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〈論説〉「現実の悪意」 (Actual Malice) ルールの背景にあるもの--民事名誉毀損と表現の自由との調和

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(1)「現実の悪意J( A c t u a lM a l i c e ) ルールの背景にあるもの. 「現実の悪意 J C A c t u a lM a l i c e ) ルールの背景にあるもの 民事名誉段損と表現の自由との調和一一. 阪. 本. 日. s. 成. 序章一一本稿のねらい. ( 1 ) 名誉投損法制の異形さ. アメリカの不法行為法は「精神的苦痛だ. けでは請求原因とならず J(NoClaimf o rMentalD i s t r e s s C S u f f e r i n g ) , (心理 OnlyR u l e ) を法原則のひとつとする O この原則のもとで原告 Pは 学でいう)主観的な法益「侵害J(感情侵害または精神的苦痛)を主張す ることだけでは足らず,被告 Dの行為が財産,身体, 自由等に対する不法 行為であることを主張・立証しなければならない(以下,原告を p,被告 を D と表記する)。精神的な苦痛を受けない利益は,. ある実体的な法益に. 「寄生J( p a r a s i t i c ) して保護されるのである O 通常の不法行為における必須要素 ( e l e m e n t s )は , ( i ) Dの「故意または 過失」という f a u l t ,( i i ) Dの行為が Pの権益に被害 (harm) と損害 (damage) を与えたこと, 溢 () Dの行為と. Pの被った被害および損害との因果関係が存. 在すること,そして(同損害が求償に値すること等である(アメリカ不法行 為法は, f a u l t のうち故意と過失との違いを特に賠償制度に反映させる複 雑な法制となっている O 不法行為名誉投損法に焦点を当てる本稿は,この 違いを詳論することを避け,必須要素としての f a u l tについて論を進めて し1 く ) 。. -301.

(2) 近 畿 大 学 法 学 第6 1巻第 2・3号 右の(i)~(か)の要素は不法行為には必須であると説かれるにもかかわらず,. 名誉按損やプライパシー侵害等の,表現の自由がからむ不法行為事案 C t o r t i o u s. s p e e c hc a s e s ) においては,独立の要件として機能していないようである O だからこそ,不法行為的言論に関する法制は不法行為法の常道から外れ, 「 異形の不法行為」であって,表現の自由保障の観点からみると重大な疑 問点となっている,と指摘されるのである(1)。 本稿はアメリ力不法行為名誉致損法制のもつ複数の異形さを次第しだい に笈り出すことを主たる目的としている O 本稿の副次的目的は,アメリカ 法の異形さを知ることを通して,わが国の不法行為名誉投損法にも同質の 論点が摘出されるはずだ,と示唆することにある O アメリカ法における異形さとは, ( a ) Dの側の真偽判断における f a u l tが 厳密には問われないこと, ( b )摘示事実の虚偽性が言明内容の defamatory な性格から推定されていること Cdefamatory をどう邦訳するかは重要な 留意点である。以後,本稿はこれを“中傷的"と表記することとする), ( c )中傷的な言明のもたらす被害について格別の立証を不要としていること, ( d )損害発生についても同様であること, ( e )言明と損害との因果関係が厳密. に問われないこと, ( f )損害賠償額算定に客観性がないこと等である(これ ら( a ) ( f )を,通常の不法行為における必須要素である右の ( i) ( i v )と対照せ よ ) 。. .Powell裁判官も, G例 z 'v .RobertWelc , hI n c .( 2 )C 以下,“Gert z " 連邦最高裁の L と表記する)において,被害発生を推定し,. しかも損失発生をも推定する. この法制の異形さを指摘したところである(推定しているというよりも擬 ( 1 ) S e ee . g . ,W.K e e t o n, D e f a m a t i o nandF r e e d o mo f t h eP r e s s ,5 4TEX.1 .REV.1 2 2 1 ( 19 7 6 ) . 以下,この論孜を“D々 f a m a t i o n " と引用する。私は,プライバシーを. 侵害する不法行為的表現についての「異形」さを「表現権理論 j (信山社, 2 0 11 ) で論じたことがある。 ( 2 ) 4 1 8U . S .3 2 3,3 4 9( 19 7 4 ) 3 0 2-.

(3) 「現実の悪意 J( A c t u a lM a l i c e ) ルールの背景にあるもの 制する法制だと表現するほうが適切かもしれない)。 こうした視点は,. ア. メリカの不法行為法の専門研究者がつとに指摘してきたところである O 民 事名誉致損は不法行為法における伝統的・必須の要素をバイパスしている, という Powellの見解に多くの法律家が共鳴しているわけである (3)o. ( 2 ) 本稿の構成. 本稿は,第 l章の第 l節において,アメリカ名誉投. 損法制を概観し,同章第 2節では不法行為としての必須要素を明らかにす るO この第 1章は,名誉投損法の異形さのおおよその姿を浮かび上がらせ るための準備作業である O つづく第 2章は,名誉の意義・捉え方を論ずる。 この章は,第 3章以下との繋ぎの部分である O その後の第 3章においては, 第 l節において,まず名誉段損における「被害」および「損害」の意義を 明らかにする O その後,第 2節においては被害発生の推定について,第 3 節においては損害発生の推定と損害賠償額の算定について,それぞれの問 題点をえぐり出す。それに続く第 4章は,中傷的な言明内容から摘示事実 s t r i c tl i a b i l i t y ) の法制に が虚偽であること推定するという「厳格責任JC. ついてふれる O 以上の第 1章から第 4章は段損法の異形な法原則を描き出そうとしてい .Y T i mesC o .v .S u l l i v a n ( 4 )C 以下,“N .Y ηmes" るO こうした法原則こそ ,N. と表記する)の攻撃ターゲットだったのだ。言 い換えれば,N . Y Timesの a c t u a l 革命的な意義は,摘示事実の真偽判断の場面,つまりは「現実の悪意JC malice) 一一摘示事実が虚偽であることを Dが知っていたこと,または,. 同事実が虚偽か否かにつき軽率にも Dが注意を怠ったこと一一の証明の局 名誉致損法の憲法化」を通して,致損法全体の異形さを 面だけでなく, I 打ち砕した革命だったのだ(詳細は,第 5章で再論する o N .Y Timesをもっ ( 3 ) S e eD .Anderson,R e p u t a t i o n ,Compensation,andProo , f2 5WM.& MARYL . REV.7 4 7,7 4 8( 19 8 4 ) .以後,この論孜を“R e p u t a t i o n ,Compensation". る。 ( 4 ) 3 7 6U . S .2 5 4( 19 6 4 ) 3 0 3-. と引用す.

(4) 近 畿 大 学 法 学 第6 1巻第. 2・3号. て 1 1 9 6 4年の名誉革命」 だと表現するほうがわかりよい)0 1 9 7 4年の Gertz も,革命をさらに前進させようとした。 .Y .T i m e sの意義と射程を分析する O この章において 第 5章は,改めて N. i m e sが連邦憲法修正 1条上の要件として処方した「現実の悪意」 は,N .YT. c t u a lm a l i c eとは異なっていることを明らかにする O は,コモンロー上の a そして,本稿の「おわりに」は,設損法の異形さについての纏めである O ( 3 ) N .Y .T i m e sの位置づけ. N .Y .T i m e sの革命的な意義は,それまで. のコモンロー上の厳格責任とその例外である条件っき免責事由理論,同理 論における“ a c t u a lm a l i c e " の抗弁(この場合,コモンロー上のそれ),. d o c t r i n eo ff a i rcomment) 等を知ってはじ そして「公正な論評」法理 C めて理解できる O これらの背景を理解しないまま, 1 アメリカ最高裁は, 名誉授損の事案において『現実の悪意』ルールを考案し,表現の自由保護 的な判断をみせた。 日本もこれに倣うべきだ」と考えるとすれば,それは 早計である O N .Y .T i m e sは,鍍損法のながい錯綜する歴史と,いくつもの点で名誉保 護に傾斜しすぎてきた不法行為法制への反動で、ある O. 第 1章. アメリ力の名誉鼓損法制. 第 1節 民 事 名 誉 毅 損 法 制 の 概 観. ( 1 ) S l a n d e rと L i b e l. 法域によってその法制を異にするアメリカの名. 誉段損法の複雑さは,同国の専門研究者にも迷路のごとくであって,その 正確な姿を描き出すことは困難のようである O 民事/刑事における細かな 食い違い,多義的な用語,多数の免責事由等々,この法制は実にわかりづ らL、。民事に限っても,アメリカ独自の,それも各州法に特有の歴史展開 を反映して,この法制は複雑を極めている O 複雑な法制となっている原因. 3 0 4-. /.

(5) 「現実の悪意J( A c t u a lM a l i c e ) ルールの背景にあるもの は , slanderと l i b e lとの違い, slanderpers eと slanderperquodとの違 い,さらには,この違いに応じた免責事由の細かさである O この違いはさ まざまな免責事由と関連してきたのである O イギリス・コモンローの伝統を引き継いだアメリカ法においては 「口頭 誹投 Cslander) /文書誹投Cli b el )Jの別は今でも完全には消波していな い。 この口頭誹暖か文書誹設かという区別は,印刷機の登場によって,有 意でなくなり相対化され,裁判所も研究者も,この区別を口にすることは 稀であり, defamation に統ー されている O にもかかわらず,この違いは 名誉致損法のどこかに痕跡を現在でも残している O アメリカ不法行為法に ついて最も標準的な法制を念頭に置いて注釈を加える RESTATEMENT(SECOND). 19 7 6 ) (以下,本文においては“Restatement (Second)" と引用 OFTORTS ( slander/libelJの区別は「原理的には擁護できな する)がいうように, I. いものの,消し去るにはあまりに定着してしまっている」のである (5)。 執 劫に残ってきたのが, slanderpers eと slanderperquodいうルールの違 いであり,これが defamation における必須要素や免責事由にも反映され 6) 。 てくる (. ( 2 ) SlanderPerSe と SlanderPerQuod. Slanderは , slanderper. e とは,法的効果が自 s e と slanderperquod とに区別されてきた。 Pers. 動的に組み込まれていること,法上,効果発生が推定(または擬制)され. ( 5 ) R ESTATEME NT ( S E C O N D ) OFTORTS~ ~ 5 6 8c m t .b. また, P ROSSERA1'田 KEETON. ONTHELAWOFTORTS~ 1 1 2( 5 t he d .,1 9 8 4) もみよ 。. I d e f a m a t i o np e rs e /defamationp e rquodJ と区別されることがある 。 L、くつかの汁│で は,歴史的に形成されてきたこの区別は今日では通用力がないこと,表現の自 由保障の観点からすれば疑義があることを理由に, この区別を放棄している, .S i p e,“ OldS t i n k i n g ,OldNasty ,OldI t c h yOldT o α J':D 々 f a m a t i o n といわれる o SeeJ La w,陥 r t sandA l l (AC a l l f o rReform , )4 1I N D .L. REV.1 3 7,1 4 9( 2 0 0 8 ) .以後こ の論孜を“ OldS t i n k i n g " と引用する。. ( 6 ) こ のd e f a m a t i o nに も , r l i b e lp e rs e /l i b e lp e rq u o d Jの別が影響して,. 3 0 5.

(6) 近 畿 大 学 法 学 第6 1巻第 2 ・3号 て い る こ と を 指 し , 実 際 に 被害 が 発 生 し た こ と の 証 明 を 不 要 と す る こ と を. eと は 現 実 の 被 害 発 生 の 立 証 を 要 し な い 口 頭 誹 段 ケ ー いう ( 7 )0 Slanderpers スのことであり, 明は. 4類 型 が あ る ( 8 )。. この場合,. 中傷的な事実を伝達する 言. pの reputation ( こ れ を ど う 訳 出 す る か に つ い て は , 第 2章 で 検 討. する〉を低下させるものと推定(擬制〉される典型であって. pは 被 害 の. 9) 。 言 明 内 容 が 定 型 的 に 強 L~違法性をもってい 発 生 を 証 明 す る 必 要 は な L~ (. るとみられたためであろう. O. こ れ 以 外 の slander (口頭誹投)事案におけ. る Pは , ① 問 題 の 言 明 が 中 傷 的 で あ っ て , ② こ の 言 明 が 他 者 に 伝 達 さ れ , ③ そ の た め に , 実 際 に 被 害 C injuryま た は harm) を 被 っ た こ と , を 証 明 しなければならなし 1。 こ れ が Slanderperquod と い う カ テ ゴ リ ー で あ る O. 司 (. アメリカ法は「推定/擬制」の 別を重視していないようである O それでも, 日本法的に理解し直すに当たって,. コモ ンローが被害または損害の発生を 「 推. 定」してきたというのが正しいのか,. r 擬制」してきたというのが正しいのか,. この選択は軽視できない。この点に関する正確な説明に私は接したことがない。. .Post,The C o n s t i t u t i o n a lC o n c e p to fP u b l i cD i s c o u r s e :O u t r a g e o u s たとえば, R O p i n i o n ,D e m o c r a t i cD e l i b e r a t i o n ,andHUSLERMAGAZ I N Ev .FALWELL,1 0 3HAR V .. 2 3n. 11 9( 19 9 0 ) は,コ モンロー上の名誉段損が i r r e b u t tabl e L . REV. 6 0 1,6 presumptiono fi n j u r y によってきた,と説明してい る。日本法の概念でいえ ば,これは「被害の擬制」であろう 。 また, Anderson, R e p u t a t i o n ,C o m p e n s a t i o n , s u p r an ote3,a t7 4 8 ;J .McGinnis,TheOnceandF u t u r eP r o p e r t y B a s e dV i s i o no f. ,6 3U .C H I .L .REV.4 9,9 5n. 18 5( 19 9 6) は「損害(額)の t h eF i r s tAmendment 推定 J( presumeddamages) と述べている 。 山口成樹「名誉投損法における事 実と意見(1)J都法 3 5巻 l 号1 1 3頁(19 9 4 ) は「損害の発生は擬制され,虚偽性は 推定される」という 。 アメリカ法をわが国の法律用語で解析し,細部の違いを 分析対象とすることはさほど生産的ではないのかもしれない。本稿は,被害, 損害,虚偽性について,すべて「推定される」と表記することとする 。 侶) S landerpers eの4類型とは. Pに関する言明(摘示事実〉が , (i)犯罪に関与 i i ) 疫病にかかっていること, (出)不貞な女性であること, (ぉ)専門的職 したこと, (. 業における適性がないこと,これである。 ( 9) 古い論孜として, S e eC h.McCormick,TheMeasureo fDamagesf o rD e f a m a t i o n ,. 1 2N. C .L .REV.1 2 0,1 2 7( 19 3 4) .このほか,S e eAnderson, R e p u t a t i o n ,Compens a t i o n ,s u p r an ote3 ;J. Lewis& G .Mersol,O p i n i o nandR h e t o r i c a lH y p e r b o l ei n 日 ゐr k p l αc eD e f a m a t i o nA c t i o n s ,5 2DEPAULL .REV .1 9,2 4( 2 0 0 2 ). 3 0 6.

(7) 「 現実の悪意J( A c t u a lM a l i c e)ルールの背景にあるもの. i b e l における原則 ( 3 ) L. 以上の s l a n d e rにおけるふたつの態様とは. 違って, l i b e l (文書誹段)におい ては Pは特定可能な被害 ( s p e c i a lharm) を証明をしなくてもよい,と 一般に理解されている(ただし,強力な異論 もある ω。「被害発生の推定」原則については,第 3章 第 2節でふれる)。 文書による投損的行為は,口頭によるものとは違って,一過性のもので はないぶん人の手に渡りやすく,それだけ defamatoryな情報が広く伝達 され,伝達先での影響(被害の程度)の調査コストを Pに負担させること. l a n d e r は不合理である,とみられたからであろう O これは,上でふれた s i b e lpers eといわれることもある O ただ pers eの影響を受けて, ときに, l し , l i b e lpers eの意味は法域によって,また論者によって,多様であって. i b e lp e rs eとは,問題の言明が a c t i o n a b l e 混乱を来しているのが実情である o L であることそれ自体を指す場合もあれば,文面以外の事実を参照しなくて も,文面からして襲損的な意味が明白に読みとれることを指すこともある O 後者の意味での l i b e lpers eは,周辺の事実関係を勘案する l i b e lperquod と対照される O ところが, l i b e lperquod といわれれるときにも,周辺の 事実関係の問題ではなく,現実の被害発生の立証を要する事案を指す場合. i b e l per がある点には留意を要する O さらに,州のコモンローごとに, l quod の理解のしかたは一様ではなく,必須要素(成立要件)にも個別的. ω 「被害発生の推定」に関する理解の違いは,. E l d r e d g e=P r o s s e r論争として有 l d r e d g e,TheSpuriousRuleofL i b e lP e rQuod ,7 9 名となったところである 。L .E HARV.L . REV. 7 3 3( 19 6 6 ) は,すべての l i b e l は損害発生が推定されている (したがって, l i b e lp e rquodなる用語は不要である 〉 と論じたのに対して, W. P r o s s e r, MoreL i b e lP e rQuod ,7 9HARV.L .REV.1 6 2 9( 19 6 6)は,損害発生が推 定される事案は限定されている, と論じた。 この論争に決着をつけるかのよう に , A nderson,Reputation,Compensation,supran o t e3 ,a t7 4 8は , I 被害発生が e rs eの事案においてだけだ,とたびたびいわれてきたが, 推定されるのは, p これは正しくな L、 。制定法によって別の定めがない限り,すべての名誉皇室損事 案において被害発生の推定の主張が可能となっている 」 と述べる O 後掲 およ びその本文もみよ。. ω. 3 0 7.

(8) 近 畿 大 学 法 学 第6 1巻第 2・3号. 免責事由にも細かな違いがあって,名誉投損法制全体の正確な把握を困難 にしている O 法域別の細かな違いを知ることは重要ではな L、 。多数の州におけるコモ ンロー上の名誉段損の法原則が l i b e lpers eによってきた, という事実を 注視することのほうが重要である O このことを. R e s t a t e m e n t (Second) に. よって確認してみよう O R e s t a t e m e n t( S e c o n d )は , slanderと l i b e lをそれぞれ独立の項目として s p e c i a lharm) の とりあげたのち, l i b e lにおいては 「 特定可能な被害J( 証明なしであっても賠償請求できる,と次のように述べている O u. S569 特定可能な被害の証明不要の不法行為責任. L i b e l( 文書誹段). 他者についての中傷的な事柄を文書によって誤って第三者に伝達し たために l i b e l に該当すると判断された者は,当該文書が特定可能な 被害を発生させなかったとしても,不法行為責任を負う C. この S5 6 9のいうところが,多くの州コモンロー上の法原則となってき たo R e s t a t e m e n t( S ec o n d )は , I slander/l i be U の伝統的な区別のもとで, l i b e lにおいては,被害の推定が原則となっており, slanderにおいては被 害の推定が例外となっていることを強調しようとしたものかもしれないが, それにしても,. S569のいう l i b e lには, slanderpers eルールの残津がみ. てとれる O. ( 1) RESTATEMENT (SECOND) OFTORTS,~ 5 6 9. 英文は,次のとおり 。 ~ 5 6 9 L i a b i l i t yWithoutP r o o fo fS p e c i a lHarm一一 L i be l. Onewhof a l s e l yp u b l i s h e sm a t t e rdefamatoryo fa n o t h e ri ns u c hamanners t omaket h ep u b l i c a t i o nal i be li ss u b j e c tt ol i a b i l i t yt ot h eo t he ra l t h o ugh nos pe c i a lharmr e s u l t sfromt hep u b l i c a t i o n.. -3 0 8-.

(9) 「 現実の悪意 J( A c t ua lM a l i c e )ルールの背景 にあるもの. かように,上にみたf35 6 9は , L i b e l訴訟における Pは被害発生を証明す る必要がないことを明らかにしている 。 これが,本稿のいう「異形」 さの ひとつである O こればかりではな L可 。ナトドコモンローの伝統は,損害発生も また推定している ( 本稿は,第 3章第 1節で論ずるように,一被害 ( harm) /損害 ( damage)J の別を重視している)。損害発生の推定原則のもとで は Pは現実の損害 ( a c t u a ldamage) を立証する必要もない。損害発生も または「擬制 J ) されているのである 。 また「推定 J(. ( 4 ) Defamationにおける原則. I L i b e lp e rs e/l i b e lp e rquodJ であ. defamationp e rs e /defamationpe rquod J であれ,これらの正確な れ , I 意義・区別を追究することは,今日においては生産的でもなければ有益で もな L可 。細かい区別が重要なのではなく,アメリカ法が被害発生の推定を 原則としていることを知り,. これを問い直すことこそ重要である U 。 l 2 この. 原則が表現の自由を窮屈なものとし萎縮させてきた, という視点こそ必要 1 3 0 である 〈. なるほど,この窮屈さを緩和し表現の自由と調整しようと英米法は,. I 公. 正な論評」法理ωをはじめとする数々の免責事由理論(特権理論)を考案・ 修正してきた。 ところが,数々の免責事由理論は時代とともに複雑になり すぎω,細かすぎる法処理技法は,. I 原則一例外」の数を増やし,名誉投損. 法制を「動く標的」 のごとくに変質させてしまった。細かな法技術で調整. e r s o n,Reputation,Compensation,supran o t e3 ,a t7 4 8 . U 2 ) SeeAnd U 3 ) SeeKe e t o n, De f a m a t i o n ,supran o t e1 ,a t1 2 2 9f f .. ω 公正な論評はわが国にもよく知られている 。 幾代通「アメリカ 法 における名 誉鍛損と F a i rCommentJ末延三次先生還暦記念 「英米私法論集~ ( 東京大学出 版会, 1 9 6 3)2 6頁,山川洋一郎「公正な 論評」 伊藤正己編 『現代損害賠償法講 座. 2. 名 誉 ・プライ バ シ一 ~ (日本評論社,. 1 9 72 )1 6 5頁等参照。また,後掲注仰. も参照のこと 。. U 5 ) RESTATEMENT (SECOND) OF TORTS,Ch.2 5D e f a m a t i o n :De f e n se s( 1 9 7 7) は ,1 0の絶対的免責事 由と 8つの条件っき免責事 由をあげている 。こうした状況ノ.

(10) 近 畿 大 学 法 学 第6 1巻第 2・3号 6 ) 0I 公正 しようとすればするほど,この法制は理解困難となったのである0. な論評」法理という特権理論(免責事由)もこの例外ではなく,これにも 1 0 この法理は, Ifact/opinionJ の 区 別 の も と で , 後 者 に 期 待 は で き な LJ7 よ る 投 損 的 表 現 事 案 に し か 通 用 し な い の で あ り 08 ) アメリカ法における決 定的な分岐点,すなわち,摘示事実の真偽を争うケースではこの免責事由. ω。 ということは, は 通 用 し な い の が一 般 的 で あ る ( 法 域 に よ っ て 異 な る ) この法理は表現の自由保障と名誉援損との調整にあたって切れ味をもたな. e f a m a t i o n ,s u p r anote1 ,a t1 2 2 3は,名誉致損法の数々 、にふれながら Keeton,D の法理は混乱を極めている,というのである 。 制. S e eKeeton,D e f a m a t i o n ,s u p r anote1 ,a t1 2 2 6は,イギリス法においてはこの 傾向が顕著となったために法改正の要が論議されたこと,. これに対してアメリ. カ法においては,複雑さに対処することよりも,表現の自由との調整の要が前 面に出ていたことを的確に指摘する 。 また, R .Epstein,yl匂sNewYorkTimesv .. S u l l i v a nWrong, ?5 3U.C H I.L.REV.7 8 2,7 8 8( 19 8 6)は,名誉聾損法制のそれ ぞれの要件が欠陥をもっており,人を誤らせている,. という 。 以下,. この論孜. u l l i v a nWrong? "と引用する 。 を“S 仰. 「公正な論評」法理は,意見論評言明型名誉塁走損における免責事由のひとつの である 。 この法理の適用を主張する. Dは , ①言明の事項が意見・論評であるこ. と , ② 同事項が公衆の関心事であること, ③ この意見・論評が摘示した事実, それ以外の知られた事実,. または知りうる状態にある事実を基礎としているこ. と(10 0%意見の表明ではなく,意見の基礎として事実 が摘示されていること),. c t u a lopinion) であること等を主張立証しなけ ④論評が論者の実際の意見 (a 。 少数の州は, ればならな L、. この法理を論評の辛現さに限定しないで,事実の. 誤りにまで拡大し免責してきた。 この場合であっても,論評の基礎である事実 .Y .T i m e sは,この 「拡 が主要部において真実であることが条件とされていた。N. 大された公正な論評法理」であっても,表現の自由保障に不十分だ,. として. 「 現実の悪意」 ルールを考案したのである 。 後掲注側もみよ 。 側. RE S TATEME NT ( SECO ND)OFTORTSは , d efamationの冒頭部分における Sc ope Noteで,次のように解説している 。すなわち,事実すら合意されていない,意 見表明による名誉段損事案には公正な論評法理は適用されない,と~. ている関係上,この法理は 「時代遅れ J( o b s o l e t e) となった,. 5 6 6が定め. と。. ω SeeRESTATEMENT (SECOND)OFTORTS ~ 566cmt.a.論者のなかには,. N. 郎ルールはコモンロ一上の公正な論評法理を発展させたものだ,と評す Y.Tim るものがみられる 。 S e ee . g .,J .Watkins& Ch.Schwartz,G e r t zandt h eCommonノ.

(11) 「 現実の悪意 J( A c t u a lM a l i c e)ルールの背景にあるもの. いのである O 表現の自由保障という観点からみたとき,名誉投損法の難点は上にふれ た技術的な複雑さばかりにあるのではな~\ 。 決定的な難点は,本稿の冒頭. で指摘した名誉鍛損法制のいくつかの「異形」 さと深く関連している 。 このあたりで,アメリカ民事名誉段損法の必須要素をみてみよう O. 第 2節 名 誉 致 損 の 必 須 要 素 (1)必須要素の概観. ) が名誉段 中傷的言明 Cdefamatorystatement. 損となるための必須要素(要件〉についての解説は,論者によってさまざ まであり,. 8つをあげるものがあると思えば, 2 3の要素をあげるものさえ. みられる O 複雑な歴史的な展開を示してきたこと,州によって要件が異 なっていること等の事情を考慮すれば,彼らの理解が一様でなくとも不思 議ではな L、 。 なかには,誤った理解をしているとしか思えないものすらあ るO 同国の専門家ですらアメリカ法を正確に理解することは不可能に近い ともいわれる O そのうえ,. もともとアメリ力不法行為法においては,成立. 要件,違法性阻却事由,責任阻却事由という厳密な区別がない ( 摘示事実. a c tと truthの区別すら明確に意識されていないこともある 。 〉 における f かようなアメリカ法を日本の法的専門用語で理解し直そうとしても,ニュ アンスの違いを日本語で正確に表すことは容易ではな~ ' 0. わが国でいう「成立要件」類似の用語は, Restatement CSecond) の用語. 、. μ wo fDe f a m a t i o n:OfF a u l t ,NonmediaDψn d a n t s ,andC o n d i t i o n a lP r i v i l e g e s ,1 5 T EX.T ECH.L .R EV.8 2 3 ,8 2 6( 19 8 4) . 以下,. この論孜を “ Commonμ wofDそf 包-. m a t i o n" と引用する 。 たしかに,前掲注仰でふれたように ,少数の州において は,公正な論評という免責事由は事実 の誤りにも及ぶ とされてきた。 しかしな がら, N .Y .T i m e sは opm lOnによる虫損事案ではないことを考えれば,この見 解 は疑問である 。 N. Y.Timesルールは ,摘示事実の真偽を本来的射程として. f a i rr e p o r tr u le ) の発展系として理解するほうが良 きた 「 公正な報道 jレール J( いように思われる 。.

(12) 近 畿 大 学 法 学 第6 1巻第 2・3号. に従えば, e l e m e n t s となろう(本稿はこれを 「必須要素」と表記してき. lements に続いて分析されるのが d e f e n s e s (通常, た)0 E. I 抗弁」と訳さ. e f e n s e sのなかで中心を占めるのが p r i v i l e g e sであ れる〉である O この d r i v i l e g e s は,通常「特権」と訳出されているが,本稿では,これを るo P r i v i l e g e とは, 「 免責事由」ということにする O 不法行為法でいう p. I 権利. , /特権」という場合の「特権」ではなく,イギリス憲法学でいう「自由 J すなわち,法的に禁止されていない行為という意味に近~ , 。 このニュアン. スを重視するには「免責事由」 と訳出するほうが適切だろう 。「免責事由」 は日本法でいう違法性阻却事由とは限らな L、から,要注意である O R e s t a t e m e n t( S e c o n d ) は,必須要素 ( E l e m e n t s ) について,免責事由に まで言及しながら,次のように述べている O. ~. 5 5 8 必須要素の意義 ( Element ss t a t e d ) 名誉段損の責任を構成するためには,次の要素が満たされなければ. 。 ならな L、. 司 ( 他者に関する虚偽でかつ中傷的な言明 ( af a l s eanddefamatorys t a t e , mentc o n c e r n i n ga n o t h e r )を. ( b ) 免責事由なく,第三者に伝達し ( a nu n p r i v i l e g e dp u b l i c a t i o nt o at h i r dp a r t y ), ( c ) 少なくとも過失に相当する f a u l tが言明者の側にあり ( f a u l tamounti n ga tl e a s tt on e g l i g e n c eont h ep a r to ft h ep u b l i s h e r ), かっ, ( d ) 特定可能な被害の有無を問わず請求原因があるか,または,伝達. 行為 ( p u b l i c a t i o n ) を原因とする特定可能な被害があること ( e i t h e r. a c t i o n a b i l i t yo ft h estatementi r r e s p e c t i v eo fs p e c i a lharmo rt he e x i s t e n c eo fs p e c i a lharmc a u s e dbyt h ep u b l i c a t i o n )。.

(13) 「 現実の悪意J( Actua lM a l i c e)ルールの背景にあるもの. R e s t a t e m e n t (Second) は,右の必須要素の解説に続けて,中傷的 ( d e famatory) の意味,真偽の判断, で解説して L、 く. O. pの同定の仕方,そして,免責事由の順. が , どうもその説く道筋は概括的であるばかりか,右の. ( b )にみられるように,免責事由への言及,さらに ( d )における請求原因への. 言及にみられるように, な L、 o S 5 5 8は ,. I 訴訟要件/成立要件/免責事由」の別に鋭敏で. 日本法でいう不法行為の成立要件を述べたものではなく,. 文字通り,必須要素を列挙したものにとどまるものと思われる O なお,右の ( C )にいう「少なくとも過失に相当する f a u l t J という必須要. 9 7 4年の Gertzが求めた修正 1条の要件である o Gertz以前のナトドヨモ 素は, 1 ンローは f a u l tを必須要素とはしていなかった,すなわち,厳格責任の法 理によっていたのである ( G e r t zまでのコモンロー上の要件,および G e r t z のねらいについては,後に第 4章第 1節(1)でふれる)。 ( 2 ) 必須要素に関する別の解説. 上にみた R e s t a t e m e n t( S e c o n d ) 関連. 箇所の解明は隔靴掻庫の感がある O 簡にして明なる要約を示すのがある ホーンブックである ω 。 それによれば,. アメリカ法における名誉投損は,. 次の必須要素を満たしたときに成立する(ただし,このホーンブックは言 明者の側の f a u l tをあげていないが,これは当然視したためか〉 。. ( ア ) 文書または口頭でのメッセージを通して,すなわち,伝達行為に ~O). S e eW.BUCKLEY&C .OKRENT,TORTS&PERSONALINJURYLAW1 6 0 (3ded. 2 0 0 4) .なお,山口・前掲注( 7 ) 1 1 3頁は 「 成立要件」について,こう述べている 。. 「コモン・ローにおける文書による名誉按損の成立要件は, ①言明が原告の名 誉を投損するものであること,②言 明が虚偽であること, ③言明が第三者に公 表されたこと, ④公表につき被告に故意または過失があること,である 。①② につき被告の故意または過失は要求されな L、」という O が,上の③,④ にいう 「公表Jは正確ではな L、 。 「公表要件」はアメリカ法においては重視されない。 ここが名誉按損とプライバシー侵害との違いである O 名誉段損法における. p u b l i c a t i o nという表記は,プライパ シーにおける p u b l i c i t yという表記と区別 する工夫である 。後掲注(却をみよ 。.

(14) 近 畿 大 学 法 学 第6 1巻第 2・3号. よって, ( イ ). ① Pの ( o fP ),または. Pに関して ( c o n c e r n i n gP),. defamatory) な , ②虚偽であって,かっ,③中傷的 ( s t a t e m e n t )を , ④言明 ( ( ウ ) 第三者に伝達し ( p u b l i c a t i o nt oat h i r dp e r s o n .それが 1名であっ たとしても p u b l i c a t i o nである), L エ ). ⑤コミュニティにおける, ⑥ Pの良き評判・信用 ( r e p ut at i o n )を ,. ⑦傷つける (harmo ri n j u r yを与える)こと。. s t a t e 右のうち, (乃の「伝達行為」という必須要素,および付)④の「言明 J( ment) という必須要素は,名誉致損訴訟の多くがマスメディアを被告とし ているため,格別に論点となることはない(口頭によるか,または文書に よるかによって,名誉投損の名称も,必須要素等も異なる点については, 既に本章の第 1節でふれた)。なお,. この④にいう「言明」とは,他者に. 言 対する一定のメッセージの伝播・開示をいう O また, (吟にいう「伝達J( 明の p u b l i c a t i o n ) は,すぐ上でふれたように,マスメディアを当事者と 公表または出版」と訳出されがちであるが, するものが多いために, I. 日. 本法とは違って,公表行為は不要であり,一人に開示した場合であっても 「伝達」という必須要素を満たす,と解されている(この点については Res t a t e m e n t( S e c o n d ) も同様の理解を示す ω)。 つづいて,付)①は,問題の言明が, Pについて ( o fP ),または, pに関. ω SeeRESTATEMENT (SECOND) OFTORTS 3 15 7 7c m t .a .また,前掲注ω および 後掲注ω もみよ。 3 1 4-.

(15) 「 現実の悪意JC A c t u a lM a l i c e)ルールの背景にあるもの. する事柄 CconcerningP) に言及したこと,つまり. Pを明示的具体的に. 指すことだけでなく,問題の言明が Pを指しているものと合理的に連想さ れるものまで含まれることを指している O これは 「同定性」という必須要 素を意味している O この論点は,本稿の関心事ではないので,考察を省略 .Y .Timesにおける論点であったこと ω,また,集団誹誘 (group するが,N. l i b el)の言論の成否を左右するところだ,とだけここでは指摘しておく. O. 「同定性の要素」 に続く(イ)②を「虚偽」という必須要素, (イ)③を「中傷」 という必須要素, (司⑦を. 「被害」とし 1う必須要素ということにしよう O. これらに,故意・過失という. ifaul t J の要素も加わる 。. 民事名誉投損法制を簡潔に説明してみせるこのホーンブックは,以上の e l e m e n t sを解明した後に, d e f e n s e s (免責事由の主張・立証)と damages. ω N.Y.Timesでの原告は,問題のニューヨークタイムズでの意見広告において は,なんら 言及されておらず,アラパマ州警察の人種差別的で‘ 過剰な警備行動 を批判したものだった。 その批判のなかには,数点にもわたって,事実の誤り もあった。 この点が同事件の最大の論点となったとはいえ,その前に,同定性 の要件についても争われたのである 。州裁判所は, を占めているのであれば, 告に関する批判である,. Pが州のある公的機関の職. Pへのまたは原. この機関に対する投損的な言明は. としたのである 。 この点について興味深く論じたもの. .LEWIS,MAKENoLAW2 3 3 3( 19 91)をみ よ。 としては, A a t1 4 1は,アラパマ州裁判所判決の難点として,次の諸要素を なお, LEWIS, あげている 。. ( 1 ) 州裁判所が,州法は誹詩的な言明の「個別的な箇所にまでわたってすべ. t r u ei na l lt h e i rp a t i c u l a r s ) の証明を求めており,本件広告は て真実JC 虚偽であって,真実性の抗弁をなしえない,と判断した点, ( 2 ) 州最高裁が,州知事を誹議する部分に関しては撤回 C r e s t r a c t i o n)に応. じたのに対して,原告に言及した部分に関しては撤回要求に応じなかった という点を重視して N .Y .Times社ら被告の 「悪意JCma l ic e ) を推定し た点, ( 3 ) 裁判所は,賠償額は陪審によって決定されたのであって,その額も決し. て高額ではない,と判断した点, ( 4 ) 政府機関としての「警察」を批判したことが「原告の,. する」広告 ( 言明〉だ,と州最高裁が判断した点。. または原告に関.

(16) 近畿大学法学. 第6 1巻第 2・3号. (賠償されるべき損害程度の範囲=賠償額)へと話題を展開して L吋. O. 本. 稿は,免責事由について諮命することを避け,章を変えて, I 名誉J( r e p u t a t i o n ) の意義を検討する O この第 2章は,. これに続く 「 被害発生の推定J( 第3. 章第 2節 ) , I 損害発生の推定J( 第 3章第 3節 ) , I 虚偽の推定または厳格 責 任J( 第 4章)が,すべて名誉の捉え方と関連していることを明らかに するだろう O. 第 2章 名 誉 ( r e p u t a t i o n ) の意義. (1)名誉の三面関係的捉え方. 名誉権 ( t h er i g h tt or e p u t a t i o n )は ,. 法主体 ( 人) pが,そのコミュニティにおける人びとから受けている良き 評判・信用をその実体とする o I コミュニティ」とは. pが交友関係をも. ちながら 一定の役割をもって生活している地域または空間を指している O 「コミュニティにおける人びと」とは,. pと親しい人物または知己である. 相当数の隣人をいう o Ah a n d f u l,ac l o se l ya s s o c i a t e dgroup,o ra s s o c i a t e s. i nt h eneighborhood等と表現されることが多い。 これは している地域的な人間関係を意味する O というのも. pの生活圏と. pにとっては,その. 評判・信用が低下するかどうかは,彼の生活圏における隣人の評価が決定 公表」要件 的関心事だからである O このことは,名誉段損においては, I が不要であることと関連している(第 1章第 2節 ( 2 )でふれたように ω ,ア メリカ法においては,特定少数に伝達することをもって p u b l i c a t i o n とい われる O 伝達した人物がたとえ一名であっても p u b l i c a t i o nである O たと えー 名に対する伝達であったとしても,問題の情報はこ次第しだいにコ. ω 前掲注側をみよ 。 プライパシ一侵害の言明について不法行為が問われる場合 には,公表要件を満たさなければならな L、 。 この公表要件は p u b l icd i s c l o s u r e. とか p u b l i c i t yと呼ばれる 。.

(17) 「現実の悪意JC A c t u a lM a l i c e ) ルールの背景にあるもの. ミュニティに広まっていく, という情報流通の特性のゆえである)。 また, reputationとは,そのコミュニティにおける Pの役割遂行に対し て,当該コミュニティの隣人たちが Pに与えてきた正当な評価をいう ω 名誉段損とは,隣人から受けてきた Pの良き評判を Dの言明が悪化させる こと,正確にいえば,悪化させる傾向をもつことをいう(良き評判を現実 に悪化させる必要がない点,および,その判断方法については,第 3章第. 2節でふれる)。 かように,アメリカの名誉投損法制の特徴は, (i)言明者 D, ( u )被言明者. p,そして(叫コミュニティにおける Pの隣人,という三面関係を分析対象 とする点にある ω 。 アメリカ法における名誉権は,社会一般に映し出されると Pが想像する 姿を保護するものではな L、。名誉投損は,問題の中傷的言明に接したコ ミュニティにおける人びとが Pに対する評価を変え一一「笑いものにす るj, I 取引を遠慮する」等一一交際・交渉等の接触を避けようとしがちと なるかどうか, という反応(態度の変化)を問おうとするのである(この 判定は裁判所の任務とされる)。この要件は,後にふれる「被害発生の推 定j, I 損害発生の推定 j, そして「因果関係の推定」のそれぞれの段階に おいて,その推定ωに歯止めをかける力となっている(被害発生推定原則. ω SeeR.Bezanson& B.Murchison,TheThree. 防 i c e so fL i b e l ,4 7WASH.& LEE 1 .REV.2 1 3,2 1 4( 19 9 0 ).以下, この論孜を“日r e e防 i c e s " と引用する 。 S e eE p s t e i n,S u l l i v a nWrong, ?s u p r an o t e1 6,a t7 8 5 . E p s t e i nは , この関係 をd e f a m a t i o nt r i a n g l eと呼んでいる。別の論者は,名誉とはコミュニティに おける Pの良き評価であり,名誉接損とは,そこでの人間関係の被害 C r e l a t i o n a l i n j u r i e s ) をいうのだ,という 。 この論者は,不法行為が成立するというために e e はPは人間関係の変化があったことの証明を要する,といいたいのである 。 S Anderson,Reputation,Compensation,supran o t e3 ,a t7 6 5 .また,後掲注 ,. ω. ωω. もみよ 。. 。 。. 前掲(7)において私は,. コモンローが被害または損害の発生を「推定」 してき. たのか,それとも 「 擬制 Jしてきたのか,明確な説明に接したことがない,. とノ.

(18) 近 畿 大 学 法 学 第6 1巻第 2・3号. の歯止めとなっている点については,すぐ後の ( 3 )でふれる O 虚偽の推定と の関係については,第 4章第 2節 ( 2 )でふれる)。 ( 2 ) 実際の生活圏における良き評判としての名誉. Reputationには,. 「コミュニティにおいて他者から受けてきている Pの信用」仰 という法益が 含まれる 口 それは,わが国でいう社会的評価(客観的名誉)一般を指すの ではなく,また,虚名を保護するものでもない。繰り返し確認すれば,名 誉とは Pが生活しているコミュニティの隣人から受けてきている正当な評 判のことである O もともと,英語でいう reputation とは,定義上,第三 者から受けている良き評判のことをいうようである O 上にいう 「 他者から受けてきている良き評判」 とは,第 lに , に享受してきたよき評判であること,言い換えれば,. pが現実. “仮想的第三者(社. 会)に映っていると Pが受けとめる自分の名声・評価"ではないこと,で ある O 日本法における「社会的評価」という法益は,. “問題の 中傷的言明. を通して社会が自分をどう受けとめるだろうか,という P自身の主観的反 応 " 一一 「他人の目に好ましく映し出される自分の姿を描き出す利益」 ーーを「人格権」という名の下で保護しているようにみえる D 名誉をかよ うに捉えるからこそ,. 日本法(不法行為法〉は,名誉感情という主観的な. 反応まで保護領域に取り込むのだろう ω 、指摘しつつ ,Restatement (Second) に従って,本稿はすべて「推定」と表記し てきている O 実際,州によっては r e p u t a t i o nを財産権として扱うところもみられる,とい う。See, e . g . , E . Volokh ,Freedom01SpeechandInformationP r i v a c y :TheT r o u b l i n g. m. I m p l i c a t i o n s0 1aR i g h tωS t o pP e o p l eFromS p e a k i n gAboutY o u ,5 2STAN.L .R EV.. 1 0 4 9, 1 0 6 3 6 4( 2 0 0 0 ) .また,たとえば, Bosev .ConsumerUniono ft h eU n i t e d 6 6U . S .4 8 5( 19 8 4 ) は,コンスーマ一・レポートが Boseのス S t a t e s,I n c .,4 ピーカーを酷評した記事について, d i s p a r a g i n gd e f a m a t o r yだとして争われた 事案である 。 これも名誉致損事案として扱われている 。営利法人も名誉権の主 体となることについては,今日異論はない。 名誉感情は別にしても, 日本法における客観的名誉という法益は,一見,客ノ. ω.

(19) 「現実の悪意J( Ac tu a lM a l ic e ) ルールの背景にあるもの. ( 3 ) 被害発生推定原則への歯止め. たしかに,アメリカの名誉段損法. 6 9を紹介したさいにふれたように(第 1章 制は ,R e s t a t e m e n t( S e c o n d ) S5 第 1節位) をみよ ),被害発生を推定するという原則をとっている(このこ との詳細については,後の第 3章第 2節で再度でふれる)。 が,可視化可 能な第三者の反応(態度変化)に焦点を当てている点で,アメリカ法は抽 象的な予測に歯止めをかけている O さらにまた,推定原則を一般化しすぎ ないよう(表現の自由に配慮、しながら),不法行為の成立を限定するよう 試みてきている O この場面が, p r o o fo fs p e c i a lharmの証明という要求で ある O. Proofo fs p e c i a lharmとは,問題の言明の影響を受けて,第三者が Pに 対する評価を実際に変え交際・交渉等の接触を避けたかどうか,個別具体 的な証明を Pに求めることをいう o R e s t a t e m e n t (Second) は , この証明の 意義を解説するにあたり,先にふれた. I defamationp e rs e/defamation. p e rquodJ の別を維持しつつ,前者について「損害賠償額請求のさいの必 須要素 J( a nelemento fdamages) であるとし,後者については 「必須要. 、観的な法益のようでありながら,. I 社会」という実体のないものにおける評価だ. けに,実際には, P内部における受け止め方を軸にせざるをえないものとなる 。 この構造のもとでは, Dは,社会における Pに関する評定の変化も,. P内部に. おける受け止め方の変化も,証明 ( 反証) しょうがな L、 。 Pは問題の言明が自 分の 「 社会的評価Jを低下させる傾向を 主張すればすむ。 Dはこの主張を防御. D e f e n s et h eI n しようにも防御できず, { 防御しようのない主張を防御せよ } ( d e f e n s i b l e)と求め られ る 。 また,裁判所も, I 社会的評価」の低下を問題の言 明内容・文脈から推測することになる 。 英米法が中傷的な 言明からは虚偽を推 定しているのに対して,. 日本法は中傷的言明から「社会的評価」の低下を一挙. に推定しているように思われる 。 前者にあっては,. Dは真実性の抗弁で防御で. きょうが,後者においては手の打ちょうがない。アメリカ民事名誉投損法制も, G e r t z以来,名 誉感情をも保護していると理解されてきているものの,これも ,. 不法行為の本道から逸脱しないように, どめられている 。. これも名誉権に 「 寄生」する法益にと.

(20) 近畿大学法学第 6 1巻第 2・3号. 素 J(日本法でいう成立要件)だ,と述べている ω 。被害発生推定原則のも とであっても,アメリカ法は,抽象的な被害の救済に徹しては~ ¥ないので. ある O 本稿は, s p e c i a lharmを 「特定可能な被害」と訳してきた(一般的には 0I 特定可能な」との訳語は,問題の 言 明に接 「 特別の被害」 と訳される ). する人的範囲は可視化されるべきこと,また,被害もこの受け手との人間 関係のなかに可視化されるべきことを合意させる本稿の工夫である O この ことは,因果関係の推定にも歯止めがかかっていることをわれわれに気づ かせるだろう O それでもなお,名誉投損法制は異形だとみられたのである O 異形さを象徴する被害発生の推定および損害発生の推定という法原則につ いて,章を変えて論じてみよう O. 第 3章名誉への「被害」と「損害」. 第 1節. 名誉皇室損における「被害/損害」. ( 1 ) 本章の課題. 中傷的言 明が名誉にもたらす被害および損害 の本質. および程度さらには金銭的損害額の程度は明らかではない, いや,明らか にされる必要がない,これがコモンローの原則だったのだ。 本章においては,コモンローがなぜ被害発生推定と損害発生の推定とい う法原則によってきたのか,改めて論究してみよう O この原則は,本章の 第 3節でふれる損害賠償額の算定の問題点ともつながっている O 名誉段損における被害発生の推定原則の概要は既にふれた。 この原則を. t r e s p a s s=不法侵害)不法行為と比較対照すれば,投損法の トレスパス ( 異形さが浮き彫りになるだろう O トレス パ ス不法行為も,かつては被害発 ( 2 ) 9 S e ei d .,1 36 2 2 .本文で述べたことは,ア メリカ法における「被害 / 損害」の別. を示唆しているように思われる 。本稿の第 2章はこの区別を重視している 。.

(21) 「 現実の悪意 J( A c t u a lM a l i c e )ルールの背景にあるもの. 生を推定してきたところ,今日では. pが現実の損害発生を証明しな L、 か. nominaldamages) しか得られないと考えられて ぎり,名目的損害賠償 ( l 'る,と l 'うω 。. 名誉投損における被害 と損害とは,いったい何を指し,どう判定される のだろうか。賠償額はどのようにして算定されるのだろうか。. ( 2 ) Harmと Damage. まず,中傷的言明がPに与える(といわれる). 被害および損害という用語・概念から考えてみよう O 被害は, l l l J u r yとも harmともいわれ,相互互換的に用いられることが 多い。損害 は damage と表現されるのが通例である 。 が,これと l l l J u r y ( または harm) とどう違っているのか,文献にあたっても明確ではなく, 相互互換的に用いている論者も多いようである ω。 が ,. しかし, damage. とは i n j u r yまたは harmを金銭的に評価したものをいい, damagesは賠 償額をいうと解するのが適切である O 本稿は ,i n j u r y (および harm) と damageとを区別すべきであるとの. l l J u r y (harm) を 「 被害J(Pの立場でいえば,良き評判 視点に立って, l を傷つけられること ) と訳し, damageを「損害」と訳出して,両者を意 識的に区別する 。 また, damagesは,原則として「損害賠償額」 と訳出 している ( つまり, damagesとは damageを金銭換算した額をいう)。 そ のうえで本稿は, s p e c i a li n j u r y(または a c t u a li n j u r yもしくは a c t u a lharm) を「特定可能な被害 」 と , s p e c i a ldamage( s )を 「 特別の損害 賠 償 ( 額) J と訳している 。. S p e c i a li n j u r yおよび s p e c i a ldamage( s ) にいう s p e c i a lは , g e n e r a lと. ω SeeRESTATEMENT (SECOND) OFTORTS ~ 163cmt .e( 19 7 6) .. ω 本稿の執筆に最も強い影響をもった Anderson,Reputation,Compensation,supra n o t e3の論孜も,画竜点晴を欠くかのように, ha rm と dam a g eの区別に無頓 着のようである 。.

(22) 近 畿 大 学 法 学 第6 1巻第 2・3号. r. 対照される用語である O すなわち, s p e c i a lとは 「特定可能な J 具体的な」 または「際立った」というニュアンスをもつのに対して, g e n e r a l とは 「 特定不要な Jまたは「概括的な 」 というニュアンスをもっている O この ふたつの区別も重要である O ( 3 ) S p e c i a lI n j u r y と ActualI n j u r y. また, s p e c i a li n j u r y または. s p e c i a ldamage( s ) と相互互換的に用いられるのが a c t u a li n j u r yまたは a c t u a l damage(s) である(ただし damage(s) については, s p e c i a ldamage( s ) と表記されるのが通例である o R e s t a t e m e n t (Second) の名誉鼓損の章では. a c t u a ldamage( s ) という言い方は一度しかみられな Lウ。Actuali n j u r y にいう a c t u a lは , presumedと対照される用語であって,. r 推定されない J ,. 「現実に被った J という意味で用いられる o S p e c i a lと a c t u a lは,相互互換. p e c i a lは s l a n d e rp e rquodを説 的に用いられているようであるものの, s 明するさいに用いられ, a c t u a lはそれを含めた一般的な場面で用いられて. 、 。. いることが多 L. 「被害/損害Jの別,. r 特定可能な/特定不要な 」 の別, r 推定的な/現. 実に被った」の別を明確にしてはじめて, {コミュニティにおける Pの良 き名声にどれほどの被害と損害を発生させれば, Dの言明行為を違法有責 とし, どれほどの金銭賠償の責を負わすべきか},{問題の言明によって P が被ったといわれる harm の本質は何であり,これを~. ¥かなる damageと. して捉え,どれほどの damages に換算するか》 という名誉投損の特有の 難問が透いて見えてくるはずである O こう考えるために本稿は, P o w e l l裁 判官の立場を序章で紹介したさいにも, 発生をも推定する」と,. r 被害発生を推定し,. しかも損失. r 被 害/損 害」 をそれぞれ独立に表現したのであ. るO. 州コモンローが,何をもって名誉授損(名誉への被害)だ,としてきた のか,節を改めて検討してみよう O.

(23) 「現実の悪意J( Ac t ualM a l i c e )ルールの背景にあるもの. 第 2節 被 害 発 生 の 推 定. ( 1 ) Doctrineo fPresumedHarm の言明が Pの良き評判に対して,. さて,アメリカ法においては. D. どのような被害を与えることが必要とさ. れるのか。 既に幾度かふれたように,. コモンロー名 誉段損法制は被害 (harm) の. 発生を推定してきており, Dの言明が Pの名誉にどの程度の被害 を与えた のかについて Pに証明を求めていなし、。 コモンロー名誉投損法は,被害発. d o c t r i n eo fpresumedharm) によってきたのである O そ 生の推定原則 ( の理由は 《 被害は証明しがた L、からだ》 というにある ω(この理由は,わ が国の法制でもあげられる)。 もっとも,論者のなかには. Pの良き評判を実際に低下させたことを要. 件としてあげているものもみられ,アメリカの論者の説明も一貫していな. ~, M。 が,すぐ次にみるとおり , Restatement (Second) の叙述を見るかぎ ,ア り,現実の被害発生を必須要素とすることの信恵、性には疑いが残り ω メリカ名誉致損法は被害発生推定原則によっている,と理解しておくのが. 。 適切だろう ω a 2 ) S e eA nderson,Reputation,Compensation,supran o t e3 .この Anderson論文は, o r t i o u ss p e e c hの事案に限って,現実 名誉投損・プライパシー侵害といった t の被害の 立証を不要とすることには合理的な理由がない,. と明確に指摘してい. る。 なお,前掲注(1)および後掲注側も参照の こと O ~. S e eN ote, Rhe t o r i c a lH y p e r b o l eandt h eR e a s o n a b l eP e r s o nS t a n d a r d :Drawingt h e L i n eBetweenF i g u r a t i v eE x p r e s s i o nandF a c t u a ZDφz m a t i o n ,3 8GA.L .REV.7 1 7,. 7 1 9n . 2 1( 20 0 4) 倒. もっとも,不法行為法の重鎮, R .E p s t e i nも , Dの言明によって Pが周囲の 人びととの有益な人間関係を維持できなくなったことを例としてあげていると ころをみると,被害の推定が法制度に 浸透 しきっているとは軽々には断定でき. e eE p s t e i n,S u l l i v a nWrong, ?s u p r an o t e1 6,a t7 8 5 .また,後掲注帥 およ ない。 S. ndersonの見解も参照せよ 。 びその本文における A 伺. S e ePROSSERANDKEETON,s u p r an o t e5 ,a t7 7 4 .この原則か ら外れる類型が,. i be lp e rquodであり,これと l i b e lp e rs eとの原則一例外関係がたノ 先に ふれ た l.

(24) 近 畿 大 学 法 学 第6 1巻第 2・3号 Restatement (Second) は,こう述べている O. 3 15 5 9 中傷的コミュニケーションの意義 pの名声を段損し,コミュニティ. 中傷的コミュニケーションとは. におけるその評判を低下させる傾向をもっとき,または,第三者をし て Pとの交友関係もしくは交渉を差し控えさせる傾向をもっときをい うω(ただし,傍点は阪本)。. 右のことを確認して,. 3 15 5 9での注釈 (comment) はこう述べている. 言明が中傷的であるとは. O. pの名声に対して現実に被害を与えたこ. a c t u a l l ycauseharmtoanother'sreputation),または,第三者 と (. をして Pとの交友もしくは交渉を現実に差し控えさせたことを要しな ~\ 。 ただし,いかなる言明も被害を生ぜしめないほど,. うしようもなく低いとき,. pの名声がど. もしくは,影響を受けないとき,または,. D の信用がもともと欠けているときには,この限りではな ~\ o. 以上の観点からすれば,言明が致損的であるかどうかという判断と, 損害賠償の請求原因となりうるかどうかという判断とは別個である O. ωでふれた Eldredge=Prosser論争を. ¥当びたび問われ,論争 されてきた。前掲注. nderson が指摘しているとおり,両者の関係 参照。 ここで問われるべきは, A の細かな分析ではなく,. コモンロー ( および州法または州裁判所の判例)が被. 害発生推定原則によってきたこと自体の憲法適合性である 。S e eA nderson, R e p u -. ,Compensation,supran o t e3 , a t7 5 1 5 2 . t a t i o n. 0 0. RESTATEMENT (SECOND) OFTORTS @5 5 9 .原文は次のとおり 。. @5 5 9DefamatoryCommunicationD e f i n e d e n d ss ot oharmt h er e p u t a t i o no fanAcommunicationi sdefamatoryi fi tt o t h e ra st ol o w e rhimi nt h ee s t i m a t i o no ft h ecommunityo rt od e t e rt h i r d p e r s o n sfroma s s o c i a t i n go rd e a l i n gw i t hhim ( ただし,イタリック部分は阪 本)。.

(25) 「現実の悪意J( A c t u a lM a l i c e ) ルールの背景にあるもの. 事案によっては, ( l )Pの被った実際の被害が証明されな L、かぎり,訴 訟として提起できないことがある 。 この場合の証明は,問題の言明が 実際に信用されたために 〔 第三者をして虚偽事実が真実であると信じ ,( 2 ) Pの名声に特定可能な被害 C s p e c i a lharm) を与 せしめたために J. a c tdamage) をもたらしたこと,および,金銭 え,現実の損害Cinf 的な損失を与えたことを含む C~ 5 6 9および 8575をみよ 。 ) さらに, ( 3 )問題の言明の虚偽性を Dが認識していたとの証明のないとき,また. は , ( 4 )虚偽か否かにつき軽率にも注意を怠ったことの証明がないとき “a c t u a ll l l J u r yつに限定される, には,賠償請求は『現実の被害JC. という連邦憲法上の制約がある 的( ただし,連番の(1)~(4), C. Jおよ. び下線部は阪本)。. l a n d e rp e rs eというコモンローに伝統 この解説の第 1パラグラフは, s l a n d e r 的な法理を述べた箇所である O 続く第 2パラグラフの下線部の(1)は, s 2 )は , s l a n d e rp e rquodにおいて必須要素 perquodの説明である O 下線部 (. とされる s p e c i a lharmおよび a c t u a ldamageと,それらの証明の必要性 3 )は,私人 Pの名誉段損事案においては,真偽判断 を指している O 下線部 (. について Dの f a u l tが立証されないときには, Dは Pの被った現実の損害 e s t a t e m e n t についてのみ責任を負う,とする Ge的のルールを指している o R C Second) も,州法の採用してきた損害発生の原則はもはや許容できない, zのルールをここで取り込んだのである O 下線部 ( 4 )は,公職者 とした Gert. または有名人が Pとなっている事案においては「真偽の判断につき現実の 悪意の証明がないときには,損害を推定してはならず, Dは Pの被った現 e r t zのルールのことを指して 実の損害についてのみ責任を負う 」 という G. 的. RESTATEMENT (SECOND) OFTORTS S5 5 9c m t .d ..

(26) 近 畿 大 学 法 学 第6 1巻第 2・3号. いる(損害に関する G e r t zの正確な用語は, " a c t u a li n j u r ydamages" で e r t z が明らかにしたいくつかのルールについては,次節 ある O 本稿は ,G で必要な範囲に限ってふれ,それ以上深入りしな Lサ 。 ( 2 ) 被害発生推定原則の不公正さ. た理由は,先にふれたように,. 被害発生推定原則が採用されてき. ~被害は証明しがたいからだ 》 というにあ. るO ということは,被害を発生させては liない,と Dが反証しようにも徒 , D e f e n s et h eI n d e f e n s i b l e という立場に置かれる O この 労となる o Dは 状態を放置することの不公正さに気づいていた裁判所は,さまざまな免責 事由という技法をもって綻びを修繕してきた ω 。 が, それらは対症療法に すぎなかったのである O 被害発生推定原則は,問題の言明が伝達 ( p u b l i c a t i o n ) されるまで Pは そのコミュニティで良き評判を享受していた(はずだ), との推定をも含 んでいる o Dが IPの評判は伝達以前から良くはなかった」と反駁したと しても,名声の低下傾向は言明の中傷的内容から陪審員によって判断され るO ここでは,良き評判の推定が効いてくる O 言明内容から名誉の低下が 推定されるとき. Dの反証は空凪りする. O. また, ~被害は証明しがた lì からだ》 という,. I 証明しがたい被害J ,I 反. 証もしがたい被害」 を救済しようとすれば,その損害の程度を確定するこ とも困難となり,また, この困難さは損害賠償額の算定に客観性がなくな ることへとつながっていく(損害の推定および損害額の算定については, 次節で扱う)。 被害と損害がともに特定しがたいところに,なぜに,司法機関が乗り出 さなければならないか,言い換えれば,不法行為法の王道に戻って,. “ 現. 実の被害のないところに救済なし"となぜできないのか。金銭に換算困難. ωを,公正な論評法理については前掲注仰. ( 3 8 ) 数々の免責事由については前掲注. を,特定可能な被害 C s p e c i a lp r o of)については,第 2章( 3 )をみよ O.

(27) 「 現実の悪意J( A c t u a lMa l i c e)ルールの背景にあるもの. な「被害」の金銭評価を,なぜ陪審の裁量としておくのか。 これらの疑問 。 に反論し尽くすことは容易ではない ω 民事名誉投損の法制は,名誉という法益の実体,言明のもっている害悪 性 , 言 明と被害発生との因果関係,現実の損害発生の有無,妥当な損害賠. i a b i l i t yr u l eを暖昧にしたままの 「 異形」の法制だったのだ。 償額等々の l この異形さを覆い隠してきたのが,. I 名誉授損の言明は,本来保護されない. 言論に属する」とする Chaplinsか 玖 NewHampshireω以来の言い方だった。 N .Y T i mesは,この思考を覆して, ①名誉段損的な言明であっても「保. 護される言論」に該当することがあり, ②州、│法が 「 保護された 」名誉投損 的 言 明 に つ い て 不 法 行 為 責 任 を 問 お う と す る に は , 連 邦 憲 法 修 正 1条の 「要件」 を満たさなければならない,. 第 3節. との見解を打ち出したのである O. 損害発生の推定と賠償額の算定. ( 1 ) 損害賠償のタイプ. アメリカの民事名誉投損法における損害賠償. は,伝統的に,次の五つのタイプに分かれていた 。第 1が名目的損害賠償 (額) Cnominaldamages) である O これは賠償されるべき損害額を Pが立 証できなかったときに与えられる少額の金銭をいう O 第 2が一般的損害賠 償(額) Cg e n e r a l damages)である O これは Pが立証しなくても,通常. Cgenerally)予想される損害(額)のことである ω 。 第 3が特定可能な損 ( 3 ) 9 K e e t o n,Defan叩 t i o n ,s u p r an o t e1,a t1 2 3 6は,名誉が実際に低下したことの 立証責任を Pに負わせよ,と提言している 帥 3 1 5U . S .5 6 8( 19 4 2).Chaplins匂は,名誉致損表現,わいせつ表現,喧嘩言 u n p r o t e c t e ds p ee c h ) としてカテゴ 葉,神冒涜表現等を「保護されない言論 J( O. ライズしていた。当時は,これらのカテゴリーは,厳格に切り取られた例外だ, と考えられていた。 ということは, これらにおいては連邦憲法修正 l条との抵 .Y .T i m e sは , これまで 触問題はありえない, と考えられていた。 ところが,N. の名誉段損先例は公職者批判の言論については何らの判断も示していない,. と. みたのである 。 住D S e eRESTATE旧 NT ( SECOND)OFTORTS35 7 5,c mtb. 原文は,“g e n e r a ldamagesノ.

(28) 近 畿 大 学 法 学 第6 1巻第 2・3号. 害賠償(額) ( s p e c i a ldamages) である O これは経済的な金銭的価値を失っ たことに対する金銭的な補填をいい ω,通常,. r 特別損害」と訳出されると. r 特定可能な損害額」と表記している この表記 s p e c i a li n j u r yにふれたさい, r 推定されざる被害」 というニュアンス. ころであるが,本稿は, は ,. O. を活かすために「特定可能な被害j と訳してきたことと平灰を合わせるた めである 。第 4が精神的苦痛およびそれに伴う身体的損害の賠償額 (damages. f o re m o t i o n a ld i s t r e s s )である 帥。第 5が懲罰的賠償(額) ( p u n i t i v edamages) であり,これは常軌を逸する ( o u t r a g e o u s ) ほどの Dの行為を非難するた めの賠償 ( 額)をいう へ コモンロー名誉段損における損害賠償制度の柱は,これまでふれてきた ように,一般的損害賠償(額)にあり,. この不公正さを軽減しようとした. のが特定可能な損害賠償(額)である 。こうした制度の基盤は,. r d e f a m a t i o n. p e rs e/ defamationp e rquodJ の別にあった。すなわち,大きく, d e f a mationp e rs eにおいて損害(額) は推定されるのに対して, defamation p e rquod訴訟においては Pは,特定可能な損害(額)を証明しなければな らなかった。 この法原則を再吟味したうえで疑問点を洗い出し,最高裁と e r t zとDun&B r a d s t r e e t , I n c . v .GreenmossB u i l d e r s ω しての回答を示したのが G. だった。 ( 2 ) G e r t zと Dun& B r a d s t r e e t. G e r t zと Dun& B r a d s t r e e tについて詳細. に紹介することを避け,このふたつの判決のポイントだけを以下に列挙す るO. 、. a r ei m p o s e df o rt h ep u r p o s eo fc o m p e n s a t i n gt h ep l a i n t i f ff o rt h eharmt h a t t h ep u b l i c a t i o nh a sc a u s e dt oh i sr e p u t a t i o n . " である O S e ei d . ,S6 2 2,S5 7 5, c m t .b S e ei d ., S6 2 3. 倒 S e ei d .,S6 2 1,cmtd.. ω ω 鍋. 4 7 2U . S .7 4 9( 19 8 5).

(29) 「 現実の悪意J( A c t u a lM a l i c e ) ルールの背景にあるもの. 対 (. Dに f a u l tがない場合に法的責任を負わせることは連邦憲法修正. 1条に違反する=これは,虚偽の推定がもはや許容されないことの 表明である O. 付) 公職者または有名人の名誉致損訴訟において州は,現実の悪意が 立証されないときには,現実に被った被害の賠償(額) ( a c t u a li n j u r y. damages)の責任を問うまでにとどめ,推定的賠償(額) (presumed damages) または懲罰的賠償(額)を法認してはならない(現実の 悪意が証明されてはじめて推定的賠償または懲罰的賠償の責任を追 及する州、法であれば,連邦憲法上問題がない) =これは,損害発生 の推定がもはや許されない,という表明である O ( ウ ) 私人 ( p r i v a t ep e r s o n ) の純粋に私的な関心事に関する言論によっ. て名誉を致損したケースにおいては,. r 現実の悪意」 が証明されな. a u l tの証明(通常においては,過失の証明)さえあれば, くても, f 州は懲罰的賠償または推定的賠償の法制度を裁量によって維持して よい=これも,被害発生の推定原則がもはや許容されないことの表 明である O. 連邦最高裁が上のように賠償責任の範囲を限定したねらいは, ( i )現実の 被害をはるかに超えた金銭賠償が大盤振る舞いされてきたこと,および ( i i ) コモンロー上の推定的賠償の制度が真の補償というよりは懲罰としての賠 償のやり方になってきたことに対して,修正 1条上の歯止めをかけること. 。 にあった ω ( 3 ) 損害発生推定の問題点. 働. 推定的損害賠償の法制は,先にふれた被. G e r t z ,4 1 8U. S .a t3 5 0 (Pは現実の被害 の求償に十分な賠償額だけを請求で きる );RESTATEMENT (SECOND) OFTORTS @6 2 0c m t .c .後掲注側及びその本. 文もみよ 。.

(30) 近 畿 大 学 法 学 第6 1巻第 2・3号 害発生推定原則同様,いくつかの難点をもっていた例 。 第. 1の難点は,この法制のもとでは,金銭賠償は compensat i o nという. 賠償制度の本来のねらいから外れて,. Dの wrong を抑止するため (懲罰. 的賠償は別途用意されているにもかかわらず,抑止力としての賠償として ) 用いられがちだ,という点である ω 。 第 2の難点は,賠償額の算定に客観的な基準がないために,賠償額が莫 大になる傾向である O たしかに,裁判長は,通常,書面によって陪審員に 「もし賠償の要があるとすれば,証拠に従って,現実に Pが 被 っ た 額 を 定 めるよう」告げるものの,客観的基準がないために,合理的な額を算出す ることは困難となっている ω 。 陪審員は,. Dの 財 産 ・ 資 産 状 況 , 言 明 内 容. の不人気さ等を賠償額の算定にあたって,こっそりと考慮するかもしれな. L、 。 そうなると,これを統制する術はな L、 。 第. 3の難点は,先にふれた l i b e lp e rs e/l i b e lp e rquodという歴史的な. タイプの違いに応じた損害の証明の要否が,法域によって違い,また,複 雑すぎることである o. Dが細かな技術的な違いに訴えかけながら,自由な. 言明行為を擁護しようとしても,この茂みに入り込むこと自体が大きなコ e eA nde r s o n,Reputation,Compensation,supran o t e3,a t7 4 9 5 0 .また,前掲 的 S 注Q O ) もみよ 。 制 ) メディア法に関するあるケースブッ クは,こう述べている 。 「 歴史を振りかえると,名誉段損を理由とする不法行為責任は,マスメディア の表現の自由に対する制約であった。 また, この領域は不法行為責任に対する 憲法上の限界を最も鋭く広く展開してきている J oM.FRANKLIN,D.ANDERSON & L.LINDSKY,M ASSMEDIA LAW 2 2 5( 7 the d. 2 0 0 9) . 性 ) 9 A n d e r so n,Reputation,Compensation,supran o te3,a t7 4 9n. l 1.この A n d e r s o n 論文によれば, N.Y .T i m e s事件の升│ 第 1審裁判所においても,裁判長は,本 0 0, 0 0 0 文でふれた内容を書面で陪審員に告げていたと L寸 。ところが,賠償額は$5 だったのである O これに対して N .YT i m e sは「金銭的な損失の証明もなく,こ , 0 0 0倍 れを容認した原判決は,アラパマ刑法に規定されている罰金の最高額の 1 e d i t i o u sA c tの定めていた額の 1 0 0倍に相当する 」 と指摘した のだっ であり, S た. ( 3 76U. S .a t2 7 7) 。.

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