0.3% ロメフロキサシンのイヌ細菌性外耳炎に対する
有効性と安全性に関する調査
Post-Marketing Surveillance of Lomefloxacin (LOMEWON
®)
in dogs with bacterial otitis externa
貞本和代
1)坂本祐一郎
1)門屋美知代
2)末信敏秀
1) 1)千寿製薬株式会社,2)かどやアニマルホスピタルKazuyo Sadamoto1), Yuichiro Sakamoto1), Michiyo Kadoya2), Toshihide Suenobu1)
1)Senju Pharmaceutical Co., Ltd., 2)Kadoya Animal Hospital
Received September 16, 2020 and accepted December 10, 2020
要 約:0.3% ロメフロキサシンの点耳薬であるロメワン®のイヌ細菌性外耳炎への使用時におけ る安全性および有効性を確認することを目的として,使用成績調査を実施した。本調査では,副作 用発現状況の把握を目的とした安全性調査および,有効性および細菌学的効果を承認前に実施した 治験成績と比較することを目的とした有効性調査を実施した。安全性評価の対象となった613 症例 のうち,3 症例に副作用(嘔吐,耳擦過傷および外耳障害)が認められ,副作用発現率は 0.49% で あった。有効性評価の対象となった103 症例における有効率は 66.0%(68/103)であった。また, 有効菌種であるS.intermedius,S.canis および P.aeruginosa の消失率はそれぞれ 77.1%,79.0% およ び92.3% であり,ロメワン®は有効菌種に対して高い細菌学的効果を示した。以上の結果より,ロ メワン®は副作用発現率が低く,有用な薬剤であることが示された。 キーワード:イヌ,細菌性外耳炎,使用成績調査,ロメフロキサシン
Abstract: A post-marketing surveillance study was conducted to assess the safety and efficacy of
LOMEWON®, 0.3% lomefloxacin otic solution, for bacterial otitis externa in dogs. In this study, we
performed a safety study to investigate the incidence of adverse drug reactions to LOMEWON®. We also
performed an efficacy study to investigate its efficacy, and to compare its bacteriological efficacy with that of the clinical trial results. Among 613 cases, 3 adverse drug reactions were reported: vomiting, ear abrasion, and external auditory canal lesion. The incidence rate of adverse drug reactions was 0.49%. The efficacy rate of 103 cases in the efficacy study was 66.0%. Furthermore, the disappearance rates of S. intermedius, S. canis, and P. aeruginoca were 77.1%, 79.0%, and 92.3%, respectively, showing that LOMEWON® had high efficacy
in eradicating these bacterial species. These results indicate that LOMEWON® is a useful drug with a low
incidence rate of adverse drug reactions.
Key words: bacterial otitis, dog, lomefloxacin, LOMEWNE®, Post-Marketing Surveillance
(Jpn J Vet Dermatol 2021, 27 (1): 11–19)
原 著
* 連絡先:貞本和代(千寿製薬株式会社) 〒 541-0048 大阪府大阪市中央区瓦町三丁目 1 番 9 号 TEL 06-6201-2252 FAX 06-6229-3293 E-mail: [email protected]* Correspondence to: Kazuyo Sadamoto (Senju Pharmaceutical Co., Ltd.,) 3-1-9 Kawara-machi, Chuo-ku, Osaka 541-0048, Japan
緒 言
外耳炎に対する治療法としては,全身的な副作 用の少なさから,局所治療剤が汎用される。細菌 性外耳炎は,起炎菌の同定と薬剤感受性の測定を
完了するまでに,その症状が進行することが多く, 局所療法として抗菌剤および抗炎症剤を含む 2 剤 合剤,あるいは抗菌剤,抗真菌剤および抗炎症剤 を含む 3 剤合剤が,経験的に選択されている。し かし,明らかに細菌が起因である外耳炎に対して 3 剤合剤を使用することは,真菌の耐性化を招く 恐れがあり,最善の選択とは言い難い。したがって, 細菌性外耳炎の治療には,幅広い抗菌スペクトラ ムを有し,低毒性の局所用抗菌剤で,かつ単剤で の使用が適切であると考えられる。 ニューキノロン系抗菌剤であるロメフロキサシ ンは,グラム陽性菌,グラム陰性菌および一部の 嫌気性菌に対して,広範な抗菌作用を有する合成 抗菌剤であり,外耳道への局所投与による耳およ び全身への影響は認められず,ほとんど血中移行 しないことが確認されている5)。0.3% ロメフロキ サシンの点耳製剤への応用は,ヒト外耳炎および 中耳炎を適応症とする塩酸ロメフロキサシン耳科 用液(ロメフロン®耳科用液 0.3%,千寿製薬株式 会社,大阪)として(1994 年),さらに,イヌ細 菌性外耳炎(2010 年)を効能とする塩酸ロメフロ キサシン眼科耳科用液(ロメワン®,千寿製薬株式 会社,大阪)として,承認・販売されている。 本邦では,承認時までに臨床試験から得られる 新医薬品の情報には,症例数や使用条件等の制約 により限りがあるため,承認後も引き続き日常診 療下にて製造販売後調査を行い,一定期間後(動 物用医薬品の場合,通常,承認から 6 年以内)に 有効性および安全性の再確認を行う再審査制度が 導入されている。今回我々は当該制度に基づき, イヌ細菌性外耳炎を対象とした塩酸ロメフロキサ シン眼科耳科用液(ロメワン®)の製造販売後調査 (2011 年から 6 年間)を実施したので,ここに報告 する。
材料と方法
調査の種類 本調査は,副作用発現状況の把握を目的とした 使用成績調査・安全性(安全性調査)および承認 前に実施した治験(2006 年)の有効性成績(未公 表)との比較を目的とした使用成績調査・有効性(有 効性調査)の 2 形式で実施した。両調査とも,多 施設にて実施した。 調査対象 安全性調査では,細菌性外耳炎に罹患し,塩酸 ロメフロキサシン眼科耳科用液(本剤)を初めて 点耳投与したイヌで,概ね 1 週間以内に再診が得 られ,安全性および有効性評価が可能であった症 例を対象とした。有効性調査では,有効性評価症 例のうち,本剤投与開始前および投与終了日に耳 垢等の外耳道由来検体を採取し,本剤投与開始前 に菌が検出された症例を細菌学的効果評価症例と した。また,投与 5 ∼ 7 日目に投与終了時のスコ ア判定を実施した症例を治験成績との有効性比較 評価症例とした。さらに,細菌学的効果評価症例 のうち,投与 5 ∼ 7 日目の投与終了時に検体採取 を実施した症例を治験成績との細菌学的効果比較 評価症例とした。 投与方法 1 日 2 回,1 回あたり 4 ∼ 5 滴を耳道内に滴下した。 調査項目 安全性調査の調査項目は,性別,犬種,年齢, 罹患期間,重症度,既往歴,基礎疾患および合併症, 1 回投与量(滴),1 日投与回数,投与期間,総投与量, 前治療薬剤,併用薬剤,併用処置,有害事象およ び有効性判定とした。有効性調査では,上記に加え, 細菌学的効果を調査項目とした。 細菌学的検査 耳道洗浄前に外耳道より検体(膿または耳垢) を輸送培地(シードスワブ 2 号,栄研化学株式会社, 東京)に採取し,阪大微生物病研究会に送付し た。同研究会にて細菌の分離同定ならびに Clinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)M100-S24 に準じた微量液体希釈法にてロメフロキサシン の最小発育阻止濃度(MIC: Minimum Inhibitory Concentration)を測定した。 安全性の評価 安全性調査および有効性調査において,本剤投 与中または投与後に発現した副作用(医学的に好 ましくない全ての事象(有害事象)のうち,本剤 との因果関係が否定できない事象)の発現の有無 を調査した。 有効性の評価 有効性調査における全般有効度は,「著効」「有効」 および「無効」の 3 段階で評価した。また,各観 察項目は,治験時と同一の観察・評価基準(表 1) に従い,4 段階にスコア化(正常の範囲:0,軽度: 1,中等度:2,重度:3)し,投与前および投与終 了時の合計スコアの比を算出後,効果判定基準(表2)に基づき判定した。さらに細菌学的効果を,菌 の消長および MIC にて評価した。菌の消長は,治 験時と同一の基準(表 3)である「消失」「菌交代」「一 表 1 有効性調査における観察・評価基準 スコア 観察項目 0 1 2 3 痛み 正常の範囲 耳もしくは耳道に強く触 れると僅かに痛がる 耳もしくは耳道に強く触 れると痛がる 耳もしくは耳道に触れる と激しく痛がる 耳 介 発赤 正常の範囲 ごく軽度の発赤(点状) を認める 明瞭な発赤を広い範囲で 認める 顕著な発赤を耳介全域で 認める びらん 正常の範囲 垂直道の入口付近の耳介 でごく軽度に認める 垂直道の入口付近の耳介 で広い範囲に認める 垂直道の入口付近の耳介 で全域に認める 腫脹 正常の範囲 垂直道の入口付近の耳介 が僅かに腫れている 垂直道の入口付近の耳介 が腫れている 垂直道の入口付近の耳介 が強く腫れている 外 耳 道 発赤 正常の範囲 ごく軽度の発赤(点状) を認める 明瞭な発赤を広い範囲で 認める 顕著な発赤を外耳道全域 で認める びらん 正常の範囲 綿棒を入れると僅かに出 血する 綿棒を入れると出血する 綿棒を入れると容易に出 血する 腫脹 正常の範囲 僅かに腫れている 腫れている 強く腫れている 耳垢量 正常の範囲 少量(外耳道の1/4 未満) に認める 中量(外耳道の1/4 以上 1/2 未満)に認める 多量(外耳道の1/2 以上) に認める 耳垢の臭い 正常の範囲 僅かに臭いがある 強い臭いがある 非常に強い臭いがある 耳垢の乾燥 正常の範囲 僅かに湿っている 湿っている 非常に湿っている 表 2 有効性調査における効果判定基準 著効 有効 無効 E ≦ 0.15 0.15 < E ≦ 0.3 0.3 < E E:投与終了時スコア合計/投与前スコア合計. 表 3 有効性調査における細菌学的効果判定基準 消失 投与前の検出菌が投与後消失した場合 A→(−) A+B→(−) 菌交代 投与後に投与前の菌はすべて消失しており,異なる菌種が分離された場合 A → B A+B → C 一部消失 投与前に複数菌種の菌が検出され,投与後にその一部が消失した場合。なお, 投与後に投与前菌種が一部存続しており,それに加えて新たな菌が検出され た場合も一部消失として取り扱う A+B→A A+B→A+C 不変 投与前後とも同一の菌が分離された場合 A→A A→A+B 不明 種々の理由により細菌学的効果の判定ができなかったもの。例えば,投与前 菌陰性の症例および2 回目の検査を実施しなかった症例 A,B,C:検出菌,(−):陰性. 部消失」「不変」および「不明」にて判定し,集計 時に「一部消失」および「不変」を合わせて「不変」 として解析した。
統計解析 Kruskal-Wallis の H 検定を用い,有意水準は両側 5% とした。
結 果
症例構成 症例構成を図 1 に示した。すなわち,安全性 調査および有効性調査にて,それぞれ 510 症例お よび 103 症例を収集した結果,安全性評価症例の 総数は 613 症例であった。また,有効性評価症例 103 症例のうち 93 症例を細菌学的評価症例,63 症 例を治験成績との有効性比較評価症例,56 症例を 治験成績との細菌学的効果比較評価症例とした。 背景因子 安全性評価対象 613 症例の背景因子別の集計結 果を表 4 に示した。 安全性 安全性評価 613 症例のうち,3 症例に副作用(嘔 吐,耳擦過傷および外耳障害)が認められ,副作 用発現率は 0.49% であった。一方,治験時の安全 性評価症例における副作用発現率は 0.00% であっ 図 1 症例構成 たが,製造販売後の副作用発現頻度に統計学的な 有意差は認められなかった(表 5)。 有効性 有効性調査にて収集した有効性評価症例 103 症 例の有効率は 66.0% であった。また,有効性評価 症例のうち治験成績との比較が可能な 63 症例およ び治験時における有効率は,それぞれ 65.1%(41/63) および 71.9%(23/32)であった(表 6)。また,背 景因子別では,既往歴の有無において,既往歴あ りの層における有効率が,既往歴なしの層に比べ て有意に低い値を示した(表 7)。 細菌学的効果 細菌学的効果評価症例 93 症例における,初診時 検出菌の消失率を表 8 に示した。消失率の算出は, CLSI にて推奨されている 30 株以上を原則とした が,収集株数が 10 株以上であった菌種についても 参考値として消失率を算出した。本剤の有効菌種 である Staphylococcus intermedius(S. intermedius),Streptococcus canis(S. canis)および Pseudomonas aeruginosa(P. aeruginosa)の消失率は,それぞれ
77.1%,79.0% および 92.3% であった。3 菌種はい ずれも治験成績と同等の高い消失率を示した。ま
た,治験成績と比較可能であった 56 症例について の細菌学的効果を検討した結果,消失の判定率は 治験成績と比べて高値を示した。一方で,不変に ついても治験成績と比べて高値であった(表 9)。 有効性調査における有効菌種に対するロメフ ロキサシンの抗菌活性を治験成績と比較した(表 10)。有効性調査の MIC90は治験成績に比べて,S. intermedius では 1 管,S. canis では 4 管高かった。P. aeruginosa では同等であった。 Malassezia pachydermatis の混合感染が有効性 に及ぼす影響
Malassezia pachydermatis(M. pachydermatis)の
初診時検出症例および非検出症例における有効率 を検討した(表 11)。M. pachydermatis の初診時 検出率は 46.6%(48/103)であり,検出症例およ び非検出症例における有効率は,それぞれ 62.5% (30/48),69.1%(38/55)であった。さらに,初診 時に M. pachydermatis が検出された症例のうち, 雑種およびその他を除いた患犬を耳介の形状で分 類した結果,垂耳および立耳の割合は,それぞれ 72.5%(29/40)および 27.5%(11/40)であった(表 12)。
考 察
イヌの耳疾患は全疾患の 10.5% を占め,中でも 外耳炎は全疾患中の発生順位が 1 位であり,高頻 度に発症する疾患である7)。このうち細菌性外耳 炎は,外耳道上皮の炎症を主徴とする疾患であり, 外耳道に蓄積した耳垢への細菌の繁殖や,外耳道 粘膜への感染の成立により発症し,耳介にまで炎 症が及ぶことがある。細菌性外耳炎ではかゆみや 痛みにより首や耳を振る行為や,後肢による耳介 根部や耳介の掻爬行為などが現れ,痛みのために 飼い主に耳や体を触らせなくなり,攻撃的になる こともある4)。由里は外耳炎と診断された 92 症 例から菌の分離調査を実施し,S. intermedius の分 離頻度が一番高く(21.7%),次いで P. aeruginosa (13.5%),S. canis(10.3%)が多く分離されたこと を報告した8)。また,Kania らは,イヌにおける膿 皮症の主な原因菌は S. intermedius であることを報 告した2)。さらに Oliveira らは,両側性の外耳炎に おける起炎菌の調査から,主に S. intermedius およ び M. pachydermatis が分離されたことを報告した3)。 これらの報告から,S. intermedius は,細菌性外耳 炎の主な原因菌であると考えられる。 現在,外耳炎治療剤としては,感染部位への移 表 4 安全性評価症例(613 例)の背景因子 背景 例数 性別 雄 340 雌 273 年齢 6 ヶ月未満 11 6 ヶ月以上 1 歳未満 18 1 歳以上 4 歳未満 96 4 歳以上 7 歳未満 131 7 歳以上 10 歳未満 137 10 歳以上 13 歳未満 131 13 歳以上 16 歳未満 72 16 歳以上 11 不明 6 罹病期間 3 日未満 233 3 日以上 7 日未満 113 7 日以上 14 日未満 99 14 日以上 155 不明 13 投与日数 5 日未満 13 5 日∼ 7 日 108 8 日∼ 14 日 329 15 日以上 163 併用薬 影響がある薬剤 点耳 抗菌剤 1 抗真菌剤 19 抗菌剤+ステロイド剤 1 抗菌剤+抗真菌剤+ステロイド剤 65 ステロイド剤 7 非ステロイド剤 2 全身 抗菌剤 192 抗真菌剤 21 抗菌剤+ステロイド剤 1 ステロイド剤 130 非ステロイド剤 23 抗アレルギー剤 25 その他 3 その他 抗菌剤 1 ステロイド剤 1 非ステロイド剤 4 抗アレルギー剤 1 その他 4 影響がない薬剤 全身 53 その他局所 8 外耳道洗浄 なし 242 あり 371 犬種 アメリカン・コッカ― スパニエル 16 キャバリアキングチャールズスパニエル 13 ゴールデン・レトリーバー 26 シーズー 53 シェットランド・シープドッグ 9 ダックスフント 5 チワワ 32 トイ・プードル 66 パグ 20 パピヨン 9 ビーグル 16 プードル 5 ポメラニアン 12 マルチーズ 25 ミニチュア・シュナウザー 12 ミニチュア・ダックスフント 71 ヨークシャーテリア 18 ウエストハイランド・ホワイトテリア 13 雑種 56 柴犬 34 ウェルシュ・コーギー 10 ラブラドール・レトリーバー 11 フレンチブルドッグ 18 ジャック・ラッセル・テリア 8 その他 55表 5 安全性評価症例の副作用発現率
症例数 副作用発現数(頭) 副作用発現率(%)
安全性評価症例 613 3 0.49
治験時 44 0 0.00
検定結果 d.f. = 1 P0 = 0.6421 n.s.
d.f.: degrees of freedom, n.s.: not significant.
表 6 有効性調査および治験時の有効率の比較 効果の程度 著効 有効 無効 計 頭数(累積百分率,%) 頭数(累積百分率,%) 頭数 頭数 有効性調査 40 (38.8) 28 (66.0) 35 103 治験時との有効性比較評価症例 26 (41.3) 15 (65.1) 22 63 治験時 10 (31.3) 13 (71.9) 9 32 検定結果 d.f. = 1 P0 = 0.8310 n.s.
d.f.: degrees of freedom, n.s.: not significant.
表 7 有効性調査における既往歴の有無別の有効率 効果の程度 著効 有効 無効 計 頭数(累積百分率,%) 頭数(累積百分率,%) 頭数 頭数 既往歴なし 24 (48.0) 14 (76.0) 12 50 既往歴あり 16 (30.2) 14 (56.6) 23 53 検定結果 d.f. = 1 P0 = 0.0279* d.f.: degrees of freedom. *: P<0.05. 行速度の速さ,移行量の多さ,さらに全身的な副 作用の低さから,局所治療剤が多く開発されてお り,その全てが 2 剤(抗菌剤および抗炎症剤)ま たは 3 剤(抗菌剤,抗真菌剤および抗炎症剤)の 配合剤である。しかし,細菌感染に起因すること が明らかな外耳炎に対しては抗真菌剤の併用は不 要であるため,細菌性外耳炎への 3 剤合剤の使用 は,真菌の耐性化を進める原因となる可能性があ り好ましくない。また,これら配合剤に含まれる 抗炎症剤は全てステロイドであり,抗炎症作用の 強さから炎症症状が一時的に改善し,原因菌が消 失していないにも関わらず投与が打ち切られる可 能性がある。一方,イヌの真菌性外耳道炎の起因 菌として知られる M. pachydermatis の存在を懸念 し,配合剤が汎用されることも考えられる。本調 査において,細菌性外耳炎と診断された個体から の M. pachydermatis 検出率は 46.6% であったこと から,M. pachydermatis の混合感染は留意すべきで ある。しかし,細菌性を疑った際の治療としては, まずは抗菌剤による単剤治療が適切であると考え る。 今回我々が実施した,ロメフロキサシン単剤を 含むイヌ細菌性外耳炎を対象とした塩酸ロメフロ キサシン眼科耳科用液(ロメワン®)の使用成績調 査において,有効性調査の有効率(65.1%)は,治 験時の有効率(71.9%)に比べ統計学的な有意差は 認められなかったものの,低い傾向を示した。し かし,安全性評価症例を含めた 613 例における有 効率が 74.4%(456/613)であったことから,製造 販売後の有効性に問題はないと考えられた。 有効性調査の各調査項目のうち,既往歴の有無 別の解析において,既往歴ありの層における有効率 (56.6%)が,既往歴なしの層における有効率(76.0%) に比べて低値を示した。そこで,既往歴別の有効
表 8 細菌学的効果評価症例(93 例)おける初診時検出菌の消失率 菌種名 株数 消失 消失せず 消失率 S. intermedius 70(14) 54(10) 16(4) 77.1%(71.4%) S. canis 19(7) 15(6) 4(1) 79.0%(85.7%) P. aeruginosa 26(8) 24(6) 2(2) 92.3%(75.0%) Corynebacterium sp. 35 25 10 71.4 Staphylococcus sp. 32 21 11 65.6 Propionibacterium acnes 9 6 3 ― Enterococcus faecalis 8 7 1 ― 好気性グラム陽性桿菌 8 8 0 ― α-Streptococcus 6 6 0 ― Proteus mirabilis 5 3 2 ― Staphylococcus chromogenes 4 3 1 ― Bacillus sp. 4 4 0 ― Escherichia coli 4 4 0 ― Clostridium perfringens 4 2 2 ― β-Streptococcus 3 3 0 ― Enterococcus gallinarum 2 2 0 ― Streptococcus agalactiae (GBS) 2 2 0 ― Staphylococcus epidermidis 2 2 0 ― Enterococcus sp. 1 1 0 ― Streptococcus constellatus 1 1 0 ― Streptococcus dysagalactiae 1 1 0 ― γ-Streptococcus 1 1 0 ― Staphylococcus saprophyticus 1 1 0 ― Staphylococcus simulans 1 1 0 ― Staphylococcus caprae 1 1 0 ― Staphylococcus lugdunensis 1 1 0 ― Neisseria sp. 1 1 0 ― Enterobacter cloacae 1 1 0 ― Brevundimonas vesicularis 1 1 0 ― Acinetobacter baumannii 1 1 0 ― Sphingomonas paucimobilis 1 1 0 ― Peptostreptococcus magnus 1 1 0 ― Propionibacterium granulosum 1 1 0 ― Bacteroides sp. 1 1 0 ― Porphyromonas sp. 1 1 0 ― 計 260 208 52 80 括弧内は治験時の値. 表 9 細菌学的効果の比較 消失 菌交代 不変 頭数 頭数 頭数 計 (累積百分率,%) (累積百分率,%) (累積百分率,%) 治験時との細菌学的効果比較評価症例 12(21.4%) 18(53.6%) 26(46.4%) 56 治験時 5(15.6%) 19(75.0%) 8(25.0%) 32 検定結果 d.f. = 1 P0 = 0.2502 n.s.
率を評価したところ,細菌性外耳炎および真菌性 外耳炎を有する症例の有効率が低い傾向を示した。 このうち,細菌性外耳炎の既往を有する症例では, 外耳道環境に再発の素地を有するため,初発症例 に比べて有効率が低くなったと推察された。一方, 真菌性外耳炎の既往を有する症例では,本剤投与 開始時に真菌性外耳炎を再発しており,かつ抗真 菌剤の併用率が低値であった。したがって,間欠 的に真菌性外耳炎を発症する個体においては,本 剤による細菌性外耳炎の治療に加え,適切な抗真 菌剤による併用治療も考慮する必要がある。しか し後述のとおり,M. pachydermatis 検出の有無は本 剤の有効性に影響を及ぼさなかったことから,細 菌性外耳炎に対する第一選択としては,抗菌剤に よる単剤治療が適切であると考える。 有効性の評価には,本剤の承認前に実施した治 験時と同様に,農林水産省動物医薬品検査所の承 認を得た評価方法を用いた。イヌ細菌性外耳炎に 対する抗菌剤の評価基準としては,現時点では妥 当な評価方法と考えられるが,今後,より客観性 を考慮した評価方法が検証されるべきと思われる。 近 年, フ ル オ ロ キ ノ ロ ン 系 抗 菌 剤 が, Corynebacterium sp. に対して有効ではない可能性に ついて報告された6)。本調査において,有効性調 査の細菌学的効果の「不変」判定は,治験成績に 比べ高値を示したが,「不変」症例および「消失 + 菌交代」症例における Corynebacterium sp. の分離 率がそれぞれ 57.7%(15/26)および 20.0%(6/30) であったことから,フルオロキノロン系抗菌剤の 特性が細菌学的効果判定に影響したと考えられた。 本剤の有効菌種に対する MIC90は,P. aeruginosa では治験成績と同等であったものの,S. intermedius では 1 管,S. canis では 4 管,治験成績より高い値 を示した。有効菌種に対するロメフロキサシンの MIC の変化は,細菌学的効果にも反映されると考 えられるが,菌種別での消失率は治験成績と同等 であったことから,臨床上の問題はないと判断し た。 M. pachydermatis はイヌ外耳道に常在する真菌で あると同時に,イヌ外耳炎の主要な起因菌の一つ である1)。M. pachydermatis に起因する外耳炎では, 他の細菌との混合感染が多くみられることから, 本剤はマラセチア性外耳炎に直接効果を示すもの ではないが,M. pachydermatis の混合感染が本剤の 有効性に影響を及ぼすことが考えられた。そこで, M. pachydermatis の検出率を調べたところ,本調査 の有効性評価症例の約半数から M. pachydermatis が 検出された。しかし,検出症例および非検出症例 における本剤の有効率はほぼ同等であったことか ら,M. pachydermatis の存在を前提としながらも, マラセチア性外耳炎の特徴的な所見が乏しい場合 は,本剤の有効性に影響を及ぼさないと考えられ た。また,初診時に M. pachydermatis が検出された 患犬を耳介の形状で分類した結果,垂耳の犬種は 表 11 M. pachydermatis の初診時検出症例および非検出症例における有効率 著効 有効 無効 計 頭数(累積百分率,%) 頭数(累積百分率,%) 頭数 頭数(%) 検出症例 20(41.7) 10(62.5) 18 48(46.6) 非検出症例 20(36.4) 18(69.1) 17 55(53.4) 表 12 初診時 M. pachydermatis 検出 患犬の耳形状による分類 頭数(%) 垂耳 29(72.5%) 立耳 11(27.5%) 表 10 有効性調査における有効菌種に対するロメフロキサシンの 抗菌活性の比較(MIC:µg/mL) 菌種名 有効性調査 治験時
株数 MIC range MIC90 MIC90
S. intermedius 73 0.5 – >128 128 64
S. canis 19 4 – 128 128 8
立耳の犬種に比べ,高い M. pachydermatis の検出率 を示した。実臨床の現場では細菌検査を実施する ことが難しい場合があることから,耳の形状を考 慮した処方を検討することで,より効果的な治療 を行える可能性がある。 今回我々は,ロメフロキサシン単剤を含むイヌ 細菌性外耳炎を対象とした塩酸ロメフロキサシン 眼科耳科用液(ロメワン®)の使用成績調査を実施 した。本調査の結果から,塩酸ロメフロキサシン 眼科耳科用液(ロメワン®)はイヌ細菌性外耳炎に 対して有効かつ安全な薬剤であると考えられた。
利益相反
貞本和代,坂本祐一郎,および末信敏秀は,本 論文に関連して利害に関係ある千寿製薬株式会社 の従業員である。その他の著者は開示すべき利益 相反はない。謝 辞
本調査にご協力賜り,貴重なデータをご提供い ただきました多数の先生方に,心より厚く御礼申 し上げます。 引用文献1) Dorogi J. 2002. Pathological and clinical aspects of the diseases caused by Malassezia species. Acta
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