【その他:研究報告】
看護小規模多機能型居宅介護の地域分布の実態把握
渡邊 里香
1),小野 博史
1),芳賀 邦子
2),真鍋 雅史
3),粟村 健司
1),撫養 真紀子
1),新居 学
4),
中西 永子
1),坂下 玲子
1)1)
兵庫県立大学看護学部,2)
秋田看護福祉大学,3)
嘉悦大学ビジネス創造学部,4)
兵庫県立大学工学部要 旨
【背景】 高齢化率の進展に伴い,地域包括ケアシステムが推進されている。2012 年より,複合型サービス(現在名称は,看護小規 模多機能型居宅介護,以下看多機)が創設され,訪問看護・訪問介護,通所,宿泊を組み合わせて包括的な生活支援ができ るサービスが展開されているが,全国規模での開設・運営状況の情報は明らかにされていない。 【目的】 全国の看多機に関する情報や人口動態に関する情報を用いて,看多機の運営状況や開設地域の特徴を明らかにすることで ある。 【方法】 「介護事業所・生活関連情報検索」のウェブサイトを用いて,2018 年 12 月 31 日の時点で登録されている全看多機を対象 とし施設属性,運営状況,従業員情報等を抽出した。また,同ウェブサイトから都道府県別の看多機数,小規模多機能型居 宅介護数(以下,小多機数),訪問看護事業所数を抽出した。「国勢調査」等から都道府県別の高齢化率,人口密度,人口の 情報を収集した。分析は度数分布・記述統計分析,スピアマンの相関係数を用いた相関分析とした。 【結果】 全国の看多機数は479 であった。都道府県別の看多機数は平均 10.19±10.51 であった。市町村別でみると,1724 の市町村 のうち 233(13.5%)に看多機が所在した。看多機数と有意な相関(相関係数 ρ)を認めたのは,小多機数(.765),訪問看護 事業所数(.747),人口(.703),人口密度(.513)が正の相関,高齢化率(-.442)が負の相関であった。 【考察】 地域別の看多機数には大きなばらつきがみられ,高齢者の割合の高い地域ではなく,人口の多い地域や人口の密集した地 域に多く開設されていた。過疎地では職員確保やサービス供給コストが影響する可能性があると考えられる。今後,どの地 域でも安定して看多機が運営され,拡大するためには,現在生じている運営課題を明らかにしていくことが重要であると考 えられる。 キーワード:看護小規模多機能型居宅介護,コミュニティヘルス,サービス普及,施設運営 責任著者:渡邊 里香 Email:[email protected] 受付日:2020 年 3 月 2 日 受理日:2020 年 7 月 6 日Ⅰ.背 景 令和元年版高齢者白書(内閣府,2019)によると 2018 年 10 月 1 日現在の日本の 65 歳以上人口は 3,558 万人であり, 総人口に占める割合(以下,高齢化率)は 28.1%となった。 世界人口の動向との比較において,2015 年の先進地域の高 齢化率の平均値 17.6%や,高齢化率が高いドイツ 21.1%,ス ウェーデン 19.6%からみても,日本の高齢化率は高い。20 歳 以上の日本の年齢階級別一人当たりの医療費は,年齢とと もに高くなる傾向にあり,64 歳までは入院外すなわち,外 来の医療費が高いが65 歳以上になると入院の医療費の方が 高くなっている(厚生労働省,2019)。2016 年度の社会保障 給付費は国民所得の 29.84%を占め(内閣府,2019),財政を 逼迫している。一方,家族形態は急速に変化し,65 歳以上 の高齢者がいる世帯は,1995 年までは 3 世代世帯が最も多 かったが,2000 年以降は夫婦のみの世帯の割合が最も高く, 2017 年は 32.5%が夫婦のみ世帯,26.4%が単独世帯となっ ている(内閣府,2019)。しかし 60 歳以上の 93.1%が現在住 んでいる地域に住み続ける予定があると回答し,2017 年の 「人生の最終段階における医療に関する意識調査」では,60 歳以上の51.0%が自宅で最期を迎えたいと回答している(内 閣府,2019)。 このような社会背景に伴い,医療費の適正化と高齢者の 生活の質の確保を両立する政策が課題となっている。2005 年の予防重視への転換や新たな介護サービス体系の確立を 含めた介護保険法改正案,2006 年の在院日数短縮や医療費 適正化等を目的とした医療制度関連法案が可決成立したこ とは,医療における地域という枠組み導入の転換点といえ る(川越,2008)。そして,2012 年に施行された改正介護保 険法において,地域包括ケアシステムを推進していくこと が法律上に明記され,切れ目のないサービス提供を目指し て複合型サービスをはじめとするいくつかの制度が創設さ れた。 複合型サービスは,訪問看護・訪問介護サービス,通所サ ービス,泊まりサービスなど多様なサービスを一つの事業 所が提供する事業であり,2015 年より看護小規模多機能型 居宅介護(以下,看多機)と名称変更された。小規模多機能 型居宅介護(以下,小多機)と訪問看護の機能を併せ持つこ のサービスは,医療依存度の高い人にも対応し,包括的に生 活支援ができるため理論的なニーズが高いといえるが,ど のような地域でどのように開設されているのかについての 全国的な情報は明らかとなっていない。厚生労働省は,所在 地や提供しているサービスの情報から,誰でも地域の事業 者や施設を検索することが可能なサービスとして「介護事 業所・生活関連情報検索」というウェブサイトを公開してお り,介護保険法に基づく全 25 種類 51 サービスの事業所・ 施設が登録されている(2018 年 12 月 31 日現在)。本研究で は,この公開情報を用いた二次分析を通して,全国規模での 看多機の開設状況や運営状況に関する基礎資料を得ること を目的とする。 Ⅱ.研究の目的 本研究の目的は,「介護事業所・生活関連情報検索」から 引用した看護小規模多機能型居宅介護の事業所に関する情 報や国勢調査,住民基本台帳に基づく人口,人口動態及び世 帯数の情報を用いて二次分析を行うことにより,看多機の 運営状況の特徴や開設されている地域の特徴を明らかにす ることである。 Ⅲ.方 法 1.「介護事業所・生活関連情報検索」からのデータ収集 「介護事業所・生活関連情報検索」のウェブサイトから看 護小規模多機能型居宅介護を検索した。対象は 2018 年 12 月 31 日の時点で,システムに登録されている全看多機とし た。該当事業所すべてについて,以下に示す事業所属性,運 営状況,従業員情報,利用者情報に関するデータを収集し, データベースを作成した。また,都道府県別の看護小規模多 機能型居宅介護事業所数,小規模多機能型居宅介護事業所 数,訪問看護事業所数について都道府県ごとに集計した。 1)事業所属性 所在地,設置主体,事業開始年,併設サービスの有無 2)運営状況 利用者の権利擁護(12 項目),サービスの質確保への取り 組み(31 項目),相談・苦情等への対応(7 項目),外部機関 との連携(6 項目),事業運営・管理(11 項目),安全・衛生 管理等(18 項目),従業員の研修等(9 項目)の 7 つのカテ ゴリーについて,取り組みやマニュアル整備の状況につい て 0-5 点の範囲で点数化されたものである。各カテゴリーの 項目数のうちあてはまる項目の割合によって 0-5 点に自動 計算にて換算されている。
3)従業員情報 総従業員数,常勤介護職員数,常勤看護職員数,非常勤介 護職員数,非常勤看護職員数,介護職員・看護職員の退職者 数,経験年数 5 年以上の職員の割合,夜勤を行う従業員数 4)利用者情報 登録者の平均年齢,要介護度別の利用者の人数 2.国勢調査,住民基本台帳からのデータ収集 「国勢調査」より 2015 年 10 月 1 日時点の都道府県別高 齢化率,人口密度を,「住民基本台帳に基づく人口,人口動 態及び世帯数」より2018年1月1日時点の人口を収集した。 3.データ分析 看多機事業所の公表データについては,度数分布,記述統 計を実施した。また,都道府県の事業所数や人口については 相関係数を算出し各変数の相関分析を実施した。看多機等 の事業所数について,正規性の検定を行ったところ正規分 布していないためスピアマンの相関係数を用いた。有意水 準は 5%と定めた。統計処理には SPSS ver.25 を使用した。 Ⅳ.結 果 2018 年 12 月 31 日現在,介護事業所・生活関連情報検索 で公開されている看多機の事業所数は 479 であった。 1.事業所属性 看多機の所在地は関東が120(25.1%)で最も多く,次い で,近畿 81(16.9%),中部 78(16.3%)であった。また, 少ない地区は四国15(3.1%),東北 32(6.7%)であった(表 1)。都道府県別でみると,多い順に,神奈川県 48,北海道 46,大阪府 36,東京都 34,静岡県 19,福岡県 19 であった (表1)。少ない順では,徳島県,山梨県が 1,沖縄県,宮 崎県,高知県,栃木県が 2,奈良県が 3 であった。市町村別 でみると,2018 年 12 月 31 日時点で存在していた1724 の市 町村のうち,看多機が 1 箇所以上所在する市町村は 233 (13.5%)であった。市町村別に多い順では,札幌市 28,横 浜市 14,川崎市 14,久留米市10,静岡市 10,大阪市 10 で あった。 設置主体別では,営利法人が 239(49.9%)と最も多く, 次いで,医療法人 106(22.1%),社会福祉法人(社協以外) 85(17.7%)であった(表 2)。事業開始年はサービス開始初 表 1.都道府県別看多機数 地方 都道府県 看多機数 北海道 (46) 北海道 46 東北 (32) 青森県 4 岩手県 4 宮城県 9 秋田県 5 山形県 4 福島県 6 関東 (120) 茨城県 6 栃木県 2 群馬県 8 埼玉県 11 千葉県 12 東京都 34 神奈川県 47 中部 (78) 新潟県 9 富山県 5 石川県 5 福井県 13 山梨県 1 長野県 3 岐阜県 10 静岡県 19 愛知県 13 近畿 (81) 三重県 5 滋賀県 6 京都府 9 大阪府 36 兵庫県 16 奈良県 3 和歌山県 6 中国 (38) 鳥取県 4 島根県 4 岡山県 9 広島県 15 山口県 6 四国 (15) 徳島県 1 香川県 5 愛媛県 7 高知県 2 九州・沖縄 (69) 福岡県 19 佐賀県 9 長崎県 9 熊本県 10 大分県 9 宮崎県 2 鹿児島県 9 沖縄県 2 合計 479 ( )は地区別総数 年度にあたる 2012 年が 17(3.5%)であり,その後は,毎年 70 から 80 台の事業所が事業開始していた(表 3)。併設サ
表 2.設置主体別看多機数 設置主体 度数 % 営利法人 239 49.9 医療法人 106 22.1 社会福祉法人(社協以外) 85 17.7 NPO 法人 16 3.3 社団・財団 13 2.7 生協 11 2.3 社会福祉法人(社協) 3 0.6 その他 6 1.3 合計 479 100.0 表 3.事業開始年別看多機数 開設年 度数 % 2012 17 3.5 2013 71 14.8 2014 71 14.8 2015 76 15.9 2016 81 16.9 2017 87 18.2 2018 73 15.2 未登録 3 0.6 合計 479 100.0 表 4.併設サービスの有無 併設サービスの有無 度数 % あり 131 27.3 なし 243 50.7 未入力 105 21.9 合計 479 100.0 表 5.運営状況得点の平均と標準偏差 (n = 335) 運営状況の項目 平均値 標準偏差 利用者の権利擁護 4.8 0.6 サービスの質の確保への取組 4.1 1.2 相談・苦情等への対応 4.5 1.0 外部機関との連携 4.1 1.1 事業運営・管理 4.0 1.3 安全・衛星管理等 4.1 1.1 従業者の研修等 3.8 1.3 ービスの有無では,あり 131(27.3%),なし 243(50.7%), 未入力 105(21.9%)であった(表 4)。 2.運営状況 運営状況の入力は,事業開始年が 1 年未満では対象外で あり,また,事業開始から数年経過しても未記入の事業所も あったため,運営状況に関しては,144 の欠損値があり,有 効数が 335 であった。 平均値が高かった項目は,利用者の権利擁護4.8±0.6,相 談・苦情等への対応 4.5±1.0,平均値が低かった項目は,従 業員の研修等 3.8±1.3,事業運営・管理 4.0±1.3 であった (表 5)。 3.従業員情報 従業員情報の平均値と標準偏差について,総従業員数は 21.1±6.9 人,常勤介護職員数は 7.0±3.5 人,常勤看護職員 数は 3.9±2.4 人,非常勤介護職員数は 4.7±4.3,非常勤看護 職員数は 3.0±2.8 人,介護職員・看護職員の退職者数は 2.4 ±3.3人,夜勤を行う従業員数は6.4±5.6人であった(表6)。 4.利用者情報 登録者の平均年齢は83.5±3.3 歳であり,要介護度別では, 要介護 2 が最も多く,4.1±2.7 人,最も少なかったのは要介 護度 1 で 3.4±2.8 人であった(表 7)。要介護度別の利用人 数を合計して利用人数を算出したところ,平均利用人数は 18.9±7.0 人であった。 5.都道府県別の看多機数,小多機数,訪問看護事業所数, 高齢化率,人口,人口密度との相関 都道府県別の看多機数は平均 10.2±10.5,小多機数は 116.4±76.5,訪問看護事業所数は 240.0±238.1 であった(表 8)。 看多機数と小多機数,訪問看護事業所数,高齢化率,人口, 人口密度との関係を検討するため,スピアマンの相関係数 (ρ)を算出したところ,看多機数は,小多機数(ρ = .765, p = .000),訪問看護事業所数(ρ = .747,p = .000),人口(ρ = .703,p = .000),人口密度(ρ = .513,p = .000)と有意な正 の相関がみられたが,高齢化率(ρ = -.442,p = .002)とは有 意な負の相関がみられた。(表 9)。
表 6.従業員の配置数 従業員情報 度数 平均値 標準偏差 中央値 最小値 最大値 総従業員数 479 21.1 6.9 20 3 58 常勤介護職員数 475 7.0 3.5 7 1 31 常勤看護職員数 461 3.9 2.4 3 1 19 非常勤介護職員数 479 4.7 4.3 4 0 34 非常勤看護職員数 479 3.0 2.8 2 0 18 介護職員・看護職員の退職者数 478 2.4 3.3 1 0 22 経験年数 5 年以上の介護職員・看護職員の割合 479 36.8 31.8 33.3 0 100 夜勤を行う従業員数 476 6.4 5.6 4.5 1 32 表 7.利用者の年齢と要介護度別の人数 利用者情報 度数 平均値 標準偏差 中央値 最小値 最大値 登録者の平均年齢 466 83.5 3.3 84 68 92 要介護1の人数 466 3.4 2.8 3 0 16 要介護2の人数 466 4.1 2.7 4 0 13 要介護3の人数 466 3.8 2.5 4 0 11 要介護4の人数 466 3.8 2.5 4 0 16 要介護5の人数 466 3.8 3.0 3 0 15 利用人数(合計) 465 18.9 7.0 20 1 29 表 8.都道府県の統計データの記述 度数 最小値 最大値 平均値 標準偏差 看多機数 47 1 47 10.2 10.5 小多機数 47 22 373 116.4 76.5 訪問看護事業所数 47 46 1,078 240.0 238.1 高齢化率(%) 47 30.3 43.8 37.3 2.5 人口(30 年 1 月 1 日) 47 570,824 13,637,346 2717175.7 2750951.9 人口密度(人/㎢) 47 68.6 6,168.7 655.3 1194.4 平均在院日数(一般病床) 47 13.9 21.5 17.3 1.6 平均在院日数(療養病床) 47 103.6 256.5 152.8 33.1 人口 10 万対看多機数 47 0.1 1.6 0.4 0.3 人口 10 万対小多機数 47 1.5 12.2 5.6 2.6 人口 10 万対訪問看護事業所数 47 5.3 13.6 9.4 2.5 人口 10 万対病床数 47 810.5 2,522.4 1411.9 362.0 人口 10 万対精神病床 47 153.6 586.9 320.6 115.3 人口 10 万対療養病床 47 134.0 928.4 306.5 157.3
表 9.都道府県別看多機数とその他の変数との相関係数 看多機数 小多機数 相関係数 .765 (有意確率) (.000) 訪問看護事業所数 相関係数 .747 (有意確率) (.000) 高齢化率(%) 相関係数 -.442 (有意確率 ) (.002) 人口 相関係数 .703 (有意確率) (.000) 人口密度(人/㎢) 相関係数 .513 (有意確率) (.000) Spearman の相関係数,両側検定 Ⅴ.考 察 「介護事業所・生活関連情報検索」を用いて,看護小規模 多機能型居宅介護の全事業所に関する情報を記述統計にて 整理し,「国勢調査」「住民基本台帳に基づく人口,人口動態 及び世帯数」の高齢化率,人口等の変数との相関分析から地 域性を検討した結果,今後の看多機事業所数の拡大とサー ビスの質の確保について,以下の示唆を得た。 1.事業所属性 運営状況で点数の高かったカテゴリーは,利用者の権利 擁護,相談・苦情等への対応であった。一方で点数の低かっ たカテゴリーは従業員の研修等,事業運営・管理であった。 従業員への研修等は,新任・現任のすべての職員への研究計 画の有無や研修記録の有無等であり,人材育成への取り組 みが十分とはいえない状況を反映しているといえる。2013 年の調査では訪問看護ステーションの看護職は常勤換算で, 5 人未満が約 66%と小規模な事業所が多く(全国訪問看護 事業協会,2013),人材育成の課題に対しては,e-leaning 等 の取り組みが行われている。人員規模,経済基盤から,看多 機も同様の課題があると推測される。今後ますます看護提 供の場が病院ではなく,地域にシフトされる見込みであり, 看多機事業所単位でなく地域単位での人材育成の仕組み, 支援が重要と考えられる。 さらに,点数の低かった事業運営・管理には,事業運営の 透明性確保のための取り組みやサービス改善の取り組みと いったガバナンスを高める力が含まれている。看護師が質 の高い看多機を開設・運営するにあたっては,看護実践以外 に経営的スキルが求められることを示唆する結果であると いえる。今後,看多機で求められる看護職の能力を明らかに して,人材育成に活用していくことが重要と考えられる。 2.看多機事業所数の拡大のための示唆 都道府県別の看多機事業所数は1 事業所から48 事業所ま でばらつきがあった。また市町村別では,看多機を開設して いる自治体は全体の 13.5%であった。 看多機数の多い地域,少ない地域にどのような特性があ るのかについての傾向を知るため,都道府県レベルでの高 齢化率,人口,人口密度,小多機事業所数,訪問看護事業所 数との関連を検討した結果,看多機事業所数と小多機事業 所数,訪問看護事業所数,人口との間で強い相関がみられ, 人口密度とは中程度の正の相関がみられた。このことから, 事業所が人口の多い地域に集中して開設されていることが 示唆された。一方,看多機登録者の平均年齢は 83.5±3.3 歳 であり,その制度設計からも高齢化率の高い地域にニーズ があると考えられるが,高齢化率とは有意な負の相関を示 した。看多機が多いつまり,看多機は高齢者の割合の高い地 域ではなく,人口の多い地域や人口の密集した地域に立地 していることが明らかになった。看多機は地域密着型サー ビスであり,認知症高齢者や中~重度の要介護者等も住み 慣れた地域で暮らしていけるように,市町村指定の事業者 が地域住民に提供するサービスである。地域密着型サービ スで働く看護職に期待される役割の一つとして,看取りが あげられる(永田,2016)。在宅死亡を経験している看多機 事業所は 65.6%,施設内で看取りを経験している事業所は 46.5%であり(三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング株式 会社,2016),開設数年でも多くの看多機で看取りが実践さ れている。高齢化率 40%以上の地区にある看多機で看取り を多く実践している事例報告(上野,2015)では,看取りに おける近隣の総合病院や緩和ケア病棟との連携の重要さが 指摘されている。また,看取りに限らず,看多機と診療所・ 他事業所との連携が重要であることが在宅医の視点からも 報告されており(斎藤,2018),そのような連携の中で,看 多機の機能は発揮されると考えられる。そのため看多機は, 周辺地域に連携できる医療機関や連携施設が多い地域,す なわち人口の多い地域や人口の密集した地域に開設されや すいと推察される。 また,看多機の課題として事業所の経済的不安定さが指 摘されており(片平ら,2019),具体的には利用者確保の問
題や利用者の要介護度の変動により報酬が不安定になるこ とが挙げられている。看多機と同様に価格競争のないサー ビス提供をする診療所について,新規参入のときの立地場 所の決定要因は潜在的需要と大病院の存在であることが報 告されている(吉田ら,2007)。そして,病院と診療所は補 完的な関係として大病院のある一部地域に集中して立地す る傾向があり,医療についても需要に対してサービス供給 の少ない地域が存在し,受診コストのような社会厚生上の 損失があることを指摘されている(吉田ら,2007)。看多機 は診療所のように患者が自ら移動して受診するサービスで はなく,利用者の生活の場に赴いて提供するサービスであ ることから,人口密度の低い地域の看多機は,さらに移動コ スト等の損失が生じる。包括的な報酬内でサービス提供を 請け負う看多機事業所にとってその負担は大きいといえる。 このような理由から,利用者数が安定して確保できる人口 の多い地域に優先して開設していることも考えられる。 3.研究の限界点と今後の研究課題 「介護事業所・生活関連情報検索」に公開されている情報 は各事業所が入力して都道府県に提出したものであること から,所在地以外は入力情報が正確ではない可能性がある。 今回の調査では都道府県単位での分析を通して,地域特性 と事業所設置数との関係を示したが,地域特性が看多機の 運営状況に与える影響についてまでは分析できなかった。 今後,看多機事業所数の増加に合わせて地域ごとの運営の 特徴についても明らかにしていく必要がある。また,設置主 体,開設からの年数,従業員数や常勤看護師数,経験年数 5 年以上の従業員の割合等によって運営状況に差があるのか, 分析していくことで,質の高いサービス提供ができている 事業所の特徴についても明らかにすることは可能であると 考えられる。そのような知見を用いて経営モデルを示すこ とは今後の課題である。 最後に,北海道は看多機数が神奈川県に次いで 2 番目に 多かったが,高齢化率は 40.7%と高く人口密度は最も低か ったため外れ値となっている。北海道は日本の約 5 分の 1 の面積を有しており,かつ開設されている施設の半数が日 本で第 5 位の都市である札幌に集中していることが外れ値 となった大きな要因であると考えられる。分析にあたって はそのような特徴を十分に理解しておく必要がある。 Ⅵ.結 論 看多機が開設されている市町村は全体の13.5%と少なく, 都道府県別の看多機事業所数には大きなばらつきがみられ た。看多機が立地している地域は,高齢者の割合の高い地域 ではなく,人口の多い地域や人口の密集した地域であるこ とが明らかになった。今後,需要がある地域で安定して看多 機が運営され,拡大していくためには,現在生じている実務 的な運営課題を明らかにしていくことが重要であると考え られる。 運営状況では,「従業員の研修等」,「事業運営・管理」に ついて平均点が低かった。今後,質の高いサービスを提供し ている看多機の特徴,そこで働く看護職に必要な能力を明 らかにしていくことが看多機サービス拡大に重要と考えら れる。 利益相反:開示すべきCOI関係にある企業・組織および団 体はありません。 文 献 片平伸子, 丸尾智美, 小川妙子 (2019). 看護小規模多機能型居宅介護サービスの強みと課題 ― 事例報告の分析から. 日本 プライマリ・ケア連合学会誌, 42(1), 32-39. 川越雅弘 (2008). 我が国における地域包括ケアシステムの現状と課題. 海外社会保障研究, 162, 4-15. 厚生労働省 (2019 年 9 月 26 日). 平成29 年度国民医療費の概況. https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-iryohi/17/dl/data.pdf 三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社 (2016). (1) 看護小規模多機能型居宅介護のサービス提供の在り方に関する 調査研究事業. 平成 27 年度介護報酬改定の効果検証及び調査研究に係る調査 ( 平成 27 年度調査). https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000133781.pdf
永田千鶴 (2016). 地域密着型サービスが地域包括ケアシステムで果たす機能と看護職の役割. 老年看護学, 21(1), 5-9. 内閣府 (2019 年 6 月 18 日). 令和元年版高齢社会白書全体版 (PDF 版). https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2019/ zenbun/01pdf_index.html 齋藤忠雄 (2018). 「在宅ケア」を核に連携・協働を ― 在宅医からみた看多機運営の勘所. 訪問看護と介護, 23(8), 570-572. 上野幸子 (2015). 報告 3 看護小規模多機能型居宅介護 重症でも「家に帰れる」「看取りができる」地域を構築していく. 看 護, 67(15), 50-52. 吉田あつし, 幸野聡 (2007). 茨城県における診療所間の空間的競争. 日本統計学会誌, 37(1), 133-150. 全国訪問看護事業協会(2013). 訪問看護アクションプラン 2025~2025 年を目指した訪問看護~. https://www.jvnf.or.jp/ 2017/actionplan2025.pdf
A study on the nationwide distribution of Japanese long-term care Kantaki
Rika Watanabe
1), Hiroshi Ono
1), Kuniko Haga
2), Masashi Manabe
3), Kenji Awamura
1),
Makiko Muya
1), Manabu Nii
4), Eiko Nakanishi
1), Reiko Sakashita
1)1) College of Nursing Art and Science, University of Hyogo, 2) Akita University of Nursing and Welfare, 3) Faculty of Business Innovation, Kaetsu University, 4) School of Engineering, University of Hyogo
Abstract
[Background] To promote an integrated community care system, the Japanese government created a multifunctional long-term care
service model called Kantaki in 2012, aiming to provide a combination of services such as short-stay, day-care, and home visit by aides and/or nurses to meet various client needs. However, it is unclear how well this model has been utilized and accessed throughout Japan.
[Objective] This study aimed to understand the distribution status of Kantaki through a secondary analysis of information on its operations
and population trends released by public institutions.
[Methods] The study determined the number of Kantaki, Shotaki (a service that is similar to the Kantaki model except it does not provide
home visit service by nurses), and visiting nurse stations from the Ministry of Health, Labour and Welfare website registry. Population trend information was collected from the national census. Statistical processing included a correlation analysis using descriptive analysis and Spearman’s correlation coefficient.
[Results] As of December 31, 2018, there were 479 Kantaki operations throughout Japan. The mean number of Kantaki operations by
prefecture was 10.19 ± 10.51. Of the municipalities, 233 (13.5%) out of 1,724 had Kantaki operations available. The number of Shotaki (.765), number of visiting nurse stations (.747), population (.703), population density (.513), and the rate of aging (-.442) were found to have a significant correlation with the number of Kantaki operations present.
[Discussion] The number of Kantaki operations showed a large variation across regions, with a higher prevalence in population-dense
urban areas, and lower prevalence in regions with a high aging rate. This reveals the distribution model is unrelated to the elderly population, who can be potential clients, and must be affected by other reasons such as staffing issues and operating costs. To promote Kantaki throughout Japan, such operational issues should be analyzed further.
Key Words: Long-term care, Community health care, Service spread, Facility management
Correspondence author: Rika Watanabe Email: [email protected] Received: March 2, 2020; Accepted: July 6, 2020