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理科教育における教材づくりのプロセスについて : 教育内容と教授特性を軸とした包括的モデルの提案

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Academic year: 2021

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(1)Title. 理科教育における教材づくりのプロセスについて : 教育内容と教授特性 を軸とした包括的モデルの提案. Author(s). 生方, 秀紀. Citation. 北海道教育大学紀要. 第一部. C, 教育科学編, 43(1): 313-323. Issue Date. 1992-07. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/5235. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) . 北海道教育大学紀要 (第1部C) 第43巻 第1号. 平成4年7月. l I i Sec i 43 lofHokkaido Universi ty ofEducat t Jouma on( on工 C) Vo ‐ . , No. ly Ju ,1992. 理科教育 にお ける教材づく りの プロセスについて --教育内容と教授特性を軸とした包括的モデルの提案-- 生. 方. 秀. 紀. ( )n the Process of DeveloPing Teaching D僅aterials ‐ ProPosalfor a co]mP1 l ehensive 八厘ode A S b i h T d 1 i ty wt wo xes, u stance an Teachabi Hidenor i Ubuka ta. Depar tmen i i i l l tofSc i do Uni i i ence Educat on ro Co ege ty ofEducat ver s on ,Kush , Hokka , Kush i ro085. Abstract ln せl l i ia l igatetheki ter f ti i i i edeve op立 l t entofteac粒 ng m l a si snecessalytoi nves ndofsc ent c ial can exhibi t and how the material can be used to attract ーater enon the raw ln pheno江ー. ’ ldren chi nds of process to develop teaching materials are di sinterest. Six ki scussed . These hen placed at appropriate positionsina dia i l(Fi aret ludesthe ) whi c mode chinc 三#an.mat g .1 fteach面g mater ia ldeve lopmentofvar iouspat tems(Fig li ) process o sexpressed ‐3 ‐ The mode ion on a two‐dimens iona lspace wi l ofthe deve as a pro lopment of ject thtwo axes,the leve l i substance as ordinate ty as abscissa‐ eachabi ,and t. は じめ に. 学校教育の中 で中心的な位置を占める営みは, いうまでもなく授業 である 児童・生徒は, 授業 . の中で与えられた一つ一つの教材に取り組みながら, それぞれの教科の担う科学的概念や技術等を 学習していく. このように, 教材は教授=学習過程 において重要な役割を果たしており 教材研究 , は教師にとっ て最も大切な仕事のひとつである. 学校教育の中 で自然科学の教育を担う理科教育に おいても, 授業の中で自然科学の知識を切り売りするように教えるのではなく, 児童・生徒が個々 の概念を獲得するための教材, あるいは新しい概念の枠組を構成するための教材が授業に先立って 用意されなければならない. 近年理科教育に関して, 身近な自然物や地域 の自然環境の中にある素材を教材化し, 児童・生徒 に直接経験の機会を与えることが求めら れている. 身近な自然の教材化の意義とその具体的な方法 に関しては稿を改めて論じることとし, この小論では, 教材づくりのプロセスについて理科教材 を 例にあげながら, より一般的な視点から論じることにする. 313.

(3) . 生 方 秀 紀. )は 「教材化」 「教材開発」 とともに, 教育界においてほとんど同じ内容を指し 「教材づくりJI , , てよく用いられる言葉である. しかし, これら三つの用語がカ バーする範囲は, 大幅に重複しなが らも微妙にずれていると見ること ができる. ここでは, これら教 材づくりに関わる諸用語の 意味と 相互関係を吟味し, 教材づくりの プロセスに関する 包括的なモデルを提案 する.. 1. 教材の定義および関連する用 語との関連 「教材づくり」 について 論ずる前に, 教材とは何かということについて, 関連する用語とともに 簡単に検討しておきたい. 「教材」 についての, これまでの定義のいくつかを次に挙 げる. 学科の材料 (教材) とは, 伝達するに好ましい現在の社会生活事相のいろいろな意味を具体的 } にまた子細に表現したものである (J. デューイ)2 . 教材とは教育の 目的におう じて学習させる 必要をみとめられた教育の内容のこ とである (城戸 ) 幡太郎)3 . (教材というコトバは) 教えるべきことがら-要素-を子どもの学習課題 として提示するとき ) の具体的な材料ということである (小川太郎)4 . 個々の科学的概念を習 得させるうえに必要とされる材料 (事実, 文章, 直観教具など) を 「教 } 材」 とよぶ (柴田義松)5 . 教授・学習の各段階を, ① 「教科内容」・② 「教材」・③ 「授業刺激」・④ 「解釈内容」 とよぶ. ) 特定の授業を予想して考えられた教育内容が教材である (宇佐美寛)6 . 教育目標, さらには教育的価値の世界を具体物として体現しているのが教 材・教具である. 教 ) 具とは直観化された教材であり, その物化された部分である (中内敏夫)7 . デユーイ, 城戸および宇佐美においては, 具体的な材料と教育の内容の混在が見られる. 小川, . 柴田の定義においては教材・教具と内容との分離が明瞭である が, 教材と教具の区別は必ずしも明 ) 中内は教具を定義しているが, それを教材の中に含めている. これに対して, 藤岡信 白ではない8 . 勝は, 教師は, どんな物的手段 (A) を用いて, どんな事実や現象を通して (B) , 子 , 何を (C) どもに教えようと しているのかが問題である とし, A, B, Cがそれぞれ, 教具, 教材, 教育内容 ) この藤岡の整理は教材論の視点からの ものである. 更に授業論にまで拡大する な であると した9 . F) ら, この他に, 何のために(D) , どのように(E) 教え, その結果どのよう な効果が現れるか( 教授方 Fはそれぞれ教育目的 E ならない D という問題も別に存在していることを忘れては , . , , 0 ) 以下 筆者はこのA~Fの整理による用語を用いる. 法, 教育評価にあたる1 , . 理科授業において, 児童・生徒が観察する個々の事実の背後には, 一般的な原理・法則あるいは 概念といっ た目に見えない科学知識が潜んでいる. 児童・生徒が個々の事実そのものを学習するだ けでは, 自然科学の教育 を中心とすべき理科教育にはならない. 理科教育においては, 上に挙げた 目に見えない概念や法則およびそれらの相互関係が教育内容の基幹をなし, このような教育 内容を 教えるために選ばれた事実 (事物・現象) が教材である. 教育内容・教材と教具の 関係を理科につ 1 } い て 例 示 して お く1 .. 教育内容:物質が温度変化によっ て液相と気相の間で状態を変えることにより, 物質の体積が 大きく変化すること. 教材:少量のエタノールをいれて密封したポリエチレン製の袋を湯にいれ, 気化したエタノー 4 31.

(4) . 理科教育における教材づくりのプロセスについて. ルによっ て袋が急激に膨張する現象.. 0以上の湯 水槽 等 教具:エタノール, ポリエチレン製の袋, 80 , , .. 2. 教材・教育内容と教授方法の関係 教材は, 上の例からもわかるように, 教育内容と密接に関連している. それに対して, 教材・教 育内容は教授方法と密接に関連しておらず, むしろ互いに独立していて, 個別に研究しうるとする 立場がある. すなわち, 個々の具体的な教材・教育内容と離れて一般的な教授方法の研究が可能で あり, 同様に教授方法から自由な立場で教材や教育内容の研究・開発が可能であるとするものであ 2 ) る. この立場は教材選択に関する二元論である1 . 20世紀初頭当時のアメリカでも支配的だっ た二元論に対して, デューイは 「教授法は教材と対立 1 3 ) 「(教育にお したものではない. それは期待された結果に向かっ て教材を有効に指導することだ」 , ける重要な要素である経験は) 方法と材料の結合ではなく, その実, 多種多様な無数の力の単一な 1 4 )との連続的一元論を主張した こうして彼は 教材と完全に分離した固定 連続的相互作用である」 , . 的な教授方法, および児童の興味や必要とかけはなれた教育内容を退けた. デュ ーイのこの児童中 心・経験主義教育およびその変形としてのコア・カリキュ ラムは日本でも戦後の生活単元・ 問題解 決学習の理念としてもてはやされたのであるが, 教材の選択が系統性を欠いたために, そのもとで 5 ) その反省を踏まえ 1 教育を受 けた 児童・生徒の基礎学力低下を引き起こした1 50年代末以後は . , 9 1 6 ) 系統学習が前面に押し出され, 経験主義教育は後退した . 7 )は デューイ 流の一元論への固執は内容と方法を相互に解消しあう ことによって 一般化 へ 中内1 , , のルートをみずから絶ち, 教材論および教授方法論のそれぞれの発展につながらない結果に陥ると 8 ) そして中内は 教材づくりを 目標の内包する科学的概念による 子どもそれぞれの 述べている1 , , . , 生活現実の, かれらの興味や問題意識にそった, あたうるかぎり明析なかたちへの分析と総合であ 9 } る とす る 「リ ア リ ズ ム 一 元 論」 を 唱 え た1 .. 中内の一元論は, 旧来の二元論と連続的一元論のもつ欠陥を克服しようとするものであり評価で きるが, 筆者はこれを二元論に置き替わるものとしてでなく, 教材づくりのありうべき幾つかの プ ロセスの一つとしてとらえ, 以下の議論に位置づけていくことt こする. 3. 教材づくりの プロセス 「 「 ここでは 「教材づくり」 , 教材開発」 および 教材化」 などの類似した用語の定義をまず行い, 次にそれらの相互関係を明らかにしつつ, 教材づくりのプロ セスを検討することにす 、る. 広辞苑(岩 波書店) によれば, 「つくる」 とはあれこれ手を加えて目的のものをこしらえ出す こと, 「開発」 と は実用化すること,「化」とは形や性質が変わることである. それぞれの言葉のニ ュアンスを生かし, 著者は上の用語を次のように定義する. 「教材づくり」:出発点は問わないが 教材の完成に向けていろいろな作業 を積み重ねていく ,. フ0ロ セ ス. 「教材開発一:これまで教材としてまっ たく扱われていなかっ た内容または素材を教材に作り替 え て いく プ ロ セ ス. 「教材化」:出発点を問わないが 最終的に教材を完成させることが必ず含まれる一連の プロセ , 315.

(5) . 生 方 秀 紀 ス. したがっ て, 上の3つの用語のうち, 教材開発は未開発な素材・内容からの出発に, 教材化は新 しい教材の 完成にそれぞれ力点が有り, 教材づくりはこの両端を含む全体的な プロセスであるとい うように意味づけを行うことができる. 0 )は 次のように教材化を 藤岡2 ・教材づくりと区別してその 中に包含させた. まず, 教材づくりを次 , の4つの局面に分けた. ①課題の成立 (科学の法則の素晴らしさに 感動 して;子どもに質問さ れ立ち往生した経 験か ら;授業に用いたら面白いだろうという 事象に出くわして, などの動機). ②教育内容研究 (文献調査, 現地調査) ⑧教材化 (内容をになう事実や現象を選び, 教具や発問に具体化) ④実験授業 (教材の検証) 藤岡のこの区分は, 教材化を教 材づくりの中核部分 (②, ③) の中の最終局面に含めているとこ ろは筆者と同様である. 藤岡は, 「教材化」という概念の 中に, 内容を担う事実や現象を選び教具の 形につくりあ げることの他に, 特定の発問や学習形態の 組織を企画することまでを含めている. 筆 1 } 筆者は発問や学習形態が教 者の区分では,これら発問や学習形態は教授方法に属 するものである2 , 材化に必ず含まれなければならないものとは思わない. なぜなら, 同じ教材を用いる複数の学級の 授業が, 児童の 理解度や興味・関心などの条件に応じてそれぞれ異なる発問, 異なる学習形態をと っ た方が教育効果が上がることも考えられるからである. たとえば, 上に例として挙げたエタノー ルの気化による 袋の膨張を, 児童・生徒の 学習内容への関心を高めるための導入実験に用いた方が 効果的な場合もあるだろうし, 水を用いた教材で三態変化を学習したあとで, この教材を応用・発 展的な学習のための実験として用いてもよいであろう. 教材づくりの内容は, 藤岡の分析を踏まえた上で, 筆者の観点を加味することにより下のように 整理できる. 教材づくり (=広義の教材化) ( ) 教材づくりの動機 1 ) 教材開発 ( 2 名) 教育内容の開発 ( ) 素材研究 口 α. 素材探索. b. 素材の教育内容研究 c 素材の教授特性研究 . ( 3 ) 教材の具体化 (=狭義の教材化). ( )内容先行型教材化 ィ ( )特性先行型教材化 ロ ( ) 教材の検証 (実験授業による) 4 上に整理した, 教材づくりの内容のうち, 教材づくりの中核部分である (2) から (3) の部分 316.

(6) . . 理科教育における教材づくりのプロセスについて. は, 図1のような図式モデルに構造化できる. 図2は, 一例として具体的な教育内容・素材を図1 のモデルに当てはめたものである. 図1・2では, 横軸を素材の有無および素材を授業に用いた場 合の教授特性 (興味・関 心を引く度合, 教材とした場合の操作性等) とし, 縦軸を教育内容の確定 の度合とした2次元空間に, 科学, 教育内容, 素材, 教材および教材に至る中間段階としての 「前 教材」 を配置した. 前教材とは, 教材開発の結果, 教材として完成される前段階の状 態にまで高め られている素 材をさすものとして, 筆者がここで提案する用語である. 上の整理のうち, (1) を 「課題の成立」 とせず, 「教材づくりの動機」 としたのは, 教材づくり にとりかかるのは, 必ずしも課題成立後ではないことが有りうるからである. たとえば, 工業生産 による新素材 (たとえば液晶など) が出回っ た状況で, それらのいくつかの素 材研究を行うなかで その素材が生かされる教育内容を見出すこともあろうということである. 以下, 実例は注釈の形で 提示する. (2) の 「教材開発」 は, 既に規定したよう に, まだ教材として利用されていない素材や 内容を 教材にする ために様々な調査・研究をすることであり, 教材づくりの前段をなす作業をさす. 教材 2 }である 理科教育における 開発を構成する作業のひ とつは, (イ)の「教育内容の開発」 (図3a)2 . 教育内容開発の作業は, 科学を構成する概念・法則の系統や研究方法といっ た科学そのものを十分. 確. 内容先行型. 教 定. 教育 内容. 内容型. ÷→ 教 材. 前教材. 一. 育. T特. 内 容. 科学 未 確 定. 素材群 問題. 知識・. 未. 知. 特性型 前教材. 好. 適. 概念 素材の教授特性 (興味誘引性・操作性) 素材なし. 図1. 素材 (具体物・現象) あり. 科学の教育における教 材づくりの構造. ※は問題の具体化のための素材探索.. 317.

(7) . . 生 方 秀 紀. 化 薫 三変 の内教 開容 育. 気化と体 内容先行型 水蒸気を満たし 積変化, 大気圧等. 素 材. 教材化. た ドラム缶の冷 却による収縮. 素. 特. 内材. 教性. . 未確定. ※. 水, 水 蒸 気 エタノール ,容 器. 疑問. ドラ ム 缶 素材の. へこ ま せ. 教授特性研究 知識・. 未. 知. 好. 適. 概念 素材の教授特性 (興味誘引・操作性) 素材な し. 図2. 素材 (具体物・現象) あり. 教材づくりの構造の具体例. ※は, 問題の具体化のための素材探索.. 理解し, 学習させるべき内容を抽出し, あるいは作り出す作業である. この作業は, 教材づくりに 際して必ず行わなければならないわけではない. 教材づくりは, すでに他者によっ て開発された教 育内容を追認し, その内容を教授するために (ロ) の 「素材研究」 からから始めて教材化していく 方式がむしろ多い. 素材研究はさらに3つの作業に細分されうる. a 「素材探索」 は, 教育内容からスタートして, ) 新しい教材の候補となるいくつかの素材をテ 3 それを教授するのに適当な素材を探す作業である2 . ストするのが素材探索の主要な作業である. b r素材の教育内容研究」 は, 素材探索を経ず, 教材 づくりを素材からスタートした場合に, その素材が教材として用いられたときに担いうる教育内容 4 } そして c 「素材の教授特性研究」 は ある素材が児童・生徒のどの を明らかにする過程である2 , , . ような興味関心を引き付けうるか, 既習知識と結び付いてどのような問題意識をいだかせうるか, 児童・生徒に提示した場合にどのような操作上の性能があるか, 等の教授特性の面から検討する作 5 ) 業 で あ る2 .. 以上のような教材開発に続くものが, (3) 「教材の具体化」 (狭義の教材化)である. この段階で は2通りのルートが考えられる. 素材の教育内容の研究が既に終了している 「内容型前教材」 を教 318.

(8) . 理科教育における教材づくりのプロセスについて. 授特性の面から検討して教材として仕上 げる (イ) 「内容先行型教材化」 (図3b) と, 素材の教授 特性の検討が既に済んでいる 「特性型前教材」 を教育内容の面から研究して教材として完成させる (ロ) 「特性先行型教材化」 (図3c) である. もちろん, 実際の教材づくりは, この両 極端の間を 自由に行き来しつつ多面的に行うことが多いであろうし, そのほうがより効果的な教材を作り出す 可能性が高いと思われる. (4) の 「教材の検証」 は, 新しく完成させた教材を, そのテストのための授業 (実験授業) の 中で使用し, その効果の如何を調べることである. ただし, ここで注意しなければいけないのは, 教材と教授方法の検証は分 けて考えなければならないことである. ある教材が用いられた授業の成 否は, ひとり教材のみが責を負うのではない. それには教授方法を初めとして, 児童・生徒の状況, 教育環境 (教室の物的環境, 参観者の有無・状況, 等) など様々な要因が関わっ ているからである. それゆえ, 当の教材を使用していないこと以外の条件を 「実験学級」 とできる 限り等しく した 「統 2 6に おける教育効果と比較した 上で始めて,その教材の効果が推定できるのである.しかも, 制学級」 このよう な実験授業は一度だけで完全であるとは言えない. 実験学級と統制学級を構成 する児童の 等質性はあくまでも 仮定であり, 授業研究者が気付かない差異が作用していたり, もっ と別の要因 が作用しているかもしれない. また, ある教材の効果は, 児童・生徒の心身の状況や学級集団の社 会学的な特性, 教室・学校の位置や学校の教育 方針などの教育環境, 地域, 時代によっ ても, 教育 効果は変わり得るからである. このように教材の価値は相対的なものであるから, ある教材の価値 の高さはそれが様々な地域における 「再実験」 や 「追試」 によって確認されつづける限り承認され 7 ) ているとするのが実用的かつ有意味な方法であろう2 .. 4. 教材づくりの プロセスに関する従来の見解 の位置づけ 教材化あるいは教 材づくりに関して, これまでに種々の見解 が提出されてきた. 以下に, いくつ かの主な見解の要点を取り上げ,筆者の提案した教材づくりの図式の中に位置づけることを試みる. 2 8 } 9 ) すなわち (a) 目標から下降して事実・現 藤岡は 「教材化」 には二つの側面があるとした2 , . 象を選び出す側面, (b) 子どもを引き付 ける事実や現象 (素材) から出発し, 担うべき教育内容を 明らかにする側面. この2側面は, 筆者の整理した教材 づくりのプロセスの中の, 内容先行型教材 化にお ける素材探索, およ び特性先行型教材化における素材・前教材の教育内容研究にそれぞれ合 致する. 0 )は 「題材の選択に際して ①科学的 視点--科学の線上に立つとの視点 および②発 広岡亮三3 , , , 達的視点÷÷子 どもの発達に適合するとの視点の二つの視点は, 両方とも必要である. これについ て, 単眼ではなく, 複眼であることが私たちには必要である」 と主張した. 広岡が言う 「題材」 と は, 教材をも包含した教育内容のことであり, 上記の 「題材の選択」 とは, 筆者の 「教育内容開発」 に相当する. 1 }は 「両方の視点で永久にさまよう」として二元論をしり ぞけ, 教材づくりを, 「目標内容を 中内3 , 包含している認識対象としての現実を分析・総合し, 現実の中から, 子どもにとってもっ とも基本 的で明断な教材につくりあげることである」 とした. 前にも述べたように, 中内はこの方式をデュ ーイの連続的一元論と区別して, リアリズム一元論と呼ぶ. 中内が二元論を排撃する理由は, 「(一 元論によっ ては じめて,)子どもの発達段階を考慮するとか, 教育的配慮と称して教材を発達の情報 源である文化遺産から切り離し, 代わりになにか教育的価値以外に属するものを持ちこむ似而非教 の 」との言明に集約される 中内の一元 材づくりの途から決定的にみずからをわかつことができる3 . . ー. 319.

(9) . 生 方 秀 紀. ぅになろう. 論に基づく教材 づくりを筆者の図式にあてはめるなら, 図3dのよ. 3 3 } デュ÷イの連続的一元論に基づく教授学習過程においては , 授業の前に教師が完成された教材 を作って置くのではなく, 題材は最初は児童の要求と興味に基づく, 事物との直接交渉において現 れる. 第二段階ではこれらの材料が他の人々から伝えられた知識によって拡大深化する. 第三段階 では経験は合理的・論理的に組織された知識にまで拡大され改造されるものとされる. これを筆者 の図式の中にあてはめると, 図3eのようになろう. デューイの経験主義の系列に属する問題解決 学習においては, 学習の題材は, 児童・生徒が直面する問題の解決のために科学から関係する内容 を断片的に学び, 問題を解決していく過程の中に現れる (図3f) .. 教 材 酬 素材 b. a. 内容. c. 教材. . 科学. 問題. 素材. d. 図3. e. f. 教材づくりのいくつかの パターン. 座標軸は図1と同じである. a. 科学からの教育内容開発およびそれに引き続く教材化 b. 素材の教育内容研究を先行させた教材化. C. 素材の教授特性研究を先行させた教材化 d. 現実の分析・総合による教材づくり (中内) e. デュ ーイの学習題材の発展 (第二段階まで) f. 問題解決学習における学習題材の発展. 5. 教材づくりの担い手 さて, 中内も主張するように, 教材づくりの主体は教育現場にある教師あるいはその集団である ことが基本であろう. 教師は一般に教材づくりの動機をもつ機会が多く, 教材の具体化に際しても, 0 32.

(10) . 理科教育における教材づくりのプロセスについて. 児童・生徒の実態や現場にお ける教育課程に精通している利点を生かすことができる. また, 現場 教師以外の立場の者 (学者, 研究者, 教科書作成者, 学生, 大学院生, 等) も教材 (あるいは前教 材) づくりに積極的に関われるし, 作られた教材の質がそれによっ て向上することも大いにありう る. 教材づくりで積極的な役割を果たした研究者の例として,「仮説実験授業」の板倉聖宣氏ら,「水 道方式」 遠山啓氏らが挙 げられる. 教材づくりに, 特に専門諸科学の研究者または理解者力功。わることは, 特に教科内容研究におけ る正確さにお いて利点があろう. なぜなら, 専門諸科学の水準はそれぞれの領域の研究の進展によ 4 ) っ て上がっ て行くのはもちろんであるが, ある時期を境にパラダイム(研究の伝統)の置き代わり3 が生じることがあり, 専門諸科学の研究者はもちろん, 理解者(専門諸科学出身の教科教育研究者, 科学評論家など) は, このような学界の現状を知ることにおいて一般に現場の教師よりも近い位置 にいるからである. たとえば, 生物の進化は以前の日本の啓蒙書では 「種の進化」 として説明され ることが多かっ たが, 現在では進化はおのおのの遺伝子が 「利己的」 に振舞っ て同種集団の中でコ 5 3 6 } ) ピーを増して行くことによるという見方が常識化されつつある3 . 現職の教師以外による教材づくりは, 上にみたように, 教育内容開発および素 材の教育内容研究 からなる教材開発において, より効果的な役割を担える. 一方, それに続く教材の具体化や素材の 教育特性研究およびそれらの検証の段 階においては, 現職の教師がより大き な役割を果たす. した がっ て, よい教材づくりには, 両者力功。わっ た共同研究あるいは集団研究の体制をつくることが一 7 ) また 共同研究・集団研究が成立していない段階での科学専門家 つのよい方策であると思われる3 , . または科学理解者による 内容型前教材の開発とその蓄積が, それに続く現場教師らによる教授特性 の分析を通した最終的な教材化へのよい足場となるものと思われる.. 摘. 要. 教材づくりに関わるいくつかの用語を整理し, それらの相互関係を図式で示しながら規定するこ とを試みた. 教材の定義に関しては, 教育内容・教材・教具の分離に成功して いる藤岡の定義を採 用した. 教材づくりの プロセスは, 藤岡によるものを参考に, より包括的な図式モデルで表現した (図1) . 一般に教材づくりが始まるのは, 「課題の成立」 よりも, もっ と多様な 「教材づくりの動機」 が生 じた時である. 教材づくりの中核となる部分は, 前段の 「教材開発」 と後段の 「教材の具体化」 と に区分 できる. 教材開発は, 「教育内容の開発」 と 「素材研究」 に分けられ, 後者はさらに 「素材探 「 「 索」 , 素材の教授特性研究」 に分けられる. 素材研究の結果, 教材の前段 , 素材の教育内容研究」 階にまで高められたものを 「前教材」 と呼ぶことを提案した. 教材の具体化は, 内容研究が深めら れた 「内容型前教材」 からの ルートと, 教授特性の研究が深められた 「特性型前教材」 からのルー トがある. 実際の教材づくりはこの両 ルートの間を自由に行き来しながら行われてよい. こう してつくりあげられた教材は実験授業によっ て検証されるが, その際には, 教材以外の諸要 素 (教授方法, 児童・生徒の状況, 教育環境等) の作用があることに 注意すべきである. これまで にあらわれた教材づくりにつ いてのいくつかの立場 (連続的一元論, リアリズム一元論および二元 論) を今回のモデルの中に位置づけることを試みた. 教材づくりの担い手は, 教師であることが基 本であるが, 研究者, 大学院生などによる前教材開発が新しい視点をもたらすことがある. 研究者 と現場との共同 (集団) 研究はより大きな成果をもたらすであろう.. 321.

(11) . 生 方 秀 紀 < 注〉 「 『新版 教材と教具の理論』19 9 0 1) (a) 中内敏夫 ( , あゆみ出版) は 教材つくり」 と, 濁点をつけない言葉を用い 『 9 89年, 日本書籍) 同様, 濁点をつけた. この方が日本 ているが, 筆者は, (b) 藤岡信勝 ( 授業づくりの発想』1 語らしい語感がある. 84頁(原著:J‐ Dewey, Democ 59年,春秋社,1 9 2)j.デューイ,帆足理一郎訳『民主主義と教育(改訂新版)』1 r acy 4i l lan co. i i losoPhy ofeduca i t t and educat nt on. 1916, 公4acD roduc ontothePhi on:ani. 5 4頁‐ )19 5 5年, 平凡社, 1 53~1 3) 城戸幡太郎 「教材」 (海後宗臣監修 『教育学事 典 (第二巻)』 『講座授業研究 (第二巻)』 96 5年, 明治図書, 9~21頁‐ )1 4) 小川太郎 「教材構成の基礎理論」 ( 6 7年, 明治図書, 1 5頁. 5) 柴田義松 『現代の教授学』19 3頁. 6) 宇佐美魔 『思考指導の論理』 1 97 3年, 明治図書, 21~2 7) 中内, 前掲書l ) 2 a ,1 , 35頁‐ 8) このことについては, すでに藤岡が指摘している (前掲書lb) , 23~29頁) 理科 数学科 社会科には適合するが 2 2 2 9)藤岡, 前掲書lb) ~ 3頁 この定義は , 国語科, 芸術・体育系教科 , , , , . における教材の定義は別に考える必要がある. 1 0 ) 藤岡 (前掲書lb, 1頁) はDの 「教育目的」 は授業づくりの問題領域に含めず, 代わりに 「学習者」 (それによ って子どもの状態はどうなるか) を含めている‐ これは 「教育目的」 にてらした 「教育評価」 ということになろう. 1 1 ) この教材は次の文献で取り上げられている. 西川浩司・吉村七郎・板倉聖宣 『三態変化 (仮説実験授業記録集成 5)』 1977年, 国 土 社, 92~93頁‐. 1 2 ) 中内 (前掲書la) 115~120頁. 8頁‐ 3 ) デユーイ, 前掲書2) 1 , 16 7 1 4 ) デユーイ, 前掲書2) 1 , 0頁. 61頁;板倉聖宣 『日本理科教育史』1 7 96 8年, 第一 1 5 ) 田中 実 『科学教育の原則と方法』19 8年, 新生出版, 1 3 3~1 法規出版, 407頁. 8 9年改訂の「生活科設置という形で再び姿を 16 ) ペスタロッチの直観主義教育, デユーイの経験主義教育の観点は19 9 8 8年, 2 2(8):5~1 現している‐ (中野璽人 「生活科の本質とその展開」 初等理科教育, 1 4頁. 2 8頁 8頁 ) 中内, 前掲書la) 1 1 17 , , . 8 ) 中内は, これに関連して次のように述べている. 「(デューイのように) 『教材』 を 『方法に無媒介に 『連続』 させ 1 るのは正しくない. 教材論を指導過程や学習形態論のアスペクトだけからとりあつかうと, 既成の教材の解釈学と いうかたちでの教材研究÷÷『 教材解釈一一の分野はその場をうることができるが, 逆に目標の側からの教材つくり 9 90年) 8頁, 1 としての教材研究の領域は消失してしまうのである」 ,2 . . (前掲書la) 19 ) 中内, 前掲書la) 43頁. ,1 20 ) 藤岡, 前掲書lb), 76~80頁. 21 ) 藤岡は, 同じ教育内容・教材を用いた二つの授業実践を取り上げ, 教材レベ ルと違う 「教授行為」 レベルを提案 し, 教授行為レベ ルの研究対象となるのは, 発問, 指示, 指名, 板書, 教具等々であるとした.(前掲書lb),31~38 頁) . 教授行為と学習形態を合わせたものが筆者の言う教授方法である‐ 2 2 )これには, 次のような例が考えられる.<プレートテクトニクス理論で日本列島の地質構造が説明されるようにな った. これを生徒に興味深く教えるために 「日高山脈の形成過程」 等の教育内容を開発する 〉 2 3 ) 例:<静電気という概念を教授するために, 各種プラスチック製品, 繊維, 毛髪などを用いて, 静電気の起こり 方やその程度などを調べる>‐ 2 4 ) 例:<光電池が日常的に入手できるようになった. これが物理学的にどのような性質をもつのかを調べて, 理科 の教科内容の中のどの概念の教授に適するかを確かめる>. 2 ) 例:<凹面鏡を児童に与え, 自由な活動の中でどのような操作がなされ, どのような 「気付き」 や 「意欲」・「興 5 味・関心」 を示すかを見て, 凹面鏡を教材として用いた場合の特性をみる>. 自由試行の他に, 授業のプロセスを 固定した上での教材の教授特性のテストもありうる. ベテランの教師等, 児童の実態に通じている者であれば, 実 地テストをしなくてもおおよその予想がつくのではないか‐ lexpe 2 6 imen ) 普通, 理科教育においては, con t tは 「対照実験」 と訳されているが, 実験授業におけるコントロ r r o ールとなる学級を 「対照学級」 と呼んだのでは 「対象学級」 と混乱するので, 筆者も教育統計で一般に用いられて いる 「統制学級」 を用いている. 27 ) 「追試」は, 必ずしも統制学級との比較を伴わなくてもよい. その場合, 教師の経験に基づく直観によって授業の. 322.

(12) . 理科教育における教材づくりのプロセスについて 効果のよしあしを判断することになる. 2 8 9頁‐ 藤岡がこれらを “方向” ではなく “側面” と呼んだのは, 教材づくりに際して, どち ) 藤岡, 前掲書lb) ,7 らか一方に固定されているのではなく, 同時にあるいは相前後して両方向からの検討がなされることを想定したか らである. ひとつの教材づくりが教育研究団体等の集団でなされる際には, 各方向の検討が共になされることが可 能であり, より有効である‐ また個人による教材づくりであっても, 程度の差こそあれ, 各方向からの検討が要素 として含まれうる. しかし, 側面という用語を用いると, 本来もっていた方向という特性が薄められてしまう‐ そ れゆえ, 筆者は側面という見方を認めつつも, 方向という語を用いる‐ 0年, 日本書籍, 37~3 8頁‐ 99 29 ) 藤岡信勝 『教材づくりの発想』 1 97 3年4月‐ 30 ) 広岡亮蔵 「教材精選の今日的課題」 教育展望, 1 31 ) 中内, 前掲書la), 124~128 頁‐ 3 2 ) 中内, 前掲書la), 121頁. 85~1 86頁‐ 3 3 ) デューイ, 前掲書2) ,1 『 中山茂訳 科学革命の構造 97 1年, みすず書房, 1 5頁 (原著:T‐S 3 4 ) T.S クーン 』1 ‐Kum,Thestructure of ‐ , f i i i i i i lu ions t t sc en crevo ver s t yofCh cago Pres s .1962 . ,Un. 3 5 )このような変化が一般向けの本になって入手できるようになるまでには数年が経過するのも珍しくないであろう‐ i i l l 例えば, いずれも行動生態学(社会生物学)の啓蒙書である, アメリカのE‐0.Wi c ob o o sonの著書“So を穿:the ”( 『 p 思索社 ) は原著よりも8年 h 7 5 B l k ) ( 伊藤嘉昭監修 社会生物学1~5 i 1 9 の訳書 t a e s s news n e n r e s s p 』 y , , ” 1976 o f d U i ” i l f i イ ギリ ス の R. Dawki ty P ) の訳書 (日高敏隆・岸 nver s sh gene ( nsの著書 These r e s s . x or 由二・羽田節子訳 『生物=生存機械論--利己主義と利他主義の生物学--』 紀伊国屋書店) は原著より4年遅れ て日本で発行された‐ 3 6 )‐拙稿 「生態学の基本概念とそれに関連する理科の教科内容 (1) 英語圏の生態学教科書と日本の高等学校教科書 987年, 19号, 6 8~6 9頁‐ の生態学用語の比較」 釧路論集, 1 7 3 ) 中内もこれと同様の方式を推奨しているが, その教材つくりの過程において研究者は, 現職教師から専門的な点 に関する疑問を出されてそれに答えて行くという受動的な立場であり, 積極的に自ら教材作りを進めて行くのでは ない. この点が筆者の考えている集団と異なる‐ (本 学 助 教 授, 釧 路 分 校). 323.

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参照

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