緊急逮捕の合憲性―刑事手続に厳格な審査を施す意味―
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(2) 2. (266). 横浜国際社会科学研究 第 24 巻第 3 号(2020 年 1 月). 逆に,現行犯逮捕の場合とは異なり,私人によ. 点である.しかも事後とは言え逮捕に接着した. る緊急逮捕はできない.そして, 「直ちに裁判. 時期において逮捕状が発せられる限り逮捕手続. 官の逮捕状を求める手続をしなければならな. としては,全体として逮捕状に基くものと言う. い」のであって, 「逮捕状が発せられないとき. ことができる.従つて緊急逮捕は必ずしも憲法. は,直ちに被疑者を釈放しなければならない」 .. 第 33 条に違反するものではない」などと判示. また,当然のことながら,刑事訴訟法 210 条の. して,控訴を棄却した13).. 要件に嵌らないものについて緊急逮捕状の請求. 最高裁大法廷 は, 「刑訴 210 条 は,死刑又 は. はま. があった場合,仮に憲法上許容できても,ある. 無期若しくは長期 3 年以上の懲役若しくは禁錮. いは通常逮捕の要件なら満たすときでも,これ. にあたる罪を犯したことを疑うに足る充分な理. は却下されるべきものである9).. 由がある場合で,且つ急速を要し,裁判官の逮. 警察官の研修のための分かり易い例として. 捕状を求めることができないときは,その理由. は,巡査 が 不審 な 自動車 を 発見 し て 職務質問. を告げて被疑者を逮捕することができるとし,. し,車検証の提示を求めたところ所有者は別に. そしてこの場合捜査官憲は直ちに裁判官の逮捕. あり,その理由を問い質したところ,近所でエ. 状を求める手続を為し,若し逮捕状が発せられ. ンジンをかけたまま停車中の車を盗んだことを. ないときは直ちに被疑者を釈放すべきことを定. 自供したので逮捕したようなものが挙げられて. めている.かような厳格な制約の下に,罪状の. いる10).殺人や強盗の事例もあるが,そこに至. 重い一定の犯罪のみについて,緊急已むを得な. らぬ犯罪が多く,また,あまり計画性のない突. い場合に限り,逮捕後直ちに裁判官の審査を受. 発的な例が多い印象である.つまり,比較的よ. けて逮捕状の発行を求めることを条件とし,被. くある,窃盗や障害などの事例が緊急逮捕の対. 疑者の逮捕を認めることは,憲法 33 条規定の. 象であり,それが卑近なものであることを司法. 趣旨に反するものではない,されば所論違憲の. 官憲関係者が認識しており,かつ,現在,その. 論旨は理由がない」などと短く判示して,これ. 合憲性が危ういとの危機感が遠のいた(あると. を合憲とし14),その判断を結論において全員一. すれば,殺人や強盗などの凶悪な事例を軒並み示. 致で確定させた.この立場は,学説上,令状逮. して,緊急逮捕制度の維持を訴える筈である)こ. 捕説に属するとされている15).しかし, これには,. とをよく示している.. 合憲と結論付けるに値する「何らその理由を述. 刑事訴訟法 210 条については,早々,1955 年 に最高裁が合憲判決を下している.同事案は,. べていない」 ), 「どうして『されば』になるの 17) , 「理論的には欲目 か,どこにも説明がない」. 巡査が,森林窃盗の被疑事件につき被疑者の居. 18) にも解明せられたとはいえない」 , 「判決には. 所で任意出頭を求めたところ拒んだので,被疑. 必ず理由を附さねばならぬとする刑訴 44 条に. 者を緊急逮捕しようとしたところ,被疑者がそ れを免れようと更に暴行を加えたため,公務執. 違反している」 ), 「何人にも納得のいかない判 決となつてしまつたのでは,まさに呆れ返つて. 行妨害罪にも問われたものである11).被告人は, 一審の懲役 10 年の判決12)に不服で控訴し,そ. ものがいえない」 )と,酷評が重なっている. あっさりとした理由付けに, 「将来変更される. の理由に,緊急逮捕は違憲であることも挙げた. 21) 可能性は十分ありうる」 との評すらあった.. が,二審も, 「緊急逮捕もやはり逮捕状による. この判決には,まず,斎藤悠輔裁判官の補足. 逮捕と考えるべきであつて,憲法第 33 条の精. 意見がある.同意見は,「憲法 33 条の除外の場. 神に反するものとは解せられない.緊急逮捕と. 合には,刑訴 212 条 1 項の現行犯逮捕の場合は. 刑事訴訟法第 199 条の通常逮捕との差異は逮捕. 勿論同条 2 項のいわゆる準現行犯逮捕の場合及. 状の発付が逮捕の事前であるか事後であるかの. び同法 210 条のいわゆる緊急逮捕の場合をも包. 16. 19. 20.
(3) 緊急逮捕の合憲性(君塚). (267). 3. 含するものと解するを相当とする」として,よ. 速を要し,裁判官の逮捕状を求めることができ. り広汎に令状なしの逮捕を合憲としている.だ. ないときに限られているばかりではなく,その. が, 「合理的逮捕」ならば令状が不要とする論. 上になお,逮捕にあたつては,被疑者に対して. 理からすれば,刑事訴訟法がそうである緊急逮. その理由を告げなければならず,逮捕後は,直. 捕について事後の令状を必要とした点が不可解. ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければ. である22).刑訴法 210 条が犯罪を限定したこと. ならないとされているのであつて,これによつ. にも合理性がないことになるのではなかろう. ても明らかなとおり,犯罪の嫌疑は,当該捜査. か. 「最高裁の補足意見や少数意見にしてなし. 機関の主観的判断では足らず,客観的妥当性の. うる勇断」23)という皮肉が言い得て妙である.. ある充分な理由の存する場合であるから,現行. これに対し,小谷勝重裁判官と池田克裁判官. 犯の場合に準じて考えられる明白な根拠をも. の補足意見は,緊急逮捕が合憲である理由を丁. ち,裁判官の判断を待たないでも過誤を生ずる. 寧に述べようとした. 「憲法 33 条」 「が,この. おそれがない」からであるが,「それにも拘ら. ように裁判官だけに令状を発する権限を与えて. ず,刑訴法が逮捕後直ちに逮捕状を請求して裁. いるのは,裁判官は公正な立場に在る者である. 判官の判断を受くべきものとしているのは,現. が,捜査の権力をもつた者は,往々にして権力. 行犯のような羅馬法以来の伝統に由来するもの. を濫用しがちであつたという過去の歴史的経験. でないために,法律は,謙抑の態度をとつたこ. によるものであること,所論のとおりであると. とによるものと解されるのである.されば,刑. 考える.しかし,それだからといつて,令状主. 訴 210 条の緊急逮捕の規定は,令状の保障から. 義の原則をもつて捜査を規律して例外の場合を. 除外している憲法 33 条の場合の枠外に出たも. 一切否定することは,捜査上迅速に被疑者の保. のではなく,同条の除外の場合を充足したもの. 全を必要とする場合があり,そのために被疑者. と認めることができるから,適憲であると解す. を逮捕することもやむを得ないと認められるよ. るを相当とする」などとしたのである.. うなときでも,これが許されないこととなり,. 最高裁で,その後,緊急逮捕の合憲性が正面. 捜査を全うし難いこととなるのであつて,憲法. 切って 争 わ れ た 例 は 数少 な い.実務的 に は,. は,かかる場合の要請の合理性を認め,現行犯. 1955 年判決をもって解決されたと言ってよい24).. (本来の現行犯といわゆる準現行犯とを含むものと. 1978 年 の 小法廷判決 で も,弁護人 が「憲法 33. 解する)の場合には,裁判官の発する令状によ. 条違反 を い う 点 は,緊急逮捕 に 関 す る 刑訴法. らないでも逮捕できるものとして,令状主義の. 210 条の規定が憲法 33 条に違反するものでな. 保障からこれを除外しているのである.蓋し,. いことは,当裁判所の判例とするところである. 事態の性質上,急速を要するばかりでなく,犯. から,所論は理由がない」25)とされ,違憲の主. 罪の嫌疑が明白であつて,裁判官の判断を待つ. 張は簡単に斥けられた.. までもないからである.してみると, この理は,. た だ,裁判官 に 令状発付 の 請求 を 速 や か に. 現行犯に限らず,その以外の右に準ずる場合に. 行ったかどうかは,しばしば争われた.1975. ついても考えられるところであつて,刑訴 210. 年の最高裁判決では,午後早々に逮捕された被. 条のいわゆる緊急逮捕は,あだかもその場合に. 疑者について,午後 10 時頃に逮捕状の請求が. あたるものとして認められたものと解釈される. あった事案で,同日が休日であり,最寄りの簡. のである.すなわち,同条の規定するところに. 易裁判所まで片道 2 時間を要する距離であった. よれば緊急逮捕のできる場合は,死刑又は無期. ことを考慮しても,本件緊急逮捕の適法性は認. 若しくは長期 3 年以上の自由刑にあたる罪を犯. めらないとされた26).同様に,午後 1 時 20 分. したことを疑うに足りる充分な理由があり,急. に非現住建造物放火の疑いで緊急逮捕し,適法. ママ.
(4) 4. 横浜国際社会科学研究 第 24 巻第 3 号(2020 年 1 月). (268). に弁解録取の手続をしたが,その後,火災現場. が罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由が. の実況見分,取調べを行ったところ,逮捕状請. あるものとして緊急逮捕をすることを妨げるも. 求が午後 8 時となった事案で,逮捕を違法とし. のではない」とした例がある30).また,高裁判. 27). た高裁判決もある .一般に,裁判所の体制が. 決には,「警部補らは,逮捕状及び捜査差押許. 「直ちに」令状を出せるものなのかとの指摘も. 可状がなくても,端的に被告人を覚せい剤所持. 28). あった .これに対して,いわゆる内ゲバ事件. 罪の嫌疑によって緊急逮捕し,その現場におい. において,証人が犯人であると確認したので傷. て被告人の身体を捜索する権限を有していたも. 害犯人を緊急逮捕したものの,被告人 3 名はも. のであるから,同警部補らが行った右所持品検. とより,被害者も捜査に協力しておらず,被疑. 査及びこれによって発見された覚せい剤所持の. 事実の内容,犯人特定のための前記目撃者らの. 事実を理由とする被告人の現行犯逮捕並びにそ. 供述証拠の作成など,裁判所が緊急逮捕の要件. の現場で行われた右覚せい剤の押収は,法の執. の存否を判断するのに必要最小限度の疎明資料. 行方法の選択を誤ったにすぎない場合と同視し. を収集し整理するために時間を要したため,緊. うるものであって,憲法 33 条,35 条が規定す. 急逮捕後約 6 時間を経てなされた逮捕状の請求. る令状主義の保障を実質的に否定するものとは. を適法とした高裁判決がある29).. いえず,右押収,逮捕に憲法の右条項に違反す. このほか, 「充分な理由」要件を巡って争わ. る重大な瑕疵があるということはできない」な. れた事案もないではない.1957 年,最高裁が,. どとして,職務質問及びこれに随伴する所持品. デモ行進参加者多数が工場内に不法侵入し,共. 検査について,任意手段として許容される範囲. 同で脅迫暴行に至り,司法警察職員が氏名,住. を越える措置が行われた場合であっても,緊急. 所は明らかでなく,人相,体格,服装も具体的. 逮捕を定める刑事訴訟法 210 条にいう「充分な. に提示しえない状況ながら,被疑者を特定して. 理由」があり,同 220 条にいう被疑者の身体を. 指摘できる程度に把握できるとして,被疑者ら. 捜索する必要があると言えるのであれば,憲法. を緊急逮捕した事案で, 「警察職員は当時右集. 33 条・35 条に違反する重大な瑕疵は存在しな. 団犯人の工場侵入共同脅迫暴行の犯行があつた. いとした例がある31).. こと及びその一部については被疑者を特定して. 主な判決を挙げても,以上で尽きる.その意. 指摘し得る程度にその犯人を確認していたこと. 味では,緊急逮捕の合憲性は,学説,特に憲法. を原判決が判示していること明らかである.し. の教科書では頻出の論点の様に扱われてきてい. かも,右犯人と認める被疑者達が多数であり,. るが,判例法上は,特に精密な理由付けもない. 各地より判示結成大会のため来集し,他の多数. まま,相当昔に決着が着いた問題と見てよい.. 朝鮮人とともに集結しつつ逮捕に来るべき司法 警察職員に対し共同して石,コンクリート破片. 2 合憲論. 等を用意し暴行をもつて逮捕を免れようと企て. さて,学説の方であるが,この問題につい. つつあつた判示のような不隠混乱状態の下にお. て,憲法学の通説的立場は,後手に回った感が. いては,たとえ司法警察職員が彼等の中に右集. ある.宮沢俊義は,「人身の自由」の節で緊急. 団犯人達を容貌等を見て識別確認し得ても,そ. 逮捕を語り,簡単に憲法 33「条の容認すると. の氏名住所を知ることはもとより,彼等多数の. ころ」としている32).宮沢は,「逮捕の直後に. 各人毎にその人相,体格等の特徴を逐一言語文. 令状が発せられる場合」33)と述べて令状逮捕説. 字をもつて具体的に表示することは困難であつ. を支持したかにも見えるが,1955 年最高裁判. たと考えられるから,彼等の中の或者が右犯人. 決の小谷・池田補足意見の,「その合憲性を説. であることを識別確認し得る以上,彼等被疑者. 34) 明していることが注意される」 という現行犯.
(5) 緊急逮捕の合憲性(君塚). (269). 5. 逮捕説に寄ったかにも見え,理由もはっきりし. よることをいちがいに違憲として不法視するこ. ない.佐藤功は,緊急逮捕を「いわゆる緊急逮. とはできない」のであるから,「逮捕状による. 捕 の 場合 を 認 め(第 210 条),令状主義 を 緩和 のみで,憲法判断に踏み. 逮捕と考えるべきである」とした42).しかし, この判断には「相当に疑問の余地がある」とも. 込まない.芦部信喜も,判例としては,緊急逮. 述べており,このことから,刑訴法「210 条は,. している」とする. 35). 捕に関する 1955 年最高裁判決など,最高裁初. もっとも厳格に解釈する必要がある」として,. 期の判断を中心に紹介し, 「異論もあるが,一. 「逮捕状を求める手続は即刻に行なわれなけれ. 般に合憲と解されている」と説明するに留まる36).. ばならないし,また,逮捕状の発付が遅延す. 要は,このテーマには積極的に取り組んだとは. るときには──逮捕状の請求の却下がなくても──. 言えないのである.長谷部恭男も,教科書では, 緊急逮捕について,違憲論も認識しつつ,合憲. 被疑者を釈放しなければならない」と述べた ). 團藤は,令状逮捕説であろうが,限定解釈を施. とする判例を紹介しているに過ぎない37).このほ. したようにも解し得る.. か,田上穣治も, 「犯人であることを疑うに足. 池田修と前田雅英は,「重大な犯罪の犯人で. る充分な理由があり,やむを得ない必要がある. あることが明らかであっても,現行犯以外の場. ときは,令状なくして逮捕する緊急逮捕が認め. 合には事前に逮捕状の発付が必要であるとする. 38). 43. られることは当然である」 とし,大日本帝国. と,その手続をしている間に被疑者が逃亡して. (明治)憲法時代の運用から抜けきれないのか,. しまい,その後の逮捕が極めて困難になる場合. 緊急逮捕の合憲性について,活発に議論を始. 44) も少なくない」 とするところから議論を立ち 上 げ,か つ て 存在 し た「違憲説 も,緊急逮捕. めたのは,当然の如く,刑事法学界の方であっ. が必要だということ自体は認めざるを得なかっ. た.憲法 33 条 は 現行犯逮捕と令状逮捕の 2 つ. た.現行犯以外はすべて逮捕状を得てからでな. を予定しているように見えるので, 「憲法の予. いと逮捕できないことになると,重大な事件の. 想する逮捕の 2 つの形の,どちらかにあたると. 被疑者をみすみす取り逃がすことになり,国民. 39) 説明しなければならない」 というのが基本的. の生活の安全を守る上で大きな障害が生じる」. 枠組みのように見える.このため,緊急逮捕を. とし,「逮捕手続を全体としてみれば令状によ. 合憲とする多くの刑事法学説は,それを令状逮. るチェックが及んでいると解し得る」,「時間的. 捕に分類するか,現行犯逮捕に分類するかに分. に少し前後するように見えても,やはり『逮捕. かれていくことになったのである.. 状によって逮捕した』という関係が認められ得. 簡単に合憲としていたのである.. まず,緊急逮捕を令状逮捕の一種だとする説が 40). る」と説明しており45),根拠としては必要性に. あり,これが刑事法学界の通説と言ってよい .. かなり傾斜した令状逮捕説であると解される.. この説によれば,刑訴法 210 条が事後に令状を. 安冨潔も,憲法 33 条の令状主義がある以上,. 求めているのは,刑事訴訟分野の謙抑主義によ. 「『理由』のない逮捕は許されないが,重大な犯. るものではなく,必然的な憲法上の要請である. 罪について,罪を侵したことを疑うに足りる充. 41). ことになろう .. 分な理由が認められ,被疑者が逃亡又は罪証隠. 團藤重光は, 「事後とはいえ,逮捕に接着し. 滅のおそれがあり,裁判官の令状発付を求める. た時期に逮捕状が発せられるかぎり,逮捕手続. 時間的余裕がないという緊急性がある場合に,. を全体としてみるときには逮捕状にもとづくも. 逮捕直後の令状審査を要件として,被疑者を緊. のということができないわけではないから,重. 急逮捕することは,緊急処分として憲法の令状. 大な犯罪について充分の嫌疑があり,しかも,. 46) 主義の例外として合憲と解せられる」 として. 緊急でやむをえないばあいに,かような便法に. おり,この説に含められよう.緑大輔も, 「憲.
(6) 6. 横浜国際社会科学研究 第 24 巻第 3 号(2020 年 1 月). (270). 法 33 条との関係では,やはり『現行犯』に該. 罪に限られること,緊急やむをえない場合に限. 当するというには例外の趣旨を充足していると. られること,逮捕後直ちに裁判官の令状を求め. はいい難く,むしろ通常逮捕の一種(あるいは. なければならないこと,このような制度を認め. 亜種?)として辛うじて許容されるのが妥当で. る必要性を否定しえないこと等を総合判断すれ. 47). しょう」と述べている .. ば,事後とはいえ,これを令状による逮捕とみ. 酒巻匡も, 「勾留請求段階まで裁判官の関与. ることが妥当である」とする54).高橋和之は,. が予定されない現行犯逮捕とは異なり,事後で. 緊急逮捕について, 「事後に直ちに令状を請求. はあれ『直ちに』逮捕状請求がなされることで. することにより,恣意的逮捕は防止できると考. 裁判官による逮捕の正当な理由の審査が行われ. 55) えた」 としており,令状逮捕説に含め得る56).. るから,憲法にいう令状による逮捕の一種と位. 大野盛直は,緊急逮捕は「逮捕から令状による. 置付けられよう」48)と述べる.ただ続けて, 「身 体拘束処分の設計として,仮に現行犯逮捕と事. 追認がなされるまでの時間が極めて僅かであ. 前の令状による通常逮捕の精度しかなければ,. にさしたる人権侵害を結果しない限度において. 高度の嫌疑は認められるものの現行犯に該当し. のみ合憲性が認められる」としており57),一種. ない重大事犯の被疑者が面前に居るが,裁判官. の令状逮捕だとしている(令状逮捕類似説).. の令状発付を得る暇がなく,令状を得ても被疑. 以上は,逮捕がある程度継続的性質をもつ処. 者の逃走等により逮捕が著しく困難になるの. 分であるという点に着目して,令状が短時間に. が見込まれる緊急の局面においては,おそらく. 発せられれば,遡って逮捕行為を一体として正. 『現行犯』の法解釈・運用が著しく弛緩して勾 留請求まで実質上の身体拘束がない現行犯逮捕. 当化できるとする説明と言えよう58). だがこれらの説には,緊急逮捕をしたが事後. が実行されるか,任意同行等の名目による実質. に令状が得られなかったときにどうするのか,. 上の身体拘束が誘発されるであろう.いずれも. という根本疑問が晴れないという大きな問題が. 不健全な違法手続である.法はむしろ正面から. ある59).平場安治は,「逮捕状が発せられたと. このような法的必要に対し,身体拘束の正当理. しても,事後の令状発付に補完的追完を認める. 由に関するできる限り迅速な裁判官の事後審査. ことは,逮捕が刑罰に近い人権侵害的処分であ. を介在させて,逮捕の必要性・緊急性との合理. るところから,刑事訴訟の人権擁護的機能を放. 49). り,重大な自由の拘束とまではいえず,実質的. 的調整を図ったものと理解できよう」 として いる50)ので,緊急逮捕の合憲性の説明として. 60) 棄するものである」 と激しく批判する.そし. は,総合的なものに寄っている.そこで, 「逮. はないのであり,令状発付までの間の説明が難. 捕後の令状請求はできる限り迅速に行わなけれ. しい61).逮捕の時点で逮捕の合憲性を理論付け. ばならない」であるとか,嫌疑に「 『充分な理. る必要がある62).捜査の必要性のような説明は,. 51). 由』が要求されている点に注意を要する」とか , 「『直ちに』行うべき令状請求を遅延させるよう 52). て,令状が出たとしても,逮捕の時点では令状. 第一線の捜査の裁量付与であり,これを抑制す るための令状主義が換骨奪胎されてしまってい. な逮捕後の捜査は相当でない」 などの指摘を. る危惧がある63).. 続けている.. これとは逆に,一種の現行犯逮捕だとする現. このほか,条文上,緊急逮捕状も通常逮捕状. 行犯逮捕類似説 が あ る.先 に 示 し た,1955 年. に関する刑訴法 200 条の方式の規定が 210 条 2. 最高裁判決の小谷・池田補足意見がその立場の. 項で準用されており,これを補強理由に挙げる. ように見える64).学説でも,渥美東洋は,「相. 53). 実務家もある .. 当な理由,逃亡の虞または罪証隠滅の虞を具体. 憲法学説でも,橋本公亘は, 「罪状の重い犯. 的に示すことができない場合に逮捕すること.
(7) 緊急逮捕の合憲性(君塚). (271). 7. は,見込み逮捕,探索的・一般的逮捕として許. いえない」と合憲説に立つ67).分類は難しいが,. されない.この要件を具備していると一応合理 的に推認しうる場合には(逮捕にあっては『明. 一応,現行犯逮捕に準じると見る説と読めよう. 現行犯逮捕類似説に対しては,憲法 33 条の. らかに必要がない場合以外は逮捕してよい』とい. 令状主義の例外が現行犯逮捕とあるところ,そ. うのが法の立場でもある.199 条 2 項但書) ,事前. の例外規定に拡張解釈が過ぎるのではないか,. の裁判官の審査を求めえなくても,逮捕は合法. との批判がある68).従来の「正しい」用法に従. であり,合理的であるはずである.その要件を 偽られないために令状要件が定められている. う限り,「現行犯」ではない ).犯行と逮捕の時 間的接着性が要件とされず,嫌疑の程度も「充. が,要件を具える場合の逮捕を禁じて,犯人の. 分」性に留まっていることをどう説明するか. 摘発を不可能または著しく困難にする立場を憲. という問題がある70).準現行犯を合憲とする議. 法がとっているとは考えられない.無令状の. 論すら理由とする,時間的接着性が明らかに欠. 場合を例外とすることを際立てるために,憲. ける71).逮捕を時間的に継続した行為と見るこ. 法 33 条は『現行犯』という文言を選んだもの. とは他の場面ではまずなく,説明として困難で. と解しうる.また現行犯人の逮捕は, 『現認性』. ある.現行犯が誰の目にも犯人と犯罪が明白で. の例外としてだけではなく,身柄の『捕捉・抑. あるのに対し,緊急逮捕は捜査官の専門的判断. 留』の点については, 『緊急性』の例外を定め. を伴って「明白」となるに過ぎず,両者を同一. ると解すれば,憲法の『現行犯』概念には刑訴. 視することは難しい72).憲法 33 条の英訳を見. 法の緊急逮捕を含むと解される.このようにし. ても,緊急逮捕を現行犯逮捕に包摂することに. て,緊急逮捕は狭義の現行犯逮捕ではないが合. は無理がある73).また,捜査上の必要を強調し. 憲と解される」とするのである65).. て現行犯の概念を拡張することは,「必要があ. 緊急逮捕を,現行犯逮捕に準ずる合理性があ. ればなにをしてもよいということになりかねな. る場合だとして合憲とするタイプの合理的逮捕 説もある.「その時間が極めて短く,自由の拘. い」74).事は刑事手続,人身の拘束だという重 みがある.そうであれば,憲法 33 条の保障的. 束といえないものである場合に,はじめて合憲. 機能は無に帰する75).実質的にも,現行犯逮捕. であるという説明も可能になろう.もともと,. と緊急逮捕では,罪証の明白性において質的な. 令状による逮捕の例外を現行犯に限定したのが. 違いもあり,同一のものとは言い難い76).また,. 少し狭すぎたのであって,諸外国の認める例外. 緊急逮捕の「逮捕の緊急性」は「通常の令状手. は,もっと広いし,アメリカなどははるかに広. 続によっては犯人の保全を期することができな. くなっている.この程度の拡張解釈は,必ずし. いという手続上の緊急状態を内容としている.. も人権を危うくするとはいえないであろう」と. 現行犯のように犯罪および犯人の明白性から直. する旧い説明がある66).この説明は,アメリカ. 接に導かれる緊急性ではなく,その緊急性の判. 法を根拠の一つとする点など,1955 年最高裁. 断については捜査の裁量は不当に作用する危険. 判決の斎藤補足意見に近いと言えようか.. が多分にある」との指摘もある77).. 木下智史は,緊急逮捕について,刑事訴訟法. 緊急逮捕を現行犯逮捕の一種とする説も令状. 210 条 1「項は,事後的にではあるが,逮捕状. 逮捕の一種とする説も, 「社会保全の必要性と. の発行を求めていることから,各要件を厳密に. い う 理由 を 強弁合理化 の た め の『免罪符』と. 適用するならば,令状主義の例外を供する」 「身. し,要件と手続の言葉の上だけの厳格性に,令. 体の拘束の必要性が高く, 」 「犯罪行為と被疑者. 状主義 が も つ 人権保障機能 の『代償的安全弁』. との関係が明らか」という 2 つ「の要素を満た. をみいだす点において,両者に本質的違いはな. すから,憲法 33 条の趣旨に違反するとまでは. 78) い」 という,痛烈な批判もあることを添えて. 69.
(8) 8. (272). 横浜国際社会科学研究 第 24 巻第 3 号(2020 年 1 月). を限定し,逮捕状が出なかった場合の救済方法. おく.. を講じることで緊急逮捕を認める説だとも受け. 3 違憲論. 取れる.このため, 「条件付(立法論的)合憲説」87),. 考え得る 2 つの合憲論が何れも説得的でな. 或いは「相対的合憲説」88)と呼ぶこともある.. く,両説とも説明不能となれば, 「合憲性の立. しかし,高田説のその部分は立法論なのであ. 証は不可能だ,ということで」はないか79)と. り,そうであれば,憲法 33 条に緊急逮捕を織. いうことになる.刑事訴訟法 210 条は違憲だと. り込む改正論も考えられる89)とするものであ. するのが素直な流れであろう.学説にはそのよ. る.立法論や改憲論は法解釈論の枠外であり,. うなものもあり,特に,憲法学説には多いと言. 解釈学説としては穏やかな違憲論と分類してお. えよう.. くのが適切であるように思われる.. 刑事法学界でも, 高田卓爾は以上の合憲説や,. 植松正の見解も一見,高田説に近い.植松は,. より総合考慮の末に合憲との結論を引き出す考. それまでの議論が,「重罪犯人をみすみす逃し. え方に与 しない.まず, 「令状は逮捕という強. てしまうから,どうしても必要だという理由で」. 制力を発動する前に発せられることが要求され. 緊急逮捕を許容してきたと指摘90)しつつ,「令. くみ. 80). る,と解されるべきであろう」 として,令状. 状がえられなければ,どうしたって,令状によ. 逮捕説を否定する.そこで, 「緊急逮捕の制度. る逮捕とは言えないではないかと言われてみれ. は,現行犯(いわゆる準現行犯も含む)にあたら. 91) ば,なるほど,そうである」 として違憲論に. ない場合に,逮捕行為を開始した後に逮捕状を. 転じたのである.他方,「令状によらない自由. 認めるのであるから,憲法違反ではないかとの. の 拘束 は わ ず か な 時間内 の こ と で あ る」が,. 疑問が生ずるのは,蓋し当然のこと」である81). 「ドイツ流の厳密な法学的思考によって訓練さ. とし,立法関係者が述べていたとされる「 『実. れた日本の法律家たちには,その曖昧さは気に. 際上の必要』だけでは合憲の結論を出すことは. 92) 入らない」 ことが,この論争を複雑にした一. できない」などと述べ,これらを批判する82).. 因であるとも指摘する. 「違憲論を打ち破るに. そして,このような曖昧な判断を排し, 「現行. は論拠が足りない.憲法自体の思慮不足を刑事. 犯逮捕の一種又はこれと類似の制度と考える. 訴訟法が実際に合うように規定して補った」も. か,しからざれば緊急逮捕も令状による逮捕の. のだと指摘する93).そして,これを解決するに. 一種と解するか,いずれかの途をとらざるを得. は「憲法のこの部分を改正して,刑事訴訟法の. ない」83)が,「少なくとも現在のままでの緊急. 規定が正面から堂々と通れるようにしなければ. 逮捕の制度は違憲といわざるを得ない」と断じ. ならない」と,憲法改正論に踏み込むのである94).. 84). たのである .そして,立法論として,犯罪の. 違憲論ながら,現実に合わせて憲法条文の方の. 範囲を限定し,逮捕状が発せられなかった場合. 改正を求める主張である.. 85). の救済方法が予め必要だと指摘する . 「長期. 以上と比べても,平場安治の議論は明快な違. 3 年以上の懲役・禁錮にあたる罪についてまで. 憲論と言える.平場は,まず,「緊急逮捕を合. 緊急逮捕を認めるのは,何といつても広きに失. 憲 と す る に は,緊急逮捕 を 現行犯逮捕 と す る. す る」と 批判,1955 年 の 最高裁判決 の 事案 を. か,それとも令状による逮捕とするかのいずれ. 素材に, 「森林窃盗の罪について,何故に緊急. か一つしかない」と断ずる95).次に,「現行犯. 逮捕を認めなければならないのか」として,長. がローマ法における『あきらかな盗』(furtum. 期 5 年以上の懲役・禁錮にあたる罪程度に限定 すべきであること提唱したのであった86). ただ,高田説は,逮捕の許される犯罪の範囲. manifestum)にしても,イギリス古法における. 『追呼』(hue and cry)にしても,その淵源にお いて,実体法的意味を持つたことは明らかであ.
(9) 緊急逮捕の合憲性(君塚). (273). 9. る.くだつて,手続法的意味を持つようになり,. 故に無効である訴訟行為が,事後に条件を具備. 起訴を待たずして裁判されることとなつたが,. することにより有効になるばあいであるのに対. 再転して,強制処分に関する例外を形づくるこ. し,憲法が逮捕に逮捕状を要求しているのは許. とになつた.現行犯人を逮捕状なくして逮捕し. 容禁止の問題であり,元来逮捕という行為を行. うる制度的根拠は,罪証が十分に存在し,強制. つても差支ないための条件である.従つて事後. 力施用が濫用に陥る心配が少ないということで. の逮捕状の発布に,追完の作用を認めても,逮. ある.だが一たび,その立法理由が明らかにな. 捕に引きつづいて行われる留置の効力について. ると,それ以外の罪証の明白なばあいにも同様. は兎も角,逮捕そのものの,適法・不適法には. に強制処分の例外を認めて差支ないという方向. 影響を及ぼさないのである.のみならず,訴訟. への発展を示す.そこで,犯罪と逮捕との時間. 行為の追完ならば,その効力は専ら将来に対す. 的接着も,それ自体として重要なものでなく,. る関係で生じるものであつて,遡及効は認めら. 罪証の明白を示す一場合ということになる.準. れないから,この点からも緊急逮捕を追完の法. 現行犯や要急事件の観念が発達し,緊急逮捕の. 理によつて,逮捕状による逮捕だと強弁するこ. ような場合を現行犯と同様に取扱う旧刑事訴訟. とはできないのでる」とする97).更に加えて,. マ. マ. マ. マ. 法的傾向が一般化したのは当然である.だが現. 「緊急逮捕には逮捕状の発せられないばあいが. 行憲法の認める現行犯の観念は,犯罪との時間. あ」り,これは予想されている.だが「このば. 的接着のきわめて強いものである.憲法 33 条」. あいも概念としては緊急逮捕の中に入る.けだ. の文言,その英訳からすれば, 「犯罪が犯され. し逮捕とは身柄を拘束し引致する強制処分であ. ている時に逮捕されるのが現行犯である.この. る以上,一定の重大犯罪につき嫌疑充分で急速. ような現行犯概念では,準現行犯(刑訴 212 条). を要するばあいに,その理由を告げて逮捕する. でさえ,無条件に現行犯に入るかどうか疑われ. のが,即ち緊急逮捕なのであつて,逮捕状が発. る.いわんや,犯罪と逮捕の時間的接着をなん. せられるか否かは,要するに逮捕の効力が存続. ら要件としない緊急逮捕が現行犯に入らないこ. するか否かの問題だからである.逮捕状が発せ. とは,多くを論じなくても明らかである」と,. られなかつたばあいが逮捕状による逮捕でない. 96). 現行犯逮捕説を一刀両断する .. ことは言わずして明らかであろう.しかも緊急. 「そこで緊急逮捕は逮捕状による逮捕だと説. 逮捕がこの場合をも含むものであることに注意. 明されている.緊急逮捕では逮捕後に逮捕状が. 98) しなければならない」 とするのである.. 発せられる.事後の逮捕状であつても逮捕状の. そして,平場の怒りは刑事法学の通説に向け. 裏付けがあることは確かである.だが事後に逮. られる.「ところが通説はむしろ緊急逮捕の合. 捕状が発せられたからといつて,逮捕状による. 憲性を認めている.それは逮捕に接着した時期. 逮捕といえるかは疑問であろう.逮捕状によつ. に逮捕状が発せられるばあい,逮捕手続を全体. たかよらなかつたかは,いうまでもなく逮捕の. としてみるときは逮捕状による逮捕だといいう. 時を標準としていわれるべきである.事後如何. るとするのである.この説からしても,逮捕と. に近接した時点に逮捕状が発せられたとして. 逮捕状の発布は時間的に接着において欠け,明. も,逮捕状によつたということはできない.た. らかに 2 箇の訴訟行為と見られるようなばあい. だ逮捕状なしに逮捕した手続上の瑕疵を,事後. には違憲だということになろう」と述べる99).. に出た逮捕状により追完が認められるかが問題. 最後に,「緊急逮捕を必要とする実務上の要求. である.訴訟法においては一般に追完は広く認. を承認するとして実は欠点は憲法上の現行犯概. めて差支ない.然し追完の問題が訴訟行為の有. 念の狭隘にあると思う.現行犯を例外とした事. 効無効の問題であり,元来条件を具備しないが. が実は逮捕の緊要と証拠の明白にある以上なに. マ マ.
(10) 10. (274). 横浜国際社会科学研究 第 24 巻第 3 号(2020 年 1 月). も現行犯だけに限る必要はなかつた.だが現行. 説は全て成り立たず,違憲と言わざるを得ない. 法の解釈としては緊急逮捕は現行犯逮捕でも逮. という論理のようである.また,杉原は,凶悪. 捕状による逮捕でもなく従つて違憲の規定だと. 犯罪の緊急逮捕は許容できるとしながらも,現. 断ぜざるを得ないと考える」とするのであった100).. 行刑訴法 210 条の示す犯罪の範囲が広過ぎるた. 以上,刑事法学界と比べても,憲法学説には. め,これを限定し,しかも,令状が発せられな. はっきりした違憲論が数多い.. かったときには被疑者に相当額の補償がなされ. その中でも,最も重厚に違憲論を唱えたのが. ることを条件に合憲とする相対的違憲説につ. 杉原泰雄 で あ る.杉原 は,刑事訴訟法 210 条. いても,「被疑者に対する補償を用意すれば令. の定める緊急逮捕について, 「違憲説以外を支. 状なしで身体の自由を拘束することが許される. 持することは論理的に不可能である」と明言す. とすることは,33 条の文理解釈上も令状主義. る101).まず,準令状逮捕説は, 「事後に令状が. を支える趣旨からもいぜんとして論証されてい. でない場合を含めて正当化する論理になってい. ない」として否定する109).杉原は,刑訴法 210. ないし, 事後に令状がでる場合であっても違憲」. 条を改正したとしても,令状なしに現行犯以外. 「の批判をまぬがれることはできない」と述べ. の逮捕がなされる以上,法令違憲であることに. る102).また,準現行犯とする説については, 「現. 変わりがないという主張のようである.. 行犯の 2 つの要素のいずれをも緊急逮捕が欠い. 奥平康弘も,緊急逮捕は,「事後的な令状は,. ていること,令状主義の趣旨に反して操作の必. 事前の令状の,有効適切な,したがって憲法適. 要性を理由に令状によらない逮捕を誤認逮捕の. 合的な代用品たり得るかどうか」110)という観点. おそれのある場合にまで拡張していること,か. から見るべきだとする.そして,「憲法 33 条の. ら支持しがたい」と一刀両断する103).そして,. 令状主義を,個人主義を踏まえた人格尊重の契. 短時間で自由の拘束とは言えない間に令状が発. 機を内在する『適正手続』原則と一体のものと. せられればよいとする人権侵害僅少緊急逮捕合. して捉える立場からすれば,令状発給の事前と. 憲説については,「33 条を支える令状主義・適. 事後とを等置し,そのことによって緊急逮捕を. 法手続主義との関係でその例外性を正当化する. 合憲とする理論は,正当性をもちえない」と断. 解釈論が実質的にはなんら示されていない」と. じたのであった111).. 批判する. 104). . 「公共の福祉」からの例外として. 浦部法穂も,緊急逮捕について,「憲法 33 条. 合憲とする説についても, 「憲法が〔人権侵害. は,逮捕を,現行犯逮捕と令状による逮捕に限. について〕特定の方法を禁止し,または特定の. 定しているのであるから,現行犯でもなく令状. 方法以外の方法を禁止している場合は,憲法自. 112) にもよらない逮捕を認めうる余地はない」 と. 身がすでに公共の福祉と個人の自由との衡量を. して,これを端的に違憲とする.市川正人も,. 行い,いっさいの事情を考慮した上で禁止を特. 「憲法 33 条以下 の 規定 は,31 条 の 手続的適正. 定していると見るべきであり」105),憲法「31 条. の要求を個別的に具体化したものであり,公共. 以下の適正手続条項は,13 条の『公共の福祉』. の福祉や緊急事態を理由とした例外は認められ. にもとづく制約(内在的制約)を具体化したも. ないと解されるので,緊急逮捕は 33 条違反と. のにほかならない」106)として排除する107).そ. 言わざるをえない」113)とする.何れも,杉原説. して,アメリカ合衆国憲法修正 4 条が合理的な. と同様の,かなり堅い違憲論だと言ってよかろ. 逮捕を許容していることを根拠とする議論につ. う114).小林孝輔も,緊急逮捕は,「形式的にみ. いても,「両者の文言条の差異とその差異をも. て憲法 33 条に反するのみならず,実質的にみ. たらした歴史経験の差異を無視することにもな. ても,疑うに足りるという基準は漠然としてい. 108). るので,賛成しがたい」 とする.要は,合憲. るし,直ちにという表現も不確定であるから,.
(11) 緊急逮捕の合憲性(君塚). (275). 11. 乱用の危険は充分あり,合憲性はないとみるべ. 条の意義を切り下げてしまうもの」であり,現. き」115)だとし,法改正による合憲転換の可能性. 行犯に準じて考える説については「法律上も判. はほぼないと捉えているようである.. 例上もどのような類型が」緊急逮捕「にあたる. 渋谷秀樹は,緊急逮捕について,まず, 「こ. のかの判断がなされておらず,あくまで捜査機. れを令状主義の中で捉えるか,または現行犯の. 関が判断することになる点で,問題がある」し,. 中で捉えるか,にかかっている.どちらでも. 被疑者拘束後直ちに令状を求めるのでは「具体. ないとすると,違憲になる」と証明手順を明. 的場合にどこまで事前審査と同視できるかに依. 言する. 116). .そして, 「前者と解するためには,. 存しているように思われ,制度として正当化す. 憲法 33 条のいう『令状によらなければ』とい. ることは非常に困難であろう」と主張する120). う文言 が,時間的 に事前を要求するのか,根. ので,現行法違憲論に立つものと見做せる.刑. 拠が令状であれば事後でも許容するのかにか. 事訴訟法 210 条を改正しても,基本的には合憲. 117). かってくる」 として,事後でもよいとする説. の余地がないことになりそうであり,杉原説な. を検討するのであるが, 「令状主義の意義が強. どの堅い違憲論側に足を踏み入れていよう.. 制捜査の司法的事前抑制であるとする考え方. これらに対して,もう少し柔軟に考えつつ,. 118. を貫徹すると,この説をとることはできない」 ) として,否定する.かと言って, 「後者と解す. 最終的には違憲とする説もある.藤井俊夫は,. るためには,現行犯逮捕の要件との関係を吟味. 状主義の緩和を認めるとしても,『犯罪の重大. する必要がある.緊急逮捕は犯罪と被疑者の①. 性』とか『緊急性』などについて真に必要最小. 特定性・②明白性 は み た す が,犯罪 の ③現在. 限の例外といえるかどうかの吟味をより慎重に. 性・④時間的接着性は満たさない.同条の規定. 行うべきで」あり, 「現行の緊急逮捕の規定に. は,③④に代えて,実体的には,犯罪の重大性,. は違憲の疑いがある」とする121)というのであ. 身体拘束の緊急の必要性を要求し,手続的には. るから,総合衡量説に立って,なおかつ刑事訴. 理由の告知と令状の事後発給を要求する.この. 訟法 210 条が改正されれば合憲となる余地があ. 代替性を認めるか否かを問題としなければなら. ることを示唆する立場である.愛敬浩二も,緊. ない.ところが, このように要件を変換すると,. 急逮捕について,「かりに」「社会秩序に対する. 現行犯の概念から離れすぎて,憲法が現行犯の. 重大 な 侵害 を 排除 す る 緊急 の 措置(緊急行為). みを明示的に例外とした趣旨から乖離してしま. として合憲とする説」 「に立つとしても,①『死. う.したがってこのような説明は論理として不. 刑または無期若しくは長期 3 年以上の懲役若し. 可能である.実際の必要性をもって緊急逮捕を. く は 禁固 に あ た る 罪』(刑訴 210 条 1 項)で は. 合憲と解するのが多数説と思われるが,この説. 『重罪事件』の絞りが不十分であること,②欧. は,憲法解釈の枠を踏み越えたもので,むしろ 119). 憲法改正の必要性を解くべきである」とする. .. 緊急逮捕について,「『公共の福祉』のために令. 米と比べて逮捕後の捜査機関の『手持ち時間』 が長いこと(72 時間.刑訴 203 条 1 項,205 条 1 項). 渋谷の主張は,現行刑事訴訟法 210 条について. を勘案すると,現行制度の合憲性には疑義が残. は違憲説であると判断できるだけではなく,憲. る」としており122),違憲論に含めてよい.しか. 法の方を改正しなければ齟齬が解決しないとし. し,緊急行為説に立って,なおかつ,刑事訴訟. ている点で,刑事訴訟法 210 条を改正しても合. 法 210 条が改正されれば合憲となる余地がある. 憲にはならないことを示唆しており,実はかな. ことを示唆しており,やはり堅い違憲論とはや. り堅い違憲論と思える.. やスタンスを異にする.. より若い世代でも,淺野博宣は,緊急逮捕に. 長谷川正安 は,緊急逮捕 に つ い て は,1955. ついて, 「単に合理的というだけ」なら憲法「33. 年の最高裁判決の事案を取り上げつつ,こ「の.
(12) 12. 横浜国際社会科学研究 第 24 巻第 3 号(2020 年 1 月). (276). よ う に 軽微 な 森林窃盗(第一審判決 で は,森林. 条は,日本国憲法 33 条のように令状主義を謳っ. 法違反,公務執行妨害,傷害の罪で懲役 10 月)の. 容疑者で一定の住所をもつ者を,その自宅で,. てはおらず,文言が異なる ).アメリカが母 法だからという簡単な理由に乗ることはできな. 巡査の裁量で緊急逮捕するということは,例外. い.ア メ リ カ と は,捜査構造 や 逮捕 の 性格 そ. 的措置を厳しく規定した刑訴法の趣旨にそわな. のものの違いがあり,1956 年の認識としても,. 127. いだけでなく,憲法第 33 条に明白に違反」す. 「米法では,被疑者を逮捕したときは,遅滞な. ると断じている123).はっきりしない部分もあ. く被疑者を最寄りの予備審問官」「の前に引致. るが,もし,長谷川がこの事案への適用を問題. し,その審査を受けなければなら」ないので. とし,より重大な事案への適用には合憲とする. 「令状主義の例外を広く認めることができる」. 余地があるとしているのであれば,意外な柔軟 性を示していたのかもしれない.ならば,長谷. ことが指摘されており ),また,違法収集証 拠排除の原則などにより違法手続を禁ずる判例. 川の主張は,適用違憲論だとも採れた.. の集積が行われている.このため,日本の刑事. 確かに,憲法 33 条が人権条項として相当に. 司法において安易に憲法 33 条の文言通りの解. 詳細な定め方をしているので,現行犯の場合を. 釈の拡張を認めてよいのかは疑問でなのであっ. 唯一の例外としていると読むのが,日本語とし. た129).. 128. て自然である124).緊急逮捕が令状逮捕でも現. だが,だからと言って,杉原の述べるよう. 行犯逮捕でもなければ,憲法の許容する逮捕で. な,論理的に断じて違憲とするしかないとする. はなく許されない,とする論理はすっきりして. 主張にも実は難がある.演繹的証明は兎も角,. いる. 「公共の福祉」の名の下に,社会的害悪. 「帰納論理は推測である」130).数学的帰納法は,. だから排除できるとしたのでは,そもそも令状. 数学に収めるべく, 「演繹論理」なのである131).. がおよそなくても,犯人の明白性が欠けていて. これに対し,例外も多い法律学の「証明」の多. も,緊急であれば逮捕できることになり,刑事. くは帰納的証明である.また,数理の世界とは. 手続条項一般で考えても大いに疑問であった.. 異なり,文言は多義的である.絶対に正しい,. 総合的な衡量によるとする説にも同様の懸念が. これ以外の結論は論理的にない,ということは. あり,少なくとも現行の刑事訴訟法 210 条は違. 稀である.民商法や刑法の各論的条文とは異な. 憲であるとする主張は,明快で,ある意味,い. り,憲法条文の解釈手法が,いかに重要な人権. わゆる憲法論らしい清々しさすら感じられた.. 条項とは言え,ここまで堅い解釈を行うことに. 併せて,合憲論の中に度々見られる,アメリ. は,違和感がある.また,社会治安上の不安を. カ法を根拠とする議論もまた批判できることも. 考えると,諸外国の例の通り,この程度の「例. 指摘 し て お く.1955 年最高裁判決 の 斎藤補足. 外」を認めないことは非現実的であるとの批判. 意見による,日本の刑訴法 210 条はアメリカ合. がある132).即ち,「現行犯逮捕でなければ事前. 衆国憲法修正 4 条の導入の結果だという歴史認. の令状逮捕のみしか憲法上許されていないと解. 識は, 「憲法 33 条を,たんに制度史的側面から. するのは,あまりに文言・文理にとらわれすぎ」. のみ捉えることはできないし, 」そう「限定し. である133). 「表現の自由」の制約が認められ,. ても,同裁判官の見解は皮相に過ぎ」る. と. その特例として「検閲」の絶対禁止を導く現在. の非難を免れまい.アメリカ法における令状逮. の一般的憲法学説の論法と比べても,厳格に過. 捕の例外を念頭に置く学説は,アメリカでも逮. ぎよう.多分に,刑訴法 210 条違憲論の論理は,. 捕状を必要としないように日本でも緊急逮捕に. 天皇の国会開会式での「おことば」を違憲とす. 逮捕状は元々必要がないとストレートに解す. る論理に似ている.この場合も,「象徴として. るきらいがある. 126). 125). .しかも,合衆国憲法修正 4. の 行為(公的行為)」の 創設 は,憲法 が 天皇 の.
(13) 緊急逮捕の合憲性(君塚). (277). 13. 政治的行為に途を開くことになり,その活動を. 犯逮捕説などに対しては「緊急逮捕では,犯行. 限定列挙した趣旨に反しようが,7 条 10 号の. の現認等の直接的・類型的事情による犯人性の. 「儀式を行ふこと」に含めれば, 「儀式」での発. 明白さも,犯行と逮捕との時間的接着性も要求. 言は内閣の「助言と承認」で監視すれば, 「日. されないから,現行犯逮捕とは同視できない,. 本国」及び「日本国民統合の象徴」性を維持す. 140) 等の批判がある」 とし,また,実質的な社会. る点で特に問題がないことからして,この限り. 治安上 の 必要 を 主 た る 理由 に す る「緊急行為. では合憲として,その行為の過拡大は押し留め. 説」に対しても, 「理論的説明として成功して. るべきであった134)ように,刑訴法 210 条違憲. いるかは疑問が残る」141)と手厳しい.加えて,. 論の問題点にも共通項があろう.何れも,頑な. アメリカ合衆国憲法修正 4 条にならい,日本国. な文言解釈に突き進み,いわゆる非現実的な結. 憲法 33 条は合理的な逮捕について令状要件を. 論,民主主義国家において国民の感覚と乖離し. 外したとする合理的例外説についても, 「両国. た結論を導いてしまったとの印象も拭えなかっ. 憲法の文言の差異を無視しており妥当でない」. たのである.. と断ずる142).結局,「事前の令状による通常逮 捕が令状主義に則った『原則』型であり,その. 4 違憲論の批判を受けて. 趣旨が,正当な理由なき逮捕を事前予防するこ. このような違憲論の台頭,それによる合憲論. とにあるとすれば『例外』を肯定するには,少. 批判を受けて,これに反論しつつ緊急逮捕の合. なくとも犯人性の明白さが必要」であって,刑. 憲性を説明する対応も多く見られた.総合的に. 訴法 210 条の「犯罪の嫌疑の『充分な理由』は. 考えて合憲とする説である.現行犯逮捕か令状. 『明白性』の 意味 で(限定的 に)解 す べ き」で. 逮捕かという二分法で合憲性を説明できないこ. あるなどとし, 「限定解釈された嫌疑要件に加. ともあり,まずは「捜査実務からの現実論との. え,個別具体的事情のもとでの緊急の必要性の. 135) 調整理論 に よ る 合憲説」 が あ り 得 た136).そ. 要求,さ ら に 事後的 な 司法審査 の 存在 に よっ. こには,以上の合憲論・違憲論の持つ機械的な. て,辛うじて合憲性を肯定できる」143)と,厳し. 解釈から脱却したいという意欲が垣間見える.. い決断をしている.堀江は,「令状主義の本旨. 刑事訴訟法学において,最も違憲論と紙一重. が生徒理由の事前チェックにあるとすれば,例. の主張をしているのは鈴木茂嗣である.鈴木. 外を肯定するには嫌疑の明白性が必要と思われ. は,「犯罪の重大性などについてもっと厳格な. るが,ただこれは現行犯の場合のような犯行の. 絞りをかける必要があ」ることから「現行法の. 現認等の類型的・直接的事情によってしか認め. 137). 規定のままでは,合憲性を認め難い」 とする. 得ないものではなく,この点に緊急逮捕を合憲. が, 「逮捕状の請求を受けた裁判官は,逮捕当. とする道を求めるべき」144)だとも述べている.. 時における緊急逮捕の要件の存在,および現在. そこまで厳しい見解でもなく,緊急逮捕を総. における通常逮捕の要件の存在を審査し,これ らがともに認められる場合にのみ,逮捕状を発. 合的に合憲とする主張は多い.そして,多くは, 「それが緊急状態に対処するためにのみ特殊例. 138) するべきである」 とも述べており,合憲限定. 外的に容認される点に」依拠することとなった145).. 解釈を行っているように見える.解釈による新. 代表例は平野龍一である.平野は,「その合憲. たな立法に進んでいるとも採れる程である.. 性を論理的に肯定することは困難である」とし. 堀江慎司は,令状逮捕説に対しては, 「令状. ながらも,「現行犯の概念を拡げて解釈するの. 主義の本旨は事前の司法審査の要求にあると. は困難であるし,事後の逮捕状発付によって,. か,事後の令状が発布されなかった場合の説明. 逮捕を追認するから,令状による逮捕だという. 139). が困難である,といった批判がある」 ,現行. 見解も,事前に令状を要求している憲法の趣旨.
(14) 14. (278). 横浜国際社会科学研究 第 24 巻第 3 号(2020 年 1 月). に適合しない.その合憲性を論理的に肯定する. 憲論に立っている152).. ことは困難である.ただ,実質的にその社会治. 田口守一もまた,「一種の緊急行為としてか. 安上の必要を考えたとき,右のような緊急の状. かる逮捕形態も認めざるをえないので,直ちに. 態のもとで重大な犯罪について例外を認めるこ. 違憲説に従うことはできない.また,令状が発. との合憲性を,かろうじて肯定しうるであろう. 布されない場合もあるので,令状逮捕説をとる. か」と述べていた146).. ことはできない(令状逮捕説をも根拠に含める競. 松尾浩也も,令状主義の修正として,立法事. 合説もほぼ同じである).憲法 33 条は,司法的. 情や外国立法例を併せて考え,合憲としつつ. 抑制を働かせなくても逮捕が合理的な場合とし. も, 「その運用においては,変則的制度である. て現行犯逮捕を掲げていると解することができ. ことを念頭に置いて,厳格な処理を旨としなけ. るので,これに準ずる合理性がある場合には令. ればならない」とする147).. 状主義の例外を認めることができよう.緊急逮. 三井誠は,令状逮捕説には「事前の令状の請. 捕は令状主義の例外として合理性が認められる. 求・発付という形での裁判官による審査の存在. 場合と考えられるが,現行犯逮捕との要件の違. こそが令状主義の趣旨である(副次的には,事. いがあるので,逮捕後直ちに裁判官の審査をう. 後に令状が発布されなかったときの説明がつかな. ることとしたものと解することができ」ると説. い)との批判,現行犯説に対しては,緊急逮捕. 明する153).. と現行犯逮捕とではその要件が大きく異なって. このほか,柳川重規も, 「事前審査が令状制度. おり緊急性のみで令状主義の例外を認めること. の基本であるということになるので,緊急逮捕. 148). は問題であるとの批判が可能である」とする. .. 154) は,無令状逮捕である」 としながら, 「令状入. その上で, 「しいて合憲説を説明づけるとすれ. 手の時間的余裕がない緊急状況であること,令. ば,国民の生命・身体・自由・財産等に対する. 状要件の代替手段が設けられていることから,. 重大な侵害を排除するために,令状逮捕および. 155) 令状制度の例外として認められている」 との. 現行犯逮捕と同視できる形で認められた緊急措. あっさりした説明を行っている.. 置としての処分とでもいうほかないであろう. 憲法学説でも,覚道豊治は,緊急逮捕を定め. (競合緊急処分説).すなわち,令状説および現. る刑事訴訟法 210 条について,「濫用されては. 行犯説の絞りをふまえた緊急措置と構成する」 ことにより,緊急逮捕の合憲性を説明する. 149). .. ならないが,重大で兇悪な犯罪については,逮 捕が遅れることは著しく社会不安を起すことで. そして,複雑なプロセスを経て合憲性がやっと. あるから,とくに必要な特定の犯罪に限って緊. 満たされることに鑑み, 「各要件の解釈もおの. 急やむを得ない場合として,このような規定を. ずと厳格になる.そうでなければ,次に運用違. 設けることも憲法上認められよう」とする156).. 憲の疑いが生じてくるだろう」と釘を刺してい. 佐藤幸治も, 「この逮捕の合憲性の根拠を強い. る. 150). .上口裕も, 「緊急逮捕の実質的必要性と. て求めるとすれば,社会秩序に対する重大な侵. 事後的司法審査を根拠とする」三井説に賛成し. 害を排除する緊急の措置であるという点にあり. 151). ている. .井上正仁 も,憲法 の 諸規定 が「令. (緊急行為説),例外を肯定するに足る嫌疑の明. 状主義の趣旨に照らした合目的的な実質解釈を. 157) 白性が必要であると解される」 としており,. 一切許さないものとまでは言えない」として,. 緊急行為説の典型的説明のように思われた.小. 「例えば,緊急逮捕」を例示しており, 「合衆国. 嶋和司による,緊急逮捕については,「社会の. 憲法の規定ぶりとの間に歴然とした差異がある. 安全の維持のためのつよい要請と緊急性があ. ことも軽視できるものではないから,そのよう. り,しかも濫用のおそれがない場合には,逮捕. な解釈には自ずから限度がある」としつつ,合. に近接した時期のものであることを条件とし.
(15) 緊急逮捕の合憲性(君塚). (279). 15. て,事後令状を許すと解すべきであろう」とす. 推奨するのは,脱法の勧めに見える.そうであ. る158)説明も,これに近いものと思われる.堀. れば,緊急逮捕という概念を認めた上で,それ. 内健志も,緊急逮捕は, 「緊急性の要求がある. を厳格に運用させるよう規制した方が人権尊重. 場合には,現行犯とのバランスを考えて,事後. の趣旨に適うという理解も解らないではない164).. 令状も否定するものではないという理由をも附. しかし,そのような説明は,社会法益を尊重し,. 159) け加えるべきである」 としており,この種の. 人権よりも捜査機関への協力を第一義にしてい. 合憲説に含められよう.. るのではないかとの疑念がある165).. そ も そ も,1947 年 の 刑訴応急措置法 の 立案. こ の ほ か,憲法 13 条 な ど の「公共 の 福祉」. の際,「この手続は司法官憲が発した令状によ. を持ち出し, 「重大で兇悪な犯罪については逮. らなければ何人も逮捕されないという新憲法の. 捕が遅れることは著しい社会不安を起こすであ. 要求に一見抵触するようではあるが,公共の福. ろう.このことと衡量すれば右のような厳格な. 祉を守るために重い犯罪を適切に検挙するとい. 条件のもとに,令状なしの逮捕を認めるとして. う 要請 と 又逮捕後逮捕行為 の 継続中 に 裁判官. も,それは,公共の福祉による『逮捕されない. の令状を得るという担保があることによって. 166) 自由権』の制限として認めうる」 などとする. 新憲法第 33 条の精神に反しないということと. 外在的制約説は,戦前同様,公や多数の漠然た. 160). なるのである」 と説明されており,その説明. る利益を言い出せば安易に人権制約が可能にな. は,必要説寄りの総合説だったと言えた.高田. るものとして既に憲法解釈学説としては葬り. 説,植松説の述べる通り,当初,憲法の「司法. 去られたものであり,採用し難い.「無媒介な. 官憲」について検察官を含むとの解釈もある中. 『公共の福祉』の観念をもち出すことは,とか. で,令状主義の例外を「現行犯逮捕」のみとす. 167) く危険を伴う」 .また,「被疑者の権利も重. るままで日本国憲法が公布されてしまったこと. 168) 要であるが,住民の安全も同様に重要である」. が問題であるが,立憲者には,現在考えられて. と す る よ う な,令状主義 に 対 す る 内在的制約. いる緊急逮捕のようなものを違憲とする理解は. があるとする説明169)も多いが,憲法論として. ない.また,逮捕する側の論理としては,日本. は裸の利益衡量論170)との謗りを免れまい.特. 国憲法 33 条が「そもそも狭すぎるのであつて,. に,憲法の刑事手続条項が詳細であり,その制. 立法例にも類例のない非現実的な規定である」. 限は特に慎重であるべきところ,粗雑な憲法解. ため, 「その枠内でなお解釈の容れる余地があ. 釈との非難を浴びてもやむを得まい.必要説は. るとするものは合憲説」を採ったということで. その亜種である疑いもある.また, 「合理的逮. ある. 161). .これらを踏まえ,総合して合憲とす. る理解が生まれたと言えよう.もし,緊急逮捕 について, 「刑事訴訟法の規定は広範にすぎる」 162). 捕」と言っても,何が合理的かは不明瞭であっ た171). 「令状主義 を 確立」し て い る 憲法 の 下, 「厳格に解さなければならない」であろう172).. となれば, 「きわめて重大な犯罪に限るべき」. そのような中で,田宮裕は,以上の,必要性. などの限定が付されるのが自然であろう.. を重視する考え方ともやや一線を画し, 「現行. ま た,仮 に,緊急逮捕 を 定 め た 刑事訴訟法. 犯に準じて合理的と称しうるとする合理的逮捕. 210 条を堅く解釈して,それが法令違憲となっ. 説」と平野の必要説は「実質上ほぼ同じ考え方. たとすれば,刑事司法は任意同行を多用する恐. で,アメリカの憲法解釈が参考にされている」. れ が あ る.憲法学者 の 鈴木安蔵 も,緊急逮捕. が,「憲法 33 条の文言は母法(「合理的」な逮捕. 「および準現行犯の場合が濫用されれば,憲法. を許す)以上に厳格なことを考えると, 」 「全体. の定めは空文化されるおそれがある」と早々に. 的にみれば『令状による』といってよいとする. 163). 指摘していた. .確かに,そのような運用を. 令状逮捕説」 「をあわせてはじめて(つまり,令.
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