症例提示 山家理司医員(内科学 2) 症例: K.T. 77 歳,女性(ID162-298-9,AN1254) 主訴:食欲不振,発熱 現病歴:約 7 年前より労作時の呼吸困難出現 し,平成 7 年に当院入院し,肥大型心筋症に よる心不全と診断された。平成 10 年 3 月頃 より食欲不振,37°C 台の発熱が出現し,胸 部レントゲンにて異常が認められ 4 月 6 日入 院となった。 既往歴:肥大型心筋症(平成 7 年),両側中耳 炎,変形性脊椎症(骨粗鬆症による) 家族歴:父,高血圧症 患者背景:喫煙歴なし,アルコール:機会飲酒 入院時身体所見:身長 136 cm,体重 43.5 kg, 体 温 3 6 . 6 ° C , 血 圧 9 0 / 6 0 m m H g , 脈 拍 87 bpm,表在リンパ節(頚部,鎖骨上窩, 腋窩,鼡径)は触知せず,眼瞼結膜に貧血, 黄疸なし,呼吸音正常,ラ音聴取せず,心音 ではⅢ音聴取,心雑音はなし,四肢に浮腫な し,胸部所見,神経学的所見に異常なし。 入院時血液検査所見: WBC 3220/µl↓,(neut 72.4 %,eos 0.6 %, baso 0.0 %↓,mono 14.9 %↑,lymph 12.1 %↓)RBC 400 万/µl,Hb 11.9 g/dl, Ht 36.3 %,plt 13.3 万/µl↓,TP 8.1 g/dl, CHE 162 IU/l↓,ZTT 21.0 KU/l↑ TTT 7.9 KU,Alb 3.2 g/dl↓,GOT 23 IU/l, GPT 9 IU/l,LDH 185 IU/l,ALP 300 IU/l, γ- GPT 28 IU/l,T-BIL 1.2 mg/dl,T.Chol 200 mg/dl,TG 105 mg/dl,BUN 9 mg/dl, CRE 1.01 mg/dl↑,UA 4.9 mg/dl,Na 133 mEq/l↓,K 3.1 mEq/l↓,Cl 99 mEq/l, CRP 10.9 mg/dl↑,IgG 2280mg/dl↑, IgA 832 mg/dl,IgM 57 mg/dl↑,(4/30) 抗核抗体 40 >(40 以下),RA(−), (蛋白分画)alb 36.1 %↓,α13.8↑,α29.7 % ↑ ,β1 4 . 7 %↑ ,γ3 5 . 7 %↑ , N S E 5.95 ng/ml( ≦ 7.0),SCC 0.49 ng/ml (≦ 1.5),CEA 2.0 ng/ml(≦ 3.0),CA19-9 9 . 36 U / m l (≦ 37),シフラ 1. 1 n g / m l (≦ 2.0),pro GRP 13.8 pg/ml(< 46), SLX 42 U/ml↑(≦ 38),血中カンジタ抗 vii 第 26 回山梨医科大学 CPC 記録 日時:平成 11 年 5 月 19 日(水)午後 5 時 15 分∼ 7 時 場所:臨床講堂大講義室 司会:石原 裕講師(内科学 2),川生 明教授(病理学2)
心筋症の経過中に縦隔に腫瘤を生じた症例
要 旨: 77 歳の女性。7 年前より労作時呼吸困難が出現し,入院。肥大型心筋症による心不全と 診断された。今回,食欲不振,37°C 台の発熱が出現し,胸部レントゲン像に異常が認められたた め入院。当初は肺炎として治療されたが,改善されなかった。胸部 CT で左胸部と縦隔に腫瘤性 病変を認め,肺生検と骨髄生検でいずれも肉芽腫性病変が認められたが,肉芽腫の本態に関して は最後まで確定診断が得られなかった。入院後左リンパ節の腫大があり,3 ヵ月後,意識レベル の低下,黄疸の増強,腎機能不全を呈して死亡した。剖検の結果,Hodgkin 細胞と Reed-Stern-berg 巨細胞の出現を示す肉芽腫性病変が心外膜,縦隔,左肺,全身リンパ節,肝 Glisson 鞘,脾 臓,骨髄に認められ,EB ウイルス関連 LMP-1 および EBER-1 の発現が証明されたことから,EB ウイルス関連 Hodgkin 病(リンパ球減少型)と診断された。肺には器質化肺炎を合併していたが, 直接死因は肉芽腫病変の浸潤による肝不全と診断された。原 2 倍 ( < 2 )( 4 / 2 3 ),β- D - グ ル カ ン 15.2 pg/ml(< 20.0)(6/17),アンギオテ ンシン変換酵素 18.7 IU/l(7.7 ∼ 29.4) (6/17) (細菌学的検査) 咽頭培養:(4/24)Candida species(少数) 血液培養:(4/25)陰性,(4/27)陰性,(5/3) 陰性,(5/16)陰性,(6/18)陰性,(6/22) 陰性 中 間 尿 培 養 : ( 4 / 2 4 ) 陰 性 ,( 5 / 1 7 ) Pseudomonas aeruginosa(10**6),(6/3) Candida species(10**5),(6/22)Candida species(10**5) 気管洗浄液:(5/13)陰性(一般菌,抗酸菌 とも) 右胸水培養:(6/10)陰性 喀痰培養:(6/10)MRSA(++),(6/29) MIRSA(++),Xanthomonas maltophilia (少数) 喀痰ダイレクト:(6/22)陰性 胃液抗酸菌:(4/28)陰性
IVH カテ先培養:(6/24)Staphylococcus epi-demidis(少量)
便培養: Clostridium difficile 陰性,Aero-monas hydrophila( + ), MRSA( 少 数 ) (6/4)
病理組織診検査ならびに細胞診検査: 5/13 気管支擦掻診: Class Ⅰ,喀痰細胞診: Class Ⅱ 気管洗浄液細胞診: Class Ⅰ,経気管支肺生 検: inflammatory garanulation tissue 6/10 喀痰細胞診: Class Ⅰ,胸水細胞診: Class Ⅰ 骨髄生検: granulomas in bone marrow 心電図: 4/17
normal sinus rhythm, rate 84bpm,心房性期 外収縮あり,LVH あり,Ⅰ,Ⅱ,AVF,V 4 ∼ 6 誘導で陰性 T 波あり 心エコー: 4/20 左 心 室 の 壁 運 動 は び 漫 性 に 低 下 , 駆 出 率 27 %。左心室の壁厚は保たれている,左心 室の拡張あり(59.7 mm),左心房の拡張あ り(53 mm),中等度の僧帽弁閉鎖不全症あ り,心嚢液貯留あり(軽度)。 ツベルクリン反応: 4/27 :陰性 経過:食思不振,発熱,咳にて入院,胸部写真 にて異常陰影をみとめたため入院時肺炎とし て治療を行っていたが,改善が認められなか った。胸部 CT を施行したところ,左の胸部 と縦隔に mass lesion 認め,腫瘤性の病変と して鑑別を行った。Ga シンチでは,縦隔と 左肺門に集積亢進が認められたが,集積程度 は著しく強いとは言えなかった。気管支鏡検 査では,左主気管支の粘膜の発赤,浮腫認め られ,この左主気管支からと,左肺中葉の病 変部から経気管支肺生検施行したが,炎症性 肉芽組織が認められたのみで確定診断はつか なかった,また,入院時より白血球,血小板 減少認められ,入院後,赤血球の減少も加わ ったため,6 月 10 日に骨髄穿刺検査を行っ ているが,線維芽細胞,形質細胞を伴う肉芽 腫が認められた。骨髄組織は normocellular で 3 系統とも認められた。全身状態不良のた め十分な検査施行できず,確定診断は得られ なかった。 食思不振の原因精査のため行った上部消化 管内視鏡(5/21)では hiatal hernia,erosive gastritis,atrophic gastritis が認められたのみ であった。また,腹部エコー(6/6)でも腹 腔内に明らかな異常は認められなかった。全 身状態の改善をはかるべく経管栄養など対症 療法を施行したが,効果なかった。6 月の中 旬頃より,38 度台の発熱が出現し,肺炎の 診断にて抗生剤治療を行った。しかし,その 後も発熱は続き,結核,真菌症も疑われたが, 培養,血液学的検査では陰性であった。胸水 貯留も認められ,6 月 10 日に胸水採取し, 細菌培養,細胞診検査提出したが,培養は陰 性,細胞診でも悪性所見認められなかった。 また,6 月中旬より,診察上左頚部にリンパ 節を触知するようになった。(径 1 cm 程度を 3 個) 6 月 30 日より意識レベルが低下し,黄疸, 腎機能の増悪を認め,その後さらに臓器不全
は進行,7 月 9 日死亡した。 剖検目的: 1)胸部の病変の最終的な診断はなにか,ま た,この病変と心筋症,骨髄の肉芽腫との 関連はあるのか。 2)死亡前の持続的な発熱の原因はなにか, 感染症だとしたらその focus はどこか。 検査値分析 矢冨 裕助教授(臨床検査医学) (入院時血液検査) 白血球分類の評価においては,比率だけでは なく,絶対数も考慮することが必要である。本 症例は,白血球数が 3,220/µl であるので,単 球数は 480/µl(14.9 %),リンパ球数は 390/µl (12.1 %)である。通常,リンパ球数 1,000/µl 以下の場合はリンパ球減少と考えられ,本症例 においても重要な所見と考えられる。 高齢女性,小柄な体格,食欲不振の存在を考 えると,クレアチニン 1.01 mg/dl はかなり高 値と考えられ,腎機能の低下が考えられる。 BUN の値が上昇していないのは,蛋白質摂取 不 良 に よ る 可 能 性 が 考 え ら れ る 。 こ れ は , ChE ・アルブミンの低値とも関係していると 考えられる。 (骨髄像) 提示された標本では,低形成ではない。肉芽 腫が存在すること以外は判定は困難である。 発言 柳 光章助手(内科学 2) 胸部悪性リンパ腫を発生部位別に分類する。 肺野に認められるリンパ腫: 1.MALT 型リンパ腫 慢性炎症等によって気管支粘膜下に後天的 に誘導された MALT(mucosa-associated lym-phoid tissue)に由来するリンパ腫。中高年 に多く発生し,橋本病,シェーグレン症候群 等の自己免疫疾患を合併することが多い。 2.血管中心性リンパ腫 筋型の動脈を取り囲むように,大小の異型 リンパ球様細胞に加えて,組織球,類上皮細 胞,形質細胞,好中球,好酸球など多様な細 胞が浸潤。出血,壊死はこれに伴って生じ る。 3.血管向性リンパ腫 中枢神経系,皮膚,副腎に病変が見られる ことが多く,中枢神経症状が多く認められる ことが特徴。血管内皮細胞に強い親和性のあ る接着分子を発現した特殊なリンパ腫と考え られている。 縦隔に認められるリンパ腫: 1.ホジキン病 Hodgkin 細胞,Reed-Sternberg 細胞と, 異型性を伴わないリンパ球の浸潤が特徴。縦 隔に発生するのは結節硬化型が多いが,主に 前縦隔に発生する。リンパ行性に連続的に進 展する。肺実質,心臓,大血管に浸潤するこ ともある。 2.リンパ芽球性リンパ腫 前縦隔に発生し,10 歳代の男性に好発す る。大半の症例が 1 年以内に急性リンパ性白 血病に移行する。 3.縦隔原発大細胞型 B 細胞性リンパ腫 縦隔原発の非ホジキンリンパ腫の中で最も 頻度が高い。20 ∼ 30 歳代の女性の前縦隔に しばしば Bulky Mass を形成し,上大静脈症 候群を呈することが多い。 胸腔,胸郭に認められるリンパ腫: ホジキン病,非ホジキンリンパ腫以外には エイズ関連,結核後などの膿胸関連でリンパ 腫を発生することが多い。 リンパ腫の診断は,病理診断のみが確定診 断に有用であり,臨床所見等から診断を考え ることはほとんどないが,本症例は縦隔が原 発で病変が連続性に広がっていることからあ えて推測すると,ホジキン病などが考え易 い。 病理所見と診断 逸見 明博講師(日本大学医 学部病理学) <病理所見>(剖検番号 1254) A.肉眼所見 外表:体重 48.3 kg,身長 147 cm。全身に黄疸 ix
をみる。 体腔液:胸水左 200 ml,右 800 ml,心嚢液少 量,腹水 530 ml,いずれも黄色透明。 心臓: 440 gm。左室 1.5 cm,右室 0.4 cm で左 心室肥大をみとめる。弁は著変無し。心外膜 に 4 cm 大までの腫瘍結節が多数存在した。 縦隔:境界不明瞭のリンパ節を巻き込んだ手挙 大の腫瘍を認める。 肺:左 420 gm,右 470 gm,左上葉に 5 cm 大の 壊死性の腫瘤状病変がみられた。その他,肺 は気管支肺炎による巣状の病巣を散見した。 肝臓: 1,430 gm と著しく腫大した肝臓である。 腫瘍の浸潤により拡大したグリソン鞘が肝臓 全体にみられた。 脾臓: 150 gm,米粒大の出血を伴う腫瘍状病 巣を多数認めた。 骨髄:部分的に出血を伴う腫瘍様病巣を散見し た。 リンパ節:頸部,気管及び気管支周囲,胸部お よび腹部大動脈周囲,胃周囲,膵周囲,腸管 膜に多数の腫大したリンパ節が存在した。 胆嚢,膵臓:著変無し。膵(110 gm)。 食道,胃,小腸および大腸:著変無し。 腎臓:黄疸腎,左 130 gm,右 150 gm。 膀胱:著変無し。 子宮と付属器: 4 cm 大の子宮平滑筋腫,右卵 巣の 3 cm 大の漿液嚢胞腺腫。 甲状腺と副腎:甲状腺 11 gm,副腎(左 4.6 gm, 右 4.5 gm),著変無し。 B.組織所見 腫瘍:心外膜,縦隔,左肺の腫瘍状病巣,また 全身の腫大したリンパ節,肝臓のグリソン鞘 に浸潤する病巣,脾臓および骨髄の病巣は, いずれも同一の腫瘍の浸潤をみとめた。腫瘍 は,線維化とともに異型性のないリンパ球, 形質細胞,好酸球,組織球などの炎症様反応 を伴い,これらの像を背景とし大型で単核お よび多核の異型細胞を散見した。これらの異 型細胞には好酸性の胞体をもち赤血球ほどの 大型の核小体を有する,いわゆるホジキンお よび RS 巨細胞を含んでいる。腫瘍内には凝 固壊死様の壊死があり,左上葉の腫瘤状病巣 はほとんど腫瘍による壊死組織であった。ま た,肝臓のグリソン鞘では腫瘍の浸潤による 胆管の破壊がみられた。 心臓:心筋細胞の不揃いな肥大,多形核の出現, 線維の錯綜配列をみる。 肺:非腫瘍部に器質化肺炎像をみとめた。 C.免疫染色 大型異型細胞: CD15(LeuM1)++,CD20 (L26)−,CD45(UCHL-1)−,CD30(Ki-1)+,EMA −,LMP +,EBER-1 in situ hybridization +。 <病理診断> 1.EV ウイルス関連ホジキン病(リンパ球減 少型,縦隔,左肺,心臓,肝臓,脾臓,骨髄, 全身のリンパ節) 2.肥大型心筋症 3.器質化肺炎 4.その他(子宮平滑筋腫,左卵巣漿液嚢胞腺 腫)
表 Systemic ALCL と classical HD の比較 systemic ALCL classical HD 免疫形質: CD15(LeuM1) −∼+ + CD30(Ki-1) + + CD20(L26) −∼+ −∼+ CD45(UCHL-1) −∼+ −∼+ EMA + − EBV : LMP-1 −∼+ ++ EBER-1 ISH −∼+ ++
xi 図 1. 縦隔に境界不明瞭のリンパ節を巻 き込んだ手拳大の腫瘍を認める。 図 2. 1,430 gm と著しく腫大した肝臓で ある。腫瘍の浸潤により拡大した グリソン鞘が肝臓全体にみられた。 図 4. 免疫染色では大型異型細胞は CD15 陽性を示し ている。酵素抗体法,× 100(直接倍率) 図 3. 腫瘍は,線維化とともに異型性のないリンパ球, 形質細胞,好酸球,組織球などの炎症様反応を 伴い,これらの像を背景として大型で単核およ び多核のいわゆるホジキン細胞および RS 巨細 胞を含んでいる。HE 染色,× 100(直接倍率)