理学療法における自主トレーニングの
重要性を考える
鈴木 俊明
Considering the importance of self-training in physical therapy
Toshiaki SUZUKI, RPT, DMSc
Abstract
Self-training must be carried out for the purpose of deriving the correct problem by physical therapy evaluation and solving the problem. As, the physical therapist must be able to properly provide the necessary self-training for the patient himself. The physical therapist must also check whether the patient is properly performing self-training. We believe that proper self-training will help restore motor function.
Key words: voluntary training, physical therapy
J. Kansai Phys. Ther. 20: 1–2, 2020
特集 理学療法における自主トレーニングの重要性を考える
関西理学 20: 1–2, 2020 はじめに 今回の雑誌「関西理学療法」の特集は「自主トレーニ ングを考える」である。皆さんは、患者さんに自主トレー ニングを適切に指導できているだろうか。 私が理学療法士になった当時(1986 年)は、1 日に多 くの患者を担当させていただくことができた。当時の理 学療法の制度は、1974年に制定されたものであり、治療 に45分を要するものを「複雑」と治療に15分を要する「簡 単」に分けられていた。複雑では、マンツーマンで理学 療法を実施し、1日12人まで実施可能であったが、簡単 は1 回に 3 人まで同時に治療可能であり、1 日 36 人まで 実施可能であった。今と比較すると、非常に多くの方の 理学療法をさせていただけたという喜びと、しかし、理 学療法士の少なさより、多くの治療は「簡単」で実施し たために、充分な治療時間を確保できなかった。そこで、 日常から自主トレーニングの重要性を感じていた。 そこで、本稿では、自主トレーニングをどのように考 えるかを述べる。 自主トレーニングの必要性とトレーニング内容の決定 自主トレーニングは、理学療法の効果を持続させる目 的で必要である。そのために、読者の皆さんにご理解い ただきたいのは、実際の理学療法の場面で変化を認めな い理学療法の内容を自主トレーニングで実施しても意味 がない。要するに、自主トレーニングの内容を決定する には、理学療法士が効果的な理学療法を実施できるよう になることが大切である。それには、正しい理学療法評 価ができることが重要になる。著者は「トップダウン評 価」を極めることが重要であると考えている。「トップダ ウン評価」を極めるために、問題となる基本動作の実用 性の低下を考えて、なぜ、その実用性の低下がみられる かを考える。この考えるなかで、動作観察が正しくでき ることが重要である。動作観察の方法に関しては、雑誌 「関西理学療法」の症例報告を読んでいただければ理解し ていただけると思うが、簡単にお伝えすると「なぜ、こ んな動作をしなければいけないか」を考えるわけである。 著者は良く「動作のストーリー」をつくることが大切で あると述べている。 動作のストーリーをつくることができれば、自然に問 題点は理解できるはずである。例えば、椅子からの立ち 関西医療大学大学院 保健医療学研究科 Graduate School of Health Sciences, Graduate School of Kansai2 鈴木俊明 上がり動作が困難である症例を考えてみたい。症例の立 ち上がり動作において、「立ち上がり動作が困難である」 と思うのは何が原因かを考える。この場合に、原因とい うと筋力や可動域の問題を想定する方が多いが、そうで はない。例えば、「立ち上がり動作の屈曲相ができないの で、立ち上がり動作が困難になる」とか「立ち上がり動 作のなかで殿部離床をおこなうことは可能であるが、伸 展相で不安定になり後方へ転倒する」のように動作のど この時期に注目する必要があるかを予想するわけである。 注意してほしいのは、動作で問題になった時期だけが問 題か否かはわからない。「立ち上がり動作の屈曲相がで きないので、立ち上がり動作が困難になる」症例は、屈 曲相での運動が充分にできないことが問題であるが、「立 ち上がり動作のなかで殿部離床をおこなうことは可能で あるが、伸展相で不安定になり後方へ転倒する」症例は、 伸展相での運動が困難であることが問題であるのか、伸 展相に移行するまでの動作が正常とは異なることが問題 であるのかを考えるわけである。 この問題となる動作の時期を構成している運動を考え ることで問題点は抽出可能である。適切に問題点を抽出 するためには、症例の動作と正常動作との比較ができる ことが重要であり、問題点は機能障害レベルで抽出する。 その問題点を解決するためにおこなうのが、自主トレー ニングである。 全ての機能障害の問題点に対して 自主トレーニングをおこなうのがよいか 著者は、理学療法士になったばかりの時には、病院を 退院される患者さんに、退院時のプレゼントとして「自 主トレーニングメニュー」の冊子を作成していた。患者 さんには、退院時に冊子を受け取っていただき、大変喜 んでいただいた。しかし、外来リハビリテーションで来 られた時には、著者の「自主トレーニンングしていただ いていますか?」の問いに微笑むだけであった。ある日、 患者さんのお一人が「先生、気悪くしないでくださいね。 先生が熱心に一生懸命作ってくれているのはわかります が、メニューが多すぎてできません。」と話してくれた。 その患者さんの勇気あるお話より、自主トレーニングの メニューは2種類までと限定した。 要するに、最も優先順位の高い問題点に対する自主ト レーニングを考えるべきである。患者さんに適切な自主 トレーニングを提供するには、やはり正しい理学療法評 価が必要になる。それ以降、患者さんには真面目に2 種 類の自主トレーニングをしていただくようになり、運動 機能の改善を認めるようになった。 自主トレーニングは必ず点検する、 安全で確実にできる方法が大切 自主トレーニングを真面目にしていただいている患者 さんでも、運動機能が徐々に悪化することがある。その 場合には、必ず自主トレーニングの方法を確認する必要 がある。私の経験した患者さんは、右足底の感覚障害(触 覚)を認めており、立位姿勢から「まっすぐに立つ」こと ができない方であった。著者は、自主トレ―ニングの内 容として、「立った姿勢から身体を真っすぐにした状態で お臍を右横に5 cmほど動かしてください。その時に、足 の裏に体重がかかっていることを確認してください。」と お伝えした。しかし、患者さんの歩行を観察すると、右 下肢の立脚期に右股関節外転に伴う体幹右傾斜を伴って おり、歩行の安定性の低下が著明になっていた。実際に、 患者さんの自主トレーニングの方法を確認させていた だくと、お臍を右横に動かす際に右股関節外転を伴って 体幹右傾斜することで代償していた。患者さんとしては、 かなり右側に体重が移動できていると思っているようで あったが、実際にはお臍の側方移動はほとんどできてい ない状況だった。 もし、著者が点検せずにそのまま継続していると、間 違った方法の自主トレーニングで学習した代償動作が歩 行での転倒を誘導させてしまう危険性も考えられた大変 恐ろしい経験であった。 おわりに 自主トレーニングは、理学療法評価により正しい問題 点を導き出し、その問題点を解決する目的で実施しなけ ればいけない。様々な職種の方が自主トレーニングの方 法を紹介しているが、著者のような理学療法士は、治療 者として患者さん自身に必要な自主トレーニングを適切 に提供できなければならない。 今回、本誌の特集のテーマを「自主トレーニングを考 える」とさせていただいた。このテーマは、2019 年秋頃 に決定した。今、執筆させていただいている2020 年は、 新型コロナ感染の影響で、多くの患者さんのリハビリ テーションが満足に実施できていない。このような時期 であるからこそ、適切な自主トレーニングが運動機能の 回復の一助になると考えている。