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https://dspace.jaist.ac.jp/ Title 特許データを用いた研究開発生産性に対する研究開発 組織の分散/集中の効果分析 Author(s) 津田井, 克也; 勝本, 雅和 Citation 年次学術大会講演要旨集, 30: 75-78 Issue Date 2015-10-10Type Conference Paper Text version publisher
URL http://hdl.handle.net/10119/13229
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特許データを用いた研究開発生産性に対する
研究開発組織の分散/集中の効果分析
○津田井克也、勝本雅和(京都工芸繊維大学)要旨
企業が競争力を維持するために、イノベーションに対する注目が高まっている。しかし、日本企業の 研究開発生産性は低迷しており、それを向上させることが重要な課題となっている。このように研究開 発生産性を向上させるような研究開発組織構造を構築することが重要である。そこで特許データをもと に電機産業 4 社の研究開発組織の分散/集中が研究開発の生産性に与える影響を定量的に分析した。分 析の結果、(1)時間経過とともに研究開発拠点の集中度が高くなってきていること、(2)同産業内の研究 開発組織分散/集中はある程度近似すること、(3)集中度の高さが研究開発生産性に正の影響を与える こと等が明らかになった。1. はじめに
近年、グローバル化や、産業の空洞化が進展してきており、産業高度化の重要性が高まってきている。 そんな中、企業が経済的に競争力を維持するためには、イノベーションを通じた研究開発生産性を高め ることが必要である。また、日本企業の研究開発投資に対する収益性が低く、研究開発を通じたイノベ ーションの促進による研究開発生産性の向上、また、そのような研究開発生産性を向上させるような組 織構造を構築していくことは必要不可欠である。一方、Alcacer and Zhao(2010)は、半導体産業における研究開発を例に、市場において競合関係にあ る企業が自社に近接立地する場合、複数事業所を持つ企業は複合企業からの知識の占有可能性に対する リスクを避けるために内部のつながりを強化するとして、イノベーションに対する企業内ネットワーク の重要性を主張した。ただし、Battisti and Stoneman(2003)は、企業内の技術普及は企業間の技術普 及よりも遅れる傾向があるとして、企業内部における技術移転の難しさを示した。
また、企業内の研究開発組織とその集中度についてLeiponen and Helfat(2011)は、フィンランド企 業を対象に行った分析によって、イノベーションの成功と、企業内の研究開発活動を分散化に正の影響 があることを示している。彼らは、その要因として研究開発の活動範囲が広がることで、サプライヤー と顧客の知識が広がり、その結果漸進的なイノベーションを引き起こされることを挙げている。 さらに、Varga et al.(2010)は、研究開発活動には、研究者の空間的集中が生産性を高める Edison タ イプと外部とのネットワークが生産性を高める Pasteur タイプがあることを示している。また、 Fornahl(2009)はドイツにおけるイノベーション活動の地理的分布について特許データを用いて分析し、 技術領域によって研究開発の集中状況に違いがあることを指摘している。 しかし、このような特許データによる分析の問題として、鈴木ほか(2011)や芦田ほか(2013)が指摘 するように、日本の特許データには、発明者住所が本社に統一表記され、明らかになっていない場合や、 日本語表記特有の問題であるカタカナ、漢字、平仮名による表記ゆれが存在する場合がある。そのため に発明者の研究開発拠点が特定できない場合がある。 そこで、本研究では特許の発明者情報を特許以外のデータベースと照合することで、その特許の発明 地を特定し、研究開発組織の分散/集中を明らかにし、それが研究開発生産性に影響を与えるのかを検 証する。
2. 分析方法
(1)分析の概要 分析では、まず特許データの発明者住所が本社に統一表記されている企業の開発拠点を明らかにする。 次に、企業の研究開発拠点の組織構造を分析するために、分散/集中について検証を行う。その後、そ れぞれの研究開発拠点の開発生産性を企業間や、時間による変化を検証することで、研究開発組織の分 散/集中が研究開発生産性に与える影響を検証する。 (2) 研究開発組織の分散/集中の定義 本研究では、「特許出願数」、「発明者数」「特許被引用数」の集中度によって研究開発組織の分散/集 中を定義する。ここで、集中度を評価する指標として、市場の集中度を測る際に使用されるハーフィン ダール指数を用いる。 (3) 研究開発生産性の定義 今回の分析では、研究開発生産性の指標として、拠点ごとの「発明者一人あたりの特許の被引用数」 を用いた。Hall,Jaffe,and Trajtenberg(2005)によれば、特許が生み出すイノベーションの経済的価値 と被引用数との間には比較的高い相関があることが示されており、発明者一人当たりの被引用数は、研 究開発の平均的な生産性を表すと考えられる。また、これらの分布は正規分布に従っていないため、分 析にはノンパラメトリック手法(併合順位和に対する Dunn 検定)を用いる。 (4)発明者情報の収集方法 今回使用した特許データベースは、独立行政法人工業所有権情報・研修館の販売する特許整理標準化 データである。データは 1983 年から 2011 年までに公開された特許を収録している。 今回の分析で用いた「特許」には、鈴木ほか(2011)や芦田ほか(2013)が指摘するように、企業から の出願に際して発明者住所が本社に統一表記されるという問題があり、これを回避する必要がある。ま た、また、本特許データには表記ゆれの問題も含まれている。そこで、発明者住所が本社住所に統一表 記される問題への解決策として、国立情報学研究所が運営する学術論文や図書・雑誌などの学術情報デ ータベースにより、発明者が提出した論文の Affiliation データと提出時期を抽出し、発明者住所の特 定を行うことで、これを解決する。さらに表記ゆれの問題の対策としては、発明者住所文字列のレーベ ンシュタイン距離1が近いものを同一の住所としてみなしている。 本分析の対象企業として、特許出願数の多い電機産業界(三菱電機、ソニー、日立、東芝)の計 4 社を 対象とし、1983 年から 2011 年までの有価証券報告書に記載されている関連子会社まで含めている。ま た、分析の対象期間は、同様に 1981 年から 2011 年までに出願された出願特許を用いた。 (5)特許データ 今回使用する 1981 年から 2011 年までに出願された、各企業の特許データの概要(特許出願件数、発 明者数、発明者住所数)を表 1 に示す。 表 1 特許データ概要 特許出願件数(件)発明者数(人) 発明者住所数(県) 日立 52,900 39,636 1079 東芝 30,482 19,928 422 三菱電機 223,446 51,543 1000 ソニー 133,545 34,702 1137 1 二つの文字列がどの程度異なっているかを示す距離である編集距離の一種3. 分析結果
(1) 研究開発拠点の分散/集中 拠点ごとのハーフィンダール指数を表 2 に示す。ソニーを除く全ての企業間において、特許出願 数、発明者数、特許引用数どの項目においても、拠点集中度にあまり大きな差が見られなかった。 しかし、年ごとでみるとソニーの 2001-2011 を除いて、時間が進むにつれ拠点集中度が高くなって いっている。 表 2 拠点ごとのハーフィンダール指数 83-1990 91-2000 01-2011 all 日立 特許数 574.6 761.5 746.3 567.4 発明者数 531.9 671.6 627.0 510.3 特許引用数 583.6 715.0 730.1 602.3 全体生産性 0.62 1.01 0.18 0.73 東芝 特許数 808.2 897.3 920.5 706.1 発明者数 673.1 698.6 914.0 610.3 特許引用数 703.9 786.9 880.1 712.0 全体生産性 0.89 1.52 0.22 0.95 三菱電機 特許数 780.9 910.8 1233.5 770.2 発明者数 684.4 897.5 1182.8 796.5 特許引用数 767.4 1061.4 1407.7 914.8 全体生産性 0.82 1.71 0.44 0.93 sony 特許数 3412.1 3479.0 2171.6 2869.6 発明者数 2763.7 2859.8 1749.4 2248.4 特許引用数 3070.2 3372.8 2696.2 3193.8 全体生産性 1.20 4.20 1.27 2.36 (2) 所属企業と研究開発生産性 所属企業別の研究開発生産性を表 3 に示す。企業で見るとソニーの生産性が一番良く、年ごとで は、2000 年以前の研究開発生産性が高い。しかし、2000 年以前のペアの組み合わせでは優位差が見 られない。 表 3 所属企業別の研究開発生産性 単位:件 1983-1990 1991-2000 2001-2011 全期間 併合順位に対するすべてのペアのDunn検定 特許数 日立 平均値 0.250 0.408 0.124 0.496 中央値 0 0.036 0 0.404 東芝 平均値 0.566 0.621 0.128 0.899 中央値 0.146 0.016 0 0.518 三菱電機 平均値 0.286 0.469 0.117 0.531 中央値 0.136 0 0 0.357 ソニー 平均値 0.244 2.019 0.481 1.933 中央値 0 0.524 0 1.036 ***優位水準0.1%,**優位水準1% 52,900 30,482 223,446 133,545 2001年とその他の2つのペアで*** 2001年とその他の2つのペアで*** 2001年とその他の2つのペアで*** 2001年とその他の2つのペアで***(3) 出願時期と研究開発生産性 企業間の研究開発生産性の差を検証するために行った出願時期別の研究開発生産性の多重比較の 結果を表 4 に示す。なお、研究開発生産性の値については、上記の表2と同値のため、省略する。 表 3、表 4 を見ると、ソニーとその他の企業についてのみソニーの生産性が一番高くなっているこ とが分かる。 表 3 出願時期別の研究開発生産性の多重比較結果 日立 東芝 三菱電機 ソニー 併合順位に対するすべてのペアのDunn検定 1983-1990 平均値 0.250 0.566 0.286 0.244 中央値 0 0.146 0.136 0 1991-2000 平均値 0.408 0.621 0.469 2.019 中央値 0.036 0.016 0 0.524 2001-2011 平均値 0.124 0.128 0.117 0.481 中央値 0 0 0 0 ソニーとその他3つのペアで*** ソニーとその他3つのペアで*** ソニーと三菱、日立の2つのペアで***、東芝 とのペアで**
4. 考察と課題
以上の結果から、(1)時間経過とともに研究開発拠点の集中度が高くなってきており、組織構造の変化 していることが明らかになった。(2)ソニーを除いた電機産業、つまり重電機企業において集中度がある 程度近似することが分かった。(3)また、研究開発の生産性に関して、集中度の高いほうが、研究開発の 生産性が高くなっている。 本分析では4 社のみの分析になってしまったために、絶対数が足りず、組織構造による差なのか、製 品ラインナップによる差なのか、明確には断定できない。そのため、今後の課題として、分析対象の企 業数を増やし、他分野との比較を行う必要がある。謝辞
本研究で使用した特許データベースの利用を許可していただいた、国立環境研究所に謝意を表します。参考文献
[1] Leiponen and Helfat (2011) “When does distributed innovation activity make sense? Location, decentralization, and innovation success,” Organizational Science, Vol. 22 no. 3, 641-659. [2] Varga, Pontikakis, and Chorafakis (2010) ”Agglomeration and interregional network effects on
European R&D productivity,” Working Papers of University Pecs 2010/3.
[3] Fornahl, and Brenner (2009), “Geographic concentration of innovative activities in Germany,” Structural Change and Economic Dynamics, Vol. 20, 163-182.
[4] Hall, Jaffe, and Trajtenberg. (2005) “Market value and patent citations,” RAND Jounal of Economics, Vol.36 no.1, 16-38.
[5] Alcacer and Zhao (2010) ”Local R&D Strategies and Multi-location Firms: The Role of Internal Linkages,” Working Paper 10-064, Harvard Business School