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中学校数学科における数学的コミュニケーション能力の育成と授業改善

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Academic year: 2021

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(1)Title. 中学校数学科における数学的コミュニケーション能力の育成と授業改善. Author(s). 久保, 良宏. Citation. 日本数学教育学会誌, 90(9): 65-71. Issue Date. 2008-09. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/9960. Rights. Hokkaido University of Education.

(2)  . 中 学 校 数 学 科 に お け る 数 学 的 コミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン能 力 の. 育成と授業改善 久. 保. 良. 宏. ’ Abi 1mーproveー ばlent of Lessonsin Lo wer Secondary Schoolto Foster Student l i ty s ical to N【athemLat ly Co]m m unicate. KUBO Yoshihiro. 2008. 日本数学教育学会誌. 第9 0巻. 第9 号 {.

(3)    . 特. 集. 新教育課程に向けて(m). 中学校数学科における数学的コミュニケーション能力の育成と授業改善* 久. 要. 保. 良. 宏**. 約. 数学教育では数学的コミュ ニケーショ ン能力を育 成する こ とがこれま で 以上 に強調さ れ て いる. 本稿 では中学 校数学科の新学習指導要領に着目 し, 学 習 指導要 領では数学とコミ ュ ニケー ショ ンと の関係 が どのよう にとらえられているのか, また, これを数 学の授 業において実現する に はどのような 点に着目 する必要があるのかを, 表現の言い換え, 考えの焦 点化, 考えの洗練な どの視点か ら考察 し, 発問, 問 題提示, 分類の活動 を例に, 指導の留意す べき 点 について 具体的に示 した, そ して, これを 踏まえた上 で, 今後さらに求 められる数学的コミュ ニケーショ ン能力 とはどのような力を指すのかにっ い て 検討 し, これを数学の授業で具体化する方 法として, 図的表 現の工 夫, 誤った内容の提示, 現実的な事象における 考察の3点に着目して提案した. キーワー ド:学習指導要領, 数学的コミュ ニケー シ ョ ン能力, 授業改善. 強調 されている.. 1, はじめに 数 学 教 育 にお い て コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ンを 重 視 す. 新学習指導要領が示されたこの機会に, 我が国. 990年代から強調さ れて る考え方は, 我が国では1 きたと思われる. 特に, 金本氏らの数学的コミ ュ ニケーショ ン能力の育成にかかわる継続的な研究. の 数 学教育 で 目 指 すコ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ンが どの よ. う な ことを指しているのかを確認しておくことが. ) によ っ て数 学教育の理論 と実 践が (金本,1998. 本稿では, 中学校数学科の新学習指導要領に. 結 び つ き, 数 学 と コ ミ ュ ニ ケ ‐.シ ョ ンは無 縁 で は. お い て, 数学 と コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン が ど の よ う に. ないことが教育現場においても浸透 しつつあると. と .らえられているのか, また, これを数学の授業 で実 現するためにはどのような点に着目する必要. 必要 であると思われる,. 考 え る, と こ ろ で, 数 学 と コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を 関 連 づ. があ るのか, そ して, こう した考え方を基本 にお. け る 研 究 で は, 先に記 した数学的コミ ュ ニケー ショ. いた とき, 今後さらに求められる数学的コミュ ニ. ン能 力 の ほ かに, 数 学 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン, 数 学. ケ ー ショ ン能 力 と は どの よ う な 力 を 指 す の か に つ. 的 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン, 数 学 的 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ. いて 検討し, これを授業において具体化する際の. ン活動 な どの用語が見られるが, これらに共通す. 授業改善の視点を提案する,. ることは, 伝達, 説明, 表現, 解釈, 話し合い, 伝え合い, 相互作用, 共有とい ったことであると. 2. 新学習指導要領解説にみる数学的コミュニケ−. 思われる,. シ ョ ンの と らえ方. 指導要領解説数学科編にお いても, このような用. 中央教育審議会答申の算数・数学科における改 善の基本方針には, 算数的活動・数学的活動を一. 語のいくつかが用いられており, 数学教育におけ. 層充 実させ, 数学的な思 考力・表現力を育てるこ. る コ ミ ュ ニ ケー シ ョ ンの 重 要 性 が こ れま で 以 上 に. と, 数学的思考力・表現力は, 合理的, 論理的に. 0年 ( 2 0 0 8年)7月に示された中学校学習 平成2. 考 え を 進めると と もに, 互 いの知的なコ ミ ュ ニケ−. .平成2 0年9月1 5日決定 0年9月i日受付, 平成2 “北海道教育大学旭川佼. 65.

(4)  . 0巻 第9号 (2008年) 日本数学教育学会誌 第9 ショ ンを図るた め に重要な役割を 果たすものであ. いて筋道立てて説明する必要性を生み出す, そ し. ること, また, 自分の考えを分かりやすく説明 し たり, 互いに自分の考えを表現し伝え合 ったりす. て, 数学的な知識及び技能, 数学的な表現などの. る こ と な どの 指 導 を 充 実 す る こ と, 等々 のコ ミ ュ. る,. ニ ケ ー シ ョ ンに 関 係 す る 記 述 が あ る. こ こ で の 表. メタ認知的側面にも触れながら, 他者と のかか わりから自己を向上させるという記述であり, こ. よさを実感する機会が生まれる。」 と 記さ れてい. 現力とは, 日常の言葉に加え, 数学特有の言葉で ある数, 表, 式, グラフ, 図などを適切 に用いる. れは, 数学教育の人間形成的目的の重要性を表し. 力であり, 新学習指導要領では自分の考えを説明. ているともとらえられる, また, 「数学的に伝え合う活動」 に は, 生 徒 の. する際にこれを使えること, また, こうした活動 が相互間において なされることが強調されている.. 発達段階に照らし, 第1学年では 「数学的な表現 を用いて, 自分なりに説明 し伝え合 う活動」 が, 第2 , 3学年では 「数学的表現を用い て, 根拠を明. この中の「説明すること」について熊倉氏は, 新 学習指導要領をとらえる特徴の一 つ であり, 「数 学を用いて事象をとらえることに留まらず, とら えたことを説明する活動を重視している」 と指摘. らかにし筋道立てて説明し伝え合う活動」 が示さ. して いる (熊倉,2008 ), さ らにこれが, 学習者 同士においてなされることまでを重視しており,. 断の根拠などを数学的に表現するためには, 数学 的な推論, 例えば, 帰納や類推, 演経の必要性や. 「説明すること」 が, 「伝える」 とか 「解釈する」. はたらきを理解し, これを適切 に用 いることを重. の段階を超えた相互の活動であるとことがわかる. そして, 思考力. ・表現力を育てることは, 知的な. 視する。 」 とあり, 「数学的に伝え合う活動」 にお. れている. 第2学年の記述には, 「思考の過 程 や判. ける数学的 な考え方の重要性が示さ れ ている.. コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ンに お い て重 要 で あ る と 述 べ ら. 3, 数学的コミュニケーショ ン能力育成 の視点. れて お り, こ れ は, 数 学 的 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能. 力が, すべての人々にと っ ての基礎学力 である と の見解であるともとらえることができる.. 新学習指導要領で重視されている数学的コミュ. 中教審答申を受け, 中学校数学科の改善の具体. ニ ケ ー ショ ン能力 の 育 成 に は, 日々 の 授 業 に お い. 的事項も示されたが, ここでは数学的活動の一つ として, 「数学的に伝え合う活動」 が示さ れた.. て コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ンに か か わ る 活 動 が 活 発 に な. されることが必要である, 筆者はこれを数 学的コ. また, 学年進行に伴う内容構成の考え方において. ミ ュ ニ ケー シ ョ ン活 動 と 表 現 している が, こ れ は,. は, 中学校数学科の改訂における基本的な考え方 の中に, 数学的推論と並んで 「説明し伝え合うこ. 「数学を使っ て自分の考えを, 友だち が納 得 でき. − 数 学 的 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン活 動 −. るように論理的に表現することにより, 自分の考 えをより深 め ていく活動. さ らにこれが生 徒 間 に. と」 が示されている. ここには, 数学的活動の過 程で考えたこ と について自分自身 と向き合い, 自. おいて積極的に行われ, 相手の考えを理解しよう と努めながら友だち同士の連帯意識が高まる中で,. 分自身の言葉で思考を表すことによ って考えを再 認識し, これが自分の考え を見つ め直す反省的思 考を生み出していくとい った事柄が示されている.. 生徒にとっ て新 しい数学がつくられ ていく活動」 (久保,1998 ) という ものである,. そして, 「この自己内対話の過程は, 他者とのコ. コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ンで は表 現 す る こ と や 解 釈 す. ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン に よ っ て 一 層 促 進 さ れ, 考 え を. 質的に高める可能性を広げてくれる. 説明し伝え. ることも大切であるが, 生徒同士が考えを 伝え合 うといった相互作用 が重要であり, こう した活動. 合う活動における他者とのかかわりは, 一人では 気付かなかっ た新しい視点をもたらし, 理由など. を通して考えが統合, 共有され, さ らに考えがよ り洗練されていくこ とにつ ながり, 生徒 に と って. を問われるこ とは根拠を明らかにし, それに基づ. 新しい数学が見いだされていくことになるとの考. 66.

(5)  . 中学校数学科における数学的コミュ ニケーショ ン能力の育成と授業改善 え に立 っ て い る,. 表1. ところ で, 長崎氏らは, 「算数 ・数学 において 育成する力」 の研究において, 算数・数学におけ. 数学的コミ ュニケーショ ン活動の具体例. 活動P: 応答の活動 活動Q:他者の表現を言い換えた り, ほかの. る コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ンに 関 係 す る 児 童 ・ 生 徒 の 様. 考えを発表する活動 活動R:考えの焦点化や吟味, 統合可能かを. 相 につ い て 考 察 し て い る. こ の 研 究 で は, 算 数 ・. 数学で育成する力の中に 「算数・数学で考え合う 力」 が含まれており, 次の3つ の力がその下位項. 活動S: 考えの洗練, 深化, 発展にかかわる. 目として示されている,. 算数・数学で説明する力 ② 算数・数学で解釈する力. ①. ③. 活動のP 「応答」 とは, 教師の問いかけに生徒 が答える ことであり, その答えは生徒の考えによ. 算数・数学で話し合う力. これらは記すまでもなく, 新学習指導要領が目 指す数学的コミュ ニケーショ ン能力と共通するも. るものか教科書の記述などによるもかは様々 であ る, 活動Qの 「他者の表現を言い換える」 と は, たとえば発 言した生徒の説明では十分ではないと. の で あ る, さ ら に, こ れ らの 力 に は, 次 の よ う な. 3つの水準が設けられている,. 判断したり, その表現では友だちは納得しない, あるいは自分は納 得できないと考え, より 分かり. ①の 「説明する力」 には, 第1水準と して 「自 分で考えたことを説明 する」 , 第2水 準 と し て. やすい表現がなされること である. ここで は他者. 「自分で考えたことを数学的な表現を使って説明. が教師であることも考え られる. 活動Rの 「焦点. する」, 第3水準と して 「自分 で考えたことを数 学的な表現を使 っ て論理的に説 明する」 ことが,. 化」 とは, 発言が問題の解決 に向か っ てい ないと. 判断して軌道修正がなされる場面である,「吟味」. ②の 「解釈する力」 には, 第1水準として 「友だ ちの考えを 聞く」 , 第2水準と し て 「友 だちの 説. とは, 考え に対してこれを批判的にと らえたり, その考えが問題の解決 に有効であるかを述べ合う. 明を聞いてそれを読 みとる」 , 第3 水 準 と し て. ことなどである,「統合可能か を考え る」 と は,. 「友だちの説明聞いて, ほかの 考えな どとの 関 連 を考える」 とある. そして, ⑧の 「話し合う力」. 多様な考えや問題の解決に有効であると思われる. には, 第1水準として 「話し合いに参加する」, 第2水準と して 「目的をとらえて話し合う」, 第. ない場合は, それを別の考えと して位置 づ けるこ. 考えをまとめ て共有の事項としたり, まとめられ. 3水準として 「より洗練された考えを目指して話. となどを指している. また, 活動Sとは, 考 えを 洗練させることによ って無駄のない表現にまとめ,. し合う」 ことが記されている, (長崎, 2007: 長. これを学習者の共有した新しい数学ととらえて,. 崎, 滝井, 2007 ) このような力の水準を上げていくためには, 授. さらにこの見いだした数学を別の問題の解決 に活 用することなどを想定している. 筆者は, 50名の教師の算数・数学の授業を参観. 業においてどのような活動が求め られるのかを考 え てみると, 少 なくとも 「応答の活動」 は不可欠. し, 表1で示 した活動からこれらの授業を分析 し たが, この研究では, 算数の授業ではQの 「他者. である. さらに, この応答が教師と生徒間 だけ で 行われるの ではなく, 友だちとのかかわりにまで. の表現を言い換える」 活動が多く見られた. ただ しこ こでは, 教師の発問が影響 していることが多. 広 げ て いく 必 要 が あ る, 数 学 的 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン能 力 は, こ う し た 数 学 的 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン活. い. たとえば 「00くんの考えはどういう ことだ ろう」 といっ た発問によっ て友だちの表現が言い. 動を通して育成さ れて いくもの である, 数 学 的 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン活 動 で は, 次 の よ う. 換えられて いっ た また, 算数の授業 では, 仲間. な具体的な活動が想定できる (表1) . 本稿では. 分けの活動を通して共通点や相違点を指摘させる. こ れを, 数 学 的 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン活 動 の 具 体例. 場面も多く見られ, ここにも教師の発問が重要な 役割を果たしていた. 一方, 中学校の数学の 授業. と 呼 ぶ こ と に す る.. 67.

(6)      . 日本数学教育学会誌 第90巻 第9号 (2008年) で は, P の 「応 答 の 活 動」 が 多 く 見 られる, ま た,. Qh , . 、 , aa. − ドゼ i重な斧T部 落 ・ −. 活動Q, Rの授業は多くはないが, 相馬氏の提唱. 二 蝿 =鱒 9 勝 群 島! ▼.. する問題解決の授業 縞馬 )で見られ, 活動 , 蛾7 sは極めて少ないものの, 現実的な事象の問題の. 「, 疑い ! 稿 料・. 解決において数学 を活用す る授業で見られた,. 1{ L錯. 雑 ・. もも * 職 務 馴. .. (久 保,2007). 覇者 灘 雌. 「. このような授業分析から, 中学校の数学科の授 業る こぉ ぃ て 数 学 的 コ ミ ュ ニ ヶ ー シ ョ ン活 動 をょ り. 身. 活 発 化 す る た め の 方 策 が見 え てく る の で は な い か. 20m. 図ー 消防自動車のはしごの長さを求める. と考えられる. この問題では, どのように三平方の定理を用 い るかを説明する活動が重要で あるが, 数学的に説. 4, 数学的コミ ュニケーショ ン活動の活発化に向 けての具体 的な事例. 明するには, 消防自動車のはしごの付け根や屋上 にいる人を理想化して点ととらえ, この図の中の. ( 1 ) 発問の吟味 先に示した授業分析から, 数学的コミュ ニケ− ショ ン活動を活発化させるには, 教師の発問が重. 必要な点にA, B, C, Dと い っ た記号 を付 ける. 要な意 味を持つ ことがわかる, 「説明する」 さ ら. 問題の解決に必要ではないものは捨象さ れ, 図1. に 「筋道立てて説明する」 ことに着目すれば, 理 由を問うという教師の発問が必要不可欠であるこ. は点と線によ って抽象化される, 生徒に求め られ る数学的な説明とは, この抽象化された図によ っ. と は い う ま で もないが, 表1の数学 的コミ ュ ニケ−. て な さ れ る こ と に な る,. こと が考 え られ る, こ れ は数 学 化 の 一 つ で あ り,. 中学校の授業では, 抽象化された図を教師が与. ン活動の具体例における活動Q, R, S を目指せ ば, 次のよう な発問を教師は常 に用 意しておく必. え て しま っ て い る こ と が多 い よ う に 思 わ れ る が,. 要がある, たとえば, 「共通点, 相違点はなん ですか」「こ. 説明のための理想化や抽象化は, 考えを論理的に. れらの考え方に関連はありますか」 「それはどの. 能 力 の 一 つ と してと ら え られ る, そ し て, こ の よ. ような場合でもいえますか」「具体例を挙げなさ. うな能力の育成には, 理想化や抽象化が生徒間の. い」「ほかに どのような場合が考え られま すか」. 数 学 的 コ ミ ュ ニケ ー シ ョ ン活 動 に よ っ て な さ れ な. と い っ た もの で あ る.. ければならな いと考える, 数学化の過程は生徒個々. 表現 す る と い う点 か ら 数 学 的 コ ミュ ニ ケ ー ショ ン. 2 ( ) 説明する力を培うための問題提示. の考えを進めるためだけに行われるの ではなく,. 数学の学習における説明する力には, 日常の言 葉だけではなく, 数学特有の表現を説明の中で適. 「説明する」 ためにも必要 であるこ とを生 徒に 実. 切に用いることが含まれる. このような説 明する 力を培うた めには, たとえば, 空間図形にかかわ. さらに, 図1を抽象化した図だけでは友だち は 理解できないのではないかと考える生徒は, 既習. る問題であれば, 必要に応じて図に記号をつけた り, 見取図を工夫するといっ た活動などに着目す. 事項である直方体の対角線を求めた学習に立ち返. 感させることが大切 である.. り, はし ごが 対角線になるように見取図に直方体 を書き加えて説明する者もいるであろう. これは,. ることが大切であり, これが生徒自身によ ってな. 活動Pの 「表現を言い換える活動」 である, また, す でに数学化された図形を生徒に与える. さ れ る こ と が 重 要 で あ る, こ こ で は, 問 題 を ど の. ように提示するかが重要な意 味を持つ.. 際, 多角形であれば頂点には問題提示の段階から. たとえば, 三平方の定理を空間図形に利用する 問題には, 図1のような問題場面がある. 消防自 ) 動車のは しごの長さを求める問題である.1. 記号が付されていることが多いが, 「説明 する」 ことに着目すれば, 説明の必要感から, 生徒自ら. が記号を付すことを期待した問題提示を心がける. 68.

(7)    . 中学校数学科における数学的コミュ ニケーショ ン能力の育成と授業改善. 必要があると思われる.. 決に向かっ て考えを交流する姿が理想であ る, こ. ( 3 ) 分類する活動 小学校算数科の授業では, 先に述べたように仲. のように考えると, 表1で示 した数学的コ ミ ュ ー ケー ショ ン活動の具体例 で示 した活動Q, R, S. 間分けの活動が随所に見られた, 中学校でも分類 する活動が行われることがあるが, これは活動R. では, 教師の働きかけの有無にも着目する必要が ある. 先に記した長崎氏らの数学の力の水 準 を参. の 「考えの焦点化や統合化」 の素地になる活動と. 考に, 教師の働きかけを 「段階」 とすれば, 段階 目ま 「教師の指示でなされる」, 段階2 は 「学習. も考えられる. たとえば, 式の値につ いて学習する場面で, 次. 者自らが行う」, 段階3は 「学習者自らが問題の. のような問題 を提示する,. 解決の目的に向かって行う」 となるであろう. さ らな る 数 学 的 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能力 の 育 成. 次のァ∼オの式を分類してみよう ァ. 2a. イ, 一a. エ. −a2. オ. (一a)2. を 目指せ ば, 段階2や段階3の状況が見られる数. ウ. a2. 学 的 コ ミ ュ ニ ケー ショ ン活動 に つ い て 検 討 す る 必. 要がある. 教師の発問がなく ても, 生徒が 自 ら考 えを交流する場面を日常の授業 において目指すこ. このような問題 では, 符号や指数, 括弧の有無 などのいろいろ点に着目して, 生徒は自由 に, そ. と に なる. そしてこれは, 活動 RやSの実現 に も. して意欲的に分類する活動に取り組む. 数学的コ. つ な が っ て いく.. ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン活動 を 活 発 化 さ せ る に は, 正 誤. しか しながら, これは中学校の教師が最 も苦労. や問題の解決の方向性に関係なく, まず自分の考 えを持たせることが大切 である. 相 馬氏の主張す. するところであろう. 小学校で は積極的な 発 言 が 見られるが, 中学校段階にな ると生徒からの発言. る 「予想させる」 ことも同様な活動である (相馬,. は極めて少なくなる. 中学校の数学の授 業で は,. 1995).. 数 学 的 コ ミ ュ ニケ ー シ ョ ン活 動 の 具 体 例 に お け る. 式を分類するという先の問題 では, 教師の期待. Pの 「応答の活動」 が大半を占める理由 はここに. 通 り, 生徒はいろいろな観点から式を分類 してい. く. 教師は分類した生徒とは別の生徒を指名して. あると思われる, 最近の研究には, このような状況を改善するた. 分類の観点を 問うが, このような 「応答の活動」. めの視点と して教室文化に着目 しているもの があ. の中から, 生徒は考えの視点に共通するものを見. る, たとえ ば, TTの活用に着 目 して, 生 徒 の発 言が少ない授業においてT1 , T2が意 図的に討論. い だ して いく,. Pの 「応答の 活動」 が, Rの 「統合可能かを考 える活動」 とな り, さらに 「考えの焦点化」 へと. を行 うことにより, 学習者がT1とT2の立 場に 分かれ, 教 師間の討論が学習者 間へと移 っ ていく というもの である (磯田他, 1997 ) , 生徒 が 異な. つ な が っ て い く.. その後, 生徒 はこれらの式の中で必ず正ににな るものと負になるものに分け, それを検証するた. る考え方に立つということにより, 数学的コミュ. め に, 文字にいろいろな数を代入していく. 式の 値では, 文字に数を代入する問題が与えられるが,. 一方, 教育現場の中からは, こうした授業は生 徒を混乱さ せることにつ ながり, 数学の知識や技. 文字を代入する必要性を生徒に感得させる上でも, 2 ) このような分類する活動は意 味があると考える,. 能の習得に至らないという声も聞かれる, しかし, 実際はそうではない, 先に示 した相馬氏の 問 題解. ニケ ー ショ ン活動 が活発化さ れる ことが期待 で きる.. 決の授業における予想や比較の活動は, こう した 5. さ ら な る 数 学 的コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン能 力 の 育. 指摘を解消するものとして多く の数学の授業 に導. 成を目指 して. 入 さ れ て い る, さ らに, 冒 頭 で も述 べ た よ う に,. 数 学 的 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン活 動 の 活 発 化 にお い. 数学的コミ ュ ニケーショ ン能力を数学の基礎学力. ては, 教師の意 図的な発問などが重要であるが, 教師の働きか けがなくても, 生徒自らが問題の解. と して とらえれば, 生徒を混乱させることがあ っ て も, 数 学 的 コミ ュ ニケ ー シ ョ ン活 動 の 活 発 化 に. 69.

(8)    . 0巻 第9号 (2008 年) 日本数学教育学会誌 第9 よって考え を収束させ, 数学の概念形成に結 びつ. 下の図は, 直方体のよう かんを斜 め に切 っ た図です.. ける授業展開を目指す必要 がある, また, こう し. た力を育成することを新学習指導要領でも求めて. A. い る と 考 え る.. B. そ こ で, コ ミ ュ ニケ ー シ ョ ンの 活 発 化 に よ っ て. cm. 考えが収束の方向に向かう事例, 生徒の考えが異. C. ・E. 6cm F. ,. − − H − − ‐ −−−− ノ青に こ 琶洲 〕 , −7cm −÷′/. G. な る こ と に よ っ て数 学 的 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン活 動. が活発化される授業展開などに つ いて, 「図的表. 上記の内容を提示するとすぐに生徒から 「問題. 現の工夫」「誤った内容の提示」「現実の事象から. がかかれて いない」 との指摘がなされる. しば ら. の考察」 という視点から検討したい.. く時間を置くと, 生徒の中から 「この図 は正しい のだろうか」 といっ たつ ぶやきが聞こえはじめる.. { 1 〉 図的表現の工夫 たとえば, 先に示した消防自動車のはしごの長 さを求める問題に振り返 ってみる と, 次の図2の. 教師が生徒に与える問題には不備がないという意. 有効性を見いだすことができる,. れるまでに時間を要すが, 批判的にもの を見ると いっ た教室文化が育 っ ているクラスでは, 図を疑. 識 が 強 いク ラス で は, こう し たつ ぶ や き が 発 せ ら. 問視する考えは比較的容易に出されるであろう. 数 学 的 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン活 動 は, こ の 図 が 正. しいのかという生徒自らが見つ けた課題 によっ て はじまり解決の活動が活発化される. 正 しいとす る生徒は, “ようかん” の切り方を動 作 を加えな がら説明しようとし, この図が誤りだと主張する 生徒は, 友だちを納得させるために様々 な説 明の 方法を考え出す. そして, この図を上か ら見た図. 角である箇所が容易に判断できる が, 図2では図. や正面から見た図を描き, EF と HG, ま た, FG とEH が平行 にならないことを示しな が ら, 空 間 4 ) における平面の決定に振り返り説明がなされる, 数学的コミ ュニケーショ ン活動の活発化 は, 投影 的な見方のよさを生徒自身が見いだすこ とにもつ. の向きが異な っていること, 直角の場所が示され. な が っ て い く,. ていないことなどから生徒は混乱を生 じる, 生徒. このような授業では, 教師は多くの発問を用意 して おく必要があるが, 実際には教師は授業の支. 図2 図的表現の工夫 この問題では, 三平方の定理を使うために直角 三角形を見つけることが重要である, 図1では直. からは, 「どこが直角なのか?」 と い っ た質問が 出されるが, 教師の指示がなされなくても生徒は 意見を述べ合い, 道路の形状という身のまわりの. 援者や調整者といった立場 (古藤,1995 ) である, この授業では, 生徒間の考え方を伝え合うだけ. 場面にも照らして直角の場所を話し合いを通して. でなく, 活動Rの 「考えの焦点化や吟味」 や活動. 共有していく. このような図的表現の解釈 に関係 する問題提示は, 数学的コミ ュ ニケーショ ン活動. Sの 「考えの洗練, 深化, 発展 にかかわる活動」 が見られた.. の 活 発 化 に つ な がる こと が多 い,3). 3 ) 現実の事象からの考察 (. ( 2 ) 誤っ た内容の提示. 数 学 的 コ ミ ュ ニケ ー シ ョ ン能 力 は, 身 の ま わ り. 教師が意図的に誤った内容を生徒に提示するこ. の現実の現象を数学的に表現したり, 数学的に表. とも有効 である.. 現されたものから現実の事象に照らしてその意味. 次の図では, 生徒の考えは大きく分かれる, 第 1学年の空間図形の授業場面である,. を読み取 っ たり伝える力な どにも関係 し ている (長崎,2001 ) , 身のまわりの事象では, 生徒の日々. 70.

(9)    . 中学校数学科における数学的コミュニケーショ ン能力の育成と授業改善. の生活そのものが話 し合いの対象になることから,. さを数学の指導を通 して生徒に感得させることが. 数学への興味や関心に関係なく積極的なコミュ ニ. 大切 であると考える.. ケ ー シ ョ ン活 動 が 見 ら れ る.. 注. た と え ば, ジ ェ ッ トコ ー ス タ ー の 動 き に 着 目 し. 1 ) この問題は, 大日本図書現行版教科書の第3. て, 数値をま っ たく 与えずに横軸に時間, 縦軸に. 学 年 のp. 171に 掲 載 さ れ て い る.. 走行距離をとり, これらの関係から放物線を感覚. 2 )3 )4 )5 ) 本稿で事例として挙げた授業は筆者. 的に見いだす授業 では, 第2学年の生徒でも曲線. の実践例 であり, 2 )3 ) については久永靖史,. のグラフを納得することができた. 課題学習と し. 小川淳との共同研究で検討された,. て 設 定 した こ の 授 業 で は, ジェ ッ トコ ー ス タ ー が. 急な傾斜を降りてくる際のグラフの形状が問題に. 参考文献. なった. 多くの生徒は右上がりの直線にな ると予 想 した が, 「直 線 で はス ピー ドは 上 が っ て い な い. 磯田正美, 野村剛, 柳橋輝広, 岸本忠之 ( 1 9 9 7 ) 「教師間の対決型討論が教室文化に及ぼす影. のではないか」 という指摘がなされた. 生徒 は友. 響 に 関す る研 究 − テ ィ ー ム テ ィ ー チ ン グを 通. だちの考えを聞きながら試行錯誤を繰り返 してい. して数学の授業で討論する生徒を育てる実践. たが, 「線分をつ な ぎ合わせた グラ フでは どうだ ろう」 という考えを 聞いて単なる直線のグラフに. 記録−」 日本数学教育学会誌第7 9巻第1号. pp.2‐12 ,. は な らな い こ と を 納 得 した. しかし, ジェッ トコー. 金本良通 ( 1 998 )『数学的コミ ュ ニケー ショ ン能. スターに乗った経験や見 た経験が話される中 で,. 力の育成』 明治図書, 古藤怜 (1995 )「コミ ュニケー ショ ンを 重視 した 算数教育」 新しい算数研究N 297 o . , 東洋館出. 「これではだんだん速くな っ ていく と いう感 じで はない」 という意見が出された. 生徒は次々 に考 えを説明したが, なかなか表現の言い換え にはな. 版 社.. らなかっ た. しかし, 同様な説明を聞く中で 「線. 久保良宏 ( 1 9 9 8 )「中学校数学科における数学的. 分をさらに細かく して いっ たら」 という意見が出. コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン活 動 に関する 実 践的研 卯J. され, 最終的には 「もっと細 かく していっ た ら曲 線になるのではないか」 との考えに至 った. 感覚 5) 的に極限の考え方を獲得したことになる. この授業では, 教師は調整者ではなく, 学習者. 0巻第9号.pp 日本数学教育学会誌第8 2 9 ‐ , .. 久保良宏 ( 2 0 07 )「算数・数学の授業タイ プと数 学 的 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン活 動 と の 関 係」 第40. 回数学教育論文発表会論文集.pp. 565 570 ‐ ,. の一員として授業に加わ っ た場面もあ った. 生徒. 熊倉啓之 ( 2 0 8 0 )「新学習指導要領の特 徴とそれ を生かす指導」 日本数学教育学会誌第9 0巻第. の中には, 発言という形で自分の考えを表現 でき なかっ た者もいたが, 他者とのかかわりによって. 7 号.pp 18 26 ‐ , ,. 考えが変容する姿が見られた. これは数学的コミュ. 長崎栄三 ( 2 001)『算数・数学と社会 ・ 文 化の つ なが り』 明治図書.. ニ ケ ー シ ョ ン活 動 が 活 発 化 さ れ, 数 学 的 コ ミ ュ ニ ケーショ ン能力 が向上 したとと らえることができる.. 長崎栄三 ( 2 007)『算数・数学におい て育 成する. 諸能力とその系列に関する研究』 科研特定領 6, お わ り に. 域研究. 本稿では, 新学習指導要領における数学的コミュ. 研究報告書.. 長崎栄三, 滝井章 ( 2 0 0 7 )『算数の力を育 てる③. ニ ケ ー シ ョ ン能 力 の 育 成 につ い て, 数 学 的 コ ミ ュ. 算数の力. ニ ケ ー シ ョ ン活 動 か ら検 討 した.. 洋館出版社.. 数学の学習は個人の力と集団の力によっ てなさ. 数学的な考え方を乗り越え て』 東. 相馬一彦 ( 1 9 9 5 )『 「予想」 を取り入れた数学授業. れるが, 前者に重点を置く考え方もある, しかし ,. の改善』 明治図書,. 相馬一彦 ( 1 9 9 7 )『数学科 「問題解決の授業」 』明. コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン と い う 集 団 で の 思 考 場 面 は,. 人間が生きていく上 で必要不可欠であり, そのよ. 治図書.. 71.

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参照

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