<自由研究>
予測困難な未来を切り拓くビジネス教育の革新 -地域産業をリードする人材を育成するには-
Innovation in business education that opens up an unpredictable future
To develop human resources who lead regional industries
清 水 隆 之
SHIMIZU Takayuki
Ⅰ.商業高校を取り巻く現状 1.国の教育方針 平成 28 年 12 月の中央教育審議会答申「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支 援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」の第 2 章 「2030 年の 社会と子供たちの未来」には以下のように記してある。 ・近年、情報化やグローバル化といった社会的変化が、人間の予測を超えて加速度的に進展するよう になってきている。とりわけ第 4 次産業革命とも言われる、進化した人工知能が様々な判断を行っ たり、身近な物の働きがインターネット経由で最適化されたりする時代の到来が、社会や生活を大 きく変えていくとの予測がなされている。 ・社会の変化は加速度を増し、複雑で予測困難となってきており、全ての子供たちの生き方に影響す るものとなっている。このような時代だからこそ、変化を前向きに受け止め、人間ならではの感性 を働かせてより豊かなものにしていくことが期待される。 [中央教育審議会, 平成 28 年] 今後 10 年の間に社会は予測ができないほど大きく変化する。だからこそ変化から目を 背けるのではなく、自ら主体的にその変化と関わり、よりよい社会と幸福な人生を創る力 を育成することが望まれている。予測できないことを予測することほど難しいことはない。 10 年後の社会が予測できないということは、その社会を担う人材を育成することも困難で ある。卒業後すぐに実社会で働く人材を育成する専門高校ではなおさらのことである。 この中教審答申と同時期に閣議決定により「まち・ひと・しごと創生本部」が設置され た。この組織は、日本の急速な少子高齢化の進展に的確に対応し、人口減少に歯止めをか け、首都圏への人口集中を是正し、地域におけるワーク・ライフ・バランスを確保して、 将来にわたって活力ある日本社会を維持していくことが目的であり、その第1期の枠組み において、4 つの基本目標を示している。 1.地方にしごとをつくり、安心して働けるようにする 2.地方への新しいひとの流れをつくる 3.若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる 4.時代に合った地域をつくり、安心なくらしを守るとともに、地域と地域を連携する [まち・ひと・しごと創生本部, 平成 28 年]「まち・ひと・しごと創生本部」の設置は、将来の地方自治体の存続危機に対しての施 策とも考えられる。地方においては、雇用の創出こそ人口減少の歯止めであり、将来の人 口減少率が著しく高い地域においては、行政が主導となって新たな雇用を生むための戦略 が重要である。また、新たな雇用に対し従事する人材の育成を行うための手立ても必要と なった。地域人材の育成を命題としている専門高校としてはこれらの方針に対し、政府の 取組について今後何らかのアクションを起こすことが重要であり、行政と連携を図りなが ら人材育成の方針を策定し実行しなければならない。 2.高等学校学習指導要領 商業編 (1)全国商業高等学校長協会 平成 30 年の学習指導要領改訂にあたり、全国商業高等学校長協会(以下 全商校長会) では、平成 28 年に全国の商業高等学校の校長へ平成 11 年告示学習指導要領の実施状況と 課題を調査し発表している。[全国商業高等学校長協会, 平成 26 年] 現行の学習指導要領の教科「商業」の目標について、次期学習指導要領の改訂に向けた 自由記述形式によるアンケート結果によると、回答 100 校のうち、88 校から記述による回 答が寄せられた。記述のうち最も多いものが、「特に意見がない」とする肯定意見の回答で 34 校、また、「概ね現行の目標のままでよい」とするものが 15 校であった。「特に意見が ない」とする回答と空欄を消極的肯定と考えると、全体の 61%が現行の目標を概ね肯定し ているものと言える。今後、特に育成すべき能力についてのアンケートでは、「コミュニケ ーション能力」「ビジネスに必要な豊かな人間性」「ビジネス探求能力」を求める回答が多 かった。その他、「情報処理・活用能力」「創造的な能力」「会計情報提供・活用能力」と続 き、このことを重視した全商校長会は、このことを学習指導要領商業編への提言とした。 以下が全商校長会から出された提言の内容である。 今後の商業教育で重視すべき視点 (1) 「商業教育」を「ビジネス教育」と位置付けた現行の学習指導要領の基本的な考え方を継承しつ つ、グローバル化、高度情報化、サービス経済化、知識基盤社会への対応、地域創生、社会貢献、 起業家精神などの人材育成の視点により、これからの時代の変化に対応するビジネス教育に発展 させる。 (2) 職業人として育成すべき資質・能力を踏まえ、経済的・職業的自立を目的とするキャリア教育と してのビジネス教育の充実を図る。 [全国商業高等学校長協会, 平成 28 年]
(2)平成 30 年告示 学習指導要領 商業編 全商校長会の提言を受け、改訂された学習指導要領商業編と現行学習指導要領商業編の 違いについては以下の通りである。 [文部科学省, 平成 30 年] 第3章 主として専門学科において開設される各教科 第3節 商 業 第1款 目 標 改 訂(平成30年告示) 現 行(平成21年告示) 商業の見方・考え方を働かせ、実践的・体験的な 学習活動を行うことなどを通して、ビジネスを通 じ、地域産業をはじめ経済社会の健全で持続的な 発展を担う職業人として必要な資質・能力を次の 通り育成することを目指す。 (1) 商業の各分野について体系的・系統的に理解 するとともに、関連する技術を身に付けるよ うにする。 (2) ビジネスに関する課題を発見し、職業人に求 められる倫理観を踏まえ合理的かつ創造的に 解決する力を養う。 (3) 職業人として必要な豊かな人間性を育み、よ りよい社会の構築を目指して自ら学び、ビジ ネスの創造と発展に主体的かつ協働的に取り 組む態度を養う。 商業の各分野に関する基礎的・基本的な知識と技 術を習得させ、ビジネスの意義や役割について理 解させるとともに、ビジネスの諸活動を主体的、 合理的に、かつ倫理観を持って行い、経済社会の 発展を図る創造的な能力と実践的な態度を育て る。 第1節で述べた中教審答申、内閣官房まち・ひと・しごと創生基本方針、全商校長会、学 習指導要領(平成 30 年告示)の内容を踏まえ、これからの商業教育は「予測困難な社会の 変化に主体的に関わり、未来、社会や人生の目的を考え、よりよい社会と幸福な人生の創 り手となる力を身に付ける」と、「汎用的な能力の育成を重視し、知識及び技能と思考力、 判断力、表現力等をバランスよく育成する」という 2 点の内容を教育活動に反映すること が重要であると示していることがわかる。 3.鳥取県内産業の現状 [鳥取県商工労働部, 平成 30 年] (1)産業構造の変化 鳥取県の産業構造は、リーマンショック後の主要企業の 再編等に伴い、製造業のシェアが縮小したことでサービ ス業を中心にシェアが拡大している。産業分布割合の全 国比較では、農林水産業、ライフライン産業の特化係数 が高い。 名目生産額の分野別シェアでは、全体の生産額は 2.7 千 億円(16%)減少し、製造業では 1.7 千億円(48%)の減少、サ ービス業は微増で結果的にシェアが増加している。 (2)生産年齢人口の減少と海外需要の拡大 鳥取県における将来推計人口の推移(図 3)によ ると、鳥取県は今後人口減、高齢化の進展により、 生産年齢人口が急激に減少する。また鳥取県にお ける年間延べ外国人宿泊者数(図 4)では、鳥取県 を訪れる外国人は、6 年間で 4 倍に増加している。 今後もアジアを中心とした需要拡大に伴いイン バウンドも増加すると予想される。 サービス業 24.8% 製造業 12.7% 不動産業 19.0% 卸・小売業 12.6% 建設業 9.4% 金融・保険業 5.6% 運輸業 4.4% 情報通信業 3.9% 電気ガス水道 5.0% 農林水産業 2.6% H26 名目生産額の分野別シェア(単位:百万円) 図 1 鳥取県名目生産額の分野別シェア H26 計:1 兆 4283 億円 31,810 39,490 46,850 58,830 103,430 100,320 139,730 0 50,000 100,000 150,000 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年 年間延べ外国人宿泊者数 図 2 年間延べ外国人宿泊者数 鳥取県商工労働部調べ
Ⅱ.現任校の概要と課題 1.鳥取県立鳥取商業高等学校の概要 (1)県内唯一の単独商業高校 鳥取商業高校は、明治 43(1910)年創立。鳥取県商業教育の拠点として、約 2 万名にの ぼる有為の人材を輩出している。卒業生は、県内はもとより全国各地で、産業経済界のみ ならず教育、スポーツ、文化など、様々な分野で活躍している。 現任校の目指す人物像は、「地域の産業経済界をリードし、活躍する人」であり、販売実 習「鳥商デパート」を「鳥商教育の集大成」と位置づけ、「ビジネス教育」「資格取得」「部 活動」の3本柱を通して、地域社会に貢献できる人材の育成に努めている。また、「主体的・ 対話的な深い学び」にも力を入れており、平成 25 年度から 3 年間にわたり、文部科学省研 究指定校として授業改革に努めた。このような取り組みが評価され、平成 28 年度に、全国 商業高等学校協会加盟校のうち毎年数校が対象となる「学校表彰」を、平成 29 年度には、 文部科学省から「キャリア教育優良学校表彰」をそれぞれ受賞している。 (2)沿 革 明治 43 年 鳥取県立商業学校として鳥取市東町に開校 昭和 34 年 現在地(鳥取市湖山町)の新校舎落成 平成 11 年 商業学科改編(商業科 3 学級、国際経済科 1 学級、情報管理科 2 学級、英語学科 英語科 2 学級を新設) 平成 19 年 商業学科 6 学級に類型制を導入(商業・情報設計・情報管理・国際ビジネス・デザイン) 平成 22 年 英語学科を廃止 商業学科 5 学級となる 創立 100 周年 (3)生徒の状況 (令和元年度5月1日現在) 表 1 生徒数 類型について 学年 男子 女子 合計 1 年生 商業学科商業科(5 学級) 1 年生 79 104 183 2・3 年生 商業類型(2.5 学級) 2 年生 82 110 192 会計類型(1 学級) 3 年生 70 93 163 情報類型(1 学級) 計 231 307 538 デザイン類型(0.5 学級) (4)進路状況 [鳥取県立鳥取商業高等学校, 令和元年度] 就職, 70名 専門学校, 57名 四年制・短 大, 68名 商業系 59% 幼児教育 12% 栄養系 9% 外国語系 7% 体育系 6% 法学系 4% 看護 3% 四年制・短大学部別 事務 40% 販売営業 26% 生産労務 17% サービス 7% 専門技術 6% その他 4% 就職 職種別 図 3 鳥取商業高校進路状況 H30
(5)職員の状況 [鳥取県立鳥取商業高等学校, 令和元年度] 表 2 職員数 ※育休・研修含む 校 長 教 頭 事務長 主幹 教諭 教 諭 養護 教諭 講 師 実習 職員 非常勤 講師 事 務 職員等 その他 合 計 1 2 1 1 32 1 6 2 8 5 7 66 2.現任校の課題 (1) 課題の設定 ①予測困難な社会に対応するカリキュラムの開発 現在のカリキュラムは、各類型において全国商業高等学校協会(以下 全商)検定 1 級を 3 種目以上取得することを目的として設定された。このカリキュラムにより 3 年生の約半 数が 1 級を 3 種目以上取得している。しかし、資格取得を目標とした授業は問題演習が中 心となり、商業教科本来の目標である「商業の見方・考え方を働かせ、実践的・体験的な 学習活動を行うことなどを通して、地域産業をはじめ経済社会の健全で持続的な発展を担 う職業人として必要な資質・能力を育成することを目指す」こととは、意味合いが異なっ てしまう。そもそも資格取得は商業教育における知識を計る手段であり、商業教育そのも のではない。資格を取得することは重要であり否定することではないが、極端な検定至上 主義や資格取得のための授業は、我が国の教育方針や学習指導要領から外れる恐れがある。 マイケル・A・オズボーンの論文「雇用の未来-コンピュータ化によって仕事は失われ るのか」 [Osborne, 2013]は、702 の職種すべてについて、コンピュータに取って代わられ る確率を試算したことで大きな話題となった。商業高校への求人職種である会計や経理の 事務員、販売に関する業務、データ入力に関する業務なども失われる仕事に含まれており、 商業教育は数年以内に大きな転換期を迎えることは確実である。変化に伴う影響は授業だ けではない。研修旅行やインターンシップに向けての事前学習や当日の研修・体験活動に おいても現時点の状況と異なってくるだろう。つまり予測困難な社会に対応した学びを提 供するには、商業教育における不易の部分は残しつつ、流行に伴って変化させなければな らない部分はマイナーチェンジを繰り返すことができる、そのようなカリキュラムを予め 策定しておくことが望ましいと考える。 ②地域産業をリードする人材育成するための方策 図 4 校内分掌表
鳥取県内の産業は人手不足が深刻となっている。これは人口の減少が理由であるが、そ の原因は自然減だけではなく転出超過によるものが大きい。近年の学校基本調査及び鳥取 県の調査によると、県内の高校生(近年は 5,000 人前後)のうち約 7 割が進学しており、 約 5 割が県外の大学や専門学校へ進んでいる。県外進学者のうち約 3 割が鳥取県へのUタ ーンしている一方、県内の大学生(約 1300 人 県外出身者含む)のうち約 3 割が県内で就 職する。つまり、毎年約 1,200 人程度が県外に流失していることになる。 [鳥取県, 平成 29 年] 県外大学進学者が、県内就職を考えなかった理由としては、自分の就きたい仕事が無い (23.6%)、知識や資格・技能を活かせる企業が無かった(19.8%)、給与が低く魅力が無かった (16.9%)が上位を占めている。しかしながら、同調査において県外大学生は、 鳥取県に住 みたい(38.5%) または 将来住みたい(35.9%)と 7 割が定住を希望していることからも、高 校段階から県内産業や企業について調査研究することで県内産業の課題を知り、「将来は 鳥取県の産業活性化のために働きたい」と考える若者が増えるのではないだろうか。 これらのことから地域の産業を担う人材を育成する地方の専門高校としては、地域産業 との連携を今以上に推進し、授業に取り込むことで生徒の課題発見や解決に向けての研究 とつながり将来地域を支える人材へと成長すると考える。 [鳥取県, 平成 29 年] Ⅲ.現任校改善プラン 1.予測困難な社会に対応するカリキュラム開発 (1)単位制の導入 平成 30 年告示学習指導要領商業編の目的である「予測困難な社会の変化に主体的に関 わり、未来、社会や人生の目的を考え、よりよい社会と幸福な人生の創り手となる力を身 に付ける」ことや、全商校長会の提言による「グローバル化、高度情報化、サービス経済 化、知識基盤社会への対応、地域創生、社会貢献、起業家精神などの人材育成」を実現す るには、鳥取商業高校における現行のカリキュラムでは残念ながら難しい。特に変化の激 しい予測困難社会に対応した学びを提供するには、単に学校全体のカリキュラムを改めれ ば良いというわけではない。そもそも専門高校の存在とは、専門性を追求し地域産業を担 う人材を育成することにある。専門性を追求しながら多様なスペシャリストを育成するに は、専門教科である商業教育の不易の部分は残しつつ、流行に伴って変化させなければな らない部分はマイナーチェンジを繰り返すことができる、そのよう柔軟なカリキュラムを 策定する必要がある。 この課題を解決するには、複数の選択群による複数の科目を選択することが可能となる H26.3卒 4,922 996 (20.2%) 2,539 (51.6%) 990 (20.1%) 237 (4.8%) H27.3卒 5,055 1,139 (22.5%) 2,464 (48.7%) 998 (19.7%) 302 (5.9%) H28.3卒 4,900 1,100 (22.4%) 2,432 (49.6%) 950 (19.4%) 267 (5.4%) H29.3卒 4,881 数値なし 930 (19.1%) 298 (6.1%) 県内高校卒業生 県内 県外 県内 県外 うち就職 うち進学 表 3 鳥取県内高校卒業生の進路状況 学校基本調査 (鳥取県就業支援課まとめ)
単位制への改編が適していると考えた。単位制を導入するメリットは、生徒自身が個々の 進路目標に合致する科目を選び、学びを深めることで多様なスペシャリストが育成可能と なることである。何より、複数の選択群による複数の選択科目を設置することで、社会の 変化を予測できない状況になったとしても、選択科目の選択内容や選択群内の科目の変更 などによりカリキュラムを変更することで対応が可能となるのである。 (2)新類型の設定 現行の鳥取商業高校のカリキュラムは、商業科目の簿記会計分野、情報処理分野、ビジ ネス分野及びデザインに関する分野という科目の特徴により、会計、情報、商業、デザイ ンの 4 類型を設定している。これは、各類型 の特徴となる科目の検定を中心に、全商検定 の 1 級 3 種目を取得することができるように と作成したものであるが、時代は商業教育か らビジネス教育、スペシャリストの育成から 多様な社会を生き抜くための力の育成へと商 業に関する教育も変わりつつある。このよう な背景より、類型の柱を学習する科目で設定 することよりも、現行のカリキュラムを包括 しながら、生徒に自身の将来の目標に近づく ことを実感させつつ、地域を担うリーダーを 育成することをねらいとする以下の新たな 3 つの類型を考案した。 ①グローバルビジネス類型 ねらい:グローバル社会、インバウンド等に対応できる人材を育成する 鳥取県は日本国内においても外国人観光客が多い県である。また、アジアを中心に関連企 業を持つ事業所も多い。よって、観光客にとどまらず関係取引先や関連会社等とも対応で きる人材を育成することを目標とする類型を設置する。グローバルビジネス類型では、諸 外国で働くことにも対応できるためのコミュニケーション力とビジネススキルを養成する。 2 年次カリキュラム抜粋 ※(学設)は学校設定科目 商業科目 1(4 単位) 商業科目 2(4 単位) 選択科目 2A(3 単位) 選択科目 2B(2 単位) 財務会計Ⅰ グローカルビジネス (学設) 中国語Ⅰ(学設) ハングルⅠ(学設) 論理・表現Ⅰ グローバル経済 ※選択科目 2A 群の科目は、3 年次にそれぞれⅡの科目を配置 ※選択科目 2B は全員履修とする ②ビジネス創造類型 ねらい:起業や新たなビジネスイノベーションを可能とする人材を育成する 在学中から起業を視野に入れるため、地域や県内産業の特徴及び課題を学び、簿記会計 の知識を基に経営感覚を養い、生徒自身が興味関心を持つビジネスに関する科目を選択す る。ビジネス創造類型では、将来の起業や新たなビジネスモデル、商品開発等へ結びつけ ることを可能とし、選択する科目によって、ビジネス教育で学ぶ 4 分野(簿記会計、情報 処理、流通、販売)のいずれの分野も学ぶことや、特定の分野を深めることにも対応する。 図 5 新類型のモデル図
2 年次カリキュラム抜粋 商業科目 1(4 単位) 商業科目 2(2 単位) 選択科目 2A(3 単位) 選択科目 2B(2 単位) 財務会計Ⅰ グローカルビジネス (学設) 原価計算 ソフトウェア活用 マーケティング プログラミング ビジネスコミュニケーション 商業デザイン(学設) ③地域マネジメント類型 ねらい:地域経済と行政を繋ぐ人材を育成する 少子化、高齢化が進む地方都市では官民の連携なくして地域経済は発展しない。官民が 足並みを揃え社会全体を俯瞰し、一体となって地域経済を後押しするためには、地方行政 や地域の課題に関する知識が必要である。そこで、地域や県内産業の特徴及び課題を学ん だ上で、地方行政や法律、社会問題等へ視野を広げ、将来主体的に地域を担う人材を育成 する。公務員を目指す生徒、経済・経営学部への進学に対しても対応する。 2 年次カリキュラム抜粋 商業科目 1(4 単位) 商業科目 2(2 単位) 選択科目 2A(3 単位) 選択科目 2B(2 単位) 財務会計Ⅰ グローカルビジネス (学設) 原価計算 国語表現 政治経済 ソフトウェア活用 論理表現Ⅰ (3)カリキュラムの特徴 ①簿記会計を中心としたカリキュラム 単位制へ移行するとともに、商業高校として専門的なビジネス教育を行うため、簿記会 計に関する科目はどの類型においても単位数を多くしている。簿記会計がビジネス教育の 柱という従来の考えもあるが、やはり経営を学ぶ上では外すことはできない科目であり、 四年制大学等へ進学する場合においても簿記の知識は必要不可欠であると考える。 ②専門性と多様性の両立を図った選択科目群 単位制へ移行するにあたり、2 年次で 2 群、3 年次で 4 群と選択科目群を設定した。これ は、今後さらに複雑化、多様化する社会で生きていくために多様な科目の中から生徒自身 が自分の将来の希望と照らし合わせ選択できることを可能とするためである。現行の小学 科制や類型制では、実社会に即したリアルタイムでのカリキュラムの改定は困難だが、多 くの選択群と選択科目を設定することで、幾通りもの組み合わせにより社会の変化に対応 でき、生徒個々の目標と適性に合致する柔軟なカリキュラムとなり得るはずである。 3年次の選択科目の組み合わせ 選択 A 群 選択 B 群 選択 C 群 選択 D 群 生 物 化 学 論 理 ・ 表 現 Ⅰ 財 務 会 計 Ⅱ 原 価 計 算 ソフトウェア活用 古 典 探 究 中国語Ⅰ(学設) ハングルⅠ(学説) 財務会計Ⅱ 原 価 計 算 観光ビジネス プログラミング 総合デザイン 基 礎 看 護 保 育 基 礎 栄 養 国語表現 管理会計 ビジネスマネジメント 商品開発と流通 ネットワーク活用 プログラミング 経営数学(学設) 現代社会とビジネス (学設) 国語表現 倫 理 数学B スポーツ概論 論理・表現Ⅱ 中国語Ⅱ(学設) ハングルⅡ(学設) ビジネス法規 ネットワーク管理 国際会計(学設)
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(4)単位制の導入と新カリキュラムが成功するには 最も心配なことは将来の進路目標が定まらず、曖昧な科目選択をしてしまう生徒がいる 可能性があることである。そのような生徒が安易な気持ちで科目を選択し、希望の進路先 に進もうとしても関連する学習や資格を取得していないということが起こらないようにし なくてはならない。単位制の導入に向けては、1 年次前期において教職員による丁寧かつ 徹底したキャリア教育を行うことが重要である。そのために個々の生徒及び保護者と担任 がこれまで以上に綿密に面談することが必要となる。個々の生徒と今以上に面談を要する ことは、教員の業務負担が増加するという不安もある。また単位制のシステムも明確にし ておかなければならない。不認定科目(未修得科目)を抱えた生徒がいつどのようにその 科目を修得するのかなどといった細かな想定や移行準備を十分に検討した上でなければ、 単位制を導入してはならないと考える。単位制の導入初年度に向けた準備と、新しく生ま れ変わる鳥取商業高校に対する全教職員の意識統一が単位制の導入と新カリキュラムが成 功する絶対条件と言える。 2.地域産業をリードする人材を育成するための方策 (1)学校設定教科「ローカル・イノベーション」 今後、鳥取県は地域社会の活力の停滞が懸念されている。また、大都市圏と地方圏との 間には依然として大きな地域間格差があり、拡大する傾向にある。このような地域間格差 は、雇用や所得の状況などの面において、大都市圏と地方圏との間だけではなく、県内に おいても、市町村の間、東部・中部・西部の間や、県内都市地域と中山間地域との間にも 存在している。 改訂された学習指導要領の柱の一つに「社会に開かれた教育課程」がある。これは、必 要な教育目標を明確にし、社会との連携や協働によって学校教育の実現を図ることを目的 としており、社会とは密接不可分な関係にある専門高校において地域社会と連携する活動 は必要不可欠である。また、鳥取商業高校は教育目標である「地域において産業経済界を リードし、活躍する人を目指す」を達成し、将来の県内産業を担う人材育成を実現するた めに、今まで以上に県内産業の実態を研究することが望まれる。研究により課題を明確に し、その課題を将来解決することができる生徒を育成するために、学校設定教科「ローカ ル・イノベーション」をカリキュラムに組み込む。 学校設定教科「ローカル・イノベーション」とは、将来の地域産業を担うリーダーを育 成するための地域や産業経済界と密着した探究的な学びを深める教科である。科目群は 2 年次に全ての生徒が履修する「グローカルビジネス」を柱の科目とする。「グローカルビジ ネス」とは、地域の企業経営者をゲストティーチャーとして招き、今後鳥取県内の企業に 求められる能力やその育成に向けて講義や、経営者等の生の声を聞くことで、現時点で身 に付けている商業に関する知識の発展、今後身に付けなければならないスキルなどを直に 感じ取ることができる実践的な学びの科目である。また、これらの学習成果を客観的にと らえ、課題解決に向けた方策等を検討するために、鳥取大学地域学部や鳥取環境大学経営 学部と連携し、調査探究の方法を学ぶことを取り入れる。 3 年次には、「ローカル・イノベーション」における学校設定科目群(表 4)から生徒自 身の将来の進路目標に合致する内容の科目を履修することで、より地域の課題に密着した
学びを深めることが可能となる。 科目名 目 標 及 び 内 容 グローカルビジネス ・地域産業における課題を発見し、地域で生活する者として倫理観や道徳心 を持って創造的に解決する力を養う。 ・地域におけるグローバル化への対応に関する課題を発見し、地域と世界を 結ぶビジネス化にむけて創造的に解決する力を養う。 ・地域の課題を踏まえ、ますます多様化する社会と地域を取り巻く様々な課 題を通じて、鳥取県をはじめ国内の産業が健全な経営を行えるための人材を 養う。 経営数学 ・企業経営の視点に数学的モデルを応用し、経営上の問題を解くための数学 的手法を身に付ける。 ・生産計画や輸送計画、確率モデルを利用した市場分析、統計手法を利用し た需要予測や計量経済学などを学習することで、科学的根拠に基づいた経営 感覚を養う。 国際会計 ・1、2 年次で学習した会計の知識をもとに、英語を用いた国際会計スキルを 身に付けることで、将来国際会計人として活躍する人材を育成する。 ・国際市場と関わり不可欠な現代において、会計の国際基準を学ぶことで、 県内産業の発展に寄与する人材を育む。 ※国際会計検定受験可能 現代社会とビジネス ・地域産業と地域を取り巻く様々な諸活動や諸問題に向き合い、その背景や 解決に導くための手法を身に付ける。 ・経営者の経営方針と戦略によって得られた企業の利益や社会的信用につ いて、その知識、ノウハウを事例を通して学習し、将来の経営者としての経 営感覚を養う。 ※学校設定教科「ローカル・イノベーション」には、上記の他に中国語Ⅰ、Ⅱ、ハングルⅠ、Ⅱがあり、 計 8 科目設定科目とする。 (2)学校設定教科による専門高校と地域産業の協働事業による連携 学校設定教科「ローカル・イノベーション」は、山陰地方の産業の概要、地域産業の特 徴や課題、そして地域産業の創造について探究的な学びを深める教科である。学校の核と なるこの教科には、適切なシステムとその協力者が必要である。また、この取り組みを鳥 取県の産業の発展に寄与させるには、鳥取商業高校だけの学びとせず、県内の専門高校と 連携することが重要である。 鳥取商業高校は、これまでも 地元経営者や鳥取商工会議所 などと連携し学校行事を行っ てきた経緯がある。ローカル・ イノベーションの取り組みを 拡充させるためにはまず、過去 に協力いただいた地元経営者 や鳥取商工会議所、鳥取大学、 鳥取県及び鳥取商業高校の 5 者による組織を形成すること が望ましい。その組織の中から 数人のコーディネーター役を 決め、今後はそのコーディネー 表 4 学校設定教科「ローカル・イノベーション」科目群
ターを中心に連携できる方々を推薦していただく。生徒は地域の産業を詳しく学び、課題 や課題解決に向けた研究を行うことで、地域の産業に対し興味関心が深まるはずである。 企業経営者としては、将来の地域産業の担い手を自ら育成することができるなど、いずれ の関係者も Win-Win の関係となる。これら 5 者の関係が構築された上で、県内の専門高校 へと広げることで、行政、学校、地域産業が一体となり、鳥取県全体で生徒の育成と産業 の発展を育む教育が行われるという大きな組織が形成される。 おわりに 単位制の高校は今や珍しいものではない。しかしながらなぜ全国的にも商業高校は単位 制を導入していないのか。それは以前より「簿記」「マーケティング」「情報処理」の 3 分 野を深く学習することが商業教育と認識されているからだと考えられる。たしかに商業高 校への求人の特徴は経理・事務職や販売、サービス業が多い。だが、商業高校を卒業し経 理や事務職に就いた人材は経理や事務の仕事だけをしているわけではない。求人票を持っ て進路指導室を訪ねてくる企業の人事担当者は必ず「職種は経理だが、お客様の相手や電 話の応対、場合によっては営業にも出てもらいたいので、いろいろなことができる人物が 望ましい」と話す。すでに社会は多様な能力を持つ人材を求めているのである。 多様な能力を持つ生徒を育成するには教員自身のスキルも重要であるが、何より生徒自 身が学びたい、学ばなければならないと思うような工夫が大切である。主体的に学習に取 り組む生徒の日々の小さな積み重ねは生徒自身の社会を生き抜く力を育む。その結果、鳥 取商業高校の卒業生たちが活躍することで鳥取県の産業の発展へとつながるのである。 鳥取商業高校の学びの目的を「幅広い専門性を持つ人材の育成」とすることが、将来の 地域産業活性化の一端を担う。専門性の追求と多様な人材の育成が相反しない教育こそ、 予測困難な社会における商業高校のキーワードであり、単位制商業高校はこれからの時代 になくてはならない存在となるに違いない。 引用参考文献等 中央教育審議会 「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改 善及び必要な方策等について」 - ページ: 9. - 平成 28 年. 中央教育審議会 教育課程部会 「学習評価に関する資料 」 文部科学省 - 平成 30 年. 内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局「まち・ひと・しごと創生総合戦略 2016 改訂版」 - ページ: 25. - 平成 28 年. 内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局「まち・ひと・しごと創生基本方針 2019」 - ページ: 2. 令和元年. 全国商業高等学校長協会 商業教育 130 周年記念 「次期学習指導要領に向けて」 ― 現 行学習指導要領に基づく教育課程(商業)の実施状況と課題そのⅠ― - 平成 26 年. 全国商業高等学校長協会 「学習指導要領への提言」 - 平成 28 年. 文部科学省 「平成 11 年告示 学習指導要領商業編」 - 平成 11 年. 文部科学省 「平成 22 年告示 学習指導要領商業編」 - 平成 22 年. 文部科学省「高等学校学習指導要領比較対照表【商業】」 - ページ: 1. - 平成 30 年. 鳥取県商工労働部 「鳥取県経済成長創造戦略」 - 平成 30 年. https://www.pref.tottori.lg.jp/secure/1116272/hontai1_souzousenryaku.pdf 最終閲覧日 2020 年 1 月 20 日. 鳥取県 「高校生・大学生等の進学・就職等意識調査」 - 平成 29 年. https://www.pref.tottori.lg.jp/secure/1105386/01shiryou.pdf 最終閲覧日2020 年 1 月 20 日 鳥取県立鳥取商業高等学校「学校要覧」 - 平成 30 年度・令和元年度.
OsborneA.Michael 「 THE FUTURE OF EMPLOYMENT HOW SUSCEPTIBLE ARE JOBS TO COMPUTERISATION」 - 2013.