Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College, Available from http://ir.tdc.ac.jp/
Title
星状神経節ブロック時に発生した局所麻酔薬中毒の2症例
Author(s)
松木, 由起子; 黒田, 英孝; 遠藤, 真唯; 塩崎, 恵子;
松浦, 信幸; 間宮, 秀樹; 櫻井, 学; 一戸, 達也
Journal
歯科学報, 112(4): 550-550
URL
http://hdl.handle.net/10130/2914
Right
目的:顎骨は,咀嚼機能圧など歯を介して受けるメ カニカルストレスによって構造的な変化を生じるこ とが知られている。しかし,そのメカニズムに関し ては報告が少ない。これは骨に加わるメカニカルス トレスの影響を評価することが容易でないことに起 因する。近年,骨質を構成する一つである生体アパ タイト(BAp)結晶の配向性が,局所応力と密接 に関連することが報告された。すなわち BAp 結晶 配向性は,骨密度(BMD)よりも局所応力に鋭敏 に反応することが明らかとなった。しかしながら, ヒト顎骨に関する BAp 結晶配向性に関する報告は 少なく不明な点が多い。そこで本研究では,ヒト下 顎骨の BMD および BAp 結晶配向性の定量的評価 を行い,歯槽部と下顎底部における BMD 及び BAp 結晶配向性の解析を行った。また,上顎前歯部につ いても同様の検索を試み,下顎と比較検討した。 方法:試料は,ヒト下顎骨の中切歯部を関心領域と し,BMD 計測と BAp 結晶配向性の測定を歯槽部 と下顎底部に対し行った。BMD 計測はマイクロ CT にて撮影後,試料の CT 値を BMD 値に変換するこ とで骨密度を算出した。計測には 3D 骨梁構造計測 ソフトウエアを用いた。BAp 結晶配向性の計測に は 微 小 領 域 X 線 回 折 装 置 を 使 用 し(002)と (310)の X 線回折ピークを用いて回折強度比によ り算出した。また,上顎骨に関してはヒト上顎骨の 中切歯部を関心領域とし,歯槽部と鼻腔底付近の BMD 測 定 お よ び BAp 結 晶 配 向 性 の 測 定 を 行 っ た。 成績および考察:下顎骨では歯槽部と下顎底部にお いて BMD 値に部位に伴う差異は認められなかっ た。BAp 結晶配向性では,下顎底部では近遠心方 向に,歯槽部では咀嚼荷重方向に強い配向性が得ら れた。これらの結果から,下顎底部は下顎頭を骨頭 とする長管骨様の特徴をもち,歯槽部は歯を介して 加わるメカニカルストレスによって咀嚼荷重方向の 配向性があると考えられた。また上顎骨においても BMD 値に部位に伴う差異は認められなかった。 BAp 結晶配向性に関しては,歯槽頂部においては 唇側,舌側共に配向性が得られ,その他の部位にお いては唇側から鼻腔底にかけて配向性が得られた。 このことから,咀嚼機能圧から受ける力の伝達様式 の違いが,上,下顎骨の構造の違いに影響を与えて いる可能性が示唆された。 目的:星状神経節ブロック(以下 SGB)は抜歯や 口腔顔面領域の手術後の感覚障害や神経障害性疼痛 などの治療に広く応用されている。しかし,SGB は様々な合併症の危険性があり,特に局所麻酔薬中 毒は意識消失や全身痙攣等を伴う重篤な合併症であ る。最近,東京歯科大学千葉病院慢性の痛み・しび れ外来で SGB を行った2症例で局所麻酔薬中毒を 生じたので考察を加えて報告する。 症例:症例1.73歳,男性。オトガイ神経損傷によ る感覚障害のため SGB により加療中であった。通 法通り注射針を刺入し,吸引テスト後2.5ml 注入 し,再度吸引テストを行ったところ血液を吸引し た。注射針を抜針し圧迫を加えたが,全身痙攣を伴 う意識消失を生じた。静脈確保を行いミダゾラムの 静脈内投与で経過観察を行い,後遺障害を残すこと なく軽快したため帰宅させた。 症例2.65歳,男性。下顎癌に対する腫瘍切除お よび頚部郭清後に下顎神経損傷による感覚障害を生 じたため SGB により加療中であった。通法通りブ ロックを行い,注入中は血液の吸引は認めなかっ た。注入終了後注射針を抜針したところ,血液の吸 引を認めた。このため速やかに圧迫を行ったが,全 身痙攣を伴う意識消失を生じた。静脈確保を行いミ ダゾラムの静脈内投与で経過観察を行い,後遺障害 を残すことなく軽快したため帰宅させた。 考察:SGB 時の局所麻酔薬中毒は,比較的まれな 合併症である。局所麻酔薬中毒は,軽度では気分不 快や血圧・脈拍の上昇が起こり,重度になると全身 痙攣を伴う意識消失や循環抑制,呼吸停止などを生 じる。対応として気道確保や静脈確保および全身痙 攣の治療のためベンゾジアゼピン系薬物の投与など 救急処置が必要となることが多い。SGB 施行にあ たっては,吸引テストなどによる血管内誤注がない ことを確認して行うことが予防となる。しかし,今 回の症例では通法に従った慎重な手技であったにも かかわらず,局所麻酔薬中毒を生じた。今回の局所 麻酔中毒は注入中のわずかな体動や嚥下などにより 針先がわずかにずれたため生じたのではないかと考 えられた。救急コールおよび気道確保などの救急処 置が迅速に行われたため,後遺障害もなく軽快し た。SGB の施行に当たっては,患者への事前の局 所麻酔薬中毒や血腫,嗄声などの合併症に関する十 分な説明を行い,生じた場合の迅速な対応が重要で あると考えられた。