氏 名 葛西 駿 博士の専攻分野の名称 博士(工学) 学 位 記 番 号 医工農博甲第10号 学 位 授 与 年 月 日 平成31年3月20日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当 専 攻 名 機能材料システム工学専攻 学 位 論 文 題 目 ワイドバンドギャップ半導体デバイスの 高性能化及び新規プロセス開発 論 文 審 査 委 員 主査 准教授 有 元 圭 介 准教授 小 野 島 紀 夫 教 授 鍋 谷 暢 一 教 授 矢 野 浩 司 准教授 山 中 淳 二 山梨大学名誉教 授 中 川 清 和
学位論文内容の要旨
半導体デバイスは、我々の日常生活に存在し大きな影響を与えている。コンピュータや、 携帯電話、家庭用電気製品などあらゆるものに入り込んでおり、その消費量は益々増大す ると予想される。それら半導体デバイスにおける半導体材料の多くはSi である。情報処理、 デジタルの分野では非常に適した材料であるが、大電力を変換するパワーデバイスの分野 では適していない。Si はバンドギャップが狭く、絶縁破壊電界も低いために高温・高圧下 における動作には不向きだからである。ここで、Si デバイスに代わるものとして化合物半 導体が注目されている。窒化ガリウム(GaN)に代表されるワイドバンドギャップ半導体の物 理定数はSi に比べ、電子移動度、飽和速度、絶縁破壊電界において優れた値を有している。 つまり、化合物半導体を用いることで、過酷環境下でも安定に動作する半導体電子デバイ スの作製が可能であり、回路のワンパッケージ化、小型軽量化、水冷システムの簡略化が 可能と予想されるため研究が日々盛んに行われている。 第1 章では、研究の背景及び研究の目的について記述している。本研究は、半導体デバ イスの高効率化、高駆動能力化、高速化を目的としており、これらを実現するためにはオ ン抵抗の低減や相互コンダクタンスの向上が必要である。後述の新規プロセスを用いて新たな知見や高性能デバイスの実現を目指す。
第2 章では、研究に関する諸原理の説明である。
第3 章では、化合物半導体の特徴について記述している。
第4 章では、GaN 基板上に形成したデバイス間の素子分離の可能性を記述している。低
損失・単一電源スイッチングデバイスへの実現にはノーマリーオフ型動作が望まれており、 p 型 GaN 基板上の MISFET はその有力な候補の一つである。しかし、p 型 GaN 基板表面
はプラズマプロセス、成膜工程などによるダメージにより、n 型に弱反転してしまうことが 一般的に知られている。本章では、窒素イオン注入によりを用いて非結晶層を形成し、高 抵抗化させることで素子分離が可能であるかを検討した。その結果、窒素イオン注入を用 いることで大幅にリーク電流が低減していることが分かる。10 V 時で、約 5 桁のリーク電 流の低減に成功した。また、窒素イオンの注入量では一番注入の低い1×1019 /cm3はリー ク電流が多いことが分かった。注入量が1×1019 /cm3では十分な非結晶層が形成できてい ないことから、リーク電流が多いと考えられる。また、5×1019 /cm3以上の注入量になると あまり差が見られずにリーク電流は飽和することがわかった。これより、これ以上注入量 を増やしてもリーク電流は減少しないことが予想される。またその他の結果や既知の見識 から考察すると、貫通転位の影響を受けて、バッファー層を介したリーク電流が存在する と考えられる。窒素イオン注入を用いることで表面のリーク電流はほぼなくなったと言え るが、バッファー層を介したリークパスを見出した。これを防ぐためにはバッファー層に Fe や C をドープし、高抵抗化させることなどが対策として考えられる。
第5 章では、Mg イオン注入を用いた Halo 構造 GaN MISFET について記述している。
斜めからMg イオンを注入することで一部 p 型層を形成し、その他のチャネル領域の移動
度を高いままに保つことで性能の劣化を防ぎつつ、しきい値をシフトさせることを目的と
した。このHalo 構造は Si の LSI では古くから用いられている技術であるが、GaN デバイ
スでは用いられていない。それはGaN においてイオン注入で p 型を形成するのが非常に難
しいとされてきたからである。しかし、イオン注入を用いたp 型層形成が近年多く報告さ
れている。本章ではGaN への Mg イオン注入で p 型層が形成されることを利用し、Si 基
板上のMOSFET でよく用いられる Halo イオン注入技術を GaN MISFET に応用して、
性能の劣化を防ぎつつ閾値制御を目指した。Mg イオン注入無しの場合、最大ドレイン電流
Idssが245 mA/mm、最大相互コンダクタンス gmmaxが25 mS/mm という値が得られた。し
かし、Idの立ち上がりの電圧が-5 V であり、デプレッション動作であった。一方、Mg を 4
×1013 /cm2で注入したデバイスの最大ドレイン電流Idssが165 mA/mm、最大相互コンダク
の立ち上がりの電圧がMg のドーズ量を増やすことでプラス側にシフトしていることが確 認でき、-5V から 1.5V までシフトしていることがわかる。これらの結果より、Mg イオン 注入の有効性が確認できた。
第6 章では、自立 GaN 基板(GaN 基板上に成長した GaN)に第 5 章で行ったプロセス
を用いてMISFET を作製し、デバイスの特性向上を試みた。自立 GaN 基板は、格子不整 合を緩和するためのバッファー層を必要としないので、結晶欠陥が106 /cm2程度と高品質 な結晶性を得ることができる。 結果は、Mg イオンの注入量を増やすほど、しきい値がプラス側にシフトしていることがわ かった。Mg イオン注入によって、p 型層が形成されたことに起因すると考えられる。性能 は従来のデバイスに比べ、非常に良くなっており、これは結晶性の優れている自立GaN 基 板を用いたことで、移動度が高く、デバイスの性能が向上したと考えられる。また、ゲー ト長が短いデバイスではMg のイオン注入量によって、しきい値が高くなる傾向が見て取れ る。これより、Mg イオン注入はゲート長の短いデバイスにおいて効果がよくわかり、ショ ートチャネル効果の抑制などに効果的であるということがわかった。しかし、しきい値は p-GaN を用いているにも関わらず、すべてのデバイスにおいてマイナスを示していること がわかる。今回のデバイスでは、Mg イオンを活性化させる目的で 1250 ℃と高い温度で活 性加熱処理を行ったが、それにより、窒素空孔も多く発生したと考えられる。温度を低く することで窒素空孔を抑えることが出来るが、温度を低くすることでMg イオンが活性化せ ず、p 型として機能しない可能性がある。よって、窒素空孔を抑えることができ、かつ、 Mg イオンを活性化することのできる適当な温度設定が必要である。次に隣り合うデバイス 間でのリーク電流は非常に低い結果が得られた。これは第4 章で述べた、バッファー層を 介したリーク電流が存在しないことや、C を高濃度でドープしたことで縦方向のリーク電流 が防げたことが要因として挙げられる。 第7 章では、各章で得られた知見を要約し、本論文の総括とした。
論文審査結果の要旨
ハイブリッド車・電気自動車の普及や電力を巡る環境の変化などにより、パワー半導体 デバイスの高性能化は益々重要となってきている。現在はSi を用いたデバイスが主流であ るが、次世代デバイスに向けた材料として高いバンドギャップ・エネルギーを有するGaN や SiC が考えられ、実用化が始まっている。特に自動車産業においては、電気自動車の普 及に伴ってより高温での半導体デバイスの動作保証が求められており、ワイドバンドギャ ップ半導体への関心が高まっている状況である。これらの材料の問題点として、結晶欠陥 などに起因するリーク電流や、伝導性の制御が困難であることなどが挙げられる。また、 電気抵抗についても更なる低減が望まれる。これらの問題点に対し、本研究では新しいプ ロセス技術を考案し、その効果を検証した。具体的な研究内容として、まず素子分離の問 題に取り組んでいる。第4章に記されている通り、リーク電流が発生する原因をつきとめ、 その抑制に成功した。デバイス間のリーク電流はデバイスの誤動作や電力の浪費につなが るため、重要な成果である。次に、閾値電圧の制御法の考案と、系統的な実験による検証 を行っている。GaN ではゲート電極にバイアス電圧を印加しない状態でもドレイン電流が 流れるノーマリー・オン型の動作になってしまうことが問題となっている。これに対し、 本論文の第5章・第6章では、Halo 構造による閾値電圧の制御とノーマリーオフ化の試み を行っている。Halo 構造は Si の LSI では古くから用いられている技術であるが、GaN デバイスでは用いられていない。それはGaN においてイオン注入で p 型を形成するのが非常
に難しいとされてきたからである。しかし、イオン注入を用いた p 型層形成が近年多く報
告されている。本章ではこれらの報告を踏まえ、Si 基板上の MOSFET でよく用いられる Halo イオン注入技術を GaN MISFET に応用して、性能の劣化を防ぎつつ閾値制御を目指
した。このため、イオン注入技術によるGaN への p 型不純物導入や高温熱処理による電気 的活性化についての研究も行った。ここで、高温熱処理は電極の選択や自己整合プロセス の可否にも影響を与えるため、高融点電極材に関する検討や熱処理条件が素子特性に及ぼ す影響の検討についても研究を行っている。 以上の議論を通して、葛西氏は半導体作製プロセス全般および材料物性に関する知識・ 学識も十分であることを確認した。研究成果は、査読付きである英文論文として3件公表 され、研究成果も認められている。 以上の厳正な審査により、博士としての学識・知識・能力を十分に有すると判断する。