• 検索結果がありません。

数量教育に対する保育者の意識

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "数量教育に対する保育者の意識"

Copied!
9
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

1.問題と目的  私たちが生活する上で数や量の理解は必要不 可欠なものである。しかし、生まれた段階から これらを理解している人は稀だろう。確かに、 Gallistel & Gelman(1992)によれば、人間は 2つのものを比べて多い少ないを判断する直感 的数感覚を生得的にもっていると言われてい る。また、Antell & Keating(1983)の研究で は、言語獲得前の乳幼児が2つの物体と3つの物 体を識別したという結果も示されている。しか し、だからといって数や量に関する幼児期の教 育が不要というわけではない。幼児期に数や量 に触れて遊び、感覚を養うことは大切なのであ る。  幼児の数量感覚を育むために、幼稚園では幼 稚園教育要領を指針に保育を展開していく。平 成29年には幼稚園教育要領が改訂されることと なり、総則に「幼児期の終わりまでに育ってほ しい姿」が打ち出された。その中には、「数量 や図形、標識や文字などへの関心・感覚」とい う項目があり、幼児は遊びや生活の中で自らの 必要感に基づき数量や図形等を活用し、興味や 関心、感覚をもつようになるという趣旨のこと が示されている。また、領域「環境」のねらい には「身近な事象を見たり、考えたり、扱った りする中で、物の性質や数量、文字などに対す る感覚を豊かにする」と示され、平成元年の改 訂以降内容の大きな変更はなされていない。幼 稚園教育要領の数量に関する文言について、室 久(2009)は、「乳幼児期では普段の生活のな かで具体的なものと関連づけて文字や数を理解 することが大切である」と述べている。幼児期 の数量教育では、生活や遊びの中で幼児自身の 必要感に基づき、経験を通して感覚を養うこと が望ましいのである。  では、幼児期の数量に関する経験にはどの ようなものがあるのだろうか。白石(2013) は、「幼児教育・保育における数字とのかかわ りとは、数式の計算ではない」とした上で、数 に関して「カレンダーや時計なども、数字に親 しむ機会を与える環境である。数を使った歌や 遊びや、かくれんぼ、縄跳び、順番待ちなどの 機会に数を数える(数にかかわる)経験もつん でいきたい」と述べている。また、量に関して は、「客観的に量の正しい判断ができるかどう かよりも、子どもたちに量を実感させる方が大 事である」とした上で、「2つの大きさの違う コップにお茶を注ぎ、どちらが多いかを問いか け〔中略〕どうしてそう思った?と問いかける などして実感させていく」ことが大事だとして いる。さらに、これらの経験について、保育者 の援助によって「そのままだと無意識的・瞬間 的に消えてしまう経験を、内在化」することで 子どもの中に実感が生まれるとしている。すな わち、生活や遊びの中で幼児が数量に関わる経 験をするだけでは単なる出来事として終わって しまうが、その経験に対して保育者が適切に働 きかけることによって、その経験が数量として

数量教育に対する保育者の意識

福澤 惇也

(2)

の教育的な意味をもつのである。こうした保育 者の援助について、岡田(1989)は、「子ども の具体的な活動の中に、抽象的なものが潜んで いることを保育者はたえず意識しなければなら ない」とし、「明確な保育目標、保育内容の厳 選と構造化、その方向づけをしっかりと行う必 要がある」と述べている。幼稚園教育要領に数 量が示されている以上、幼稚園では数量教育が 行われるべきであり、幼児に対して数量教育を 行うためには、保育者の意識的な援助が必要な のである。  幼児期の数量教育に関しては、これまで多 くの研究がなされてきている。例えば、丸山 (2004)は、幼稚園3歳クラスに入園した幼児 が園を修了するまでの3年間で獲得する計数技 能について、要素数32個の集合を数えて、その 個数を口答するという課題を用いて研究を行っ た。その結果、幼児が数唱の数詞と集合要素を 対応づける方略として、視線による対応づけは わずかであり、指を使う対応づけが3歳前期か ら一般的であることが確認された。また、3歳 前期では、数詞と対応づけながら要素を指で動 かす方略である「移動」の比率は、要素を触る だけで動かさない方略である「不動」の比率の 約1/3程度であった。3歳後期と4歳前期では不 動の比率が上昇し、移動の比率はほぼ一定であ ったが、4歳後期では2つの方略の比率は逆転し、 幼児の半数以上が移動で対応づけていた。5歳 期では、幼児のほとんどが移動で対応づけたこ とが確認された。山名(2005)は、幼児の分配 行動について、幼児が3色の折り紙を分けて遊 ぶ姿を確認した上で、12個の丸いチップを皿に 分けるという別の分配課題を用意し、分け方に は配分先に「一つずつ配る方略」と分ける量を ひとまとまりにして分ける「ユニット方略」が あることを示した。榊原(2014)は、5歳児を 対象にした自然観察を行い、幼稚園において年 長児が経験している数量活動を調査した。その 結果、調査されたすべての園で、数量に関わる 援助が他の様々な活動に埋め込まれた「埋め込 み型」の活動が展開されていた。また、保育者 が行う設定活動の73%と幼児が行う日課活動の 33%で数量活動が観察された。これらのことか ら、日本の幼稚園では就学を控えた年長児に対 しても一貫して、体系だった数量指導に頼らず、 数量の要素を日常の保育活動に埋め込む形で幼 児の数量理解を援助していることを明らかにし ている。天岩(2015)は、幼児が遊びの中で自 発的に用いる計算行動について、幼児が遊ぶ場 面をビデオで撮影し、観察記録から取り出され た数表現を18のカテゴリーに分けて考察を行っ た。その結果、幼児は幼児間で計算についての 相互理解が十分にできており、年中児や年長児 の段階では加算の基本は理解されている可能性 が高いことが推察された。浦上・杉村(2017) は、幼児における心的数直線の形成について、 数唱課題、線を書く練習、0-20の数直線課題と いうように段階を踏んで、幼児に課題を与え調 査を行った。結果、幼児期の心的数直線の発達 に関して、0-20の範囲においては幼児後半期で すでに、数量表象が形成されている場合がある ことを明らかにした。  このように、幼児期の数量教育に関する研究 の多くは、幼児の姿や数量能力の発達に焦点が 当てられてきている。しかし、保育を組み立て る保育者の意識について数量教育を直接扱って きてはいない。そこで、本研究では、現場の保 育者にインタビューを行い、数量教育に対する 保育者の意識を調査する。調査するにあたり、 保育者には、実際に数量教育を行っているのか、 行っている場合どのような保育を実践している と捉えているのかを明らかにする。加えて、数

(3)

量教育に関して幼稚園教育要領を現場教諭がど の程度確認し、理解して保育を行っているのか、 及び、子どもが就学するまでにどのような保育 を行い、それによって身に付いてほしい数量能 力をどのように捉えているのかについても明ら かにする。 2.方法  今回は、F県私立A幼稚園に勤務する幼稚園 教諭8名を対象に聞き取り調査を行った。なお、 A幼稚園では数量に関する特別な保育は行われ ていない。  調査は、平成28年11月22日から25日にかけて、 幼稚園内の空いている保育室を借りて個別に行 った。調査時には許可を得て、会話の内容をボ イスレコーダーで録音した。  質問内容は、①保育の中で数量教育を行って いるか、②実際に行っている数量教育は何か、 ③平成20年版幼稚園教育要領の数量に関する項 目についての感想や考え、④子どもが小学校へ 入学するまでに行いたい数量教育は何か、また、 どこまで数量能力を獲得していることが望まし いと思うかである。なお、調査は『幼稚園教育 要領解説』(文部科学省,2008)』を見てもら いつつ行った。また、時間的制約のため質問に 対して十分な回答が得られない場合もあった。 3.結果と考察 1)数量教育の実践の有無  質問①に対して8名すべての保育者が「行っ ている」と回答した。 2)数量教育の実践の内容  質問②の現場で実際に行っている数量教育は、 「計数」、「計算」、「数字の認識」、「音によ る認識」、「時計」、「語彙」、「図形遊び」の 7つのカテゴリーに分けて捉えることができた。 カテゴリーごとに保育者の回答を表2に示した。 (1)計数  計数とは、数を「1,2,3,4,5…」のよう に順を追って数える行動を表わす。計数を誰 が行うのかについて、保育者Bや保育者Hのよ うに年少を担任する保育者からは、「一緒に 数える」や「数を知らせる」というように保育 者主導で計数を行う様子がうかがえた。年中で は、まだ保育者と一緒に数える機会が多いよう であるが、年長では、子どもが主体となって遊 びのなかで計数を行っているようである。これ は、子どもの年齢とともに計数できる範囲が拡 大し、計数能力が育つためだと考えられる。ま た、表2から、保育者は「数える」ことそのも のを保育のねらいにしていないことがうかがえ る。幼児が展開する遊びや生活の中で、自然に 数えているのである。このことについて、丸山 (2004)は、「物の集合を計数する必然性がな い状況で教師が計数を数えたり、やって見せた りしても、その行為を模倣するだろうが、それ をする意味までは分からない。〔中略〕園では 幼児がおもしろがって積極的に取り組む対立関 係のある遊びを展開できることが指導の前提に なる」と述べている。すなわち、就学後の教科 A B C D E F G H 性別 女性 女性 女性 女性 女性 女性 女性 女性 調査時 担任学年 年少 年少 年中 年中 年長 年長 年長 フリー 調査時 勤務年数 1 年目 25年目 3 年目 14年目 6 年目 11年目 16年目 1 年目 表1 対象者の属性

(4)

のように計数自体を目的として活動するのでは なく、幼稚園では遊びや生活の手段として取り 入れられることが望ましいのではないだろうか。 〔計数〕 ・簡単なケイドロをした時に、「泥棒が何人だから泥棒さんの勝ち」のように数をあそびに取り入れている。(B) ・拾ったどんぐりや傘の数などを数え、子どもに意識的に数を知らせる。(B) ・もし数字がわからなくても、椅子の数やおやつの数などを見ることによって感覚的に数を捉えられるようにしている。(C) ・年中ではステップブックで、人や動物などを数える。(D) ・休んだ人の数を数える。引き算というよりも一人ずつ減らしていく。(D) ・なわとびをしながら、跳んだ数を数える。(D) ・日々数えることを繰り返す。遊びながら経験を積んで数えられるようになる。(D) ・玉入れで玉の数を数える。(D) ・今日は誰ちゃんと誰ちゃんが休みだから、休みは2人だとわかる。(F) ・先生が叩いたタンバリンの音数を子どもが自分で数えて、その数に合った人数のグループを作る。(F) ・年少の子どもと一緒に車が何台通るか数える。(H) ・その日、全員で何人いるかを普段から数えて言うようにしている。(G) 〔計算〕 ・何人のクラスで何人休んだから残りが何人とかをやっている。(D) ・休みの人の数を数える。積み重ねると居る人の数から休んでいる人の数を数えなくてもわかるようになる。(E) ・子どもが自分で休みの人の数を数えて今日来ている人の人数を言う。(F) ・タンバリンを4回叩いたのに、3人と5人のグループができた場合、子どもが考えて、誰々ちゃんがこっちに来たらいいんだよ と、足し算引き算を自然に行っている。(F) ・男の子7人、女の子11人クラスで、子ども自身が男の子は7人だと把握しているため、出席確認の時、「先生、今日は○○くんが 休みだから6人だよ」と言ったりする。(G) 〔数字の認識〕 ・年少では日めくりカレンダーで、明日が何月何日か数字を確認する。(A) ・歌とともに数字の絵をみせることを行った。(C) ・検温の時に、「これ何度?」と子どもに聞き、数字の形を見たりする。(C) ・椅子を片づける場所に数字が書いてあり、子どもはその数字を見て、数字に合った分の椅子を重ねて片づける。(C) ・おもちゃを片付けるための数字を意識している。片付けの時に数字を見て、子どもが自分で考えられるようにしている。(D) ・いきなり理解を求めるのではなく、視覚から数字に入るよう保育している。(D) ・年少はマークで誰、年長は番号で誰、というように年が上がるにつれて数字を意識できるようにする。(G) 〔音による認識〕 ・カウントを始めると年少さんは動きが早くなる。数字の形は分かっていなくても、耳で聞いて音で覚えている。(A) ・タイムリミットみたいに「5、4、3、2、1、0」と数える。(C) ・年中が始まってすぐに、数字の歌を聴く。(C) ・歌で数に触れる機会を設けている。(D) 〔時計〕 ・年長の場合、時計に印をつけて時間がわかるよう環境をつくっていた。(C) ・時計を見るときは、12、3、6、9のようなわかりやすいところから始める。(D) ・時計の理解は慣れと経験だと思うため、幼稚園のうちから時間を子どもに伝えるようにしている。(D) 〔語彙〕 ・長い短い、大きい小さいなど数量に関する語彙にも重点を置く。(B) ・毎日の会話で、長い短いとかの言葉が子どもの中に入るようにしている。(G) 〔図形遊び〕 ・おせんべいとクッキーの形、お月様の形など、何かの形を見て形を捉える。(B) ・折紙で三角帽子やバスのタイヤ、座布団折りなどを作ってみる。(B) ・図形を組み合わせる構成遊びを行う。何かを作ることが目的ではなく、図形に親しむことが目的である。(B) ・年中では丸、三角、四角を組み合わせて構成あそびを行い、図形の認識を意識できるようにする。(D) ・四角がなんで四角というか子どもに聞き、角が4つあるからだと伝えることで、各図形の認識を理由がわかった上で行えるよう にしている。(D) ・作品展で家を作るとき、色を塗るため一度作った家を展開するのだが、展開図という平面になったものを見て、どこが床で天 井かを子どもと考え、図形を把握しながらあそぶ。(E) 表2 実際に行っている数量教育

(5)

(2)計算  計算とは、数を数える計数とは異なり、簡単 な加法や減法ができることを表わしている。例 えば、「登園している人数」を一人ずつ順に数 えることは計数だが、「10人クラスで、○○ち ゃんが休みだから9人だね」は計算になる。計 算は計数に比べ抽象度が高く難しいことや、計 算は小学校へ入ってから習うものという認識も あることから、幼児には早いようにも思える。 しかし、天岩(2015)の研究では、幼児が遊び の中で自発的に計算を行っていることに加え、 計算について幼児間の相互理解が十分できてい ることについて報告されている。また、年中児 段階で計算について十分に説明できるという 結果も示されていた。表2を確認すると、「計 算」について回答した保育者はいずれも年中児 以上の担任であった。また、幼児が行う計算と は就学後の算数的なものではなく、あくまで保 育者とのやりとりや遊びの中で行われる具体的 な行為であった。このことから、保育者は日々 の幼児の姿を把握しながら、自然に計算を保育 に取り入れていると予想できる。また、表2の 計算内容は簡単な加法と減法であったが、幼児 の遊びを観察することで、加法・減法以外の計 算内容や、計算における幼児なりの課程を確認 できるかもしれない。 (3)数字の認識  このカテゴリーは、幼児が数字の形を認識 し、それが示す数を捉える能力について表わ している。表2「数字の認識」から、現場では 「検温」や「片付け」など様々な場面で幼児が 数字を見る機会を設けていることがわかる。ま た、片付けでは数字の表わす数が分からないと 片付けられない仕組みになっており、こうした 活動の中で幼児は数字の意味を理解するのであ る。もし、幼児が数字の形を覚えたとしても、 その数字が何を表わすのかが分からなければ数 字を認識したとは言えない。保育者は、幼児に 数字を見せるだけではなく、その数字の意味を 伝えていく必要がある。本カテゴリーの回答で は、「数字を見る」や「視覚から」という回答 が多かったものの、場面によっては数字の意味 を確認するための活動が保育者によって展開さ れていた。このような援助があることで、幼児 は少しずつ数字を認識していくと考えられる。 (4)音による認識  このカテゴリーは、幼児が数字を聞くことに よってその意味を捉える活動について表わして いる。表2「音による認識」にあるような「カ ウンティング」は幼児教育の現場でよく見られ る技法である。しかし、「5,4,3,2,1」と いった音のまとまりで幼児が記憶してしまうと、 数の意味も分からないままニュアンスだけで行 動する恐れがある。よって、保育の中で数字を 音として扱う際は、カウンティングだけではな く保育者Cや保育者Dのように「歌」を用いる ことや、「手あそび」を用いることも必要であ ると考えられる。 (5)時計  このカテゴリーは、幼児が時計を見ることに よって時間を捉えることを表わしている。  「時計」に関しては、年中児を担任してい る保育者Cと保育者Dからのみ回答が得られた。 回答にもあった、時計に印をつける工夫は、ま だ数字を読み取れない幼児にとって有効な手段 だと考えられる。そして、他カテゴリーで年中 児が数字を扱っていることから、時計に関して は幼児の発達に沿った工夫を行いながらも、数 字を積極的に取り入れていいのではないかと考 える。 (6)語彙  このカテゴリーは、保育者が保育の中で数量

(6)

に関する語彙をどのように扱っているかを表わ している。  本カテゴリーについて回答したのは、保育者 Bと保育者Gだけであった。このことから、数 量を保育に取り入れる保育者は多いが、語彙に 意識を向ける保育者は少ないのではないだろう か。また、回答した2名の保育者は調査対象者8 名の中でも勤務年数が長いため、数量に関する 語彙の使用は、保育経験と関係している可能性 もある。 (7)図形遊び  図形遊びとは、様々な図形に触れ合い、折り 紙等身近なものを用いてそれらを構成するよう な遊びである。この図形遊びに関しては幼児の 年齢によって実践の有無に差が見られなかった。 しかし、内容から、年少クラスでは「作ってみ る」や「親しむ」というように、図形に触れる ことをねらいとしており、「おせんべい」や 「タイヤ」など、具体的な物を用いて保育を行 っている。年中クラスでは、年少のような具体 物を用いず、三角や四角など図形そのものの名 称を用いて保育を行っており、図形の特徴につ いても説明している。年長クラスでは、家の展 開によって、図形を空間的に把握するような保 育が実践され、年長児は展開された家であって も、床や天井の位置を把握しているようである。 このことから、幼児が行う図形の把握は年齢を 追うごとに抽象度が増し、保育者の援助次第で は、三次元的な認識の可能性についても考えら れる。 3)幼稚園教育要領に対する保育者の意識  質問③における、幼稚園教育要領の数量に関 する項目に対する保育者の意見は、「幼稚園教 育要領に対する必要感」、「内容の確認」、「内 容の理解」、「研修等の必要性」の4つのカテゴ リーに分けて捉えることができた。カテゴリー ごとに保育者の回答を表3に示した。 (1)幼稚園教育要領に対する必要感  このカテゴリーは、現場の保育者が幼稚園教 育要領をどの程度必要だと感じているかについ て表わしている。  ここでは8名中5名が「必要」と回答した。ま た、「不必要」と回答した保育者はいなかった。 「必要」だという理由について、「固まった自 分の保育を修正する」や「原点回帰」など、改 めて内容を確認することで自分の保育を見つめ なおすという趣旨のものが多かった。 (2)内容の確認  このカテゴリーでは、幼稚園教諭が数量教育 を行う中で、幼稚園教育要領の内容を確認して いるのかについて表わしている。  まず、確認の有無について、「確認しない」 という保育者が多かった。しかし、保育者Dの 話から、研修等があれば内容を確認するとのこ とであった。前カテゴリーの「幼稚園教育要領 に対する必要感」では、保育経験が増すほど必 要感も増すと考えたが、本カテゴリーでは比較 的保育経験の多い保育者が「確認しない」と答 えていることから、「必要感」があったとして も研修等の機会がない限り内容までは確認しな いことがわかった。 (3)内容の理解  このカテゴリーでは、保育内容「環境」に示 される数量に関する項目の内容を理解できるか について表わしている。  内容の理解について、「日常生活」という言 葉が重要だという意見が多かった。保育経験を 積むことによって「日常生活」という文言を理 解できるようである。現に、今回の調査では、 保育経験が10年を超える保育者から「理解でき る」という意見が多く集まり、若手保育者から

(7)

は「理解できる」という声が上がらなかった。 また、内容の理解が困難であれば、保育者Cや 保育者Dのように解説書を求める意見があるこ とも妥当である。 (4)研修等の必要性  このカテゴリーでは、幼稚園教育要領に関す る研修等の必要性について表わしている。  研修等の必要性に関して、8名中7名の保育者 から「必要」という回答が得られた。必要だと する理由については、「保育者同士の交流」と 「勉強」が挙げられる。保育者Eが、「その保 育者の感覚だけで内容を捉えることになって しまう」と言ったことからも、現場の保育者は 研修を通して他の保育者と交流し、意見を交え ながら勉強しようとしていることがうかがえ る。ただし、カテゴリー「内容の確認」の中で、 「確認する」と答えた保育者が1名だけであっ たことから、現場の保育者は「幼稚園教育要領 は研修で確認するもの」という意識をもってい る可能性もある。 〔幼稚園教育要領に対する必要感〕 ・経験豊富だから幼稚園教育要領が不要というわけではない。新人にとってもベテランにとっても今の幼稚園教育要領が原点に なる。そのため、何年目にとっても原点回帰という意味で必要だと思う。(B) ・学生の時には、ほんとにこんなのいるのかと思っていた。働くと必要だと思う。(C) ・長く働いているうちに、自分の中で良いも悪いも出来上がってしまうため、そこを修正するためにも必要だと思う。(D) ・保育をする時には幼稚園教育要領の内容を意識しなければならないと思う。指針という意味でも幼稚園教育要領は必要だと思 う。(E) ・改めて見ると幼稚園教育要領を意識して保育しなければならないと思うし、幼稚園教育要領は必要だと思う。(G) 〔内容の確認〕 〈確認する〉 ・自分がねらいをたてる時や研修で分からないことがあれば、幼稚園教育要領に立ち戻って確認するようにしている。(B) 〈確認しない〉 ・研修などの機会がないと、わざわざ見ないと思う。(D) ・これまで保育をしてきて、行き詰った際に幼稚園教育要領を見ようと思ったことはない。(E) ・悩んだ時に見たことはないと思う。(F) ・毎日保育をする中で、いちいち幼稚園教育要領を見ようとは思わない。(G) 〔内容の理解〕 〈理解できる〉 ・「関心をもつ」というねらいに対して、今の子どもの姿から子どもに足りていない経験や能力を把握し、次の活動を設定する ため、幼稚園教育要領は理解できる。(B) ・経験のない人がこれを見ただけでは、意味が分からないと思う。「日常生活」の意味を読み取るには、経験と勉強と知識が必 要。働いている内にわかってくる。(F) ・保育経験を積むと、「日常生活」という言葉がポイントだという意味がわかってくる。(G) 〈理解が難しい〉 ・幼稚園教育要領だけではわかりにくいため、初めから解説書だけでよい。(C) ・さらに詳しく書いてある本がほしい。(D) 〔研修等の必要性〕 ・幼稚園教育要領についての研修会や相談会はあった方が内容を確認しなおして、次これやってみようということに繋がる。(A) ・一旦現場に入ると、時間がないため幼稚園教育要領を確認する機会がなくなると思う。だからこそ、園内で機会を設けて定期 的に内容を確認し、先生同士で話し合うことが必要だと思う。(B) ・他の先生の研修報告を聞いて、勉強になることが多いため、研修は大事だと思う。(C) ・研修会や相談会があった方が勉強できる。長く働けば働くほど、自分の中での保育のやり方、考え方は固まってくるため、色 んな人の意見を聞き、取り入れて新たな保育方法を習得することが必要だと思う。(D) ・教えてもらわないと、その保育者の感覚だけで幼稚園教育要領の内容を捉えることになってしまうため、勉強会や相談会はあ った方がよい。(E) ・研修だと経験豊富な先生から話をきけるためあったほうがよい。(H) ・研修会もさることながら、他の先生との相談会や意見交換の場が大事だと思う。(G) 表3 幼稚園教育要領の数量に関する項目についての感想や考え

(8)

4)就学までに行いたい数量教育  質問④の、子どもが小学校へ入学するまでに 行いたい数量教育と獲得することが望ましい数 量能力については、「興味・関心や感覚を養 う」と「数量能力を養う」の2つのカテゴリー に分けて捉えることができた。カテゴリーごと に保育者の回答を表4に示した。 (1)興味・関心や感覚を養う  このカテゴリーは、幼児が生活や遊びの中で 数量に対する興味・関心や感覚を養うことにつ いて表わしている。どの保育者も「生活や遊び の中で」を前提としながら、幼稚園では数量に 興味や関心をもてることが大事だとしている。 また、子どもの就学後を見据えて、幼児期に興 味や関心をもつことで就学後の学びでもつまず きにくくなるとの意見があった。幼児が「楽し い」と思える保育を行いたいという意見もあり、 やはり、保育者は幼児が興味・関心をもてるよ う保育を展開しようと意識している印象を受け る。では、数量能力に関して保育者はどう思っ ているのだろうか。 (2)数量能力を養う  このカテゴリーは、幼児が就学するまでに獲 得してほしい数量能力に関する保育者の願いを 表わしている。  前カテゴリーでは、保育者が幼児期の興味や 関心に重点を置いていることを確認した。しか し、本カテゴリーでは、幼児の数量能力につい て複数の保育者から意見があり、幼児の興味や 関心が大事だとする一方で、数量能力を幼児が 獲得することに期待している様子がうかがえ る。ただし、期待する能力の内容を確認すると、 「日付」や「時計」の理解、「1対1対応」など 生活面で困らないための能力が多く、ここでも 幼児の生活に重点が置かれていることがわかる。 4.総合考察  本調査から、現場の保育者は数量教育を実践 するにあたって幼児の生活や遊びを意識してい ることがわかった。また、幼稚園では興味・関 心を養うことが望ましいとした一方で、生活に 関わる数量能力を身に付けてほしいと願ってい ることも確認した。保育者が言うこれらのこと はすべて、幼稚園教育要領の内容に準じており、 幼稚園教育の指針にのっとったものであると言 えよう。数量教育に関する保育者の意識を考え 〔興味・関心や感覚を養う〕 ・幼稚園では数や量は子どもの生活や経験の中で捉えられればよいと思う。(A) ・まずは数えることが楽しいということを子どもが思えるようにする。(B) ・あそびの中で、なんとなくでも数に興味をもってくれたらよいと思う。(C) ・数字に興味があって関心があれば、小学校へ行って多少つまずいても挫けにくいと思う。(D) ・あそびの中で養えればよい。やっぱり、楽しいと思えることや関心が一番だと思う。(F) ・興味をもってもらいたい。興味をもてば、小学校へ行っても数量は伸びると思う。(G) ・小学校に入るまでに計算ができなくても、あくまで興味を持つくらいでよいのではないかと思う。(H) 〔数量能力を養う〕 ・とりあえず耳で覚えて、日付とかが分かればよいと思う。(A) ・まずは1対1対応ができるようになってほしい。(B) ・1とか2はわかっていた方が小学校で自分のクラスがわかるため必要だと思う。(C) ・年少ではそこまで数を意識しなくても、音で認識できる程度でよいのではないかと思う。(C) ・小学校までに数える方法を捉えてほしい。(D) ・1と1を合わせたら2になるくらいがわかればよいと思う。(D) ・時計がわかるようになってほしい。わかっていた方が小学校でスムーズに生活できると思う。(D) ・幼稚園では見たものをそのまま数えればよいと思う。(G) 表4 小学校へ入学するまでに行いたい数量教育と獲得が望まれる数量能力

(9)

るにあたって、幼稚園教育要領の数量に関する 内容や本調査における保育者の回答から、「日 常生活」という文言が重要であると考えた。保 育者が数量教育を行う際に幼児の生活を意識し ていることはすでに確認したが、意識の度合い には差があるのかもしれない。質問③の回答で は、保育経験の豊かな保育者からのみ「日常生 活」に関する回答が得られた。「日常生活」は 保育経験を積むことによって一層意識されるも のなのではないだろうか。  保育者は、最近子どもが何をして遊んでいる のか、何に興味を持っているのか、子どもの発 達はどうかなど、その時々に応じた子どもの姿 を想像できなければ子どもの生活に重点を置い た保育を行うことは難しい。そのため、数量を 生活の中に落とし込んで保育を行うことも困難 になる。逆に、子どもの姿を正確に捉えること ができれば、子どもの生活に合わせた保育を行 いやすくなり、子どもの興味や関心に沿って数 量を保育に取り入れることが可能になってくる のではないだろうか。この「子どもの姿を捉え る」という力が保育者の中で保育経験の増加と ともに養われ、結果的に「日常生活」の理解や 意識へ繋がると考えられる。 引用文献 天岩静子(2015)幼児が遊びの中で自発的に 用いる「計算」行動 共栄大学研究論集, 13,247-261 Antell,S. & Keating,D.(1983)Perception of numerical invariance in neonates. Child Development,54,695-701

Gallistel,C.R. & Gelman,R.(1992)Preverbal and verbal counting and computation. Cognition, 44,43-74 丸山良平(2004)幼稚園に就園する3年間で幼 児が獲得する計数技能の実態 上越教育大学 研究紀要,23,2,379-392 文部科学省(2008)幼稚園教育要領解説 フレ ーベル館,120-121 室久智雄(2009)生き物や植物、自然の事象に 関心をもつ−自然環境− 秋田喜代美・増田 時枝・安見克夫(編)新時代の保育双書 保 育内容「環境」 みらい,72-75 岡田耕一(1989)幼児の知的発達と教育につい て−「数量」教育を縁に− 武蔵野短期大学 研究紀要,4,163-171 榊原知美(2014)5歳児の数量理解に対する 保育者の援助 日本保育学会保育学研究  52,1,19-30 白石崇人(2013)幼児教育の理論とその応用 2 保育者の専門性とは何か 社会評論社, 135-136 浦上萌・杉村伸一郎(2017)幼児における数の 位置の見積もりは数量表象に基づいているの か? 科学教育研究,41,3,295-302 山名裕子(2005)幼児における配分方略の選 択:皿1枚あたりの数の変化に着目して 発 達心理学研究,16,2,135-144

参照

関連したドキュメント

かであろう。まさに UMIZ の活動がそれを担ってい るのである(幼児保育教育の “UMIZ for KIDS” による 3

では,フランクファートを支持する論者は,以上の反論に対してどのように応答するこ

長尾氏は『通俗三国志』の訳文について、俗語をどのように訳しているか

長尾氏は『通俗三国志』の訳文について、俗語をどのように訳しているか

今回は、会社の服務規律違反に対する懲戒処分の「書面による警告」に関する問い合わせです。

 英語の関学の伝統を継承するのが「子どもと英 語」です。初等教育における英語教育に対応でき

いてもらう権利﹂に関するものである︒また︑多数意見は本件の争点を歪曲した︒というのは︑第一に︑多数意見は

そうした開拓財源の中枢をになう地租の扱いをどうするかが重要になって