官僚制組織論の展開(Ⅱ) -- P. セルズニックとA. ゴールドナー --
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(2) ンパ ー ソナルな役割遂行の体系である近代的な官僚制組織は, 他の形態にく らべて, あらゆる点で技術的にすぐれた目標達成の手段とみなされた。 ウェ ーバ ー の分析は, 官僚制組織のポヂティプな側面や機能に重点をおいた分析 であり, かつ彼のモデルは, 経験的組織の平均的属性を示すものではなく, 純粋に官僚制的特質とみなされる要素のみから構成されている理念型モデル であった。 従って, そこでは 組織のイ ンフォ. ー. マルな 側面は捨象されてお. り, 諸要素間の関係も, 緊張, 矛盾を内在するものとしてではなく, 調和的 な関係においてとらえられており, 多分に合理的, 機械的な組織モデJ・レの性 格をもっていた。 マ ー トンは, ウェ. ー. バ ー の理念型モデルに内在する緊張・矛盾の論理的可. 能性を追求し, 官僚制の逆機能の理論をうちたてた。 こうして, マ ー トンの 分析は官僚制の構造のネガティプな作用を強調して, ウェ. ー. バ ー の分析を内. 容的に補完 するものであったが, 彼のとりあげた要素は, ウェ. ー. バ ー の指摘. した諸要素に限定されていること, かつまた, 経験的資料にもとづくのでは なく, 論理的推論の形で提示されていることから, 彼の分析もま た, ウェ. ー. バ ー 同様に理念型的分析であり, 従って, 官僚制の理念型分析は, マ ー トン を以って完成されたという見解が 成立しうる 2) 。 しかし, ウェ. ー. バ ー の場合. が構造分析であるのにたいして, マ ー トンの場合は機能を中心とする分析で あり, 彼の定式化した構造ー機能分析は その後の研究者にうけつがれて, 官 僚制組織論の有用なる分析用具となった。 マ ー トンの構造 ー機能分析におい ては, 逆機能や潜在的機能という概念が導入されて, 社会システムにおける 諸要素間の相互依存的関係は, 調和的で安定的な 均衡状態に おいてではな く, 緊張・矛盾を構造的にはらんだ不安定な均衡状態にあるものとしてとら えられる。. そして, このような 諸要素間の 緊張は, 条件のいかんによって. は, 社会システムの適応 および調整を減じる 結果をもたらし, あるいはま た, 社会システムの変動の一つの重要な可能的源泉とみなされる。 このような, 官僚制の逆機能への関心は, 人間関係論の展開と重要な関連 - 276(1538) -.
(3) をもっている。. 「逆機能」は基本的に, 成員に対してメカニカルに課せられ. るイ ンパ ー ソナ ルな標準化に対する人間的要素の抵抗としてとらえられ, 従 って, 逆機能の理論は, 多分に人間関係論の仮説の上に立っているからであ る。 かくして, 比較的最近の官僚制組織の社会学的研究は, 人間関係論の成 果をふま えて, イ ンフォ. ー マル組織の構造や機能を重視しており,. この点に. おいて, 半面, それは人間関係論の系譜に属するということができる。 この ような傾向をもった現代アメリカ社会学における官僚制組織論の動向を検討 するために, この小論においては, フィリップ・ セルズニックとアルヴィン •W・ ゴ ー ルドナ ー の所説のとりあげたい。 注 1)拙稿「官僚制組織論の展開(1)」, 商経学叢,1967年 9月,No. 33, 34.. 2) たとえば佐藤慶幸助教授がこの見解をとる。 佐藤慶幸著「官僚制の社会学」 186頁。. 3.. セルズニックの現実的組織過程の理論. 3. 1. 組織過程における現実と理念 セルズニックも, マ ー トン同様に, 一 貫したテ ー マとしている。. 析の. 「予期しない結果」を組織的行動の分. ただ, マ ー トンの場合は主として官僚制組. 織の内部的構造に「予期しない結果」の源泉を求めたのに対して, セルズニ ックは, かかる組織の内部構造のみならず, 組織の環境的諸要素への適応過 程において生じるコミッ トメン ト (Commitment) にも, 「予期しない結果」 の重要な 源泉を求め, これを 主題と し て TVA (the Tennessee Valley Authority) の実証研究を行っている叫 セルズニックは, この研究において, 連邦政府の強 力な政治権力を背景と する中央集権的な管理方式によらず, 地域社会の住民の意思を尊重する民主 的な分権管理方式によって運営していこうというTVA の当初の進歩的プロ グラムが, 組織の環境的諸力にたいする現実的適応過程において, 住民全体 ではな<, その一 部の利害しか代表しない強 力な利害集団の圧力によって,. - 277(1539) -.
(4) 次第に形骸化され, 民主的ベ ールの背後に, 実質的な寡頭支配が展開する傾 向を指摘した。 このような分析の背後には, 組織におけるイ ンフォ. ー マルな構造と現実的. 過程を重視する セルズニックの特色ある組織観がある。 彼は, 人間関係論や. c.. I. バ ー ナ ー ドの所説によりながら, 組織過程に. ついて次のような 仮説をおいている主 (1) すべての組織はイ ンフォ. ー. マルな構造をつくりだす。. (2) すべての組織において, 組織の目標は, その内部的過程によっ•て修正 —放棄, 歪曲, 彫琢ー―—される。 (3). 修正の過程はイ ンフォ. ー. マルな構造を通じて行われる。. (4) すべての組織の現実的手続は, 組織自体の日常的問題に対する実際的 解決をめざす行動によって修正されやすい。 このような仮説のもとに, セルズニックは, 組織を, 続合および自己維持 という基本的ニ ー ド (need) をもった社会システムとみなす機能主義の立場 に立って, 現実的組織過程の分析をこころみる。 組織は, それ自体のさま ざ ま なニ ー ドをもった社会システムであり, 組織的行動は, 多分にこのような ニ ー ドに対す反応という観点からとらえられる。 組織が自己維持という基本 的ニ ー ドをみたすためには, 環境や 個人への 適応をはから なければならな い。 この点において, 組織はすぐれて適応的な社会構造である。 このような 適応は, イ ンフォ ー マルな構造を生み出し, それを通じて行われる。 セルズ ニックによれば, イ ンフォ ー マルな構造の展開は, 下位集団や個人の, 自己 の存在条件をコン トロ ー ルしようとする 自生的 (spontaneously) 努力の反 映であり凡組織は自己の防衛のために 自生的にイ ンフォ ー マルな構造を生 み出す。 このような観点から, セルズニックは,. 「すべてのフォ ー マル組織. は, 合理的に整序された構造と明確な 目標に接する 諸力によって形成され る 4) 」 という命題を導き出し, 実際の組織の形成が, 社会的諸力の作用によ って, それの規定をうけてなされる点を強調している。. - 278(1540) -.
(5) こうして, 社会システムとしての組織は, その現実的過程において, それ 自体のニ ー ドやパワ ー ・センタ. ー. を生み出し, その独自の存在を主張する社. 会的構成体という側面をもっている。 組織のこのような側面が, 本来の目標 遂行の合理的体系たるフォ ー マル組織という側面との間に様々の矛盾, 緊張 をもたらし, それが目標の修正, 転位などの「予期しない結果」を生み出す 力となって作用する。 発生的観点から みると, 組織はまず,. 抽象的可能性の 問題として提案さ. れ, それが具体的な形態としてあらわれるのは, 組織自体の環境への適応過 程あるいは調整過程においてである 5) 。 すべての組織は 一連の理念の体系や 公式的プログラムをもっている。 しかしこれだけでもって, 組織の現実的存 在を論じることはできない 6) 。 理念としての組織と現実の 組織は必ずしも一 致せず, 両者は区別されねばならない。 このようにして, セルズニックは理 念と現実のギャップに焦点を合わして分析を行う。 ゜. 適応的な社会構造としての組織の現実的過程においては, フォ ー マルなフ ログラムとは直接の関連をもたず, したがってその青写真には予定されてい. ない諸要素へのコミットメントが生じ, 目標遂行をめざす組織の合理的行動 が, それによって制約を受ける。 このような現実の組織的行動に影響をおよ ほしている構造的諸条件をとりあげることが組織論の重要な課題であり, な かんづく重要な比重を占めているインフォ ー マルな構造の演じる役割に注目 せねばならないとセルズニックはみなしている。 このような, 目標遂行の合 理的行動を制約する構造的諸条件の検討は, 組織過程における矛盾や緊張を 分析の焦点にうかび上らせる。 組織過程における矛盾や緊張, その「予期し ない結果」が, かくしてセルズニックの組織分析の主題となる。 セルズニックはこのような「予期しない結果」を生み出す基本的メカニズ ムを「コミットメント」という概念によって統一的に とらえようと してい る。 彼は「コミットメント」という概念を「組織的行動を実際に形成する構 造的条件に 注意を 集中させるために用いた」と述べ, 社会的行動に おける. - 279(1541) -.
(6) 「コミッ トメン ト」とは「環境的諸力によって指令された決定 (an enforced line of action) を さすものであり,. その結果として, 手段と目的との自由. な科学的調整が実際に制約されることである」 と指摘している叫すなわち 「コミッ トメン ト」 とは, それとの接触や相互作用が組織にとって不可避で あるところの社会的諸力を通じて, それらの諸力がになっている価値が組織 にもちこまれ, 組織の目標遂行の合理的行動がこれらの価値によって制約さ れ, それが組織の実際の行動の基準となっているところの, このような価値 への自己付託である。 セルズニックはコミッ トメン トの五つの某本的類型をあげている 8) 。 (1) 組織に固有な至上命令に よるコミッ トメン ト。. その 目標がなんであ. れ, システムとしての 組織は, 自己を維持する必要から出てくる至上命令 (imperatives) をもつ。 ある目標を達成するために組織がひとたび形成され ると, 組織の 行動はこのような至上命令によって拘束され, 組織の発案者 (the initiators of the action) には 予期されなかった結果を生み, 目標か らの逸脱の原因となる。 ここから「組織の存続統合の問題と組織目標達成の 問題をいかに調整していくかということが, 組織過程において重要な問題と なる」と佐藤慶幸助教授は指摘している叫 (2). 組織成員の社会的性格によるコミッ トメン ト。 社会的背景や経歴によ. って様々に性格形成された人々が成員として組織に入ってくる。 彼らは, 自 分達の見解や習慣とあい入れない要求に抵抗する。 そのため, 従業員の自由 な選択が実質的に限定されることになる。 従って, 成員の採用や補充にあた り, 彼らの見解や習慣を十分に考慮に入れていないと, それがしばしば 「予 期しない結果」を生み出しやすい状況を招く。 このような成員の社会的背景 や経歴からくるミッ トメン トは, 基本的に 組織内で 統制できない 要素であ り, 従って, 組織の社会的性格について人為的統制を加えようとする場合, 社会的起源という基準によって採用がせまく限定されることに注意しなけれ lit.ょらない。. - 280 (1542) -.
(7) (3) 組織の制度化によるコミットメント。 セルズニックは,. 「組織が価値. を吹きこまれたときに, すなわち, たんなる道具としてではなしに, 直接的 に人間の満足の源泉および集団の 一体感の媒介物として重じられるときに組 織が制度化されてくる」と指摘している 10) 。 この制度化の過程において確立 したパタ ー ンヘのコミットメントが生じ, かくして, 再び代替的行為の選択 が限定されて, 行為が特定の方向へかたよりがちになり, フォ ー マルなプロ グラムとの間にギャップが生じ, 予期しない結果がもたらされてくる。 政策 が 抽象的な ドクトリンとして制度化されて, オペレ ー ショナルな内容をもた ない場合, その具体的内容は委任された人々の特定の利害や問題によって与 えられやすく, かくして ドクトリンの形成は, 委任の内在的危険をつよめる 傾向がある。 フォ ー マルな自標の達成よりも, 成員の役割の方が重じられる 場合も,. 一. 種の制度化のあらわれであって, その場合, TV Aの農業部門の. 戦員の「熱狂的」な行動が示すように, フォ ー マルな目標との関連が失われ やすい。 (4) 社会的, 文化的環境によるコミットメント。 新しい政策を遂行するた めに組織活動を編成し実施しようとする場合, 現存の社会的構造および文化 の類型に合 致した様式が用いられねばならず, それが 一つの行動の基準とな って組織の活動を制約する。 もし, 組織的決定が制度的文脈を全然考慮に入 れずになされる場合, そこには当然, 予期しない結果があらわれてくる。 と くに緊張を含んだ状況の中で, 新しく組織を形成して, あるプログラムを実 施しようとする場合, そこで対立, 競合しあっている諸勢力が, 各自の戦略 的条件にどのような影響をもたらすかという観点から, その新しい組織の出 現を評量し, 態度をきめる。 こうして, 社会的環境に存在している権力およ び利害関係の中核体が, そのプログラムを受け容れたり, 抵抗したりするこ とによって, 組織の計画は大きな影響を受ける。 (5) 行為の過程において生じる利害関係の中核体によるコミットメント。 組織的過程に おいては, たえず「委任」 (delegation) に よって 二次的集団 - 281 (1543) -.
(8) が生み出され, それが利害関係の中核体となる。 委任行為は, その職能の遂 行における自由裁量を認容する点において, 他人の意思への依存という性格 をもっている。 そして, 自由裁量の行使において, 決定が委任された者達の 特殊な目標や問題のためになされることがある。 しかも, 組織における二次 的集団の任意の行動が, 全体としての組織の名目で行れる場合, 全体として の組織の活動は, そのフォ ー マルなプログラムにおいては 予期されなかった 特定の方向へまきこまれていく結果をまねきやすい。 換言すれば, 組織内の 個々人あるいは二次的集団のインフォ ー マルな諸目標に対する有効な統制が 欠けていると, 組織は本来のプログラムから逸脱する 傾向がある。 実は, こ のことは, 組織内部における委任のみならず, TV Aと農科大学 (the land grant colleges) の 関係に みられるように, 組織と組織との委任関係につい ても妥当する。 セルズニックは, このような 種々の類型のコミットメントが組織的行動の 実際の基準を形成し, それによって行動が制約債れることから, フォ ー マル なプログラムの遂行との間に矛盾, 緊張が生じ, 「 予期しない結果」 が生じ るとみなしている。 セルズニックは, このような様々なコミットメントによってもたらされる 現実的組織過程における緊張やディレン マに, 決定やコントロ ールに関する 重要な問題点の所在の 一つを見出している。 組織的コントロ ールが分解する キー・ポイントがここに見出されるからである。 オペレィショナルな観点か らすると, コントロ ールの分解は, 観察可能な 予期しない結果の発生によっ て示される。 これは, 特定の情況に内在する様々な重要な可能性が考慮に入 れられていなかったということに等しい。 従って, 「 予期しない結果」の減 少という結果を伴ったコントロ ールの拡大は, 組織の現実的過程において作 用する重要な諸 力やそこに内在する可能性を明らかにしてそれを考慮に入れ ることによって達成されるのであり, それによって政策プログラムをより具 体的に実現可能なものとして立案することが可能になる。 かくして,. - 282(1544) -. コ ミッ.
(9) トメントの分析は, 組織的行動における意思決定に影響をおよぽす構造的諸 要素を明らかにするうえに有益な 用具であると セルズ ニ ックは強調してい るIll 0. このようにして, セルズ ニ ックは「予期しない結果」を生み出す構造的条 件に焦点を合わして現実的組織過程の分析を試みている。 TVAの実証研究 は, 組織と環境との相互作 用の過程において生じる「 予期しない結果」を主 題としたものであって,. ニ. ュ ー ・ディ. ール機関によって採用された分権管理. 政策 (Grass-roots Policy) が, その進歩的な計画に根本的変化をもたらすよ うな 予期しない結果をうんだことを指摘している。 TVAは, 地域社会の住 民の生活に影響をおよぽす連邦政府機関の運営については, かれらにも発言 権が与えられねばならないという観点にたって分権管理政策をとり入れた。 しかし, 実際にはテネシ ー 峡谷の全住民を行政上の決定に参加させることは 不可能であり, かくして, 地域社会の強力な団体の代表が政策決定機関の地 位に任命された。 かれらは必ずしも住民の全体を代表せず,. 一. 部の強力な保. 守諮力の利害関係を代表するものであった。 こうして, TVAに強い反対を 示していた強力な保守塾力を, その指導構造に吸収する (Cooptation)ことに よって, 彼らの反対をさけるという組織のニ ー ドをみたすことができた。 し かしその結果, かれらの利害が TVAの政策決定に反映されることになり, それによって政策が修正され, 保守化してゆき, 次第に ニ ュ ー ・ディ. ー. ル的. 原則から遠ざかる結果となった。 こうしてセルズニックは, TVAの研究に おいて, 現実的な組織的行動が環境的要素へのコミットメントによって, 挫 折, 逸脱していく過程をえがきだしたのである。 注1) Philip Selznick, T V A and the Grass Roots, Univrersity of Califo rnia Press, Berkeley and Los Angeles, 1953. 2) Selznich, "An Approach to a Teory of Bureaucracy, "American Socialogical Review, Vol. 8, 1943, pp. 47�54. 3) Selznick, TVA and the Grass Roots, op. cit. , p. 251. 4) ibid. , p. 251.. - 283 (1545) -.
(10) 5) 6) 7) 8). 佐藤慶幸著, 「官僚制の社会学」, 220頁。 同上, 221頁。 Selznick, TV A and the Grass Roots, op. cit. , p. 255. ibid. , pp. 258.. 9 ) 佐藤慶幸著, 上掲書, 223頁。 10) Selznick, Leadership in Administration, New York: Row, Peterson, 1957, p. 40. セ ルズニ ッ ク 著, 北 野 利 信 訳 「組 織 と リ ー ダ ー シ ッ プ」 ダ イ ヤ モ ン ド社, 1963年, 51頁。 11) Selznick, TVA and the Grass Roots, op. cit. , p. 258. 3 • 2, 「委任」 の 機能 と 逆機能 セルズニックは 官僚制組織の内部的過程 における「予期しない結果」 に つ いて, 「委任」 を 中 心要素とする 分析 を行っている 叫 集 団的活動 において, 職能の 数が ふえ, 内容が 複 雑 になってくると「 職能 (functions) の 委 任」の必 要性が 出てくる 2) 。 組織が 大きくなりコ ントロ ー. ルの課題が ふえてくると, 委任 を通じてそれ を 維持しなければならないか. らである。 セルズニック によれば, 委任は組織のコ ントロ ールの要求 に対す る反応であり, その テクニックである。 それ ぞれの特定の職能が 下位の職員 に委任 されると, その委任 さ れた職能 に関する職員のトレ ー ニ ングの量が ふ ぇ, 専門化が高められる。 「委任」の重要な機能的意 義は, 専門化の促進で ある。 専門化は 技術的根拠に基 づく決定の合理性 を高め, コ ントロ ールの有効性 を 増すこと によって, 組織の目標の達成 を 促進する。 これがよりいっそうの 委任の 剌戟となる。 このような 専門化の促進は, むし ろ委任の意 図 された結 果である。 しかし, 委任は さ ま ざまの「予期しない結果」 を伴う。 委任は組織の 内部 における 部門化 をもたらし,. 下位集 団の 形成 にみちび. く。 比 較的限定 された 領域 に注意 を集 中することは成員のその 領域 における 訓練をますととも に, 他方 において, その 視野 をせばめること になり, 専門 閉塞化 を 招きやすい。 これが 下位集 団間のイ ンタ レ ストの分化, 対立 を促進 - 284(1546) -.
(11) する。 このような情況の下では, 成員の行動は組織のフォ ー マルな目標の達 成への志向よりも, 下位集団のニ ー ドによ って 直接支配されやすい。 このよ うにして下位集団間のイン タ レ ストの分化は , 成員による 下位渠団の諸目標 の内面化をもたらし, これが決定の内容に影響をおよ ぼす。 決定が, 組織に おける 資源の配分やコントロ ールをめ ぐる下位 集団間の内 部的戦略にもと づ いてなされるようになる 。 ここから, 組織の目標と遂行とのギ ャ ップが出て くる。 内 部的コントロ ールをめ ぐる 下位集団間の抗 争は, 日 常的決定に 直接に影 轡する だけでなく, 下位集団の イデオロギ ー をより 精緻化させる 原 因とな る。 各下位集団は, その要 求を正 当化 するために, 全体としての組織の公式 的な ドクトリンを 操作 する。 このような策 略は下位集団の諸目標のよりいっ そうの内面化の 一 因となる。 更に, 下 位集団の目標の内面化は, それが影密 をおよ ぼすとこ ろの 日 常的決定からのフ ィ ー ド ・ バックによっても強められ る。. 日 常的決定のくりかえしは, 「先例」というシステムを生み出 す。 主と. してこの 種の決定は, 組織における オペ レ ィショナルな基準にもと づいてな されるが, 下位集団の 諸目的が そのなかで 重要な 位 置をしめている。 「先 例」は, それが適切であると規定された情況に対 する 習 慣的反応となる 傾向 があり, ここからも 下位集団の 内面化が強められてくる。 明らかに, 下位 集団 の目標の内面化は, ひと つには, 組織の目標がどの程度 オペ レ ィ ショナ ルな 性格をもっているかと いうことに 依存している。 目標の オペ レ ィ ショ ナルな性格とは, 目標の達成度が競察でき, テストしうる可能性の程度をい う 叫 組織の目標の オペ レ ィショナルな性格の度合が 日 常的決定の内容に影 響をおよぽし, 従って, 下位集団の目標の成員による内 面化の程度にも影響 をおよぽしてくる。 これによって明らかなように, 「委任」は 組織の目標の達成に対して機能 的結果と 逆機能的結果の 双方をもっている。 セルズニックによれば, このい ずれの結果も, 通常よりいっそうの委任を 促進する。 目標が達成されない場 - 285 (1547) -.
(12) 合, 「機械的 モデル 」 のフレイムワ ー クの下で は, それ は よ り い っそうの委 任の必要性 (専門 化の高度 化 ) を示 唆するものとみなされるからである。 このように セルズニック は「委任 」 に内在する逆機能的 傾向 を指摘し, か かる 逆機能に対 処する 方 法として (1) 組織の 目 標の オ ペ レィショナルな性格 を高めること, と (2) 成 員による組織の 目 標の内 面 化 を つよめることの 2 つ を示 唆している。 セルズニック はとくに, 活動の発案者 (the initiator of action) すなわち トップ ・ オ ー ソ リ ティ ー と委任された職員, すなわち エィ ジ エント の間の利 害の分化 (bifurcation of interest) を強調している 叫 一般に, 限定された 個人の域 をこえてよ り 大なるもの を追求する 活動 は, エイ ジ ェント を通じて行う活動となる 。 工ィ ジ ェ ント は 活動の発案者とその活動の 目 標の間に介在 する媒介的手段 (intermediary) ということがで きる。 このような 媒介的手段たる エィ ジ ェ ントの利用 は, 工ィ ジ ェントと 活動の発案者の利害の分化 を生み出 す。 それ は, 委任によ って性 質 を異に する 二組みの諸問題が生じるからである。 活動 の 発案者にと って は, 彼 を活動に 駆 り たてたとこ ろの オ リ ジナルな 目標の達 成が重大な問題であるのに対して, 工ィ ジ ェ ントにと って は, 主として エィ ジ ェントとしての社会的地位に 関連 する 諸問題が重大な意 義 をも つ。 エィ ジ ェ ントがになう様々の新しい価値 は, 組織の オ リ ジ ナルな 目標 を ほ り くず す ような 客観的結果 を 伴う行 為 を 生み出しやすい 性格 をも っている。 かくし て, 活動の 発案者と は 異なる社会的地位や役割 をも つ エィ ジ ェント は, 発案 者の設定した 目標と は 異なる 目標 を追求する 傾向がある。 しかし, このよう なコン フ リ クト は, 必ずしも 個人あるい は集 団としての暦用者と エイ ジ ェン トの間に存在すると はか ぎらない 。 後者 は 前者の理念 を操作しうるからであ る。 セルズニック は, かかるコンフ リ クト は, むし ろ基本的に, 現実的組織 過程と公 式的に 樹立された諸 目標の間に存在すると 指摘している 5) このようなインタ レ ストの分化 は, 活動の発案者にと っても, 工ィ ジ ェン. - 286(1548) -.
(13) トに と っ ても,. コ. ン トロ ー ルを最 と も重要な争点 と する。 各集 団が その存亡. をかけて追求するのは, それぞれの下位集団のも っ ている特殊な諸問題を解 決する ために (必ずしも意識的である と はか ぎらないが), 操作しよう と し ている諸条件 (組織メ カ ニズム ) の コ ン トロ ー ルである。 かかる コ ン トロ ー ルをめぐる争いにおいてフォ ー マルな規則の体系よりも, 主に人的影響力を 中 心 と する諸関係にも と づいて, イ ンフォ ー マルな構造が現われて く る。 組 織の 現実的過程は, このような イ ンフォ ー マルな 構造を 通じて, 目標の転 位, 修正をもたらす。 主 と して, 組織の実際の運営にたずさわるのは委任されたエィ ジ ェ ン トで あるゆえに組織の運営に関する 技能や専門的能力が彼らの手に集 中するこ と から, 彼らが権力をめ ぐ る争いにおいて 戦略的位置を 占めるこ と になりやす い。 この場合, 彼等のもつ特殊な諸問題が組織全体の問題 と して 扱われる可 能性が出て く る。 すなわち, 元来は媒介的手段たるエィ ジ ェ ン トが実質的に 組織全体の目標を定めるこ と が可能 と なる事態が生じる。 通 常は組織のオ リ ジ ナルな目標がなお形式上は維持されているけれども, 職員達の行為は, 次 第に内部的意味関連によ っ て支配されるようになり, それがオ リ ジ ナルなプ ロ グラム から組織を逸脱させる結果を招 く 。 セ ルズニックは 「官僚制化」 と いう 用語を, このような 現実的 組織過程 の, オ リ ジ ナルな公式的プロ グラム からの逸脱をさして用いている。 活動の 発案者たる トップ ・ オ ー ソ リ ティ ー よりも, 介在的な 工 ィ ジ ェ ン トに組織メ カニズ ム の コ ン トロ ー ルが集 中し, 彼らの特殊な諸目標が組織行動の基準に 反映し, それが目標の転 位 • 逸脱を招 く 事態を 強調するものである。 「予期 しない結果」 を組織分析の主題 と する セ ルゼニックの研究 は, ま さし く かか る意味での 「官僚制化」 の研究 である と いうこ と がいえる。 彼はかかる官僚 制化の基本的原因を, 形式的青写真 と してのフォ ー マル組織 と , 現実的組織 過程のギ ャ ップに求め, 現実的組織過程の 理論の 定式化を 意図するのであ る。 このようにして, セルズニックの現実的組織過程の理論は, 目標 と それ. - 287(1549) -.
(14) を達成するための手段 (組織 ) の緊張 を強調するものであって, 手段へのコ ミ ットメントが組織の統合および自 己維持という基本 的ニ ー ド をみたしなが らも, 同 時にそれが, オリ ジ ナルなプログラ ムからの逸脱の 原因となること を明らかにしようとしたものである 。 機能主義の立場は, 目標の達成よりも システムとしての組織の統合および自 己維持という点 を強調する 。 この立場 では, 官僚制 的構造 原理は, ウ ェ ー バ ーが強調したように目標の達成に能率 的であるからというよりは, むし ろ 社会システムとしての組織の統合および 自 己維持というニ ー ド をみたすがゆえに 展開するとみなされる 。 し かし, 活 動の発案者にとっては, 組織自体が自 己目 的ではない 。 彼にとって重要なの は, 組織 を生みだすにいたった 原因であるとこ ろの 「目標」の達成である 。 組織の維持, 存 続は, むし ろ委任された エィ ジ ェントにとって 直接 的により 重要なものとなる 。 この場合に, 組織自体が自 己目 的化してくる 。. 「官僚制. 的行動とは, かかる エィ ジ ェントの行動 をさすものである」とセルズニック は指摘している 6) セルズニックが 「予期しない結果」として主に 強調するのは, 「目椋の 転 移」, 「組織活動の逸脱」などのネ ガティ プな側面である 。 これが, セルズニ ックの所 説に, ペシミ スティックな論調 を与える 一つの 原因となっており, ゴ ール ドナ ーが危険な傾向と強く批判している点である 。 マ ー トンの機能概 念のパ ラダ イ ムにも示されるように, 「 予期しない結果」 は 逆機能ばかりで はなく, 「潜在 的に機能 的」な予期しない結果もありうるのである 。 この点, 同じく イ ン フ ォ ー マルな構造 を重 視する 官僚制組織の分析 を試みながらも, 比較的明るいパ ー ス ヘクティ プ を提示する プ ラ ウ と対 照 的である 。 しかし, セルズニックが指摘する理 念と現実の ギャップが, 組織過程の 日 常における 経験的事実であるとすれば, これ を説明しうる組織の理論が必要である。 こ れは従来の伝統的なフォ ー マル組織の理論の 一つの弱点で あった 。 マ ートン の定式 化した 構造機能分析 をうけついで, 現実 的組織過程に 着 目し, 「予期 しない結果」 をより体系 的な分析の 狙上にのせたことは, セルズニックの 一. - 288(1550) -.
(15) つの業績というべきで あ ろう。 セ ルズニックの組織分析は, 現実 的組織過程 の理論 的解明 に 一 つの重要なる 糸 口 を提供するもので ある。 注 1). Selznick, •An Approach to a Theory of Bureaucracy" American Socioloial Review, Vol. 8, 1943, pp. 47-54.. なお, マ ー チ サ イ モ ン も セルズニ ッ ク の モデルの紹介を行 っ て い る 。 J. G . March and H . A , Simon, Organgizations, New York, John Wiley, 1958, pp. 4(),-...,44.. 2 ) Selznick, ibid. , p. 51. 3 ) J. G. Marh and H. A. Simon, Organizations, p. 42. 4 ) Selznick, • An Approach to a theory of Bureaucracy, op. cit. , pp. 改),-..,51.. 5 ) ibid. , p. 51. 6 ) ibid. , p. 50.. 4.. A.. W.. ゴ ー ル ド ナ ー の 構 造 的 緊 張 モ デ ル と 官 僚 制 の 理論. 4 . 1. ゴ ー ル ド ナ ー の 組織 モ デ ル マック ス ・ ウ ェ ー バ ーは 高 度 に 普 遍 的な世界史 的 次 元から, 近代社会 に お ける 官僚制化の 進 展という 問題 をとり あげた。 これ に対し,. ゴ ー ル ドナ ー. は, ある 石膏事業所 に関する あく ま でも 直接 的な現場観察 による 経験的資料 ゜. にもと づい て, 官僚制化の動 的フロセ スと類型 に関する 精級な実 証研究 を行 っ て いる 叫 ゴ ー ルナ ド ーがこの実 証研究 に 着手した重要な動機の 一 つは, ウ ェ ー バ ーやミ ヘ ル ス, セ ルズニックの 所 説 に含 まれ ているす ぐれて運命論 的, 決定論 的 ペシミズム に 抵抗 を感じた点 に ある 。 勿論, ゴ ー ル ドナ ーも, ウ ェ ー バ ー 同様 に, 世界の官僚制化が現代社会の基本 的趨努で あること を 認 め ている 。 しかし, 現代社会 に おい ては, ウ ェ ー バ ー が 説く ごと <. ' 文化 的 ・ 社会 的状況のいかん を問わず, 官僚制が必 至で あり, か つそれが つね に 同 ーの様相 を呈するもので あ ろうか, 世界の 官僚制化 を 前 にし て, それ に対す る人間の抵抗は, 所詮空しい 努力 にす ぎ ぬもので あ ろうか。 ゴ ー ル ドナ ー は このような見方 に 疑問をも つ。 - 289(1551) -.
(16) ゴ ー ル ドナ ーはこれらの問題に対して, 経験的資料に もとづく実証的分析 によって 回答を見 出そう とする。 ゴ ー ル ドナ ーによれば, ウ ェ ー バ ーは組織 全体に対する 官僚制の機能に 主たる関 心を払っているが, これだけでは 十分 ではなく, 官僚制がだれのために , 何のために機能するかという問いかけが 必要であると 強調している 2) 。 このような問いかけは 官僚制が組織における 集団間の力関係によって 左右されるという点に注意 を ひきつける。 ゴ ー ル ド ナ ーは, 官僚制はあくまで も人間努力の産物であり, 官僚制化 をおしすすめ ようとする側とそれに 抵抗する側の 競合の所 産であり, 両者の力関 係によっ て, 従って 又, その間の緊張によって, その程度および様相が 多分に規定さ れるとみなし, そこから 異なる 官僚制の類型 を導き 出してくる。 更に ゴ ー ル ドナ ー は, 権威に関する ウ ェ ー バ ーの分析において, 合意の役 ゜. 割と民 主 的フ ロセ スの役割が 曖昧な点 を問題にしている 叫 ウ ェ ー バ ーは 主 として 服従が 求められ, かつ 与えられる根拠に 照らして権威 を分類してお り, 従って ウ ェ ー バ ー においては, 権威は, それが合意 を 引き 出すがゆえに 正 当性 を もつのではなく, それが 正当 性 を も つがゆえに合意が与えられる も のであった。 したがって, ウ ェ ー バ ーにとって, 合意は, その根 源 を追求す る問題であるのでなく, つねに支えられたる ものとして受け とるべき 一つの 与件であった。 「その結果, ウ ェ ー バ ーは合意 を 発生させる現実の社会過程, もしくは, 合意の成立 を挫折させる現実の社会過程のいずれ も体系的に分析 しなかった り と ゴ ー ル ドナ ーは指摘している。 しかし, ゴ ー ル ドナ ーに と って むし ろ重要なのは, このような現実的社会過程であり, そこにおける合 意 や 民 主的プ ロ セ スの役割に注目することによって, はじめ て 官僚制の類型 化が 可能であった。 ゴ ー ル ドナ ーは, 合意 を成立させたり, 挫折させたりす る条件 を 「緊張」 という 概念 を中心としてとらえようとしており, 「緊張」 という概念は, 彼の 官僚制 や組織分析における中 心要素となっている。 このような ゴ ー ル ドナ ー の組織分析については, すでに我国において もい くつかの 紹介があり 叫 よく 知られているように, 「合理的 モデル」 (Ratio. - 290(1552) -.
(17) nal model) と 「 自 生体 系 モ デル」 (Natural-System model) の 統合 を企 図 し た 一 つ の 総合 モ デルで あ り , 塩原勉助教授 は こ れ を 「構造的 緊 張 モ デル」 と名づけて い る 叉 「合理 的 モ デル」 は , 組 織 を 合理 的 に設計 さ れた 用 具 , 目 標達成 の た め の 手段 と み な す。 そ れ は , 合 目 的 的 な デザ イ ン の も と に , 合理 的 に 形成 さ れ た 構造を も ち , 操作可能な 諸部分か ら な る 目 的合理 的 な 体系 で あ り ,. 一. 種の機. 械 に見立て ら れ る 。 従 っ て , 不調和 な 部分が生 じ る と そ れを 切 り は な し て 改 変す る こ と が 可能で あ り , か く し て組織 は , 作 為 的 な 操作 に よ っ て 自 由 に コ ン トロ. ー. ルで き る 用 具 と み な さ れ る 。 そ こ で は , 組 織 の 発 展 に つ い て も , 自. 由 な 人 為 的 コ ン ト ロ ー ル が 可能 と 想定 さ れ て い る 。 マ ッ ク ス ・ ウ ェ ー バ ー の 官僚制組織や伝統 的経営組織論 の モ デルが こ れ に 属す る 。 自 生体系 モ デル ル は , 組織を, そ れ を構成す る 諸要素が相 互依存 的 関 係 に あ っ て , 全体 を構成す る 社会 シ ス テ ム と み な す 。 組織 は 単 に 目 標 達成 の 合理 的 用 具 で あ る ば か り で な く , そ れ 自 体 の 多 様 な ニ ー ド を も つ 適 応 的 な 社会構 造 で あ り , ひ と た び成立す る と 組織の 維持 自 体 を 重要な 目 的 と す る に い た る 。 組織の均衡 お よ び存続 は , 計 画 的 な デザ イ ン に よ る よ り も , 無計画 的 , 自 生 的 な 適応 的 反応 に よ っ て 維持 さ れ る と み な さ れ, イ ン フ ェ ー マ ル組織の 機能が重視 さ れ る 。 か か る シ ス テ ム と し て の組織 の 自 生的反応 は , 目 標 達成 の 合 理 的 行 動 を 制約 し , 様 々 の 予期 し な い結果を う ん で , フ ォ グ ラ ム か ら の 逸 脱 の 原 因 と な り やす い 。 組 織 の 変化 の パ タ 計 画 的 な コ ン ト ロ ー ル に従 う と い う よ り も ,. ー. ー. マ ルな プ ロ. ン も , 人為的 ・. ホ メ オ ス タ テ ィ ッ ク (homeosー. tatic) な 反応 と い う 観点 か ら と ら え ら れ る 。 こ の モ デル は , 計画組織 に よ る 人 工 の 秩 序 よ り も , 自 然 の ま ま に な る 秩序の方が, つ ね に 優れて い る と み な す オ ー ギ ュ ス ト ・ コ ン ト に 源流 を も ち , 現在で は セ ル ズ ニ ッ ク , パ ー ソ ン ズ 等 の 理論 に 代表 さ れ る と い わ れて い る 叫 ゴ ー ル ド ナ ー は , 従来の組織分析か ら こ の二つ の モ デル を 析 出 す る と と も に , 現実の組織 に は こ れ ら の モ デルが強調 し て い る 諸特質 が と も に 共存す る - 291 (1553) -.
(18) がゆ え に, 両者の間の 矛盾, 緊張が組織の構造 内 に 固有に存在し, したがっ て, かかる緊張はむし ろ 組織 に とっ て 常態的である と みなし, そこ に組織の ダイナミズムの動 因を求めている。 彼の「 山 猫 スト ライ キ」 の研究 (Wildcat Strike, London : Kegan Paul, 1955. ) は, 緊張が組織変化を 生み 出し, 官 僚制化を 招く プロ セ スの 具体的な例証であったし, 「 産業 に お ける 官 僚制の 類型」( Patterns of Industrial Bureaucracy, London: Kegan Paul, 1955. ) も, 「緊張」 という要素を重要な メ ルク マ ー ル とし てな された分析であった 。 このよう にし て ゴ ール ドナ ー は, 従来の組織論 に お ける二つの モ デルを, 組織 に 固有な緊張それ自体を モ デル化するこ と によって統合しよう と試 み て いる。 彼 は マ ー ト ンの構造機能分析を受 けついで, 社会 システムを構成する 諸要素の相互依存的関係を, 安定的な均衡状態 にある と みな さず, むし ろ 矛 盾, 緊張を はらんだ 不安定な状態 にあるもの と み なし, したがって社会 シス テム自体がつね に変動への可能性を構造的 に はらんでいる と みなしている。 かかる緊張の基 礎理論の 定式化の 一つの 試 み と し て, ゴ ール ドナ ー は,「部 分の機能的自律性」 と「相互性」 の関係を とりあ げ て検討を 行っ ている 8) 。 ゴ ール ドナ ー によれば, 相互依存的関係 は必ずしも等価交換的なも の と は か ぎらず, 均衡を意味するもので はない。 組織 諸部分ないし, 成員の間の相 互の 補 完関係や 同調行動 は, 合理的 モ デル に おい ても自生体系 モ デル に おい てもきわめ て 重要な 問題 と し て とりあ げられ てきた。. とく に 後者の モ デル. は, 均 衡 は, 諸部分の相互の 期 待 に 同調する 程度いかん に依存する と みなし ている。 そこで は, 役割期待の 補 完性が ひ とたび成立する と, 同調行動 は維 持 され, 互恵的な相互性が反復する という暗黙の 前提がある。 しかしそこで は, 「 補 完性」 と「相互性」 が 混 同 さ れ ているが ゆ え に, この 前提に は疑問 がある。 更 に 同調行動の反 復が, 当 事者間の 報償を維持ないし 増大 させる と いう 普遍的な確証 はない。 むし ろ 逆 に, 同調行動の 長い反 復 によって, 所与 の 報償が 当然 となっ て 感 謝 さ れず, 相対的 に 満足度を 逓 減 させる 場 合があ る。 かかる 状況 に おい て, もし当 事者の 一 方が 以前の報償の レ ベルを維持す - 292 (1554) -.
(19) るために, 他方の 期待する基 準に対してますます 同調 を余儀なくされると, そこに緊張が 生じてくる 。 もし , このような 逓減する満足度 を減う 何ものか が自動的に 産出されないとすれば, 同調行 動に 困 難が 生じ , 組織 均 衡に資し なくなる 。 同調行動が強要されるにいたると緊張はますます大きくなる 。 か くしてシステムの諸部分間の相互依然的関係は必ずしも 均衡を保証するもの ではない。 こうしてシステムの諸部分は , 必ずしも 完全な 同調行動 をとるとはか ぎら ず, むし ろ , ある 程度の機能的自 律性を要 求するのが 常である 。 他方, シス テムとしての組織は ,. 全体的な統合の 維持 を 重 要なニ ー ドとしてもってい. る 。 かくして, 相互依存性による統合的 全体という概念に対して, 部分の機 能的自 律性という概念が対 懺されなければならない 。 経験上, 部分の自律性 が 高度であれば, 組織の相互依存性は 低度である。 このようにして , 組織 全 体の 一体性 を維持することと, 各部分の 一体性 を維することとの間には, 矛 盾 • 背反がある 。 ここに組織における緊張の最とも 深い 源 泉の 一つがある 。 諸部分に統制 を課し , 結合させる求心力と諸部分に 加わる統制に 抵抗し, 分 離せしめる 遠心力から 生じる緊張は組織 を不断に 動態化する 。 もち ろん , 部 分の自 律性と 緊張との 関係はけっして 単純なものではなく, 自 律性の高い 「コ ス モ ポリタ ン 」, 低い「ロ ー カル 」 というように 10) , 機能的自律性の程 度や方向性は様々である 。 とこ ろで, このような部分の自律性による組織変 化は, つねに組織の存 続にとって否定的に作 用するものとはか ぎらない 。 適 度の部分自 律性は むし ろプ ラスの機能 をもちうるのであって , それは 不断に ゜. ',. 組織 を再構成していく柔軟な適応フ ロ セ ス を 可能にするものであることはコ. ール ドナ ーばか りでなく, セルズニックによっても指摘されているとこ ろで ある I I ) 。 こうして, 部分の機能的 自 律性という 問題は組紙の緊張および変 化の分析 にとって 戦略的 位 濫 を 占めるものであり, 経営組織 論において もしばしば 論 義 を 呼んでいる集権 管理と分権管理の 問題も, この 問 題と 深い関 連をもって. - 293(1555) -.
(20) いる。 ゴ ー ルドナ ー はこの他にも, 組織における緊張の構造的源泉をいくつか指 摘している 12) 。 たとえば, 専門的 技能に基く権威と官僚制的職位と規律にも とづく権威, 結果の重視と手続の重視, 専門技能に志向するコスモボ リ タ ン と特定組織への忠誠をちかう帰属主義のロ ー カル, 官僚制の合理性とシステ ムの均衡性, 等々である。 かくして, ゴ ー ルドナ ー の組織モデルは, 緊張を構造的に位置づけ, そこ か ら 組織のダイ ナミズムをと ら えようとするモデルである。 このような 緊 張 のとりあげ 方は, 実はゴ ー ルドナ ー ばかりでなく, セルズニッ フ , プ ラウ, クロ ジ ェ などの所説にもみ ら れるところであり, マ ー トンの構造 ー機能的ア プロ ー チの系譜をひく官僚制組織論の一 つの大 き な特色となっている。 この アプロ ー チ によれば, 「機械的モデル」における 如く, 緊張は必ずしも不調 整, 故障とはみなされず, むしろシステムの適応および発展にとって必要な 要素とみなされる。 ゴ ー ルドナ ー は, このような緊張の機能的意義を重視す る官僚制組織論の中でも, 最も体系的にこの問題をとり あげた研究者の一人 として注 目 されるべき位置にあるということができるであ ろう。 注 1 ) A. W. Goulner, Wildcat Strike, London : Kegan Paul, 1955. A. W. Gouldner, Patterns of lndustrial Bureaucracy, London : Kegan Paul, 1955. A. W. ゴール ド ナ ー著, 岡本秀明 · 塩原勉訳 「産業 に お ける官僚制」, ダイ ヤ モ ン ド社, 1963年。 な おこの著書に関するこの小論すべての引 用 は , 原書と. と も に , この訳書 も 参照 している。 2 ) A. W. Gauldner, Patterns of lndustrial Bureaucracy, p. 240. 3 ) ibid. , pp. 22Z,....,223. 4 ) ibid. , p. 223.. 5 ) た とえば次の ものがある。 。 佐藤慶幸著, 「官僚制の社会学」 , 第六章, 第二節, 「組緞分析と 官僚制, —ゴ ー ル ド ナ ーの研究」 。 。 岡本秀明 稿, 「産業官僚制 と 緊張」 , ゴール ド ナ ー著, 岡本秀昭 • 塩原勉 訳 「産業に お ける官僚制」, ダ イ ヤ モ ン ド社, 1お�. 所収。. - 294(1556) -.
(21) 。 塩原勉稿 「組織分析に お け る 発想の諸様式」 上掲書. 所収。 6 ) 塩原勉稿, 同上。 7 ) 塩原勉稿, 同上, 330頁。 8) A. W. Gouldner, "Recipocity and Autonomy in Functional Theo ry, "in L. Z. Gross (ed), Symposium on Social Theory, Evanton: Row, Peterson, 1959, pp. 241-270.. 9 ) ゴール ド ナ ーの所説の こ の部分の 検討は, 塩原勉助教授の す ぐ れた 紹介 に 多 分 に依存 してい る 。 塩原勉稿, 上文掲論, 337-339頁。. 10) A. W. Gouldner, "Cosmopolitans and Locals: toward an analysis of latent social roles, " I & I , Administratiue Science Quarterly, vol. 2, 1957-8. 11) Philip Selznick, "Foundations of the Theony of Organization, American Sociological Rewiew, February, 1948, pp. 25-35.. 12) 塩原勉稿. 上掲論文, 335頁。. 4 • 2. 組織における緊張と官僚制 の 問題 ゴ ー ルドナ ー は, アメリカのある石音 会社の一事業所について三年間にわ たる官僚制の精緻 な 実証研究 を行い, その成 果をすでにふれた二冊の著書に ま とめて発表した。 彼はウェ ー バ ー の官僚制理論を出発点として, 近代的産業組織の分析を試 みた。 しかし, ウェ ー バ ー の官僚制理論は理念型理論であり, 必ずしも現実 の組織過程を説明するものではな かった。 従って, ウェ ー バ ー の理論の枠を こえて, より現実接近した組織の分析理論をうちたてることが ゴ ー ルドナ ー にとって必要であった。 ウェ ー バーの官僚制の分析は, 組織の成員が, 実際 に規則を遵守し, 命令に従うという仮説の上に立っており, 被支配者の抵抗 や同意の拒否に直面する場合に, いかにして権威の正当性を樹立するかとい う問題には注意を向けな かった。 しかし, この種の状況は現実にはしばしば みられる事態であって, たとえば, 官僚制的権威を, 伝統的権威にとって替 ゞ. えようとする場合にこれに直面する。 コ ー ルドナ ー の 「 山 猫ス トライ キ 」は 石帝事業所におけるこの種の状況に関する詳細 な 記述的分析である。 - 295(1557) -.
(22) ゴ ー ル ドナ ーはこの研究で, 社会システムの安定性 をおびやか す 「 脅威」 と, それ に対 する反 応たる 「防禦」 の性格が, 組織の キ ャ ラク タ ーを 大い に 規定するとみなし, これを事例 研究の主題と すること によって, 組織 にお け る緊張の 一般理論の体系化の 予 備的な 布右とし ている。 この ケ ー ス ・ ヒ スト リ ーの概要 につい ては, ゴ ール ドナ ーの要約し ている 三つの エ ピ ソ ー ド を 引 用 するのが便利であ ろ う 。 エビソー ド. I . C 均衡). : 第 二次世界大戦中 および その直後しば らくの間. は, この石音事業所の 労使 関係は比 較的安定し ていた。 労働者達は, ・ (機械 °ー. のス ヒ. ド をやた ら にあげよ う としない) 事業所長 ( ダグ爺い) の伝統的,. 温 容的な 期 待 に 即し て生 産 に従事し ていた。 経営管理者達も, 温 容的人間 関 係のパ タ ー ン (indulgency Pattern) に 関 する 労働者の 期 待 に 即し てその任 務を遂行し ていた。 工 ヒ° ソ ー ド I . C 脅威と 防禦) : やが て市場 に 変化がおこり,. 製品の販売. の 困 難が 増し, 雇用の機会も 滅少した。 このとき, たまたま 事業所長ダグが 死亡した。 (a) このよ う な 一連の変化は 経営者 をおびやか す脅威であった。. ®. °. 経営者は 事業所の 管理者の転換を 通じ て 防 禦 にでた。 ダグの 後がま に ヒ. ー レが新しい事業所 長 に 任命され, 後 には 更 に ランズ マンといれかえた。 経 営者はこれと 同 時 に 新式 機械 を 導入し, 中間管理者の レベル に おい ても, 「戦略的配箇転換」 を行った。 この新しい管理 監督者 囮は従来 にく ら べ て, より「こまかな 監督」 に 従 事した。 (c) このよ う な 丘査奢の 防 禦は, 合蜘奢 にとっ て新たな 脅威をもた ら すものであった。 それは「温 容的人間 関係 」 に 関 する 労働者の期待 を 侵害し, 彼 らの 機能的自律性 を 傷 づ けた。 ④ 労働者 達はこれ らの脅威に対し て様々の形で 防 禦 に出た。 まず 労働者の 防禦は非難 • 攻 撃な どの積極的な形であ ら われたが, 公 け に正当化できる理由がなかっ たのでやが て 消 極的な ア パシ ー に転じた。 こ う し て, こまかな 監督ー ア パシ ― ―こまかな 監督とい う 悪循環の過程 におい て, 次第 に 労使間の緊張が 高ま り, つい には 非公式な「 山 猫ス ト ライ キ」 に 発 展した。 ⑥ このよ う な 労働. - 296(1558) -.
(23) 者の 防禦は, ひるがえって, 経営者にとって, 地位をおびやかす 脅威となっ た。 エ ビ ソ ー ド I . C組織の性格変化 ) : 経営者と 組合の間に 争議解 決の協定 が結ばれたが, それは実 質的に, 官僚制的 メ カニズムの 増大によって, スト ライ キを解 決しようとするものであった。 両当 事者の権利および 義務を明確 にする 規則が導入 され, より明確な苦情処理の基準がもうけられることによ って, 粉争の 可能性を 極力小 さ くする 手筈がとられた 。 「こまかな 監督」の 非難の的であった 本社からの 派遣技師は,. ライン管理者の統制の下におか. れ, 組合の職場代表も組合幹部のより強い統制を受けることになり, 彼らが 職場をはなれると き, 監督の認 可を受けなければならないという規程ももう けられた。 こうして, 事業所はより集権化 されることによって, 表面的には より 安定的な 状態に 復した。 表面に現 われた 粉争は 終った。 しかしこのこと は, 決して以前の状態が 回復 されたことを意 味しない。 ここで用いられた 防 禦策は, 事業所の組織の性格を, よりいっそう官僚制的な 方向に変えるとい う結果をも たらしたからである。 このように, 結果として 組織の 官僚制化をより 強める 方向での問題解 決 は, スト ライ キを ひ きおこす原 因となった緊張の多くを, 実際には 何ら 消 滅 させるものではなく, それが 再び新しく表面化 させる 可能性をそのままに 残 しておくもので あった。 組織の コミ ュ ニ ケ ーションの ラインは ひ きのば さ れ, 労働者と 監督の間のインフォ ー マルな諸関係も末開発のままであった。 こまかな 監督についても, その最とも中 心的な実 践者であった二人の監督者 についてのみ, 配置転換によってとりの ぞかれただけで, それを生み出す 原 因である労働者の アパシ ーや抵抗は, 他の監督者の下では, 依然, そのまま の 状態であった。 労働者の温容的人間関係の期 待に, 監督者をしてより感応 的たらしめる 方策は 何らとられていなかった。 そのために, スト ライ キが解 決 された 数週間 後には, 再び 新たな 職場放棄が 労 働者の 話題になりはじめ た。. - 297(1559) -.
(24) こ うし て, スト ラ イ キを解決するための 防 禦は, 緊張を解決するもの では なくし て, むし ろ悪 循環を 創始するもの であった。 それは緊張をとりの ぞき 消 滅させたの ではなく, 外部からそれをと ぢこめたの である。 悪 循環の 展開 は, 防 禦システムにとっ てきわめ て重大な問題 である。 石膏事業所の場合に は, 防 禦策の 設定や選択に最も大きな影響力をもっ ている組合幹部や 会 社の 経 営者が, た また ま自分達の地位に 関 する利害と合致 する組緞的ニ ー ドのみ をとりあげ て, それがたとえば 彼らの 配下の役職者達の イ ニシャ テ ィ プを滅 殺する結果を 招 く ことに注意しなかったとこ ろに, 重要な 悪 循環の 原 因の 一 つがあると ゴ ー ル ドナ ー はみなしている。 つ まり 彼らは, 自分達の地位に気 をとられ て, 事業所を安定的な社会システムとして維持していくために要求 される様々の必要性を無視したの である。 こ う し て, ゴ ール ドナ ー は, この研究 で「緊張」が, 組織を解体から ふせ ぐための 診 断および 治療の戦略的 用具 であることを強調し, 集団における緊 張の 一 般理論を うちた てる 基礎分析を行ったの である。 彼によれば, かかる 理論は, 「純粋社会学」と 「応 用社会学」を 結びつける 戦略的 架橋である。 彼は 「 山 猫スト ラ イ キ」を 次の言 葉で 結ん でいる。 「緊張の 一般理論の 累 積 的 発 展は, 「臨床社会学」 を求める人々の 第 一の 研究課題 である」 と 2) 。 こ のよ う な組織における緊張と官僚制化の 関連の実証的分析の過程におい て, ゴ ール ドナ ー は官僚制の 三つの類型をあげることが できた 3) 第 一の類型は 模擬官僚制 (Mock Bureaucracy) である。 石音事業所の 場 合には 禁煙規則がその 例 であった。 これは, 外部の保険会社によって 設けら れた工場内 での 喫煙を禁じる 規則 であった 。 この 事業所 では 引 火物がおかれ ていることは 殆んどなかったの で, 保 険会社の検査員の 順回の場合を 除いて 労使ともこの 規則を実施しよ う としなかった。 これは 一つには, この規則が 外部の集団によって 創始されたことに 帰 因し ている。 加えて, この規則の実 施を正当化 する適切なる 理由を労働者が認めなかったことも 原因となってい る。 労働者達は, 経営管 理者の 法的権限は, 彼らがどんな 規則 でも設定 でき. - 298( 1560) -.
(25) ることを意 味するとは決して考えなかった 。 規則は集 団の価値にてらして, 正当化されるものでなければならないと考えた 。 更に, もしこの規則を強制 実施すれば, それは 事業所内の地位 区分をより鮮明にしたであ ろう。 この規 則は, 事務所での 喫煙を 許していたからである 。 従って, それは, ある集 団 に 拒否された特権を他の集 団にはっきりみとめることになり, 存 在している 地位の 差異をより鮮明ならしめるものであった 。 それは, 受け入れがたい地 位 上の 区別をぽかせる, 規則のもつ「 隠蔽機能」と裏腹の 関 係にある 。 かく してこの規則は, 実 質的に 空文であり, 労働者と 経営管理者の間に ほとんど 全く, あるいは全然緊張を生まなかった 。 逆にこの状況は, 労働者と経営 管 理者の二つの集 団の 結合を 強化したのである 。 彼らは 共に 禁煙規則を破っ た。 そして 局 外 者 (保険会社) の 裏をかくように 協力することは, 彼らを 「 共謀者」として 団結させたのである 。 こうして, この類型は, 経営者が 規則 の強制実施をさし ひかえるか ぎり, 経営者に対する 非公式な友好的, かつ協 力的態度がかもし出される点において, 規則の「応 報機能」を部分的に分有 するものであった 。 かくしてこの類型は, 「 温容型人間 関係」と対応する組 織形態である 。 「 温容型人間 関係」は, 労働者が 事業所を 「寛大である」あ るいは「よい」と評価する際に 判定基準として用いているものである 。 これ らの 判定 甚準と合わせると, 模擬官僚制の特質が 浮び 上って く る 。 「模擬官 僚制 は, <温容型人間 関 係 >の ノ ルムを管理の上に実現した場合に 発生する た ぐいの社会 関 係を意 味する」と ゴ ール ドナ ーは 指摘している 叫 ゴ ール ドナ ーが指摘する第二の類型は代表官僚制 (Representative Bure— aucracy) である。 代表官僚制のバタ ー ンは, すでに ウ ェ ー バ ーの 官 僚制理 論における 専門 知識による管理に 原型をもっている 。 規則の設定と実施が, 関係者のすべてが受け入れることのできる 専門的見地からなされる場合にこ の類型が成立する 。 事業所のこの類型の実 例は 安全プログラムであった。 安 全規則は 労働者にとっても, 経営者にとっても, それ ぞれの重要な価値をに なうものであり, 双方から支持され, 労使 双方ともその設定 に参劃し た。 通. - 299(1561) -.
(26) 常, この 規則からの 離反は上位者にと っても, 下位者にと っても地位の 阻害 を意 味 し, 同調は彼らにと って地位 改善の 一 策となりえた。 この 規則は, 経 営 管理者によ って実施され, 労働者によ って遵守された。 少 しは緊張を生む が, 歴然たる 葛藤を 発 生させる ことは 殆んどなか った。. こ う してその価値. が, 参与者すべてによ って 共通に支持されているが 故に, 規則からの 離反は 一. 般に 無知 および 善意の 不注意に 帰せられ, 有意 離反とは みなされなか っ. た。 この場合, 「 教育」が 離反に対する反 応となる。. こ の 規則の 共 同の支持. は, 団結および 共 同 事業へと参画という感情によ って 支えられている ; この 事業所に おける安全諸 規則のリ ストはかなりの量にのぽり, 比較的高 度に 進展 した 官僚制に 象 徴的 である「文 書業 務 」 や 「報告」の複雑な 体系 が, 安全プログラムをめ ぐ って で きあが っていた。 安全活動は, 事業所に お ける他のいかなる活動よりも , より 高度に 官僚制化されていたといえる。 け れども この 規則の遵守は 労使 双方によ って 非常に強調され, レッ ド • テ ー プ に 関する 苦情を誘発する こ ともなか った。 ー ロにいえば, 代表官僚制は, 専 門 知 識による 管理が目的に 関する合意によ って 裏づけられ , 当 事者 双方がい ずれもそれに対 して統制力をも つ 管 理の形態 であるという こ とが で きる。 従 って代表 官僚制の類型は, 専門的技能の所 持のみ で 正当化されるもの ではな い。 目的 又は価値に ついての合意が重要な条件となる。 ゴ ール ドナ ー は「専 門 家の 資格要件をも つ こ とは, どうみ ても一つの必要条件 であるが, 代表 官 僚制の 正当性承認のための 十分条件 ではない。 専門家の権威は, それが 労働 者の目標により多く沿うように使用される場合 で, な おか つ, 専門 家のプロ グラムの設定や 管理に, 労働者が 発言権をも つ場合にのみ 正当化される」と 指摘 して いる 5) 。 ゴ ー ル ドナ ー は, この代表 官僚制の類型に対立するものと して 懲 罰 官僚制 の類型をあげている。 懲 罰 官 僚制という名称は, この類型が 官僚制 規則の 懲 罰 正当化 機能を中核と して組織化されている こ とからつけられている。 この 類型は ウ ェ ー バ ー の 理論のもう 一 つの要素, すなわち 官僚制を権威主義的な - 300 (1562) -.
(27) 規律 による 管理 であるとする 認識と対応する。 懲 罰官僚制の中核となる 規則 は強制実施されたもの であって, しかも, それは 労働者および 経営管理者の 双方がそう したの ではな く , いずれか 一方がそう したの である。 従って規則 を 創 始 しない側の集団は, 規則を他の集団 によって 一方的 に課せられたもの とみな す。 石齊事業所 では, 所内 募集制度は, 労働組合を通じて, 労働者の 圧 力 によって 創始され, 他方, 欠 勤 取締規則は, 経営管理者 によって強制実 施されたもの であった。 上位者ない し下位者のいずれか 一方のみが 規則を正 当化 し, 他の 一方は 便宜上 譲歩 することはあっても, それを正 当なものと定 義することはない。 この規則の強制実施は上 位者または 下位者のいずれか 一 方の価値を侵害 する。 離反は 主と して意 図的 ・計画的 になされたものとみな され, 「有意離反」と してうけとられる。 この規則への 同調あるいは 離反は, 労働者と監督者のいずれか 一方 にとって地位上のプ ラスを意味 し, 他方 にと って地位上の マイナスを意味する。 この類型は 比較的強い 緊張と葛藤を伴 う。 レッ ド ・テ ープの 苦情を最とも強く 誘発するのもこの類型 である。 組織 における悪循環や 逆機能も主と してこの類型の下 に生じて く る。 以上のよう に ゴ ー ル ドナ ーは 官僚制の 三つの類型的差異を指摘 したが彼は この研究 において規則の機能 に大きな 関 心を払っている 叉 まず規則は, 個人的 に与えられる 直接の命 令と機能的 に 同じものを含ん で いる 。 . 匝接の 命 令と 同じく, 規則は 労働者の 義務を明確 に し, ある 特定の 事 柄を特定のやり方 で行うよう 労働者 に命じる。 規則は 通 常より 慎重な 配慮を もって 発せられ, その表現 にも慎重が 期せられているから, それが課す責任 は 個人的な命 令の場 当り的な表現よりも, より 曖昧でない可能性をもつ。 こ の観点より すれば, 規則は, 責任を 回 避することや 契約履行を 回避するこ と, 義 務の適 切 に して完全な遂行を控えようと することを望ん でいるとみな される人たち に 対する 意思疎通の 一形 式 である。 義務の明確な 記述をその 一 部 に 包含 すること により, 規則は 労働者の注意を 経営者の期 待へ ひきつける 役割をもち, 労働者の責任 回 避をもたらすかも しれな い漠然と した限界事 項. - 30 1 ( 1563) -.
(28) の 問題 を解消 さ せ る の に 有用 で あ る 。 か く し て , 規 則 は 一方 に お い て 労働者 の 仕事 を 明 示 し , 他方に お い で 労 働 者 と そ の監督者の 関 係 を規定 し 明確 化 す る 。 か く し て 規則 は 組 織 に お け る 有用 な コ ン ト ロ ー ル の テ ク ニ ッ ク の 一 つ で あ り , 官僚制組織 は , コ ン ト ロ ー ル が , 一般 的 な イ ン パ ー ソ ナ ル な規則を通 じ て な さ れ る こ と を大 き な 特色 と す る 。 規則 は 更 に , 第一の も の ほ ど 自 明 的 で な い が, い ま 一 つ の 重要な 機能 を も っ て い る 。 規則 は 監督者 に よ る 命 令 く り 返 し の 代用 と な る 。 義務 が ひ と た び 規則 の 中 に組み入れ ら れ る と , 労働者 は , 監督者が彼 に 対 し て特定の•こ と を 命 じ な か っ た と い う 理 由 で弁解で き な い 。 こ う し て 服務規則 が ひ と た び設定 さ れ る と 監督者が労働 者 に 対 し て指示すべ き 事項 は よ り 少 な く な り , 公 的 な 資格 に お け る 労働 者ー フ ォ ア マ ン の 相互作用 の 頻 度 と 期 間 は い く ら か 減少す る 。 の み な ら ず監督者が, 監督者の資格に お い て 介入す る 場合 に も , そ れが 自 分 の意志か ら で は な く , 自 分 も 又, 規則 に よ っ て 抱束 さ れて い る の だ と 抗 弁す る こ と が で き る 。 規則 は フ ォ ア マ ン の 権威 を イ ン パ ー ソ ナ ル に 支 え る 。 す な わ ち 規則 は , フ ォ ア マ ン の 権力 の優位性を隠蔽 し , 平等の規範を侵害 し な い よ う に す る 。 こ う し て 規則 は 権 力 差 の 可視性を小 さ く し , 監督者 の権威 を 正 当 化 す る と い う 作用 を も つ 。 平等規範 を 重 ん ず る ア メ リ カ 文化 の下で は , 可視的 な 権力 の 断層 は 強 い 緊 張 を生 み 出 す がゆ え に , 規則 の 隈 蔽機能 は ’ー. 重要な意義を も つ と コ. ル ド ナ ー は 示唆 し て い る 叫. し か し 規則 は こ の よ う な 順機能 は か り で な く , 逆機能 的 な 「 予 期 し な い 結 果」 を も 伴 う こ と が あ る 。 ま ず規則 は , 是認 し う る 行動 の最低 レ ベ ル を 明 確 化 す る 作用 を も っ て い る 。 し た が っ て , い ま や労働者 は , 最小限 こ れ だ け す れば足 り う る こ と を知 る に い た る 。 も し こ れが, 低水準の組織 目 標 の 内 面 化 と 結 び つ く と , 労働者の遂行は最低限の レ ベ ル に よ く 制 さ れ, 組織 目 標 と 遂 行 の ギ ャ ッ プ を 大 き く す る 。 労働者の最低限の遂行 は 管理者 に よ っ て 失敗 と 知 覚 さ れ る 。 こ の よ う な 知 覚 に も と づ い て監督者の と る 典型 的反応 は 「 こ ま か な 監督」 で あ る 。 石膏事業所 の 場合 も そ う で あ っ た 。 こ れ は , 人間行動の. - 302(1564) -.
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