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「~トヤラ~トヤラ」文の成立について

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岡山大学大学院社会文化科学研究科紀要 第50号 2020年12月 抜刷 Journal of Humanities and Social Sciences

Okayama University Vol. 50 2020

姫   宇 恒

JI, Yuheng

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1.はじめに  日本語には、(1)に示す「~トヤラ~トヤラ」がある。  (1)さし当って困ることは界隈の料理屋仲間が、わたしの足を引っ張ろうとたくらんだことか も知れないが、笹川の主人は身分がいやしいとやら吝嗇とやら、得体の知れない人間だと やら言いふらしている。 (桃色月夜・梅本育子(著)集英社1991)  (1)は「~トヤラ~トヤラ+言いふらす」の形式で、発話の具体例「笹川の主人は身分がいや しい」「笹川の主人は吝嗇」「笹川の主人は得体の知れない人間だ」を挙げている。  「~トヤラ(ン)~トヤラ(ン)」の用法が初めて見られるのは室町末期である。発生初期の特徴 は(2)のように、「言う」という引用を表す動詞が後続する。  (2)熊野へ参詣する人あり。岩のかけぢを、たごしとやらん又あをだとやらんいふにのせて、かゝ れたるが、谷のふかき事、千ひろもあらんを見やり、さても一足ふミそこなふたらハ、五 躰ハ微塵にならん物よといひけり。 (醒睡笑室町末)  (2)では、「~トヤラン~トヤラン+言う」の形式である。発話動詞「言う」が「~トヤラン~ トヤラン」の述部になっているということは、この文において、「~ト言う」という引用構文が含 まれている。そこで、「~トヤラン~トヤラン+言う」文において、「ト」は引用の用法で使われて いると考えられる。  「~ヤラ(ン)~ヤラ(ン)」の成立に関する研究は此島(1966)、岩田・衣畑(2011)などが見 られる。「~トヤラ(ン)~トヤラ(ン)」についての研究はまだ見られない。本稿は「~ヤラ(ン) ~ヤラ(ン)」の成立を参照しながら、文末制限や指示対象などの要素も考慮し、「~トヤラ(ン) ~トヤラ(ン)」の成立を考察する。 2.先行研究  例示形式の成立についての研究は多くある。例えば、「~トカ~トカ」について、岩田(2014) などが挙げられる。「~ノ~ノ」「~ダノ~ダノ」について、手塚(1968)、岩田(2007)などが挙

「~トヤラ~トヤラ」文の成立について

姫   宇 恒* * 岡山大学大学院社会文化科学研究科博士後期課程

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げられる。本稿はこれらの研究を踏まえて「~ヤラ~ヤラ」の研究を詳しく調査し、「~トヤラ~ トヤラ」の成立を考察する。 2-1、此島(1966)  此島(1966)では、「~ヤラ~ヤラ」の意味用法は二つのタイプがあると指摘している。江戸以 前には(3)のように、疑問・不定の意が含まれていた用法で使われていた。江戸時代に入ってか ら、(4)~(6)のように、並列したどれをも肯定するという新しい用法が見られると述べている。 (3)焼クルホドニ烟ヤラ浪ヤラ天ニ漲ルソ (中華若木詩抄・上) (4)お姫様は、おどろきやらうれしさやらはずかしさで、夢心地でした。  (「現代語の助詞・助動詞」二二七ペ) (5)出来た所が、塩梅が悪いやら、手際が悪いやらで、ヤンヤという程にも行かねへ (浮世床) (6)どうやら斯うやら間を合わせました (好色伝受・中)  (此島1966による) 2-2、高宮(2004)  高宮(2004)では、 ヤラ(ウ)による間接疑問文の成立する過程を考察し、室町末期に成立した ことを明らかにした。その具体的な成立過程について、注釈的二文連置から 「-ヤラ(ウ)名詞句 ヲ知ラヌ」 という構文を経て 「-ヤラ(ウ)知ラヌ」 という間接疑問文が成立し、 その後に 「知ラ ヌ」 以外の述語に広がったという結論をえた。 2-3、衣畑(2007)  衣畑(2007)では、注釈節から名詞句への構文変化について、その一例として、「ヤラ」を取り 上げられている。(7)は注釈節を表す例である。(8)は名詞句との共指示の例である。 (7)走る杉戸に額打つやら当てるやら,やう/\に押し開き, (平家女護島) (8)浄土宗やら,法華やら,八宗九宗入つどふ女湯の障子を明て (浮世風呂2上)  (衣畑(2007)による) 2-4、岩田・衣畑(2011)  岩田・衣畑(2011)では、直接疑問(9)、不定(10)、間接疑問(11)としての「ヤラ」と「ヤ ラ」の例示用法(12)の関係について、考察した。「~ヤラ~ヤラ」の例示用法は直接疑問から派 生し、18世紀前半に成立したという結論をえた。 (9)何を思ってそんなことを言ったのやら。 (10)何やらへんな音がする。 (11)何があるのやら,わからない。 (12)太郎やら次郎やらが来た。  (岩田・衣畑2011による)  直接疑問、不定、間接疑問の意味的な特徴について、岩田・衣畑では、次のように説明している。

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   直接疑問・不定・間接疑問はいずれも命題が両方成り立つことを含意しない。    「田中が来たやら山田が来たやら」が直接疑問として発話された場合に「田中がきた」「山田 がきた」という命題のどちらについても,成立するかどうかわかっていないことを意味する。    「誰やらが来た」という不定は,田中か山田かその他の人物かのいずれかの人物がきたとい うことであり,全ての命題が成立することを意味しない。    ヤラによる間接疑問は,時代を通じて,述語が「知らない」「わからない」など「未決」を 意味するものに限られるという特徴がある。  以上は、「~ヤラ~ヤラ」についての研究である。  次に、例示の文末制限に関する研究として森山(1998)が挙げられる。指示対象に関する研究と して中俣(2015)が挙げられる。 2-5、森山(1998)  例示の文末制限に関して、森山(1998)では、例示を表す「デモ」を「暫定抽出」として説明し、 (13)のように,文末に制限があり、過去の確定的な文末とは共起しないと指摘している。  (13)テレビでも{見ていなさい/見ますか/見よう/見たに違いない/*見た}。  (森山(1998)による)  その理由は、次のように説明されている。    文末が過去の単一事実を表すものである場合、言うまでもなく、それは、一つの確定した事 態を表すことになっている。その内容と、ほかにあり得ることがありながらも一つの例だけ をいわば偶然の思いつきとして取り上げるという暫定抽出とは、取り立て方そのものが矛盾 すると見ることができる。 2-6、中俣(2015)  例示の指示対象に関して、中俣(2015)では、(14)のような「~ダカ~ダカ」は「要素が共通 の指示対象を持つ時に使われる」と述べている。これについての詳しく説明は第3節にする。 (14)昨日は最初にチューハイだかサワーだかを飲んだ。 (中俣(2015)による) 3.例示のタイプについて 3-1、事態が実現済みか未実現かという視点  現代語において、出来事が実現済みか未実現かによって、異なる特徴を持つ例示用法が見られる。 「~トカ~トカ」を例にすると、(15)では、未実現の事態について述べている。この場合チューハ イとサワーは候補として挙げている。両方飲む必要はないことになる。(16)の場合では、実現済 みの事態について述べている。この場合は、チューハイとサワー両方飲んだということになる。事 態が実現済みか否かによって「~トカ~トカ」の意味が変わるということである。 (15)チューハイとかサワーとかを飲もう。

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(16)昨日はチューハイとかサワーとかを飲んだ。  一方、「~ダカ~ダカ」は出来事が実現済みか未実現かによって意味が左右されない。(17)も(18) も実際は一つの飲み物しかない。その名前あるいはそれは何であるかについてはっきり覚えていな いことを表す。 (17)チューハイだかサワーだかを飲もう。 (18)昨日はチューハイだかサワーだかを飲んだ。 「~トヤラ~トヤラ」がどのようなタイプかを確認する必要がある。 3-2、指示対象が一つか、あるいは一つの上位概念かという視点  事態の実現を考える他、もう一つの視点は指示対象が一つか、一つの上位概念かという点である。 (19)(部屋に落ちているロボットのプレモデルを指して)   母親「掃除機かけるから、そのガンガルだかガルタンだかを片付けなさい」   子供「違うよ!これは「ガンダム」だよ!」 (中俣(2015)による)  中俣(2015)では、「~ダカ~ダカ」の意味用法について、「特定の指示対象について話しての記 憶がはっきりしない時、その候補を並列する形式で、候補は同一のカテゴリーに属する」と述べて いる。「特定の指示対象とそれに対応する概念の結びつき」と「特定の指示対象とそれに対応する 音声の結びつき」の用法があることを指摘した。  (19)は「特定の指示対象とそれに対応する音声の結びつき」の用法である。この例について、 中俣では、「母親の心的辞書には部屋に置いてあるロボットのプラモデルの情報はあるが、その音 声情報まで、しっかりと定着していない。その音声情報の候補を並列している」と述べている。  以上の内容から分かるように、(19)では、挙げられた要素からできた事態がすべて成立するの ではないという特徴を持っている。この例において、「ガンガル」「ガルタン」は一つの指示対象「ガ ンダム」の候補になる。これは一つのものに対して、二つ(以上)の候補を例示する用法である。 図示すると次のようになる。 一つの指示対象 ガンガル? ガルタン? その他?

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 もう一つは3-1で挙げている(15)のような「酒」という一つの上位概念があって、その要素 として下位に属する二つ(以上)の候補を例示するという用法である。図示すると以下である。  (15)では、チューハイとサワーは二つの異なる飲み物として挙げている。それと他の似ている 飲み物から幾つか選んで飲むということになる。これは、「酒」という上位概念に対して、二つ(以 上)の候補を例示するというタイプである。  (15)(19)は未実現の事態における一つの指示対象かあるいは一つの上位概念の指示対象かの用 法である。実現済みの事態は次の(20)が挙げられる。 (20)昨日は最初にチューハイだかサワーだかを飲んだ。 ((14)再掲)  中俣(2015)は(20)が、「特定の指示対象とそれに対応する概念の結びつき」用法であると指 摘し、「昨日最初に飲んだものは確かに一つ存在するが、それがチューハイだったかサワーだった かは定かではなく、どちらを使って表現すべきか迷っている」という意味で説明している。このこ とについては3-3で述べる。 3-3、不確実型例示と確実型例示という視点  次に例示の両方が全て成立するのか、どれが一つが成立するという視点である。(21)の場合、 その二つのどちらであっても構わない。これを不確実型例示と呼ぶことにする。一方、(22)の場 合は両方を飲んだことになる。これを確実型例示と呼ぶことにする。 (21)チューハイとかサワーとかを飲もう。 ((15)再掲) (22)昨日はチューハイとかサワーとかを飲んだ。 ((16)再掲)  「~トカ~トカ」は事態が実現済みかどうかで確実、不確実の意味が変わるが、「~ダカ~ダカ」 は(19)(20)のように、常に不確実である。「~トヤラ~トヤラ」がどうなるかを調査する必要が ある。  以上のように、例示の意味を考えるためには、出来事が実現済みかどうか、指示対象が一つか、 一つの上位概念か、不確実型例示であるか、確実型例示であるか、によって例示の意味が変わるか どうかという3種の観点が必要である。また、後述する(4-4)のように、「言う」「申す」にの みつながるか、それ以外につながるかという視点、合わせて4種の観点がある。  以上のような点を「~トヤラ~トヤラ」で確認する必要がある。 上位概念の「酒」 チューハイ? サワー? その他?

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4.用例の収集方法と分類 4-1用例の収集方法  「ヤラ」「トヤラ」の用例を採取する際、『噺本大系本文データベース』、中納言『日本語歴史コー パス』『現代日本語書き言葉均衡コーパス』を利用した。  各時代に際し、「~ヤラ(ン)」「~トヤラ(ン)」「~ヤラ(ン)~ヤラ(ン)」「~トヤラ(ン) ~トヤラ(ン)」が使用された状況を反映しているものを選ぶよう、心掛けた。用例を採集した資 料は以下のとおりである。 上代…万葉集 中古…源氏物語 中世…今昔物語集、宇治拾遺物語、海道記、建礼門院右京大夫集、十訓抄、十六夜日記、とはずが たり、徒然草、天草版伊曽保物語、天草版平家物語、醒睡笑 近世…[噺本大系]昨日は今日の物語(整版九行本)、一休関東咄、鹿の子餅、馬鹿大林、笑の友、 福山椒、花競二巻噺、身振噺寿賀多八景、落噺屠蘇喜言    [近松浄瑠璃]五十年忌歌念仏、淀鯉出世滝徳、夕霧阿波鳴渡、長町女腹切、山崎与次兵衛 寿の門松、心中天の網島    [洒落本]陽台遺編・𡝂𡝂𡝂𡝂言、𡝂𡝂𡝂𡝂、𡝂𡝂𡝂𡝂、𡝂𡝂、𡝂𡝂𡝂𡝂、𡝂𡝂記、𡝂𡝂𡝂𡝂    [人𡝂本]明烏後の正夢、仮名文章娘節用,春色梅児与美、春色辰巳園、花廼志満台 現代…よりあひばなし、太陽・ゆ𡝂雲、太陽・阿𡝂、太陽・漂泊、女学世界・お孃樣の品性、太陽・ 財界拔裏物語 4-2用例の分類  「ヤラ(ン)」「トヤラ(ン)」は次の①~⑨の文型がある。  ①か𡝂⑤は単独用法の文型である。その中、①は「代名詞以外のものA+ヤラム・ヤラン・ヤラ」 の文型である。③は①に「ト」が挿入する文型「A+ト+ヤラム・ヤラン、ヤラ」である。②は副 詞「ナド」+「ヤラム」の形式である。④は「何+ト+ヤラム・ヤラン・ヤラ」の形式である。⑤ は「何+ヤラン・ヤラ」の文型である。  ⑥か𡝂⑨は「~(ト)ヤラ~(ト)ヤラ」の形式の文型である。⑥は「AヤラBヤラ」の形式で ある。⑧は⑥に「ト」が挿入する文型「A+ト+ヤラン・ヤラB+ト+ヤラン・ヤラ」である。⑦ は「Aヤラ何ヤラ」の文型である。⑨は⑦に「ト」が挿入する文型「A+ト+ヤラ何+ト+ヤラ」 である。 ①Aヤラム、Aヤラン、Aヤラ ②ナドヤラム ③Aトヤラム、Aトヤラン、Aトヤラ ④何トヤラム、何トヤラン、何トヤラ

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⑤何ヤラン、何ヤラ ⑥AヤラBヤラ ⑦Aヤラ何ヤラ ⑧AトヤランBトヤラン、AトヤラBトヤラ ⑨Aトヤラ何トヤラ 表1各時期における「ヤラ(ン)」「トヤラ(ン)」の使用状況 文型 出典 A ヤ ラ ム A ヤ ラ ン A ヤ ラ ナ ド ヤ ラ ム A ト ヤ ラ ム A ト ヤ ラ ン A ト ヤ ラ 何 ト ヤ ラ ム 何 ト ヤ ラ ン 何 ト ヤ ラ 何 ヤ ラ ン 何 ヤ ラ A ヤ ラ B ヤ ラ A ト ヤ ラ ン B ト ヤ ラ ン A ト ヤ ラ B ト ヤ ラ A ヤ ラ 何 ヤ ラ A ト ヤ ラ 何 ト ヤ ラ 万葉集(700年代) 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 源氏物語 (1001~1010頃) 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 今昔物語集(1120頃) 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 宇治拾遺物語 (1213~1221頃) 0 12 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 海道記(鎌倉中期) 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 建礼門院右京大夫集 (1232頃) 3 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 十訓抄(1252) 4 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 十六夜日記 (鎌倉中期) 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 とはずがたり (1306~1313頃) 20 0 0 5 4 4 0 14 0 0 0 0 0 0 0 0 0 徒然草 (1330~1331頃) 4 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 天草版平家物語 (1592) 0 0 2 0 0 1 8 0 0 3 0 0 2 0 0 0 0 天草版伊曽保物語 (1593) 0 0 1 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 醒睡笑(室町末期) 3 15 5 0 0 2 0 0 3 0 5 0 1 1 0 0 0

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昨 日 は 今 日 の 物 語 (整版九行本)(1636) 0 4 1 0 0 0 0 0 0 0 2 2 1 1 0 0 0 一休関東咄(1672) 0 1 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 五十年忌歌念仏 (1707) 0 0 3 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 淀鯉出世滝徳(1708) 0 1 3 0 0 0 2 0 0 1 0 0 3 0 0 0 0 夕霧阿波鳴渡(1712) 0 0 3 0 0 0 2 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 長町女腹切(1712) 0 0 6 0 0 0 1 0 0 0 0 1 6 0 0 1 0 山崎与次兵衛寿の門 松(1718) 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 1 1 0 1 0 0 心中天の網島(1720) 0 0 3 0 0 0 2 0 0 0 0 0 1 0 1 0 0 陽台遺編・𡝂𡝂𡝂𡝂𡝂 (1758) 0 0 1 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 鹿の子餅(1772) 0 0 4 0 0 0 1 0 0 0 0 2 0 0 2 0 0 南閨雑話(1773) 0 0 2 0 0 0 9 0 0 0 0 5 1 0 3 0 0 深川新話(1779) 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 1 0 0 1 0 2 総籬(1787) 0 0 1 0 0 0 2 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 北華通情(1794) 0 0 12 0 0 0 6 0 0 0 0 2 0 0 0 0 1 南遊記(1800) 0 0 7 0 0 0 4 0 0 1 0 1 2 0 1 0 0 馬鹿大林(1801) 0 0 0 0 0 0 2 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 笑の友(1801) 0 0 4 0 0 0 0 0 1 0 0 1 2 0 1 0 0 福山椒(1803) 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 花競二巻噺(1814) 0 0 1 0 0 0 2 0 0 0 0 0 2 0 1 0 0 身振噺寿賀多八景 (1814) 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 明烏後の正夢 (1821~1824) 0 10 36 0 0 1 61 0 0 0 1 6 3 0 3 0 0 箱まくら(1822) 0 0 2 0 0 0 1 0 0 1 0 1 0 0 1 0 0 落噺屠蘇喜𡝂(1824) 0 0 2 0 0 0 2 0 0 1 0 2 0 0 0 0 1 仮名文章娘節用 (1831~1834) 0 0 8 0 0 0 10 0 0 2 0 3 1 0 1 0 0 春色梅児与美 (1832~1833) 0 3 7 0 0 0 10 0 1 1 0 4 3 0 1 0 0 春色辰巳園 (1833~1835) 0 2 6 0 0 0 10 0 0 0 0 0 5 0 1 0 0 花廼志満台 (1836~1838) 0 2 8 0 0 0 22 0 0 1 0 1 1 0 2 0 0 よりあひばなし (1874) 0 0 9 0 0 0 11 0 0 0 0 0 2 0 1 0 0 太陽・ゆく雲(1895) 0 0 8 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 1 0 0 太陽・阿新(1895) 0 3 0 0 0 3 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0

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太陽・漂泊(1909) 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 1 0 女学世界・お孃樣の 品性(1909) 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 1 0 0 0 1 太陽・財界拔裏物語 (1925) 0 0 2 0 0 0 0 0 0 0 0 0 2 0 1 0 0 4-3「ヤラ(ン)」「トヤラ(ン)」の使用状況  本稿が調査した範囲において、助詞「ヤラ」は「ヤラム」「ヤラン」「ヤラ」の形式の出現順が見 られる。「ヤラム」は中世前期から中世末期まで見られる。「ヤラン」は中世から、各時期に見られ る。「ヤラ」は中世末期から初めて見られるようになる。江戸期以降は「ヤラ」を中心に使われて いる1  表1から見ると、最初に見られるのは「Aヤラ(ン)」の形式である。「Aヤラ(ン)」の後に「A トヤラ(ン)」が見られるようになる。「ト」が挿入されるようになったということである。「ナド ヤラム」は古く一時期出現した。日本国語大辞典(第2版)によると、「ナドヤラン」は「どうし てだろう。なぜだろう」の意味で、12世紀後期から室町末期の間、その用例が確認できた。「ナド ヤラン」の出現のあとに「Aトヤラ(ン)」が出現するという順序についての理由はまた分からない。 これと同じことは「何トヤラ(ン)」も同様で、「何トヤラン」が先で、「何ヤラン」が後である。「ト」 が削除するようになったということが生じていたかもしれない。これらの内容について、今後の課 題として詳しく考察したい。  「~ヤラ(ン)~ヤラ(ン)」「~トヤラ(ン)~トヤラ(ン)」文は中世末期においてはじめて見 られるようになる。「Aヤラ(ン)Bヤラ(ン)」文の次に「Aトヤラ(ン)Bトヤラ(ン)」が出 現した。「Aヤラ(ン)何ヤラ(ン)」文の次に「Aトヤラ(ン)何トヤラ(ン)」が出現した。  「~トヤラ(ン)~トヤラ(ン)」文は江戸期において多く使われていた。明治・大正になると、 その使用は減少する傾向が見られる。 4-4、「~トヤラ~トヤラ」が「言う」「申す」につながるか、他のものにつながるかという視点  「~トヤラ(ン)~トヤラ(ン)」は発生初期(室町末期から江戸初期)において、述部の動詞が 発話動詞「言う」「申す」のタイプの用例しか見られない。発話動詞「言う」「申す」が「~トヤラ ン~トヤラン」の述部になっているということは、「~トヤラ(ン)~トヤラ(ン)+言う/申す」 文において、「~ト言う」という引用構文が含まれている。そこで、「~トヤラン~トヤラン+言う /申す」文において、「ト」は引用の用法で使われていると考えられる。この時期の「~ヤラ(ン) ~ヤラ(ン)」の例は「~トヤラ(ン)~トヤラ(ン)」と異なって、「~ヤラ~ヤラ(ト)+引用 1 これは、山口(1990)の記述と一致している。山口(1990)によると、「ヤラ」は「ニヤアラン>ヤラン(ヤ ラウ)>ヤラ」という連語「ニヤアラン」の一体化によって成立した疑問助詞である。

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を表す動詞」の形式は見られない。したがって、この時期において、「~ヤラ(ン)~ヤラ(ン)」 は引用を表す動詞と共起する場合は「~トヤラ(ン)~トヤラ(ン)」の形式で現れると考えられる。  そこで、「~トヤラ(ン)~トヤラ(ン)」が「言う」「申す」などの引用を表すものにつながる のか、それ以外にもつながるのか、という例示を考える視点もある。 5.「~トヤラ(ン)~トヤラ(ン)」文の用法の特徴  「~トヤラ(ン)~トヤラ(ン)」文について、指示対象が一つか一つの上位概念か、出来事が実 現済みかどうか、後続形式が引用形式(言う、申す)であるかどうか、不確実型例示であるか確実 型例示であるかを調査すると次のようになる。 表2「~トヤラ(ン)~トヤラ(ン)」用法の特徴 時   期  文型 「Aトヤラ(ン)Bトヤラ(ン)」 「Aトヤラ(ン)何トヤラ(ン)」 用法特徴 用例出典 指 示 対 象 (一つ・上 位概念) 実現済みか 未実現か 後続形式 確実・不 確実型例 示 指 示 対 象 (一つ・上 位概念) 実現済み か未実現 か 後続形式 確実・不 確実型例 示 Ⅰ   期 醒睡笑(室町末) [例(23)] 一つ 実現済み 言う 不確実 例なし 例なし 例なし 例なし 昨日は今日の物語(整版 九行本)(1636) [例(24)] 一つ 実現済み 言う 不確実 例なし 例なし 例なし 例なし Ⅱ 期 一休関東咄(1672) [例(25)] 一つ 実現済み ニテ御座候 不確実 例なし 例なし 例なし 例なし Ⅲ   期 五十年忌歌念仏(1707) [例(26)] 上位概念 実現済み ガ 確実 例なし 例なし 例なし 例なし 夕霧阿波鳴渡(1712) [例(27)] 一つ 実現済み φ 不確実 例なし 例なし 例なし 例なし 山崎与次兵衛寿の門松 (1718) 一つ 未実現 ハ 不確実 例なし 例なし 例なし 例なし 心中天の網島(1720) 一つ 未実現 ヘ 不確実 例なし 例なし 例なし 例なし 陽台遺編・𡝂𡝂𡝂𡝂言(1758)一つ 実現済み ハ 不確実 例なし 例なし 例なし 例なし 鹿の子餅(1772)① 一つ 実現済み ヘ 不確実 例なし 例なし 例なし 例なし 鹿の子餅(1772)② 一つ 実現済み φ 不確実 例なし 例なし 例なし 例なし 南閨雑話(1773)① 一つ 実現済み ガ 不確実 例なし 例なし 例なし 例なし 南閨雑話(1773)② 一つ 実現済み ヘ 不確実 例なし 例なし 例なし 例なし 南閨雑話(1773)③ 一つ 実現済み だ 不確実 例なし 例なし 例なし 例なし

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Ⅳ 期 深川新話(1779)① [例(28)] 例なし 例なし 例なし 例なし 一つ 実現済み というN 不確実 深川新話(1779)② [例(29)] 例なし 例なし 例なし 例なし 一つ 未実現 φ 不確実 深川新話(1779)③ [例(30)] 一つ 実現済み N 不確実 例なし 例なし 例なし 例なし 総籬(1787) 一つ 実現済み じゃ 不確実 例なし 例なし 例なし 例なし 北華通情(1794) 例なし 例なし 例なし 例なし 一つ 実現済み 言う 不確実 南遊記(1800) 一つ 実現済み ノ 不確実 例なし 例なし 例なし 例なし 馬鹿大林(1801) 一つ 未実現 に 不確実 例なし 例なし 例なし 例なし 笑の友(1801) 一つ 実現済み φ 不確実 例なし 例なし 例なし 例なし 福山椒(1803) 一つ 実現済み ト 不確実 例なし 例なし 例なし 例なし 花競二巻噺(1814) 一つ 実現済み ガ 不確実 例なし 例なし 例なし 例なし 身振噺寿賀多八景(1814)一つ 実現済み ヲ 不確実 例なし 例なし 例なし 例なし 明烏後の正夢 (1821~1824)① 一つ 実現済み スル 不確実 例なし 例なし 例なし 例なし 明烏後の正夢 (1821~1824)② 一つ 実現済み ハ 不確実 例なし 例なし 例なし 例なし 明烏後の正夢 (1821~1824)③ 上位概念 実現済み 聞く 確実 例なし 例なし 例なし 例なし 箱まくら(1822) 一つ 実現済み ヘ 不確実 例なし 例なし 例なし 例なし 落噺屠蘇喜言(1824) 例なし 例なし 例なし 例なし 一つ 実現済み φ 不確実 仮名文章娘節用 (1831~1834) 一つ 実現済み 言う 不確実 例なし 例なし 例なし 例なし 春色梅児与美 (1832~1833) 一つ 実現済み いうN 不確実 例なし 例なし 例なし 例なし 春色辰巳園 (1833~1835) 一つ 実現済み いうN 不確実 例なし 例なし 例なし 例なし 花廼志満台 (1836~1838)① 一つ 実現済み で 不確実 例なし 例なし 例なし 例なし 花廼志満台 (1836~1838)② 一つ 実現済み ヘ 不確実 例なし 例なし 例なし 例なし よりあひばなし(1874) 一つ 未実現 ガ 不確実 例なし 例なし 例なし 例なし V 期 太陽・ゆく雲(1895) [例(31)] 上位概念 実現済み N 確実 例なし 例なし 例なし 例なし 太陽・阿新(1895) 一つ 未実現 N 不確実 例なし 例なし 例なし 例なし 女学世界・お孃樣の品性 (1909) 例なし 例なし 例なし 例なし 一つ 実現済み N 不確実 太陽・財界拔裏物語(1925) [例(32)] 上位概念 実現済み ノN 確実 例なし 例なし 例なし 例なし  表2から見ると、「~トヤラ(ン)~トヤラ(ン)」の意味用法を大きく五つの時期に分類できる。  I期は室町末期~江戸極前期において、「Aトヤラ(ン)Bトヤラ(ン)」は「一つの指示対象に 二つの候補がある」「実現済み」「言う・申すが後続する」「不確実」という用法しか見られない。  Ⅱ期は前代の例を引継ぎながらも、「ニテ御座候」後続形式になっている例が出現することである。 「言う・申す」から解放される。  Ⅲ期は「一つの上位概念の指示対象」「実現済み」「ガ格が後続する」「確実」という新しい用法 が見られる。  Ⅳ期は「Aトヤラ何トヤラ」の用法が出現する。  Ⅴ期は確実型例示への収束である。

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6、「~トヤラ(ン)~トヤラ(ン)」文の消長 6-1、Ⅰ期  この時期は「~トヤラ(ン)~トヤラ(ン)」の発生期である。(23)(24)のような「一つの指 示対象に二つの音声の候補がある」「実現済み」「言う・申すが後続する」「不確実」という用法し か見られない。以下、例示を点線、後続形式を二重線、事態の実現を波線で示すことにする。  (23)熊野へ参詣する人あり。岩のかけぢを、たごしとやらん又あをだとやらんいふにのせて、かゝ れたるが、谷のふかき事、千ひろもあらんを見やり、さても一足ふミそこなふたらハ、五躰ハ微塵 にならん物よといひけり。 (醒睡笑室町末)  (24)しろかねやの太郎兵へ申けるハ、むかしより、かミそりに、さきなしとやらん、さやなし とやらん申、其上わたくし、さいくには、中〻仕りつけぬ物にて候ほどに、たゝおぼしめし御とま り候へ、と申せハ、ひんそう、ずんど思ひきりて、 (昨日は今日の物語(整版九行本)1636)  (23)において、たごしは「竹や木などを用いて編んだ粗末な釣り輿(ごし)。進物の釣り台のよ うに、日覆いがない」というものである。あをだは「輿(こし)の一種。前後ふたりで、手で腰の あたりまで持ち上げて運ぶもの」というものである。そこで、たごしとあをだは外形が似ているこ とが分かる。  後続の動詞「か(舁)く(物を肩にのせて運ぶ)2」があって、あをだは腰のあたりまで持ち上げ て運ぶものであり、肩にのせて運ぶものではないことから、実際、たごしに乗ったと考えられる。「た ごしとやらん又あをだとやらんいふ」はその乗り物の呼ぶ方が分からない、可能性としての「たご し」と「あをだ」を挙げている。名前は不定だが、それを「かゝれたる」ので、実現済みの事態で ある。実際の名前は一つ(たごし)しかないから、この例において、挙げられた要素からできた事 態「たごしと言う」「あをだと言う」がすべて成立するのではない。「たごしと言うか、あをだと言 うか、また他の呼ぶ方であるか、分からない」の意味になる。そこで、この例は「一つの指示対象 に二つの音声の候補がある」「実現済み」「言う・申すが後続する」「不確実」という特徴を持つ。  (24)では、「剃刀に鞘なし」ということわざの言い方がはっきりと分からないことを表している。 「~トヤラン~トヤラン」は「さきなし」「さやなし」の二つのおおよその言い方を例そして挙げて、 「『剃刀にさきなし』と言うか、『剃刀にさやなし』と言うか、他の言い方であるか、分からない」 ということを表す。この例も(23)と同じ、「一つの指示対象に二つの音声の候補がある」「実現済 み」「言う・申すが後続する」「不確実」という特徴を持つ。 6-2、Ⅱ期  この時期の用例は「ニテ御座候」という後続形式が見られ、「言う・申す」から解放されるとい 2 たごし、あをだ、か(舁)くの説明は『日本国語大辞典(第2版)』による。

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う新しい特徴が見られる。  (25)又古きべうぶに何ともかたちのしれぬ絵ありけり。ていしゆにとハせ給へバ、ふるくなり 候てわけ見へ不申、私親が申候つるハ、馬とやらんうしとやらんにて御ざ候よし申けれハ、 うしならハつの有へし、つのなけれハ馬なるべきぞとのたまふ。 (一休関東咄1672)  (25)は古い屏風にある形の分からない絵についての話である。「うしならハつの有へし、つのな けれハ馬なるべきぞ」から、「馬とやらんうしとやらんにて御ざ候」は一つの指示対象(絵に描い てあるもの)を持っていることが分かる。「馬であるか、牛であるか、分からない。他のものであ る可能性もある」の意味になる。この例は「一つの指示対象に二つの概念の候補がある」「実現済み」 「「ニテ御座候」が後続し、「言う・申す」から解放される」「不確実」という特徴を持つ。 6-3、Ⅲ期  この時期の「~トヤラ~トヤラ」は(26)のように「一つの上位概念の指示対象」を持つ新しい 用法が見られるようになる。一方、(27)のように、前代と同じ用法もある。  (26)これ見たか.おのれが請状にある親めが印判.妹とやら、嫁とやらが文とも合せて吟味した. 罌粟ほども違ひなし。 (五十年忌歌念仏1707)  (26)は「妹とか嫁とかの手紙の筆跡とも照合して念入りに調べたが」3の意味である。この例に おいて、指示対象が一つの上位概念である。「妹」と「嫁」は「家族」という上位概念の二つの候 補になる。そして、述部の「合せて吟味した」が実現済みのことである。妹と嫁両方の筆跡を照合 したということになる。この例は「一つの上位概念の指示対象」「実現済み」「ガ格が後続する」「確 実」という特徴をもつ。  (27)これ、夕霧殿とやら、夕飯殿とやら.節季師走、こなたのやうに暇ではない  (夕霧阿波鳴渡1712)  (27)は「これ、夕霧殿とやら、夕飯殿とやら。年末の十二月、あなたのように暇ではない」4 意味である。この例において、一人の人物が存在する。「夕霧殿」と「夕飯殿」の二つの名前を使っ て、名前がはっきりと分からず、「夕霧殿と言うか、夕飯殿と言うか、分からないが他の呼び方で ある可能性もある」という滑稽味を表す。呼びかけの例であるから、そのように呼びかけたので、 実現済みである。名前は一つしかないから、「夕霧殿」と「夕飯殿」両方は成立しない。そこで、「一 つの指示対象に二つの音声の候補がある」「実現済み」「後続形式がφ(「言う」は実際に呼びかけ ていることによって表現されている)」「不確実」という特徴を持つ。 3 新編日本古典文学全集(小学館)現代語の訳による。 新編日本古典文学全集(小学館)現代語の訳による。

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6-4、Ⅳ期  Ⅳ期は1700年代後半から1800年代後半までである。この時期において、(28)(29)の「Aトヤラ 何トヤラ」の形式の用法がはじめて見られるようになる。 (28)なによくもねへ、女郎だが、ことし年が明とやら何とやらといふ注文の所へ、野良がずつと 乗込さ (深川新話1779)  (28)では、「~トヤラ何トヤラ+というN(名詞相当のもの)」の形式で、注文の所の具体的な 呼び方がはっきり分からないことを示している。「年が明」は一つの可能性として挙げている。「何」 はほかの呼び方にもあるという可能性を示している。「年が明と言うか、また他の呼び方であるか、 分からない」の意味になる。実際の名前は一つしかないから、この例は「一つの指示対象に一つの 音声の候補を挙げる」「実現済み」「N(名詞相当のもの)が後続」「不確実」という特徴を持つ。「A トヤラBトヤラ」は二つの例示であったが、「Aトヤラ何トヤラ」は次のように図示できる。         (29)東 こりやあちつとおせへよふ    安 そんならお歌さん一寸とおあゐとやら何とやら    歌 こりやあもふお見立で迷惑いたしゐす (深川新話1779)  (29)において、「おあゐ(おあい)」は「酒席で、杯のやりとりの際、二人の間に入って第三者 が代わりに杯を受けて座興を添えること」5である。「~トヤラ何トヤラ」は「おあゐ」という言い 方についてはっきりと分からないことを表す。この例において、後続の「言う」が省略されたと考 えられる。この例は「一つの指示対象に一つの音声の候補を挙げる」「未実現」「φ」「不確実」と いう特徴を持つ。  「AトヤラBトヤラ」の例示用法について、その集合の存在は文脈においてのAとBの共通の特 徴から想定するしかできない。それに対して、「Aトヤラ何トヤラ」はAの他の何かがあることを 形式上の「何」で表している。即ち、ある集合の存在を積極的示している。この形式の出現は「~ トヤラ~トヤラ」の例示を表す用法の拡張が完成したことを意味すると考えられる。  前代と同じ用法の例は次の(30)が挙げられる。 (30)いいにくひ事たが、裏やぐらとやら、巨燵櫓とやら、こんながたぴしする所へ来た事あねへ 5 『日本国語大辞典(第2版)』による。 一つの指示対象   A?      その他(何)?

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が。つゐにこんなに安くされた事あねへぜへ (深川新話1779)  (30)において、「裏やぐら」は「江戸深川(東京都江東区)の岡場所の一つ」6である。「巨燵櫓」 は前後の文脈に現れていない、そして、「巨燵櫓(こたつやぐら)」は「裏やぐら(うらやぐら)」 と音声上で似ていることから、この例は後続の「がたぴしする所」の名前がはっきり分からないこ とを表す時、「裏やぐら(うらやぐら)」と「巨燵櫓(こたつやぐら)」の二つの似ている名前を使っ て、「裏やぐら(うらやぐら)と言うか、巨燵櫓(こたつやぐら)と言うか、分からない。他の呼 び方である可能性もある」という意味を表す。この例は「一つの指示対象に二つの音声の候補があ る」「実現済み」「N(名詞に相当するもの)が後続」「不確実」という特徴を持つ。前代と同じ用 法である。 6-5、V期  V期は明治後期以降である。この時期において、「~トヤラ~トヤラ」の用例数が全体的に減少 していく傾向が見られる。その中、不確実型例示は大幅減少していく。(31)(32)のような確実型 例示は相対的に多く見られる。 (31)十歳ばかりの頃までは相應に惡戯もつよく、女にしてはと亡き母親に眉根を寄せさして、ほ ころびの小言も十分に聞きし物なり、今の母は父親が上役なりし人の隱し妻とやらお妾とや ら、種々曰くのつきし難物のよしなれども、持ねばならぬ義理ありて引うけしにや、それと も父が好みて申受しか、その邊たしかならねど勢力おさおさ女房天下と申やうな景色なれば、 まま子たる身のおぬひが此瀬に立ちて泣くは道理なり、 (太陽・ゆく雲1895)  (31)において、「今の母は父親が上役なりし人の隱し妻とやらお妾とやら、種々曰くのつきし難 物のよしなれども」は「今の母は父親が上役だった人の隱し妻だったともお妾だったとも言われ、 様々のいわくつきの難物だということが」7の意味である。そこで、この例は「今の母は父親が上 役なりし人の隠し妻」、「今の母は父親が上役なりし人のお妾」両方言われたことになる。「種々曰 くのつきし難物」は一つの上位概念と考えられる。この例は「一つの上位概念の指示対象」「実現 済み」「N(名詞相当のもの)が後続」「確実」という特徴をもつ。 (32)此頃、財界多事にして爲替問題とやら金輸出の解禁とやらの聲かまびすしく、さすが經濟に 無智なる身も、何か常識の種位仕入れずばと、一日郊外に老人を訪ねて、半日の説法承はら んと申入れたり。 (太陽・財界拔裏物語1925)  (32)において、後続の「聲」があるから、「爲替問題」「金輸出の解禁」発話の例として挙げて いることが分かる。かまびすしい声という一つの上位概念が考えられる。色々な声があることを示 6 『日本国語大辞典(第2版)』による。 『現代語訳樋口一葉・闇桜・ゆく雲他』(河出書房新社1997)による。

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している。この例は(31)と同じ、「一つの上位概念の指示対象」「実現済み」「ノN(名詞相当の もの)が後続」「確実」という特徴をもつ。 6-6、まとめ  「~トヤラ(ン)~トヤラ(ン)」の発生初期では、「一つの指示対象」という特徴があった。一 つの指示対象に二つの例を挙げている。その例は呼び名に関するもので、だから「言う」「申す」 が後続する。元々呼び名が分からないものに対して使うのが本来の用法だったと思われる。  Ⅱ期(6-2)について、大きな意味変化があった。「にて御座候」と共起できるようになり、「言 う」から解放された。その理由は、一つの指示対象の音声的特徴に注目するという本来の用法から、 その指示対象の意味・概念に注目するという用法の拡張があったと考えられる。「何と言うか」か ら「何であるか」に拡張した。そこで、「言う」「申す」以外の形式と共起できるようになった。  その後、Ⅲ期(6-3)で述べているように、指示対象が一つの上位概念であり、確実型例示の 用法も見られる。  Ⅳ期(6-4)には「Aトヤラ何トヤラ」の例が出現するようになる。AまたはB(またはその 他)であったものが「Aまたはその他」になったということである。これは「AまたはB(または その他)」が「Aまたは(Bまたはその他)」に意味が変わり、それがさらに「Aまたは何」と表現 されるようになったと思われる。  V期になってから、一つの上位概念の具体例を二つ並べるという用法が主の用法になっている。  明治、大正期において、「~トヤラ~トヤラ」と似ている「~トカ~トカ」という用法が多く使 われている。姫(2019)で挙げているデータを参照すると、明治期から大正期において、「~トカ ~トカ」の用例を208例採取した。本稿が採取できた「~トヤラ~トヤラ」の用例数を遥かに上回っ ている。この時期において、「~トヤラ~トヤラ」の確実型例示用法は前に述べている(31)(32) の2例が見られる。(31)と(32)はそれぞれ、「曰く」、「聲」が後続していることから、「~トヤ ラ~トヤラ」は発話内容を挙げていることが分かる。即ち、この2例において、「~トヤラ~トヤラ」 は引用用法として使われている。  「~トカ~トカ」も(33)のように引用用法が見られる。そして、(34)のような引用用法から離 れる用法も見られる。(33)では、後続の「言うて」から、「~トカ~トカ」は発話を挙げているこ とが分かる。(34)では、「~トカ~トカ+ハ」の形式で、「~トカ~トカ」の部分が主題になる。 引用を表す用法から離れていると考えられる。  以上のことから分かるように、明治、大正期において、「~トカ~トカ」は「~トヤラ~トヤラ」 より用法も使用率も多い。そこで、「~トヤラ~トヤラ」が「~トカ~トカ」に吸収され、衰退し ていくと考えられる。  (33)近代の歐米文藝界には、ベガニズムであるとか、新ヘレニズムであるとか言うて、ギリシ

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ヤ脉を復活せしめむとする人が多く、隨つて神話の利用も盛に行はれる。  (太陽・文藝時評1909) (34)行き詰りであるならば、なる程發明とか發見とかは尊重されなければならぬ。  (太陽・近代文明と發明1925) 7.おわりに  本稿は「~トヤラ~トヤラ」の消長について考察した。その結論は以下のようなものである。  室町末期から江戸極前期(I期)において、「~トヤラ(ン)~トヤラ(ン)」が「~トヤラ(ン) ~トヤラ(ン)+言う/申す」の形式で発生した。一つの指示対象を表す不確実型例示用法しか見 られない。Ⅱ期は「ニテ御座候」という後続形式が見られ、「言う・申す」から解放される。Ⅲ期 は一つの上位概念の指示対象を表す確実型例示用法が見られる。Ⅳ期は「Aトヤラ何トヤラ」の用 法が出現する。Ⅴ期は確実型例示への収束し、「~トカ~トカ」に吸収されていく。 <参考文献> 此島正年(1966)『国語助詞の研究―助詞史の素描―』桜楓社 手塚知子(1968)「並立助詞「の」から「だの」へ—上接する異る要素の相互干渉による変遷—」『言 語と文芸』10(4)国文学言語と文芸の会 山口尭二(1990)『日本語疑問表現通史』明治書院 寺村秀夫(1991)『日本語のシンタクスと意味Ⅲ』くろしお出版 森山卓郎(1995)「並列述語構文考―「たり」「とか」「か」「なり」の意味・用法をめぐって―」、『複 文の研究(上)』仁田義雄(編) くろしお出版 沈茅一(1996)「「やら」についての一考察」」『ことばの科学7』言語学研究会 森山卓郎(1997)「「うどんにマヨネーズかけたりして」--並立の意味(特集例解日本語文法--「魚 は鯛がいい」~「愛だろ,愛っ。」)」『言語』26(2)大修館書店 森山卓郎(1998)「例示の副助詞「でも」と文末制約」『日本語科学』国立国語研究所 藤田保幸(2000)『国語引用構文の研究』和泉書院 高宮幸乃(2004)「ヤラ(ウ)による間接疑問文の成立―不定詞疑問を中心に―」『日本語学文学』 15三重大学日本語日本文学 岩田美穂(2007)「「ノ・ダノ」並列の変遷--例示並列形としての位置づけについて」『語文』89大 阪大学国語国文学会 衣畑智秀(2007)「付加節から取り立てへの歴史変化の2つのパタン」『日本語の構造変化と文法化』 ひつじ書房 衣畑智秀・岩田美穂(2010)「名詞句位置のカの歴史―選言・不定用法を中心に―」『日本語の研究』

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6(4)日本語学会 岩田美穂・衣畑智秀(2011)「ヤラにおける例示用法の成立」『日本語文法』11巻2号 岩田美穂(2014)「例示並列形式としてのトカの史的変遷」『日本語複文構文の研究』ひつじ書房 中俣尚己(2015)『日本語並列表現の体系』ひつじ書房 姫宇恒(2019)「「~トカ~トカ」文成立における「Aトカナンドゾ」「AトカB(ナド)トコソ」 文の意義」『岡山大学大学院社会文化科学研究科紀要』第48号岡山大学大学院社会文化科学研究 科 <使用データベース・コーパス> 国文学研究資料館 , 噺本大系本文データベース ,http://base1.nijl.ac.jp/~hanashibon,(参照2020-06-01) 国立国語研究所 , 中納言・現代日本語書き言葉均衡コーパス ,https://chunagon.ninjal.ac.jp,(参照 2020-06-01) 国立国語研究所,中納言・日本語歴史コーパス,https://chunagon.ninjal.ac.jp,(参照2020-06-01)

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