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在中日系企業における職場ストレスの実証研究 : 米国系企業との比較から

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在中日系企業における職場ストレスの実証研究

―米国系企業との比較から―

姚 継 東

要旨

日本企業の中国進出は1980年代から始まって、すでに30年あまり経過している。2010年末 までの中国に進出する日系企業の数は22,307社に達し、アメリカを超え、外資系企業の対中投 資ランキングの第三位になっている。中国における事業活動の成否は、日本企業のグローバル 戦略そのものに影響を与えると言える。 しかし、日系企業が急速かつ大規模に中国進出しているのに伴い、経営上の問題も多数噴出 している。これまでさまざまな研究や調査データにより、日系企業の中国進出は欧米企業より 遅れてはいないが、中国従業員からの評価、就職の人気度、経営の現地化、人材の採用と確保 などの面に関しては、欧米企業に比べて大きな格差があることが明らかにされた。その背後の 原因を究明するために、従来より多くの研究者が議論を繰り返してきた。これらの研究は、日 系企業が中国での経営実態、中国人従業員の意識調査、或いは日系企業に対する評価などの面 から研究を展開するのが多い。 本稿は、これまで日系企業の中国進出において殆ど報告されていない職場ストレスの視点か ら、中国における日米企業の従業員の職場ストレッサーの現状を調査し、かつ両者の差異を比 較した上で、中国人従業員の日米企業の経営手法に対する適応性を考察した。調査結果により、 中国における日米企業の従業員は職場ストレッサー全体において顕著な差異が示されていない が、具体的な尺度において、役割葛藤以外に、いずれも有意な差があることが確認された。そ のうち、仕事そのもの、役割の曖昧さ、人間関係の尺度において、米国系企業の従業員が感じ るストレスが日系企業の従業員より明らかに高いのに対し、組織構造・風土とキャリアアップ の尺度において、日系企業の従業員が感じるストレスが米国系企業の従業員より著しく高い。 そして、日米企業それぞれの組織特性と対中投資の産業構造の特徴とを組み合わせながら日 米企業の中国人従業員が職場ストレスに現れる相違の原因分析を試みた。最後に、今回の調査 結果に基づき、これから中国での事業展開に向けて、中国の投資環境の変化から日系企業の対 中投資の業種やそのレベルアップの必要性を提示し、これを前提に、日本的経営の強みを活か すことを含め、中国における日系企業の経営改善策を提出した。

はじめに

日本企業の中国進出は1980年代から始まって、すでに30年あまり経過している。現在、日 本は中国の第四大投資国となる一方、中国も日本の第一大の貿易パートナー、第一大輸出先国

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と最大の輸入先国となっている(1)。2010年末までの中国に進出する日系企業の数は既に22,307 社に達し、アメリカを超え、中国香港と中国台湾に次いで外資系企業の対中投資ランキングの 第三位になっている(2)。中国における事業活動の成否は、日本企業のグローバル戦略そのもの に影響を与えると言える。 しかし、日系企業が急速かつ大規模に中国に進出しているのに伴い、経営上の問題も多数噴 出している。これまでさまざまな研究や調査データにより、日系企業の中国進出は欧米企業よ り遅れてはいないが、中国従業員からの評価、就職の人気度、経営の現地化、人材の採用と確 保などの面に関しては、欧米企業に比べて大きな格差があることが明らかにされた。その背後 の原因を究明するために、従来より多くの研究者が議論を繰り返してきた(馬2000、関2003、 古田2004、鈴木2005、白木2006、長谷2006、張2008など)。これらの研究は、現地考察やア ンケート調査などを通じて、日系企業が中国での経営実態、中国人従業員が日系企業に対する 評価などの意識調査、経営手法における日系企業と他の外資系企業との相違および中国人の受 け入れ程度などを考察した上で、日系企業の経営管理上の問題を分析するのが多い。 本稿は、これまでの研究においてほとんど報告されていない従業員の職場ストレスの視点か ら、中国における日系企業の従業員が日系企業の経営手法に対する適応性を考察することを試 みた。かつ中国における米国系企業のデータと比較した上で、両者の差異を分析し、これから の中国での事業展開に向けて、日系企業に提言したい。 職場ストレスに着目して研究する理由は次のとおりである。まず、組織における仕事そのも の、組織における役割、人間関係、組織風土、管理スタイル、キャリアアップなどさまざまな 要素が従業員のストレス感を引き起こす要因となる。即ち、従業員が感じる職場ストレスが企 業の経営手法への適応性にも反映される。次に、職場ストレスは従業員自身の身心的健康に影 響を与えるだけではなく、組織全体のパフォーマンス、従業員の組織に対するコミットメント、 職務満足感および離職傾向と高い相関性がある。それゆえ、組織で働く従業員の職場ストレス を把握することで、組織の経営管理上の不適切なところを見つけ、改善へ取り組むことができ る。これにより従業員の職場ストレスを低減させるとともに、組織に対する中長期的な帰属意 識を持たせて定着度を高め、人材の採用と確保に重要な意味を持つ。

一、職場ストレス研究の概観

ストレスとは元来,物理学や工学に属す概念である。20世紀30年代から、ストレスに対す る認識は、次第に生物学、医学、心理学などの分野の分野へ広がった。さらに、20世紀60年 代から、社会学や組織行動学の研究分野においてストレスに対する注目が高まり、職場ストレ ス(Job Stress)という概念が誕生した。 職場ストレスに関する研究の端緒は、1960年代初頭から米国ミシガン大学の社会研究機構 (Institute for Social Research, ISR)のプロジェクトに求めることができる。当時の研究は職場 のどんな条件が労働者の生物的、行動的、または感情的反応に関与しているか、といういわゆ るストレス反応の先行要因の同定に焦点が当てられた(3)。その後さまざまなアプローチから職

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場ストレスモデル(4)の登場が代表されるように、研究が活発化するのは1970年代以降である。 これまでの職場ストレスの研究を概観してみると、単一の要因に焦点を当てたもの、全体的な プロセスを記述しようとしたものがあるが、どれもストレス要因(ストレッサー)、ストレス反 応を軸としてモデルが構成され、そのプロセスに種々の緩衝要因や促進要因といった影響要因 の存在を想定して行われている。本研究は様々なストレス反応を引き起こす可能性がある環境 や刺激などのストレス要因―職場ストレッサーに着目して研究を展開しようと思う。 職場ストレッサーとは、従業員が職業生活を営む中で耐えるその心身活動に影響を与える外 部的刺激要素であり、個体が職場ストレスを認知する主観的評定である。職場ストレスを引き 起こす根本的な要因を把握してはじめて、職場ストレスの強度を合理的な範囲内にコントロー ルし、それを有益的な範囲内で機能させることができる。即ち、ストレッサーを究明すること は、ストレスマネジメントの基盤である。従って、学者たちはさまざまな角度から職場ストレ ッサーを研究した。 初期的研究は主に仕事の物理的な環境要素、たとえば、仕事の環境における騒音や震動、極 端な温度、照明度および衛生などの要因に集中していた。20世紀60年代から、Kahn、Wolfe、 Quinn(1964)などの研究者は、職場ストレッサーの研究を与えられた役割や責任の範囲が明 確でない状況や、役割がうまく遂行できない状況の下で、従業員の自覚する「役割ストレス (role stress)」へ転換した。これにより、職場ストレッサーに対する研究は仕事の物理環境以 外の要素にまで広がった。また、仕事の過負荷(overload)、満足できない希望、及び組織メン バー間の人間関係の葛藤に加え、組織における最も普遍的職場ストレッサーに構成すると指摘 された(5) CooperとMarshall(1978)はホワイトカラーの従業員を対象に研究した結果、職場ストレッ サーを以下のように大別した。①仕事の固有要因(仕事の負荷、時間的ストレス、自由度の欠 如など)。②組織における役割(対人葛藤、役割の葛藤、職務の葛藤)。③仕事における人間関 係(上司から受けるサポート、同僚との関係など)④キャリア発達(職業の安全性、昇進と辞 職、自己実現など)⑤組織構造と組織傾向(組織価値観、意思決定方式、リーダーシップのス タイル、トラブル解決の方法など)(6)。表1は国外学者による代表的な職場ストレッサーの分 類を示すものである。

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表1 代表的な職場ストレッサーの分類 研究者 職場ストレッサー分類 Kahn,Wolfe,Quinn等 (1964) 役割の葛藤、役割の曖昧さ、満足できない希望、仕事の過負荷、メンバー間の人間関係の葛藤 Weiss等(1976) 仕事そのものの要因、組織における役割、キャリアプラン、組織構造、組織風土、組織における人間関係 Ivancevich,Matteson (1980) 生理条件、個人的要因、団体的要因、組織的要因と組織外要因 CooperとMarshall, Sloan等(1978,1988) 仕事固有の要因、組織における役割、仕事における人間関係、キャリアプラン、組織構造と組織傾向、仕事と家庭の調和 ParkerとDecotiis (1983) 仕事そのものの特徴と環境、組織構造と風土、役割関連要因、仕事での人間関係、キャリアプラン、内部のコミットメントと責任 Quick等(1984) 役割特徴、任務特徴、リーダー特徴、組織構造特徴、人間関係条件、個人生理条件など 米国職業安全保健研究所 作業内容および方法、職場の組織体制、職場の物理化学的環境 Hendrix,W.H.(1995) 組織内部の要因、組織外部の要因、個人特徴 Summers,T.P.(1995) 個体要素特徴、組織構造特徴、組織プロセス特徴、役割特徴 Robbins(1996) 環境、組織と個人要素 Jex(1998) 役割ストレス、仕事の過負荷、コントロールの欠如、組織限界 小杉正太郎等 (1991、1999) 企業共通ストレッサー、部署共通ストレッサー、個人固有ストレッサー。イベント型職場ストレッサー、慢性型職場ストレッサー 渡辺直登(1999) 「社会的文脈」に関係するストレッサー(割葛藤,役割曖昧性, 職場の人間関係,昇進・降格・転勤・異動など)、仕事や職務の特徴に 関係するストレッサー(過重な仕事,技術的に困難な仕 事,ハイテク関連の仕事,物理的に悪い環境) 資料出所:研究者それぞれの研究に基づき筆者整理。

二、日米対中投資の動機と産業構造

20世紀の90年代以前の日本の対中投資は、中国の豊かな生産資源と廉価な労働力を利用す るための加工工場として位置づけ、いわば資源志向、労働力コスト志向で対中直接投資を行っ た。現在になっても、日本の対中投資は依然として製造業を中心に行われ、2000年に至るまで 直接投資額に占める製造業の割合は70%を超える高い水準を維持していた。具体的な部門を みると、アパレル、食品加工、木材、電子機械などの組立てと加工に集中されている(7)。21世 紀に入った後、中国のWTO加盟による規制緩和や、中国国民の所得増による消費市場の拡大 により、日本の対中投資戦略に明らかな変化が見られた。即ち、中国国内市場をターゲットに した新たな段階を向かえ、資本と技術集約型へ転換し、金融、保険、リースなどの非製造業へ の投資も増加しつつある。 一方、アメリカの多国籍企業の対中投資は、その絶対優位或いは比較優位を持つ産業の転移 であり、資本型と技術集約型の産業に重点を置き、中国国内の巨大市場を販売基地とし、限界 利益の最大化を実現する(8)。米国企業が対中投資の産業構造からみると、製造業も半分以上を

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占めているが、主に電子および電子設備、工業機械及び設備、化学工業、運送設備など資本技 術集約型部門に集中し、その中、米国の競争優位性が著しい機械と電力設備(コンピュータ、 通信、および電子設備など)への投資が最も盛んに行われている。中国がWTO加盟後、米国は その優勢産業―非製造業への投資を一層拡大し、2008年米国の対中投資における非製造業の占 める割合は既に40%位となり、主に金融、保険および不動産業に集中されている(9)

三、研究方法

1、尺度作成 世界中で広く使われ、代表的な職場ストレス尺度として、ParkerとDecotiis(1983)が開発 したジョブ・ストレススケール(Job Stress Scale)、Cooper、SloanとWilliams(1988)が開 発した職業性ストレス(Occupational Stress Indicator、OSI)、アメリカの心理学者McLean教 授が開発したワーク・ストレスアンケート(McLean’s Work Stress Questionnaire)、アメリカ 職業安全保健研究所のHurrellとMcLaney(1988)が開発したジョブ・コントロールアンケー ト(Job Control Questionnaire)、Karasek(1985)が開発したジョブ・コンテンツアンケート (Job Content Questionnaire)が挙げられる(10)。日本の学者小杉正太郎はHouse、Cooper、

Karasek等の研究結果、及び長年企業内のメンタルヘルスコンサルタントとしての経験を結び ついて、職場ストレススケール(Job Stress Scale/JSS)を作成し、日本では幅広く応用されて いる。 本研究は、前記研究に基づき、以下のステップによって職場ストレス尺度を作成した。まず 2011年10月10日から11月10日までの1 ヶ月間に、日系企業に勤める13人の従業員に対して 個別インタビューを行い、それぞれ少なくとも10種の職場ストレッサーを列挙してもらい、全 て130項目を収集した。これに基づき、筆者が表現を統一し、同じ内容を表す項目を削除する とともに、ストレス反応と重複が認められる項目、及び職場とは無関連の家庭や個人生活に関 する内容についての記述のあった項目を除き、56の項目を検討の対象として抽出した。 続いて、CooperなどのOSI指標、小杉のJSSを参照に、この56項目を仕事そのもの、役割 関連、人間関係、キャリアアップ、組織構造と風土の5尺度によって分類した。さらに人的資 源専門家や管理学専門家による削除、補正、および予備調査に基づき、最終的に仕事そのもの、 人間関係、役割の曖昧さ、役割の葛藤、組織構造・風土とキャリアアップという5つの下位尺 度、21項目からなる正式な調査尺度を形成した。各下位尺度の操作性定義は下表に示される。 該正式調査尺度の全体的なCronbachα係数は0.891であり、各尺度のCronbachα係数は0.6 以上であり、5因子がデータの64.704%の分散が説明でき、該尺度はより優れた信頼性と妥当 性を有し、尺度の作成要求を満たすものであることが確認できた。

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表 2 職場ストレッサー各尺度の操作性定義 職場ストレス尺度 尺度内容 仕事そのもの 仕事の量、難易度、仕事の要求など仕事自身の特徴によるストレス 役割の曖昧さ 業務内容の曖昧さや仕事に対する権限の不明瞭によるストレス 役割の葛藤 職場内の立場や異なる役割が期待されるなどによるストレス 組織における 人間関係 上司、同僚との人間関係、職務上の協力・サポートなどによるストレス 組織構造・風土と キャリアアップ 組織のメカニズム、管理スタイル、および従業員のキャリアアップによるストレス 2、調査対象 本研究は、中国における日系企業の従業員425人、米国系企業の従業員173人を研究対象(11) とする。抽出された企業の業種は製造業と非製造業を含み、日系企業において製造業企業が16 社、非製造業企業が3社、米国系企業において製造業企業が6社、非製造業企業が5社である。 本調査は肉体労働に従事する労働者を対象外にし、全てはオフィスに仕事をなさる、いわゆる ホワイトカラー層の従業員を調査対象とする。調査対象の基本状況は以下の表に示される。 表 3 研究サンプルの概要(%) 表3に示されるように、年齢について、日系企業でも米国系企業でも30歳以下の従業員が占 める割合が最も多く、それぞれ65.4%と54.3%に達している。性別に関しては、日系企業の女 性が多いのに対し、米国系企業のほうは男性が多いが、男女の人数上の格差はそれほど大きく ない。学歴については、日系企業でも米国系企業でも大学の学歴を持った従業員が最も多く、 それぞれ55.3%と56.1%を占めている。短大およびそれ以下の学歴を持った従業員の比例は日 系企業のほうが圧倒的に高く、米国系企業のほぼ3倍になっている。反対に、修士およびそれ 以上の学歴を持った従業員の比例は、米国系企業が日系企業よりはるかに高く、四倍の差が示 されている。勤務年数について、勤める年数が5年以下の従業員が占める比例が日米企業の両 方とも最も高く、いずれも44.5%である。注目するのは、15年以上会社に勤める従業員の比例 であるが、日系企業のわずか3.8%であるのに対し、米国系企業が15.6%で日系企業のほぼ4倍 になっている。月給に関しては、日系企業で3千~ 6千の従業員が主流であるのに対し、米国

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系企業の場合、月給が9千元以上の従業員が占める割合は61.3%であり、最も多い。職務分野 に関しては、日系企業で市場販売や生産運営に従事する従業員の割合が最も多く、それぞれ 37.4%と35.3%を占める。一方、米国系企業では、研究開発に従事する従業員の数が最も多く、 35.8%を占めている。役職に関しては、日系企業では中層管理職と一般社員が占める割合が最 も高く、それぞれ37.4%と35.3%であるのに対し、米国系企業では、一般社員が占める割合が 最も高く、総人数のほぼ半分を占めている。 3、調査用紙の回収と分析 調査用紙は無記名の自記式が用いられ、回答形式はリカートの5件法であり、回答者は項目 の陳述によって「まったく当てはまらない」から「よく当てはまる」までの5段階に分けて評定 する。調査は2012年3月から年5月までほぼ2 ヶ月ほど続いた。日系企業は質問用紙550部を 配布して、482部を回収し、回収率は87.6%である。そのうち、有効な回答は425部であり、有 効回答率は88.1%である。米国系企業は質問用紙200部を配布して、185部を回収し、回収率 は92.5%である。そのうち、有効な回答は173部であり、有効回答率は93.5%である。統計方 法は記述統計、独立したサンプルT検定を用い、統計分析はExCe12003とSPSS17.0を用いて 完成した。

四、統計結果

1、日米企業従業員の職場ストレスの基本状況 表 4 日米企業従業員の職場ストレスの基本状況(n=425+173=598) 変数/尺度 国別 サンプル数 平均値 平均偏差 平均値の標準誤差 仕事そのもの 日系 425 3.002 1.0034 .0487 米系 173 3.482 1.0629 .0808 役割の曖昧さ 日系 425 2.027 .9653 .0468 米系 173 2.353 .9650 .0734 役割の葛藤 日系 425 2.776 .8786 .0426 米系 173 2.825 .8720 .0663 人間関係 日系 425 2.094 .8380 .0406 米系 173 2.504 .8540 .0649 組織構造・風土と キャリアアップ 日系 425 3.109 .9051 .0439 米系 173 2.719 .8373 .0637 職場ストレス 日系 425 2.698 .6463 .0314 米系 173 2.750 .6624 .0504 表4は中国における日米企業の職場ストレッサーの全体状況および各下位尺度の基本状況を 示したものである。表から分かるように、中国における日米企業の従業員の職場ストレッサー

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の平均値は中央値の3より低く、全体的にはやや低いレベルに置かれている。具体的な尺度を みると、平均値が3以上の尺度は組織構造・風土とキャリアアップ(3.109)と仕事そのもの(3. 002)であり、そのうち、組織構造・風土とキャリアアップの平均値が最も高い。さらにキャリ アアップの2項目を抽出して計算した結果、平均値が3.184であり、中国における日系企業の 従業員が感じる最大な職場ストレスはキャリアアップに由来することが示された。一方、中国 における米国系企業の従業員の職場ストレッサーの平均値も中央値の3より低いが、職場スト レス全体において日系企業よりやや高いことが示された。平均値が3以上の尺度は仕事そのも のだけであり、3.482である。米国系企業の従業員が感じる最大な職場ストレスは仕事そのも のに由来することが示された。 2、日米企業の従業員の職場ストレスの差異 表5は日米企業の従業員が職場ストレッサーにおける独立したサンプルのT検定で検証した 結果である。表から分かるように、中国における日系企業と米国系企業の従業員は職場ストレ ッサー全体において、国別による有意な差が見られていない。一方、各尺度において、役割の 葛藤のP=0.536>0.05以外に、他の尺度はともに0.05より小さい(12)。役割の葛藤以外の尺度 において、日系企業の従業員と米国系企業の従業員が感じた職場ストレスに有意な差が確認さ れた。そのうち、仕事そのもの、役割の曖昧さ、人間関係の尺度において、米国系企業の従業 員が感じるストレスが日系企業の従業員より高いのに対し、組織構造・風土とキャリアアップ の尺度において、日系企業の従業員が感じるストレスが米国系企業の従業員より明らかに高い ことが明らかにされた。 表 5 職場ストレスが国別による独立変数 T 検定結果(n=425+173=598) 等分散性のための Levene 検定 2つの母平均の差の t 検定 F Sig. t df Sig.(双側) 仕事 そのもの 等分散を仮定する 2.989 .084 -5.215 596 .000 等分散を仮定しない -5.090 303.246 .000 役割の 曖昧さ 等分散を仮定する .365 .546 -3.735 596 .000 等分散を仮定しない -3.736 319.196 .000 役割の 葛藤 等分散を仮定する .068 .794 -.619 596 .536 等分散を仮定しない -.621 321.256 .535 人間関係 等分散を仮定する .740 .390 -5.398 596 .000 等分散を仮定しない -5.355 313.705 .000 組織構造・風土と キャリアアップ 等分散を仮定する 2.749 .098 4.879 596 .000 等分散を仮定しない 5.042 343.018 .000 職場 ストレス 等分散を仮定する .118 .732 -.880 596 .379 等分散を仮定しない -.871 312.121 .385

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五、結果分析

本研究は在中日系企業の従業員の職場ストレッサー状況を調査した。研究結果により、在中 日系企業の従業員の職場ストレス全体はやや低いレベルに置かれている。具体的な尺度を見れ ば、組織構造・風土とキャリアアップおよび仕事そのものが中値の3より高い以外に、他の尺 度の平均値はいずれも3以下である。調査により、在中日系企業の従業員が感じる最大な職場 ストレッサーはキャリアアップに由来する(3.184)ものであり、次に組織構造・風土に由来す るものである。中国における日米企業の従業員の職場ストレッサーの相違を比較した結果、中 国における日米企業の従業員は職場ストレッサー全体において顕著な差異が示されていない が、具体的な尺度において、役割葛藤以外に、いずれも有意な差があることが明らかにされた。 中国における米国系企業の従業員が感じる最大な職場ストレスは仕事そのものに由来するもの である。仕事そのもの、役割の曖昧さ、人間関係の尺度において、米国系企業の従業員が感じ るストレスが日系企業の従業員より高いことに対し、組織構造・風土とキャリアアップの尺度 において、日系企業の従業員が感じるストレスが米国系企業の従業員より明らかに高い。 以下はそれぞれ差異が大きい4つの尺度から分析を行う。 1、日米企業の従業員の職場ストレス差異の分析 (1)仕事そのもの 前記の日米企業の対中投資の動機と産業構造の特徴から分かるように、日本企業の対中投資 において、製造業は始めから大きな比重を占めている。これは日本企業が製造業において強い 国際的な競争力を持つことに関係付けられている。藤本隆弘(2003)は製品のアーキテクチャ 理論に基づき、日本の製造業は長期的な国際競争力を保つのは、自動車や小型家電製品を代表 とするインテグラル型製品が日本企業が持つ組織能力と「相性がいい」からであると指摘した。 言い換えれば、日本企業が持つ組織特性はインテグラル型製品の製造に長けていることを決定 付けた。一方、アメリカ企業はモジュール型、オープン型アーキテクチャの設計情報、とりわ け複製の容易なデジタル情報を、書き込みやすい媒体にコピーして大量に流通させる産業を得 意とする、例えばパソコン、パッケージソフト、インターネットビジネス、新金融商品などが 挙げられる(13)。これもアメリカ企業が長けた組織能力によって決められた。そうすると、日 米企業はそれぞれどんな組織特性を持つであろう。日米企業の経営方式は従来からその明らか な違いが知られている。 表6に示すように、日米の経営システムは組織の参加条件から、意思決定と伝達、雇用、昇 進、賃金制度まで大きな違いが示されている。安定雇用を重視する日本企業が得意としてきた 内部協調能力、濃密なコミュニケーション、現場重視の相互調整の能力、問題解決能力および 改善能力がインテグラル型製品の製造においてフルに活かされやすい。一方、アメリカ企業が 長けた戦略構造力や、急速な展開能力がモジュール型製品分野でフルに活かされやす い(14)

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表 6 日米経営システム比較 システムの構成要素 日本の経営システム アメリカの経営システム 文化的特色 高コンテクスト社会 低コンテクスト社会 組織参加の条件 全人格的参加 機能的参加 意思決定と伝達 集団志向――集団責任 個人志向――個人責任 雇用慣習 長期雇用 短期雇用 昇進経路 ジェネラリスト志向 スペシャリスト志向 業績評価と基準 不明確、非公式的評価基準、 年功序列 明確、公式的評価基準、頻繁な評価と昇進 賃金制度 年功的賃金制 能力主義の職務給 統制のタイプ 行動的統制 成果による統制 出所:安室憲一(1981)、「日本的経営と現地化政策」、『日本企業の多国籍的展開』、有斐閣、122ペー ジ。 Hofstede(1980、 1991)の国民文化次元理論では、集団主義対個人主義は日米両国の国民文 化において最も著しい差異であると考えられている。これは日米の経営システムにも多大な影 響を与えるに違いない。個人至上主義のアメリカの企業では、詳細な職務記述書があり、従業 員に明確な職務内容や責任範囲が付与される。積極的に個人の努力と成果を評価するととも に、個人の意思決定と個人責任も強調されている。従業員がノルマや職務目標を達成するため に、常に仕事に没頭し、自己の責任範囲内の職務上にミスが犯さないように気をつけなければ ならない。そのため、仕事そのものに由来するストレス感が大きい。一方、集団主義の日本企 業では組織内の調和が重視され、個人の職務部分としてはっきりした部分があるが、明確に決 まっていない部分もある。組織メンバーは常に周りの人の行動に配慮し、互いに調整しながら 状況に応じて柔軟に仕事を進めるのが普通である(15)。また、従業員に対する評価も個人の特 殊な能力だけではなく、他人や他部門との協調能力も含めて総合的に評価し、部門全体の責任 と業績が強調されている。従業員同士が互いに協調して共同で仕事の業績を向上させることが 望ましいとされる。こんな中、従業員個人にとっては、仕事そのものに由来するストレスが小 さくなる可能性がある。 また、近年来、中国の投資環境の変化や消費市場の拡大により、日本企業の対中投資に明ら かな変化も表されてきたものの、加工型の組立て製造業を中心に行われる本質が変わっていな い。今回の調査から見れば、日系企業で生産運営の仕事に従事する従業員が占める割合は35.3 %であるのに対し、米国系企業で同類の仕事に従事する従業員が占める割合は 17.9%しかな い。これに対し、米国系企業で研究開発の仕事に従事する従業員が占める割合は35.8%であり、 日系企業の12.5%より遥かに上回っている。委託加工をメインとした製造業の仕事は開発・設 計されたものをマニュアル通りに作ればよいため、往々として単一で、重複で、進歩性に欠け るイメージが強い。それは直接現場で作業することがない、オフィスに居る従業員も同じよう

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に感じるだろう。それゆえ、在中日系企業の従業員の感じる仕事そのものに由来するストレス がやや低いことは、単一で充実感が感じられない仕事の特徴によって引き起こされる可能性が ある。 (2)人間関係 人間関係について、前記したように、日本企業は組織の内部調和を重要視する傾向が強く見 られるが、これは日本企業の意思決定方式に著しく反映されている。その代表的なものとして 稟議制度が日本的経営の特徴の一つとなっている。企業は経営戦略を決定する際に、経営者層 の独断専行ではなく、下位者や関係者全体の衆知を集めて有益な意見を広く吸収した上で決済 するなどしている。これはアメリカ企業慣行のトップダウン方式と正反対である。このような ボトムアップ方式は事前に根回しなどの時間がかかるため、状況に応じた素早い対処が難しい と批判される一方、トップダウン方式に比べ、事前に大多数の合意を得るため,決済が形成さ れた後の協調コストが大幅に低下し、決定した案が円滑かつ迅速に実施できるという利点があ ると評価される。 また、日系企業の内部は個人間、部門間の協調関係を重視し、個人の業績だけではなく、部 門全体の責任と業績を強調するため、より調和的な人間関係が生まれやすい。部門全体の業績 はみんなが共同に協力してはじめて達成できるからである。例えば退勤後、部門内に仕事が完 成していない従業員が居れば、他の同僚も自発的に残り手伝いをする集団的なサービス残業は 慣行となっている。これは日系企業の従業員が感じる人間関係に由来するストレスが小さい理 由でも言える。一方、能力や競争を強調しているアメリカ企業では、ある程度従業員の間の相 互サポートの関係を薄め、企業内部の調和的人間関係の形成に有利ではない。これは中国にお ける米国系企業の従業員が感じる人間関係に由来のストレスが日系企業より著しく大きいこと から分かる。 (3)組織構造・風土とキャリアアップ 集団主義対個人主義は日米企業の報酬や昇進、人事考課制度にも大きな影響を及ぼす。アメ リカの企業では、個人の尊厳と価値を尊重し、個人の努力と成果を評価する。企業は出来る限 り従業員に自由度が高い職場環境を作り出し、創造的に職務を遂行するチャンスを与える。才 能があって職務レベルが要求される基準に達成すれば、誰でも昇給、昇進のチャンスが付与さ れる。アメリカ企業では、能力がある人が短期内に昇進されることは稀ではない。 一方、集団主義の日本企業では従業員に対して評価する際に、個人の能力だけではなく、勤 務年数や資格などの年功的な要素も考慮され、いわゆる年功序列的な色彩が濃い。更に組織内 部の「和」を維持するために、同一年齢層(勤続年数)の従業員の賃金格差が少なく、昇進につ いても、先輩が後輩より早く出世することも合理的に考えられ、昇進スピードがアメリカ企業 より遅いのは一般的である。さらに、委託加工をメインとする製造業は、現場の従業員の賃金 が欧米企業に比べて競争力を有していない。今回の調査では、中間管理職や経営層 (16)が多く

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占めている日系企業の従業員と一般社員が主流である米国系企業の従業員との激しい賃金差か ら明らかにされる。また、評価制度について、上司の好き嫌いが基準となるといった制度上の 不備、評価基準があっても公表しない、或いは結果のフィードバックをしていないなど、客観 性、公平性、透明性に欠けている問題点もしばしば指摘されている。 今回の調査結果から見ると、中国における日系企業の従業員が感じる組織構造・風土に由来 する職場ストレスがやや高く、米国系企業の従業員より明らかに高いことから、中国の現地ス タッフが日系企業の典型的な年功序列の賃金、昇進および評価制度に対する多少の違和感が感 じられる。 また、日系企業の中国人従業員がキャリアアップに対するストレス感が高いことから、ある 程度日系企業の人材現地化の遅れにつながると考えられる。従業員に対して明確なキャリアパ スがなく、中間管理職以上のポストは本社から派遣された日本人に占められる傾向が強い。こ れについて、今回の個別インタビューにおいても最も言及されたものである。「いくら頑張っ ていても、上に行く見通しがない」、というキャリアアップに覆われた見えない「ガラスの天 井」が日系企業に多く存在している(17) (4)役割曖昧 今回の調査では、中国における米国系企業の従業員が感じる役割曖昧に由来するストレスが 日系企業の従業員より明らかに高いことが分かった。これは当初の予想から多少外れたものと なっている。企業内部の調和と仕事上の相互協調を慣行としてきた従来の日本企業では、「柔 軟な職務構造」と呼ばれる職務の曖昧さを特徴とする。即ち、各人の仕事の分担が不明確で、 どこで自分の仕事が終わり、どこから他人の仕事が始まるのか分からないと言われている。同 時に、スペシャリストに対し、日本企業はゼネラリストの人材育成により力をいれ、人事考課 と評価の面において、アメリカ企業は「職務中心」に評価するのに対し、日本企業は「職能中 心」に評価するイメージが強い。どう見ても集団責任が問われる日系企業のほうが、従業員が 感じる役割の曖昧さに由来するストレスが大きいはずである。 今回の調査が逆な結論が得られたことについて、日系企業の調和な人間関係から解釈可能で ある。Ivancevich & Matterson(1980)によれば、ストレッサーとして重視すべきであるのは、 仕事よりも人間関係のほうである。役割関係がストレッサーに転化するのは、このような人と 人との関係が、互いに意図し期待するようにすすまないこと、場合によっては、相対すること もあることから発生する (18) 日本企業における職務という概念は、特定個人の分担がはっきりしている領域と、特定の個 人の分担が明確になっていない「境界的な」領域、または「相互依存」の領域からなっている。 日本の組織では、明確な個人の分担領域は限られ、誰の分担がはっきりしない相互依存の領域 が広い。相互依存の領域を現実に誰が分担するかは、状況に応じて融通無礙に決められる。上 位の人または同僚との相互依存領域に間隙が生ずると思われる時には自発的・弾力的に補完行 動をとることが望ましいとされる。そのためにはたえず周囲に対して気配りしていなければな

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らない。狭い自己の領域だけに閉じこもる消極的な「気の利かない」人間はダメなのである。 アミーバのように状況即応的な、相互補完的な役割行動が期待されている(19)。日本企業のこ のような曖昧な職務と役割の設置は集団労働という大前提に基づいて築かれたと言える。組織 の内部に他者への配慮、互いにサポートする雰囲気が形成された場合に役割の曖昧に起因する 職場ストレスは低減されるであろう。即ち、従業員が、自分の職務範囲内の仕事以外に、周囲 の同僚の行動に配慮し、いつでも彼らへサポートするとともに、自分も仕事上の問題にぶつか るときに、いつでも同僚からの援助が得られる、という覚悟ができた上で、職務内容と職責範 囲の曖昧さを真のストレスと見なすのは難しい。逆に気楽に受入れる。日本企業のこのような 和を重視する組織風土と雰囲気は、従業員の役割の曖昧さに由来するストレスを緩和するモデ レータとなっている。

六、今後の在中日系企業の事業展開に向けて

以下は前記の研究結果と分析を踏まえた上で、これからの在中日系企業の事業展開と人材マ ネジメントに向けて提言しようと思う。 1、中国の投資環境の変化に応じる投資戦略の再検討 まず、前記分析から、日系企業の対中投資の産業構造の特徴から従業員にやりがいがある仕 事を与えられず、および競争力に乏しい賃金制度、そしてキャリアアップを阻む「ガラスの天 井」につながるとともに、中国の従業員が日系企業のこれらの組織特性に対して欧米企業より 大きな違和感を感じることが明確にされた。そのため、在中日系企業、或いはこれから新しく 中国に進出する日系企業では、投資する業種やそのレベルの更なる見直しが必要であろう。 中国がWTO加盟して12年目に入っている現在、経済の高度成長に伴う経済総量が急速に拡 大しつつあるが、国内産業構造のレベル低下問題も次第に顕在化されてきた。そのため、中国 政府はさまざまな手を打ち、中国の産業構造を調整し、経済発展モデルを転換しようと見せて いる。中国でのビジネス環境、いわゆる外資系企業にとっての投資環境もさまざまな変化が現 れてきた。例えば最低賃金の引き上げ、企業所得税の一本化、加工貿易禁止品目の追加措置、 外資優遇政策(20)の調整など、これから外資系企業を取り巻く競争環境がますます激しくなっ てきた。単なるコスト削減や生産資源目当ての投資方式は中国で持続的に発展していくのが難 しい。要するに、日系企業はこれから中国で持続的な発展を求めようとすれば、投資する業種 やそのレベルアップなどの投資戦略は見直さざるを得ない。 2、従業員に魅力的な人事制度を構築する 1に基づき、中国人の従業員が組織構造・風土およびキャリアアップに由来するストレス感 がやや高いことに対し、日系企業はさらに従業員に魅力的な人事制度を構築するために力を入 れなければならない。例えば、世間相場、個人の業績に連動させるメリハリのついた報酬制度、 従業員のキャリアアップを提示し、「いつまでに」、「どのポストを」などの基準を明確化にする

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昇進制度、公正性、客観性、透明性が担保された人事考課制度などが挙げられる。 積極的に人材現地化の方針を推進し、優秀な若年従業員を中間管理職、さらに経営層幹部に 大胆に抜擢、登用し、従業員により広い「発展空間」を作る。人材現地化による現地社員に対 する権限委譲の拡大や、積極的な人材育成を並行して行うことが望ましい。とくに人材育成は 従業員のキャリアアップに重大な意味を持ち、適材適所適時の人材配置を実現するために、ス キルアップの機会を提供することが有効である。育成の方法としては、OJTをベースとしなが らも、Off-JTを適宜組み合わせる。リーダー層を中心とした日本本社での研修・実習は、企業 グループ全体の方向性を理解させ、事業への参画意識を促す上で役立つ。このような従業員の キャリアアップに対する施策は、今回の調査において大多数を占めている30歳以下、勤務年数 が5年以下の若年従業員にとって最も重要であると言えるであろう。 3、日本的経営の強みを活し、従業員に付加価値を創造する 今回の調査に日系企業の従業員が役割の曖昧さ、人間関係に起因する職場ストレスが欧米企 業の従業員より明らかに低いことから、日本的経営の強みも一側面から反映されている。日本 的経営の強みと言えば、従業員を重視した「人間本位」の経営理念、日常的なコミュニケーシ ョン(報・連・相)による協働意識の醸成、現場の問題解決能力向上、長期的視野に基づく人 材育成、および累積的改善能力などが挙げられる。これらの特徴は中国人従業員の目からみる と、日系企業が備える魅力的なところである。 日系企業はこれらの日本的経営の強みを中国人の従業員に自然に受入れられる組織の仕組み に溶け込むべきである。例えば、従業員のチームワークや組織力といった協働意識を育成する ために、チームワークによる成果を個人に還元されることを明示し、同時に、個人に対する評 価に、チームワークや、部下に対する指導、或いは同僚や他部門との協調などの項目を入れて、 評価制度に組み込むことが有効であろう。要するに、組織の中に、相互協働、調和的な雰囲気 を形成し、かつ一つの組織風土として従業員の心に根を下ろすことが重要である。

おわりに

本稿は中国における日系企業の従業員の職場ストレスについて、現地調査を行った。全体的 に見て、在中日系企業の従業員が感じる職場ストレスはそれほど高くなく、やや低いレベルに 置かれ、特段の問題が顕在かしているわけではない。一方、中国における日系企業の人材の採 用や確保の面において欧米企業の遅れをとることから、在中米国系企業の従業員のデータと比 較した。結果により、職場ストレス全体において顕著な差異が見られていないが、具体的な次 元をみると、仕事そのもの、役割の曖昧さ、人間関係、組織構造・風土とキャリアアップに有 意な差が確認された。次に本稿は日米両国のそれぞれの組織特性と対中投資の動機や産業構造 の特徴を組み合わせながら、その差異が生じる原因の分析を試み、かつ研究結果と分析を踏ま えた上で、これからの在中日系企業の事業展開と人材マネジメントに向けて提言した。 しかし、一回の中規模の限定付アンケート調査だけで中国における日米企業の従業員の職場

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ストレス全体的な状況、および両者の相違点を把握するのは不十分であると思う。これからの 研究課題として、研究サンプルと研究範囲の拡大、職場ストレスと他の変数間の関係に対する 研究、職場ストレスの異文化研究の深化などが挙げられる。今後は、本研究で得た成果を土台 に、上述の残された研究課題を取り込んで、更なる努力を積み上げて研究を進めていきたいと 考えている。

*謝辞 

本論文は筆者の博士学位申請論文『在中日系企業における職場ストレスと職務満足感―組織 サポートの視点から』から抜粋、加筆したものである。論文の完成にあたって、熱心に指導し てくださった大庭先生、貴重な助言をしてくださった土屋先生、さまざまな情報を提供してく ださい、丁寧に査読をしてくださった金山先生に対して、心よりお礼を申し上げます。

(1) 改革雑誌社特定テーマ研究部、「日本对华直接投资的重要历史阶段、产业特征及其下一步」、(日本 対中直接投資の重要歴史段階、産業特徴及び次のステップ)、『改革』雑誌、2011年、6ページ。 (2) 『2011年中国貿易対外経済統計年鑑』による。 (3) 小杉正太郎(2009)、『企業内メンタルヘルス・サービスの理論と実際』弘文堂、42ページ。 (4) 代表的な職場ストレスモデルとして、French&Rodgers(1974)による個人-環境フィットモデ ル、 Cooper&Marshall(1976)による多要因モデル、Karasek(1979)による仕事の要求度-コント ロールモデル、Lazarus(1984)による交互作用に基づく認知的評価モデル、米国職業安全保健研究 所(NOISH)(1988)によるNOISHモデルなどが挙げられる。 (5) 小杉正太郎(2002)、『ストレス心理学―個人差のプロセスとコーピング』、川島書店、134ページ。 (6) Cooper, C. L & Marshall, J (1978), Understanding Executive Stress, London: Macmillan Press

Ltd. (7) 趙偉晶、「美日跨国公司对华直接投资比较分析(日米多国籍企業対中直接投資の比較分析)」、『哈尔 滨商业大学学报(ハルビン商業大学学報)(社会科学版)』2010年第6期、42ページ。 (8) 高愛武、储海燕、「美日对华直接投资的比较研究(日米対中直接投資の比較研究)」、『经济与金融』、 2003年(8)、31 ~ 34ページ。 (9) 同(7)。 (10)許小東、孟暁斌(2004)、『工作压力―应对与管理(職場ストレス―対応と管理)』、航空工业出版 社、79 ~ 84ページ。 (11)本研究の研究対象となる日系企業と米国系企業は、中国で独資設立および合弁設立された日本と 米国の企業を含み、その中、合弁企業における日本と米国の出資比率はいずれも50%以上を超えて いる。 (12)独立変数 T 検定では、2 つのグループで分散が等しいのか否かの Levene の検定をまず見る。 Leveneの検定の結果は、もし有意確率が5%(0.05)以上ならば等分散であると判断して、上側の 「等分散を仮定する」行を見る。一方、有意確率が5%(0.05)以下ならば分散が異なると判断し、「等 分散を仮定しない」行を見る。表5において、役割の曖昧さ以外に、有意確率が全て0.05以上である ため、上側の「等分散を仮定する」行を見る。0.05よりも小さな値であるため、有意差があると判断 できる。一方、役割の曖昧さは有意確率が0.05以下であるため、下側の「等分散を仮定する」行を見 る。0.05よりも大きな値であるため、有意差が認められていない。

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(13)藤本隆宏(2003)、『能力構築競争』、中公新書、95 ~ 96ページ。 (14)同上。 (15)石田英夫(1994)、『国際人事』、中央経済社、8ページ。 (16)日系企業で生産運営の仕事に従事する従業員が多いことから、中高層管理職に対する認識のずれ があると思われる。例えば、作業場の主任、一箇所の生産現場の責任者など、自分が中高層管理職だ と思い込む人が多いが、実際の意味の中高層と食い違うところがあるかもしれない。 (17)今回の日系企業の13人の従業員に対する個別インタビューにおいて、最も多く挙げられた職場ス トレッサーとして、報酬制度(低い賃金)、昇進制度(遅い昇進)である。

(18)Ivancevich, J. M. & Matterson, M. T. (1980), Stress and Work, Glenview, IL: Scott, Foresman. (19)石田英夫(1985)、『日本企業の国際人事管理』、日本労働研究機構。

(20)徐雄彬(2010)、「在中日系企業における中国人管理職の確保・活用に関する一考察」、『桜美林経 営研究』、創刊号。

参考文献

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石田英夫(1994)、『国際人事』、中央経済社。

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許小東、孟暁斌(2004)『工作压力―应对与管理』、航空工业出版社。

Cooper, C. L & Marshall, J, Understanding Executive Stress, London: Macmillan Press Ltd, 1978. 小杉正太郎(2002)、『ストレス心理学―個人差のプロセスとコーピング』、川島書店。 小杉正太郎(2006)、『ストレスマネジメントマニュアル』、弘文堂。 小杉正太郎(2009)、『企業内メンタルヘルス・サービスの理論と実際』、弘文堂。 白木三秀(2005)、『チャイナ・シフトの人的資源管理』、白桃書房。 柴田弘捷(2011)、「在中国日系企業の人事管理(1)」、『専修人間科学論集(社会学篇第1号)』。 徐雄彬(2010)、「在中日系企業における中国人管理職の確保・活用に関する一考察」、『桜美林経営研 究』、創刊号。 鈴木岩行・黄八洙・張喬森・尤艶輝(2005)、「中国における外資系企業のコア人材育成―日系企業と 米国・台湾・韓国系企業との比較を中心に―」『和光経済』2005 年3月、第37 巻 第3 号、和光 大学社会経済研究所。 関満博(2003)、『現地化する中国進出企業』、新評論。 薛軍(2008)、『跨国公司全球一体化条件下的当地化战略研究』、人民出版社。 張英莉(2007)、「在中国日系企業の人材マネジメント-現状・問題点・課題―」、『埼玉学園大学紀要』、 第7号。 中村良二(2011)、「労働から見る中国社会の変容」、『法学研究』84巻6号。 長谷川啓之(2006)、「中国進出日系企業の現地化問題とその背景要因:ヒトの現地化を中心として」、 『商学集志』Vol.76、 No.1、日本大学商学研究会。 日本経済団体連合会、「日本企業の中国におけるホワイトカラー人材戦略―優秀人材の確保と定着こそ が成功の鍵―」、2006年5月。 馬成三(2000)、『中国進出企業の労働問題』、JETRO。 馬越恵美子(2000)、『異文化経営論の展開』、学文社。

(17)

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藤本隆宏(2004)、『日本のもの作り哲学』、日本経済新聞出版社。

表 2 職場ストレッサー各尺度の操作性定義 職場ストレス尺度 尺度内容 仕事そのもの 仕事の量、難易度、仕事の要求など仕事自身の特徴によるストレス 役割の曖昧さ 業務内容の曖昧さや仕事に対する権限の不明瞭によるストレス 役割の葛藤 職場内の立場や異なる役割が期待されるなどによるストレス 組織における 人間関係 上司、同僚との人間関係、職務上の協力・サポートなどによるストレス 組織構造・風土と キャリアアップ 組織のメカニズム、管理スタイル、および従業員のキャリアアップによるストレス 2、調査対象 本研究は、
表 6 日米経営システム比較 システムの構成要素 日本の経営システム アメリカの経営システム 文化的特色 高コンテクスト社会 低コンテクスト社会 組織参加の条件 全人格的参加 機能的参加 意思決定と伝達 集団志向――集団責任 個人志向――個人責任 雇用慣習 長期雇用 短期雇用 昇進経路 ジェネラリスト志向 スペシャリスト志向 業績評価と基準 不明確、非公式的評価基準、 年功序列 明確、公式的評価基準、頻繁な評価と昇進 賃金制度 年功的賃金制 能力主義の職務給 統制のタイプ 行動的統制 成果による統制 出所:

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