The Nonprofit Review
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西城戸誠・原田 峻
(著)
『避難と支援:埼玉県における広域避難者支援のローカルガバナンス』
新泉社,
2019 年,277p.+IX
評者:秋葉 武
(立命館大学)
DOI: https://doi.org/10.11433/janpora.NPR-B-20-00002
本書は第18 回日本 NPO 学会賞(優秀賞)を受賞した作品
である.東日本大震災・福島第一原発事故によって福島県外
へも数多くの避難者が出ることになったが,著者は埼玉県に
逃れてきた「広域避難者」の支援の全体像について2011 年 3
月~2018 年 8 月までの 7 年半にも及ぶ「支援ガバナンス」の
変遷を描写している.
本書は震災後の避難者をめぐる7 年半について 4 つの時期
区分 ①緊急避難期(2011 年 3 月 11 日~2012 年 3 月末) ②
避難生活の開始期(2011 年 4 月~2012 年 3 月) ③避難生活
の長期化期(2012 年 4 月~2017 年 3 月) ④避難生活の超長
期化期(2017 年 4 月~8 月) に分け,各アクターによるロー
カルガバナンスを描いている.アクターとしては福島県及び
各市町村,埼玉県及び各市町村といった地方自治体,埼玉県
の労働者福祉協議会,福玉支援センターといった民間支援団
体,国(復興庁)が登場する.
多種多様なアクターが登場するにも関わらず,本書は専門
家以外の読者にとっても読みにくいものではない.時期区分
ごとに「小括」が行われ,例えば①では「小括――避難生活
の開始期における避難者支援のローカルガバナンス」といっ
たように,ローカルガバナンスの状況を整理,俯瞰するため,
読者は安心して読み進めることができる.
これまで東日本大震災・福島第一原発事故に関して,文系,
理系問わず各分野の研究者によって多くの研究が行われてき
た.社会的要請があったともいえるが,「東日本大震災研究
は研究費が獲得しやすい」といった側面があったことは否定
できないだろう.つまり未曾有の災害に対して,各大学や民
間財団,政府系の研究支援機関が「震災特別助成枠」を作る
等して,研究費助成を行ってきた.そのことは研究者による
被災者への「調査公害」や研究倫理上の様々な問題を誘発す
ることにも繋がった.
本書はこうした「アカデミックサークルだけのための研究」
(p. 257)に陥らないよう,内省的な視点を持ちながら研究分
析をしていたことが内容に深みを与えている.著者の西城戸,
原田は共に長期間の避難者支援に研究者であると同時に支援
者としても積極的に関わり,西城戸はNPO 法人埼玉広域避
難者センター(通称:福玉支援センター)代表理事,原田は
同センターの発行する『福玉だより』編集長も務めてきた.
西城戸は「あとがき」でセンター代表として被災者の相談事
業研修に参加した際のあるエピソードを紹介している.
そこで,ある専門家による「科研費が取れたので,相談事
業を行っている皆さんへの調査を行い,2 年後くらいには
問題点の解決策を示したマニュアルを渡します」という発
言を聞いて耳を疑った.[中略] 研究者であり支援の事業
者の立場を持つ西城戸は,「2 年後にマニュアルができたと
しても,今の支援体制が変わってしまったら,その研究は
意味があるのですか」と絶望的な気持ちになったのである.
そして同時に当事者は単に自分たちが利用され,剥奪され
る感覚を持つことを身にしみて感じ,同じ研究者として恥
じる気持ちになった.同じようなエピソードはこれだけで
はない.避難者とその支援の調査研究の中で,「アカデミッ
クサークルだけのための研究であってはならない」と自戒
することを,筆者らは何度も行うことになった(pp.
256-257).
本書がユニークなのはこうした現場に寄り添う視点を持ち
つつ,ミクロではなく,メゾレベルの分析を一貫して心がけ
ている点だ.「従来の調査方法論が指摘しているようなミク
ロレベルの調査者――被調査者の関係性を問うよりは,むし
ろメゾレベルにおける関係性を再帰的に記述,分析していく
ことを筆者らは目指してきた」(pp.258-259).メゾレベル分
析でありながら,内容にリアリティがあるという点でも本書
は稀有ともいえよう.
また現場で支援活動を行う各NPO リーダーにも本書は,組
織の活動・運営を客観的にみる手がかりとなるため,ぜひ手
にとって欲しい.