論
文
MgO:LiNbO
3周期分極反転構造電気光学ブラッグ偏向型一次元空間光
変調器
井上
敏之
†a)栖原
敏明
†One-Dimensional Spatial Light Modulator of Electrooptic Bragg Deflection Type
Using Periodically Poled MgO:LiNbO
3Toshiyuki INOUE
†a)and Toshiaki SUHARA
†あらまし 我々はレーザディスプレイやレーザ描画装置等への応用を目指して,新たに MgO 添加 LiNbO3 (MgO:LN) 周期分極反転構造電気光学 (EO) ブラッグ偏向型光変調器を用いた一次元空間光変調器を実証した. 周期分極反転 MgO:LN を用いた EO ブラッグ偏向型光変調器を作製し,変調特性の評価を行った.分極反転後 に結晶アニーリングを行うことにより変調時の緩和現象が低減できることを見出した.青紫色レーザ光を用いた 変調実験において最大回折効率 97%を得た.紫外レーザ光(波長 325 nm)を用いて方形電圧による透過光・回 折光パワーの変調が確認できた.また,この変調器を画素として配列した一次元空間光変調器を作製した.一次 元回折光強度パターンが得られ,空間変調の基本動作が確認できた. キーワード 空間光変調器,ブラッグ偏向器,電気光学変調器,MgO 添加 LiNbO3,周期分極反転構造
1.
ま え が き
強誘電体結晶であるLiNbO3 (LN)やLiTaO3(LT) は優れた非線形光学(NLO)・電気光学(EO)特性を有 しており,LN・LT周期分極反転構造は擬似位相整合 NLO波長変換デバイス等に広く応用されてきた[1]. また分極反転を利用したEOデバイスも研究されてお り,光偏向器[2],光SSB変調器[3]等が報告されてい る.周期分極反転LN・LTを用いたEOデバイスに EOブラッグ偏向型光変調器があり,これまでに近赤 外光や赤・青紫色レーザ光の強度変調が実証されてき た[2], [4]∼[7].しかし,LN周期分極反転構造EOブ ラッグ偏向型光変調器では,青紫レーザ光変調時に光損 傷に起因する散乱光が生じ,光損傷を回避するためにデ バイス温度を120◦Cに上げる必要があることが報告さ れており[6],高パワー・短波長光の変調が困難であった. 我々は,レーザ描画装置やレーザディスプレイへの †大阪大学大学院工学研究科電気電子情報工学専攻,吹田市Department of Electric, Electronic and Information Engi-neering, Graduate School of EngiEngi-neering, Osaka University, 2–1 Yamada-oka, Suita-shi, 565–0871 Japan
a) E-mail: [email protected] 応用を目指して,EOブラッグ偏向型光変調器を多数配 列し構成した一次元空間光変調器の実現に向けての検 討を行っている[8], [9].本論文では,新たなMgO:LN 周期分極反転構造EOブラッグ偏向型光変調器を用い た一次元空間光変調器の実証について報告する.この デバイスは機械的方式や音響光学デバイスよりも高速 に動作し,高効率な光変調が期待できる.従来の周期 電極装荷型よりも低駆動電圧化が可能であり,画素電 極の形状が単純で小さくできるため高画素密度が実現 できる利点がある.高パワー光や紫外光を含む短波長 光の変調に適するように,光損傷耐性に優れたMgO 添加LN (MgO:LN)を用いた周期分極反転構造を採用 した.この空間光変調器は再回折光学系・空間フィル タと組み合わせて描画装置やディスプレイに応用でき る.以下ではまず,EOブラッグ偏向型光変調器の動 作原理について説明し,EOブラッグ偏向型光変調器 を用いた一次元空間光変調器の構成及び設計について 述べる.次に,周期分極反転MgO:LNを用いたEO ブラッグ偏向型光変調器の基本単位(一次元空間光変 調器における1画素分)の作製,紫外光を含む短波長 光における変調特性の評価について述べる.更に,こ の変調器を配列した一次元空間光変調器の作製と空間
変調動作について述べる.
2. EO
ブラッグ偏向型一次元空間光変調器
の動作原理及び設計
2. 1 EOブラッグ偏向型光変調器の動作原理 空間光変調器の構成要素として用いるMgO:LN周 期分極反転構造EOブラッグ偏向型光変調器を図1に 示す.MgO:LNのZ 方向に電界を印加すると,EO 効果により異常屈折率がΔne = −n3er33E/2(ne: 異常屈折率,r33:電気光学定数,E:印加電界)だ け変化する.周期Λの周期分極反転MgO:LN内で はr33の符号が周期的に反転しているので,Z方向 に一様電界を印加すると結晶内に屈折率グレーティ ングが形成される.Klein-Cookパラメータ[10] は Q = 2πλL/neΛ2(λ:レーザ光波長,L:グレーティ ング厚さ)で表され,Q > 10を満たすグレーティン グにブラッグ条件を満たすようにレーザ光を入射する と,ブラッグ回折光が生じる.ブラッグ条件を満たし ているときの波動ベクトルダイアグラムを図2 に示 す.ただし,レーザ光は異常光として,グレーティン 図 1 周期分極反転 MgO:LiNbO3を用いた EOブラッグ偏向型光変調器Fig. 1 Schematic illustration of EO Bragg de-flection modulator using periodically poled MgO:LiNbO3.
図 2 ブラッグ条件下の波動ベクトルダイアグラム
Fig. 2 Wave vector diagram under Bragg condition.
グベクトルはX 軸に平行とする.このとき結晶中で のブラッグ角はθB= Sin−1(λ/2neΛ)であり,空気中 ではθB= Sin−1(λ/2Λ)である. 図1のようにY 軸をとると,基本次の透過型ブラッ グ回折に関するモード結合方程式[11]は式(1)で表さ れる. d
dYa(Y ) =−κb(Y ) exp(−j2ΔY ) (1a) d
dYb(Y ) =−κa(Y ) exp(+j2ΔY ) (1b) ここで,a(Y ),b(Y )はそれぞれ入射光,基本次回 折 光 の 振 幅 ,2ΔはY 方 向 位 相 不 整 合 量 で2Δ = k cos θd− k cos θi(θi:入射角,θd:回折角),κは結 合係数で κ = 2πΔn1/λ = 4|Δne|/λ = 2n3er33E/λ (2) と表され,Δn1は屈折率グレーティングのフーリエ基 本振幅である.初期条件a(0) = 1,b(0) = 0として モード結合方程式を解いて回折効率ηを求めると, η = |b(L)| 2 |a(0)|2 = sin2(√κ2+Δ2L) 1 + (Δ/κ)2 (3) となり,特にブラッグ条件下(2Δ = 0)では η = sin2(κL) = sin2(2n3er33LE/λ) (4)
となる.式(4)は印加電界を変化させることにより, 透過光・回折光パワーを変調できることを示している. 式(4)よりη = 100% (κL = π/2)とするために必要 な印加電界Eη maxは Eη max= πλ/4n3er33L (5) と求められる.Eη maxのグレーティング厚さL依存性 を図3に示す.ただし,λ = 405 nm,ne= 2.31 [12], r33= 36 pm/V [13]とした.Eη maxがMgO:LNの反 転抗電界∼4.5 kV/mm [14]を上回らないようにする ためには,赤色レーザ光に対しては0.3 mm以上,青 紫色レーザ光に対しては0.2 mm以上のグレーティン グ厚さが必要となる.Lを大きくすることにより必要 な印加電界を低減できるが,Lを大きくしすぎると変 調器の入射角度受容幅(半値全幅,空気中) 2Δθ∼= Sin−1[nesin(Λ/L)] (6) が小さくなり,より厳密な入射角調整が必要となる. 2. 2 一次元空間光変調器の構成及び設計 EOブラッグ偏向型光変調器を一次元に多数配列す
図 3 η = 100%とするために必要な印加電界 Eη maxの グレーティング厚さ L 依存性
Fig. 3 Dependence of applied electric field for η = 100% Eη maxupon grating thickness L.
図 4 画素電極の配置.(a) 上面図,(b) 側面図 Fig. 4 (a) Top view and (b) side view of
configura-tion of pixel electrodes for spatial light mod-ulation.
図 5 空間変調光学系
Fig. 5 Experimental setup for spatial light modulation. ることにより,一次元空間光変調器を構成する.図 4 のように周期分極反転MgO:LN(結晶厚T)に画素電 極(電極幅D,電極ギャップ幅g)を必要な画素数分 だけ装荷する.空間変調光学系を図5に示す.再回折 光学系(レンズの焦点距離f)を用いて回折光と透過 光をそれぞれの空間周波数の違いによりフーリエ変換 面(y = 2f )において分離し,透過光・回折光の片方の みを透過させる.それぞれの電極に別個に変調信号を 与えると,出力面(y = 4f )において透過光あるいは 回折光の一次元光強度パターンを得ることができる. フーリエ変換面で回折光を遮り,透過光強度パター ンを出力する方式では,高い消光比を得るためには, 100%に近い高回折効率が必要である.例えば消光比 1/100を得るためには回折効率99%が必要となる.ま た,たとえ回折効率を100%にできても,その画素両 側の電極ギャップ領域の透過光が出力されるため,透 過光出力を完全にOFFにすることができない.一方 で,図5のようにフーリエ変換面で透過光を遮り,回 折光強度パターンを出力する方式では,回折光出力を 完全にOFFできるので,必ずしも100%に近い高回 折効率が得られなくても比較的高い消光比を得られる と考えられる.以下では,この方式について考察する. 図 4 のように画素電極を装荷し,例えばV1,V3 に 最 大 回 折 効 率 を 得 る た め に 必 要 な 電 圧 Vη max (= Eη max× T )を印加し,V2 に0 Vを印加する. 隣接画素電極間で絶縁破壊が生じないようにするため には,電極ギャップ間の絶縁破壊電界をEBとして g > Eη max EB T = πλ 4n3 er33EB T L (7) が満たされなければならない. ON状態の画素から生じる回折光が,隣接するON 状態の画素内のグレーティング領域に入るとブラッグ 回折が再び生じ,透過光と同じ角度で進行してフーリ エ変換面で遮られるため,回折光出力が減少する.こ のような不都合を防ぐためには,電極ギャップ幅が g > L tan θB∼= λL/2neΛ (8) を満たさなければならない. 式(7),(8)を同時に満たすために最低限必要な電極 ギャップ幅gの分極反転周期Λ依存性を図6に示す.た だし,EBの値をLNや電極ギャップに充てんする絶縁 材料(SiO2等)の絶縁破壊電界に相当する20 kV/mm とし,λ = 405 nm (ne = 2.31),r33 = 36 pm/Vと した.また,Qが10を下回るようなΛの範囲ではグ ラフを点線で表した.Λを大きくすると必要なgが小 さくなり,Lを小さくするとEη maxは大きくなるが gを小さくできる.しかし,Lを小さくしすぎると必 要な電圧Vη maxが高くなるだけでなく,隣接画素間で の絶縁破壊を防ぐためにgを大きくしなければならな い.Lを小さくする場合,T も小さくしてVη maxを 引き下げるとgを小さくできる. グレーティング領域でEO効果を通じた周期的屈折 率変化により相互作用する透過光と回折光の空間的重
図 6 必要な最小電極ギャップ幅 g の分極反転周期Λ 依
存性
Fig. 6 Dependence of required minimum electrode gap width g upon grating periodΛ.
なりを考える.高回折効率を得るためには,画素幅D, 伝搬距離Lのグレーティング領域の大部分において透 過光と回折光が空間的に重なる必要があるので, D > L tan 2θB∼= λL/neΛ (9) が満たされなければならない. フーリエ変換面において透過光・回折光を分離するた めに満たすべき条件を考える.画素幅(電極幅)Dのグ レーティングにより生じる回折光の幅はDであるから, フーリエ変換面における幅は2λf /Dとなる.また,透 過光の幅は最小の場合(隣接2画素がONでそのギャッ プ領域から光が透過する場合)で電極ギャップ幅gに等 しくなり,フーリエ変換面における幅は最大2λf /gと なる.透過光と回折光のなす角は2θBであり,フーリエ 変換面における透過光・回折光の中心距離はf sin 2θB となるから,フーリエ変換面で透過光・回折光を分離 するためにはf sin 2θB> λf /D + λf /gが満たされ なければならない.この条件をθB = Sin−1(λ/2Λ)を 用いて書き換えると D > gΛ g− Λ, g >Λ (10) となる. 式(9),(10)を同時に満たすために最低限必要な電 極幅Dの分極反転周期Λ依存性を図7に示す.なお, λ = 405 nm (ne= 2.31)とし,電極ギャップ幅gを図6 で求めた必要最小限の大きさとした.また,Qが10を 下回るようなΛの範囲ではグラフを点線で表した.ある Λにおいて必要なDが極小値をとることが分かる.例 えばL = 0.3 mm,T = 0.1 mm (Vη max= 238 V)の 図 7 必要な最小電極幅 D の分極反転周期Λ 依存性
Fig. 7 Dependence of required minimum electrode width D upon grating periodΛ.
図 8 最小画素間隔 D + g の分極反転周期Λ 依存性
Fig. 8 Dependence of minimum pixel interval D + g upon grating periodΛ.
場合,Λ = 5.4 μmとすると,電極幅Dを最小で10 μm とできる.L = 3 mm,T = 0.2 mm (Vη max= 48 V) の場合,Λ = 13 μmとするとD = 40 μmとできる. 画素間隔をどれだけ小さくできるか考察する.上記 の条件を全て満たす最小の画素間隔D + gの分極反 転周期Λ依存性を図 8 に示す.なお,λ = 405 nm (ne= 2.31)とし,電極ギャップ幅gを図6で求めた 必要最小限の大きさとした.また,Qが10を下回る ようなΛの範囲ではグラフを点線で表した.あるΛ においてD + gが極小値をとることが分かる.例えば L = 1 mm,T = 0.2 mmの場合(Vη max = 143 V), Λ = 7.6 μmとすると画素間隔D + gを最小で35 μm (D = 23 μm,g = 12 μm)とでき,画素密度700 dpi 程度が得られる.またL = 3 mm,T = 0.2 mmの場 合,Λ = 13 μmとするとD+g = 60 μm (D = 40 μm, g = 20 μm)とでき,画素密度400 dpi程度が得られる.
3. EO
ブラッグ偏向型光変調器の作製及び
変調特性の評価
3. 1 MgO:LN周期分極反転構造の作製 絶縁膜装荷結晶加熱電圧印加法[15]により,Z 板 MgO (5mol%):LN (T = 0.2 mm)に周期分極反転構 造(Λ = 7.5 μm,L = 4.5 mm)を作製した.結晶+Z 面にフォトリソグラフィによりAl周期電極パターン (4.5× 6.0 mm2)を形成した.電極ギャップ部におけ る過剰な反転を抑制するために,周期電極上にフォト レジストをオーバコートした.分極反転貫通時に生じ るリーク電流を抑制するために,結晶−Z面に絶縁層 としてSiO2をスパッタ堆積し,Au一様電極を堆積 した.120◦Cのシリコーンオイル中で,結晶に与える 電荷量が30 μC(2PsS = 23 μC,Ps:自発分極電荷 密度,S:反転面積)に達するまで,0.70 kVの単一 パルス電圧を印加した.作製した周期分極反転構造の +Z 面及び断面顕微鏡写真(フッ硝酸エッチング後) を図9に示す.MgO:LNでは無添加結晶と比べて均 一性の高い構造を得ることが難しいが,4.5× 6.0 mm2 の領域全体に高品質な周期分極反転構造が作製できた. 3. 2 EOブラッグ偏向型光変調器の作製及び変調 特性の評価 EOブラッグ偏向型光変調器の基本単位の変調特性 を調べた.作製した周期分極反転MgO:LNを両端面 研磨し,±Z面に一様Al電極(6× 8 mm2) を装荷し た.変調実験光学系を図 10 に示す.結晶Z方向に 電界を印加できるようにした状態で,レーザ光をシリ ンドリカルレンズ(焦点距離100 mm)で結晶の厚さ 方向のみ集光し,異常光として結晶に入射した.デバ 図 9 周期分極反転 MgO:LN 顕微鏡写真.(a) +Z 面, (b)結晶断面Fig. 9 Micro-photographs of (a) +Z face and (b) cross section of periodically poled MgO:LN. イスを微動ステージ上で回転させることによりレー ザ光の入射角を変えることができるようにした.透過 光・回折光パワーをフォトダイオードで測定した.な お,Λ = 7.5 μm,L = 4.5 mm,T = 0.2 mmの周期 分極反転MgO:LNを用いた場合,λ = 405 nmのレー ザ光に対して,Q = 88,θB= 1.5◦,Vη max = 32 V となり,λ = 325 nmのレーザ光に対して,Q = 66, θB= 1.2◦,Vη max = 21 Vとなる.作製したEOブ ラッグ偏向型光変調器は近赤外・可視光領域で動作す るが,以下では光損傷の問題が特に顕著に生じると考 えられる青紫色・紫外光変調特性について報告する. 3. 2. 1 青紫色レーザ光の変調 GaN半導体レーザ(λ = 405 nm,パワー∼10 mW) を光源として変調実験を行った.レーザ光をブラッグ 角で入射したところ,印加電圧0 Vにおいても回折光 が生じ,式(4)の理論予測とは異なりゼロ点オフセッ トが生じていることが分かった.分極反転後,結晶内 に生じた欠陥準位にトラップされた電荷による内部電 界または分域壁のひずみにより屈折率変化が生じたた め,電圧を印加しない状態でも回折光が生じたと考え られる.室温(∼20◦C)においても文献[6]で報告さ れているような回折光スポット散乱は生じず,MgO 添加結晶を用いたことにより光損傷の影響を抑制でき ることが確認できた.印加電圧30 Vのとき回折光パ 図 10 EOブラッグ偏向型光変調器の特性評価のための 実験セットアップ.(a) 側面図,(b) 上面図 Fig. 10 (a) Side view and (b) top view of
experimen-tal setup for evaluating characteristics of EO Bragg deflection modulator.
図 11 回折光パワー波形の比較.(a) アニーリング前, (b)アニーリング後
Fig. 11 Comparison of diffracted light power wave-forms (a) before annealing and (b) after an-nealing. ワー(透過光パワー)は最小(最大)となり,−14 V のとき最大(最小)となった. 最大値30 V,最小値−14 Vの方形電圧(周波数 1 kHz,duty比50%)を変調信号として回折光パワー を変調したところ,変調波形が方形にならず,図11 (a) のように30 V印加後数100 μs以内に回折光パワーが 急激に増加し,−14 V印加後数100 μs以内に回折光 パワーが急激に減少した.また透過光パワー波形も 図 11 (a)のように方形にならず.緩和現象が見られ た.これは結晶内に印加電界とは逆向きの内部電界が 生じ,印加電界を打ち消しているためであると推測さ れる.そこで,分極反転プロセス後の結晶に対してア ニーリングを施すことにより緩和現象を抑制できるか どうか調べた.条件最適化の結果,600◦Cの酸素雰囲 気中で2時間のアニーリングを行うことにより緩和 現象を低減でき,図 11 (b)のように方形の回折光パ ワー波形が得られた.このとき,透過光パワー波形も 方形となった.分極反転プロセスによって生じた欠陥 準位にトラップされていた電荷がアニーリングにより 減少したため,緩和現象が低減したのではないかと考 えられる.方形電圧による変調動作時,透過光消光比 1/12,回折光消光比1/13であった. 透過光・回折光パワーの印加電圧依存性を調べた (図 12).印加電圧30 Vのときに透過光パワー(回 折光パワー)が最大(最小)となり,アニーリング後 のゼロ点オフセット量はアニーリング前からほとんど 変化しないことが分かった.印加電圧−14 Vのとき に回折光パワー(透過光パワー)が最大(最小)とな 図 12 透過光・回折光パワーの印加電圧依存性 (λ = 405 nm)
Fig. 12 Dependence of transmitted and diffracted light powers upon applied voltage (λ = 405 nm).
図 13 回折光パワーのレーザ光入射角依存性 Fig. 13 Dependence of diffracted light power upon
incident angle. り,このとき最大回折効率97%(= [−14 V印加時の 回折光パワー]/[0 V印加時の透過光・回折光パワーの 和])を得た.また,印加電圧の最大値と最小値の差が 44 Vであり,最大回折効率を得るために必要な印加電 圧の計算値Vη max= 32 Vよりもやや大きかった.原 因として,電極と結晶の密着性が不十分で結晶印加電 界が低下していること,分極反転構造の[反転幅]/[周 期] = 0.5からのわずかなずれなどが考えられる. EOブラッグ偏向型光変調器の角度選択性を調べた. 最大回折光パワーが得られる−14 V印加時の回折光 パワーのレーザ光入射角(空気中)依存性のグラフを 図13に示す.入射角が1.5◦のときに回折光パワーは 最大となり,ブラッグ角の計算値1.5◦と一致した.角 度受容幅の測定値は0.15◦で計算値0.18◦とほぼ一致 し,ブラッグ回折特有の鋭い角度選択性を確認できた.
図 14 紫外レーザ光 (λ = 325 nm) を用いたときの (a)透過光,(b) 回折光パワー変調波形 Fig. 14 Modulation waveforms of (a) transmitted
and (b) diffracted light powers with UV laser light (λ = 325 nm). 3. 2. 2 紫外レーザ光の変調 紫外He-Cdレーザ光(λ = 325 nm)を用いてEOブ ラッグ偏向型光変調器の変調動作を調べた.光パワー は∼0.2 mWであった.印加電圧−14 Vのときに透過 光パワー(回折光パワー)が最大(最小)となり,12 V のときに回折光パワー(透過光パワー)が最大(最小) となり,最大回折効率88%を得た.また,印加電圧の 最大値と最小値の差が26 Vであり,最大回折効率を得 るために必要な印加電圧の計算値Vη max= 21 Vより もやや大きかった.ブラッグ角(空気中)の測定値は 1.2◦であり,計算値1.2◦と一致した.周波数1 kHzの 方形電圧(最大値12 V,最小値−14 V,duty比50%) を変調信号として,透過光・回折光パワーを変調した. 透過光・回折光パワー変調波形を図14に示す.変調 時,透過光・回折光消光比はそれぞれ1/7,1/8とな り,紫外光源を用いたときのEOブラッグ偏向型光変 調器の変調動作が確認できた. 3. 3 一次元空間光変調器の作製及び特性評価 EOブラッグ偏向型光変調器を画素として配列した 一次元空間光変調器のプロトタイプを作製し,GaN 半導体レーザ(λ = 405 nm)を光源として特性評価を 行った.図4のようにMgO:LN周期分極反転構造の +Z面に画素電極(D = 200 μm,g = 50 μm)を装荷 し,−Z面に一様電極を装荷した.このDとgの値
図 15 空間変調光パターン.(a) odd: ON (−14 V), even:
OFF (50 V) (b) odd: OFF (50 V), even: ON (−14 V) (c) odd, even: ON (−14 V)
Fig. 15 One-dimensional spatial modulation pat-terns. (a) odd: ON (−14 V), even: OFF (50 V) (b) odd: OFF (50 V), even: ON (−14 V) (c) odd, even: ON (−14 V) は式(7)∼(10)の条件を十分に満たすが,画素サイズ や画素間隔が最小となる設計ではない.画素電極の奇 数番目(odd)全てを連結し,また偶数番目(even)も 同様にして,odd・evenそれぞれに変調信号を与え た.図5に示すような空間変調光学系(f = 100 mm) を用いて,フーリエ変換面において透過光を遮り,出 力面においてCCDカメラで回折光パターンを撮像し た.図15 (a)はodd電極に回折光パワーが最大とな る−14 Vを印加し,even電極に回折光パワーが最小 となる50 Vを印加したときの回折光パターンであり, (b)はoddに50 V,evenに−14 Vを印加したとき, (c)はodd・even共に−14 Vを印加したときの回折光 パターンである.図 15 (a),(b)ではそれぞれ奇数番 目,偶数番目の画素のみに回折光が生じ,(c)では全て の画素で回折光が生じており,一次元空間光変調器の 基本動作が確認できた.図15 (a),(b)では回折光が 電極幅よりも広がっており,原因として3.2.1で述べ たゼロ点オフセットのために電極を装荷していない領 域でも回折光が生じること,電界が印加されている領 域が電極幅よりも広がっていることなどが考えられる.
4.
む す び
レーザディスプレイやレーザ描画装置等への応用 を目指し,新たにMgO:LN周期分極反転構造EOブ ラッグ偏向型光変調器を用いた一次元空間光変調器の 設計・試作と実証を行った.分極反転後600◦Cの酸 素雰囲気中で2時間結晶アニーリングすることにより 変調時の緩和現象が低減できることを見出した.EO ブラッグ偏向型光変調器の基本単位の変調特性の評価を行い,青紫色レーザ光(λ = 405 nm)の変調実験に おいて最大回折効率97%を得た.また,紫外レーザ光 (λ = 325 nm)を用いて方形電圧による透過光・回折 光パワーの変調が確認できた.EOブラッグ偏向型光 変調器を画素として配列した一次元空間光変調器のプ ロトタイプを作製し,空間変調の基本動作を確認した. 今後,ゼロ点オフセットの低減に取り組み,一次元空 間光変調器の消光比向上を目指す.高パワー光を用い て変調器の特性評価を行い,高パワー可視光・紫外光 の変調を実現する.電極幅・電極ギャップ幅等を最適 化し,より高画素密度な空間光変調器を作製する. 謝辞 本研究において有益な議論及びデバイス作製 の協力をして頂いた藤村昌寿准教授並びに大日本スク リーン製造(株)の岡崎雅英氏に感謝する. 文 献
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