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胎位が骨盤位である症例につき,医師が帝王切開を希望する妊婦に対してなした経膣分娩を推奨する旨の説明が,妊婦に経膣分娩のリスクを理解させるものではなく、これを受容すべきか否かを判断させる機会を与えたとはいえないとして,医師の説明義務違反を認めた事例 : 最一小判平成17年9月8日平14(受)989号損害賠償請求事件破棄差戻裁時1395号1頁・判タ1192号249頁・判時1912号16頁

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(1)判例研究. 胎位が骨盤位である症例につき,医師が帝王切開を希望する妊婦に対 してなした経膣分娩を推奨する旨の説明が,妊婦に経膣分娩のリスク を理解させるものではなく,これを受容すべきか否かを判断させる機 会を与えたとはいえないとして,医師の説明義務違反を認めた事例 最一小判平成17年9月8日平14(受)989号損害賠償請求事件破棄差戻     裁時1395号1頁・判タ1192号249頁・判時1912号ヱ6頁. 日本大学通信教育部准教授 日本大学歯学部兼担准教授. 根 本 晋 一 bontents− r 事実の概要. 一一. 江 判決要旨 皿 評 釈.   1緒 言   2 本判決の意義・位置付・審理経過   3 医師の説明義務 一患者の自己決定権との関係一   4 療法選択における説明義務 一説明義務の諸類型一   5 説明義務違反の効果一被侵害利益の内容一   6 骨盤位分娩に関する医療水準と医学的データ    (1)医療水準の概念    (2)骨盤位分娩における厨帯脱出の可能性・帝王切開術の適応可能性    (3)骨盤位分娩に対する医療楓関の意識.    (4)2007年1月現在における分娩臨床の一例              一東京医科歯科大学医学部付属病院周産期医療科における臨床例一   7 結語に代えて 一本判決の評価一    〔1)医師が説明をなすべき相手方の範囲    (2)療法説明上の過失と療法選択上の過失の認定における評価矛盾    (3)被侵害利益の捉え方と慰謝料の認定    (4)説明義務違反の程度一療法脱明の際における注意義務の基準一    (5)療法説明上の過失と療法選択上の過失の限界. 田.

(2) 横浜国際経済法学第16巻第3号(2008年3月). 工 事実の概要 年月日. 裁判所が認定した]」嘆. 平成5年  8月31日. 妊娠確認(31歳,初産/出産予定日を平6・5・1と診断) 骨盤位(逆子.つまり頭部を子宮底に.腎部を子宮口に向けた胎位)判明 医師 → 経膣分娩によるとの方針. 平成6年  2月 9日. 4月13日 4月14日 両親→ 帝王切開による分娩希望 4月20日 両親 → 帝王切開による分娩希望. 医師 → 経腺分娩が可能であること,もし分娩中に問題が生じればすぐ に帝王切開に移行できること.帝王切聞は手術部がうまく接合 しないことがあること.次回出産の際に子宮破裂を起こす危険 性があること等を説明.家族による話し合いを指示. 4月27日 両親→ 帝王切開による分娩希望 緕t ⇒ どんな場合にも帝王切開に移れるから心配はないと説明。同 日,超音波断層法により胎児の体垂を3057gと推定,分娩時 には殿位となると診断。同日以降胎児の推定体重を測定せず. 4月28日. 入院. 医師 一←骨盤位における経膣分娩の経過,帝王切開の危険性,骨盤位 において前期破水すると,胎児と産道との間を通して騎帯脱 〒     出を起こすことがあり.早期に対処しないと胎児に危険をお よぽす可能性があること.その場合には帝王切開に移行する こと等につき,経膣分娩を推奨する口調で説明. 両親一一逆子は騰帯がひっかかると聞いているので,帝王切開を希望 医師 ⇒ この条件で産めなければ頭からでも産めない。もし産道で詰 まったとしても,口に手を入れてあごを引っ張ればすぐに出 る。もし分娩中に何か起こったらすぐにでも帝王切開に移れ るので心配はないと回答 両親→ それでも心配ですので遠慮せずにどんどん切ってください. 予め手術承諾書に署名をすると発言 医師 → 心配のし過ぎである,として取り合わず. 5月 9日. 子宮口開大臼指大),成熟の徴候を確認 医師 → 11日より分娩誘発を行うと説明 両親→子供が大きくなっていると思うので下から産む自信がない, として帝王切開を希望. 医師⇒ 予定日以降,胎児は.そんなに育たないと回答. 5月11日. 子宮口にパルンプジー(子宮口を拡大し分娩を誘発する器具)を挿入(15: 20頃〕,胎児の心拍数を測定聞始(19:20頃). 陣痛促進剤を1時間毎1錠服用(6:00∼8:00).胎児の腎部と踵に触 れたことから.分娩時殿位とする当初の診断を変更し.複殿位(分娩時 において胎児が両下肢の膝を屈しつつ.両側の踵を瞥部に接触させて先. 進する状態)と診統しかし子宮頸部の柔軟化等によりそのまま経膣分 娩を続行陣痛促進剤の点滴投与開始(8:00頃),2分間隔にて陣痛発 現{13:18頃),胎胞排臨(胎胞が膣外に出た状態)となるも卵膜強靭. 5月 E日. ゆえに破膜せず(15:03頃).分娩遷延を回避する目的にて人工破膜を 施行,破水後に騰帯の膣内脱出を惹起,胎児の心拍数急速に低下,騰帯 の子宮内還納を施行するも不奏功,破水後に帝王切開術へ移行したとし ても.胎児娩出までに最低15分程度を要することから帝王切開へ移行 する方が予後悪しと診断,経簡分娩を維持しつつ骨盤位牽出術を施行 (15:07頃).重度仮死状態の男児を娩出(15:09頃).待機中の小児科 医による蘇生術を施行するも.男児死亡(19:24). 現.

(3) 胎位が骨位位である症例につき,医師が帝王切間を希望する旺蛸}に対してなした軽旋分娩を推奨する廿の説明が.妊岬に軽腕分娩のり其クを 理解させるものでt±なく.これを受容すべきか否かを判断させる撮会を与えたとはいえないとLて.医師刎朋陸務迎反を盟めた]1梱.  両親は担当医師に対し,複数回にわたり胎児が骨盤位であるから帝王切開に よる分娩を強く希望する旨を伝えていたのであるが,担当医師は,取り合うこ とをせず,胎位骨盤位における経膣分娩の危険性や,経膣分娩と帝王切開との. 利害得失に関する充分な説明をしなかったので,両親は分娩方法につき充分な 検討を経て療法を選択・決定することができず,帝王切開による分娩の機会を 失した結果,新生児たる男児は死亡したと主張して,担当医師と,その使用者 である独立行政法人国立病院機構に対し,債務不履行または不法行為(使用者 責任)に基づく損害賠償を請求したものである(民法第415条,第709条,第715条)。.  皿 判決要旨  上告人ら(筆者注…両親)は,胎児が骨盤位であることなどから経膣分娩に 不安を抱き,被上告人医師に対し,再三にわたり,帝王切開術を強く希望する. 旨を伝えていた。これに対し,被上告人医師は,上告人らに対し,経膣分娩 の危険性について一応の説明をしたものの,出産予定日を経過し子供が大き くなっていると思うので下から産む自信がない旨述べた上告人(筆者注…妊婦). に対して予定日以降は胎児はそんなに育たない旨答えたのみで,骨盤位の場合 における分娩方法の選択に当たっての重要な判断要素となる胎児の推定体重や. 胎位等について具体的な説明をせず,かえって,分娩中に何か起こったらすぐ にでも帝王切開術に移行することができるから心配ないなどと極めて断定的な. 説明に終始し,経膣分娩を勧めた。上告人らは,帝王切開術についての強い希 望を有しながらも,被上告人医師の上記説明により,仮に分娩申に問題が発生 した場合にはすぐに帝王切開術に移行されて胎児が安全に娩出され得るものと. 考え.被上告人医師の下での経膣分娩を受け入れた。しかし.実際には,本件 病院では,帝王切開術に移行するには一定の時間を要することから,・経膣分娩. の経過中に胎児に危険が生じ,直ちに胎児を娩出させる必要がある場合におい. て,帝王切開術への移行が相当ではないと判断される事態が生ずることがあ る。また,出産約2週聞前においては,胎児の体重は3057gと推定されたもの                                  85.

(4)  横浜国際経済法学第16巻第3号(2008年3月). の.超音波測定による推定体重には10∼15%程度の誤差があるとされている. 上.出産までの2週間で更に約200g程度は増加するとされているので,出産 時の体重が3500gを超えることも予想される状況にあったが,骨盤位で胎児の 体重が3500g以上の場合には帝王切開術を行うべきものとする見解もあった。. しかし.被上告人医師は,平成6年4月27日を最後に.胎児の推定体重を測. 定しなかった。さらに,被上告人医師は,同年5月12日午前8時ころの内診 で,複殿位であると判断しながら,上告人らにこのことを告げず,陣痛促進剤. の点滴投与を始め,同日午後3時3分ころ人工破膜を施行した。以上の諸点に 照らすと,帝王切開術を希望するという上告人らの申出には医学的知見に照ら し相応の理由があったということができるから,被上告人医師は,これに配慮 し,上告人らに対し.分娩誘発を開始するまでの間に,胎児のできるだけ新し い推定体重,胎位その他の骨盤位の場合における分娩方法の選択に当たっての 重要な判断要素となる事項を挙げて,経膣分娩によるとの方針が相当であると. する理由について具体的に説明するとともに,帝王切開術は移行までに一定の 時問を要するから,移行することが相当でないと判断される緊急の事態も生じ. 得ることなどを告ぽその後,陣痛促進剤の点滴投与を始めるまでには,胎児 が複殿位であることも告げて.上告人らが胎児の最新の状態を認識し,経膣分 娩の場合の危険性を具体的に理解した上で.被上告人医師の下で経膣分娩を受 け入れるか否かについて判断する機会を与えるべき義務があったというべきで. ある。ところが,被上告人医師は,上告人らに対し,一般的な経膣分娩の危険 性について一応の説明はしたものの,胎児の最新の状態とこれらに基づく経膣 分娩の選択理由を十分に説明しなかった上,もし分娩中に何か起こったらすぐ にでも帝王切開術に移れるのだから心配はないなどと異常事態が生じた場合の. 経膣分娩から帝王切開術への移行について誤解を与えるような説明をしたとい うのであるから.被上告人医師の上記説明は,上記義務を尽くしたものという ことはできない。以上のとおりであるから.原審の判断には,判決に影響を及 ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は,上記の趣旨をいうものとして 86.

(5) 胎位が骨臼位である症例につき,医師が帝ヨ…切間を希望†る旺岨に対してなLた軽曲分娩を推奨する旨の悦明力t,妊岨に軽箇分娩のリスクを. 理解させるものではなく.これを畳書†べきか百かを判断させる機会を与えたとはいiないとして,医師の説明義務迫反を鯉めた事田. 理由があり,その余の点について判断するまでもなく原判決は破棄を免れない。. そこで,更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。.  皿 評 釈  1 緒 言  医学と医療技術の進歩は,疾病に対する治療効果を高めるものであるがそ の進歩の過程において,療法に関する複数の選択肢を必然的に派生する。その ため,診療の主体である医師が,診療契約において負担する説明義務の内容も. 多様化し,かつ加重される傾向にある。また,従来までは診療の客体と捉えら れていた患者の地位につき,治療の過程に主体的にかかわる存在と理解される. に至り,法律解釈としても,自らが享受する診療を決定できる権利(自己決定 権)を有すると解されているため1)、医師の義務についても,単に疾病を治癒 させるべく最善を尽くせぱ足りるのではなくて,患者の意向に沿う療法により. 治癒をめざさなければならないと解されている。かような解釈は,患者の自己 決定権(自己決定原則autonomy)が,無危害原則(皿o皿maleficence患者に危害を加 えてはならないという原則)』・善行原則(benefience患者に利益をもたらさなければな. らないという原則)・.正義原則Ous廊e患者を公平に取り扱い,有限な医療資源を正し. く配分しなければならないという原則)と並ぶ,いわゆる生命倫理の諸原則の一つ. とされ,そのなかでもとくに重要な原則と位置づけられていることと軌を一に するものである。.  すると,医師が,患者が希望する療法を選択するに際しては,自己決定原則. 尊重の見地から患者の意向を知る必要があるがその前提として,患者に対し て療法に関する選択肢を示し,各々について充分に説明し,理解を得なければ ならない義務を負うことになる。そして,医師は,患者が選択した療法を採用 し,疾病の治癒を試みるのであるが,期せずして治療が不奏功に終わり,悪し き結果を発生させた場合(死亡事例が典型),あるいは,治療は奏功したが,患 者が希望した療法が採用された結果ではなかった場合(身体の一部に後遺症が遺.                                  87.

(6)  横浜国際経済法学as 16巻第3号(2008年3月). 残し、あるいは欠如するなどした事例が典型)において,当該結果は,そもそも医. 師が患者に示した選択肢に誤りが存したが故に発生したものであるのか,それ とも.医師が示した選択肢に誤りはなかったのであるが,医師の説明が不適切. であったため,患者が別個の療法を選択する機会を得られなかったが故に発生 したものであるのかにより,医師の過失の態様は異なることになるe.  つまり,前者であれば,医学的判断の誤りそのもの,即ち療法選択における 過失に他ならず.狭義の医療過誤(最善治療義務という本体的債務の不履行)とし. て,医師に対して法律上の貴任を問うことが可能である(生命・身体に対する侵 害を理由とLて,履行利益や財産的損害の賠償を請求できる)。これに対し,後者で. あると,医学的な判断は正しかったものの,説明の不適切さ故に,患者が他の. 療法を選択する機会を失わせ,精神的損害を蒙らせたことになるのでt慰謝料 のみを請求できると解するのが一般である体体的債務に附随する義務の不履行)。. このように,法理論としては、医師の過失の態様を区別することは容易である が現実の事案において,いずれの義務に違反していると捉えるべきなのかは,. 法律学と医学の学際的な問題として,また,裁判実務における事実認定の問題 として.困難を極めている。.  近年,医師の療法選択における過失と療法説明における過失の分水嶺に関す る最高裁判例が出された。事案を要約すると、胎位が骨盤位である症例につき,. 医師が帝王切開を希望する妊婦に対してなした経膣分娩を推奨する旨の説明 が妊婦に経膣分娩のリスクを理解させるものではなく,これを受容すべきか 否かを判断させる機会を与えたものとはいえないとして,医師の説明義務違反 を認めた事案であった(最1小判平成17年9月8日平14(受)989号損害賠償請求 事件破棄差戻裁時1395号1頁判タ1192号249頁判時1912号16頁)。なお,本判決は.. 既往の如く,後者の構成.つまり被告医師の医学的な判断に誤りを認めず,療 法についての説明義務違反のみを認め,患者の自己決定権侵害の問題とするこ とを回避する解釈をしたものであるが2),事実認定の問題として,遺族たる原. 告が特定の療法(帝王切開)を強く希望していたにもかかわらず,被告医師が 朋.

(7) 胎位が骨藍位である症例につき,医師が帝壬切mを希$する妊紐に対してなした軽職分娩を推奨する旨の説明汎妊田に軽胞分娩のリスクを 理解させるものではなく,これを受容すべきか否かを判断させる機会を与えたとはいえないとして.医師の説明義務違反を認めた那例. 自ら是と信じる療法(自然分娩=経膣分娩)を強く勧めたと認定する余地もある ことから(かような事実の認定につき,一審と控訴審において捉え方が異なっている),. 単なる説明の不適切さを問題とするべきではなくて,端的に,療法選択につい ての患者の自己決定権侵害を問題とするべきであったとする有力な見解も存す ることを附言する%.  2 本判決の意義・位置付・審理経過  本判決は.患者の療法選択の前提となる,医師の療法説明における過失の有 無について判断し,その過失を肯定し.当該過失と患者の療法選択における機 会の喪失との間の因果関係を肯定し,患者が希望していた療法を選択する機会 を喪失したことに起因して発生した精神的損害につき慰謝料支払義務を認めた一 ものである。従来型の医療訴訟においては,医師の療法選択における過失と,. 患者に生じた悪しき結果との因果関係を争点とする傾向がみられたのである がtかような構成によると.医学の領域で争われることになるため,証明責任 を負担する原告患者側に不利といわれていた。しかし,本判決のような構成に 依拠すれば・充分な説明が尽くされていたのか否かとV)” 、事実認定の問題と,. 比較的低額な慰謝料支払義務の有無のみを問題とすれば足りるので,立証の容 易さも相侯って,予備的主張の一つとして多用されるに至っており,患者側救 済の理論として注目されている。.  なお,本判決は,かような構成を採用する判例の嚇矢というわけではなく, すでに最高裁判決レベルの先例が複数存在する。そして,本判決が出されたこ. とにより,次のような3つのカテゴリーに類型化されている。つまり,医師が 療法の説明をする前提として,療法の選択肢が複数存在する場合,それが医学 の定説と著しく異なるのか否かにより,あるいは確立された療法であるのか否 かにより,医師による説明の内容に差異を生じる可能性があるからである。. 89.

(8) 横浜国際経済法学第16巻第3号(2008年3月). このような観点から,  患者が,医学の定説と著しく異なる療法を希望していた場合において.医師が 療法を選択せずに,医学の定説に即した療法を選択した事例 1エホバの鉦人信徒輪血拒否事件・事実の概要】.  医師が次の事実,すなわち,患者がエホバの証人なる宗教的教義により輸血拒否の信 念を有しており,輪血なしに肝臓腫瘍の描出手術がなされるものと信じていたこと,また. 手術に際し,輪血を必要とする事態が生じ得ること.などを知悉Lていたにもかかわらず.. 患者に対し,他に救命手段が存しない場合には輸血する方針であることを説明せずに手 術を行い.患者に対して輸血をなし手術を奏功させた事案において,医師の説明義務違 反により患者の術式選択の機会を失わせたとして慰謝料の支払を認めた事例4].  患者が,未確立の療法を希望していた場合において,医師が,その療法を選択せずに. 確立された療法を選択した事例 1乳房濫存療法説明義務違反事件・事実の概要】.  医師が次の事実,すなわち.乳癌の療法につき,先進的な療法である乳房温存術を採 用する医療機閲が存在すること,現実に相当数の実施例が存し,積極的な評価もあること.. 本件患者の乳癌には乳房温存術の適応があり,患者も乳房温存術に強い関心を有してい たことを知悉しつつ.なおも一般的な療法(医療水準)である胸筋温存乳房切除術を採 用し.手術を奏功させた事案において,医師の説明義務違反により患者の術式選択の機 会を失わせたとして慰謝料の支払を認めた事例5F 患者が,確立された療法を希望していた場合において,医師が,その療法を選択せずに, 別個の確立された療注を選択した事例(本件). という3つのカテゴリーに類型化するのが一般である。とりわけ,’①②の類型 に関しては,医学の定説と患者の希望が相違するため,従来型の医師本位(裁. 量優先)のパターリズムが優先するとも考えられることから.前記した生命倫 理諸原則のうちの,善行原則と自己決定原則が拮抗・相克する場面なので,解 決困難な問題である。この点につき,判例・学説は次のような理解を示している。. ①につき,日本医師会の統一見解(1985年)は無承諾輸血を肯定していたが. 現在の臨床は,生命倫理に関する自己決定原則を尊重する見地から,生命に対 するリスクを前提としつつ輸血なしの治療を原則として肯定する方向に向かい つつあり,エホバの証人事件に関する最高裁判例も,無承諾の輸血行為に対し. 医療側に損害賠償義務を認めている。なお,患者の自己決定権の実現(輸血拒否). が医療側の治療拒否によって実現されることは避けなければならないe②に ついては,医師に対し,治療効果が明らかではない医療水準として未確立な療 go.

(9) 胎位が竹盤位である症例につき,医師が帝王切聞を希望する妊婦に対してなした経腔分娩を推奨する后の説明が.妊趨に軽曲分娩のリスクを 理解させるもので吐なく.これを受容すべきか否かを判断させる捷会を与えたと:tv、えtsいとして,医師の説明義務違反を認めた事例. 法を実施する義務を認めることができないことは,患者の救命を第一義とする 医師の地位に鑑みて,また,医師の責任が,医療水準に即した治療を施すこと. を以って上限とされていることに鑑みて当然のことなので.それに伴う説明義 務もなく,その療法を実施可能な他院に転院させる義務もないということがで きる。しかし,この類型においても,近年における自己決定原則尊重の見地か ら例外が認められつつあり,乳房温存療法事件に関する最高裁判例は,患者が. 希望する未確立の療法が少なからぬ医療機関において実施されており(相当数 の実施例の存在),これを実施した医師の間において積極的な評価が存し,当該. 患者がその療法の適応である場合において,患者が当該療法について強い関心 を有していたときには,医師がその療法につき消極的な評価をしていたとして. もtなお,その療法について説明する義務があると判示している。③,つまり 本件については,本件妊婦が希望していた帝王切開術は,医学上確立された療 法であることは論を侯たないので,善行原則よりも自己決定原則が優先され,. 論理的には医師の説明義務が過重されるということができる。しかし,経験科 学としての医学・医療の本質に鑑みると,同様の疾病であったとしても.患者 により症状の発現は様々であり,個別事情が診療結果に大きく影響することか ら,一概に加重されるとは言い切れないであろう。.  なお,本件の審理経過であるが一審は請求を一部認容し,慰謝料150万円 と弁護士費用15万円を認めた。その法律構成であるが,療法選択は医師の合 理的裁量に委ねられるが、患者が選択した療法も医学的合理性を有し,しかも. 強い希望であったことを併せ考慮して,患者の自己決定権侵害ありとするもの であった(医師の勧めにはやや強制的契機があった,押し切られたと認定)6)・原審は.. 療法選択と,その前提となる説明の点については一審と同様の構成(但し,医 師は説明を尽くしており、患者も医師の方針を知りながら分娩のため入院し,転院もし. なかったのであるから了承していたと認定),自己決定権侵害の点については,一 審の解釈は判例の理解(エホバの証人事件と乳房温存療法事件は.自己決定の前提と. しての,説明義務の不尽如何の問題とする理解)を誤るものであり採用できないと.                                   91.

(10)  横浜国際経済法学第16巻第3号(2008年3月). して.控訴人の請求を棄却した7)。最高裁(本判決)は,上告申立理由のうち,. 自己決定権侵害の点のみを受理したが,その点については判断することなく,. エホバの証人事件と乳房温存療法事件の理解と同様の枠組みにより,説明義務 違反の有無のみについて判断し,原審の判断と反対に,これを不尽と解したも のである(破棄差戻)。.  3 医師の説明義務 一患者の自己決定権との関係一.  医師はt医学の専門家であるから.ある傷病に対して如何なる療法を選択す. ればより効果的な治療をなし得るのかについて合理的な判断ができる。つま り,医師は,現在の医療水準の範囲内において如何なる療法を選択し得るの か,また,複数の療法が存在する場合において各療法のメリットやデメリット について.専門家の観点から判断するのである。これが医師の裁量であり,こ. れを患者に伝えるのがムンテラの一環としてなされる療法選択上の説明であ りs).患者は,これを参考にしつつ何れかの療法を選択するのである(informed conse皿t説明と同意の原則)。   ・  L.  かつてのように.患者を治療の客体と捉えるとすると,療法選択は医師の専 権となり,かりにその療法が患者の希望に沿わないものであったとしても.悪 しき結果を生じさせない限り,違法の問題を生じることはなかった。しかし, インフォームドコンセントの理念が臨床に浸透するにつれ,患者の同意なき医. 師の専断的治療行為を違法と考えるに至り,さらには,近年における患者の権 利意識の高まりに応じ,患者を治療の過程に主体的にかかわる存在と捉えるよ うになうたが故に,療法選択も患者の権利と考えるようになり,私事にかかわ る自己決定権の一内容と理解するようになった9)。すると,医師は,患者が選 択した療法を最大限に尊重する義務を負うことになるので,これを尊重せず、. 当該症例に適応する複数の療法について充分な説明をしなかった場合には,か りに診療が奏功したとしても,なお,医師は債務不履行もしくは不法行為の責 任を負うことになる(もっとも,被侵害利益につき,自己決定権そのものを侵害され 92.

(11) 胎位がi†盤位である症倒につき.医師が帝王切荊を希望する妊岨に封LてなLた軽臆分娩を推奨する旨の説明が.妊婦に軽飽分娩のIJスクを 理解させるものではなく.・LttをAxffすべ喜か否かを判断させる機kを与えたとはいえないとLて.医師の悦明義務迫瓦を盟めた邨例. たと捉えるのか.あるいは自己の希望した療法を選択する権利を侵害されたと捉えるの. かは,論者により異なるところである)。もっとも,説明の内容につき.各医師の. 任意とすると,類似の症例に関する説明内容が区々に分かれ,患者の療法選択 の機会,もしくは自己決定権行使の機会を害するのみならず,医事紛争を惹起 することにもなり,医療側のメディカルリスクコントロールに悪影響を生じる. 恐れもある。そこで,症例に応じた説明を均一化するためのマニュアル,ない しガイドラインを定めようとする動きが活発している。例えば,医療法の改正 に際しては(1997年),本法中に「医師・歯科医師…その他の医療の担い手は,. 医療を提供するに当たり,適切な説明を行い,医療を受ける者の理解を得るよ うに務めなければならない」との規定を新設し(第1条ノ4第2項),インフt一 ムドコンセントの法理を臨床に取り入れることを明確にした。  しかし,本規定は倫理規定,ないしは努力義務を明らかにした規定に過ぎず,. 法律上の義務ではないと解されていること,また,具体的な説明項目に言及し ていないことなどから実効性に乏しいという批判を受けた。そのため,厚労省 は,かような批判に応えるため、「診療情報の提供等に関する指針」と題する ガイドラインを作成し,公表した(2003 M。http:〃www,patient−rightSi.or.jp/0241.. htm)。その概要であるが.r6診療情報の提供 医療従事者は,原則として, 診療中の患者に対して,次に掲げる事項等について丁寧に説明しなければなら. ない。①現在の症状および診断名②予後 ③処置および治療の指針④処方 する薬剤について,薬剤名,服用方法,効能および特に注意を要する副作用 ⑤代替的治療方法がある場合には,その内容および利害得失偲者が負担すべき 費用が大きく異なる場合には,それぞれの場合の費用を含む)⑥手術や侵襲的な検. 査を行う場合にはtその概要(執刀者および助手の氏名を含む),危険性,実施し. ない場合の危険性および合併症の有無⑦治療目的以外に,臨床試験や研究な どの他の目的も有する場合には.その旨および目的ならびに内容」などの諸規. 定を設けることにより,インフォームドコンセントの前提となる医師の説明義 務の範囲を明らかにする努力をしている。      ’ 一  一一  1                                   93.

(12) 撰i兵摺霧軽溺法学第16巻第3号{2ee8 Si 3月}.  なお,近年においては.自己決定原則をより撤底し.医師がベストと信じる. 療法を藁奨するというプロセスを完全に排除し,最終釣な療法選択を患者に一 任することをlnformedi cheice.あるいはinformed decision,もしくはshared 塵唱麺服m菰鋤gと呼ぴ. infgrmed eefisentと区別する動きもみられる(もっとも、 かようなムンテラをなす場合{こは,複数の療法の治療効果に大きな差異がないことが前. 提である.例え}誠治療に閲し汐L轍術式と化学療法の効果に大差がない場合など)・.  医師と患者の関孫は,既往のごとく質的に変化したのであるがその背景に は.生命倫理(医療の本賀,医師の使命)に関するSOLからQOLへの転換があ る9SOLとは生命の尊厳(Sanctity of ure>を重視する考え方であり,QOL(Quality. ロf、llfe)とは、生命もしくは生活の質を重視する考え方である。前者によると’. 医療の本質は傷病の治癒と救命や延命に尽きると理解するので,医療水準を知 り適切な療法を選択し施術できるのは医師なのであるからド療法選択は医師の. 裁量に属し,患者は,医師の選択の結果に従うNきであり,その内容を知る必 要もないし,理解する必要もないとされた(メディカルパター・ナリズム)。これに. 対し.後者によると,医療の本質は,医学的合理性と患者の精神的な満足を考 Pt. L fe,日常生活における患者の身体的機能の維持と理解するのでt患者の精. 神麓な満足を考慮する結果,医師はQOLを高めるため,療法選択の前提とな る説贋をしなけれぱならず,患者にその内容を充分に理解させた上で,適切な 療蓬を選択させなければならないのであるe. 4療法選択にお{する説明義務 一説明義務の諸類型一. 麟隷こ塾いてi塞師が患者に対してなすべき説明には,療養指導のための説明 と患箋塾藁諾を得るたぬの説明(本傳の争点である.療法選択の前提となる説明). 妻毒るといib寿ているIQ}。劔れも,説襲をなすべき内容は基本的に医療水準iこ. 璽うも蛭毒れぱ融る・・。なお.Ut者{ま医療行為そのものであり.療法が定 童ロた蓬轟賎題であるから.患奢の自己渓定権と直接濁連Lない。後者につい tミま療撞選択の欝蓬で毒るから.患者の窪己決定権と直擾関連する・.

(13) 胎位が廿位位であ尋捉阿につき,医師が帝正切間を希望する妊婿に対してなした妊泊分娩を推奨する旨叩説明が,妊措に経泊分娩のリスクを 理解させ6ものでtttsく,これを畳害すぺさか否かを判断させ君機会を与えたとltいえないとして,医師の説明義蹄迫尻を認めた事例.  そこで,後者について,医師は患者に対し,いつの時点においてどのような 説明をなすべきかが問題とされている。この点に関する学説は,患者と医師の 認識のいずれを基準とするのかにより具体的患者説と合理的医師説に大別され る。前者は,説明の対象を患者が望むすべての情報と解するので,医師の負担 が過重となると批判されている。後者は、その対象を合理的な医師であればな すであろう説明(臨床医学の実践として,一般に承認されている療法の説明)で足り ると解するので,前記②類型(未確立の療法である乳房温存療法の説明)のような,. 医療水準を超える療法の説明の要否を問題とせざるを得ないQOL絡みの事案 につき,説明義務違反を認定することができないと批判されている。そこで,. 通説は両説を折衷し,合理的医師説を基本としつつ,医師が患者の個別事情を 知悉していた場合には,・その事情に対応する範囲まで説明義務が拡大されると 解しているn)e.  以上の見解を本件についてみるに,適切な説明をなすべきであったとされる 療法(帝王切開)は,医療水準として周知され,医学的合理性を有する療法であっ たのだから(医学の観点から到底是認できない無理な治療をせよと要求していたわけ ではないから),折衷説を採用するまでもなく(換言すれば,個別事情として考慮す. るまでもなく),合理的医師説に立脚したとしても,説明義務の範癖に含まれる べき療法であったls)。.  5 説明義務違反の効果 一被侵害利益の内容一.  療法選択における説明義務違反が認められた場合,被侵害利益を如何に捉え るべきかが問題とされている。この点につき,法理論としては新生児の生命と 患者本人の療法選択の機会(もしくは,自己決定権そのもの)の2つが考えられ,. その何れと捉えることも可能である。.  前者とすると,医師が患者に対して療法選択上の説明義務を尽くしたと仮定 すれぱ患者は医師を説得して翻意させることができ(不適切な説明という過失. の存在),しかも,帝王切開術を選択したとすれば新生児を救命し得たとい                                   95.

(14) 横浜国際経済法学第16巻第3号(2008年3月). う高度の蓋然性(経麓分娩と新生児死亡との因果関係)を証明すれぱ新生児本人 の生命侵害に対する財産的損害(逸失利益)と慰謝料(判例・通説である相続構成. を前提とした見解),および遺族固有の慰謝料を請求できることになる1%後者. とすると,医師が患者に対して療法選択上の説明義務を尽くしたとすれぱ患 者らは経膣分娩を選択することなく帝王切開術を選択したはずであったところ (不適切な説明という過失の存在).不適切な説明のゆえに本来の希望ではない経 膣分娩を選択してしまったこと(不適切な説明と選択機会の喪失との因果関係)を 証明すれば,遺族固有の慰謝料を請求できることになる1s) e.  前者の構成によると,医学の領域で争わなければならなくなるため,過失の 要件については医師の裁量との調和が難問となるのみならず,因果関係の要件 についても,説明義務違反と胎児死亡との因果関係を問題とすることは・因果 の連鎖の過程において,患者の意恩決定を介在するがゆえ迂遠に失し,証明に. 困難をきたすことが予想される。医学の領域で争うのであれば,端的に・医師 の医学的判断の誤り,つまり療法選択上の過失と新生児死亡との銅果関係を問. 題とするべきであろう。後者の構成によると,適切な療法の説明をなしたのか 否かという事実認定の問題に還元され,医学の領域から外れるため、過失の認 定もいくらか容易になるであろう。もっとも,前者と後者においては,損害額 の認定に雲泥の差を生じ得るので.この点 をどのように考えるべきかが問題 とされている(第V章参照)。.  なお,説明義務違反の程度を問題として割合的認定を認めようとする見解や,. 患者が有する知識レベルに応じ,より高度の説明義務(換言すればより詳しく 説明する義務)を課すなどの見解もある(本件)eしかし,とりわけ割合的認定. につき,患者が納得するまで説明しない限りにおいては100%の説明ではない とすると,つねに説明義務違反を問われかねないことになるため.問題であろ う1%. 部.

(15) 酷1±が骨盤位である症田にo#.医師が帝王切田を希望する妊招に対Lてなした妊闘分娩を推奨する廿の説明が,妊婦に軽阻分娩のリスクを 理解させるものではなく,これを受審すぺきか百かを判断させる提会を写えたとはいえないとして,医師の悦明義務違反を盟めた耶例.  6 骨盤位分娩に関する医療水準と医学的データ  (1)医療水準の概念  L.  医療水準とは,医学的には臨床医学の実践を意味し,法律学的には医師の注 意義務の上限を画する概念である。医学的な意義については,医学と,その実 践形式としての医療は,いわゆる経験科学に属する学問領域であり,過去にお ける臨床例の集積の上に成り立つものなので,患者に施すことができる診療の. 内容は,臨床の実践を超えることはできず,患者の期待もその限度に制限され るという理を明らかにしたものである。法律学的な意義については,臨床にお. いてt医療事故は統計学的観点から不可避的に発生するものであるところT医 師がその悪しき結果についての民事上・刑事上の過失責任をつねに取らされる. のでは,不可能を強いることにもなりかねず,経験科学としての医学・医療の 本質に背馳することになる。そこで,過失における注意義務の程度を臨床医学 の実践レベルに止めることにより,結果責任を否定するための法理が医療水準 の概念ということがで’きる。つまり,医療水準は過失責任(医療過誤)におけ. る注意義務の内容を明らかにする概念であり,その上限を定めたものである。 もっとも,近年においては,医療水準を注意義務の上限ではなくて,下限を示. すものと捉える考え方が判例・通説化している。つまり,医師に研鍍義務(端 的に表現すると,分からなければ分かるように務めなさいということ)や転医義務(端・ 的に表現すると,分からなければ他科や他院に患者を転送しなさいということ)を肯定. することにより,先端的診療を行う大学病院・総合病院と開業医などの個人医 院の間,またベテラン医師と新人医師の間における医療水準の均一化と向上が 企図されている17}。.  本件においては,骨盤位(逆子)を帝王切開術の適応とする医療水準が存在 したのか否か,そして,これを肯定することを前提として,被告医師には帝王. 切開に関する説明をする義務が存在したのか否かが争点であるところ,臨床の 実際を考察することなく医療水準を論じることはできないので,下記において 臨床の実際を考察し,骨盤位における分娩術の医療水準のあり方を検討する。.                                  97.

(16) 横浜国際軽済法学第16巻第3号(2008年3月).  (2)骨盤位分娩における謄帯脱出の可能性・帝王切開術の適応可能性  坂田正博医師(大阪大学医学部准教授)は,『満期単胎の骨盤位は,約3∼4%. であるとされる。その原因として多産,羊水過多・過少症,水頭症,無脳症 過去の骨盤位,子宮奇形などが考えられる。骨盤位分娩では,頭位分娩に比し 周産期死亡率・罹患率が有意に増加する。その理由として,騰帯脱出が多い, 分娩時の変動性徐脈が多い,後続児頭の娩出困難が多い,胎児の異常が多いな どをあげられる。踏帯脱出の発生率は,単殿位では約O.5%であり.頭位の約・. O.4%と大きな差がないのに対し,複殿位では約5%,足位では約15%と増加 する。骨盤位分娩は,児頭より小さい部分が先進するため,後続児頭の母体骨 盤の通過が問題となる。』と指摘されている。また,本論文中に,骨盤位(異 常胎位)の症例につき,胎児の胎位を母体外から頭位(正常胎位)に修復すため,. 骨盤位外回転術を施行した際のデータが示されており,骨盤位分娩における術 式選択の基準について,現在の医療水準(臨床医学の実践)を知るための貴重な 資料を提供しているIS)。もっとも.外回転術にもリスクがあり,出血,破水,. 早産、胎盤剥離を惹起する場合があるので,これを行わず,骨盤位体操や側臥 位を指導するにとどめることもある。.  なお.十藏寺新医師(社団法人清新会東府中病院)は,騰帯脱出の予測可能性. について,「…膳帯脱出の大部分は,分娩時に突発的に発症する場合がほとん どである。すなわち潜在性膀帯下垂に引き続き騰帯下垂,さらに破水後に麟帯 脱出が起こるというよりも,突然に何の前触れもなく,破水と同時に起こるこ. とがほとんどであるe謄帯脱出が一旦起こった場合には,麟帯圧迫による胎児 仮死は必発であるので.いかに早く児を娩出するのかが問題になる。騰帯下垂 に引き続き発生する騰帯脱出は,贋帯下垂の診断の際にまったく診断できない というわけではありません(容易ではありませんが)。しかし,何の前触れもな. く突発的に発生する騰帯脱出の発生を事前に予測することは困難です。』と結 んでいる.1Mo. 98.

(17) 胎位が骨盤位である症例につき、医師が帝王切間を$認する妊re C: tt L.てなLた軽論分娩を推奨する旨の説明コ帆妊婦に妊曲分焼のリスクを 理解させるものではなく.こオtを受容すぺきか否かを判断させる楓会を与えたとはいえないとして,医師の説旬義萄違反を認めた事例. →. 35 ¥. 誓. → Total. 響. 塁 ⇒. §. 分娩時骨盤位(2%). →. 経膣. 帝切(100%) ⇒. 43%. 理 →. →. 経膣(B6%} 帝切. → →. ※帝切(14%). 57%.  (3)骨盤位分娩に対する医療機関の意識.  わが国においては,満期単胎骨盤位の分娩方針に関する統一されたガイドラ インが存在しないため,各医療機関がおのおの決定しているe この点につき,吉田幸洋医師(順天堂大学医学部教授)は,『わが国では,長い. 間経膣分娩至上主義とでもいうべき傾向があり,骨盤位の分娩に関しても1「骨 盤位経膣分娩を行わない者は産科医にあらず」といったことばを聞かされたり,. 骨盤位にかぎらず,帝王切開率が低いことが,その施設の産科医療レベルを表 していると考えている産科医が,今でも多いように思われます。しかし,わが 国においても,周産期医療の進歩とともに,産科医の関心が母体のみならず, 妊娠・分娩中,あるいは出生後の児にも重きが置かれるようになり,少なくと も危険を冒してまで,経膣分娩に固執する傾向は少なくなったように思われま す。1994(平成6)年に,日本産科婦人科学会の周産期委員会(武田佳彦委員長). におきまして,わが国における骨盤位分娩の現状を調査するためのアンケート を実施いたしました。対象は,日本産科婦人科学会の周産期管理登録機関であ. り,したがいましてT医育機関が多く含まれております。まず,その施設にお                                  99.

(18) 横浜国際経済法学第16巻第3号(2008年3月). ける骨盤位分娩の取り扱い方針ですが,初産婦であっても帝王切開を原則とす. る施設は21%に過ぎず.78%の施設はt原則的に経膣分娩あるいは条件に. 緻すれば離分娩を行う』 ニ回答してv・ます.さらに.離婦の場合は,ほと んどの施設が経膣分娩を行うとしています。一方.それでは実際に骨盤位分娩. の帝王切開率はどうであったかといいますと,初産婦で69%.経産婦におい ても50%が帝王切開によって分娩となっておりました。つまり,取り扱い方 針の上では経膣分娩を行うようにするとしていても.実際に骨盤位の帝王切開. 率はかなり高いという結果でありました。』と結んでいる。講演中に言及され ているデータが,本件発生時期と符合しているので,事件発生の背景を窺い知 るための貴重なデータを提供しているmu}e.

(19) 胎位が冊盤位である症例につき,医師が帝王切間を希望する妊蝿に対してなした経腐分娩を推奨する旨の説明が,妊揖に軽胞分娩のリスクを 理解させ6ものではなく,これを畳容すべきか百かを判断させる機会を与えたとttいえないとして.医師の説明義務迎反を認めた事例.  (4)2007・年1月現在における分娩臨床の一例           一東京医科歯科大学医学部付属病院周産期医療科における臨床例一. 坂田医師が示したデータ中の※の類例である。. 事実経週. 年月日. 平成18年 5月12日. 7月3日 9月4圓. 妊娠確認(39歳,初産/出産予定日を平19・1・17と診断) 自治体よ1〕母子手帳の交付を受け,同院との間で「分娩予約表」を作成, 以後同院にて受診継続(10回),同手帳中の「妊娠中の経過」欄に診察記 録の概要を記載 その後同院にて診察した際に,胎児の発育は正常であるものの.胎位が骨. 盤位であることが判明。同院にて自宅と通院による経過観察および骨盤 位体操と側臥位を指示 医師 → この時期の逆子は,おなかにスペースがまだあるので,動い てなおります。. 10月30日. 頭位回復 骨盤位. 11月13日. 頭位回復.. 10月2日. 」    11月27日. 12月11日. 医師→骨盤位体操をしてください。側臥位を心掛けてください。 骨盤位 医師 → このまま治らなかったら,年末か年始に帝王切開しましょ.う。. 頭位回復 妊婦 → 年齢的なこともあるし.帝王切開のほうがよいのではないで ’ しょうか?. 医師→帝王切開が安全とは限りません。母体への負担が大きいです し。下からのほうがよいのではないですか?. 平成19年 1月10日 頭位回復. 予定日前の10日同院に入院,「入院診療計画書」「今回の診療についての ご家族のお考え」と題する書面を作成、内診・超音波・胎児心拍モニター の装着などによる経過観察を開始(経鹿分娩を予定) 医師 → 騎帯が巻いていますね。この時期にしては.赤ちゃんが下がっ. てきませんね。骨盤がちょっと狭いかもしれません。レン トゲンを撮りましょう。. 妊婦⇒ そのような状態で,帝王切開にしなくて大丈夫ですか? 医師 → レントゲンの結果では,ぎりぎり下からで大丈夫そうですよ。 経過をみましょう。. 1月13日 1月14日. 夕方より陣痛増強(妊娠39週4日) 経膣分娩の試行 〈0:00頃〉. 子宮口開大(子宮口聞最大10cmに至らず7cmにて開大停止),用手開大 後の内診中破水自然分娩を待つも陣痛減退,分娩停止,陣痛促進剤の投 与による経膣分娩の続行も可能であるも.胎児が下がらないのは児頭骨盤 ・不均衡に起因する可能性も否定できないとの説明あり.帝王切開を忌避す 驫ウ者もいるとのことで,緊急帝王切開術への移行打診あり (6:00頃〉. シ親帝王切聞術を承諾(この時点において,児頭骨盤不均衡との確定診 断),「インフォームドコンセントの説明書」「輸血についての説明書」作成.. 速やかに帝王切聞術に移行施術まで経過観察,同日9時より施術 (10:30>. 術式終了(奏功。母子ともに健常,新生児自重3142g。術式そのものは30 分程度)。. 101.

(20) 横浜国際経済法学第16巻第3号(2008年3月).  本症例において,騰帯脱出の可能性が最大限に高まったのは,用手開大後の 内診中に卵膜が破綻し,騰帯巻絡,児頭骨盤不均衡の疑いがもたれた時点であっ. たeなお.騰帯脱出の一因となる児頭骨盤不均衡については,事前のレントゲ ン・骨盤の採寸・エコーにより問題なしと診断されていた。しかし、本症例の ように,分娩時にはそのように診断されるもあり,また,既往のごとく,旙帯 脱出は突発的に発症するという見解もあることに鑑みると,その予測は困難で. ある。また,本症例からもわかるように,膀帯巻絡や児頭骨盤不均衡の疑いが 存したとしても,帝王切開のリスクに鑑みて,ただちに帝王切開術の適応とし ないことなどの事情に鑑みると,即座に被告医師の判断を誤りと断定すること は困難であろう(換言すれば医療過誤そのものを問題とすることは困難であろう)。.  7 結語に代えて 一本判決の評価一  (1)医師が説明をなすべき相手方の範囲』.  民法の契約理論からすると,医療機関と助産契約をしたのは患者本人である. から.患者のみが説明を受ければ足りると解するのが自然である。しかし,本 判決は.患者の配偶者である夫をも主体に含めている。その理論構成は明らか ではないが,債務不履行責任の観点から考察すると,契約責任の人的保護範囲 の拡張と捉えることができる。また,不法行為責任の観点からすると,療法選 択上の過失により子が死亡したことが証明されると.その相続人t‘る両親は,. いずれも医師に対する損害賠償請求権を取得することに鑑みればその前提と なる治療法について,夫にも説明を受けられるべき法律上の利益があると解す. ることも可能である。もっとも,例えぱ患者と夫が婚姻関係になく,内縁関 係にある事実上の夫婦に過ぎない場合には,内縁の夫は法律上当然に損害賠償 請求権を取得することにはならないので.配偶者たる夫とは同列に論じ得ない と思われる21)。今後,この点についての射程が問題となるであろう。. 102.

(21) 胎位が冊聾位である症例につき,医師が帝王切冊を希望する妊岨に封してなした鮭胞分娩を推奨する旨の説用が.妊揖に経胞分娩のリスクを 理解させるものではなく.これを憂害すぺきか百かを判断させる撮会を与えたとはいえないとして,医師の説呪義務遭反を認めた耶例.  (2)療法説明上の過失と療法選択上の過失の認定における評価矛盾.  医療契約における本体的債務は,患者の傷病を治癒するべく最善を尽くす義. 務つまり治療義務であるが,かかる義務と.これに付随する説明義務の関係 如何が問題となる。訴訟実務においては,診療が不奏功に終わり,悪しき結果 を生じた場合において,療法選択に問題はなく,治療義務を尽くしていたとし ても(つまり,過失なし,あるいは因果関係なしとされたとしても),その前提とし. ての説明に不備があり,誤った療法選択をしたがゆえに悪しき結果を発生させ,. 精神的苦痛を被ったと構成し,損害賠償請求することが散見されるが,果たし て,療法選択上の過失なしとしながら,その前提としての説明に過失ありと評 価することは矛盾するのではないかという疑問である22}。.  確かに.療法説明上の過失については,前記3類型が考えられるところ,① 類型においては.そもそも患者は医学的定説と著しく異なる療法を希望し,② 類型においては,医学的に未確立な療法を希望していたというのであるから,. 医療水準に従った療法に限り施すことができるに過ぎない医師に対し,医療水. 準から外れた,臨床のコンセンサスを得たとはいえない異説や独自の見解ま たは未確立の療法に関する説明まで要求することは酷に失するので,医師が施 した療法が医療水準の範囲内であるがゆえに過失を問えないことの代替措置と して説明義務違反の有無を問題とすることは,ある意味で評価矛盾といえよう。. これに対し,③類型,つまり本件においては.医学的に確立された療法の是非. が問題とされており.医師はいずれの方法もとり得るので、自らの主観的評価 を捨象し,何れの療法についても詳細に説明する義務があると解して差し支え. はないであろうbするとi①②類型と異なり,予備的に説明義務違反について 責任を問うことが評価矛盾であるとの諦りは受けないであろう。なお,近年 民事医療訴訟において,確立された判例理論に昇華している期待権侵害の理論 は,とりわけ死亡事例の場合には,問題となる医療行為と死亡との間の因果関. 係が否定された場合に備えて,予備的に主張されることが多いので.かかる理 論との整合性も問題になるであろうes}e.                                  103・.

(22)  横浜国際経済法学第16巻第3号(2008年3月}.  さらに,本件はT患者が帝王切開という術式を強く希望していた事例であっ たが,かりに本件原告が医師に療法選択を一任していた場合,医師の説明義務 は減免されるのか否か問題とされている。けだし,かりに一任していたとして. も,悪しき結果が生じたとすれば患者が医師に対して説明義務違反を問うこ とは充分に考えられるからである2‘)。この点については,説明義務は免除され. ないものの,事実上軽減され,損害額の認定において,損害額を増減させる一 要素とするべきである。.  (3)被慢害利益の捉え方と慰謝料の認定.  本判決は,これを患者に対する生命侵害ではなくて,患者による療法選択のコ 機会喪失と捉えている。生命侵害であれば財産的損害(逸失利益)と慰謝料を 併せて請求できるところ,本判決は,被告医師の説明義務違反と患者死亡との 因果関係を否定しつつ,療法選択の機会喪失との因果関係のみを肯定し,死亡 児の両親固有の慰謝料のみを認めている。本判決が慰謝料支払義務を認めた点 は首肯できるとして.具体的な慰謝料の算定においては,事案に応じて差異を 設けるべきである。具体的にいうと,前記①②類型においては,患者が選択し た療法と医療水準が乖離する事例であるから,慰謝料は然るべき金額で足りる. が,③類型は,患者の選択に医学的合理性が認められる事例であるから,①② 類型と比較して相対的な増額を認める余地がある(賠償額の目安にづき,いまだ 最高裁判例はなく,下級審判例も振幅があるため,本件差戻審の判断が待たれるところ. である)n)eなお,この論点は,説明義務違反を予備的に主張することの是非 という論点とリンクするので,両者の平伏を合わせる必要があろう。また,期. 待権侵害論の適用により解決された事案における慰謝料相当額が次第に高額化 していることに鑑みて,これとの整合性を検討する必要がある。. (4)説明義務違反の程度 一療法説明の際における注意義務の基準一 本判決の事案(③類型)は.①②類型と比較すると.患者の利益(療法選択の機会 104.

(23) 胎位が什盤位である症例につき,医師が帝王切開を希望する妊悩に対Lてなした経聞分娩を推奨する廿の説明が,妊婦に軽胞分娩のリスクを 理解させるtのではなく,これを受容すぺきか百かを判斯させる機kを与えたとはいえないとして,医師の説明義務迫反を認めた事例. もしくは自己決定権)が優先され,医師の裁量が制限されるため,説明義務違反. の認定が容易と思われるので,この点の審理のやり直しを命じた点は是認され る。もっとも,本件につき,裁判所が被告医師に求めた説明の程度は,本件の. 特殊性に鑑みて,やや高度な水準であったようにも思える。つまり,裁判所の 事実認定によると,患者の希望は相当に強かったのであり(再三要請したうえt「そ れでも心配ですので,遠慮せずにどんどん切ってください。」と要請した事実),被告医. 師がそれを否定する理由の一つとして,帝王切開への移行の容易性を過度に強 調し(何か起こったらすぐに帝王切開に移れると説明した事実),帝王切開術への自 信を示したこと(「それだけ言うのであれば心配のし過ぎであると記録に書いておき なさい。」との記載が看護記録に残されている事実。前の事実等と併せ考えると,説明 不足というよりも寧ろ,言い過ぎということもできるであろう),付随的事情として,. 患者の父親は脳神経外科医であって医学の知見を有していたこと.患者の妹も. 異常分娩の経過を辿っていたことなどの諸般の事情を判決の基礎事実としてい. ることから推測すると,患者の希望には,単に憾覚的に)帝王切開を選択し ようとする患者と比較するとより強いと認定しているようにも思えるからであ る。つまり,本判決の論理は,説明の程度は患者の要望の強弱により相対的に. 決まることを含意しているとも考えられるので,本件被告医師の説明が,帝王 切開に関する一般的な説明として不適切であると断定することはできないであ ろう(前記東京医科歯科大学医学部附属病院における臨床例のムンテラを参照すると理 解されるように,最新の医療水準に準拠した説明内容としても,表中に記載した程度に 過ぎない)。.  (5)療法説明上の過失と療法選択上の過失の限界.  裁判所の事実認定によると,論旨には.説明義務違反の有無を問題としなが ら,その判断要素として,帝王切開術への移行が相当でない症例もあり得るこ. とへの配慮が足りない,あるいは分娩予定日の2週間前から胎児の推定体重を 計測していないことは患者管理として不適切であるという医療過誤そのものを                                   105.

(24) 横浜国際経済法学第16巻第3号(2008年3月). 認定したとも取れるような箇所があるがその意図について考えてみる必要が ある。この点,判示内容の解釈としては,説明義務違反と胎児死亡との因果関. 係を肯定し得る余地を暗に示したものと理解することも可能であるから,差戻 審においては,慰謝料と併せて,患者死亡による逸失利益の算定も問題となる ようにも思える。しかし,裁判所にかような意図があったとすると,それは,. 最初から帝王切開をしていれば胎児は死ぬことはなかったであろうという,結 果を先取りした認定というべきである。かような認定をするとなると,差戻審 における審判の対象は,あくまで説明上の過失の有無であり,医療過誤そのも. のの有無ではないから,不意打ちの憾みが生じるeまた,医学の観点からみて も,騰帯脱出は予見困難な突発的事故であり,しかも骨盤位のみならず頭位で も起こり得ることに鑑みると(実例参照。第IV章第3節),極論すると,すべての. 分娩につき帝王切開術を選択しなければならなくなってしまう(単なる発生率の 差に過ぎないから。仮に本件胎児が頭位であったとLても,胎児が膳帯脱出により死亡. したとすればやはり訴訟になったことであろう)。医学は経験科学なので,決して. レトロスベクティブな結果論的認定をしてはならず,あくまでプロスペクティ ブな行為時基準の認定をしなければならないのである。以上の観点からすると,.. 本件における審判の対象は,あくまで説明義務違反の有無,つまり,患者に最. 新の情報を与える義務の違反誤解を招くような情報を与えてはならない義務 の違反に関する審理に尽きるというべきである。すると.本判決の意義は,医 師の判断に誤りがなかったとしても,患者の希望にも医学的な誤りがなかった. 場合には,患者の希望は多少ながらも法律上保護されるべきであるという判断 を示した点に求められるべきである。かような理解によれば、説明義務違反の 効果は.期待権侵害の効果と同様の機能を営むことになろうpm。. 106.

(25) 辮瓢£‡漂!こ三㌶灘f麟嬬魏麟雛誓灘壽愁る麟跳鑑瓢馴・・を 【註釈】 1). 中村哲f医療訴訟の実務的課題一一医師と患者のあるべき姿を求めて一」48頁(判タ社 2001),平沼高明「医事紛争入門」86頁(労働基準調査会1997),医師の裁丑については,. 前掲平沼142頁 2). 小笠豊「分娩方法に関する説明義務違反と機会の喪失」別冊ジュリ183号医事法判例百選 131頁(有斐田2006). 3). 土屋裕子「医療訴訟にみる患者の自己決定論の展開と展望」ジュリ1323号135頁(有斐田 2CO6). 4) 5). 最3小判平成12年2月29圓(民集54巻2号582頁) 最3小判平成13年11月27日{民集55巻6号1154頁). 6). さいたま地裁川越支部判平nt 13年7月5日平7(ワ}499号. 7). 東高判平成14年3月19日平13(ネ)4138号・平Z3(ネ}5087号(訴月49巻3号799頁). 8). ムントテラピーとは問診を意味するドイツ語であるが,かつて旧軍の軍医が好んで用いたこ ともあり,患者を治療の客体とみる考え方と親和する医学用語である。現在の臨床において は,ムンテラなる用語のみが残っているのであるが、患者に対してはインフォームドコンセ ントなる用語を使用するが,上司や同僚,および部下の間においては,いまだにムンテラな る用語を多用するという。箪者が実弟(耳鼻咽喉科専攻医大学病院医局員総合病院常勤医) より聴取した事実である。. 9). 前掲平沼86頁など. 10)前掲平沼116頁∼124頁,手嶋豊「医療事故と民事責任一インフォームドコンセントと説   明義務」伊藤文夫=押田茂美編著「医療事故紛争の予防・対応の実務一リスク管理から補償.   のシステムまで」65頁(新日本法規2005)         ’ 11)医療水準の概念と変遷については,前掲平沼35頁∼45頁.山口斉昭「医療事故と民事責任.   一医療水準一注意義務の基準」前掲伊藤=押田47頁,山川一阻「医療事故の概念とそれに   よる医療機関・医師の責任」前掲伊藤=押田5頁以下,若松陽子「歯科医療過誤訴訟の課題   と展望新しい医療の指針を求めて」(世界思想社2005)32頁など’ 12}前掲手ne 65頁,吉田邦彦「契約法・医事法の関係的展開」297頁(有斐閣 2003). 13)前掲平沼92頁.98頁,前掲手嶋68頁.加藤慎「最近の医療事故にみる説明責任一骨盤位   における分娩方法の選択と説明義務」NBL,821号6頁(商事法務2005〕,前掲吉田297頁 14)前掲小笠131頁 15)河内宏「帝王切開を強く希望した夫婦に経膣分娩を勧めた医師の説明貴任」’ rU冊法時34号.   私法判例リマークス<上>25頁(法律時報社2007) 16)●判例診断(本件判例評釈・座談会)平沼高明(司会)=伊藤文夫二杉田雅彦=高橋恒男=.   徳留省悟=塩崎勤=野村好弘=古笛恵子賠償科学34号ユ48頁,平沼・野村発言(日本賠償   科学会2006)。. 17)医療水準を医師の注意義務の「上限」と捉える判例として.最一小判昭和36年2月16日(東   大病院輸血梅毒事件。ただし.医療水準なるテクニカルタームを用いてはおらず.最善治療. 107.

(26) 横浜国際経済法学第16巻第3号(2008年3月)   義務なる用語を用いていることに注意するぺきである)・最三小判昭和57年3月30日(未   熟児網膜症高山日赤事件。臨床医学の実践なる基準を明確化した嘲矢的判例}・最二小判平.   成4年6月8日{未熟児網膜症昭和47年事件e患者の期待は医療水準を上限とすることを   明らかにした事例)e以上に対し,医療水準を医師の注意義務の「下限」と捉える判例とし.   て,最二小判平成7年6月9日{未熟児網膜症姫路日赤事件。最新の療法を施すことができ   る他院への転院義務を認めた事例)・最三小判平成9年2月25日(ペルカミンS麻薬中毒班   件e医師に新薬の効能書を熟読し.理解することにより研鐙する義務を認めた事例). 18)扱田正博=末原則幸=上妻志郎「症例から学ぷ周産期医学(4)分娩骨盤位と贋帯脱出」日.   産踊誌57巻9号275頁 19)十蔵寺新「晴帯の異常(3}勝帯下垂と贋帯脱出」医療法人社団清新会東府中病院HP(http:〃   wwwsabiglobe.ne,jp/^hhhp!inde)t.htm1) 。なお.騰帯脱出は,胎児の死亡率が20%にも逮す.   る,極めてハイリスクな分娩時合併症であるとの記載も見られる。. 20)吉田幸洋「諸外国と日本の骨盤位分娩様式の比較」2頁(ラジオ短波ユ998年12月7日放送   h杜p:〃wwwjaog.or.jp/JAPANESE/MENBERSITANPAIHIO/984207). 21)小池泰「分娩方法の選択と医師の説明義務」民商法雑es 134巻3号162頁(2006). 22}前掲小池164頁. 23)期待椛侵笹に関する最高裁の噛矢的判例につき.最2小判平成12年9月22日(民集54巻   7号2574頁㌔医師が.切迫性心筋梗塞を急性膵炎と誤診しt患者が死亡した事例につき,   医師力5胸部疾患の既往歴を聴取せず,また,心電図検査を行わなかった点につき過失を肯   定しつつも.当該過失と患者死亡との因果閲係の証明が不奏功に終わった場合において,仮   に医療水準に適う診療がなされていたとすれば.本件患者は.その死亡の時点において、な.   おも生存していた相当程度の可能性があることを証明L得た事例において,医師に対し、患   者が有していた相当程度の生存可能性なる延命期岡を失わせたことによる慰謝料の支払を認   めた事例. 24)前掲河内25頁. 妬)東京高判平成13年7月18日(判pm 1762号114頁),東京地判平成16年2月田日(判夕   1149号95頁)など 26)前掲●判例診断(本件判例評釈・座談会)の全趣旨,平沼直人「診療の基本 産婦人科医に.   求められる法律の知識」日産婦誌57巻6号104頁(2006}. 108.

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参照

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