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血管新生阻害治療によって活性化する悪性腫瘍化ノンコーディングRNAの解明

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Academic year: 2021

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1.ヒトゲノムとノンコーディング RNA ヒトゲノムプロジェクトによって,完全長のヒトゲノ ムが解読された。しかしながら,遺伝子がゲノム上のど こから始まって,どこで終わっているのか,また,スプ ライシングの位置や組み合わせはどうなっているのかな ど,ゲノム配列の解読だけでは解らない。そこで,ヒト ゲノム解読が終了した2003年以降,日本の理研を中心と した国際的研究組織 FANTOM コンソーシアムと,米国 の ENCODE 計画(The Encyclopedia of DNA Elements) によるポストゲノム解析が行われてきた。その結果,驚 くべき事実が解ってきた1‐6)。当初,ヒト遺伝子の数は 約70,000∼100,000個と推定されていたが,どの哺乳類 でも最大約25,000個しかないことが明らかになった。線 虫でも遺伝子の数は約19,000個もあり,哺乳類と比較し ても大差がない。このような僅かな遺伝子数の差が,高 次な脳機能を含むヒトの複雑な制御を生み出していると は考え難い。 このように,従来の蛋白質をコードする「遺伝子」の 数だけでは説明がつかないことから,蛋白質をコードし ない転写産物(ノンコーディング RNA)が大きく注目 されるようになってきた。ノンコーディング RNA はそ の鎖長から大きく2つのグループに分類されている1,2) 1つは鎖長が200塩基以下の短鎖ノンコーディング RNA (miRNA,siRNA,piRNA など)と,もう1つは鎖長 が200塩基以上の長鎖ノンコーディング RNA である。 当初,ノンコーディング RNA は偶発的な転写から生 じるジャンクだと考えられていたが,近年になって長鎖 ノンコーディング RNA の機能が次第に解ってきた。そ の結果,長鎖ノンコーディング RNA は生命の複雑さや 多様性を生み出す重要な要素であると認識されるように なってきた。事実,蛋白質遺伝子をコードする領域は, ヒトゲノムのわずか1.5%であること,ヒトゲノムの実 に80%以上の領域が生物学的機能(RNA に転写されて いるか,何らかのクロマチンとの相互作用がみられる) を持っていることが明らかにされた4‐6) 長鎖ノンコーディング RNA はそれがコードされてい る領域によって2つのグループに分類される(図1)。 1つは遺伝子と遺伝子の間にコードされている「遺伝子 間長鎖ノンコーディング RNA(long intergenic non-coding RNA ; LincRNA)」。もう1つは,タ ン パ ク 質 を コ ー ド す る 遺 伝 子 内 に あ る も の(Long non-coding RNA ; LncRNA)で,セ ン ス 鎖 か ら 転 写 さ れ る も の(exonic lncRNA, intronic lncRNA)とアンチセンス鎖から転写 されるもの(antisense lncRNA)がある。2014年時点で, ヒトにおけるこれら長鎖ノンコーディング RNA の数は, LincRNA が47,143個,LncRNA が28,076個と報告され ており(図1),今後更に増えると予想されている。本 総説では,最近解明が進んできた長鎖ノンコーディング RNA に焦点を絞って解説するとともに,われわれが明 らかにした腫瘍悪性化を誘導する新規の長鎖ノンコー ディング RNA について紹介する。 特集2:RNA 医学研究のトピックス

血管新生阻害治療によって活性化する悪性腫瘍化ノンコーディング RNA の

解明

徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部生体栄養学分野 (平成26年11月4日受付)(平成26年11月10日受理) 四国医誌 70巻5,6号 121∼126 DECEMBER25,2014(平26) 121

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2.長鎖ノンコーディング RNA の機能 (1)長鎖ノンコーディング RNA による遺伝子サイレ ンシング 現在最もよく解明されているのが,長鎖ノンコーディ ング RNA によるクロマチン修飾を介した遺伝子発現の サイレンシングである。例えば,Xist RNA は転写抑制 にはたらく H3K27のメチル化を誘導することで X 染色 体の不活性化に寄与する7)。また,ゲノムインプリン ティングに関わる長鎖ノンコーディング RNA である Kcnqlot18)や Air9)も,転 写 抑 制 に は た ら く H3K27や H3K9のメチル化に関与する。 (2)長鎖ノンコーディング RNA による転写活性化 一方,クロマチン修飾を介して遺伝子発現を活性化す る長鎖ノンコーディング RNA もいくつか報告されてい る。ヒトHOXA 遺伝子群の活性化に関わる HOTTIP lncRNA やマウスHOXA 遺伝子の活性化に関わる Mis-tral lncRNAha は,転写活性化にかかわる H3K4メチル化 を誘導して遺伝子発現を活性化させる10) (3)長鎖ノンコーディング RNA の転写を介した遺伝 子発現の制御 長鎖ノンコーディング RNA が関与する遺伝子発現制 御の中には,長鎖ノンコーディング RNA 自身を必要とせ ず,長鎖ノンコーディング RNA の転写自体が重要である 場合もある。これは,長鎖ノンコーディング RNA の転 写反応がある種のクロマチン修飾と共役することで起こ る,遺伝子発現の制御である。例えば,酵母の H3K36 メチル化酵素は RNA ポリメラーゼ II と相互作用し,転 写と共役して蛋白質コード領域での H3K36のメチル化を 誘導する。その結果,ヒストン脱アセチル化酵素が呼び 込まれ,蛋白質コード領域内からの転写が抑制される11) 3.長鎖ノンコーディング RNA と疾患 近年,長鎖ノンコーディング RNA が実際に癌をはじめ 種々の疾患に関与していることが解ってきた。特に,さ まざまな癌で発現が変動する長鎖ノンコーディング RNA が複数見つかってきている(表1)。中でも,非小細胞 肺がんの予後不良と同調して発現が増加する Malat1が 注目されている。Malat1をノックダウンすると,細胞 運動性が抑制されたり,p53の発現促進を介して細胞増 殖が抑えられるといったことが報告されている。また, Malat1は選択的スプライシングの制御を介して予後不 良と関係していると考えられている12) 次に,高い転移能を持つ悪性化乳癌細胞で Hotair が 高 発 現 し て い る こ と が 示 さ れ た。実 際,乳 癌 細 胞 に 図1 長鎖ノンコーディング RNA の分類 近 藤 茂 忠 122

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Hotair を遺伝子導入すると転移能が獲得されることが 報告されている。Hotair の高発現によって実に数百種 類の遺伝子の異常な発現抑制が起こり,その中に転移能 を抑制する遺伝子が含まれていると考えられている13) UBE3AAS は600キロ塩基以上の長さをもつノンコー ディング RNA で,15番染色体に位置し,同じ領域がプ ラダーウィリ症候群やアンジェルマン症候群などの先天 性疾患(この遺伝子領域には,父親由来の遺伝子が不活 性化される部位と母親由来が不活性化される部位がある。 父母どちら由来の遺伝子が異常になるかによって,プラ ダーウィリ症候群,あるいはアンジェルマン症候群を発症 する。),自閉症などの発達障害,統合失調症などの精神 疾患の発症に関わるとされている。また,KCNQ1OT1/ LIT1は,Beckwith-Wiedemann 症候群に関連するといわ れている。Beckwith-Wiedemann 症候群は11番染色体の 特定部位でゲノムインプリンティング機構(両親から譲 り受けた2本の遺伝子が異なる発現パターンを示す現象) の異常で引き起こされることが知られており,過度な成 長やウィルムス腫瘍などを引き起こす。KCNQ1OT1/ LIT1は,父親側で発現する刷り込み遺伝子として同定 され,KCNQ1OT1/LIT1RNA が局所的なクロマチン上 へ集積することで転写を制御していることが解明されて いる14) 4.腫瘍の血管新生阻害治療と長鎖ノンコーディング RNA 腫瘍血管新生の中心的役割を果たす血管内皮細胞増殖 因子(VEGF)を分子標的とした血管新生阻害治療は, 現行の治癒切除不能な固形がんの中心的な化学療法と なっている。しかしながら,大半の患者は VEGF 阻害薬 に対して抵抗性を獲得してしまうことが分かってきてお り,以下の臨床的課題の解決が急務となっている。1つ は,VEGF 阻害薬が効かない(抵抗性を有する)患者 を鑑別するためのバイオマーカーの同定と抵抗性の分子 メカニズムの解明,2つ目は抵抗性を解除できる治療薬 の開発である。 われわれは,これら2つの課題を解決できる可能性を 秘めた,がん細胞の VEGF 標的薬に対する独自の適応 機構を突き止めた。そのメカニズムの概要を図2に示し た。従 来,VEGF 標 的 薬(VEGF 中 和 抗 体,VEGF 受 容体キナーゼ阻害剤)は,血管新生を阻害することによ りがん細胞の増殖を抑制すると考えられてきた。ところ

表1 ヒト各種癌と関連する長鎖ノンコーディング RNA

lncRNA,LincRNA Size Cancer types

MALAT1 75kb breast,lung,pancreas,colon,liver,prostate HOTAIR 2158nt breast

HULC 500nt colon,liver MEG3 1600nt brain GAS5 multiple breast

ANRIL/p15AS 34.8kb prostate,leukemia PTENP1 ∼3900nt prostate SRA 965nt breast,uterus,ovary, BC200 200nt breast,lung,ovary,esophagus PCGEM1 1643nt prostate 図2 VEGF 分子標的薬によって誘導される長鎖ノンコーディン グ RNA 長鎖ノンコーディング RNA とがん 123

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が,腫瘍細胞内の VEGF 生存シグナルを枯渇させると, がん細胞は VEGF 産生を止めて,代わりに長鎖ノンコー ディング RNA(VEGF lncRNA)を発現するようになる。 さらに,VEGF 標的薬と併用される細胞傷害性の抗がん 剤も VEGF lncRNA を強く誘導することを見出した。こ れは,抗がん剤も VEGF 標的薬と同様に VEGF 産生を 停止させる働きがあるため,結果的に VEGF lncRNA を 誘導してしまう。このように,現行の標準的化学療法 (VEGF 標 的 薬+細 胞 傷 害 性 抗 が ん 剤)は 相 乗 的 に VEGF lncRNA を過剰発現させてしまう。VEGF lncRNA を過剰発現させると,p53とその標的遺伝子の発現が抑 制されるため,VEGF 標的薬と抗がん剤両方に対して 抵抗性が誘導されてしまうことを明らかにした。 これらの現象は大腸がん細胞株レベルに加え,in vivo レベル(ヌードマウスの皮下に腫瘍細胞を移植するモデ ル)でも認められた。VEGF 標的薬投与によって腫瘍 内に VEGF lncRNA が過剰発現した結果,治療抵抗性 (VEGF 阻害剤および抗がん剤抵抗性)を示すことを 確認した。 このように,VEGF 分子標的薬に対するがん細胞の 生存・適応戦略に長鎖ノンコーディング RNA が関与し ていることが解った。今後,この長鎖ノンコーディング RNA を分子標的とした薬剤を開発して,現行の VEGF 阻害薬と併用することで治療抵抗性の解除と抗腫瘍効果 の増強が期待される。 文 献

1)Jensen, T. H., Jacquier, A., Libri, D. : Dealing with per-vasive transcription. Mol . Cell .,52:473‐484,2013 2)Morris, K. V., Mattick, J. S. : The rise of regulatory

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3)Clark, M. B., Choudhary, A., Smith, M. A., Taft, R. J., Mattick, J. S. : The dark matter rises : the expand-ing world of regulatory RNAs. Essays Biochem.,54: 1‐16,2013

4)Djebali, S., Davis, C. A., Merkel, A., Dobin, A., Lassmann, T., Mortazavi, A., Tanzer, A., Lagarde, J., Lin, W., Schlesinger, F., et al . : Landscape of tran-scription in human cells. Nature,489:101‐108,2012

5)Maher, B. : ENCODE : the human encyclopaedia.

Nature,489:46‐48,2012

6)FANTOM Consortium and the RIKEN PMI and CLST(DGT), Forrest, A. R., Kawaji, H., Rehli, M., Baillie, J. K., de Hoon, M. J., Lassmann, T., Itoh, M., Summers, K. M., Suzuki, H., Daub, C. O., et al . : A Promoter-level mammalian expression atlas. Nature, 27:462‐470,2014

7)Zhao, J., Sun, B. K., Erwin, J. A., Song, J. J., Lee, J. T. : Polycomb proteins targeted by a short repeat RNA to the mouse X chromosome. Science,322(5902): 750‐756,2008

8)Pandey, R. R., Mondal, T., Mohammad, F., Enroth, S., Redrup, L., Komorowski, J., Nagano, T., Mancini-Dinardo, D., Kanduri, C. : Kcnqlotl antisense noncoding RNA mediates lineage-specific transcriptional silencing through chromatin-level regulation. Mol. Cell,32(2): 232‐246,2008

9)Nagano, T., Mitchell, J. A., Sanz, L. A., Pauler, F. M., Ferguson-Smith, A. C., Feil, R., Fraser, P. : The Air noncoding RNA epigenetically silences transcription by targeting G9a to chromatin. Science,322(5908): 1717‐1720,2008

10)Wang, K. C., Yang, Y. W., Liu, B., Sanyal, A., Corces-Zimmerman, R., Chen, Y., Lajoie, B. R., Protacio, A., Flynn, R. A., Gupta, R. A., Wysocka, J., Lei, M., Dekker, J., Helms, J. A., Chang, H. Y. : A long noncoding RNA maintains active chromatin to coordinate homeotic gene expression. Nature,472(7341):120‐124,2011 11)Saunders, A., Core, L. J., Lis, J. T. : Breaking barriers

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¨

12)Ji, P., Diederichs, S., Wang, W., Boing, S., Metzger, R., Schneider, P. M., Tidow, N., Brandt, B., Buerger, H.,

¨

Bulk, E., Thomas, M., Berdel, W. E., Serve, H., Muller-Tidow, C. : MALAT-1,a novel noncoding RNA, and thymosin beta4 predict metastasis and survival in early-stage non-small cell lung cancer. Oncogene., 22(39):8031‐8041,2003

13)Gupta, R. A., Shah, N., Wang, K. C., Kim, J., Horlings,

近 藤 茂 忠

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H. M., Wong, D. J., Tsai, M. C., Hung, T., Argani, P., Rinn, J. L., Wang, Y., Brzoska, P., Kong, B., Li, R., West, R. B., van de Vijver, M. J., Sukumar, S., Chang, H. Y. : Long non-coding RNA HOTAIR reprograms chromatin state to promote cancer metastasis. Nature,464(7291):1071‐1076,2010

14)Wilson, M., Peters, G., Bennetts, B., McGillivray, G., Wu, Z. H., Poon, C., Algar, E. : The clinical pheno-type of mosaicism for genome-wide paternal unipa-rental disomy : two new reports. Am. J. Med. Genet A.146A(2):137‐148,2008

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Long non-coding RNAs : new players in cancer biology

Shigetada Teshima-Kondo

Department of Nutritional Physiology, Institute of Health Biosciences, Tokushima University Graduate School, Tokushima, Japan

SUMMARY

The most well-studied sequences in the human genome are those of protein-coding genes. However, the coding exons of these genes account for only1.5%of the genome. In recent years, FANTOM and ENCODE projects reveal that more than80% of the human genome is transcribed into RNAs that do not encode protein. It has become increasingly apparent that the non-protein-coding RNAs(ncRNAs)are of crucial functional importance : for normal development and physiol-ogy, and for disease. In particularly cancer, it is increasing evidence that not only miRNAs but also other ncRNAs, such as large intergenic non-coding RNAs(lincRNAs)and long non-coding RNAs(lncRNAs), function as oncogenic ncRNAs and tumor-suppressive ncRNAs.

Key words :non-coding RNA, cancer, lncRNA, lincRNA

近 藤 茂 忠

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