• 検索結果がありません。

ルートヴィヒ・ベヒシュタイン編著 : 『ドイツ伝説集』(1853)試訳(その十一)

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "ルートヴィヒ・ベヒシュタイン編著 : 『ドイツ伝説集』(1853)試訳(その十一)"

Copied!
102
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

1. ル ー ト ヴ ィ ヒ ・ ベ ヒ シ ュ タ イ ン 編 著『ド イ ツ 伝 説 集』 (一 八 五 三) (略 称 を D S B と す る) の 訳・ 注 で あ る 本 稿 の 底 本 に は 次 の 版 を eu tsc he s S ag en bu ch vo n L ud w ig B ec hs tei n. M it se ch ze hn H olz sc hn itt en na ch Ze ich nu ng en vo n A . E hr ha rd t. Le ip zig , V er lag vo n eo rg W ig an d. 1853.; R ep rin t. N ab u P re ss . 2. DSB所載伝説の番号・邦訳題名・原題は分載試訳それぞれの冒頭に記す。 3.ヤーコプとヴィルヘルムのグリム兄弟編著『ドイツ伝説集』 (略称を DSとする)を参照した場合、次の版を使用。 eu tsc he S ag en he ra us ge ge be n vo n B rü de rn G rim m . Z w ei B än de in ein em B an d. M ün ch en , W in kle r V er lag . 1981. V olls tä nd ig e A us -ga be , n ac h d em T ex t d er d rit te n A ufl ag e v on 1891. なお稀にではあるが、DSの英語訳である次の版(略称をGLとする)も参照した。 e G er m an L eg en ds of th e B ro th er s G rim m . V ol.1/2. E dit ed an d tra ns lat ed by D on ald W ar d. In stit ute for th e Stu dy of H um an

『ドイツ伝説集』

(一八五三)

試訳

(その十一)

 

  

滿

 

訳・注

(2)

Iss ue s. P hil ad elp hia , 1981. 4. D S B 所 載 伝 説 と D S 所 載 伝 説 の 対 応 関 係 に つ い て は、 分 載 試 訳 冒 頭 に 記 す D S B の 番 号・ 邦 訳 題 名・ 原 題 の 下 に、 ほ ぼ 該 当 す る D S の 番 号・ 原 題 を 記 す。 た だ し、 D S B 所 載 記 事 の 僅 か な 部 分 が D S 所 載 伝 説 に 該 当 す る 場 合 は こ こ に は 記 さ ず、 本 文 に 注 番 号 を 附 し、 「DS***に詳しい」と注記するに留める。 5. 地 名、 人 名 の 注 は 文 脈 理 解 を 目 的 と し て 記 し た。 史 実 の 地 名、 人 名 と の 食 い 違 い が 散 見 さ れ る が、 こ れ ら に つ い て は 殊 更 言 及 し な いことを基本とする。ただし、注でこれが明白になる分はいたしかたない。 6. 語 ら れ て い る 事 項 を、 日 本 に 生 き る 現 代 人 が 理 解 す る 一 助 と な る か も 知 れ な い、 と、 訳 者 が 判 断 し た 場 合 に は、 些 細 に 亘 り 過 ぎ る 弊 が あ ろ う と も、 あ え て 注 に 記 し た。 こ う し た 注 記 に お け る 訳 者 の 誤 謬 へ の ご 指 摘、 お よ び、 こ の こ と に つ い て も 注 記 が 必 要、 と い っ たご高教を賜ることができれば、まことに幸いである。 7. 伝説タイトルのドイツ語綴りは原文のまま。 8.本文および注における〔     〕内は訳者の補足である。 『ドイツ伝説集』 (一八五三)試訳(その一)     一──    六〇 所収「武蔵大学人文学会雑誌」第四十四巻第一 ・ 二号 一一七〜二三五ページ、平成二十四年十一月 『ドイツ伝説集』 (一八五三)試訳(その二)    六一──    九〇 所収「武蔵大学人文学会雑誌」第四十四巻第三号 四六三〜五三〇ページ、平成二十五年二月 『ドイツ伝説集』 (一八五三)試訳(その三)    九一──   一三四 所収「武蔵大学人文学会雑誌」第四十四巻第四号 七五〜一七六ページ、平成二十五年三月 『ドイツ伝説集』 (一八五三)試訳(その四)   一三五──   一八四 所収「武蔵大学人文学会雑誌」第四十五巻第一 ・ 二号 一五七〜二八五ページ、平成二十五十一月 『ドイツ伝説集』 (一八五三)試訳(その五)   一八五──   二二五 所収「武蔵大学人文学会雑誌」第四十五巻第三 ・ 四号 九五〜一八〇ページ、平成二十六年三月 『ドイツ伝説集』 (一八五三)試訳(その六)   二二六──   二八八 所収「武蔵大学人文学会雑誌」第四十六巻第一号 二〇九〜三三〇ページ、平成二十六年十月 『ドイツ伝説集』 (一八五三)試訳(その七)   二八九──   三三九 所収「武蔵大学人文学会雑誌」第四十六巻第二号

(3)

一五一〜二四六ページ、平成二十六年十二月 『ドイツ伝説集』 (一八五三)試訳(その八)   三四〇──   三九四 所収「武蔵大学人文学会雑誌」第四十六巻第三 ・ 四号   一〜九八ページ、平成二十七年三月 『ドイツ伝説集』 (一八五三)試訳(その九)   三九五──   四四四 所収「武蔵大学人文学会雑誌」第四十六巻第三 ・ 四号 九九〜一九六ページ、平成二十七年三月 『ドイツ伝説集』 (一八五三)試訳(その十)   四四五──   四八四 所収「武蔵大学人文学会雑誌」第四十七巻第一号 八三〜一七八ページ、平成二十七年十二月 *本分載試訳(その十一)の伝説 四八五 あの犬が埋葬されてるとこ

Wo der Hund begraben liegt.

四八六

樹樹の上の魚たち

Fische auf Bäumen.

四八七

テンネベルク城の白衣夫人

Die weiße Frau auf Tenneberg.

四八八 耳 オ ー ア ・ ド ゥ ル ッ フ を付けた Ohr druff.     *DS12 Die Schloßjungfrau. 四八九 聖 ザンクト ヨハンニス 教 キ ル ヒ ェ 会

Sankt Johannis Kirche.

   

*DS291 Die Altenberger Kirche.

四九〇 アーゾルフェロート Asolverod. 四九一 ル ル タ ー ス ブ ル ン ネ ン ターの泉 Luthersbrunnen. 四九二 悪 ト イ フ ェ ル ス バ ー ト 魔の浴場 と幾つかの 悪 トイフェルスクライス 魔の環

Teufelsbad und Teufelskreise.

四九三 猟 イ ェ ー ガ ー シ ュ タ イ ン 師の記念碑 Jägerstein 四九四 山山の不思議

Die Wunder der Berge.

四九五

赤 デア・ローテ・

ュタイン

(4)

四九六 ハインリクスの魔法 Zauberkünste im Heinrichs. 四九七 酸 す ぐ り 塊 の生け垣 Die Harchelsbeerhecke. 四九八 呪われた村

Das verwünschte Dorf.

四九九

鉱夫と花嫁の話

Von einem Bergmann und einer Braut.

五〇〇 フ フ ァ ー ル ザ ー メ ン ァールの種 Fahrsamen. 五〇一 ホレ夫人と忠実なエッカルト Frau Holle und der treue Eckart.     *DS7 Frau Holla und der treue Eckart. 五〇二 樅 も み の木立 Der Tannenbusch. 五〇三 古城ハレンベルクの話

Vom alten Schloß Hallenberg.

五〇四 エーバース 村 ドルフ とエーバース 地 グ ル ン ト 所

Ebersdorf und Ebersgrund.

五〇五 ガダマールの見た幻影 Gadamars Gesicht. 五〇六 ハーバー 森 ホルツ と 鷹 ファルケンブルク の城

Haberholz und Falkenburg.

五〇七

ヘルマンス

山 ベルク

の騎士たち

Die Ritter des Hermannsberges.

五〇八 冷 デア・カルテ・ブルンネン た い 泉 の 畔 ほとり の蛇

Die Schlange am kalten Brunnen.

五〇九 ルップ 山 ベルク の姫君たち Die Ruppbergs-Jungfern. 五一〇 ライスィゲン 巖 シ ュタイン の話 Vom Reißigenstein. 五一一 神 ゴッテスフェルト の野 の鐘

Die Glocke vom Gottesfeld.

五一二 盗 ラ ウ プ シ ュ ロ ス 賊城 ヘルマンシュタインその他

(5)

五一三 部 カ ン マ ー レ ッ ヒ ャ ー 屋の洞窟群 の 小 ツヴェルク 人 たち

Die Zwerge der Kammerlöcher.

五一四 歌 ジ ン ガ ー ベ ル ク 人の山 の話 Vom Singerberge. 五一五 歌 ジ ン ガ ー ベ ル ク 人の山 城 を 呪 じ ゅ そ 詛 したルター博士

Doktor Luther verwünscht das Singerberger Schloß.

五一六 パウリーナの 庵 いおり Paulinaʼs Zelle. 五一七 パウリーナの労賃支払いの 奇 き せ き 蹟

Paulina lohnt die Arbeiter wundersam.

五一八

教会の列柱と悪魔

Die Kirchensäulen und der Teufel.

五一九

黒騎士ヴィッテキント

Wittekind, der schwarze Ritter.

五二〇 グ グ ラ イ フ ェ ン シ ュ タ イ ン ライフの巖 Der Greifenstein. 五二一 ブランケンブルクの修道士

Der Mönch auf Blankenburg.

五二二

危険な担保

Das gefährliche Pfand.

五二三

愚かな楽士たち

Die thörichten Musikanten.

五二四 癒 ハ イ ル ス ベ ル ク やしの山 Heilsberg. 五二五 死者が見える女 Die Todtenschauerin. 五二六 朝 ちょうさん 餐 Das Frühmahl. 五二七 首 縊 く く りの 柏 アイヒェ Die Hange-Eiche. 五二八 男 ヴ ァ ッ サ ー マ ン の水の精 Der Wassermann.     *DS49 Der Wassermann. 五二九 グロースヴィッツの 取 ヴ ェ ク セ ル バ ル ク 替え子

Der Wechselbalg zu Großwitz.

五三〇

鰊 ヘーリングスメンヒェン

(6)

五三一

教会と橋が同価格

Kirche und Brücke ein Geld.

五三二

髭 ひ

の生えた乙女

Die Jungfrau mit dem Bart.

   

*DS330 Die Jungfrau mit dem Bart.

五三三

ザールフェルトの女子修道院

Das Nonnenkloster zu Saalfeld.

五三四 銀の 風 オ ル ガ ン 琴

Die silberne Orgel.

五三五 神の 御 み て 手 Gottes Finger. 五三六 授かった幸運 Das bescheerte Glück. 五三七 小 こ ね ず み 鼠 Das Mäuselein.     *DS248 Das Mäuselein. 五三八 寡 か ふ 婦 の呪い

Der Fluch der Wiwe.

五三九 荒 デ ィ ・ ヴ ィ ル デ ・ ベ ル タ れ狂うベルタ

Die wilde Bertha.

   

*DS269 Die wilde Berta kommt.

五四〇

頭に刺さった

斧 お

Das Beil im Kopfe.

五四一

ホーエンヴァルトの半分こ

Halbpart auf der Hohenwart.

五四二 疫 ヒ ュ ン シ ュ ヒ ェ ン 病神どん Hünschchen. 五四三 ヴェレ夫人 Frau Welle. 五四四 ザ ザ ー ル ニ ク セ ー レ 川 の 女 の 水 の 精 た ち Die Saalnixen.      

*DS53 Der Wassemann an der Fleischerbank. / *DS60

Die Elbjungfer und das Saalweiblein. / *DS65 Vor der Nixen hilf

(7)

四八五   あの犬が埋葬されてるとこ ヴ ィ ン タ ー シ ュ タ イ ン (1 ( に は あ の 犬 が 埋 葬 さ れ て い る。 ヴ ィ ン タ ー シ ュ タ イ ン と は イ ン ゼ ル ベ ル ク の す ぐ 傍 に あ る 村 で、 エ ム ゼ 川 が 貫 流 し て い る。 以 前 こ こ に は た く さ ん の 鉱 夫 も 住 ん で い た し、 ヴ ァ ン ゲ ン ハ イ ム の 殿 た ち の 山 城 も あ っ た。 こ れ は 現 在 廃 は い き ょ 墟 に な っ て い る が、 他 に ま だ 同 家 の 城 が 三 つ 存 在 す る。 こ の 殿 た ち の 一 人── そ の 先 祖・ 後 こ う え い 裔 の ほ と ん ど 全 て と 同 じ く ゴ ー タ 公 (2 ( の 主 イェーガーマイスター 猟 官 だ (3 ( っ た── は 大 層 頭 が 良 く か つ 忠 実 な 犬 を 持 っ て い た。 そ の 名 は シ ュ ト ゥ ッ ツ ェ ル。 ヴ ァ ン ゲ ン ハ イ ム の 殿 が 亡 く な っ て か ら も、 長 い 間 未 亡 人 は こ れ を 飼 っ て い た。 シ ュ トゥッツェルは 頗 すこぶ る気が利き 怜 れ い り 悧 だったので、 頸 く び わ 環 に手紙を結びつけてもらうと、たった独りでゴータなるフリー デンシュタイン 城 (4 ( へ歩いて行き、返書を携えて戻って来た。そこでゴータの飛脚はヴィンターシュタイン経由の道 を 辿 た ど らずに済んだしだい。ヴァンゲンハイムの未亡人はシュトゥッツェルを殊の外可愛がっていたので、この犬が と う と う 大 自 然 に 年 貢 を 納 め る〔= 死 ぬ〕 と、 柩 ひつぎ に 入 れ さ せ、 傷 い た ま し く 涙 を 流 し、 召 使 い 一 同 に も、 共 に 泣 い て 欲 し い、 と 望 ん だ。 召 使 い た ち は 女 主 人 と シ ュ ト ゥ ッ ツ ェ ル が や は り と て も 好 き だ っ た の で、 善 良 な 犬 を 偲 し の ん で 思い切りわあわあ嘆き悲しんだ。ただし、年老いた女料理番は別で、これは北欧神話で 女 イ ェ ッ テ 巨人 トゥクがバルドゥー ル (5 ( を「乾 い た 目」 で 悼 ん だ よ う な 泣 き 方 を し た〔= 泣 か な か っ た〕 。 そ こ で 女 主 人 は か ん か ん に 怒 り、 女 料 理 番 に は 他 の 召 使 い が 頂 ちょうだい 戴 し た 喪 服 を 与 え な か っ た。 け れ ど も や が て 彼 女 が 厨 ちゅうぼう 房 に 入 る と、 女 料 理 番 が 玉 た ま ね ぎ 葱 を 刻 ん で い て、そのせいで涙を流していた。そこで女主人はおろおろして「おやまあ、おまえも好い子のシュトゥッツェルの ために泣いているのかい。それならおまえにも喪服をあげるよ」と言った。料理番の 婆 ば あ さんは涙を流しながらにん

(8)

まりして、否定はしなかった。──さてヴァンゲンハイム令夫人は、シュトゥッツェルは儀式に 則 のっと って埋葬されな くてはいけない、それもきちんと 神 ゴ ッ テ ス ア ッ カ ー の土地 〔=教会墓地〕に、との意向だったが、城へやって来た牧師いわく「奥 方様、それはしかるべきことではござりませぬ。神の土地はキリスト教徒のためのもので、犬のためのものではあ り ま せ ぬ。 わ た く し は ユ ダ ヤ 人 で す ら か し こ に は 埋 葬 つ か ま つ り ま せ ぬ」 。──「あ ら、 そ う」 と ヴ ァ ン ゲ ン ハ イ ム 主 猟 官 未 亡 人。 「し か る べ き こ と で は な い、 と お っ し ゃ る。 そ り ゃ ま あ 残 念 で す わ。 あ の シ ュ ト ゥ ッ ツ ェ ル は 全 然犬なんかじゃありませんでしたよ。人間同様の分別の持ち主でした。あの子は遺言状を作っておりましてね、そ の 中 で あ な た の 教 会 に 百 タ ー ラ ー 遺 贈 し て い ま す し、 注 ノ タ ベ ネ 意 書 き で、 も し 教 会 墓 地 に ち ょ っ ぴ り 地 面 を 割 い て く だ さ っ た ら、 あ な た ご 自 身 に 五 十 タ ー ラ ー 差 し 上 げ る と の こ と。 さ も な け れ ば 一 文 も、 で す け ど」 。「そ う な り ま す と、 奥 方 様、 も ち ろ ん 話 は 別 で ご ざ り ま す。 な に せ 教 会 は し ご く 貧 乏 で し て」 と 牧 師 は 応 じ た。 「さ よ う さ、 あ の 善良な信心深いシュトゥッツェルなあ。あれは人間のように大層物分かりがようござったで、人間が魔法に掛けら れてああなっていたのかも知れませぬて。さあて──考えまするに──教会墓地のどこか隅っこをな。わたくしぜ ひ と も 奥 方 様 の お 役 に 立 ち と う 存 じ ま す る の で」 。 か く し て 厳 か な 葬 儀 が 執 り 行 わ れ、 下 僕 た ち も 下 女 た ち も 全 員 喪服を 纏 ま と って、犬の柩の 後 し り えに 随 つ き従った。しかしこれには教区民がぶつぶつ言い出し、 界 か い わ い 隈 の土地に 噂 うわさ が広まっ た。ヴィンターシュタインの者を見掛けると、人人はげらげら笑っておちょくった──そうでなくたってテューリ ン ゲ ン 人 は 嘲 ちょうろう 弄 好 き。 「お い お い、 お め え っ ち の ヴ ィ ン タ ー シ ュ タ イ ン じ ゃ あ あ の 犬 が 三 カ ー ジ ヒ 昧 場 ( 教 キ ル ヒ ホ ー フ 会 墓 地 ) に 埋 め ら れ て る っ て な あ (6 ( 」。 そ こ で こ と は 君 侯 の 御 前 に ま で 達 し、 君 侯 は 大 層 ご 不 ふ き ょ う 興 に お な り あ そ ば す。 更 に 一 件 は ゴ ー タ公国 宗 コ ミ ッ シ オ ー ン 教局委員会 に持ち出され、かの牧師は職務上の事情聴取に喚問された。牧師は、貧寒を 託 か こ つ教会のために よかれ、と考えて認可つかまつりました、と陳述したが、そうした言い訳は何の役にも立たなかった。牧師は 譴 け ん せ き 責

(9)

され、シュトゥッツェルは教会墓地から掘り出された。ヴァンゲンハイムの奥方が喜捨した 金 き ん す 子 を返してもらった かどうか、なんとも疑わしい。自身この話を語ったヴァンゲンハイムのさる殿はそれについては何もご存じなかっ た。ヴァンゲンハイム主猟官未亡人はシュトゥッツェルを再度埋葬させたが、それは城の庭にだった。そして思い 出 の よ す が と し て 石 碑 を 建 立、 忘 れ ら れ な い シ ュ ト ゥ ッ ツ ェ ル の 俤 おもかげ を あ り し 日 そ の ま ま に 刻 ま せ た。 シ ュ ト ゥ ッ ツ ェ ル の 不 朽 の 美 徳 を 後 世 に 伝 え る 立 派 な 銘 文 も 記 さ れ た。 そ し て 今 日 な お こ ん な 文 句 が 聴 か れ る。 ヴ ィ ン タ ー シュタイン──あの犬が埋葬されてるとこねえ。 四八六   樹樹の上の魚たち テ ュ ー リ ン ゲ ン 山 ヴ ァ ル ト 地 縁 辺 に 位 置 す る 住 み 心 地 の 好 い 都 市 ヴ ァ ル タ ー ス ハ ウ ゼ ン (7 ( ── ラ イ ン ハ ル ツ ブ ル ン 修 道 院、 シ ュ ネ プ フ エ ン 谷 タール お よ び イ ン ゼ ル ベ ル ク か ら 程 遠 か ら ぬ── は そ の 極 め て 古 い 都 市 紋 章 と し て 三 本 の 樹 の 上 に 鯉 こ い を 一匹描いている。昔同市の上手、シュトレーメルベルク山麓に向いた 森 ヴ ァ ル ト ト ー ア の門 の外に美しい泉があり、市中へ導水さ れ て い た。 と こ ろ が あ る 日 こ の 泉 が 恐 ろ し い 激 流 を 迸 ほとばし ら せ た の で、 市 と そ の 周 辺 全 域 は す っ か り 水 浸 し に な っ た。 だ れ も か れ も 震 え 上 が っ た。 な に し ろ 多 く の 家 で 水 が 一 階 ま で 充 満 し て お り、 中 に は 上 じょうおく 屋 が な い 家 も あ っ た か ら、 まことに由由しい事態だったのだ。洪水が引くと、魚がいろいろ見つかった。樹樹の上に鯉だの 鰻 うなぎ だの 鱒 ま す だのがい た。そこで、この洪水を幾久しく記憶しようと、樹樹の上の鯉を市の紋章兼象徴と定めたしだい。こうした水難が 再び起こらないように──なにしろ泉は相変わらず 滔 と う と う 滔 と水を噴き出していたから──市参事会はラインハルツブ ルンのある修道士に来てもらって、泉を封じさせた。修道士は山の手へ上がって行き、 天 ビ ロ ー ド 鵞絨 の上着だか僧衣だか

(10)

の袖を泉に突っ込んで、なにやら呪文を唱えた。すると泉からの水流はぴたりと止まった。その場所は今日に至る まで 天 ザ ム ト エ ル メ ル 鵞絨袖 ないし 僧 クッテンエルメル 衣袖 と呼ばれている。さて袖が水を一滴たりとも流さなくしたので──まことに知恵はなか なか回らぬもの──、その後市当局はヴァールヴィンケル村と交渉、 樅 も み の市有森の一部と村の小川とを交換し、こ れを市へ導水した。市当局は聡明だったわけ。さもなければヴァルタースハウゼンは水 飢 き き ん 饉 に陥り、同地産の上物 麦 ビ ー ル 酒 も醸造されなかったであろう。 四八七   テンネベルク城の白衣夫人 ヴァルタースハウゼン市のすぐ向こう側にテンネベルク城がある。 楽 デ ア ・ フ ロ イ デ ィ ゲ 天方伯 フリードリヒが生まれたばかりの息 女 を 連 れ て 行 き、 洗 礼 を 受 け さ せ た と こ ろ で あ る(D S B 四 六 九) 。 こ の 城 は 方 伯 ア ル ブ レ ヒ ト の 子 息〔= ア ピ ッ ツ〕 も〔そ の 母〕 ク ン ネ〔= ク ニ グ ン デ〕 ・ フ ォ ン・ ア イ ゼ ン ベ ル ク か ら 受 け 継 い で 暫 しばら く 所 有 し て い た が、 ま も な く明け渡さざるを得なくなった。テンネベルク城には白衣を着た女性の姿の幽霊が 徘 は い か い 徊 する。これはしばしば小さ い明かりを見掛けることのある塔から出て来て、部屋部屋を通り抜け、片手を頭に── 被 か ぶ っているはずの冠か何か を 摑 つ か もうとするかのように──挙げ、それから探るように床に目を落とす。かつて一人の貴婦人が堂堂たる伴回り と共に城へ到着、滞在したのだが、戸外へ足を踏み出すことは二度と再び許されなかった。彼女の居場所は例の塔 で、白い長衣を 纏 ま と っていた。一体どこのだれなのか、全く分からなかった。イングランド王ヘンリーの亡くなった とされた 妃 きさき アンナ──生まれはクレーフェの公 女 (8 ( ──だ、との好い加減な噂が流れただけである。本物の王妃アン ナではなく、アンナだと自称する別人で、だからこそ幽閉されているのだ、と唱える者もあった。もっとも、女性

(11)

が そ ん じ ょ そ こ ら の 女 詐 欺 師 な ら、 そ ん な に 大 騒 ぎ せ ず、 は た き を 渡 し〔= 公 衆 の 面 前 で 笞 む ち 打 ち (9 ( 〕、 国 外 追 放 処 分 に し た だ ろ う、 と い う の が 大 方 の 意 見 だ っ た。 女 性 が 王 妃 で あ る に せ よ な い に せ よ、 真 相 は 明 る み に 出 な か っ た。 しかし、彼女は辛い目に遭わされ、監視され、気が触れてしまい、悪魔が彼女を責め 苛 さいな み、ひどく苦しめ、とうと う彼女は 囚 と ら われたまま死んだのである。そこで今彼女は白衣夫人となり、ほとんど荒廃した城内の、昔の狩猟の絵 と古ぼけたがらくたで一杯の広い部屋部屋をさまよい歩き──失われた王冠を探している。 四八八   耳 オ ー ア ・ ド ゥ ル ッ フ を付けた ヴァルタースハウゼンから遠からぬところにオーアドゥルフの 町 ((1 ( がある。町の向こう側には城山もあるが、城は と っ く に な く な っ て い る。 城 山 の 麓 で は ヘ ー ア リ ン グ ス 泉 ブルンネン (綴 り は Herlings- あ る い は Hörlingsbrunnen ) が 湧 き 出ている。時折 真 ま ひ る ど き 昼刻 に大きな鍵束を提げた白衣の乙女が城山からヘーアリングスブルンネンに降りて来て、泉で 沐 も く よ く 浴 し、また城山へ上がって行く。どういう条件で乙女が救済されるかはだれも知らない。この悪い 噂 うわさ の場所にさ しかかると、それだけでもう体がぞくぞくする。土地の衆はよく妖怪 変 へ ん げ 化 を見掛けるが、黙って避ける。峡谷には テューリンゲンに発する急流オーレが流れている。水源は遙か高みのオーバーホーフの近くである。昔この周辺は 水 が 不 足 だ っ た。 あ る 時 さ る 修 道 士 が 僧 衣 を 纏 ま と っ て 山 に 登 っ た。 修 道 士 は 占 ヴュン シ ェルルーテ い 棒 を ((( ( 携 え、 探 し た。 棒 が ぴ く っ と 動いたので、そこの地面に片方の 耳 オーア を 付 ド ゥ ル ッ フ けた ところ、地下で泉が流れている音が聞こえた。そこで掘って、オーレ の水源に日の目を見せたというわけ。 この界隈へボニファチウス──テューリンゲンの使徒──が布教に来て、住民を改宗させ、土地と森を授けられ

(12)

た。大天使ミカエルが大いなる光輝に包まれてオーレ川の川辺で聖者に顕現し、使命を続けるよう鼓舞した。 荒 こうりょう 寥 とした森林で聖者とその伴人たちは全く食糧が不足していたのだが、オーレ河畔で一人の漁師が彼に食べ物を提供 した。そこで聖者はオーアドゥルフに大天使ミカエルのために教会と修道院を建立して奉献した。これらは九〇九 年フン族によって破壊されたが、後に更に立派に再建された。 四八九   聖 ザンクト ヨハンニス 教 キ ル ヒ ェ 会 聖 者 ボ ニ フ ァ チ ウ ス は 当 初 オ ー レ 河 谷 と テ ュ ー リ ン ゲ ン の こ の 地 域 に 滞 在、 そ れ か ら 足 を 伸 ば し て ア ル ン シ ュ タ ッ ト ((1 ( 、 エ ア フ ル ト、 ザ ル ツ ァ、 ラ ン ゲ ン ザ ル ツ ァ、 ト ー マ ス ブ リ ュ ッ ク、 フ ァ ル グ ー ラ、 ト レ フ フ ル ト、 ク ロ イツブルク、ザルツンゲン等でキリストの教えを説き、教会や修道院を建立したので、最初彼が小さい教会を造っ たのはアルテンベルク山頂で、 聖 ザンクト ヨハンニスを顕彰して奉献したとのことである。そこへ大勢の民衆が引きも切ら ず に や っ て 来 る よ う に な っ た。 そ う な る と 小 さ な 堂 宇 で は 夥 おびただ し い 信 仰 告 白 者 を 収 容 で き な か っ た か ら、 か の 敬 け い け ん 虔 な お 人 は 戸 外 へ 出 て 説 教 し た。 す る と と こ ろ が、 数 え 切 れ な い 大 おおがらす 鴉 小 鴉 の 群 れ が 寄 り 集 ま り、 説 教 者 の 言 葉 を 搔 か き 消 す ほ ど、 こ や つ ら の 流 儀 で ぎ ゃ あ ぎ ゃ あ 啼 な き 交 わ し た。 そ こ で ボ ニ フ ァ チ ウ ス は 諸 も ろ て 手 を 差 し 伸 べ て、 鳥 た ち を 追 い 散 ら し て く だ さ る よ う、 神 に お 願 い し た。── と、 た ち ど こ ろ に 群 れ は 舞 い 上 が っ て 飛 び 去 り、 聖 ザンクト ヨ ハ ン ニ ス 教 キ ル ヒ ェ 会 が 建 っ て い る 限 り、 こ の 種 の 鳥 は つ い ぞ 見 掛 け ら れ な く な っ た。 さ て、 教 会 の 周 囲 は 最 初 の キ リ ス ト 教 徒 た ち の 埋 葬 地 に も な っ た。 し か し や が て、 山 登 り し た り、 死 者 の 亡 な き が ら 骸 を 高 み へ 運 ん だ り す る の が 重 重 難 儀 に な ると、建物が壊れかけて来たこともあって、人人はこの小教会を解体、石材や 梁 は り の材木を運び下ろして、アルテン

(13)

ベ ル ク 村 が 建 設 さ れ て い た 山 麓 に 建 て 直 し た。 と こ ろ が 翌 日 に な る と、 何 も か も な く な っ て い る こ と が 再 三。 教 会 は 元 の 場 所 に ち ゃ ん と 組 み 立 て ら れ て 戻 っ て い た。 聖 ザンクト ヨ ハ ン ニ ス 教 キ ル ヒ ェ 会 は 谷 間 に い た く な か っ た の で あ る。 そ こ で こ れ は そ の ま ま 置 い て お く こ と に し て、 山 麓 に── と は 申 せ こ れ も 充 分 高 い 位 置 だ っ た が ── 村 を 見 下 ろ す 新 し い 教 会── 聖 ザンクト イ マ ヌ エ ル 教 会 と 呼 ば れ る── が 建 立 さ れ た。 永 劫 の 流 れ で あ る 時 の 経 つ 内 に と う と う ヨ ハ ン ニ ス 教 キ ル ヒ ェ 会 に は 詣 も う で る 人 も な く な り、 建 物 は 高 い 山 さ ん て ん 巓 に 吹 き 荒 す さ ぶ た び た び の 嵐 に 敗 退、 僅 か な 遺 構 を 除 い て 跡 形 も な く な っ た。 あ る 日 の こ と、 一 人 の 木 き こ り 樵 が 大 層 な 老 樹 の 下 枝 に 極 め て 古 め か し い 鍵 が ぶ ら さ が っ て い る の を 見 つ け た。ヨハンニス 教 キ ル ヒ ェ 会 の鍵だった。その後ある信心深い木樵の発議で山上に高い 燭 しょくだい 台 〔型記念碑〕が設けられること になった。これはボニファチウスの記念碑かつこの地域における彼の教化活動の思い出としてお祭り騒ぎで奉献さ れ、 キ リ ス ト 教 三 宗 派 の 聖 職 者 ら が 麗 し く も 同 は ら か ら 胞 と し て 宥 ゆ う わ 和 し、 も ろ と も に 祝 福 し た。 燭 台 は い ま だ に 建 っ て お り、 テ デ ア ・ テ ュ ー リ ン ギ ッ シ ェ ・ カ ン デ ラ ー バ ー ューリンゲンの燭台 と ((1 ( 呼ばれる。周辺の土地から遠望できる。 四九〇   アーゾルフェロート オーアドゥルフから行程数時間、アルンシュタットの後方半時間ほどのところにケーフェルン 城 ブルク があった。昔こ こにジッツ ォ ((1 ( という名の 敬 け い け ん 虔 な伯爵が住んでいた。アルテンベル ク ((1 ( 周辺の森林区域までを所領としていた。かれは 聖 ザンクト ヨ ハ ン ニ ス 教 キ ル ヒ ェ 会 の 後 背 地 に こ れ ま た 小 さ な 教 会 を 建 立、 聖 者 ゲ オ ル ク に 奉 献 し た。 こ れ が あ っ た 場 所 を 森 暮 ら しの人たちは今日に至るまでジンゲルゲンと呼んでいる。かつてマルク伯にしてベルクの殿エーバーハル ト ((1 ( はケー フェルンブルクを訪ねて──これは先にDSB一〇七で記した──ジッツォ伯、伯の奥方ギゼラおよび伯夫妻の子

(14)

息ハインリヒ、ギュンターとともに信仰 篤 あ つ いもろもろの事業についてまことに多くのことを語り合った。エーバー ハ ル ト は 巡 礼 と し て 懺 ざ ん げ 悔 行 の 途 次 に あ り、 騎 士 と し て の 華 飾・ 体 面 を 悉 ことごと く 棄 て 去 っ て い た の で あ る。 ジ ッ ツ ォ と エ ー バ ー ハ ル ト は ア ル テ ン ベ ル ク 山 頂 の ゲ オ ル ゲ ン 教 キ ル ヒ ェ 会 を ど こ か の 谷 に 移 し、 そ の 傍 に 修 道 院 を 建 て よ う と 意 見 が一致し、ラインハルツブルン修道院の所在地と同様こよなく美しい谷を見つけた。この谷はゴータとエアフルト に向かって平地が開けており、山山や森林に気持ちよく囲まれ、敬虔な師父がたのためにこの上なく素晴らしい養 魚池を幾つも作れ る ((1 ( 愉快なせせらぎが貫流していた。アーゾルフなる男が既にここを開墾、耕作できるようにして いたから、この新開拓地はその名に 因 ち な んでアーゾルフェロー ト ((1 ( と呼ばれたが、 聖 ザンクト ゲオルゲン 教 キ ル ヒ ェ 会 が谷に降りて来る ──これはアルテンベルクを去るのを 聖 ザンクト ヨハンニス 教 キ ル ヒ ェ 会 みたいに 厭 い や がりはしなかった──と、ゲオルゲン 谷 タール という 名称の方が専らになった。さて修道院はシトー会派修道士たちに占められ、エーバーハルトが初代修道院長になっ た。しかしやがてこうした地位は彼にとって高過ぎる、 僭 せんじょう 上 過ぎると思われるようになったので、辞任して修道院 を去り、シャンパーニュのモリモン修道院で牧人となっ た ((1 ( 。一方ゲオルゲンタール修道院はラインハルツブルンと 並んでテューリンゲン有数の修道院の一つとなったが、現在は四囲の壁と立派な養魚池を除き修道院の大半が無く なっている。とはいえまことに壮麗な場所ではある。昔の修道院の壁に囲まれた敷地内にはどうやらかつての礼拝 堂 の 名 な ご り 残 と 覚 し き も の が 小 さ な 穀 物 倉 と な っ て い る。 こ の 建 物 に は 技 巧 を 凝 ら し た ゴ シ ッ ク 様 式 の 薔 ば ら 薇 型 窓 (11 ( が あ る。巷説によれば、この窓の円周はエアフルト大聖堂の巨鐘「 栄 マ リ ア ・ グ ロ リ オ ー サ 光ノまりあ 」の円周と正確に一致する由。薔薇の 下には莫大な財宝が埋められている、さよう、 薔 ス ブ ・ ロ ー ザ 薇ノ下 ──神秘の薔薇の封印の下。現在のゲオルゲンタール教会 はかつての修道院の羊小屋に過ぎないそうな。昔の教会は何ら跡を 留 と ど めていない。富裕だった修道院をかの農民戦 争が 劫 ごうりゃく 略 かつ破壊したのだ。

(15)

四九一   ル ル タ ー ス ブ ル ン ネ ン ターの泉 ゲ オ ル ゲ ン 谷 タール か ら 上 か み て 手 へ 遡 さかのぼ る こ と 一 時 間、 同 じ 谷 合 い に 家 数 の 多 い 大 き な 村 タ ン バ ハ (1( ( が あ る。 そ の 近 く に は 地 域 伝 説 が ま こ と に 夥 おびただ し い。 こ こ に は か つ て ほ ぼ 全 て の 巖 い わ や ま 山 の 頂 き に 小 城 が あ っ た。 そ の 名 は 森 ヴァルデンフェルス の 巖 、 鴉 クラーエンブルク 砦 、 高 ホ ー エ ヴ ァ ル テ き 物 見 、 鷹 ファルケン シ ュタイン の 巖 。 フ ァ ル ケ ン シ ュ タ イ ン 城 か ら は〔城 主 の 盗 賊〕 騎 士 が 身 代 金 を 支 払 え な か っ た 虜 と り こ 囚 を 突 き 落 とし、その血が飛び散って巖肌の白い花を濡らし、花は紅く染まった。これは今日 血 ブ ル ー ト ネ ル ケ ン 染め撫子 と呼ばれている。こ こ で は か つ て 山 の 幸 さ ち 〔= 鉱 産 物〕 も 豊 か だ っ た。 も っ と も 現 在 は 涸 こ か つ 渇 し て い る。 こ こ に は 至 る と こ ろ 素 晴 ら し い 泉、 湧 き 水 が あ る。 ル タ ー 博 士 が 一 五 三 七 年 シ ュ マ ル カ ル デ ン (11 ( で 諸 侯 会 議 に 列 席 し て い た 折、 ひ ど い 病 状 を 発 症 (11 ( 、 あわや死ぬかと危ぶまれるまでになった。そこで彼はどうしても家族の 許 も と に帰りたい、と言い出した。そこでザク セン選帝 侯 (11 ( は自分の馬車、 輓 ば ん ば 馬 、 扈 こ じ ゅ う 従 を与えた。レンシュタイクまで長い登り坂で、頂きに 薔 ロ ー ゼ ン ガ ル テ ン 薇の園 という平地が あ り、 そ れ か ら ま た 谷 へ と 降 る の だ が、 ル タ ー は 灼 や け る よ う な 渇 き を 覚 え、 (旧) 道 の 近 く に あ る 泉 の 畔 ほとり で 馬 車 を 止めさせた。この水を飲むととても楽になったので、タンバハの 旅 は た ご や 籠屋 に着いたルターは炭を手に取り、壁にこう 記 し た。 「た ん ば は ハ 我 ガ ぷ に え る── ヤ コ ブ が 神 と 格 闘 し た 地 の 名── ナ リ。 カ シ コ ニ テ 主 シ ュ ハ 我 ニ 現 レ タ モ ウ。 M・ L ・ (11 ( 」。 こ れ は 長 い こ と そ の 家 に 残 っ て い た。 そ し て ル テ ル ス が 水 を 飲 ん で 恢 か い ふ く 復 し た 泉 は 今 日 な お ル ル タ ー ス ブ ル ン ネ ン タ ー の 泉 と呼ばれている。 あの 界 か い わ い 隈 の山山の胎内は極めて水が豊かだ、と信じられているので、巷間このように伝えられている。エアフル ト で は 毎 年 シ ュ ペ ア 丘 ヒューゲル (海 抜 二 七 三 九 メ ー ト ル) の た め に、 胎 内 を 開 き ま せ ん よ う に、 と 祈 り が 捧 げ ら れ る の だ、

(16)

と。なにしろ、いつかそうしたことが起こるだろう、という古い言い伝えと予言があるとか。──もしそんなこと に な っ た ら、 厖 ぼ う だ い 大 な 水 量 が ヴ ェ ー デ ル 川 バ ハ に 流 れ 落 ち、 更 に ア プ フ エ ル シ ュ テ ッ ト 川 に 入 る。 こ の 川 は オ ー レ 川 に 合 流 し て コ ラ ー 川 に な る。── さ て こ の コ ラ ー 川 だ が、 こ れ は そ う で な く て も 時 折 激 流 と な り、 ご ろ ご ろ と 転 石 を 押 コ レ ル ン し流し 、狂暴になる代物だから、ましてこんな事態となれば、ゲラ川にどっと流入して、エアフルト一帯を広範 囲に 亘 わ た って水浸しにしてしまう。そういうしだいでエアフルトでは 永 え い だ い ミ サ 代弥撒 が執り行われ、絶えずシュペアヒュー ゲルのために祈りが捧げられるのであって、同地の 聖 ザンクト ペトリ修道院にはその謝礼として一区画の森が寄進されたの だ 云 う ん ぬ ん 云 。なお、シュペアヒューゲルの長い尾根全体に古いレンヴェー ク (11 ( が延びている。 四九二   悪 ト イ フ ェ ル ス バ ー ト 魔の浴場 と幾つかの 悪 トイフェルスクライス 魔の環 レ ン ヴ ェ ー ク は シ ュ ペ ア 丘 ヒューゲル か ら テ ュ ー リ ン ゲ ン 山 ヴ ァ ル ト 地 の 脊 せ き り ょ う ぶ 梁 部 伝 い に 途 切 れ る こ と な く 延 び て い る。 一 方 は イ ン ゼ ル 山 ベルク 方 向 へ、 他 方 は ベ ー ア 山 ベルク 方 (11 ( 向、 シ ュ ネ ー コ プ フ 峰 (11 ( 近 傍 へ と。 ハ ー ル ツ 山 地 の 最 高 峰 ブ ロ ッ ケ ン の 頂 き 同 様、 シ ュ ネ ー コ プ フ の 頂 き も 悪 魔 の 居 場 所 で あ り、 〔 悪 ト イ フ ェ ル ス 魔 の 〕 遊 シ ュピールプラッツ び 場 、 運 トゥルンプラッツ 動 場 、 駈 ト ゥ ン メ ル プ ラ ッ ツ け っ こ 場 と 呼 ば れ る と こ ろ が あ る。 悪魔は神に呪われた遊び地獄〔= 博 ば く ち ば 奕場 〕の浴場の一つであんまりかっかとなり過ぎると、ちっと涼もうかい、と シ ュ ネ ー コ プ フ 山 上 の 悪 ト イ フ ェ ル ス バ ー ト 魔 の 浴 場 に (11 ( や っ て 来 る。 そ れ か ら 人 間 社 会 の 環 サークル が も は や お 気 に 召 さ な く な る と、 こ こ の 悪 ト イ フ ェ ル ス ク ラ イ ス 魔 の 環 へ (11 ( と 登 っ て 来 る。 こ こ だ と 悪 魔 は 頗 すこぶ る 居 心 地 が 良 く、 通 る 旅 の 衆 を か ら か い、 た ぶ ら か す。 悪 魔 で 間 に 合 わ な い と な る と、 シ ュ ネ ー コ プ フ 峰 か ら ほ ん の 半 時 間 ほ ど 下 っ た と こ ろ に あ る シ ュ ミ ュ ッ ケ (1( ( に 鎮 座 ま し ま す か の 太っちょの縮れ毛 頭 (11 ( ──シュミュッケの誉れ、表看板──が悪魔に負けず劣らず人をおちょくるのだ。シュミュッ

(17)

ケには若駒牧場がある。ある裕福な田舎者が飛び切りすてきな子馬をここに預けていた。しかし不幸に 弄 もてあそ ばれると なるとねえ。──馬を検分しにこの御仁がここへ登って来た折も折、馬はいなくなって、どこにも見つからないと い う 始 末。 さ て こ そ 一 大 事、 男 は も う 無 我 夢 中、 馬 を 探 し に 自 分 も 森 の 中 を 走 り 回 っ た。 「悪 魔 の 野 郎 め、 あ れ を ど こ へ や っ た。 悪 魔 の 野 郎 め、 あ れ を ど こ へ や っ た。 」 と 呟 つぶや き な が ら。 そ う し て い る 内 に 知 ら ず 知 ら ず 悪 ト イ フ ェ ル ス バ ー ト 魔 の 浴 場 の縁に出た。するとなんと──悪魔の野郎が馬をそこへ突っ込んでいた。下半身のそのまた半ばが外へ出ているだ け。馬の持ち主はかわいそうにびっくり仰天、頭の上で両手を打ち合わせ、大声で叫びまくったが、聞きつけた者 は 皆 か い も く 目 おらず、だれも助けに来てくれない。男独りでは馬を沼から引っ張り出すことはできっこない。それでも彼 は ど ろ ど ろ の 沼 地 を 憐 れ な 子 馬 の 傍 ま で 一 所 懸 命 近 づ い て 考 え た。 「 糞 く そ 忌 い ま い ま 忌 し い 悪 魔 野 郎、 て め え な ん ぞ に こ ん な 立派な尻尾をやりはしねえぞ。これだったら、あの縮れ毛頭がおれから買い取って 鳥 と り わ な 羂 をこさえて、 杜 ね ず つ ぐ み 松鶫 を (11 ( 捕ま え る こ と が で き ら あ。 や っ こ さ ん、 友 だ ち 連 に く れ て や る っ て 約 束 す る が、 み ん な 自 分 で 喰 く っ ち ま う け ど な」 。 そ して鋭利な 懐 ポ ケ ッ ト 中 小 ナ イ フ 刀 を抜くと、 臀 で ん ぶ 部 ぎりぎりで尻尾をすっぱり切り落とし、再びシュミュッケへ引き返した。戸口 に 立 っ て い た ヨ エ ル 氏 (11 ( が 愛 想 良 く 呼 び 掛 け て 来 た。 「い た ぞ や、 い た ぞ や」 。──「何 が い た っ て」 と 吝 け ち ん 坊 が 訊 き く。 「あの子馬だよう」 。「どこに、どこにだ」 。「さあて、食堂かも知れんし、屋根裏部屋だかもなあ。ところでよ、 おまえさんが持っとるのは一体何だ。もしかして急に馬の尻尾を飾った ト パ シ ャ ルコの殿様 に (11 ( おなりあそばしたのかね」 。 馬 の 持 ち 主 は こ れ を 聞 き 流 し て 厩 うまや に 駆 け 込 ん だ。 す る と そ こ に 自 分 の 若 駒 が 立 っ て い た。── し か し な ん た る 悲 劇、尻尾がすっぱり切り落とされていたのである。その尻尾は田舎者が手にしているやつで、馬の尻からはまだ血 が出ていた。悪魔が男を 嘲 ちょうろう 弄 したわけ。男はこんなどじを踏んだ以上、山の高みのシュミュッケで散散 嗤 わ ら われざる を得なかった。縮れ毛頭は馬毛を買ってはくれず、杜松鶫を振る舞いもしなかった。

(18)

ゴルトラウタ ー (11 ( の鉱夫だが、とある月の晩、山の高みで背が高く堂堂とした騎馬の男に出逢った。男は赤い 外 マ ン ト 套 を 纏 ま と っていた。 悪 ト イ フ ェ ル ス バ ー ト 魔の浴場 へはどう行ったらよいか 訊 き かれたので、道連れになって案内してやった。目的地に着く と、男は馬から下り、鉱夫に手綱を預けると、突然 悪 ト イ フ ェ ル ス バ ー ト 魔の浴場 に潜った。鉱夫は震え上がり、馬はごうっと 焰 ほのお の鼻 息 を 吹 き、 三 本 脚 だ け で 立 っ て い た (11 ( 。 な に せ そ れ 以 上 脚 の 持 ち 合 わ せ が な か っ た も の で ね。 暫 しばら く す る と 馬 乗 り は 浴 場 か ら 出 て 来 て、 乗 馬 に ま た が る と、 山 を 下 り、 殺 モ ル ト フ レ ッ ク し の 場 を (11 ( 越 え て 暗 フィンスターベルク 闇 山 指 (11 ( し て 立 ち 去 っ た が、 そ の 前 に 案 内 人に「あんたの 背 し ょ 負 い 籠 か ご に葉っぱを詰めな」と呼び掛けた。──鉱夫は言われた通りにし、 嶮 け ん そ 岨 な道をゴルトラウ ターへと下って行った。しかし籠がどうにも重過ぎる上、道を教え、三本脚の馬の番をしてやった報酬としてはあ んまりひどい──いやそもそも報酬とはいえない──と思われたので、ぶつくさこぼしながら、籠から──汚らし く情けない──葉っぱをまた投げ棄てた。翌朝鉱夫の女房が弁当を籠に入れようとすると、籠の側面にまだいろい ろな 黄 き ん 金 の小さな葉っぱがくっついていた。これこそ貧乏人にとってはなによりの元気 恢 か い ふ く 復 の栄養剤、鉱夫夫妻は 金 持 ち に な っ た。 け れ ど も 鉱 夫 が 他 の 葉 っ ぱ を 投 げ 棄 て な い で い た ら、 ヘ ン ネ ベ ル ク 伯 爵 様 の と こ ろ へ 出 掛 け て 行って、 「ご領地のお値段はいかほどでござんしょう」とお伺いを立てることだってできただろうに。 四九三   猟 イ ェ ー ガ ー シ ュ タ イ ン 師の記念碑 幾 つ か の 悪 トイフェルスクライス 魔 の 環 か ら 程 遠 か ら ぬ、 シ ュ ネ ー コ プ フ の 森 の 中、 樹 樹 の 下 に ぽ つ ん と 記 念 碑 が 立 っ て い る。 グ レ ー フ ェ ン ロ ー デ の あ る 森 フェルスター 番 ── そ の 担 当 管 区 は こ の 高 み に ま で 達 し て い た── が こ こ で 死 を 迎 え た。 彼 に は 狩 イ ェ ー ガ ー ブ ル シ ェ 猟 助 手 が 一 人 い た。 実 じ つ の 従 い と こ 弟 で 名 前 は 本 当 に カ ス パ ー ル だ っ た (11 ( 。 森 番 は こ の 若 者 が 大 い に 不 満 で、 主 人 と し て

(19)

き つ く 当 た っ て い た。 そ の 頃 シ ュ ネ ー コ プ フ 管 区 の 高 み に 狩 り の 的 と す る の に 絶 好 の、 ま こ と に 大 き く よ く 肥 え た 牡 ヒ ル シ ュ 角鹿 ──数多い枝角、それも十六以上を持った──が一頭、しげしげ見掛けられた。そこで森番は、この 牡 ヒ ル シ ュ 角鹿 を撃て、とカスパールに命じた。けれどもカスパールはどうしてもこの 牡 ヒ ル シ ュ 角鹿 が撃てなかった。なにしろごく接近 し て 狙 い を つ け て も、 常 に 撃 ち 損 な っ た の だ。 そ こ で 家 に 戻 る と へ ま さ 加 減 を い や と い う ほ ど い び ら れ、 か ら か わ れ る 羽 目 と な り、 界 か い わ い 隈 の 狩 猟 仲 間 が 高 み の シ ュ ミ ュ ッ ケ や ア ウ ア ー ハ ー ン や あ る い は オ ー バ ー ホ ー フ な ど で 寄 り集まった 大 お お 一座ともなると、森番はカスパールの面前で再再「いやあ、わしの従弟のこのカスパールちゅうのは た い し た 当 た り 屋 で な あ。 真 っ 暗 闇 で だ っ て 的 に 命 中 さ せ る の よ。 た だ ま あ、 何 を 撃 っ た か は だ れ に も 皆 か い も く 目 分 か り ゃ せ ん が の」 と い っ た 具 合 に お ち ゃ ら か し、 更 に い ろ い ろ 当 て こ す っ た。 こ れ に カ ス パ ー ル は ひ ど く 悩 ま さ れ た。年取った狩猟仲間に彼の友だちがいたが、この男も同様 癪 しゃく に障っていて、とどのつまりカスパールにこう教え た。 「カ ス パ ー ル、 あ の 高 み の 牡 ヒ ル シ ュ 角 鹿 の 一 件 だ が な、 あ り ゃ あ ど う も ま と も じ ゃ ね え。 分 か り き っ た こ と よ。 お ま え、鉛の 弾 た ま 丸 を使っちゃあ未来 永 え い ご う 劫 当たりっこねえぞ。明日朝早くゲールベル ク (1( ( に登ってって、あすこの 硝 ガ ラ ス 子 製造 所で硝子の弾丸を作ってもらいな。すぐできるさ。そしたらそれを一切口を利かずに銃に 籠 こ める。で、夕方、また 待 ち 伏 せ 場 ま で 登 っ て く ん だ」 。 カ ス パ ー ル は こ の 忠 告 に 従 い、 じ っ と 待 ち 伏 せ し て い る と、 繁 し げ み の 中 で ポ キ ポ キ と音がし、堂堂とした 牡 ヒ ル シ ュ 角鹿 が枝角を振りかざして現れた。そこでカスパールはしっかり狙いを定め、 轟 ご う ぜ ん 然 と銃を 発射した。弾丸はさながら稲妻の火矢のように 牡 ヒ ル シ ュ 角鹿 目掛けて飛び、 牡 ヒ ル シ ュ 角鹿 はへなへなとくずおれた。とうとう首 尾良く仕留めた、と喜び勇んで 駈 か けつけたが、 頸 く び に 止 と ど めを刺す必要はなかった。相手は死んでいた。──さはさり ながら、それは全然 牡 ヒ ル シ ュ 角鹿 ではなくて、上役のヨーハン・ヴァレンティン・グラーナー氏だった。氏は猟師の邪法 を用いてしょっちゅう 牡 ヒ ル シ ュ 角鹿 に変身していたのである。驚天動地の事件だったが、できたことはできたこと。なん

(20)

ともいたしかたない。カスパールは事のしだいを申し立て、グラーナー氏はきちんと埋葬され、グレーフェンロー デの 村 シ ュ ー ル デ ィ ー ナ ー 塾の師匠 は (11 ( 新しく羽根 筆 ペ ン を削り、教会記録簿にこう記入した。 主 し ゅ の 紀 元 一 六 九 〇 年 九 月 十 六 日、 ザ ク セ ン 侯 国 の 森 番 ヨ ー ハ ン・ ヴ ァ レ ン テ ィ ン・ グ ラ ー ナ ー 氏 は 夕 刻 四 時 過 ぎ、 狩 猟 助 手 た り し そ の 従 弟 カ ス パ ー ル に よ り、 シ ュ ネ ー コ プ フ の 森 に おいて、 牡 ヒ ル シ ュ 角鹿 の姿に身を 窶 や つ せる折、突如 顳 こ め か み 顬 より頭部を撃ち抜かれたり。 四九四   山山の不思議 ベ ー ア 山 ベルク と シ ュ ネ ー コ プ フ の 展 望 塔 が 立 っ て い る 山 の 尾 根 か ら 幾 つ も の 湧 き 水 が 東 へ、 ま た 西 へ と さ ま ざ ま に 谷 へ さ ら さ ら 流 れ て 行 く。 西 を 指 し て 轟 ご う ご う 轟 と 流 れ る 愉 た の し い ラ ウ タ ー 川 (11 ( の 河 床 に は か つ て 純 金 が あ っ た。 黄 ゴ ル ト 金 ラ ウ タ ー 村 の 名 は こ れ に 因 ち な む。 村 の 周 囲 の 山 山 に は 貴 金 属 が 昔 も 今 も ど っ さ り 産 出 す る。 ゴ ル ト の せ せ ら ぎ が 流 れ 出 す 牡 ヒ ル シ ュ 角 鹿 頭 コプフ 山 (11 ( の 下、 山 の 胎 内 に は 黄 金 の 牡 ヒ ル シ ュ 角 鹿 が 一 頭 埋 ま っ て い る── も っ と も こ の 採 掘 場 は 蹄 鉄 一 つ で 塞 ふ さ が れ て い る が (11 ( 。 採 掘 場 の あ る 巖 い わ が 希 ホフヌングスヴァント 望 の 壁 な る 名 な の は 意 味 深 長。 シ ュ ネ ー コ プ フ の 中 腹 に 黄 ディ・ゴルドネ・ブリュッケ 金 の 橋 と い う 村 が あ る。 ここを通って富がたっぷり運び出されたわけ。東へ流れる泉は愉しいゲラ川となり、誉むべきイルム川となる。そ し て 至 る と こ ろ で、 魔 法 の 掛 か っ た 場 所、 秘 め ら れ た 宝 物、 宝 の 番 を す る 見 張 り の 乙 女、 首 尾 良 く 宝 を 手 に 入 れ た 人 人── 彼 ら が 特 別 な 場 所 で う ま い 時 間 に 拾 い 上 げ て 運 ん で 来 た 物、 葉 っ ぱ と か 蛙 かえる と か 甲 かぶとむし 虫 と か 蜘 く も 蛛 と か が 全 て 黄 き ん 金 に な る── に 関 す る 伝 説 が 語 ら れ る。 イ ル ム 峡 谷 の 上 手 に は 青 デア・ブラウエ・ シ ュタイン 巖 が (11 ( あ る。 殺 モ ル ト フ レ ッ ク し の 場 の 尾 根 (11 ( の す ぐ 下、

(21)

フライバ ハ (11 ( の 畔 ほとり である。ここには 希 ホフヌング 望 と呼ばれる場所もあり、周辺は不気味な雰囲気である。不毛 荒 こうりょう 寥 の 主 あるじ がここ で 思 う が 儘 ま ま に 振 る 舞 い、 ふ ざ け 散 ら し て い る。 幾 つ か の 城 の 廃 は い き ょ 墟 は 秘 め ら れ た 地 下 の 穴 蔵 に 少 な か ら ぬ 財 宝 を 隠 し て い る。 ま た そ こ に は 数 数 の 酒 さ か だ る 樽 も あ っ て、 樽 た る の 板 は と っ く の 昔 に 腐 っ て い る が、 酒 し ゅ せ き 石 が 水 晶 の 容 器 の よ う に 葡 ワ イ ン 萄酒 を包み込んでいる。ここの大小の谷谷で、かつてヴェネチア人が入り込み、銀の採掘をしなかったところは 一 つ と し て な い。 火 フォイアーマン 男 ど (11 ( も が さ す ら い 歩 く。 と り わ け 生 き て い た 時 不 正 を 働 い た り、 民 衆 を あ ま り に も 苛 酷 に い たぶった 領 ア ム ト マ ン 地管理官 や 森 フェルスター 番 である。こうしたことどもを物語るとなると、差し当たってどこから始めたものか、さ て見当も付かない。 四九五   赤 デア・ローテ・ シ ュタイン 巖 山間の都市ズー ル (11 ( ──この地では 主 し ゅ の紀元一二三八年五月五日、大嵐の際肉の雨が降っ た (1( ( ──近傍には 斑 は ん が ん 岩 でで き た 巖 い わ が あ り、 赤 デア・ローテ・ シ ュタイン 巖 と 呼 ば れ て い る。 こ の 巖 の 中 に は 一 人 の 乙 女 が 呪 封 さ れ て い て、 あ の ア イ ゼ ナ ハ の 乙 女 のよう に (11 ( 、続けざまに何度も何度もくしゃみをする癖がある。この巖はズールと町から半時間ほど離れたところに あ る 旅 は た ご 籠 「 快 ツム・フレーリヒェン・マン 漢 亭 」 の 中 間 に あ る。 か つ て 婚 礼 行 列 が 楽 隊 を 先 頭 に 大 騒 ぎ し な が ら や っ て 来 た。 新 郎 新 婦 と 婚 礼 の 客 た ち が 快 漢 亭 で 楽 し く や ろ う と し た し だ い。 す る と 赤 デア・ローテ・ シ ュタイン 巖 の 中 か ら 皆 の 心 魂 に 徹 す る よ う な 鋭 い 声 が 聞 こ え た。 い わ く「今 日 は 紅 こ う が ん 顔 、 来 年 は 白 は っ こ つ 骨 」。── 一 年 後 若 妻 は 死 ん だ。 そ れ か ら と い う も の、 快 漢 亭 で 大 い に 祝 おうと、町からやって来るにせよ、山の方から下りて来るにせよ、婚礼行列は黙りこくり、しんと静まりかえって 赤 デア・ローテ・ シ ュタイン 巖 の傍を 過 よ ぎることにしている。

(22)

四九六   ハインリクスの魔法 ズー ラ (11 ( の下方にハインリク ス (11 ( の村がある。この村を見下ろす石造りの城には呪封された財宝があるが、これはな ま な か な こ と で は 取 り 出 せ な い。 あ る 牛 飼 い が 山 の 高 み で 白 し ら ゆ り 百 合 を 摘 ん だ。 そ し て 同 類 と 同 じ く、 山 の 胎 内 に 一 番 大 事 な 物〔= 開 シ ュプリングヴルツェル 錠 根 で あ る 白 百 合〕 を 忘 れ て 来 た。 巖 い わ や 窟 の 扉 が 閉 ま る 時、 踵 かかと を 挟 ま れ て 怪 我 を し、 長 い こ と 療 り ょ う じ 治 をしなければならなかった。 か つ て ハ イ ン リ ク ス に 三 人 の 大 物 撃 ち 猟 師 が や っ て 来 た こ と が あ る。 こ の 連 中 の 腕 前 は ま こ と に 確 か な も の、 フ ラ ン ク フ ル ト・ ア ム・ マ イ ン で エ ッ シ ェ ン ハ イ ム 塔 の 風 見 に「 九 イ ナ ー つ 当 た り 」 の 射 撃 を や っ て の け た あ の ヘ ン ゼ ル・ ヴ ィ ン ケ ル ゼ ー(D S B 六 九) さ な が ら だ っ た。 彼 ら は ── そ の 頃 か ら も う 評 判 が 高 か っ た の で── 旅 は た ご 籠 「 黄 ツ ム ・ ゴ ル ド ネ ン ・ ヒ ル シ ュ 金 牡 角 鹿 亭 」 に 泊 ま り、 地 下 の 酒 蔵 が あ る 奥 庭 で 上 等 の 麦 ビ ー ル 酒 や ら な に や ら を き こ し め し て い た。 す る と そ こ で 酒を酌み交わしていた客たちの間で巧妙な射撃が話題に 上 の ぼ り、猟師の気の利いた 伎 わ ざ 倆 の数数が語られた。なにしろ 界 か い わ い 隈 には猟師、ことに射撃の上手がうようよいたし、当時は、この三人のように隠れた名手がたくさん存在したけ れども、まだ獲物に事欠かなかったからである。皆いつも確実に当たる弾丸とかといったおもしろい話の種を心得 ており、手柄自慢の者もだれかれとなく居合わせたが、やがて、例の三人が大物撃ちだというなら、ぜひ手並みを 拝見したいものだ、とあいなった──三人は別に自分からそう言い触らしたりはしなかったのだが。すると彼らの 一人が三つ葉の 和 ク ロ ー バ ー 蘭紫雲英 を摘み、もう一人が 梯 は し ご 子 を持って来て、これを 黄 ツ ム ・ ゴ ル ド ネ ン ・ ヒ ル シ ュ 金牡角鹿亭 の奥庭を穴蔵のところで遮 断している建物の石壁に立てかけた。三人目は旅籠から外に出て、道を横切り、向かいの家並みまで行った。旅籠

(23)

の 門 か ら 玄 関 ま で の 門 通 り は 開 け て い た し、 屋 内 通 路 の 天 井 は 高 く、 奥 庭 ま で 障 害 物 は 無 か っ た の で、 〔梯 子 の 天 辺に附けられた〕 和 ク ロ ー バ ー 蘭紫雲英 は道の向かい側からちゃんと見えた。彼我の距離は九十歩だった。それから射手たち は 和 ク ロ ー バ ー 蘭 紫 雲 英 目 掛 け て 火 蓋 を 切 っ た。 各 お の お の 各 た だ の 一 発 づ つ だ っ た。 撃 つ た び に 和 ク ロ ー バ ー 蘭 紫 雲 英 の 葉 が 一 枚 消 し 飛 ん だ。 山なりに三つ並んだ弾痕は今日に至るまでありありと残っている。そして三人の大物撃ちは何も言わずに村から立 ち去った。 ハ イ ン リ ク ス の 数 人 の 農 夫 の 家 畜 に 魔 法 が 掛 け ら れ た。 牛 バ タ ー 酪 が で き な く な っ た の で あ る。 そ こ で 農 夫 ら は あ る 魔 女 の 許 も と に 行 き、 ど う し た ら よ い も の か、 と 相 談 し た。 す る と 魔 女 は 農 夫 た ち に こ う 指 図 し た。 「あ ん た ら は あ り と あ ら ゆ る 悪 魔 の 名 に お い て ど こ か 陶 やきものづくり 工 の と こ ろ に 行 き な。 そ こ で や っ ぱ り 悪 魔 の 名 に お い て 壺 つ ぼ を 一 つ 注 文 す る の さ。 陶 やきものづくり 工 も あ り と あ ら ゆ る 悪 魔 の 名 に お い て そ の 壺 を 作 ら な く ち ゃ い け な い。 壺 が で き た ら 四 頭 立 て の 馬 車 を 仕立て、ありとあらゆる悪魔の名において取りに行く。そうして値段の 駈 か け引き無しにして、くれ、と言われただ け の 代 金 を 払 う。 で、 こ の 壺 に 乳 ミルク を だ ん だ ん に 入 れ て は、 ま た だ ん だ ん に 出 す」 。 ハ イ ン リ ク ス の 農 夫 ら は こ う し た 魔 女 お よ び 悪 魔 の 助 言 に そ っ く り 従 っ た。 こ の 村 で は── 全 ヘ ン ネ ベ ル ク 伯 爵 領 が そ う だ っ た の だ が── 魔 女 信心が 大 お お は や り 流行 で、さるザクセン公妃──遺産相続でこの伯爵領の土地の幾分かがその配偶の手に落ちることになっ た── は「わ ら わ は あ の よ う な 黒 シ ュヴァルツェ・ い 雌 ヘ ン ネ 鶏 の 領 分 (11 ( に は ま い り ま せ ぬ」 と 宣 言、 事 実 足 を 踏 み 入 れ な か っ た そ う な。 も っ と も、 夫 が 相 続 す る 前 に 彼 女 は 死 ん だ の だ が。── し か し な が ら、 壺 が 陶 やきものづくり 工 の と こ ろ に 取 り に や ら れ た 時 は 目引き袖引きという有様だったし、壺には十五グロッシェンも支払われたし、四頭立ての馬車でだったし、という 具合なので、壺が使われない内に事のしだいは広く知れ渡り、 宗 コン シ ストリウム 教局 にまで達し、どたばた悪魔騒動は恐怖の結末 を迎えた。 小 こ び ゃ く し ょ う 百姓 連は 懺 ざ ん げ 悔 襯 シ ャ ツ 衣 を着て教会規定の 悔 かいしゅんぎょう 悛行 を務め、ハインリクス村で一年に生産される 牛 バ タ ー 酪 総量の価

(24)

格 を 上 回 る 罰 金 を 支 払 わ ね ば な ら ぬ と さ れ、 問 題 の 壺 は 皮 シ ンダースラーゼン 剝 場 で (11 ( 刑 吏 の 手 に よ り 打 ち 砕 か れ、 こ の 同 じ け っ こ う な場所で例の魔女が 火 ひ あ ぶ 炙 りの刑に処された。小百姓連にとって不幸中の幸いは、壺がまだ使用されていなかったこ と。さもなければ彼らも魔女もろとも情け容赦なく 焚 ふ ん さ つ 殺 されざるを得なかったろう。 四九七   酸 す ぐ り 塊 の生け垣 ハーゼル河谷のハインリクスから谷を下るとディルシュテットなる村に達する。ここにマルシュトとしか呼ばれ な い 場 所 が あ る。 実 は マ ー ル シ ュ テ ッ テ (11 ( な の だ。 以 前 は 新 郎 新 婦 が 婚 礼 の 客 た ち と と も に 旅 は た ご や 籠 屋 へ 踊 り に 行 く 時、 こ の 場 所 を 通 っ て い た。 ズ ー ラ の 人 た ち が 快 ツム・フレーリヒェン・マン 漢 亭 へ 赴 く の に あ の 赤 デア・ローテ・ シ ュタイン 巖 の 傍 を 過 よ ぎ っ た よ う に。 路 傍 に は 昔 酸 ハルヒェル 塊 (シュタッヒェル)の生け垣があった。かつてやはりある新婚夫婦が演奏する楽士らとともにここを通り掛か ると、生け垣の中から一羽の小鳥が高らかにこう 囀 さえず った。 今日のもてなし鳴り物入りだが、 来年は唄でのおもてな し (11 ( 。 年が改まると、葬列が 挽 ば ん か 歌 に送られてマルシュトを通った。これはあの若夫婦だった。彼らは二人ながら急病で 死んでしまったのである。以来もはや新婚の行列はマルシュトを通ることはない。旅籠屋に赴くならうんと遠回り しなければなるまい。

(25)

四九八   呪われた村 ディルシュテットの区域内に廃村がある。その名はガーメルスハウゼ ン (11 ( 。昔村があったし、今もある。ただしだ れにも見えない。これを目にするのは良いことではない。およそ百年ほど前、ディーツハウゼン(ディルシュテッ トとハインリクスの中間にある)の軍 医 (11 ( がローラ川とマリスフェルトの間に拡がる寂しい土地──ゲルツ 川 バ ハ が貫流 している──を通っていたところある村に入った。村人たちが教会に 詣 も う でるのを目にし、その服装がなんとも古風 なのを 訝 いぶか しく思った。ロー ア (1( ( ──ここの人たちの装いは当世風だった──まで来て、一体あれはどういう村か、と 訊 た ず ねたが、だれも教えることができず、あんたの説明するような村はゲルツバハ沿いに無い、と言われた。 時代は同じ、ミカエル 祭 (11 ( の日でディルシュテットでは 教 キ ル メ ス 会堂開基祭 が行われていた。ヴィヒツハウゼン(ディル シュテットとディーツハウゼンの中間にある)の靴職人で単純素朴な男がマリスフェルト指して歩いていた。その 辺 り へ 行 く の は こ れ が 初 め て。 途 中 あ る 村 の 近 く を 通 り 掛 か っ た。 村 で は 雄 お ん ど り 鶏 ど も が 啼 な き、 犬 た ち が 吠 え て い た。 男のすぐ前を女が歩いていて、村の方へ急いでいた。男は道を 訊 き こうと女に呼び掛けたが、女は聞こえなかった様 子で、すっかり草が生い 繁 し げ っている 小 こ み ち 径 を踏み分けて行った。男の進む道は脇へ 逸 そ れて、水草に覆われた池の 畔 ほとり を 通っていた。男は村人がこの池をなげやりにほったらかしているのが不思議でならなかった。マリスフェルトでの 用事を終えて、家路につくと、例の池も村も消えていた。 靴 職 人 が こ の 話 を し た 隣 人 は こ う 言 っ た。 「お ぬ し ゃ あ、 そ の 女 に 随 つ い て 行 か な ん で よ か っ た よ う。 そ ん な こ と したら、多分二度と家に帰れんかったろう。おぬしが見たなあ呪われた村のガーメルスハウゼンさね。あそこいら

(26)

へんはほんとに気味が悪いったら」 。 四九九   鉱夫と花嫁の話 デ ィ ー ツ ハ ウ ゼ ン の 谷 か ら 山 道 が ベ ン ス ハ ウ ゼ ン に 通 じ て い る。 ベ ン ス ハ ウ ゼ ン 周 辺 に は 昔 幾 つ も 採 掘 場 が あ り、村には鉱夫たちが住んでいた。彼らの一人が土曜日に告解に出掛け、翌日の日曜日には聖体拝領に行くつもり だった。さて、古い習慣では、告解を済ませた後はもう働くべきではなく、いろいろ信心深いことを考え 繞 め ぐ らすも のだった。しかしこの鉱夫は少しばかりの賃銭を失いたくなかったので、告解したのに再び村を出た。ところが鉱 坑に入ったとたん、 縦 た て あ な 坑 がどっと崩落、彼は跡形もなく行方知れずとなった。百年経って 漸 ようや く他の鉱夫たちがそこ まで掘り進み、 切 き り は 羽 を作ったところ、坑道で大きく長い髭を生やした鉱夫が一人、どうやら眠っているらしいのを 見つけた。一同が男の周りで 喋 しゃべ っていると、男は目を覚まし、すぐに「もう鐘が鳴っただかね。わしゃあ聖体拝領 せにゃなんねえ」と 訊 き いた。他の者が「今日は日曜じゃねえし、ここは教会でもねえ。今日は仕事日だに」と言う と、 「だ け ん ど よ、 わ し ゃ あ 昨 日 の 夜 告 解 に 出 掛 け た で、 今 日 は 聖 体 拝 領 に 行 か に ゃ あ」 と の 返 辞。 そ こ で 皆 は 男 を 鉱 坑 か ら 連 れ だ し、 教 会 ま で 送 り、 司 祭 を 呼 ん で 来 た。 司 祭 が 聖 体 を 拝 領 さ せ た と こ ろ、 男 は 拝 領 し た と た ん、 くずおれて一山の塵と化した。 似 た よ う な こ と が ベ ン ス ハ ウ ゼ ン の あ る 花 嫁 に 起 こ っ た。 こ の 娘 は 強 い ら れ て 結 婚 す る 羽 目 に な っ た の だ っ た。 婚 儀 の 前、 二 度 目 に 鐘 が 鳴 っ た 時、 彼 女 は き ち ん と 衣 装 を 調 え て い た が、 ひ ど く 涙 を 流 し、 「ほ ん の ち ょ っ と の 間 独りきりでお庭に出させて。あたし、いい空気を吸わなくちゃ」と言った。なにしろ胸が締め付けられるように苦

(27)

しかったので。庭で身の不幸せを痛切に嘆き悲しんでいると、一度も見たことのない見知らぬ男性が歩み寄り、な ぜ辛がっているのか 訊 た ず ねた。そこで娘は何もかも打ち明けて訴えた。男性は穏やかな声音で彼女を慰め、一緒に歩 き 回 り、 い ろ い ろ な こ と を 語 ら っ た が、 庭 を 誉 め そ や し も し、 「わ た し の 庭 も か な り 見 事 な の で す。 あ な た が ご 覧 になりたければ、すぐお隣なのですよ」と誘った。すると小さな門が開いており、二人は中へ入った。花嫁はこれ ほ ど 多 く の 景 物 が あ る こ ん な に 素 晴 ら し い 庭 園 を 見 た の は 初 め て だ っ た。 こ の 上 も な く 美 し い 花 か き 卉 や 鳥 類、 噴 水、 並木道、 園 あ ず ま や 亭 、林、芝生、ありとあらゆる種類の木の実、草の実。若い花嫁はそれらを眺めて楽しみ、押しひしぐ 胸の苦悩を忘れた。男性との会話はまことに快かった。突然鐘が鳴り響き、花嫁は義務を思い出し、男性に 鄭 ていちょう 重 か つ 淑 し と やかに別れを告げ、再び自分の家の庭に戻り、そこを抜けて家に入り、新郎やお客様たちと共に教会へ行こう とした。ところが何もかも様変わりしていて見慣れない物ばかり。それから見慣れない人たちが彼女に、彼女のな ん と も 古 め か し い 花 嫁 装 束 に び っ く り し て 目 を 瞠 み は り、 「何 の 御 用 で し ょ う か、 ど ち ら か ら い ら っ し ゃ い ま し た」 と 問い掛けて来た。──新郎も父親も母親も、そして婚礼の客たちもいなかった。調べた結果、次のようなことが判 明した。百年前ある花嫁が鐘の鳴るちょっと前に庭に出て行って、再び戻って来なかった、と。婚礼の道具を借り にキフホイザー山に登り、下り道ではそれらを担ぐのが重くてならなかった──寄る年波という荷物が重くのしか かったに過ぎなかったのだが(DSB四三〇)──あの 許 い い な ず け 婚者 両人のように。この花嫁は、自分がもう 余 よ そ も の 所者 に過 ぎなくなった 現 げ ん せ 世 から、かの優しい殿方──我らが 御 おんあるじ 主 にして救世主たるキリストに他ならぬ──のいる庭園へと 帰りたくてたまらず、その後間もなく天国の 園 そ の ふ 生 に入った〔=亡くなった〕 。

(28)

五〇〇   フ フ ァ ー ル ザ ー メ ン ァールの種 ベンスハウゼンのある家には猟師の亡霊が出る。 フ フ ァ ー ル ザ ー メ ン ァールの種 ( 羊 フ ァ ル ン ザ ー メ ン 歯の種 というべき か (11 ( )を手に入れたりしたか らである。ファールの種を手に入れるのは、太陽を撃ったあのディトマルシェンの猟師(DSB一七六)が用いた ような邪悪な 技 わ ざ なのだ。もっともベンスハウゼンの男は 聖 ホ ス チ ア 餅 を必要とはしなかった。男は夏至の日、太陽が中天に 達した時、太陽を撃たねばならなかった。すると血が三滴落ちて来た。男はこれを受けて取って置くことになった のだが、これすなわちファールの種。さてこの猟師、ファールの種を身に着けている限り、撃ちたい物を撃つこと ができ、決して撃ち損なうことはなかった。しかしとどのつまり、至福の臨終に至ることがありっこないのは目に 見えていた。かねがね猟師は、いつかおれが恐ろしい 唸 う な り声を出すのが聞こえるだろう、そうしたらおれはおしま いだ、と言っていた。事実それが起こり、年貢の納め時となって、悪魔が彼を 攫 さ ら って行った。後にフィアナ ウ (11 ( への 街道にこの猟師が古風な服装で 坐 す わ っているのがしばしば見掛けられた。縁を巻き上げた小さな三角帽を 被 か ぶ り、三匹 の小さい犬を 侍 は べ らせていた。あのヴォー デ (11 ( のように両脇に一匹づつ、そして膝に一匹。 五〇一   ホレ夫人と忠実なエッカルト ベンスハウゼンの下手にシュヴァルツ ァ (11 ( の町がある。昔ここを 降 ヴ ァ イ ナ ハ テ ン 誕祭 の時期にホレ夫人が荒れ狂う同勢と共に通 り過ぎた。先頭には忠実なエッカル ト (11 ( がいて、出逢う人人に、危ない目に遭わぬよう引き下がっていろ、と警告し

参照

関連したドキュメント

 一六 三四〇 一九三 七五一九八一六九 六三

七圭四㍗四四七・犬 八・三 ︒        O        O        O 八〇七〇凸八四 九六︒︒﹇二六〇〇δ80叫〇六〇〇

一一 Z吾 垂五 七七〇 舞〇 七七〇 八OO 六八O 八六血

チ   モ   一   ル 三並 三六・七% 一〇丹ゑヅ蹄合殉一︑=一九一︑三二四入五・二%三五 パ ラ ジ ト 一  〃

臨脈講義︐

その認定を覆するに足りる蓋然性のある証拠」(要旨、いわゆる白鳥決定、最決昭五 0•

[r]

[r]