著者
鈴木 允彦
雑誌名
KGPS review : Kwansei Gakuin policy studies
review
号
11
ページ
15-34
発行年
2009-03-31
15
東京都の排出量取引制度の導入から見る
地方自治体の温暖化政策の展望
鈴木 允彦
【要旨】 東京都では、2008 年 6 月の環境確保条例の改正に伴い、2010 年度より温室効果ガス排出総量の削減義務 を課すこととなった。この総量規制と同時に、排出削減の補完措置として排出量取引制度の導入も決定さ れた。総量削減義務を伴う排出量取引制度は、全国初の試みである。排出量取引の導入にあたって、東京 都では、段階的な取組みを行ってきた。今回の東京都のケースは「地球温暖化対策計画書制度」が土台と なっている。この制度の改正に向けて事業者との調整(ステークホルダー・ミーティング)や庁内での調 整といった取組みが行われてきた。こうして導入された東京都のケースについて、課題を検討し、そこか ら今後の地方自治体の温暖化政策への展望を考察していく。 キーワード:排出量取引制度、地球温暖化対策計画書制度、ステークホルダー・ミーティング、地方自治 体の温暖化政策はじめに.
2008 年 6 月、東京都において国に先行し、また全国初となる排出削減義務を伴う排出量 取引制度の導入が条例改正に伴って決定された。国の対応が遅れる中でこのような実効性 のある制度が導入された。 こうした東京都の温暖化政策1の動向は他の地方自治体の温暖化政策にどのような影響を 与えるのであろうか。今後の地方自治体の温暖化政策の展望を考察する上で、東京都の事 例を取り上げる意義は大きいと考えられる。これまでの温暖化政策のなかでも排出量取引 制度については、我が国では環境税と合わせて導入が見送られてきた傾向にある。しかし、 東京都では削減義務を伴うというように、国の削減義務を伴わない自主的取組・自由参加 の制度と比べても、相当踏み込んだ内容となっている。東京都では、いかにして今回のよ うな削減義務を伴う排出量取引制度の導入ができたのか。それを明らかにすることで、今 後の地方自治体の温暖化政策を発展させる上で重要な示唆を与えてくれるであろう。 関西学院大学大学院総合政策研究科博士課程前期課程([email protected]) 1 東京都では「気候政策」や「気候変動対策」などと表現しているが、本稿では「温暖化政策」と表現を 統一する。地方自治体によっては「温暖化対策」というように表現が異なり、また行政側が取組む対策で あることを明確にするために「政策」と表現し、表現の相違による混乱を回避する。ただし、各自治体の 制度名などはそのまま表記する。16 本論では、以上の点を踏まえて、排出量取引制度の導入過程を明らかにし、そこから今 後の地方自治体の温暖化政策の展望を考察する。そこで東京都の排出量取引制度の導入過 程を見るために、まず東京都にとっての温暖化政策の位置付けを把握し、また東京都にお ける温暖化政策として何を行っているのか概観する。その上で制度の実現過程を見ていき、 制度の課題等を検討し、評価を加えていきたい。 東京都の動向はどのように他の地方自治体に影響を与えるのか、また地方自治体の温暖 化政策にどのような展望が見出せるのか考察していく。
1. 東京都の温暖化政策について
2008 年 6 月、東京都では環境確保条例2の改正によって排出量取引制度の導入を決定した。 排出量取引制度は温暖化政策の一つであるため、東京都の温暖化政策の概要について述べ る。1.1 では東京都が温暖化政策に力を入れ始めた時期とその要因など、具体的な温暖化政 策に関する主な施策(制度等)を挙げ、1.2 では排出量取引制度の導入を含めた東京都の温 暖政策に関する将来ビジョンあるいは方針について説明する。1.1 温暖化政策の本格化―「ストップ温暖化!東京作戦」
東京都では、2002 年 2 月から「ストップ温暖化!東京作戦」を開始した。この時期から事 実上、東京都において温暖化政策が本格的に始動した。 東京都では、この時期になぜ温暖化政策に力を入れるようになったのか。この時期、地 球規模で深刻化している地球温暖化問題に加えて、東京やその周辺では、都市型公害の一 つとされるヒートアイランド現象が深刻な問題となっていた。また、ヒートアイランド現 象が原因で年々熱帯夜の日数も増えてきていた。東京都ではこうした「2 つの温暖化3」問 題を抱えていたため、温暖化政策を強化するに至ったとしている。 「ストップ温暖化!東京作戦」では全部で 3 ステージある。本論で関係してくる内容を主 に取り上げることにするため、詳しい内容については東京都環境局のウェブサイト上の「東 京都の温暖化対策」を参照されたい。主な内容としては、2002 年 2 月から始まった第 1 ス テージでは、「地球温暖化対策計画書制度」や「建築物環境計画書」の本格実施により事業 者に対して環境配慮させるような制度を構築した。2002 年 10 月から始まった第 2 ステージ では、温暖化防止のための基本方針を明らかにし、オフィスビルを含む大規模事業者に対 しても CO2削減義務を目指すなどした。第 3 ステージでは、2005 年 3 月に環境確保条例を 改正することで、「地球温暖化対策計画書制度」の強化や「エネルギー環境計画書」、「省エ ネラベリング制度」の創設などを行い、温暖化政策を徐々に強化させた。 このように「ストップ温暖化!東京作戦」を通じて、排出量取引制度導入までの間には様々 2 正式名称は、「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例」。 3 東京都環境局ウェブサイト「東京都の温暖化対策」より引用 http://www2.kankyo.metro.tokyo.jp/sgw/tokyo_strategy/tokyo_strategytop.htm17 な政策が実施されており、段階的に強化されていった。
1.2 東京都気候変動対策方針「カーボンマイナス東京 10 年プロジェクト」
「東京都気候変動対策方針」は、2007 年 1 月末から東京都が開始した「カーボンマイナ ス東京 10 年プロジェクト」の基本方針である。そこでは、今後 10 年間の東京都の温暖化 政策の基本姿勢を明らかし、代表的な施策を提起した。「カーボンマイナス東京 10 年プロ ジェクト」は世界で最も環境負荷の少ない先進的な環境都市の実現を目指す取組みのこと である。 まず気候変動対策方針の将来ビジョンとしての削減目標は、中期目標として、2020 年ま でに都内の温室効果ガス(以下、GHG。)排出量を 2000 年比 25%削減するとしている。取 組みの基本的なあり方は、民間企業や都民を巻き込む取組みや都政のあらゆる分野での施 策展開が目指され、方針として 5 つが挙げられている。その中の一つに、企業の GHG 削減 を強力に推進することが方針としてまとめられていた。特に大規模事業者に対しての GHG 削減義務と排出量取引制度の導入が目指されており、この目標を明確に打ち立てたことが、 後に排出量取引制度を実現するための柱となっていたのであろう。 こうした方針を実現させるために、「ステークホルダー・ミーティング」の実施や削減義 務と排出量取引を導入するための条例改正の方向性の検討、環境基本計画の改定、「カーボ ンマイナス東京 10 年プロジェクト」の具体化などが図られた。後述するように、庁内横断 組織を結成することによって、都政のあらゆる分野での施策展開が図られた。 「ストップ温暖化!東京作戦」を基本的な土台にし、より具体化した「東京都気候変動対 策方針」を策定することによって、東京都の温暖化政策は、段階的に強化され実現された。 こうした段階的な取組みを土台に、排出量取引制度が導入された。2. 東京都の排出量取引制度の成立過程について
前節では東京都の温暖化政策の概要について見てきた。本節では温暖化政策の一つであ る排出量取引について概観し、特にこの排出量取引がどのように成立したのか、事業者4、 庁内での調整などの視点からその成立過程を見ていく。2.1 「地球温暖化対策計画書制度」改正
今回の総量削減義務を伴う排出量取引制度(キャップアンドトレード)は、「地球温暖化 対策計画書制度5」(以後、計画書制度とする)を発展させた制度である。本項ではこの計画 4 東京都の制度では「事業所」と表現しているが、本論では、東京都の制度について説明するときを除い て、より一般的な「事業者」と表現する。 5 環境確保条例第六条(改正案)「指定地球温暖化対策事業者は、毎年度、指定地球温暖化対策事業所ごと に、次に掲げる事項を記載した計画書(以下、「地球温暖化対策計画書」という。)を、地球温暖化対策指18 書制度について概説する。
2.1.1 「地球温暖化対策計画書制度」の概要
本制度は、2000 年 12 月の条例改正により導入が決定され、2002 年 4 月から本格的な実 施に移った。本制度では、対象事業所を燃料、熱、電気の使用量が原油換算で年間 1500kl 以上6使用する産業及び業務部門の事業所としている。この中には、国や自治体の公共施設 も含まれ、合計約 1300 事業所が対象(提出義務者)となっている。 本制度の特徴は、EU の排出量取引制度とは異なり業務部門をも対象に入れたことが挙げ られる7。図 1 からも分かるように、業務部門を対象に入れたことの根拠は、東京都の産業 別 CO2排出構成が全国のそれと比較して業務部門が約 20%多く、産業(工場)部門が 20% 少ないことである。東京都の産業構造を見てみると、対象事業所約 1300 だけを見ても、産 業部門は約 300、残りの約 1000 は業務部門という割合になっている。後述するが、東京都 針に基づき作成し、〔中略〕、知事に提出しなければならない。〔後略〕」現行の条例にもほぼ同じ内容の条 文がある。 6 当初は、燃料および熱の使用量が原油換算で年間 1500kl 以上又は電気の使用量が年間 600 万 kW 時以上 という要件であったが、「ストップ温暖化!東京作戦」の stage.3 の方針により強化されたことに伴い、現行 の制度となっている。 7 EU における排出量取引制度(EU-ETS)では、対象事業者を産業部門とエネルギー転換部門としている。 図 1 部門別二酸化炭素排出割合―全国と東京都の比較― 産業部門 38% 運輸部門 21% 業務その 他部門 20% 家庭部門 14% エネル ギー転換 部門 7%我が国における部門別二酸化
炭素排出量割合(
2005)
産業部門 10% 運輸部門 26% 業務部門 36% 家庭部門 26% その他 2%東京都における部門別二酸化
炭素排出割合(
2005)
(出典)環境省「我が国の温室効果ガスの 排出量 2005 年確定値」をもとに筆者作成 (出典)東京都環境局「都における温室効 果ガス排出総量総合調査 2005 年度実績」 をもとに筆者作成19 の特性として、民間企業の本社機能が集中しているように、東京都にはオフィスが多いと いうことを裏付けていると言えよう。 本制度の運用の仕方は、対象事業所が提出した計画書に対して、東京都が評価・公表を 行う。評価については、まず都は基本対策8を提示し、提出された計画書について、事業者 が基本対策をすべて選定すれば A 評価、加えて目標削減率の大きさが 2%以上の場合は A+、 5%以上の場合は AA 評価とする。基本対策をすべて選定しない場合は、都が提示する運用 対策のみをすべて選定していれば B 評価、基本対策をすべて選定せず且つ運用対策も未選 定の場合は C 評価となる。
2.1.2 自主的取り組みから個別指導、そして総量削減義務化へ
このような運用方法で、制度導入当初は、事業所の自主的な取り組みに任せていた。と ころが、計画書の中身について評価したところ、図 2(左側)で示すように、A 評価以上で あった事業所は、「B 又は C 評価」と比べて少なかった。事業者側からは「これ以上の踏み 8 基本対策は運用対策と投資回収年数が概ね 3 年以内の省エネ対策から構成。 図 2 都による個別指導実施前後の計画書に対する評価A評価
以上
45%
B又は
C評価
55%
AA評 価
25%
A+評 価
26%
A評 価
48%
B評価0.5% C評価1%個 別 指 導 前
( 事 業 者 の自 主的取組)
個 別 指 導 後
(出典)東京都環境局主催第 2 回ステーホルダー・ミーティング「資料 3」をもとに筆者 作成〈http://www2.kankyo.metro.tokyo.jp/kikaku/kikouhendouhousin/index.htm〉2008 年 11 月 6 日アクセス。20 込んだ対策・投資回収に長い期間を要する対策は、トップの判断がないと進まない」9とい う声が多かった。そこで、2005 年度からの計画期間では、東京都は事業所 1300 の各計画書 について個別指導を行った。その結果、図 2(右側)で示すように、計画書最終提出の段階 では、B 評価と C 評価合わせて 1.5%程度となり、残りの約 99%の事業所が A 評価以上の評 価となった。東京都の地道な活動が成果となって現れたと言える。この結果から、自主的 取り組みには限界があることを証明したと言える。 以上のようにして、「地球温暖化対策計画書制度」は、徐々に強化されていった。この制 度をベースに、2010 年度からは、総量削減の義務化を盛り込んだ制度の発展的改正がなさ れることとなった10 。東京都は、計画書において総量削減義務を課し、削減量は事業所毎に 算出した削減率から策定し、事業所毎に総量規制を設ける。基本的には総量規制された分 を削減するということが第一の目標とされ、削減義務量よりも過剰に削減できた場合は、 その分を排出量取引に利用することができるとされる。 義務不履行の場合は、事業所名の公表、反則金等の罰則賦課があり、実効性が担保され ている11。 中小規模事業所に関しては、2010 年度からは計画書の提出が義務付けられる。ただし、 総量削減は義務化されていない。中小規模事業所には別途、ベースラインアンドクレジッ ト方式というキャップアンドトレード方式とは異なった形で排出量取引が用意されている。 計画書より削減量が多かった場合、その超過分をクレジットとして大規模事業所や中小規 模事業所に売ることができる。大規模事業所(1300 事業所)は、中小規模事業に対して排 出量削減に支援し、削減に成功すれば、その分をクレジットとして得られるとされる。 削減義務率などのキャップ(削減義務量)を決定する作業は 2009 年までに決定させると している。また、取引価格については基本的には当事者間の相対で決定されるため、予想 がつけられない。ベースラインアンドクレジット方式でも同様で、さらにこれにはクレジ ットを預けたり、買い取ったりする仲介組織(バンク)が必要となるが、その設置につい ては今後の検討課題としている。 いずれにしても、この計画書制度の改正が排出量取引制度の土台となっていることを理 解してもらいたい。 9 東京都環境局 CO 2排出量削減制度構築 WG(2008)「東京都における地球温暖化問題への取組―大規模事 業所への削減義務の導入東京都が目指す気候変動対策」『ジュリスト』No.1357、6 月号、p.47 より引用。 10 削減義務に関しては、環境確保条例第五条の十一(改正案)「〔前略〕各削減義務期間ごとに、〔中略〕 算定排出削減量〔中略〕を、当該削減義務期間終了後の規則で定める日までに、削減義務量以上としなけ ればならない。」とされている。2010年度から、現行の計画書制度のベースとなっている環境確保条例が 発展的に改正された。 11 義務不履行の場合、「削減不足量×(最大)1.3」の削減措置命令が下され、この命令も違反するようで あれば、50 万円以下の罰金、氏名公表、知事による命令不足量の調達費用請求などが課されることになる。
21
2.2 事業者との調整―ステークホルダー・ミーティング―
122.2.1 ステークホルダー・ミーティングの開催
温暖化対策計画書制度の改正によって、削減義務が課され、罰金が科されるといった規 制になるため、事業者からの反発が予想される。そこで、計画書制度の発展的改正が、2008 年 6 月の条例改正で決定されるまでに、この制度の対象となる事業者に対して説明会及び 意見交換会(ステークホルダー・ミーティング)が行われた。会議は全部で 3 回行われた。 本項では、ステークホルダー・ミーティングで出された事業者からの意見と、それに対す る行政側の回答について概説し、いかにして事業者と調整を図ったのか見ていく。 ステークホルダー・ミーティングの 1 回目は 2007 年 7 月 24 日に行われた。第 1 回では 行政側は条例改正や制度改正の趣旨等を説明し、参加した事業者側はそれぞれ簡単な挨拶 を行い、条例改正や制度改正についての意見を述べた。同年 10 月 25 日に開催された第 2 回では、第 1 回で出された事業者側からの意見をもとに主な論点を 7 つにまとめ、それら 12 ステークホルダー・ミーティングの議事録等の詳細は東京都環境局ウェブサイト上の「東京都気候変動 対策方針」のページを参照されたい。http://www2.kankyo.metro.tokyo.jp/kikaku/kikouhendouhousin/index.htm 表 3 ステークホルダー・ミーティング論点整理 (出典)東京都環境局主催ステークホルダー・ミーティング各回資料をもとに筆者作成 〈 http://www2.kankyo.metro.tokyo.jp/kikaku/kikouhendouhousin/index.htm 〉 2008 年 11 月 6 日アクセス。 第 2 回 ス テ ー ク ホ ル ダ ー ・ ミ ー テ ィ ン グ 7 つ の 論 点 第 3 回 ス テ ー ク ホ ル ダ ー ・ ミ ー テ ィ ン グ 新 ・ 7 つ の 論 点 1 削 減 の 技 術 的 裏 付 け 2 自 主 的 取 組 の 評 価 ⇒ ○ 「 自 主 的 な 取 組 」 だ け に 頼 る こ と の 限 界 3 削 減 義 務 と 経 済 活 動 の 制限 ⇒ ○ 削 減 義 務 と 事 業 活 動 水 準 の決 定 ⇒ ○ 削 減 義 務 と 技 術 革 新 ⇒ ○ 都 市 活 力 と 削 減 義 務 4 削 減 義 務 と 長 期 的 対 策 5 他 地 域 へ の 経 済 活 動 拠 点の 移 転 6 公 平 性 の 確 保 ⇒ ○ 公 平 ・ 公 正 な 削 減 義 務 水 準 の 決 定 7 東 京 都 全 体 の 削 減 対 策 8 全 国 、 世 界 レ ベ ル で の 温 暖化 対 策 の 関 係 9 テ ナ ン ト ビ ル に お け る 温 暖 化対 策 ※ 「 ⇒ 」 は 筆 者 の 考 察 に よ っ て 第 2 回 と 第 3 回 に お け る 論 点 で 相 互 に 関 係 し た 内 容 で あ る と 判 断 し た こ と を 示 す 。22 に対して行政側が回答するという形式をとった。さらに 2008 年 1 月 17 日の第 3 回では、 第 2 回で述べた行政側の回答に対する事業者側からの反論や新たな論点を拾い上げ、「新・ 7 つの論点」として再び行政側が回答を行った。こうしたやり取りを行うことによって、制 度改正について事業者側からの一定の理解を得られるようになった。もちろん、単に行政 側も反論や説得するだけでなく、制度に対して指摘された矛盾点については検討し直しを 行っている13。ある業界団体は、こうした制度改正に向けて地道な努力や説明、あるいは矛 盾点の再検討といった丁寧な対応に熱意を感じ、全面的に協力すると表明するなど、行政 側にとって心強い声があがったという14。
2.2.2 ステークホルダー・ミーティングでの論点整理
ステークホルダー・ミーティングで出された 7 つの論点とはどのようなものであったの か。それを簡単にまとめたものが表 3 である。 筆者はこれらの論点を概観したところ、全部で 14 ある中、主に 9 つの論点に整理できる と考えた。本論では、これまでの議論で関連した事項や後に論じる上で必要となる事項に ついて 6 点を主に取り上げることにする。なお、第 2 回と第 3 回の論点で相互に関係して いる場合はそれらの「意見」「回答」は集約して記載する。今回取り上げない内容について は、ステークホルダー・ミーティング会議資料を参照されたい。また、以下に記す論点の 頭の丸数字(②、③)はステークホルダー・ミーティングの回(第 2 回、第 3 回)を指す。 1) ②自主的取組の評価、③「自主的な取組」だけに頼ることの限界 意見:現行の計画書制度は大変実効性が高い。削減義務化ではなく、制度の改善を。 回答:自主的取組による改善案の提示だけでは大幅な削減は進まない。現行制度の利 点と経験を活かし、更なる削減を可能とする現実的な施策である。 2) ②削減義務と経済活動の制限、③削減義務と事業活動水準の決定、③削減義務と技 術革新、③都市活力と削減義務 意見:CO2排出量にキャップをかければ、エネルギー使用量の制限になり、企業活動 そのものに制限を加えることになる。 回答:先進的な省エネ技術の活用、低排出エネルギーへの転換、排出量取引などの方 法で CO2削減と企業の成長の両立は可能である。また、省エネ技術や再生可能エネル ギーの利用拡大は技術革新を生み、経済活性を促進する効果も望める。 3) ②他地域への経済活動拠点の移転 意見:規制を逃れるために、生産拠点を規制のない他の道府県や海外に転出する動き を助長し、結果的に CO2排出増加を招きかねない。 回答:企業は CO2削減コストを主要な要因として立地を決定していない。 4) ②公平性の確保、③公平・公正な削減義務水準の決定 13 例えばテナントビルビルオーナーに対する削減義務について。 14 大野輝之(2008)「東京都における気候変動対策」『現代の理論』、秋号、pp.88-95 を参照。23 意見:産業の特性や成長性、過去の省エネ努力などを反映させた合理的で公平なキャ ップの設定は不可能である。 回答:それらを考慮するように設定する。現行制度の運用で得られたデータを最大限 に活用していく。また、自主的な取組みによって削減を行わない事業者が放置されれ ば、逆に不公平である。これを回避するためにも、削減義務は真に公平な施策である。 5) ②東京都全体の削減対策 意見:東京の温室効果ガスの 2 割を排出する事業所にのみ削減義務を課すことは非合 理的であり、総量削減は保証されない。 回答:大規模事業所以外にも、中小事業所、家庭、自動車対策も強化していく。なお、 約 1300 の事業所は都内約 70 万事業所の 0.2%にもかかわらず、業務産業部門の CO2 排出量の約 4 割を占めている。したがって、大規模事業所への対策の効果は大きい。 6) ③全国、世界レベルでの温暖化対策との関係 意見:企業は、全国的な視点で生産・流通拠点を最適化している。都独自の排出削減 義務は、対策の効率性を損なう。 回答:都の制度案は、全国レベルの排出削減を牽引するものであり、国に先駆けて実 施する意義は大きいと考える。また、国の遅れを理由に東京の取組みを遅らせられな い。先進的な取組みがなければ、全国の対策も強化されない。そのため、一定の制限 はあるが、東京以外の地域での削減量についても対象事業所の削減量に算入すること ができるようにしている。 主な論点を取り上げると以上のようになる。1)の論点については、図 2 でも示したよう に、個別指導によって計画書の高い評価が達成されており、自主的な取り組みでは限界が あることを説明したものである。4)については、「公平」とは何をもって「公平」という のか、その定義は立場によって異なる。したがって、対象者は一律に削減義務を課すこと で少なくとも全体として削減努力を怠らせないようにすることが「公平」であるとしたよ うだ15。5)については、業務・産業部門全体の排出量の 4 割をわずか 1300 事業者が排出し ている。こうした構造は東京都の特性として捉えることができる。残りの論点については 後に取り上げることにする。 このようにして、東京都では意見交換を行うことにより、事業者と調整を図ってきたので ある。
2.3 庁内における調整―庁内横断組織の設置
16―
環境にかかわる施策は環境局に限らず、何らかの形で環境に関連することがよくある。 例えばヒートアイランド対策になる保水性アスファルトの敷設は道路行政である。しかし、 15 ヒアリング調査(2008 年 9 月 18 日実施、於:東京都環境局、協力者:千葉稔子氏)より。以下のヒア リング調査も同様。 16 詳しくは、http://www2.kankyo.metro.tokyo.jp/kikaku/strategy-meeting/index_1.htm 参照。24 部局が違うことで施策が重複したり、他局の施策に反発するなど縦割り行政の弊害が生じ ることがある。排出量取引制度に関しては、環境局が取り組んでいたが、その際の庁内の 調整はどのようにクリアしていったのか。 東京都では 2007 年に出された「東京都気候変動対策方針『カーボンマイナス東京 10 年 プロジェクト』」推進のために庁内横断組織の設置を目指していた。そして 2007 年 12 月、 「環境都市づくり戦略合同会議」が開催された。これが全庁横断的に環境政策を実現させ るための庁内横断組織となっている。図 4 は庁内横断組織の組織図である。 この庁内横断組織は、予算規模 500 億円で、図 4 を見てもわかるように、カーボンマイ ナス都市づくり推進本部と緑の都市づくり推進本部の 2 つの本部を設置し、さらに前者か らは 3 つの部会、後者からは 5 つの部会を設置している。2 つの本部はそれぞれ副知事をト ップとして、部会には都庁の局それぞれを責任局として、庁内で横断的に政策が実現でき るようにした。既に 250 億円以上の予算が決定している17。 都庁内ではそれぞれの局が「環境」に関わる施策を実施しており、縦割り行政の弊害を 克服できるようにした試みであると言える。「環境」に関わる政策は一つの部局だけでは実 現が困難であることが多く、むしろ都庁内では横断的に施策が実施できるようにしたいと いうポテンシャルがあったとされる18。そうした中で東京都では環境先進都市を目指す試み からこうした庁内横断組織の設置が実現された。 17 ヒアリング調査より。 18 ヒアリング調査より。 図 4 庁内横断組織について (出典)東京都環境局 環境都市づくり戦略合同会議についての資料より筆者作成
25 今回の排出量取引制度の導入にあたっては、以上のことから都庁内での調整は問題にな らなかったようである19。また、都内における市区との調整についてであるが、市区に既に 同じ制度が存在していれば、調整が課題になったであろうが、市区で排出量取引制度は存 在しなかったため調整する必要性も生じなかった。 排出量取引制度の政策・立案等は環境局独自で行っていたが、都知事との考え方の一致 もあり、都知事自身も支援すべく広告塔となって排出量取引制度の導入に向けた取組みが 円滑に且つ積極的に行われていた。したがって、都庁内では円滑に排出量取引制度の導入 が進んでいた。
3. 東京都における排出量取引制度の課題と評価について
前節では東京都における排出量取引制度の導入過程を見てきた。本節では前節で見てき た排出量取引制度の導入について評価をし、課題を考察する。その際に考慮しておかなけ ればならないこととして、東京都という地域の特殊性が挙げられるだろう。行政側の強制 的な取り組みではなかったことを考えると、何か都内の企業が同意する理由があるはずで ある。したがって、本節では 3.1 で東京都の特殊性を考慮し、その上で 3.2 で制度の課題と 制度の評価を与えていくことにする。3.1 首都であることの特殊性の考慮
今回の排出量取引制度の導入にあたっては、先に見てきたような段階を経て、行政側の 地道な取組みと企業側の協力あるいは納得によって達成することができた。外見上ではそ れ以上のことは達成要因として見てとれない。しかし、実際には首都であるという東京の 特殊性が裏にあり、そのことがいわば 触媒 となって制度導入がスムースに達成できた のと思われる。 東京都の地域特性として、特にビルが密集している都心部では、先に述べたとおり、ヒ ートアイランド現象や熱帯夜の日数増加が問題となっており、さらに地球規模で進行する 地球温暖化という二重の温暖化問題を抱えている。二重の温暖化問題から東京都は地域の 問題として捉え、行政として責任をもって取組む試みが「ストップ温暖化!東京作戦」であ ることも既述のとおりである。 このことは温暖化政策にとりかかかるための理由づけにはなるが、 触媒 にはならない。 なぜなら、温暖化政策にとりかかる理由づけだけで、排出量取引制度導入のための 触媒 になるのならば、他の自治体はおろか国の制度化も既に困難なく行われているはずである。 そもそも国の制度化が遅れている理由の一つは産業界からの反対である。東京都のステ ークホルダー・ミーティングでも事業者側からの反対があったことは先に見てきたとおり である。2.2.2 の 2)や 3)で述べたように産業界が反対する理由には経済的な問題が関係し 19 ヒアリング調査より。26 ている。すなわち、ここで言う 触媒 はこの経済的な問題がまさに関係しているのであ る。 東京都の特殊性(=首都の経済的な事情)は、首都機能の集中、本社機能の集中と言っ たオフィスビルが集中しているということが挙げられる。また、全国的に人口が減少傾向 にある一方、東京都は人口も集中しており、少なくとも減少傾向にはない。図 5 は東京都 における人口の推移であるが、それを見ても人口は減少傾向にない。また、先に提示した 図 1 の産業構造からも、人口の集中と合わせて、東京都にはオフィスビルにとどまらず、 住宅、商業施設、教育機関などあらゆるものが集中していることを予測できる。税収など の財源も安定していることが考えられる。 2.2.2 の 3)で示したように、事業所移転(経済活動拠点の移転)の懸念について、行政 側は、本社への近接性といった様々な要因から事業所立地を決める20と回答している。これ が示すことは、東京都には事業活動の際の利便性を考えると本社機能を集中させたいとい う事業所が多いということである。したがって、今回のような強い規制をかけたところで そう簡単には移転しないであろうという自信あるいは確信が裏にあったのであろう。むし ろ飽和状態の東京では、大量排出企業は転出してもらったほうが数値達成の上では望まし い。仮にこうした総量規制を他の地方自治体が行おうとすれば、容易に他の地域へ移転す る可能性が高い。 他の地方自治体が懸念する事業所移転も首都東京ではそうしたことは考えにくい。仮に 転出されたとしても少数で、財政的に痛手を被ることも考えにくく、再び別の事業所が転 入してくる可能性の方が高いだろう。少なくとも東京都にはこうした特殊性が裏にあった 20 経済産業省「平成 19 年上期(1-6 月期)工場立地動向調査結果(速報)」を参照。 図 5 東京都の人口推移 (出典)東京都環境局「人口の動き(平成 19 年中)」をもとに筆者作成
27 ものと考えられる。
3.2 排出量取引制度の課題と制度導入への評価
3.2.1 排出量取引制度導入に対する評価
以上のような東京都の特殊性が背景にあり、それが制度導入への確信になっていたと考 えることができる。事業者の納得は得られたものの、ある種強行的に導入できた背景には、 そうした確信があったからであり、東京都は着実に取り組んでいけたのである。 着実に取り組んだ例として、先に述べた「地球温暖化対策計画書制度」においては、2005 年から約 1300 事業所に個別指導を実施し、計画書評価段階ではほとんど A 評価以上にさせ たことが挙げられる。また、産業界からの反対意見については、ステークホルダー・ミー ティングを通じて丁寧に回答したことが挙げられる。 このような一つ一つの取組みは、段階的に制度の構築を試み、徐々に理解を得るための 努力と言えるだろう。産業界の反対意見も受け止める一方で、説得を続けながら取組んで きたことは真剣に今回の制度を成立させたい表れとして捉えることができる。また、実際 に環境局でインタビューを行った際も、そうした強い意志があったことを感じとることが できた。したがって、段階的に、着実に、そして産業界を説得しながらも取組んでいった ことは評価できる。3.2.2 排出量取引制度の運用面での今後の課題
そうした一方で制度についてはいくつか課題がある。まず、他地域における削減努力分 のカウントが挙げられる。いわゆるリンキングと呼ばれるシステムである。今回の制度に おいては、東京都以外での同一企業やグループ会社における全体的な削減対策による削減 分は一定の制限があるものの、削減分をカウントすることができるような仕組みとなって いる。 周辺の自治体では、排出量取引制度の導入に強い意欲を示しており、そうした際の排出 枠の取引やクレジット方式によるカウントをどのようにお互いに作用させるのか今後の課 題となるだろう。 また、地域同士のリンキングだけでなく、国の制度との関係も如何にするか課題となっ てくる。国でも東京都と同じ時期に本格実施する。国の取組みが本格実施に移った際に、 東京都で行う排出量取引は、国の制度との関係などついて明らかとされていない。国の制 度と同調して上乗せ的に排出総量削減を目指すのか、東京都独自で取引を行えるようにし、 国での削減分を換算できたり、京都メカニズムを利用した削減分をカウントできたりする のか、明らかとなっていない。したがって、国とのリンキングについても課題があるとい える。ちなみに欧州で実施されている EU-ETS は、EU 内でしか使えない独自の排出枠を設28 ける一方で、京都メカニズムによる削減分をカウントできるとされる21。 次に挙げられる課題は、リンキングの際の対象事業者が考えられる。東京都の制度の特 徴は、対象事業者は業務及び産業部門であり、前述したとおり約 1300 事業所のうち約 1000 事業所が、オフィスビルや商業施設、教育施設といった業務部門である。通常であれば、 排出量が多いと予想される工場を中心に対象とするが、東京都ではオフィスの数も排出量 も多いため、業務部門も対象とした。このことは、東京都における地域の特性を考慮した 結果である。周辺自治体で同様な制度ができた際に、リンキングにおいて対象事業者が異 なってしまう可能性が生じる。したがって、対象事業者が異なることによってリンキング に摩擦が生じてしまうことがないように、対象事業者の範囲をどのように決めるのかがポ イントとなる。 リンキングを意識した対象事業者の範囲は、東京都を含めた周辺で排出量取引を行う自 治体同士で協議する必要がある。これは国の制度とのリンキングにおいても同様のことが 言える。国の制度に同調する場合では東京都は国の対象事業者にリンキング可能なように 微調整する必要がある。いずれにしても、リンキングを意識した場合は、対象事業者の範 囲の設定が課題となるだろう。 3 つ目に挙げられる課題は、排出量削減のための補完措置の種類の増加である。今回の東 京都の制度では、排出総量の削減を自助努力で行うことが第一の目標とされている。この 目標が達成できなかった場合の補完措置が排出量取引である。排出量取引それ自体は目的 ではなく、あくまで総量削減が目的である。排出量取引は削減のための手段であることを 認識させるために、補完措置扱いすることを堅持することが望ましい。大規模事業者にお ける排出枠の取引は、価格や排出枠については当事者間の相対で決めることになっており、 相場のようなものが存在するわけではない。一方、中小規模事業者が獲得した削減分はク レジットとして市場で取引されるため、需要と供給のバランスが崩れるとクレジット価格 の不安定を招くことになる。クレジット価格の不安定さは、排出削減を達成できないだけ でなく、事業活動の制限につながりかねない。 したがって、クレジット方式での価格の安定を図るために、補完措置の種類の増加が必 要である。例えば、京都府のケースが挙げられる。京都府では、東京都の温暖化対策計画 書制度と同じような制度が存在22し、総量削減の義務化は行っていないが、自助努力以外に も自分の排出量を削減できるような補完措置をいくつか用意している。特に特徴的なこと は植林によって CO2森林吸収源を創出した場合、それを削減分としてカウントできるよう になるいわゆる植林 CDM を実施している点である。こうした補完措置によって、この場合 は森林吸収源の創出によって削減クレジットを獲得すれば、自分の削減分と取引に回すク レジット分ができる。そうするとクレジットの供給量が増え、削減を目指す事業者側の需 要にも応えられるようになり、価格の安定も目指せるのである。 課題として挙げられることは以上のような 3 点、すなわち他地域あるいは国の制度との リンキングについて(上乗せ的かもしくは独自に取引が行えるか)、リンキングを意識した 21 経済産業省(2004)「EU における排出量取引制度及び京都メカニズムの活用の現状について」を参照。 22 京都府では「排出量削減計画書制度」という名称で存在する。これについては、次ページ表 6 に記載。
29 対象事業者の設定、クレジット方式による取引価格安定のための補完措置の充実である。 これらは今後制度を運用するにあたって直面する課題であろう。したがってこれらの課題 をクリアすることが制度の運用が円滑に進むためのカギとなると言える。
4. 他の地方自治体の温暖化政策に対する影響と展望について
これまでに、東京都の温暖化政策ついて、計画から実施までの過程についてと制度導入 の評価および課題について述べてきた。こうした東京都の動きに対して、停滞していた日 本の温暖化政策が、とりわけ排出量取引制度において全国に広がっていくことが予想され る。しかし、制度の運用自体は 2010 年以降のため、各自治体でも東京都における第 1 期間 が終了するまでは、様子見の状態であろう。東京都の運用開始時期は、国の本格実施の開 始時期と重なる。双方の第 1 期間が終了した時点で、どちらが排出削減実績を残すことが でき、より産業界の持続可能な成長になったのかで、各自治体の姿勢も変わるだろう。 国や東京都の試みは双方とも初めてのものとなるため、いかなる結果になるか想像する ことが難しい。したがって、本節では結果については予想不可能という前提で、他の地方 自治体への影響を考えることになる。そこで、他の地方自治体で同じ制度があるかどうか を明らかにする。そして周辺の自治体の反応に注目して、排出量取引制度の適用可能性な どを考察し、今後の地方自治体の温暖化政策について展望する。 表 6 東京都の温暖化対策計画書制度と類似の制度の比較 本表作成にあたっては、各自治体のウェブサイトを参考に筆者が作成した。 東京都 埼玉県 横浜市 千葉県柏市 愛知県 名古屋市 京都府 京都市 大阪府 兵庫県 制度の名 称 地球温暖 化対策計 画書制度 環境負荷 低減計画 書 地球温暖 化対策計 画書制度 排出量削 減計画書 地球温暖 化対策計 画書制度 地球温暖 化対策計 画書制度 排出量削 減計画書 排出量削 減計画書 地球温暖 化対策計 画書制度 (地球温 暖化対策 計画書制 要件 エネル ギー使用 量原油換 算1500Kl/ 年以上 エネル ギー使用 量原油換 算1500Kl/ 年以上 エネル ギー使用 量原油換 算1500Kl/ 年以上 CO2排出 量1500ト ン以上/以 上 エネル ギー使用 量原油換 算1500Kl/ 年 エネル ギー使用 量原油換 算800Kl/ 年 エネル ギー使用 量原油換 算1500Kl/ 年ほか エネル ギー使用 量原油換 算1500Kl/ 年ほか エネル ギー使用 量原油換 算1500Kl/ 年 エネル ギー使用 量原油換 算1500Kl/ 年 対象者 業務、産業部門 大型小売 店舗1ha 以上 該当事業 者すべて 該当事業 者すべて 工場のみ オフィス、 工場、小 売り店舗 など エネル ギー者、 運輸、 GHG大量 排出事業 エネル ギー者、 運輸、 GHG大量 排出事業 該当事業 者すべて 該当事業 者すべて 提出形態 義務 義務 義務 義務 義務 義務 義務 義務 義務 義務 排出削減 目標 総量規制 自主目標 自主目標 自主目標 自主目標 自主目標 自主目標 自主目標 自主目標 自主目標 削減対策 指定する基本対策 自主的取組 自主的取組 自主的取組 組自主的取 自主的取組 自主的取組 自主的取組 自主的取組 自主的取組 個別対応 有 無 無 無 無 無 無 無 無 無 補完措置 有 無 無 無 無 無 有 無 無 無 補完措 置の方法 排出量取 引 森林吸収 減、エコポ イント獲得 支援、ク リーンエネ ルギー使 用30
4.1 他の地方自治体への影響・波及について
4.1.1 「地球温暖化対策計画書制度」の類似制度の存在
既述の通り東京都の排出量取引制度は、「地球温暖化対策計画書制度」が土台となって発 展させたものである。したがって、他の地方自治体への適用可能性を考える際には、類似 の制度が他の地方自治体にも存在しているかどうかが判断材料となる。 そこで筆者は、この点についてインターネットの検索機能を用いて、「温暖化対策(スペ ース)計画書」をキーワードにして検索を行った。調査の結果、制度の名称は異なってい たが 10 数府県市以上が類似の制度を保有していた。東京都と同じような経済構造を持つ府 県や政令市、東京都周辺の自治体を取り上げてまとめたものが表 6 である。 表 6 を見て分かるように、共通している点は、千葉県柏市を除いて、年間エネルギー使 用量を要件としている点である。名古屋市を除くすべてが年間エネルギー使用量を原油換 算 1500Kl としている。対象事業者は、東京都は業務・産業部門、埼玉県は 1ha 以上の大型 小売店舗、愛知県では工場のみとそれぞれ限定しているが、それ以外は、要件を満たす該 当事業者としている。 提出形態はすべての自治体で義務となっている。削減目標は東京都のみ総量規制に対し て、他はすべて自主目標である。対策についても東京都のみ指定する基本対策を最低限し なければならないが、他の自治体は皆、自主的取組に任せている。個別対応も東京都のみ となっている。 補完措置の有無については、東京都の他に京都府が表 6 に示すような方法を用意してい る。この制度を利用して排出量取引制度を構築する場合は、各自治体が排出量取引を含め、 東京都や京都府が用意する補完措置を設ける必要がある。4.1.2 周辺自治体の反応
東京都の制度導入に際して、他の自治体はどのような反応を示しているのか。筆者が行 ったヒアリング調査にて、この趣旨の質問をしたところ、埼玉県が強い意欲を示している という回答が得られた。それ以外の周辺自治体では、検討するという内容にとどまってい るようであった。 そこで、まずは、埼玉県について排出量取引制度をどのように検討しているのか、埼玉 県庁のウェブサイト上における報道発表や温暖化政策の構想について検討した会議録など を中心に調査を行った。その結果、同県は、確かに排出量取引制度導入を検討しているこ とがわかった。ただし、同県が構想している排出量取引は、目標設定型排出量取引である。 すなわち、東京都のケースとは異なり、排出削減目標は、義務ではなく努力目標とし、罰 則規定がない。このタイプの排出量取引は、国で実施する方法と同じである。 類似の制度を持つ横浜市の反応についても報道発表や温暖化政策の今後の方針などをも とに調査を行った。同市では、制度において排出総量削減の義務化を目指し、排出量取引31 制度の導入を検討しており、東京都との制度の互換性や整合性を図るという情報が得られ た。 兵庫県についても排出量取引を検討している。ただし、キャップアンドトレード方式で はなくベースラインアンドクレジット方式である。 このように各地で排出量取引制度導入に向けた検討がなされている。
4.2 今後の地方自治体の温暖化政策の展望について
今回の東京都での排出量取引制度の導入は、周辺の自治体が排出量取引に意欲を示すな ど、少なからず影響を与えた。停滞していた日本の温暖化政策の前進を期待できるだろう。 そうした中で、先にも述べたような制度運用における課題が出てくる。特に、周辺の自 治体や国の制度との関係で調整する必要が出てくる。相互の制度についての整合性を図る ことは、政策形成の技術を向上させる効果が期待できるだろう。 国の制度との関係を考えるとき、各自治体あるいは広域連携の独自のルールが生まれる ことが予想される。例えば EU-ETS では、京都メカニズムとは別の独自排出枠やクレジット を用いている。そのような独自のルールを設けることで、各地で効率的な排出量削減が実 現できる。 東京都のケースでは、業務部門と産業部門だけを対象事業とした。こうした独自のルー ル設定は、地域の特性の考慮が可能となる。 地域における環境政策の意義は、少なくとも 2 つあると考えられる。1 つは、「住民に身 近な行政」は、地方自治体が行うとする考え方23である。近年では、地方分権化を目指す流 れと合わせて、住民に身近な環境は住民自ら創造する考え方のもと、地域における環境行 政の重要性が主張されている。 2 つ目は、自治体行政の役割には、住民の生活の質の向上が挙げられる24。その意味で、 環境という視点で考えても地方自治体における環境政策の意義は大きい。 環境基本法にもあるように「自然的社会的条件に応じた」施策が自治体には求められて いる。今回の東京都のケースでは、「自然的社会的条件」の中の「社会的」条件が考慮され ている。 東京都の地域独自の政策のように、他の地方自治体でも「自然的社会的条件」を意識し た地域独自の政策を目指すことが望ましい。今回の東京都のケースについて、各地で広ま るようになれば、排出量取引制度の構築の過程において、地域の特性の考慮を期待できる だろう。地域独自のルールである一方、排出量取引制度を発端として、ナショナルスタン ダードにも対応できるような仕組みが登場すれば、温暖化政策全体に地域特性を考慮した 政策の発展が展望できる。 まずは道府県レベルの自治体が、東京都と国の制度の本格実施に合わせて、制度導入に 23 北村喜宣(2006)『自治体環境行政法 第 4 版』第一法規、p.9 を参照。 24 保母武彦(2003)「第 7 章 環境政策と地域」植田和弘・森田恒幸編『岩波講座 環境経済・政策学 第 3 巻 環境政策の基礎』岩波書店、pp.189-197 を参照。32 向けて動き始めるだろう。道府県レベルの動きに対する市町村レベルの自治体の対応を含 めて、各地での排出量取引制度の導入に向けた今後の取組みに注目していきたい。
おわりに.
今回の論文では東京都の温暖化政策の排出量取引という極めて狭い範囲で研究・調査を 行ったが、論文を執筆するまでには想像以上に多くの資料にあたることになった。今回は、 インターネットを活用する手段をとったが、今後は、実在する正規の文書でフォローアッ プしていきたい。特に労力を費やしたことは、温暖化対策計画書制度の類似制度のリサー チであった。インターネット上で、それらの情報は入手できたが、今後の方針や東京都の 動向に対する姿勢などは直接現場に出向いて調査しなければ、最新の情報は得られない。 今後は、直接行政に対し調査することが、当面の研究課題である。 排出量取引制度の導入から今後の地方自治体の温暖化政策について考察したが、当然に 自治体の規模などの違いから中身が異なってくる。この点に関しても議論しきれていない。 また、昨今の経済危機により、今後の展開は危機の動向に左右される可能性がある。今後、 中小規模の自治体では、どのような対応をとるのか検討していかなければならない。 本論の最後に述べた地域特性や住民に身近な行政などを考慮すれば、研究対象は中小規 模の自治体となる。排出量取引が事業者相手であることを考えると、住民に身近な制度で はなく、中小規模の自治体にはむしろ適さないかもしれない。 今回の東京都における排出量取引制度の導入過程を見て、制度の内容を形成させていっ た根拠は、地域特性の考慮であることが見出された。こうした東京都の一連の流れから、 中小規模の自治体には、どのような政策の適応が可能か考察するための示唆を得られた。 今後は、中小規模の自治体での政策について、何ができ、何ができず、何が求められ、何 をすることがその地域あるいは自治体にとって望ましいことかといった、自治体の役割と いう視点で、地方自治体における温暖化政策を検討していきたい。33 【参考文献・資料】 大野輝之(2008)「東京都の気候変動対策 なぜ、東京で総量削減義務と排出量取引制度が実現されたのか」 現代の理論 2008 年秋号 pp.88-95。 環境省(2009)「諸外国における排出量取引の実施・検討状況」 http://www.env.go.jp/earth/ondanka/det/os-info/jokyo.pdf 2009 年 1 月 15 日アクセス。 北村喜宣(2006)『自治体環境行政法 第 4 版』第一法規。 経済産業省「平成 19 年上期(1-6 月期)工場立地動向調査結果(速報)」 http://www.meti.go.jp/statistics/tii/ritti/result-2/h19kamikisokuhou.pdf 2008 年 12 月 15 日アクス。 経済産業省(2004)「EU における排出量取引制度及び京都メカニズムの活用の現状について」 http://www.meti.go.jp/committee/downloadfiles/g40721a30j.pdf 2009 年 1 月 13 日アクセス。 埼玉県環境部(2008)「ストップ温暖化・埼玉ナビゲーション2050(仮称)」埼玉県地球温暖化対策実行 計画【大綱】http://www.pref.saitama.lg.jp/A09/BE00/ondanka/suishinkeikaku/kome-siryo/zenbu.pdf 2009年 1月19日アクセス。 〈財〉日本エネルギー経済研究所第 389 回定例研究報告会発表資料(2004)「EU 域内排出量取引制度の概 要と導入に伴う影響分析」。 谷口信雄(2008)「脱温暖化へ 国の先を行く首都東京の挑戦」資源環境対策 Vol.44 No.4 pp.44-49。 東京都総務局統計部ホームページ http://www.toukei.metro.tokyo.jp/index.htm 2008 年 11 月 6 日アクセス。 東京都環境局気候変動対策方針「ステークホルダー・ミーティング」会議資料 http://www2.kankyo.metro.tokyo.jp/kikaku/kikouhendouhousin/index.htm 2008 年 11 月 6 日アクセス。 東京都環境局ホームページ http://www.kankyo.metro.tokyo.jp/ 2008 年 11 月 6 日アクセス(東京都の温暖化 対策 http://www2.kankyo.metro.tokyo.jp/sgw/ 2008 年 11 月 6 日アクセス) 。 東京都環境局 CO2排出量削減制度構築 WG(2008)「東京都における地球温暖化問題への取組―大規模事業 所への削減義務の導入」ジュリスト 6 月号(No.1357)pp.54-60。 保母武彦(2003)「第 7 章 環境政策と地域」植田和弘・森田恒幸編『岩波講座 環境経済・政策学 第 3 巻 環 境政策の基礎』岩波書店。 横浜市環境創造局(2008)第9回横浜市環境創造審議会地球温暖化対策検討部会資料「温暖化対策計画書に ついて」 http://www.city.yokohama.jp/me/kankyou/etc/shingikai/kankyousouzoushin/ondanka/ondankakaisaikiroku/shiry o/shiryo0904.pdf 2009年1月19日アクセス。 【その他、ウェブサイトアクセス日】 2009 年 1 月 15 日アクセス 環境省、経済産業省および各地方自治体ウェブサイト、他。 【ヒアリング調査】 実施日時:9 月 18 日 9:30∼10:30 場所:東京都環境局 調査協力者:千葉稔子氏(東京都環境局 CO2排出量削減制度構築 WG メンバー、環境政策課主査)
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Outlook on Climate Change Policy of Local Government
Viewing Introduction Process of Tokyo Emission Trading System
Masahiko SUZUKI
Graduate School of Policy Studies Kwansei Gakuin University
Abstract:
In Tokyo, the reduction duty of the greenhouse gas discharge gross weight will be imposed from 2010, with the revision of the Tokyo Metropolitan Environmental Security Ordinance on June 2008. And, they introduced mandatory cap and trade system as a supplement step of the discharge reduction. This scheme is the first trial in Japan. Bureau of Environment performed a step-by-step action variously before introduction of the system. As for the case of Tokyo, “Tokyo CO2 Emission Reduction Program”is a base. Therefore, several actions has been performed for the revision of the program such as adjustment (stakeholder meetings) with business groups, companies, NGOs etc. and the adjustment in Tokyo Metropolitan Government. I examine a problem about this case, and then consider the prospect to the climate change policy of local government.
Key words and phrases: mandatory cap and trade system, Tokyo CO2 Emission Reduction Program,