第37号(2021年 3 月15日発行)
説明的文章の読解過程における図表の機能と
文章構造の関連
説明的文章の読解過程における図表の機能と
文章構造の関連
1.問題の所在 本研究は,説明的文章の構造理解に資する図表活用の基盤として,小学校国語教 科書所収の説明的文章教材の図表は文章の構造に関わってどのような情報を提示 し,どのような機能を果たすのかについて考察するものである。 2000年より OECD が実施している PISA 調査において非連続型のテキストの読 解についての問題が出題されて以降,図表を含むテキストの読解力が注目されてきた。 坂田(2004)は,小学校国語教科書(光村図書,東京書籍,教育出版)の説明的 文章教材を対象に,そこに配された図表の提示のされ方や本文と図表の関係を分析 し,説明的文章における図表の機能を検討した結果,図表の機能を8分類に整理し (表1),教材の内容の系列や学年によって配される図表に傾向があることを明らか にした。その上で,図表を活用しながら文章を読む学習は,図表から情報を読み取 る力を身に付けさせるとともに,文章の巧みさや妥当性を考えるなど,より豊かな 読みの力の獲得につながるとしている。 図表を活用した読みの授業の実践研究には青山(2013)がある。青山は,説明的 文章教材の図表活用と読解過程における図表化活動の両者を含めて「説明的文章の 理解に図表を生かすことは効果的であると共に,情報獲得の能力として求められて いる」(p.47)とした上で,小学校低学年における「具象的な図化方略」を提唱した。 「具象的な図化方略」とは,表や構造図によって論理を抽象的・象徴的に示すので はなく,具体的な絵図を描きながら内容把握を行う方略である。さらに絵図を描く ことを苦手とする児童の存在を考慮して,教師が準備したペープサートを操作する 活動を考案した。福 政 武 彦
表1 坂田(2004)の図表分類 (1)本文で述べられている事象やその特徴を示す。 ①本文と密接な関連はない。 ②本文と密接な関連を持ち,本文で述べられている事象やその特徴の正確な理解を助ける。 (2)本文で述べられている内容に対して補足的・発展的な内容を示す。 (3)本文で述べられている内容に対する具体例を示す。 (4)本文で述べられている内容の結果に対する原因を示す。 (5)一連の図表を通して本文の時間的順序や文章構成の順序を示す。 (6)図表相互の対照を通して,本文で述べられている内容を示す。 (7)その他(本文で述べられているイメージを示す など)心理学の分野でも説明的文章に図表を付加したことによる読解の効果の研究がな されてきた。岸ら(2011)は,「図表から読む」または「図表を参照しながら本文 を読む」ことが読解に有効であることを明らかにした。その中で,調査協力者であ る大学生が「図表先行」または「図表を参照しながら」の読み方をしないことが多 い理由について「学校で教科書を読む際には,本文が学ぶ対象とされ,まわりの図 表は理解を補助するためのものとして扱われることが多い」(p.185)からではない かと述べている。これは,国語科教育に対する図表を活用した読解指導の不十分さ の指摘と受け止めることができる。 文字言語に留まらない複合的なメディアに触れる機会は,これらの研究以降もま すます日常的になってきている。換言すれば,文字言語のみで情報を伝えるメディ アは一般的でなくなっていくということでもある。図表を活用してテキストを読解 する能力は,学習者にとって今後さらに重要となると言ってよいだろう。 そのような中,『小学校学習指導要領(平成29年告示)』では,小学校第5,6学 年の「読むこと」の内容として「目的に応じて,文章と図表などを結び付けるなど して必要な情報を見付けたり,論の進め方について考えたりすること」と示された (p.37)。『中学校学習指導要領(平成29年告示)』でも,中学校第2学年の「読むこと」 の内容として,「文章と図表などを結び付け,その関係を踏まえて内容を解釈する こと」と示された(p.34)。これらは,図表を活用して文章を読むことが,「読むこと」 の内容として明確に位置付けられたということである。また,第5,6学年におけ る「目的に応じて」とは,解決すべき課題に応じて学習者自身が図表の活用を選択 するということだと考えられる。つまり,学習者自身がその読解過程において意図 的・自覚的に図表を活用していく力が求められているのである。 さらに,『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 国語編』は上記の小学校 第5,6学年の「読むこと」の内容について「文章と図表などを結び付けるなどし て読むとは,文章中に用いられている図表などが,文章のどの部分と結びつくのか を明らかにすることによって,必要な情報を見付けたり,論の進め方を捉えたりす ること」と解説している(p.148)。ここでは,読むことの能力としての図表活用は, 内容理解と構造理解の両面に関わるものであることが明確にされている。 以上から,今後は読むことの能力の一つとして「学習者自身が意図的・自覚的に, 内容理解・構造理解の両面から図表を活用する力」を国語科の学習の中で育成して いくことが求められると言える。 その一方で,『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 国語編』が,図表を 活用して読むことの具体として明示しているのは「図表などが,文章のどの部分と 結びつくのかを明らかにすること」のみである。そこからどのような思考,または その表出としての学習活動を経て「必要な情報を見付けたり,論の進め方を捉えた りすること」に至るのかは十分に明らかにされていない。特に「本文と図表の結び つきを明らかにすること」から「論の進め方を捉えること」への道筋,即ち構造理 解へ至る過程はあまりにも不明であり,具体的な授業づくりにはつなげにくい。 前述の先行研究においても,図表を文章の構造理解に生かすという視点は十分と
は言えない。坂田(2004)の図表の機能の8分類では,構造理解に関わる分類は一 つだけであった。また青山(2013)が「具象的な図化方略」として取り上げている 実践事例は,「さけが大きくなるまで」(教育出版2年上)を教材に,鮭の成長段階 と生育場所の因果関係を段落ごとに捉えさせていくものである。図表を活用した読 みが「段落ごと」であることから,文章の内容理解に重きが置かれていると言える。 岸ら(2011)は,図表を含むテキストにおいて,「図表先行型」「本文先行型」とい う読み方の違いによる文章の理解度を測定した。そこでは理解度の測定が単語また は文の再生問題で行われており,文章の内容理解に留まったものだと推察される。 このように読解過程における図表活用の研究は文章の内容理解に偏ってきた現状 があるのだが,図表を活用して文章の構造をとらえるような授業実践やその研究が 広がっていくためには,まずは図表と文章の構造にはどのような関連があるのかに ついて明らかにする必要があると考えた。 2.研究の方法 考察に当たっては,説明的文章の図表についての代表的な先行研究である坂田 (2004)に注目した。坂田の図表分類には,上述のように,構造理解の視点の不十 分さという課題が指摘できる。そこで,坂田の図表分類を現行の国語教科書(分析 当時,平成27年度版)の説明的文章教材に照らして検討し,その課題を精査した。 それを基に図表の機能を再整理し,文章の構造を踏まえた考察を行った。 また,前掲の先行研究に倣って,グラフ・表・図・写真・イラスト等,本文以外 で示される視覚的情報を「図表」と呼び,そこに付されたキャプションもその一部 として考えることとした。 なお坂田(2004)の分類による分析は,論考の中に明記された各分類の定義を基 に,稿者が単独で行った。各分類の定義や分析方法の詳細が不明であること,複数 名による分析を行えていないことから,客観性が若干低い面があることは否めな い。しかしながら,平成27年度版の小学校国語教科書に所収の全120教材,739の図 表について分析することで,全体の傾向を捉えるという分析の目的は果たすことが できると考えた。 3.小学校国語科教科書(平成14年度版及び27年度版)所収の説明的文章教材の図 表の比較分析 坂田(2004)の図表の機能分類(表1)によって,平成27年度版の小学校国語教 科書(光村図書,東京書籍,学校図書,教育出版,三省堂の5社)に所収の説明的 文章教材を対象に,そこに配された図表の分析を行った。その分析結果の図表数と 比率を,平成14年度版を対象とした坂田の分析結果(p.62)と比較すると,表2の ようになった。 比較分析の結果から,説明的文章教材に配された図表の傾向として,次のような 点を指摘することができる。 第一に,平成27年度版の分析結果で最も割合が多かったのは,(1)②「本文と密
接な関連を持ち,本文で述べられている事象やその特徴の正確な理解を助ける」 (80.2%)である。これは,坂田の分析結果と共通している。しかしながら,その 割合が坂田(2004)では44.0%であるのに対し,80.2%へと30ポイント以上も増加 している。これと対をなして,(1)①「本文で述べられている事象やその特徴を示 すが,本文と密接な関連はない」ものは,坂田(2004)の27.0%から8.5%へ20ポイ ント近く減少している。図表分類(1)②の多さについて,坂田は「図表が単なる 補助的なものではなく本文の理解を助ける大きな役割を果たしている」(p.62)と 指摘しているが,PISA 調査の結果を受けて非連続型テキストの読解の重要性が認 識されたことにより,さらにその傾向が強まったと考えられる。 第二に,坂田(2004)では15の図表が認められた(4)「本文で述べられている内 容の結果に対する原因を示す」であるが,稿者の分析ではこの分類に当たるものは 認められなかった。坂田(2004)でこの分類に当たると判断された図表が付加され た教材は,「自然のかくし絵」(東書3年),「いるかのひみつ」(教出3年),「一秒 が一年をこわす」(光村5年),「動物の体」(東書5年),「人類よ、宇宙人になれ」(教 出6年)の5教材である。このうち「いるかのひみつ」「一秒が一年をこわす」は 27年度版の教科書には所収されていない。「自然のかくし絵」と「動物の体」(27年 度版では「動物の体と気候」となっている)においては,本文に述べられている結 果に対する原因と判断できる図表はあるものの,そこで示されている原因はすでに 本文で述べられているものであった。これは「学習者は本文で述べられていない原 因について,図表から読み取ることになる。このような図表が,図表分類(4)」(p.64) という坂田の定義には当てはまらないと考えられたため,稿者の分析ではこの分類 には含めなかった。 第三に,(5)「一連の図表を通して本文の時間的順序や文章構成の順序を示す」 表2 平成14年度版と平成27年度版小学校国語科教科書所収の説明的文章教材の図 表分析結果(坂田(2004)の分類による) 平成 14 年度版(坂田による) 平成 27 年度版(稿者による) 図表総数 382 739 図表分類 (1)①密接な関連なし 103(27.0%) 63( 8.5%) (1)②密接に関連 168(44.0%) 593(80.2%) (2)補足・発展 34( 8.9%) 99(13.4%) (3)具体例 40(10.5%) 54( 7.3%) (4)原因 ・ 結果 15( 3.9%) 0( 0.0%) (5)時間 ・ 文章構成の順序 36( 9.4%) 159(21.5%) (6)図表相互の対照 57(14.9%) 113(15.3%) (7)その他 36( 9.4%) 40( 5.4%) ※( )内は各年度の総図表数を総数とする比率を示す。 ※坂田の分析は光村・東書・教出の3社,稿者の分析は光村・東書・教出・学図・三省堂の5社を対象として いる。そのため,図表総数が大きく異なっている。
について,坂田(2004)では全体の9.4% であったものが,稿者の分析では全体の 21.5% と倍以上の割合となった。この分類は,分類名に「一連の図表を通して」と あるように,複数の図表から生まれる機能である。よって,ある教材でそうした図 表が認められれば,一気に数が増えるものである。そのため,単純に図表数だけの 比較でその傾向を語ることはできない。そこで,この分類が認められた教材数で考 えると,稿者が分析対象とした120教材のうち28教材,23.3% であった。その実態 も踏まえれば,やはりこの分類に当たる図表の割合が多いという傾向は指摘でき る。これは,上記第一の指摘と同様に,PISA 調査の結果から非連続型テキストの 読解の重要性が認識されたことに因るものと考えられる。 4.坂田(2004)の図表分類の課題 分析を進める中で,坂田の分類項目や分析の観点について,次のような課題が浮 かび上がってきた。 第一の課題は「1.問題の所在」でも述べたことであるが,「文章の構造」とい う視点の不十分さである。一方で,坂田の図表分類のうち,構造理解に関わるもの は唯一「(5)一連の図表を通して本文の時間的順序や文章構成の順序を示す」のみ であり,他の分類は内容理解に関わるものである。稿者の分析によれば,分類(5) と判断された図表は全体の21.5%であった。そうすると,残り約8割の図表は構造 理解に活用することができないということになる。さらに教材数で見てみると,分 類(5)の図表が配されていたのは120教材中28教材であった。そうなると残りの 3/4,92教材については,本文の構造理解に図表を活用することはできないという ことになってしまう。 岸(2004)は,ボトムアップ処理を「視覚や聴覚を通じて入力されてきた言語情 報について,まず単語,句,文のレベルで意味を解釈し,それをもとに,文の間や 段落の間での意味関係をとらえてより大きな単位の意味に次つぎにまとめていき, 最終的に文章全体の意味を表わしたもの(表象:representation)を作って記憶す る過程」とする。また,トップダウン処理を「理解のときに,文章全体の構造につ いての知識を使って文章の展開を予測し(森・中條,1998),一つひとつの文や段 落の働きをはっきりさせる,文章の論理構造をとらえて次の内容を予測する (Marcus,1982;綿井・岸,1990),先行知識を使って意味内容を推論する(Keenan etal.,1990;Kintsch,1993),などの過程」とする。その上で,「文章を理解する 過程では,ボトムアップ処理とトップダウン処理の双方を必要に応じて使い分けな ければならない」と述べている(pp.9-10)。 一方,坂田は,分析の観点を「図表が本文のどの叙述に対応しているか,本文と 図表との関連性を見た場合,図表からはどのような情報が読み取れるか,また,同 一教材に扱われる図表相互はどのような関係にあるか」(p.60)としている。ここ には,「文章の構造」という視点は明示されていない。 しかしながら文章理解にボトムアップ処理とトップダウン処理が必要であるなら ば,学習者が説明的文章の理解に図表を活用する際にも文章全体の構造についての
知識が影響すると考えられる。そうすると,説明的文章教材の図表の機能について の分析は,図表そのものが示す情報やそれに対応する叙述についてだけでは十分で ないと言える。即ち,読解過程における図表の機能をより精緻に捉えるためには, その図表が文章構造上のどのような位置に配されたかも踏まえて分析する必要があ ると考えられる。 第二に,分類項目の不明確さ,未整理という点である。例えば,分類「(1)本文 で述べられている事象やその特徴を示す」の下位項目として,「①本文と密接な関 連はない」と「②本文と密接な関連を持ち,本文で述べられている事象やその特徴 の正確な理解を助ける」がある。坂田は,(1)①と(1)②の差異を本文との密接 な関連の有無としている。しかしながら,本文と図表の関連の仕方は多様である。 それを密接か否かで二分することは果たしてできるのだろうか。ある図表が「(1) ①本文と密接な関連はない」,正確な理解を助けるものではないと分類されたとし て,その図表の読解過程における機能をどう考えればよいのか。その図表が教材を 構成する一部としてある以上,教材の筆者,編集者には意図があり,読解過程にお いて何らかの機能が期待されていると考えるべきであろう。そうすると,その機能 は少なくとも「関連はない」という否定形で説明されるべきものではないと言える。 同様に「(2)本文で述べられている内容に対して補足的・発展的な内容を示す」 と「(3)本文で述べられている内容に対する具体例を示す」の分類にも検討の余地 がある。(2)の中の「補足」と「発展」はどのように区別するのか,それらは分け て考える必要はないのか。また,分類(3)の図表が示す「具体例」は本文に述べ られていないものであるから,それは「補足している」ということであり,(2)に 含まれるとも考えられる。そうすると,(2)の図表が「補足」するものは「具体例」 以外にはどのようなものがあるのか,それは新たな分類項目とならないのかといっ た疑問が生まれる。 第三に,経年による信頼性の低下である。図表を含むテキストの読解力が注目さ れるようになったきっかけは,2000年より実施されている PISA 調査における非連 続型のテキストの読解についての出題であった。それは,坂田(2004)が分析の対 象とした平成14年度版の教科書が発行されたのとほぼ同時期であり,非連続型テキ ストの重要性が認識されたのはそれ以降のことである。それから15年以上経った現 在では複合的なメディアがますます一般的になってきている。そうした状況の変化 が教科書教材の選定・編集にも少なからず影響を与えている,つまり,教科書教材 における図表の位置付けが変わっている可能性を考えると,坂田の研究成果をその まま援用することはできない。前述のとおり,図表の分析結果が大きく変化してい ることを踏まえれば,図表の機能分類についても新たな枠組みが必要となる可能性 がある。 以上,坂田の図表分類には,文章構造の視点の不足,分類項目の未整理,経年に よる信頼性の低下という課題があり,再整理が必要であると考えた。
5.文章構造の視点からの図表の傾向分析 図表の機能の分析・考察に文章構造の視点を持ち込むことの妥当性を確かめるた め,さらにもう一つの検討を行った。それは,前述の坂田の分類による平成27年度 版小学校国語教科書所収の説明的文章教材の図表の分析結果を,その図表が文章構 造上のどのような位置に配されたものかという観点で再整理するものである。 文章構造上の位置については,具体的には「序論部・本論部・結論部」というい わゆる三段構成のいずれに配されたかを分析することとした。それは,今回の分析 対象が小学校の国語教科書であることによる。小学校の教科書では,説明的文章教 材の構造を「初め・中・終わり」で捉えることが一般的である。例えば,光村図書 発行の小学校国語教科書(平成27年度版)では,2年下に所収の説明的文章教材「お にごっこ」の学習の手引きのページに「初め・中・終わり」という文章の構成が登 場する。その後,6年生までの全ての学年の教科書に「初め・中・終わり」という 構成が示されている。所収の教材自体も概ね,そのような構成で述べられていた。 「初め・中・終わり」という用語自体は,厳密には順序しか表していない。しか しながら,教科書の学習の手引きからその内実を見ると,「初め」では話題提示や 問題提起が行われ,「中」では事例を挙げて説明がなされ,「終わり」で文章全体の まとめがされており,これは三段構成の「序論・本論・結論」に当たるものである。 ここから,小学校国語教科書所収の説明的文章教材の構造をとらえる観点として三 段構成を採用することは,一定の妥当性があると考えた。 この分析の結果は,表3のようになった。ここから,序論部・本論部・結論部に 配された図表について,以下のような特徴的な傾向を見出すことができた。 序論部では,図表分類(1)②に次いで多い,(1)①「本文で述べられている事 象やその特徴を示すが,本文と密接な関連はない」,(6)「図表相互の対照を通して, 本文で述べられている内容を示す」が特徴的である。(1)①は本論部で2.2%に対 して序論部で45.3%と,40ポイント以上高い。(6)は本論部で14.0%に対して序論 表3 序論部・本論部・結論部別の図表の分析(坂田(2004)の分類による・平成 27年度版小学校国語教科書) 序論部 本論部 結論部 その他 図表数 106 558 57 18 (1)①密接な関連なし 48(45.3%) 12( 2.2%) 1( 1.8%) 2(11.1%) (1)②密接に関連 57(53.8%) 509(91.2%) 17(29.8%) 10(55.6%) (2)補足・発展 17(16.0%) 54( 9.7%) 25(43.9%) 3(16.7%) (3)具体例 15(14.2%) 27( 4.8%) 12(21.1%) - (4)原因 ・ 結果 - - - - (5)時間 ・ 文章構成の順序 - 155(27.8%) - 4(22.2%) (6)図表相互の対照 29(27.4%) 78(14.0%) 4( 7.0%) 2(11.1%) (7)その他 2( 1.9%) 8( 1.4%) 27(47.4%) 3(16.7%) ※( )内はそれぞれ序論部,本論部,結論部,その他の図表数を総数とする比率を示す。
部で27.4%と,10ポイント以上高くなっている。 本論部ではまず,(1)②「本文と密接な関連を持ち,本文で述べられている事象 やその特徴の正確な理解を助ける」の図表の多さが挙げられる。序論部で53.8%, 結論部で29.8% であるものが,本論部では91.2%であり,特徴の一つと言える。また, (5)の「一連の図表を通して本文の時間的順序や文章構成の順序を示す」に当たる 図表も特徴的である。序論部・結論部には(5)に当たる図表は認められず,その 他を除くと全てが本論部の図表である。 結論部では,57の図表の約半数に当たる27の図表が(7)の「その他(本文で述 べられているイメージを示す など)」に当たることが特徴として挙げられる。坂 田(2004)では「その他」として括られているが,今回の分析で,これに当たる27 の図表は全て「本文で述べられているイメージを示す」ものであった。ここから, これらの図表は結論部の読解において何らかの特徴的な機能を有すると言えるだろ う。 この分析から,本文の序論部 ・ 本論部 ・ 結論部に配された図表には,それぞれ特 徴的な傾向があることが見出された。ここから,図表の機能の考察に文章構造の視 点を持ち込むことの妥当性を確かめることができた。 6.文章構造を踏まえた図表の機能分類の提示 平成27年度版の小学校国語教科書(光村図書,東京書籍,教育出版,学校図書, 三省堂)に所収の説明的文章教材に配された図表を対象に,文章構造を踏まえた検 討を行った。具体的には,坂田(2004)の分類を念頭に置きつつ「それぞれの図表 が本文の序論部・本論部・結論部のどこに配されているか,各部の文章構造上の役 割を踏まえた時,学習者の読解過程において図表はどのような機能を果たすのか」 という観点で分析した。分析の具体を「すがたをかえる大豆」(光村図書3年)を 例として表4に示す。 そうした分析を120教材,739の図表に対して行った結果,図表の機能を表5の「文 章構造を踏まえた図表の機能分類」に整理することができた。 この分類の最たる特徴はA「話題提示や問題提起に関わって,本文全体に関わる 題材への関心を高める 」 とF「筆者の主張等,抽象度の高い叙述に対応して,本文 の内容のイメージを伝える 」 にある。分類Aの図表の多くは,表3の坂田(2004) の分類による分析で(1)①「本文で述べられている事象やその特徴を示すが,本 文と密接な関連はない」と判断されたものである。それらの図表は,本文の序論部 に多く配されており,本文全体の題材や問題に関わるものが多かった。そこから, 学習者が序論部を読みながらこれらの図表を参照する際に,本文全体の題材や問題 への関心を高める機能があると推察することができた。そこで,A「話題提示や問 題提起に関わって,本文全体に関わる題材への関心を高める 」 を分類項目の一つと した。 分類Fの図表は,坂田(2004)の分類による分析で「(7)その他(本文で述べら れているイメージを示す など)」と判断されたものに対応する。それらの図表は,
表4 文章構造を踏まえた図表の機能の分析例「すがたをかえる大豆」 図表の 位置 図表の概要 読解過程における図表の機能 序論部畑から収穫したダイズの写真 11-1 「…多くの人がほとんど毎日口にしてものがあります 。 なんだか分かりま すか 。 それは,大豆です」という叙述に対応し題材への関心を高める。 11-1 ~ 2 の参照によって「大豆は,ダイズという植物のたねです」とい う叙述の正確な理解を助ける 。 序論部さやから出した大豆の写真 11-2 「…多くの人がほとんど毎日口にしてものがあります 。 なんだか分かりま すか 。 それは,大豆です」という叙述に対応し題材への関心を高める。 11-1 ~ 2 の参照によって「大豆は,ダイズという植物のたねです」とい う叙述の正確な理解を助ける 。 本論部 いり豆の写真11-3 「いると,豆まきに使う豆になります」という叙述の理解を助ける。11-3~ 11 の参照を通して,文章構成の理解を助ける。 本論部 に豆の写真11-4 「水につけてやわらかくしてからにると,に豆になります」という叙述の理解を助ける。11-3 ~ 11 の参照を通して文章構成の理解を助ける。 本論部 きなこの写真11-5 「もちやだんごにかけるきなこは,大豆をいって,こなにひいたものです」という叙述の理解を助ける。11-3 ~ 11 の参照を通して,文章構成の理解 を助ける。 本論部(3枚一組)豆腐の写真 11-6 「その後,ぬのを使って中身をしぼりだします。しぼり出したしるににが りというものをくわえると,かたまって,とうふになります」という叙述 に対応し,完成までの時間的順序の理解を助ける。11-3 ~ 11 の参照を通 して,文章構成の理解を助ける。 本論部 納豆の写真11-7 「ナットウキンの力をかりたのが,なっとうです」という叙述の理解を助ける。11-3 ~ 11 の参照を通して,文章構成の理解を助ける。 本論部 味噌の写真11-8 「コウジカビの力をかりたものが,みそやしょうゆです」という叙述の理解を助ける。11-3 ~ 11 の参照を通して,文章構成の理解を助ける。 本論部 醤油の写真11-9 「コウジカビの力をかりたものが,みそやしょうゆです」という叙述の理解を助ける。11-3 ~ 11 の参照を通して,文章構成の理解を助ける。 本論部 枝豆の写真11-10 「ダイズを,まだわかくてやわらかいうちにとり入れ,さやごとゆでて食 べるのが,えだ豆です」という叙述の理解を助ける。11-3 ~ 11 の参照を 通して,文章構成の理解を助ける。 本論部 もやしの写真11-11 「また,ダイズのたねを,日光に当てずに水だけをやって育てると,もやしができます」という叙述の理解を助ける 。11-3 ~ 11 の参照を通して, 文章構成の理解を助ける。 結論部 だいず畑の写真11-12 「やせた土地にも強く,育てやすいことから,多くのちいきで植えられた」に関連し,「昔の人々のちえにおどろかされます」というイメージを伝える。 本文の結論部に多く配されていた。具体的な内容は伝えないものの,結論部に書か れた筆者の主張と強く関連して,そのイメージを伝えるものであった。そこで,「そ の他」として括らずにF「筆者の主張等,抽象度の高い叙述に対応して,本文の内 容のイメージを伝える」という独立した項目とした。 これら二つの分類は,特に「それぞれの図表が文章の構造に関わる何らかの情報 を提示しているのではないか」という視点で再検討することで見出すことができた ものである。 そのほか,分類B・G・Hは,それぞれ坂田(2004)の(1)②,(5),(6)に若 干の修正を加えたものである。分類Bは,坂田の(1)②「本文と密接な関連を持ち, 本文で述べられている事象やその特徴の正確な理解を助ける」に対応している。 「4.坂田(2004)の図表分類の課題」で指摘した「密接な関連」という文言を「本
文と同等の内容を示す」として図表と本文の関係を明確にし,B「本文と同等の内 容を示すことで,本文の叙述の正確な理解を助ける」とした。分類Gは,(5)「一 連の図表を通して本文の時間的順序や文章構成の順序を示す」に対応する。ここに 分類される図表は「時間的順序や文章構成を示す」と言うよりも,本来は他の機能 (例えばBの機能)を意図して配された一連の図表を参照すると「結果的・副次的」 に時間的順序・文章構成の理解にも役立つという側面が強いと考えられた。そこで 「示す」という文言を避け,G「一連の図表の参照によって,本文の時間的順序や 文章構成の理解を助ける」とした。分類Hは(6)「図表相互の対照を通して,本文 で述べられている内容を示す」に対応し,「対照」を「参照」と若干の修正を加えた。 両者とも複数の図表を見比べるのであるが,「対照」とすると主にその差異に注目 することになる。しかしながら,対比的ではないが複数の図表が合わさって一つの 事象,概念を表すものも認められたために,H「図表相互の参照によって,本文の 内容を示す」とした。 またC・D・Eに関しては,坂田(2004)の「(2)本文で述べられている内容に 対して補足的・発展的な内容を示す」と「(3)本文で述べられている内容に対する 具体例を示す」に関連している。まず,(3)は本文に述べられていない具体例を「補 足」するものであり(2)に包含されるものであると考えた。その上で,(2)「補足・ 発展」に当たる図表について再度分析を行ったところ,C「本文の内容に関わって, 本文には述べられていない具体例を補足する」,D「本文の内容に関わって,本文 には述べられていない具体的な数値を補足する」,E「本文の内容に関わって,発 展的な情報を補足する」の三つに分類することができた。 さらに,分類I「本文中に図表参照の指示あり」は図表の機能を直接示すもので はないが,あえて分類項目の一つに加えた。光村図書5年の「天気を予想する」の 序論部には 「 東京地方の降水の予報精度(5年平均)」 の表が配されている。本文 には 「 上の表は,翌日に雨や雪がふるかどうかについて,気象庁が行った予報の的 中率を,五年ごとの平均でしめしたものです 」 と図表の参照を促す叙述があり,学 習者の目は表へと移行する。ここには,表の参照により,後に続く 「 これを見ると, 一九七〇年代には八十パーセントに満たなかった的中率がだんだん高くなり, 二〇〇〇年を過ぎると八十五パーセント以上になったことが分かります 」 という叙 A 話題提示や問題提起に関わって,本文全体に関わる題材への関心を高める。 B 本文と同等の内容を示すことで,本文の叙述の正確な理解を助ける。 C 本文の内容に関わって,本文には述べられていない具体例を補足する。 D 本文の内容に関わって,本文には述べられていない具体的な数値を補足する。 E 本文の内容に関わって,発展的な情報を補足する。 F 筆者の主張等,抽象度の高い叙述に対応して,本文の内容のイメージを伝える。 G 一連の図表の参照によって,本文の時間的順序や文章構成の理解を助ける。 H 図表相互の参照によって,本文の内容を示す。 I 本文中に図表参照の指示あり。 表5 文章構造を踏まえた図表の機能分類
述の説得力を高め,さらに続く問題提起への関心を高めようとする筆者の意図が窺 われる。この叙述がなければ,図表の参照は学習者に委ねられ,その文章理解には 違いが生まれるだろう。このように 「 図表参照の指示 」 が学習者の読解過程に及ぼ す影響は少なくないと考えて,分類項目の一つとしている。 7.文章構造を踏まえた図表の機能分類による分析と考察 平成27年度版小学校国語教科書に所収の説明的文章教材(全120教材)を対象に 表5の「文章構造を踏まえた図表の機能分類」によって,教材に配された図表の分 析を行った。その分析結果をそれぞれの図表が教材の序論部・本論部・結論部のい ずれに配されたものかという観点で整理すると表6のようになった。 以下,序論部・本論部・結論部ごとに,そこに配された図表の特徴について述べ た上で,総括的な考察を行う。 7.1.序論部の図表についての考察 序論部で特徴的なのは,図表分類A 「 話題提示や問題提起に関わって,本文全体 に関わる題材への関心を高める 」 の多さである。序論部の図表数106点の約9割, 96点の図表がこの分類に当たり,序論部以外でこの分類と認められたのは本論部と 表6 文章構造を踏まえた図表の機能分類による序論部・本論部・結論部別の図表 の分析(平成27年度版小学校国語教科書) ※( )内は,全図表数739を総数とする比率を示す。 図表の位置 計 序論部 本論部 結論部 その他 図表総数 (14.3%)106 (75.5%)558 (7.7%)57 (2.4%)18 739 A題材への関心 を高める (13.0%)96 (0.5%)4 - (0.4%)3 (13.9%)103 B叙述の正確な 理解 (7.7%)57 (69.0%)510 (2.3%)17 (1.4%)10 (80.4%)594 C具体例を補足 (2.0%)15 (3.7%)27 (1.6%)12 - (7.3%)54 D具体的な数値 を補足 (0.3%)2 (1.4%)10 - - (1.6%)12 E発展的な情報 を補足 - (2.3%)17 (1.8%)13 (0.4%)3 (4.5%)33 F文章の内容の イメージ (0.1%)1 (1.1%)8 (3.7%)27 (0.4%)3 (5.3%)39 G時間的順序や 文章構成 - (21.4%)158 - (0.5%)4 (21.9%)162 H相互の参照で 内容を示す (3.9%)29 (11.2%)83 (1.4%)10 (0.3%)2 (16.8%)124 I図表参照の指 示あり (1.6%)12 (11.6%)86 (0.1%)1 - (13.4%)99
その他を合わせてわずか7点であったことから,序論部の図表の大きな特徴と言える。 光村図書3年上「こまを楽しむ」では,日本にどのような種類のこまがあるかに ついて 「 色がわりごま 」「 鳴りごま 」 など8種類のこまを例に挙げ,その特徴と楽 しみ方という観点から述べられている。その序論部には,最も一般的な紐をかけて 遊ぶこまの写真が配されている。おそらく学習者が何度も目にしたことのあるこま であり,既知の情報と言える。言わば,この図表がなくとも学習者は文章を理解し ていくことができるわけである。しかしながら,この図表が序論部に配されている ことを考えると,また異なる機能を見出すことができる。この図表の参照によって, 学習者は経験を想起し,題材である 「 こま 」 に対する関心を高めていく。そして, 序論部末尾 「 どんなこまがあるのでしょう。また,どんな楽しみ方ができるのでしょ う 」 という叙述に関わって,文章から二つの問いの答えを見つけようという読みの 目的をもつだろう。 このように,序論部においては学習者に既知の情報を示す図表が配されている教 材が多く認められた。既知の情報であるために,一見必要性の低い図表に思われる。 しかしながら,話題提示と関連して既有知識を想起させ,問題提起に関連して読み の目的をもたせるという序論部の読みにおける重要な機能を有していると言えよう。 序論部における図表の特徴として,図表分類H「図表相互の参照によって,本文 の内容を示す」に当たる図表の多さも挙げられる。序論部の図表106点のうちの29点, 約1/3がこの分類に当たる。 東京書籍4年下 「 くらしの中の和と洋 」 では,日本の暮らしの中で 「 和 」 と 「 洋」 の良さがどのように生かされているかについて,和室と洋室を対比的に取り上げて 説明している。その序論部には,和装,洋装,和食,洋食,和風建築,洋風建築の 6点の写真が配されている。学習者は,このような事象について見たことはあるだ ろうが,それぞれを和,洋のグループとして区別して捉えることはあまり経験して いないだろう。これらの図表と本文を照らし合わせることで,学習者は 「 和=伝統 的な日本の文化にもとづくもの 」,「 洋=主として欧米の文化から取り入れたもの」 という概念を獲得することができる。さらに,ここで獲得した和,洋の概念は,序 論部末尾にある 「 ここでは,『衣食住』の中の『住』を取り上げ,日本のくらしの 中で『和』と『洋』それぞれの良さがどのように生かされているか,考えてみましょ う 」 という問題提起に関わって,本文を読んでその答えを見つけようとする読みの 目的をもつことにつながる。 このように,序論部における分類H「図表相互の参照によって,本文の内容を示 す」に当たる図表は,分類A「話題提示や問題提起に関わって,本文全体に関わる 題材への関心を高める」と複合的な役割を担う。つまり文章の題材が学習者にとっ て既知,身近な事象の場合,そこに配される図表も既知の情報となり,純粋にAの 分類となる。反対に,文章の題材が学習者にとって未知,身近でない,または複数 の事象から成る複雑な事象である場合は,複数の図表の提示によって話題や問題に 当たる内容の理解を助けるHの分類とAの分類の複合となる。今回の分析で,序論 部においてHに分類された図表は,全てAの分類にも当てはまると認められた。
以上から,序論部に配された図表は,文章構成の中で序論部が担う「題材への関 心を高め,読みの目的をもたせること」が主な機能だと言える。 7.2.本論部の図表についての考察 本論部の図表で最も多いのはB 「 本文と同等の内容を示すことで,本文の叙述の 正確な理解を助ける 」 に分類されるものである。Bに当たる図表は序論部,結論部 でも最も多いのだが,序論部では約半数,結論部では約1/3に留まるのに対し,本 論部では9割超であることから本論部の大きな特徴と言える。 光村図書5年 「 天気を予想する 」 では,天気予報の的中率が高くなった理由とそ れでも100%の的中が難しい理由,それに対処する方法が述べられている。その本 論部には,天気予報の的中率が高くなった理由の一つである科学技術の進歩の具体 例として,アメダスの観測装置や気象レーダーについて説明する叙述がある。しか しながら,それらを実際に見たことがないであろう学習者にとっては理解しづらい ものである。そこに配されているのが,アメダスの観測装置の写真と気象レーダー の画像である。これらの提示によって,学習者の本文の内容理解は大いに助けられ るであろう。 本論部の図表で2番目に多かったのはG 「 一連の図表の参照によって,本文の時 間的順序や文章構成の理解を助ける 」 に分類されるものである。 光村図書3年下 「 すがたをかえる大豆 」 では,8種類の大豆食品を挙げて,その ままでは食べにくく,消化もよくない大豆をおいしく食べる工夫について述べられ ている。この本論部に当たる第3,4段落では煎り豆,煮豆,きな粉が紹介され, それに対応してそれぞれの食品の写真が配されている。一見すると,前掲 「 天気を 予想する 」 の図表と同じくB「本文と同等の内容を示すことで,本文の叙述の正確 な理解を助ける 」 の機能を果たすようにも思える。しかしながら,煎り豆,煮豆, きな粉は学習者にとって概ね既知のものだと言えよう。そうすると,これらの図表 は学習者にとって,事例に取り上げている内容の正しい理解を助ける機能ももちな がら,文章構成の理解を助ける機能こそ重要だと考えられる。 以上,B 「 本文と同等の内容を示すことで,本文の叙述の正確な理解を助ける 」 とG 「 一連の図表の参照によって,本文の時間的順序や文章構成の理解を助ける 」 の多さが本論部の図表の特徴であるのだが,その関連については以下のように考え られる。 言うまでもなく,本論部では序論部の話題提示・問題提起を受けて事例を挙げな がら論が進められる。そうした事例は,学習者にとって未知の情報であることが多 い。だからこそ,そこでの図表がB 「 本文と同等の内容を示すことで,本文の叙述 の正確な理解を助ける 」 に当たるのは当然のことであろう。そして,本論部でBに 当たる図表が事例に対応するのならば,それらを順に見ていけば時間的順序や文章 構成が見えてくるはずであり,結果としてG 「 一連の図表の参照によって,本文の 時間的順序や文章構成の理解を助ける 」 に当たるものとなるのである。 今回の分析で,本論部でB 「 本文と同等の内容を示すことで,本文の叙述の正確
な理解を助ける 」 と判断される図表のうち,G 「 一連の図表の参照によって,本文 の時間的順序や文章構成の理解を助ける 」 の分類とするか否かが難しいものが多く あった。今回は相互の参照を意識したレイアウトになっているか,複数の事例に対 して連続して図表が配されているか等を判断の基準としたのだが,図表のみを並べ てみたり,図表がない事例を例外的に考えたりすれば,Gの分類と考えられる図表 はさらに多く認められたことも上記の考察を支持するものであろう。 7.3.結論部の図表についての考察 結論部の図表で最も多いのはF 「 筆者の主張等,抽象度の高い叙述に対応して, 本文の内容のイメージを伝える 」 図表である。結論部の図表57点のうちの約半数の 27点がこの分類に当たり,結論部以外の序論部・本論部・その他においてFの分類 に当たるものの合計12点を超えていることからも,結論部の図表の大きな特徴と言 える。 光村図書5年 「 生き物は円柱形 」 では,多くの生き物は円柱形が集まって作られ ていることを述べた上で,その理由について説明されている。その結論部には,1 枚のイラストが配されている。そこには,1本の木の下に腰を下ろす男性を中心に, 様々な生物が思い思いに生活している様子が描かれている。これは 「 生き物は実に 多様である 」 という文から始まる結論部に述べられた筆者の考えを表すイメージ的 なイラストである。本文との関連はあるが,その内容の正確な理解を助けるもので はない。イラストの各部分が何を表しているかというよりも,全体のイメージが文 章の終末2文 「『ああ,こんな生き方をしている生き物もいるのだ。』と,その多 様さを知ることはとてもおもしろい。それと同時に,多様なものの中から共通性を 見いだし,なぜ同じなのかを考えることも,実におもしろい 」 という叙述と呼応し て,本論で述べられた分析的なものの見方の面白さを学習者に訴え,筆者の主張を 間接的に強調するものだと言えよう。 このような図表分類F 「 筆者の主張等,抽象度の高い叙述に対応して,本文の内 容のイメージを伝える 」 に当たる図表が多く見られるという特徴は,主に本論部で 具体的に述べてきたことについて,抽象度を一段階上げて全体を総括するという結 論部の役割によるものであろう。抽象的,総括的な叙述だからこそ具体的な図表を 配することは難しく,本文と直接的に対応しない抽象度の高い図表が配されると考 えられる。 7.4.図表の機能と文章構造の関連についての総括 以上の分析・考察を通して得られた知見は次の3点にまとめることができる。 ⑴図表の果たす機能は文章構造における序論部・本論部・結論部の役割と密接に 関係している。序論部に配された図表は,文章全体に関わる題材についての叙述に 関わって,その後の議論の基礎となる情報・知識を提示するものが多い。それは, 学習者の文章に対する関心を高めたり,読みの目的を持たせたりすることにつなが る。本論部では,事例を挙げながらの説明に関わって,叙述と同様の内容を視覚的
に示すものが多い。それによって叙述の理解を強化したり,修正したりすることに つながる。結論部では,文章全体で述べてきたことについて総括する叙述に関わっ て,そのイメージを伝える図表が特徴的である。それによって,抽象的な結論を直 感的に捉えることが可能になると考えられる。これらは全て,それぞれ序論部・本 論部・結論部の役割に通じるものである。 ここから導き出される知見として⑵図表は本文の構造に関する情報を提示してお り,本文の構造を捉える手がかりとなる。例えばA「話題提示や問題提起に関わっ て,本文全体に関わる題材への関心を高める」やH「図表相互の参照によって,本 文の内容を示す」との図表が配されている部分は序論部である可能性が高いと言え る。同様に,B「本文と同等の内容を示すことで,本文の叙述の正確な理解を助け る」やG「一連の図表の参照によって,本文の時間的順序や文章構成の理解を助け る」の図表が配されていれば本論部,F「筆者の主張等,抽象度の高い叙述に対応 して,本文の内容のイメージを伝える」が配されていれば結論部の可能性が高いと 言える。 ⑶図表が果たす機能・図表が提示する情報を判断する際には,他の図表との比較 で考えることが有効である。例えば,序論部に多く配されるA「話題提示や問題提 起に関わって,本文全体に関わる題材への関心を高める」の図表は,読者にとって 既知性が高いものが多い。しかしながら,図表が提示する情報は単純に既知/未知 と二分できるものではない。そうなると,他の図表との比較によって,既知性・未 知性を判断する必要がある。また,本論部に多いB「本文と同等の内容を示すこと で,本文の叙述の正確な理解を助ける」や,結論部に多いF「筆者の主張等,抽象 度の高い叙述に対応して,本文の内容のイメージを伝える」の判断基準の一つであ る具体性・抽象性もやはり相対的なものであり,他の図表との比較が有効である。 まとめると,近接する図表との同質性・異質性が,図表の機能を判断する際の大き な手がかりとなると言えるだろう。 8.研究の成果と今後の課題 本研究を通して⑴図表の果たす機能は文章構造における序論部・本論部・結論部 の役割と密接に関係している,⑵図表は本文の構造に関する情報を提示しており, 本文の構造を捉える手がかりとなる,⑶図表が果たす機能・図表が提示する情報を 判断する際には他の図表との比較で考えることが有効である,という三つの知見を 得ることができた。以上の知見は,これまで内容理解に重きが置かれてきた説明的 文章の読解過程における図表活用に,構造理解の視点を持ち込むことの可能性・妥 当性を示すものだと考える。 今後の課題としては,次の2点を挙げておきたい。 第一には,より多様な文章構造に即した図表の機能分析が必要だと考える。吉川 (2017)は,説明的文章教材の文章展開の代表的なタイプとして「①序論部に設定 された文章全体を統括する大きな問い(話題)を,解決していく展開のタイプ」と 「②本論部に設定された小さな問いを順次解決しながら展開していくタイプ」を挙
げた上で,②のタイプの教材が「以前に比べて増えてきた」と指摘している(p.69)。 こうした傾向は,指導要領改訂以降に刊行された教科書の説明的文章教材でもさら に強まっていることが考えられる。吉川の指摘も踏まえ,より多様で精緻な文章構 造の捉え方をした上で図表の機能を分析することを今後の課題としたい。 第二に,本研究で提示したそれぞれの機能に応じた図表活用の姿を具体化し,多 様な図表活用の授業実践につなげていく必要がある。具体的には,まずは「図表を どのように活用すれば,本文の構造をどのように捉えることができるのか」という 点について明らかにすることが,今後の重要な課題である。 【参考文献】 青山之典(2013)「 小学校低学年児童が説明的文章の内容を論理的に把握する方略 に関する実践的考察―図化活動に焦点をあてて―」『国語科教育』第73集,全 国大学国語教育学会,47-54 出原栄一,吉田武夫,渥美浩章(1986)『図の体系―図的思考とその表現』日科技 連出版社 岩槻恵子(2003)『知識獲得としての文章理解―読解過程における図の役割』風間 書房 岸学,中村光伴,相澤はるか(2011)「 非連続型テキストを含む説明文の読解を促 進するには ?: 眼球運動測定による検討 」『東京学芸大学紀要総合教育科学系』 62集(1),177-188 岸学(2004)『説明文理解の心理学』北大路書房 吉川芳則(2017)『論理的思考力を育てる ! 批判的読み(クリティカル・リーディ ング)の授業づくり―説明的文章の指導が変わる理論と方法―』明治図書 甲田直美(2009)『文章を理解するとは―認知の仕組みから読解教育への応用まで』 スリーエーネットワーク 坂田喜昭(2004)「 小学校説明的文章教材における図表研究 」『国語科教育』第55集, 全国大学国語教育学会,60-67 福屋いずみ,森田愛子(2014)「非連続型テキストを含む説明文研究の現在」『広島 大学心理学研究』13号,広島大学大学院教育学研究科心理学講座,83-90 (ふくまさ たけひこ 神戸市立白川小学校)