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<論説>イギリスにおける環境情報提供手法--公的登録簿制度についての一考察

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(1)イ ギ リス にお け る環 境 情 報 提 供 手 法. イ ギ リス に お け る環境 情 報 提 供 手 法 公 的登録 簿制 度 につ いて の一考 察. 林. 晃. 大. は じめ に 第1章. 環境情報の秘密性重視の時代. 第1節. 秘密主義の実態. 第2節. 秘密主義の根拠. 第3節. 秘 密 主 義 に対 す る批 判. 第4節. ノ 」 寸舌. 第2章. 公的登録簿制度の現状. 第1節. 水質汚濁. 第2節. 廃棄物処理. 第3節. 総 合 的 汚 染 規 制 及 び大 気 汚 染 規 制. 第4節. その他の領域. 第5節. 公的登録簿制度の利用状況. 第6節. 小括. 第3章. わ が 国 との 比 較. おわ りに. は じめ に. 近 年,国 際 社 会 に お いて,環 境 保 護 を 目的 と した 市 民 参 加 に関 す る議 論 が 活 発 化 して お り,わ が 国 で も環 境 保 護 の た めの 市 民 参 加 を 促 進 し,そ の 質 を 改 善 しよ う とす る動 きが 活 発 にな って い る。 この よ うな 市 民 参 加 は,環 境 権(1)の一側 面 と して 主 張 され て い る もの で あ る。 環 境 権 につ いて,わ が 国 で は 当初 は主 に私 権 と して の 権 利 が 提 唱 さ 135.

(2) 近畿大学法学. 第57巻第4号. れ て い たが,現 在 で は憲 法 上 の 権 利 と して も主 張 され て お り,そ の よ うな 中で,憲 法 上 の 環 境 権 につ いて は いわ ゆ る憲 法13条 に基 づ く防 御 権 と して の 側 面 と25条 に 基 づ く社 会 権 と し て の 側 面 が 強 調 さ れ て き た(2)。そ し て さ. らに近 年 で は,環 境 権 の 手 続 的 側 面 を 重 視 し,環 境 権 に基 づ く立 法 ・行 政. (1)環 境 権 につ いて は様 々 な定 義 や理 解 が存 在 す る。 例 え ば,北 村 喜 宣 は 「環 境 権 」 と は 「安 全 ・快 適 ・良 好 な環 境 の保 全 と創 造 に 関 す る行 政 決 定 に 関 与 し, か つ,そ. う した環 境 の便 益 を享 受 す る こと が で き る権 利 」 で あ る と定 義 す る。. 北 村 喜 宣 『自治 体 環 境 行 政 法 ・第5版 」(第 一 法 規,2009年)99頁 道 は環 境 基 本 法3条. 。 また 畠 山武. の文 言 に 依 拠 し,「現 在及 び 将 来 の世 代 の 人 間 が健 全 で 恵. み 豊 か な 環 境 の 恵 沢 を享 受 す る権 利 」 で あ る と定義 す る。 畠 山 武 道 「環 境 権, 環 境 と情 報 ・参 加 」 法 学 教 室269号(2003年)15頁. 。 この 環 境 権 は1970年 代 に入. り世 界 的 に一 斉 に登 場 した権 利 概 念 で あ る。 例 え ば1972年 の人 間 環 境 宣 言 で は 「尊 厳 と福 祉 を 保 つ に足 る環 境 で,自 由,平 等 及 び 十 分 な 生 活 水 準 を 享 受 す る基 本 的 権 利 」 が 謳 わ れ,ま や,フ. た,1970年. 代 初 頭 に は ア メ リカ合 衆 国 の い くつ か の 州. ラ ンス,オ ラ ンダ,ス ペ イ ン,ポ ル トガ ル とい った ヨー ロ ッパ 諸 国 が 憲. 法 に 明 文 で そ れ を 定 め て い た 。 大 塚 直 「環 境 法 ・第2版 」(以 下,大 塚 『 環境 法 」 と引用)(有. 斐 閣,2006年)54頁,畠. 山15頁 等 参 照 。 な お,わ が 国 にお いて. も環 境 権 確 立 の 主 張 が1970年 代 に始 ま り,近 年 で は 憲法 改正 との 関 係 で 環 境 権 を 憲 法 に規 定 す べ きか ど う か が議 論 さ れ た り,全 国 で制 定 され て い る環 境 基 本 条 例 に関 して も,東 京 都,大. 阪府,川. 崎市 な どが そ の前 文 ま た は 本 文 にお いて. 環 境 権 の 規 定 を置 い て い る。 環 境 権 に 関 す る議 論 の 経緯 に つ い て,詳. し くは,. 淡 路 剛 久 「環 境 権 と環 境 政 策 」 植 田和 弘 ・森 田恒 幸 編 『 岩 波 講 座 環 境 経 済 ・政 策 学 第3巻 一 環 境 政 策 の 基 礎 」(岩 波 書 店,2003年)42頁. 以下等参照。. (2)憲 法13条 及 び25条 に基 づ く環 境 権 に関 す る議 論 につ い て は,大 塚 「環 境 権(1)」 (以下,大 塚 「環 境 権 」 と引用)法 学 教 室293号(2005年),松. 浦 寛 「環 境 権 の 根. 拠 と して の 日本 国 憲 法25条 の 再 検 討 」 阪 大 法 学141・142号(1987年),同. 「環 境. 権 の 根 拠 と して の 日本 国 憲 法13条 の再 検 討 」 榎 原猛 先生 古稀 記 念 論 集 『現 代 国 家 の 制 度 と人 権 」(法 律 文 化 社,1997年),冨 権 論 ・序 説1-4」. 永猛 「 『環 境 権 」 考 一 自 由権 的 環 境. 35巻2号(1984年),中. 八 幡 大 学 論 集32巻2号,4号(1981年),33巻3号(1982年), 山充 「環 境 権. 環 境 の共 同 利用 権(1)一(4)」 香 川 法 学10巻. 2号,3・4号(1990年),11巻2号(1991年),13巻1号(1993年)等. 多 くの. 研 究 が 存 在 す る。 た だ し,憲 法25条 に の み 自 由権 と社 会 権 の 双方 の 役 割 を 認 め る見 解 も あれ ば,憲 法13条 と25条 に 自 由権 と社 会 権 の双 方 の 役 割 を 認 め る見 解 もあ る。 松 本 和 彦 「憲 法 学 か ら見 た 環 境 権 」 環 境 法 研 究31号(2006年)21頁. 136. 。.

(3) イ ギ リス にお け る環 境 情 報 提 供 手 法. 過 程 へ の参 加 権 を 認 め るべ き で あ る とす る主 張 もあ る(3>。 環境権 の手続的 側 面 と して は,「環 境 ア セ ス メ ン ト手 続 や 関係 者 の 同意 を求 め る手 続,そ の 前 提 と して の 環 境 情 報 の 公 開 と参 加 手 続 が 最 も重 要 」(4)で あ る と され,さ らに それ は 「環 境 問 題 を 民 主 的 な 政 策 形 成 の プ ロセ ス に委 ね る と 同時 に, その プ ロセ スへ の 手 続 参 加 を 環 境 問 題 に利 害 を 有 す るで き るだ け多 くの 人 に 開 放 」(5)する も の で あ る と 考 え ら れ て い る(6>。. 国 際 的 に見 て も,環 境 権 の 参 加 権 と して の 側 面 は明 確 に され て い る。 い わ ゆ る環 境 参 加 権 を 明 示 した初 めて の 例 と して 重 要 で あ るの が,1998年6 月25日. にEU加. 盟 国,ア. メ リカ 合 衆 国,カ. ナ ダ,ト. ル コ,ロ. シ ア な ど55ケ. (3)例 え ば北 村 喜 宣 は,環 境 権 に は政 策 や計 画 の 中 で 目標 と して 確 定 され た 良 好 な 環 境 を享 受 す る と い う実 体 的側 面 と,そ の よ うな 目標 や結 果 を 得 るた め に関 係 す る行 政 決 定 に参 加 す る と い う手 続 的側 面 が あ り,特 に重 要 と思 わ れ るの は 手 続 的 保 障 で あ る とす る。 北 村 ・前 掲 注(1)124-125頁 。 また 中山 充 は,環 境 権 を 生 活 利 益 秩 序 の 維 持 及 び 内容 の形 成 に 関 す る市 民 の 参加 を 内 容 とす る権 利 で あ る と位 置 づ け る。 中 山充 「環 境 権 論 の意 義 と今 後 の 課題 」 大 塚 直=北 村 喜 宣 編 『環 境 法 学 の挑 戦 』(日 本 評 論 社,2002年)50頁. 。 さ らに 畠 山 武 道 は,民 主 的 ・. 機 能 的 基 本 権 の 考 え 方 に依 拠 し,環 境 意 思 決定 に対 す る市民 参 加 の 必 要 性 を 主 張 して い る。 畠 山 ・前 掲 注(1)17頁。 そ して大 塚 直 は この 畠 山 説 に つ い て 「参 加 権 と して の 環 境 権 を基 礎 づ け る上 で は有 効 で あ る」 と述 べ る。 大 塚 「環 境 権 」 法 学 教 室293号(2005年)93頁. 。 また 大 塚 直 は,こ の よ うな 参 加 権 と して の 側 面. を 表 現 の 自 由の 具 体 化 で あ る と考 え る。 大 塚 『環 境 法 」55頁 。 (4)淡 路 剛 久 「自然 保 護 と環 境 権 一 環 境 権 へ の手 続 的 ア プ ロー チ ー 」 環 境 と公 害 25巻2号(1995年)12頁. 。. (5)松 本 ・前 掲 注(2)29頁。 (6)し か しな が ら松 本 和 彦 は,「 憲 法 上 の権 利 の 保 護 法 益 が個 人 的 法 益 で あ る限 り,手 続 的 参 加 の権 利 も,結 局 の とこ ろ,自. らの権 利 利益 を 擁 護 す るた め の 手. 続 参 加 だ と い う前 提 か ら離 れ る こ とは で き な い。 … … とす れ ば,環 境 とい う公 共 財 を 守 る た め の手 続 参 加 の権 利 に 関 して も,憲 法 解 釈 の枠 内 で の 議 論 に と ど ま る とす る以 上,自. ら の権 利 利 益 の擁 護 の範 囲 内 で しか 手続 参 加 で きな い とい. う と い う こ と に な ろ う。 こ の よ うな束 縛 が環 境 保 全 の理 念 と齪 齪 を きた さな い の か,慎 重 に検 討 され な けれ ば な らな い 」 と主 張 す る。 松 本 ・前 掲 注(2)29頁。. 137.

(4) 近畿大学法学. 第57巻 第4号. 国(当 時)を 構 成 国 と す る 国 連 欧 州 経 済 委 員 会(UnitedNationsEconomic CommissionforEurope,UNECE)に 報 へ の ア ク セ ス,意 条 約 」(以 下,オ. よ っ て 策 定 さ れ た 「環 境 に 関 す る,情. 思 決 定 に お け る 市 民 参 加,司. 法 へ の ア クセ ス に関 す る. ー フ ス 条 約)(7)で あ る 。 オ ー フ ス 条 約 は1992年6月. の地球. サ ミ ッ トで 採 択 さ れ た 「環 境 と 開 発 に 関 す る リオ 宣 言 」 の 第10原 則 を 受 け て 策 定 さ れ た も の で あ り,採. 択 か ら約3年. 半 後 の2001年10月30日. に発 効 し. た 。 こ の 条 約 は 前 文 で 人 権 と して の 環 境 権 を 主 張 し,「何 人 も,健 康 と 福 祉 に と っ て 十 分 な 環 境 に お い て 生 き る 権 利 を 有 し,現 益 の た め に 環 境 を 保 護 し,改 1条 に お い て,①. 世 代 及 び将 来 世 代 の 利. 善 す る 義 務 を 負 う 」 こ と を 明 言 す る と 共 に,. 市 民 の 参 加 権,③. 環 境 に 関 す る 情 報 へ の ア ク セ ス 権,②. 環境政策決定への. 環 境 問 題 に 関 す る 司 法 へ の ア ク セ ス 権 と い う3つ. の権利. を 全 て の 人 に保 障 す る こ とを 目的 とす る 旨を 定 めて い る。 これ は 同条 約 の 3本 柱 と して 言 及 さ れ る も の で あ り,3条1項. は,締. 結 国 に 対 して,原. 則. (7)UN/ECEConventiononAccesstoInformation,PublicParticipationinDecisionMakingandAccesstoJustice,Aahus,1998.オ 条 約 に つ い て は 先 行 研 究 が 多 数 存 在 す る た め,本 た い 。 な お,先. 行 研 究 と し て は 以 下 の も の が 挙 げ ら れ る 。 高 村 ゆ か り 「環 境 情. 報 へ の ア ク セ ス,環. 境 に 関 す る 政 策 決 定 へ の 市 民 参 加,及. ス に 関 す る 条 約 」 環 境 研 究135号(2004年)79頁 に よ る欧 州 の環 境 保 護 参 加,及. ー フス 稿 で は 概 略 的 な 紹 介 に と どめ. び,司. 環 境 に 関 す る,情. 以 下,同. 報 へ の ア ク セ ス,政. 法 へ の ア ク セ ス に 関 す る 条 約(オ 「情 報 公 開 」 と 引 用)静. び,司. 法 へ の ア クセ. 「情 報 公 開 と 市 民 参 加 策決定への市民. ー フ ス 条 約)と. その発展一」. (以 下,高. 村. 以 下,同. 「オ ー フ ス 条 約 に み る 欧 州 の 情 報 公 開 と市 民 参 加 」 環 境 情 報 科 学32巻. 2号(2003年)30頁. 以 下,大. 岡 大 学 法 政 研 究8巻1号(2003年)178頁. 久 保 規 子 「オ ー フ ス 条 約 とEU環. 境 法 一 ドイ ツ2005. 年 法 案 を 中 心 と し て 一 」 環 境 と 公 害35巻3号(2006年)31頁 の 新 潮 流(29)オ 年)675頁 参 加,及. 以 下,後 び,司. 以 下,同. 「環 境 法. ー フ ス 条 約 か ら み た 日本 法 の 課 題 」 環 境 管 理42巻7号(2006 藤 隆 「環 境 に 関 す る,情. 報 へ の ア ク セ ス,政. 策決定への市民. 法 へ の ア ク セ ス の確 保 の必 要 性 とそ れ らを前 提 と した 合 意 形 成. 手 法 の 日本 へ の 導 入 の可 能 性 に つ い て に 」 と う き ょ う の 自 治53号(2004年)5頁. オ ー フ ス 条 約 の市 民 参 加 規 定 を 中 心 以下等。. 138.

(5) イ ギ リス にお け る環 境 情 報 提 供 手 法. と して こ の3本 柱 を遂 行 す るた め に必 要 な手 段 を採 る こ と を 要 求 して い る。 この オ ー フ ス条 約 は,わ が 国 で も 「環 境 保 護 と人 権 を 関 連 づ け,市 民 と 公 権 力 の 民 主 的 な 相 互 作 用 を 通 して 環 境 保 護 を 促 進 しよ う とす る新 しい特 徴 を有 す る環 境 条 約 で あ る」(8)と 評 価 され て い る よ う に,人 権 と して の 環 境 権 の 参 加 権 と い う一一 面 を 重 視 し,環 境 保 護 を 目的 と した 市 民 参 加 を 促 進 しよ う とす る もの で あ る と言 え る。 な お,2009年11月2日. 現 在,同 条 約 の. 締 結 国 は44ケ 国 に及 ん で い る こ とか ら(9),同条 約 の 掲 げ る環 境 保 護 の た め の 市 民 参 加 が 国 際 社 会 で も重 要 視 され て い る こ と は明 らか で あ る。 オ ー フ ス条 約 の3本 柱 の 内,第1の. 柱 で あ る環 境 に関 す る情 報 へ の ア ク. セ ス につ いて は,従 前 か ら 「環 境 と開 発 に関 す る リオ 宣 言 」 の 第10原 則 が 「環 境 問題 は,そ れ ぞ れ の場 に お い て,関 心 の あ る あ らゆ る市 民 が 参 加 す る こ と に よ り,最 も適 切 に扱 わ れ る。 国 内 レベ ル に お いて は,各 個 人 が 公 的 機 関 の 保 有 す る環 境 に関 す る情 報 ヘ ア クセ スで き るべ きで あ り,… … 加 盟 国 は情 報 を 広 く利 用 可 能 とす る こ と に よ って 市 民 の 参 加 を 促 進 す るべ きで あ る」 と示 して い た。 この こ とか らも環 境1青報 へ の ア クセ ス,特 に公 的 機 関 の 保 有 す る環 境1青報 へ の ア クセ スが,市 民 参 加 の 基 礎 とな る と い う点 で 極 めて 重 要 で あ る と考 え られ る。 さ らに,環 境1青報 を 単 に市 民 に公 開 す る だ けで はな く,い わ ゆ る環 境 リス ク コ ミュニ ケ ー シ ョン も環 境 参 加 権 の 実 現 に は必 要 不 可 欠 で あ る⑩。 つ ま り,環 境 情 報 を 市 民 に公 開 し,そ れ に対 す る市 民 の 応 答 を 環 境 行 政 過 程 に導 入 す る こ と に よ って 初 めて 環 境 保 護 の. (8)高. 村. 「情 報 公 開 」 静 岡 大 学 法 政 研 究8巻1号(2003年)139頁. 。. (9)http://www.unece.org/env/PP/ ω. 黒 川 哲 志 は,い. わ ゆ る 「リ ス ク コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン」,つ ま り 単 な る 「情 報 提. 供 」 に と ど ま らず,十 れ る 行 政,企. 業,あ. 分 に提 供 さ れ た情 報 の理 解 に 基 づ い て 住 民 に よ って な さ る い は 製 品 ・サ ー ビ ス に 対 す る 応 答 と い う コ ミ ュ ニ ケ ー. シ ョ ンの 要 素 を重 視 して い る。 黒 川 哲 志. 139. 『環 境 行 政 の 法 理 と 手 法 」(成. 文 堂,/.

(6) 近畿大学法学. 第57巻 第4号. た めの 市 民 参 加 が 実 現 され る と考 え られ る。 そ れ で は,こ. こで 言 う環 境 情 報 と は具 体 的 に は ど の よ う な もの だ ろ う. か 。 環 境 情 報 に は 種 々の 類 型 が 存 在 す るが⑪,重 要 で あ る と考 え られ るの は公 的 機 関 の 保 有 す る情 報 で あ り,そ の 中で も特 に重 要 な の が,① 事 業 者 や 規 制 当局 に よ る モニ タ リン グな ど に よ って 得 られ た有 害 物 質 の 排 出 に関 す る情 報 や 大 気,水,生. 物 多 様 性 な ど環 境 状 態 や 汚 染 状 況 と い っ た行 政 に. よ る規 制 の 前 提 にな る,あ る い は規 制 の 結 果 と して あ らわ れ る よ うな 情 報 と,② 環 境 管 理 の た め に行 わ れ る許 可 の よ うな 行 政 処 分 や 行 政 指 導 と い っ た環 境 行 政 過 程 の 情 報 で あ る。 これ らの 情 報 を 両 面 か ら市 民 に積 極 的 に公 開 す る こ とが,環 境 参 加 権 の 実 現 に は必 要 だ と考 え られ る⑫。 オ ー フ ス条 約 を 締 結 して いな いわ が 国 に お いて も,環 境 基 本 法27条 が, 国 の責 務 と して,「 個 人 及 び 法 人 の権 利 利 益 の保 護 に 配 慮 しつ つ 環 境 の 状 況 その 他 の 環 境 の 保 全 に関 す る必 要 な 情 報 を 適 切 に提 供 す る よ う に努 め る もの とす る」 と規 定 して お り,環 境 保 護 の 実 現 の た め に は環 境1青報 の 公 開 が 重 要 で あ る こ とを 指 摘 して い る。 と は言 え,こ の 規 定 に お いて は 「情 報 提 供 の 目的 は環 境 教 育 を 促 進 す る た め,事 業 者,国 民,NGOが. 自発 的 に行. う環 境 の 保 全 に関 す る活 動 が 促 進 さ れ る よ うに す る た め の もの と 限定 さ れ 」(③ て お り,さ らに これ は 「国 の 有 す る情 報 の う ち国 が 適 切 で あ る と判 断 す る もの を そ の 裁 量 に よ り相 手 方 に 提 供 す る こ とが で き る 旨 の 規 定 」ω で あ る と指 摘 され て い る よ う に,環 境 保 護 を 目的 と した環 境1青報 の 公 開 と い \2004年)66頁. 。. (ll)北 村 ・前 掲 注(1)190-191頁 。 (12)こ れ 以 外 に も,「環 境 情 報 」 に は,企 業 が 所 有 す る環 境 管 理 に関 す る いわ ゆ る 環 境 企 業 情 報 や,環 境 ア セ ス メ ン トの 中 で作 成 さ れ る よ うな 環境 予 測 情 報 な ど が 存 在 す る。 北 村 ・前 掲 注(1)190-191頁 。 これ ら の類 型 の 情 報 の 公 開 に つ い て は後 の 研 究 課 題 とす る。 (13)織 朱 実 「環 境 情 報 公 開 と法 」 環 境 技 術34巻6号(2005年)424頁 aD大. 塚 『環 境 法 』76頁 。. 140. 。.

(7) イ ギ リス にお け る環 境 情 報 提 供 手 法. う手 段 を 完 全 に実 現 した もの と は言 え な いで あ ろ う。 しか しな が ら,わ が 国 で も,1999年. に国 レベ ル に お いて 「行 政 機 関 の 保 有 す る情 報 の 公 開 に関. す る法 律 」(以 下,情 報 公 開 法)が 制 定 され た り,地 方 レベ ル で も情 報 公 開 条 例 が 制 定 され て い る他,個 別 法 が 環 境 情 報 の 義 務 的 な 公 表 を 定 めて い た り⑮,近 年 の 国 際 的 動 向 を受 け て,事 業 所 か らの 化 学 物 質 排 出量 の 把 握 と開 示 の 制 度(以 下,PRTR制. 度)が 導 入 さ れ る な ど,市 民 に対 す る環 境. 情 報 公 開 制 度 が 構 築 され つ つ あ る。 この よ う に,市 民 に対 す る環 境 情 報 の 公 開 が 国 際 的 に重 要 視 され て い る 中,イ ギ リス は2005年2月24日. にオ ー フ ス 条 約 を 批 准 した。 イ ギ リス で. も,近 年,政 策 決 定 過 程 へ の 市 民 参 加 権 や 情 報 へ の ア クセ ス権 と い った 公 法 上 の権 利 と して の 環 境 権 の重 要 性 が主 張 され て お り(⑥,同条 約 の 批 准 を 受 け,現 在 で は環 境 保 護 の た めの 市 民 参 加 制 度 の 更 な る整 備 が 進 め られ, その 中で 市 民 に対 す る環 境 情 報 公 開 制 度 が 整 え られ て きて い る。 イ ギ リス は,他 の 国 々 に先 駆 け て17世 紀 後 半 か ら産 業 革 命 を 原 因 とす る大 気 汚 染 や 水 質 汚 濁 な どの 環 境 被 害 が 深 刻 化 す る 中,世 界 で 最 初 の 環 境 汚 染 規 制 を 行 う行 政 機 関 で あ る 「アル カ リ検 査 団(AlkaliInspectorate)」 が1863年 に設 立 され る(1の な ど,行 政 に よ る汚 染 規 制 を い ち早 く行 お う と し た国 の1つ で あ る。 ま た,イ ギ リス は市 民 や 環 境 保 護 団 体 に よ る環 境 保 護 が 活 発 な 国 で も あ る。 例 え ば近 年 で は,環 境 の よ うな いわ ゆ る公 益 を 保 護. ⑮. 例 え ば,大. 気 汚 染 防 止 法24条,ダ. あ る 。 な お,わ. イ オ キ シ ン 類 対 策 特 別 措 置 法27条3項. な どが. が 国 にお け る環 境 情 報 公 開 制 度 につ いて は後 述 す る。. ㈲StuartBell&DonaldMcGillivray,EnvironmentalLaw,7thed., (OxfordUniversityPress,2008)p.14.イ. ギ リス に お け る 環 境 権 概 念 に つ. いて の 議 論 は後 の 研 究 課 題 とす る。 ⑰MauriceFrankel,"Howsecrecyprotectsthepolluter"inDesWilson,TheSecretsFile-TheCaseforFreedomofInformationinBritainToday-,(HeinemannEducationalBooksLtd.,1984),p.28.. 141.

(8) 近畿大学法学. 第57巻 第4号. す る た め の公 益 訴 訟 が 非 常 に多 く提 起 され て い る⑱。 具 体 的 に言 う と,環 境 保 護 団 体 で あ る グ リー ン ピ ー ス が,希 少 な海 洋 生 物 の 保 護 を 目 的 と し て,大. 臣の 作 成 した計 画 の 違 法 性 を 訴 訟 で 争 っ た り,地 域 住 民 が 結 成 した. 団 体 が 地 域 環 境 を 保 護 す る た め に,公 的 機 関 が 行 っ た廃 棄 物 処 理 の 許 可 に 対 して 訴 訟 を提 起 した り して お り,そ の 中で 裁 判 所 は環 境 を 保 護 しよ う と す る者 の 原 告 適 格 を 柔 軟 に認 め る こ と に よ って,積 極 的 に行 政 の 適 法 性 確 保 機 能 を果 た そ う と して い る。 つ ま りイギ リスで は,市 民 や 環 境 保 護 団 体 の 行 う司 法 審 査 請 求 に よ る環 境 行 政 の 適 法 性 の 確 保,す な わ ち公 益 訴 訟 を 通 じた環 境 保 護 が 活 発 に行 わ れ て い るの で あ る。 この よ う に環 境 汚 染 や 環 境 保 護 につ いて 長 い歴 史 を 有 し,2005年. にオ ー. フ ス条 約 を批 准 した イギ リス に は,現 在,環 境 保 護 を 目的 と した市 民 参 加 の 一 手 段 と して どの よ うな 環 境 情 報 公 開 制 度 が 規 定 され て お り,ど の よ う な 特 徴 を有 して い るの で あ ろ うか 。 本 稿 は,イ ギ リス に お け る公 的 機 関 の 保 有 す る環 境 情 報 の 公 開 制 度 に つ い て,そ. の歴 史 的 展 開 や 現 行 制 度 の 詳. 細,そ れ らの 制 度 の 意 義 な どを 検 討 し,わ が 国 の 制 度 に対 す る示 唆 を 与 え よ う と した もの で あ る。 な お,イ ギ リス に お け る環 境1青報 公 開 制 度 は,公 的 機 関 か ら市 民 に対 して 行 わ れ る いわ ゆ る能 動 的 な 「情 報 提 供 」 と,市 民 に よ る請 求 を 受 け て 公 的機 関 が 行 う 「情 報 開 示 」 の2つ. の 制 度 か ら成 り. 立 って い る。 その 中で も,本 稿 で は,前 者 の 中心 的 制 度 で あ る 「公 的 登 録 簿(publicregisters)制. 度 」 につ いて の 検 討 を 行 う⑲。. 第1章 で は イギ リス に お け る環 境1青報 提 供 制 度 を 検 討 す る前 提 と して, 産 業 革 命 の 時 代 か ら20世 紀 中頃 まで 続 い た環 境 情 報 の 秘 密 性 重 視 の 時 代 に. as)公 益 訴 訟 の歴 史,判 例,根 拠 な どにつ い て詳 し くは,拙 稿 「イ ギ リ ス にお け る公 益 訴 訟 」 法 と政 治58巻2号(2007年)345頁 ⑲. 以下参照。. な お,市 民 か らの 請 求 を受 け て公 的機 関 が保 有 す る情 報 を 開 示 す る 「情 報 開 示 」 につ い て は後 の 研 究 課 題 とす る。. 142.

(9) イ ギ リス にお け る環 境 情 報 提 供 手 法. つ いて,そ の 実 例 や 秘 密 性 の 根 拠,そ れ に対 す る改 革 の 動 向 な どを 検 討 す る。 その 後 第2章. に お いて,環 境 情 報 の 秘 密 性 を 打 破 す る契 機 とな り,公. 的 機 関 よ る能 動 的 な環 境 情 報 提 供 制 度 と して 登 場 した 公 的登 録 簿 制 度 を 様 々な 環 境 汚 染 領 域 に沿 って 分 析,検 討 した上,第3章. でわが国の環境情. 報 提 供 制 度 との 比 較 を 行 う。. 第1章. 環境情報の秘密性重視の時代. イギ リス⑳ は元 来,公 的機 関 の 保 有 す る情 報 につ いて は秘 密 主 義 の 伝 統 が 強 く,そ れ らを広 く一 般 市 民 に公 開 す る こ と に消 極 的 で あ った ⑳。 これ は環 境 情 報 に関 して も 同様 で あ り,20世 紀 中頃 まで は,公 的 機 関 の 保 有 す る環 境 情 報 につ いて は秘 密 性 が 重 視 され て い た。 また,こ の よ うな 時 代 に お いて は,公 的 機 関 の 保 有 す る環 境 情 報 と と も に,企 業 な どの 汚 染 者 が 保 有 す る環 境 情 報 に つ い て も原 則 的 に 公 開 され る こ と は な か っ た。 そ れ で は,な ぜ イ ギ リス で は この よ う に環 境 情 報 の秘 密 性 が 重 視 さ れ て い た の か 。 本 章 で は現 在 の イギ リス に お け る環 境 情 報 提 供 制 度 を 検 討 す る前 提 と して,20世. 紀 中頃 まで の 秘 密 性 の 実 態 や,そ の 秘 密 性 の 根 拠,そ れ に対 す. る批 判 な どを 考 察 す る。. 第1節. 秘密主義の実態. (1)秘 密 主 義 の 起 源 一 アル カ リ検 査 団 の 政 策 産 業 革 命 後 の1850年 代 以 降,イ. ギ リスで は1863年 アル カ リ法enを は じめ. とす る多 くの 環 境 汚 染 規 制 に関 す る法 律 が 制 定 され,そ れ に伴 い,規 制 当 ① D ⑦ ⑦. 本 稿 で の イ ギ リス と は,イ. 2 ②. 宇賀克也. ン グ ラ ン ドと ウ ェー ル ズ の こ とを 指 す 。. 『情 報 公 開 法 ・情 報 公 開 条 例 」(有 斐 閣,2001年)107頁. AlkaliAct1863. 143. 。.

(10) 近畿大学法学. 第57巻 第4号. 局 も様 々な 環 境 情 報 を 入 手 し始 め る こ と とな る。 しか しな が ら,先 述 した よ う に,そ れ らの 情 報 につ いて は20世 紀 中頃 まで は秘 密 性 が 重 視 され,市 民 に対 して 積 極 的 に公 開 され る こ と はな か っ た。 この よ うな 環 境 情 報 の 秘 密 主 義 の 起 源 は,ア ル カ リ検 査 官 に よ る報 告 書 に あ る と考 え られ て い る。 イ ギ リスで は,世 界 で 最 初 の 環 境 汚 染 規 制 を 行 う行 政 機 関 で あ る と され る 「アル カ リ検 査 団 」 が1863年 に設 立 され㈱,こ の 機 関 は1863年 ア ル カ リ 法 の 下,当 時 急 速 に拡 大 して い た アル カ リ事 業 に よ る大 気 汚 染 を 規 制 す る 権 限 を有 して い たen。1864年,当. 時 の ア ル カ リ検 査 官 は,大 気 汚 染 に対 す. る規 制 の 結 果 と して 入 手 した環 境 情 報 の 公 開 につ いて,報 告 書 に お いて 以 下 の よ うに 述 べ て い る。 「あ らゆ る 活 動 に関 す る全 て の 情 報 は,そ の 公 開 が 制 定 法 に よ って 要 求 され て いな い限 り,あ る い は所 有 者 に よ って 認 め ら れ て い な い 限 りは,非 公 開 で あ る と考 え られ な けれ ば な らな い 」㈱ と。 つ ま りアル カ リ検 査 団 は,制 定 法 が 公 開 を 要 求 して い る場 合 や,情 報 の 元 来 の 所 有 者 で あ る事 業 者 が 公 開 を 認 めて い る場 合 を 除 いて は,規 制 活 動 の 中 で 入 手 した ア ル カ リ事 業 に 関 す る情 報 の秘 密 性 を重 視 す る とい う政 策 を 採 って いた の で あ る⑳。. ⑳MauriceFrankel,op.cit.,p.28. ⑳1863年 り,こ. ア ル カ リ法 は 化 学 工 場 な ど か ら生 じ る 公 害 を 予 防 す る た め の 法 律 で あ の 法 律 に 基 づ い て 政 府 に よ っ て 任 命 さ れ た ア ル カ リ検 査 団 は,大. 規 制 の た め に 対 象 工 場 を 監 視 す る 役 割 を 担 っ て い た 。1863年 及 び ア ル カ リ検 査 団 の 任 務 な ど に つ い て,詳 年 ア ル カ リ工 場 規 制 法)の 学40巻6号(1975年)576頁. 成立. し く は,工. 藤雄一. イ ギ リス公 害 史研 究 の一 階 梯. 以 下,田. 気汚染. ア ル カ リ法 の 詳 細 「公 害 法(1863 」社会経済史. 村 浩 一・「イ ギ リ ス に お け る 公 害 の 公 法 的 規. 制 一 大 気 汚 染 防 止 法 を 中 心 と し て 一 」 比 較 法 研 究31号(1970年)15頁. 以下等参. 照。 ⑳MauriceFrankel,op.cit.,p.28. ⑳. ア ル カ リ検 査 団 の 報 告 書 の 他 に,環 の1つ. と して,1911年. 境 情 報 が 積極 的 に 公 開 され な か った 理 由. 国 家 秘 密 保 護 法(OfficialSecretsAct1911)が. 報 の 非 公 開 を 規 定 し て い た こ と が 挙 げ ら れ る 。1911年. 144. 法 に は,同. 環境情 法 が 許 可 し て/.

(11) イ ギ リス にお け る環 境 情 報 提 供 手 法. アル カ リ検 査 団 は,秘 密 主 義 の 理 由 と して,環 境 情 報 の 公 開 が 市 民 の 不 安 を 生 じ さ せ る お そ れ が あ る と い う 点 を 挙 げ て い る 。 ま た,当. 時 は アル カ. リ産 業 界 が 大 気 に排 出 され る汚 染 物 質 の 危 険 性 や そ れ に よ って 引 き起 こ さ れ る結 果 を 市 民 が 周 知 しな い よ う,自 身 の 保 有 す る情 報 や デ ー タを 可 能 な 限 り非 公 開 に して い た こ と,さ. らに規 制 当局 で あ る アル カ リ検 査 団 と汚 染. 者 で あ る産 業 界 との 癒 着 関 係 が 深 ま って い た こ とな ど に よ り,ア ル カ リ事 業 に関 す る情 報 が 積 極 的 に市 民 に公 開 され る こ と はな か った の で あ る⑳。 本 格 的 な 公 害 規 制 が 第2次 世 界 大 戦 後 まで 行 わ れ て こな か った わ が 国 の 状 況 と比 較 す る と,19世 紀 中頃 か ら化 学 工 場 の 監 視 を 行 い,環 境 情 報 の 収 集 を 行 って い た アル カ リ検 査 団 の 存 在 は,た とえ 保 有 す る情 報 の 公 開 が 積. \ い な い 限 り,中. 央 政 府 の保 有 す る情 報 を公 開 す る こ とが 処 罰 の 対 象 とな る 旨が. 定 め ら れ て お り,同. 法 に よ っ て非 公 開 とさ れ た情 報 の 中 に は い わ ゆ る環 境 情 報. も 含 ま れ て い た 。 つ ま り,ア. ル カ リ検 査 団 の 政 策 に 加 え て,中. 央政府の保有す. る 環 境 情 報 の 公 開 に つ い て は 法 的 に も 認 あ ら れ て い な か っ た の で あ る。 な お 1911年. 国 家 秘 密 保 護 法 は,1972年. 白 書 に よ る 勧 告 を 受 け,1989年. の フ ラ ン ク ス 委 員 会 の 報 告 書 や1978年. の政府. に 改 正 さ れ た 。 新 た に 改 正 さ れ た1989年. 国家秘. 密 保 護 法(OfficialSecretsAct1989)は. 公 開 が認 め られ な い情 報 の 範 囲 を. 1911年. 法 に 比 べ て 限 定 して お り,そ. あ,現. 在 で は国 家 秘 密 保 護 法 を根 拠 に した環 境 情 報 の非 公 開 は 認 め られ て い な. い 。1911年. こ に は環 境 情 報 は含 ま れ て い な い 。 そ の た. 国 家 秘 密 保 護 法 と そ の 改 正 に つ い て,詳. し く は,安. 開 ・地 方 オ ン ブ ズ マ ン の 研 究 』(法 律 文 化 社,1994年)21頁. 藤高行. 以 下,同. 『情 報 公. 「イ ギ リス. に お け る 国 家 秘 密 保 護 法 の 改 正 一 イ ギ リ ス 情 報 公 開 制 度 の 一・繭 一 」 佐 賀 大 学 経 済 論 集22巻2号(1989年)103頁. 以 下,同. 「イ ギ リ ス 新 国 家 保 護 法 に つ い て 一 つ. の コ メ ン ト」 佐 賀 大 学 経 済 論 集25巻1号(1992年)139頁. 以 下,田. リ ス の 国 家 秘 密 保 護 立 法 」 法 律 時 報57巻12号(1985年)46頁 護 立 法 と 情 報 統 制 」 法 と民 主 主 義205号(1986年)13頁 け る 報 道 ・表 現 規 制 の 動 向 と 秘 密 法(OSA)改 年)42頁. 以下等参照。. ⑳SimonBall&StuartBell,EnvironmentalLaw:thelawandpolicy relatingtotheprotectionoftheenvironment,(BlackstonePress, 1991),p.106.. 145. 島泰 彦. 以 下,同 以 下,同. 「イ ギ. 「秘 密 保. 「イ ギ リス に お. 正 問 題 」 新 聞 研 究450号(1989.

(12) 近畿大学法学. 第57巻 第4号. 極 的 に行 わ れ て いな か っ た と して も非 常 に先 進 的 な もの で あ る と も考 え ら れ よ う。 しか しな が ら,こ の アル カ リ検 査 団 に よ って 採 られ た秘 密 主 義 政 策 こ そが,イ ギ リス に お け る全 て の 環 境1青報 の 秘 密 性 の 起 源 とな って い る と して,環 境1青報 の 積 極 的 公 開 を 主 張 す る多 くの 学 者 に よ って 批 判 され て い る。 1864年 報 告 書 が 出 され た 当時,ア ル カ リ検 査 団 に よ る秘 密 主 義 政 策 は何 ら法 的 根 拠 を 有 して いな か っ たが,こ れ 以 降,環 境 情 報 の 秘 密 主 義 政 策 は 多 くの 環 境 汚 染 領 域 に お いて 様 々な 環 境 関 連 法 規 に よ って 法 的 根 拠 を 与 え られ な が ら20世 紀 中頃 まで 引 き継 が れ る こ と とな る。1864年 以 降,多. くの. 環 境 関 連 法 規 が 環 境 へ の 汚 染 物 質 排 出 に関 す る情 報 の 公 開 を 禁 じる よ う定 め,た. とえ 環 境 情 報 の非 公 開 に 関 す る 規 定 が置 か れ て い な か った と して. も,他 の 制 定 法 が 一般 市 民 に対 して 情 報 を 公 開 す る よ う特 別 に要 求 して い な い限 り,市 民 へ の 情 報 公 開 を 禁 じて い たの で あ る㈱。 そ れ で は,こ の よ う な環 境 情 報 の 秘 密 性 が 重 視 さ れ て い た 時 代 に お い て,環 境 関 連 法 規 は この 秘 密 主 義 に対 して どの よ うな 法 的 根 拠 を 与 え て い たの で あ ろ うか 。 こ こか らは,当 時 の イギ リス に お いて 特 に深 刻 化 して い た大 気 汚 染 と水 質 汚 濁 に関 す る環 境 情 報 の 取 り扱 い につ いて 概 括 す る。. (2)環 境 情 報 の 秘 密 性 一 大 気 汚 染 (a)秘 密 主 義 の 法 的 根 拠 一1974年 労 働 衛 生 安 全 法 先 述 した よ う に,大 気 汚 染 に関 して は,ア ル カ リ検 査 団 が1864年 報 告 書 を契 機 に原 則 と して 環 境1青報 の 公 開 を 認 めな い とす る秘 密 主 義 を 採 って い たが,こ れ は検 査 団 に よ る単 な る政 策 に過 ぎず,当 初 は法 的 根 拠 が 存 在 し な か っ た。 しか しな が ら報 告 書 以 降,ア ル カ リ検 査 団 の 保 有 す る環 境1青報 は秘 密 性 が 保 持 さ れ続 け,そ こ か ら100年 以 上 経 て 制 定 さ れ た1974年 労 働 es)Ibid.. 146.

(13) イ ギ リス にお け る環 境 情 報 提 供 手 法. 衛 生 安 全 法 ㈲ が そ の政 策 に法 的根 拠 を与 え る こ と とな る。 1974年 法28条 は,事 業 者 か ら規 制 当 局 に対 して提 供 さ れ た情 報 に 関 し て,そ れ を提 供 した者 の 同 意 が な い 限 りは 公 開 され な い 旨 を 規 定 し(30),ま た それ と 同時 に,規 制 当局 が 職 務 上 入 手 した記 録 や 測 定 結 果 に関 す る情 報 につ い て も公 開 を 禁 止 した の で あ る⑳。 つ ま り,本 規 定 に よ って,大 気 汚 染 の 規 制 当局 で あ る アル カ リ検 査 団 が 環 境 情 報 を 市 民 に対 して 非 公 開 とす る こ とが 法 的 に も認 め られ る こ と とな っ た。. (b)地 方 公 共 団 体 の 情 報 公 開 裁 量 権 一1956年 空 気 清 浄 法 と1974年 汚 染 規 制法 イギ リスで は1974年 労 働 衛 生 安 全 法 の 制 定 に よ りアル カ リ検 査 団 が 保 有 す る大 気 汚 染 関 連 情 報 の 非 公 開 に法 的 根 拠 が 与 え られ た が,そ の 一 方 で, 地 方 公 共 団 体 が 保 有 す る情 報 につ いて は積 極 的 な 公 開 を 認 め よ う とす る制 定 法 が 存 在 して い た。1956年 空 気 清 浄 法(3⇒ は,地 方 公 共 団 体 に対 して,大 気 汚 染 に関 す る情 報 を 対 象 施 設 か ら収 集 し,汚 染 者 や 環 境 団 体 との 協 議 を 行 っ た上 で それ を 市 民 に公 開 す る裁 量 権 を 与 え て いた の で あ る。 さ ら に, 1974年 汚 染 規 制 法 ㈱ も1956年 法 と同 様 の 裁量 権 を 地 方 公 共 団 体 に付 与 して い た。 しか しな が ら,こ れ らの 規 定 が 存 在 して い た に もか か わ らず,地 方 公 共 団 体 に よ る大 気 汚 染 関 連 情 報 の 公 開 が 劇 的 に 増 加 す る と い う結 果 に は つ な が ら な か っ た。 環 境 衛 生 監 視 官 協 会(lnstitutionofEnvironmental HealthOfficers)の1982年. の調 査 に よ る と,1年. ⑳HealthandSafetyatWorketc.Act1974 (3①Ibid.,s.28(2). (3DIbid.,s.28(7). 働CleanAirAct1956 ㈱ControlofPollutionAct1974. 147. 間 にそ の よ うな 権 限 を 行.

(14) 近畿大学法学. 第57巻 第4号. 使 した地 方 公 共 団 体 は全 国 で5に. と ど ま って お り,そ の 上,そ れ らの 地 方. 公 共 団体 が情 報 を 収 集 した対 象 施 設 は 合 計 で8施 設 の み で あ った 剛。 さ ら に,環 境 保 護 団 体 で あ るFriendsoftheEarthの 限 を行 使 した5地 方 公 共 団 体 の 内,4団. 調 査 に よ る と,同 年 に権. 体 が 当年 にな って 初 めて 権 限 を 行. 使 して い る絢。 つ ま り,地 方 公 共 団体 に よ る大 気 汚 染 関 連 情 報 の 公 開 につ いて は地 域 差 が 明 確 に あ らわ れ て お り,情 報 を 積 極 的 に入 手 した い と考 え る市 民 の 目か ら見 る と明 らか な 失 敗 で あ っ た と批 判 され て い る鮒。 1956年 法 及 び1974年 汚 染 規 制 法 が 地 方 公 共 団 体 に与 え た権 限 が 行 使 され な か っ た理 由 と して 以 下 の2点 が挙 げ られ る(3D。 第1に,こ. れ らの 法 律 の. 下 で 地 方 公 共 団 体 に与 え られ た権 限 は義 務 的 な もの で はな く,裁 量 的 な も の に過 ぎな か っ た と い う こ とで あ る。 その 結 果 と して 情 報 公 開 が 行 わ れ る か 否 か は地 方 公 共 団 体 の 判 断 に依 拠 す る こ と とな って い た。 第2に,こ. れ. らの 法 律 に は,地 方 公 共 団 体 が この 権 限 を 行 使 す る前 提 と して,地 方 公 共 団 体 は汚 染 者 及 び地 域 の 環 境 団 体 との 三 者 間 で の 委 員 会 を 形 成 し,定 期 的 に協 議 を 行 わ な けれ ばな らな い 旨が 規 定 され て い た。 これ は時 間 的 に も費 用 的 に も地 方 公 共 団 体 に負 担 を か け る こ と とな る た め,地 方 公 共 団 体 が 積 極 的 に公 開 を行 お う と しな い理 由 とな って い る㈱。 こ れ らの理 由か ら,地 方 公 共 団 体 に対 して 環 境 情 報 の 収 集 と市 民 へ の 公 開 と い う裁 量 権 を 与 え た 1956年 法 及 び1974年 汚 染 規 制 法 の 規 定 は,大 気 汚 染 関 連 情 報 の 積 極 的 公 開 に結 びつ か な か っ たの で あ る。 全 国 レベ ル で は アル カ リ検 査 団 の 政 策 と1974年 労 働 衛 生 安 全 法 の 規 定 に よ り,ま た地 方 レベ ル で も1956年 法 や1974年 汚 染 規 制 法 の 規 定 が 存 在 した ㈲MauriceFrankel,op.cit.,p.29. (3DIbid. ㈹Ibid. (3DIbid. (38)SimonBall&StuartBell,op.cit.,p.108.. 148.

(15) イ ギ リス にお け る環 境 情 報 提 供 手 法. に もか か わ らず 積 極 的 に行 わ れ る こ とが な か っ た20世 紀 中頃 の 大 気 汚 染 関 連 情 報 の 公 開 につ いて,王 立 環 境 汚 染 委 員 会(RoyalCommissiononEnvironmentalPollution,以. 下RCEP脚. は1976年 の 「大 気 汚 染 の コ ン トロー. ル:総 合 的 ア プ ロ ー チ」 と題 した第5報 告 書 にお いて 以 下 の よ うな 勧 告 を 行 っ て い る。 「た とえ法 律 に よ って 根 拠 づ け られ て い た と して も,情 報 公 開 に関 す る検 査 団 の 政 策 は見 当違 いの もの で あ る。 … … 生 デ ー タを 開 示 す る こ とが 市 民 の 不 安 を 引 き起 こす か も しれ な い と い う検 査 団 の 考 え は過 度 に誇 張 され た も の で あ り,… …市 民 は 自分 自身 が 吸 い 込 ん で い る大 気 の 状 態 や,汚 染 の 量 に つ い て 知 る 権 利 を 有 す るべ き で あ る」㈲ と。 さ ら に RCEPは,1984年. の 「汚 染 へ の 取 組 み:経 験 と展 望 」 と題 した 第10報 告 書. に お いて,地 方 公 共 団 体 は大 気 汚 染 の デ ー タを 裁 量 に よ らず 義 務 的 に公 開 す るべ きで あ る 旨を 主 張 し,さ らに検 査 団 の 秘 密 主 義 政 策 に法 的 根 拠 を 与 え た1974年 労 働 衛 生 安 全 法 の 規 定 は 「時 代 遅 れ で あ り,不 必 要 で あ る」ql) し,情 報 を 非 公 開 とす る 何 らか の 深 刻 な 根 拠 が 立 証 され た場 合 以 外 に は 「規 制 権 限 を有 す る公 的 機 関 の 収 集 した情 報 を市 民 に 無 制 限 で公 開 す べ き で あ る」⑰ と批 判 して い る。. (3)環 境 情 報 の 秘 密 性 一 水 質 汚 濁 (a)秘 密 主 義 の 法 的 根 拠 一1961年 河 川(汚 染 防 止)法 大 気 汚 染 に関 す る環 境 情 報 の 非 公 開 が 主 張 され て い る当 時,水 質 汚 濁 関. ㈹RCEPの. 性 質 に つ い て は 本 章 第3節. ωRoyalCommissiononEnvironmentalPollutionFifthReport(1976) AirPollutionControl:anIntegratedApproach,Cmnd6371. ωRCEPTenthReport(1984)TacklingPollution-ExperienceandProspects,Cmnd9149. (42)Ibid.. 149. に て 言 及 す る 。.

(16) 近畿大学法学. 第57巻 第4号. 連 情 報 に関 す る規 定 と して1961年 河 川(汚 染 防 止)法 ⑬ が 存 在 して いた 。 同法 は,河 川 へ の 排 出を 行 って い る私 人 あ る い は企 業 が 情 報 の 公 開 に 同意 して い るか,制 定 法 が 情 報 公 開 を 要 求 して いな い限 り,公 的 機 関 の 保 有 す る排 水 許 可 の 申請,廃 水 の 内容,廃 水 の サ ン プル に関 す る情 報 を 市 民 に公 開 しな い 旨 を定 め て い た ㈹。 つ ま り水 質 汚 濁 に つ いて も大 気 汚 染 の 場 合 と 同様 に環 境 情 報 の 秘 密 性 が 重 視 され て い たの で あ る。 この よ うな 水 質 汚 濁 関 連 情 報 の 秘 密 性 につ いて,RCEPは1972年. の 「イ. ギ リス に お け る河 口及 び沿 岸 水 域 の 汚 染 」 と題 した第3報 告 書 に お いて, 「不 必 要 な マ ン トは外 す べ き で あ る」㈲ と批 判 して い た。. (b)1974年. 汚 染 規 制 法 第2編 の 制 定 と施 行 の 遅 れ. しか しな が ら,大 気 汚 染 の場 合 と異 な り,RCEPに 機 に,1974年. 汚 染 規 制 法 が その 第2編. よ る度 々の 勧 告 を 契. に お いて 規 制 当局 の 保 有 す る水 質 汚. 濁 関 連 情 報 を 市 民 に対 して 積 極 的 に公 開 す る よ う規 定 す る。 同法 は,水 管 理 当局(waterauthority)㈲. に対 して,河 川 へ 排 出 され た 廃 水 の デ ー タを. 収 集 し,そ れ を公 的 登 録 簿 働 に登 録 す る こ と に よ って 市 民 に提 供 す る よ う. ⑬Rivers(PreventionofPollution)Act1961 (M)Ibid.,s.12. ㈹RCEPThirdReport(1972)PollutioninsomeBritishEstuariesand CoastalWaters,Cmnd5054. ㈹. 水 管 理 当 局 は1973年. 水 法(WaterAct1973)に. 制 の た め の 行 政 機 関 で あ り,当 は,従. 時 は 国 内 に 合 計10存. よ り設 置 さ れ た 水 質 汚 濁 規 在 して い た。 そ の 主 な 機 能. 前 は 地 方 公 共 団 体 に 付 与 さ れ て い た 下 水 道 事 業,給. 河 口,一. 水,内. 定 の 海 岸 水 域 の 保 全 と 汚 染 防 止 で あ っ た 。1973年. 陸 水,地. 下 水,. 水法は従来地方公共. 団 体 に与 え られ て い た公 共 下 水 道 へ の産 業 廃 液 の排 出 に 関 す る規 制 権 限 を 水 管 理 当 局 に 付 与 した の で あ る 。 飯 塚 和 之 規制法の検討 (4T1974年. 」 商 學 討 究(小. 「イ ギ リ ス 環 境 法 研 究 序 説 一1974年. 樽 商 科 大 学)30巻2号(1979年)24頁. 汚 染 規 制 法 の 規 定 す る公 的 登 録 簿 制 度 につ いて は後 述 す る。. 150. 汚染. 以下参照。.

(17) イ ギ リス にお け る環 境 情 報 提 供 手 法. 義 務 付 け た姻 の で あ る㈹。 しか し,こ の よ うな 規 定 を 含 む1974年 汚 染 規 制 法 第2編. は,産 業 界 に よ. る圧 力 な どか ら1985年 まで 施 行 され る こ とが な か っ た。 そ の た め,水 質 汚 濁 関 連 情 報 につ いて も大 気 汚 染 の 場 合 と 同様,秘 密 主 義 が 維 持 され る こ と とな る⑳。 この よ う に1974年 汚 染 規 制 法 第2編 の 施 行 が 遅 れ る 中,RCEPは. 水管理. 当局 及 び産 業 界 に対 して,情 報 を 自発 的 に公 開 す る よ う促 して いた 。 い く つ か の 水 管 理 当局 は この 勧 告 に従 い,規 制 対 象 地 域 の 企 業 に対 して 排 水 の 内容 や その 量 につ いて の 詳 細 を 公 開 す る た めの 同意 を 要 求 して い る。 しか し,全 国 で10あ る水 管 理 当局 の 内,ア ン グ リア ン水 管 理 当 局,サ ス ト水 管 理 当局,ウ. ウスウェ. ェセ ック ス水 管 理 当局 の3当 局 は一 切 情 報 を 公 開 しな. か っ た し,情 報 公 開 を 促 進 しよ う と した水 管 理 当 局 で さえ,規 制 対 象 地 域 の 企 業 の 大 部 分 が 廃 水 に関 す る情 報 公 開 を 拒 ん だ こ とか ら,結 果 的 にそ の 全 体 像 を 市 民 に公 開 す る こ と はな か っ たの で あ る。. (c)実. 例. こ の よ う な 状 況 の 下,水. 質 汚 濁 関 連 情 報 の 公 開 に 関 して 以 下 の よ う な 事. 案 が あ っ た6D。 当 時,BTPTioxideLtd.とLaportelndustriesLtd.と う2つ. い. の 企 業 が 二 酸 化 チ タ ン を 含 む 廃 水 を ハ ン バ ー 川 に 排 出 して い た こ と. に つ い て,グ. リ ー ン ピ ー ス な ど い くつ か の 環 境 保 護 団 体 は,ハ. ンバ ー 川 へ. ㈹ControlofPollutionAct1974,s.41. (49)一. 方,先. 述 し た よ う に,大. 気 汚 染 関 連 情 報 の 公 開 に 関 し て は,同. じ1974年. 汚. 染 規 制 法 は地 方 公 共 団 体 に裁 量 的 な 権 限 を 与 え るの み で あ った 。 60)結. 果 的 に 施 行 に は11年. も の 時 間 が か か っ た が,こ. の1974年. 汚 染 規 制 法 第2編. が 規 定 す る公 的 登 録 簿 制 度 の登 場 が後 の イ ギ リス に お け る環 境 情 報 の 積 極 的 公 開 の 引 き金 とな った 。 これ につ いて は後 に検 討 す る。 61)MauriceFrankel,op.cit.,p.31.. 151.

(18) 近畿大学法学. 第57巻 第4号. の 排 水 よ り も 比 較 的 少 量 の 二 酸 化 チ タ ン を 河 川 に 排 出 して い た フ ィ ン ラ ン ドに お け る 調 査 か ら,二. 酸 化 チ タ ンの 排 出が 地 元 の 漁 業 に深 刻 な 悪 影 響 を. 与 え て い る こ と を 証 明 して お り,こ. れ らの 化 学 物 質 を 含 む 廃 水 は イ ギ リ ス. に お い て も フ ィ ン ラ ン ドと 同 様 の 悪 影 響 を 漁 業 に 与 え る お そ れ が あ る と 主 張 して い た 。 しか しな が ら,こ. の よ う な グ リ ー ン ピ ー ス の 批 判 に 対 し,ハ. ンバ ー 川 の 汚 染 規 制 を 行 っ て い た ア ン グ リ ア ン 水 管 理 当 局 は,1981年 「BTPTioxideLtd.及. びLaportelndustriesLtd.は. に,. 総 じて 悪 影 響 を 与 え. る よ う な 物 質 を ハ ンバ ー 川 へ 排 出 して い な い 」 と す る 報 告 を 行 っ て い た 。 こ の報 告 の背 景 に は 以 下 の よ う な事 実 が あ っ た。 ハ ンバ ー川 に お い て は 1978年 以 降,数. 年 に わ た っ て 排 出 地 点 周 辺 で 汚 染 レベ ル の モ ニ タ リ ン グ が. 行 わ れ て い た が,そ. の ほ と ん ど が 規 制 機 関 で あ る 水 管 理 当 局 で は な く,排. 出 を 行 っ て い る 企 業 に よ っ て 実 施 さ れ て お り,ア. ン グ リア ン水 管 理 当局 は. 企 業 に よ る モ ニ タ リ ン グ の 結 果 を 全 面 的 に 信 頼 して い た の で あ る 。 グ リ ー ン ピ ー ス な ど の 環 境 保 護 団 体 は,こ. れ らの 企 業 に 対 して こ れ ま で 数 度 に わ. た り モ ニ タ リ ン グ 結 果 を 公 開 す る よ う 要 求 して い た が,そ. れ らは全 て 拒 否. さ れ て い た 上,ア. ング リア ン水 管 理 当局 も企 業 に よ る モニ タ リン グ結 果 の. 複 写 を 保 有 し,さ. らに水 管 理 当局 自身 も数 度 自発 的 に廃 水 の モニ タ リン グ. を 行 っ た こ と も あ っ た が,そ 1961年 河 川(汚. 第2節. 染 防 止)法. れ らの 情 報 を 企 業 の 同 意 な く公 開 す る こ と は の 下 で 認 め られ な か っ た の で あ る 。. 秘密主義の根拠. 産 業 革 命 以 後 の イ ギ リスで は,公 的 機 関 が 保 有 す る環 境 情 報 につ いて 秘 密 主 義 が 採 られ て お り,こ の 姿 勢 は1974年 汚 染 規 制 法 第2編 が 水 質 汚 濁 関 連 情 報 に関 す る公 的 登 録 簿 制 度 を 導 入 し,そ れ が1985年 に施 行 され る まで 継 続 され た。 この よ う に秘 密 主 義 が 採 られ た最 も大 きな 理 由 と して,環 境1青報 の 公 開 152.

(19) イ ギ リス にお け る環 境 情 報 提 供 手 法. に対 す る産 業 界 の 消 極 的 姿 勢 が 挙 げ られ る。 先 述 した よ う に,当 時 の イギ リスで は,汚 染 者 で あ る産 業 界 と規 制 者 で あ る公 的 機 関 が 癒 着 関 係 に あ っ た と も言 わ れ て お り,産 業 界 の 情 報 公 開 へ の 消 極 的 姿 勢 が 規 制 当 局 の 保 有 す る環 境 情 報 の 秘 密 主 義 につ な が って い たの で あ る。 そ して,こ の よ うな 立 場 に立 つ 産 業 界 は,1974年. 汚 染 規 制 法 に よ り水 質 汚 濁 に関 す る公 的 登 録. 簿 制 度 が 導 入 され,環 境 情 報 提 供 制 度 が 前 進 を 見 せ 始 めた 後 も情 報 公 開 に つ いて 否 定 的 な 意 見 を 示 し続 け る こ と とな る。 それ で は,な ぜ 産 業 界 は環 境 情 報 の 公 開 につ いて 消 極 的 で あ った の だ ろ うか 。 本 節 で は産 業 界 が 環 境 情 報 の 秘 密 性 を 維 持 しよ う と した 根 拠 につ い て 考 察 す る。. (1)環 境 情 報 の 技 術 的 専 門 性 1つ 目の 根 拠 と して 環 境 情 報 の 技 術 的 専 門 性 が 挙 げ られ る。 これ は英 国 産 業 連 盟(ConfederationofBritishIndustry,以. 下CBI)が1979年. に発. 表 した 「環 境 及 び技 術 に関 す る情 報 の 公 開 」 と い う文 書 に よ って 明 らか に され て い る。CBIは. 本 文 書 に お い て,情 報 の 大 量 公 開 が 誤 った 解 釈 を 行 わ. せ る危 険 性 や,根 拠 の な い警 鐘 を 引 き起 こす 可 能 性,あ. る い は正 当 な 理 由. の な い訴 訟 を増 加 させ る こ と につ な が る と懸 念 す るcsD。CBIに よ る と,こ の よ うな 情 報 は訓 練 を 受 け た毒 物 学 者 に よ る解 釈 を 必 要 とす る ほ ど非 常 に 詳 細 か つ 技 術 的 で あ る た め,正 確 な 解 釈 を 行 う こ との で き る状 況 は限 られ た もの で あ り,ま っ た く誤 解 釈 の お それ な く公 開 す る こ との で き る情 報 の 量 や 種 類 は 限定 され て い る尉。 ま た 同年 に は,製 品 の 人 体 へ の影 響 に関 す る情 報 を市 民 に公 開 しな い とす る決 定 を 行 っ た化 学 薬 品 会 社 が,「 情 報 は 高 度 な 専 門 性 を 有 して お り,そ の 情 報 の 重 要 性 を 完 全 に理 解 す る こ とが で S2)SimonBall&StuartBell,op.cit.,p.108. 63)Ibid. 153.

(20) 近畿大学法学. 第57巻 第4号. き る の は そ れ に関 連 した 資 格 や専 門性 を 有 して い る者 に 限 られ る」勧 と非 公 開 の 理 由を 述 べ て い る。 これ らの 主 張 か ら,産 業 界 が 環 境1青報 の 技 術 的 専 門 性 を 理 由 に市 民 へ の 公 開 を 行 うべ きで はな い と考 え て い た こ とが 分 か る。 この 技 術 的 専 門 性 と い う秘 密 主 義 の 正 当化 理 由 に対 して,RCEPは1984 年 の第10報 告 書 にお い て以 下 の よ う に反 論 して い る。 「環 境 問 題 に 関 係 す る多 くの 団 体 が 有 す る専 門 性 は向 上 して お り,… … 研 究 者 と比 べ て も遜 色 の な い ほ どの 科 学 的 な報 告 書 を提 出 して い る こ と もあ る。 そ の た め,『 市 民 』 が 情 報 を 『正 確 に』 利 用 す る能 力 が な い と い う こ とを 根 拠 に情 報 へ の ア クセ スを 拒 否 す る こ と は支 持 で き る もの で も容 認 で き る もの で もな い と 考 え る」⑮ と。 ま た,環 境 情 報 の 積 極 的 公 開 を 主 張 す る 学 者 の 一 人 で あ る MauriceFrankelも,「. 化 学 物 質 の危 険 性 につ い て の情 報 は,専 門 家 に よ る. 助 言 が な け れ ば解 釈 が 困 難 で あ ろ う こ と は 疑 い よ うが な い。 しか しな が ら,環 境 団 体 や 労 働 組 合,消 費 者 団 体 は技 術 的 な 情 報 を 正 確 に解 釈 す る能 力 を有 す る専 門 家 と も協 力 して い る。 つ ま り,有 害 物 質 な ど に関 す る情 報 の 解 釈 が 困 難 で あ る とい う秘 密 性 の 根 拠 は妥 当 で は な い」66)と 産業 界の提 示 す る秘 密 主 義 の 正 当化 理 由を 批 判 して い る。 確 か に環 境 情 報 は一般 市 民 で は解 読 で きな い よ うな 専 門 性 を 有 す る こ と も あ るが,そ れ だ けで は情 報 を非 公 開 とす る根 拠 に はな らな い。 まず は市 民 や 環 境 保 護 団 体 に広 く公 開 し,そ の 後,専 門 家 に よ る分 析 を 待 て ば よ いの で あ る。. (2)過 激 論 者 の 介 入 や 濫 訴 の 可 能 性 第2の 根 拠 と して,産 業 界 や 規 制 当局 は, 環境情報の公開が過激論者 に. 働MauriceFrankel,op.cit.,pp.34-35. 岡RCEPTenthReport(1984). 66)MauriceFrankel,op.cit.,p.34.. 154.

(21) イ ギ リス にお け る環 境 情 報 提 供 手 法. よ る 過 度 の 介 入 を 引 き起 こす 可 能 性 が あ る と指 摘 す る ㈱。 こ の 点 に つ い て,1977年. に は環 境 衛 生 監 視 官(EnvironmentalHealthOfficer)が. 大気. 汚 染 を背 景 に設 立 され た 民 間 団体 で あ る大 気 浄 化 協 会(NationalSociety forCleanAir)と. の 協 議 の 中で,1974年. 汚 染 規 制 法 が1956年 空 気 清 浄 法 と. 同様 に大 気 汚 染 関 連 情 報 の 収 集 と市 民 へ の 公 開 を 行 う裁 量 権 を 地 方 公 共 団 体 に付 与 した こ とを 批 判 して い る㈱。 規 制 当 局 は,こ の よ うな規 定 を 置 く こ とで 市 民 や 環 境 保 護 団 体 な どが 地 方 公 共 団 体 に対 して 当 該 裁 量 権 を 行 使 す る よ う圧 力 を か け続 け る こ と にな り,そ の よ うな 環 境 保 護 団 体 に は しば しば過 激 論 者 が 含 まれ て い る こ とか ら,地 方 公 共 団 体 が 裁 量 権 を 行 使 す る こ と に よ って 過 激 論 者 が 情 報 を 入 手 し,産 業 界 が 衰 退 して しま う可 能 性 が あ る と危 惧 して い た の で あ る69)。ま た,CBIも 簿 制 度 を 導 入 した1974年 汚 染 規 制 法 第2編. 水 質 汚 濁 に 関 す る公 的 登 録. は不 必 要 な もの で あ る と主 張 し. て い る㈹。 こ こで も,環 境 情 報 を広 く公 開 す る こ と に よ って,過 激 論 者 に よ る介 入 が 引 き起 こ され る こ と とな り,産 業 界 や 規 制 当 局 に対 して 必 要 以 上 の 負 担 が か か る こ とが 懸 念 され て い た。 同 じ くCBIは,1979年. の文 書 にお い て,環 境 情 報 の 公 開 が 濫 訴 を 引 き起. こす 可 能 性 が あ る と批 判 して い る。CBIは,市. 民 が 環 境 情 報 を 自 由 に入 手. す る こ と に よ って,そ れ の み を 根 拠 に規 制 当局 や 事 業 者 を 相 手 に不 合 理 な 訴 訟 を 提 起 す る よ う にな る こ とを 危 惧 して い たの で あ る。 しか しこれ に対 してMauriceFrankelは,「. 損 害 の救 済 の た め に裁 判 所 に頼 る こ と は市 民. の 基 本 的 権 利 で あ り,… … 市 民 か らこの 機 会 を 奪 うた め に情 報 を 公 開 しな. ⑳SimonBall&StuartBell,opcit.,p.110. 68)MauriceFrankel,op.cit.,p.35. ⑲Ibid. ⑳SimonBall&StuartBell,op.cit.,p.110.. 155.

(22) 近畿大学法学. 第57巻 第4号. い こ と は 到 底 受 け 入 れ ら れ な い 」(6Dと述 べ,ま. たRCEPも1984年. の報告書. に お い て,「 救 済 を 与 え る か ど う か を 判 断 す る の は 裁 判 所 の 責 務 な の で あ る 」㈹ と 反 論 し て お り,ま ず は 市 民 に 環 境 情 報 を 公 開 し た 上 で,訴 さ れ た 場 合 に は,裁. 訟が提起. 判 所 の 判 断 を 待 つ べ き で あ る と い う考 え を 示 して い. る 。 さ ら にBell&McGillivrayは さ れ る よ う に な っ た 後,以. こ の 根 拠 に つ い て,環 境 情 報 が 広 く公 開 下 の よ う に 述 べ て い る 。 「後 か ら考 え て み れ ば,. こ れ らの 予 測 は 過 度 な 心 配 で あ っ た 。 環 境 情 報 は 環 境 保 護 団 体 に よ っ て 利 用 さ れ て い る が,こ. れ は 産 業 界 に 対 して 不 合 理 な 訴 訟 を 提 起 す る 目 的 で は. な い 」㈹ と 。. (3)環 境 情 報 の 商 業 的 秘 密 性 第3の. 根 拠 と して,環 境 情 報 の 持 つ 商 業 的 秘 密 性 が 挙 げ られ る。CBI. は,環 境 情 報 に は 競 合 して い る 企 業 に と っ て商 業 的 に 利 益 とな る よ うな デ ー タが 含 まれ て い る可 能 性 が あ る た め,情 報 公 開 が デ ー タの 漏 出 に対 す る産 業 界 の 懸 念 を 引 き起 こ す と主 張 す る。 つ ま りCBIは. 環境情報 に含 ま. れ る デ ー タ は排 出者 の 所 有 物 で あ り,ふ さわ しい理 由が な い限 りは公 開 さ れ るべ きで はな い と考 え て い るの で あ る㈹。 この よ うな 根 拠 か ら環 境 情 報 の 公 開 が 拒 否 され た事 例 と して 以 下 の よ う な もの が あ る㈲。 ① 有 害 物 質 除 去 過 程 につ いて の 情 報:ロ. ン ドンの フ ラ ム発 電 所 に お いて. ア スベ ス トの 除 去 作 業 を 行 って い た企 業 が,他 企 業 よ りも効 率 的 か つ 低 価. ⑳MauriceFrankel,op.cit.,p.36. ㈲RCEPTenthReport(1984). ㈹StuartBell&DonaldMcGillivray,op.cit.,p.297. 御SimonBall&StuartBell,op.cit.,pp.108-109. ㈲MauriceFrankel,op.cit.,pp.36-39.. 156.

(23) イ ギ リス にお け る環 境 情 報 提 供 手 法. 格 で ア ス ベ ス トを 除去 す る こ とが 可 能 な 新 機 器 を 開 発 した とす る宣 伝 を 行 っ た。 これ につ いて 発 電 所 の 近 隣 住 民 が,低 価 格 で あ る真 の 理 由 は新 機 器 の 開 発 で はな くア スベ ス トの 量 を 実 際 よ りも少 な く見 積 も って い るか ら だ と主 張 し,ア スベ ス ト処 理 過 程 の 情 報 を 公 開 す る よ う企 業 に要 求 した 。 これ に対 して 企 業 側 は,こ れ らの 情 報 を 公 開 す る こ と に よ って 新 機 器 につ いて の 情 報 も漏 洩 して しま う と して,商 業 的 秘 密 性 を 根 拠 に情 報 の 公 開 を 拒 否 して い る。 ② 化 学 物 質 の 用 い られ た製 品 の 組 成 情 報:産 業 界 は塗 料,接 着 剤,ニ. ス. な ど化 学 物 質 の 用 い られ た製 品 の 組 成 に関 す る情 報 は商 業 的 秘 密 性 を 有 す る もの で あ り,公 開 す る こ とが で き な い と主 張 して お り,CBIも. 市 民 に対. して これ らの 情 報 を 公 開 す る場 合 に は,製 品組 成 を詳 細 に示 す の で は な く,ラ ベ ル な どを 用 い た注 意 書 きの み を 表 示 す るべ きで あ る とす る考 え を 有 して い た。MauriceFrankelは. これ につ い て 「製 品 の 組 成 につ いて の 情. 報 が な けれ ば,市 民 が それ らの 物 質 の 危 険 性 を 認 識 す る こ と は不 可 能 で あ る」㈹ と批 判 す る。 つ ま り,こ の よ う な製 品 に 用 い られ て い る化 学 物 質 の 種 別 な どを 詳 細 に知 る こ と に よ って の み,利 用 者 は独 自 にそ の 危 険 性 を 判 断 す る こ とが で き,よ. り安 全 な 製 品 を 選 択 す る こ とが で き るの で あ る。. ③ 化 学 物 質 の 種 類 や 量 に関 す る情 報:産 業 界 は,企 業 が 環 境 情 報 を 公 開 す る こ と とな れ ば,競 合 す る企 業 が 公 開 され た 環 境 情 報 を 研 究 す る こ と に よ って,従 来 か ら企 業 秘 密 で あ る と考 え られ て いた よ うな 化 学 物 質 の 種 類 や 量 を 解 明 す る こ と が可 能 に な る と危 惧 して い る。 これ につ い てSimon Ball&StuartBellは,「. これ らの 懸 念 は実 際 に は誇 張 され た もの に過 ぎな. い」㈲ し,「知 的所 有権 は,特 許 や 商 標 に関 す る法 律 にお いて 十 分 に保 護 さ れ て お り,情 報 を 非 公 開 とす る こ と に よ って 秘 密 性 を 維 持 す る必 要 性 はな (66>Ibid.,p.37. ㈲SimonBall&StuartBell,op.cit.,p.109.. 157.

(24) 近畿大学法学. 第57巻 第4号. い」㈹ と こ の よ うな産 業 界 の考 え を批 判 して い る。 RCEPは1970年. 代 か ら1980年 代 に か けて 多 くの報 告 書 に お い て 商 業 的. 秘 密 性 に関 す る問 題 を 検 討 して お り,最 終 的 に1984年 の 第10報 告 書 に お い て,環 境 情 報 の 非 公 開 の 根 拠 と して 「企 業 が 商 業 的 秘 密 性 を 強 調 す る こ と は不 均 衡 か つ 見 当違 いで あ る」㈹ と結 論 付 け て い る。 しか しな が ら,こ の 商 業 的 秘 密 性 は,公 的 登 録 簿 制 度 が 導 入 され た後 も 重 視 され 続 け,環 境 情 報 の 提 供 が 商 業 的 利 益 を 侵 害 す る お それ が あ る場 合 に は 当該 情 報 は公 的 登 録 簿 に記 載 され な い場 合 が 多 い。. (4)規 制 当局 に対 す る負 担 CBIは. 第4の 根 拠 と して,も. し1956年 空 気 清 浄 法 が 規 定 す る よ う に地 方. 公 共 団 体 が 積 極 的 に大 気 汚 染 関 連 情 報 を 収 集 し,そ れ らを 市 民 に提 供 した り,1974年 汚 染 規 制 法 が 規 定 す る よ う に水 管 理 当局 が 水 質 汚 濁 関 連 情 報 を 入 手 し,市 民 に提 供 す る こ と とな れ ば,そ れ らの た め に必 要 な 支 出が 莫 大 な もの にな る と い う理 由か ら,そ の 費 用 と環 境 情 報 公 開 に よ って 得 られ る で あ ろ う市 民 の 利 益 との 間 に は不 均 衡 が 生 じる と指 摘 す る㈹。 これ は 行 政 運 営 にか か る費 用 を 削 減 す るべ きで あ り,た だ で さえ 人 員 不 足 か つ 過 重 労 働 が 課 せ られ て い た行 政 に対 して よ り大 きな 負 担 を か け る こ と は得 策 で は な い と い う考 え か ら生 じた もの で あ るσ1)。 また,環 境 情 報 の公 開 は,規 制 当局 に よ る環 境 汚 染 に対 す る コ ン トロ ール の 成 果 を 市 民 が 監 視 す る こ と に つ な が る た め,こ れ ま で 以 上 に 規 制 当 局 の 負 担 を 増 加 させ る こ と とな る 上,も. し市 民 が 規 制 当局 に よ る汚 染 規 制 活 動 に不 服 で あれ ば,当 局 は環 境. ㈱Ibid. ㈹RCEPTenthReport(1984). ⑩SimonBall&StuartBell,op.cit.,p.111. (71)Ibid.. 158.

(25) イ ギ リス にお け る環 境 情 報 提 供 手 法. 汚 染 につ いて 再 調 査 を 行 わ な けれ ばな らな くな り,費 用 負 担 が よ り大 き く な る と い うの で あ る⑫。 その 他 に も,産 業 界 は,汚 染 が わ ず か な 地 域 や,汚 染 問 題 が す で に解 決 して い る よ うな 場 合 に は,市 民 に対 して 情 報 を 敢 え て 公 開 しな い方 が,多 くの 市 民 に対 して 情 報 を 公 開 し,現 在 の 問 題 の 状 況 や そ の 重 要 性 を 説 明 す る よ りも容 易 で あ り,規 制 当局 に対 す る 負担 も軽 減 さ れ る と考 え て い る㈱。. 第3節. 秘 密 主 義 に対 す る批 判. 20世 紀 中頃 まで 続 く環 境 情 報 の 秘 密 主 義 につ いて は,前 節 で 見 た よ うな 様 々な 正 当化 理 由が 産 業 界 や 規 制 当局 か ら主 張 され て いた が,RCEPや. 環. 境 保 護 団 体,学 界 は これ らの 正 当化 理 由を 常 に批 判 し,環 境 保 護 の た め に は環 境 情 報 を 広 く市 民 に公 開 す る こ とが 必 要 で あ る と主 張 して いた 。 また イギ リスで は,1960年. 代 後 半 か ら1970年 代 前 半 にか けて 環 境 汚 染 が 社 会 問. 題 化 し,環 境 保 護 の た めの 市 民 運 動 が 活 発 化 す る こ と とな る。 そ して,こ れ らの 市 民 運 動 やRCEPの 1974年 汚 染 規 制 法 第2編. 勧 告 を受 け て 制 定 さ れ,1985年. に 施 行 され た. に よ る公 的 登 録 簿 制 度 の 導 入 を 契 機 と して,環 境. 情 報 を 積 極 的 に公 開 す る よ う規 定 す る環 境 関 連 法 規 が 制 定 され 始 め,環 境 情 報 の 積 極 的 公 開 の 時 代 へ と突 入 す るの で あ る。 この よ うな 環 境 情 報 公 開 制 度 の 成 立 に は,特 にRCEPの. 勧 告 が 世論 の 先 導 役 とな り,重 要 な 役 割 を. 果 た した と言 わ れ て い る㈹。 本 節 で は,こ の よ うな 転 換 期 に非 常 に大 きな 影 響 を与 え たRCEPに. よ る勧 告 と積 極 的公 開 を 主 張 した 学 説 につ い て 検. 討 す る。. ⑰Ibid. ㈱MauriceFrankel,op.cit.,p.41. (74)FrancisSandach,"PublicParticipationandtheControlofPollutionAct1974"(1977)127N.L.J.652.. 159.

(26) 近畿大学法学. 第57巻 第4号. (1)RCEPに. よ る勧 告. (a)RCEPの. 姿勢一積極的公開主義. RCEPは,環. 境 汚 染 に 関 す る 国 内及 び 国 際 的 な 問 題 に つ い て女 王,政. 府,議 会,市 民 に対 して 勧 告 を 行 う こ とを 目的 と して,1970年2月. に設 立. され た政 府 か ら独 立 した委 員 会 で あ る㈲。 同 委 員 会 は環 境 問題 を 法 的,経 済 的,技 術 的,社 会 的 側 面 か ら検 討 す る た め,様 々な 領 域 の 専 門 家 に よ っ て 構 成 され て お り,そ の 構 成 員 は首 相 の 助 言 に よ り女 王 に よ って 任 命 され る㈹。 ま た専 門 的 な勧 告 を 行 う だ け で は な く,政 府 の 行 動 選 択 に つ い て 客 観 的 な 助 言 を 与 え る機 会 も有 して い る た め,イ ギ リス に お け る環 境 法 及 び 環 境 政 策 の 発 展 に 極 め て 重 要 な 役 割 を 担 っ て い る と言 わ れ て い る ㈹。 RCEPは. そ の 活 動 の 中で,様 々な 環 境 問 題 に対 して 意 見 を 述 べ た報 告 書 を. 多 数 発 行 し,こ の 報 告 書 が 政 府 の 活 動 に対 して 非 常 に大 きな 影 響 を 与 え て い る こ とか ら,RCEP報. 告 書 の 分 析 が イギ リス環 境 法 の 研 究 に は不 可 欠 な. もの とな って い るの で あ る。 RCEPは. 様 々 な 環 境 に関 す る 問題 につ い て 検 討 し,助 言 を行 う役 割 を. 担 って い るが,そ の 中で 環 境 情 報 の 公 開 につ いて も多 くの 勧 告 を 行 って い る。RCEPは,市. 民 は環 境 に つ い て の利 害 関係 を有 して い る た め,市 民 一. 人 一 人 が 自身 の 直 面 して い る環 境 汚 染 リス ク につ いて 知 る権 利 を 有 して お り,ま た,行 政 に対 す る市 民 の 信 頼 を 構 築 す る唯 一一 の 手 段 は,公 的 機 関 の 保 有 す る環 境 情 報 へ の ア クセ スを 認 め る こ とで あ る と い う姿 勢 を 設 立 当初 か ら持 ち続 け て い るの で あ る⑱。 こ の姿 勢 に つ い て,RCEPは,1972年. ㈲. イ ギ リ ス に はRCEPの. 他 に も 多 く の 王 立 委 員 会 が 設 置 さ れ て お り,政. ら は 独 立 した 立 場 か ら 様 々 な 分 野 に お い て 助 言,勧 (76)SeeSusanWolf&NeilStanley,EnvironmentalLaw4thed.,(CavendishPublishingLtd.,2003),p.57. ⑳Ibid. ㈲SimonBall&StuartBell,op.cit.,p.112.. 160. 告 を 行 って い る。. の. 府か.

(27) イ ギ リス にお け る環 境 情 報 提 供 手 法. 「産 業 に よ る汚 染 に つ い て の3つ の 問題 」 とい う第2報 告 書 に お い て,「 研 究 者 や 汚 染 の 利 害 関 係 者 の よ うな,環 境 に関 す る利 益 の た め に情 報 を 利 用 す る責 任 を 有 す る者 に対 して は,情 報 を 公 開 す る必 要 性 」⑲ が あ り,さ ら に 情 報 は 「規 制 当局 の よ うな 機 関 だ けで な く,環 境 を 改 善 す るた め にそ れ を 利 用 す る研 究 者 な ど に も利 用 可 能 とな るべ きで あ り,そ れ こそ が 公 益 にか な う こ とで あ る」⑳ と初 め て 明 文 で示 して い る。 こ の よ うな 積 極 的 に 環 境 情 報 の 公 開 を 認 め るべ きで あ る と い う主 張 は後 の 報 告 書 で も引 き継 が れ て い くもの で あ る。 産 業 革 命 以 降,産 業 界 や 規 制 当局 が 環 境 情 報 の 公 開 に消 極 的 な 態 度 を 示 して い た こ と に対 して,RCEPは. 常 に環 境 情 報 の秘 密 主 義 を否 定 し,産 業. 界 及 び 当局 に対 して この よ うな 態 度 を 改 善 す る よ う報 告 書 に よ る勧 告 を 続 け て き た。 このRCEPの. 姿 勢 は世 論 に対 して 大 きな 影 響 を 与 え て い た と. 言 わ れ て お りBl),それ に導 か れ る よ うに,環 境 汚 染 が 社 会 問題 化 した1960 年 代 後 半 か ら環 境 保 護 を 主 張 す る市 民 運 動 も活 発 化 した の で あ る。. (b)大 気 汚 染 関 連 情 報 につ いて の 勧 告 そ れ で は この よ うなRCEPの. 姿 勢 は,環 境 情 報 公 開 制 度 の 導 入 に 対 し. て どの よ うな 影 響 を 与 え たの だ ろ うか 。 まず 大 気 汚 染 関 連 情 報 につ いて で あ る が,1974年. 汚 染 規 制 法 はRCEPの. 勧 告 を受 け て 制 定 され た もの で あ. る。 先 述 した よ う に,同 法 は地 方 公 共 団 体 に対 して,大 気 汚 染 関 連 情 報 を 収 集 しそ れ を 市 民 に提 供 す る裁 量 権 を与 え て お り,こ れ はRCEPの す る積 極 的 公 開 主 義 へ の 部 分 的 譲 歩 で あ る㈱。 ⑲RCEPSecondReport(1972)ThreeIssuesinIndustrialPollution, Cmnd4894. ⑳Ibid. ⑳MauriceFrankel,op.cit.,p.43. (82>Ibid.,p.44.. 161. 提唱.

(28) 近畿大学法学. 第57巻 第4号. しか しな が ら,本 章 第1節 で も述 べ た よ う に,こ の 規 定 が 大 気 汚 染 関 連 情 報 の 公 開 に対 して 大 きな 変 化 を 生 じさせ る こ と はな か っ た。 同法 に よ っ て 地 方 公 共 団 体 に与 え られ た裁 量 権 が 用 い られ る こ と は少 な く,情 報 の 大 部 分 が 公 開 され な か っ たの で あ る。 さ らに 同年 に は,ア ル カ リ検 査 団 が 職 務 を行 う際 に入 手 した記 録 や 測 定 結 果 に関 す る情 報 を 公 開 す る こ とを 明 文 で 禁 じた1974年 労 働 衛 生 安 全 法 が 制 定 され て お り,RCEPの. 勧 告 は明 確 に. 否 定 され て い る。 つ ま り大 気 汚 染 関 連 情 報 につ いて は,RCEPの. 勧告 によ. る地 方 公 共 団 体 に対 す る情 報 公 開 の 裁 量 権 付 与 と い う部 分 的 譲 歩 は あ っ た もの の,ア ル カ リ検 査 団 が 以 前 か ら有 して い た政 策 に従 い,情 報 の 秘 密 主 義 が 貫 か れ た と言 え る。 な お,RCEPは1976年. の第5報 告 書 に お い て,1974年. 労働衛生安全法の. 規 定 に関 して,「 我 々 は この逆 行 を遺 憾 に 思 う」㈱ と述 べ,こ の よ うな 情 報 非 公 開 義 務 を排 除 す る よ う政 府 に促 したが,政 府 は その 後 数 年 間 にわ た っ て このRCEP勧. 告 に何 ら返 答 す る こ と もな か った。. (c)水 質 汚 濁 関 連 情 報 につ いて の 勧 告 RCEPの. 勧 告 を 受 け て 最 も積 極 的 な 変 化 が起 こ った の は水 質 汚 濁 の 領. 域 で あ る。RCEPは1972年. の 第3報 告 書 に お いて,「 河 川 や 河 口へ の 排 水. の 質 や 量 に関 す る情 報 は よ り広 く公 開 され るべ きで あ り,… … その よ うな 情 報 を公 開 す る た め の 自主 的 な取 り決 め を 行 う」鱒 よ う政 府 及 び産 業 界 に 対 して 要 求 して お り,こ れ を 受 けて い くつ か の 水 管 理 当局 が 従 来 は非 公 開 で あ っ た河 川 へ の 汚 染 物 質 排 出 に関 す る情 報 を 自主 的 に公 開 しよ う と試 み たの で あ る。 しか し,こ れ につ いて も先 述 した よ う に,10あ の 内,3当. る水 管 理 当局. 局 は決 して 情 報 を 公 開 す る こ と はな く,こ れ らの 当局 が 管 轄 す. ⑬RCEPFifthReport(1976). ㈹RCEPThirdReport(1972).. 162.

参照

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