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拍動流体外循環の組織灌流への効果一新しく開発した乳幼児用体外循環装置を用いた実験的研究-

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原 著 〔東女医大誌 第60巻 第4号頁 315∼323 平成2年4月〕

拍動流体外循環の組織灌流への効果

一新しく開発した乳幼児用体外循環装置を用いた実験的研究一

東京女子医科大学 循環器小児外科学教室(主任 ナガ セ ユウ ゾウ

永 瀬 裕 三

今井康晴教授) (受付 平成元年11月28日)

Effects of Pulsatile Flow to Tissue Perfusionl Experimental

Studies Using a Newly Developed Cardiopulmonary

Bypass System for Infants

Yuzo NAGASE

Department of Pediatric C3rdiovascular Surgery(Director:Prof. Yasuharu IMAI) Tokyo Women’s Medical College

The effects of pulsatile flow during cardiopulmonary bypass(CPB)on the hemodynamics, renal

tissue PCO2(PtCO2), and plasma renin activity were studied in twelve dogs using a new computer controlled CPB system for infants.

Six dogs had pulsatile flow bypass(P−group)with an arterial pulse pressure of 30 to 40 mmHg, and

6had steady flow bypass(S−group). The measurements during CPB were compared with preCPB

values in each group. Systemic vascular resistance(SVR)decreased at 30 minutes after starting CPB in both groups(Pgroup:pく0.05, S−group:no significance). However there was no significant difference in the changes of SVR between two groups, Renal blood flow significantly decreased at 30 minutes after starting CPB in both groups. There was no statistically significant changes in renal blood flow

between two groups. PtCO2 increased during CPB in both groups, and it was lower with pulsatile

perfusion. The difference between PtCO2 and Inixed venQus PCO2, which may correlate to the tissue perfusion, increased at 30 minutes after starting CPB in the S−group significantly(0.2±3.7 to 15.6± 8.7mmHg, pく0.05), However, there was no statistically significant difference in the changes in this parameter between two groups. The ratio of plasma renin activity at 120 minutes after starting CPB to the preCPB plasma renin activity was significantly lower in the P・group than in the S−group(0.91±

0.16vs 4.70±1.90, pく0.05).

We concluded that pulsatile flow perfusion using this system had the better effect on renal tissue perfusion. 緒 言 近年,心臓外科における手術成績は目覚ましい 向上をとげているが,それは,体外循環法の確立, 発展によると言っても過言ではない.しかしなが ら,直流方法として拍動流を用いるか,定常流に するかは議論が分かれるところである.定常流に よる体外循環でも安全に行えるという報告1)∼3似 後,拍動流ポンプの取扱いの煩雑さのため定常流 体外循環が主流となっているが,生体にとっては 拍動流による体外循環がより生理的であるという 報告も多い4)動.症例の重症化に伴い体外循環の 影響を最小限にするために拍動流体外循環を行い 良好な結果を得た臨床経験の報告が多くみられる ようになった10)覗).また,その拍動流を得るため

(2)

に種々の拍動流体外循環装置が考案されている が13)∼17),それらは成人を対象にした装置であり, 微妙な操作を必要とする乳幼児の体外循環に使用 するには一回拍出量の精度,頻拍への対応等に疑 問があり,且つ熟練した技術が必要であるなどの 問題が残る.そのため,当施設ではコンピュータ 制御により乳幼児に適応した微妙な操作に対応し 得るローラー型拍動流ポンプの概念で乳児用拍動 流体外循環装置を考案し,コンピュータに種々の 条件を入力することによりだれでも一定した拍動 流体外循環を行える装置を開発した18》∼28).今回, 著者は,開発した体外循環装置を用いて拍動流に よる完全体外循環を2時間施行し,その間の血行 動態,腎組織炭酸ガス分圧,血漿renin活性を測定 し,定常流体外循環と実験的に比較検討した. 対象と方法 8∼16kgの雑種成犬12頭を用い,拍動流出をP 群(n=6,平均体重10.0±1.4kg),定常流群をS 群(n=6,10.6±3.1kg)とした. Pentobarbita1 25mg/kgを静脈内投与後,気管内挿管の後人工呼 吸器に接続し換気を行った.筋弛緩剤としてpan− croni㎜bromaide 2mgを使用した.右大腿動脈, 静脈を露出し,動脈圧測定用カテーテル,中心静 脈圧測定用カテーテルを挿入し,直腸温度計を装 着した.乳酸化リンゲル液を維持輸液とし,胸骨 正中切開にて心臓に達し,上行大動脈に電磁流量 計(日本光電社製)を,下行大動脈に超音波流量 計T201(Transonic System社製)を装着した. 次に,正中にて開腹し後腹膜を切開し左腎動脈を 露出,通常複数本ある犬腎動脈に同様の超音波流 量計を装着した.腎髄質にPCO2電極を10mmの 深さまで刺入した.開腹創は皮膚のみ縫合した. 腎組織PtCO2測定は温度補正つきpH/PCO2測定 装置(KR500:クラレ社製), PCO2・温度センサー (CO1035:クラレ社製)を用いた.人工心肺充填量 は990m1とし,内容はヘパリン加同種血液800m1, 5%ブドウ糖液100ml,20%マンニトール液50m1, 7%炭酸水素Na溶液40mlとした.人工肺は気泡 型(シート型人工肺M:トノクラ社製)を使用し た.送血は上行大動脈から行い,5.2mmの金属 チップカニューレ(Sams社製)を用いた.脱血は 24Frカニューレ(Polystan社製)を右心房に挿入 して行い,ベントカニューレは左心耳より挿入し た.体外循環の目標流量は100ml/kg/minとした. ヘパリン2mg/kgを静脈内に投与し体外循環を定 常流で開始した.直腸温を37℃に維持し,常温に よる体外循環を行った.目標流量に達した時点で 主肺動脈を遮断することにより完全体外循環とし た.拍動流体外循環群ではその時点で100bpmの 拍動流送血を開始した.人工心肺には100%酸素2 ∼31/minで送気した.体外循環開始後は液面レベ ルの低下に合わせ適時同種血液および5%ブドウ 糖液で補充した.アシドーシスの補正は適時7%炭 酸水素Na溶液を追加して行った.120分の後,定 常流送血とし体外循環からの離脱を行った. 体外循環装置は当施設で開発した拍動流体外循 環装置を使用した.体外循環中の生体の変化に対 する制御はコンピュータNEC PC−9801を用いて 行った21)23)帽25}.送血ポンプはDCサーボモーター を用いたローラー型ポンプ(PS御120:トノクラ 社製)で,特殊形状ポンプヘッド使用による歪み の少ない送血圧波形,コンピュータ御三による正 確な流量制御を特徴としており,心電図および動 脈圧同期による補助循環が可能である.メインコ ンピュータにZ−80を用い,これをディスプレイと 同じケースに納め本体ケースから送血ポンプに次 のような情報をインプットできる.拍動流・定常 流切り替え,拍動数(60∼240bpm),%収縮期

}総一

写真 コンピュータ制御体外循環装置 中央が拍動流ポンプシステム,左のコンピュータ (NEC PC−9801)で制御を行う.

(3)

mmHg 120 100 80 60 P O一一〇 S ●一一● Mean±SE

oL__一一_一_」_

pre 30 60 90 120 min Meanρressure 図1 mmHg 50 40 30 20 Mean±SE

oL一一__」___L_

pre 30 60 90 120 min

Pulse pressure of pulsatile flow

平均血圧の比較と拍動流体外循環時の脈圧の推移 (25∼50%),base How(0∼80%),心電図・動脈 圧同期切り替え,トリガー域値調節,同期タイミ ング,ポンプ補助相等であり,患者の体重,身長, 送血チューブ径を入力することにより,体表面積 の算出,ポンプ回転数による流量の決定が自動的 にできるようになっている(写真). 測定項目は,動脈圧,中心静脈圧,動・静脈血 ガス分析(ABL l Radiometer社製を使用),上行 大動脈流量,下行大動脈流量,隠絵動脈流量,1腎 組織PtCO2,血漿renin活性である.上行大動脈流 量は体外循環開始前のみ測定し,renin活性は開 始前,開始後60分,120分に行い,その他の項目は 開始前,開始後30分,60分,90分,120分に行った. 測定値を用いて全身血管抵抗,全身酸素消費量:を 算出した. 測定値は平均値±標準誤差にて記し,同一群で の時間的変化および2群間における統計学的検討 はWilcoxon法により行い,危険率0.05以下を有 意差ありとした. 結 果 120分の体外循環中は特に不都合な問題はな:く, 安定した体外循環が行えた.また体外循環からの 離脱も全例可能であった. 1.灌流圧 P群においては,体外循環開始前の平均血圧は

97.2±7.5mmHgであったが開始30分後には

68.5±2.5mmHgとなり,その後120分まで有意に 変化はなく経過した.また,脈圧は開始前34.2±二 5,61nmHgから120分後36.2±2.4mmHgと変化

20 CVP (mmHg) 0 4 l Rerしai arterial flow A。、/.、、 /1 0 」 I

Pulsatile flow Steady刊ow 図2 灌流下波形 拍動流では約30mmHgの脈圧が得られている.

劉撒糊

琳脳

はなく十分な脈圧をもって経過した.S群では,体 外循環開始前の平均血圧は104.3±7.5mmHgが 開始後30分で82.0±8.2mmHgとなり,120分後で は84.2±7.7mmHgであり体外循環中は有意な変 化がなかった.体外循環中の平均血圧にはP群, S群の間に有意差はなかった(図1,2). 2.全身血管抵抗

体外循環開始前の全身一血管抵抗はP群で

0.99±0.15mmHg/ml/kg/minであり, S群のそ れは0.99±0.16mmHg/ml/kg/minと差はなく, 開始後30分ではそれぞれ,0.60±0.03mmHg/ml/ kg/min,0.74±0.09mmHg/ml/kg/minと低下

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量 華 華 匡 1.0 0.8 0.6 0,4 P O一一〇 S 静● Mean±SE 量 ぎ ∈ 5.0 4.0

3.0 P ⊂〉一一〇 S ●一一● Mean±SE

o一⊥_ oL_一___L_一_

pre 30 60 90 120 min pre 30 60 90 120 min SVR O2 Consumption 図3 全身血管抵抗値の比較と全身酸素消費量の比較 葦 寒 元 60 50 40 P ⊂〉一一〇

S H

Mean±SE 葦 書 10 8 6 4

P O一一〇 S ●一一● Mean±SE

o一__ oて_⊥二よ__一__一_一__

pre 30 60 90 120 min 120min 90 pre 30 60

Descending aortic blood fiow Renal arterial blood flow

図4 下行大動脈血流量の比較と腎動脈血流量の比較 した.P群における低下は有意であった(p〈 0。05).その後はそれぞれ有意の変化なく経過し, つねにS群で高値であったが両群間には統計学 的有意差は認められなかった(図3). 3.全身酸素消費量 全身酸素消費量は,P群で,前3.94±0.92m1/ kg/min,30分後4.21±0.45ml/kg/min,120分後 4.28±0.38ml/kg/minと変化は見られず, S群で も,前3.42±0.82m1/kg/min,30分後4.65±0.89 ml/kg/min,120分後3.97±0.59ml/kg/minと変 化は見られず,2群間にも差はなかった(図3). 4.下行大動脈および左腎動脈流量 下行大動脈量は,P群では,体外循環開始前 64.3±7.5m1/kgであり,開始後30分では58.2± 4.5ml/kg,120分後では57.8±3.2ml/kgであり 体外循環に伴う流量の有意な減少は見られなかっ た.S群でも開始前65.3±9.9ml/kg,30分後 52,3±4.4ml/kg,120分後50.4±4.7ml/kgであ りやはり体外循環による流量減少に有意差は見ら れず,両群間にも有意差はなかった. 左腎動脈流量は,P群, S群でそれぞれ体外循環 開始前10.0±0.9ml/kg,8。5±1.4m1/kgが開始 30分後6.2±1.2ml/kg,5.7±1.5ml/kgと有意に 減少した(p<0.05).その後は変化なく経過した. 両下間には有意差はみられなかった(図4). 5.腎組織PtCO、 腎組織PtCO2は,体外循環開始前P群26.2± 3.6mmHg, S群27.2±3.2mmHgであったが,体 外循環開始後30分で両群ともそれぞれ46.3±6.4 mmHg,51.8±8.8mmHgと上昇したが有意差は

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なかった.P群ではその後120分値でも47.5±7.8 mmHgとほとんど変化しなかったが, S群では, 120分値61.7±10.OmmHgと漸次上昇傾向を示し たが,両群間での比較では統計学的有意差は認め られなかった.PtCO2とP。CO2との関係をみる目 的でその差を求めた.P群, S群とも体外循環前 は,1.9±4.4mmHg,0.2±3.7mmHgであった が,体外循環開始とともに差が大きくなり,30分 後にはそれぞれ9.2±6.OmmHg,15。6±8.7 mlnHgとなった. S群における増大は有意であっ た(p<0.05).P群においては120分後も7.9±6.O mmHgであり変化を認めなかったが, S群では 120分後で2L3±9.9mmHgとより大きくなった. しかし,巨群間では統計学的に有意の差を認めな かった(図5). 6.血漿renin活性 血漿renin活性は,体外循環開始前で, P群, S 群においてそれぞれ30.3±5.7ng/m1/h,18.8± 7.8ng/ml/hと個体差が大きく絶対値では統計学 的有意差がでなかったが,開始前の値に対する60 分後,120分後の値との比でみると,P群では変動 はなく,S群で,60分値が4.45±1.92と有意に高く (p<0.05),120分値でP群0.91±:0.16,S群 4.70±1.90であり両二間に有意差を認めた(p〈 0.05)(図6). 7.水分および酸塩基平衡 mmH9 100 50 o P 凹 S ●一一● Mean±SE mmH9 30 20 10 0 一10

P O一一〇 S ●一一● Mean±SE

pre 30 60 90 120 min pre 30 60 90 120 min PtCO2 PtCO2−PvCO2 図5 腎組織PCO,の比較(左),腎組織PCO2と静脈血PCO2の差の比較(右) 主 :ミ ぎ 40 30 20 10 0 P「e 60 120min 8 7 6 5 4 3 2 1 0 p<0.05

一一

P (〉一一〇 S O一一● Mean士SE

P「e 60 120min

Plasma renin activity The ratio of

plasma renin activity

(6)

体外循環中に追加を必要とした液量は,P群で は74.0±15.2ml/kg/2hs, S群では106.9±19.6 ml/kg/2hsでありP群の方が少なかったが有意 差はなかった.また,体外循環中の尿量はP群 4.2±1.1ml/kg/2hs, S群8.7±3.6ml/kg/2hsと S群が多かったが有意差はなかった.体外循環中 に使用した7%炭酸水素Na溶液は, P群, S群そ れぞれ6.9±0.5ml/kg,72±0.9ml/kgと差はな く,体外循環120分後のbase excessもそれぞれ 0.98±1.70mEq/1,0.13±0.961nEq〃と差はな かった. 考 察 心臓外科領域においては,人工心肺を用いた体 外循環法は現在不可欠なものとなっており,その 外科成績は体外循環法の発展と共にあるといえ る.現在,一般的に行われている体外循環法は定 常流を用いたものであり,多くの症例においては, その方法によって安全に行おれている.しかし, 長時間におよぶ体外循環を必要とする場合,重症 な疾患の場合,体外循環による影響を受け易い乳 幼児の場合などは非生理的な定常流体外循環では 正常組織の維持が難しく,とくに,末梢循環不全 等による多くの問題が出現する.そのため,より 生理的な拍動流体外循環が全身の循環維持を保つ ために必要であることが,血行動態,末梢循環, 各種臓器機能,組織学的検索,体液バランス,血 液組成,各種内分泌代謝などの検討から報告され ている4)∼9)29)∼37).また,Shepardら38)は,生体にお ける拍動流エネルギーは定常流エネルギーの約 2.3倍になるとしてエネルギーの面からも拍動流 の優位性を報告している.拍動流体外循環を行っ た臨床報告も多くあるが10)心12),その拍動流装置と して使用しているものは成人用に開発されたもの であり13>∼17),それを微妙な操作を必要とする乳幼 児の体外循環に応用するには問題があると思われ る.当施設では過去9年間にわたり乳幼児に使用 しても安全な拍動流体外循環装置の概念でその開 発をしてきた.ここにいたり,その目標をほぼ満 足した試作機の完成をみた. 120分の体外循環で全例離脱可能であったこと は,開発したコンピュータ制御体外循環装置が安 全に使用でぎると考えられた. 灌流沙については,P群, S群の両血塗でその平 均圧には統計学的な有意の差がなく,今回使用し たローラーポンプの特性上S群では脈圧は発生 せず,モニター上平均圧曲線様に表記される.P群 においては,脈圧は30∼40mmHg前後が得られ体 外循環開始前の値と変わらない脈圧があり波形も 似たものとなっている.このことは,開発したロー ラーポンプによって得られる拍動流エネルギーが 生体内において生理的に近い拍動流に変換され得 ることを示唆するものと考える.全身血管抵抗は, 両群とも体外循環開始より低下をきたし,その後 は,それぞれあまり変化なく経過したが,P群のほ うが低めを維持した経過をとった.しかし,有意 差がないため今回の実験ではっきり言及すること はできないが,Jacobsら‘)は4時間の拍動流体外 循環で末梢血管抵抗は上昇しないと報告してお り,金子36>は,体外循環離脱直後では拍動流体外循 環は定常流と比べ全身血管抵抗が有意に低値で あったとしているところがら,拍動流体外循環で は全身血管抵抗を低下させる要因があることが示 唆された. 全身酸素消費量に関しては,拍動流体外循環で は定常流に比し全身酸素消費量が多いとする報告 が多く4)∼6)8),このことを拍動流の微小循環におけ る優位性として位置づけているが,高流量の条件 では両者に差はないとする報告39)もあり意見の統 一を見ない.著者の実験でも送血流量100ml/kg で行ったが,2群間に差はなかった.全身酸素消 費量のみで組織灌流について言及するのは無理が あるという舟波ら35)の意見に著者も賛成である. 腎動脈流量については,体外循環開始後30分で 旧式とも体外循環前の値より低下している.下行 大動脈流量に関しては心心とも体外循環開始前後 での大きな差はなく120分後においてもあまり変 化がな:しぐことから,体外循環による臓器血流分布 の異常が起こったものと考える.しかし,体外循 環中の腎動脈血流は,統計学的には有意の差がな かったもののP群において高い値を示し,S群に おいては,漸次減少傾向を示していたが,諸家の 報告9)35)4D)によるところの拍動流の腎灌流におけ

(7)

る優位性を認めるまでには至らなかった.また, 腎組織PtCO、は,体外循環開始により開始前の値 から上昇をみたが,これは,腎血流の減少を反映 したものと思われる.ここにおいてもP群での上 昇は少なく,30分後からplateauとなり!20分後で も変化が見られなかった.しかし,S群では時間と 共に上昇の傾向にあった.組織灌流が保たれてい る場合は組織での炭酸ガスは静脈系に速やかに排 泄されるものと考えられ11)37),PtCO2とP。CO2の 差はその時点での組織灌流の状態を現すと考えら れる.その値が大きくなれぽなるほど組織灌流に 問題があるといえる.今回の実験の場合は,P群よ りも,S群において増大傾向がみられ, S群では体 外循環開始後30分で有意に増大がみられた.この ことは,両期間に有意差は認められなかったが, 組織灌流においてS群に問題のある可能性が提 起された.渡辺37)は,脳組織PtCO2の動向より拍動 流体外循環の優位性を報告しているが,今回の実 験では腎組織PtCO2の動向だけで拍動流体外循 環の優位性を結論づけることができなかった.実 験設定の違いもあるが,拍動流と定常流との組織 灌流への違いが非常に微妙なものであるためと思 われた.臨床的には拍動流と定常流とに差がな かったとしたSinghら41)も術後に低心拍出量症 候群がなかったことから拍動流体外循環が生体に とって何らかの利点がある可能性があると述べて いる. 血漿renin活性に関しては,拍動流と定常流と で差がないとする意見42)と,拍動流体外循環にお いて有意に血漿renin活性が低値であったとする 意見43)に別れるが,著者の実験では,P群において 120分の時点で有意に低値であり,上昇も軽微で あった.このことは,P群における腎組織灌流がよ り良い状態に保持されていることを示すものであ ると考える.血漿renin活性に差がないとした Philbinら42)もvasopressin, catecholamineにつ いての検討では,拍動流の優位性を主張しており, 組織下流が有効であることに結びつけている. 水分,酸塩基平衡では,拍動脈体外循環におい て,細胞の浮腫が少なく,細胞外への漏出も少な いとされ,酸塩基平衡でも定常流に比べアシドー シスになりにくいことが生理的門流の観点から言 われている4>7)8>.腎機能も良好に保持され尿の流 出が良いとする報告9)10)3‘)もあるが著者の実験で は両群間に差は見出せなかった. 結 論 乳幼児の拍動流体外循環を目的としたコン ピュータ制御による体外循環装置を開発し,その 装置を使用して拍動流および定常流体外循環の実 験的検討を行った. 1.新しく開発したコンピュータ制御体外循環 装置を使用し安全に体外循環を行うことができ, その拍動流体外循環において,十分な脈圧が確保 できた. 2.全身酸素消費量においては,拍動流群,定常 流群での差を認めなかった. 3.腎動脈流量,腎組織PtCO2を測定し腎組織 灌流において,120分の拍動流体外循環は定常流よ りも良好な結果を得たが統計学的有意差は認めら れなかった. 4.血漿renin活性では,120分の体外循環で,拍 動流群が定常流群に比し有意に低値であり,組織 細流の優位性が示唆された 5.水分・酸塩基平衡については,両群峰に差異 を認めなかった. 以上の成績より,新しく開発した体外循環装置 を用いて安全な体外循環が可能であり,その装置 による拍動流体外循環は定常流体外循環と比べ生 体にとって有利であることが推測された. 稿を終えるに当たり,本研究の御指導,御校閲を賜 りました今井康晴教授に深謝致しますとともに,御教 示,御包導いただきました副島健市博士をはじめ循環 器小児科学教室の諸兄,さらに研究部の別府俊幸修士 ならびに研究部実験室の皆様に厚く御礼申し上げま す。 文 献

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24)別府俊幸,福井康裕,土屋喜一ほか:乳幼児用人 工心肺装置の研究一補助循環機能の開発.人工臓 器 13:237−240, 1984 25)別府俊幸,副島健市,星野修一ほか:体外循環の コンピュータ制御の研究一制御パラメータの外乱 に対するスクリーニング法.人工臓器15: 1155−1158, 1986 26)末広 健,別府俊幸,副島健市ほか:ローラ型拍 動流ポンプの研究一ローラポンプ用チューブによ るポンプの流量特性について.人工臓器 16: 556−559, 1987 27)別府俊幸,副島健市,今井康晴ほか:特殊ヘッド 形状を持ったローラ型拍動流送血ポンプの開発. 人工臓器 16:564−567,1987 28)別府俊幸,今井康晴,黒沢博身ほか:ローラ型拍 動流ポンプの開発と臨床応用.人工臓器 17: 1396−1399, 1988

29)Ogata T, Ida Y, Nonoyama A et al:Acom・

parative study on the effectiveness of pulsatile

and non・pulsatile blood且ow in extracorporeal

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(9)

Effect of pulsatile and non−pulsatile perfusion

upon cerebral and conjunctival microcircula,

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31)Taylor KM, Wright GS, Reid JM et al:

Comparative studies of pulsatile and nonpul−

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Thorac Cardiovasc Surg 75:574−578,1978 32)Tayior. KM, Wright GS, Bain WH et a1: Comparative studies of pulsatile and nonpu1−

satile How during cardiopulmonary bypass. III.

Response of anterior pituitary grand to

thyrotropin−releasing hormon, J Thorac Car−

diovasc Surg 75:579−584, 1978 33)小田桐重遠,石倉義弥,川原英之ほか:大動脈閉 鎖不全症兼食道静脈瘤(肝硬変)に対する二期的 手術一拍動流体外循環の効果を中心に.日胸外会 言志 31:1337−1343, 1983 34)森渥視,薗 潤,中島真樹ほか:超低体温下 開心術に対する拍動流体外循環の応用.日胸外会 言志 28:1352−1357, !980 35)舟波 誠高場利博,石井淳一:拍動流体外循環 の実験的研究一末梢循環機能および形態学的変化 に及ぼす影響.日胸外会誌 29:1305−1315,1981 36)金子博:拍動流と定常流体外循環の実験的比較 検討一心筋および全身における血行動態,代謝に 及ぼす効果について.日胸外会誌 30:!496一 1506, 1982 37)渡辺隆夫:超低体温低流量体外循環における拍動 流の有用性一脳組織ガス分圧による比較検討.日 胸外会誌 36:322−329,1988

38)Shepard RB, Simpson DC, Sbarp JF:Energy

equiva玉ent pressure, Arch Surg 93:730−740, 1966

39)Boucher JK, Rudy I.W, Edmunds LH:Organ blood now during pulsatile cardiopulmonary

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40)Hikey PR, Buckley MJ, Philbin I)M:Pul− satile and nonpulsatile cardiopulmonary by・

pass:Review of a counter−productive contro− versy. Ann Thorac Surg 36:720−737,1983

41)Singh RKK, Barratt・Boyes BG, Harris EA: Dose pulsatile now improve perfusion during

hypothermic cardiopulmonary bypass P J Thor− ac Cardiovasc Surg 79:827−832, !980

42)Philbin DM, Levine FH, Kono K et a1=

Attenuation of the stress response to cardiopu1− monary bypass with and without pulsatile且ow, Circulation 64:808−812, 1981

43)Landymore RW, Murphy DA, Kinley CE et

al:Dose pulsatile How influence the incidence

of postoperative hypertention 2 Ann Thorac

参照

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