サムスン電子のインド市場戦略
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(2) 28. (206). 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 2 号(2011 年 8 月). と」技術の環境変化と新興市場の台頭がある.. 新興国各国のそれぞれの事情に合わせた現地化. デジタル技術時代に入ってから,サムスン電子. 戦略であるとは言いがたい.本稿ではサムスン. は世界の家電市場で,液晶テレビは 1 位,携帯. 電子が「標準化戦略」を持って,如何にして海. 電話では 2 位の市場シェアを占めている.そし. 外進出国で現地化に成功しているかについて明. て,新興国市場でも巧みなマーケティング手法. らかにする.. を使い,高業績を上げている.新興市場で日本 企業が韓国企業に比べて苦戦している背景に. 2.研究目的と研究方法. は, 日本企業の組織体制が事業部制であるため,. サムスン電子の海外市場戦略に関する先行研. 現地市場での経営資源が分散してしまい,韓国. 究 と し て は,北米市場戦略 の 特性 と 事例 を 分. 勢に市場シェアの面で遅れを取る原因になって. 析した研究がある(張,2008).張(2008)は,. いると日本駐在員は話している3).この他にも,. 韓国家電企業 の 海外現地経営 に は,ス ポーツ. 日本企業が新興国市場で苦戦している原因の一. マーケティングや現地ニーズを反映したデザイ. つとして,日本企業は新興国市場の消費者を「ボ. ン重視戦略を中心に,サムスン電子と LG の間. リュームゾーン」の言葉を使いながら,一塊に. には相互学習による競争戦略の同質化が見受け. して捉える傾向があることが挙げられる.しか. られると主張している.一方,インド市場に. しながら,新興国の家電市場の構造は,国ごと. おける両社の現地化戦略に関する Choe と Lee. に事情が大きく異なる. 例えば新興市場では,. (2008)の研究では,サムスン電子はグローバ. 所得水準の異なるインドやロシアなど単純な. ル な 標準化戦略 で 高所得者層 を ターゲット に. 比較や定義は困難であるため,便宜上,3000~. する「プレミアム戦略」に傾注している反面,. 5000 ドル程度を「中間所得層」と呼んでいる.. LG 電子 は 生産,流通,組織,マーケ ティン グ. 高級品を購入できる富裕層にまだ厚みがないこ. など経営全体において徹底した現地化戦略に基. とから, 「中間所得層」 ,つまり,市場規模の大. づいてインド市場に近づいていると主張してい. 4). きな「ボリュームゾーン」 と一塊で呼んでい. る.つまり,スポーツマーケティングや現地ニー. るということである.このように,各新興国の. ズを反映したデザイン重視戦略を見ると二社の. 所得水準を単純比較することは難しく,その富. 戦略が同質であるといえるが,全社レベルでの. 裕層と中間所得者層の各国の人口に占める割合. グローバルマーケティング戦略においては,二. も数も異なる.要するに各企業が新興国市場に. 社の間に違いが見られるといえる.このように. 進出する際には,新興国市場の国別の事情に合. 異なる分析の結果を出している既存研究を補う. わせた現地化を行うことが大事であることがわ. ために,本稿では,二社の比較を行うよりは,. かる.しかし,サムスン電子のグローバルマー. 研究の対象をサムスン電子の一社に絞り,本社. 5) ケティングの戦略は「標準化戦略」 であるため,. の戦略とインド子会社の現地での戦略の関連性. . 3)2007 年 7 月にインド経済研究所の研究員を 対象に行ったインタビュー調査から. 4)株式会社野村総合研究所,上級 コ ン サ ル タ ン ト,岩垂好彦,<国際協力銀行・東京大学 も の づ く り 経営研究 セ ン ター・海外投資融資情報財団 共催シンポジウム>,2009 年 12 月 18 日. 5)サムスン電子は各グローバルマーケティン グにおける国際市場細分化,製品政策,製品開発, ブ ラ ン ディン グ,販売促進・広告,価格,流通・ ロジスティックの各要素をどの程度標準化しまた. を中心により体系的な分析を行う.分析を通じ て,グローバル市場におけるサムスン電子の全 社的マーケティング戦略をと新興市場でのマー ケティング戦略も明らかにしていく. 研究の方法としては,文献調査と現地調査お . 現地適応化するかを本社で決めていることから, サムスン電子のグローバルマーケティングの戦略 は「標準化戦略」であるといえる..
(3) サムスン電子のインド市場戦略(曺). (207). 29. よびインタビュー調査を行った.インドに韓国. ROI の概念を導入した.また,オリンピックを. 企業より先に進出した日本企業の動向を調べ. 中心としたスポーツマーケティングの手法を取. るために,東洋経済新聞社の『海外企業進出総. り入れ,ブランド認知度の効率的な向上を図っ. 覧』を,1975 年,1979 年,1980 年~2009 年 版. ている.それから,技術環境の変化と現地の事. を参考にした. 現地調査は, インドと韓国で行っ. 情に合わせた適切な製品を開発することで,市. た.インドの現地調査は 2007 年 9 月に南東地. 場シェアを大きく伸ばすことができた.サムス. 域 チェン ナ イ で 1 回 と,韓国 で の 現地調査 は. ン電子は本社主導でグローバルに統一したマー. 2009 年から 2010 年の間数回にかけて行った.. ケティング戦略を立て,各子会社もその方針に. インタビュー調査は,日本,韓国, インドで行っ. 従うようにした.. 6). た . Ⅱ 事例研究,サムスン電子インドの戦略. サムスン電子のグローバルマーケティング活 動は大きく二つに分けることができる.一つ目 は,世界におけるサムスン電子のブランドの認. サムスン電子は 1980 年代の後半から海外直. 知度を上げることと,二つ目は,海外現地市場. 接投資をはじめて以来,1990 年代半ばまで量. におけるマーケティング活動に「選択と集中」. 的成長をし続けた.しかし,1993 年には量的. と「プレミアム戦略」といった標準化戦略を取. 成長に限界を認識し, オーナー会長の李健熙 (イ. り入れたことである.通常,家電業界では他の. ・ゴンヒ)会長自ら「量」より「質」を中心と. 業界に比べてマーケティングを比較的に重視し. する「新経営宣言」を提唱するようになった.. ないと言われていた.しかしサムスン電子は,. この「新経営宣言」は後から社内では「新経営. 後発企業の弱点を克服するために,マーケティ. 運動」として広がり,1997 年に起きたアジア. ングに集中的に資源を配分し,先進諸国の先発. 通貨危機の時に行った会社の抜本的なリストラ. 企業との競争に勝つために努力した.そして,現. クチャリングで,会社の体質を改善させたこと. 地での販売網構築には,地域と流通網に「選択. で実を結ぶようになった.以降会社はグローバ. と集中」の戦略を使って,高業績を上げている.. ル企業に着実な成長をすることができた.例え. 特に 2003 年からは,全世界の市場におけるマー. ば,2004 年のサムスン電子の売上高は 81 兆 9. ケティングを「プレミアム戦略」に標準化・統. 千 6 百億ウォンで,うち海外での売上高は 63. 一化し始めた.1995 年に進出したインド子会社. 兆 6 千 8 百億ウォンで約 80% を占めるように. も 2004 年からは「プレミアム戦略」に基づい. なった.. た標準化戦略でマーケティング活動を行ってい. サムスン電子は 1990 年代から自社の資産の. る.サムスン電子が新興国市場へ本格的に参入. 源泉であるといえるブランドの価値の重要性に. したのは 1990 年代からであり,インドの家電市. 関して認知するようになり,ブランドを体系. 場においても他の先進諸国の市場同様に後発者. 的に管理することを始めた.ブランド投資には. であることに変わりはなかった.インドの家電. . 6)日本では東京赤坂に所在するインド経済研 究所の研究員を対象にインタビュー調査を行った (2007 年 7 月) .サムスン電子の本社がある韓国で は,サムスン電子本社と水原事業場を訪ねてインタ ビュー調査 を 行った.イ ン タ ビュー調査 の 対象者 は,LCD 事業部,広報チーム,デザインチームの 人で,対面質問する方法を使った.インドでは, チェ ンナイ地域に進出している韓国の自動車企業の役 員と駐在員を対象にインタビュー調査を行った.. 市場における日本企業の存在感は圧倒的に強い ものであったため,このような経営の難問をサ ムスン電子は克服しなければならなかった. 本研究では,インド市場におけるサムスン電 子の市場浸透戦略を中心に分析する.それから, 後発企業であるサムスン電子の新興市場戦略を もっと色濃く見せるために,日本家電企業を先 発企業,韓国家電企業を後発企業と位置づけ,.
(4) 30. 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 2 号(2011 年 8 月). (208). 表 1 新規購入・買い替え・買い増しの構成比 新規購入. (単位 %). 買い替え. 買い増し. 合計. 洗濯機. 86. 12. 1. 100. 冷蔵庫. 76. 22. 2. 100. エアコン. 95. 3. 2. 100. 電子レンジ. 99. 1. 1. 100. 掃除機. 100. 0. 0. 100. 出所:社団法人日本電機工業会,『電機』,2006 年 5 月. 両国企業の当該地域への海外直接投資を年度別. インフラストラクチャーの整備と,不動産サー. に調べた比較分析も行う.日韓家電企業のイン. ビスに対するこれからの需要の伸びも経済成長. ド家電市場への進出推移を 1960 年代に遡って. のプラス要因となっている.教育の面でも,数. 比較分析を行い,そのあとサムスン電子のイン. 学,科学,言語分野 に 優秀 な 人材 が 多 く,21. ド市場戦略をマーケティング活動に焦点を当て. 世紀が必要とする IT 技術,バイオ技術を中心. 分析していく.. とした政策も高く評価されている.良く知られ. 本稿の内容は,1 節の部分でインドの経済と. ているようにインドはソフトウェアの先進国で. 家電市場の現況を概観し,2 節の部分では日韓. あり,企業のインド IT 技術の活用を狙った進. 家電企業のインド家電市場への進出経緯に関し. 出も増えている.. て調査および比較分析を行う.特に,現地市場. しかし,インド経済が今後発展していくため. での日韓企業の戦略の違いを韓国のサムスン電. の問題点もあって,インフラ設備及び社会基盤. 子インドのほうに焦点を当てることで,後発企. 施設整備の遅れ,深刻な貧富の格差,硬直した. 業の海外市場戦略を中心に詳しくみていく.3. 官僚制度,複雑な社会構造及び税制などを指摘. 節から 4 節にかけては,サムスン電子インドの. することができる.これらの問題はインドに進. 現況と,インド現地市場におけるマーケティン. 出する企業にとっても企業環境のマイナス要因. グ戦略を中心に述べる.. となる. ⑵ インドの家電市場. 1.インドの経済と家電市場. インドの人口は約 12 億で,経済成長率は年. ⑴ インドの経済の潜在性. 平均約 8% 台を維持している.その購買力は世. インドは急速な経済成長の伸び率で全世界. 界 4 位で年平均 20% 以上伸びている.インド. の注目を浴びている.インドの経済成長率は,. の耐久消費財の市場は 48 億ドルの市場規模と. 2003 年 に 8.6%,2004 年 に 7.5%,2005 年 に. いわれており,需要はインド国内経済の急成. 8.3%,2006 年 に 8.5% で,2003 年以降 に イ ン. 長 と 2 億 7 千万人 と 推定 さ れ る 中間層 の 購買. ドの GDP 成長率は平均 8% 台を維持している.. 力の上昇に伴い今後 5 年間で年 12~15% の成. 高い経済成長率のほかにもインド経済の潜在性. 長が予想されている(2009 年基準).なかでも. は高く評価されている.製造業分野の生産性が. 家電市場の規模は年 20% 以上大きくなってい. 高まり競争力をつけてきたことや,労働力が生. る.テレビ市場は,1 千 2 百万台規模で世界市. 産性の低い農業から生産性の高い産業へシフト. 場の 6~7% を占めており,テレビの普及率が. していくことなど,インド経済に構造的変化が. まだ 30% 水準であることを考えると,家電市. 起きているからである.そして,都市化による. 場の潜在性はとても大きいことが分かる.表 1.
(5) サムスン電子のインド市場戦略(曺). (209). 31. � ͧ͝͡͡͡. ͦ͝͡͡͡. ͥ͝͡͡͡ 胥線 蔤贬罁. 谫 赊 ͤ͝͡͡͡. ᔈᔂᔓᕓ 詒覐ᕌᕓᔘ. ͣ͝͡͡͡. ͢͝͡͡͡. ͡ 度 年 ��. �. ※平均伸び率は,冷蔵庫 7.3%,洗濯機 14.0%,エアコン 16.1%,電子レンジ 20.6% 出典:表 1・図 1 とも実績は工業会(CETMA=The Consumer Electronics and TV manufacturers Association) 予測は調査会社(Snapdata 社)によるもの 出所:社団法人日本電機工業会,『電機』,2006 年 5 月から再引用. 図 1 インド白物家電市場規模推移 (2004 年度以前実績,2005 年度以降予測). でみる商品購入のほとんどが新規購入であるこ. 場に本格参入したことが表 2 から分かる.イン. とと,そして図 1 の家電商品の需要の伸び率か. ド 政府 が 1997 年 か ら 外資系企業 の 100% 単独. ら,テレビ以外の部門でも家電市場の量的拡大. 出資を認めたことと関係があると考えられる.. は続くと考えられる.. 例 え ば,日立 の 場合最初 は 変圧器 や 遮断機 を製造していたが,2000 年頃からエアコンを. 2.日韓家電企業のインド市場進出. 製造している.そして東芝とパナソニックの場. 日本企業がインドに進出したのは 1960 年代. 合,進出初期には乾電池や蛍光灯などを製造し,. 前半からで,韓国企業と比べるとかなり早い時. 1990 年代後半から本格的に家電分野に進出し. 期からインド現地で経営を行っている.表 2 は. たことが調査から分かった.日本企業はインド. 日韓家電企業のインド市場への進出動向を年度. 市場に韓国企業より進出が早いだけではなく,. ベースで単純比較したものである.この表から. ブランド認知度も韓国企業より高い.表 3 のブ. 日韓家電企業のインドにおけるビジネス活動の. ランド国籍に関する認知度・好意度をみるとそ. 詳細を明らかにすることは難しいが,韓国企業. の差が分かる.. が後発者として参入したことは確認できる.. しかしながら日本企業の場合,小規模の投資. 日本企業は 1990 年代前半からインド家電市. が行われたので利益をあまり出せなかった.ソ.
(6) 32. 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 2 号(2011 年 8 月). (210). 表 2 日韓家電・電機メーカーのインド進出状況 ʼ61 ~’65. ʼ65 ~’70. ʼ71 ~’75. ʼ76 ~’80. ʼ81 ~’85. ʼ86 ~’90. ʼ91 ~’95. ʼ96 ~’00. ʼ01 ~’05. ʼ06 ~’08. 日立 東芝 パナソニック 三洋 シャープ 富士通 ソニー 日本ビクター キャノン サムスン電子 LG 電子 出所:日本企業 は『海外企業進出総覧』東洋経済新聞社,1975 年,1979 年,1980 年~2009 年版 を 参考 に,韓国企業 は 広報 資料とインタビュー内容をもとに筆者作成 :従業員数,資本金の項目の数字が明確である場合 :家電及び電気機器を扱ってない時期. 表 3 ブランド国籍に関する認知度・好意度 (単位 %). 認知度. 好意度. 洗濯機. 冷蔵庫. エアコン. 電子レンジ. 掃除機. インドブランド. 89. 93. 90. 87. 84. 日系ブランド. 62. 64. 68. 60. 61. 欧米ブランド. 43. 49. 45. 46. 44. 韓国ブランド. 39. 43. 43. 42. 32. インドブランド. 68. 71. 68. 68. 66. 日系ブランド. 32. 35. 37. 31. 37. 欧米ブランド. 16. 13. 22. 19. 17. 韓国ブランド. 14. 12. 13. 17. 11. ※認知度は品目毎にその国のブランドの「存在を知っている」と回答した対象者の割合,好意度は「好感が持てるブランドの ひとつ」と回答した対象者の割合(個別ブランドに対する認知度・好意度ではない) 出所:社団法人日本電機工業会,『電機』,2006 年 5 月. ニーは 2007 年に生産ラインを廃止し,販売と. 一方,韓国企業の場合,インド家電市場の市. 管理分野の社員だけを残しインド市場から一部. 場シェアを示した表 4 に見るように家電の各品. 撤退したが,最近再投資をはじめている.他の. 目で上位にランクインしている.. 日本企業もインド市場に対する以前の考え方を. インドの家電市場で韓国企業の市場シェアが. 変え,既存の戦略を改めて本格的な市場参入を. 高いので,ブランドの国籍を考えないで調べた. 目論んでいる状況である.. 個別ブランド認知度(表 5)と,個別ブランド.
(7) サムスン電子のインド市場戦略(曺). (211). 33. 表 4 インド家電市場の市場シェア(2006 年) (単位 %) 冷蔵庫. 順位. 洗濯機. エアコン. カラーテレビ. 会社名. 占有率. 会社名. 占有率. 会社名. 占有率. 会社名. 占有率. 1. LG 電子. 29.4. LG 電子. 30.6. LG 電子. 32.0. LG 電子. 26.2. 2. ウォールプール. 24.9. サムスン電子. 16.4. サムスン電子. 20.6. サムスン電子. 17.1. 3. サムスン電子. 17.2. ウォールプール. 15.9. Voltas **. 9.0. ソニー *. 10.3. 4. ビデオコン **. 6.0. ビデオコン **. 9.6. ビデオコン **. 6.5. オニダ **. 8.9. 5. エレクトロルクス. 5.1. オニダ **. 4.6. オニダ **. 5.4. ビデオコン **. 7.0. 6. ハイアール. 1.0. エレクトロルクス. 2.9. エレクトロルクス. 4.6. フィリップス. 6.3. 7. Voltas**. 0.5. ハイアール. 1.0. 日立 *. 2.9. シャープ *. 1.4. 8. -. -. -. -. ハイアール. 0.8. パナソニック *. 0.8. 網かけ:サムスン電子,*:日本企業,**:インド企業 出所:Chindia Journal 2008. 1.. 表 5 個別ブランド認知度 洗濯機. 冷蔵庫. エアコン. 電子レンジ. 掃除機 Eureka(印). 1位. Godrej(印). LG(韓). LG(韓). LG(韓). 2位. LG(韓). Godrej(印). Samsung(韓). Samsung(韓). LG(韓). 3位. Videocon(印). Whirlpool(米). Voltas(印). Whirlpool(米). BPL(印). 4位. Whirlpool(米). Samsung(韓). Videocon(印). Kenstar(印). Forbes(印). 5位. Samsung(韓). Videocon(印). Hitachi(日). National(日). Hitachi(日). ※認知度はブランド毎に「名前を知っている」と回答した対象者の割合 . 表 6 個別ブランド好意度 洗濯機. 冷蔵庫. エアコン. 電子レンジ. 掃除機. 1位. LG(韓). LG(韓). LG(韓). LG(韓). Eureka(印). 2位. Whirlpool(米). Whirlpool(米). Samsung(韓). Samsung(韓). LG(韓). 3位. Videocon(印). Godrej(印). Carrier(米). Whirlpool(米). BPL(印). 4位. Samsung(韓). Samsung(韓). Videocon(印). Kenstar(印). Forbes(印). 5位. Godrej(印). Electrolux(ス). Voltas(印). Hitachi(日). National(日). ※好意度はブランド毎に「好感が持てるブランドのひとつ」と回答した対象者の割合 出所:表 5・表 6 ともに社団法人日本電機工業会,『電機』,2006 年 5 月. 好意度(表 6)では,韓国メーカーが日本企業. 因として次のようなことが考えられる.日本の. より高い順位に位置している.すなわち,イン. 企業はインドで自社製品の宣伝広告に十分な資. ドの消費者は,ソニーが日本のメーカーである. 源を投入していない.中国企業の場合はその製. ことははっきり認知している.しかし,サムス. 品に対して消費者が韓国製品より品質がよくな. ン電子は知っていても,それが韓国企業である. いと思う.この二つの要因も,インド家電市場. ことはほとんどの消費者が知らないということ. における韓国企業の製品の人気の一助となって. である.. いると考えられる.韓国製品はインドの消費者. 韓国企業がインド市場で優位に立っている要. に,インド国内の製品価格で高価格の外国製品.
(8) 34. (212). 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 2 号(2011 年 8 月). を買うような気にさせる製品と価格の両面で差. な拠点となっている.チェンナイ工場を完成さ. 別化を実現している.サムスン電子は,洗濯機,. せたことで,相対的に弱かった南部市場に浸透. エアコン,カラーテレビの三つの品目で 2 位の. していくことも容易になったと考えられる.そ. シェアを取っている.. のためにインドの生産工場で 2007 年から次世 代の液晶モニタと液晶テレビが生産できるよう. 3.サムスン電子インド. にするための工場設備を拡大させた.ノイダ工. サムスン電子は 1995 年に合弁企業の形でイ. 場では携帯電話,テレビ,生活家電を,チェン. ンド に 初進出 を 果たした.出資比率は,サム. ナイ工場では最新型の液晶テレビ,洗濯機,エ. ス ン 電 子 が 51%,Venugopal Dhoot of the. アコンを中心に生産を行っている.2006 年に. Videocon の グ ループ 会社 の RCSPL が 49% を. ハリアナ州グルガーオン市に中国,ブラジル,. 出資 し た.1995 年当時 イ ン ド で は 外国資本. メキシコに次ぐ 4 番目の携帯電話工場を設立し. 100% に よ る 企業設立 が 認 め ら れ て い な かっ. た.年間 100 万台が生産できる規模のこの工場. た.当時のインド政府は外資系企業のインド進. は,現地生産・販売体制 を 構築 し,毎年 20%. 出に対して冷ややかな態度で一貫し,日本のソ. ずつ成長しているインド携帯電話市場に対応す. ニー以外に 100% 外国資本で設立された会社は. るために設立している.. なかった.サムスン電子は合弁の形で進出した. インドのノイダ工場は,全世界のサムスン電. ことを利用して,市場探索と流通網の共有がで. 子工場の中で,最も高い生産性を発揮してい. きると期待していた.. る.品質及び生産性の向上とコスト削減のた. 1998 年に,サムスン電子は合弁相手のイン. め,従業員の提案制度を積極的に利用して,大. ド会社の出資分 26% を買い取り,インドでの. きな効果を得ている.年間約 6 万件もある提案. 経営に本腰を入れ始める.さらに 2002 年には,. は,会社から認められると 500 ルピーから 2 万. 残りの 23% まで買い取りインド子会社は 100%. ルピー(約 4 万円)まで賞金がもらえる.他の. の 単独出資 の 形態 と なった.2000 年 に は,カ. 海外現地生産工場より生産性が高いことが認め. ラーテレビを生産するための R&D センターも. られ,2004 年から 2006 年の間 3 年連続で,本. 7). 設立した .. 社 か ら 製造価値革新賞(Manufacturing Value. ⑴ 現地の生産工場. Innovation Award)を受賞している.2006 年. サムスン電子インドは,インド国内のノイダ. にはノイダ工場のベンチマーキングのために,. とチェンナイ地域の 2 箇所に生産拠点を持って. ベトナム,メキシコ,タイ,マレーシア,ハン. いる.サムスン電子は,インドに進出した年の. ガリーのサムスン電子のエンジニア 56 人がカ. 1995 年に約 4 千万ドルを投資して,インドの. ラーテレビ工場を訪問している.反対に,イン. ノイダ地域に 3 万 6 千坪の大規模な生産工場を. ド子会社のエンジニア 10 人が,他の工場の生. 設立している(図 2 を参照) .. 産性を上げるために派遣されたこともある.韓. 2007 年に南部チェンナイの 32 万 2000 m2 敷. 国本社にはインド出身のエンジニア 120 人が勤. 地 に 3 千万 ド ル を 投入 し,年間 150 万台 の カ. 務しているし,250 人は短期プロジェクト遂行. ラーテレビが生産できる工場を設立した.ノイ. のため勤務している.. ダ工場とチェンナイ工場はサムスン電子がイン. ⑵ 西アジアの地域の戦略的拠点. ドのテレビ市場でシェアを伸ばすための戦略的. サムスン電子は,1995 年からインドを会社 のグローバルビジネスを牽引する地域として位. . 7)Choe & Lee[2008]p. 49.. 置づけている.インドを,周辺国のスリランカ, パキスタン,バングラデシュなどの西アジア地.
(9) サムスン電子のインド市場戦略(曺). ࠕࠫࠕ✚. (213). 35. ࡁࠗ࠳╙1Ꮏ႐. 2004ᐕ1⸳┙ ࠗࡦ࠼߮ ࠕࠫࠕ࿖✚. 1995ᐕ8⸳┙ ࠞTV (ᐕ150ਁบ)㧘 ಄⬿ᐶ㧘ࠛࠕࠦࡦ↢↥ ࠾ࡘ࠺. ࠣ࡞ࠟࠝࡦ ࡁࠗ࠳. ៤Ꮺ㔚Ꮏ႐ 2006ᐕ3⸳┙ ᐕ㑆100ਁบ↢↥. ࡓࡦࡃࠗ ࠴ࠚࡦ࠽ࠗ╙2Ꮏ႐. ࡃࡦࠟࡠ࡞⎇ⓥᚲ. ࡃࡦࠟࡠ࡞. 1996ᐕ2⸳┙ S/W㐿⊒㧘ᛛⴚᡰេ. ࠴ࠚࡦ࠽ࠗ. 2007ᐕ11⸳┙ ࠞTV(ᐕ150ਁบ)㧘 ࡕ࠾࠲㧘⊕‛ኅ㔚㧘 ៤Ꮺ㔚↢↥ S/W㐿⊒㧘ᛛⴚᡰេ. ・西南アジア総括(地域別本社,ニューデリーに所在) ・SIEL-P(Samsung India Electronics of Production Ltd.):生産子会社,ブラデーシュ州のノイダ(Noida) ・SIEL-S(Samsung India Electronics Ltd.):販売会社,ブラデーシュ州のノイダ(Noida) ・STI(Samsung Telecommunications India Private Ltd.):生産・販売複合子会社,ハリアナ州(Haryana) 資料:サムスン電子公開資料を基に筆者作成. 図 2 サムスン電子インドの現況. 域に商品供給を行う地域拠点として期待してい. 2 工場を完成させたことで,インド全体でテレ. る.以来会社はインドを六つの主要戦略市場の. ビの生産能力を年間 300 万台に増やし,インド. 一つとして,ニューデリーに地域別本社の西南. 及び周辺西アジア諸国の新興市場の需要に対応. アジア総括を設立した.2004 年に西アジア総. している.. 括を新設し,西アジア子会社の総括に格上げし. このようにインドはサムスン電子内で,人材. た.2006 年には総括代表を副社長から社長ク. プール,部品調達,R&D,製造 に お け る 中心. ラスの人に任せる人事を行い,サムスン電子の. 地として位置づけられ,チェンナイ工場設立後. 社内におけるインド市場への重要度を高めた.. その重要度はもっと高くなっている.会社はイ. 西アジアの家電市場の規模を金額で換算する. ンドから第 3 国に製品を輸出するために必要な. と 22 億ドルで,これはグローバル市場の 2%. 人材をインドで発掘し育成している.またイン. を占めている.普及型の製品が需要のほとんど. ドをグローバル部品調達先の中心地として見な. であるが,インド同様に西アジア地域にも家電. し,現地部品業者を対象にした部品生産トレー. 製品の普及率が高くないので市場としての潜在. ニングプログラムを用いて,サムスン電子工場. 性はとても大きい.この地域の家電市場の成長. の品質管理システムと製造工程に関する現場教. 率は約 10% 前後で,インド市場並みの高い成. 育を実施している.. 長が期待できる.サムスン電子はチェンナイ第.
(10) 36. 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 2 号(2011 年 8 月). (214). 表 7 インドの 2009―2010 会計年度 所得分布展望 予想世帯数(千世帯). 所得層別世帯割合(%). 区分. 年間所得 (千ルピー). 全体. 都市部. 農村部. 全体. 都市部. 農村部. 貧困層. 120 未満. 114,394. 18,049. 96,345. 51.5. 26.1. 63.1. 上昇 願望層. 120~250. 75,304. 29,249. 46,055. 33.9. 42.3. 30.2. 中産層. 250~1,000. 28,441. 18,942. 9,499. 12.8. 27.4. 6.2. 富裕層. 1,000 以上. 3,806. 2,963. 846. 1.7. 4.3. 0.6. 221,946. 69,202. 152,744. 100.0. 100.0. 100.0. 総 計. 注:1 ドル= 50.3 ルピー(2009 年 4 月 1 日現在),年間所得は 2004─05 年度物価基準実質所得 資料:インド国家応用経済研究所(NCAER),India Retail Report 出所:KOTRA,Global Business Report 09─014,2009.05.20. ⑶ 研究所. 4.サムスン電子インドのマーケティング. サムスン電子は 1996 年にバンガロールに研. サムスン電子がインド家電市場に進出した初. 究所を設立した. インドは成長の可能性が高く,. 期には,後発者の弱点を克服するために,外国. 良質な人的資源にも恵まれていることから,イ. の企業が積極的に進出していない地域を中心と. ンドの研究所は会社の研究開発の拠点として位. して,低価格の洗濯機,冷蔵庫,エアコン,電. 置づけられている.会社はこの研究所がインド. 子レンジなどの幅ひろい商品群を販売してい. 市場を含む周辺の新興市場での成功を牽引して. た.当時のインドは経済が発展するにつれて市. いくことを期待している.. 場も大きく成長すると期待されていたので,サ. 2003 年にはインドのノイダにソフトウェア. ムスン電子は 1998 年まで低価格製品を中心と. セ ン ターが 設立 さ れ た.2002 年 15 人 の 研究. した販売に取り組んだ.. 員 で 出発 し た SISC(Samsung India Software. 2004 年末からサムスン電子は,低価格帯市. Center)は,インド市場の急成長により,2007. 場へ向けた既存の戦略を,高価格帯市場へ向け. 年には研究員が 300 人に増えている.SISC は,. る新たな戦略に変えた.戦略変更の理由として,. サムスン電子デジタルメディア(DM)総括が. 低価格帯の市場規模の小ささと,サムスン電子. 活用する 11 の海外研究所の中で一番規模の大. のグローバル戦略との不一致,この二つが考え. きい研究所としてその地位が上がっている.こ. られる.インドでは貧困問題の解決がなかなか. の研究所では,デジタルカムコーダー,DVD. 進まず,所得格差と社会の階層構造は持続する. プ レーヤー,MP3 プ レーヤー,ノート パ ソ コ. と判断された.中間層はなかなか伸びず,会社. ンなどに必要なソフトウェアの開発を行うほ. は戦略を変えざるを得なくなったであろう.年. か,液晶テレビの新モデルの開発にも参加して. 収 5 千ドルを超える富裕層の人口は約 3% ほど. いる.SISC は,サムスン電子がグローバル市. で,世帯数で計算すると表 7 に見るように約. 場を対象に発売する様々な製品のソフトウェア. 1.7% で あ る.サ ム ス ン 電子 は こ の 上位 の 3%. 技術の開発で中核的な存在として機能する.こ. の市場に,家電,携帯電話など高価格帯の製品. のソフトウェアセンターとは別途に,1996 年. を中心に販売することを決めた.. にインド南部バンガロールに通信技術のほか. サムスン電子は本社主導でグローバルに統一. 多様な分野の研究開発を行う SISO(Samsung. したマーケティング戦略を立て,各子会社もそ. India Software Operation)も設立している.. の方針に従うようにした.インド子会社も「プ レミアム戦略」に基づき,中長期的観点から高.
(11) サムスン電子のインド市場戦略(曺). (215). 表 8 インドの年度別企業型小売業市場規模及び割合の変化推移 区分. 2004. 2005. 2006. 2007. 2008*. 37. (単位:千万ルピー). 2009**. 2010**. 企業型. 28,000. 35,600. 47,500. 66,500. 96,500. 140,000. 203,000. 全体小売業. 930,000. 980,500. 1,036,000. 1,098,000. 1,164,000. 1,234,000. 1,308,000. 企業型割合. 3.0%. 3.6%. 4.6%. 6.1%. 8.3%. 11.3%. 15.5%. 注:1)*は推定値,**は予想値 2)市場規模は各年度の商品バスケットを 2004 年物価基準で換算したもので,実際の市場規模はこれより大きい 3)1 ドル= 50.3 ルピー(2009 年 4 月 1 日現在) 資料:India Retail Report 2009, Images F&R Research 出所:KOTRA, Global Business Report 09─014,2009.05.20. 級メーカーとして消費者に認知されたほうが,. 達の問題は,一番目に挙げた原因と関係が深い.. 将来の収益につながると判断した.こうして. なぜならば,小規模の町の数だけ地域別に小規. 2004 年末から低価格製品を市場から徐々にな. 模の伝統的小売店が散在しているためである.. くし,ハイテック製品を中心に生産・販売を始. インドは世界で最も流通の密集度が高い国と. めた.. して評価されているけれど,インドの小売業の. ⑴ 流通戦略. 94.1% が伝統的な零細小売商で,伝統市場を中. ①インドの流通事情. 心とした古い流通構造を持っている.2006 年. インドは,道路,鉄道などの交通インフラの. 基準で各国の企業型小売業の割合をみると,ア. 整備の面で,他の新興国と比べても,格段に遅. メリカ 85%,イギリス,フランス,ドイツな. れている.特に,鉄道網が発達していないため,. どが 80% であるのに比べ,インドはわずか 4%. 物流は陸路に依存せざるを得ない状況である.. でとても低い水準であることがわかる.インド. インドに進出する企業にとって一番優先すべき. で企業型小売業が登場したのは 1990 年代後半. 課題は,流通網の構築であろう.ところがイン. からのことであり,2000 年代に入ってから本. ドで流通網を構築することは簡単ではなく,多. 格的に成長し始めている.. くの多国籍企業が流通網構築に失敗している.. 次にインドの流通チャネルに関して説明す. 人口の少ない小規模の町を中心に国が発達して. る.インドの流通チャネルはオフラインとオン. いることと,企業型小売業があまり発達してい. ラインに分けることができる.しかしながら,. ないことが原因として挙げられる.約 627,000. インドのオンラインの流通チャネルは,2007. の町が,およそ 3,200,000 km2 の広い国土に点々. 年から構築され始めたばかりで,まだインフラ. と散在しているうえ,人口 11 億人のなか約 2. 整備も整えていない初期段階といえる状況であ. 億人が僻地に住んでいる.人口が 5,000 人以下. る.したがい,ここではオフラインの流通チャ. 8). の町が 13,113 個もある .表 7 の都市部と農村. ネルを中心に説明することにする.オフライン. 部の所得分布を見ると,富裕層は都市部に貧困. は 伝統市場(Unorganized Market)と 新小売. 層は農村部に集中しているけれど,インド全土. 市場(Organized Market)に 区分 さ れ る.伝. の町がカバーできる流通網を構築することは難. 統市場はインド全域に約 1 万 5 千箇所あると推. しいと考えられる.. 定され,インド小売業の 97% を占めている(表. 二番目の原因である,企業型小売企業の未発. 8 を参照). 経済成長率が高いにもかかわらず,. . 8)Choe & Lee[2008]pp. 47─48.. 企業型の小売店数がここまで少ない背景には, 外資系企業の小売業への進出を制限する,外資.
(12) 38. (216). 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 2 号(2011 年 8 月). 規制の問題がある.小売業の場合外国資本の出. クとなっている.2004 年までサムスン電子の. 資上限が 26% に決まっており,規制緩和の法. 販売チャネルも,他のメーカーと大きく異なる. 案は 地元企業労組の抵抗で国会審議のめども. ものではなかった.インドは国土が広く地域別. 立っていない状況であるという9).. の市場の特徴が強いので直営店を構築すること. ②サムスン電子の流通戦略. は難しい.これが理由で,各企業はディーラー. 「選択 と 集中」が,他の海外市場同様に,イ. 体制で販売網を構築している.ほとんどのメー. ンドでサムスン電子が行っている流通戦略であ. カーが小規模の量販店を通じて製品販売を行う. る.インドは国土面積が広いため全地域をカ. しか他に方法はなく,サムスン電子も同じ方法. バーできる流通網を構築することは難しい.イ. を使っていた(図 3 の写真参照).しかし,シェ. ンドは都市を 1 級から 3 級まで分類している.. ア拡大のためには他社と違う手法を使う必要性. 1 級都市は首都のニューデリーをはじめ,ムン. があった.当然既存のディーラー体制の販売方. バイ,チェンナイ,コルカタなど 9 大都市が入. 法に依存するだけではシェア拡大には限界が. る.2 級都市は 1 級都市よりは所得水準が下で,. あった.なぜならば,量販店はサムスン電子の. 中間層以上の生活水準を見せている中・大型都. 製品だけを販売しているわけではないからであ. 市で 30 余都市が含まれる.. る.ディーラーは販売員を派遣したり専用の陳. サムスン電子は,戦略的に 1 級都市の 9 大都. 列台を設けたりする他社メーカーの製品を中心. 市を基点とする流通網を構築した.9 大都市の. に販売を行うという問題点があった.またサム. 特徴は,商業都市として投資魅力度が高い地域. スン電子の製品は,他社製品に比べて割高感が. である.ムンバイとチェンナイには港湾施設が. あるので,価格の面でも不利な立場におかれて. あって 物流 に 最適な地域でもある.各都市の. いた.問題を解決するためにサムスン電子は,. 一人当たり GDP もインドの平均を大きく上回. 既存の流通網は維持したまま自社の製品に直接. る地域である.インドの平均 GDP が 17,978 ル. 触れることができる体験センターを設立し独自. ピーであるのに対して,首都のニューデリーは. の販売網も一緒に構築し始めた.「デジタルア. 38,864 ルピーでインド平均の 2 倍水準であり,. ドベンチャー」を 2002 年にデリーに,そして. パ ン ジャーブ は 48,974 ル ピー,グ ジャラート. 2003 年にはムンバイにオープンし運営してい. は 21,276 ル ピー,ア ン ド ラ・プ ラ デ シュ州 は. る.他にサムスン電子の商品のみを販売するブ. 17,642 ル ピーな ど,9 大都市 の 平均 GDP は イ. ランドショップ「Samsung Digital Home」は,. ンドの平均と同じかそれより高い水準である.. 消費者が製品に直接触れながら購入ができるよ. サムスン電子はこのように,インドでも購買力. うにして高級品イメージ作りにも寄与している. のより高い地域に集中して流通網を構築するこ. (図 3 の下の右の写真を参照).. とで,シェア拡大を狙っている.約 8,500 の小. この他に「Samsung Digital World」が,サー. 売店舗を人口 10 万人以上の都市と町に拠点と. ビス,販売,教育,展示が一箇所で全部できる. して置いている.2007 年まで 115 箇所であっ. 新たなショッピング文化をインドに紹介するこ. たサムスン電子のブランドショップを 2008 年. とを目的に開設された.結果サムスン電子は,. には 2 級都市を中心に新規ショップをオープン. インド主要企業の小売業占有率の順位で 17 位. して 200 箇所まで増やした.. にランクインしている(表 9 参照).このよう. インドは説明したとおり小売業の未発達の問. な努力が功を奏し,サムスン電子のインド市場. 題がチャネル網を構築する各メーカー側のネッ. でのプレミアム戦略はうまく行き,結果ブラ. . 9)Chindia Journal[2008]pp. 38─40.. ンド認知度の向上のほか,製品供給先と現金取 引ができるようになった.サムスン電子の製品.
(13) サムスン電子のインド市場戦略(曺). 町中の伝統的な小売店(Unorganized Market) 資料:インターネット. インドの家電量販店 資料:筆者撮影,2007.9 インド,チェンナイ. (217). 39. 2008 年週末のエンビアンス・モール(Organized Market) 資料:KOTRA. インドの家電量販店 資料:サムスン電子ホームページ. 図 3 インドの小売店と家電量販店. が高級製品として消費者の間で認知されるよう. 取引することは企業側のリスクになる.サムス. になり, 「現金販売(Cash and Carry) 」方式で. ン電子がインドで現金販売方式を通じた取引が. の取引が可能になった.インドは国土の面積 が広いため,例えば北のノイダ工場から南東 地域のチェンナイまでの物流に 9 日もかかるの で,輸送中のリスクもコストも高い.そうす ると,先進諸国で主に使われる VMI(Vendor 10) Managed Inventory) 方法を使ってインドで. . 10)VMI(Vendor Managed Inventory) は 在 庫を減らす手段の一つとして供給者主導型在庫管. . 理を意味する.一般的な在庫管理では,製造企 業の倉庫にある部品在庫は製造企業のものとして 見なす.当然その管理と発注も製造会社がするが, VMI では部品供給者の Vendor が部品を製造企業 に納入した後も部品を自分のものとして管理する ので,製造企業はその部品に対する在庫管理責任 がなく,倉庫においてある部品を必要な分だけ使 い,その分の代金を供給者に払えば良い.しかし, インドでは各州別に商取引で製品の譲渡が行われ た時点を適用する商法の基準が異なり,VMI を適 用することは難しい..
(14) 40. (218). 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 2 号(2011 年 8 月). 表 9 インド主要企業の小売業占有率の順位 (食料・雑貨を除く). (単位:%). 順位. 企業名/年度. 2004. 2005. 2006. 1. LG Electronics India Ltd.. 0.4. 0.5. 0.5. 2. Titan Industries Ltd.. 0.4. 0.4. 0.4. 3. Bata India Ltd.. 0.3. 0.3. 0.3. 4. Raymond Ltd.. 0.3. 0.3. 0.3. 5. Shopper’s Stop Ltd.. 0.2. 0.2. 0.3. 6. Tribhovandas Bhimji Zaveri Delhi Pvt Ltd.. 0.2. 0.2. 0.2. 7. Life Style International Pvt Ltd.. 0.1. 0.2. 0.2. 8. Vishal Retail India Ltd.. 0.1. 0.1. 0.2. 9. Reebok India Pvt Ltd.. 0.2. 0.2. 0.2. 10. Arvined Barands Ltd.. 0.1. 0.1. 0.2. 11. Trent Ltd.. 0.1. 0.1. 0.2. 12. Apollo Hospitals Enterpries Ltd.. 0.4. 0.2. 0.2. 13. Vevek & Co Ltd.. 0.1. 0.1. 0.1. 14. Nike India Pvt Ltd.. 0.1. 0.1. 0.1. 15. Aditya Birala Nuvo Ltd.. ─. 0.1. 0.1. 16. ASC Enterprises Ltd.. 0.1. 0.2. 0.3. 17. Samsung India Electronics Ltd.. 0.1. 0.1. 0.2. その他. 96.6. 96.3. 96.1. 合 計. 100.0. 100.0. 100.0. 資料:Euromonitor International(2007)“Country Market Insight Retailing-India” 出所:KOTRA,Global Business Report 09─014,2009.05.20 から再引用. できるようになったのは,ブランド認知度と製. 産している.インドで生産されている全製品の. 品に対する信頼度が高くなったからであろう.. なかで,ハイエンド製品の割合は今後徐々に増. ⑵ 製 品. やしていく計画である.. サムスン電子はインドで販売している製品の. ①テレビ. 調達のために主に二つの方法を使っている.プ. インドのテレビ市場規模の成長率は,ブラン. ラズマテレビのような高級製品は完成品を輸入. ウン管テレビを含むカラーテレビを中心に毎年. 販売し,カラーテレビと間冷式冷蔵庫のような. 10% 以上である.薄型テレビがテレビ市場に. 商品は現地のノイダ工場で生産・販売してい. 占める割合も急速に拡大している.2009 年の. る.大きい工場があるにもかかわらず高級品を. テレビ出荷台数約 1 千 7 百万台のうち,9 割以. 輸入販売している理由としては,生産技術と設. 上がブラウン管テレビであった.表 10 に見る. 備のレベルがまだ高くないことと,高級品の市. ように消費を牽引する富裕層は約 4 千万世帯で. 場規模がまだ小さいことが考えられる.冷蔵庫. 薄型テレビを置く家は限られている.薄型テレ. は間冷式に需要が伸びると見て 2004 年から間. ビ分野は販売台数の面で,サムスン電子が他社. 冷式冷蔵庫を中心に生産を行っている.カラー. より優位に立っている.サムスン電子はこれを. テレビは曲面ブラウン管テレビの生産を中断. 梃子としてカムコーダー,MP3 のようなデジ. し,平面ブラウン管テレビと液晶テレビを中心. タル商品の需要を掘り起こし,関連製品の販売. にデジタル技術を搭載した高付加価値商品を生. 拡大に力を注いでいる..
(15) サムスン電子のインド市場戦略(曺). (219). 41. 表 10 サムスン電子インド市場テレビ占有率(売上高基準/GfK) カラーテレビ全体 (曲面ブラウン管 TV は除く) 液晶テレビ プラズマテレビ (42 インチ以上). 2007 年上半期. 2007 年下半期. 2008 年上半期. 2008 年 7 月. 23.4%. 26.1%. 25.9%. 28.6%. 38.2%. 42.9%. 39.4%. 41.4%. 32.8%. 24.3%. 24.7%. 26.5%. 資料:KOTRA. 2006 年にサムスン電子は,曲面ブラウン管. 販売している.. テレビを除くカラーテレビ市場で売上高 1 位を. 2008 年に入ってからは,2007 年に完成され. 占めた.液晶テレビ部門ではインドでこの市場. たチェンナイ第 2 工場が本格稼動することに. が本格的に形成され始めた 2006 年から 1 位に. なったので,この工場で生産されているカラー. なっている.2006 年から曲面ブラウン管テレ. テレビの販路開拓のために販売営業組織を拡充. ビの販売を中断させ,平面ブラウン管テレビ,. した.チェンナイ第 2 工場の生産能力は,平面. 液晶テレビとプラズマテレビを中心にマーケ. ブラウン管テレビが年間 150 万台と液晶テレビ. ティングを行い,プレミアム製品販売を展開し. が 30 万台である.. ている.. ②携帯電話. サムスン電子ブランドショップと大型販売店. サムスン電子のグローバルマーケティングの. など,およそ 5 千店舗を液晶テレビとプラズマ. 戦略であるプレミアム戦略は,標準化された高. テレビを中心とした高級売場に変え,なかでも. 価格帯の製品を世界に販売することである.イ. ブラウン管テレビのプレミアム製品であるスリ. ンド市場でもこの戦略は変わらない.しかし,. ムフィットテレビ(図 4 の右の写真)の売場面. プレミアム戦略で高価格帯の携帯電話の販売に. 積を広くすることで高価格戦略を持続的に推進. 固執していたサムスン電子が,インドでは低価. している.. 格携帯電話市場に参入している.理由は,先進. 製品差別化の面では,インド市場に特化させ. 国の需要の伸び悩みである.先進国の携帯電話. たフラットテレビで競合他社との価格差別化と. 市場は規模も成長率も停滞気味であるが,低価. 製品差別化を同時に図っている.スリムフィッ. 格携帯電話を中心に売れている新興国の市場は. トテレビのラインアップを増やすことで,曲面. 今後も急成長すると予想されているので,この. ブランウン管テレビとの価格差を縮めることに. マーケットを無視することは難しい.低価格帯. 成功した.ラインアップを増やしたことで生産. の携帯電話市場分野で市場シェアが取れなかっ. 単価を下げることができ,現地の事情に合わせ. たことが響き,2006 年には世界の携帯電話市. た値下げを実現することができた.現地事情に. 場でシェアを落とす結果となった.逆に競合他. 合わせた価格設定の努力だけではなく,現地の. 社は新興市場の需要拡大で市場シェアを伸ばし. 事情に合わせた製品開発のためにも努力した.. て い た.2006 年 の 携帯電話 メーカー別 の 平均. 生活騒音が高いインドの地域特性を顧慮し,テ. 販売価格は,サムスン電子 165 ドル,LG 電子. レビスピーカーの出力を高くした.またテレ. 146 ドル,モトローラ 145 ドル,ノキア 119 ド. ビを視聴するとき消費者が良く使うプログラム. ルであった.. をリモコンの短縮キーで操作できるイージー. GSM 方式 と CDMA 方式 が 共存 す る イ ン ド. ビュー機能を搭載して現地密着型製品を開発・. 携帯電話 の 市場規模 は 2005 年 の 2 千 7 百万台.
(16) 42. (220). 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 2 号(2011 年 8 月). LCD テレビ. 平面ブラウン管テレビ. サムスン電子 F8 シリーズ液晶テレビ 出所:サムスン電子ホームページ. 図 4 サムスン電子のテレビ(インドで生産販売). の規模から 2006 年には 3 千 2 百万台に大き. は,同じ年にインドの携帯電話市場で 4 千万台. くなっている.インドでは GSM 方式の携帯電. を販売しシェア 70% をとった 1 位のノキアに. 話を中心に市場が成長している.サムスン電子. 比べると,その差は歴然である.インドでは. は GSM 方式の携帯電話の流通網を拡大し,差. 50~60 ドル台の低価格フォンと 130 ドル台の. 別化された高級製品を中心に販売している.イ. 中価格フォンが主に売れている.2008 年にイ. ン ド の 携帯電話市場 の 年平均成長率 は 約 10%. ンド企業スパイス社が基本的な機能だけに絞っ. で,月に 500 万~600 万人の人が新規に加入す. た携帯電話を 20 ドルという破格的な価格で発. るほど,新興市場のなかでも高い成長率を見せ. 売した.携帯電話に手が届かなかった庶民を対. ている.インドの携帯電話市場でサムスン電子. 象に開発した製品であった.他にも視覚障害者. は 1 位のノキアと,そのほかに LG 電子,新興. のための,10 ドルもしない音声電話も開発し. 勢力であるモトローラとソニーエリクソンと. ている.世界の携帯電話市場で 40 ドル以下の. 競争している.サムスン電子が 2006 年に世界. 低価格帯の携帯電話は 20% を占めているので,. の携帯電話市場でシェアを落としたときにイン. 2009 年にサムスン電子はインドを含む新興市. ド市場では 450 万台を販売した.この販売実績. 場の需要を見込んで,必要な機能だけに絞った.
(17) サムスン電子のインド市場戦略(曺). (221). 43. Crest Guru(グローバルネームは Crest Solar) は 8 万ルクスを基準に 1 時間充電すると 5~ 10 分間音声通話ができる。. 資料:サムスン電子ホームページ. 図 5 携帯電話「Guru100」. 49 ドルの携帯電話「Guru100」を発売した(図. 続けているが,マスメディアだけに頼った広告. 5 を参照) .インドの場合,日照量は豊富であ. マーケティングでこのような成長率を維持し続. る反面電力が不足しているので,太陽光だけで. けることは難しいと判断した(売上高 630 億ル. 携帯電話のバッテリーの充電が可能な「グルー. ピー(約 1 千 1 百 6 十億円,1 ルピー =1.48 円). フォン(Guru100) 」を 開発 し た の で あ る.現. 2010 年基準).2007 年に新たな広告及び広報戦. 地事情に合わせた地域特化型のこの商品は,晴. 略を発表し,全体広報予算 29 億 5000 万ルピー. れた日の正午(8 万ルクス)を基準に 1 時間充. (約 54 億円)のなかで半分を BTL11)に割り当. 電すると約 5 分~10 分間の音声通話ができる.. てることにした.インド国内 135 都市を巡回. 「Crest Guru」 (グローバルネーム Crest Solar). す る「 Samsung Dream Home Workshop」プ. はインド発売を始めに,各地域に合わせて機能. ロジェクトを立ち上げ,各都市の繁華街にあ. を変え,中近東,東南アジア,中南米,アフリ. る ショッピ ン グ モール,マ ル チ フ レック ス 劇. カ,西アジア地域の順に発売されている.. 場,コミュニケーションセンター,コールセン. ⑶ プロモーション. ターのような大型オフィスで,最新型の MP3. サムスン電子はマーケティング活動も基本的. プレーヤー,デジタルカメラ,カムコーダーの. には高級市場を狙ったプレミアム戦略を追求. 商品展示とイベントを実施し,消費者の関心を. している.例えばテレビの普及率が低いイン ドで,主にテレビを媒体としたテレビ CM で, 「技術の高いグローバル製品」のイメージ広告 を流している.しかし,インド消費者のニーズ が多様化していくにつれて,テレビ広告だけで シェアを伸ばしていくことには限界があった. テレビに頼っただけでは広告のメッセージを一 方的に伝えるだけで,実際に顧客と関係を持つ ためには他の広告媒体が必要となった.サムス ン電子インドの売上高は毎年約 20% の成長を. . 11)BTL(below the line)とはマーケティング チャネルで,直接的な SP(sales promotion)ツー ル,ま た は 価値拡大活動(value-up)で あ る,イ ベ ン ト,ス ポーツ ス ポ ン サーシップ,PR,DM, TM,PPL(product placement) ,CRM(customer relationship management),PRM(partner relationship management )のような直接的な活動 を意味するものでメディアを媒介しないプロモー ション(non-mass media promotion)で 販売支援, 流通支援,サンプリングのような対面コミュニケー ションを活用するものである..
(18) 44. (222). 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 2 号(2011 年 8 月). 引くための努力をしている.サムスングループ. いという.他の企業がほとんどの大会のスポン. の系列会社である広告会社「第一企画」がマー. サーになっていたため,サムスン電子は 2004. ケ ティン グ を 担 当 し,BTL 専 門 会 社 Shark. 年 に「The Samsung Cup Indo-Pak Series」を. Design,Cityneon と一緒にプロジェクトを推. 開催した.インド対パキスタン間のクリケット. 進している.このプロモーションの狙いは,消. 国家対抗戦のタイトルスポンサーをつとめ,ブ. 費者の販売意欲を掘り起こしたあと,これを. ランド認知度を上げる努力をしている.イン. ディーラーを通じてしっかりと購買までにこぎ. ド の テ レ ビ 保有世帯 の 80% の 6 千 5 百万世帯. つけることである.. がこの試合を視聴したほか,その他 13 カ国で. ⑷ 社会貢献活動とスポーツマーケティング. 5 千万世帯が試合を視聴したと集計された.試. サ ム ス ン・デ ジタル・ホープ・プログラム. 合開催で得た広告投資の効果は投資額の 4 倍で. (Samsung DigitAll Hope)は,インド,タイを. あったと内部では評価している.. はじめとする東南アジアの国々で,サムスン電. ⑸ 駐在員中心の現地経営. 子が 2003 年から行っているプログラムである.. サムスン電子は,インド子会社の各支店長と. このプログラムは,対象国の青少年とデジタル. 地域マネージャが独立的な意思決定ができるよ. 世界を分かち合うという趣旨で,デジタル技術. うに権限を与えている.同時に営業所(Sales. の体験とデジタル教育環境を助成してデジタル. Office)も 20 箇所から 47 箇所に増やしている.. 格差を縮める社会貢献活動である.サムスン電. このようにインド子会社がもっと大きい権限を. 子は,2003 年に約 60 万ドルをアジア 8 カ国に. 持つ,水平型の販売組織網を構築する狙いは,. ある 15 の公益・社会団体に支援したが,イン. 市場の要求に素早く対応することで,今までよ. ドではデリーに本部を置く NGO 団体に支援し. りもっと幅の広い消費者基盤を形成しようとす. 12). ている .. るためである.. サムスン電子はこのような社会貢献活動を通. サムスン電子インド子会社に韓国人駐在員は. じてインドにおけるサムスン電子のイメージ. 25 人で,全従業員の 1.7% を占めている(2008. アップを狙う. 「Rajiv Gandhi 財団」と連繋し. 年基準). 管理職は全員韓国人で,子会社の意. てインドの障害のある学生を支援する奨学事業. 思決定権も韓国人駐在員が持っている.工場を. も行っているが,この事業をやることでサムス. 管理する人だけがインド人である13).サムスン. ン電子の認知度は大きく上がったと内部では評. 電子のグローバル経営における組織構造は,中. 価している.. 央のコントロールが非常に強い本社集権的な特. 他にさまざまなイベントのスポンサーとス. 徴を持っていると知られている.韓国の本社が. ポーツ試合及びスポーツチームのスポンサーを. グローバルに高価格品のブランドイメージを構. 務めるスポーツマーケティングも行っている.. 築する戦略を立てており,それはインドでも同. インドでスポーツマーケティングを行う際に一. じで主な意思決定は韓国本社で行う.. 番効果のあるスポーツはクリケットである.ク リケットはインドの国民的スポーツで,大会の. Ⅲ まとめ. スポンサーになるとその投資効果はとても大き. 本稿では,インド市場におけるサムスン電子. . 12)Development Alternatives の Hope Incubator Project と National Centre for Promotion of Employment for Disabled People(NCPEDP) の Empowering Disabled People through Education and Employment が支援を受けた.. の現地戦略に関してマーケティング活動を中心 に事例分析を行った.分析からの考察として, 大きく二点を上げることができる.一つ目は, . 13)Choe & Lee[2008]p. 53..
(19) サムスン電子のインド市場戦略(曺). (223). 45. サムスン電子の本社のグローバルマーケティン. うな現地の事情に合わせて,サムスン電子は現. グの戦略の変化が,現地のマーケティング戦略. 地の流通事情に合わせてインドの伝統小売商の. に連動して現れている点である.二つ目は,本. ディーラー網を利用したり,自社の直営販売店. 社の権限が強い組織体制を持ちながらも,現地. を設けたりする方法で現地での販売網の構築を. 事情に合わせた現地化がうまく進んでいるとい. 行っていることがわかった.. う点である.. また,2004 年前後からサムスン電子のグロー. 2004 年からインド市場におけるサムスン電. バル市場におけるマーケティング戦略を「プレ. 子 の マーケ ティン グ 戦略 に 変化 が 見 ら れ た.. ミアムマーケティング戦略」に標準化させてい. 1998 年に初めて進出しているが,2004 年に既. るが,実際サムスン電子がインド市場で生産・. 存の低価格商品を主に生産・販売していた戦略. 販売を行っている商品には平面ブラウン管テレ. から「プレミアム戦略」に転換したことが分. ビも含まれている.インドでは,プラズマテレ. かった.このような既存戦略の転換が見られる. ビのような高級製品は完成品を輸入販売し,平. のは,2004 年頃に会社の海外での売上高が全. 面ブラウン管カラーテレビと間冷式冷蔵庫のよ. 体の 80% を超えたことが一つの要因であると. うな商品は現地のノイダ工場で生産・販売して. 考えられる.このときサムスン電子は競争力の. いる.しかし,例えば,サムスン電子ブラジル. あるグローバル企業として成長を成し遂げてお. の場合,インドと同じ新興国マーケットである. り,既存 の 量中心 の 成長 か ら,1993 年 の「新. にも係わらず,標準化されたプレミアム製品を. 経営宣言」のときから叫ばれてきた本当の意味. 現地で生産・販売している.このようにサムス. での質を中心とした企業としての成長ができた. ン電子は現地での商品の調達も各進出国の事情. といえる. この時期からサムスン電子は, グロー. に合わせて異なる方法を使っている.サムスン. バルに標準化した「プレミアム戦略」で高所得. 電子のグローバルマーケティング戦略は,全体. 者層をターゲットとして海外市場にのぞむ.こ. 的には本社の統制による「選択と集中」と「プ. れは 2004 年の世界市場におけるサムスン電子. レミアム戦略」で標準化されているが,一方で. の戦略の変化として表れており,本事例研究か. は特定の市場の事情に合わせた本社主導の現地. らも確認することができた.インド市場に進出. 化経営も行われていることが本稿の事例研究. した初期には, 後発者の弱点を克服するために,. から明らかになったと考えられる.従来の多国. 外国の企業が積極的に進出していない地域を中. 籍企業論からすると,多国籍企業において,グ. 心として,低価格の洗濯機,冷蔵庫, エアコン,. ローバ ル 拠点間 の「統合化」と「現地化」は. 電子レンジなどの幅ひろい商品群を販売してい. 経営管理上同時達成 が 難 し い と 主張 さ れ て き. たが,2004 年末からサムスン電子は,低価格. た( Chakravarthy&Perlmutter 1985, Bartlett. 帯市場へ向けた既存の戦略を,高価格帯市場へ. &Ghoshal 1990).し か し,サ ム ス ン 電子 は 本. 向ける新たな戦略に変えた.戦略変更の理由と. 社主導で現地化を行っていることが本研究の発. して,低価格帯の市場規模の小ささと,サムス. 見事実であるといえる.このことに関しては従. ン電子のグローバル戦略との不一致があったと. 来の国際経営の議論と交えてもっと一般化する. 考えられる.. 必要性があると考えられるので,今後の研究の. 二つ目の考察は,サムスン電子の現地化が進. 課題として挙げておきたい.. 出国の事情に合わせてうまく行われていると いうことである.インドではインドの小売業 の 94.1% が伝統的な零細小売商で,伝統市場を 中心とした古い流通構造を持っている.このよ. 参考文献 安積敏政「なぜ強い?韓国の競争力」 『月刊グロー.
(20) 46. (224). 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 2 号(2011 年 8 月). バ ル 経営』7 月号,社団法人日本在外企業協 会,2005 年. 尾崎眞・岡田千尋・鶴谷賢編『マーケティング─ 産業別アプローチ─』ナカニシヤ出版,2000 年. 曺斗燮・尹鍾彦『三星(サムスン)の技術能力構 築戦略─グローバル企業への技術学習プロセ ス』有斐閣,2005 年. 張秉煥「韓国電子企業の欧州市場戦略の特徴と事 例分析」『岡山学院大学・岡山短期大学紀要』 第 31 号,2008 年,pp. 9─20. 永井知美「韓国ライバル企業を追う②─存在感を 増す韓国グローバル企業 事例②サムスン電 子─」 『 TBR 産業経済論点』東レ経営研究所, No. 08─06,2008 年. Handerson, Rebecca M. and Kim B. Clark, “Architectural Innovation: The Reconfiguration of Existing Product Technologies and the Failure of Established Firms”, Administrative , pp. 9─30. Science Quarterly, Vol. 35(1990) 畑村洋太郎・吉川良三『危機の経営 サムスンを 世界一企業に変えた 3 つのイノベーション』 講談社,2009 年. バート レット & ゴ シャール,吉原英樹監訳 『地 球市場時代 の 企業戦略』日本経済新聞社, 1990 年.Bartlett & Ghoshal Managing Across Borders: The Transnational Solution, Harvard Business School, 1989. 福谷正信『日・中・台・韓企業の技術経営比較』,. 2008 年,中央経済社. Philip Anderson, Michael L. Tushman “Technological Discontinuities and Dominant Designs: A Cyclical Model of Technological Change”, Administrative Science Quarterly, Vol. 35(1990) , pp. 604─633. 社団法人日本電機工業会, 『電機』 ,2006 年 5 月 Tushman, Michael L. and Philip Anderson “Technological Discontinuities and Organizaitonal Environments”, Administrative Science Quarterly, Vol. 31(1986) , pp. 439─465. 茂垣広志『グローバル戦略経営』学文社,2001 年. 韓国語文献 KOTRA,Global Business Report 09─014, 2009.05.20 サムスン電子ホームページ,http://www.samsung. com/sec/. ジョン・グヒョン『韓国企業のグローバル経営』 ウィズダム・ハウス,2008 年. S. K. Choe & J. E. Lee「サムスン電子と LG 電子 の イ ン ド 進出戦略」ヨ ン セ 経営研究,第 45 巻第 1 号,2008 年,pp. 43─64. ハ・ボンジュン「世界一流ブランドサムスン電子 の 事例」 『マーケ ティン グ 管理研究』第 1 巻 第 1 号 2006 年,pp. 115─135. [チョ ヒジョン 横浜国立大学大学院国際社会 科学研究科博士課程後期] .
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図
関連したドキュメント
1970 年には「米の生産調整政策(=減反政策) 」が始まった。
前述のように,本稿では地方創生戦略の出発点を05年の地域再生法 5)
DX戦略 知財戦略 事業戦略 開発戦略
戦前期、碓氷国道が舗装整備。旧軽井沢、南が丘、南原、千ヶ滝地区などに別荘地形成(現在の別荘地エリアが形成) 昭和 17
①自宅の近所 ②赤羽駅周辺 ③王子駅周辺 ④田端駅周辺 ⑤駒込駅周辺 ⑥その他の浮間地域 ⑦その他の赤羽東地域 ⑧その他の赤羽西地域
インド C・P・ラムダス オイスカ南インド支局会員 インド P・チャンドラ・ミシュラ オイスカオディシャ支局会長 インド フォウジア・ムバシール
子ども・かがやき戦略 元気・いきいき戦略 花*みどり・やすらぎ戦略
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