はじめに 日本の学校では,暴力や非行等の「問題行動」 に教職員が主として対応するのが慣例である。 子どもの「問題行動」に対しては,ゼロトレラ ンスや毅然とした指導という生徒集団の秩序維 持に着目した方法がある。他にも子どもの最善 の利益と権利保障を念頭に置いた対応もある。 その対応例として,学校教育で子どもに対して 行われる「個人の支援」と「集団の秩序維持」 のバランスをとった支援体制の構築にもつなが るスクールソーシャルワーク(以下,SSW と表 記する)実践がある(中西 2010: 75)。 本 稿 で は, こ の う ち SSW 実 践 に 注 目 す る。 日本で SSW 実践の歴史を扱う既存の研究では, 全体的な流れ,カウンセリングとの関係史を主 に示す(金澤 2007; 内田 2012 等)。戦後日本の 学校で「暴力や問題行動」に対して行われてき た「SSW 実践」に相当,ないし関連する取り組 みの内容を探り,その内実を明らかにすること は,SSW の歴史的経緯を明らかにする上で意義 がある。データは,1950 年代から 1970 年代ま でを中心に,「学校社会事業(SSW)」「学校福祉」 「非行」等の語を用いた「文献・論文」を主に扱 う。「学校社会事業」と「学校福祉」は異なる言 葉であるが,一方で,教育福祉を論じる高橋 (2001: 226)の「学校福祉=学校社会事業」とい
原著論文
「学校社会事業(スクールソーシャルワーク)」
「学校福祉」の実践に関する研究
―「非行・問題行動」に対する実践の歴史に着目して―
中 西 真
(立命館大学人間科学研究所/立命館大学産業社会学部) 本稿では「非行や問題行動」のケースを扱う「学校社会事業(SSW)」に関する研究を行った。主 に 1950 年代から 1970 年代までの「学校社会事業(SSW)」「学校福祉」に関する資料を用いて, SSW 実践が学校福祉の分野で歴史的に積み重ねられてきた概念であることを示した。また,教員や スクールソーシャルワーカーを含めたチームで事例を見立てて対応する「学校社会事業(SSW)」が 有効だと考えられてきたことも記述した。「学校社会事業(SSW)」の過程では,生徒の行動だけで なく,考えや背景にも特に注目することが見込まれる。「非行」に対する SSW 実践を推進するとき には,非行や不登校等の問題解決のために SSW が事業化されるだけでなく,教職員や生徒,保護者, 地域住民が SSW を有効な実践だという意識を共有し,関係者相互の連携とそれを支える体制が必要 である。課題として,関係者の思いを情報交換するだけに留まっていた場合は,実践が有効に展開 されないことがあげられる。 キーワード:学校社会事業(スクールソーシャルワーク),学校福祉,少年非行,問題行動 立命館人間科学研究,No.34,35 48,2016.う見解もある。本稿では,両者の実質的な内容 から判断し,両者を一緒にして扱う1 )。両者を一 括することで現代の SSW 実践と「学校社会事 業」,「学校福祉」との関連を解明させていくこ とにつながる。 なお,本稿では SSW の特徴を「学校の福祉 的な実践」として捉え,それがいかなる実践で あるのかを具体的に明らかにしていきたい2 )。 「学校の福祉的な実践」には,野田(2007)が示 した SSW 実践の分類3 )をすべてその対象に含め ることにする。この理由は,日本では過去の福 祉実践だけでなく,現在も SSW 事業が「学校 を十分に理解し,福祉を専門とするスクールソー シャルワーカー(以下,SSWr と表記する)」の みで行われるわけではなく,SSW について共有 された内容を模索している段階だからである4 )。
1 ) 例えば,「学校社会事業(School social work)」は 「学校教育に専門の心理学者やケースワーカーが 参 加, 協 力 す る 制 度 」( 長 欠 児 童 生 徒 援 護 会 1973b: 139)とされ,「学校福祉の仕事は,学習の 内面にまでたち入らねばならぬ一方では,児童の 学校・家庭・街頭を通じての全生活をふまえて」, 「民生,警察,労働などの関係官庁と密接な関係」 (学校福祉研究会 1963: 23)を持つとされる。こ のことを含め,「学校社会事業」と「学校福祉」 の理念,実践内容等には共通が多い(具体例は, 中西 2012 を参照)。「学校社会事業」と「学校福祉」 という語をさらに検討するのは今後の課題であ る。 2 ) データを収斂し,学術研究にまとめる発想は宝月 誠の社会的世界論を参照した(研究方法は,宝月 2010: 52―56,中西 2012: 15, 23).本稿では,非行 や問題行動に対する「学校社会事業(SSW)」「学 校福祉」等をそれぞれ 1 つの社会的世界と考え, 研究を進めた. 3 ) 具体的には「(1)ソーシャルワークを専門とする 者が,ソーシャルワークと認識して行う活動。(2) ソーシャルワークを専門とする者が,ソーシャル ワークと認識しないで行う活動。(3)ソーシャル ワークを専門としない者が,ソーシャルワークと 認識して行う活動。(4)ソーシャルワークを専門 としない者が,ソーシャルワークと認識しないで 行う活動」(野田 2007: 18)とされる。 4 ) 例えば,「ソーシャルワークの定義そのものが曖 昧な今日の状況では,学校現場に何らかの対人援 助職を配置する際に,その事業をソーシャルワー クと呼ぶことが増え」,「雇用条件が福祉専門職以 外の場合,たとえば臨床心理士であったり,退職 した教員などとなる可能性は高い」(野田 2007: 20)とされる。 まず,学校に福祉的視点の導入を試みる SSW の先駆的な実践として捉えられてきた「学校社 会事業」「学校福祉」の実践や研究を紹介し,「非 行や問題行動」に対する SSW 実践5 )の意義につ いて探っていく。そして,これらの先駆的な取 り組みの課題を検討し,歴史的教訓を踏まえ, SSW を実践する際に必要とされることは何かを 明らかにしたい。 Ⅰ.「学校社会事業」「学校福祉」の歴史 1.理念と定義 学校社会事業には「学令児童生徒の就学並に 学習を阻害する社会的条件並に社会心理的条件 を排除するために,学校の場に応用された社会 事業」(寺本 1957: 98)という定義がある。また, 「学校社会事業は,現実的にはケース・ウォーク として,当該児童,又は学生と,或は彼らの問 題に関係ある人々との面接によってなされるも のであるが,もし同様な問題や,或はその解決 のための共通の資源を有するものを集めてなし たら,グループ・ウォークをなすことになり, 又学校当局や教師たちや,或は他の諸種のサー ヴィスとの連絡・協同をなす場合と,学校と, その所在の地域社会及びその住民に対して,主 として学校社会事業に関するパブリック・リレー ションズ活動等をなす場合に,コミュニティー・ オーガニゼーションをなすことになる」(竹内 1955: 132)ともされる。さらに,学校社会事業 は「学校適応を前提としたすべての子ども,心 5 ) 「非行」に対する学校社会事業(SSW)の研究では, 中学校を想定したような内容が多く,現代でも文 部科学省が「暴力」や「非行」として把握する統 計数は中学校が多いので,本稿では中学校の実践 をイメージして記述している。また,1960 ∼ 70 年代の「非行」に対する学校福祉の実践は,当時 の実践家が他界,もしくは健康上の理由で話も聞 けず,実践の詳細を示す公的な記録は存否自体も 不明で,多くは実践の概要しか示せないのが現状 である。さらなる調査による資料の発見が今後の 課題である。
とからだの健全な保持・促進のために,子ども ならびに子どもの環境の中でおこる,社会的・ 経済的および情緒的・身体的諸問題をそれぞれ 専門的な立場から計画的,組織的に解決する手 だてを講ずることによって,教育条件のよりよ い整備をはかろうとする積極的な援助活動」(村 上 1969: 72)とも主張される。そして,「学校社 会事業の目的は,斯かる障害を除くことにあり, 換言すれば教育の効果を挙げることに社会事業 の技術をもって貢献すること」(小島 1957: 98) という見解がある。これらは,ケース・ウォーク, コミュニティー・オーガニゼーション等のよう に,現代の福祉実践では使用が一般的でない語 を用いており,内容に時代的な制約はある。し かし,学校社会事業が教育の整備をはかるため に,福祉の考えと方法に基づき,子どもの生理, 心理,社会に対して直接・間接に援助される内 容だと示す。 さらに,実践の理念に関して,「近代の学校教 育が,唯知識を与える事を唯一の使命と考えた 旧来の理念から脱却して,漸次に児童を『一個 の人格者』として見るようになり,全人格的教 育が必要であるという考え方に根ざしている」 (内田 1957: 109),「人間信仰の信念の樹立が日 本に於ける学校社会事業確立のための土台」(寺 本 1957: 98),「学校に於ては,彼等を一個の人 間として,人格として対等に考え,愛の精神で 指導する」(後藤・田中 1950: 166)とされる。 また,長欠児童生徒援護会では「さまざまな社 会的・家庭的条件の子供たちを,学校生活にお いては平等にする ―ひとしく最高の条件下にお く― 配慮を意味する」(長欠児童生徒援護会 1973a: 47)と示す。これらは,学校社会事業, 学校福祉では子どもを一個の人格者として見て, 人間信仰の信念を土台とし,子ども個人と学校 生活の背後にある家庭と地域社会,社会制度を 身体的,心理的,社会的に把握して関係官庁, 地域社会と連携した実践の展開を示す。 実践における対象の理解として,「問題(例え ば非行)が彼の生活状況(家庭,学校,地域社会) のなかで持っている意味,さらにはその問題の 解決に当面役立つことが期待される手段を明ら かにすること」(三浦 1965: 68)という記述があ る。また,子どもの行動だけではなく,背景の 理解を重視することについて,「困った子,困っ た親は,世間にとって迷惑な親子であるが,本 人たちも亦,実は『困っている子供』(troubled Child)『困っている親』(troubled parent)」であっ て,「彼等は自らをどうしてよいか,わからない 混乱している親子であり,一時は必死であった が,結局逃げ口がみつからぬために,やがて反 社会的存在になり,或いは,全く無気力に,自 らをも諦めて非社会的存在」になる(寺本 1959: 120),「なるべく早く,ケースの診断と治療計画 をたてねばならないが,そのばあいに注意すべ き点は,学校欠席とか,非行のような,外面的 な問題の解決にとらわれないで,これらの問題 の解決にたちむかう能力,すなわち自発的解決 に た ち む か う 社 会 的 成 長 を 援 助 す る 」( 岡 村 1963: 167)とされる。さらに,学校社会事業を 論じる寺本(1978)は「少年に人格変革・行動 修正を期待すると同時に,社会の側においても, 少年の社会環境を(家庭から初めて,学校,そ して近隣そして広く市民社会について)再調整 する環境作業」を重視する(寺本 1978: 49)。また, 「児童の学校生活の背後に家庭と地域社会ないし は社会制度をおく」とし,「学問的方法論からは 児童を身体的=心理的=社会的存在としながら も,心理=社会的側面を重視」して,「児童の学 習への援助を児童本人,家族および地域社会の 態度の改善と機会の提供を通じて行なう」(学校 福祉研究会 1963: 10)とされる。 また,時代がさかのぼっても,学校福祉の実 践とされるディーンという学校内の役職が生徒 を理解する方法として,「不良化には,素質と環 境の輻湊によっておると前言したが,不良児と
同じ精神構造を持ちながら未だ不良行為をなし ていない者が多くあるのは,明かに環境による と云える」(後藤・田中 1950: 166),「かれらが 悪化したのは,環境の勢であって,本人にのみ 責任を問うことはできないと考えた」(宇治谷 1950: 36)等とされ,素質と環境の双方が重視さ れる。さらに,大阪市都島工業高校のディーン, 宇治谷(1950)は「環境が悪いために性格のま げられた者,身体が弱いために出席率のよくな い者,知能が低いために学習態度が悪い者,等々, 相連関し問題は問題を原として発生している」, 「生徒を早期に発見すれば,家庭に出向いて,そ のもっとも深い原因をつきとめ,それを取り除 くよう努力し,経済的に行きづまっている者に は,授業料の減免,奨学資金の貸与申請を,知 能の低い者には,特別学級の編成を,環境から 来る性格異常者なら,環境を改めるよう,個別 指導を行わねばならぬ」とする。このほか,「職 業興味調査や,適性検査の結果を利用して,進 学指導や,職業指導も行う」(宇治谷 1950: 35) とし,個人と環境の相互作用を含めた総合的な 見立てと支援が行われていることを示す。 このように,1950 年代から 1960 年代までの 社会全体的な生活基盤の弱さと,そこから生じ る子どもの課題に対応する「学校福祉」「学校社 会事業」の記述6 )には,現代では使用が一般的 でない語(例えば,「診断」「治療」等)が用い られる時代的な制約はある。しかし,1950 年代 にも子どもの権利保障を念頭におき,個人と環 境の相互作用を重視した実践,研究があったと 示される。 6 ) 1970 年代以降の SSW 実践について,大阪・佂ヶ崎, 横浜・寿等といった「ドヤ街」では絶対的貧困を 背景とした実践が継続されたが,「全国的な傾向 としては,高度経済成長に伴う生活水準の底上げ により,貧困を背景とした長欠問題は収束」し, 次第に「戦後初期の学校社会事業をめぐる議論や, それに該当する国内の取り組みの存在そのものを 忘却していった」(内田 2012: 61―62)と評される。 2.実践の対象となる領域 学校社会事業を論じる寺本(1978)は,一般 的な「生活の捉え方」として,「学校は学習効果 をあげるために生活の部分(時間割,教科書等) を強調している」が,放課後や夏休等の長期休 暇という内容まで含まない場合もあり,「学校に おいての『生活指導』は学校という部分社会の また小部分であるから,学校の有効性にはもと もと限界がある」(寺本 1978: 56)とする7 )。また, 「社会的に心理的に就学や学習に堪えれない条件 にある児童は,教授や人格形成のための条件が っていないから,所謂,教授効果があがらな いばかりか,却って,教授や指導のみでは逆効 果をもたらす」とされ,「学校社会事業は教育の 領域から,はみだしている部分が多い。即ち, 児童福祉と教育の両領域の交伹する所に発生す るという事が出来よう」(寺本 1957: 98)と示さ れる。さらに,教育福祉を論じる村上(1969) は「現実の教育体制のもつ欠陥をほりおこし, 教育効果を高め教育体制そのものを改善しよう とするところに学校社会事業の領域が存在する」 とし,「学校社会事業は教育条件の整備等,教育 行・財政にまつところが大きいので,これと並 列的に相互作用しあう」(村上 1969: 84)とする。 これらは,1950 年代から 1970 年代までにも学 校を基盤とした独自の福祉領域・実践が着目さ れたことを示す。 子どもを取り巻く環境の 1 つである家庭に対 して,「経済的問題から生ずる放任の外に,親の 精神的放任或いは虐待について少年非行が発生 する場合」があり,「学校社会事業は親の更生を 計るのではないが,子のために親の理解を形成 する」(寺本 1957: 99)とし,子どものためにも 親を理解して支援することが示される。家庭と 学校の関係について,学校社会事業を論じる寺 7 ) 「障害児の場合の教育は,部分ではない。生活全 体である」(寺本 1978: 56)として,学校の一般 的な対応と対比される。
本(1978)は「非行少年が発生した場合,学校 と少年或はその家庭は対立する」が,「部分と全 体との衝突のようなものであるから,それは問 題の解決にはならない」(寺本 1978: 56)とする。 さらには「学校が行う事の出来る家庭訪問の意 味は社会福祉的に(教育的というよりも)極め て重大」であり,「ケースワーク的手法の取り入 れは欠くことの出来ないもの」とされ,「『学校 社会事業』の根拠は,このような家庭と学校と の関係の中にある」(寺本 1978: 55)とも指摘さ れる。 また,学校福祉の実践とされるディーン制度 について,「全教官,ことにホーム・ルーム・テ イチャーの深い理解と協力により,今まで忘れ られた子,捨てられた生徒が,わずかながらも 救われたことは,幸である」(宇治谷 1950: 36)と, 他の教師との連携が示される。ディーンの宇治 谷(1950)は「ことに特別な個人指導については, 問題が起ったとき,デイーンがその中心となっ て,生活指導委員会を開催する」とし,「委員会 に出席するメンバーは,学校によって多少異る が,学校長,デイーン,問題の生徒のホーム・ルー ム・テイチャー,同じくその父兄,校医の五人で, この会議によって,今後の指導方針を決定する」。 これは「従来のように,生徒を,学校が一方的 に処分するのではなく,学校家庭,身体的な面 については医師の協力をも得て,よりよくそだ ててゆこうとする,建設的な委員会」だとされる。 さらに,「指導方針が決定すると,これによって, わたくしたちは特別指導を行う」,「反省日誌を つけさせたり,生活のしかたを変えさせたり, 勉強の仕方を教えたり,あるいは寝食を共にし て,愛情の欠如を補ったり等々,数え上げれば 限りはない」(宇治谷 1950: 35)という記述もあ る。 実践での地域との関係について,「学校社会事 業は,地域社会のもつ児童福祉問題の内容によっ て左右される事が大きい」(寺本 1957: 94),「『欲 求不満・意慾低下等がもたらす不安定な,家庭・ 学校生活』や,『教育行政の関心度・財政の貧困 等がもたらす地域格差・教師の負担増』を招来 している問題をどう解決するか,そこに学校社 会事業の必要が認められる」(村上 1969: 82, 84) 等と指摘される。また,学校福祉研究会では「地 域社会組織化活動として,岡村氏から,長欠問題, 特殊児童問題等についての P・R 活動,調査, 社会資源の動員,開発について福祉教諭の一般 的組織化方法ないし技術が必要」(学校福祉研究 会 1963: 74)だと示される。 地域の諸機関,専門家,父兄等との連携につ いて,「外に向かっては,警察や福祉司と連絡を とり,内,学校長の補佐役となり,ホーム・ルー ム・テイチャーの相談相手として,父兄や生徒 とも胸襟を開いて談合し,新しい学園を建設し ていかねばならぬ」(宇治谷 1950: 35)とされる。 さらに,大阪市内のディーン協議会での連携は 「全市のデイーンによって」,「デイーン協議会も, このときから大いに強化され,組織化された」 とされ,「全員がいろいろな部門に別れて研究を 行い,毎月一回会合して,その発表を行ってい る」,「その外に,講師を招いて児童心理学,思 想傾向,宗教情操などの問題についても講義を 聞き,近畿地区の保護施設見学にも,おもむく」 (宇治谷 1950: 36)と示される。これらからは, 学校社会事業(SSW),学校福祉が学校だけで なく,家庭や地域も視野に入れた実践を目指す ことがわかる。 実践の対象となる行為について,「『怠学』を 一つの行動問題の兆候としてとらえて,心理= 社会的援助をあたえる」(岡村 1963: 152)と示 される。また,学校社会事業は「主として貧困 家庭の児童・素行上の問題児を対象にするもの のようであり,学校を足がかりにすることによっ て,これらの児童の保護を一層有効に行おうと するもの」であって,「これはアメリカの学校社 会事業の初期の状態と似ている」(小島 1957:
114)という記述もある。さらに,学校社会事業 を論じる内田(1957)は「中学生徒の長欠は直 に不良化と繋る怖があるので,学校社会事業の 一面としてカウンセリングやケース・ワークの 対象となる場合が多い」(内田 1957: 156)とする。 そして,学校ケースワークを論じる三浦(1965) は,実践の対象について,「特に学校ケースワー クの対象は所謂問題生徒」とし,「問題生徒とは, 行動的に攻撃的な反社会的行動(非行)―anti-social behavior と,内向的な非社会的行動(自殺, 逃避等)―asocial behavior である」と示す。ま た,「学校ケースワークやカウンセリングはその 多くが frustration-aggression と取りくまねばな らない」(三浦 1965: 64)とする。このように, 1950 年代から 1960 年代までの記述にも現代に 共通する内容も多く,SSW 実践の主な対象とし て,子ども個人の心理だけでなく,家庭や地域 生活等の置かれている環境も含めて捉え,貧困 家庭や非行,逃避,怠学,長欠等という状況が 学校の「問題」と考えられ,カウンセリングやケー スワークによる支援が行われてきたと示す8 )。 3.実践の機能,他との相違 SSW 実践では,当事者を重視する理念に基づ き,様々な事例を扱う。「非行」に対する実践で は「学校福祉の活動対象となる諸問題の多くは, 小学生も低学年時代からの習慣や環境の蓄積が, 小学校高学年や中学にいたって,表面化あるい は悪質化するのが常道」(学校福祉研究会 1963: 13)とされ,そこに実践の必要性が示されてきた。 「非行」に対する事例では,予防と仲介の機能に 関する記述がある。 第 1 に,「問題行動」の予防について,「学校 8 ) ただし,「対象については,問題の予防面からも, 個性・進路の理解と福祉の増進からも普通児にも 当るべきである(学校福祉研究会 1963: 10)」と される。また,アメリカでも SSW の記述が特定 の問題行動を選択して対応する事実を指摘する (Stone & Gambrill 2007: 114)。
社会事業は,一つには最も効果的な予防事業」 であり,「社会事業全分野のうちで極めて重要な 意義を持つ」(小島 1957: 109),「学校社会事業 の特色は予防的な精神衛生にあるので,出来る だけ早期に問題を発見するにあたって,担任教 師とケースワーカーとの協力が非常に大切」(寺 本 1957: 100)とされる。また,学校社会事業を 示す寺本(1957)は「不就学長欠,不正常出席, 遅刻或いは早引については年少労働,或いは怠 学,嫌学の関連に就いてのケースワークが必要」 であり,「更にこれは少年非行への発展を事前に 防止する事を含んでいる」(寺本 1957: 98)とす る。学校福祉の実践では「非行をした生徒の対 策よりも,むしろ非行を予防することに重点が かけられねばならない(石松・石垣・岩瀬・大野)」, 「非行予防といっても,学校保健・衛生・給食・ 教育扶助などをも含めて学習への調整をはかろ うとする教育の側に立ちあくまで児童の健全な 発達と成長を願う過程での非行予防でなければ ならない(佐久間)」(学校福祉研究会 1963: 9) とされる。これらは,学校社会事業,学校福祉 の実践では「問題行動」がこじれる前の予防が 特徴だと示す。 第 2 に,仲介機能について,学校社会事業を 論じる寺本(1978)は「学校で先生は当然,教 室妨害をする問題児と対立する」が,「この対立 をやわらげるためには教育の中への福祉の思想, 福祉の機構を入れて,その対立の中和をはから なくてはならない」,「精神医学者と心理学者は 知識を提供するための有力な資源人であるが, 先生と父兄との対立を止揚してゆく援助をする ことができない」とし,「この役割はソーシャル・ ワーカーの開拓する所である」(寺本 1978: 56) とする。また,「学校ケースワークの機能には限 界があるので,あるケースは精神衛生相談所へ, あるケースは児童相談所へ,あるケースは精神 科医の診断へと夫々専門の機関や専門家に委託 することが必要」(三浦 1965: 68)とされ,学校
と他機関が連携する仲介機能の必要性が示され る。 さらに,学校社会事業(SSW)と教育の相違 について,学校の福祉実践を論じる岡村(1963) によると,「学校福祉事業9 )は,児童の学習に対 する予備的条件を整備するとしても,それは医 学的な側面や心理学的立場からではなく,児童 の家族関係を含む社会関係,すなわち社会制度 との関係的側面からの援助」であり,「学校の本 来の活動である学習活動を援助するものである が,それ自身は学習ないし教育活動ではない」(岡 村 1963: 157)とされる。また,「学校社会事業 は教授効果をあげる援助をするが,『教育』その ものではない」とされ,「Guidance(生活指導) などの如き人格形成でもない」,「傷ついた人格 をいたわる役目をする事によって Guidance の 前提条件をつくるが,人格形成そのものではな い」(寺本 1957: 98)という指摘もある。このよ うに,「学校社会事業(SSW)」「学校福祉」の 実践は,教育と異なる独自の内容であり,子ど もの発達や教育の機会等を保障するという子ど もの最善の利益を念頭に置く。また,SSW 実践 は,教職員がケース会議で取り巻く家庭・学校・ 地域の環境的側面も含めた背景を把握してチー ム支援や環境調整等を行う協働体制を構築する 基になる実践といえる。 以上,本節では関係者の論議を経て,学校に 福祉的な視点を導入する研究・実践が進み,そ の主張の核心部分の実践理念・対象・機能を整 理することができた(表 1)。 Ⅱ. 「非行」に焦点をあてた「学校福祉」の実践, 概要 日本には 1960 年代までに学校福祉の実践があ 9 ) 「教育制度のなかにとりいれられた社会福祉的援 助」の「最も端的な表現は『学校福祉事業』であり, また論者によっては,『学校社会事業』ともよば れている」(岡村 1963: 151)とされる。 り,「非行や問題行動」の事例に着目する研究も 発表されていた。例えば,子どもの生活背景を 把握して対応する実践は,学校福祉の実践とさ れ,「学校福祉の任務は,学習に対する適応を調 整してやろうという,学校教育の第一義の仕事 と直接結びついて」,「学校福祉の仕事が完全に 行なわれて,初めて真に教育の機会均等が達成 される」(学校福祉研究会 1963: 4)と考えられ てきた。 学校の福祉的な実践の広がりとして,全国的 な配置状況は「生活(徒)指導主任(係・教員) …青森・三重・滋賀県等 補導(教師・主任・係・ 主事)…広島県,兵庫県等 カウンセラー…北海 道・新居浜市 教育相談員…東京港区,酒田市等 その他 福祉教員(高知市・徳島県)生徒福祉 主事(京都市)訪問教師(神戸市) 訪問指導教 員(桐生市) 長欠対策委員(千葉県)ディーン(高 岡市) 同和教育推進委員,就学奨励委員(奈良)」 (学校福祉研究会 1963: 7)と示される。また, 学校福祉の研究で,福祉教諭や学校配置のケー スワーカーの事例として,あいりん小中学校, 山谷地区の実践がある。これらは,日本で学校 の福祉的な実践とされた事例が各地の学校に存 在すると把握されたことを示す。 全国に広がった学校の福祉的な実践の中でも, 「非行や問題行動」に着目した実践として,京都 市の「教育委員会生徒福祉課」,大阪市や富山県 等の「ディーン(Dean)」,福岡の産炭地や神戸 市の「補導教師」等がある。京都市の生徒福祉 課は「生徒個人の課題と家庭・学校・社会的な 背景の相互作用によって,『非行や問題行動』が 発生すると考えており」,「『科学的,客観的』な 資料で生徒を個別化して取り巻く生活環境を見 立てて問題解決につなぐ」,「子どもや保護者の 気持ちを尊重し,『非行・問題行動』を個人の問 題だけでなく,家庭・地域・学校という生徒を 取り巻く生活環境を把握し,ケースワークやカ ウンセリングを用いて様々な機関と連携しなが
ら実践する」(中西 2012: 16, 20, 22。非行,背景 の把握と対応等といった実践の詳細は,中西 2012 を参照のこと)。 ディーンについて,大阪市では昭和 23 年,市 立小中高校に男女各 1 名のディーンを置き,教 育研究所で第 1 期ディーン講習会を実施してい る。ディーンは「大阪府下において先駆的に行 われた試みの一つ」であり,「生活指導係のこと であるが,それまでの,非行児童・生徒への対 応を主とする補導制度と異なり,児童心理学等 に基づいて積極的に児童・生徒を導いていくこ とを目ざす」(新修大阪市史編纂委員会 1992: 670)制度である10)。具体的な職務として,ディー 10) 当時の資料,宇治谷(1950)にも同様の記述がある。 さらに,ディーンは,大阪以外の地域にも存在が 示され,富山県,三重県四日市市,愛知県の情報 を筆者は発見することができた。また,大阪府立 阿倍野高等学校,大阪市立生野中学校等の論稿も 見つかった。各地の詳細を検討して実践の特徴, 地域の相違等を明らかにするのは,今後の課題で ある。 表 1:「学校社会事業(SSW)」「学校福祉」の理念,対象領域,機能についての整理 (1) 定義 理念,理解方法 (2) 対象領域 着目する行為 (3) 機能 ・学令児童生徒の就 学並に学習を阻害す る社会的条件並に社 会心理的条件を排除 するために,学校の 場に応用された社会 事業(寺本 1957) ・ す べ て の 子 ど も, 心とからだの健全な 保 持・ 促 進 の た め に,子ども並びに環 境の中でおこる,社 会的・経済的および 情緒的・身体的諸問 題をそれぞれ専門的 な 立 場 か ら 計 画 的, 組織的に解決する手 だてを講じ,教育条 件の整備をはかる積 極的な援助活動(村 上 1969) 理念 ・子どもを一個の人 格。全人格的教育(内 田 1957) ・ 人 間 信 仰 の 信 念 (寺本 1957) ・子どもを等しく最 高 の 条 件 下 に 置 く ( 長 欠 児 童 生 徒 援 護 会 1973a) 理解方法 ・問題が生活状況(家 庭,学校,地域社会) の中で持つ意味,問 題解決の手段を明ら かにする(三浦 1965) ・困った子,困った 親は,実は『困って いる子供』『困ってい る親』。やがて反社会 的存在,非社会的存 在になる(寺本 1959) ・学校欠席,非行と いう外面的な問題解 決にとらわれず,自 発的解決,社会的成 長を援助する(岡村 1963) ・児童福祉と教育の 両領域の交伹する所 (寺本 1957) 家庭,学校,地域 ・経済的問題から生 ずる放任,親の精神 的放任,虐待で少年 非行が発生する場合 があり,子どものた めに親の理解を形成 (寺本 1957) ・不安定な家庭・学 校生活,教育行政の 関心度・財政の貧困 等による地域格差・ 教師の負担増を招来 する問題の解決(村 上 1969) ・警察や福祉司と連 絡。学校長の補佐役。 担任の相談相手。父 兄や生徒と話す(宇 治谷 1950) ・ 学 習 の 内 面。 学 校・家庭・街頭を通 じての全生活。民生, 警察,労働などの関 係 官 庁 と 密 接 な 関 係。地域の協力(学 校福祉研究会 1963) ・怠学を一つの行動 問題の兆候としてと らえて,心理=社会 的 援 助 を あ た え る (岡村 1963) ・貧困家庭の児童・ 素行上の問題児。学 校を足がかりにする ことによって,これ らの児童の保護を一 層有効に行う(小島 1957) ・中学生徒の長欠は 直に不良化と繋る怖 があるので,学校社 会事業の一面として カ ウ ン セ リ ン グ や ケース・ワークの対 象となる場合が多い (内田 1957) ・ 対 象 は 問 題 生 徒, すなわち,行動的に 攻撃的な反社会的行 動(非行)と,内向 的な非社会的行動(自 殺,逃避等)。学校ケー スワークやカウンセ リ ン グ の 多 く が frustration-aggression と 取 り く む( 三 浦 1965) 予防 ・ 学 校 社 会 事 業 は, 一つには最も効果的 な予防事業」であり, 「社会事業全分野のう ちで極めて重要な意 義を持つ(小島 1957) ・学校保健・衛生・ 給食・教育扶助など も含めて学習への調 整,教育の立場,あ くまで児童の健全な 発達と成長を願う過 程での非行予防(学 校福祉研究会 1963) 仲介 ・教師と教室妨害を する問題児,父兄の 対立を中和するため, 教育の中への福祉の 思想,福祉の機構を 入れる(寺本 1978) 他の専門との相違 ・児童の学習に対す る予備的条件(家族, 社会関係,制度)を 整 備, 援 助 す る が, 教育活動でない。医 学的,心理学的でも ない(岡村 1963) (表 1 は,収集した論稿を基に筆者が作成)
ンの宇治谷は「知能テスト,環境調査,性格テ スト,身体検査,適性検査,職業興味調査など, あらゆる診断を,直接,あるいはホーム・ルーム・ ティーチヤ―の応援を得て行い,記録し」,「日々 の出席状況,あるいは学習態度など,怠らず観 察して」,「これらの調査から得た結果をもとに, その治療にかかった」(宇治谷 1950: 35)とする。 さらに,「慎重な判断と十分な調査。性格異常者 や精神薄弱児が現れたとき,その結果だけ見て 判断してはいけない」,「それが環境から来てい たり,身体の欠陥に原因することもあるから, 十分に調査する必要がある」(宇治谷 1950: 34― 35)とされる。また,大阪学芸大学助教授並び に天王寺附属中学校主事の後藤と大阪学芸大学 天王寺附属中学校ディーン教官の田中は「学校 ディーンが果し得べきテスト・調査には」,テス ト法を「①知能テスト(Intelligence Test)② 学力テスト(Achievement Test)③性能テスト (Aptitude Test) ④ 性 格 テ ス ト(Personality
Test)」,調査法を「①生活の実態調査,②発達 の調査,③発育調査,④逸話記録(アネクドー タル・レコード),⑤ケース・スタディのための 特別調査」(後藤・田中 1950: 14)に大きく分類 する。さらに,「よき聞き手となること」,「デイー ンもまた,生徒のなやみを受け入れる大きな容 物となって,自殺あるいは不良化を防がねばな らぬ」(宇治谷 1950: 34)という記述もある。実 際にディーンがした対応は「環境の改善にも努 力し,事業に失敗した父親に,仕事を紹介し, 継母に対しては,眞実の子供にもつと同様の愛 情 を, も た れ る よ う に お 願 を し た 」( 宇 治 谷 1950: 36)とし,子どもだけでなく,家庭,父母 も含めた子どもを取り巻く環境に着目した実践 を展開する。このように,戦後まもなくに始まっ たディーン制度は SSW 実践と類似している。 また,補導教師について,福岡の産炭地では 「年々増加する非行児,しかもその非行が集団化 し,低年齢化していく実態と,非行児の事例の ために警察よりの呼び出しが度々続くために, 従来の授業をやりながらの生活指導では到底解 決しないので従来の生活指導部,訓育部の中か ら,これに専念する教師を各学校の中から選ん だ」(福岡県教職員組合 1965: 64)。さらに,神 戸市では同和教育,夜間学級,「特殊教育」,長 欠生の指導,少年の非行化防止及び補導等を包 括的に捉えて「谷間のこどもに光を与える」こ とを目標とする愛護教育という枠組で実践を進 めていた。同和教育を実践する訪問教師の他に も非行化防止,生徒指導にかかわって「指導困 難校にのみ配置されている」という補導教師が 存在した(神戸市愛護教育連盟他 1964)。この ように,学校では戦後まもない時期から「非行 や問題行動」に対する福祉的な実践がされてき たと示される。以下では,こうした実践を生み 出した当時の社会的背景を探っていきたい。 Ⅲ.「学校社会事業」「学校福祉」実践の背景 1.アメリカの影響 戦後の日本は,アメリカの制度や文化に大き く影響を受けている。学校や教育のこともその 例外ではなく,例えば,ディーン制度,学校社 会事業の実践や研究でアメリカの影響を見るこ とができる。第 1 のディーン制度は,富山県に おいて,「戦後の教育の根幹はアメリカの教育体 系が中心になったが,そのため教育用語に耳な れぬ多くのことばが持ち込まれた」,「ディーン 制もその一つである」とされ,「ティーンの職務 を重視して,富山民事部教育課長バラットは 24 年 6 月から 9 月にかけて関係者を集め講習会を 開き,その趣旨の徹底をはかっている」(富山県 教育史編さん委員会 1972: 705)とされる。 また,大阪府においても,ディーン制度は「ア メリカの制度を輸入して設けたことから,当時 は一般にディーンという英語のままで呼び慣わ していた」,「大阪軍政部の発案で導入されたも
のであったが,実際の講習・指導には教育研究 所などが当たった」(新修大阪市史編纂委員会 1992: 670)とされる。これは,ディーン制度が 導入された頃の資料にも「いかにして不良化を 防止し,いかに共学を効果あらしめるか」,「こ うしたとまどいは,ときの大阪軍政部教育情報 部長ミスタージョンソンによって,解決が興え られた」,「ジョンソン氏の指示をうけ大阪府が 主催して,嵐の中の生徒を守る組織のディーン 養成講習がはじめられた」(宇治谷 1950: 34)と される。このように,学校福祉にかかわるディー ン制度はアメリカから導入されて戦後まもない 日本で展開し,アメリカの影響があるといえる。 第 2 の学校社会事業の研究について,「府県や 市の一部ですでに実施されている福祉教諭11)制 度(名称は前述のとおり区々であるが)は,ア メリカの学校社会事業から直接学んだものが多 い」(学校福祉研究会 1963: 37)とされる。学校 社会事業の紹介に関連して,「寺本氏がアメリカ の学校社会事業についての数少ない研究者の 1 人で,アメリカのその制度の中では,子供の欠 席問題を格別重視していることに共鳴しておら れる」(長欠児童生徒援護会 1973b: 144),「西京 大学の寺本喜一教授は 1956 年 8 月より 1957 年 3 月 ,国際連合技術援助拡大計画による社会 福祉研究資金に依て,合衆国に滞在,児童福祉 並 に 社 会 福 祉 一 般 の 研 究 に 従 事 し た 」( 内 田 1958: 73)と示される。また,「不就学長欠の児 童生徒に対してとられました学校制度への社会 福祉的接近」との関係から「全国でも珍らしい 生徒福祉課という行政機構が昭和 34 年12)京都市 11) 福祉教諭について,「本来的にケース・ワーカー である者を,『教諭』と名づけることは,正しく ないし,教育行政及び社会事業行政のおかれてい る現状からみて,教授(筆者注:岡村重夫のこと) のいわれる『一般的理論』の立場は余りにも現実 無視的立場である」(上田 1965: 219)という批判 もある。 12) 京都市の教育委員会生徒福祉課は,1962(昭和 37)年に発足しており,昭和 34 年という記述は 誤字である。 教育委員会にできたのを援助いたした」ことが あり,同課の誕生には「高知県の福祉教員の制 度を知った事,及び,米国における学校社会事 業の実際を現地において研究する事」という 2 つの動機があったとされる(寺本 1975: 63)。こ のように,日本の学校における福祉的実践の事 例であったディーン制度,学校社会事業に関し て,アメリカの学校教育,福祉の影響を見るこ とができる。 2.非行,少年問題に対する社会の注目 学校社会事業や学校福祉の実践が検討された 背景には,非行,少年問題に対する社会の注目 がある(中西 2013: 133, 136)。非行の件数に関 する説明として,「昭和 39(1964)年をピーク としていくらかずつ減少していた少年非行件数 は,45 年に 6 年ぶり上昇に転じた(長欠児童生 徒援護会 1973b: 92)」とされ,「非行少年の数は, 昭和 29 年に一時後退をみたがその後うなぎのぼ りに増加している」(長欠児童生徒援護会 1973a: 70)とされる。さらに,学校社会事業を論じる 寺本(1978)は「少年法改正のスケジュールが, 法務省(検察庁),家裁,日弁連等の司法関係者 の段階から国民一般のものとなる,即ち,法案 が国会に登場してくる段階に近ずくと,青少年 非行研究の視点が重要」(寺本 1978: 43)とする。 これらは,1960 年前後に非行の件数が増加して, 社会的に注目されたことを示す。 また,社会的な実践の表彰を行うとされる読 売教育賞で,第 18 回受賞者の業績について,「実 践の多くが,子供たちの非行問題との対決に, その動機を求めている」,「少年非行が現代教育 の泣きどころであるだけに,これと真向うから 取り組むことの中から受賞の成果を生み出した ということは,痛快きわまりない皮肉というほ かない」(長欠児童生徒援護会 1973a: 56)とさ れる。さらに,非行問題と学校教育の対応につ いて,「気になるのは近年教育界の台風の眼とさ
えいえる少年非行の問題」,「多分に社会と家庭 に原因をもつ少年非行の防止や補導を学校教育 としてどう受けとめるか,又そのために必要な 教師の知識や技術上の必備条件は何であるか」, 「これは恐らく,これからの教師養成にとって, 真剣な検討を要する問題になる」(長欠児童生徒 援護会 1973a: 70)とされる。 学校福祉と非行の関係について,1963 年度の 文部予算である生徒指導費は「近年しきりに騒 がれている児童生徒の非行防止を中心とする学 校福祉のために計上された」(長欠児童生徒援護 会 1973a: 70)と示される。また,学校福祉研究 会では「学校福祉が一般教育界の熱心な関心の マトになり,すべてに慎重な文部省をも動かす にいたっているのは,少年非行問題が直接の刺 激である」,「少年非行がこれほど重大な社会問 題化しなければ,たとえ長欠児童防止などの観 点から一部の人々や団体がいくら声をからして 叫んでも,学校福祉がこんにち全教育界の要望 となる機運は容易に生まれなかった」,「非行対 策としての効果をあげるのは,学校福祉の結果 であって,目的ではないが,また,非行対策と しての結果を生まないような学校福祉は,無意 味 で あ り, 本 物 で も な い 」( 学 校 福 祉 研 究 会 1963: 29―30)等の主張があった。 学校福祉の実践による影響として,「生徒の障 碍の根本」は「a 桃腺が悪い。b 智能が低劣。 c 家庭の環境が悪い」等と診断された。そして, 「教師は家庭訪問して,家庭でも生徒に自信力を 持たせるように要請」,「立派な家庭環境を作る ことは親の役割であることを自覚させるのに骨 を折った」,「生徒に読書を奨励」し,「題材は子 供自身に選択させ」,「しばしば作文を作らせた」 等という対応があった。実践の結果,生徒の「社 会的態度は改善」,「グループと共に仕事をする ことを好み,又学習にも自信を持つようになっ た」等が記される(後藤・田中 1950: 153―157 の 事例から抜粋。寺本 1978 にも類似の記述あり)。 このように,学校福祉の実践が広がり,推進さ れた背景の 1 つに非行に対する社会の注目があ り,実践の結果,子ども本人や家庭,地域,社 会に影響があったと示される。 Ⅳ.考察 以上,現代の SSW 実践の先駆である「学校 社会事業」「学校福祉」の記述内容とその背景に ついて述べてきた。本稿では,日本で 1950 年代 から「学校社会事業」「学校福祉」の実践として 検討されてきた内容は,非行や不登校等,表面 上の行動だけでなく,個人と取り巻く環境の相 互作用という背景もケース会議でアセスメント し,対応の方針をチームで決定することや,「困っ た子は困っている子」という子どもの捉え方を して人格を尊重しながら,学校と関係機関が連 携や役割分担をしたと示すことができた。 非行をはじめ,青少年の全般的な問題,子ど もの最善の利益を保障するための実践として成 果が期待された「学校社会事業」「学校福祉」の 実践であるが,課題もある。第 1 の課題は,実 践を学校側が管理する手段として用いるのでは なくて,あくまでも子どもの個性に応じて,発 達を促進する対応としての原則を確立すること である。特に,実践に対する社会や学校の課題 状況として,実践で掲げられる「子どもの最善 の利益」という理念があいまいにされると子ど もの管理につながる危険性がある。そして,事 例の検討を行うケース会議が情報交換のみの場 になれば,実践が持つ本来の機能(アセスメント, プランニング等)が果たされず,実践が行き詰る。 また,学校社会事業を論じる寺本(1978)は「住 民側からの圧力が出てこないから」,「それぞれ の社会機関は権限の上から閉鎖社会となり,権 限の衝突を回避して,保身保全の社会防衛で満 足してしまう」と主張する。これは,当事者の 意思が明確に示されないと,非行問題への対応
が社会防衛,秩序維持的な側面だけになり,子 どもの成長,発達の側面がないがしろにされる おそれがあることを示す。さらに,学校では「問 題」を持つ子どもの心理や行動のみに着目して 対応する方法が重視され,背景としての子ども 個人とその生活環境の相互作用を把握すること を視野に入れた実践は一般的でない状況である。 そのため,1980 年代に変化13)した京都市の教育 委員会生徒福祉課のように,SSW の理解が教員 や生徒,保護者,関係機関等に広がらないと, 理念を実行に移すのが困難になる(中西 2012: 22―23)。 第 2 の課題は,実践を支えるのは子どもと教 師の二者関係だけでなく,より広い社会関係, すなわち子ども同士や教師集団,父兄,教育委 員会や他の関係機関,地域社会との関係を深め ることである。例えば,学校社会事業を論じる 上田(1965)は,学校社会事業の日本への導入 について,「『少年非行』という目先の現実を過 大視して,その過渡的な,ないしは表面上の糊 塗を策してとみられるような『学校社会事業』 の導入に反対し,この特殊ケース・ワーク技術 の日本的適応をはかるには,言葉の正しい意味 での『人づくり』と,未来の社会を荷う若き市 民の教育のために,いま,なにが必要であるか を考え,そのための諸条件を整備した上で,真 剣に『学校社会事業』を考えるべきであるとい う立場(上田 1965: 222)」だとする。これらの 状況を解消するには,実践の有効性を広めて, 相互に支える教職員や関係機関,生徒,保護者 等の意識共有とその土壌を育成することが重要 である。こうした課題は,現代の SSW 実践に 13) 変化した一因として,「1960 年代に急激に訪れた 高度経済成長の影響で,ソーシャルワーカーたち は,保育ニーズへの対応など,『学校外』で起こ る子どもたちが抱える問題についてソーシャル ワーク実践を行ってきた」,「『学校内』で起こっ ている問題には,カウンセリングで問題解決を図 ろうとする動きが大きくなった」(金澤 2007: 74) と示唆される。 も類似し,考慮が必要であろう。 これまでの「学校社会事業」「学校福祉」等の 実践では,上記の課題に対する意識が十分でな く,その反省を踏まえて現在の SSW 事業を有 効にするためには,以下のことが重要である。 第 1 は,SSW の実践例を幅広く広報することで, SSW 実践の有効性や問題点を多くの人びとに周 知することである。第 2 は,専門家の研究会で 失敗例を含めて徹底して研究し,専門性を高度 化させることである。第 3 は,スローガンや政 策として SSW を唱道するだけでなく,具体的 な事例に基づく対応方法を示す「臨床的知」の 蓄積と共有が必要なことである。現代の実践で は「学校社会事業」「学校福祉」が抱えていた課 題 に 改 め て 向 き 合 い, 対 応 す る 必 要 が あ り, SSW 実践の周知,事例検討,ケース会議,知の 蓄積と共有等のさらなる具体化は今後の研究課 題である。これらに加えて,「非行」に関連して SSW 実践を推進するときは,非行や不登校等と いった問題の解決だけのために SSW が事業化 されるのではなく,実践の導入とともに学校教 育の諸条件,SSWr の養成やスーパービジョン 等という,実践を支える体制の構築と運用,地 域社会への教育を充実することである。SSW 実 践における「子どもの最善の利益」や「当事者 の人格,権利」を尊重するという理念を念頭に おいて,特定の子どもたちだけでなく,困って いる当事者すべてのために SSW 実践を展開す ることが重要である。 Ⅴ.おわりに 暴力や非行・問題行動に関連した学校社会事 業・学校福祉の歴史は,現代における SSW 実 践の先駆であり,多くの示唆と課題を伴ってい る。SSW 実践を単なる理念にとどめないために は,実践を可能にする社会的条件を検討してい くことが重要となり,これが学校社会事業,学
校福祉の歴史を研究することの意義でもある。 謝辞 本稿の執筆に際し,中川健太朗氏,佐竹紀美 子氏,故仲田直氏,寺本眞名氏,桶谷守氏,長 谷川智広氏,中 中氏,寛紀正美氏,村上尚三 郎氏をはじめ,多くの方々に情報,資料提供い ただきました.心よりお礼申し上げます. 引用文献 長欠児童生徒援護会(1973a)十二年史. 長欠児童生徒援護会(1973b)底辺と教育 長欠問題白 書. 福岡県教職員組合(編)(1965)産炭地の教師は訴える. 日本教職員組合. 学校福祉研究会編(1963)学校福祉の理念と方法.黄 十字出版部. 後藤興一・田中敏隆(1950)ガイダンスに於けるデイー ンの活動.駸々堂. 宝月誠(2010)シカゴ学派社会学の理論的視点.立命 館産業社会論集,45(4),45―65. 金澤ますみ(2007)わが国のスクールソーシャルワー クにおける課題.社会福祉学,48(3),66―78. 神 戸 市 愛 護 教 育 連 盟・ 神 戸 市 教 育 委 員 会 青 少 年 課 (1964)愛護教育資料 愛護教育研究収録(昭和 38 年度愛護教育推進員報告). 小島栄次(1957)学校社会事業について.三田学会雑 誌第五十巻記念論文集.十・十一月合併号,91― 116. 三浦賜郎(1965)学校ケースワークの臨床的意味につ いて.社会問題研究,15(3・4),62―76. 村上尚三郎(1969)学校社会事業に関する一考察.社 会学部論叢,3,67―91. 中西真(2010)中学生の「問題行動」に対する「毅然さ」 を伴う教員実践の考察.ヒューマンセーフティ研 究,3,61―78. 中西真(2012)「非行や問題行動」に対する「スクー ルソーシャルワーク実践」の原点.学校ソーシャ ルワーク研究,7,14―26. 中西真(2013)少年非行の現状と子どもたちの背景, 少年非行への対応と,専門機関・専門職の役割. 浦田雅夫(編)知識を生かし実力をつける 子ど も家庭福祉.保育出版社,133―136. 野田正人(2007)スクールソーシャルワークの役割. 山野則子・峯本耕治(編)スクールソーシャルワー クの可能性.ミネルヴァ書房,18―30. 岡村重夫(1963)社会福祉学(各論).柴田書店. 高橋正教(2001)教育福祉研究.小川利夫・高橋正教 (編)教育福祉論入門.光生館,225―244. 竹内愛二(1955)科学的社会事業入門.黎明書房. 寺本喜一(1957)米国に於ける学校社会事業の展開に 就いて.西京大学学術報告 理学及び家政学,2(4), 93―101. 寺本喜一(1959)問題家庭ケースワーク局面打開の些 少な試行について.京都府立大学学術報告 理学 及び家政学,3(1),117―124. 寺本喜一(1975)愛と生と 学校ケースワーク特集.新 日報印刷. 寺本喜一(1978)青少年問題へのケースワーク的接近. 四国学院大学論集,41,43―58. 富山県教育史編さん委員会編(1972)富山県教育史 下巻.富山県教育委員会. 新修大阪市史編纂委員会(1992)新修 大阪市史 第 8 巻. 大阪市.
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Original Article
Historical Study on School Social Work and School
Welfare Practice: Analysis of Practice against Juvenile
Delinquents and Problem Behavior
NAKANISHI Shin
(Institute of Human Sciences, Ritsumeikan University / College of Social Sciences, Ritsumeikan University)
The purpose of this paper is to investigate the history of School Social Work practices as a solution for juvenile delinquents and problem behavior. Studies of School Social Work and School Welfare in 1950s-1970s clearly showed that School Social Work methods have been developed historically in accordance with the school welfare field. Researchers and school staff members have recognized the effectiveness of School Social Work practices, which enables a team of teachers and school social workers to analyze cases and discover coping strategies. In the process, team members are expected to pay special attention not only to students behaviors but also the reasons for their behavior. An important point to be emphasized for the Juvenile Delinquents Guidance in School Social Work practices is to collaborate with various people and organizations to promote School Social Work systems. In addition, it is necessary that local residents, teachers, and students and their parents learn about the effectiveness of School Social Work. It should be noted that the effectiveness of School Social Work practices is limited if the purpose of conferencing is only to share feelings amongst the stakeholders.
Key Words : School Social Work, School Welfare Practice, Juvenile Delinquents, Problem Behavior