標の 電圧(3 kV)まで上がらないことがある。よって高電圧で塵などの不純物を焼きながら、 徐々に電圧をあげて目標の電圧までかかるようにする。この作業を焼き出しといい、数時 間〜半日程度を要する。 2-4-2 オシロスコープでの信号確認 焼き出しによって 3 kV かかるようになったら、いよいよ測定を開始する。まず TGC に 荷電粒子を入射して、アノードワイヤーからの信号をアンプを通して増幅し、オシロスコー プで確認する。入射する荷電粒子(線源)には、ストロンチウム 90( 90S r )の β 線を 使用した。図 14 は 3.00kV のときの信号のようすである。 図 14 オシロスコープでの信号確認 信号の大きさは約 60 mV くらいのものが多く観測され、幅は約 400 ns くらいであるこ とがわかる。信号は 2.50 kV あたりからあらわれてきた。2.95 kV をこえるあたりから放 電があらわれ始め、3.20 kV をこえると放電がとまらなくなる。

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2-4-3 スケーラでの計数率の測定 次にこの信号がどの程度の頻度で出ているのかを調べるため、以下のような計数率測定 を行う。図 15 のように TGC からの信号をアンプを通して増幅し、ディスクリミネータに 通しスケーラで信号の数を数える。アンプには ASD アンプを使用し、増幅率は 400 倍程度 である。ディスクリミネータは波高選別を行う装置で、信号の大きさがある一定の値(閾 値またはスレッショルド)以上のときにその信号をデジタル信号として出力するものであ る。これはスケーラが小さい雑音を信号として数えてしまわないようにする役割も果たす。 図 15 計数率測定実験のセットアップ 図 17、図 18 はそれぞれの以下条件①、②でカウント数を測定した結果をグラフにした ものである。同じく線源は 90S r 、充填ガスは CO2 である。 ① スレッショルドを-36.5 mVに固定し、電圧を2.50 kV~3.25 kVまで0.05 kV刻みで変 化させたときの60秒間あたりカウント数。 ② H.Vを2.90 kVに固定し、ディスクリミネータのスレッショルドを-7.6 mV〜-110.1 mVまで変化させたときの60秒間あたりのカウント数。 一般的に、図16の計数率の印加電圧依存の性質をあらわしたグラフはH.Vカーブとよば れ、図17の計数率のスレッショルド依存の性質をあらわしたグラフはスレッショルドカー ブとよばれている。 まず条件①の測定、図16のH.Vカーブについて述べる。縦軸は60秒の間に信号をカウン トした数の対数目盛、横軸はH.V(kV)である。今後以下に出てくるグラフの線は見やす くなるように点同士を結んだものである。 図16 ハイボルカーブ 2.40 2.50 2.60 2.70 2.80 2.90 3.00 3.10 3.20 3.30 1 1 0 1 00 1 000 1 0000 1 00000 H.V ( kV ) C ou nt / 60 s

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線源から発生する荷電粒子の量はほぼ一定なので、低い電圧から徐々に電圧を上げてい くとき、適度な電圧になったらカウント数の変化があまりなくなる(プラトー)が確認さ れるのが理想的である。 90S r から発生する β 線は、0.546 MeV と 2.248 MeV を最大とす る二種類のエネルギー分布が合わさった連続分布をしているが、TGC 内部に入射する β 線 のうち、エネルギーが高いものは、MIP というほぼ一定のエネルギーを落とすため、プラ トーが確認可能であるが、FR4 で仕切られている場合、β 線が FR4 でエネルギーを失い、 プラトーが確認できないことも考えられる。 このテスト用 TGC では明確なプラトーは確認できませんでしたが、2.60 kV〜2.90 kV あ たりまでは指数関数的に増加していたカウント数も 3.00 kV を過ぎるあたりからは増加に かげりが見えていることが確認できる。また、3.25 kV からは放電がとまらなくなるので、 データがとれるのはここまでである。 次に条件②の測定、図 17 のスレッショルドカーブについて述べる。縦軸は 60 秒あたり のカウント数の対数目盛、横軸はスレッショルド(mV)である。 図 17 スレッショルドカーブ こちらのグラフもプラトーが確認されるのが理想的である。しかし今回このテスト用 TGC ではスレッショルドの大きさを上げるに従って、カウント数はほぼ指数関数的に減少 していっているだけで、明確なプラトーは確認できなかった。オシロスコープで確認でき た最大の信号の大きさ、100 mV を過ぎるあたりからカウント数は急激に減り、カウント 数はゼロとなった。 0. 0 20. 0 40. 0 60. 0 80. 0 1 00. 0 1 20. 0 1 10 100 1000 10000 100000 スレッショルド(mV ) C ou nt / 60 s

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2-4-4 電荷量の測定 次にこの信号の大きさを調べるために、一個一個の信号の電荷量の測定をする。測定の しかたは、信号自身、またはクロックジェネレータなどからゲートパルスを作り、ゲート パルスが ON となっている間だけ、信号の電荷量を積分し、その値(積分電荷量)を測定 結果として扱うというしくみである。図 18 でいうと、赤い部分が測定の結果となる。こ のゲートパルスと信号がずれていると、正確な積分電荷量が得られないので(図 18-b) 、注意しなくてはならない。この測定を繰り返すことにより、積分電荷量の大きさの分布 がわかり、その分布から信号の電荷量の平均値(mean)もわかる。この分布のことを、 ADC 分布という。 図 18 信号とゲートパルス ここでは、セルフトリガーを例にとり、測定方法を説明していく。セルフトリガーとは 信号自身からゲートパルスを作る方法である。図 19-① のようにアノードワイヤーからの 信号を AMP に通して増幅し、それを2つに分ける。片方はゲートパルスを作るために、ディ スクリミネータを通した後ゲートジェネレータに通す。ゲートジェネレータは信号からゲー トパルスを作る装置で、パルスの幅も設定できる。もう片方は適当な遅延線を挿入し、電 荷量を測定する信号として使用する。図 19-② のようにゲートパルスと信号がずれていな いことをオシロスコープで確かめられたら、その2つを ADC 装置に入力し、PC 制御で測定 する。

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図 19-① ADC 分布測定のセットアップ 図 19-② ゲートパルスの確認 まず、H.V を 2.90 kV に固定して、スレッショルドを-10 mV〜-50 mV まで 5 mV 刻みで 変化させたときの ADC 分布の変化のようすを測定した。ガスは CO2 、線源は 90S r で ある。図 20 はスレッショルドの大きさが 10 m、20 mV、30 mV、40 mV、50 mV のときの ADC 分布である。横軸は積分電荷量(pC)、縦軸がその積分電荷量の信号の数となってい る。また、横軸は 20 pC のペデスタルを 0 として表示してあります。 電離によって荷電粒子がエネルギーを落とす場合、相互作用する物質が十分に厚ければ ベーテブロッホの式から導かれる値をピークにしたガウス分布、TGC のように薄ければ高 い積分電荷量側に長いテールをひいたランダウ分布をする。 図 20 からは、このランダウ分布する様子も確認できるので、ノイズなどではなく荷電 粒子が観測されている結果だといえる。

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スレッショルドの大きさを上げると、小さい信号が除かれるため、ADC 分布の立上りの 位置がだんだんと大きな積分電荷の値に移動していくのが確認できる。 図 21 はこの ADC 分布の平均値(mean)で評価したスレッショルドカーブで、縦軸は積 分電荷の平均値(pC)、横軸はスレッショルド(mV)である。 図 21 ADC 分布の平均値のスレッショルドカーブ スレッショルドの大きさが上がっていくにつれてmeanの値は大きくなっていくことが確認 できる。 次に、スレッショルドを10.32 mVに固定して、H.Vを2.70 kV〜2.90 kVまで0.05 kV刻み で変化させたときのADC分布の変化を測定した。ガスは CO2 、線源は 90S r である。図 22はそのときのADC分布である。ADC分布の立上りの位置は変わらず、H.Vを上げるにつれ、 積分電荷の大きい値にカウント数が増えていくのが確認できる。 5 1 0 1 5 20 25 30 35 40 45 50 55 0. 0 50. 0 1 00. 0 1 50. 0 200. 0 250. 0 300. 0 350. 0 スレッショルド(mV ) m ea n ( pC )

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また、このADC分布の平均値(mean)で評価したハイボルカーブは図23のようになった。 縦軸は積分電荷の平均値(pC)、横軸はH.V(kV)である。 図23 ADC分布の平均値のハイボルカーブ カウント数のハイボルカーブと同様にH.Vを上げるにつれmeanの値も大きくなっていく ので、H.Vを上げると信号の数だけでなく、信号そのものの大きさも大きくなっていくこ とがわかる。 以上で基本的な測定は終了だが、以後、これらのデータは新しい放射線ガス検出器を作 成し、動作確認したときの比較用として使用する。 2. 68 2. 73 2. 78 2. 83 2. 88 0 50 100 150 200 250 300 350 400 450 500 H.V ( kV ) m ea n ( pC )

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3 基板型 TGC

ワイヤーを用いず、壊れにくく容易に作成できる放射線ガス検出器として以下のような 「基板型 TGC」を作成し、動作確認をした。 3-1 基板型 TGC の構造 新く考案した基板型 TGC の断面図は図 24-① である。TGC との大きな違いは、アノード が直径 0.05 mm のワイヤーから長方形(0.035 mm×0.2 mm)の銅のパターンに変わり、基 板に固定されていることである。銅パターンの間隔は 3.0 mm である。TGC の 1.8 mm より も間隔を広げたのは、試作段階なので位置分解能を重視するよりも、製作作業のしやすさ を重視したためである。上のカソード面に変化はないが、下のカソード面にはカーボンが なく、1.6 mm の FR4 を隔てて銅の陰極板が配置されている。下の FR4 の上面から上の FR4 の下面までの距離(ガスギャップ)は 1.4 mm で、ここにガスが充填され、パターンの上 側に形成された電場のみで増幅が行われる。TGC と違い、ガス増幅でできたガスイオンが 下のカソード面で吸収できなくなったことが、図 24-② のようにガスイオンの停滞(イオ ン溜り)をまねき、電場の形状に影響をあたえ、検出効率の低下などの不安定動作を引き 起こす可能性があることが欠点として挙げられる。なお、このガスギャップの距離は自由 に変更できるが、FR4 の厚みの 1.6 mm よりも厚いと、電気力線が下側のカソード面に多く 行ってしまい、ガス増幅でできたガスイオンが溜りやすくなる可能性がある。 図 24-① 基板型 TGC の断面図 図 24-② 基板型 TGC の断面図(イオン溜り)

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作成方法は 3-2 で述べるが、銅パターンは下の FR4 の板に固定されており、このパター ンは鉄やすりで削ってもなかなかとれないくらい頑丈である。よって、一度きれいに作れ てしまえば、慎重に扱わなくてもパターンが切れる心配はない。大きさはテスト用 TGC と 同程度の 10 cm×10 cm で作成した。 また、図 25-① の電場計算をみるとわかるように(オレンジ色の部分が高電場)、ワイ ヤーの電場形成とは違い長方形のパターンの場合は角の電場が高くなる。今の技術的には パターンの長辺の長さが 0.2 mm のものなら容易に作成できるが、同じ電圧の場合、パター ンの角の電場がワイヤーの電場より大きくなることはない。また、図 25-①、②の電場計 算を比較するとわかるように、3.00 kV のワイヤーの電場の大きさと同程度にするために 必要な電圧は 5.00 kV 前後であると予想される。 しかし、今後さらに細く、ワイヤーと同じくらいのスケールにできたならば、角の高電 場により、低電圧での動作が期待できる。 図 25-① パターンのまわりの電場 図 25-② ワイヤーのまわりの電場

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3-2 基板型 TGC の作成方法 ここではこの基板型 TGC の作成方法を説明する。簡単に説明すると、一枚の銅の板のい らない部分を溶かして欲しいパターンを浮かびあがらせるというプリント基板と同様の方 法で作成する。本研究では全て自作した。 まず、特に指定はないが、描像ツールでパターンを描く。今回は OpenOffice の Draw を 使用した。このとき銅を残したい部分を黒くなるようにパターンを描く。それができたら、 図 26 のようにそのパターンを専用の透明なフィルム(今回は Sunhayato のインクジェッ トフィルムを使用)にプリントする。 図 26 フィルムにプリントしたパターン 次に特殊な基板を用意する(今回は Sunhayato のポジ感光基板を使用)。図 27 のよう に保護膜(緑色)、銅(茶色)、FR4(白色)、銅、保護膜の5層構造になっている。こ の保護膜はフォトレジスト特性を持つ特殊な物質でできていて、紫外線を当てると性質が 変化し、現像液につけると溶けるようになる。

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図 27 の①、先ほどプリントしたフィルムを通して感光基板に紫外線を照射すると( Sunhayato の露光ライトボックス MODEL BOX1 を使用)、黒い部分以外は紫外線が保護膜ま でとどいているので溶解性になる。 図 27 の②、そして現像液(Sunhayato のポジ感光基板用現像剤 DP-10)につけると溶け て、欲しい銅パターンの部分だけに保護膜が残った銅の板(図 27)ができあがる。図 28 の左側がパターンの長辺が 0.1 mm で、右側が 0.2 mm になるものである。 図 28 現像後の基板 この時点でどれだけくっきりと保護膜が残っているかが重要であり、ここでうまくいっ てない場合はこの後工夫してもきれいなものはできなかった。フォトレジストペンという 保護膜と同じ役割をするペンがあり、ある程度太いパターンの修正には役立つが、今回の ように 0.2 mm の線は細すぎて使用できない。よって紫外線の照射時間や照射方法を工夫 して、保護膜がきれいに残るようにしなければならない。

図 27 の③、後は銅を溶かす液体(Sunhayato のエッチング液 MODEL H-1000A)にこれを つければ保護膜の部分だけ銅が残り、欲しい銅のパターンが浮かびあがる。 図 27 の④、最後にパターンの上についている保護膜をアルコールなどで拭き取れば完 成である。図 29 が完成図である。 図 29 基板型 TGC の完成図 今回 0.1 mm と 0.2 mm の2つのパターンを作ることができたが、時間の関係上、測定に 使用したものは 0.2 mm パターンのみである。

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3-3 基板型 TGC の動作確認 3-3-1 オシロスコープでの信号の確認 充填したガスは CO2 のみ、線源はストロンチウム 90( 90S r )を使い、4.10 kV で 図 30 のような信号が確認できた。 図 30 基板型 TGC の信号確認 オシロスコープで見た限りでは、H.V を上げると見えている信号の大きさも大きくなり、 線源を取ると信号は見えなくなるので、検出器として動作していることがわかった。 なお、他のパターンすべてから同じような信号が確認できたので、この後の測定では、 そのうちの一本を代表として使用した。 この信号が確認できるまでに回路の見直しや、放電原因の検討があり、この時点でのガ スギャップは 2.80 mm になっている。また、最終的に周辺の回路は図 31 のようになって いる。 図 31 周辺の回路図(アノード読み出し)

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3-3-2 スケーラでの計数率の測定 次に、スケーラで計数率の測定を行ったところ、計数率に大きな時間依存があることが わかった。 測定した計数率の時間依存性①を図 32 に示す。H.V は 4.80 kV、スレッショルドは 20.0 mV、ガスは CO2 、線源は 90S r である。縦軸は 30 秒あたりのカウント数の対数目盛で、 横軸は時間(分)である。 図 32 計数率の時間依存性① これをみると計数率の安定までに数時間を要し、約 14000 カウント~約 300 カウントま で減少している。原因はまだ突き止められてはいないが、3-1 で述べたように、信号を観 測したときのガス増幅によるイオン溜りが原因でチャージアップのようなものがおこり、 アノードワイヤーの電場の形成に影響をあたえ、計数率が落ちているのではないかと予想 できる。 減少した計数率は H.V を落とし、基板型 TGC の掃除しても回復しないが、図 31 の読み 出し部分にある 470 pF のコンデンサーを新しいものと交換すると回復する。 0 100 200 300 400 500 600 1 10 100 1000 10000 100000 時間(分) C ou nt / 30 s

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チャージアップを引き起こす原因として考えられるイオン溜りについて考え、放電回避 のために 2.8 mm に広げていたガスギャップを 1.4 mm に戻し、計数率の時間依存性②の測 定を行った。結果は図 33 のようになった。H.V は 3.50 kV、スレッショルドは 20.6 mV、 ガスは CO2 、線源は 90S r である。縦軸は 30 秒あたりのカウント数の対数目盛で、横 軸は時間(秒)である。 図 33 計数率の時間依性② この場合、計数率の減少が約 70000 カウント~35000 カウントまでと、減少する割合が 計数率の時間依存性①に比べ小さくなっている。また、安定までにかかる時間も短くなっ ている。 計数率の時間依存性①の測定よりも電圧が低いのにもかかわらずカウント数が大きいの は、計数率の時間依存性①の測定のコンデンサーは何度か使用した状態であるのに対し、 計数率の時間依存性②の測定では新しい状態だからである。 減少する割合は小さくなったが、より高い電圧では無視できないほどであり、問題はま だ解決していない。 0 100 200 300 400 500 600 1 10 100 1000 10000 100000 時間(秒) C ou nt / 30 s

(30)

一方で時間をかければ安定するので、安定してから計数率のスレッショルドカーブの測 定をした。結果は図 34 のようになった。H.V は 3.50kV、ガスは CO2 、線源は 90S r 、 スレッショルドは 7.4mV〜375.5mV まで変化させた。縦軸はカウント数の対数目盛で、横 軸はスレッショルド(mV)である。 図 34 計数率のスレッショルドカーブ 特にプラトーらしきものは確認できず、指数関数的にカウント数が減少していくだけで ある。左上が上がっているのは、雑音などを多く観測しているのが原因だと思われる。 さらに、カソード面から読み出しにより計数率の時間依存性③の測定を行ってみた。周 辺の回路図は図 35 のようになっている。 図 35 周辺の回路図(カソード読み出し) 0.0 50.0 100.0 150.0 200.0 250.0 300.0 350.0 400.0 1 10 100 1000 10000 100000 1000000 スレッショルド(mV ) C ou nt / 30 s

(31)

結果は図 36 のようになった。H.V は 3.80 kV〜4.00 kV まで 0.05 kV ずつ変化させ、ス レッショルドは 7.4 mV、ガスは CO2 、線源は 90S r である。縦軸は 30 秒あたりのカウ ント数、横軸は時間(秒)である。 図 36 カソード面からの信号による計数率の時間依存性③ 今までと同じく安定までに時間がかかることがわかるほかに、一部交差している箇所が あるものの、電圧が高いほど計数率の減少幅も大きくなっていることがわかる。 列 C の 3.80 kV が途中で止まっているのは、これ以上測定しても変化がないと判断し、 中断したためである。 0 50 100 150 200 250 300 0 1 0000 20000 30000 40000 50000 60000 70000 80000 90000 1 00000 1 1 0000 1 20000 列 C 列 D 列 E 列 F 列 G 時間(秒) C ou nt / 30 s

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3-3-3 ADC 分布による評価 いまだ動作に問題が残されたままであるが、安定後に ADC 分布をとり、その積分電荷量 の平均値で H.V カーブの評価を行った。読み出しは引き続きカソード面からである。 ADC 分布の代表として 3.30 kV のものをとってきたのが図 37 である。ランダウ分布をし ていることが確認でき、荷電粒子を観測していることがわかる。 H.V カーブは図 38 のようになった。スレッショルドは 7.2 mV、ガスは CO2 、線源 S r 90 はである。縦軸は積分電荷量の平均値(pC)、横軸は H.V(kV)で、3.30 kV~ 3.50 kV まで 0.05 kV 刻みで変化させた。 図 37 ADC 分布 図 38 ADC 分布の平均値の H.V カーブ 図 35 からわかるように印加電圧にしたがって信号の増幅率も大きくなってことが確認 でき、ガス増幅がおこっていることが分かる。 3. 27 3. 32 3. 37 3. 42 3. 47 3. 52 0. 0 2. 0 4. 0 6. 0 8. 0 1 0. 0 1 2. 0 1 4. 0 1 6. 0 1 8. 0 20. 0 H.V ( kV ) m ea n ( pC )

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3-3-4 考察 計数率測定から、ガスギャップが計数率の時間依存に関係していたことがわかる。おそ らく基板側に向かう電気力線が減り、イオン溜りが多少軽減されたのではないかと予想さ れる。よって、今後計数率の時間依存の問題の改善を考えていく上で、イオン溜りを軽減 させることがひとつの手段としてあげられる。 また、ADC 分布測定で、基板型 TGC はテスト用 TGC と比べると積分電荷量は小さいので、 改善の余地がある。

4 まとめ

4-1 作成した検出器 本研究で動作確認を行ったワイヤーを用いない放射線ガス検出器は、ワイヤーを長方形 の銅のパターンにし、基板の上に形成した基板型TGCである。パターンは頑丈であり、慣 れれば2.0 mmパターンは容易に作成できる。 4-2 動作確認の結果 まず計数率の測定においては、時間に依存した信号の計数率の減少がみられ、安定まで 時間がかかる。ガスギャップの変更などにより多少改善はされたが、いまだにこの現象は 取り除けていない。また、電圧が高いほど、減少する幅も大きくなる。 積分電荷量を用いた印加電圧依存の測定では、H.Vを上げるにつれ信号の増幅率も上昇 し、ガス増幅がおこっている。 4-3 今後の課題 ガス増幅率の時間依存の原因究明とともに、それを取り除くような改善が今後の課題で ある。 時間依存が取り除いた後にはいろいろなパターンを作り、パターン太さや間隔などによ る動作の違いを調べ、パターンの最適化を行うことが必要である。 LHC実験に使われている検出器に必要とされる性能として、検出効率の他にもトリガー 検出器として重要な時間分解能と反応時間特性、運動量の弁別、Φ方向座標測定、放射線 耐性などの性能を改良することも重要である。 運動量の弁別の性能とΦ方向座標測定について、LHC実験では磁場で曲げたミューオン の軌跡から運動量を計算するため、TGCは位置分解能の性能が重要となる。具体的には、 Φ方向に2~3 mradの位置分解能で、アノードワイヤーは1 cmオーダーの位置分解能が要 求されるので、新しく考案するガス放射線検出器にも同程度の位置分解能が求められる。 よって、線源を絞るなどして、位置による特性を調べることが必要である。

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参考文献

[ 1] 伊藤悠貴

「New Thin Gap Chamber の開発」

2007 年度卒業論文、信州大学、2008 年 3 月 [ 2] 持山智浩

「改良版 TGC」

2006 年度卒業論文、信州大学、2007 年 3 月 [ 3] 石原千鶴枝

「γ 線と β 線に対する Thin Gap Chamber の動作研究」 2004 年度卒業論文、信州大学、2005 年 3 月 [ 4] 大下英敏 「TGC 量産における検査システムとその評価」 2002 年度修士学位論文、信州大学、2003 年 3 月 [ 5] 坂東隆哲 「ATLAS 実験ミューオントリガー用検出器の中・高速中性子に対する特性の研究」 東京大学大学院 理学系研究科 物理学専攻、2003 年 1 月 [ 6] 戸塚真義 「ATLAS 実験ミューオン検出器用トリガーシステムの現実的シミュレーターの開発研究」 2000 年度修士学位論文、信州大学、2001 年 1 月 [ 7] 田中秀治

「大型陽子・陽子衝突に用いるための Thin Gap Chamber の性能評価」 1993年度修士学位論文、神戸大学、1994年3月

[ 8] 大下英敏

「ATLAS Thin Gap Chamber の中性子に対する動作特性の研究」 2007 年度博士学位論文、信州大学

[ 9] 田中秀治

「アトラス実験ミューオントリガーチェンバーの開発」 KEK 素粒子原子核研究所、2006 年 8 月

[10] F.Sauli

「Principles of operation of multiwire proportional and drift chambers」 CERN、1977

図 1 空から見た CERN の LHC 加速器のトンネル
図 5 TGC の断面図   この2枚のカソード面の間(ガスギャップ)にはガス( CO 2 と n-ペンタンの混合気 体など)を充満させてある。基本的には漏れないように密閉されているが、このガスは常 に循環していて、入れ替わるしくみになっている。   1枚あたりの面積は、ATLAS 実験装置に使われている TGC は約 1.5 m×1.5 m(畳 1 枚く らいの大きさ)で、約 1000 本のワイヤーが張られている。本測定に使用した信州大学に あるテスト用 TGC(図 6)は 10 cm×15 cm に 1
図 7 ワイヤーのまわりに作られる電場(断面図、z 軸は電場の強さ)   2-3 TGC の動作原理(ガス増幅)   粒子検出器というものは基本的には物質と荷電粒子の相互作用によって発生したエネル ギーを検出することで粒子の情報を得ようとするものである。TGC の場合、その物質にガ スを使用していて、これは荷電粒子が物質中を通過する際にエネルギーを失う 3 つの原因、 電離損失、制動輻射、チェレンコフ輻射の内、電離損失を使ったものである。   この TGC に充填されているガスの中を荷電粒子(ミューオン、電
図 8 動作原理(ガス増幅)の図     2-3-1 カソードにカーボンが使われる理由   カソード面は面抵抗の値が重要で、この値が低すぎるとここから信号を読み出す場合は その信号が出ない。逆に高すぎるとガスイオンがここで電子をもらってもとの中性のガス 分子に戻ることができず、ガスイオンが溜ってチャージアップすることにより電場の形成 に影響をあたえてしまい、信号が出なくなる原因のひとつとなる。カーボンの場合、この 面抵抗が適切な値なのである(1 MΩ/□程度)。   またカーボンの仕事関数が高いことも理由の
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参照

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