Ⅰ. はじめに
今日の企業において収益を上げる事業だけではなく、間接業務の改革は不 可欠であるが一方で、業務プロセスを再検討、固定化する人材の再配置、コ ンプライアンス強化などそこには課題も数多い。 間接業務は日標や成果が不明確であり既得権の存在や、過去の業務のやり 方を慣習的に踏襲して行われる傾向があり、大幅な改革が難しい業務領域で あり、既存組織や現場からの抵抗を回避して改革を進めるための何らかの手 法が不可欠となっている。その中でシェアードサービスは、有力な解決手段情報システムを活用したシェアードサービス
子会社の実際と課題に係る研究
Ⅰ. はじめに Ⅱ. シェアードサービスの実際と情報システム Ⅲ. IT化の加速とシェアードサービスの課題 Ⅳ. 調査手法及び仮説 Ⅴ. 調査の分析結果 Ⅵ. 分析結果の考察と結論 Ⅶ. むすび 目 次坂 田 淳 一
シェアードサービスとは具体的には、「複数の組織で実施している間接業 務を1箇所に集中させその組織を独立採算化させて、顧客にサービスを提供 する企業変革の手法」とされている。(アーサーアンダーセンビジネスコン サルティング〔1999〕)例えば,対象となる具体的な業務としては、経理 部の経費処理、総務部門の福利厚生業務、人事部門の給与計算業務、情報シ ステム部門のITの運用・管理業務などである。これらは、売上げを挙げる ことを目的としている現業部門を支援する業務として必要であるが、その内 容は固定化されたものが多く画一的と言える。近年では、これらの業務の生 産性向上が経営層から求められるようになり、シェアードサービスが積極的 に取り入れられるようになったのである。
Ⅱ. シェアードサービスの実際と情報システム
シェアードサービス(Shared Services)を歴史的に見ると、日本企業で は2000年前後に盛んに取り入れられるようになったのだが、アメリカ企業 では、1980年後期頃から既に見られていた組織・業務形態である。2 特にア メリカでは1990年代に入って、情報システムの普及と伴に急速に普及して 行ったが、なぜ日本では2000年前後になってようやく、企業がシェアード サービス化を本格的に進めようとしたのだろうか。この点につては、幾つか の理由を挙げることができる。1つ目は、1997年の独占禁止法の改正によ り、純粋持ち株会社設立が可能になったことである。これをきっかけに大企 業を中心に持ち株会社制に以降し、事業を実施せずグループ傘下企業の株 式を保有することにより事業統括を行うという統治手法が広まって行った。 2つ目は、1990年前半のいわゆるバブル崩壊以降、多くの企業で製造部門、 物流部門、販売部門の効率化がなされ、事業部門のスリム化が概ね行き渡り 総務、財務、人事などに代表される間接部門の効率化に目が向けられる様に なったことが挙げられる。そして、3つ目の理由として、1990年代から企業 においてIT(情報技術)化による、組織・事業の革新が一般化して行った ことが挙げられる。大企業では情報システムの導入・利活用により事業実施 を効率化させ、それを実行しやすい様に組織全体を最適な形で再編成するこ とが積極的に行われる様になったのである。 日本では2000年前後にこれらの流れがほぼ同時に起こり、シェアードサー ビスが盛んにとりいられるようになったと考えられる。シェアードサービスの定義を明確にするならば「グループ経営の視点か ら、社内・企業グループにおいて分散して行われている間接業務をある社内 部門或いは子会社に集中しそれが本当に必要な業務なのか、また効率的なプ ロセスで行われているのかと言う視点から業務の見直しを行い、さらに業務 を標準化してマネジメントを行う手法である。また、シェアードサービス を実施する組織をシェアードサービスセンター(SSC)と言う。」(園田 〔2005〕)が明確であろう。SSCについては、間接部門が本社内に専門組織 として設置されるか、もしくは分社化され、グループ内企業から間接業務を 受託する形態が取られている。 一方で、企業の業務効率化の手法としてアウトソーシングは一般的であ る。社内における間接業務を外部に委託することがアウトソーシンであり、 IT関連業務を中心に規模の大きな市場に成長していると考えられる。アウ トソーシングでは元来、情報システムの保守・運用がその対象として中心的 であったのだが、適応される業務範囲は拡大を遂げ現在では、経理、人事な どの業務分野に及んでいる。アウトソーシングの実施によって、業務実施を 社員の手から外部の別会社の社員に変更し業務を外部に任せることになる。 アウトソーシングも間接業務の効率化・コスト削減と言う点では、シェアー ドサービスと類似しているが、シェアードサービスは、「間接部門に含まれ る業務だけを集約して、外部機関を含まない。」(園田〔2006〕)とされ ている。両者の差異を明確に述べているものとして、自社のグループ内もし くは本社内に設けるケースを「シェアードサービス」と呼び、集めた業務を グループ外に出すのを「アウトソーシング」と呼ぶ。」(澤田〔2006〕) が明解である。また、形式ではなく、ビジネスにおける戦略的視点から差異 を明示した、「(シェアードサービスは、)単純なアウトソーシングとは異 なり外注による単なるコスト削減ではなく、クライアント企業の業務プロセ スの根本的革新(BPR:Business Process Reengineering)3 にまで踏み込 み、継続的なコスト削減を目指したアウトソーシングであるため、こうした
企業内業務の最適化を図ると言う目的を達成するためには、シェアードサ ービ実施の3つのプロセスが重要である。具体的には、①「業務集約」、② 「業務再検討」、③「業務標準化」であり、これらが達成されるならば、グ ループ企業内に有益な価値がもたらされることになる。まず、①「業務集 約」によって業務が一貫したものになり、内部統制機能が強く働くことにな る。更にこれにより、間接業務の質が高まることが期待できる。そして、② 「業務再検討」では、いわゆる間接業務のリエンジニアリング的な意味を持 ち、業務プロセスの効率化を図ることが可能になり業務に費やす作業時間を 再検討することができる。最後に③「業務標準化」は、グループ内企業であ りながら運用によって異なる方法により処理していた業務を統一化・均一化 し、間接業務の生産性を向上させることが可能になる。この一連の流れによ って本社を中心としたグループ企業は、最適な間接業務実施を手にできると 考えられる。 一方で、シェアードサービス業務は、経営資源を集約し効率化する点で は従来からの業務の効率化とは差異はない。現状企業において、間接業務は コストでありグループ内では予算化がされており、その結果、非常に高い価 値をもたらす業務がたとえあっても、新たなコストが発生するのであれば実 施されない。しかしシェアードサービスの導入によって、間接業務部門はサ ービスの提供者になり、自社の現業部門を顧客として対価を得ることが可能 になる。つまり擬似的ではあるが、プロフィットセンターと同等の位置づけ に変わることが考えられる。これらが、間接業務部門において成果の可視化 に繋がり、社員の士気向上にも繋がると言う考え方取れる。グループ企業内 の経営革新と言う視点では、得難い価値である。 1980年代の中期以降、事業プロセスの革新を支援するツールとして、企 業において積極的なIT(情報技術)化への取り組みが始まった。その中心 は、情報システムの導入・運用であり、インターネットの商用化開始以降、 更にその傾向は著しくなって行ったと考えられる。情報システム活用の背景 には、コンピュータによる業務の効率化だけではなく経営組織全体の最適化 が存在しており、人事や経理業務などの間接業務だけではなく、資材調達や 生産計画、サプライチェーンの管理にまでに及び、企業自体をITによって 統制する仕組みの構築がコンピュータシステムを軸に求められる様になった ことが要因と言える。これに伴い企業では、モノやサービスの流れと同様 に、情報の流れを管理し価値を届ける仕組みが整備されて行った。
1990年代の後半大企業の事業活動においては情報システム活用が不可欠と なり、導入される情報システムは巨大化の一途を辿って行った。特に、新た なシステムを導入する場合はコストが嵩むため、実現する業務改善の明確化 や、備えるべき機能を明確化するための要件定義が外部の情報専門企業 (ITベンダー)を交えて行われるようになった。それまでは企業内で、情 報システムの開発・運用案の策定は情報システム部門が実施していたが、 2000年前後頃から必要となる業務の殆どもしくは、全てをITベンダーにア ウトソースすることが一般的になって行った。また同時に、大企業に良く見 られた形態だが、自社の情報システム部門を子会社して別組織にすることが 流行して行った。この様に、情報システムに係る業務が積極的にアウトソー スされようになったことには、コスト削減の目的に加え技術的な知識・能力 の欠如を補う狙いがあったこと見られる。一方、内部統制やセキュリティ重 視の視点から、情報システムの導入・運用を完全にアウトソースするのでは なく、情報システム部門を独立させ子会社化する形態も増加した。情報シス テムのアウトソース形態はどの様であっても、日本企業におけるシェアード サービス化の進展の背景には、この様なIT業務のアウトソース化、別法人 子会社化が密接に関わったことは明らかと思われる。その中でも後者の情報 システム子会社の独立化が、シェアードサービス子会社(シェアードサービ スセンター SSC)に繋がって行った。業務インフラである情報システムの 運用・管理と同様に必要となるデータを専門的に、集約・処理・分析しよう とする考えがシェアードセンター設立に繋がって行ったと考えられる。実際 に、現存するシェアードセンターについてホームページ等で業務内容を確認 すると、情報システムの管理・運営と経理・人事等の間接業務の両方を手が けるとしている組織が多いように思われる。この流れをアメリカにおけるシ ェアードサービスの浸透と比較した場合、日本の特徴であると言えよう。 シェアードサービスの普及と、ITの発展が1990年前後のほぼ同時期であっ たアメリカでは、ITの導入と伴に組織のリエンジニアリングが行われ、特
① データ入力業務の効率化 ② 決済稟議等、承認業務の集約化 ③ データ処理を一括で行うことによるルーティーン業務の圧縮化 ④ 各業務フローの簡素化・標準化 ⑤ シェアードサービスの発展系(外販)
Ⅲ. IT化の加速とシェアードサービスの課題
2000年以降経営の効率化に加えて、ITを競合他社との競争優位に用いよ うとする流れが強く起こってきた。ITと言えども、売上げや利益への貢献 に迫られる時代が到来して来た。このためには、経営戦略とそれを支援する ITが整合的な最適化を目指す必要が出てきた。換言すれば、情報システム 自体の最適化と組織との最適化が同時に図られることが必要とされる時代が 到来したと言うことである。 しかしながら現在、大企業では情報システム部、情報システム子会社、外 部契約ITベンダー等に、様々なIT機能や管理責任が別々に分担されてい る。今後ITを戦略的に活用して行くためには、ITによる戦略実施やITサー ビス提供くらいに大別し、前者を本社のIT企画部門に後者はシェアードサ ービス会社に委ねる形が一つの理想型と考えることができる。特にシェアー ドサービス子会社に、システム化計画及び、ITサービス機能を集約するこ とでITのインフラや基幹システムの統合が加速し、本社のIT企画部門で練 られた戦略がいち早く実現できる環境が整うであろう。また、シェアードサ ービス会社では単なるIT管理だけではなく、グループ企業の戦略実現機能 を担うと言うことで業務実施へのモチベーションが高まることが予想され る。更にこれらの経験は、シェアードサービスのグループ外企業への外販、 つまりコストセンターからプロフィットセンターへの変換にも繋がって 行くと想定できるのである。 この結果多くの企業においてITの戦略的活用の加速を促すために、組織 におけるIT業務の分担を大胆に改革して行きたいところであるが、しかし ながら間接部門業務では現場の試行錯誤によって業務プロセスや手法の改善 を繰り返してきたため、長い時間を掛けてそれなりに工夫がなされていると 考えられ、簡単にシェアードサービス化による標準化に傾いて行かないこと が想定される。そこで、シェアードサービスの導入(化)にあたり想定される課題を整理 すると以下の項目となる。 ① 間接業務の標準化による非定型業務の処理への対応 間接業務には、予想以上に非定型(イレギュラー)な処理を要求する 業務が多い。これまでそれらは経験豊かな社員により、個別に処理さ れて来たが、シェアードサービス化により標準化された業務プロセス の中でいかに適切に処理するかが課題である。 ② ヒューマンエラーへのチェック機能 シェアードサービスの導入と間接業務のIT 化促進により、現場から データベース上にあるデータの確認作業が難しくなる。そのため、 それらをいかにチックするかが課題である。 ③ システム保守要員の確保と育成 シェアードサービス化に伴う情報システムの多様化により、システム 保守を行う社員が数多く必要となり、そのスキルも高度なものが要求 されるようになる。 ④ システム内部統制強化 コンプライアンス強化が重要視される中、情報システムに対する監査 は一層厳しくなる。情報システムの利便性を保ちながら、コンプライ アンスを強化する仕組みの構築が必要となる。 ⑤ 社員の業務意識の減退 シェアード化により、業務プロセスに断片的に携わることになってし まう社員が増加する。そのため社員の意識が低下する可能性がある。 この様に、ITを効率的に活用し現業部門の負担を低減し、更には戦略的 活用のきっかけを作るとされるシェアードサービス化(シェアードサービス 子会社の設立・稼働)は効率化以外の企業の目的達成にも必要と考えられる 様になっているが、一方で、その実際はまだだま明確ではない。とりわけシ
方、経営戦略を考える上では、実態を実際的に認識しておくことが大変重要 であると思われる。 そこで本研究では、上場企業を中心に既にシェアードサービス会社を持ち 事業を展開する企業を対象に書面調査を行い、その実態及び、課題等を改め て明確化し、シェアードサービス会社の今後のあり方に係るインプリケーシ ョンを明示したい。
Ⅳ. 調査手法及び仮説
1. 分析対象とした企業 本研究は、シェアードサービスを実施していると思われる日本の上場企業 を対象に郵送にて調査票を送付し、間接部門統括役員、もしくは部長に回答 を求めた。企業の抽出においては2013年東京商工リサーチデータベース (TSR-DB)2014年版を活用し、ホームページや公開されている財務諸表を 参考にし、実際にシェアードサービスを実施していると思われる企業(製 造業及びサービス業)から、親企業の単年度売上げ額が300億円以上の企業 約200社を選定し設問表を送付した。その結果、49社から回答を得た。その 中でシェアードサービス企業を有しており、設問に回答してくれた企業は 22社であった。 シェアードサービスを実施しているとして、回答をした企業は下記の通り である。2. 仮説 書面調査票(APPENDIX1参照)では、シェアードサービス企業の設立形 態・業務内容から、ITの活用、経営戦略に係わるとことまで様々なこと を聞いている。その中での仮説であるが、日本企業ではシェアードサービス 子会社はまだまだコストセンターで、プロフィットセンターへの移行は殆ど 出来ていないと思われる。(仮説1)その理由として、顧客である社外企業 とシェアードサービス子会社が情報システム基盤を整えて、データを共有す ることが簡単でないことを挙げることができる。情報システムを統一的に運 用することによって、シェアード事業は進展すると考えられるが、日本企業 においてはこの点が未だ十分ではないと推察する。また仮にシェアードサー ビス子会社がプロフィットを挙げている場合でも、本来の間接業務をアウト ソースされたのではなく、他の事業の請負により収益を上げていることが考 えられる。(仮説2)日本の大企業の子会社の事業を俯瞰すると、旅行業 や、保険業、オフィスデザイン業などを手がけている企業が多く、これらの 業務が本来のシェアード子会社と一つにされて事業を行っているケースが数 多いのではないかと思われる。 本研究では以降の調査結果の分析により、これらのことを明らかにして行 きたい。
Ⅴ. 調査の分析結果
表1 売上高と管理費の関係表(有効回答企業数9社) 図1 売上高と管理費の相関分析図 図1は、売上高と管理費の関係を分析した結果であるが、相関係数は0.5と なっており「管理費が高い」と「売上げも高くなる」と言うことが或る程度 伺える結果となっている。個別企業では、岩谷産業のシェアードサービス子 会社である「岩谷クリエイティブ株式会社」が、著しく高い管理費を必要と していることが特徴的である。しかし、同社の売上高は、管理費に相関して そう高くはない。すなわち、経営状態は決して良くないと考えられる。また特徴的な結果を持つ企業として、日東電工株式会社のシェアードビジネス子 会社である「日東ビジネスサポート株式会社」、「日東ロジコム株式会社」 を挙げることができる。管理費はある程度高い額になっているが、売上高も 同様に、5,500(万円)と高い数値になっている。2社の合計であることがそ の原因の1つではあるが、それを除いても、非常に高収益なモデル的シェア ードサービス企業であると言えよう。その他、個別企業では、キューピー株 式会社のシェアード子会社「ケイ・システム株式会社」が、低管理費であり ながら、ある程度の高い収益を上げており、管理費と売上高の関係から見れ ば上手く経営が行われていると言える。 表2 利益と管理費の関係表 図2 営業利益と管理費の相関関係
次に各社の利益を見てみる。そもそも、殆どの会社で利益が上がっていな い、もしくは、極めて少額の利益しか計上できていない。中でも、小田急電 鉄株式会社のシェアードサービス子会社である「株式会社小田急フィナンシ ャルセンター」は、利益がマイナスとなっている企業である。その他を見渡 しても、殆どの企業で管理費の方が大きく赤字であることがわかる。前掲し た、日東電工株式会社のシェアードサービス子会社である「日東ビジネスサ ポート株式会社」、「日東ロジコム株式会社」が利益を計上できている。ま た、東京計器株式会社のシェアードサービス子会社はである「東京計器テク ノボート株式会社」は、少ない管理費で利益を計上できている企業である。 他にも、株式会社竹中工務店のシェアードサービス子会社である「株式会社 クリエイト・ライフ」などは、売上高ではある程度の数字を計上しているが 利益を出すことは出来ておらず、シェアードサービス子会社の収益化が簡単 ではないことが明らかにできる結果となった。 表3 設立年月日と売上高の関係表
表4 利益と設立年月日の関係表 また、「設立年月日」と「売上げ」、「設立年月日」と「営業利益」共 に、相関係数はマイナスとなっており(相関グラフ割愛)、そこに特定の関 係は存在しないことが分かる。古くからシェアードサービスを行っている企 業でもごく最近設立された企業であっても、利益を上げることが出来ている 企業があればそうでない企業もあると言うことである。また、特筆すべき は、前掲した東京計器株式会社のサービス子会社である「東京計器テクノボ ート株式会社」が、利益をきっちりと上げることが出来ている、シェアード サービス化における成功企業であると言える。 表5 売上げと本社部門の体制の変化関係表(売上降順)
表6 利益と本社部門の体制の変化関係表(営業利益降順) 一方、「売上高が高いこと」と及び、「利益を上げられていること」と 「本社部門の変化」との明確な相関は見当たらなかった。体勢の変化として 特に、3番の「本社全部門の人員が削減できた。」と回答した企業は非常に 少ない。「利益を計上できること」と「本社管理部門の縮小ができた」の間 には、相関関係は存在しないと言える。
今回の調査では、多くの企業から、「シェアードサービス業務に活用する 情報システムに係る投資額」について回答が得られていないため傾向を捉え ることは難しい。その結果、外れ値の影響を受けた結果も散見できる。しか しその様な結果であっても特筆すべきは、日東電工株式会社のシェアードサ ービス子会社「日東ビジネスサポート株式会社」、「日東ロジコム株式会 社」及び、岩谷産業株式会社のシェアードサービス子会社である「岩谷クリ エイティブ株式会社」の結果である。これらの企業では、それほど多額でな いない情報システム投資額でありながら、効率的に売上げを上げることがで きている企業である。一方、キューピー株式会社のサービス子会社である 「ケイ・システム株式会社」は、多額の情報システム投資を行いながら、十 分な利益を上げることができていない企業の事例であると言える。シェアー ドサービス事業実施において活用する情報システムについては、多くの企業 で汎用的な情報システムを導入・活用している一方で、キューピー株式会社 の「ケイ・システム株式会社」等では、独自のシステムを開発・導入して情 報システム投資を行っており、その分投資額が高額になっている。 また、システム投資総額が回答されていないため詳細は不明であるが、株 式会社明治の「明治ビジネスサポート株式会社」、伊藤ハム株式会社の「伊 藤ハムヒューマンサービス株式会社」、日本通運株式会社の「日通ハートフ ル株式会社」などが独自の情報システム開発・導入を行っており、仮にこれ らの企業の成果内容を詳しく知ることができれば、シェアードサービスに係 る情報システム投資とシェアードサービス事業の成果との関係が、更に明ら かにできるものと思われる。 表8 情報システム導入形態×業務内容ロス集計(Q11)
この2つの要素の関係は極めて明確にプラスに出ており、「経理」、「財 務」など、“お金”に係わるシステムについては、独自で設計し・導入した ものを活用し、一方で、「人事」や「給与」などの現業業務は、市販の情報 システムを使っているケースが多い結果となっている。また、情報系で活用 するシステムは独自開発と市販はほぼ同数となっている。 表9 シェアードサービスに伴う情報システムの整備度合い(Q12) この分析は、シェアードサービス事業の体制を知るに大変重要な結果であ る。シェアードサービス事業では、情報システムの活用は取り分け重要であ る。特に本社とシェアードサービス子会社企業間の情報システム活用による 連携業務は、業務成功の要であろう。ここで明らかなことは、「システムの 共通化」、「利用コードの共通化」、「システムによる連携」、「帳票の電 子化」、「現場入力の促進」までは、概ね整備は行き届いている。その一方 で、システム投資による「業務の効率化」は未だ計られていないことが明ら かになっている。すなわち、情報システムを導入し事業実施のインフラは整
ついて、まだまだ改善(効率的実施)の余地があるように思われる。 表10 シェアードサービスに伴う情報システムの整備度合い(Q12)と投資金額と想定障害の 関係表(Q16、Q17) この表は大変ユニークな結果を導びいている。情報システムへの投資金額 の少ない企業ほど、各業務に対する情報システムの整備度合いは十分である と回答する企業が多く、逆に、高額投資を行っている企業ほど情報システム 投資が不十分であると回答して来ている企業が多いことがわかる。また情報 システム投資金額が多い企業ほど、システム障害が直ちに起こると回答して いる。独自システムを構築してシェアードサービス事業を行っている企業ほ ど、効果的な実施とシステムリスクの返事が十分に行われていないことがわ かる結果になっている。
表11 シェアードサービスに伴う情報システムの整備度合い(Q12)と営業利益と想定障害の 関係表 (Q16、Q3_2) 「投資金額」と「想定できる障害」と「情報システムの整備度合い」、及 び、「利益額」と「想定できる障害」と「情報システムの整備度合い」の間 に明確な相関関係は存在しなかった。情報システムの投資金額が高額であっ ても、まだまだ情報システム整備が不十分であるとしている企業もある。ま
図3 子会社状況別、シェアード化形態の比較(Q1) 表12 シェアード化形態の比較と社数(単位:社数) 上手くいっていないと思われる企業の回答数が少ないため、明確に判断が 難しい部分があるが、結果から見れば成功している企業にはプロフィットセ ンター化を目指して、シェアードサービスを始めたと回答した企業が多い結 果となった。しかし実際には、利益を上げることが出来ている企業は少ない 結果になっている。
図4 子会社状況別、シェアードサービスの顧客の属性別の平均売上構成費の比較(Q3_5) 表13 各対象の有効回答者数は下記となる。(単位:社数) 本調査の結果についても同様で、主な顧客の対象によってシェアードサー ビス事業が「上手くいっている」「上手くいっていない」の差異は回答から は得られなかった。 図5 子会社状況別、導入による本社部門の体制変化の比較(Q3_9)
表14 導入による本社部門の体制変化の比較を社数で表すと下記となる。(単位:社数) 本分析については上手くいっていると回答した企業では、本社管理部門が 統合縮小できたと回答した企業が極めて多い結果になっている。 図6 子会社状況別、正社員の給与水準が親会社社員の何%程度の比較(Q3_10) ※各対象の給与水準の百分率は平均を取っている。 ※有効回答数は「上手くいっている」:14社、「上手くいっていない」:4社 本分析では上手く行ったと回答している企業及び、上手く行っていなと回 答した企業の両方で、正社員の給与は本社社員の概ね80%であると回答した 企業が多くなっている。 本調査で明らかにできた主なことは下記のとおりである。 ① シェアードサービス会社は、ほぼ全てが親会社の100%子会社である。 ② シェアードサービス子会社では、独自で社員採用をしている企業が多い。 ③ シェアードサービス子会社設立の効果として、本社管理部門が統合・ 縮小できたことを上げている企業数が多い。
④ シェアードサービス子会社社員の給与額は、親会社のそれの70%から 80%とする企業が多い。 ⑤ 親会社とシェアードサービス子会社の人事交流は、役員、管理職、 非管理職の全ての職位にいて行われている。 ⑥ 親会社から見て、シェアード子会社が概ね上手く行っていると回答 した企業が多い。 ⑦ 今後については、プロフィットセンター化を更に目指したいとする 企業(親会社)が多い。 ⑧ 一方シェアードビジネスを他社に展開したいと考える企業は、多くな い。 ⑨ 他社に業務を展開ができない理由として、「他社の業務を理解し、こ なせるほど、社員に技能や能力が備わっていない。」ことを挙げた企 業が多い。 ⑩ 回答を寄せた企業では、“ワークス カンパニー社”の市販ソフトウ エアを業務支援系システムとして活用する企業が目立った。(新たな 発見である。ディファクトスタンダード化されている。) ⑪ シェアードサービスを他企業に展開する場合に必要な情報システムへ の改良は、インターフェイスの改良であると応えた企業が多い。 ⑫ シェアードサービス会社で用いる、情報システムの最終決定責任者 は社長から部長まで幅広い。 ⑬ エア−ドサービス業務に活用する情報システムへの全投資額は、数千 万から2億円くらいまでが多いが中には、キューピーや小林製薬のよ うに、数十億円とする企業もある。
Ⅵ. 分析結果の考察と結論
本調査結果からシェアードサービスの成功要因について論じるために単体で赤字企業が大半を占めている。このような現状にありながら「概ね上 手くいっている」と回答している理由はどこにあるのだろうか。そのヒント として、上手くいっていないと回答した多くの企業で「本社管理部門の統合 縮小」ができたと答えているこが挙げられる。親企業から見たシェアードサ ービス化の第一目的、つまり成功の意味はこの点にある。 しかしながら、これでは本来目的に対する成功要因は見えてはこない。そ こで、シェアード子会社の管理費で単純に売上げや利益を割ることによっ て、売上げや利益を上げるために必要とした純粋な“事業効率”を測定・分 析した(図1、図2)。この結果、前項で示したように、「管理費」と「売上 げ」についてはある程度の相関があり「管理費」と「利益」については、余 り相関がないことを明らかにした。利益との相関がないことについては事業 形態や親会社の業種により、それぞれ利益構造が異なることが考えられる。 しかし売上については、管理費が高くなれ売上もある程度上昇することが明 確になっている。一方、現在のシェアードサービス子会社においては事業実 施について、余り業務効率化が図られていないことが明らかになっている。 従って“ある程度”管理費が上昇する、つまり優秀な人材を雇用するかもし くは雇用人材数を増加させながら、シェアードサービス事業実施の質の向上 を計ることが必要になっていると考える。この考えは、設問12の回答でも補 完される。設問12の回答では、シェアードサービス事業を行うための情報シ ステムの整備は概ね実施されているが、業務効率化のための投資は十分では ないとの回答が多くあった。つまり、現在多くの企業では「シェアードサー ビス化は実施しているのだが、この意味では、これまで膨れ上がっていた本 社の管理部門について、縮小をしたと言うことであり、本社から外出しした ため当り前である。そして、第一の目標はとりあえず達成できた。しかし、 スピンオフさせたシェアードサービス企業(事業)については本来の目的で ある、プロフィットセンター化は未だできていない。」と言うことを明確に 示しているいと思われる。前掲したが、比較的上手く運営されていると見ら れる、その点、東京計器株式会社のシェアードサービス子会社である東京計 器テクノボート株式会社の回答内容を見ると、人事業務以外の保険業務でか なりの収益を上げているようであり、これらがシェアードサービス子会社の 経営を良好にする原動力になっていると見られる。 そこで、今後のシェアードサービス事業(子会社)のあり方であるが、多 くの企業でプロフィットセンター-を目指したいとの回答があり、可能な限
り利益を経常できるような事業実施体制づくりが急務であると考えられる。 その視点では、事業を資本関係のない外部企業に拡大することが重要とな る。そのため、情報システムへの投資による整備・活用が重要な鍵であるが 今回の調査結果でも判るように、基本的に、親会社とシェアードサービス子 会社の間では、データや帳票の共通化は既に出来ている。しかし、外部企業 を顧客として獲得する場合では業務を効率良くする目的で、顧客企業と情報 システムのデータを共通化することが前提になる。しかしこれは、シェアー ドサービス企業各社にとって高いハードルであり、かなりの量の摺り合わせ 業務が発生する。顧客企業の情報システムはそれぞれ異なると考えられ、新 規の顧客を獲得する度にデータ共有の摺り合わせ作業が起こることは大変厳 しい課題になる。そのためシェアードサービス側では、顧客が有する特徴が あるデータ形式でも取り込み活用ができる、インターフェースプログラムを 事前にクラウドコンピューティングの仕組みを活用して用意しておくことが 必要である。顧客のデータを一端共通のデータ形式に変換して取り込み、シ ェアードサービス企業が有するコンピュータシステムで処理できる様にする ことが求められる。親会社とシェアード子会社間の情報システムや取り扱う データ形式は同様であるが、外部企業とは基本異なると考えることが自然で ある。また、シェアードサービス企業内に高いセキュリティシステムを構築 することが外部企業から安心感を引き出し、顧客件数の増加に繋げることが できるであろう。人事・給与・福利厚生などの企業にとって極めて重要な情 報を扱うだけに、一度の失敗で業務を継続して実施して行ける信用を失って しまう。高いセキュリティを維持しながらシェアード業務を円滑に進めるこ とができる業務環境を構築し外部顧客が異なっても、これを継続維持して行 ける体勢作りが不可欠になる。また、仮説2でも記載したが、本来の管理部 門の業務を請け負うだけでは、当面は売上げが上がっても利益を望むことは 容易ではないであろう。そのため、アンケート回答企業の中にもあった保険 代理業務や旅行代理業務、システム保守業務等を、コストを抑えて実施して
Ⅶ. むすび
シェアードサービス化は、当初の実施目的である親会社の間接部門の軽減 から、その途中で、シェアードサービス子会社を収益化組織に変えると言う 目標に移行する点で大変難しい事業である。同じ組織が人員や組織の仕組み がそのままで、コストセンターからプロフィットセンターに変わることは容 易ではない。そのため、1980年代後半から今日に至るシェアードサービス化 した組織の中で、親会社やグループ内企業ではない外部企業との業務で、収 益を上げて自立しているシェアードサービス会社は極めて少ないと思われ る。 それでも、クラウドコンピューティングによるコスト軽減や、ERP 4 の普 及による情報システムのオープン化、ウェッブシステム技術の進展など、シ ェアードサービス事業実施の環境はITの進展により更に整いつつある。シ ェアードサービス企業がプロフィットセンターになるためには、当初のIT 投資いかに押さえそれを早期に回収し、情報システムを用いて外部企業を相 手に事業モデルを構築するが、成功の鍵を握っていると言える。 以上 矢野経済研究所、2012年「シェアードサービスセンターに関する調査結果」調 査による。 1980年代中期にアメリカのゼネラルエレクトロニクス社で取り入れられたのが 最初であると言われている。(KPMG インサイト(2014)) 既存の業務プロセスを根本的に見直し、職務、業務フロー、管理機構、情報シ ステムを再設計することで、業務の効率化を高める企業改革手法のこと。アメ リカにおいて、1980年代半ばから盛んになり始めた。ERP(Enterprise Resource Planning)とは、企業が保有する経営資源を、企 業内で統合的に管理・配分し、業務の効率化や経営の最適化を目指す経営手法 であり、そのために導入されるソフトウェアパッケージのことを指す。 (注釈) 1 2 3 4
参考文献 アーサーアンダーセンビジネスコンサルティング(1999)シェアードサービ ス間接部門のサービス向上とコスト削減の実現、東洋経済新報社 園田智昭〔2005〕持株会社による企業グループ管理の課題一特にシェアード サービスの導入について、三田商学研究48巻1号 園田智昭〔2006〕「シェアードサービスの管理会計」 中央経済社 澤田和幸〔2006〕日本型シェアードサービス成功の法則経営トップの強力な リードが不可欠、 Business Research 984号 森長明彦〔2004〕「三菱マテリアルにおけるシェアードサービスへの取り組 みグループ展開を日指し業務改善を推進」『Business Research』965号