平 成20年4月1日
当科における原発性非小細胞肺癌に対す る縮小手術症例の検討
山梨 大学 医学部第 二外科 宮内善広 、奥脇英 人、松原 寛知 、國光 多望、松 岡弘泰 、進藤 俊哉 、松本 雅彦 要 旨:IA期 原発 性非 小細胞肺癌 に対 す る標 準治療 と して肺 葉切除 以上+リ ンパ節 郭清 が 推奨 され て いるが、実 際の臨床 にお いては個 々の症例 に よ り、肺切 除量 を制限 した縮小 手 術 が選 択 され る場合 があ る。今回 当科 で2003年 以降 に施行 され た原 発性非 小細胞肺癌 に対 す る縮 小手 術につ いて検 討 した。 【対象 】2003年 以降 に 当科 で施行 された原発性 非 小細胞 肺癌 手術の129例 。 【当科 での適応 】2cm以 下で縮小 手術 が可 能な症例 に対 して、画像 的 BACに つい ては部分(楔状)切除 を基 本 とし、合併症 を有す る画像 的浸潤癌 につ いて は区域 切 除+リ ンパ節サ ンプ リング を基本 とす る縮 小 手術 を施 行 してい る。 【結果 】129例 中27 例(21%)が 縮小 手術で あ った。 縮小手術施 行 症例(LT群)と 標 準手 術施行症例(ST群)を 比較 す る と、LT群 の方 が平均年齢 で は4歳 ほ ど高 く、手術 時間 、平均 出血量 、術 後 ドレー ン留置 日数/術後 在院 日数 に 関 して は短 く、周術期 の合併 症 も少 なかった。術後 の呼吸機 能 に関 して もIA期ST群 ではFVC/1秒 量 とも15%前 後低 下 していた が、LT群 で は呼吸機 能 の損失 はほ とん ど認 め られ なかった。縮 小手術27例 を含 め臨床 病期IA期 全74例 の う ちで5例 が病理病 期III期以 上 であった。【考察】臨床 病期IA期 非小細胞肺 癌 に対す る標 準 治 療は肺葉 切除 とされ てい るが、肺切 除量制 限が術後 のQOLに 寄与す るこ とは明 らかで あ り小型/微小肺 癌に対す る導入 が望 まれ る。 画像的BACに 対す る縮小 手術 は確 立 しつつ あ るが、適応 を選 べば画像 的浸潤癌 に対す る縮小 手術 も受 容 され る と考 える。肺 癌診療 にお け る手 術の役割 は局所 の制御 と正確 な病 期診断 で あるが、微 小肺癌 で あって も浸潤癌 で あ れ ば リンパ節転移 は否 定で きず 、区域切 除 を応 用 した リンパ節 転移検 索 を伴 う術式 が望 ま しい。今 後は 消極 的縮 小手術 の長期予 後の検討 を行 って、画像 的浸潤 癌 に対す る縮小 手術 の積極 的適応 を検 討 してい く予定で あ る。 キ ー ワー ド=原 発 性 肺 癌 、 縮 小 手 術 、 区域 切 除 、 部 分 切 除 は じめに 臨床病期IA期 の鋼 」、細胞肺 癌に対す る肺 切除量 制限術式は生存率 において肺 葉切除 に劣 るuと され 、IA期 原発性非 小細胞肺癌 に対す る標 準治療 として肺 葉 切除以上+リ ンパ節郭 清が推 奨 され てい る2)が、実際 の臨床 において は個 々の症 例 によ り、肺 切除量を制 限 した縮小 手術 が選 択 され る場 合がある。今回2003年 以 降 に施行 され た小型原発性非 小細胞 肺癌 に対す る縮 小手術について検 討 した。 橡 2003年 以 降 に 当科 で施 行 され た原 発 性 非 小 細 胞 肺 癌 手 術 症 例 の うち審 査開 胸 を 除 く129例 、性 別 は 男性67例 、女 性:62 例 で 平 均 年 齢 はf 歳(32歳 ∼83歳) で あ っ た 。 組 織 型 で は腺 癌100例 、 扁 平 上 皮 癌21例 、 大 細胞 癌3例 、 そ の 他:5 例 で あ った 。(表1) 当科で の縮小 手術の適応 基本的 に最大経2㎝ 以 下で手技的 に縮 一一一47一小 手 術が可能な症例の うち、積極的(根治 的)適応 と して全身 合併症 の ない画 像的 BAC(非 浸潤 癌)を対象(条件 ①)と して部 分(楔状)切除 を基本 と して、 中枢 に近い 場 合に区域 切除 を行 ってい る。消極的適 応 として重篤な呼吸器 合併症 を有す る場 合(条件②)や全 身合 併症 が複数 あ る場合 (条件③)は画像 的BACに つ い ては部分 (楔状)切除 を基本 と し、画像的浸潤 癌で あれ ば区域切 除+リ ンパ節 サ ンプ リング を基本 とす るが、患者 の状 態や腫 瘍の部 位 に よ り麻酔/手 術 時間短縮 に よる更な る低侵 襲 を期待 して妥 協的に部分切除を 行 って いる。 結果 129例 中27例(21%)が 縮小手術 であっ た。縮 小手術の内訳 としては画像的BAC に対す る積極的適応(条件①)が9例 でそ の うち8例 が部分切除、1例 が区域切除 であった。消極 的適応 と して(条件② 、③) は18例 が行われ てお り、その うち画像的 BAC5例 で は部分 切除、画像的 浸潤癌で は13例 中7例 が妥協的部 分切除、6例が 区域 切除であ った。(表2) 臨床病 期1期 標準術式群の検討 臨床病期IA期74例 にっ いて標準 術式 施行症例(ST)と縮 小手術施 行症例(LT) を比較 検討す ると、ST群 とLT群 とも約 半数 が胸腔 鏡下に行 われ ていた。(表3) 周 術期 の検討 LT群 のほ うが平均年齢 で5.5歳 ほ ど高か った が、手術時 の平均 出血 量は少 な く、 手 術時間 、術後 ドレー ン留置 日数/術後在 院 日数 に関 しては短 かった。(表4) 周術期 の合併症 に関 しては全体の約1割 、 標 準術式 の約13%に 認 めたが死亡例 は な く、 また縮小 手術 では1例4%に 認 め たのみで あった。(表5) 術 前後 の呼吸機 能の変化 術前 と術後 の呼吸機 能に関 してFVC/ FEV1と も全ST群 で20%前 後低 下 し、I A期ST群 で も15%以 上低 下 していたが 、 LT群 では術前 と比 して呼吸機 能の損 失 はほ とん ど認 め られ なかっ鶴(表6) 腫瘍 径/病理病期診断 と再発 最大腫瘍径 はST群 で平均21㎝ 、LT群 では区域 切除 症例 が平均1.6㎝ 、部分 切 除症例が平均1.1cmとLT群 が小径で あ った。74例中5例 が病理病期III期以上(区 域切 除の1例 を含む)であ った。(表7) また再発は臨床病期IA期 全体の9例 、 LT群 の2例 に認 めたが、いわ ゆる外科 的 な局所 再発はST群3例 、LT群2例 であ った。(表8) 考察 IA期 原発性 肺癌に対す る縮小(肺 切 除 量制 限)術 式はGinsbergら1)の 報告 に よ り否 定 され たが、近年の画像技術の発達 とCT検 診 の拡 大な どに伴 う微 小肺癌や GGOを 主体 と した非浸潤 型腺癌の症例 の 増加 によって再度 注 目を集 めてい る。画 像的BACに 対す る積極的(根治的)縮小手 術は経過 観察 の重要性 の認 識 とともに一 般臨床 に広 ま りつつ あるが、画像的浸潤 癌に対す る積極的 縮小 手術 は現 時点で は 一般 的 とはいえず、一部 の施 設で臨床試 験 として行われ ているのみ である。 しか し全身 状態や呼吸状態 に問 題のあ る症例 に対す る消極 的縮小 手術 は一般 に行 われ てお り、今後 も治療戦 略の一端 を担 うと 考 え られ るが、その際 に問題 となるのは 術式 の選 択で ある。縮小手術 と肺 葉切 除 の評価 については これ までに も数多 くの 報告 がな され て きた。 局所制 御に関 して はGinsbergら1)の 報 告に よるとTINOに 対 して肺葉切 除に比 し部分切除は4倍 、 区域切除 は2倍 の局所 再発 があ り、 それ
平 成20年4月1日 らは腫瘍 径 と無関係であった としている がTsubotaら2)やKodamaらa)は 区域 切除 に関 して腫瘍 径2.Ocm以 下 で、またKoike 4)らは部分 切除 を含 めて腫 瘍径1 .5cm以 下で肺葉切 除 と局所 制御、生命余 後 とも に遜 色がない と してい る。 これ らの評 価 が一 定で ない原 因 と して部分切除 で も完 全 切除できれば100%再 発 のないBACの 増加 な ど疾病構造の変化、手術適応 や手 技的 な差異に よる要因が混在 してい る と 考え られ る。 当科では縮小手術塒 の肺実 質切離 の際に 自動縫合器 を用いてい るが 、 その後に器械の洗浄細 胞診 を提出 し断端 の陰性 を確認 してい る。 また外科治療の 役 割 と しては局所騨 卸とともに病 理学的 病期診 断の確定が挙げ られ 、その 目的は 縮 小手術で あって も変 わ りはない。特 に 近年 補助化学療法の有用性 が報告 され 、 病理 学的 リンパ節転移 の有無が治療方針 に大き く影響 を与 えるよ うになって いる。 非浸潤癌で あれ ば リンパ節転 移は な く、 その検索は省略可能す なわち部分切除 で 十分で あるが、浸潤癌 であれ はシ」型 で画 像的 にNOで あって もリンパ節転移は否 定で きず、腫瘍径2.Ocm以 下の小型 肺癌 (c-NQ)で も16%に 転移 を認 めた との報 告 もある4)。したがって外科的切除 の際 には リンパ節転移の検索 は省略すべ きで はな く、当科 で も基 本的 には区域切 除+ リンパ節郭清 が望 ま しい と考 えてい る。 今 後は消極的縮小手術 の うち、画像 的 浸 潤 癌に対す る区域 切除 の予後 を検討 して、 合 併症の ない小型 の画像的 浸潤 癌症 例 に 対す る積極的(根治的)縮小手 術の適 応拡 大を検討 してい く予定 であ る。 また消極 的縮小手 術について実際 臨床 の場面 では 画像的浸潤癌 であって も、呼吸状 態や 全 身状 態 によって は手術/麻酔 時間の 短縮 に よる手術侵 襲の低下を 目的 と して 区域 切除 よ りも手技 的に単純な部分(楔状)切 除 を選 択す る場合 も多い。 近年では放 射 線定位照謝 も広 ま りつつあ り、局所制 御 に関 しては部 分切除 と遜色が ない との報 告 も多い。今 後は浸潤 癌に対す る消極 的 縮小手 術の うち、術 前に確 定診断 が得 ら れ ていて、部分切除 のみ を考慮す るよ う な症例 には、定位照射 も選択肢 に加 え る べ きであ ると考 えてい る。 結語小型原発性 非小細胞肺癌 に対す る縮小 手 術 を検 討 した。肺切除量制限 による術後 QOLの維持 は明 らかであ り、症例/腫瘍の 状態 に応 じた術式(肺葉切除以廿 区域切 除/部分切 除)と 、さらには放 射線定 位照 射 も考慮 して最善の治療 を選択す る必要 があ ると考 え られた。 表1
性別
男 性:67例 女 性62例年齢
32歳 ∼83歳 平 均:66,0歳組織型
腺 癌:100例i扁 平 上 皮 癌:21例1大 細 胞 癌:3例 そ の他:5例 i・表2
積極的縮小手術9例
消極 的縮小 手術18例条件①
9例 5例条件②
0例 9例条件③
0例 15例 区域 切除7例 で例 6例 部分切除20例 8例 12例(7例 が 妥協的部 分切 除) 表3 c-IA期標準術式
区域切 除部分切除
開胸手術
32例 4例 10例胸腔鏡手術
15例 3例10例
平均腫瘍径
2.2cm 1.6cm 1.1cm 表4 c-IA期 肺 葉 切 除縮小手術
症例数
47例(36%) 27例(21%) 性別 男:20例 、女;27例 男:12例 、女:15例平均年齢
63.6歳 69.1歳組織型
Ad=41例 、Sq:5例 Ad:25例 、Sq:2例手術時間
238分 128分出血量
230m1 30m1 平均 ドレーン挿 入期 間 3.7日 1. 7日 入院期 間 12.2日 8.8日 表5 標 準術 式47例 区 域 切 除7例1 部 分切除20例合併症
6例/13% 0 1例/5% 術 中出血1例
0 0乳び胸
2例 0 0気胸
1例 0 0喀痰喀出困難
0 0 1例反回神経麻痺
1例 0 0慢性呼吸不全
1例
0 0平成20年4月1日
表6
po/prFVC po/prFVC% po/prFEV1.0 po/prFEV1」 〔跳