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偽膀胱腫瘤と診断したイヌの 3 症例

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Academic year: 2021

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(1)短報. 偽膀胱腫瘤と診断したイヌの 3 症例 Urinary bladder pseudomass in three dogs. 三品美夏 Mika MISHINA ,堀江和香,髙栁明子,渡邊俊文 麻布大学附属動物病院 腎泌尿器科. Keywords イヌ,偽膀胱腫瘤,膀胱鏡検査 ■ 要約. 超音波検査で膀胱頸部に発生した腫瘍が疑われたイヌ 3 症例に対して、尿路造影検査や膀胱鏡検査、細胞. 診検査などを行った。実際には 3 症例共に膀胱内に腫瘍や腫瘤は存在せず、超音波検査で認められた病変 は、膀胱尿道移行部の粘膜が膀胱内に突出する隆起(偽膀胱腫瘤)であることが確認された。偽膀胱腫瘤 を確定診断するのには膀胱内視鏡による観察が最も有用であったが、超音波検査や尿路造影検査でも特徴 的な所見が認められたことから、必ずしも内視鏡検査を行わなくとも診断ができる可能性が示唆された。 ■ Abstract. Urography, cystoscopy and cytology were performed in three dogs suspected of having a tumor of the bladder neck during ultrasonography. Study results, however, demonstrated no evidence of intravesical mass or tumor but revealed an inward bulge of the normal mucosa (pseudomass) at the vesicourethral junction in all three cases. Although cystoscopy was the most reliable diagnostic method, possibly pathognomonic findings were also identified on ultrasonographic and urographic images, suggesting that cystoscopy is not always indicated for diagnosis of a bladder pseudomass. 日本獣医腎泌尿器学会誌,12(1) :14 - 18,2020. されている。ただし、人においても腫瘍径が 5 mm 以. はじめに. 下や上皮内癌、膀胱前壁下部に発生した腫瘍などは超. イヌにおける膀胱腫瘍の 90%は悪性腫瘍であり、. 音波診断が困難である場合も多く存在すると言われて. その中でも最も発生率の高い腫瘍が膀胱移行上皮癌. いる[7]。膀胱腫瘤を診断する上で、特に移行上皮癌. で、その他の膀胱腫瘍としては、扁平上皮癌、未分化. の好発発生部位は膀胱三角部であることが知られてい. 肉腫などの悪性腫瘍、乳頭腫や平滑筋腫などの良性腫. るため[4, 6]、その部位での腫瘤発生の見落としがない. 瘍、さらに膀胱に発生する腫瘤性病変としては、慢性. ように細心の注意が必要であることを認識している。. 炎症などに続発するポリープ状過形成、好酸球性膀胱. 今回、我々は膀胱頸部に超音波検査で腫瘤性病変を. [4, 6]. 炎などがある. 。移行上皮癌を含む膀胱腫瘍の存在. の有無を検出する上で画像診断は非常に重要であり、. 認めたものの実際には腫瘤が存在しないと診断したイ ヌの 3 症例について報告する。. 従来の超音波検査や尿路造影検査だけでなく、最近で は CT 検査、内視鏡検査なども実施されるようになっ. 症例 1:チワワ、避妊雌、13 歳、2.8 kg. てきた。この中で、超音波検査は通常麻酔などを必要. 1 ヶ月前に排尿時間の延長と血尿がみられ、かかり. とせずに簡便に膀胱内構造を確認できることから、膀. つけ医にて膀胱炎と診断加療されていた。その後、症. 胱腫瘍のスクリーニング検査として有用な検査と認識. 状は良化したものの多少の残尿感があるとのことで、. 神奈川県相模原市中央区淵野辺 1-17-71 e-mail:[email protected]. 14.

(2) 1-a. 2-a. 1-b. 2-b 図 2 症例 1 における膀胱の尿路造影検査所見. 1-c 図 1 症例 1 における膀胱の超音波検査所見 a.. b. c..  軸像:膀胱頸部に腫瘤が確認される(黄色矢印) 長 膀胱三角部は別に確認される(白色矢印) 短軸像:約 5 mm 大の腫瘤が確認される 尿道カテーテルを中心として腫瘤が双葉状に観察される. a. ラテラル像:膀胱の尾側への変位が認められる(骨盤膀胱) b. VD 像:膀胱頸部に平滑でカテーテルを中心とした二 峰性の充填欠損像が認められる. 超音波検査を実施したところ膀胱三角部に腫瘤が確認. は二峰性にみえる充填欠損像が確認され、カテーテル. されたとのことで、精査のため、当院に紹介来院と. はその中央を貫くように存在していた(図 2b)。膀胱. なった。当院来院時にはすでに臨床徴候は認められな. 腫瘍の疑いがあるため、カテーテル吸引生検を行った. くなっていた。血液検査や尿検査などで異常は認めな. が、細胞診では異型性のない移行上皮細胞が確認され、. かった。超音波検査で症例の膀胱内を確認すると膀胱. 炎症や感染の所見も認められなかった。検査の結果か. 頸部に約 5 mm 大の腫瘤病変が確認された(図 1a, b) 。. らは移行上皮癌の可能性はかなり低いと考えられたも. 尿管開口部は腫瘤と別に存在することが確認され(図. のの、他の腫瘍であることは否定できないため、内視. 1a)、水腎症も認められなかった。そこで尿道カテー. 鏡下での観察を実施することとなった。. テルを挿入して腫瘤との関係を確認すると、カテーテ. 膀 胱 鏡 検 査 は 全 身 麻 酔 下 で 実 施 し、 先 端 部 外 径. ルは腫瘤の中心を貫くように進み、腫瘤はカテーテル. 3.4 mm、有効長 670 mm の腎盂尿管ビデオスコープ. を中心として双葉状に認められた(図 1c) 。尿路造影. (OLYMPUS 社製 URF TYPE V)を使用し、外尿. では症例の膀胱はやや尾側に変位がみられる、いわゆ. 道口より挿入して観察を行った。尿管開口部は正常に. る「骨盤膀胱」と判断した(図 2a) 。VD 像において、. 認められ、腫瘍を疑うようなものは確認できなかった. 腫瘤があると思われる膀胱頸部に平滑でドーム状また. が、膀胱頸部においてスコープを取り囲むようなドー. 15.

(3) 3-a. 3-b. 5-a. 図 3 症例 1 における膀胱の膀胱内視鏡検査所見 a. ス  コープの反転観察によって膀胱頸部にドーナツ状 の隆起が確認された b. 膀 胱容量を増加させ膀胱を伸展させると腫瘤は観察 されなくなる. 5-b 図 5 症例 2 における膀胱の尿路造影検査所見 a. ラ  テラル像:明らかな充填欠損像は確認できない。膀 胱の尾側への変位が認められる(骨盤膀胱) b. VD 像:膀胱頸部に充填欠損像が認められる. 4-a. 4-b 図 4 症例 2 における膀胱の超音波検査所見. 6-a. 6-b. 図 6 症例 2 における膀胱の膀胱内視鏡検査所見. a. 長軸像:膀胱頸部に腫瘤病変が確認される b. 尿 道カテーテルを中心として双葉状の腫瘤性病変が 観察される. a. 膀胱尖部よりスコープを挿入させて観察。尿道カテー テルを中心に粘膜が隆起している様子が確認された。 b. 膀 胱を頭側に牽引すると先に観察された隆起は消失 した。両側尿管開口部が観察される(黄色矢印). ナツ状の隆起が確認された。さらにその隆起は膀胱容. た際に超音波検査を実施され、偶発的に膀胱三角部に. 量を変化させて観察すると、容量の増加に伴い消失し、. 腫瘤病変が確認されたため、精査のため当院に紹介来. 容量を減少させると再び出現する様子を観察すること. 院となった。当院来院時には、すでに消化器症状は改. ができた(図 3a, b) 。明らかな膀胱内の腫瘤性病変は. 善しており、頻尿や血尿など泌尿器に関わる臨床徴候. 認めず、超音波検査や尿路造影検査で確認された腫瘤. については、一度も認めていないとのことであった。. 性病変は、膀胱尿道移行部粘膜の膀胱への隆起である. 血液検査や尿検査などで異常は認めなかった。超音波. と判断した。各種画像診断で膀胱頸部に腫瘤性病変を. 検査では、膀胱頸部に約 5 mm 大の腫瘤病変が確認さ. 認めるが実際には腫瘤が存在しないこの病変を「偽膀. れた(図 4a)ものの、左右腎臓共に水腎症は認めら. 胱腫瘤」と診断することとした。. れなかった。膀胱頸部から尿道にかけての状況を確認 するために症例 1 同様に尿道カテーテルを挿入しなが. 症例 2:ヨークシャー・テリア、去勢雄、10 歳、1.8 kg. ら観察すると、症例 1 と同様にカテーテルを中心に二. 食欲低下と血便ということでかかりつけ医を受診し. 峰性の隆起が確認された(図 4b) 。カテーテル吸引生. 16.

(4) イヌの偽膀胱腫瘤-三品美夏. 8-a 図 7 症例 3 における膀胱の超音波検査所見 膀胱頸部に尿道カテーテルを中心として双葉状の腫瘤性 病変が観察される. 検で行った細胞診では、異型細胞や炎症細胞などは確 認されなかった。尿路造影では症例 1 ほど詳細には描 出されないものの、骨盤膀胱と膀胱頸部の充填欠損像 が確認され、カテーテルが欠損像の部位を貫くように 存在していた(図 5a, b) 。症例 2 においても確定診断 のために飼い主の了承の元に膀胱鏡検査を行うことと なった。 症例 2 は雄のため外尿道口からのスコープ挿入が不. 8-b 図 8 症例 3 における膀胱の尿路造影検査所見. 可能であったことから、開腹下にて膀胱尖部よりスコー. a. ラ  テラル像:膀胱頸部に平滑でドーム状の充填欠損像 が認められる b. VD 像:膀胱の尾側への変位が認められる(骨盤膀胱) ラテラル像同様に膀胱頸部に充填欠損像が認められる. プを挿入して観察したところ、症例 1 と同様に膀胱頸 部において尿道カテーテルを取り囲むようなドーナツ 状の隆起が確認された(図 6a)。観察の際に膀胱を頭 側に牽引するとドーナツ状の隆起は消失するという特 徴があった(図 6b)。本症例も膀胱内に明らかな腫瘤. 滑でドーム状の充填欠損像が確認された(図 8a, b)。. 病変は確認できず、症例 1 同様に偽膀胱腫瘤と診断した。. カテーテル吸引生検による細胞診では、異型性のない 成熟した移行上皮細胞が確認された。確定診断を行う. 症例 3:ミニチュア・ダックスフント、避妊雌、8 歳、. ために膀胱鏡検査を提案したが、麻酔下での検査の同. 2.5 kg. 意を得ることはできなかった。症例 1 および 2 でみら. 本症例は、食欲不振と下痢を理由にかかりつけ医を. れた非侵襲的な画像診断所見とほぼ同様の所見が観察. 受診した際に偶発的に膀胱三角部の腫瘤が確認され、. されたことから総合的に判断し偽膀胱腫瘤と診断した。. 精査のため、当院に紹介来院となった。当院来院時には、 臨床徴候は全く認められなくなっていた。また、頻尿 や血尿などは一度も見られていないとのことであった。. 考察. 血液検査や尿検査などで異常は認めなかった。超音波. 移行上皮癌は膀胱三角部に好発することが知られて. 検査を実施すると、 膀胱頸部に腫瘤病変が確認されたが、. おり[4, 6]、この部位に腫瘤性病変が認められた場合には、. 左右共に水腎症は認められなかった。本症例も症例 1. その後の治療方針や予後判定にかかわることから注意. や症例 2 と同様に尿道カテーテルを挿入し、腫瘤病変. 深い鑑別診断が必要となる。. とカテーテルの位置関係などを確認するとカテーテル. 超音波検査は膀胱腫瘍の存在を非侵襲的に診断でき. は腫瘤を貫くように通る様子がみられ、腫瘤はカテー. る最も有用な検査であり、さらに TMN ステージ分類. テルを中心に双葉状に確認された(図 7) 。尿路造影. や予後判定などにも活用できると考えられている[1, 3, 5]。. ではやはり骨盤膀胱であり、ラテラル像および VD 像. しかし、時として腫瘍と他の疾患や膀胱内構造物など. の両方において、腫瘤があると思われる膀胱頸部に平. 誤って診断する可能性がある[8]。. 17.

(5) と思われる。膀胱が頭側に移動もしくは牽引されるよ うな状況ではこの隆起は消失することが膀胱鏡検査所 見で確認できたことから蓄尿量の増減で腫瘤は出現し たり消失したりすることが示唆された。 膀胱三角部に発生する腫瘍と今回確認された偽膀胱 腫瘤は、超音波所見が一見すると類似しているため、 過剰診断される危険性が高く、注意深い鑑別診断を行 う必要がある。 偽膀胱腫瘤を確定診断するためには、今回、膀胱鏡 検査が非常に有用であったが、膀胱鏡検査を実施する. 図 9 偽膀胱腫瘤が発現する機序. には麻酔が必要であり、実施には飼い主の承諾が必要 であるため、全ての症例で実施できるとは限らない。. 今回、超音波検査で認められた膀胱腫瘤は、膀胱三. しかし、偽膀胱腫瘤の症例の場合は、血尿や頻尿など. 角部に発生した腫瘍ではなく、正常な膀胱−尿道移行. の排尿障害が認められないこと、尿沈渣検査で異型細. 部粘膜が膀胱頸部側に突出した隆起あることが確認さ. 胞が見られないこと、超音波検査や尿路造影検査など. れ、本病変を便宜的に偽膀胱腫瘤という名称を診断名. の画像検査においても骨盤膀胱であること、腫瘤の表. とすることとした。このような現象の報告はイヌや猫. 面が平滑でドーム状もしくは双葉状や二峰性であるこ. では報告が無く、人でも前立腺腫瘍の膀胱尿道吻合部. と、膀胱に挿入した尿道カテーテルは常に腫瘤の中央. に腫瘤状の所見が見られたが、膀胱鏡検査によって再. を貫くように存在する像が確認できることといったか. 発が否定され、これが正常膀胱粘膜の限局性陥入であっ. なり特徴的な所見が得られるため、臨床徴候や細胞診. [2]. たという症例報告がある程度である. 。この報告でも. 「偽腫瘤:Pseudomass」という名称を用いている. [2]. 。. の結果なども踏まえると必ずしも膀胱鏡検査を行わな くとも十分に診断ができる可能性が示唆された。. 偽膀胱腫瘤が生じるメカニズムとしては、3 症例が. 今回確認された偽膀胱腫瘤は、骨盤膀胱の症例で不. 骨盤膀胱であることや症例 1 および 2 の膀胱内視鏡所. 十分な場合に出現する可能性が高いが、今までに同様. 見から考慮すると、膀胱が尾側へ変位することに伴い. の報告が無いことや当院でも症例経験が少ないことか. 膀胱−尿道移行部の粘膜の一部が膀胱内腔へ軽度反転. ら、偽膀胱腫瘤の発現要因などについては、今後も症. 突出するのではないかと考えられた(図 9) 。そして、. 例を重ねて検討が必要であると思われる。. これが超音波検査において膀胱腫瘤と判断されたもの. 参考文献 [1] Denkhaus, H., Crone-Münzebrock,W. and Huland,. H. (1985):. Noninvasive ultrasound in detecting and staging bladder carcinoma. Urol. Radiol., 7, 121-131. [2] Halpern, E.J. and Gomella, L.G. (2003): Pseudomass. of the bladder neck after prostatectomy: report of two cases. Radiology, 226, 833-835.. [3] Hanazono, K., Fukumoto, S., Endo, Y., Ueno, H.,. Kadosawa, T. and Uchide, T. (2014):. Ultrasonographic findings related to prognosis in canine transitional cell carcinoma. Vet. Radiol. Ultrasound, 55, 79-84.. [4] Knapp. D.W., Glickman, N.W., Denicola, D.B.,. Bonney, P.L., Lin, T.L. and Glickman, L.T. (2000): Naturally-occurring canine transitional cell carcinoma of the urinary bladder A relevant model of human invasive bladder cancer. Urol. Oncol., 5, 47-59.. [5] Leveille, R., Biller, D. S., Partington, B. P. and. 18. Miyabayashi T. (1992): Sonographic investigation of transitional cell carcinoma of the urinary bladder in small animals.Vet. Radiol. Ultrasound, 33, 103-107.. [6] Norris, A.M., Laing, E.J., Valli, V.E., Withrow, S.J.,. Macy, D.W., Ogilvie, G.K., Tomlinson, J., McCaw, D., Pidgeon, G. and Jacobs, R.M. (1992): Canine bladder and urethral tumors: a retrospective study of 115 cases (1980-1985). J. Vet. Intern. Med., 6, 145-53.. [7] Ozden. E, Turgut. A,T, Turkolmez. K, Resorlu, B.. and Safak, M. (2007): Effect of bladder carcinoma location on detection rates by ultrasonography and computed tomography. Urology, 69, 889-92.. [8] Smereczy ski, A., Szopi ski, T., Goł bek, T., Ostasz,. O. and Bojko, S. (2014): Sonography of tumors and tumor-like lesions that mimic carcinoma of the urinary bladder. J. Ultrason., 14, 36-48..

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参照

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