Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College, Available from http://ir.tdc.ac.jp/
Title
歯科医師が関わるチーム医療・多職種連携 4.妊産婦医
療への歯科の関わり
Author(s)
齊藤, 朋愛; 河地, 誉; 今井, 光枝; 杉原, 直樹; 高松,
潔; 野村, 武史
Journal
歯科学報, 116(4): 283-285
URL
http://hdl.handle.net/10130/4067
Right
―――― カラーアトラス ――――
歯科医師が関わるチーム医療・多職種連携
4.妊産婦医療への歯科の関わり
さい とう とも よし齊 藤 朋 愛
1),
かわ ち ほまれ河 地
誉
1),
いま い みつ え今 井 光 枝
2) すぎ はら なお き杉 原 直 樹
2),
たか まつ きよし高 松
潔
3),
の むら たけ し野 村 武 史
1) 1) 東京歯科大学オーラルメディシン・口腔外科学講座 2) 東京歯科大学衛生学講座 3) 東京歯科大学市川総合病院産婦人科カ ラ ー ア ト ラ ス の 解 説
妊娠することによって身体的,精神的に変化が起 こるが,口腔内にも歯周病やう蝕といった種々の疾 患,病態が生じやすくなる。その原因として,悪阻 (つわり)の影響や食生活の変化によって口腔清掃状 態が不良になりやすいこと,また,妊娠に伴い産生 量が増加するエストロゲン,プロゲステロンの影響 が挙げられる。 妊婦は歯周病の罹患率が高く,66∼98%と報告さ れている1−3) 。歯周病と早産・低出生児出産との関連 は1996年に Offenbacher らが初めて報告4) して以来, その関連についての報告は多く存在しているが,産 婦人科治療ガイドライン−産科編2014の中で,「妊 娠中の歯周病治療の早産予防効果についてランダム 化比較試験が米国の2地域ならびにオーストラリア で行われた。しかし,いずれも早産予防効果は認め られなかった」とある5) 。一方で,妊娠中に歯周病 治療を受けた妊婦は受けなかった妊婦と比較して早 産率が低値であったとする報告6) もあり,歯周病と 早産,低体重児出産の関係については今後も研究が 必要であると考える。妊娠性歯肉炎や歯周炎は,口 腔清掃が徹底されている妊婦ではほとんど認めるこ とはないので,予防や症状の軽快,治癒が見込める 疾患である。従って歯科医院にて口腔清掃指導を行 うことで,セルフケアを改善し,歯周病を予防する ことが重要である。 歯周病以外にも妊娠期に注意を要する口腔疾患は 多い。う蝕は,前述の通り妊娠による変化の影響で 口腔清掃状態の悪化,唾液分泌量の低下,悪阻の影 響によって口腔内が酸性に傾きやすくなるためリス クは大きくなる。また妊娠を機に初めて智歯周囲炎 を起こすケースも多い。妊娠前に智歯の抜歯を行う ことは有効な予防法と言える。妊娠性エプーリスは 出産後に自然治癒することがほとんどであるが,大 きく腫脹した場合は誤咬することもあるため切除が 必要となる。これら口腔内疾患を放置することは, 妊婦の QOL を妨げるばかりでなく,摂食障害など をきたせば,胎児にも不利益をもたらすと推測され る。妊娠中であっても積極的に歯科治療を行うべき であると考えられる。 一方で,受診者サイドへの情報伝達も重要と考え る。妊娠中や周産期の口腔保健情報は,マスメディ アを始め,行政サービスが主催する母親学級など 様々な方法で得ることができる。しかし,妊婦を対 象とした調査7) では,歯周疾患が及ぼす全身への影 響に関する知識は低く,歯科から妊婦への情報発信 が十分であるとは言いがたいのが現状である。前述 した「歯周病と早産の関係について」聞いたことが あると答えた妊婦は,日本では9.2%と報告されて いる8) 。 東京歯科大学市川総合病院では,産科にて妊婦健 診を受けている妊婦を対象とし母親学級「いちっこ クラブ」を開設している。対象となる妊婦の週数に より3クラスに分かれており,歯科は産婦人科・小 児科とともに,「クラス1」を担当している。「クラ ス1」は妊娠16∼25週の妊婦が対象で,毎月第1木 曜日に開催される。歯科セクションでは約40分間を かけて歯科医師,歯科衛生士による口腔保健指導を 行っている。歯科医師から「妊娠による口腔内の変 化」,「妊娠中に特徴的な口腔疾患」,「妊娠中の歯科 治療の安全性」についてと,歯科衛生士から「妊娠 中のセルフケア」および,「子供のブラッシングの方 法」についてのレクチャーおよび,唾液検査(RD テ スト® )を行い,希望者への口腔検診も行っている。 産婦人科診療ガイドライン−産科編2014には「妊 娠自体は歯科治療の適応を制限しない」と記載され ている。しかし,妊娠中の歯科治療に関して,妊婦 や家族が不安を抱えていることは多く,敬遠されが ちである。 産婦人科研修の必修知識では,産科医が口腔内ケ アに積極的に関与する必要性を強調するとともに, 歯科と密接に連携して,情報の伝達,口腔内のスク リーニング,症状のピックアップ,生活習慣の改善, 早期の歯科の介入等を行うことが重要だと述べられ ている9) 。妊娠中の歯科治療では基本的に一般的な 診療と大きく異なる訳ではないが,妊産婦特有の問 題(精神的ケア,投薬,X線,診療体位等)への配慮 が必要である。歯科治療と全く因果関係がなくと も,トラブルに発展する懸念もあり,十分なイン フォームドコンセントを得て治療することが重要と 考える。また,積極的に産科医師と密接な連携をとっ ていくことが,患者,歯科医師,産科医師にとって も安全・安心であり,必要不可欠である。 文 献1)Miyazaki H, Yamashita Y, Shirahama R, et al. : Peri-odontal condition of pregnant women assessed by CPITN. J Clin Periodontol, 18:751−754,1991.
2)Ohasi T, Kani M, et al. : Epidemiological Study on Peri-odontal Status in Pregnant Women Using CPITN. J Dent Health, 45:448−454,1995.
3)石川 昭,増田美恵,岩田さち子,他:妊娠歯科教室に おける歯周疾患のスクリーニングと事後指導効果.口腔衛 生学会誌,48:510−511,1998.
4)Offenbacher S, Katz V, Fertik G, Collins J, Boyd D, Maynor G, McKaig R, Beck J : Periodontal infection as a possible risk factor for preterm low birth weight. J Peri-odontol, 67(10 Suppl):1103−1113,1996.
5)妊婦のう歯・歯周病については?:産婦人科診療ガイド
ライン−産科編2014,p.284,日本産科婦人科学会,東京,
2014.
6)Lopez HJ, Smith PC, Gutierrez J : Periodontal therapy may reduce the risk of preterm low birth weight in women with periodontal disease, a randomized controlled trial. J Periodontol, 73:911−924,2002. 7)東海林知子,石塚千恵,田中典子:病院歯科における歯 科衛生士の役割について 前期母親学級での口腔衛生指導 等を実施して.新潟県厚生連医誌,18:1−5,2009. 8)福田英輝,北野久枝,仕方朗子,伊藤芳朗,斎藤俊之: 妊産婦における歯科に関連した知識の普及状況.口腔衛生 学会雑誌,56:709−713,2003. 9)日本産科婦人科学会 編:妊娠と歯科・口腔疾患.産婦 人科研修の必修知識2016−2018,pp.237−242,日本産科 婦人科学会,東京,2016.