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イングランド裁判所のブラッセル条約への対応

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(1)

47一一『奈良法学会雑誌』第10巻3・4号 (1998年3月) 〈 論 説 〉

イングランド裁判所のブラッセル条約へ

1 問題の所在 はじめに イングランドのコモン・ロ l 上の規則とブラッセル条約の統一的規則 イングランド裁判所の直面する問題 手続的側面 イングランド裁判所判例の経緯 ( 1 ) 対物訴訟とブラッセル条約 ( 2 ) 訴訟係属時 ヨーロッパ司法裁判所タトリ l 号判決 ( 1 ) 対物訴訟における訴訟原因及ぴ当事者の同一 ( 2 ) 当事者の一部が同一の場合 ( 3 ) 原・被告逆転型の場合 ( 4 ) タトリ l 号判決の示すもの 2 1 2

の対応

(2)

第10巻3・4号一一一48 タ ト リ l 号判決の影響 ( 1 ) インディアン・グレイス号判決 ( 2 ) イングランド国内法における対物訴訟の性質の変更 子続的側面における調和の道 正義実現のための裁量 訴訟中止と外国訴訟差止 第二一条適用の回避 ハ ロ ッ ズ 判 決 に 一 不 さ れ た 分 類 ( 1 ) 締約国間での管轄の争いと非締約国との管轄の争い ( 2 ) 被告のドミサイルの場所 ( 3 ) サリオ判決 お わ り に 3 4 四 1 2 3 五

はじめに

ヨーロッパにおいて、民事訴訟の手続面に関し、新しい統一的ル

l

ルが形成されつつある。そのうち国際裁判管轄 ( 1 ) 規則及び判決の執行に関しては、一九六八年の﹁民事及ぴ商事に関する裁判管轄権及び判決の執行に関する

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C

条 約 ﹂ 一九七八 (以下ブラッセル条約)によって一万された統一的規則が、中心的役割りを担っている。つまり、同条約は、 ( 2 ) 年の連合王国、デンマーク、アイルランドの加盟に際する改正、および、一九八九年の、スペイン、ポルトガルの加 ( 3 ) 盟に際する改正(サン・セパスチャン条約)においても、その基本的規則は全て維持されているばかりでなく、さら に

EFTA

の国々 オーストリア、 ノルウェイ スウェーデン、 スイス)による一九 フィンランド アイスランド

(3)

( 4 ) 八八年のルガ

l

ノ条約においても原則としてブラッセル条約とほぽ同じ規則が採用されており、 かくしてヨーロッパ においては、国際裁判管轄及び判決執行に関して、 ブラッセル条約の示す統一規則により基本的に規律されていると 言ってよい。しかし、このブラッセル条約が統一ル

l

ルを示す一方で、各国国内法の伝統的ル

l

ルが、同条約のもと で、どこまでその役割を残すのかについては不明確な点も多く、これまでにさまざまな形で問題を提示してきでいる。 イングランドにおいては、従来、管轄権を最終的に行使するかどうかに関して、裁判所が伝統的に裁量権を有して きており、これは、原則として裁判所の裁量権を認めないブラッセル条約とは、対照的な立場に立つものである。そ のためイングランドにおいては、この問題は、 ブラッセル条約の下での裁判所の裁量権行使の可否、及びその範囲と 49一一ーイングランド裁判所のブラッセル条約への対応 いう形で表れてきた。また、船舶などの﹁物﹂を対象とする対物訴訟をブラッセル条約の枠組みの中にいかに取り入 れて行くのかも、大きな問題であった。これらの点については、これまでにいくつかの判例の積み重ねがあったが、 この度、二つの貴族院判決を中心に、また新たな展開を見せている。本稿では、これらの判例をもとに、イングラン ドの従来の伝統的規則と、 ブラッセル条約の一不す統一的規則の調和の道を検討したい。

問題の所在

1 イングランドのコモン・ロ

l

上の規則とブラッセル条約の統一的規則 イングランドにおいては、 コ モ ン ・ ロ 1 上、被告の管轄への任意服従(印ロ

σ

白 山

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Z

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)

を除けば、原則としてイングラ ンド内であれイングランド外であれ、被告への令状(者ユ件)の送達によって管轄が成立するが、この管轄の成立に際し て、イングランドの裁判所は伝統的に裁量権を有する。これは、被告への令状の送達のみで成立するイングランド裁 判所の管轄権の適正化をはかるため、最終的に裁判所の裁量による判断の機会を確保しようとするものである。裁判

(4)

第10巻3・4号 一 一50 所によるこの判断は、 フ ォ まず第一に、イングランド外にいる被告に対する送達の許可をするかどうかという形で、 ーラム・コンビニエンスの判断として、 コモン・ロ

l

上行われてきた。すなわち、裁判所は、最高裁判所規則。

ER

H H 円 H ( 同)に列挙されている要件の充足を見た後、最終的には裁量によりフォーラム・コンビニエンスの基準によって 令状送達を許可するかどうかを判断してきた。その後、裁判所の裁量による判断は、 それまでほとんどなされていな かったイングランド内にいる被告への送達においても、なされるようになる。それが第二の形である、 フォーラム・ ノン・コンビニエンスの法理による判断である。イングランド内の被告への送達は裁判所の許可を必要とはしないが、 このフォーラム・ノン・コンビニエンス法理の導入の結果、被告にいったん令状が送達されたとしても、裁判所が正 義に反すると判断した場合には、裁判所は、裁量により、訴訟中止、 つまり当事者の訴えに対して管轄権を拒否し 訴えを中止な訂可)したり、 却下

S

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)

したりすることが、 コ モ ン ・ ロ

i

上認められるに至っている。さらに裁 判所は、第三の裁量権行使の形として、正義に反すると判断した場合には、外国訴訟差止、 つまり当事者に対して 外国の裁判所において原告として訴訟を開始したり訴訟を続行することを禁止する命令を下す裁量権をも有すると、 従来より認められている。このようにイングランドのコモン・ロ

l

上、管轄権の問題と裁判所による正義実現のため の裁量権行使とは 切り離せない関係となっている。 こ れ に 対 し 、 ブラッセル条約における管轄規則は、原則として被告の常居所を管轄の基礎とし、またその条文上、 裁判所の裁量を認める文言はない。ただし、条文上ある締約国の裁判所に管轄権があるとされるにもかかわらず、 〆じ れが否定される場合として、 ブラッセル条約は、第一二条及ぴ第二二条の規定をおく。すなわち第二一条において、 国際的訴訟競合の場合、 つまり、同一当事者聞の同一の訴訟原因に基づく訴えがすでに締約国の裁判所に係属する場 合に、後訴裁判所が自らの管轄不存在を宣言する義務を負うことを規定しており、また第二二条において、関連ある

(5)

訴訟がすでに締約国の裁判所に係属する場合、後訴裁判所が判決の延期をすること、または自らの管轄の不存在を宣 告することを認めている。これらの条文は、訴訟競合の要件を厳密に定めた上で、複数の裁判所に係属する訴訟のい ずれを優先させるかという問題について、どちらの訴訟が先に係属したかという時間的要素によって機械的に解決を はかろうとするものである。 ブラッセル条約において いわば特別扱いされる国際的訴訟競合は、しかし、イングランドのコモン・ロ

l

に お い て は 、 それ独自にとらえられるのではなく、訴訟中止と外国訴訟差止という、二つの裁量権行使の形の枠の中で、 そ れぞれの裁量権行使の可否の判断要素のひとつとして、別個にとらえられている。 つまり、裁判所が考慮するのはあ 51一一イングランド裁判所のブラッセル条約への対応 くまでも、訴訟中止あるいは外国訴訟差止という形の裁量権行使の可否であって、 それを判断する際に、国際的訴訟 競合の状態になっている場合も含まれるということである。そのためコモン・ロ

l

においては、国際的訴訟競合にお ける訴訟原因の同一性や訴訟係属の前後等は、それほど厳格には考えられてはおらず、ある状況が全体として訴訟中 止、あるいは外国訴訟差止をすべき状況にあたるかどうかが、総合的に判断されるにすぎない。 つまり、イングラン ドのコモン・ロ!における国際的訴訟競合は、 ブラッセル条約におけるそれよりも、その輪郭は、 かなりぼやけたも のになっているのである。 2 イングランド裁判所の直面する問題 このような二つの管轄規則の違いの中で、イングランド裁判所がブラッセル条約を適用する際に直面する問題はい くつかでてくる。まず第一は、何が第二一条にいう﹁国際的訴訟競合﹂にあたるのかという、純粋に技術的・手続的 な問題である。第一二条が適用されるためには、訴訟原因の同一と当事者の同一の要件がみたされているかどうかが

(6)

第10巻3・4号 一 一52 厳密にチェックされなければならない。ところが、イングランドのコモン・ロ

l

における輪郭の暖昧な国際的訴訟競 A 口 の 概 念 か ら す れ ば 、 ブラッセル条約の第二一条も第二二条も共に﹁国際的訴訟競合﹂とみなされることになるため、 それらの区別が必要となるわけである。また、イングランドで海法上なされる、船舶や積み荷などの﹁物﹂を対象と する対物訴訟についても、訴訟原因及ぴ当事者の同一を、第一二条適用に際してどのように解釈するのかということ は、大きな問題として議論されてきた。 第 二 は 、 正義実現のための裁判所による裁量の余地を認めないブラッセル条約の管轄規則に対し、 そして い か に どの程度、裁量権行使が認められるかという問題である。連合王国はブラッセル条約を締結・批准し、同,

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古 江 田 色 円 昨 日 。 ロ 自 己 ﹄ ロ 己

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2

5

N ( 以下一九八二年法)により圏内法化する際に、﹁同法はブラッセル条約に矛 盾しない限り、連合王国の裁判所がフォーラム・ノン・コンビニエンスの理由に基づいて訴訟中止をしたり却下した りすることを妨げない ( 印 め の 片 山 。 ロ 邑 ) ﹂ と の 条 文 を 組 み 入 れ 、 ブラッセル条約の下でもなお、 フォーラム・ノン・コンビ ニエンス法理適用の可能性を含ませている。そのため、 どの場合がお n c t 。ロ邑にいうところの﹁ブラッセル条約に 矛盾しない範囲でのフォーラム・ノン・コンビニエンス法理の適用﹂にあたるのかが、イングランド裁判所ではもっ ばら問題とされてきた。この問題は コモン・ロ

l

上の裁量権行使の形を反映して、必ずしも現実に訴訟競合となっ ている状態に限定されることなく、議論されてきた。他方で、裁判所の裁量権確保という観点から見た場合、 ブ ラ ツ セル条約の第二二条が、後訴裁判所に対し、場合によって裁判所の判断により判決の延期あるいは管轄の不存在の宣 言を認めていることは、イングランド裁判所にとって大きな意義を持つことになる。なぜなら、締約国間に係属する 二つの訴訟が﹁関連する訴訟﹂であるとして第二二条が適用されれば、少なくとも後訴裁判所は、訴訟を続行するか どうかについて一定の裁量権を第二二条の下に与えられるからである。そのため、 正義実現のための裁量という観点

(7)

からも、第一一一条と第二二条の適用の区別に関心が寄せられることになる。 以上のような状況の下で、イングランドにおいては、第一二条と第二二条の適用を中心に、判例、議論が展開され ることになったのは いわば必然的な流れといえよう。それらの議論を、右に述べた二つの問題のいずれについての ものかを厳密に判別するのは難しい面もあるが、主として技術的・手続的側面の強い事例と、正義実現のための裁量 権行使を強く押し出した事例とに分けて、これまでの判例の経緯、並ぴに新しい展開について次に論じたい。

手続的側面

1 イングランド裁判所判例の経緯 53一一イングランド裁判所のプラッセル条約への対応 これまでにイングランド裁判所は、右の問題について、時にはヨーロッパ司法裁判所へ条約の解釈を求めながら、 いくつかの判例を重ねてきた。まず第一の手続的側面については、これまでに出された判例をまとめれば以下のよう に な る 。

(

1

)

対物訴訟とブラッセル条約 まず対物訴訟に関して、船舶や積み荷などの物(話回)を対象とする対物訴訟がそもそもブラッセル条約の対象とな るのかということが問題となったが、この点については、被告の常居所地が締約圏内にある場合は、やはりブラッセ ル条約が適用されるという解釈で落ち着いた。従って、イングランド裁判所にイングランド内にある船舶等に対して 対物訴訟が提起された場合、同条約第五七条により、 一九五二年アレスト条約その他の、管轄規定に関する条約に基 づいて、管轄権の有無は判断される。実際のところほとんどの場合、 一九五二年アレスト条約に基づくことになるが

(8)

第10巻3・4号一一54 この条約が適用されるためには現実のアレストが必要とされ、令状の送達によって対物訴訟の管轄が成立するコモ ( 5 ) 一九八九年デイヒランド号控訴院判決)。 ン ・ ロ

l

上の規則との聞に差異をもたらすことになっている ( 以 上

(

2

)

訴訟係属時 第二一条適用のためには訴訟係属時の確定が重要な問題となってくるが、この点については各締約国の国内法によ ( 6 ) るとされている。イングランドにおいては、 コモン・ロ

1

上、対人訴訟については令状交付時

(

-E 5

)

カf 訴 訟係属時とされており、訴状の送達時

2

2

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2

0

﹃者岳)を訴訟係属時とする大陸法系諸国とは異なっていた。ただ し コモン・ロ

l

上、国際的訴訟競合における訴訟係属の前後は、さほど重要な要素とは考えられていなかったため、 従来、この点における議論の展開はほとんどなく、 ブラッセル条約適用に際して、改めて問題が提起された形となっ た。イングランド裁判所はまず対物訴訟について、訴訟係属時を、令状交付時ではなく、実際に令状送達するか船舶 ( 7 ) のアレストがなされたかのどちらか早い時点であるとした(一九八八年フレシア・デル・ノ

l

ド高等法院判決てその 後対人訴訟についても、大陸法系諸国と同じく、令状送達時をもって基準時とするとの判断が下された ( 8 ) デ ュ

i

ク・オブ・エ

l

ル号控訴院判決)。ただし、このデュ

l

ク・オフ・エ

l

ル ロ マ 判 決 に お い て は 、 (一九九一年 マ レ

l

パ・インジ ヤンクションのように、裁判所が、令状交付後、送達までの聞に紛争のために現実に行動した場合については、 そ の その後、そのような例 ( 9 ) 外を認めず、全ての場合において令状送達時を基準時とすると改められた(サルガッソ

l

号控訴院判決)。イングラン ﹁現実の行動﹂の時点を基準時とするとして例外の余地を認めていたが、この点についても、 ド裁判所は、訴訟係属の基準時についてはこれを大陸法系諸国の基準に合わせ、調和の道をとったといえる。

(9)

2 ヨーロッパ司法裁判所タトリ

l

号判決 右にみるような判例の流れの中で タトリ

l

号事件におけるヨーロッパ司法裁判所の判決が示される。 一 九 九 四 年 、 これは、第一二条の適用に関する解釈の問題について、イングランド裁判所が提出したいくつかの重要な質問に対す る 回 答 が 、 ヨーロッパ司法裁判所により一不されたもので、 その後のイングランド裁判所の判決に その意義は大きく、 大きく影響を与えることになる。タトリ

l

号判決により示された解釈は次の通りである。

(

1

)

対物訴訟における訴訟原因及ぴ当事者の同 55一一一イングランド裁判所のブラッセル条約への対応 第二一条の示す﹁訴訟原因及び当事者の同この要件については、イングランドにおいては、まず対物訴訟の当 事者をブラッセルの条約上どう考えるかについて、大きく問題とされてきた。 コモン・ロ

l

上、対物訴訟においては、 訴えの対象となった船舶の船主は通常、船舶のアレストを防ぐためあるいはアレストを解除するために保証金その他 の担保を提供しようとするが、 その場合、船主は令状の送達を確認

( R

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口 。 ョ

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巾)せねばならず、それによって船 主は裁判所の対人管轄権に服従したとされる。また船主が本案を争うために裁判所に出廷した場合も同様に、対人管 轄権に服従したとされる。このル

I

ルと、当事者の同一を要件とするブラッセル条約第二一条との関係をどう考える かが問題とされたわけである。この点については、イングランド高等法院での判例において、二つの異なる立場が相 一つは、船主が応訴した場合には、訴えは対物訴訟が対人訴訟と並存するため、第二二条が適用さ ( M M ) れるとするものであり(一九八七年七月ノ

l

ドグリムト号判決てもう一つは、その場合、訴えはもはや対物訴訟では 次いで示された。 アレストが続いていれば対物訴訟と対人訴訟とは ( 日 ) 並存するため第二二条が適用されるとするもの(一九八七年十月リンダ号判決)であった。この二つの見解が対立す なく対人訴訟に入れ替わるため第二一条が適用されるが、 た だ し 、

(10)

第10巻3・4号 一 一56 一九九二年イングランド控訴院裁判所は、イングランドにおいて荷主から提起された対物訴訟と、 オランダ る中で において船主から提起された消極的確認訴訟とが競合したタトリ

l

号事件において、この問題をヨーロッパ司法裁判

( ロ )

所の子に委ねたわけである。 イングランド裁判所の注目する中、 一九九四年にヨーロッパ司法裁判所は、この間いに対する回答を示したが、 そ の趣旨は次のようになる。フラッセル条約の二一条における﹁同一の訴訟原因﹂と﹁同一の当事者﹂とはそれぞれ独 自の意味をもつものであり、締約国の国内法による形態とは独自に解釈されねばならない。よって、締約国の囲内法 による対人訴訟と対物訴訟との区別は、 一二条の解釈には本質的な影響は与えない。したがって、船主によってある 締約国で提起された、自らの責任がないとの確認を求める訴訟と、 その後に荷主から他の締約国で提起された対物訴 訟とは、その対物訴訟がその後その締約国の国内法により対人訴訟に代わろうと、あるいは対物訴訟と対人訴訟との ( 日 ) 並存に代わろうと、同一の訴訟原因及び同一の当事者の要件を充たす。 ヨーロッパ可法裁判所の回答は、ある意味で、イングランド裁判所のこの点に関する細かい分析を、 それは国内法 上の問題にすぎないとして、あっさりとかわしたように見受けられる。この回答はまた、この間題に関して二一条の 適用を認めたという点において、イングランド裁判所にとっては、後に述べる﹁正義実現のための裁量の余地﹂が狭 められたということもいえよう。 いずれにせよ、イングランド裁判所は、この問題をヨーロッパ司法裁判所の解釈に 委ねたことによって、 それに従う姿勢を示している点は、注目すべきであると思われる。 タトリ

l

号事件においてはそのほかにも、﹁訴訟原因及ぴ当事者の同この要件に関する質問がイングランド裁判所 からなされ ヨーロッパ司法裁判所によっで以下のように示されている。 その解釈が

(11)

(

2

)

当事者の一部が同一の場合 タトリ

l

号事件においては、前訴であるオランダ訴訟で被告になっていなかった者が、後訴のイングランド訴訟に おいては原告に加わっていたため、このような場合の当事者の同一についても、質問がなされた。 ヨーロッパ司法裁 判所は、二一条の解釈としては、後訴裁判所は、前訴裁判所においても当事者となっている者についての管轄のみを ( M ) その他の当事者については訴訟を係属させてよいとしている。 拒否する義務を負い、

( 3

)

原・被告逆転型の場合 57一一イングランド裁判所のブラッセル条約への対応 タトリ!号事件におけるもう一つの大きな関心は、原・被告逆転型の訴訟競合への二一条の適用を、 ヨーロッパ司 法裁判所がどのように判断するかという問題であった。タトリ

l

号事件では、前訴であるオランダ訴訟において、船 主が荷主を被告として、自らの責任がないことの確認を求める訴えを提起していたが、イングランド訴訟においては 逆に、荷主が原告となっており、 いわゆる原・被告逆転型の、消極的確認訴訟との競合となっていた。このような場 合においても、第一一一条の要件を充足することになるのかどうかについては、すでにヨーロッパ司法裁判所は、ドイ ツでの給付請求の訴えとイタリアでの消極的確認の訴えとが競合した、 一九八九年のグ

l

ビッシュ機械工場事件にお {江川) いて、これらのこつの訴えは、第一二条の目的に照らして閉じ訴訟原因にあたると判断している。しかし、タトリ

l

号事件においては、船主による消極的確認訴訟が先に起こされたことから、イングランド控訴院裁判所は、 その場合 に お い て も な お 、 グ

l

ビッシュ機械工場事件が先例となるのかどうかを、改めてヨーロッパ司法裁判所に尋ねたもの である。これは、このような場合の消極的確認訴訟が、イングランドのコモン・ロ

l

上の解釈からすれば正義に反し、 裁判所の裁量により、 それがイングランドの裁判所に係属しているのであれば訴訟中止、外国の裁判所に係属してい

(12)

第10巻3・4号一一58 るのであれば外国訴訟差止を命ずる可能性のあるケ

l

スであったため、再度、 ヨーロッパ司法裁判所の判断を問うた も の で あ る 。 ヨーロッパ司法裁判所の回答は、次のような趣旨であった。本件のように船主から提起された自らの責任の不存在 確認の訴えと、その後、荷主から提起された運送契約に基づく訴えとは、船により運送された同一の積荷の、同一の 状況における損害に関するものであり、﹁同一の訴訟原因﹂を有する。前訴も後訴も、船主の責任に関しては、同じ日 的を持つ。なぜなら船主の責任が二つの訴訟の中心的な争点となるからである。前訴における原告船主の主張が否定 的な表現となり、後訴における原告荷主(前訴では被告) の主張が肯定的な表現となるとしても、紛争の目的を異な らせることにはならない。従って質問に対する回答は、第一二条の適切な解釈によれば、原告の提起する、損失に関 する被告の責任を認め損害賠償権の支払を命ずることを求める訴えは、それより先に被告によって提起された、自ら ( 時 ) の責任不存在確認の訴えと、同じ訴訟原因、同じ訴訟の目的を有する、というものである。このように、ヨーロッパ 司法裁判所の回答は、 たとえ先に提起された訴訟が消極的確認訴訟であったとしても、 その訴訟を提起された裁判所 が前訴裁判所として優先権を有するというものであった。これはすなわち、消極的確認訴訟が先行する場合を、二一 条適用の例外とすることを否定するものあり、イングランド裁判所にとって、 コモン・ロ

l

上のル

l

ルとの違いをつ きつけられるものであったといえよう。

( 4

)

タトリ

l

号判決の示すもの 以上、タトリ

l

号事件におけるヨーロッパ司法裁判所の回答を見ると、当事者の同て及ぴ訴訟原因の同一につい て は 、 かなり実質的な判断をし、紛争の中味が実質的に同じであれば、訴訟競合にあたると考えているようである。

(13)

そ の 結 果 、

(

1

)

の対物訴訟における訴訟原因及び当事者の同一については、第二二条適用の余地はシャットアウトさ れて全て第二一条の適用となり、また

(

3

)

の原・被告逆転型の場合についても、これが二一条適用の例外となること は、ここにきて完全に否定されたわけである。かくして今後、イングランド裁判所が予想していたよりも、第二一条 の適用される場合は多くなると解される。これは、第一一一条を広く適用することにより、 できる限り機械的に管轄を 決定していこうとする態度が、 ヨーロッパ司法裁判所により示されたものと思われる。他方でこれは、イングランド 裁判所にとっては、後に述べる正義実現のための裁量権行使の確保という観点からみた場合、 その確保の場を狭めら れることになるといえよう。 59一一イングランド裁判所のプラッセル条約への対応

3

タトリ

l

号判決の影響

(

1

)

インディアン・グレイス号判決 ヨーロッパ司法裁判所のタトリ

l

号判決は、イングランドの国内法にも大きな影響を与えようとしている。

七年、イングランド貴族院は、海法上の対物訴訟の性質についての基本的な問題、すなわちこの訴訟は人に対するも のか物に対するものかという問題について再評価をし、約一世紀にわたって受け継がれてきた先例を覆し、訴訟の被 ( げ ) 告は船主であるとの判断を下した。それがインディアン・グレイス号事件である。 事件の概要は次のようになっている。インディアン・グレイス号がスウェーデンからインドのコーチンへ軍需品を 積んで航海中、火災を起こし、積荷の一部は投荷され、残った積荷も、火災による熱と消火のための水により、損傷 を受けた。原告(荷主であるインド政府)は、船主に対し、投荷による損害賠償を求める対人訴訟をインドにおいて 提起した。その後原告は、イングランド海事裁判所に対し、投荷された積荷を含む全ての積荷に対する全損を理由に、

(14)

第10巻3・4号一一60 対物訴訟の令状交付を求め、令状は、船主の姉妹船であるインディアン・エンデュランス号に送達された。原告と船 主は、準拠法をイングランド法とする事に同意し、船主はイングランド裁判所に出廷した。船主は船のアレストを避 けるため、担保を提供した。その後インド訴訟において、原告勝訴の判決が下された。被告はそのため、イングラン ド裁判所に対し、一九八二年法犯の位。ロピに基づき訴、えの削除を求めた。同法的めの片山。ロピは次のような規定になって いる。﹁いかなる人も、連合王国の他の地域や他国の裁判所で、同当事者間でなされた訴えにおいて自らに有利に下さ れた判決と同じ訴訟原因に基づく訴えをイングランド、 ヴェールズ、北アイルランドの裁判所に提起することはでき ない。ただし、 その判決がイングランド、 ウ ェ

l

ルズ、北アイルランドにおいて執行・承認されないときはこの限り でない。﹂第一審及ぴ控訴院は、インドとイングランドの二つの訴訟の訴訟原因は同じであるとして、閉め丘町。

D

E

に よ りイングランドの訴訟は禁止されるとした。原告の上訴に対し貴族院は、訴訟原因は同じであるとしたが、おの件目。ロピ は管轄の排斥(自己

5

Z

ロ)ではなく、訴訟の禁止

( E

こを規定しているため、管轄合意や、権利放棄、禁反言により

8

2

Z

ロピの適用は否定されるとして、この点の判断が必要であると判示した。また、原告が貴族院に対して、インド の対人訴訟とイングランドの対物訴訟とでは訴訟の当事者が異なると主張したため、この点も含めて、第一審に差し 戻 さ れ た 。 差 し 戻 一 審 に お け る 争 点 は 、

(

1

)

インドにおける訴訟とイングランドにおける訴訟とはお

22

ロピにいうところの同 じ 当 事 者 か 、

(

2

)

被告はお円昨日。ロ包に依拠する事を、禁反言により主張できないか、

(

3

)

イングランドの訴訟は手続 的濫用として阻止されるか、 の三点であった。第一審においてクラ

l

ク判事は、これらの三点全てについて、原告に 有利に判示した。すなわち、インド訴訟とイングランド訴訟の当事者は異なるとし、被告はおの位。ロピに依拠できな いとし、イングランド訴訟は手続的濫用ではないとした。控訴審においてこれは全て覆され、イングランドにおける

(15)

訴訟は認められないと判示されたため、原告が上訴したのが本件である。貴族院のステイン判事は、

(

1

)

インドにお ける訴訟とイングランドにおける訴訟の当事者は同じであり、

(

2

)

被告は∞

2

位。ロ官に依拠することを禁反言により 固まれないとし、第三点目については答える必要なしとして、原告の上訴を認めなかった。 この事件で何よりも、注目されたのは、第一点目のインドの対人訴訟とイングランドの対物訴訟の当事者が同じか どうかという問題である。ステイン判事は、対物訴訟において、令状が送達されたかあるいは船主が出廷したかのい ずれかの時点において、対物訴訟の被告は船主となるとし、したがってインドとイングランドの二つの訴訟の当事者 が同じであるとしている。 ステイン判事はその根拠として次の三点をあげている。まず第一に、対物訴訟についての 61一一イングランド裁判所のブラッセル条約への対応 手続的理論(任。胃

R

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o

弓)である。これは、対物訴訟は船主の財産を差し押さえることによって、船主を 法廷に出廷させるための手段であるとする理論であって、 ステイン判事は、この理論こそが対物訴訟の本質を説明し ており、この理論により、対物訴訟の真の被告が船主であることがわかる、 としている。第二点は、主権免除の事案 で あ る 。 ステイン判事は、外国国家に所有された船に対する対物訴訟が認められないとされる先例をあげ、これは外 国国家が対物訴訟の被告であるからだとする。第三点として、 ステイン判事は、前述したデイヒランド号事件におけ タトリ

l

号事件におけるヨーロッパ司法裁判所判決をあげる。そのうち、 デイヒランド判決につ る控訴院判決及び、 い て は

- 一

I

ル判事がデイヒランド号の裸傭船者であるデイヒ・ナヴィゲ

l

ション社をブラッセル条約の目的に照ら タトリ

l

号判決については、先に本稿でも紹介したように、 して、被告であると認めた点をあげている。また、 ヨ ー ロッパ司法裁判所が第二一条の目的に照らして、対物訴訟と対人訴訟とは同じ訴訟原因、同じ訴訟の目的、同じ当事 と判示した点をあげる。これを見る限り、イングランド裁判所が、 ブラッセル条約の適用に際してこれま 者 と な る 、 で議論してきたことが、 かなり圏内法においても影響を与えていることが見て取れる。

(16)

第10巻3・4号一-62 ステイン判事はさらに、第一審のクラ

l

ク判事が引用した、 ( 口 a ) ノ!ドグリムト事件における高等法院のホップハウス 判 事 の 意 見 、 つまり、対物訴訟はその最初の時点においては対人訴訟とは閉じ当事者ではないという見解についても 言 及 し 、 タトリ

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号判決の主旨からしても、これはもはや良き先例とはいえないとして、この先例を覆すとしている。

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イングランド国内法における対物訴訟の性質の変更 ( 刊 日 ) ディクテイタ

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号判決以来、船主は裁判所に出廷し裁判所の管轄権に服従した時点 これまで対物訴訟においては、 で訴訟当事者となるとされてきたが、 ステイン判事のこの判決は、約一世紀にわたって続いてきたこの先例を変更す るものである。この判決に対しては、賛否両論ある。否定的見解は、船主を当事者としたのでは、令状交付後、送達 までに船が別の船主に売却された場合、 その新しい船主を当事者とするのは理屈に合わない、 と し 、 ま た 、 ステイン 判事が根拠とするタトリ!号判決は、あくまでもブラッセル条約適用を前提とするものであり、 ヨーロッパ司法裁判 ( 川 口 ) 所も、国内法の解釈までは言及していないと反論する。そして、この判決は限定的に解するべきだと主張する。これ 必要であったとし、船主が変更した場合の問題など、この判決で残 ( 却 ) された問題は、将来さらに再検討していく必要があるとしている。賛成論の指摘するように、先例が示されて一世紀 に対し賛成意見は、対物訴訟の性質の見直しは、 の時の流れを経た現在、対物訴訟の性質の見直しが必要であったという背景があったかもしれない。しかし、長きに 渡る先例を変更し、大きな反響を呼んだこの判決が下されるにあたって、 タトリ

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号判決をはじめとするブラッセル 条約適用に関する一連の判決が影響したことは否定できないであろう。この判決の結論については、まだまだ議論を 呼びそうではあるが、先にあげた訴訟係属時の決定の問題と同様に、ここにおいてもブラッセル条約がイングランド 国内法の再編成の機会を与、えたという観点から見た場合、この判決は興味深いものがある。

(17)

4 手続的側面における調和の道 以上にみられるように、イングランド裁判所は子統的側面については、これを可能な限り、 ブラッセル条約に対応 できるように努力を重ねてきたように忠われる。特に、イングランド裁判所がタトリ

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号事件において、第一二条の 適 用 に 関 し 、 ヨーロッパ司法裁判所に解釈を委ねた意義は大きいといえよう。この事件においてなされたヨーロッパ 司法裁判所の解釈によって、何をもって国際的訴訟競合と見るかについて、イングランド裁判所と他の大陸法系締約 国との聞に、大きな食い違いは避けられることになろう。 他方で いったん国際的訴訟競合にあたると判断された後の処理という点においては、第一一一条により、機械的に、 63ーーーイングランド裁判所のブラッセル条約への対応 先に訴訟係属をした裁判所に優先権が与えられるというブラッセル条約の方法は、 どちらの裁判所に優先権を与える かを、裁量により判断するイングランドのコモン・ロ

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上の方法とは大きく異なる。 コモン・ロ

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上、管轄権の問題 と裁判所による正義実現のための裁量権行使とが切り離せない関係にあるイングランド裁判所の立場からすれば、 ブ ラッセル条約の下において、国際的訴訟競合の処理の段階で、 いかに正義実現の方法を実行するかが そしてさらに いえば、国際的訴訟競合の場合にとどまらず、 さ ら に 広 く 、 ブラッセル条約の下における管轄権行使全般において、 いかに正義実現を行うかが大きな問題となる。これらの問題をイングランド裁判所は、第一一一条の適用をかなり広く 認めたタトリ

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号判決を前提とした上で、議論することになるわけである。

正 義 実 現 の た め の 裁 量 1 訴訟中止と外国訴訟差止 裁判所による正義実現のための裁量権行使の可否という問題については、まずはじめに、裁判所が裁量権行使をす

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第10巻3・4号一一-64 る形態についての問題がある。イングランド裁判所がブラッセル条約の下で、 正義実現のために裁量権を行使できる かどうかは 一九八二年法認の位。ロ邑にいうところの、 ブラッセル条約に矛盾しない限りフォーラム・ノン・コンビ ニエンスによる訴訟中止は妨げられない、 との規定を根拠とし、これを前提として議論される。しかしイングランド のコモン・ロ

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上、裁判所の裁量権行使は、訴訟中止と外国訴訟差止の二つの形でなされており、 そのためそれを反 映 し て 、 ブラッセル条約の下でも外国訴訟差止が認められるかが、この前提に先立って問題となった事例がある。別 ( 幻 ) 一九九三年のコンチネンタル銀行判決がそれである。ブラッセル条約には、外国訴訟差止について禁 稿で紹介した、 止する規定はないが、原則として裁判所の裁量を認めない同条約の下で、外国訴訟差止がなされるのかという問題は、 大いに議論の起こるところであり いわば意表を突いた観のある問題提起であったが、控訴院判決においてステイン 判事は、差止命令を与えた原審の判決を支持し、判決は確定している。イングランドのコモン・ロ

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上築かれた正義 実現の観点からすれば、この事件の事実関係は、何らかの裁量権行使が求められでもしかるべき状況にあったが、こ の結論に対しては、評釈者からは、戸惑いの態度が示されており、今後の判例において、 ( 幻 ) は新たな変更が予想される。 さらなる理由付け、あるい 2 第二一条適用の回避 次に、議論の中心となってきた、訴訟中止という形での裁量権行使の可否であるが、イングランドにおいてまず議 論の対象となったのは、機械的に前訴裁判所に管轄を認める第二一条の適用をいかに回避するかという問題であった。 この問題についての議論は、 二つの流れに整理できると考えられる。まず第一は、競合する訴訟の中味に目を向けて、 訴訟原因の同一性、あるいは当事者の同一性を否定するなどの形で、第一二条の適用を否定しようとするものである。

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これは具体的には、給付の訴えと消極的訴訟との競合、あるいは、対人訴訟と対物訴訟との競合について、イングラ ( お ) ンド裁判所において問題提起されてきた。しかし先に述べたように、タトリ!号判決においてヨーロッパ司法裁判所 が第二一条の適用を広く認め、このいずれの場合の競合においても、第一一一条が適用されるとの解釈を示したことに より、この流れでの議論は現在のところ、 否定された形になっている。この意味においても、 タトリ

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号判決のイン グランド裁判所に与える影響は大きいといえる。第二の流れは、競合する訴訟の中味を見るのではなく、 それにどの ような状況が加われば、第一二条適用が除外されるかという議論である〆。これは主として、管轄合意の潜脱の場合を 対象として議論されてきた。 つまり、当事者が第一七条にいう管轄合意に反して別の国で訴訟を起こした場合、機械 65一一イングランド裁判所のブラッセル条約への対応 的に前訴裁判所に管轄を認める第二一条の適用は制限されてしかるべきであるとの議論である。先に述べたコンチネ ンタル銀行事件は、裁量権行使の形は外国訴訟差止ではあったが、事案の事実はこれにあたる。この第二の議論の流 タトリ

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号判決によっても未だ否定はされておらず、第一七条と第二一条のいずれを優先させるかという形で、 ( M ) この先もさらに議論が進められる可能性を残している。 れ は 、 3 ハロッズ判決に一不された分類 ( 1 ) 締約国間での管轄の争いと非締約国との管轄の争い イングランドのコモン・ロ

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上の裁量権行使は、先に述べたように、必ずしも、国際的訴訟競合のみを対象として いるわけではない。したがって、 ブラッセル条約の下における裁量権行使の可否の議論も、国際的訴訟競合を対象と する第二一条の適用の有無に限定されない、より広い場合における裁量権の行使という形での議論も、当然ながらな さ れ る 。 つまり、国際的訴訟競合になっていなくても、イングランドが審理に適切な法廷地でないと判断した場合に

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第10巻3・4号 一 一66 は、訴訟中止ができるかという議論である。 ( お ) た事案がまさにこの例であった。この事件において、 アルゼンチンと共にイングランドにおいてもドミサイルがある 一九九一年のハロッズ事件における控訴院判決で、 ディロン判事の扱つ と認められる被告ハロッズ社に対し、株主がイングランドで提訴し、 被告の側からアルゼンチンが適切な法廷地であ ディロン判事は フォーラム・ノン・コンビニエンス法理適用の可否を、 るとして訴訟中止の申立がなされていた。 ①管轄の争いが締約国間で生じている場合と、②非締約国と締約国との聞で生じている場合とに分けて論じている。 そ し て 前 者 に お い て は 、 印 め の 片 山 C ロ邑に基づき訴訟中止をする事はブラッセル条約に矛盾し許されないとし、他方、後者 については、条約は締約国間での同意にすぎず、他の締約国が関係しない事案においては裁量権行使により、訴訟中 止あるいは管轄拒否することは許されるとした。この事件はその後、貴族院への上訴が認められ、貴族院によってヨ ーロッパ司法裁判所へその解釈が委ねられたが、その回答が得られないうちに当事者の和解が成立し、 ( お ) 法裁判所における記録は削除されている。その結果、 ヨーロッパ司 ハロッズ判決により、現在のところイングランドにおいては、 非締約国が対立する法廷地である場合には、国際的訴訟競合の状態になっていなくても、イングランド裁判所はフォ ーラム・ノン・コンビニエンスにより、管轄の適切さを考慮することが出来るということになっている。 2 ) 被告のドミサイルの場所 と こ ろ で 、 ハロッズ判決において ディロン判事が傍論ながら フォーラム・ノン・コンビニエンス法理の適用が 許されないとした、①の管轄の争いが締約国間で生じている場合であるが、ここにはもちろん締結国間で国際的訴訟 競合の状態になっている場合も含まれる。そして、先に述べた第二一条適用の回避についての議論は、まさにこの場 合を対象としたうえで、 それをいかに詰めていくかという形でなされていたものであった。その議論に対する、 ノ 、 ロ

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ツズ判決からのひとつの提示は、被告のドミサイルの場所という要件である。というのは、 ハロッズ事件においては 被告のドミサイルがイングランド内にあり、 ディロン判事もその事に言及した上で、締約国間での管轄の争いに際し ての訴訟中止は認められないと述べていたことから、被告のドミサイルがどこにあるかという点をひとつの要件とす る余地がでてくることになるからである。被告のドミサイルの場所を要件とする根拠は、次の通りである。すなわち、 イングランド裁判所の立場からみた場合、被告がイングランドにドミサイルを持つ場合は、ブラッセル条約の第二条 により管轄権を有することになるが、被告が非締約国にドミサイルをもっ場合、イングランド裁判所は同条約第四条 67一一イングランド裁判所のブラッセル条約への対応 その際、イングランドのコモン・ロ

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上のフォーラム・ ( 幻 ) ノン・コンビニエンス法理も合わせて適用されるとの解釈が成り立ち得るわけである。また、第一二条に対する批判 により、圏内法に基づいて管轄権を有することになるため、 のひとつに、この条文が、競合する訴訟の管轄原因を問わず、 必ずしもブラッセル条約に基づかなくとも、結果的に { 犯 ) 同一の訴訟が締約国間で競合状態になれば適用されることがあげられていることも無視し得ない点である。先にあげ たコンチネンタル銀行判決においても、ギリシアでの訴訟は、イングランドの管轄合意に反する訴訟提起であったば かりでなく、ギリシア裁判所が、被告がギリシアにドミサイルを持っていたためではなく、ギリシアの圏内法に基づ いて管轄権を有していたことも、イングランド裁判所が訴訟差止の裁量権行使をした理由のひとつと考えられる。こ れらのことを考慮すれば、少なくとも、イングランドにおいて、被告のドミサイルによるのではなくイングランドの 圏内法により管轄が成立した場合には、 ブラッセル条約の下でもフォーラム・ノン・コンビニエンス法理の適用を認 めて良いとする議論には、それなりの説得力があるといえよう。そして、次に述べるように、最近この点に関する判 例が出たことから、この問題にもまた焦点があてられることとなった。

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第10巻3・4号一-68

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サリオ判決 一九九四年のサリオ判決である。この事件は、 ﹂の問題を提起したのは スペインとイングランドとの聞での管轄 が争われた (従って厳密にはサン・セパスチャン条約の下でのフォーラム・ノン・コンビニエンスの適用が問題とな った)、原・被告同一型の訴訟競合の事案である。原告のスペイン会社サリオ社は、自ら営んできた製紙業を譲渡する 旨の契約に関し、対価の未払いについて責任があるとして、被告のクウェート法人クウェート・インヴェストメント・ オ

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ソリティに対する訴えをスペイン裁判所に提起した。その後原告は、契約締結にあたって被告は不実表示により 原告を契約締結へと誘引したとして、イングランドにおいて被告を訴えた。被告はこれに対し、イングランド訴訟は、 スペイン訴訟と関連する訴訟であり、第二二条により訴訟中止あるいは管轄拒否の宣言がなされるべきだとの申立を した。被告が非締約国であるクウェートにドミサイルを有することは確認されており、従って本件は、非締約国にド ミサイルを有する被告に対し、締約固との聞で管轄が争われる事例であった。 第一審でマンス判事は、 まず被告のドミサイルが締約国になく、イングランド裁判所は国内法に基づいて管轄を有 したことに言及し、よって本件にフォーラム・ノン・コンビニエンス法理の適用が認められるとして、被告がイング ランドの管轄の適切さを問うのは妥当であると認め、被告の訴訟中止の申立の審理に入った。次いで、 スペインとイ ングランドの二つの訴訟は、訴訟原因が異なるため、第一二条の適用は認められないが、矛盾する判決の下される危 険性があるため第二二条が適用されるとして、第二二条の下で、後訴裁判所にあたるイングランド裁判所が訴訟中止 ( 却 ) フォーラム・ノン・コンビニエンス法理に基づいて審理し、訴訟中止を命じた。第二審におい をすべきかどうかを、 てエヴアンス判事は、第一二条の適用を同じく否定した後、二つの裁判所で判断すべき事実の主たる争点(己百七ユ 自由江可山田

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由。同片山内リ同印)が異なっているため矛盾する判決のでる危険性はないとして、第二二条の適用も否定した。そ

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のうえでヱヴアンス判事は、被告のドミサイルが締約国にないことを理由にフォーラム・ノン・コンビニエンスの法 ( 初 ) 理により、イングランドが適切な法廷地かどうかの判断をし、訴訟中止を認めないとの判断を下した。 判 決 は 、 フォーラム・ノン・コンビニエンス法理の適用を認めたこれらの ( 担 ) その後これにしたがう判決も出て、注目された。しかし、サリオ判決の第一審と第二審は、 被告のドミサイルが締約国にないことを理由に、 フォーラム・ノ ン・コンビニエンス法理適用の位置付けにおいて互いに異なっているとい、える。 つまり、第一審においてマンス判事 は、被告のドミサイルが締約国にないことから、この事件においてはフォーラム・ノン・コンビニエンス法理が適用 されることをまず前提としたうえで、第二一条、 つづいて第二二条適用の是非の検討に入っている。そして、第二一一 69一一イングランド裁判所のブラッセル条約への対応 条の規定する訴訟中止を行なうかどうかの検討も、当然のごとくフォーラム・ノン・コンビニエンス法理に基づいて 判断している。これに対し、第二審のエヴアンス判事は、 ま ず 第 一 一 一 条 、 および第二二条を適用すべきかを順次検討 し、それらの適用が共に否定されたのち、次の段階として、被告のドミサイルが締約国にないことを理由に、 フ ォ ラム・ノン・コンビニエンスの法理による判断、 つまりコモン・ロ

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的基準による管轄の判断が許されるとしてその 検討に入っている。第一審、第二審によって示されたこれらの問題、 つまり、被告のドミサイルが締約国にないこと を 理 由 に 、 ブラッセル条約の下でフォーラム・ノン・コンビニエンスの法理の適用が許されるかどうか。またもし許 されるとすれば フォーラム・ノン・コンビニエンス法理は、 どの段階で適用されるのか。第一審のマンス判事が示 し た よ う に 、 フォーラム・ノン・コンビニエンスの適用が最初から前提とされ、具体的には、第二二条の規定する訴 訟中止の可否も、 フォーラム・ノン・コンビニエンスの基準で行なうのか。それとも、第二審のエヴアンス判事の示 したように、第一一一条、第二二条の適用が否定されたのちに、次の段階として、 フォーラム・ノン・コンビニエンス 法理が適用されるのか。これらの点が問題となる中で、 サリオ事件の貴族院判決が下された。

(24)

第10巻3・4号 一 一70 しかし、貴族院においてサヴィル判事は、二つの訴訟が第二二条にいう関連する訴訟にあたるかどうかの判断のみ を下した。サヴィル判事は ヨーロッパ司法裁判所のタトリ

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号判決を引用して、第二二条は広義に解すべきあると し、控訴院判決の採用した限定的な解釈を否定し、本件は第二二条が適用されるとして、第二二条の下でイングラン ( 辺 ) ドの管轄拒否の宣言をした。この貴族院判決は、タトリ

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号判決の影響の大きさをまたしても認識させられる判決で はあったが、被告のドミサイルが締約国にない場合にフォーラム・ノン・コンビニエンス法理の適用が可能かという 問題については、言及されずに終わった。強いていえば、 サヴィル判事の議論のすすめ方は、まず第一二条および第 二二条の適用を検討するという点においては、 エヴァンス判事の採った方法に近いと考えられる。サヴィル判事は本 件で第二二条が適用されるとしたが、二二条が適用されないという結論に達した場合、第二審のエヴアンス判事が示 したように、次の段階として フォーラム・ノン・コンビニエンス法理による判断が許されると解する余地はなお残 されているといえよう。 いずれにせよ フォーラム・ノン・コンビニエンス法理の適用が、被告のドミサイルが締約 国にないことを理由として認められるかどうかという問題については、今後の議論を待つこととなった。

おわりに

以上見てきたように、イングランド裁判所において、 ブラッセル条約との調和を模索して、まだまだ判例は動きそ うな様相を呈している。これらの判例の流れの中で 一九九四年のタトリ!号判決が大きな影響力を有していること は、本稿でとりあげた貴族院判決がいずれも、この判決を引用していることでも認識できる。タトリ

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号判決におい てヨーロッパ司法裁判所は、イングランド裁判所にとって重大な関心のある問題に対し、 コモン・ロ

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上の管轄規則 と、ブラッセル条約のそれとは異なるのだということを改めて示したわけであり、この判決が、イングランドにおい

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ニング・ポイントになると忠われる。手続的調和の側面では、対物訴訟の性質の再評価のその後の動き は、これからも興味深いものがある。正義実現のための裁量権行使の側面についても、 フォーラム・ノン・コンビニ エンス法理の適用が許される場合をめぐって、現在議論されている、管轄合意潜脱の場合や被告のドミサイルが縮約 国にない場合だけでなく、 さらに新たな議論がかわされることと思われる。また、単にフォーラム・ノン・コンビニ エンス法理の適用の可否という議論にとどまるのではなく、イングランド国内法の再検討も提唱されている。例えば、 ケネットは、 ブラッセル条約の下でも、柔軟な対応が必要な場合があることを認めつつも、他方で、 ハロッズ事件に おいて、イングランド裁判所が、イングランドを紛争解決に適切な法廷地と判断しなかったのは、イングランド国内 71-一一イングランド裁判所のブラッセル条約への対応 法における法人のドミサイルの決定要件が不適当であったことが大きな理由であると考え、この要件を、 より法廷地 フォーラム・ノン・コンビニエンスによる訴訟中止の事例は と紛争が関連性を有するように変更することによって、 ( お ) 減らすことが出来るとしている。正義実現のための裁量権行使の側面においても、対物訴訟の再評価のような大きな 変化がイングランド国内法に今後みられるのか、注目したいところである。 ( 1 ) 、

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(26)

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参照

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