「社会的課題」解決製品に関する一考察
22
0
0
全文
(2) 40. (482). 横浜国際社会科学研究 第 19 巻第 6 号(2015 年 2 月). ションと成長の両方を実現するにはどうすべ. や慈善活動のようなものと認識されがちである. き か.本稿 の 目的 は,メーカーが「社会的課. (関,2012).これまでは,地域社会でのボラン. 題」解決製品 へ の 取 り 組 み を 成長戦略 の 1 つ. ティア活動など,社会貢献を目的とし,本業と. とす る た め,価値創造の視点から検討し,企. は 離 れ た「付随活動」の 性質 の も の が 多 かっ. 業が社会的価値創造のコンセプトを取り入れ. た.しかし,時とともに活動の幅が広がり,企. る際に考慮すべき点を整理することである.. 業の本業に関連した分野で,本業にもメリット. ま ず,企業 が 社会的責任 に 対 し ど う 取 り 組. が出る活動へと変化している.例えば,顧客の. んできたかを CSR の変遷に見る.合わせて,. 購入に応じて自動的に寄付がされる商品の販売. Porter=Kramer(2011)が主張する CSV の概. など,売り上げに直結する社会貢献の方法があ. 要を確認することで,現在の企業は社会問題と. る.また,環境汚染の原因となる排出物をでき. どう向き合うことが求められているかを見てい. る限り出さないというような,本業の活動で発. く.それが企業の経営活動の指針につながり,. 生する問題への取り組みなど,事業活動に直接. 指針に沿って事業活動は進められるからであ. 関係する方法も取られるようになった.. る.その上で,事業活動の中でもメーカーの製. 欧 州 委 員 会 は,2011 年 に 政 策 文 書1)に て. 品開発のカギを握るマーケティングでは,企業. 「CSR についての最新の見解」という新しい提. の社会的責任がどう捉えられてきたか,また,. 言を行い,CSR を「企業の社会への影響に対. 環境ビジネスを実施する企業が現在,どのよ. す る 責任」と 定義 し た.企業 に 対 し,CSR へ. うな消費者意識に直面しているかを見る.その. の長期的・戦略的アプローチをとることで,社. 課題に対する環境配慮型製品の製品開発コンセ. 会の健全性に貢献し,より高品質で生産性の高. プトに関する提言を,マーケティングの先行研. い仕事に結びつくイノベーティブな製品・サー. 究 に 見 た 後,メーカーは, 「社会的課題」解決. ビス・ビジネスモデルを開発する機会を追求す. と顧客の購買行動を結びつける製品開発をどう. ることを奨励している.このように,現在では. いった視点で行うべきかを,製品価値の観点か. 事業の中心となる商品(モノ,サービス)が何. ら考察する.その際,環境負荷をコストと見る. らかの「社会的課題」を解決する機能を持ち,. 「環境管理会計」のトータルコストの考え方を. そこから得る収益が経営状態に寄与するような. 参考にし,社会的価値創造の仕組みを捉える.. CSR への取り組みが注目されている.. また, 「社会的課題」解決製品の開発は従来製. 上記を踏まえ,関(2012)を参考に日本企業. 品の開発よりも困難であり,メーカーが考慮す. の CSR への取り組みをまとめると,以下のよ. べき事項は何かを明らかにする.そして,顧客. うな変遷があり,それが積み重ねられ,継続さ. の購買行動に結びつけるための対応策をマーケ. れていると考えることができる.. ティングの観点から整理し, 「社会的課題」解. 1. 法令遵守への取り組み,2. 環境問題への取り. 決製品の特性から,利益減少要因を確認する.. 組 み・地域社会 や 特定 の 問題・課題 に 対 す る. 各課題をとりまとめ,事業化への検討事項とし. 寄付やボランティア等の社会貢献,3. サプライ. て明示し,最後に今後の研究への課題を整理す. チェーンまで考慮した,人権・労働・環境等の. る.. リスクマネジメント,4. 自社と関連が強い「社. 2.企業の社会的責任(CSR)への取り組み 2―1.CSR の変遷 企業が社会的責任(CSR)を果たすための活 動は,事業活動の「本業」とは別の,社会貢献. 会的課題」に対し,本業での解決の取り組み このように,CSR 活動の目的は,Kotler=Lee . 1)“A renewed EU strategy 2011─14 for Corporate Social Responsibility”.
(3) 「社会的課題」解決製品に関する一考察(後藤). (483). 41. (2004)の 言 う,企業 イ メージ や 評判 の 向上,. 7. コ ミュニ ティー参画 お よ び 開発: 組織 が コ. ブランド・ポジショニングの強化,それらによ. ミュニ ティーの 一員 と し て 参画 し,コ ミュニ. る売り上げ・市場シェアの増加,コスト削減や. ティーの「社会的課題」の解決とその発展に寄. 助成金等による収益の増加というような,本業. 与する.. への間接的なインパクトを狙うことに留まらな. この 7 つの主題への取り組みや,発生した問. くなった.CSR は,本来の企業活動での「社会. 題に対する対応のため,課題を認識し解決する. 的課題」解決をも目標とする形に発展している. ことを,企業は社会的責任として求められてい. ことが分かる.. ると言える.企業が認識した課題を, 「社会的 課題」と言うことが可能と考える.. 2―2.企業が考慮すべき「社会的課題」と,経営 での CSR の位置づけ. 企業にこのような社会的責任が求められる 中,谷本(2013)は,CSR を マ ネ ジ メ ン ト・. 日本経済団体連合会 は, 「企業行動憲章」で. プロセスに組み込み,戦略的に取り組むことで. 「企業 は,所得 や 雇用 の 創出 な ど,経済社会. 企業の競争力のベースとしていくことの必要性. の発展になくてはならない存在であるととも. を主張する.そして,社会経済システムや企業. に,社会や環境に与える影響が大きいことを. システムのパラダイムの転換が見られる中で,. 認識 し, 『企業 の 社会的責任(CSR: Corporate. 企業は CSR を,環境変化に対応する企業戦略,. Social Responsibility) 』を率先して果たす必要. ビジネスケースとして捉えるだけでは狭すぎる. がある. 」と謳っている.. と い う(図 1).野中(2012)も ま た,現在 の. 社会的責任に関しては,2010 年 11 月に国際. 社会システムがかつての社会─企業─個人の関係. 標準機構(ISO)により国際的規格「ISO26000」. 性とは異なる構造になってきていることが,企. が発行された.本規格では,社会的責任に以下. 業の経営理念を変え,社会や経済のサステナビ. の 7 つの中核主題を設定している2).. リティを目的とする経済的活動の中核的課題と. 1. 組織統治:組織が他の中核主題に取り組むに. なっていることを示唆している.その上で,「も. あたっての基礎部分となる.. はやサステナビリティはコストとして捉えられ. 2. 人権:すべての人に与えられた基礎的権利で. るべきものではなく,イノベーションと結びつ. ある人権を,組織は尊重する責任を負う.. いて社会と企業の利益となる視点を持たなけれ. 3. 労働慣行:労働者の採用,昇進,雇用の終了,. ば な ら な い」(野中,2012,p. 299)と 主張 し. 安全衛生,等が含まれる.. ている.企業は,社会的責任を果たすため,社. 4. 環境:すべての組織は,規模にかかわらず,. 会的課題に取り組む意志を経営活動の根幹に持. 環境に何らかの影響を及ぼしている.. ち,それを達成する機能としてのイノベーショ. 5. 公正 な 事業慣行: 組織 が 他 の 組織 と 取引 を. ンやマーケティングの活動を進めることで,事. 行う場合の倫理的な行動に関係する.. 業成果を出すことを期待されていると言えるの. 6. 消費者課題:消費者に製品・サービスを提供. ではないか.. する企業等の組織は,消費者に対して責任を負. KPMG による調査3)では,2013 年 12 月の時. う.. 点で日経 225 の構成銘柄となっている 225 社の 日本企業のうち,93% にあたる 210 社がサス. . 2)日本経済団体連合会「解説 ISO26000 〜社会 的責任 に 関 す る 国際規格 <1> ─ ISO26000 入門」 (日本経団連タイムス No. 3010, 2010 年 8 月 26 日) を参考にした.. テイナビリティリポートを発行しており,そ . 3)KPMG「日本におけるサステナビリティ報 告 2013」.
(4) 42. 横浜国際社会科学研究 第 19 巻第 6 号(2015 年 2 月). (484). 20世紀型産業 社会の確立. 経済成長が中心 環境・社会は与件. 1970年代〜 新しい社会運動 1980、90年代 グローバリゼーション 負の側面への 批判. 企業がステイクホルダー 企業が テイクホルダ を組み込み企業社会 システムを形成. 経済と環境・社会 のバランス. ステイクホルダー側からの テイクホルタ 側か 企業への批判、 NPO/NGOの台頭. 2000年代〜 持続可能な 発展の追求. 経済は環境・社会 の中で成り立つ. 企業とステイクホルダーの 企業と テイクホルタ の エンゲージメント、マルチ・ ンケ シ メント、 ルチ ステイクホルダー・プロセス. 出所:谷本(2013)p. 4. 図 1 パラダイムの転換. の う ち の 148 社 は Global Reporting Initiative. 決を本業で獲得する利益に結びつけ,経済的成. (GRI)のサステナビリティ・レポーティング・. 功を造り出すことを提唱する.それがイノベー. ガイドラインを利用しているという.GRI は,. ションと成長を次々に生み出すカギとなると主. 国連環境計画(UNEP)の協力機関でもある米. 張している.そして,CSV の方法として以下. 国の NGO で,レポートの内容の質や信頼性の. の 3 つを挙げている.. 向上のため,世界で統一したガイドラインを作. ①製品と市場を見直す:未だ満たされていない. 成するために設立された団体である(環境省,. 社会的ニーズを充足させるための製品やサービ. 2005) .グローバルに展開する企業は,国際的. スの開発・販売により,既存市場での差別化と. なガイドラインを利用することにより,サステ. リポジショニングのチャンスを見出す.これま. ナブルな取り組みに対するグローバル・マー. で見逃していた新市場の可能性にも気づくこと. ケットの評価を考慮しているのではないかと捉. ができる.貧困地区や開発途上国への貢献も含. えることができる.. まれる. ②バリューチェーンの生産性を再定義する:環. 2‒3.CSV の概要. 境負荷を低減すると同時に,従来行ってきた,. Porter=Kramer(2011)は,経済的価値と社. 生産性の低下をまねき持続可能性を損なう「短. 会的価値は両立可能という考えから,企業が社. 期的なコスト削減の罠」から抜け出す.具体的. 会のニーズや問題に対応することで社会的価. には,エネルギー利用方法の改善,ロジスティ. 値を創造し,その結果,経済的価値が創造され. クスの再設計,資源の有効活用,調達プロセス. る「CSV」への取り組みを提唱している.CSV. の見直し,新しい流通モデル・流通システムの. は,本業による社会的責任の行使を謳った最近. 導入,従業員の生産性向上への取り組み,事業. の CSR の形に通じるが,Porter=Kramer はそ. のロケーションの見直し,などを指す.. の取り組みを具体的に提示すると共に, 「社会. ③地域社会 に ク ラ ス ターを 形成 す る:関連企. 的価値と経済的価値の両立」という前提条件を. 業,サプライヤー,サービス・プロバイダー,. 明確 に 挙 げ て い る.Porter=Kramer は,現在. ロジスティクス,学術組織など,特定分野の支. 直面している喫緊の社会問題に対し,あくまで. 援企業やインフラをある地域に集約・整備する. 事業として取り組み,企業が社会と企業の業績. ことで,協働に適した環境を作る.企業と地域. が関係し合う部分を認識し, 「社会的課題」解. 社会がつながることで,クラスター内の支援環.
(5) 「社会的課題」解決製品に関する一考察(後藤). (485). 43. 境が整い,生産性が高まる.. けでなく,組織一般にも活用できると主張した.. 従来,環境汚染等の社会問題の多くは,企業. その後,Kotler=Zaltman(1971)により,ソー. 活動から発生すると捉えられていた.そのよう. シャル・マーケティングは「社会的アイデアと. な社会的損失には,復元のための費用や,防止. それに伴う製品プランニング・価格設定・コ. 対策の費用等が発生する.したがって,行政は. ミュニケーション・流通・マーケティング調査. 規制を制定し,企業に対して罰則を科したり,. の受容に影響を及ぼすよう作成されたプログラ. 税金の徴収などをしてきた.企業は,新しい技. ムの計画,実行,管理」と規定された.Kotler=. 術,業務手法,経営手法を通じてイノベーショ. Lee(2009)は,ソーシャル・マーケ ティン グ. ンを生み出すことに更に注力することで,社会. は営利マーケティングとは異なるものであり,. 的損失に対して発生する費用を減らすことがで. 営利マーケティングのプロセスは具体的な製品. きる.これまでは,環境対策等は企業にとって. やサービスの販売を目的とする一方,ソーシャ. コスト増と捉えられていたが,CSV によるイ. ル・マーケティングのプロセスは望ましい行動. ノベーションを生み出すことで,行政が負担し. の販売に用いられるものとしている.企業が. てきた社会的損失にかかる費用と,企業が課さ. ソーシャル・マーケ ティン グ を 取 り 入 れ る の. れた税金等,企業側の費用の双方を削減できる. は,公衆衛生・治安・環境・公共福祉の改善を. ということになる.. 求めて行動改革キャンペーンを企画・実行する. Porter=Kramer は,社会目的に従った「進化. 場合であるという.そのように,Kotler=Lee. し た 資本主義」の 必要性 を 訴 え て お り,CSV. (2004)は,本来は政府や公共セクターの専門. を, 競争や経済的創造への深い理解から生まれ,. 家が計画・実行する分野に,営利目的企業から. 「正しい種類の利益」に企業が目を向けるため の,新しい経営手法であると提唱している. 3.社会的価値を創出する製品の定義と現状. 参画をする場合に利用できる手段として,ソー シャル・マーケティングを位置づけている. もう一方の Lazer(1969)は,マーケティン グの範囲を利潤追求から拡大すべきであると. 3―1.マーケティング分野での企業の社会的責任. し,「利潤追求 と 社会的責任」,「企業 の マーケ. 企業を取り巻く環境変化にともない,マーケ. ティング目的と社会的ゴール」,「マーケティン. ティングの分野においては,過去 60 年あまり. グ活動と公益」には深い隔たりはなく,マーケ. の間に新しいコンセプトが次々に生まれてきた. ティングを,経営課題に対しても社会的・文化. (Kotler 他,2010) .その歴史の中で企業の社会. 的問題に対しても,多様に活用する必要がある. 的責任が取り上げられたのは 1960 年代の終わ. と主張している.奥貫(2011)は,Lazer が主. りである.奥貫(2011)によれば,社会的責任. 張するソーシャル・マーケティングは,「生活. を取り上げたものはソーシャル・マーケティン. の質の向上を重要視し,従来の企業利益追求型. グ(あるいは, ソサイエタル・マーケティング). のマネジリアル・マーケティングに欠如してい. という用語で表されるが,そこには 2 つの大. た 社会的責任 や 社会倫理 と いった 社会志向的. きな流れがあるという.1 つは,Kotler=Levy. な次元を強調し,企業の社会価値導入のマーケ. (1969)に端を発する非営利組織マーケティン. ティングを主張するもの」と説明している(p.. グであり,もう一方は Lazer(1969)の流れを. 7).三上(1975)は,Lazer のソーシャル・マー. くむ社会志向のマーケティングである.. ケティング概念を用い,「ソーシャル・マーケ. Kotler=Levy(1969)は,どのような組織で. ティングとは,利益を得て消費者の満足を提供. あってもマーケティングに類似した活動をして. するといった従来のマーケティングから,非消. いるため,マーケティングは企業の営利追求だ. 費者を含む生活者(消費者・市民)の利益,さ.
(6) 44. (486). 横浜国際社会科学研究 第 19 巻第 6 号(2015 年 2 月). らには社会全体の利益と調和し,また,資源・. である.. エネルギー・生態系といった環境との間の調和. 環境省(2014)の調査においても同様の結果. まで達成しながら,企業としての適正な利潤. が報告されている.例えば, 「物・サービスを. を確保すべきマーケティングである」 (p. 372). 購入するときは環境への影響を考えてから選択. と規定した.. する」という設問に対し, (物・サービスの購. 本稿は,営利組織である企業が,社会的責任. 入時に環境の影響を考えてから)選択すること. を果たすことで社会的価値を実現させ,かつ適. を既に行っている割合は微増しているように見. 正な利潤を確保するための課題を明らかにする. える(図 2).しかし,その中で「既に行って. のが目的である.従って,企業の社会的責任の. いるが,今後はあまり行いたいとは思わない」. マーケティングの定義は,Lazer の流れをくむ. という回答も微増しており, 「今後も引き続き. 三上のものに従うこととする.. 行いたい」と「これまでに行ったことはないが, 今後は行いたいと思う」という回答をした,将. 3―2.環境配慮型製品を取り巻く環境. 来の購買層といえる割合については少しずつ減. 環境省は,環境ビジネスに焦点を当て,半年. 少している(図 3).本調査の結果では,消費. ごとに民間企業へアンケートを実施し, 「環境. 者意識の主流として,ゴミの分別や削減,節電. 経済観測調査 (環境短観) 」 として公表している.. 等の省エネ,節水など,日常生活において自ら. 平成 25 年 12 月版の調査結果によれば,企業の. の行動で環境配慮する割合は高い.それは,自. 規模により差はあるが,環境ビジネスを実施し. らの実践がある環境問題の解決に有効に働くと. ていると回答した企業が 20.3% と,製造業・非. 感じることが,ゴミの分別や節電という行動に. 製造業ともに 2 割の企業が環境ビジネスを実施. 関しては,消費者が知覚し易いという可能性が. しているという結果が出ている.アンケート集. ある.西尾(2005)は,消費者のゴミ減量行動. 計では,平成 22 年の調査以降,環境ビジネス. の規定要因について,エコロジー行動の実践度. を実施していると回答した企業の割合は減少傾. が総じて高い「エコロジスト」とリサイクル行. 向にある4).企業の社会的責任が以前にも増し. 動のみの実践度が高い「リサイクラー」とでは,. て追求されるようになっていることと,日本企. エコロジー行動の背景にある動機付けやメカニ. 業でもサステナビリティレポートを発行する企. ズムが異なることを明らかにし,国や自治体は. 業が多い事実から勘案すると,環境ビジネスへ. その相違を理解し,適切な環境政策を行うこと. の参入の難しさがこの結果に現れていると言え. の必要性を主張している.. るのではないか.. 消費者に,環境配慮型製品を選択する意識は. その理由の 1 つに,複数の先行研究で指摘さ. あっても,今後積極的に購入しようという割合. れているように(例えば,Roberts・1996,野田・. が減少している問題の背景には,その製品が環. 2000,Forsman・2013) ,環境問題 に 何 ら か の. 境問題の解決に有効に働くと感じる程度が低. 対策をしようとする「環境配慮型製品」への消. く,加えて製品の購入動機が消費者自らの問題. 費者の意識と行動のずれが挙げられる.即ち,. 解決につながらないなど,環境配慮型製品の有. 自らも環境に配慮した行動をすべきという意図. 効性が消費者意識に訴求できていない可能性が. に反し,実際に購入する割合は低いということ. ある.. . 4)平 成 22 年:35.9%,平 成 23 年 6 月:22.9%, 平 成 23 年 12 月:22.2%, 平 成 24 年 6 月:19.8%, 平成 24 年 12 月:20.6%,平成 25 年 6 月:19.6%. 環境配慮型製品 は,「社会的課題」解決 を 本 業で目指す,近年の CSR や CSV を実現させる 有効な手段になり得ることは異論がないはずで ある.しかし,実現させようとする企業の,環.
(7) 「社会的課題」解決製品に関する一考察(後藤) (%) 60 (%) 50 40 40 30 30 20 20 10 10 0. 行いたいと思う ②既に行っているが,今後はあまり 行いたいとは思わない ②既に行っているが,今後はあまり. ① ①. ② ②. 45. ①既に行っており,今後も引き続き 行いたいと思う ①既に行っており,今後も引き続き. ③ ③. 60 50. (487). 行いたいとは思わない ③これまでに行ったことはないが, 今後は行いたいと思う ③これまでに行ったことはないが,. ④ ④. 今後は行いたいと思う ④これまでに行ったことはなく, 今後も行いたいとは思わない ④これまでに行ったことはなく,. 平成22年度 平成24年度 平成25年度 今後も行いたいとは思わない 平成21年度 平成22年度 平成24年度 平成25年度 出所: 「環境にやさしいライフスタイル実態調査 報告書 平成 25 年度調査」(環境省,2014)のデータに基づき作成 0. 平成21年度. 図 2 「物・サービスを購入するときは環境への影響を考えてから選択する」に対する回答 1 (%) 90 (%). ①+③. 80 90 ①+③ 70 80 60 70 50 60 40 50 ①+② 30 40 ①+② 20 30 10 20 0 10 平成21年度 0. 平成22年度. 平成24年度. 平成25年度. 平成21年度. 平成22年度. 平成24年度. 平成25年度. ①+② 既に行っている購入者の合計 ①+② 既に行っている購入者の合計 ①+③ 「今後も引き続き行いたいと思 う」・「今後は行いたいと思う」 購入者の ①+③ 「今後も引き続き行いたいと思 合計 う」・「今後は行いたいと思う」 購入者の 合計. 出所: 「環境にやさしいライフスタイル実態調査 報告書 平成 25 年度調査」(環境省,2014)のデータに基づき作成. 図 3 「物・サービスを購入するときは環境への影響を考えてから選択する」に対する回答 2. 境ビジネスへの参入を困難にする要因がこの消. れない理由を,社会心理学の研究から 3 つ挙げ. 費者意識にあるならば,この課題克服なくして. ている.. は,企業の事業参入への投資判断が否定的にな. 1.自分たちの消費行動が自然破壊や資源枯渇の. る可能性は高いと考えられる.. 直接の原因であると実感しにくい.それよりも, 購買時には他に複数の直面する課題があり,重. 3―3.先行研究に見る環境配慮型製品のマーケ ティング戦略. 要度の下位にある環境配慮型という属性は無視 されている可能性がある.. 野田(2000)は,消費者の環境配慮行動が環. 2.環境問題 の 知識 は 抽象的 で 概念的 で あ る た. 境配慮型製品の購入・消費行動に結びつかない. め,環境にやさしい行動を取るために具体的に. ことに対し,メーカーの製品コンセプトを,売. どうすればよいかが分からない.. れるための環境配慮型製品開発にどう結びつけ. 3.消費者は,環境保全につながる行動が日常生. るべきか, コンセプトをどう消費者に伝えるか,. 活の快適さ・便利さを失うものであれば,その. について提言をしている.. 消費生活を変えるようなことはしない.. 野田は,消費者の環境意識が購買時に想起さ. すなわち消費者は,製品を購入する際の選択.
(8) 46. (488). 横浜国際社会科学研究 第 19 巻第 6 号(2015 年 2 月). 基準には,本来のニーズが満たされるかを優先. 境配慮型製品普及に向けての好循環」と提案し. し,環境負荷低減は付加的な要素と捉えている. て い る.こ の よ う に 野田 は,環境配慮型製品. に過ぎず, 「環境配慮」を購入時の選択理由と. も,通常製品同様の顧客満足追求のマーケティ. はしていないということである.環境省(2012). ング戦略の延長線上で捉えるべきであり,基本. の調査報告でも,消費者の環境問題への意識が. 品質の向上を第一とし,デザインやファッショ. 購買行動へ結びつかないのは,購入決定の最大. ン性などの副次品質の向上と共に,消費者のベ. の理由が価格と商品・サービスの内容そのもの. ネフィットを考慮した商品開発が必要であると. であり,企業が「環境配慮型商品・サービスを. 主張している.しかし,環境配慮型製品は,環. 提供していることに対して消費者は好印象を持. 境負荷の低減という「社会的課題」を解決する. つが,価格が変わらない範囲で環境配慮型の方. ことで社会的価値を生み出す.その点で従来製. を選ぶという程度」 (p. 50)と指摘されている.. 品とは異なるマーケティング戦略が必要と考え. これは野田(2000)の指摘とも整合し,10 年. られるが,野田はその点については触れていな. 以上を経ても消費者意識と行動には変化がない. いと言える.. ことを裏付けている.. 環境配慮型製品において,環境配慮型である. 野田は,メーカー側の課題として,環境配慮. ことが顧客の購買行動に結びつきにくいのは,. 型製品はコスト高であり,そのすべてを企業が. 顧客が受け取る製品価値と価格に乖離があると. 負担するのは不可能なため,価格に上乗せせざ. 感じているという見方が成り立つ.従って,「社. るをえないと指摘している.しかし消費者は,. 会的課題」を解決する製品について,顧客の購. 環境配慮型製品だからという理由で,高い製品. 買価格,製品に付随するコストと価値の関係. 価格を受け入れることに抵抗がある.野田は,. 性を捉える必要があると考える.「社会的課題」. 環境配慮型製品の最終消費財メーカーに対しア. 解決製品のメーカーは,製品価値と社会的価値,. ンケートを行い,環境負荷低減だけでなく消費. 考慮すべきコスト,顧客への販売価格の関係性. 者ニーズの組み込みがなされた製品が成功して. を理解すべきである.. いることを導き出した.そこから「 (環境配慮 型製品の)価格高の理由を製品機能や健康・安 全面などの新しいベネフィットによるものと説. 4. 「社会的課題」解決製品の価値創造について の考察. 明することで,従来製品より高額であっても消. 4―1.環境負荷を考慮したコストの概念 . 費者の購買意思を働かせることができる」と結. 「環境管理会計」では,製造から廃棄までに. 論付けている.すなわち,メーカーは,環境配. 必要なコストに環境負荷に関するコストを含め. 慮型製品の開発によるコストアップ分を価格に. た概念が示されている.そこで, 「環境管理会. 上乗せできる可能性がある, ということである.. 計手法 ワークブック」(経済産業省,2002)に. メーカーは,市場の黎明期,発展期にはその ように高価格を一般消費者に許容してもらう一. 提示されている「ライフサイクルコストの概念」 (p. 182)を参考にし,環境配慮型製品が低減す. 方,技術革新によりコストダウンを図り,販売. べきコストを確認する(図 4) .. 量を増やすことで徐々に価格を下げる戦略を取. 環境会計は,「事業活動における環境保全の. ることが求められると野田は提唱する. さらに,. ためのコストとその活動により得られた効果を. 従来製品により近く買いやすい環境配慮型製品. 認識 し,可能 な 限 り 定量的(貨幣単位又 は 物. を開発することで,環境配慮型製品の市場拡大. 量単位)に 測定 し 伝達 す る 仕組 み」(環境省,. と普及を目指し,次の段階でより厳しい環境配. 2005,p. 3)と規定されており,社外への情報. 慮型製品の実現をするというステップを, 「環. 開示を目的としている.しかし,環境保全コス.
(9) 「社会的課題」解決製品に関する一考察(後藤). コスト. コスト. コスト. コスト. 資源. コスト (価格). 素材 コスト エネルギー. コスト コ スト エネルギー. 使用. 廃棄. コスト. コスト. エネルギー. 企業コスト 企業コス スト コスト. 47. コスト. コスト. 製品 製造. コスト. (489). ライフサイクルコスト コスト. 社会的コスト. 出所: 『環境管理会計手法ワークブック』(経済産業省,2002)p. 182 を基に作成. 図 4 「ライフサイクルコスト」の概要. トと認識されにくい原材料費やエネルギー費な. 社会が何らかの形で負担しなければならないコ. どでも,削減することで自然資源の保護に貢献. ストを「社会的コスト」という.. できる「環境コスト」と認識できるものが様々. ライフサイクルコストと社会的コストを足し. ある.加えて,製品が企業の手を離れた後も,. 合わせたものを「トータルコスト」という.環. 消費者が製品を使用する際のエネルギー費や,. 境配慮型製品は「トータルコスト」削減を狙う. リサイクルや廃棄のコストも発生する.そのよ. ものであり,その製品価値には「トータルコス. うに,原材料から製品となり,使用され廃棄さ. ト」の概念を考慮することが必要である.. れるまでを「製品のライフサイクル」とみなし, 全体を通して発生するコストとして概念化され. 4―2.企業と顧客にとっての価値・価格・コスト. たのが 「 ライフサイクルコスト」である.企業. メーカーは,顧客が持つ何らかの問題解決の. は,製造過程で発生する環境コストをより削減. ため,あるいは利便性の提供のため,製品を開. する設備投資を行ったり,原材料の廃棄量が極. 発・製造・販売している.新製品の開発では,. 力少なくなるような製品設計・製造工程設計を. 既存製品や他社製品との差別化を図り,付加価. 行ったりすることで,コスト削減を図ることが. 値創造をしようとする.. できる.このように,経営意思決定の目的に合. 価値については様々な捉え方がある.分類だ. わせ,環境コストを内部管理する会計を環境管. けでなく,類似する価値であっても異なる名称. 理会計という(経済産業省・2002,國部・2003) .. が付けられている場合がある.例えば,製品の. 図 4 で は,製品 の 製造過程 を,資源,素材,. 価値を,製品そのものが持つ機能が生む「機能. 製品製造,使用,廃棄という 5 つの段階で捉え. 的価値」と,顧客が感じる主観的な製品の価値. ている.メーカーが,製品価格決定時に算出す. で言い表すことがある.後者の価値を,青木. るコスト,即ち,素材,エネルギー,固定費,. (2013)は「感性的価値」といい,延岡(2011). 環境対策費等は,企業内部でクローズするもの. は「意味的価値」と い う.延岡 は「意味的価. なので,「企業コスト」と定義されている.さ. 値」に近い概念として,「経験価値」,「精神的. らに,資源の採掘から最終の廃棄まで含めた製. 価値」,「快楽的価値」を挙げている.. 品ライフサイクルを通したコストを「ライフサ. 本稿 で 着目 す る の は,延岡 が メーカーの 技. イクルコスト」 ,全体を通して環境へ廃棄され,. 術・商品 に 関 す る マ ネ ジ メ ン ト(MOT)の.
(10) 48. (490). 横浜国際社会科学研究 第 19 巻第 6 号(2015 年 2 月). 分野で規定している「機能的価値」 , 「意味的価. につなげる必要性を提唱する.. 値」と,マーケ ティン グ 分野 で Kotler=Keller. 延岡は,価格・価値・コストの関係を図 5 の. (2006)が提唱する「顧客の受取価値」である.. ように表している5).価格はメーカーのアウト. それぞれの価値概念では,顧客が支払う購買価. プットであり,「意味的価値」と「機能的価値」. 格,製品に付随するコストと,価値の関係性が. を足し合わせたものになっている.前述の通. 説明されている.. り,延岡はそれを商品の価値と規定している.. 延岡(2011)は,付加価値を「商品や技術の. そこからメーカーへのインプット分,すなわち. 売り上げから, それにかかった経費・コスト (材. コストを差し引いたものがメーカーの創り出し. 料・部品,研究開発や製造に関わる費用など). た「付加価値」であるという.商品の価値は企. を引いたもの」 (p. 20)と定義している.即ち. 業側のアウトプット,つまり価格と同じになっ. 付加価値とは「原材料に対してどれだけ価値を. ていることから,延岡の視点は,メーカーが価. 付加できるか」 (p. 49)ということであり,価. 値をどう創り出すかにあると言える.. 格を上げても販売量を維持する,または価格を. 一方で Kotler=Keller は,顧客が得る価値の観. 下げなくてもより多くを販売できることが「価. 点から説明をしている.Kotler=Keller は,顧客. 値づくり」であると言っている.. の受取価値は,総顧客価値から総顧客コストを. 延岡はまた,商品の価値を「機能的価値」と. 差し引いたものと規定している.総顧客価値は,. 「意味的価値」の和であると規定している. 「機. 製品価値・サービ ス 価値・従業員価値・イ メー. 能的価値」は,顧客が基本機能やスペックから. ジ価値から成り立つ.これは,顧客が製品に対. 客観的に判断した価値が,価格との間に高い相. して判断する評価,アフターサービスなど付帯. 関関係が見られれば,それが「機能的価値」で. サービスの充実度合い,知識が十分にあって対. あるという. 「意味的価値」は,顧客の解釈と. 応も良いセールス担当者,その製品・メーカー. 意味付けによって創られる価値であり,商品. に対して顧客が得ている評判,というものから. 全体のイメージ,品質感,デザインなどにより. 総合的に顧客が認識する価値である.つまり,. 総合的かつ主観的に顧客が判断し,それに見合. 顧客が,ある製品に期待する経済的・機能的・. う価格として価値を決めているというものであ. 心理的なベネフィットを総合し,金銭価値とし. る. ブランドも意味的価値に含まれる. メーカー. て知覚したものであるという(p. 174) .総顧客. は,製品の便宜性や使い勝手の良さを追求し,. コストは,金銭的コスト・時間的コスト・エネ. 実現させるための技術開発や,イメージを向上. ルギーコスト・心理的コストから成り立ってい. させるデザインの開発等を行うことで, 「意味. る.つまり,顧客が製品取得のために負うコス. 的価値」を持たせようとしているといえる.. トは,金銭的コストだけではないということで. 延岡は,多くの企業は技術的な機能やスペッ. ある.Kotler=Keller は,アダム・スミスの「真. クの向上により商品価値を高めようとするが,. の価格とは,それを手に入れるための労力と苦. それにより実現できる優位性は分かりやすく,. 労」という言葉を借り,総顧客コストには,顧客. 競合企業がすぐに追いつく可能性が高いと指摘. の時間的コスト,エネルギーコスト,心理的な. している.また,そのような実現を目指すにし ても,年々競争が厳しくなる中で実現可能な確 率は低下しており,それにより企業の業績は 徐々に低下していくと主張する.よって,メー カーは, 「機能的価値」の向上をも「意味的価値」 創造に結びつけるような商品開発をし,競争力. . 5)延岡(2011)では,図のタイトルは「生産財 における意味的価値の役割」となっているが,文 中に「ここに示される構造は消費財でも生産財で も同じである」とされているため,本稿では消費財・ 生産財の区別なく引用することとした..
(11) 「社会的課題」解決製品に関する一考察(後藤). 付加価値. (491). 49. 「意味的価値」. 「機能的価値」. インプット (コスト=原価). アウトプット (価格). 出所:延岡(2011)p. 177 に著者一部加筆・修正. 図 5 付加価値・機能的価値・意味的価値と,価格,コストの関係. 総顧客価値と総顧客コストの差が 「顧客の受取価値」. 総. 総 顧 客 コ ス ト. 心理的コスト エネルギーコスト 時間的コスト 金銭的コスト (購入費用). 顧. イメージ価値 従業員価値. 客 サービス価値 価 値. 製 品 価 値. 出所:Kotler=Keller(2006)p. 173, p. 174 を参考に著者作成. 図 6 顧客の受取価値. コストが含まれると説明する.すなわち総顧客. のままで,販売価格を高く設定できた事例を,. コストは,ある製品の評価・入手・使用・廃棄. 日産自動車の北米市場での取り組みで説明して. の過程において顧客が見積もるコストを総合し. いる.米ビッグスリーがディーラーに報奨金を. たものであり(p. 174) ,入手にかかるコスト,製. 与えて値下げ攻勢をする中,日産は故障を少な. 品購入後のランニングコスト,廃棄コストも含. く,維持費も下げることで,購入者が製品購入. まれていると捉えることができる(図 6) .. 後も支払うコストを削減した.そのため日産の. メーカーが顧客の受取価値を高めることは,. 製品は安定的な人気を得ることになり,販売価. 総顧客価値を構成する各価値を向上させること. 格を高値で維持し,利益を確保したという.図. で実現できる.一方で,総顧客コスト中の価格. 7 は,旧製品の購買後コストとスタートアップ. (金銭的コスト)を下げたり,その他のコスト. コストが下がれば,メーカーはそれを実現させ. を減らす対応でも実現可能である.. るための投資をコストに折り込み,新製品の販. 例えば上田(2004)は,顧客の受取価値はそ. 売価格を上げても,ライフサイクルコストを旧.
(12) 50. 横浜国際社会科学研究 第 19 巻第 6 号(2015 年 2 月). (492). 顧客価値を上げるための原資 1万円. 販売価格. 4万円 6万円. 金額換算購買後コスト (割引現在値). 3万円 2万円. 金額換算スタート アップコスト. 3万円. 2万円. 新製品Yの 旧製品Xの ライフサイクル ライフサイクル コスト コスト 出所:上田(2004)p. 84 を基に著者加筆・修正. 旧製品と等価になる 価格設定 6万円. 5万円に引き下げても 旧製品から1万円の 価格引き上げとなる. 同時に顧客のライフサイクル コストが下がる.. 図 7 顧客のライフサイクルコストを下げることで販売価格を上げる方法. 製品と等価にできることを表している.ここで言. でどう価値を創り出すか,というところから視. うライフサイクルコストは,価格の他に, 「商品. 野を広げ,自社が創り出す価値が顧客の受取価. 購入の検討から購入後維持を含めたコスト,心理. 値につながるという,製品価値の全体像を理解. 的な苦労やリスクを感じることも含む」 (p . 80). しておく必要がある.. という,顧客の知覚に依存するものも含むコス トである.すなわち,顧客の購買価格,スター. 4―3.社会的価値創造の仕組み. トアップコスト(入手コスト,運搬コスト,設. 「顧客の受取価値」の概念を用い,社会的価. 置コスト,注文に関するコスト,訓練のコスト) ,. 値が創造される仕組みを考察する.. 購買後のコスト(修繕・維持,失敗あるいは期. 社会的価値を生み出す製品の代表的なカテゴ. 待はずれのリスク)の和とされている.. リーである環境配慮型製品を例に考えると,従. Kotler=Keller(2006)の 規定 す る「顧客 の. 来製品と比較して使用電力や CO2 排出量が削. 受取価値」の要素の中で,延岡の「機能的価値」 ,. 減されれば,「社会的課題」の解決につながる.. 「意味的価値」は,製品取得時に顧客が支払う. それは顧客にとっては,製品使用時に必要とな. 「金銭的コスト」に含まれることになる.企業. る電気やガソリン等の量が減り,その入手に必. 側で創り出した「機能的価値」 , 「意味的価値」. 要な費用が下がることになる.また,小型化が. は,顧客に購入・使用されることで「総顧客価. 実現し,輸送・保管に便利となった製品(例え. 値」創造へとつながる.顧客は各種コストを支. ば,濃縮型の洗剤等)についても,CO2 排出量. 払った後の価値を「顧客の受取価値」として享. の削減という「社会的課題」解決ができると同. 受することになる.顧客は複数の製品,それに. 時に,顧客の運搬,設置や保管に関わるコスト. 付随するサービス等を比較し, 「顧客の受取価. が下がっているとも言える.このように,社会. 値」が大きいと判断した製品を選択する.メー. 的価値を生み出すということは,顧客のコスト. カーは,総顧客価値と総顧客コストの差がより. 削減にも結びついていることが分かる.. 大きくなるように「機能的価値」 , 「意味的価値」. 製品使用時に発生するコストの中には,金額. を作り込むということである(図 8) .. で定量的に計ることができるコストと,定性的. メーカーは,図 8 の「企業側」 ,つ ま り 自社. なコストの,2 つがあると言える.この 2 つの.
(13) 「社会的課題」解決製品に関する一考察(後藤). (493). 51. 顧客は,受取価値をより高くしたい 企業は,「意味的価値」と「機能的価値」を 作り込むことで,総顧客価値を高め,かつ 総顧客コストを下げる対応が必要. イメージ価値. 顧客の 受取価値. 従業員価値. 心理的コスト エネルギー コスト. 付加価値. 「意味的価値」. インプット (コスト=原価). サービス価値. 時間的コスト. 「機能的価値」. 金銭的コスト (購入費用). 製品価値. ウトプ ト アウトプット (価格). 総顧客コスト. 総顧客価値. 企業側. 顧客側. ※製品により,価値・コストの各内訳がどれぐらいの割合を占めるのかが異なる. 例えば, スイス製の高級ブランド腕時計であれば, 顧客側ではイメージ価値と金銭的コストが大きいであろう. 企業側では,アウトプットに占める意味的価値が大きく,価格とコストの差が大きくなり,付加価値が高 くなると考えられる. 出所:延岡(2011)p. 177,Kotler=Keller(2006)p. 173,p. 174 を参考に著者作成. 図 8 企業側が作り出す価値と,顧客の受取価値の関係. コストは総顧客コストに含まれていると考える. コストが発生する.. ことができ,両方を減らすことが顧客の受取価. 上記リスクの中で,例えば身体的リスクには. 値を高めることにつながる.. 食品の摂取によって発生するものがある.マー. 定性的なコストには,製品使用時に発生する. ガリン等に含まれるトランス脂肪酸に健康被害. 可能性があるリスクから派生するコストがあ. を及ぼす可能性があると言われるのは,その 1. る.Keller(2008)は,消費者が製品を購入し. つといえる6).社会的リスクに関して言えば,. 消費する際に知覚するリスクとして,以下のも. 自動車は事故が起きれば,運転者本人だけでな. のを挙げている.. く,事故に巻き込まれる被害者や損害が出る可. ・機能的リスク:期待した水準の機能を製品が. 能性がある.このように,使用や消費の状況に. 果たさない. ・身体的リスク:製品が使用者などの身体や健 康に危害を与える. ・金銭的リスク:支払った価格に製品が値しな い. ・社会的リスク:製品が他者に迷惑をかける. ・心理的リスク:製品が使用者の精神に悪影響 を与える. ・時間的リスク:製品選びの失敗によって,満 足のいく他の製品を探す機会. より,顧客に負担を発生させる可能性があるも のがある.これが定性的なコストである.定量 的・定性的の 2 つのコストは総顧客コストに含 まれていると考えられ,そのどちらを減らして も顧客の受取価値を高めることにつながる.以 降,この 2 つのコストを,従来は顧客の受取価 . 6)農 林 水 産 省 ホーム ページ を 参 考 に し た. http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trans_ fat/t_kihon/trans_katei.html.
(14) 52. 横浜国際社会科学研究 第 19 巻第 6 号(2015 年 2 月). (494). 従来型製品の 社会的価値. 社会的コスト 社会的コスト. 従来型製品の 社会的コスト. 「社会的課題」解決製品の 社会的コスト. 社会的コスト <削減分>. 製品が持つ 社会的な 便益 社会的な便益. 従来型製品の 顧客の受取価値. 負の価値 <削減分> 心理的コスト エネルギー コスト 時間的コスト 金銭的コスト (購入費用). 従来型製品の総顧客コスト. 「社会的課題」 解決製品の 社会的価値. 「社会的課題」 解決製品の 顧客の受取価値 「社会的課題」解決製品の 総顧客コスト. 「負の価値」削減が 社会的コスト削減に つながる. 総顧客コスト. 社会にとっての便益・価値・コスト. イメージ価値 イメージ価 従業員価値 サービス価値 製品価値 総顧客価値. 顧客にとっての価値・コスト. ※「総顧客コスト」には本来, 「負の価値」が含まれている.「負の価値」の削減により総顧客コストが減り,顧客の受取価値 は増加する. 削減された「負の価値」は,従来型製品が抱えていた社会的コストの削減につながる.社会的コストは,製品が持つ社会的な 便益のマイナス要素であるため,社会的価値を押し下げていた.従って,社会的コストの削減は,社会的価値増大につながる. 出所:著者作成. 図 9 顧客の受取価値と社会的価値の関係. 値のマイナス要素だったと捉え「負の価値」と. 題を検討することにより,経済的価値につなげ. 呼ぶことにする.. る対応ができると考える.次章では,事業化に. 「負の価値」の削減は,エネルギー消費量の. 向けた課題を,製品開発,マーケティング,「社. 低減による CO2 排出削減などや,製品の使用. 会的課題」解決製品が持つ特性から洗い出す.. により発生の可能性があるリスクを減らすこと につながり,従来,社会的なコストを発生させ. 5. 「社会的課題」解決製品の事業化に向けた課題. ていた「社会的課題」の解決が期待できる.社. 5―1.製品開発に関する課題. 会的コストは,製品の便益と引き換えに発生す. 「社会的課題」解決製品に対しては,従来か. るマイナス要素であり,製品が持つ社会的価値. らメーカーが行ってきたように, 「機能的価値」 ,. を引き下げるものである.従って,社会的コス. 「意味的価値」の創出により,総顧客価値を上. トの削減は,製品が創りだす社会的価値の増大. げる対策が必要である.同時に,顧客が製品購. に つ な が る.メーカーは, 「社会的課題」解決. 入と同時に抱える,エネルギー(例えば電気,. を「負の価値」削減に結びつける製品イノベー. ガソリン)のコストや,リスクに関わるコスト. ションの実現により, 顧客の受取価値の増大と,. 等を下げることで「負の価値」を削減し, 「社. 社会的価値増大の双方を実現できる(図 9) .. 会的課題」解決を実現する必要がある.従って,. 「社会的課題」解決製品の事業化へは, 「負の. 「社会的課題」解決製品の開発は従来製品より. 価値」の概念を利用することで,製品開発で考. クリアすべき課題が多く,製品開発のハードル. 慮すべき課題,顧客への製品価値の訴求という. が高いのではないかと言える.. マーケティング上の課題を,洗い出すことがで. メーカーは, 「機能的価値」の向上のため,製. きる.事業化を目指すメーカーは,これらの課. 品の基本的な機能の作り込みに対し,通常から.
(15) 「社会的課題」解決製品に関する一考察(後藤). (495). 53. 技術開発を行っている.加えて,商品全体のイ. 説得が難航する可能性もある.. メージ,品質感,デザイン等を向上させるとい. その他にも,清水・星野は,オープン・イノ. うような, 「意味的価値」を高めるための対応も. ベーションでの知識や技術の探索と組み合わせ. 行っている.このような活動は,「社会的課題」. のためのマネジメントの課題を,以下のように. 解決を考慮しない従来製品の開発においても,. 挙げている(p. 29).. これまでも行われてきた.. A.社外知識の探索は,探索の範囲と深さによ. メーカーは, 「社会的課題」解決製品を開発す. り,生み出されるイノベーションの種類が異な. るにあたり,従来行われてきた技術開発に加え,. る傾向がある.広い範囲の外部チャネル通じて. 社会的価値を創りだすための技術を開発すると. 探索する場合はラディカルなイノベーション. いう課題の克服が必要となる. 「負の価値」の概. に,限られた外部チャネルにある知識を深く探. 念で言えば,顧客が製品を使用する際のエネル. 索する場合はインクリメンタルなイノベーショ. ギーの消費量,使用により引き起こされる危険. ンに,それぞれつながる傾向が強い.探索や,. の可能性等を低減させるため,本来の製品機能. その後の調整にかかるコストも無視できない.. や品質は通常品と同等かそれ以上を維持しつつ,. B.自社の知識の流出,コントロールの喪失,. 顧客が廃棄するまでに発生するあらゆるコスト. マネジメントの複雑性の増大を認識している企. を削減する技術を開発し,製品化することを目. 業が多い.. 指さなければならない.前述の通り,延岡(2011). C.知識の探索範囲を広げることで,新しい知. は,技術的な機能やスペックの向上は,年々競. 識を統合するコストが増加する.同時に,獲得. 争が厳しくなる中で,実現可能な確率が低下し. する知識の信頼性が低下する.. ていることを指摘している.従来製品と比較し. D.研究開発の機動性が低下する.. て, 「社会的課題」解決製品の開発には相応の開. 上記のような課題への対応のため,清水・星. 発投資が必要となることが予想できる.. 野は,オープン・イノベーションでの社外知識. 製品化にあたり,メーカーは自社の保有技術. の探索のプロセスや,組織間の知識調整マネジ. で実現が可能かを評価・検討する必要がある.. メントの重要性を指摘している.. その結果,現在保有する自社の技術のみでは製. 星野(2012)は,東洋紡がオランダの化学会. 品化は難しく,これから自社開発をするのは成. 社である DSM 社との共同開発により高機能繊. 功への不確実性が高いと判断されたら,社外の. 維の開発と事業化に成功した事例を紹介してい. 技術を取り入れることを視野に入れなければな. る.東洋紡側 は,繊維分野 で 自社 の 紡糸技術. らない.その方法としては,取引による技術の. を生かせるような原料を探索していた.一方. 入手, 他社との提携や産学連携による共同開発,. の DSM は,新しい繊維を開発したものの,同. 技術を持つ企業のグループ化や合併,買収等が. 社にとって繊維製品やその市場は新しい分野で. 考えられる.. あり,事業化のための生産技術も保有していな. 外部の技術や知識を自社のものと組み合わ. かったため,同社単独での事業化は困難だった.. せ,イノベーションにつなげることは,オープ. そこで DSM はパートナーとして,高い生産技. ン・イノベーションの形の一つと考えられる. 術を持ち,市場に精通している東洋紡を選んだ.. が,その先行研究では,一般に自らの組織内で. 星野は,東洋紡から見た事業化の過程を,以下. 創り出された技術や知識以外のものは取り入. の順で記述している.. れを回避する傾向があることが指摘されている. ①製品化を実現させる技術についての情報を獲. (清水・星野,2012) .そのため,社外からの技 術採用が必要な場合,社内でその取り入れへの. 得.追跡実験を開始. ②開発テーマ化のため,複数の研究所が参加す.
(16) 54. (496). 横浜国際社会科学研究 第 19 巻第 6 号(2015 年 2 月). る社内共同研究体制を発足. ③ DSM の関連会社に,特許のライセンス供与. に,影響を及ぼす.これらの問題を勘案すると, 他社との提携による共同開発には,自社開発で は発生しない様々な課題克服が必要となると考. の意向を打診. ④製造技術の開発・用途開発やマーケティング,. えられる.. 事業化についての共同開発契約を,両社間で. このように,「社会的課題」を解決する製品. 締結.. は,製品開発の観点からは実現のハードルが高. ⑤事業化に向け,東洋紡内に生産技術開発を目 的としたグループを発足. ⑥技術的課題・政治的課題を討議するため,両 社による共同検討委員会を発足. ⑦パイロット・プラントの建設.. いと言える.メーカーは,顧客の受取価値を上 げつつ,製品価格以外の総顧客コストを下げる ことを技術革新により実現することで,顧客の 購買行動へ結びつけ,投資回収への対策をする 必要がある.. ⑧プレマーケティングのためのジョイントベン 5―2.社会的価値の顧客への訴求に関する課題. チャー契約を締結. ⑨合弁事業会社の設立.東洋紡の社内で,事業 開発部から事業部への切り替え.. 企業は,開発・事業化への投資分を,製品販 売による収入で回収する.野田(2000)は,環. このように,他社との共同開発には,③に見. 境配慮型製品においては,基本品質の向上を第. る特許に関する課題,④,⑧,⑨の,両社によ. 一とし,消費者のベネフィットを考慮した商品. る各種契約の締結に関わる課題,⑤,⑦の量産. 開発をすることで,消費者に高価格を許容して. 化に向けた生産技術の課題等,様々な課題克服. もらうことは可能と主張した.. が必要となる.. Moore(1991)は,新たなテクノロジーが市. 上記課題への対応には,考慮すべきことが 2. 場に浸透していく時の特性として,テクノロ. つある.1 つはスケジュール管理である.共同. ジーのライフサイクルのかなり早い時期に新製. 開発は,自社でのスケジュール管理の難しさに. 品を購入する,イノベーターとアーリー・アド. 直面する可能性がある.事業化を進める上で,. プターというカテゴリーにある顧客から,次の. 開発の遅れは,販売延期につながるなどのマイ. アーリー・マジョリティーと呼ばれる層への普. ナス要因となり得る.これは前述の B にある,. 及には溝があるという.それを「キャズム」と. コントロールの喪失,マネジメントの複雑性の. 呼び,この溝を越えなければ新たなテクノロ. 増大を指している.2 つ目はコストである.他. ジーは普及しないと指摘する.野田(2000)は,. 社技術の取り入れには,C で指摘されている,. 環境配慮型製品においても顧客満足追求のマー. 新しい知識の統合によるコスト増加を考慮しな. ケティング戦略の延長線上で捉えるべきと言っ. ければならない.. ており,市場の黎明期,発展期には,顧客に対. 更に,社内にその知識やノウハウの蓄積がな. し,環境配慮型製品が高価格である理由を,新. いことで,上記⑤,⑦に見る量産化に向けた生. たな機能付加によるものと説明することで,顧. 産技術の開発が必要になる .生産技術開発の. 客の購買行動につなげることが可能だと主張し. 成否は,スケジュール管理,コスト増加の両方. ている.そして,市場の発展期以降,消費者の. 7). . 7)武石・青島・軽部(2012)でも,花王が,洗 濯洗剤に必要な酵素を社外から入手した際,酵素 の発酵生産実現に必要なノウハウの蓄積がなかっ た同社が,大量かつ安定的に発酵生産する体制を 確立するまでの困難さが指摘されている.. マジョリティーへの普及の溝を越える対策は, 差別化による市場での競争力獲得から,高価格 による売上高・利益率アップを実現させ,技術 革新と販売量増加でコストダウンと価格ダウン を実現させることであると主張していると取れ.
(17) 「社会的課題」解決製品に関する一考察(後藤). (497). 55. る.この流れを見る限り,環境配慮機能がある. とすれば,それは「プリウス」という商品名が,. 製品のマーケティングは,環境配慮機能が無い. トヨタ自動車が開発した,乗る事で環境負荷低. 製品で従来行ってきたマーケティング戦略と違. 減に貢献できると同時に,燃費がよくガソリン. いは見られない.しかし,5─1 で見たように,. 代が節約できるハイブリッド自動車であると,. 「社会的課題」解決製品の製品開発のハードル. 消費者の心に定着していることを意味する.ポ. が高いことから,キャズムを越えるための対策. ジショニングの成果は,顧客を重視して創造さ. が,従来製品よりも更に必要ではないかと考え. れた価値提案の成功であり,顧客がなぜその商. られる.. 品を購入するのかの適切な理由となる(Kotler,. 環境配慮型製品で言えば,3─2 で説明した通. 2003).また,消費者のそのブランドの購入・. り,消費者の環境保全に対する意識と環境配慮. 使用目的を明確にする(Keller,2008).. 型製品に対する購買意図は形成されつつあり,. 社会価値を創りだす製品は,「負の価値」が. 将来の購買希望者層は,割合が減っているとは. 低減され,顧客の受取価値が上がっていること. いえ,アンケート回答者の 70% 以上となって. を顧客がしっかり認識できることが重要であ. いる.しかし,その割合が減少傾向にあること. る.その対策には,ターゲット層へ情報を効果. と,既 に 購入 し て い る 消費者 が 30%〜40% に. 的に届ける広告方法の実行が挙げられる.加え. 留まることから,購買行動に結びつくための何. て,総顧客コストを下げる工夫,例えば,新製. らかの対策が必要である.すなわち,意識と購. 品の使用方法が顧客の負担にならないような対. 買意図がある消費者に対し,何を訴求すれば購. 応や,新しい使用方法を顧客が容易に理解でき. 買行動に移ってもらえるか, ということである.. るような工夫,使用環境を整えるインフラ整備. そこで企業は, 「社会的課題」を解決する製. 等の対応をする必要がある.メーカーが,図 8. 品を広く普及させるため, 「負の価値」を可能. に見る「顧客側」の総顧客コストの要素をしっ. な限り削減することで顧客の受取価値を上げ,. かりと捉えることが,マーケティング戦略の構. 顧客にそれを訴求することで購買行動につなげ. 築につながると言える.. る手段を取ることができると考える. 「負の価 値」が低くなる,つまり,顧客は購入後に発生 する追加コストやリスクが抑えられるメリット. 5―3. 「社会的課題」解決製品の特性に見る利益 減少要因. を享受できることを,企業は顧客にアピールす. メーカーが削減すべき社会的コストは,規制,. べきということである.そうすることで「負の. あるいは国際的な取り決めなどで,削減目標が. 価値」が低減されるという実感を,顧客が感じ. 規定される可能性があることをメーカーは考慮. る製品のポジショニングとして確立することが. し な け れ ば な ら な い.例 え ば,「京都議定書」. 可能ではないかと考える.Keller(2008)によ. では先進国の温室効果ガス排出量を,自動車排. れば,ポジショニングとは, 「消費者グループ. 出ガス規制ではガソリン車,ディーゼル車等の. のマインドや市場セグメントに適切な『場所』. 排出ガスの規制値が定められている.. を見出し,それによって顧客に製品やサービス. 環境規制とイノベーションの関係に言及する. を『正しい』または望ましい形で考えてもらい,. ものに「ポーター仮説」と呼ばれるものがある.. 企業の潜在的ベネフィットを最大化すること」. 適切に設計された環境規制は,イノベーション. (p. 124)であり,ブランド・アイデンティティ とブランドイメージの確立につながる. 例えば,. を誘発し競争力を高めることにつながるという も の で あ る(Porter=v. d., Linde, 1995).し か. 「プリウス」といえば「トヨタ自動車のハイブ. し環境規制は,企業側には,社会的コストの削. リッド車」と,多くの人がすぐに思い浮かべる. 減を企業努力で実現させようとする取り組みに.
(18) 56. (498). 横浜国際社会科学研究 第 19 巻第 6 号(2015 年 2 月). おいて,その数値目標を公的に設定されるこ. の可能性として認識しておく必要があると考え. とになるため,技術開発目標のハードルは更. る.. に高まる.開発の困難さ,また,開発スケジュー ルの見直し等が,利益や生産性にマイナスの 影響 を 与 え る.こ れ ま で に「ポーター仮説」. 5―4. 「社会的課題」解決製品の事業化に向けた 課題のまとめ. の検証は数多くされているが,肯定・否定の. 本章では,製品開発面での課題,マーケティ. どちらかを裏付ける決定的な結論は出ていな. ング観点からの課題,また,製品特性から見る. いといえる .. 事業化への検討事項について確認をしてきた.. 企業は,規制による技術開発への投資額の増. 以下 に,「社会的課題」解決製品 の 事業化 に 向. 加を企業努力で吸収することは難しく,顧客負. け,メーカーが検討すべき課題を順に挙げ,本. 担とするならば,それに見合う価格上昇により. 章のまとめとする.. 顧客の購買意思と購買行動の溝は更に深まるこ. ①現状の認識. とになり,社会的価値と経済的価値の両立を実. 4─3 で 確認 し た 通 り,「社会的課題」解決製. 現することは一層困難となる.これまでの例で. 品の事業化にあたっては,従来製品が顧客に与. は,公的な助成金や補助金を利用することで,. える「負の価値」が何であるかを認識するのが. 顧客の支払い意思と実際の製品価格の乖離を狭. 手始めとなる.併せて,製品そのものの機能や. めることにより,販売数を延ばす手法が取られ. 品質から創り出される総顧客価値の中で顧客が. たこともあった.家電エコポイント(グリーン. 向上を求めるものは何か,即ち,従来の「顧客. 家電普及促進対策費補助金) ,エ コ カー減税・. ニーズ」の認識を行う.. エコカー補助金がその一例である.伊藤・浦島. ②現状の分析,製品化による社会的価値の予測. 8). (2013)は,ハイブリッドカーの販売台数がエ. と「負の価値」低減値の定量化. コカー減税・エコカー補助金の導入に伴って増. ①で認識した「負の価値」低減の実現により,. 加していることを指摘し,減税・補助金の効果. どのような「社会的課題」が解決できるかを確. が認められると主張している.. 認する.5─3 で確認した通り,法的規制がある. 規制等により社会問題を減らそうとする政府. か,削減目標値が公式に設定されているかによ. に対し,製品開発の成功により「社会的課題」. り開発の成否に影響が出る可能性があるため,. を解決し,経済的価値をも生み出せる対応を. 調査する必要がある.それを踏まえ,「負の価. メーカー側でも努力すべきではある.しかし,. 値」の低減値目標を検討し,定量化する.. 「ポーター仮説」の妥当性に結論が出されてい. ③自社での実現可能性の検討. ない現在,メーカーでも自衛策として,何らか. 5─1 で確認した通り,従来の顧客ニーズを実. の対応は検討すべきと考える.元来,社会的コ. 現するための技術と, 「負の価値」低減実現に. ストの削減は政府が担うべきものと捉えるなら. 向けた技術の,2 つの面での技術の実現性につ. ば,企業がその役割を肩代わりして実現させる. き検討が必要となる.自社になければ他社から. 活動に対し,公的な助成があってもよいはずで. の提供や,共同開発の可能性等も調査が必要と. ある.メーカーが助成金や補助金等を有効活用. なる.この段階で,開発に向けた投資必要金額. して事業の成功を目指すのは,社会的価値の創. を予測する.. 造を経済的価値に結びつける対策として,1 つ. ④販売価格/事業の収益性検討. . 8)金原・藤井・金子(2007),中村(2008),伊藤・ 浦島(2013)などを参照されたい.. 市場分析を行い,5─2 で確認した,顧客への 訴求,製品使用にあたり対応すべきことの確認 を行う.その上で,③で予測した投資額を勘案.
関連したドキュメント
地方創生を成し遂げるため,人口,経済,地域社会 の課題に一体的に取り組むこと,また,そのために
Those of us in the social sciences in general, and the human spatial sciences in specific, who choose to use nonlinear dynamics in modeling and interpreting socio-spatial events in
Polarity, Girard’s test from Linear Logic Hypersequent calculus from Fuzzy Logic DM completion from Substructural Logic. to establish uniform cut-elimination for extensions of
[r]
((.; ders, Meinungsverschiedenheiten zwischen minderjähriger Mutter und Vormund, JAmt
”, The Japan Chronicle, Sept.
(評議員) 東邦協会 東京大学 石川県 評論家 国粋主義の立場を主張する『日
Makarov : ``Fundamentals and Advances of Orbitrap Mass Spectrometry in Encyclopedia of Analytical Chemistry'', (2006), (John Wiley & Sons, Ltd., New York)..