乱数により絶対構造因子から正確な構造因子を決定する方法
高 橋 秀 夫年10月14日 受理)
Accurate structure factors from absolute factors by random numbers
Hidewo TAKAHASHI
1.序
結晶の基本的性質に電子密度pがある.電子密度pは構造因子FCfuk l) F(fukl)-∑Kh,k, I)exp { 2 n¥(hxr+ky+lzr) }r
をFourier変換して, (1.1)
p (x,y,z)-( 1/Vc) SEEFUfc.Oexp{2^i(/iX+^7+/Z) } (1.2)
で与えられる.ここでVcは単位胞の容積ietぁる. 構造因子Fih,k,0はⅩ線強度 Kh,k,l)-F(h,hl)'F*{h,k,l) -F(h,k,l) -F(-h, -k, -0 (1.3) のみで観測可能である. IFCh.k,0 からなんらかな経験可能な方法でF(h,k,I)を構成しな ければならない。岩塩は最も良い例であるが,小さい単位胞に大きな原子・分子を含む場合は F(fuk,I)から経験的にFCh.k.0を構成でき,単純から複雑のF(h,k,0が与えられた。 しかし, F(fukl)は FCh,k,0 から経験的ではなく理論的方法のみで決定する事はできない.Giacovazzoは,著者Direct Methods in Crystallographyの6. Sayre-Hughes and Tangent Methodsから7. 8.章にかけて構造因子間の構造を発展している。しかし, Tangent Methodsは F(h,k,I)のtangent methodsであって Fih,k,I)のものではない.しかし,多くの研究者は あるFih,hI)は FCh,hI) と一致するものがあり,他のIFa¥k',n lはそのF(hk,0か らF(h',k¥nになるという。
筆者は大きなIFih.k,0 を乱数から求め, exp (i¢)を乗じてF(h,k,I)を作った.一方 Tangent methodsを用いて,新しいF(h,k,0を作り,そのF(h,k,Dから消去法により F(Lk,0を得るという方法で, 200枚程のFCh.k.0を調べた結果, 80%余りある正確度があるの
が3/5 (即ち200枚のFih,k,I)を1組とし, 5組あるとき, 3組は80%)であった.
曇れ八竜ヨヨ¶ - HHMい--⊥-。川リーー=叫-1 - -干せ現・1リ羽 - り- --・H---日朝・-11リ
鹿児島大学教育学部研究紀要 自然科学編 第48巻(1997)
ここでは,筆者が気付いたTangent methodsとは全く異なる方法について述べる.まず, Ⅹ線 結晶はA-O,l,,,n-¥,k-O,l-OのときI(h,0,0)-I(h)のみが観測可能である/(ォから Uh)l/2- IF(h)がでる.そのため, IF(h)は/rexp (Znihxr) (r-l, 2,,,r)のうちx,が不明 になる h-lのとき, x,を乱数で求める.例えば,乱数が0.4≦乱数<0.6のときxr-0.4にする. もし,乱数によるxを待っF(l)を単にF(l)と言うとき F(1)-I(1)1/2 exp(i¢1) (観測値)で あれば, Xrは固定したまま, hをh-n-1まで変化させる h-n-1までF(h)の絶対値が Uh)1/考と一致すればF(h)-I(hy/2*exp(i¢O a-l,2,,,n-1)になる.あるhで, F(h)≠Kh)1/2, exp(i¢h)であれば,新しい乱数で再発する.筆者は,この方法がけChkO からF(h,k,0を 求める唯一の道と考える.
2. X線結晶の基本事項
結晶は格子状のものであり,最小格子は単位胞と呼ばれる。単位胞は,その稜の長さ b, Cと稜の問の角度α, β, γとで決められる。 三斜晶系の単位胞はa≠b≠C, a≠β≠Tでありl.-1の晶族がある.格子は3斜格子のみ であるo単斜晶系の単位胞はa≠b≠c, a-r-rc/2, β>n/2であり, 2, m, 2/771の晶族 がある。格子は単純単斜格子,底心単斜格子がある。斜方晶系の単位胞はa≠b≠C, α-β-γ-である.斜方晶系は 777771, 222, 771771771の晶族がある.格子は単純斜方格子,底心斜方格子, 休心斜方格子,面心斜方格子がある。正方晶系の単位胞はa-b≠9, a-β-7-*/2であり, 4,-4, 4/ra, 4mm, 42m, 42, 4/mmmの晶族がある。格子は単純正方格子,休心正方格子がある。三方晶系,六方晶系の単位 胞はa-b≠c, a-β-n/2, r-2n/Zであり,三方晶系は3, -3, 3m, 32, -3mの晶族, 六方晶系は6,-6, 6/rru 6mm, 62m, 6/mmmの晶族がある.三方晶系には三方格子と菱面体 格子が,六方晶系は三方格子がある。 立方晶系の単位胞はa-b-c, a-β-r-n/2であり, 23, m3, -43m, 43, m3mの晶 族がある。格子は単純立方格子,休心立方格子,面心立方格子がある。 Asymmetric unitは対称な座標がゼロ点を最小にするようなものである。正方晶系までは, 14i/acaのとき asymmetric unitは 0≦x≦1/2, -1/4≦y≦1/4, 0≦2≦1/8 (2.1 の様にx,y,zだけである.三方晶系,六方晶系,立方晶系はasymmetric unitとその頂点を持っ. 例えば, P3のasymmetric unitは 0≦x≦2/3, 0≦y≦2/3, 0≦Z≦1, x≦ (1+302, y≦min (1-*,(!+*) (2.2) であり,頂点は,
0,0,0 1/2,0,0 2/3,1/3,0 1/3,2/3,0 0,1/2,0 0,0,1 1/2,0,1 2/3,1/3,1 1/3,2/3,1 0,1/2,1 (2,3) である。 x,0,0と6,0,0と関係は, xがx-0.0,l/n,,,n-1/nのとき h-O,l,,,n-1であり, h-nのとき, F(h)はF(O)である. ある晶族がすでに確定されている結晶はⅩ線結晶から空間群が決定する.そこで, F(h, k, Oか らx, y, zを決定すればよい. 構造因子FCh,k,/)のf.はU(h,k,0 やE(h,k,0 に変換するのが普通であるが,当論文では FCh,あl)はf,が定数でF(h,k,0のままとする. xの位置を乱数(ran)で求めて 0.0, 1/n, 2/n,,,, (n-¥)/nの点列の一つx'にするには, x'-I NT (サTan)/B (2,4) である. 0≦x≦0.5で, 72-16のとき, x'は ∬'-INT (9*ran)/16 (2, 3 で与えられる。
3.簡単な一次元結晶の構造因子
一次元結晶は単位胞の一次変数xと逆単位胞の一次指数hをもつ.仮想一次元結晶はx O) -0.0, 0.2, 0.4, 0.6, 0.8 0-0,1,2,3,4) ; 」-0,1,2,3,4 ; frU)-l.Kx(l)-0.2), 2.3(x(2)-0.4), 2.5 (x(3)-0.6), 2.1(x(4)-0.8);/ (A)1/2- ¥ F(h) I -8.00000, 3.08539, 1.17489, 1.17488, 3.08539と した F(0)-F(5), F(1)-F(6), F(2)-F(7), F(S)-F(S), F(A)-F¥9)である. まず, ∫.の∬(㍗)をr-l, 2, 3, 4にした。乱数が例えば0.4≦乱数<0.6であれば, ∫(r)-0.4 とする.先ず, F(¥)を新しいx(r) (r-l, 2, 3, 4)で求める.もし,そのF(l)の絶対値が3.08539 であれば, F(l)は新しいx(r)を持っ構造因子になる。もし, F(l)の絶対値が3.( でなければ, x(r) (r-l, 2, 3, 4)は廃棄され,改めてF(l)とx(r) (r-l, 2, 3, 4)を求める. a-1-4まで 最初のx(r)が変更されなければ,正しい構造因子FVi) (h-l, 2, 3, 4)である. 正しい構造因子にも位相の不定性があるため,まず, ∬の点列にも任意性がある。すなわち 0.0, 0.2, 0.4, 0.6とともに 0.2, 0.4, 0.6, 0.8も正しい構造因子の∬(㍗)である。更に共役のものも ある。すなわち 0.0, 0.2, 0.4, 0.6とともに 0.6, 0.4, 0.2, 0.0も正しい構造因子を与える。鹿児島大学教育学部研究紀要 自然科学編 第48巻(1997)
4.乱数による構造因子の解析
構造因子, F(h, k, l) -芋fr(h, k. Dexp {2 ni(hxr+kyr, +lzr)} (4. 1 は結晶の対称からhxr+flVr, +lZrのような単純なものではない.まず Kk. lt x,y,zがhx, kyy lzの関数としているものがある.それが三斜晶系,単斜晶系,斜方晶系の構造因子である. hと 0 (-*), /で,例えばh (- と-/ *があり, kがなくてもx,y,zを決定できるものである. それが正方晶系,三方晶系,六方晶系である.最後にhだけでみy,Zを決定できるのは立方晶系で ある。 Ⅹ線解析において結晶の空間群は大半決定できる。従って, Ⅹ線結晶においては空間群は決定した が x,y,zは未定である. (1)三斜晶系,単斜晶系,斜方晶系の構造因子 斜方晶系の空間群Pbcaの構造因子の例。 座標は(1) x,y,z (2)-x+1/2, -y,z+1/2 (3トx,y+l/2,-z十1/2 (4)x十1/2,-^+1/2,-2 (5)-x,-y,-z (6)x+1/2,y, -z (7)x,-y+l/2,z+1/2 (Z)-x+¥/2,y+¥/2,z (4.2) である Asymmetric unit は
0≦x≦1/2, 0≦y≦1/2, 0≦Z≦1/2
である。反射条件は(ここではh,k,lを 書く.)
Okl:k-2n M)/:l-2/z hkO:h-2n hOO:h-2n OkO:k-2n OOl:l-2n
(4.3)
(4.4)
である。
まず, hOO,OAO,00/の構造因子はh, k, Iが2花+1のとき0で, 2nのとき,
F(hOO)- ∑8frcos (2 xhxr), F(0*0)- ∑8/rcos (2 jrAoO, F(00/)- ∑8/rcos (2 nlzr) (4.5) である。 正しいF(hOO)を求めるための方法は次の通りにする. n-16, h-2nである. (1) i-l, 2,,, r についてxi-INT(9Tan)/16 2 h-2 (3) hについて開始 (4) FaOO)- ∑8/rCos (2 nhxr) - I F(hOO) I expG¢h) (5)観測の F(AOO)杏/(MX))1/2とする. (6).もし F(hQQ) ≠I(MO)1/2であれば(1)に戻る。
(7)もし, I F(hOO) I -/(AOO)1/2であれば, h-h+2 (8)もし, hが15より大であれば終了。
(9) (3)に戻る。
Asymmetric unit内のxは(1) i-l, 2,,, r についてxi-INT (9'ran)16のみである. F(hOO)のため(3)から(9)までする(2) h-2から(9)までは乱数からのIF(hOO)と観測の
F(hOO)がh-2から14まで一致すれば終わりであり,以上であれば(1)に戻る.
F(M)O), F(OJW), F(OO/)は一次元結晶と全く同じである F(hhO), F(hOh), F(Okk)で, xとy, xとZ, yとZを(2)から(9)までで決定しなければならない.
(2)正方晶系,三方晶系,六方晶系の構造因子 正方晶系の空間群141の構造因子の例
座標は
(0,0,0)+ (1/2, 1/2, 1/2) (4.6)
(l)x,y,z (2)-x+1/2,-y+1/2,2+1/2 (3)-y,x+1/2,2+1/2 (4)y+l/2,-x,2++l/2
である。 Asymmetric unitは 0≦x≦1/2, 0≦y≦1, 0≦Z≦1/4 である.筆者は0≦y≦1を0≦y<1にする.反射条件は hkl¥h+k+l-2n hkQ:h+k-2n Okl:k+l-2n 00/:Z-4n hOO:h-2n である。 F(hOO)は
F(M)O)-∑/ (1.0+exp {2nih/2}) [exp {2xihxj+exp {Inih (-Xr+l/2) ) ) I
+exp {2ni{-hyr)} +exp {2nih (->+l/2) )] であり h-h3,5,,,のとき,
1.0+exp {2nih/2} -0 である FWD¥ま
F(00/)-∑fr (1.0+exp {2 nil/2}) [exp {2 xilzl+exp {2 nil (zr+1/2日
+exp {2nil (zr+l/4) +exp {2nil (2r+3/4日]
である。 (4.7) (4.8) (4.9) (4.10) (4.ll) 正しいF(hOO)を求めるには次の通りにする. (1) i-l, 2, , rについてx.-INT(9ォran)/16 yi-I NT(9'ran)/16 2 ft-2 (3) hについて開始(4) F(hOO)-∑fr (1.0+exp {2xih/2}) [exp {2nihxr)+^exp {2nih (-Xr+1/2) ) ) I
鹿児島大学教育学部研究紀要 自然科学編 第48巻(1997) - I F(hOO) IexpG¢h) (5)観測の FUOO)をI(hOO)1/2とする. (6)もL F(M)O) ≠KM)O)1/2であれば(1)に戻る。 (7)もL F(hOO) I -I(hOOy/2であれば, h-h+2 (8)もし, hが15より大であれば終了. (9) (3)に戻る。 更にFCOO/)を決定しなければならない.しかし a-INT(5ォran)/16以外は一次元と同じであ る F(hOO), F(hhh)も斜方晶系と同じである. 三方晶系,六方晶系のP3, P6のasymmetric unit内の∬, γは次のようにできる。
(1) (0 x-INT Oran)/n,
(it) y-INT (nサran)/nとする.
(2)もL x+y>lならば(1) GOに戻る. (3) x+y≦1のとき, P6の場合には, (30 もL y>xならば,(1)(u)に戻る. (3ォ)もし2x-y>1ならば, (1) Hi)に戻る. (4)この∬, γはP6のasymmetric unit内にいる。 (3') x+y≦1のとき, P3の場合には, (3'i)もし2x-y>¥ならば, (1) GOに戻る. もし2y-x>lならば, (1)(ォ)に戻る. (4')このx, yはP3のasymmetric unit内にいる. (3)立方晶系 立方晶系はhOOだけでx,y,zを決定できる. 空間群P23の構造因子の例。 座標は
(1)x,y,z (2) -x9-y,z (3) -x,y,-z (5)z,x,y (6)z,-x,-y (7) -zt-x,y (9)y,z,x (10) -y,-z,x (ll)y,-z,-x である。 Asymmetric unitは頂点を 0,0,0 1,0,0 0,1,0 1/2, 1/2, 1/2 に持っ。反射条件はない。 (4) x,-y,-z (8) -z,x,-y -y, -z,x F(hOO)は
F(hOO)-?.fr {4cos (2 tz-Ax,)+4cos (2 tt/i>)+4cos {2 xhzr)} である。
P23のasymmetric unit内のx, y, zは次の通り.
(4.12
(4.13
(1) l-¥, 2, , rについてxi-INT (16Tan)/16にする. (2) i-l, 2, , rについて>-INT (16ォran)/16にする.
(3) x+y>lであれば(2)の始めに戻る Xr+y≦1であれば(4)にいたる. (4) 」-1, 2, , rについてZ戸INT(9'ran)/16にする.
(50もL x≧yで, z>yであれば(3)の始めに戻る.
(5ii)もし, x≧yで, Z≦yであれば x,y,zはasymmetric unit内にいる. (5ォ0もしx<yで z>yであれば(3)の始めに戻る.
(5iv)もL x<yで, Z≦xであれば xyy,zはasymmetric unit内にいる.
F(hOO)を求めるやり方は斜方晶系のやり方と本質的には同じである。また,立方晶系はhOO でx,y,zを決定できる.
5.結
論構造因子F(AOO)杏
F(0)-/,+/,+ /'- │ F(0)
F(l)-/,exp (27rix/)+/*exp (2nixd+ +/,exp (2nixr)- I F(l) I exp (i¢1)
● ● ● ● ● ● ●
F(A-1)-/サexp {2 *」(A-1)xi)+/f.exp (2 jri(fc-!)*)+ +/-exp (2 jri(fc-1)xr)
- IFU-1) lexp (i¢.-0
とする F(m)からF(m)を決定するのが我々の仕事であるが,未だに決定しえない。構造 因子のように激しく振動する関数に対しては,最小二乗法は有効ではない。従って必然的に ∬rの 乱数に解析しかないと考えられる。 三仲助教授には論文の根本から聴いていただき,貴重なアドバイスや御指導に心から御礼を申し 上げたい。 文 献
Giacovazzo, Carmelo, 1980, Direct Mat/iods in Crystallography. Academic Press. Ha/in. T/ieo (Ed. ), /nternational Tables for Crystallograp/iy, Vol. A.