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漢字活用における児童の意識と実態について

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(1)漢字活用における児童の意識と実態について. 小竹光夫*木村睦美** (平成9年12月10日受理) -、はじめに 紀田順一郎は、その著『日本語大博物館』 (1994年 株式会社ジャストシステム)の冒頭で次のように述べて 5Mォ. が実用レベルのものとして位置付けられたにすぎない。 つまり、日常生活・社会生活をおくる必要に応じて創出 された漢字であるが、現在では滅び去った概念や、区分 を求められなくなった状況もあり、必要とされる字数・. いまや写植の普及につれて、活字そのものの影 はますます薄くなるように感じられるが、コン ピュータによる言語処理は、文化史的に見れば「悪 魔の言語」としての日本語をねじ伏せ、征服する 努力の一つにすぎない。電脳文化がようやく広が りと幅を見ようとしている今日、これら先人の努. 字種は必然的に絞り込まれたということになろう。事実、 一般的に使用される漢和字典の扱う字数・字種は、5,000 5,000程度の範囲に限定されており、それでも我々が 日常的に使用しない漢字が含まれている。掲載されない 漢字、使用されない漢字は、当然のこととして活用の場 から姿を消していく。. 力、あるいは失敗の跡を振り返ることも無駄では ないであろう。いわば悪魔の言語としての日本語 とさまざまな角度から取り組んだ人々の苦悩の跡 を、ハード、ソフト両面から掘り起こそうという のが本書の目的である。. この字数・字種を限定していく場面で論拠とされるの が、 「漢字活用頻度」を基盤とした「漢字活用率」である。 平易な言葉で言い換えれば、 「日常生活で活用されるこ とが多く、概念としても一般的な漢字は、基本的な漢字 として位置付けられ、保存・流通する」ということにな ろう。このように日常的な書字活動に密着して漢字の淘 汰が行われてきた中で、 E]本では詳細な漢字活用頻度数 の調査が行われ、その結果がかつて使用された「当用漢. 『日本語大博物館』の副題には、 「悪魔の文字と闘っ た人々」と記される。紀田をして「悪魔の言語」と言わ せる日本語とは何だろうか。それは、総体に向けられた というより、日本語を構成する漢字への畏怖であり、畏 敬の念に他ならない。あたかも多義図形のように変容す る漢字への挑戦は、日本人にとってはまさに悪魔との闘 いであったのかもしれない。 表意・表語性をもつ漢字は、語(概念)に対応して字. 字表」に提出される漢字、現在、小学校の漢字教育の基 盤とされる「学年別漢字配当表」に提出される漢字(1,006 字)や、日本人の日常生活の基盤とされる「常用漢字表」 に提出される漢字(1,945字)へも、大きな影響を与え ているといえよう。 しかし、このようにして設定された基本的な漢字の活. が発生するという成立上の特性ゆえに、総数5万と言わ れるほど膨大に字数・字種を増加させてきた。限られた 字数しかもたない表音系の仮名やアルファベットなど が、組み合わせによって語(概念)を表示するのと大き く異なりを見せる点で、その結果、情報化時代の到来と. 用場面でも、児童・生徒の「漢字ばなれ」を指摘する声 は多い。現実、児童・生徒の日常書写の中では、本来、 漢字で書かれるべきものでさえ仮名書きされ、適正な漢 字活用が実現されているとも思えない。同音異義語が多 い日本語では、総てが仮名書きされると伝達性が損なわ. 共に、漢字が言語機能を発揮できるのかと問題視もされ てきた。その問題視や漢字活用の危機感は、いずれもが 点画や形態上の繁雑さによるものであったが、それらを. れる。そのため、主要な概念や要点となる部分を、どう 適切に漢字で置き換えるかが表記上の重要な点となる。 本論では、 「学年別漢字配当表」に提出される漢字を対 象とし、書字・書写教育の視点から、漢字活用上の問題 点を考える前段階となる「漢字活用における児童の意識. 判別の根拠としないコード化により、いわば「復権」が 実現することとなった。 「21世紀に漢字は消滅する」と の衝撃的な予見も、今や遠いこととして処理されようと している。 しかし、総数5万の漢字総てにコードが与えられたの ではなく、幅広い分野を対象としながらも、約1割程度. と実態」について分析・考察しようとするものである。 二、児童の実感 国語や書写では、新出漢字を対象とした学習が計画的. *兵庫教育大学学校教育学部附属実技教育研究指導センター(語学教育分野) * *京都府舞鶴市立新舞鶴小学校. -101-.

(2) 知茶昼長鳥朝直通弟店点電刀冬当東答頭同道読 内南肉馬売買麦半番父風分間米歩母方北毎妹万 明鳴毛門夜野友用曜来里理詰. に行われている。音訓や筆順、さらには活用場面を想定し た上での熟語指導と、かなり綿密な指導を繰り返すものの、 授業以外での日常生活に漢字はなかなか浸透しない。児 童・生徒の多くは、その理由を次のように述べている。. 第三学年(200字) 悪安暗医委意育員院飲運泳駅央横屋温化荷界開 階寒感漠館岸起期客究急級宮球去橋業曲局銀区 苦具君係軽血決研県庫湖向幸港号根祭皿仕死便. ①画数が多く、一々考えるのが面倒臭い。 ②仮名なら簡単なのに、書くのに時間が掛かる。 ③筆順や音訓を覚えるのが大変である。. 始指歯詩次事持式実写者主守取酒受州拾終習集 住重宿所暑助昭消商章勝乗植申身神真深進世整 昔仝相送想息速族他打対待代第題炭短談着注柱. ④仮名で書いても意味は通じる。 簡単な表現であるが、ある意味では現在の漢字教育の 問題点を明確に指摘していると言えよう。 ・点画・形態において繁雑な漢字を指導する際、記 憶・活用しやすいような原理・法則を導き出して. 丁帳調追走庭笛鉄転都度投豆島湯登等動童農波 配倍箱畑発反坂板皮悲美鼻筆氷表秒病品負部服 福物平返勉放昧命面聞役薬由油有遊予羊洋葉陽 様落流旅両線礼列練路和. おらず、場面ごと、提出順という場あたり的な学 習指導に陥っている。 ・情報量の拡大に伴う速書力を与えておらず、その ため漢字を書字する際、運筆上の遅延・渋滞が生. 第四学年(200字) 愛案以衣位囲冒印英栄塩億加果貨課芽改械害街 各党完官管関観願希季紀喜旗器機議求泣政給挙 漁共協鏡競極訓軍郡径塑景芸欠結建健験固功好. じる。. ・言語生活での同音異義語等の問題点、具体的場面 を想定させた学習指導を展開しておらず、活用や 理解が「授業」という範囲に限定される。. 候航康告差菜最材昨札刷殺察参産散残士氏史司 試児治辞失借種周視順初松笑唱焼象照賞臣信成 省清静席積折節説浅戦選然争倉巣東側続卒孫帯 隊達単置仲貯兆腸低底停的典伝徒努灯堂働特待. このように、児童・生徒が漢字を忌避する理由は、単 純であるが重要である。これらの点を、まず指導者側が 認識していなければ、いかなる学習が展開されようとも 真の力として定着してはいかない。. 毒熱念敗梅博飯飛費必票標不夫付府副粉兵別辺 変便包法望牧未満未脈民無約勇要養浴利陸良料 量輪類令冷例歴連老労録 第五学年(185字). 三、 「学年別漢字配当表」に提出される漢字の活用頻度 について 周知の通り、小学校学習指導要領において「学年別漢. 庄移因永常衛易益液漬応往桜恩可仮価河過賀快 解格確額刊幹慣眼基寄規技義逆久旧居許境均禁 句群経潔件券険検限現減故個護効厚耕鉱構興講 混査再災妻採際在財罪雑酸賛支志枝師資飼示似 識質舎謝授修述術準序招承証条状常情織職制性 政勢精製税責績接設舌絶銭祖素総造像増則測属. 字配当表」として提出されるのは、以下に掲げる学年別 に配当された1,006字の漢字である。 (注-ここでは明朝体活字で示しているが、実際 の「学年別漢字配当表」では、書字上の有効性 に配慮して教科書体活字で示されている。手書 き文字を意識した教科書体活字は、当初、毛筆. 率損退貸態団断築張提程適敵統鋼導徳独任燃能 破犯判版比肥非備俵評貧布婦富武復複仏編弁保 墓報豊防貿暴務夢迷綿輸余預容略留領. 書体を基盤として作成されたが、時代の推移と ともに変化し、現在は硬筆系のものが使用され ている。). 第六学年181字) 異遺域宇映延沿我灰拡軍閥割株干巻看簡危机揮 貴疑吸供胸郷勤筋系敬警劇激穴絹権憲源厳己呼 誤后孝皇紅降鋼刻殻骨困砂座済裁策冊蚕至私姿. 第一学年(80字) -右雨円王音下火花月学気九休玉金空月大兄五 口校左三山子四糸字耳七草手十出女小上森入水 正生育夕石赤千川先早革足村大男竹中虫町天田 土二日入年目八百文木本名目立力林六 第二学年160字) 引羽雲園遠何科夏家歌画回会海絵外角楽活問丸 岩顔汽記帰弓牛魚京強教近兄形計元言原戸古午 後語工公広交光考行高黄合谷国黒今才畑作算止 市矢姉思紙寺日時室社弱首秋週春書少場色食心 新親図数西声星晴切雪船線前組走多大体台地池. 祝詞誌磁射捨尺若樹収宗就衆従縦縮熱純処暑諸 除将傷障城蒸針仁垂推寸盛聖誠宣専泉洗染善奏 窓創装層操蔵臓存尊宅担探誕段暖値宙忠著庁頂 潮賃痛展討党糖届難乳認納脳派拝背肺俳班晩否 批秘腹奮並陛閉片補暮宝訪亡忘棒枚幕密盟模訳 郵優幼欲翌乱卵覧裏律臨朗論 という形で配当されている。 この配当には、画数や用・運筆上の段階性や系統性は 見られない。配列も50音順に並んでいるだけで、そのた. -102-.

(3) め教科書で扱われる場合も、教科書会社によって各学年 での初出の順序も異なりを見せるのが実情である。僅か な原則を導くならば、 『説文解字』の「六書」にいう象形・ 指事が低学年に、それを組み合わせた会意・形声が中・ 高学年に配置されるという段階性は見られる。象形・指 事と位置付けられる漢字が、後の複合的なものの基礎単 位、漢字活用上の基礎的、基本的漢字であることからの 配慮と考えられるが、語の学習と連携した「必要なもの の順」の配置であると考えてよいであろう。実際に、第 1 ・ 2学年配当の漢字を見ても、数字や方向・方角、曜 日、天気に関するもの(一二、上下、北南、雨晴等)や、 偏や勇・冠などの部首になるもの(雨月口山竹土等)な ど、日常生活で必要な漢字がほとんどを占めている。 漢字の活用頻度に関する調査は、戦後、政府関係機関. なっている学年である。 ③論者のうちの木村が、該当学年を担任しているた めに調査が容易である。 先に述べたように、児童の漢字に対する反応は「面倒 臭い」というものが多い。確かに筆画数が平均化してい る仮名に比較して繁雑な感じはする。しかし、いくら漢 字で書くことに抵抗感がある児童でも、総てを仮名書き しているわけではない。面倒臭く、時間も掛かるとして も、漢字で書くほうが分かり易い場合については、児童 は体験的・経験的に判断し、漢字・仮名を使い分けてい ると考えられるのである。実際、 「漢字は使うもの」と の意識は定着しており、今回の調査でも「よく使う漢字 なんてない」 ・ 「漢字を使わない」と言う児童はいない。 調査は、第2学期がスタートした9月の1ケ月間に限. などを中心に多数行われてきている。その中から、ここ では国立国語研究所が1960年(対象- 『総合雑誌の漢 字』)、 1963年(対象- 『現代雑誌90種の用語用字第2 分冊』)、 1976年(対象- 『現代新聞の漢字』)に行った 大量調査による資料を参考とし、児童の漢字活用の意識 と照合させることとした。. 定し、約1週間に1度という割合で行った。 対象とした第1学年の配当漢字を1回に扱うのでは、 児童の集中力が持続しない。そこで、 「よくつかう漢字 ベスト3をえらほう!!」というワークシートを作成し、 1度に20字ずつ(音順に配列されたものから、規則的に 分割して集団を作り、教科書体活字で例示する。)計4. 1960年調査の『総合雑誌の漢字』における、 「漢字活 用頻度数調査」での活用頻度の高い上位80位までの漢字 の一覧は、巻末資料1として掲げている。上位80位まで の配当漢字の平均画数は6.9画であり、そこから全体を 通観するならば、総じて画数の少ないものが活用頻度 において上位を占める。つまり、簡単ではあるが、 「活. 回に分け、国語の授業の始めまたは終わりに行うという 形で調査することとした。ねらいは、児童の漢字活用に 対する意識である。 ワークシートでは、掲げている漢字20字の中から、児 童自身が日常の学習や連絡帳などでよく活用していると. 用頻度が高いものほど画数は少ない」との仮説も導き出 されよう。表中に掲げられる漢字のうち、現在、 「学年 別漢字配当表」で小学校第1 ・ 2学年の配当漢字とされ ているものには、 「配当」の欄に①・②の符号を付して 表示している。 表からも分かるように、 80字中、第一学年配当漢字と されるものは27字、第2学年配当漢字とされるものは28 字である。つまり、活用頻度の高い上位80までの漢字の 約7割が小学校1 ・ 2学年に配当されているということ は、この段階の漢字が「後の複合的なものの基礎単位、 漢字活用上の基礎的、基本的漢字である」との先の考え を裏付けるものであろう。 四、児童の漢字活用の意識調査 今回、小学校第2学年の児童28名を対象として、 「よ くつかう漢字ベスト3をえらほう!!」という形での漢字 活用に関する調査を行った。調査対象を第2学年と設定 したのは、以下の理由によるところが大きい。 ①調査時期を、第2学期最初の1ケ月(9月)に設 定し>.、 ②漢字活用において最も基礎的・基本的な第1学年 配当漢字を、ある程度自由に活用できるように. 感じているもの3字を、 「ベスト3」という形で選び出 すようにした。単に活用頻度ということであれば、該当 する漢字に○印をつける方法でもよいが、書かれる字形 が今後の書字・書写活動の参考になると考え、実際に3 字ずつ書くよう指示した。 児童は、次の日の時間割りや宿題等を、毎日、連絡帳 に記入している。また、週に2回程度は、宿題として日 記を書いてくることになっている。当然、それらの書字 活動で使用される率が高いのは、数字や曜日に関するも のである。指導者側としては、数字・曜日への集中が予 想されたが、あえて言及も助言もせず、 「みんなが普段よく使っている文字はどれかな。ノー トや連絡帳、日記に書いているときのことをよく思 い出して、丁寧に書こう」 といった言葉がけだけに止めた。また、 「相談するので はなく、自分が考えたことをそのまま書こう」と促し、 個々の実態を出させることに終始した。一回の調査につ いては、平均五分程度の時間を使っている。 1ケ月間、 4回にわたる調査ではあった。退屈な調査 としては学習時間が無駄になると考え、ワークシートの 作成や結果の還元には注意を払った。しかし、「ベスト3」 というネーミング、自分たちで選択したものが結果に反 映されることに興味を示し、意欲的に取り組んでいた。. -103-.

(4) どの程度のものを調査対象とするか、何文字を抽出させ るかに悩んだが、結果としては3文字というのが適切で 妥当であったと思う。. や他学年で学ぶということになる。これらのことから、. 五、国立国語研究所の「漢字活用頻度数調査」と「児童 の漢字活用の意識」の相関について. 合が多いが、児童の日常生活からすると、 「力持ち」 I 「力 を合わせる」など「ちから」という読みのみが中心となっ て活用が狭められたと考えることもできよう。. 限定された単独形での使用以外に、児童の意識が届かな かったのではないかとも考えられる。同様に「力」につ いても、 「想像力」・「思考力」などと造語的に使用する場. ①活用の順位から見る相関 今回の調査結果は、巻末資料2として掲げる通りであ る。表は、児童が「よく使用する」と述べたものを集計 し、順位をつけて配列している。先の『総合雑誌の漢字』. 逆に、国立国語研究所の「漢字活用頻度数調査」で 上位にないにも関わらず、児童が活用の意識を強くも つものとして挙げたのは、「月」 ・ 「金」 ・ 「子」 ・ 「気」 などである。 「月」 ・ 「金」に関しては、日常の連絡. を対象とした「漢字活用頻度数調査」の上位80位と比較 してみると、配当漢字は多く含まれるものの、順位とい う点では完全に重なるものは非常に少ない。微小な集団 内での順位であることから当然といえば当然であろう が、調査の方法上での問題点もあろう。つまり、活用の. 帳や日記の日付、曜日などでの活用と推測される。同 様に「子」も、自分たちが「子ども」であることから 「子ども会」 ・ 「子ども料金」などの言葉が周辺で数 多く使われており、意識が比較的強いのだとも考えら. 意識とはいうものの、児童の主観に依存しているために 確実性に乏しい部分がある。書かれた文章や書物から データをとったものと比較すると、やはり「思い付き」 的要素も大きい。また、抽出が1回の調査につき3文字 ということで、対象の20文字の中から絞り込めない児童. れる。 「気」については、 「元気」や「気分」といった 言葉を日記などで多用しており、国語の読み取りでも 「気持ちを考えよう」といった課題を頻繁に与えられ ることから、児童の意識を喚起したものと考えられる。 言語の活用は、生活や習慣といった社会的な要因に. も多かった。 「先生、 3文字より多く書いたらあかんの」 との質問が多く、 3文字以上にならないよう切り捨てた と考えられるものもあった。 小学校2年生段階では、視野の狭さや経験・語桑の 少なさも指摘できる。しかし、 「思い付いた漢字を順. よって大きく左右される.児童と成人、学校と一般社 会という差も大きい。特に発達段階の児童は、関心が 身の回りに限定されがちであり、漢字や熟語を探すに しても、総て生活をたどりながらという形になるD新 しい教育として総合的学習が唱えられているが、いわ. に書いていく」という学習などでは、順位の若いもの に活用頻度が高い場合が多く、その意味では「生活経 験的に思い付く漢字は活用頻度が高いもの」との判断 もできよう。そういう大づかみの視点から、ここでは 厳密な形で順位を評価するのではなく、分布から全体. ゆる生活体験を豊かにしていくことは、児童の言語生 活の充実という点でも重要なことであると実感した。. の状況を概観し、考察しておくことが必要となろう。 日常生活などから考え、当然、児童が活用していると 考えられるものに、 「人」 ・ 「力」等がある。実際、国. ②画数平均から見る相関 先に述べたように活用頻度の順位での相関は、明確 な形では生じてこない。ここでは、その相関を考える. 立国語研究所の「漢字活用頻度数調査」では比較的上位 にありながら、これらに対する児童の意識は低い。例え ば、 「人」 ・ 「力」などが抽出されなかった理由として 考えられるのは、これらが単独の形で用いられることが 少なく、とっさに思い付かなかったのではないかという. 要素を画数におき、両者を比較することとする。 巻末資料3として掲げるグラフは、国立国語研究所 の「漢字活用頻度数調査」の上位80字(-一つと、第 1学年配当漢字を対象とした今回の意識調査(-) の比較である。対象となる80字を規則的に括り、 10字 ごと集団内での画数平均を求めた。 (活用頻度順に括っ た集団をⅩ軸、画数をy軸にとっている。). ことである。 「人」 ・ 「力」には、 「ひと」や「ちから」 というだけでなく、 「ジン」や「ニン」、 「リョク」や「リ キ」との音も与えられる。さらに、 「一人(ひとり)」な どのような熟字訓等の特殊な読み方も日常的に用いる。. 第1学年の配当漢字の画数平均は5.0であり、先の 『総合雑誌の漢字』を対象とした「漢字活用頻度数調 査」の上位80位の平均を僅かに下回っている。その理 由は、以下のように考えられる。. この「一人」 ・ 「二人(ふたり)」などは、個々の漢字 自体は第一学年の初めに学習するにもかかわらず、第二 学年の二学期になった段階でも熟語として漢字で書き表 すことが少ない。漢字が初出したとき、児童は総ての読 み方を学習するのではない。とりあえずは教科書で扱わ. 第1学年配当の漢字は、特に基礎的・基本的なもの である。画数という面では、 1画から12画のものまで 広範囲に分布しているが、総画数4画のものが2割近 くを占めるなど、やはり簡略なものが多い。内容的に. れた読みだけを学習し、違う読み方については違う時期. -104-. は、 「六書」でいう象形・指事、つまり複合的な会意・ 形声のもととなる文字が中心である。基礎的・基本的.

(5) レベルでは複雑・繁雑との印象はなく、 「組み合わせ て新しい文字を創出する」という漢字特有の造字法に よって、それらが生じていることが分かる。 平均した画数の分布は、多少のばらつきはあるもの の、どちらも右上がりの形で示される。つまり、 「活. れる」には、多少の疑問を感じるのである。それは、「よ く使う」としながらも、書き示した漢字が誤字となる 児童が多いという実態からである。つまり、 「使う」 という場面は、明らかに視認、判別するとの範囲に限 られており、自らが書字して示すことを考慮していな. 用頻度が高いものほど画数は少ない」という視点にお いて、両者の傾向は一致する。このことを逆に考える と、画数の少ない、書字のしやすい文字を多用する傾 向にあるということがいえる。 滑川道夫は、『覆刻文化庁国語シリーズⅥ漢字』(昭 和49年教育出版)において、 「漢字指導の問題」と. いのである。しかし、果たしてそれが「活用」という ことになるのか、 「習得困難度が低い」ということに なるのか、疑問が生じるところである。 別に同書の「漢字と国語教育」において、倉沢栄吉. して「2必要度・出度・困難度」を掲げ、次のよう に論じている。 (略)こうしてみると、現代の社会生活の日常的 な意味の必要度から漢字を制限するとすれば、数 の上からだけいえば約2,000字内外ということが できよう。国語読本もふりがな漢字をも合計すれ ばu字)であったのが、当用漢字・教育漢 字の時期にはいって各検定教科書は小学校では. ィ、生活上の反復に相関する ロ、提出の前後に関係する ハ、提出の度数に相関する 二、同じ音訓、似た字形のものは困難である ホ、書いたり使ったりする字は習得しやすい などと言われている。米久保耕作氏の研究によれ. 881字を主体に、いくらかの当用漢字範囲のもの が入りこんでいる程度になった。したがって戦前 に比べると、ずいぶん学習者の負担は少なくなっ ているわけである。このように漢字が縮少された ということは、漢字指導が以前にもまして重要性 を濃くしてきたということにもなる。少数の漢字. は「(4)習得難易の条件」を次のように述べている。 一般に難易度については、. ば、漢字のはあくの困難さについて、 I一般に画数の多いもの Ⅱ類似の多くの形象を含むもの Ⅲ意味内容の抽象的なもの Ⅳ類字の多いもの Ⅴ多くの斜線で構成されたもの の5をあげ、それについて、戦前と戦後(昭和27年) の小学校修了者について調べた結果を次のように. を、確実に習得するような能率的指導法を考究し なければならなくなっているわけである。 したがって文字教育の上からいえば、読本に提 出されている漢字を一律に、同格の必要度で評価 して指導することは学習の不経済ということにな る。必要度の高い漢字を正確にはあくさせること. 述べている。 (略)ともかく、この難易の条件は、 前に述べたイ-ホの中のこの条項に合うものであ る。しかし、こよりはロ・ハの条件つまり教科書 の提出の状況が重大である。 (略)実際二つの異なっ た教科書では、提出の時期も、その出度数もまっ たく違うのである。したがって、低学年の間は字. に力点を設定する必要が出てくるわけである。そ の場合、学習の対象となる国語読本(もっと広く は他の教科書の漢字も含める)に提出される回数 (出度)の多少が考慮されてこなければならない。 提出回数が多い字ほどはあくが容易である(習得. 数も少なくその文字も固定していることが多いか ら、教科書の差があらわに出ないが、中・高学年 になると、生活で反復する字および字として習得. 困難度が低い)という漢字指導の原則が適用され るからである。 したがって出産の低い漢字であって、必要度の 高い(たとえば500字案中の文字であるとか、教 育漢字の1級文字一三宅武郎案-であるとか)漢 字は練習機会も多くして、表現の形で正確にはあ くさせなければならないことになるのである。 本論で述べる「活用頻度」は、ここで言われる「必 要度」と「出度」を併合したものと考えられる。その 高いものを優先的に学習するとの方向性には賛同する ものの、 「提出回数が多い字ほどはあくが容易である (習得困難度が低い)という漢字指導の原則が適用さ. -105-. しにくい字(これはどのような出し方をしても習 得が困難なのである)以外は、習得率が共通でな いのである。 (略)ふだん使える字、使わなければ ならない字、使っている字が習得されやすいこと は、これによっても少しは立証できよう。 前論では触れられなかった「ホ、書いたり使ったり する字は習得しやすい」は、 「書くこと」を習得の条 件としている点で興味深い。 「書くこと」を考えに入 れたとき、当然、複雑・繁雑という漢字の特性は関連 してくる。「書きやすく覚えやすい漢字」もあれば、「書 きにくいが覚えやすい漢字」もあろう。それらがどう いう相関を示すのか考えていくことが必要であろう。 さらに「提出の順」についても、今後の課題としてお かねばならぬであろう。.

(6) 日本語は、漢字と仮名が複雑に入り交じって文章を 構成する表記体系を採用している。言うまでもないが、. 態を失うのではないかとさえ思う。 また、漢字を正しく覚え、的確に活用することにつ. 仮名は漢字から創出されたものであり、省略・簡略化 の結果として筆画が少なく、数量的にも平均化してい る。発音に比例する形で書き記されるため、運筆・用. いては、知識を習得するときほどの意欲を感じさせな い児童もいる。そのような児童に、 「これは漢字で書 けるのに、どうして書かないの」と尋ねると、 「覚え. 筆上の特殊性はあるものの、書字行為上の労力を限界 まで削減したものと考えられよう。 ところが、漢字は表意・表語性を蔵しているがゆえ に、形態的に複雑になりやすく、また画数や線数にも. てない」のほか、 「めんどくさい」とか「時間がかかる」 というこたえが返ってくる。活用場面は分かっている のに、活用しようという意欲がないのである。かつて の「書き取りテスト」や「筆順テスト」の例を持ち出 すまでもなく、書くことは評価されることとの意識も 強く、「書きたがらない」という児童が増加しつつある。. 大きな格差が生じる。書字に要する労力は、当然、表 音文字のみを採用する場合よりも大きくなりがちであ る。その労力をできる限り軽減するために、より単純 な形態・点画の漢字を多用するという動きが起こるの は自然の流れであろう。国立国語研究所の「漢字活用 頻度数調査」と児童の活用意識の間にも、数量的に少 ない点画数のものが優先されるとの相関関係を見出だ すことができよう。 ③児童の漢字に対する意識と活用能力 本論の冒頭で、漢字を「多義図形」にたとえた。同 じ漢字が名詞や動詞、ある場合は形容動詞として働く。 この多様な活用が、対する者の興味・関心を喚起しな いはずがない。先人たちが漢字研究に没頭したように、 初めて対面した漢字に児童たちが興味・関心を示すの は当然であろう。第二学年になった現在でも、 「新し い漢字を早くやりたい」と訴える児童は多い。 「面倒だ」と忌避するのと正反対の態度に、指導者 側も戸惑うことも多いが、 「見る漢字」と「書く漢字」 と分けて考えれば、児童たちの主張もそれなりに理解. 六、おわりに 児童は、不思議なほど見事に「書きやすい漢字」を選 び出し、限られた範囲内での活用を行う。 「書きやすい 漢字」の基準は、書字に時間のかからないものだけでは ない。概念や活用がはっきりしているものも、同様に選 び出される。確かに、この調査で抽出された漢字とは、 画数の少ない、書字のしやすい漢字であった。児童にとっ ては、それが活用頻度が高いものなのである。 今回の調査を通して、児童がこれ以上に複雑な漢字を 学習したとき、果たしてどこまで自在に活用できるのか と不安を感じた。漢字を意識して活用していく段階であ るはずの児童が、基礎的・基本的な漢字を「あまり」ま たは「全然」使わないと感じているとすれば、学習指導 の在り方自体を考える必要があるのではないだろうか。. できる。しかし、実際には、この「分離」そのものが 大きな問題点を有しているのである。. 担任する児童の日記等を見ていると、とりあえずは仮 名で書き写したというのだろうか、書けないはずはない のに、内容のほとんどを仮名書きしている児童が多い。 的確な漢字を瞬時に判断し、正確に書字できる児童は少 ない。今後、家庭学習での日記や、ゆとりのある時間設. 短絡的な「ワープロ時代」などという表現は論外で あるが、情報化時代の中では「見る」ということが重 視される。書けなくても判別できればよい。もし「書. 定の中で、漠字の活用について考えさせ、積極的に活用 しようとする意識を喚起することが必要と感じた。 漢字活用に関して、読めれば書けなくてもいいとの主. く」という場面に直面しようとも、キーボードを経由 した入力で対処し、あとは印字機器がプリント・アウ トしてくれる。 「人間は、機械を経由しなければ自ら の言語表現ができないのか」との問題点も指摘できよ う。しかし、それ以上に問題なのは、 「書く」という 行為を伴わない文字習得の暖昧さである。児童の書字. 張もある。しかし、現場で児童を観察していると、確実 に漢字を覚え、読み、的確に活用するためには、やはり 書いて覚えることの必要性を痛感している。そのために も、ただ無意図・無目的に反復練習を繰り返させるとい うのではなく、児童の漢字の使われ方への意識を高め、. した漢字を観察すると、 「バネ」や「ハライ」といっ た筆意に関わるものだけでなく、内部や微細な部分が 暖味で、頭の中に描いている文字の像が臆気であるこ とが分かる。点画の増減や、接続などの厳密さは既に 感じられない。書くことによって文字習得が促進され る。そのことを経験的にだけでなく、データ的にも実 証し、効果的な学習指導を展開していかなければ、漢 字および仮名という日本の文字言語は、その正確な形. 積極的に活用させるために、どう教え、どのように練習 に取り組ませるかを課題として考えていきたい。 引用文献 文化庁『覆刻文化庁国語シリーズⅥ漢字』 教育出版昭和49年 紀田順一郎著『日本語大博物館』 ジャスト・システム1994年. -106-.

(7) 巻末資料1. 脈位 該当漢字 配当 画数 盾考 願位 該当漠字 配当 画数 僻 1. 雛. 該当漢字 配当 画数 備考. @. 1. 28. 分. せ. 4. 55. 気. *1* 6. ①. 2. 29. 上. ①. 3. 56. 彼. 8. 2. 人. 3. 日 @. 4. 30. 氏. 5. 57. 辛. ①. 4. 4. 国 ②. 8. 31. 間 @. 12. 58. 戟. ②. ll. 5. 大. (丑. 3. 32. 戟. 13. 59. 理. ②. ll. 6. 本. ①. 5. 33. 6. 60. 女. ①. 3. 7. 的. 8. 34. A⊂ コ @ 主. 5. 61. 田. ①. 5. 8. 出 ①. 5. 35. 立. 5. 62. 義. 9. 生. 5. 36. 軍. 9. 63. 考. ②. 6. 10. 事. 実. 8. 64. 心. ②. 4. 入. X・ 甘. 2. ll. @. 4.. 8 (0. 2. 38. 力. ①. (千. 7.. 2. 12. 中 @. 4. 39. 対. 7. 13. 年. (D. 6. 40. 五. Q: 4. 14. 目 ②. 6. 41. 問. 15. 学. 甘. 8. 42. 千. 16. 会. ②. 6. 43. 何. 17. 行. ②. 6. 44. 7. 18. 者. ② 亡 コ 地 ②. 19. 局. 10. 73. 知. 20. 私. ll. 74. 業. 75. 下. 21. 6.. 8 ①. 月. U: 3 ② 7. ②. 6. 46. 家. 7. 47. 動. (D. 3. 48. 級. ②. 9. (f.. 2. 49. 場. @. 12 4. 22. 十. 23. 政. 9. 50. 24. 時 ②. 10. 51. JA.l7 a 題. 25. 方. ②. 4. 52. 部. 26. 盟. @. 9. 53. 前. 27. 釆. ②. 7. 54. 同 @. ②. -107-. 13. 戟. ll. 7. 5.. 66. 69 71 8.. 6.. 4 ll. 当. ②. 6. 外. ②. 5. 全. 6. 経. ll. 皮. 9 ②. 8 13. ①. 3. 栄. 10. 77. 内. 4. 18. 78. m. 9. ll. 79. 金. 9. 80. 6. 8.. 辛. 8.. 8. 節 ② 13 画 数 平 均 -6. 9画.

(8) 巻末資料2. 脈位 該当最字 数 量. m. 1. 日. 1 8. 4. 2. 月. 1 6. 4. 3. 土. 1 2. 3 2. 十 5. 8. 七. l l. 該当 漢字 数量 休. 29. 4.. 轍. 節. 帆. 該当湊字 数量. 醜. 尉 6.. 6. 辛. 4. 4. 小. 3. 立. 5. 名. 6. 四. 5. 火. 4. 秦. 12. 中. 4. 58. 右. 1. 5. 九. 2. 車. 7. 左. 5. 金. 8. 入. 2. 夕. 3. 7. 年. 6. 石. 5. 4. 村. 7. 負. 7. 鬼. 1 0. 木. 4.. 10. 南. 9. 8. 大. 3. 耳. 6. ll. 五. 8. 4. 本. 5. 玉. 5. 水. 4. 目. 5. 犬. 4. 口. 3. 2. 草. 9. 田. 5. 足. 7. 字. 6. 文. 4. 14. 7. 22. 40. 3. 3. 学. 8. 気. 6. 赤. 7. 川. 3. 白. 5. 1. 女. 3. 18. 巻末資料3. 2. 億考 鵬. 6. 4.. 竹. 0. 6. 力. 2. 林. 8. 3. 下. 3. 5.. 花. 7. 山. 3. 円. 4. 王. 4. 千. 3. 虫. 6. 正. 5. 4. 生. 5. 8. 校. 10. 百. 6. サ tサ 円 天. 人. 2. 糸. 6. 千. 3. 町. 7. 先. 6. 也. 5. 二 血 日 八. 9. 早. 6. 男. 2. 空. 8. 六. 5. 46. 5.. 上. 70. 2. 5.. 4.. 4. 7 第1学柵 当溌字醐 平均 l 5.0画.

(9) ワークシート2. ワークシート1. (. (. よくっり、う海生止まを. よくっ再藻字虫3を. えらぼう〝. えらぼう〝. 貝学気九休. 糸字耳七皐. 人年白八首. 玉金空月犬. 手十出女中. 辛足村大男. 文木本名目. 赤千川先早. 至ご盈霊鵠、電撃3二を. 霊禁亨霊:鵠詩聖3こき. □□⊂]. □. lf<-わr:Lが上くつウ、うのはピb漢字?. t*<-わf:u土・%」Ltpo)亨を上くつelT. ・るがな7. ワークシート4. ワークシート3. (. (. よくっ両新生出を. i<っ勺、う菜雪空出立を. えらばう.y. えらばう〝. 下の漢字の軸、ら、ぶっかう範を3こ. ⊂]口⊂]. [コロ⊂]. 日放や手紙・れれらくちようr.Yて H E紅花眉MR喝tJXgEKMX」日E覇¥SSEi. 喝fJfkmBm LIff q. tォ^acw*iiいEBB日昌.拍. -109-. l右雨円. 見五口校. 上森入水. 竹中虫町. 立力林六. えらkで.マスIこていねt・Iこ書こう.. 王音下火花. 左三山子四. 正生首夕石. 天田土二日. 漂禁鵠霊禦=を.

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