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(医学教育シリーズ)臨床研修と新しい専門医制度

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(1)近畿大医誌(Me 8巻3,4号 dJKi nkiUni v)第3. 1 63 ∼16 6 2 0 13. 1 63. 臨床研修と新しい専門医制度 上 硲 俊 法 近畿大学医学部附属病院臨床検査医学部. 目標になった.第3は大学病院などの教育病院にお. 쏯.はじめに. ける内科,外科を中心とした臓器別再編がある.こ. 2017 年に新しい専門医制度が始まるに当たり,現. れにより本来ある程度のジェネラリストの素養が必. 在の学会認定専門医制度の多く研修プログラムのみ. 要な内科や外科においても s ubs pe c i al t y専門医志. ならず各専門医の立ち位置を再. 向が強まった.. している.現在の. 専門医制度は,該当学会を構成するメンバーの. え. が反映される事が基本であったが,新たな専門医制 度は日本専門医制評価・認定機構の打ち出した基本 設計を基にしている웋 .現時点(20 13 年11 月)で,す べてではないが多くの基本領域学会が,新たな専門. 쏱.現在の臨床研修が医師のキャリアパスに 及ぼした影響 表1に戦後の医師卒後研修の変遷を示す.医師の 卒後トレーニングの制度の変遷には時代情勢が関係. 医制度の骨格を明らかにしている.本稿ではこの事. している.現在の医師臨床研修制度は,平成1 2年. を踏まえ医師のキャリアパスのうち前期臨床研修か. (20 00 年)の第1 50回国会参議院国民福祉委員会にお. ら基本領域専門医取得を目的とした 「専攻医」(日本. ける附帯決議(表2)を受け,平成1 6年(2 00 4 年). 専門医制評価・認定機構は「専攻医」と呼んでいる). に発足した.この制度では診療に従事しようとする. 研修の連携に関して,特に議論が予測される内科の. 医師は2年以上の臨床研修が必修となった.この制. 「専攻医」研修に焦点をあて,現在決定している事を. 度改革は国民の要望を受ける形で国主導により変革. 紹介する.なお,本稿は「医学教育シリーズ」の依. がなされた点が,それ以前の昭和2 1年と昭和4 3 年の. 頼原稿であるという点から,制度の現状を網羅的に. 改革と異なる.現在の臨床研修制度の目標は,すべ. 記載する学術的. 説ではなく,医学教育の視点から. 臨床研修と専門医研修に対する現状に対する私見を ご紹介するものである事を最初にお断りする. 쏰.医師のキャリアパスの動向 医学部卒業後10年程度までの医師キャリアパスは 時代背景により変化しているが,1 98 0年代頃までは 概ね大学でのストレート研修と博士号取得のための 研究にあてられるのが主流であった.しかしそれ以 降は様々な制度の変化を受け,医師のキャリア形成 が変化していった.キャリアを形成する立場にある 医師の視点からみると,199 0年代以降でのキャリア 形成に影響を及ぼした主な要因は以下の3 つである と. える.第1は200 4年の臨床研修必修化によるロ. ーテイト研修である.現在の臨床研修は2年間のプ ライマリ・ケア研修を受け,ジェネラリストの基本 を研修する事が必須となった.第2は各学会が作っ た専門医制度にある.これにより医師キャリアの大 きな目標であった博士号取得に加え,専門医取得が. 表쏯 医師卒後研修の変遷 昭和2 1 年 実地修練制度(いわゆるインターン制度) ( 1 9 4 6 年) がはじまる.戦後のこの時期はアメリカの 強い影響のもと国民医療法施行令の一部改 正により 設された. 昭和2 3 年 医師法が制定に伴い同法に基づく規定とな ( 1 9 4 8 年) り,学部卒業後,医師国家試験受験資格を 得るための義務として, 「卒業後1年以上の 診療及び 衆に関する実地修練」を行うこ ととされた. 昭和4 3 年 所謂インターン闘争の結果,実地修練制度 ( 1 9 6 8 年) は廃止され,臨床研修制度が 設された. この時の臨床研修はあくまで努力規定であ り,学部卒業後に直ちに医師免許取得でき るが2年以上の臨床研修を行うように努め るものとするとされた. 平成1 6 年 現在の医師臨床研修制度の発足. ( 2 0 0 4 年) この制度では診療に従事しようとする医師 は2年以上の臨床研修が必修となった..

(2) 1 64. 上. 硲. 俊. 法. 表쏰 臨床研修に関する第15 0回国会参議院国民福祉 委員会における附帯決議. も知れないが,研修内容もかなり平準化していると. 医師及び歯科医師の臨床研修については,インフォ ームドコンセントなどの取組や人権教育を通じて医 療倫理の確立を図るとともに,精神障害や感染症へ の理解を進め, にプライマリーケアやへき地医療 への理解を深めることなど全人的, 合的な制度へ と充実すること.その際,臨床研修を効果的に進め るために指導体制の充実,研修医の身 の安定及び 労働条件の向上に努めること.. わらず大学病院における研修医は減少している워 .前 記のアンケートによれば平成1 5年度には大学病院で. える.ところが研修内容が平準化しているにも拘. の研修が7 2 .5 %であったが,現在の臨床研修制度の もとでの平成1 7 年度以降は半数以上の研修医が大学 病院以外の研修病院(以下,市中病院)で研修して いる事が知られている(平成24年度には大学病院 44 . 4% 大学以外の研修病院5 5 .6 %) .大学病院か 워 ら市中病院へのシフトには複数の要因があるだろう. 表쏱 臨床研修の基本的カリキュラム. が,あろうが,研修医自身の,プライマリ・ケアを. 平成1 6年度. 含めた. 平成2 2年度. 1年次. 内科(6カ月) ,外科(3カ月), 救急・麻酔科(3カ月) 2年次 小児科(1カ月) ,産婦人科(1 カ月),精神科(1カ月) ,地域 保 ・医療(1カ月) ,選択科目 (8カ月) 1年次. 2年次. 内科(6カ月) ,救急(3カ月), 選択必修科(3カ月:小児科, 外科,麻酔科,産婦人科,精神 科) 地域医療(1カ月) ,選択科目 (1 1 カ月). 合診療にかかわる臨床経験を積みたいとい. う意欲による可能性が高い.近畿大学附属病院初期 研修医の意見からも,初期診療能力を高める事を研 修目標にしている事が伺える워 .また一部の研修医 웗 は募集研修医の定員が3名以下という比較的小規模 の病院においても研修しているが,この様な病院の 研修医は大学病院などの大規模病院と比べてプライ マリケアの研修がより経験しやすいと. えている可. 能性がある.しかし臨床研修の質を担保する上では 同期(同学年)の研修医が一定数いる事が重要であ るから,大学病院での研修は研修医数で小規模の病 院に比して有利である.プライマリケア研修という. ての研修医が. 合診療的素養を身に着ける事であ. 観点から,大学病院などの大規模な病院は小規模病. る.その為に習得すべき事の中に,医師としての人. 院との密な連携や,初期診療研修の機会を作る事が. 格を涵養する事,幅広いプライマリ・ケアへの理解. 必要かもしれない.. を深める事,患者を全人的に診ることができる基本 的な診療能力を修得する事が含まれている(表2) .. 쏲.臨床研修修了者の動向. この様な臨床研修制度であるため研修プログラムは. 2 00 4 年の臨床研修必修化が成される以前の卒後3. 従来主流であったストレート研修からローテート研. 年目以降の医師のキャリアは前述の通り,多くの者. 修となり,ジェネラリストに必要な基本的な診療能. は大学病院の各医局に入局し,ストレート研修と博. 力を修得する事を目的とするカリキュラムとなって. 士号取得のための研究を行うものであった.1 9 8 0 年. いる(表3).厚生労働省の「医師臨床研修制度の評. 代から1 99 0 年代にかけて各学会において専門医制度. 価に関するワーキンググループ」の行ったアンケー. が整備され,専門医取得が多くの医師の関心となっ. ト結果워からみても,その効果はある程度あったと えられている웋 . 웗. た.現在では多くの研修修了者が専門医資格取得を. 研修必修化以前には,大学病院ではストレート研. 生労働省の行ったアンケート調査(平成2 4 年度)に. 博士号取得より優先させる傾向にある.この点は厚. 修の割合が多かったが,市中の教育病院ではローテ. おいて,9 5 %以上の研修医は将来的に何らかの専門. ート研修が行われており,教育病院間で研修カリキ. 医取得を希望しているが,博士号取得を希望してい. ュラムに違いがあった.しかし,現在の臨床研修制. る者は5 0%以下に留まっており減少傾向にあること. 度においては,研修カリキュラムが大枠で決まって. からも明らかである웋 . (前期) 臨床研修の質が全国的. おり,市中の教育病院と大学病院との間で研修カリ キュラムに大きな差はない.病院の立地条件などに より,経験する疾患にある程度のバラツキはあるか. 워 웗近畿大学附属病院では平成25年7月から研修医の初期診療 の実習目的で時間外の1次2次救急患者診療について臨床経 験豊富な指導医のもと研修している.平成25年10 月28日に近 畿大学医学部大講堂で行われた研修医の時間外初期診療の実. 웋 웗ただしもともと広範な領域をカバーする内科に限って言え ば後述するように,内科全般をカバーする診療能力の低下を. 習の振り返りの会において,時間外の研修にも関わらず研修. 招いた可能性があり,検証すべきであろう.. 意見が多かった.. 医側からは初期診療の経験を積めるという点で概ね好意的な.

(3) 臨床研修と新しい専門医制度. に平準化している事を. えると,今後の我が国の医. 16 5. 1 9の基本領域専門医のうち内科と外科は他の基本. 療を担う医師の養成のために大学病院を含めた教育. 領域と比べるとそれぞれの中に多くの s ubs pec i al t y. 病院は臨床研修の充実に加え,新しい専門医制度発. 領域を含有しており,それぞれの基本領域専門医の. 足にあわせ専門医取得の為の「専攻医」研修カリキ. 研修が終わった上で多くの者が s ubs pec i al t y専門. ュラムを整える必要があろう.. 医をめざす可能性が高いという特徴がある.外科の. 쏳.新しい専門医制度の概要. 専門医制度はすでに新しい専門医制度に合致した研 修が整備されており,内科の専門医制度も新しい専. 新しい専門医制度のもとでは専門医資格を日本専. 門医制度に合致した研修体制となる事 が 決 ま っ. 門医制評価・認定機構が認定する事が決まってい. た웍 .新しい制度では内科系の s ubs pe c i al t y専門医 になるためには今まで取得が必須でなかった5年間. る웋 .この制度の下では「専攻医」研修をするものは 機構が指定する1 9の基本領域専門医のうち1つを取. (研修修了後3年間)の研修を要する(新)内科専門. 得した上で s ubs pe c i al t y専門医を取得するという. 医の取得が必須となる.この事は今後研修終了後の. 2段階の専門医制度となる.これは医療を受ける側. 教育病院での内科「専攻医」研修が大きく変わるこ. にわかりやすい専門医制度にするという日本専門医. とを意味する.新しい専門医制度で新たに基本領域. 制評価・認定機構の基本方針に. 専門医となる. っている.専門医. 合診療専門医はその扱う領域の広さ. を希望する初期研修修了者の多くは次の3年間は基. が特徴の専門医であることから,他の専門医よりジ. 本領域専門医となるための研修を「専攻医」として. ェネラリストの性格が強い.. 行うことになる.基本領域専門医は現在,表4に示. てはまだその専門医プログラムが確定していないた. す通り,内科,外科,小児科,産婦人科,皮膚科,. め現段階でコメントが困難であるが,活動領域が内. 精神科,放射線科,整形外科,眼科,耳鼻咽喉科,. 科医と重なる可能性があり,今後ジェネラリストを. 泌尿器科,脳神経外科,形成外科,麻酔科,救急,. 目指す医師の注目を集めるであろう.. リハビリテーション科,病理,臨床検査の1 8科ある が,新制度では. 合診療専門医も加わる事になって. 合診療専門医に関し. 쏴.基本領域専門医としての(新)内科専門医 従来から,「内科専門医とは何なのか. 」という質. いる. この基本領域専門医は標準的な医療 (St andar dで. 問が,内科医ではない医師のみならず内科の診療に. Ac c ept abl eな医療)を担うことの出来る医師を示し ており,それぞれの専門領域のジェネラリストのイ. 関わっている医師からもあがっていた.この疑問の. メージが正しいと思われる.注意すべき点は,現時. ネラリストであり,循環器,消化器,血液などの各. 中核にあるのは,内科医は(専門医ではなく)ジェ. 点ではこれら19 の基本領域専門医の何れか1つを基. 専門領域(s ubs pec i al t y)を診療する医師が真の専門. 本領域専門医のみ取得することとなるとされている. 医であるというものである.この質問に対する議論. 点にある.すなわちこの制度は「専攻医」にとって,. は,何も最近起こってきたものではなく半世紀以上. 将来進むキャリアの道筋は基本領域専門医を選択し. 前から活発に行われていた.当時,日本内科学会の. た時点で単線化することすることになるので,キャ. 理事長であった沖中重雄先生の著書によれば,日本. リアの方向転換が現在より困難となる可能性があ. 内科学会が専門医制度に関して検討を開始したのは. る.. 古く,昭和3 1 年(1 9 5 6年)であるという웎 .その当時 웦 웏. 表쏲 基本領域専門医と Subs peci al t y領域専門医 Ⅰ.基本領域専門医 合内科専門医 外科専門医 耳鼻咽喉科専門医 麻酔科専門医 形成外科専門医. 小児科専門医 整形外科専門医 泌尿器科専門医 病理専門医 リハビリテーション専門医. 皮膚科専門医 産婦人科専門医 脳神経外科専門医 臨床検査専門医 ( 合診療専門医). 精神科専門医 眼科専門医 放射線科専門医 救急科専門医. 呼吸器専門医 腎臓専門医 老年病専門医 心臓血管外科専門医. 血液専門医 肝臓専門医 神経内科専門医 小児外科専門医. Ⅱ.Subs pec i al t y領域専門医 消化器病専門医 内 泌代謝科専門医 アレルギー専門医 消化器外科専門医 リウマチ専門医. 循環器専門医 糖尿病専門医 感染症専門医 呼吸器外科専門医.

(4) 1 66. 上. 硲. 俊. 法. から専門医制度の議論の中心は, 「内科学というその. る.しかし内科に関しては,大学病院などの教育病. 中に各種の専門領域を多数包含する幅のある領域に. 院において臓器別再編が進んだこと,臨床研修期間. 内科専門医が成立するのか」という点にあったとい. 中の内科研修期間が減少した事,研修修了者の s ub-. う.当時の認識は, 「内科学はその中に循環器学,消. s pe ci al t y志向が強くなっている事などから,内科全 般の研修が不十 な 内 科 系 の 医 師 が 内 科 系 s ub-. 化器病学,血液学などの s ubs pe ci al t yを含有する が,これらの s ubs pe ci al t yは内科学の広範なる修練 を身に着けた基盤の上に発達すべきものである. 」 と. s pe ci al t y専門医取得していた可能性が高い.今まで 内科系 s ubs pec i al t y専門医取得の要件が卒後3年. いう. えが多くの内科医の基盤であったため,当時. 修了(研修修了1年)で取得できる日本内科学会認. の内科学会においては比較的早く,意見は統一され. 定内科医を有する事であったことから,研修修了後. た と い う.当 時 の こ の. 直ちに s ubs pe c i al t y研修をしても s ubs pe c i al t yの. え は 内 科 と 各々の s ub-. s pec i al t yの関係を えるうえで,今日でも至極尤も な事である.この様に半世紀前から内科専門医は内. 専門医取得は可能であった.新制度では今後内科系. 科全般を一元的に捉えることのできるジェネラリス. るにしても)新しい専門医制度のもとでは,研修修. トと. 了後3年間の内科全般の研修が必須になる.現在,. えられていたが, 内科専門医が内科医の中で,. の医師は(将来 s ubs pe ci al t yの専門医として活躍す. 永らく人数的に少数派にとどまっていた.この理由. 研修修了後には s ubs pe c i al t y専門医研修が主流の. には複数の要因があるので本稿では割愛するが,内. 教育病院も多い.今後,内科希望者のためには研修. 科専門医制度設立当時の内科専門医の到達目標が極. 修了後3年間の間で内科系各科のローテート研修あ. めて高く웏 ,専門医資格取得が多くの内科医にとって ハードルが高かった事が一因である.先にも記した. るいは内科全般の研修が可能な「専攻医」プログラ ムの整備が必須であろう.. 様に(新)内科専門医は基本領域専門医であるので. 文献と引用. 内科全般の標準的な医療を担うことの出来る医師を 示しており,今後は内科医と呼称するための必須の 資格となるかもしれない. この点から今後多くの大学病院を含めた教育病院 において議論すべき点がある.それは臨床研修修了 者が行う内科専門医を目指す「専攻医」の研修のあ り方である.現在の臨床研修は先にも述べたとおり プライマリ・ケア重視であるため,前期研修の2 年間 に各科独自の研修は十. 行えないので,各基本領域. の「専攻医」トレーニングはどの科でも研修修了後 開始される.多くの教育病院において各基本領域は このことを. 慮して研修プログラムが整備されてい. 1.日本専門医制評価・認定機構ホームページ(ht // t p: www. j apans enmoni . j p/) 2.厚生労働省医師臨床研修制度のホームペ ー ジ ht / / t p: /s www. mhl w. go. j p/s t f ei s akuni t s ui t e/bunya/kenkou nde x. ht ml i r you/i r you/r i ns yo/ i 3.小池和彦. 渡辺. 毅「新内科専門医制度の背景と目的」新. 内科専門医制度にむけて. -p.2 ,2013 日本内科学会 p.1 4.沖中重雄「内科専門医制度について」医師の心 p1 9520 7 1 97 8 東京大学出版会 5.沖中重雄 医事新報. 内科. 論―内科専門医制度について―. 19 68;2 284 :3-9. 日本.

(5) 近畿大医誌(MedJKi 巻3,4号 nkiUni v)第38. 1 6 7 ∼1 7 1 20 13. 1 6 7. 歯科口腔外科における顔面外傷の治療について ―特に歯の保存についての. 察―. 中 谷 貴 範 中 原 寛 和 森 影 恵 里 榎 本 明 内 橋 隆 行 下 出 孟 森口侑可子 濱 田. 上 田 貴 傑. 近畿大学医学部附属病院歯科口腔外科. 抄. 録. 顎顔面部の外傷受傷時には,同時に歯や口腔内に損傷を受けている場合が多い.しかし,口腔内からの出血で状 況を把握できず,その処置は見逃されがちである.歯の外傷は,脱落歯の再植のように,直ちに対応すれば良好な 結果を得られる場合も多い.咬合を回復することによって受傷後の QOLも飛躍的にも向上し得ることから,顎顔 面部の外傷患者には口腔内の精査も重要である.. 緒 歯の外傷には. 4 0 0名(3 . 5%) ,外傷3 3 3 名(2.9 %) ,上顎洞炎2 57名. 言. (2 .3 %) ,骨髄炎2 3 8 名 (2 .1 %) ,ウイルス疾患2 33名. 組織の損傷である破折性の損傷. と,軟組織の損傷である脱臼性の損傷に大別される.. (2 .0 %) ,悪性腫瘍1 6 3名(1 .4 %) ,その 他1 , 4 84名 (1 3 .0 %)であった(図1) .. 破折性の損傷とは外傷の部位に応じて,歯冠破折,. 2.歯の外傷患者数,その男女比,原因,紹介元,. 歯根破折などがある.歯冠破折には,露髄(歯髄の. 原因の. 損傷)を伴わない場合と露髄を伴う場合の二つに. 析. 当科における外傷患者3 3 3名の内訳は, 顎顔面骨の. かれる.露髄を伴わない歯冠破折は歯質の治療のみ. 骨折(歯の外傷を伴わない)1 45 名(4 3 . 5 %) ,歯の. を行う.露髄を伴う破折の場合は歯髄の処置を必要. 外傷8 2 名(2 4. 6 %) ,軟組織の外傷5 1 名(1 5 . 3 %) ,. とする. 歯根破折は経過観察のみとする場合が多い.. 歯の外傷を伴う顎顔面骨折3 9 名(1 1 . 7 %),その他1 6. 一方,脱臼性の損傷では歯を歯槽骨に固定している. 名(4. 8%)であった.今回は歯の外傷を伴う症例と. 歯根膜が断裂する歯の脱臼があげられる.脱臼は震. して,歯の外傷単独の8 2 名と歯の外傷を伴う骨折3 9. 盪,亜脱臼,側方脱臼,陥入,挺出,完全脱臼(脱. 名を加えた患者数1 2 1 名を対象とした(図2) .歯の. 落)に. 外傷を伴う患者1 2 1 名は外傷患者数3 3 3 名の中で3 6.3. 類され,治療は基本的に歯の整復・固定を. 行う.歯の外傷は単独に起こる場合もあるが,顎骨 の骨折や歯槽骨骨折を伴う場合も多い.歯槽骨骨折 とは, 歯の側方脱臼等に伴う歯槽突起の一部骨折で, 治療は骨片を元に戻し,固定を行う웋 . 1.歯科口腔外科における顎顔面外傷患者数とその 内訳 近畿大学医学部附属病院歯科口腔外科では,平成 22年 4 月 1 日 よ り 平 成25 年7月1日の. 新患数. 11,416 名(新規カルテ作成患者)の中から,診断・ 診療内容を検討したところ,最も多かったのは埋伏 智歯および根尖性歯周炎で3 ,4 62名(3 0.3 %),続い て口腔ケア1 , 32 8名(1 1.7 %), 顎関節症1, 186 名 (1 0 .4 %),口腔心身症76 4名 (6.7 %),囊胞57 4 名(5 .0 %) , 良性腫瘍5 02 名(4.4 %),齲歯492名(4 .3%),膿瘍. 図쏯 当科における 受診患者数中の外傷患者数の 比率.

(6) 1 68. 中. 谷. %を占めた.. 貴. 範他. 通外傷が3 1 名 (2 5 .6 %) ,以下打撲,転落,スポー. 歯の外傷患者数1 2 1 名中,男性は6 8 名で5 6 .2 %,女 性は53名で43 .8 %を占め,男女比は1.3 :1であった. ツ外傷であった(図5) . 外傷歯の部位別検討では上顎前歯部が最も多く9 0. (図3A) .患者の年齢層別比較では,1 1歳から20 歳. 名(7 4. 4 %) ,続いて下顎前歯部の1 8 名(1 4 . 9%)で. までの層が3 1 名,0歳から1 0歳までの層が29名であ. あった (図6 A) .受傷様式別の 布では脱臼が4 6 名 (3 8 .0 %)と最も多く,破折2 3 名(1 9 . 0%) ,脱臼を. り,0歳から20 歳までの層で6 1 名と全患者の5 0 .4 % を占めていた(図3B) . 歯の外傷患者の紹介元別の. 伴う歯槽骨骨折2 1 名(1 7. 4 %) , 歯槽骨骨折1 3 人 (1 0 .7 布では,歯科医院か. %)であった(図6B) .. らの紹介が4 5 名(37 . 2 %) ,他病院の医科からの紹介. 3.症例提示. が21 名(1 7 .4 %) ,院内紹介が4 8 名(3 3 .1 %)を占め. 症例1:歯冠破折症例(露髄を伴う場合). ていた (図4A) .院内紹介では,形成外科2 4 名(5 0 . 0 %),救命救急センター1 6名 (3 3 . 3%) ,ER6名 (1 2 . 5 %)と外傷患者受診の多い科からの紹介が大部. を. 占めていた(図4B) . 原因別. 布では,転倒が最も多く6 2 名(42. 1 %) ,. 図쏰. 外傷患者の内訳. 図쏲. 図쏱 A:当科を受診した歯の外傷患者の男女比 B:年齢層別 布. A:当科を受診した歯の外傷患者の紹介元別 布 B:院内紹介内での紹介元別 布. 図쏳 当科を受診した歯の外傷患者の原因別. 布.

(7) 歯科口腔外科における顔面外傷の治療について―特に歯の保存についての. 図쏴. 察―. 16 9. A:当科を受診した歯の外傷患者の外傷部位 の 布 B:受傷様式別の 布. 患者:3 4 歳,女性 初診:2 0 1 3年2月 主訴:歯の破折 現病歴:飲酒後,転倒して受診. 既往歴:なし. 図쏵 歯冠破折症例(露髄を伴う)A.受傷直後: 黄矢印:露髄を認めた.B.水酸化カルシウ ム製剤にて覆髄を行った.C.レジンにて歯 冠修復を行った.. 家族歴:特記事項なし. 現症:左側上顎中切歯の露髄を伴う歯冠破折.. 主訴:歯の外傷. 治療:歯髄処置:水酸化カルシウム製剤を貼付し,. 現病歴:小学. レジンにて形態修復.. 倒時に上顎前歯部を強打し,近歯科より当科紹介.. ( 図7A,B,C). 既往歴:なし. 症例2:脱臼症例(完全脱臼). 家族歴:大腸癌(祖. にて友人に後ろから押され転倒.転. ). 患者:1 0 歳,女児. 現症:両側上顎前歯部矯正中, 両側上顎中切歯脱臼,. 初診:2 0 1 1年3月. 歯肉裂傷.. 主訴:歯が抜けた.. 画像所見:両側上顎中切歯陥入を伴う歯槽骨骨折. 現病歴:受診日前日,窓から転落し,受傷.右上中. 治療:軟組織処置,陥入した歯を整復し,両隣在歯. 切歯脱臼に対し処置依頼.. に暫間固定した.. 既往歴:PWS(母子センター) 家族歴:なし. (図9A,B,C). 現症:右側上顎中切歯完全脱臼(脱落) 治療:完全脱臼歯を再植し,両隣在歯と暫間固定し. 察 近畿大学医学部附属病院では救命救急センターを. た.. 備えており,南河内地域を中心に,和歌山県,奈良. ( 図8A,B,C). 県に亘る広範な地域より救急患者を受け入れてい. 症例3:歯槽骨骨折症例. る.その中には少なからず,顎顔面外傷患者も含ま. 患者:1 1 歳,男児. れる.救命救急センターへの搬送後,必要に応じて. 初診:2 0 1 3年4月. 専門科での治療が行われ,当歯科口腔外科もその一.

(8) 1 70. 中. 谷. 貴. 範他. 図쏷. 図쏶 完全脱臼 (脱落)症例A.受傷直後:黄矢印: 歯が脱落した抜歯窩.B.牛乳に浸けて持参 された脱落歯.C.抜歯窩に整復後,レジン にて固定した.. 歯槽骨骨折症例A.受傷直後:黄矢印:上顎 前歯部が陥入していた.B.受傷直後のオル ソパントモグラム:陥入した歯を確認.C. 歯を修復後,ワイヤーとスーパーボンドにて 固定した.. た臨床的検討によると,脱落した永久歯に関して, 受傷後1時間以内に再植した場合,予後良好なもの は8 3%,受傷後,1∼2時間の間に再植したものは 71 %,さらに2∼2 4時間の間に再植したものは4 2 %. 環を担っている.図4Aに示すように,当科への歯. であったと報告している웍 .すなわち,脱落に対し早 期の対応を行えば,比較的予後良好となることがわ. の外傷の約3 0 %は院内の救命救急センター,形成外. かる.脱落した歯の保存方法と歯の保存に早急な対. 科,ERからの紹介であった.. 応の必要な場合を以下に記載する.. 歯の外傷は患者の年齢層別比較では0歳から2 0 歳 までの層が6 1 名と全患者の5 0. 4 %を占めており,身. 歯の保存方法. 体機能が未熟である若年者層と,身体活動の旺盛な. 完全脱臼(脱落)した歯を再植するためには. 青年層に集中していることから,身体活動と外傷の. 歯根膜の保存が重要である.歯根膜を保存する. 頻度の相関性が多く報告されている웋 . 웦 워 웦 웍 受傷部位に関して,小野らは,上顎の前歯は下顎. ための歯の保存方法には. の前歯より前方に突き出ているため,直接外力が加. ②歯の保存液(ティースキーパーネオ육 ) ,牛乳,. わるほか,下顎による突き上げを間接的に受けるた. 生理的食塩水などの液に浸けておくことが推奨. め,受傷しやすいと報告しており워 ,当科での報告と. されている.牛乳を. 一致している.. 後,歯牙保存液の場合は4 8時間程度なら,歯根. 外傷を受けた歯の保存に関しては,額田らの行っ. ①歯を元の位置に戻す.. 用した場合には6時間前. 膜を保存することが可能である.病院内で歯が.

(9) 歯科口腔外科における顔面外傷の治療について―特に歯の保存についての. 察―. 17 1. 脱臼し,保存液が手に入らない場合には乳酸リ. されている.それに対し永久歯は歯根が長く,骨も. ンゲル液につけることが有効である.. 緻密であるため破折が多くなると. 早急な対応が必要な受傷様式 1.完全脱臼(脱落) 直ちに診察し,保存状態が良好かつ歯根膜が 保存可能な時間以内であれば再植できる.. えられる웑 . 歯の外傷は若年者に多く,受傷後の歯の有無・咬. 合の回復が QOLの確保に大きく関与することが えられる.当科では院内紹介による歯の外傷患者が 比較的多く認められ,早期に院内で連携をとること ができれば,歯を保存・咬合を回復することが可能 である.. 2.露髄を伴う歯の破折. 結. 歯髄に感染を伴っていないと判断できる時間 以内(2 4時間以内)であれば歯髄を保存できる.. 語. 歯の外傷では迅速かつ適切な対応によって,好ま しい治療結果が得られることが多い.そのため歯の. 乳歯の場合,かつて乳歯の再植は禁忌とされてき. 外傷についての早期の診断が必要である.迅速かつ. たが,保存状態が良好であれば再植を行う場合が増. 適切な対応を行い,歯を保存し,咬合を回復するこ. えてきている웎 .宮新らは,永久歯における再植に適 した良好な保存条件下にあった乳歯で,脱落後約3. とにより,受傷後の摂食,会話などの QOLの回復が 可能となると. えられる.. 時間以内に固定や歯内療法が適切に行われた症例に 関して,後継永久歯. によれば,異常な歯根吸収も少なく,後継永久歯へ の影響は乳歯外傷一般による影響よりも低いと述べ ている웏 .このように可能な限り乳歯を保存するこ と,幼若永久歯の歯根の形成を促すことは,小児の 顎口腔機能の正常な発育を促すことが重要であると されている원 .さらに歯の外傷のガイドラインによる と,受傷し,露髄してから2 4時間以上経過している と,歯髄に感染が及んでいると判断し,歯髄を保存 することができなくなると記載されている웋 . 本論文には乳歯,永久歯の検討をデーターとして 記載していないが,当科受診の乳歯の外傷患者2 4 名 の受傷様式別の. 布. 文. 換以降まで経過観察した報告. 類では脱臼が最も多く1 8 名で. 7 5 %を占めていた.井上らの報告によると,乳歯は 歯冠高径が小さく直立しており,歯槽骨は未熟なた め骨梁が粗であり,歯根膜腔が広いため,外力が加 わった場合に歯の破折より脱臼の方が生じやすいと. 献. 1.歯の外傷治療のガイドライン(2012 )日本外傷歯学会ホー ムページより 2.小野博志ら(19 87 )乳歯の外傷とその影響.口病誌54:55 1 55 8 3.額田純一郎ら(1 997 )外傷による脱落永久歯36歯の再植に 関する臨床的検討.日口外誌. 55:55 1-5 58. 4.嘉藤幹夫ら(201 1)乳歯および幼若永久歯の外傷について ―外傷歯治療ガイドラインに. った処置法について―.日. 本小児歯科学会雑誌49 :21523 0 5.宮新美智世ら(2 012 )歯の外傷と治療. 小児歯科学会雑誌. 立50 周年記念誌 6.西田郁子ら(200 9)小児期の歯の外傷への対応.九州歯学 誌6 3:204 -21 0 7.井上美津子ら(2 007 )乳歯の外傷性脱臼への対応.昭和歯 7:189 -1 94 学会雑誌2 8.桐山 科誌. ら(1 99 5)顎顔面骨折症例の臨床統計的観察.日 44:20 2-2 06.

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参照

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