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アジアにおける日本企業の労務経営
一その受容性と経済的有効性 *
冨 田 光 彦
1 は じ め に 本稿の目的は,海外に進出した日本企業が,どのような労務管理方式を採用 し,それはどの程度国際的妥当性を持つかを,アジア地域に進出した日本企業 を素材として検討することにある。 一般に海外に進出した企業が採用する労務管理の方式には,大きく三つのパ ターンが考えられる。すなわち,(1股掌国本社の労務管理の基本姿勢と枠組み をそのまま海外に移転するケース。(2摂社の労務管理の核心部分を移転する一 方,投資受け入れ国の経営環境にかなり順応した方策を採用するケース。(3股 資受け入れ国の経営環境に適応した形で労務管理方式を再編成するケースであ る。もし,多くの日本企業が第三のパターンを採用しているとすれば,日本的 な労務管理方式の国際的妥当性は,日本企業自身によって否定されていると判 断される。しかし,第一ないし第二のパターンが広く採用されているとすれば, そこにどの程度の国際的妥当性があるかが問われる必要があろう。 国際的妥当性は,進出国で展開されている労務管理方式が各国の従業員にど の程度受容されているか,すなわち,それがどの程度従業員の期待に合致し, その期待を実現させ,かつ,満足させているかによって第一一・’as的には判断する こ. ニができよう。しかし,同時に,日本企業の労務管理がその意図に沿ってど * 本稿は日本労務学会第17回全国大会(昭和62年6月30日一31日)における統一論題 の報告原稿として作成されたものである。コメンテーターの飯田謙一氏をはじめ貴重 なコメントをいただいた方々に感謝する次第である。の程度有効に機能しているのか,その経営的有効性が検証されなければ片手落 ちになる。仮に,日本企業の労務管理に従業員が高い満足を示していても,満 足感が彼らを動機づけ,経営成果に貢献する方向で機能しているかは必ずしも 明らかではないとされるからである。 そこで,アジア8力国(地域)に進出した日本企業を対象とした調査結果に もとづき,日本企業の労務管理の変化の方向と,その受容性および経営的有効 性の検討を以下に則して試みることにする。 1.アジアに進出した日本企業の労務管理方式は,日本本社の方式とどのよ うに異なるのか。 2.進出地域の経営環境の差異を超えて,日本とアジア諸国で共通して強調 されている施策はあるのか。 3.共通して特に強調されている施策があるとすれば,それは,それぞれの 国のミドル・マネジャーにどの程度受容されているのか。 4.共通している施策は,ミドル・マネジャーを動機づける方向で機能して いるのか。
1 調査の概要
使用するデータは,(財)関西経済研究センターの支援により京都大学の市村 真一教授をオーガナイザーとして,占部都美(神戸大学),吉原久仁夫(京都 大学),吉原英樹(神戸大学),中野秀一郎(関西学院大学),今岡日出紀(三 重大学),伊藤正一(大阪府立大学)の各氏と共同で,アジア諸国に進出した 日本企業がどういう経営を行い,それにどういう問題があるかを探り当てる目 的で1981年から85年にかけて蒐集したものである。 この調査では,原則として各地の日本(人)商工会議所会員の製造業を対象 に,各地駐在の日本人トップ・マネジャーと現地人ミドル・マネジャー(職長, 1)例えば,Brayfield, A・H., and W. H. Crockett,(1955)“Employee Attitudes and Employee Performance,” Personnel Psycology. Vol. 52, pp. 396−424. マーチ=サイモン著 土屋守章訳『オーガニゼーションズ』 (昭和54年) ダイヤモ ンド社 4版。77−80頁をみよ。アジアにおける日本企業の労務経営 25 係長から日本の部長代理に相当する範囲) 表1 回答:者数 2) にアンケートとインタビューを行った。ミ ドルを対象とした理由は,アジアでは,ワ ーカーの組織に対する関与の意識が薄く調 査の成果が期待しにくいこと。そして,ワ ーカーの意識が希薄であるが故に,ミドル の役割が重要であると考えられるためであ る。 なお比較検討する必要上,アジアに進出 トップ ミドル 日 本 韓 国 台 湾 香 r as シンガポール フィリピン タ イ マレーシァ インドネシア r22 59 58 44 49 48 58 52 67 194 83 90 ・36 210 173 90 82 129 した日本企業の親会社の社長および人事・労務担当の部課肉置にそれぞれトッ プ・マネジャー向けおよびミドル・マネジャー向けのアンケート用紙を送付し 回答を得た。有効回答数は表1の通りである。処理方法としてはSPSSを使用 した。 ・ 皿 日本企業の平均像 主題にはいる前に,アジアに進出した日本企業の平均的な姿を概観しておか なければならない。 日1本企業の進出パターンとしては,輸出加工区へ1DO%出.資で進出している 企業もあるが,多くの場合は合弁企業の形をとっている。そして,表2に示す ようにそのうちかなりの企業が日本側のマイノリティ出資となっていることが 認められる。 その理由としては,第一に,外資導入に対する規制が全くない香港や規制が 比較的ゆるやかなシンガポールを除き,日本企業の多くが,すでに,アジア諸 2) トップ・マネジャー向けとミドル・マネジャー向けアンケートの内容は異なる。ミ ドル・マネジャー向けアンケートは,フィリピン,マレーシア,シンガポールのミド ルに対しては英語,タイ,インドネシア,韓国のミドルに対しては,それぞれタイ 語,インドネシア語,韓国語,台湾および香港のミドルに対しては中国語が使用され た。詳しくはSoutheast Asian Studies(March 1985)Vo1.22, No.4. Appendix pp.109−126を参照されたい。
表2 日本側出資比率別企業分布「 ・・%未副・・%以上 企業数計 韓 国 台 湾 香 港 シンガポール フィリピン タ イ マレーシァ インドネシア 38. 9 e/, 20. 0 5.1 8.9 71.7
7Z8
49.8 21. 2 61. 10/e 80. 0 94. 9 91. 1 28. 3 22. 2 51. 0 78. 8 54社 80 39 45 46 54 49 66 (注)不詳(韓国:5社,台湾=3社,香港:5社 シンガポール:4社,フィリピン=2社,タ イ14社,マレーシア:3社,インドネシア :1社)を除く が多く,そのため,いきおい華僑を中心とした既存の現地輸入エージェントを パートナーに起用したこと。第三に,アジアでは許認可などに時間がかかるこ とが多く,これをスムーズに運ぶため,政府.高官などいわゆる大物といわれる 人をパートナーとして起用し,その人脈を活用しようとするケース,などがあ げられる。 では,アジアに進出した日本企業の経営は日本側,現地パートナー側のいず れの主導によって行われているのであろうか。日本側が100%ないしは,マジ 国の外資導入規制強化後 の後発進出であるため, 合弁形式を取らざるを得 なかったという事情があ る。第二に,日本企業の 進出が,輸出の延長,す なわち,輸出補完ないし は,現地の幼稚産業保護 育成策への対応措置とし て,製造拠点を確立した いとする動機によること表3日本側役員構成
(o/o) 韓 国 台 湾 香 港 シンガポール フィリピン タ イ マレーシァ インドネシア 日本側出資比率50%未満常勤非常勤1合計
36.1 59.3 69. 2 80. 0 58. 4 67. 3 83. 7 47.3 60. 8 74. 6 72. 2 62. 5 46. 4 47. 8 50. 0 40. 6 47. 6 66. 1 71. 0 71. 0 53. 8 58. 3 69. 7 44. 3 日本側出資比率50%以上常釧非常釧合計
17. 2 54. 3 78. 0 58. 8 so. e 86. 4 86. 8 45.7 65. 2 67. 3 61. 5 57. 8 54. 5 52. 6 55. 8 29. 7 53. 4 64. 6 65. 2 58. 1 53. 2 62. 0 64. 7 35. 0アジアにおける日本企業の労務繹営 27 3)ヨリティ出資の場合は,韓国では若干の例外があるようだが,ほとんどの企業 では日本側の主導による経営が行われている。一方,日本側がマイノリティ出 資の場合でも,役員総数に肖める日本側役員の比率(表3参照)が示すように, 一般的なパターンとしては,実質的な経営は日本側の主導で行われているよう である。 その理由としては,第一に,日本企業が現地人パート.ナーに一定の融資を行 い,その資金でパートナーが株式を買う,い「わゆる貸株のケースが少なくない こと。第二に・華僑や大物といわれるパートナーには工業経営の経験が乏しい ことが多く,日々の経営は経営力や技術力の優れた日本側にまかせるケース。 第三に,原料,部品の供給や製品の輸出を日本に依存しているケース。第四 に,現地側パートナーが複数のため,現地側が単独ではマジョリティに達しな いケース,などがある。そして,これらのケースがいくつか組み合わされてい るのが一般的な姿であるようである。 実質的な経営が日本側主導で行われているとしても,合弁企業の場合はパー トナーとの間で経営政策上齪齢を来すことは避けられない。人事・労務政策に 関して日本企業のパートナーとの対立経験をみると,表4に示すように「深刻 な対立を経験したことが 表4 人事・労務政策に関してパートナーと ある」と回答した現地駐 対立した経験のある企業 (%) 在の日本人トップは極め て少ない。しかし,「若 干の対立を経験したこと がある」企業はかなり高 水準である。このこと は,日本側の主導による 経営が行われているとし ても,現地人パートナー
1深刻鰯即吟の対立園立なし
韓 国 台 湾 香 .港 シンガポール フィリピン タ イ マレーシァ インドネシア06000034
4741550032114223
6769557666885776
3)吉原英樹(1985年7月)「韓国における日系合弁企業の日本的経営と労使関係」, 『アジアにおける日系合弁企業の経営と労使関係』(財)関西経済研究センター。表5 労働紛争を経験したことの との摩擦を回避するため, ある企業 (%) 深刻な紛争 軽度の紛争 日 本 韓 国 台 遠 山 港 シンガポール フィリピン タ イ マレーシァ インドネシア 4.5 11. 8 5. 2 2. 3 0 8. 3 13. 8 13. 5 9. 0 16.2 40.6 27.6 4.5 24. 5 8,3 31. 0 19. 2 38. 8 るものも少なくない。そして,従業員との紛争は, ち上がり初期に多いということである。このことは, わりなく,日本企業が現地人従業員とのトラブルを避けるため,その経営スタ イルの修正を余儀なくされていることを示していると理解することができる。 では,人事・労務に関する日本企業の経営方式はどのように修正されている のであろうか。 EI本本社 の経営スタイルがある程度修正され ざるを得ないことを示唆している。 日本画が100%出資で進出した企 業には,パートナーとの問題はない。 しかし,従業員との紛争の危険から は解放されない。日本企業の紛争の 経験は表5に示す通りであるが,そ の主な原因として,賃金に関するも ののほかに,人間関係や昇進をめぐ どちらかといえば企業の立 日本側の出資比率にかか IV 日本的労務管理の特徴 以上を検:討する前に,一般に日本的経営ないしは日本的労務管理といわれる ものを,筆者がどのように理解しているかを簡単に述べておきたい。 他の資本系列の企業との比較を行っていないので,やや独断のそしりはまぬ がれないが,筆者は,日本企業の労務管理の根幹には,企業組織の成員を企業 目的に沿って最大限活用することによって,企業全体の成果を極大化しようと 4) する・一:一一貫した厳しい姿勢があると理解している。そして,この基本姿勢を企業 成員間の友好的とみえる関係の中に相互に牽制し合う熾烈な競争原理を内包さ 4)個入の業績と,組織あるいはその部門の業績とは必ずしも直接的には結びつくとは かぎらないとする研究報告があるが(例えば,西田耕三 昭和51年『ワーク・モチベ ーションの研究』白桃書房。第6章),日本企業の労務管理には,この両者を有効に 結びつけようとするところに主たる力点があるといえる。
アジアにおける日本企業の労務経営 29 せる形で具体化させようとするところに,日本企業の労務管理のユニークさが あると考えている。今日,一般に日本的経営ないしは日本的労務管理の特徴と されている雇用の安定,そして,社内昇進,年功制,情報の共有といった諸施 策,諸慣行は,実はこのような基本姿勢を巧みにある種のオブラートにつつみ ながら具体化するための手段的枠組みとして,試行錯誤の結果ノウハウ化され たものであり,それは,また,すぐれて環境適応的ないしは状況即応的性格を ヨ 持つと理解するのである。すなわち,個人の成果の維持・向上に貢献すると判 断される施策は,個人の行動目的との摩擦を極力回避する形で積極的に採用さ れ,あるいは継続して実施される一方,コスト面からみて,もはや合理性が期 待できないと判断される施策は,個入の意欲を一挙に阻害しない範囲で絶えず 徐々に修正されるのである。近年の年功制の見直しはその好例といえる。 このような手段的枠組みは,温情主義や経営家族主義と呼ばれる日本の文化 的・社会的価値を当初から前提として自然発生的1と形成されたものとはいい難 い。日本企業の労務管理には,温情的あるいは家族的性格があることは否定で のきないが,これは,従業員の心理ないしは幻想を巧みに操作することによって 彼らの技能と知恵を可能な限り有効に活用するためのコストとしての性格が極 き めて強いことを看過してはならない。日本企業は,明治以降激しく変化する極 めて競争的な経営環境に対応する過程で,日本人の価値観を労務管理システム に反映させることが,従業員の成果を高める上で効果的であることを学んだと いえるのである。今日,日本的といわれる労務管理の枠組みは,このような組 織過程を経て構築されたものであると考えることが妥当であろう。 1 5)日本企業の労務管理が環境適応的であるという点は,しばしば指摘されているとこ ろである。例えば,占部都美 (昭和59年)『日本経営は進化する』中央経済社。ま た,最近の動向を洞察した業績として,奥林康司 (昭和60年)「年功的労務管理体系 の崩壊と新しい労務管理パラダイム」『労務研究』第38巻第8号が示唆に富む。 6)例えば,大河内一男解説 (昭和41年)『職工事情』(生活古典叢書第4巻)光生館 をみよ。 7)間宏 (昭和38年)『日本的経営の系譜』日本能率協会。 8) Taira, K., (1970) Economic DeveloPment and Labor Market in fapan. New York : Columbia University Press p。119をみよ。
このように理解すれば,日本企業の労務管理の手段的枠組みは,時間的な環 境変化への対応にとどまらず,空間的な環境変化,すなわち,日本企業が外国 という異質な環境へ出て行ったときも,それぞれの環境に柔軟に対応すること が予想される。 このような認識にもとづき,日本的労務管理のアジアにおける変化の方向を 考察することとする。 V 労務管理の枠組みとその意図 経営の基本方針としては,表6に示されているように全ての国で,4分の3 以上の日本企業が現地順応策を採用していることが注目される。しかし同時に, 香港を除き,日本本社の経営理念や経営目的もかなり強調されていることが観 察される。 では,一般に日本で重視されている労務管理方式はアジアに進出した日本企 業においてどの程度採用されているのであろうか。表6によると日本で重視さ れている労務管理の枠組みは,空間的な環境変化に対応して若干の修正が認め られる。しかし,総体としてみると,各国間に顕著な差は認められない。表か ら観察される主要な特徴は以下の通りである。 表6 経営の基本方針と重視している労務管理策 (o/o) 日 本 韓 国 台 湾 香 港 シンガポール フィリピン タ イ マレーシア インドネシ.ア 現地順 応政策
5827597687877888
功進
年昇
功金
年賃
用定
雇安
御目強 営・の 経念的調003762402778357566
681510419868785677
815583864464443446
324488958353232234
霧1
771146824567674456
720088192332242122
ジョブ ● 隅一 テーーシ ョン279069533533242233
力経 弾的営898225137433353223
集団的 意思決 定342243707443244243
団任
集責
稟議353003075864223212
062587957
19ρ9臼11
19自アジアにおける日本企業の労務経営 31 第一に,アジアの多くの国では,人間関係が日本以上に重視されていること である。その主な理由として,アジアには民族構成が多様な国が多く,また, 複雑な対日国民感情が少なからずある国がかなりある。さらに,企業内に血縁 ・地縁集団が形成される傾向も認められる。そのため,効率的に経営を行う上 で,円滑な人間関係が極めて重要であるという認識が日本人トップの間に強い こと。そして,アジア諸国の従業員は,・日本の従業員に比べ,企業帰属意識が 希薄であるとされるため,なんとか入間関係の向上を通じて彼らの企業帰属意 識を強化させたいとする姿勢が日本人トップに強いことが挙げられる。 第二に,韓国と台湾を除き稟議制を重視している企業が日本と比較して極端 に少ないことが指摘される。稟議制が効果を上げるには,従業員の教育水準, 技能水準,問題意識などにバラツキが少ないことが前提となる。稟議制を重視 しない日本企業が多いごとは,このような前提が満たされていないことによる と考えられる。 第三に,各国において最も強調されている施策は雇用の安定であり,日本企 業の労務管理の枠組みは,雇用の安定を軸に組み立てられているといえること である。 雇用の安定を重視する態度が空聞を超えて大きく異ならない理由は何か。そ れは,日本人トップが雇用の安定に少なくとも次の三つの効果を期待している ためと考えられる。 第一に,雇用の安定は採用や訓練費用の節減に加えて小池和男氏やBecker などが指摘しているように,企業内に熟練と知識が形成されることである。中 間技術を使用することの多いアジアの日本企業では,企業の必要とする技能や 日常業務の知識は,反復し経験を積むことにより習得される性格が強い。その ため,雇用の安定は従業員に対する教育訓練投資の収穫率を高める上で極めて 重要な前提であると考えられるのである。 第二に,El本での経験から,雇用の安定によってもたらされる拡大機能とで 9)小池和男(昭和56年)『日本の熟練』有斐閣。Becker, G.,(1964)Human Capital. New York:Columbia University Press. chapter II.
もいうべきメカニズムに対する期待がある。従業員が企業目的に沿った技能を 習得し,企業を中心とした人間関係を形成するにつれて,彼らは自分の持つ技 能や知識が他社では即応的適応性を持たないのではないか,すなわち,彼らの 労働力が汎用的価値を失ってしまったのではないかという意識を持つようにな る。その結果,雇用の安定は希求され,彼らは企業目的に沿った行動をするこ とによって,現在の企業内で彼らの経済的効用を極大化しようとする志向を強 めて行く。その結果,彼らの技能や知識の汎用性はさらに失われるという循環 をえがくことになる。一方,経営側は,このようなメカニズムと従業員の心理 過程を利用することによって,雇用の安定を従業員の企業への貢献を引きだす 大きな誘因として機能させることができる。具体的には,経営者は一企業内で 経済的効用を極大化しようとする従業員の志向を,企業への貢献度により,昇 進,昇給の可能性が誰にでも開かれているのだという意識(それは単なる幻想 に終わることが多いのだが)に巧みにおきかえることによって,従業員間の人 間関係を友好的な状態に保つと共に,限られた上位のポストを激しく争わせる という,ある意味では二律背反的な課題を同時に達成しようとするのである。 筆者は,日本企業の労務管理の最大の特徴は,このような友好的でかつ熾烈な 競争状態を通じて経営成果を高めることを可能とする集団力学を働かせるメカ ニズムを巧みに作り出すことによって,前述の労務管理の基本姿勢を具体化す ることに成功してきたところにあると理解しているのであるが,日本企業は同 様のメカニズムをアジアにおいても期待しているところが少なくないと考えら れる。 第三に,雇用の安定は,進出企業内での人間関係の連続性を保つ上で必要で あるということである。我々の調査では,アジアの日本企業は資本の調達や技 術に加え,部品の供給や製品の販売などにおいても日本本社への依存性が高い ことが示されている。このことは,一般にアジアの日本企業の経営にとって, 本社との連繋が極めて重要であることを意味している。しかし,アジアの多く の国では,管理能力にすぐれ,かつ,本社との意思疎通を円滑に保ちうるミド ルの数はいまだ極めて限られているといわれる。従って,経営の維持,発展に
アジアにおける日本企業の労務経営 33
表7雇用安定のための具体策 (%)
日 本 割 国 台 湾 香 港 シンガポール フィリピン タ イ マレーシァ インドネシア 継続的 教育訓 練040935494666256346
社 内労使年功 昇進制融和昇給315180156976677687
805578554666565556
946070779464643556
高能率 高賃金797607985212233222
永年勤 続表彰546497711876263555
持ち家退職年 制 度金制度441227315
β01 112
044666305
8242 2432
厚充 利の 複生実801772670
655134446
小集団 活 動054298035654142222
ジョブ 。ロー テーシ ョン865196232422232122
は,現在のところ日本人出向者の駐在が不可欠であるとされる。ところが,ア ジアでは日本人はほとんどの企業で5年内外の短期交代制により派遣されてい る。そのため,現地日本企業の業務の流れに精通し,日本人と現地人ワーカー の連結ピン的役割を果たせる現地人ミドルを雇用の安定を通じて養成すること が必要となるのである。 では,雇用の安定を達成し,以上三つの効果を具体化するために,アジアに 進出した日本企業はどのような施策を重視しているのであろうか。表7は, 「雇用の安定のため,貴社では,どのような対策を講じておられますか」とい う質問に対する回答を示したものである。 表によれば,国により若干異なるが,雇用の安定は主として四つの柱によっ て支えられていることが認められる。 その第一は,継続的に教育訓練を行うことによって,企業の必要とする技能 を社内に蓄積することである。そして,第二に,社内昇進制により蓄積された 技能を有効に活用しようとすること。さらに,第三に,労使の人的融和をはか り,職場における居住性を高めること。第四に,短期的な能率評価により従業 10)他に,アジアにおいては,習得した技能を自分の資産と考え同僚や部下に移転した がらない傾向が強いといわれる。従って,技術移転を円滑に行うためにも日本人駐在 員は不可欠といえる。員を待遇するよりも,かなり年功要素を加味した昇給制や永年勤続表彰制度を 通じて,長期的に従業員を処遇することである。このようにして,日本企業は, 徐々に企業の行動目的をあたかも個人の行動目的と矛盾しないと思わせるよう な形で同心円の中に包み込んで行こうとするのである。このような志向は日本 の場合とあまり変わらないといえる。 しかし,資金の長期固定化を要する持ち家制度や,給与の後払い的性格のあ る退職年金制により,長期勤続者を優遇する方策は,さほど重視されていな い。この点は日本に比べ大幅に修正されている。それは,経営家族主義的色彩 の濃いこれらの施策が,従業員とのトラブルの原因となりうること。さらに, ll) 非常危険や事業危険がかなり高いアジア諸国においては,経営をやや短期的に デザインせざるを得ないため,これらの施策が雇用の安定にプラスに働くとし ても,経営全体からみて資金の効率性に疑問があると考えられているためであ る。 しかし,従業員個人が占有権を主張することがまずない福利厚生施設につい ては,土地が豪富で地価の高い香港とシンガポールを除き,経済発展水準の低 いインドネシア,フィリピンやタイ,そして儒教思想の残る韓国や台湾では雇 用安定の手段としてかなり利用されていることは注目される。 日本と異なる今一つの側面は,雇用安定の手段としてはジョブ・ローテーシ ョンや小集団活動が,あまり重視されていないことである。ジョブ・ローテー ションがさほど重視されていない理由は,有能な現地人の間に専門化志向が強 いこと。一方,ジョブ・ローテーションを受け入れる人は,市場性をなくし た高齢者か社会的上昇意欲の乏しい人に多く,ジョブ・ローテーションに伴う 教育訓練投資に対応した成果の向上が期待できないと考えられているためであ る。 小集団活動が雇用の安定に沿わない理由としては,(1)現地人従業員間に生 活空間の共有感(例えば,皆同じ程度に会社の利害を共有しているといった意 11)実態については,通産省編『我が国企業の海外活動』各年度版。証券取得件数に対 する処分件数(一部譲渡を含む)の比率をみよ。
アジアにおける日本企業の労務経営 35 識)を醸成することが容易ではなく,かつ,かなりの時間を要すること。②従 業員間に教育水準や熟練のバラツキが大きく,グループ活動が経済効率になか なか結びつきにくいこと。(3)アジアのミドルには職務権限規程を必要とする意 識が強く(香港,韓国,台湾で90%以上,インドネシア,タイ,フィリピンで 85%以上,シンガポール73%,マレーシア63%,日本43%)自分の職務以外の ことはやりたがらないし,他人が自分の職務について議論することを「屈辱的 行為」と受けとる傾向があることなどが挙げられる。 W 雇用安定策の受容性と経営的有効性 アジアに進出した日本企業で採用されている労務管理は,日本本社の労務管 理の基本姿勢を現地に適合的な形で移植しようとする傾向が強く,それは,雇 用の安定を軸としていることが分かった。このような労務管理方式には国際的 妥当性があるのだろうか。それは,日本企業が最も重視している雇用の安定策 が,どの程度受容され,それにどの程度の経営的有効性が認められるかによっ て相当程度判断することができよう。 そこで,雇用の安定に対するミドルの期待が大きく,かつ,それが充足され ているほど,その受容性は大きいと理解して,まず,雇用の安定策の受容性を 検討してみよう。雇用の安定に対するミドルの期待の大きさは,当該企業への 入社理由に示された雇用の安定に対する重視の態度に反映されていると理解す れば,表8にみるように,アジアのミドルの雇用安定に対する期待はかなり大 きいといえる。すなわち,香港とアセアン諸国においては,雇用の安定は,技 術習得機会,および昇進の可能性ないしは目先のより高い地位に次いで重:視さ れている。韓国においては,よりよい労働条件と技術習得機会に次いで,そし て,台湾では,技術,労働条件,そして企業名声に次いで,雇用の安定が重視 されていることが認められる。 では,アジアのミドルは,非日系企業にたいしても雇用の安定を同じ程度に 期待しているのであろうか。これを直接比較する資料はない。しかし,これを 類推しておくことは,日本企業の雇用安定策の受容性を判断する上で今一つの
表8 入 社 理 由 (単位:%,丸印内の数字は優先順位)
1技術昇進旧劇名声条件陣位給与
日 本 韓 国 論 取 肴 港 シンガポール フィリピン タ イ マレーシァ インドネシア a④ 2 ヨ α② 3 a① 5 a① 5 ら りa①軌②a①
FD ρQ じ0 L② 5 乳② 3 ごり ハリ な りり 乳⑤臥④臥⑥a⑥ − りρ ーユ リ0 L② 5 5① 6 4② 4 4① 5 軌① 4 &② 3 ス⑧ 2 コ り a④8・③乳③ り0 00 り0 L④4。② QU 4 3。B
4 a④ 2 ユ ユ り コ 軌①7・⑤工③a④軌④0。⑤4④乳④&⑤515323331
245322222
乳③住①4②6・④3⑤2・⑦L⑦5,⑤軌③ ロリ ムリ ユ ら ユ リむ ユ 7・⑦6・⑦ りL⑤4②
2 4 翫⑥ 1 り 2・③a⑥ り0 2 a⑥ 2 3・F
1 りね りゐ む よ ド&⑥q⋮⑥4⑦a⑦3⑦a⑥生⑤乳⑦a⑥
︷⊥ 2 1← 9層目 2 1 1 (注)技術:よりよい技術習得機会 条件:よりよい労働条件 昇進=高い昇進の可能性 地位:より高い地位又は職位 雇用:雇用の安定 給与:より高い給与 名声:会社の評判 手がかりとなる。そこで,過去に他社で就労した経験のあるミドルの直前企業 からの退社理由と当該企業への入社理由の対応関係からこれを類推することと する。図1から分かるように,主たる退社理由は,昇進の可能性や技術習得機 会が少ないことであるが,これらは,また,主要な入社理由ともなっている。 しかし,雇用が不安定であることを不満として直前企業を退社した人は少ない にも拘らず,日本企業への入社理由としては,雇用の安定はかなり重視されて いる。ある任意の欲求に対する満足度が奪われるほど,その欲求の強度ないし は重要度は支配的となるという剥離・支配の命題は,低次欲求については殆ど 12) 支持されていないというWahba=Bridwellの報告をふまえれば,この乖離は 12) Wahba, M. A., and L. G. Bridwell, (1976) “Maslow Reconsidered:A Review of Research on the Needs Hierarchy Theory,” Organigational Behavior and Human Performance. Vol. 15, pp.224−227.%7。6。5。如3。2。n・%5。如3。2・鱒・
図1 昇進 一・一・一 ゙社理由一入社理由
s. t 嶋争.ノ アジアにおける日本企業の労務経営 37 中途入社者の前職退社理由と当該企業への入社理由 /\、 ノA、 ’ 、 ノ ノ ,ノノ 、、》’ !/ ’%706050403020100%50403020100
技術 ’Xvt ’ 、一一、、 / ! 、隔。鞠’ t 雇用 ,へ、 !一一一軸_ノ \ t ,’一へ、 1 − ’v ’日韓台香シフタマイ
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ル ア どのように説明することができるのであろうか。表9に示すように,アジアの 日本企業で働くミドルの多くは,過去に就労経験を持っているが,そのほとん どは非日系企業からの転職者である。この事実を考慮すれば,この乖離は,ア ジアのミドルの間に,「日本企業は雇用を保証する」というイメージが形成され, それが期待となって現れていることを示唆していると理解することができよう。 では,日本企業に対するミドルの雇用安定への期待は,現実にどの程度充足 されているのであろうか。充足度を示す指標としては勤続年数が考えられる。 しかし,日本企業の操業年数には長短があるため,ミドルの勤続年数にも企業 間で差異が認められる。そのため,日本企業を操業年数により,例えば,5年 以下,5年から10年というように分類し,それぞれのグルーフ0における勤続年 数を調べることによって,雇用の安定に対する期待の充足程度を判断すること表9 企業定着性向と転職に対する意識と行動 日 本 学 国 台 湾 香 港 シンガポール フィリピン タ イ マレーシァ インドネシア 業鰍数
操年
n. a. 11.8 13.4 12. 5 8.3 6.6 13.5 11. 8 9.0 勤続年数(1} ミドル n. a. 8. 7 10. 8 9. 5 4. 9 4.9 10. 5 7. 1 g. 2 全従業 員(3) 12. 4 5.0 5.2 5. 2 2. 5 4. 0 6. 9 4. 1 4. 8 企業定着性 向{2) ミドル n. a. O. 74 0. 81 0. 76 0. 59 0. 74 0. 78 0.60 0. 91 全従 業員 n. a. O. 42 0. 39 0. 42 0. 30 0. 61 0. 51 0. 35 0. 53 転職に対す る態度 当 然は化 当又正 52. 7 26. 8 80. 5 70. 6 50. 0 52. 2 20. 5 48. 8 55. 1 良く ない 6.3 9. 8 5.1 5. 9 19. 4 5.7 67. 5 12. 2 17. 8 前職経験者輸
18. 8 71. 6 83. 3 87. 9 75. 0 88. 2 59. 6 78. 5 74. 4 転職 回数 1.5 1.8 2. 3 2. 6 2. 2 2. 6 2. 1 2. 3 2. 3 企他本 ︶ 前が日晒% 直業の企︵ 15. 5 15. 0 21.9 22. 2 10. 0 28. 3 8.1 18. 3 (注) (1)調査時点平均値 ②企業定着性向=勤続年数÷操業年数 (3)日本人トップの回答,他はすべてミドルの回答 が必要となる。このようにして一部の国について計測した結果は,大雑把にミ ドルの平均勤続年数に対する日本企業の平均操業年数の比に示される数値と近 似していることが分かった。従って,ここでは,大雑把な計測による数値を平均 企業定着性向と呼ぶこととし,これが高ければ,ミドルの雇用の安定に対する 充足度は高いと理解することにする。以上を前提とすれば,表9に示すように, ミドルの多くが転職は当然である,ないしは生活のためには正当化されるとい う意識を持っているにもかかわちず,ミドルの平均企業定着性向はかなり高く, 雇用の安定に対するミドルの期待は,かなりの程度充足されているといえる。 以上から,日本企業の雇用安定重視策に対するアジアのミドルの受容性はか なり大きいと判断することができる。そして,その受容性の大きさから,先に 述べた日本人トップが雇用の安定に期待する三つの効果を実現するための条件 は満たされているということができよう。 しかし,受容性の大きさからは,雇用の安定策が,経営の意図に沿って有効 に機能しているか否か,その経営的有効性は明らかではない。これを判断する には,雇用の安定に積極的な満足を示している人がどの程度いるのか。そして,アジアにおける日本企業の労務経営 39 表10各欲求項目に対する満足水準 (%) 日 本 訴 国 台 湾 香 港 シンガポール フィリピン タ イ マレーシァ インドネシァ 雇用の 安 定
272397803335872707
432 22241
技術習 得機会 n. a. 31. 7 57. 1 42. 9 45, 4 66. 5 . 23. 9 53. 8 40. 3 昇進の 可能性 6. 4 20. 7 37. 9 27. 8 39.3 43. 5 32. 6 44. 3 50. 8給与
3.6 11.0 23. 9 19. 4 19. 8 20. 6 12. 5 12. 5 24. 4 上司と の関係 18. 8 30. 5 42. 4 50. 0 63. 1 74. 4 31. 5 66. 2 67. 4 同僚と の関係 21. 4 36. 6 33. 3 41. 7 63. 1 67, 5 41. 6 62. 5 85. 9 企業へ の誇り 69. 1 41. 0 30. 8 27. 8 68. 6 82. 0 82. 0 75. 0 61. 3 (注)雇用の安定については「解雇がない」ことに満足している人の割合 その他に付いては,それぞれ「大いに満足」している人の割合 その入達は,企業の経営成果への貢献態度も積極的であるのか,すなわち,満 足と成果の関係を検討しなければならない。 まず,雇用の安定に満足している人がどの程度いるかを見てみよう。表10は ミドルの持ついろいろな欲求が日本企業において満足されている程度を示した ものである。ここに示された数値は,雇用の安定については,当企業の経営の 満足すべき特徴として「解雇がないこと」と回答した人の割合を,他の欲求に ついては,それぞれ「大いに満足している」と回答した人の割合をあらわして いる。これによると,雇用の安定に対する満足水準は,入社理由に示された雇 用の安定に対する期待の大きさ(表8参照)にほぼ対応していることが分かる。 しかし,日本と韓国以外の国では,雇用の安定に満足している人の割合は入 社理由で雇用の安定を期待している入の割合よりも少ない。特に,香港のミド ルにはこれが顕著に認められる。確かに,香港では比較的簡単に解雇をするこ 13) とが可能であるし,他の国でも労働規律を守らない場合や,激しい労働運動あ るいは景気後退などで解雇のやむなきに至ることがあるようである。しかし, 13) England, J. and J. Rear, (1981) lndustrial Relations and Law in Hong Kong. Hong K:ong=Oxford University Press p.40.およびTomita, T.,(1985)‘‘Japanese Management in Heng Kong”, Southeast Asian Studies. Vol. 22, No. 4. p. 62.日本人トップとのインタビューによれば,日本企業では非日系企業と比べ解雇 は少なく,雇用は安定しているということであった。であるとすれば,現地人 ミドルの間には,雇用の安定を望む反面,ひとたび雇用の安定が確保されてい ると意識するに至ると,それを既得権と考え,次第に雇用の安定を評価しなく なる傾向があるのかもしれない。 それでは,雇用の安定に積極的に満足している人は,経営成果に積極的に貢 献しようとする意欲を持っているのであろうか。企業に対するコミットメント 感の強さ,および,職務責任感の強さを,個人の意識レベルでの経営成果を示 め す指標と考え,雇用の安定に対する満足感とこれらの指標の関係を調べてみた。 その結果,図2に示すように,雇用の安定を積極的には評価していない入の方 が,それを積極的に評価している人よりも,企業へのコミットメント感と職務 責任感を強く持っている割合が概して高いことが分かった。このことから推論 されることは,雇用の安定が保証されているという意識が強くなれば,雇用の 安定に対する期待メカニズムが働かなくなり,積極的に組織に貢献しようとす る意欲が減退するのではないか,ということである。すなわち,雇用の安定に 対する満足感は企業成果には直接結び付く要因とはなりにくいのではないか, ということである。このような推論が正しければ,日本人トップが雇用の安定 に期待する効果のうち,少なくとも,雇用の安定を通じて従業員の汎用性を低 下させ,彼らの心理の操作性を高めることによって,従業員間の良好な人間関 係を保ちながら厳しい競争原理を働かせるという効果は期待できないと考えら れる。 それでは,雇用の安定に満足している人は,雇用の安定を促進するための柱 として採用されている継続的教育訓練,社内昇進制,年功を加味した昇給制, 労使人的融和策にどの程度満足しているのであろうか。満足の程度は,これら の施策にそれぞれ対応するミドルの欲求,すなわち,昇進,技術習得,より高 14)Sheldon, M. E.,(1971)“lnvestments and Involvements as Mechanisms Produc− ing Comrnitment to the Organization”Administrative Science Quαrtcrly, VoL 16. pp。143−151. Grusky,0.,(1965∼66)“Career Mobility and Organizational Commitment”Administrative Science Quarterly, VoL 10. pp.488−503.
アジアにおける日本企業の労務経営 41 図2 雇用の安定に対する満足感と成果指標との関係 企業へのコミットメント感大いにあり 職務責任感大いにあり 一雇用の安定に積極的に満足している 一・一一一 ル用の安定に積極的には満足していない 0 0 0 ∩V O O O O ∩V %
87654321
t A”一 “t IX
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. !b、、 /へ ’ ト、、 、 インドネシア マレーシアタイ
フィリピン シンガポール香港
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t ’ ’ ’ /t t’ r 誠日韓台香シフタマイ
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】 ン ア ン ル ア い給与,よりよい人間関係に対する満足水準に示されると理解して,これを検 討してみよう。表11は,雇用の安定に満足している人と満足していない人のう ち,それぞれ,これらの欲求に大いに満足している人の割合を示したものであ る。表によると,どの欲求に対しても「大いに満足している」と回答している 入の割合は,概して,雇用の安定に積極的には満足していない人に多い。ζの ことから推論されることは,雇用の安定に対する満足感は,他の欲求を満足さ せようとする動機付けとしてもそれほど作用しないのではないかということで ある。そして,雇用の安定に満足している入の中には,他の欲求がさほど満足 されなくても,雇用の安定を良いことに,ぬるま湯的な勤務態度で,ただ企業 に留まっている入や,よりよい代替的就労機会を探すことに関心を向けている 人,あるいは,自分の職務に付随する利権を利用することに熱心な入が,かな 15)組織成員の代替的就労機会探索行為のパターンについては,マーチ=サイモン著前 掲書78−79頁をみよ。表11雇用の安定に満足している人としていない入との雇用の安定 のための具体策の結果に対する周辺度数 (%) 具体策の 対応欲求 雇用安定 に満足 日 三 韓 国 台 甲 香 港 シンガポール フィリピン タ イ マレーシァ インドネシア
昇進の
可能性
・S’ 61Ltu, 9. 9 18. 5 60. O o. 0 47. 3 62. 2 57. 1 62. 5 44. 4 3. 8 31. 5 71. 0 40. 6 55. 0 68. 0 62. 3 58. 2 50. 5技術習
得機会
するしない n. a. 14. 8 5.7 0. 0 19. 6 10. 8 8.0 21.9 9.1 n, a. 10. 9 21.7 12. 9 20. 4 23. 7 6. 6 20. 4 20. 0 給 与 するしない 3.6 51. 9 31.4 33. 3 51. 8 56. 4 28. 0 46. 9 63. 6 3. 7 40. 0 38.3 43. 8 55. 0 69.9 45. 3 65. 3 63. 6上司と
の関係
・・ト・・779050010702029631
244 65358
16. 5 34. 5 30. 9 45. 5 63. 3 70. 0 43. 8 68. 8 86. 9 同僚との関係
するしない 20. 5 14. 8 32. 4 0. 0 33. 3 42. 1 32. 0 32. 3 50. 0 22. 0 23. 6 39. 6 30. 3 41. 5 43. 8 32. 8 52. 1 50.9経営参
加意識
するしない 36. 1 22. 2 31. 4 0. 0 26. 3 61. 5 44. 0 53. 1 7L 4 45. 5 27. 3 38.6 33. 3 44. 1 79. 7 61.3 67. 3 69. 9 (注)数値は回答者中「大いに満足」または「大いにある」と回答した人の割合を 示す。例えば,韓国では雇用の安定を評価している入の18.5%,評価してい ない人の31.5%が昇進の可能性にそれぞれ「大いに満足している」と回答し ていることを示す。 り多いのではないかと考えられる。そのため,おそらく,表11にみられるよう に,雇用の安定を評価している人の中には,経営への参加意識を強く持ってい る人も相対的に少ないのではなかろうか。 W 当面の結論と課題 雇用の安定に満足している人は,企業成果に積極的に貢献しようとする意欲 が相対的に低いばかりでなく,雇用安定の促進策,すなわち,継続的教育訓練 策,社内昇進制,年功を加味した昇給制,そして労使人的融和策から得られる 満足も相対的に小さいことが分かった。このことは,雇用の安定が満足されれ ば,雇用の安定の「報酬としての主観価値」は低下し,雇i用安定策の手段性が 失われるのみか,逆機能が働く可能性さえあることを示唆している。もしそう であれば,アジアにおいては,雇用の安定に対する組織目的と個人目的の適合 性は,ミドルが雇用の安定に満足するにつれて失われる傾向があるともいえな くはない。このような理解を前提とすれば,雇用の安定を中心とした労務管理アジアにおける日本企業の労務経営 43 方式は,その受容性については国際的妥当性がかなり高いと評価できるが,そ の経営的有効性の国際的妥当性には若干の疑問があるといわざるを得ない。 さらに,本稿では直接分析の対象とはしなかったが,日本においても,雇用 の安定は受容性こそ高いが,その経営的有効性は疑わしい。日本において雇用 安定策が近い過去に有効に機能していたとすれば,それは,(1)持続的な高度経 済成長があったこと,②日本の労働市場には待遇面で転職を不利にする企業横 断的なフレーム・ワークが形成されていたこと,そして,(3>代替的職業選択機 会に対する情報ネット・ワークが十分発達していなかったこと,といった外的 環境要因に支えられてきたところが少なくないといえよう。であるとすれば, 外的環境要因の異なるアジアにおいて,雇用の安定に経営的有効性を求めるこ とは,もともと無理があるのかも知れない。アジアにおいて雇用の安定が重視 されているのは,過去の経験から日本人経営者が,それになお過大な期待を寄 せており,各国の経営環境に対する認識にやや甘さがあるためかも知れない。 もしそうであるとすれば,日本企業の労務管理方式の変化の方向は必ずしも正 鵠を得たものとはいい難く,さらにそれぞれの環境に適応的な方式を模索する 余地は十分あると考えられる。 日本人トップがアジアにおいて日本的労務管理の基本姿勢を具体化しようと するのであれば,雇用の安定を総花的に安易にコミットするのではなく,雇用 にある種の緊張感を与えることが必要なのではなかろうか。そのためには,雇 用の安定を促進するための具体策として採用されている施策が,どのように経 営成果に反映されているかを,きめ細かく検討することが必要であろう。そし て,ミドルの期待が大きく,かつ,成果に強く反映する施策があれば,その施 策から得られるミドルの主観的報酬価値を低下させないような形にその施策を 修正し,運用することによって.,結果として,雇用の安定が維持されるという メカニズムを作り上げることが肝要と考える。 以上が当面の結論である。この結論はどの程度支持されるであろうか。その 16)労働省編(昭和56年)『賃金・労働時間制度総合調査…報告』および,『退職金・支給 実態調査報告』。
表12 相 関 係 数
12−1雇用の安定
leイ撫∠駕レ引・・彩賭圏台湾陣国t・本
企業へのコミ ットメント感 職務責任感 企業に対する 誇り 技術習得機会 給 与 上司との関係 同僚との関係 昇進の可能性 一〇. 168 一〇. 104 一〇. 007 一 O. 007 0. 025 −O. 041 一 O. 212 −O. 095 O. 026 一e. 013 O. 017 一〇. 128 −O. 182 −O. 120 0. 034 −O.097 一〇. 030 一〇. 171 一〇. 099 O. 021 0. 079 −O. 153 −O. 222 −O. 219 一〇. 032 一〇. 143 一〇. 153 一〇. 120 −O. 087 0. 023 −O. 099 −O. 017 O. 045 一〇. 096 O. 046 一〇. 098 −O. 125 0. 019 −O. 063 −O. 068 一〇. 127 一〇. OIO 一〇. 257 一〇. 149 −O. 134 −O. 056 −O. 410 −O. 285 一〇. 081 一〇. 070 一〇. 078 一〇. 147 0. 029 −O. 005 0. 121 −O. 062 O. 084 O. 074 O. 078 O. 175 0. 142 0. 176 0. 074 −O. 045 一〇. 091 O. 045 一〇. 140 n. a. O. 005 0. 066 −O. 051 0. 173 12一 2 企業へのコミットメント感毯イ撫∠駕レ引タ・彩到香港1台湾段畑・本
職務責任感 企業に対する 誇り 技術習得機会 給 与 上司との関係 同僚との関係 昇進の可能性 O.351 O. 385 O.313 0. 282 0, 451 0. 163 0. 436 O.324 O. 459 O. 259 0.186 0.153 0. 214 0. 285 O.017L O.1941 O.185 O.360 一〇. 008 0. 119 0. 105 0. 160 −O. 073 O. 2971 O. 374 O.027i O.176 0. 0291 O. 169 0. 028] O. 145 0. 0991 O. 070 0. 1221 O. 260 O. 359 O. 487 O. 541 0.176 0. 407 0. 170 0. 219 O. 3051 O. 224 O.4371 O.420 O. 415 0. 285 0. 275 0. 109 0. 440 O. 080 0. 210 0. 424 0. 393 0. 225 O. 314 O. 494 n. a. O. 311 0. 244 0. 180 0. 20612−3職務責任感
フィリ シンガ ピ ン ポール マレー タシ ア嘱釧香港i台崩卸本
企業に対する 誇り 技術習得機会 給 与 上司との関係 同僚との関係 昇進の可能性 O. 449 O. 180 0. 292 0,487 0, 349 0.551 O.4281 O.1361 O.328 O.3191 O.094 0.3881 O.159 0.511i O.457 0. 3801 O. 194 0.4981 O.475 O. 344 0. 367 0. 378 0. 609 0. 469 O. 391 O. 339 0. 431 0. 566 0, 289 0. 578 O,4411 O.304 O. 420 0. 413 0.590 0. 290 0. 508 O. 300 0. 465 0. 568 0. 294 0. 535 O. 5681 O. 208 O. 2861 n. a. O. 2921 O. 311 0.481i O.429 0.3031 O.410 0.5261 O.399アジアにおける日本企業の労務経営 45 12一 4 企業に対する誇り