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<特別シンポジウム>これからの神経学これまでの神経学と,これからの神経学

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48:821

<特別シンポジウム>これからの神経学

これまでの神経学と,これからの神経学

金澤 一郎

(臨床神経,48:821―822, 2008) Key words:神経科学,臨床神経学,神経病理学,分子遺伝学,システム神経学 本講演では,これまでの神経学が大切にしてきたバック ボーンは何であったかを考え,まずそのまとめをしてみたい. その上で,神経学の位置づけが他の学問分野に比して大きな 広がりを持つことを認識しながら,これからの神経学の方向 性について述べる. 1.これまでの神経学 1)20 世紀前半までの神経学の歩み 神経学の歴史は,無意識のうちに神経症候学を芸術作品に 記録していたことまで入れるとおそらくエジプト時代にまで 遡ることになるだろう.しかし,ここでは近代的な神経学を発 展させた人々が活躍した 19 世紀初頭から 20 世紀前半までの ことを考えよう.この時代の神経学は,患者が示していた臨床 症状を,病理解剖で知った神経系の病理学的所見とを結びつ けることによって責任病巣を知る,という一連の操作によっ て知識を増やした.こうした知識は現代の新しい研究手段に よって多少の変更は余儀なくされることはあっても,積み重 ねられた病理学的事実は基本的に崩れることはない.このよ うにして脳卒中,失語症,ALS,MS などが記載され確立して いった.また,20 世紀に入ってからは,基盤的な検査法(た とえば,頭部 X 線検査,脳波検査,針筋電図,髄液検査など) が発明されたことによって,トルコ鞍部腫瘍,てんかん,筋ジ ストロフィー,髄膜炎などの疾患がそれぞれ確立していった ことも見逃せない. 2)20 世紀後半から現在までの神経学の進歩 この時代の神経学の太い 5 つのバックボーンについて考え よう.画像診断については改めて解説するまでもなく,今では むしろ臨床所見と画像所見とのギャップが話題になるほどで ある.遺伝子診断も解説を要しないが,遺伝カウンセリング確 立の課題を残しているであろう.また,現在ではその関心は基 本的に孤発性である疾患(たとえばパーキンソン病や MS な ど)の発症関連遺伝子や薬物感受性遺伝子の解明に向けられ ている.免疫学的診断については,原因不明であった神経疾患 のいくつかにおいて,抗 AchR 抗体,抗 GM1 抗体,抗 GQ1b 抗体,抗 GAD 抗体,抗 mGluR 抗体,抗 NMDAR 抗体など免 疫学的機序が働いていることを明らかにしたのは重要であっ た. 一方,分子病態に基づく薬物開発もこの時代の特徴であり, その先駆けになったのがウィルソン病における銅分子の沈着 の発見と,1960 年代からおこなわれた治療のためのキレート 剤であった.同じ頃,パーキンソン病におけるドパミン減少の 発見とそれを補充するためのレボドパの臨床応用がある. 1980 年代に入るとヘルペス・ウィルスのみがもつリン酸化 酵素を利用した特異的な薬物としてアシクロヴィルが開発さ れ,死亡率をいちじるしく減少させた.さらに,システム病態 に基づく治療法開発の例としては,対症的ではあるが一定以 上の効果を挙げているパーキンソン病やジストニアなどに対 する脳定位固定術や脳深部刺激法治療法がある. 2.これからの神経学 1)『神経科学』としての側面からこれからの神経学を考え る 神経学は脳・神経系の形態・機能の解明を目標とする複合 的研究,すなわち神経科学の進歩に支えられている.その神経 科学は,認知心理学,分子生物学など多くの基礎研究領域との 連携により成り立っている.こうした視点から神経学を眺め ると,これからの神経学にはいわゆるトランスレーショナ ル・メディシンの推進によって大きな進展が期待できる.① オーダーメード医療の実現.すでに SNPs 解析からその個人 に最適な治療法の選択が一部では可能になっている.②神経 細胞を変性から救う根本治療の実現.ES 細胞や iPS 細胞によ る再生医療も夢ではない.その他祖父江元教授らの LH-RH アナログによる SBMA の治療はすでに実現一歩手間である し,siRNA などによる CAG リピート病の治療なども将来期 待できるかも知れない.③筋疾患についても,武田伸一部長ら によるモルフォリノをもちいたエクソンスキッピングによっ て不完全ながらジストロフィンの発現させる DMD の治療法 も大いに期待できそうである.④対症的ではあるが機能回復 を期待できる治療法として,パーキンソン病などに対する脳 連続磁気刺激やブレイン・マシーン・インターフェイスなど もある. 日本学術会議 国際医療福祉大学大学院〔〒107―0062 東京都港区南青山 1―24―1 アミティ乃木坂〕 (受付日:2008 年 5 月 15 日)

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臨床神経学 48巻11号(2008:11) 48:822 2)神経関連専門領域としての側面からこれからの神経学 を考える 神経学は精神医学,脳神経外科学などと同様に,神経系に生 じるあらゆる病態を把握,解明し,その治療法を開発する専門 領域でもある.こうした観点からいえば,これからの神経学は そのテリトリーを拡大するべきである.①統合失調症やパ ニック障害などの精神科疾患は,ドパミンやセロトニンなど の神経伝達物質の異常を基盤として考えられており,神経学 のアプローチも可能である.②神経性食思不振症などの心身 医学もそうである.③自閉症などの発達障害も神経学からの アプローチを考えるべきであろう.④リハビリテーション医 学についても,脳血管障害の慢性期運動障害に対する Taub らによる constraint-induced movement therapy(CI 療法)を 再評価するべきである.また,画像診断の進歩により病巣の局 在や病態がわかりつつある高次脳機能障害に対する本格的な リハビリテーションメニューが神経学から提示されるべきで ある. 3)臨床診療科としての側面からの神経学を考える 神経学(神経内科学)は診療科の一つとして,その使命を 果たす必要があり,そのためには神経内科学の深化が必要で ある.いいかえれば,臨床医としての神経内科医はこうあるべ きと私が願う望ましい姿を描いてみる.①国立精神・神経セ ンターの村田部長が偶然ゾニサミドのパーキンソン病への効 用をみいだしたように,セレンディピティーを生かすことが できるような余裕のある診療が望まれる.②東洋医学の治療 法などのような対症療法も無視せずに難病には試みる価値が あろう.③遺伝性疾患に対する遺伝カウンセリングや,難病に 対する行政のケアシステムなどとの有機的な連携が望まれ る.④多系統萎縮症の glial cytoplasmic inclusion や CAG リ ピート病の intranuclear inclusion など,最近でもまだまだ病 理学的な新しい発見が続々となされている.神経学ではとく に病理解剖が必須であることを臨床医であるわれわれは心に 銘記する必要がある.われわれは,現在の技術ですべてが解決 できると思うべきではない.次の世で新しい技術が開発され て始めて解決されることが沢山あることを認識する必要があ る.そのためにも,患者さんからえられるものすべて(遺伝子 の源としてのリンパ球,病理解剖でえられた脳組織,不随意運 動などのビデオなど)を次の世のために残しておくことを考 えるべきである.わが師豊倉先生のいわれた「百年後のため に」の精神である.

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