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水俣病訴訟と時効

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(1)

水俣病訴訟と時効

著者

采女 博文

雑誌名

鹿児島大学法学論集

46

2

ページ

33-73

別言語のタイトル

Minamata Disease Lawsuits and Prescription

(2)

女 博

1は じめ に 2関 西訴 訟 最 高 裁判 決 を 学説 は ど う読 ん だ か (1)民 法724条 後 段 の 起 算 点 論− 水 俣 湾 沿 岸 の魚 介 類 摂 取 時 か ら4年 時 説 (2)損 害 の全 部 発 生 時説,死 亡 時説 (3)権 利 行 使 可能 時 説 3じ ん肺 訴 訟 に お け る 時効 起 算 点,損 害論 の展 開 (1)長 崎 じん肺 訴 訟 最 高裁 判決 (2)筑 豊 じん肺 訴 訟 最 高 裁判 決 (3)じ ん肺 訴 訟 の到 達 点 損 害 不発 生 の論 理 4水 俣 病 訴 訟 の 各判 決 は 時効 論,損 害論 に ど う向 き合 っ て き た か 5民 法724条 後 段 の 法 的 性 質 起 草 者 の 見解 6民 法724条 後 段 適 用 制 限 論 な い し信 義 則 適 用 論 7お わ りに 1は じめ に (1)水 俣 病 関 西訴 訟 最 高 裁 判 決(最 判 平 成16年10月15日 民集58巻7号1802頁) は,水 俣 病 被 害 者 を救 済 す る 基 準 を 示 した 。(1)最高 裁判 決 後,水 俣 病 の認 定 申 請者 が急 増 した が,行 政 は 認 定基 準 を 変 え よ う と しな か っ た。2005(平 成17)年 10月3日,水 俣 病 の認 定 申請 を しな が ら未 審 査 の ま ま で あ る熊 本 ・鹿 児 島 両県 の被 害者50名(水 俣 病 不知 火 患者 会)が,国 と熊 本 県,チ ッ ソを相 手 に熊 本 地 裁 に提 訴 した。 原 告 らは,こ の訴 訟 を ノ ー モ ア ・ミナ マ タ訴 訟 と呼 び,司 法 救 済制 度 の確 立 を 目指 した(2)。この 運 動 は 拡 が り,裁 判 は東 京 地 裁,大 阪 地裁 に も拡 が っ た。 救 済 を求 め る 動 き を受 け て,政 府 は,2009(平 成21)年7月15日,「 水 俣 病 被

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害 者 の救 済 及 び 水 俣 病 問題 の 解 決 に 関 す る特 別 措 置 法 」(法 律81号 。 以 下,特 別 措 置 法 とい う)を 成 立 させ た 。 しか し,被 害 者 団 体 は この 法 律 をチ ッソ救 済 法,チ ッ ソ分 社 化 法 と名 付 け抗 議 声 明 を発 表 した(3)。この 法律 で 唯 一 明 快 な の は,チ ッ ソ を初 め とす る加 害 企 業 の 分 社 化 の 容 認 で あ る。 そ もそ もチ ッ ソは 被 害 者 に対 す る補 償 を行 わ せ るた め に社 会 が そ の 存 続 を容 認 した もの で あ る。加 害 企 業 が 被 害 者 に対 す る継 続 的 補 償 責 任 を将 来 にわ た って 免 れ る仕 組 み の 導 入 はお よそ 水 俣 病 被 害 の 発 生 と拡 大 の 経 緯 に照 ら して 社 会 正 義 に反 す る。 加 害 者 と して 共 に法 的 責 任 を問 わ れ た 「政 府 」 が 「関係 県 の 意 見 を聴 い て 」 救 済 方 針 を決 め る とい う仕 組 み も また正 統 性 を主 張 し えな い だ ろ う。 法 律 の 構 造 ・文 言 か ら は,被 害 者 の 全 面 的 な救 済 に 向 けた 真摯 さ を読 み 取 る こ とは 難 しい 。(4) 特 別 措 置 法 成 立 後,さ ら に追加 提 訴 が な され,裁 判 を継 続 す る意 思 が 示 され た 。2010(平 成22)年1月28日 の 第19陣 追加 提 訴 段 階 で,原 告 総 数 は,2126名 に な った 。 2010年3月15日,熊 本 地 裁 は和 解 勧 告 を 出 し,被 告 国 が 水 俣 病 裁 判 の 歴 史 の なか で初 め て和 解 協 議 の席 につ いた 。2011(平 成23)年3月24日 か ら28日 にか け て,東 京 地 裁,熊 本 地 裁,大 阪 地 裁 で 和 解 が 成 立 し,司 法 に よ る救 済 が お こな わ れ た 。(5) 2010年5月1日 か ら,特 別 措 置 法 に よ る救 済(一 時 金210万 円,療 養 費,療 養 手 当)も 始 ま っ た。(6)しか し,水 俣 病 の 被 害 者 達 は,不 知 火 海 沿 岸 住 民 の 健 康 調 査 を 実施 す る こ とに よ る被 害 者 の完 全 な救 済 を求 め てい る。(7)政府 が 被 害 者 の 声 に応 え るの で な くて は,水 俣 病 問 題 の 真 の 解 決 は な い だ ろ う。 以 下で は,ノ ー モ ア ・ミナ マ タ訴 訟 で の 被 告 側 の 除 斥 期 間 経 過 の 主 張 を鑑 み て,時 効 の 問 題 につ い て 改 めて 振 り返 って 考 えて お きた い 。 (2)訴 訟 で の 除 斥 期 間 経 過 の 主 張 につ い て チ ッ ソ と行 政 は,本 件 提 訴 か ら20年 以 前 に症 状 が 発 症 した 原 告 ら につ い て 除 斥 期 間 経 過 の 主 張 を して,時 の 壁 を立 て て 原 告 らの 救 済 を拒 ん で い る。 チ ッ ソ は,「 原 告 ら の多 くは既 に 平 成7年 の全 面解 決 前 か ら感 覚 障 害 の 出現 を 自覚 し て い た の で あ るか ら,原 告 らの損 害(精 神 的苦 痛)の 原 因 とな っ た症 状(損 害) の 全 部 又 は一 部 を知 った と きか ら既 に消 滅 時 効 期 間3年 が 経 過 して い る」 との 主 張 も して い る。

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司 法 が 時 の壁 に対 し硬 直 した 解 釈 論 で も っ て被 害 者 の 救 済 を阻 む とす れ ば, 明 治 期 の 民 法 典 編 纂 者 が 「文 明 開化 」(「近 世 交 通 ノ便 著 シ ク開 ケ タル 」)と い う理 由 の み で選 択 した 不法 行 為 の特 別 時効 法 制 を 改 め な けれ ば な らな い。 現 代 は,じ ん肺,水 俣 病,ハ ン セ ン病,予 防接 種 禍,薬 害肝 炎,戦 争 中 の強 制連 行 ・強 制 労働 ・性 奴 隷 な どの加 害行 為 の 時 か ら長 期 間 が経 過 した後 に初 め て 損 害 が発 生 した り,法 的救 済 を受 け るべ き 権 利 侵 害 で あ る こ とが 明 ら か に な っ た りす る訴 訟 を知 っ て い る。 じん肺 や 水 俣 病 は損 害 が進 行 性 ・慢 性 疾 患 で あ る とい う特 異 性 が あ る。 不法 行 為 に よ っ て じん肺 や 水 俣 病 の よ うに進 行 性 ・慢 性 疾 患型 損 害 が 生 じる特 異 な 不法 行 為 類 型 で は,民 法724条 後 段 の 起 算 点 を民 法166条 の解 釈 論 の到 達 点 を組 み 込 ん で解 釈 す べ き で あ る。 じん肺 訴 訟 の場 合 は,行 政 認 定 が あ っ て初 め て損 害 が発 生す る とい う法 的 判 断 が な され て い る。 さ らに水 俣 病 の場 合 に は,行 政 認 定 制度 が ま っ た く機 能 しな か っ た,す な わ ち損 害 の発 生 自体 が 国家 に よ っ て 否 定 され て き た とい う特 異 性 が加わる 。 明治 の 民法 起 草者 た ち が お よ そ 議論 の 射 程 に入 れ て い な か っ た事 件 類 型 で あ り,私 た ち の価 値 判 断 に 従 っ て新 た な法 創 造 と して の規 範 を 立 て な けれ ば な らな い。 歴 史 を さか の ぼ る な ら,旧 民法 証 拠 編150条 は,「 義 務 ノ免 責 時効 ハ 債 権 者カ 其権 利 ヲ行 フ コ トヲ得 ヘ キ 時 ヨ リ 三十 奈年 間 之 ヲ行 ハ サル ニ 因 リテ成 就 ス 但法 律上 別 段 短 キ期 間 ヲ 定 メ 又 ハ債 権 ヲ 時効ニ 罹 ラ サル モ ノ ト定 メ タル トキハ 此 限 リニ在 ラ ス 」 と定 め て い た の で あ る。 「不 法 行 為 の 時 」 とい う文 言に 呪 縛 され て被 害 者 の 救 済 を拒 否 す る価 値 判 断 を す るか,「 被 害 者 に とっ て酷 な 結 論 」 を 回避 す る価 値 判 断 を選 択 す る か,法 の解 釈 ・適 用 に携 わ る者 の 手 に ゆ だ ね られ て い る。 民法 典 編 纂 者 は 自 らが選 択 した法 制 が社 会 正 義 に反 す る結 論 を産 み 出す とは夢 に も思 っ て い な い。 後 世 の 法 律 家 の法 解 釈 に対 す る 責任 の 問題 で あ る。 以下 で は,ま ず,最 高裁 判決 を め ぐる 議論 を通 して そ の 問題 の所 在 を 明 らか に す る。 つ ぎ に,法 典 調 査 会 で の審 議 過 程 を辿 る こ とに よ って,民 法724条 後 段 の 法 的 性 質 を 明 らか に し,あ わせ て 起 算 点 に 関 して も 「被 害 者 に酷 な 事例 」 は そ の射 程 外 で あ る こ とを 明 らか にす る。 ま た,じ ん肺 訴 訟 で の 起算 点 に 関す る 判例 法 理 の到 達 点 は,異 質 損 害段 階付

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け損 害 論 か らの 帰 結 と して 民 法167条1項 の起 算 点 も,民 法724条 後 段 の 起 算 点 も 同一 で あ る こ とで あ る。 「権 利 を行 使 す る こ とが で き る 時」と 「不法 行 為 の 時」 とい う2つ の 起 算 点 は,じ ん 肺 や 水 俣 病 とい う蓄 積 進 行 性,遅 発 性 の 健 康 被 害 型 の 場 合 に は,統 合 して 統 一 的 に理 解 す る必 要 が あ る。 筑 豊 じん 肺 訴 訟 の調 査 官 解 説 も,「 管 理 区分2∼4に 相 当 す る病 状 に 基 づ く 各 損 害 の 質 的 な相 違 を根 拠 と して 「最 終 の 行 政 上 の 決 定 時 」 を消 滅 時 効 の 起 算 点 と認 めた 最 三 判 平 成6・2・22民集48巻2号441頁(長 崎 じん肺 事 件)の 趣 旨 は, 除 斥 期 間 の 起 算 点 の 議 論 に も妥 当す る」 と述 べ る。(8)調査 官 解 説 を み て も,「 じ ん 肺 とい うきわ めて 特 異 な進 行 性 の 疾 患 に射 程 距 離 」 は 限 定 され て い るが,民 法724条 前 段 の起 算点 の趣 旨が民 法166条1項 の 起 算 点 の 解 釈 に組 み 込 ま れ,こ れ を さ らに 民 法724条 後 段 の 起 算 点 に も組 み 込 む とい うと こ ろ に ま で起 算 点 論 は到 達 して い る。 将 来 の 損 害 を認 識 し得 ず,損 害 の 全 容 を把 握 し得 な い とい う 被 害 者 の 主 観 に属 す る事 実上 の 障 害 が,時 効 の 進 行 を妨 げ るの み な らず,民 法 724条 後 段 の期 間 の進 行 を妨 げ る の で あ る。 と りわ け行 政 認 定 制 度 が機 能 しな か った 水 俣 病 の 場 合 には,行 政 認 定 が あ っ て 初 めて 損 害 の 認 識 が で き る とい うこ と に と どま らず,む し ろ行 政 認 定 が あ っ て 初 めて 損 害 が 発 生 す る と理 解 す る こ とが で き る。 損 害 を認 識 し得 な い の で は な く,そ もそ も発 生 して い な いの だ と考 え る。 した が って,水 俣 病 の 場 合,民 法724条 後 段 の起 算 点 は行 政 認 定 時 か ら起 算 す べ き で あ る こ とを 主 張す る。 「水 俣 病 は,医 師 が 医 師 免 許 を持 っ て い て も,医 師個 人 の 責 任 で もっ て,自 由 に診 断 を下 す こ との で き ない 稀 な 疾 患 で あ る。 水 俣 病 に認 定 され て い な い 患 者 は,水 俣 病 とい う病 名 で 保 険 請 求 を して も,健 康 保 険 の 保 険 者 か ら レセ プ ト の 受 け取 りを拒 否 され る。 水 俣 病 認 定 患 者 以 外 の もの につ い て は,水 俣 病 患 者 で あ る こ と も,メ チ ル 水 銀 の 影 響 を受 けて きた こ と も否 定 され て きた 。 地 域 の 医師 の 多 く も,独 自 に水 俣 病 の 診 断 を下 す の で は な く,政 府 の 基 準 に従 わ ざ る を え なか った 。」(高 岡滋 『水 俣 病 診 断 総 論 』(2006年11月19日)36頁 。)

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2関 西 訴 訟 最 高 裁 判 決 を 学 説 は ど う読 ん だ か(9) (1)民 法724条 後 段 の 起 算 点 論− 水 俣 湾 沿 岸 の 魚 介 類 摂 取 時 か ら4年 時 説 (a)水 俣 湾 沿 岸 か らの転 居 後4年 時説 最 高裁 は 除斥 期 間 の 起算 点 を 「身 体 に 蓄積 す る物 質 が原 因 で 人 の健 康 が 害 さ れ る こ とに よ る損 害や,一 定 の潜 伏 期 間 が経 過 した後 に症 状 が現 れ る疾 病 に よ る損 害 の よ うに,当 該 不法 行 為 に よ り発 生す る損 害 の性 質 上,加 害行 為 が 終 了 して か ら相 当 の期 間 が経 過 した後 に損 害 が発 生す る場 合 に は,当 該 損 害 の全 部 又 は 一 部 が発 生 した 時 」 に採 っ た。 そ の理 由 を 「こ の よ うな場 合 に損 害 の発 生 を待 たず に 除斥 期 間 が進 行 す る こ とを認 め る こ とは,被 害 者 に とっ て 著 し く酷 で あ る だ け で な く,加 害者 と して も,自 己 の行 為 に よ り生 じ得 る損 害 の性 質 か らみ て,相 当 の期 間 が経 過 した後 に損 害 が発 生 し,被 害者 か ら損 害賠 償 の請 求 を受 け る こ とが あ る こ とを 予期 す べ き で あ る と考 え られ る 」 と述 べ る。 こ こま で は,現 在 の判 例 法 理 の到 達 点 を 改 め て確 認 した も の とい え る。 とこ ろ が,最 高 裁 は続 け て 次 の よ うに述 べ る。 「本 件 患 者 の そ れ ぞれ が 水 俣 湾 周 辺 地 域 か ら他 の地 域 へ 転 居 した 時 点 が 各 自に つ い て の加 害行 為 の終了 した 時 で あ る が,水 俣 病 患者 の 中 に は,潜 伏 期 間 の あ る い わ ゆ る遅 発 性 水 俣 病 が存 在 す る こ と,遅 発 性 水 俣 病 の 患者 に お い て は,水 俣 湾 又 は そ の周 辺 海 域 の魚 介 類 の摂 取 を 中止 して か ら4年 以 内 に水 俣 病 の症 状 が 客 観 的 に 現 れ る」 と して,「 転 居 か ら遅 く とも4年 を経 過 した 時 点 」 を本 件 に お け る 除斥 期 間 の起 算 点 に採 っ た 原 審 判 断 を 追 認 した。 そ の結 果,国 と熊 本 県 との 関係 で は,水 俣 湾 沿岸 か ら転 居 して4年 が経 過 し た 時 点 か ら20年 が経 過 した 患者7名 の 請求 は 認 め られ な か っ た。 この最 高裁 の 判 示 は,原 審判 断 を 追認 した にす ぎ な い が,水 俣 病 被 害 者 の損 害 の特 質 に つ い て理 解 が 不十 分 な の で は な い か。 そ の他,最 高裁 は,昭 和34年12月 末 以前 に水 俣 湾 周 辺 地 域 か らそ の地 域 外 へ 転居 した8名 の 患者 に つ い て は,水 俣 病 とな っ た こ とに よ る損 害 を受 け て い る と して も,チッ ソ水 俣 工場 の排 水 の規 制権限 不行 使 と損 害 との 因果 関係 を否 定 した。 (b)水 俣 湾 周 辺地 域 居 住 者 に とっ て の起 算 点 水 俣 湾 等 の 周 辺居 住 者 の場 合 に は,転居 者 と同様 に 「魚 介 類 摂 取 終 了 時 」 を

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論 じる こ と はで き ない 。 最 高 裁 判 決 を評 釈 した 田上 富 信 は,水 俣 湾 等 の 周 辺 居 住 者 の 場 合 には 昭 和43 年12月 が 除斥 期 間 の 起 算 点 に な る とい う(10)。「昭 和43年5月 に チ ッ ソが原 因 物 質 の製 造 工 程 の 稼 働 を停止 して お り,そ の 時 点 で 加 害 行 為 が止 ん で い る か ら, そ れ 以 降 に発 病 した 患 者 につ いて は,停 止 の 前 後 に水 銀 が 蓄 積 され た 魚 介 類 を 食 した 事実 が 証 明 され な い限 り,加 害 行 為 と損 害 との 間 の 因 果 関係 は 遮 断 され る こ と に な る。 … … 仮 に,本 件 訴 訟 が 損 害 賠 償 を求 め る最 後 の 訴 訟 で あ る とす る な ら ば,遅 く と も昭 和43年12月 が 除 斥 期 問 の 起 算 点 とな るか ら,そ れ か ら20 年 を経 過 した 昭 和63年 末 で 期 間 は満了 して い る。 ま さ に昭 和 の 最 後 を も って 患 者 の 損 害 賠 償 請 求 訴 訟 は除 斥 期 間 の 壁 に よ って 阻 ま れ,そ れ に よ って チ ッ ソ及 び 国 ・県 は よ うや く応 訴 か ら解 放 され た こ と にな る。」(11) 大 塚 直(判 タll94号,99頁,注31)も 同 様 の指 摘 を す る。 「仮 に水 俣 に 居 住 し続 けた 者 が 訴 えた 場 合 に は,水 質2法 に基 づ く昭 和44年 の 指 定 水 域 の 指 定 ま で加 害 行 為 が 続 い て い た こ と に な るで あ ろ う(も っ と も,そ の 前 に損 害 が 発 生 す れ ば損 害 発 生 時 に加 害 行 為 は終了 す る とみ る こ とが 多 い で あ ろ う)。」 こ の よ うな 起 算 点 理 解 を 前 提 にす れ ば,「 水 俣 湾 又 は そ の 周 辺 海 域 の魚 介 類 の 摂 取 を 中止 して か ら4年 以 内 に水 俣 病 の 症 状 が 客観 的 に現 れ る」 との観 念 を 組 み 込 ん で も,昭 和47(1972)年 末 頃 か ら20年(平 成4(1992)年)頃 で 民 法724 条 後 段 の 期 間 は満了 す る こ と に な る。 (2)損 害 の 全 部 発 生 時 説,死 亡 時 説 神 戸 秀 彦 は損 害 の 全 部発 生 時 説 か ら批 判 を加 え て い る(12)。「本 判 決 が,遅 く と も転 居 後4年 後 に遅 発 性 水 俣 病 が 発 生 す る と し,こ れ を い わ ば 『固 定 的 な』 起 算 点 とす る点 は ど うか 。水 俣 病 は発 生 して も,一 般 に,病 気 の初 期 段 階以 外 は, 水 銀 の 対 外 排 出 は 困難 で,有 効 な治 療 方 法 が な く,対 症 療 法 ・リハ ビ リ療 法 が 治 療 の 中心 で あ る。 した が って,仮 に転 居 後4年 以 内 に遅 発 性 水 俣 病 が 発 生 し て も,そ れ は損 害 の一 部 に過 ぎ な い。ま た,そ れ 以 降 も患 者 が生 存 し続 け る 限 り, 損 害 が 継 続 し,患 者 の 死 亡時 に初 めて 損 害 の 全 部が 確 定 す る,と い え よ う。 そ うい う意 味 で は,本 判 決 が,継 続 的 損 害 を 前提 とす る 限 り,『 当該 損 害 の 全 部 又 は一 部が 発 生 した 時 』を起 算点 とす る の は 実態 に合 致 しな い。した が って,『当

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該 損 害 の 全部 又 は 一部 が発 生 した 時』で は な く,『当該 損 害 の 全 部 が 発 生 した 時 』 を 起 算 点 とす るべ き で あ ろ う。 こ の よ うに 見 て くる と,本 判決 が想 定す る遅 発 性 水 俣 病 の理 論 的 な発 生 可能 期 間(4年 間)内 に遅 発 性 水 俣 病 が発 生 した場 合 に は,こ の期 間 の経 過 の 有無 に か か わ らず,損 害 の全 部 が確 定す る とき,す な わ ち 死 亡 時 ま で は20年 の期 間 制 限 は進 行 しな い,と す る の が 妥 当 で あ る。 さ ら に,上 記4年 間経 過 後,こ の想 定 に反 して,万 が 一,遅 発 性 水 俣 病 が発 症 した が提 訴 せ ず20年 間 が経 過 した(1984年1月)と して も,提 訴 時 に現 に損 害 が継 続 して いれ ば,20年 の期 間制 限 は進 行 しな い,と 考 え るべ きで あ る。 とす る と, 本 判 決 に よ り,転 居 の後4年 後,提 訴 ま で20年 以上 が経 過 し,除 斥 期 間 が経 過 した と され る7名 に つ い て は,提 訴 時 点(早 い者 で1985年5月,遅 い者 で1988 年2月)で 損 害 が継 続 して おれ ば,20年 の期 間 制 限 は経 過 しな い と解 す べ き で あ る。」 (3)権 利行 使 可 能 時説 (a)吉 村 良 一 は,「 被 害 者 の 権 利 行 使 の(抽 象 的 な い し客 観 的)可 能 性 が 問 題 とな り うる とす れ ば,権 利 行 使 が 可能 で あ る 時 」 を原 則 的 起算 点 とす る こ と を示 唆 した。(13)この権 利 行 使 可 能 時説 も有 力 に な りつ つ あ る。 金 山 直 樹 は,「 起 算 点 は,判 決 が166条1項 に 言 及 して い よ う と い ま い と, 724条 の解 釈 場 面 で も 問題 に な るは ず で あ り,そ の 際 被 害 者 の 人 権 保 護 の理 念 か ら,現 在 で は損 害 を被 る 立場 の互 換 性 や 被 害 の深 刻 さ とい っ た 点 も踏 ま え て,ま す ま す 柔 軟 に捉 え られ て き て い る。 と くに,724条 の長 期 の20年 の期 間 経 過 が 除斥 期 間 だ と され た今 こ そ,そ の 〈冷 た い期 間〉 に 人 間性 を 回復 させ る た め,166条1項 の 精 神 を吹 き込 ま な けれ ば な らな い 」 とす る。(14) 吉 田 邦彦 も つ ぎ の よ うに述 べ る。(15)まず,「 民 法724条 後 段 に つ い て は,そ れ が 系 譜 的 に 繋 が る フ ラ ン ス 時 効 法 学上 の 時 効 と予 定 期 間 との 分 類 学 に 添 っ て も,不 法 行 為訴 権 の扱 い を前 段 ・後段 で分 断 させ るべ き で は な く,時 効 制 度 を 推 し及 ぼ す こ とが 望 ま しく,そ う した 場 合 に は,そ の 起 算 点 に 関す る民 法166 条1項 も重 畳 適 用 され る 」。 水 俣 病 被 害 を社 会正 義 と人 間性 に適 っ た形 で解 決 しよ う とす る な らば,損 害 の 全 部 発 生 時 説(死 亡 時 説)か 権 利 行 使 可 能 時 説(起 算 点 民 法166条1項 重 畳

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適 用 説)か,あ るい は民 法724条 後 段 適 用 を信 義 則 な い し社 会正 義 の観 点 か ら 抑 制 す るか の 立 場 に立つ 必 要 が あ る。(16) 3じ ん 肺 訴 訟 に お け る 時 効 起 算 点,損 害 論 の 展 開 (1)長 崎 じん 肺 訴 訟 最 高 裁 判 決(平 成6年2月22日 民 集48巻2号441頁) 水 俣 病 訴 訟 に お け る 民 法724条 後 段 の 起 算 点 を考 え る うえで,類 似 の病 理 的 特 色 を持 っ じん 肺 訴 訟 に お け る起 算 点,損 害論 の 歩 み を振 り返 っ て お き た い。 「水 俣 病 に よ る損 害 は,身 体 に蓄 積 す る物 質 が 原 因 で 人 の 健 康 が 害 され る場 合 の 典 型 例 とい うこ とが で き る」(長 谷川 浩 二 「判解 」 法 曹 時 報58巻10号254頁) か らで あ る。 まず,最 高 裁 は,雇 用 契 約上 の 付 随 義 務 と して の 安 全 配 慮 義 務 の 不 履 行 に基 づ く損 害 賠 償 請 求 権 の 消 滅 時 効 期 間(民 法167条1項,166条1項)の 起 算 点 に 関 して,じ ん 肺 とい う病 変 の 特 質 を考 慮 して,雇 用 者 の 安 全 配 慮 義 務 違 反 に よ り じん 肺 に罹 患 した こ と を理 由 とす る損 害 賠 償 請 求 権 の 消 滅 時 効 は,最 終 の 行 政上 の 決 定 を受 けた 時 か ら進 行 す る と判 示 し,最 初 の 行 政上 の 決 定 を受 けた 時 か ら進 行 す る と解 した 原 判 決 を破 棄 し差 し戻 した 。 「雇 用 契 約上 の付 随 義 務 と して の安 全配 慮 義 務 の不 履 行 に 基 づ く損 害賠 償 請 求 権 の 消滅 時 効 期 間 は,民 法167条1項 に よ り10年 と解 され,右10年 の 消滅 時 効 は,同 法166条1項 に よ り,右 損 害 賠 償 請 求 権 を行 使 し得 る時 か ら進 行 す る もの と解 され る。 そ して,一 般 に,安 全 配 慮 義 務 違 反 に よ る損 害 賠 償 請求 権 は, そ の 損 害 が 発 生 した 時 に成 立 し,同 時 にそ の 権 利 を行 使 す る こ とが 法 律上 可 能 と な る とい うべ き と こ ろ,じ ん 肺 に罹 患 した 事実 は,そ の 旨の 行 政 上 の 決 定 が な けれ ば通 常 認 め難 い か ら,本 件 にお い て は,じ ん 肺 の 所 見 が あ る 旨の 最 初 の 行 政 上 の 決 定 を受 けた 時 に少 な く と も損 害 の 一 端 が 発 生 した もの とい うこ とが で き る。 しか し,こ の こ とか ら,じ ん 肺 に罹 患 した 患 者 の 病 状 が 進 行 し,よ り重 い 行 政上 の 決 定 を受 けた 場 合 にお い て も,重 い 決 定 に相 当す る病 状 に基 づ く損 害 を 含 む 全 損 害 が,最 初 の 行 政 上 の 決 定 を受 けた 時 点 で 発 生 して い た もの とみ る こ と はで き ない 。 す なわ ち,前 示 事 実 関 係 に よれ ば,じ ん 肺 は,肺 内 に粉 じん が 存 在 す る限 り進 行 す るが,そ れ は肺 内 の 粉 じん の 量 に対 応 す る進 行 で あ る とい

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う特 異 な進 行 性 の疾 患 で あ っ て,し か も,そ の病 状 が 管理2又 は 管理3に 相 当 す る症 状 に と どま っ て い る よ うに み え る者 も あれ ば,最 も重 い 管理4に 相 当す る症 状 ま で進 行 した者 もあ り,ま た,進 行 す る場 合 で あ っ て も,じ ん肺 の所 見 が あ る 旨 の最 初 の行 政 上 の決 定 を受 け て か らよ り重 い決 定 を受 け る ま で に,数 年 しか経 過 しな か っ た者 も あれ ば,20年 以上 経 過 した者 も あ る な ど,そ の進 行 の 有無,程 度,速 度 も,患 者 に よ っ て 多様 で あ る こ とが 明 らか で あ る。 そ うす る と,例 え ば,管 理2,管 理3,管 理4と 順 次 行 政Eの 決 定 を受 けた 場 合 には, 事後 的 に み る と一個 の損 害賠 償 請求 権 の範 囲 が 量 的 に拡 大 した にす ぎ な い よ う に み え る も の の,こ の よ うな 過 程 の 中 の 特 定 の 時 点 の病 状 を と らえ る な らば, そ の病 状 が今 後 どの程 度 ま で進 行 す る の か は も とよ り,進 行 して い る の か,固 定 して い る の かす ら も,現 在 の 医学 で は 確 定 す る こ とが で きな い の で あ っ て, 管理2の 行 政 上 の決 定 を受 け た 時 点 で,管 理3又 は 管理4に 相 当す る病 状 に基 づ く各損 害 の賠 償 を求 め る こ とは も とよ り不 可能 で あ る。 以上 の よ うな じん肺 の病 変 の特 質 に か ん が み る と,管 理2,管 理3,管 理4の 各行 政 上 の決 定 に相 当 す る病 状 に基 づ く各 損 害 に は,質 的 に 異 な る も の が あ る とい わ ざる を 得 ず, した が っ て,重 い決 定 に相 当す る病 状 に基 づ く損 害 は,そ の決 定 を受 け た 時 に 発 生 し,そ の 時 点 か らそ の損 害賠 償 請 求権 を行 使 す る こ とが法 律上 可能 とな る もの とい うべ き で あ り,最 初 の軽 い行 政 上 の決 定 を受 け た 時 点 で,そ の後 の重 い 決 定 に相 当 す る病 状 に基 づ く損 害 を含 む 全 損 害 が発 生 して い た とみ る こ と は,じ ん肺 とい う疾 病 の 実態 に反 す る も の と して是 認 し得 な い。」 この 最 高 裁 判 決 を調 査 官 解 説 は次 の よ うに理 解 して い る、 「じん 肺 の進 行 が き わ め て 長期 に わ た り得 る もの で あ り,か つ そ の進 行 性 の態 様 が 医 学 上解 明 さ れ て い な い とい う点 に あ る。 す な わ ち,現 在 の 医 学 的知 見 で は,具 体 的 な 患者 の病 状 の進 行 の程 度,速 度 は もと よ り,そ もそ も,今 後 更 に進 行 して い くの か, 現状 で 固 定 して い る の か とい う進 行 の 有 無す らわ か らな い。 この た め将 来 の病 状 に つ い て の主 張 立 証 の 術 が 全 くな い じん 肺 患 者 に つ い て,5年 先,10年 先 あ る い は20年 先 に受 け る こ とに な る か も知 れ な い重 い決 定 に相 当す る病 状 に基 づ く損 害 が,最 初 の行 政 上 の 決 定 を受 け た 時 点 で既 に発 生 して い る も の とみ る の は,机上 の 空論 に近 く,こ の よ うに そ の賠 償 を求 め る こ とが全 く不 可能 な将 来 の損 害 を もカバ ーす る 単 一 の賠 償 請求 権 な る もの が,実 体 法 上 の権 利 と して存

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在 す る と考 え るの は,そ れ 自体 背 理 とい うほか な い よ うに思 わ れ る。 損 害 発 生 の 原 因 た る加 害 行 為 が 完 了 して い る以 上,そ れ と相 当因 果 関係 を有 す べ き損 害 は,客 観 的 に は確 定 され て い る筈 だ とす る伝 統 的 な 理 解 は,論 理 的 には 明 快 で は あ るが,こ れ を じん 肺 に 当て は め るの は 無 理 が あ る」。 調 査 官 解 説 は,「 下 級 審 裁 判 例 の 多 くは,将 来 の重 い決 定 に相 当す る病 状 に 基 づ く損 害 は認 識 し得 な い と して,こ の よ うに損 害 の 全 容 を把 握 し得 な い こ と が 時 効 の 進 行 を妨 げ る と解 した の で あ るが,右 の 損 害 は,認 識 し得 な い の で は な く,そ もそ も発 生 して い ない の だ と考 え る方 が,適 切 で あ ろ う」 と,損 害 不 発 生 論 が採 用 され て い る こ と を強 調 して い る(倉 吉 敬 「判 解 」 『最 高 裁 判 所 判 例 解 説 民 事篇 平 成6年 度 』243頁)。 民 法167条,166条 の 起 算 点 に 関 して で は あ るが,質 的 に異 な る損 害(将 来 の 重 い決 定 に相 当す る病 状 に基 づ く損 害)に つ い て の 損 害 不 発 生 とい う考 え方 が こ の段 階 で 確 立 した とい え る。 この判 決 に よっ て,「 加 害 行 為 完了 後 そ の 損 害 が 進 行 ・拡 大 した 場 合 に は,当 初 の 受 傷 時 に将 来 の 損 害 を含 む 全 損 害 が 発 生 し て お り,こ の 時 点 で 全 損 害 につ き1個 の 損 害 賠 償 請 求 権 が 成 立 して い る」 とい う伝 統 的 な理 解 が,じ ん 肺 とい う特 異 な 進 行 性 の 職 業 病 につ い て は 及 ば な い こ とが 明 確 に な った 。 なお 調 査 官 解 説 は,本 判決 の 射 程 距 離 に つ い て,「 予 見 可 能 性 の な い 後発 損 害 はす べ て 別 個 の 損 害 とみ る と か,後 遺 症 の 等 級 が10級 か ら9級,8級 と進 行 す る場 合 に,そ の 等 級 毎 に各 別 の 損 害 が 発 生 す る とみ るの は,損 害 賠 償 請 求 権 (訴訟 物)の 統 一 的 理 解 を妨 げ る もの で あ り,も と よ り,本 判 決 は この よ うな 考 え方 を採 った もの で は ない 」 と述 べ て い る(同243頁 以 下)。 (2)筑 豊 じん 肺 訴 訟 最 高 裁 判 決(最 判 平成16年4月27日 民集58巻4号1032頁) 筑 豊 じん 肺 訴 訟 最 高 裁判 決 は,民 法724条 後 段 の起 算 点 に つ い て の最 初 の 最 高 裁 判 決 で あ る。 「民法724条 後 段 所 定 の 除 斥 期 間 の 起 算 点 は,『 不法 行 為 ノ 時』 と規 定 され て お り,加 害 行 為 が 行 わ れ た 時 に損 害 が 発 生 す る不 法 行 為 の 場 合 に は,加 害 行 為 の 時 が そ の 起 算 点 とな る と考 え られ る。 しか し,身 体 に蓄 積 した 場 合 に人 の 健 康 を害 す る こ と と な る物 質 に よ る損 害 や,一 定 の 潜 伏 期 間 が 経 過 した 後 に症 状 が 現 れ る損 害 の よ うに,当 該 不 法 行 為 に よ り発 生 す る損 害 の 性 質

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上 ,加 害行 為 が 終了 して か ら相 当 の期 間 が経 過 した後 に損 害 が発 生す る場 合 に は,当 該 損 害 の 全 部 又 は 一 部 が発 生 した 時 が 除 斥期 問 の 起算 点 とな る と解 す べ き で あ る 」。 この 法 理 は,B型 肝 炎訴 訟 最 高裁 判 決(17),水俣 病 最 高裁 判 決 に よ っ て確 認 され 判例 法 理 と して確 立 して い る。 ま ず,原 審 判 断 か らみ る。 筑 豊 じん肺 訴 訟 で,国 は 「民 法724条 後 段 に定 め る 除 斥 期 間 の起 算 点 は,加 害 行 為 が され た と き と解 す る の が 相 当 で あ るか ら, 本件 で は,本 件 従 業 員 らの炭 鉱 離 職 口を も っ て,除 斥 期 間 の起 算 点 とす べ き で あ り,仮 に損 害発 生 の 時 を もっ て 除 斥期 問 の 起算 点 と解 す る と して も,そ の損 害 の 一部 が発 生 した こ とが 明 らか とな っ た最 初 の 管理 区分 決 定 を受 け た 日の翌 日を 起算 点 とす べ き で あ る 」 との 主 張 を した。 国側 主 張 を原 審 は,厳 し く退 け た(福 岡 高判 平成13年7月19日 判 時1785号89 頁)。 ま ず,「 民法724条 後 段 は,『 不法 行 為 ノ 時』 を 除斥 期 間 の 起 算 点 と定 め て い る と ころ,こ れ を加 害行 為 が な され た 時 と解 す る 見解 が あ る が,こ の よ うに 解 す る と,加 害行 為 後 長期 間 を経 て初 め て損 害 が顕 在 化 す る場 合 に は,被 害者 の救 済 に悖る こ と甚 だ し く,極 端 な場 合 に は,損 害 が発 生す る 以前 に,除 斥 期 間 が満 了 して しま う とい う不 当 な 事態 さえ 生 じか ね な い か ら,上 記 見解 は採 用 で き な い 」 と述 べ た うえ で,「 不 法 行 為 ノ時 」 とは,「 不 法 行 為 の構 成 要件 が充 足 され た とき 」,すな わ ち,「加 害 行 為 が あ り,そ れ に よ る損 害 が,客 観 的 に(被 害者 の認 識 に 関係 な く)一 部 で も発 生 した とき 」 と解 す るべ き で あ る との 見解 を述 べ る。 つ ぎ に,じ ん 肺 の病 変 の 特 質 を 明 ら か に し て,「 じん 肺 に 罹 患 した 事 実 は, そ の 旨 の行 政 上 の決 定 が な けれ ば通 常 認 め難 い 」 こ とを前 提 と した 上 で,さ ら に 「損 害 の 一 部 発 生 時 」(最初 の 行 政認 定 時)を 起 算 点 とす る 見解 を も退 け る。「じ ん肺 の病 変 の 特質 に 照 らす と,管 理2,管 理3,管 理4の 各行 政 上 の決 定 に相 当す る病 状 に 基 づ く各損 害及 び じん肺 を原 因 とす る 死 亡(共 同原 因 死 を 含 む。) に基 づ く損 害 は,そ の 各決 定 あ る い は 死 亡の 時 点 に お い て,そ れ ぞれ の損 害 が 発 生 した とみ るべ き で あ る 」。 こ の 民法724条 後 段 の 起 算 点 の 箇 所 で,「 前 述 の とお り,じ ん肺 の病 変 の特 質 に 照 らす と」 と して述 べ られ て い る 「雇 用 契 約 の付 随義 務 と して の安 全 配 慮 義 務 の 不 履 行 に 基 づ く損 害 賠 償 請 求 権 の 消 滅 時 効(民 法167条1項)の 起 算 点 」

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の 叙 述 の 箇 所 をみ て お きた い 。 この 箇 所 で は,権 利 行 使 可 能 性 の 問 題 と関 連 を 保 ちつ つ,し か しこの 問 題 と直 結 は しな い 形 で,損 害 の 発 生 時 の 検 討 が な され て い る こ と に着 目 して お きた い 。 そ こで は,ま ず,病 変 の 特 質 が つ ぎの よ うに把 握 され る。 「じん 肺 に罹 患 した 事 実 は,そ の 旨 の行 政上 の決 定 が な けれ ば通 常認 め難 い か ら,本 件 にお いて は,じ ん 肺 の 所 見 が あ る 旨の 最 初 の 行 政 上 の 決 定 を受 けた 時 に少 な く と も損 害 の 一 端 が 発 生 した もの とい うこ とが で き る。 しか し,こ の こ とか ら,じ ん 肺 に罹 患 した 患 者 の 病 状 が 進 行 し,よ り重 度 の 行 政上 の 決 定 を受 けた 場 合 にお い て も,重 い 決 定 に相 当す る病 状 に基 づ く損 害 を含 む 全 損 害 が,最 初 の 行 政 上 の 決 定 を受 けた 時 点 で 発 生 して い た もの とみ る こ と はで き な い。 す なわ ち,じ ん 肺 の 病 像,そ の 健 康 管 理 区分 の 決 定 手 続,一 審 被 告 三社 の 粉 じん 職 場 等 にお け る本 件 従 業 員 らの 稼 働 状 況 と行 政 上 の 決 定 を 受 けた 経 緯 等 に よ る と,じ ん肺 に は,次 の よ うな特 殊 性 が存 在 す る。 す な わ ち, じん 肺 は,肺 内 に粉 じん が 存 在 す る限 り進 行 す るが,そ れ は 肺 内 の 粉 じん の 量 に対 応 して 進 行 す る とい う特 異 な進 行 性 の 疾 患 で あ って,し か も,そ の 病 状 が 管 理2又 は 管 理3に 相 当す る症 状 に と どま っ て い る よ うに み え る者 もあれ ば, 最 も重 い管 理4に 相 当す る症 状 まで 進 行 す る者 も あ り,ま た,症 状 が 進 行 す る 場 合 で あ って も,じ ん 肺 有 所 見 の 最 初 の 行 政 上 の 決 定 を受 けて か ら よ り重 い 決 定 を受 け る まで に,数 年 しか 経 過 しな か った 者 も あれ ば,20年 以上 が 経 過 した 者 も あ る な ど,そ の 進 行 の 有 無,程 度,早 さ も,患 者 に よ って 多 様 で あ る こ と が 明 らか で あ る。 そ うす る と,例 えば,管 理2,管 理3,管 理4と 順 次 行 政上 の 決 定 を受 けた 場 合 に は,事 後 的 にみ る と,一 個 の 損 害 賠 償 請 求 権 の 範 囲 が 順 次 量 的 に拡 大 した にす ぎ ない よ うにみ え るか も しれ な い が,こ の よ うな 経 過 を 辿 る 中の 特 定 の 時 点 の 病 状 を と ら えて み る と,そ の 病 状 が 今 後 どの 程 度 ま で 進 行 す るの か は も と よ り,進 行 しつ つ あ るの か,あ るい は 症 状 が 固 定 して い るの か さ え も,現 在 の 医学 で は確 定 す る こ とが で きな い の で あ って,管 理2の 行 政 上 の 決 定 を受 けた 時 点 で,管 理3又 は 管 理4に 相 当す る病 状 に基 づ く各 損 害 の 賠 償 を求 め る こ と は も と よ り不 可 能 な こ と とい わ な けれ ば な らな い 。」 以上 の よ うな じん肺 の 病 変 の特 質 に 照 ら して,「 管 理2,管 理3,管 理4の 各 行 政 上 の 決 定 に相 当す る病 状 に基 づ く各 損 害 には,質 的 に異 な る もの が あ る

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とい わ ざる を得 ず,し た が っ て,重 い決 定 に相 当す る病 状 に基 づ く損 害 は,そ の 決 定 を受 け た 時 に発 生 し,そ の 時 点 か らそ の損 害賠 償 請求 権 を行 使 す る こ と が法 律上 可能 とな る もの とい うべ き で あ り,最 初 の軽 い行 政上 の決 定 を受 け た 時 点 で,そ の後 の重 い決 定 に相 当す る病 状 に基 づ く損 害 を含 む全 損 害 が発 生 し て い た とみ る こ とは,じ ん肺 とい う疾 病 の 実態 に反 す る こ と著 し く,正 当 な解 釈 とい うこ とは で き な い 。」 と して 質 的 段 階 を 異 に す る損 害発 生 論(以下,松 本克 美 の表 現 を借 りて,異 質損 害段 階発 生 時説 とい う(18))が述 べ られ て い る。 この 原 審 は,「 各 行 政 上 の 決 定 に 相 当す る病 状 に 基 づ く各 損 害 に は,質 的 に 異 な る もの が あ る とい わ ざる を得 ず,し た が っ て,重 い決 定 に相 当す る病 状 に 基 づ く損 害 は,そ の 決 定 を受 けた 時 に発 生 」 す る との解 釈 を選 択 して い る。 「最 初 の軽 い行 政上 の決 定 を受 け た 時 点 で,そ の後 の重 い決 定 に相 当す る病 状 に基 づ く損 害 を含 む全 損 害 が発 生 して い た とみ る こ とは,じ ん肺 とい う疾 病 の 実態 に反 す る こ と著 し く,正 当 な解 釈 とい う こ とは で き な い。」 そ して,結 論 と し て,「 じん肺 の病 変 の特 質 に照 らす と,管 理2,管 理3, 管理4の 各行 政上 の決 定 に相 当す る病 状 に基 づ く各損 害及 び じん肺 を原 因 とす る 死 亡(共 同原 因死 を 含 む 。)に 基 づ く損 害 は,そ の 各 決 定 あ るい は 死 亡 の 時 点 に お い て,そ れ ぞれ の損 害 が発 生 した とみ る べ き で あ る か ら,結 局,除 斥 期 間 の 起 算 点 も,最 終 の行 政 上 の決 定 を受 け た 日あ る い は じん肺 を原 因 とす る死 亡 の 口 と解 す るべ き で あ る 」 と した。 こ の損 害論 は,長 崎 じん肺 訴 訟 最 高裁 判決(平 成6年2月22日 民集48巻2号 441頁)で,雇 用 契 約上 の付 随義 務 と して の安 全 配 慮 義 務 の不 履 行 に基 づ く損 害賠 償 請求 権 の 消滅 時効 期 間(民 法167条1項,166条1項)の 起 算 点 に関 して 「じ ん肺 の病 変 の特 質 に か ん が み る と,管 理2,管 理3,管 理4の 各行 政上 の決 定 に相 当す る病 状 に基 づ く各損 害 に は,質 的 に異 な る もの が あ る とい わ ざる を得 ず,し た が っ て,重 い決 定 に相 当す る病 状 に基 づ く損 害 は,そ の決 定 を受 け た 時 に発 生 し,そ の 時 点 か らそ の損 害賠 償 請 求権 を行 使 す る こ とが法 律 上 可能 と な る も の とい うべ き で あ り,最 初 の軽 い行 政上 の決 定 を受 け た 時 点 で,そ の後 の重 い 決 定 に相 当す る病 状 に基 づ く損 害 を含 む全 損 害 が発 生 して い た とみ る こ とは,じ ん肺 とい う疾 病 の 実態 に反 す る もの と して是 認 し得 な い。 これ を 要す る に,雇 用者 の安 全 配 慮 義 務 違 反 に よ り じん肺 に罹 患 した こ とを理 由 とす る損

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害 賠 償 請 求 権 の 消 滅 時 効 は,最 終 の 行 政上 の 決 定 を受 けた 時 か ら進 行 す る もの と解 す る」 との 見 解 を踏 襲 した もの で あ る。 筑 豊 じん 肺 訴 訟 の 原 審 判 断 で 注 目され るの は,死 亡 を損 害 発 生 の 新 た な 段 階 付 け とす る に 際 して述 べ られ た,行 政 上 の 管 理 区 分 と民 法 上 の損 害 賠 償 に あ た って の 区分 との 関係 に 関す る説 明 で あ る。 「管 理2な い し4の 管 理 区分 の決 定 は,あ く ま で も じん 肺 罹 患 の予 防,罹 患 後 の 進 行 阻 止 や 療 養 あ るい は労 災上 の 補 償 の 支 給 等 とい った 行 政上 の 措 置 の た め に な され る もの で あ って,元 々 損 害 を質 的 に 区別 す るた め にな され て い るわ けで は ない 。 じん 肺 が 医学 的 に もそ の 進 行 状 況 が 確 定 し に くい 進 行 性 の 疾 患 で あ る こ とか ら,民 事上 の 損 害 賠 償 に あた って も,そ の 区分 が 利 用 され て い る に す ぎ な いの で あ って,医 学 的 に可 能 で あれ ば,本 来 は 具体 的 な 自然 的 事 実 と し て の 病 状 に よ る段 階 付 けが 行 わ れ るべ きな の で あ る。 そ の意味 で は 行 政 上 の 決 定 は絶 対 的 な もの と まで はい え ない の で あ って,管 理 区分 決 定 の 際 に求 め られ る程 度 の 医学 的 証 明 が あれ ば,そ の 症 状 の レベ ル を認 定 す る こ とが で きな い わ けで は ない 。」 この 説 明 に依 拠 す れ ば,「 具体 的 な 自然 的 事実 と して の病 状 に よ る段 階付 け」 が 可 能 で あれ ば,「 そ の最 終 段 階」 を損 害 発 生 時 に とる こ とが で き る。 「水 俣 病 に よ る損 害 は,身 体 に蓄 積 す る物 質 が 原 因 で 人 の 健 康 が 害 され る場 合 の 典 型 例 とい うこ とが で き る」(長 谷 川 浩 二 「判 解 」 法 曹 時 報58巻10号254頁)。 水 俣 病 の 場 合 に も,症 状 に よ る段 階 付 け と類 似 して 損 害 の 特 質 を考 慮 す べ き で あ る。 そ うで あ る な ら ば,水 俣 病 の場 合 も,最 後 の段 階 の損 害(損 害 の全 部) が 発 生 した 段 階 を後 段 の 起 算 点 とす べ き こ と にな る。 さて,筑 豊 じん 肺 訴 訟 最 高 裁 判 決 は 損 害 発 生 時 を起 算 点 とす る理 由づ け と し て,2つ の観 点 を強 調 してい る。 「この よ うな場 合 に損 害 の発 生 を待 た ず に 除斥 期 間 の進 行 を認 め る こ とは,被 害 者 に とっ て 著 し く酷 で あ る」 こ と と,「加 害 者 と して も,自 己 の行 為 に よ り生 じ得 る損 害 の性 質 か らみ て,相 当の期 間が 経過 した 後 に被 害 者 が現 れ て,損 害賠 償 の請 求 を受 け る こ とを予 期す べ き で あ る」 こ と。 既 に,松 本 克 美 が この理 由づ け を 「被 害者 に とって 著 しく酷 」 「力11害者 が予 期 す べ き」論 と して画 期 的 な 意 味 が あ る こ とを指 摘 して い る(松 本 克 美 「民法724条 後段 の 『不 法行 為 の 時』 と権利 行使 可能 性 」 立命 館 法 学307号160頁(2006))。

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筑 豊 じん 肺 訴 訟 最 高 裁 判 決 の到 達 点 か ら,も う一 歩 を進 め る こ とが で き る。 民法167条 の 起 算 点 と民 法724条 後 段 の 起算 点 との 融合,統 一 を み て よ い の で は な い か。 す な わ ち 民法724条 後 段 の 起 算 点 に民 法166条1項 の趣 旨 を組 み 込 む の で あ る。 最 高 裁 の 「被 害者 に とっ て著 し く酷 」 「加 害 者 が 予 期 す べ き」 論 は そ の よ うな読 み 方 を 可能 とす る も の で あ る。 な お,筑 豊 じん肺 訴 訟 の控 訴 審 判決 は,時 効 援 用 が濫 用 とな る 要件 の 点 で も 画 期 的 な も の で あ っ た。 長 崎 じん肺 訴 訟 最 高裁 判 決(最 判 平成6年2月22日 民 集48巻2号441頁)で は,損 害 賠 償 請 求 権 の発 生 要件 該 当 事 実 が悪 質 で あっ た こ とは 時 効 援 用 権 濫 用 の 成 否 の判 断 要 素 か ら排 除 され て い た 。 「損 害 賠 償 請 求 権 の 消滅 時効 の援 用 が権 利 濫 用 に 当 る とい うに は,債 権 者 が訴 え提 起 そ の他 時 効 中 断 の 挙 に 出 る こ とを債 務 者 に お い て妨 害 し若 くは妨 害す る結 果 とな る行 為 に 出 た場 合,又 は債 権 者 と債 務 者 とが近 親 者 等 特 殊 な 関係 に あ る た め債 権 者 に 時 効 中 断 の 挙 に 出 る こ とを期 待 す る こ とが 酷 で あ る場 合 な ど債 務 者 が債 権 者 に お い て 時 効 中 断 の 挙 に 出 な か つ た こ とを も つ て 消滅 時効 を援 用 す る こ とが 時効 援 用 権 に つ い て社 会 的 に許 容 され た 限界 を逸 脱 す る もの とみ られ る場 合 で な け れ ば な らず,た ん に 時効 に か か る損 害賠 償 請求 権 の発 生 要件 該 当 事実 が悪 質 で あった こ と,被 害法 益 が重 要 で か つ被 害 が甚 大 であった こ とは右 時効 援 用 権 濫 用 の 要件 を構 成 しな い もの とい わ な けれ ば な らな い 」。 これ に 対 し,筑 豊 じん肺 訴 訟 控 訴 審 判 決(福 岡 高 判 平 成13年7月19日判 タ 1077号72頁)は 時 効 援 用 が 権 利 濫 用 とな る余 地 を広 く認 めた 。 時 効 制 度 の機 能 ・ 目的 は,「 ① 長 期 間 継 続 した事 実 状 態 を維 持 す る こ とが 法 律 関係 の 安 定 の た め 必 要 で あ る こ と,② 権 利 の 上 に 眠 っ て い る者(権 利 行 使 を怠 っ た者)は 法 の保 護 に値 しな い こ と,③ あ ま りに も古 い過 去 の事 実 に つ い て 立証 す る こ とは 困難 で あ る か ら一 定期 間 の経 過 を もっ て義 務 の 不存 在 の 主 張 を許 す 必 要 が あ る こ と 等 」 で あ る か ら,「債 務 に つ い て の 消滅 時効 の援 用 は,債 務 者の 権利 に属 す るが, 債 権 者 が期 間 内 に権 利 を行 使 しな か っ た こ とに つ い て,債 務 者 の側 に 責 むべ き 事 由 が あ っ た り,債 務 発 生 に 至 る債 務 者 の行 為 の 内容 や 結 果,債 権 者 と債 務 者 の社 会 的 ・経 済 的 地位 や 能 力,そ の他 当該 事案 に お け る諸 般 の 事実 関係 に 照 ら して,時 効 期 間 の 経 過 を理 中 に債 権 を 消 滅 させ る こ とが,著 し く正義 ・公 平 ・ 条理 等 に反 す る と認 め るべ き 特段 の 事情 が あ り,か つ,援 用 権 を行 使 させ な い

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こ と に よ って上 記 時 効 制 度 の 目的 に著 し く反 す る事 情 が な い 場 合 には,時 効 の 援 用 は権 利 の 濫 用 と して これ を許 さず,債 権 の 行 使 を許 す べ きで あ る」。 (3)じ ん 肺 訴 訟 の 到 達 点− 損 害 不 発 生 の 論 理 じん 肺 訴 訟 で の 損 害 論 の 到 達 点 は,質 的 に異 な る損 害(将 来 の 重 い 決 定 に相 当す る病 状 に基 づ く損 害)に つ いて の 損 害 不 発 生 とい う考 え方 で あ る。 民 法724条 後 段 の 起 算 点 につ い て は,少 な く と も加 害行 為 に よ っ て発 生 す る 損 害 の 性 質 が 「身 体 に蓄 積 す る物 質 が 原 因 で 人 の 健 康 が 害 され る こ と に よ る損 害 」 で あ る場 合 にお け る 「損 害 発 生 時 」 説 が 判 例上 確 立 し,こ れ に対 す る学 説 の 支 持 も得 られ て い る。 こ こ に お い て,民 法724条 が ドイ ツ 民 法 を継 受 した と解 した 場 合,被 害 者 の 損 害 と加 害 者 につ いて の 認 識 と は関係 な く不 法 行 為 の 時 か ら30年 で 消 滅 時 効 に か か る とい う ドイ ツ民 法 旧852条 とは ま っ た く別 の道 を歩 み 始 め た こ とに な る。 い くつ か の ドグマ 的 制 約(① 民 法166条1項 の 「権 利 を行 使 す る こ とが で き る」 と は,権 利 を行 使 す る うえで 法 律上 の 障 害 が な い こ と を意 味 し,権 利 を行 使 し うる こ とを 権利 者 が 知 らな か っ た 等 の 事 実 上 の 障 害 は時 効 の進 行 を妨 げ な い。 ② 民 法724条 後 段 を 除 斥 期 間 と解 す る)の 下 で の法 発 展 で あ る が,不 法 行 為 法 の 究 極 の 理 念 で あ る損 害 の 公 平 な分 担,具 体 的 正 義 と公 平 に適 う解 決 を求 め る 道 筋 で あ る と評 価 して よい 。 なお ドイ ツ民 法 は2002年 の 債 務 法 の 改 正 に伴 い,通 常 の 時 効 期 問 を30年 問 か ら3年 間 へ と劇 的 な期 間 短 縮 をお こな った が(195条,199条1項),生 命 ・身 体 ・ 健 康 ・自 由の 侵 害 に よ る損 害 賠 償 請 求 権 につ い て は,加 害 行 為 の 時 か ら30年 と い う時 効 期 間 が 維 持 され て い る(199条2項)。(19) 4水 俣 病 訴 訟 の 各 判 決 は 時 効 論,損 害 論 に ど う 向 き 合 っ て き た か 起 算 点(① 民 法167条 ・166条 の 起 算 点,② 民 法724条 前 段 の 起 算 点,③ 民 法 724条 後 段 の 起 算 点)の 問 題 に焦 点 を 当 て な が ら,水 俣 病 各 判 決 は水 俣 病 の 損 害 を どの よ うに把 握 して きた か を振 り返 って み た い 。 (1)熊 本 第 一 次 訴 訟(熊 本 地 判 昭 和48年3月20日 判 時696号15頁) 第 一 次 訴 訟 で は,チ ッ ソ は 「行 政 認 定 時 説 」(「第 一 次 見 舞 金 契 約 の 当 事者 で

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あ る原 告 らに つ い て は,遅 く と も同人 らが被 告 に対 して損 害賠 償 金 の請 求 を し た 昭和34年11月25日 に,そ の ほ か の原 告 らも,白 己 も し くは近 親 者 が水 俣 病 の 認 定 を受 け た 時 」)に よ る民 法724条 前 段 に よ る 時効 消滅 を 主 張 した。 第 一 次 訴 訟 判 決 は,「 死 亡 を理 由 とす る慰 籍 料 相 続 分 の債 権 」 の み を 昭和43 年10月 こ ろ か ら3年 が経 過 した 後 に提 訴 され た と して 消 滅 時 効 の 完 成 を認 め た。 しか し第 一次 訴 訟 判 決 は,① 認 定 時 か ら3年 以 内,②(生 命 侵 害 を理 由 とす る慰 籍 料 請求 権 に つ い て は)死 亡 時 か ら3年 以 内 で あれ ば,消 滅 時効 は完 成 し て い な い,と 述 べ た上 で,問 題 に な る ほ か の原 告 らの本 件 慰 籍 料 請 求 権 に 関す る被 告 の 消滅 時効 の 主 張 が 失 当 で あ る理 由 を次 の よ うに述 べ る。 ① 「す で に述 べ た よ うに,一 般 の債 権 の 消滅 時効 期 間 は10年 で あ る(民 法 第 167条 第1項)の に対 し,不 法 行 為 に よ る損 害 賠 償 請 求 権 につ い て,民 法 第724 条前 段 が3年 とい う短 期 の 消滅 時効 を 定 め た の は,あ ま り期 間 が経 過 す る と不 法 行 為 の 要 件 の 証 明 や 損 害 額 の 算 定 が 困難 に な る とい う採 証 上 の 理 由 も あ る が,主 と して,被 害者 が損 害 お よ び加 害 者 を知 っ た の ち3年 を経 過 して も損 害 賠 償 請求 権 を行 使 しな い とい う こ とは,そ の 間 に被 害者 の感 情 が 治癒 され 加 害 者 を 宥 恕 して い る か らで あ っ て,そ の後 に な っ て再 び 当事 者 間 の 関係 を紛 糾 さ せ る こ とは 妥 当 で な い とい う考慮 に も とつ い て い る。 と ころ で,本 件 患者 らは,被 告 が,最 初 に損 害 お よ び加 害者 を知 っ た の で消 滅 時 効 の 起 算 点 とな る と主 張 す る 昭 和34年11月25日 あ る い は それ 以 降水 俣 病 の 認 定 を受 け た 時 以後 に お い て も,す で に 当 時 死 亡 して い た 患 者 を 除 き,な お水 俣 病 の 患者 と して,継 続 的 に,の ち に損 害 の と ころ で 認 定す る とお り,そ の症 状 に 苦 しみ,種 々 の 障 害 を受 け て い る の で あ る。 こ の よ うに加 害者 の身 体 を侵 害す る行 為 が あ っ た の ち に も,そ れ に よ る損 害 は継 続 的 に発 生 して い る とい う場 合,被 害者 が最 初 に損 害 の 一部 お よ び加 害者 を知 っ た 時 か ら,そ の損 害全 部 の賠 償 請 求権 に つ い て,消 滅 時効 が進 行 す る と い う解 釈 は到 底 採 り得 な い。 この よ うな解 釈 に よれ ば,最 初 に損 害 お よ び加 害 者 を知 っ た 当 時,被 害者 が 予 見 で きず,し た が っ て 請求 で き な い損 害 の賠 償 請 求 権 に つ い て も,消 滅 時効 期 間 が進 行 を 開始 す る こ とに な っ て,時 効 の起 算 点 に 関 す る特 則 で あ る 民 法 第724条 前 段 が,わ ざわ ざ 『損 害 を知 っ た 時 』 か ら時

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効 が 開 始 す る と した 趣 旨 に反 す る こ と にな るか らで あ り,ま た,最 初 に損 害 お よび加 害 者 を知 った 時 か ら相 当期 問 を経 過 した の ち まで 症 状 が 継 続 し,当 初 予 想 され なか った よ うな後 遺 症 が 現 わ れ る とい うこ とは,被 害 者 の感 情 をい よい よ激 昂 させ る理 由 に な るの で あ って,こ の よ うな 場 合 に,最 初 に損 害 お よび 加 害 者 を知 った 時 か ら3年 を経 過 して い るか ら とい う理 由で,そ の 損 害 の 賠 償 請 求 権 が 消 滅 時 効 にか か る とす るの は,初 め に述 べ た よ うな 同条 前 段 の 立 法 趣 旨 に反 す る こ と に な るか らで あ る。 結 局,こ の 場 合 に は,被 害 者 が 損 害 の 一 部 を知 った 時 に,そ の 部分 お よび こ れ と牽 連 一 体 を なす 損 害 で 当時 にお い て 予 見 す る こ とが 可 能 な もの につ い て の み,す べ て 被 害 者 にお い て そ の 認 識 が あ った もの と して,賠 償 請 求 権 の 時 効 が 進 行 を始 め,そ の 余 の 範 囲 の 損 害 につ い て は,別 個 にそ の 発 生 を知 りあ るい は 予 見 可 能 と な る まで,そ の 賠 償 請 求 権 の 消 滅 時 効 は 進 行 しな い もの と解 す べ き で あ る。 と こ ろで,す で に述 べ た よ うに,前 記 生 存 患 者 らの 症 状 は,前 記 の 昭 和34年 11月25日 あ るい は水 俣 病 の認 定 を受 け た 時 点 以 後 に お い て も複 雑 な 経 過 を示 し て お り,右 の 時 点 にお い て,将 来 の 症 状 の 経 過,後 遺 症 の発 現 の 有 無,内 容, 治 療 方 法 お よび そ れ に要 す る費 用,将 来 の 精 神 的 苦 痛 な どの 損 害 につ い て,す べ て 認 識 で きた もの と は解 され ない の で あ って ,右 時点か ら,慰 籍料な どすべ て の 損 害 賠 償 請 求 権 につ い て,消 滅 時 効 が 進 行 す る とす る被 告 の 主 張 は 到 底 肯 認 す る こ とが で き ない 。」 ② 「民 法 第724条 前 段 が,3年 の 消 滅 時 効 の 起 算 点 を被 害 者 ま た は そ の 法 定 代 理 人 が 『損 害 お よび 加 害 者 を知 った 時 』 と定 めた の は,被 害 者 は,加 害 行 為 の 事 実 を知 るの み で は損 害 賠 償 請 求 権 の 行 使 は で きな い が,加 害 行 為 に よ って 発 生 した 『損 害 』 と損 害 賠 償 請 求 権 の 相 手 方 で あ る 『加 害 者 』 を と も に知 った 時 に,初 めて 損 害 賠 償 請 求 権 を行 使 す る こ とが 可 能 にな るの で,こ の 時 点 か ら時 効 を進 行 させ るの を妥 当 とす るか らで あ る。 この 趣 旨か らす る と,こ こ に 「損 害 を知 る」 とい うの は,単 に,損 害 発 生 の 事 実 を知 る こ との み をい うの で は な く,同 時 に加 害 行 為 が 不 法 行 為 で あ る こ と を知 る こ とで,当 然,違 法 な加 害 行 為 と損 害 発 生 の 事 実 との 問 に相 当因 果 関 係 が あ る こ と を知 る こ と を も含 む 趣 旨 に解 しな けれ ば な ら ない 。

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そ して,同 条 に い わ ゆ る 『知 りた る』 時 とは,被 害者 の加 害者 に対 す る賠 償 請求 が 事実 上 可能 な状 況 の も とに,そ れ が 可能 な程 度 に 具体 的 な資 料 に も とつ い て,加 害 者 な い し損 害 を認 識 しえた 場 合 を い うも の と解 す べ きで,被 害 者 が, 具 体 的 な 資 料 に も とつ か な い で主 観 的 に 疑 い を抱 い た り,推 測 した だ け で は, 事 実上 損 害賠 償 請 求権 の行 使 は で き な い か ら,こ こに 『知 っ た』 とい う こ とは で き な い。」 水俣 病 第 一 次 訴訟 判 決 は,民 法724条 前 段 の起 算 点 との 関連 で損 害 の 特 質 を論 じて い る。 しか し損 害 の特 質 とい う点 で は,民 法724条 後 段 の起 算 点 を考 え る場 合 の 「損 害 」理 解 と共 通 す るは ず の もの で あ る。 民 法724条 前 段 の水 俣 病被 害者 の損 害 の特 質 を把 握 す る上 で 特 に重 要 な の はつ ぎの指 摘 で あ る。 「水 俣 病 の 認 定 を受 け た 時 以 後 に お い て も,す で に 当 時 死 亡 して い た 患者 を 除 き,な お水 俣 病 の 患者 と して,継 続 的 に,の ち に損 害 の と ころ で 認 定す る とお り,そ の症 状 に 苦 しみ,種 々 の 障害 を受 け て い る の で あ る。 こ の よ うに加 害 者 の身 体 を侵 害す る行 為 が あ った の ち に も,そ れ に よ る損 害 は継 続 的 に発 生 して い る とい う場 合, 被 害者 が最 初 に損 害 の 一部 お よび加 害者 を 知 っ た 時 か ら,そ の損 害全 部 の賠 償 請求 権 につ い て,消 滅 時効 が進 行 す る とい う解釈 は到 底採 り得 ない 。」 「損 害 は継 続 的 に 発 生 して い る」 と い う理 解 に 立 て ば,じ ん肺 訴 訟 の到 達 点 と同様 に,後 続 損 害 に つ い て は損 害 は未 発 生 で あ る と理 解 す る こ とが で き る。 (2)関 西訴 訟第 一審 判決(大 阪地 判 平 成6年7月11日 判 時1506号5頁) で は,関 西訴 訟 の第 一 審判 決 の 大 阪地 裁 判 決 は ど うか。 大 阪地 裁 は,「 仮 に, 本 件 患者 らが遅 発 性 水 俣 病 で あ っ た と して も,水 俣 湾 周 辺地 域 か らの転居,す な わ ち,水 俣 湾 内 の魚 介 類 の摂 食 中止 か ら,遅 く と も4年 を経 過 した 時 点 以後 に は,客 観 的 に最 初 の損 害 が発 生 して い た と推 認 され る か ら,そ の 時 点 を 除 斥 期 間 の起 算 点 と考 え る べ き で あ る 」 と して,転 居=摂 取 中止 か ら4年 後 を起 算 点 に採 っ た。 「10年以上 経 っ て か ら発 症 」 と主 張す る 書 証 を こ う退 け て い る。 「甲B第73号 証 の4で は,10年 以 上経 っ て か ら発 症 す る こ とも あ り うる と して い る が,こ こ に い う発 症 は客 観 的 に 症 状 の 現 れ た最 初 の 時 点 を指 す もの で は な い と解 され, 県 外 移 住 者 を継 続 的 に 毎 年 検 診 した結 果 に よ る結 論 で もな い と解 され るか ら,

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右 結 論 を全 面的 に は信 用 す る こ とが で きな い 。」 こ こに は,起 算 点 と して の 損 害 の 一 部発 生 に つ い て の 判 例 法 理 の 誤 解 が あ る。 大 阪地 裁 判 決 は,「 遅 発 性 水 俣 病 の症 状 初 発 時期 」 だ け を 問題 に して 「転 居 後4年 」 を導 き 出 して い る。 「新 潟 水 俣 病 に お い て 認 め られ る よ うな 遅 発 性 水 俣 病 が 存 在 す る こ とは認 め られ るか ら,本 件 は,加 害 行 為 の止 ん だ 時 か ら時 間 が 経 過 した 後 に損 害 が 発 生 す る場 合 で あ る可 能 性 が あ る。 また,被 害 者 が 損 害 を認 識 した 時 には,既 に客 観 的 に損 害 の 一 部が 発 生 して い るの で あ り,客 観 的 に損 害 の 一 部で も発 生 した 最 初 の 時 点 は,被 害 者 の 認 識 時 以 前 で あ る と考 え られ る。 そ こで,こ の よ うな 場 合 に は,加 害 行 為 の止 ん だ 時 点 か ら,医 学 上 考 え られ る潜 伏 期 間 を経 た 時 点 以 後 に,た と え,被 害 者 が 損 害 を認 識 して い な くて も,除 斥 期 間 が 進 行 す る と 解 す べ きで あ る。」 この 理 解 を大 阪 高 裁 判 決(大 阪 高判 平 成13年4月27日判 時1761号3頁)も 最 高 裁 判 決 もそ の ま ま 引 きず って い る。 5民 法724条 後 段 の 法 的 性 質− 起 草 者 の 見 解 水 俣 病 訴 訟 の 解 決 に と っ て 必 要 な 限 りで,従 来 の研 究 に 依 拠 し な が ら(20), 民 法 起 草 者 の 時 効観 と民 法724条 の 立法 趣 旨 を確 認 してお き た い。 (1)時 効 と予 定 期 間 との 峻 別 民 法 の 起 草 者 は,時 効 とそ の 他 の 期間(豫 定 期 限,不 変 期 問)と が 旧民 法 で は 区別 され ず に混 乱 して い る こ と を指 摘 した うえで,こ の 二 つ を意 識 的 に 区別 して い る(法 務 大 臣 官 房 司 法 法 制調 査 部 監修 『法 典 調 査 会 民 法 議 事速 記録 一 』 (復刻 版,商 事 法 務 研 究会)408頁 以 下 。 以 下 で は 『民 法 議 事 速 記 録1』 な ど と 略 す)。 時 効 の 草 案 を担 当 した 梅 謙 次 郎 は,法 典 調 査 会 で 旧民 法 証 拠 編 第92条 を削 除 す る趣 旨 を 説 明 す る 際 に 次 の よ うに述 べ て い る。 証 拠 編 第92条(「 或 ル 訴 権 ノ 行 使 ノ為 メ法 律 二 定 メ タル 期 間 ハ 其 訴 権 ノ性 質 二 因 リテ 取 得 時 効 又 ハ 免 責 時 効 ノー 般 ノ規 則 二 従 フ但 法 律 力 明 示 又 ハ 黙 示 ニ テ 例 外 ヲ設 ケ タル 場 合 ハ 此 限 リニ 在 ラ ス 」)は 「訴 権 の行 使 の た め に法 律 が 期 間 を定 め る とい う とい つ もそ れ は 時 効 とみ る」 とい うこ と に な って い るが,そ うだ とす る と非 常 に多 くの 期 間 が

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時 効 と い う こ と に な る が,こ れ ら の 期 間 の 性 質 を 研 究 す れ ば,時 効 と は 性 質 が 違 い,時 効 の 規 定 を 適 用 し が た い も の が い く ら も あ る 。 「い や し く も 時 効 の 規 則 を 適 用 す る 場 合 に は 特 に 時 効 と 云 ふ,時 効 と 云 は な け れ ば そ れ は 時 効 で な い,仏 蘭 西 語 を 訳 し て 予(豫)定 期 限 と で も 申 し ま し ょ う か,唯 予 め 期 限 を 定 め て そ の 期 限 内 で な け れ ば 為 す こ と は 出 来 ぬ と 云 ふ こ と を 法 律 で 極 め た の で あ る,そ の 期 限 が 到 来 す れ ば 如 何 な る 事情 あ り と い え ど も そ の 権 利 は な く な っ て し ま う,こ う 云 ふ 性 質 の も の で あ る,か の 時 効 の 中 断 と か 停止 と か 云 ふ よ う な 規 則 な ど は こ れ に あ て は ま ら ぬ 方 が 宜 し か ろ う と 思 い ま し た の で あ り ま す 」(『民 法 議 事 速 記 録1』409頁 以 下)。(原 文 の 旧 漢 字 カ ナ 文 語 文 で は 読 み に く い た め,文 意 を 損 な わ な い 限 度 で 現 代 語 に 改 め て い る 。) (2)原 案 第732条(現 行 第724条)の 審 議 法 典 調 査 会 に 提 出 され た 現 行 民 法724条 の 原 案(第732条)は,次 の 通 り で あ る(『 民 法 議 事 速 記 録5』459頁)。 第732条 「不 法 行 為 二 因 ル 損 害 賠 償 ノ 請 求 権 ハ 被 害 者 又 ハ 其 法 定 代 理 人 力 損 害 及 ヒ加 害 者 ヲ 知 リ タ ル 時 ヨ リ 三 年 間 之 ヲ 行 ハ サ ル ニ 因 リ テ 消 滅 ス 但 第 百 六 十 八 條 ノ 適 用 ヲ 妨 ケ ス 」 法 典 調 査 会 議 事 速 記 録 に は,(参 照 条 文)と し て,以下 の も の が 示 さ れ て い る 。 財 産 編379条,オ ー ス ト リ ア 民 法1489条,ス イ ス 債 務 法69条,モ ン テ ネ グ ロ 民 法585条,ド イ ツ 第一 草 案719条,ド イ ツ 第 二 草 案775条,プ ロ イ セ ン 法 第1部6章54条,55条,イ ギ リス 出 訴 期 限 法3条,(Act for the Limitation of Actions.21Jac.1.c.16) こ の 第732条 は,条 文 の 文 言 と 体 裁上,前 段 が 予 定 期 限(不 変 期 間)と し て, 後 段 が 普 通 時 効 と し て 原 案 は 構 想 され て い る 。 審 議 の 結 論 を 先 取 り し て 述 べ る と,審 議 の な か で,前 段 も 時 効 と 改 め られ て い る 。 ま ず,第732条 但 書 で 適 用 を 妨 げ ず と さ れ て い る 第168条 の 立 法 趣 旨 か ら確 か め た い 。 第168条 は 第1編 第6章 第3節 消 滅 時 効 の 箇 所 に お か れ て い る 規 定 で あ る 。 法 典 調 査 会 に 提 出 され た 第168条 の 原 案 で は,「 財 産 権 ハ 所 有 権 ヲ 除 ク 外 特 別 ノ規 定 ナ キ トキ ハ ニ 十 年 間 之 ヲ 行 ハ サ ル ニ 因 リ テ 消 滅 ス 」と な っ て い た が, 審 議 の な か で 修 正 案 が 出 さ れ て,起 立 多 数 で,「 所 有 権 以 外 ノ 財 産 権 ハ ニ 十 年

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問 之 ヲ行 ハ サ ル ニ 因 リテ 消 滅 ス 」 と改 め られ て い る(『 民 法 議 事 速 記 録1』541 頁 以 下544頁)。 原 案 の 趣 旨 を梅 謙 次 郎 は この よ うに説 明 して い る。 梅 謙 次 郎 君 「これ は既 成 法 典 証 拠 編150条 〔義 務 ノ免 責 時 効 ハ 債 権 者 力 其 権 利 ヲ行 フ コ トヲ得 ヘ キ時 ヨ リ三 十 奈 年 間 之 ヲ行 ハ サ ル ニ 因 リテ 成 就 ス 但 法 律 ヒ 別 段 短 キ期 間 ヲ定 メ又 ハ 債 権 ヲ時 効 二罹 ラサ ル モ ノ ト定 メ タル トキハ 此 限 リニ 在 ラ ス〕 及 び155条 〔… … 相 続 ノ時 ヨ リ三 十 奈年 ヲ経 過 ス ル ニ 非 サ レハ 時 効ニ 罹 ラ ス〕に よれ ば,少 な く も義 務 及 び 相 続 権 につ い て は 時 効 の 期間 が30年 とな っ て い る の を 前 の162条 に お い て 述 べ ま した 理 由 に基 づ き ま して こ こ もや は り20 年 と改 めた の で あ ります 。 や は りこ こ も外 国 には30年 の 例 も最 も多 い の で あ り ます けれ ど も,理 由 は前 に 申 しま した か ら こ こ に再 び 申 しま せ ん 。 … … 」 梅 謙 次 郎 が 第162条 で 述 べ た 理 由 と同 じで あ る と して,繰 り返 しを避 け た 説 明 をみ て お こ う。 原 案 第162条 は 時効 取 得 の規 定 で あ る。 「二 十 年 間 他 人 ノ物 ヲ平 穏且 公 然ニ 占有 ス ル 者 ハ 其所 有 権 ヲ取 得 ス十 年 間 他 人 ノ不 動 産 ヲ平 穏 且 公 然 二 占有 スル 者カ 其 占有 ノ始 善 意 ニ シテ 過 失 ナ カ リシ ト キハ 其 不 動 産 ノ所 有 権 ヲ取 得 ス 」 梅 謙 次 郎 は,30年 を20年 に短 縮 した 理 由 を つ ぎ の よ うに述 べ て い る(『 民 法 議 事 速 記 録1』514頁)。 「本 案 にお い て は20年 と短 縮 い た しま した理 由 は,開 化 が 段 々 ん で 進 み い く に従 い,取 引 が 段 々 頻 繁 にな る に従 って,一 方 にお い て は交 通 の 便 が 開 け ます る に よ って この 遠 隔 の 地 にお りま す る者 で も 自分 の 本 国 に在 る 所 の 財 産 が 如 何 な る有 様 に お い て あ る か とい う こ と を知 る に 苦 しか ら ず,ま た 自分 の 身 体 は 自分 の 在 所 に在 って そ の 財 産 が 遠 き に在 る場 合 で もま た そ うで あ ります 。 また 一 方 にお い て は 取 引 が 頻 繁 にな る に よ って そ の 取 引 につ いて 数 十 年 の 後 にお いて そ れ につ い て 争 い が 起 こ って 自分 で は 正 当 に権 利 を得 て お る と思 った 権 利 を失 って しま うとい うよ うな こ とが あ って は 経 済 上 は な は だ 不 便 で 仕 様 が ない 。 この よ うな場 合 で あ りま す か ら して 本 案 にお い て は ベ ル ギー 民 法 草 案 イ ン ド出訴 期 限 法 な ど に倣 い ま して これ を20年 に短 縮 した の で あ ります 。」 民 法 の 起 草 者 は なぜ 長 期 時 効 期 間 を20年 間 に短 縮 した の だ ろ うか 。 法 典 調 査

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会 で の梅 の説 明 で も文 明 の 「開化 」 とい う以上 の説 明 は な い よ うで あ る。 同 じ 起 草 委員 の 富 井政 章(『民 法原 論 第 一巻 総 論 』(有斐 閣,1922)682頁 以 下)も,「消 滅 時効 の期 間 に 関す る外 国 の 立法 例 は 区 区 一様 な らず とい え ど も,普 通 時効 の 期 間 は これ を30年 と定 む る もの最 も多 く,し か して債 権 とそ の他 の財 産 権 との 間 に 差別 を設 くる も の は は な は だ少 な し とす 。 我 民法 の ご とき は最 も短 期 の 制 を採 りた る もの に して畢竟 近 世 交通 の 便 著 し く開 け た る の理 由 に基 づ くも の な り。 但 し消滅 時 効 の最 長 期 間 とい え ども20年 を超 え ざる も の とせ る が ゆ え に最 初 議会 に提 出せ られ た る政 府 案 に は債 権 に つ き特 例 を設 けざ り しも衆 議 院 にお い て これ を10年 と改 め た る な り… … 」 と説 明 して い る にす ぎ な い。 さて,原 案 第732条 の 審 議 過 程 を み た い。 そ こ で は 次 の よ うな 審 議 が な され て い る(『 民 法 議 事 速 記 録5』459頁 以 下461頁)。 穂 積 陳 重 君 「本 條 に付 て は 長 い 説 明 を致 す 必 要 は あ りませ ぬ。 期 限 問 題 で あ りま す 。 唯 既 成 法 典 〔財 産 編379条 〕 で は,刑 事 で あ るな らば刑 事 訴 訟 法 の 時 効 に従 ふ と云 ふ こ とが 書 て あ ります 。又懊 太 利 は 矢 張 り三年 と為 って居 りま す 。 又 … …場 合 に も三十 年 を超 え な い。 瑞 西 は 一年 と十 年 。 モ ン テ ネ グ ロ も一年 と 十 年 。 独 逸 民法 草 案 は 三年 と 三十 年 。 仏 蘭 西 も 三年 と 三十 年 。 英 吉利 の 出訴 期 限法 に於 き ま して は 之 は種 々 とな っ て お ります 。 不 法 行 為 の種 類 に依 っ て 或 は 六年 或 は 四年 或 は二 年 とあ ります が,要 す る に通 常 の 出訴 期 限 よ りは余 程 短 く 為 っ て居 ります 。 本案 は即 ち 此通 常 の場 合 は 三年 其他 は 消滅 時効 の規 定 に従 ふ と云 ふ の で あ ります 。」 横 田国 臣 君 「此 『三 年 間 』 と云 ふ の は 期 限 の こ とで あ ります か ら長 く は 申 し ませ ぬ が如 何 な もの で ご ざい ませ うか。 此損 害 とか加 害者 とか 云 ふ もの は何 時 で も何 処 か逃 げ たや うな こ とが ご ざい ませ うが,さ う云 ふ 時 に は 中 断 で もや っ て置 く と云 ふ の で ご ざい ませ うか,中 断 は あ っ て も矢 張 り 三年 間行 は ね ば往 け ぬ も の で ご ざい ませ うか,さ うす る と今 の本 統 に加 害者 が あ る と云 ふ で も夫 れ に付 て は 人 を殺 した と云 ふや うな場 合 は 唯 だ親 父 を殺 され た と云 ふ損 害 又加 害 者 は誰 れ で あ る と云 ふや うな こ と夫 れ を何 す る に非 常 に証 拠 を 要す る。 其証 拠 の為 に は 実 は刑 事の裁 判 も要す る位 で あ ります が,夫 れ を 三年間 を 以 て 直接 消 滅 にす る,ど う も事 実 は さ うは往 くま い と思 ふ の で あ ります が如 何 で ご ざい ま せ う」

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