取締役の報酬(一)
著者
小沼 喜八郎
著者別名
K. Konuma
雑誌名
東洋法学
巻
24
号
2
ページ
83-116
発行年
1981-03
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00006038/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja取締役の報酬
()小
沼 喜八
β
良
目 次 日 はじめに 二 取締役の報酬の意義 ω報酬の一般的意義 ω賞与について ㈲ 退職慰労金について ω 使用人兼 使用人兼務の取締役報酬について 三 取締役報酬の決定方法 ω 定款株主総会における報酬の決定 ω 退職慰労金の決定方法 四 まとめ 一、はじめに 取締役と会社との関係は委任および準委任の契約関係であり委任に関する規定に従い東洋法学
︵商二五四条三項︶、 その委 八三取締役の報酬8 八四 任は無償︵民六八一条一項︶を原則とする。しかし取締役にあっては通常、会社と取締役との間の任用契約において 明示または黙示的に報酬付与の特約があるものと解されている。このことは近代会社法において会社企業経営の複雑 化にかんがみ、その所有と経営の分離を法的に承認して︵商二五四条︶株主以外の者を適任右として取締役に選任し ︵浅甕﹀ ︵樫2︶ うるものとし.また取締役に対しての重い法定の責任︵商二六六条︶、並びに取締役が近代企業の専門経営者として ︵雛壽︶ 激務に従卸している現状から癩.小してもその役務提供の対価として当然のこ撫撫理解する鑑とができる. このような取締役の報酬渓箆は.本来.業務執行行為として取締役濠たは代表取締役の権眼に属するものと諏、〆続ら 蕉絃 れるが.牢譲役霧身が碧.麟の対価としての報酬を臼から決定す繋篇ととした猿りば.k卜脇きする対価の相当性もし くは公正を欠く不当な決冠を恣意的に行ない.株主および債権者の利蕊を害する危険性がある、たとえば支出の不適 性によるお手盛参決定と過大報酬利益の鷹.出に関しての不適正による粉飾操作等、詐欺的報酬の取得等が考えられる。 今環における株式会社の企業経営としての態度は、会社企業の健全な発展を図ると共に社会正義に合致し、株主. ︵濫5︶ 会社債権者の利益を保護すると共に会社の従業員の利益をも考慮する社会政策的な配慮が要請されるのであって.か かる危険性を排除するために商法第二六九条において取締役の報酬決定は政策的に定款または株主総会で決定すべき ︵濫6︶ 旨を規定し.同条は監査役にも準用されている︵商二八○条︶。よって取締役の報酬は、その役務の提供に対する相 当性もしくは公正さについての判断を株主総会の決議に委ねられていると共に、惜報の開示の︸方法として商法第二 八一条の規定により作成すべき計算書類附属明細書において、取締役と監査役に支払った報酬額を記載するよう義務 づけられている︵計算書類規則四五条二項︶。
さて商法第二六九条をこのように解釈したとしても取締役の報酬に関しては多くの論議が生じ、解釈上も学説、判 例上異った解釈がもたされている。そこで第一に取締役の報酬とはどのような意味をもち、いかなる範囲までのもの をいうのか。特に通常の報酬とは性質を異にする退職慰労金および賞与が果して同条の範囲に包含されうるものであ るかどうか、また退職慰労金として関連して、今日役員退職金が年金制度への移行現象があるとみられ、将来多くの 会社はこれを導入し普及するものと推察されるが、このような年金制度はどのように法的に性格づけられるべきもの か。第二に取締役の報酬決定の方法に関しては、株主総会での決定がどの程度までの内容を決定すれば同条の規定趣 旨に合致したことと解され、株主等の保護に欠けるところがないと是認されうるのか。また株主たる取締役締役は特 別利害関係人となるのかどうか。第三に取締役の報酬に関しての情報開示の方法はどの程度まで要請きれるべきか。 これ等に関し多くの解釈がなされているのが現状である。この原因は同条が﹁取締役ガ受クベキ報酬ハ定款二、其ノ額 ヲ定メザリシトキハ株主総会ノ決議ヲ以テ之ヲ定ム﹂と規定しているにすぎず、規定の不完全性にあるものと考えら れる。 そこで以上の三点について私なりの検討をし諸外国の制度をも研究し、結論的には役員報酬制度に関しての将来の 立法的方向について提言をこころみたいと考えている。しかしここでは紙面の制約もあるので取締役の報酬eとして ω取締役の各種報酬と同条との適用関係について、②取締役の各種報酬の決定方法と株主総会との関係における現状 の問題点の概観をみることとした。 注1 星川﹁取締役の報酬し注釈会社法圏会社の機関五二八頁 東洋法学 八五
注注注
432
注注
6 5 取締役の報酬H 八六 高田﹁取締役監査役の報酬﹂企業会計一〇巻三号四六頁 吉永﹁株主の代表訴訟と取締役の解任﹂商法演習m五四頁 星川教授は前掲注釈会社法幽五二八頁において任用契約を締結するものは会社であって報酬額の決定権も任用契約の当 事者である会社葭身に属する。代表機関は会社鐵身の意思決定の執行機関にすぎなく自から報酬額を決定する権限を有 するものではないと主張される。 しかし.取締役は会社の機関鋤して外に対しては会社を代表し.内にあっては業務を執行する広穐灘の権限を有する ものであ碁から別段の定めのない醗り役員報酬についザ、も業務に属するものとし.その権限騰繍有す為レ篇船んるのが論理 的と考えられる。 河井 株式会社役職愚の飛事責任九三還頁 山霞﹁株式会祉の役員報酬について﹂営藤のひろば一七巻五号二七頁 同条㌃任用契約の条件を定めるに際して.取締役の選任権を有する株主総会が本来的に関与すべき.幅とを定めた非政 策的規定と解する。 星川前掲注釈会社法繭五二九頁 取締役の職務は慣習上.あるいは第三者的機関として設置されるという会社の機関構造や.その地位の尊門化の事実 責任強化等にかんがみて有償性を原則とする。 矢沢惇﹁取締役の報酬の法的規制﹂商事務法研究二一九号三頁 無償委任説・有償委任説のいずれによっても実際の結果はほとんど異ならず定款または総会の決議による報酬額の決 定がないかぎり具体的な報酬請求権は発生しないとする。 二、取締役の報酬の意義 ω報酬の一般的意義商法第二六九条の規定する﹁取締役ノ受クベキ報酬﹂とは取締役の通常業務執行にともなう労務の対価として支払 われるものである。このような意味を有する限りにおいては、俸給、給与、手当などの名称にかかわらず同条の報酬 に含まれるものと解されている。従って名目が何であれ取締役の労務提供に対する対価として支給きれる限り同条に いう報酬にあたるとされる。 そこで取締役の会社に対して提供する労務とは何かを分析すると、その性質より取締役の構成員としての活動に対 する対価、代表取締役または業務担当取締役︵常務取締役、専務取締役など︶である者がその地位にともなう職務を 執行することの対価、会社の使用人︵部長、工場長、支店長など︶を兼ねる者がその職務に関し受ける賃銀︵定時の 賃銀および賞与︶とに分類できる。ここにおいて使用人兼務の取締役の賞与が同条の報酬に含まれるかどうか閥題の あるところである。つぎに支給の態様から分析すると、定期的に支給される給与、利益処分として支給きれる賞与、 退職時またはその後支払われる退職慰労金、弔慰金、年金、保険金等に分類することができる。ここでは定期的に支 ︵溢三︶ 給される給与以外の給付が同条の規定する報酬に含まれるものかどうか論争のあるところである。そこで特に問題と される賞与、退職慰労金、使用入兼務の取締役の報酬について考察することとする。 ②賞与について 役員賞与に関しての学説は取締役の報酬と賞与は異質のものであって、役員賞与は商法第二六九条に包含されない 見解を通説とする。本条にいう報酬はむしろ将来の業務執行の対価という性格をともなうものであり、かつ取締役の 通常の業務執行に伴う労務提供の対価として支給される性質のもので、利益の有無にかかわらず定期的にまた営業年 東洋法学 八七
取締役の報酬8 八八 ︵濾2︶ 度内に会社の経費として支出されるものである。 これに対し、役員賞与は取締役が会社に利益をもたらした過去の職務の執行ないし、功労に報いるためにその対価 として支払われる性質のものである。従って利益処分にもとづく利益分配の性質を有するので、会社利益の存する場 合のみ支払われるべきものである。役員賞与の決定に関しては毎決算期の定時株主総会における利益処分案の承認決 ハ濫3﹀ 議︵毒二八一条、同二八三条三項︶が必要である. 鵡認に対する反対説は役員賞与も役員報酬の一形態であむ.これを支給するか否かはぞの額が予め確定していない だけであひて、職務執行の対価としての性質は異るところがない、従って商法第二六九条は取締役のお手喋鐸による 不公正な報酬を規制し株主を保護する立法趣旨であるのだカら.この趣旨にもとづいて賞与も同条の報麟の範囲に含 ︵蔑暮︶ ︵瀧4︶ まれる。ただ利益処分という形を採る限り定款で定めてあっても.商法第二八三条の株主総会の決議が必要とされる とする、 判例においては、取締役.監菟役の受くべき賞与金も報酬の一種であって、便宜上報酬を分けて、経常的に支給す る金額をとくに報酬または俸給と称し、営業期における利益金申より支給するものをとくに賞与と称するは何等支障 ︵濫5︶ がないと判示している。また役員報酬の外、毎事業年度における利益金の百分の十に相当する金額以内を役員の賞与 金に充て、次年度の事業費より支出するという定款の規定にもとづき、株主総会の決議を経ないで賞与を支出し、後 に株主総会の承認を得た事案において、賞与は取締役等に支給すべき特別の報酬であるからかかる定款の規定は商法 ︵濫6︶ 第二六九条の趣旨に反しないとの立場、想判示した。
私はここにおいて賞与と報酬とは性質を異にしていると考え、少なくとも報酬の範囲を明確に認識し、両者の区別 が必要であろうと思う。現在はいずれの説を採っっても株主総会の決議が必要であるので結果的には大きな差異は生 じないといわれているが、商法第二六九条の現行法規が余りにも抽象的、漢然としているのでこのような結論を導き 出すのであろうと考える。 私は通説の立場を支持するものであるが、報酬は一般経費から支出されるのに対して、賞与は利益分配として決定 される性質を帯び、本来、直接会社収益の増減にともなって変動する報酬であって、かつ経営者の企業に対する短期 的貢献を反映して支給される利潤分配的付価報酬である。つまりそれは一定の会計期問に獲得された企業利潤を源泉 として、その利潤獲得に影響をもらすところの意思決定を行ない、かつ利潤の創造に直接重要な役割を担う経営者の 執行を刺激するために、経営者等の固定的俸給構造に対して臨時に付加される性質のものと理解されるものである。 また経営者に対する賞与制度の目的は、有用な経営者の貢献に対して刺激あるいは報奨を与えることにあると考えら ︵涯7︶ れる。 このように考察すると通常の報酬と賞与は株主総会の決議によってその額が決定きれるので類似するものである が、その概念および支出する財源が異るのであって、賞与は商法第二六九条の適用範囲に含まれないものとの結論にな ︵控8︶ る。従って註5に対しての﹁法律的には正当でない﹂とする批判、註6に対しての﹁定款に定めがあっても商法第二 £9︶ 八五条の株主総会の決議を必要と解されなければならないとする批判は至当なものと考え胤。 なお今日の役員報酬に関しては一定の会計期間に獲得された企業利潤を源泉とした利益分配にもとづく概念とは全 東洋法学 八九
取締役の報酬8 九〇 く異質の、いわゆる従業員に慣行化されているボ!ナス概念に該当するものを役員報酬として支給できないものかと の考え方がある。株主総会で役員報酬の枠を決議し、その範囲内での調整にもとづく支給であれば賞与の各目で支給 ︵濾鎗周躊︶ しても利益処分としての手続を経る必要がないとの考えである。すなわち支給時期の変更︵普段の月の報酬を削って その分を特定の時期に支給する︶として認めることは理論上可能であろうが、商法第二六九条の株主総会の趣旨と解 釈上問題があると思う嬬とと、私見の寅与概念からは適合しない.ま菰驚員賞与に購しては使用人兼務取締役の賞 与.監査鴛寛与に関しては間題を残しているが轡︾弧では除外した.
注注注注注注注注注注
109876543露混
同旨.長浜アメリカと縫本の会社法二六頁 田申︵誠︶最新会社法論︵上︶三五濁頁 大隅齪山購﹁取締役会および代表取締役し総合判例研究叢書商法@六〇頁 管野﹁経営者に対するボ⋮ナス制度の構造と実態ω﹂経営論集第一六号三七頁以下 大阪控判昭和三年一〇月三〇翼﹁新聞﹂二九二〇号一四頁 東京地判昭和三年二月一二羅﹁新報﹂一七二号二七頁 鈴木﹁重役﹂経営法学全集⑥八○頁以下 矢沢﹁取締役の報酬の法的規制﹂商︸,姻法務研究二一九号二翼 星川注釈会社法鋤五三〇頁.西原.会社法二〇五頁.大浜.株式廓轍法講座︵三︶一〇斎一頁 鴻・河本.北沢・佐嵐︵繍︶芦購演習商法︵会社︶ ︵上︶ ﹁賞与の名目で支給しても.それが株主総会の決定した報酬額の範闘内であれば商法上は利益処分としての手続を踏 む必要がないであろう﹂⑥退職慰労金について 退職慰労金に関しては商法第二六九条の規定が簡単抽象的、漢然としており、この規定が商法第二八○条で監査役 に、同第四三〇条二項で清算人に準用するとの規定のみで、かかる規定が役員報酬の範囲との関係で、商法第二六九 条に含まれる性質のものか、また含まれるとしてもどのような特殊性を有するかについて問題が生ずる。 通説によれば退職慰労金は取締役の在職中における職務執行の対価として支給されるものであり、その性質は報酬 の後払い的性質を有するものである。またそれが取締役の退職後に支給されるとはいえ、取締役が株主の利益を害し て役員に不当な高額の支給をする可能性があるので、これを防止するため定款なり株主総会により決定することを要 ︵注1︶ 求したものと解し、商法第二六九条にいう報酬に含まれるとしている。このような見解を導いた理由としては、おそ らく商法に退職慰労金に対する明確な規制が存在しないため、同条の法意により含めて規制してゆくのが最も妥当と されたこと。また一部の指摘にみられるように、いわゆる従業員からの社内重役の多いわが国経済界の実情において ︵濫2︶ 従業員の退職金に準ずる思考が働いていることなどが考えられる。 この通説に対して退職慰労金は役員在職中の対価として支給されるほか、在職中の功労に報るために支給される性 ︵淀3︶ 質のものである。また退職慰労金の本質は後払的報酬ではなく、取締役の在職中の功労に対する慰労金の部分と退職 に対する補償金の部分とを含むものであるが、このような退職慰労金はいずれにしても在職申の職務執行に関連して 発生しうるものであるから広義の報酬に属するものとして、これに第二六九条の準用または類推適用が考慮きれると ︵注4︶ する見解がある。さらに退職慰労金は在職申の職務執行の対価に該当する部分と在職中の功労に対する対価とが不可 東洋法学 九一
東洋法学 九二
分に結びついているのが退職慰労金の特殊性といいうるので、同条を直接適用するのは妥当ではなく、むしろ同条を ︵濾5︶ 準用または類推適用するものとの見解がある。 これらの見解に対し、取締役の退任後に支給される退職慰労金は同条の対象にならないとする見解がある。すなわ ち商法第二六九条は、取締役の報酬について定款の定めまたは株主総会の決議を要求しているが.それは取締役の報 醐.讃の決定を取締役の麟由に濠かせるとお手盛参になって株主の利益を害するお螺れがあ恐徽煮を考慮したものであ る.取締役の全員が受ける遜常の報酬については右の理由が一〇〇パーセント妥当し.従ン、、その畷の蕊誉眠燈領 を定款に規鳥するか.または株主総会で決定してもらわなくてはならないが.退職慰労金は退職した特定の取締役に 支給するもので、その者はすでに取締役の地位を退き取締役会における議決権も即胃権燃有しないのであるから、お 手盛りという問題は全く有しないわけで.このような退職慰労金の特殊性を考えれば、それは第二穴九条にいう報酬 ではなく、株主総会の決議を要しないものであり、退賎金について株主総会で議決している慣行は単なるエチケット ︵灘6︶ 的なものにすぎないとする。 この見解に対して第二六九条の趣旨としてのお手盛りの弊害防止と、退職慰労金の特殊性ということを単純に対置 している点については賛成できないとの批判がある。すなわち従来の判例、学説が不用意に淋.騨手盛り防止ということ を強調していた嫌いも確かにあるが.いわんとするところは取締役会が株主の利益を害して.役員に不相当に高額の 報酬や退職慰労金を支給することを防ぐためという趣旨ととるべきであって﹁お手盛りを排除するほか、ヤミ取引を 防止しようとする意図もあり﹂いわゆるお手盛りということについての理解がはなはだ一面的であるためではないかと考える。また弊害が現実的である以上はそれを規制する必要があり、取締役の職務執行の対価はその時期が在職申 ︵濫7︶ であるか、退職後であるかを問わず同一の規制に服するべきあるとする。 私見においても同条の不適用説に賛成しがたい。もしこの論理で考えるならば現職の取締役の報酬決定にあたる場 合、その当該取締役を除いた取締役会において決議をすれば株主総会の決議は必要ではなく、かつ取締役にょる不相 当なもしくは不公正な報酬額の決定という弊害または危険性が常に発生する状態となってしまうのではなかろうか。 すなわち取締役同志の有する心理作用または人情作用からのかかる危険性または弊害排除を趣旨として、第二六九 条が取締役の報酬に関して株主総会の決議事項と規定しているものと考える。従って退職慰労金に関しても、すでに 役員を退職している者とはいえども共に会社の業務執行に関して苦楽を共にしてきたこと、やがて現職の取締役も退 職はわが身にせまるものとして有利な退職慰労金を考えてやろうとする心理作用が働くことが道理であろう。そこに お手盛りまたはヤミ取引の問題がでてくるのであって、退職慰労金が取締役報酬の性質の範囲であるかどうか、また 株主総会が実際に本来の機能を発揮しているかどうかを別問題にしても、制度論として第二六九条の適用または準 用、類推適用をされるべきが妥当と考える。 判例においてはこの退職慰労金の性質をどのように解しているかというと、取締役の退職慰労金はすでに取締役の 地位を去った者に対し、取締役の在職中における職務執行の対価として支給されるものであるから、商法第二六九条 にいう取締役報酬の一種とみるべきで、退職慰労金を支給するか否か、支給する場合のその額は定款または株主総会 ︵濫8︶ の決議をもってこれを定めなければならないとし、おおむね職慰労金は第二六九条の報酬に含まれるものと判旨し
東洋法学 九三
取締役の報酬8 九四 ︵建9︶ ている。 そこで私見にもとづく退職慰労金の性質について検討をこころみる。通説においては退職慰労金を職務執行の対価 ならびに在職申の功労の対価としての後払い的性質を有するものであるとの見解であるが.これには賛成できない. 何となれば取締役の職務執行に対する対価は、通常の取締役報酬として、会社経営に対する貢献ならびに功労に対す る対価は利益処分にもとづく.冥与として支給されているのである。これらの点より考察すると、もし退職慰労金が 職務執行ならびに功労の対楓として退職後に支給されるものとするならば.在職申に雇ける取締報酬および取締役賞 与に関しての定款の規定または株主総会の決議にもとづく支給が、相当性もしくは公正きを欠いた不当な支給であっ た凱とと解されなければならない蔦とになる。しかし一般的にはそれらは遠正な額が支給きれているものと解するの が通常であって、退職慰労金をこのような性質のものと解することが困難である.むしろ退職慰労金の性質は.取締 役の退職に対する補償金として退職後の生活保障的色彩の強いものであり.このことによって取締役が在職串安心し て職務に傾注することができ、また広く優秀なる経営専門家としての取締役を募ることも可能となり.かつこの要素 に功労的要素が加昧されたものと解する。従って退職慰労金は取締役の就任または在任の条件とはなっておらず、支 払請求権は退職した取締役が過去の労務に対して有する権利ではない。すなわち任用契約の内容とはなっておらず株 主総会の判断をまって生ずるべき権利であると解する。 この意昧から退職慰労金は商法第二六九条の規定する役員報酬の範囲内に含まれる性質のものとは解さないが、か かる退職慰労金は取締役の在職申の職務執行との関連において発生するものであるから広義の報酬であることには違
いなく、立法論は別として商法第二六九条の準用または類推適をなされるを妥当と考える。 注1
注注注注注注注注
98765432
最判 昭和三九年二一月コ日民集一八巻一〇号一二四三頁 大阪地判 昭和三二年二月一六撮下民集八巻二号二二二九頁 鴻﹁役員の退職慰労金﹂ジュリスト商法の判例第三版 鈴木 商法研究斑一二四頁以下 服部﹁役員の退職慰労金と株主総会の決議﹂判例時報四一三号二八頁 酒巻﹁取締役または監査役に支給される報酬﹂金融商事判例一二二号五頁 大隅難山口 前掲六〇頁 星川、堀口、山縫、酒巻法律演習講座⑥会社法三三三頁 大隅鐸山口総合判例研究叢書商法㈲六〇頁 小町谷“管原 商法講義会社ω二三二頁 田中︵誠︶会社法詳論︵上︶四三五頁 石井会社法︵上︶三二頁 大隅全訂会社法︵中︶九一頁 大阪高判 昭和四二年九月二六日高裁民集二〇巻四号四ご頁 大阪地判 昭和四四年三月二六日下民集二〇巻三一四号一四六頁 ㈲使用人兼務の取締役の報酬 代表取締役および業務担当取締役の職務はその業務執行に必要なすべての事項におよぶので、このような範囲内の ことがらについて︵例えば末端の事務の直接遂行︶、 それが職務遂行について必要な事項である限りすべて商法第二東洋法学 九五
取締役の報酬8 九六 六九条の範囲に含まれる報酬であると解されている。 しかし業務執行権限のない取締役︵例えば取締役部長、工場長、支店長等︶が使用人を兼ねる場合、使用人分とし ての給与についても同条のいう﹁取締役ノ受クベキ報酬﹂に含まれるか否かについて学説上論争のあるところであ る。 従来.通説は否定説をとり.使用人兼務の取締役の報酬は使用人たる資柘において受ける報酬と.取締役たる資枯 において受ける報酬とを区別する必要があって.使用入分についての報酬は定款または抹主総会の決議による定めを ︵灘三﹀ 必要としないとする立携曾之る、 このように使用人分の資格において受ける報酬は同条の規制を受けないとして否定の立場をとるが.これに、、偽ると 使用人としての報酬は代表取締役が自由に決定しうるので.それを著しく多額にし他方取締役としての報州を少額に することで.同条の趣旨を容易に没却する危険性がある。そこで同条の立法趣旨を守るため取締役としての報酬のほ かに使用人分としての報酬を支給するときは、取締役の報酬を決定する株主総会において噌命・の旨を明らかにすること ︵灘2︶ が必要であり・これを明らかにしないで報酬決定がなきれたときは使用人分としての報酬は支給しえないとする見 解。 また取締役の報酬賞与を定める株主総会に使用人分としての報酬賞与を報告すべきであって、使用人分として報酬 ︵濫3︶ 賞与の額が甚だしく不当である場合は商法第二六九条の脱法行為となって無効であるとする立場の見解もある。 きらに使用入兼務取締役の使用人分としての給与は﹁労働契約の対価としての報酬﹂であって.これを取締役が受
けるときはその性質を変ずると解する理由はなく、ただ使用人分としての給与が別に支給される旨を株主総会におい て明らかにしておく必要がある。その理由とするところは要するに商法が会社の機関としての報酬の適否の判断を株 主総会に留保しているのであるから、会社の機関としての報酬が過多でないかどうかを株主総会として正確に判断せ しめる必要があるからである。 ︵お手盛り防止の必要は使用人についての給与体系があいまいな同族的企業について 存しうるにしても、そのこと故に商法の一般論として右のように解することは妥当でなく、このような前近代的な給 与のお手盛り防止については別の対策を講ずるべきである陸なお法人税法三四条ー三六条参照︶従って別に使用人と しての給与が与えられることを明示せずに、使用人兼務であることの事実などをあいまいにして、不当に高額な取締 役の報酬額を決議した場合、事情によっては著るしく不公正な決議としてその決議が取消の訴の事由となりうるとの ︵溢4︶ 見解もある。 これに対して肯定説の立場は、使用人兼務の取締役の報酬申の使用人分としての給与についても株主総会の決議を ︵注5︶ 必要とする見解である。否定説のように使用人分の給与については株主総会の決議を必要としないとしたならば、決 議を必要としない使用人の給与を著しく高額にして取締役の報酬を低くすれば商法第二六九条の規定は全くの空文と なってしまう。また本来、機関としての構成員である取締役が使用人の地位を兼務することによって、反対に代表取 締役の指揮命令に服するとすれば、監督機関としての機能を果すことができなくなってしまうわけで、このような使 用人兼務の取締役の存在を認めることができない。従って商法第二六九条の規定における取締役の受くべき報酬に ︵濫6︶ は、取締役としての資格で受ける報酬も使用人の資格で受ける報酬もともに含まれるとする。 東洋法学 九七
取締役の報酬 九八 肯定説は否定説への批判として、使用人兼務の取締役の使用入資格にもとづく給与は同条の適用を否定しておりな がら、一方において使用人資格にもとづく給与の支払義務を果しているがその根拠を明確にしていない。また実質的 には取締役の報酬につき使用入分の報酬を含めることと大差がないのであるから.これを含めて同条の適用を認める ︵濫7︶ べきであるとしている。 私は商法第二六九条のコ取締役ノ受クベキ報酬﹂の意義かぢ使用人兼務の取締役の報酬壷許察した携合.かかる 報醐は﹁取締役の地位にもとづく職務執行の対価としての報酬﹂を言及しているものと解する.従って使用人兼窮の 取締役の使用人の寅格に臨とづく報酬については、原則として同穿の適用をされず株主総会の決騰事項の対象外のも のと考える、しかし.今縫使用人謙誘の取締牧制度の存在を認めているのであるから.取締役としての資格にもとづ く報酬分と使用人としての資格にもとづく報酬分とは論理的にも実務的にも区分する必要がある。もし区分が不明確 な場合に限って、使胴入兼務の取締役の報酬︵退職慰労金を含む︶は同条の適用がなされるものと解する。なお使用 ︵濫8︶ 人兼務の取締役の退職慰労金に関し、この考えに類似した判例がある。 しかし.このような見解に従っても使用人兼務取締役の取締役の資格にもとづく報酬に関しては、会社機関として の報酬としてその相当性の判断を株主総会において審判せしめる必要があるものと考えるので、使用人の資格にもと づく報酬とは別に支払われる旨を明らかにしなければならない。少なくともその報酬の総額は開示しなければならな いものと考える。 現行の範囲内での最良の開示方法としては、附属明細書において業務担当取締役︵代表取締役も含む︶、使用入兼
務取締役、監査役報酬とを各々別摘記することとして、使用人兼務取締役の使用人分給与についてはその総額を別摘 記することを義務づけることが論理的であり、かつ実務的にも可能であると考える。 注1 石井 商法1三〇五頁 大隅全訂会社法論︵中︶九二頁 田中︵誠︶会社法詳論四三五頁 鈴木経営法学全集⑥八○頁 注2大隅全訂会社法論︵中︶一二二頁 注3 上田﹁取締役の報酬﹂商事法務研究二六号一〇頁以下 注4 石井商法1口四二八頁 注5 長浜アメリカと日本の会社法二七頁 矢沢﹁取締役の報酬の法的規制﹂商事法務研究二一九号一九三頁 星川﹁株式会社役員報酬についての一考察﹂株式会社法の論理と課題九三頁以下 星川注釈会社法鯛株式会社の機関五三三頁 水田﹁取締役の報酬の定め方﹂会社法律相談一〇〇問一四一頁以下 注6 星川前掲株式会社法の論理と課題九三頁以下 星川前掲注釈会社法飼五三三頁 注7 大隅戸田、河本、判例コンメンタル商法玉下会社︵2︶七二五頁 注8 京都地判昭和四四年一月六日金融商事判例一五五号一五頁 使用人兼任取締役に退職慰労金を支給する場合 使用人としての退職金の部分が退職金規程等に基づき開確に区分できるときを除き、退職慰労金金額について本条の適 用がある。 東洋法学 九九
取締役の報酬 大阪高判昭和五三年八旦三縁判例時報九一八号二四頁 従業員の地位を兼任している取締役が退職した場合には. 適用はない。 輔○○ 従業員としての退職慰労金部分については商法第二六九条の 三.取締役報酬の決定方法 取締役報酬の決冗方法に関しては定款または株主総会の決議にもとづく報酬の決定方法と.取締役会による配分決 定方浅とが存するが.ここでは株主総会の決竣にもとづく報酬の沖疋方法に書及した。 取締役報酬の中で賞与に関しては取締役報酬の意義において.利益処分にもとづく株主総会の決議によ欝てをの額 が決定されるもので.広義の取締役報酬であるけれどもその概念および支出する財源の性質が異るので、商法第二穴 九条の適用は受けないとの見解を示唆したのでここにおいては除外した。 取締役報酬の決定方法に関しては取締役報酬の中で特に退職慰労金が.判例、学説上において商法第二六九条との 関係において、その解約上、また実務界においても.多くの闘題を提供しているので、一般通常の取締役報酬と区分 して検討することとした。 ω 定款 株主総会における報酬の決定 取締役にあっては通常、会社との間の任用契約によって明示的にまたは黙示的に報酬附与の特約があるものと解さ れている。そして取締役の報酬の決定に際しては定款にその額を定めるものとし.定款に定めのないときは株主総会
の通常決議によって定めるものと規定されている︵商二六九条︶。 この場合、必ず具体的な金額を定めることを要するので、定款に規定をおくときは定款を変更しない限り、従前の 定款規定に従った報酬が支払われることとなるので、実務界では定款において規定せず、株主総会の決議において報 酬を定める方法を採用しているケースが多い。そしてこのような定款または株主総会の決議によって定められる具体 的報酬の額は、取締役全員に対する報酬の総額または最高限度額と定めれば足り、各取締役に対する支給額の決定は ︵注1︶ 取締役会に一任されうるものとされている。 大審院は昭和四年六月五日︵民三判昭和四年︵オ︶三九七号︶において﹁被上告会社定款二頭取副頭取ハ取締役会 二於テ定ムルトコロノ俸給ヲ受クルモノトアルハ、素ヨリ其ノ俸給ノ金額ノ決定ヲ取締役会ノ無制限ナル自由二一任 シタルノ趣旨ニアラズシテ、此等ノ者二対スル俸給ハ社会事情ノ変遷、会社営業状態ノ推移或ハ頭取副頭取タルヘキ 者ノ手腕閲歴如何等二依リ、其ノ額ヲ異ニスヘキヲ適当トシ、予メ其ノ金額ヲ固定セサルヲ便利トスルカ故二、右定 款ハ此等ノ事情ヲ樹酌シ相当ナル範囲二於テ其ノ決定ヲ取締役会︸二任シタルノ意ナリト解スヘキモノナレハ﹂と判 旨して、定款に頭取副頭取は取締役会において俸給を受ける旨の定めがあるときは、具体的な金額または最高限度額 を定めなくとも、取締役の報酬を定めた場合に該当すると判示している。 しかし既述の如く本条︵商二六九条、同旧一七九条︶は手続き規定であって、判旨はその立法趣旨に反するもので ︵漆2︶ 正当な解釈とはいえないと批判きれている。 さらに取締役と会社との間に任用契約にもとづく報酬特約の附与があったと解してもこの判旨は正当と評しがた
東洋法学 一〇一
取締役の報酬 一〇二 い。何故なら株主総会において選任された者と、会社との任用契約は代表機関によって締結されるが、その際恣意的 に有償ならしめその報酬を決定するときは、いわゆるお手盛りとなって会社に損害を生ぜしめるおそれが存在するた ︵濾3﹀ め.報酬の額を定款または株主総会の決議によって具体的な報酬金額または最高限度額を定める必要があると思う。 ︵淫4︶ そしてこのことによって個別的取締役の配分額の決定を取締役会に一任したとしても弊害は生じないであろうと考え る。 いわゆる役嶽戴酬のお手監蔭を防止するためには、取締役の報酬総額毒しザ、最高限度いくらの報酬が支払われるの かを.株主のものである会社財産から流出される韻メ麟を株主自から株主総会において決定きししめれば.その範囲 ︵濾5︶ において株主の保議が十分にはかられているものと理解することができる。 私はこの観点から取締役の報酬に関し、全く報酬金額を定めずして無条件で取締役または代表取締役に一任した定 款の定め、ならびに株主総会の決議は商法第二六九条に反するもので無効であると解する。近時の判例.学説におい ても異論なきところである。 注三
注注
32
大阪地判照和三八年六月二九鷺下民集四巻六号九六三頁 石井暴商法ー潟四二四頁 大隅疑全訂会社法論︵申︶九二頁 大隅蓑山口総合判例研究叢書商法㈲五二頁 大隅賛山鶏前掲書五三頁 星罵注釈会社法岡会社の機関五二九頁注4 大判昭和七年六月一〇日民集二巻一三七〇頁 注5 矢沢﹁取締報酬の法的規制﹂商事法務研究二一九号八頁 ② 退職慰労金の決定方法 取締役および監査役が退職または死亡した場合には、一般に退職慰労金︵死亡弔慰金も含む︶として相当額の金銭 が贈呈ないし支払われているのが、わが国実務界の慣例となっている。 このような退職慰労金は退職した役員の在職中の職務執行の対価として支給されるものである限り、またこれ以外 にその在職申における功労に報る趣旨を有する場合をも含めて全体として商法第二六九条、第二八○条の報酬に含ま ︵注1︶ れ、適用の対象となると解するのが判例、通説の立場である。 これに対して鈴木竹雄教授は退職慰労金は形式的にも実質的にみても通常の役員報酬とは性質を異にし、法律的に も異る体系のものであるから、商法第二六九条、第二八○条の報酬に含まれるものではないとされる。 私は商法第二六九条、第二八○条の準用または類推適用をするべきものとの見解に立つが、これからの学説、判例 に対する検討はすでに口取締役の報酬の意義⑧退職慰労金についての項で詳述した。 ところで商法第二六九条の立法趣旨は決定手続きを規律したものであると解され、定款または株主総会において必 ず具体的な金額または限度額を定めることを必要とする見解については、取締役の通常の報酬に対して異論のないと ころである。 しかし、わが国の実務界の慣例によって贈呈または支払われる退職慰労金は、商法第二六九条第二八○条の適用が
東洋法学 一〇三
取締役の報酬8 一〇四 なされることを前提として、かつその支払いについては株主総会の決議が必要であるとの認識に立ちながらも.実際 株主総会では﹁退任取締役に対する慰労金の支給また贈呈の件﹂を附議して.その決議に関しては﹁その金額、支払 時期、支払方法については当社慣例に従って取締役会にその決定を一任する﹂との旨を条件づけて、取締役会に一任 きれているのが通例とされている。 滅た判趨も大判昭和四年四月穴灘︵民三判昭構鰻年︵オ︶三九七号︶の判旨を維費し実務界の慣行る是認する方向 ハ滋鷺﹀ にある、すなわち擬判昭和三九年一二月二鷹︵民集一八巻一〇号一二四三号︶は.慰労金支給に関する株主誌会の 取締役会への一任許難.でうっても.その金題、支払期鷺、支給方法を無条件で一任した趣旨でなく、取締役会は自幽 の判断による嬬となく.会社の叢績はもちろん遊職役員の勤軌年数.担当業務、功餐の軽重から割蔭出した一定基準 により慰労金を決定し右決定方法は慣例となっている。この慣例に従い決定することを株主総会が黙示して決議した とみられるときは、その決議はその金額等に関する一定の枠が決定きれたものとして有効な決議であるとする。 確かに本判決は退職慰労金に関しては株主総会の取締役会への無条件委任決議は無効であるとし.株主総会の慣例 となっている一定の基準がある場合、それに従って算定し支給することを明示または黙示によって取締役会に一任し たときは有効であって、そのことによって支給聖尚限度額嚢枠粧が定められることになるとしている。 その後の最高裁判決所昭和四四年一〇月二八鷺︵昭和四四年︵オ︶六〇九号︶は、会社の慣行および内規により退 職慰労金の支給に関する一定の支給基準が確立されており、これは株主なども推知することができるものであったこ と、総会決議は黙示的に右支給韮準をもって限度とする範囲内において、各自の在職中の功罪、退職理由など種々の
事情を考慮し、相当な金額を支給すべきものとする趣旨であったことを理由にあげ、右事実は挙示の証拠により首肯 することができ、かような事実関係のもとにおいては本決議が商法第二六九条に違反しているとはいえないとしてい る。また昭和四八年二月二六日︵昭和四八年︵オ︶六七九条︶判決も、これを確認し実務界の慣行を是認する結果 となり、この方向は固ったようである。 さて、この判旨にもとづけば株主総会が無条件一任決議でないとするためには、退職慰労金に関する基準慣行の内 容について、株主が知っているか知り得る状態でなければならないことになると思われる。しかし、この判旨に賛成 の立場から、通常の報酬の決定は将来の業務執行について定めるのであるから不確実な要素が多いのに対して、退職 慰労金の決定は過去の業務執行の対価として支給きれるものであるから考察すべき要素は確定しており、裁量の幅は 狭く基準を逸脱するおそれは少なく、また退職慰労金支給の基準自体がそれぞれ明確なものでなく、株主による認識 ないし認識可能性についてそれを厳格に考える必要はなく、漢然たる推測をなしうる程度で足りるとする見解があ ︵濫3︶ る。 この見解によれば黙示の決議を認めることとなり、退職慰労金に関しての実務的無条件一任決議を認める結果をも たらすのではないかと考える。その上、退職慰労金なるものは功労に報ることの要素が強く、功労の評価そのものの ︵濫4︶ 判断が難しく、また株主総会では決議のしにくい事柄であるから取締役会に一任する決議も有効であるとの結論を導 き出すことにもなってしまうであろう。 これらの最高裁判決および諸説に対し、下級審判決および学説において有力な反対説があり、通説はむしろ反対説 東洋法学 一〇五
取締役の報酬8 嚇〇六 の立場にあるといえる。大阪高判昭和四二年九月二六日︵高裁民集二〇巻四号二頁︶は、株主総会が役員の報酬を 定めるにあたっては細部を取締役会に委譲する場合においても、支給すべき報酬の最高限度額は自らの決議により定 めることを要し、このような制隈を付することもなく一切の決定を取締役会に一任するような総会決譲は無効である ︵淫5︶ としている。 また大阪地判昭和四四年三月二穴臓︵下民集三.四併合一四六頁︶は、商法第二六九条の立法趣旨は取締役.監査 役の報酬額の決定を取締役会にゆだねる鳳撫が恣意的によるいわゆるお手盛りの弊害を招離.会社並びに株主の利益 を害するおそれがあるため、礁れを防ぎその公正を担保しようとするに尽きるのであるから、右法条件は株主総会自 らがその金額を確定的にする鵜となく.禽理的な一定の枠を示し、その範睡における具体的な金額の決定を取締役会 に一任することまでも禁ずるものではないと解すべく.このような枠の決定は株主総会の決議において明示的になさ れた場合には勿論、黙示的になされているものと認められる場合を含み、かつその枠はそれに則って算定すべき一定 の基準が示されることをもって足り、必ずしも最高限度額を決定することまでも要請されているものではないと判旨 している。 右判旨は最高裁判決を支持する理論構成をとりながら.そのためには根本的に一定の基準が存在していることが必 要であり.つぎに右基準が存在するにしてもそれが法の要求しているお手盛り防止の基準に合致していることが必要 であり、さらに右一定基準に則り金額等の決定をなすべき旨の制限が黙示されたと言いうるためには.右一定の基準 の存在が株主一般に知らされているか、もしくは容易に知りうる状況にあることを要し、以上の要件をみたさずに金
額の決定を取締役会に一任する旨の株主総会決議は無効であると理解することができる。 このように概観する退職慰労金は商法第二六九条の適用に関しては、通常の報酬と実務上の取扱いが異っており、 その決定方法において問題が存在することになる。 佐藤庸教授はこれに関し、要するに個々の取締役の報酬ないし退職慰労金の額の公表を避けることに帰因すると 述べている。通常の役員報酬については全員の報酬を一括してその限度額を定めれば、個々の取締役の報酬がわから ないで済むが、退職慰労金については必ずしもそうはならない。とくに死亡退職の場合には限度を定めるといって も、対象は当該取締役だけであるから結局その退職慰労金ないし弔慰金の額を明示する結果となるので、これを避け ようと思えば退職慰労金については通常の報酬と異った漢然たる基準でも持ち出してごまかすほかはないのであっ ︵注6︶ て、通常の報酬については株主総会において合計の限度額を定めれば足り、退職慰労金については株主総会で定める 必要がないとの見解である。 もし、この立場によれば退職慰労金︵弔慰金︶はいずれも商法第二六九条の適用外にあって、取締役会が合理的な 決定をすればそれで足り、それが不相当なものであれば取締役の善管注意義務違反として責任問題が発生するだけの ︵浅7︶ ことになるだろう。 しかし私は、このような実務界の慣行が許容されるか否かについては、商法第二六九条の立法趣旨と解釈との関係 において考えねばならぬ問題と考える。前述の最高裁の見解に対して、判旨が挙げる会社の業績、退職役員の勤続年 数、担当業務、功績の軽重といったものは、取締役会が退職慰労金の額を決定する場合の基準となるべきことは当然 東洋 法学 一〇七
取締役の報酬8 一〇八 であるが、そのような基準は取締役会に一任すると株主総会との決議の関係で基準としての意昧を本当に有している ものかどうか正に問題である。そのような基準はおそらく会社上層部のごく一部の者にしかわからず、そして比喩的 ︵漆8︶ にいえばそれらの者にとって主観的には客観化されておるけれども.甚だ主観的なものである。また判旨は商法第二 六九条の規定が立法手続きを規律する趣旨とする観点からもそえないこととなり.明確な金額算定の基礎を示すこと ︵盤且 なく不確定な要素にょって取締役会にその金煙の決定を委ねる蔦とはお手盛むの危険性が残る鵯とになる. 判旨を肯定する立輝靴あっても、鉱の一定の基準は総会で確定したのと同程度の明臼な数学的基準たるぐとを要す ハ濾欝︶ るとの見鋸がある. つぎに判旨における黙示の決議が間題であ喋て、こ㌶にいう黙示の決議の意昧が不明確であり.形式的には条件が 付加されているようにみえても、実質的には株主総会の決議が取締役会への無条件一任決議になる危険性を含んでい ︵溢難︶ ることである。 さてこのように退職慰労金の決定方法について考察した場合.その決定にあたり最も重要な要素が一定の基準にも とづく明確性ということであろうと考える。そこで少なくとも一定の基準というからには取締役がたんに退職慰労金 の支給に関して形成してきた慣行の存在だけでは株主が当否を判断できるような基準とはいえない。基準の要件をみ たすだけの内部規定の存在が必要であって、このことによって株主が一定の基準をあらかじめ知ることができ.知り うべき状態にあるということができ、株主総会において退職慰労金の最高限度額の認識および決定を可能とし.最終 的には商法第二六九条の立法趣旨にかなうことになるものと考える。
私は退職慰労金に関しても定款または株主総会決議において、通常の取締役の報酬と同じく最高限度額を定める必 ︵控穏︶ 要があり、定めのない場合は無効であると考える。また最高限度額が定款または株主総会の決議において定めてあれ ば、取締役に支給される具体的金額、支払時期、方法等に関しては取締役会に一任されうるものと考える。 注1
注註注注
5432
注注注注
9876
服部﹁役員の退職慰労金と株主総会の決議﹂判例時報四ニニ号二八頁 鴻﹁役員の退職慰労金﹂ジュリスト基本解説③九六頁 佐藤﹁取締役の報酬﹂新商法演習ω会社八頁以下 佐藤前掲成膜法学六号二九頁 京都地判昭和四四年一月一六日金融法務事情五三六号三一頁 同旨大阪高判昭和四二年一二月一四日金融商事判例一〇二号ニニ頁 佐藤前掲成膜法学六号二九頁 水田﹁役員の退職慰労金と株主総会における決議の仕方﹂商事法務研究三四四号三頁以下 佐藤﹁取締役の退職慰労金について﹂成黙法学六号二九頁 最判昭和四八年二月二六日商事法務研究六五一号二二頁 最判昭和四四年一〇月二八日判例時報五七七号九二頁 大阪高判昭和四二年九月二六海高裁民集二〇巻四号四二頁 最判昭和三九年一二月二日民集一八巻一〇号二一四三頁 小町谷纏菅原商法講義会社ω二三三頁 田中︵誠︶会社法詳論︵上︶四三五頁 石井会社法︵上︶三二頁 大隅全訂会社法論︵中︶九一頁 東洋 法 学 一〇九注注注
孟21!王0 取締役の報酬8 一一〇 田申︵誠︶全訂会社法詳論︵上︶四八三頁 加美﹁取締役の報酬について﹂一橋論叢五七巻一〇号五七頁 竹内糠龍顯会社法三一二頁 ﹁退職慰労金も商法第二六九条の報酬に含まれるものと解され.それに対する株主総会のコント認ールの在り方も俸給 等の場合と異ってよいはずはなく.右のような慣行そのものが違法だというほかはない﹂ 四.まとめ 取締役報酬の意義を考えたメ鑓、商法第二六九条の規麟対?に包含きれるものは、取締役の職務執行の対価として 認められるものは今銭熱酬のみでなく、現物支給その他のものをも包含することは当然である、 従って、名目が何であれ取締役の労務提供に対する対価である限り同条のいう取締報酬に該当するとの一般報酬概 念においては異論の無いところである、 しかし.支給の財源の性質およびその対価である職務の性質から考えると、役員報酬に対する概念に問題が生じて くる。 まず役員賞与であるが、役縁宣与は取締役が会社に利益をもたらした過去の職務執行ないしその対価として支払わ れる性質のものである。従って利益処分にもとづく利益分配の性質を有するもので.会社に利益の存する場合のみ支 払われるべきものであって、毎決算期の定時株主総会における利益処分案の承認決議︵商二八一条、同二八三条︶が 必要であると考えられ、その概念および支出する財源が通常の報酬とは異質のものであるから商法第二六九条の適用範囲に含まれないものと考える。 しかるに、いわゆる報酬と賞与とを区別するか否かは理論上のものであって、実際上の差異はなく用語をどのよう に定義するかの問題であるにすぎなく、賞与の名目で支給してもそれが株主総会の決定した報酬総額の範囲内であれ ︵潅1︶ ば、商法上は利益処分としての手続きを踏む必要はないであろうとの見解があるが、株主総会の決定した報酬総額の 範囲内で支給される場合は、通常の報酬概念でとらえるのが慣行的であろうから他の名目にて支給されるべきであろ う。そのことによって他の法分野との関連においても理論的には妥当するものと考える。また何故に役員賞与が会社 の利益処分案として剰余金処分計算書の承認を株主総会の決議事項としているのか困乱の生ずるところであるし、財 源の性質、賞与概念から考察しても賛成しがたく、東京地判昭和三年コ月一二日︵新報一七号二七頁︶、 大阪控判 昭和三年一〇月三〇日︵新聞二九二〇号一四頁︶の判旨にも反対である。 つぎに退職慰労金は取締役在職申における職務執行の対価として支給されるもので、その性質は報酬の後払的性質 を有するものであって、それが取締役の退職時に支給されるとはいえ、取締役が株主の利益を害して役員に不当な高 額の支給をする危険性があるので、これを防止するために定款なり株主総会において決定するわけで、商法第二六九 条にいう報酬に含まれるとの見解が通説である。 この見解には反対である。取締役の職務執行に対する対価は通常の取締役報酬として、取締役が会社経営に対する 貢献ならびに功労に対する対価は、利益処分にもとづく取締役賞与として支給されているものと考える。もし退職慰 労金が職務執行の対価および功労の対価として退職後に支給されるものとするならば、在職申における取締役報酬お 東洋法学 二一
取締役の報酬8 一一二 よび取締役賞与の支給が相当性もしくは公正さを欠いた不当なものであったと解さらぎるをえない。しかし、一般的 には取締役の報酬および賞与は適正相当額が支給されているものと理解されるのが妥当であって.退職慰労金の性質 を通説的見解に求めることが困難である。 ま.描商法第二穴九条を非政策的規定とみて、退職慰労金を報酬以外のものの贈与とする見解に立って、この贈与に はその付与は純然舞る業嘉執行行為であ与.抹主総会が鷲れに関与する根拠も余地もないとする見解があるが.嬬の ような理解を示す英米法においても鑑の種の贈与については.取締役の任用契約に特別の定めのない限り株主総会の ハ溢黛︶ ﹂、粛するときれているし.鈴木説の見解にも取締役同志の心理作用または人情作用からの弊害を遜えると葉成し 、楓﹀ 轡㎞ 、 難 力ず斗 結局、退職慰労金はわが国経済界の実情を考えると、いわゆる従業員からの社内重役が多いわけで、取締役の退職 に対する補償金として退職後の生活保障的色彩の強いものであって.このことによって取締役が在職中安心して職務 に精進することができること.またそのことによって会社が広く優秀なる経営専門家としての取締役を募ることも可 能となり.かつこの要素に功労的要素を加昧した性質のものと考える。かといって退職慰労金は取締役の就任または 在任の条件とはなっておらず.従って任用契約の内容となっていないのであるから.その支払講求権は株主総会の判 断をまって生ずる権利である。しかし、取締役の在職申の職務執行との関係において発生するものであるから.広義 の報酬と解されることには違いがなく立法論は別にして商法第二六九条の準用または類推適用をされるべきと考え る。
つぎに使用人兼務の取締役の報酬に関しては、学説が否定説と肯定説とに分かれる。私は商法第二六九条の﹁取締 役ノ受クベキ報酬﹂の意義から使用人兼務取締役の報酬を考えると、この報酬は取締役の地位にもとづく職務執行の 対価としての報酬を言及しているものと解し、使用人としての資格にもとづく報酬に対しては原則として同条の適用 がないものと考えるので、株主総会決議事項の対象外のものとの結論になる。 しかし、今日使用人兼務取締役の有用性から、かかる取締役制度の存在を認めている現状からしても、取締役とし ての資格にもとづく報酬と使用人の資格にもとづく報酬とは論理的にも実務的にも区分される必要がある。もし区分 が不明確な場合には使用人兼務取締役の報酬は、同条の適用がなされうるものと解する。 そして取締役の資格にもとづく報酬については、会社機関としての報酬としてその相当性の判断を株主総会におい て決議せしめる必要があるのであって、使用入の資格にもとづく報酬とは別に支給される旨を明示し、少なくとも、 ︵潅4︶ その総額は開示されなければならないものと考える。 取締役報酬の決定方法に関しては、定款または株主総会の決議にもとづく決定の内容が必ず具体的な金額、最低限 取締役全員に対する報酬の総額または最高限度額を定めたものでなければならなく、各取締役に対する支給の配分は 取締役に一任されうるものと考える。従って、全く報酬金額を定めずして無条件で取締役会また代表取締役に一任し た、定款の定めまたは株主総会の決議は商法第二六九条に反し無効である。 とくに退職慰労金の決定方法については、商法第二六九条の規定と実務界の慣例との間に問題がある。実際の株主 総会では退任取締役に対する退職慰労金の支給または贈呈を附議するが、その決議の内容は﹁その金額、支払時期、
東洋法学 一ニニ
取締役の報酬8 二霞 支払方法については当社慣例に従って取締役会にその決定を一任する﹂との条件づけで取締役会に一任されるを通例 とし、判例も実務界の慣行ぞ是認しているように解される。 もちろん判例は、株主総会の遣賊金に.海、導る取締没会への一任決議について、その金額、支払時期、支給方法を無 条件で一任することは毒法、.二六九条に滋硬するものとして無効としている。株主総会の擬例となっている一定の基 準がある齢禽、てれ紅従唱、て納﹂︾支ゼζ経、︾ 肖ギ 仕砧蹟禽晒によ2、、P.確9賦に一任したときふ幽粋がはめら ︵.、﹀ れ勢ので有毒とし甲・無な. そしてこの一定の丼遥蹄.ほほ↑、 離ぞれ鋸霧なもっ.、・は・嘱く、株主によ蔦7、諏ないし3、鷺汀評柱については、 それ騨、ゼ輪に考え婆必、﹄はなく.,..鋲、礼ゾ挫沼㌘.“し・ほ轄ーぐ足りるこのー屋肉.硫駁.このレ“うな見解にもとづけば 黙示の決議を認めることとなり、灘醗ー、.☆舅しての欄.、寡的無一 丸らし、.島の論理〃篇もう 一歩進めれば、退職慰労金については還誌の毒麟乱零た涙然たる裳準でも持ち出してごまかすほかなく、株主警、、 ︵灘7︶ においてはその金額を定める必要がないとの闘指に結びつく危険性が存在する。 私はこれらの児解に責成することはできない。搾黙楠㌘金を決定するに際し、 ....である一定の墓準と は、取締役が単に退職慰労金の支給に対して形成してきた慨行の存在だけでなく、株主が一定の張準をあらかじめ認 識し、または認識可能な状態にもる基準の要件をみたす内部規定の存在が必要であると考える。 そして、定款の定めまたは株主総会決議にもとづく退職慰労金の決定は、通常の取締役報酬の決定方法と異る特別 の取扱いをする根拠をどこにも見い出せないのであって、右のような実務界の慣行そのものが遼法なもので、商法第
二六九条を退職慰労金に対しても準用または類推適用されるとする私の立場から、また同条の立法趣旨からしても、 必ず具体的金額または最高限度額を定めなければならぬものと解する。従って定めのない場合は、同条に違反するも のとして無効であると考える。 きらに取締役の報酬の規定︵商二六九条︶は、監査役の報酬にも準用︵商二八○条︶されており、右報酬の具体的 金額または最高限度額の決定については、各営業年度において取締役および監査役の受けるべき報酬額は、両者の協 ︵漉8︶ 定に任せたものと解しうるときは、その株主総会の決議は有効であるとの判例があるが、取締役と監査役とでは、そ の職務を全く異にしているのであるから、か\る職務機能を十分発揮させるためにも、当然に総取締役および総監査 役に区分した最高限度額を決定するべきと考える。 今β、株主総会の形骸化、無力化という間題があるが、同条の立法趣旨に照らしても、会社もしくは株主の保護の 見地より、役員報酬の総額を開示しなければならないが、現行制度における最良の開示方法としては、附属明細書に おいて通常の役員報酬と退職慰労金との名目を区別して、業務担当取締役︵代表取締役を含む︶、使用人兼務取締 役、監査役ごとに別摘記するとともに、使用人兼務取締役の使用人資格にもとづく給与についてもその総額を別摘記 することを義務づけることが、論理的であり実務的にも可能であると考える。 注1 長浜アメリカと日本の会社法二六頁 注2 酒巻﹁取締役の退職慰労金の決定方法﹂判例と学説5商法⋮β本評論社 注3 鈴木商法研究斑一二四頁以下 注4 京都地判昭,和四四年一月六日金融商事判例一五五号一五頁 東洋 法学 二五