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高齢者クラウド:クラウド技術による高齢者人材の活用

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Academic year: 2021

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1.は じ め に

我が国で最大の社会課題といえば,少子高齢社会の到 来にどう対処するかであろう.現在我々が悩まされてい る,ほとんどの社会問題の根底には,「高齢化」というキー ワードが横たわっているといっても過言ではない. 国立社会保障・人口問題研究所の統計によれば,1950 年の日本人の人口分布は図 1(a)に示すようであり,き れいなピラミッド型をしている.それが 2000 年になる と,(b)のように少子化により若年者層の人口が減少し, ピラミッドが変形していく. 2008年,我が国の人口 1 億 2 800 万人をピークに, 以降減少の局面に入った.増田元総務大臣らのグループ の試算によれば,2040 年までに全国で約 2 000 ある地 方自治体のうち,896 が人口 2 万人を切ると予測される. この人口は,地方自治体を運用できる下限といわれ,消 滅可能性のある都市ということになる.ちなみにさらに 523の自治体が 1 万人を切るとさえいわれている. こういう人口減少が続くと,先述の人口ピラミッドは, 変形とともにやせ細っていき,2050 年には,図 1(c) に示すような小さな逆三角型になってしまう.2055 年 には,15 歳から 65 歳までの人口(労働可能人口)の全 人口に対する割合が 50%を切る.ここに至って,若年 層が高齢者層を支えるという社会モデルが崩壊に瀕する わけである.若年層の減少は,社会の活力を低下させる ことはもちろん,地方と中央の極端な人口アンバランス を生じ,地方の疲弊はますます進行することになる. こういう問題に対して,政府も手をこまねいているわ けではなく,移民政策,女性労働力の活用など,さまざ まな施策を打ち出してはいる.しかしながら,ほとんど の対策は社会科学的であり,技術的ブレークスルーを手 段とする発想はまだ少ない.技術手段によって,この種 の問題解決を図ろうというのが,「高齢者クラウド」プ ロジェクトの理念である [廣瀬 13].本稿では,このプロ ジェクトの基本的考え方について紹介したうえで,具体 的に開発されたシステムについて解説を行いたいと思う.

2.「高齢者クラウド」プロジェクトについて

「高齢者クラウド」とは,JST(科学技術振興機構) の戦略的イノベーション創出推進プログラム「高齢社会 を豊かにする科学技術システムの創成」(PO:伊福部達

高齢者クラウド:

クラウド技術による高齢者人材の活用

Senior Cloud: Facilitating Elderly Social Engagement by Using

Cloud-Based Technologies

廣瀬 通孝

東京大学

Michitaka Hirose The University of Tokyo.

[email protected]

小林 正朋

日本アイ・ビー・エム株式会社東京基礎研究所

Masatomo Kobayashi IBM Research - Tokyo. [email protected]

Keywords:

super-aged society, active aging, senior workforce, job matching, online learning. 「人工知能と人材」

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東京大学名誉教授)傘下のプロジェクトの一つである. 正式名称を『高齢者の経験・知識・技能を社会の推進力 とするための ICT 基盤「高齢者クラウド」の開発研究』 という.著者の廣瀬がプロジェクトマネージャ・研究リー ダを,小林が開発リーダを務めている.このプロジェク トは,2011年より開始され,第1ステージ3年,第2ステー ジ 4 年,第 3 ステージ 3 年という計 10 年間にわたる現 在では珍しい長期計画である. プロジェクトの詳細について,ここで述べることはし ないが,概略の計画は,第 1 ステージでは,利用可能な 要素技術の試作を行い,第 2 ステージでは,それらを組 み合わせて用途ごとのツールを組み上げ,第 3 ステージ では,実証実験を行うというタイムラインになっている. 2・1 老 人 は 弱 者 か さて,では本プロジェクトを組織するうえでの基本的 哲学から述べていこう.本プロジェクトの発想の根底に は,新しい高齢者観がある.通常の高齢者観は,高齢者 は弱者であり,そうであるがゆえに手放しで守るべき存 在であるという先入観がある.実際,高齢社会における ICTの応用というと,認知症の高齢者の話し相手になる ロボット,見守り系システム,福祉型の研究がほとんど であり,高齢者の積極的役割を前提とするものは少ない. 先述の 2050 年問題であるが,一人が一人を支える従 来型の図式を続けていく限り,日本という国の経営は不 可能であるように思われる.支えられる側の 15 歳以下 と 65 歳以上の層のうち,後者はもっと積極的に社会に 関与できるのではあるまいか.高齢社会は長寿化によっ て引き起こされたわけであるが,寿命が伸びたことイ コール活動寿命の延伸である.こういう社会に合致した システムを構築することこそが,この問題の解決を図る うえでの正攻法であるに違いない. むしろ,現在,顕在化しつつある問題は,高齢者が元 気であるにもかかわらず,定年などのルールによって社 会から切断されてしまう期間が長期化するのをどうすれ ばよいかという問題なのではないか. 図 2(a)は,高度経済成長期の頃の日本人の一生を 描いたものである.55 歳頃まで働き,社会を引退して 気楽な老後を過ごし,そのうちに身体不如意となり,一 生を終える,というそれなりに完結した生き方である. それが現在,図(b)のように,気楽な老後部分が著し く延長しはじめているのである.元気な高齢者でいる期 間は相対的に増加しつつあるわけで,この期間を支持す る十分な技術が開発されていないのが大きな問題である と主張したいわけである. 人生 100 年時代を迎え,いわゆる「人生二毛作」論が 現実味を帯びて語られるようになってきた.現在の対処 法,平均寿命の伸長に従って,定年をしだいに延長する という対症療法であるが,抜本的考え方として,人生を 二つに分けて,例えば 50 歳ぐらいで大胆な就労環境の チェンジを行うことが人生二毛作である.二毛作のうち の後期を支える技術が,ここで必要と述べた技術という わけである. 2・2 高齢者の就労:モザイク就労 高齢者は,それまでの人生でつちかった経験や,さま ざまな人間関係,人脈を有している.物事を俯瞰的に見 る力なども老人の力といえるだろう. もちろん,弱点もまた存在する.いうまでもなく,体 力的に若者と同様というわけにはいかないだろう.フル タイムで毎日労働はつらいかもしれない.また専門知識 があるということは,「ツブシが効かない」ことを意味す る.高齢者は能力の可塑性に欠けるのである.また,就 労に関する価値観がさまざまであることも重要である. 人生二毛作の前期では,フルタイムかつ任期なしの雇 用が望まれる.個人として,安定した経済基盤を欲する からである.しかし,それが確保されたときの後期につ いてはどうだろうか.フルタイム拘束はかえって,負担 になるかもしれない.パートタイム雇用を複数もってお き,体力に応じて労働負荷を変化できるような就労環境 を喜ぶようになるかもしれない.雇用という機会すら邪 魔になることもあるだろう. このように高齢者は,若年者に比較して多様である. エネルギー分野のメタファーを使えば,高齢者はエント ロピーの高い労働源であるといえる.エントロピーの高 いエネルギー源とは,温廃水である.大量の温水は,少 量の高温ガスと同量のエネルギーをもち得る.後者はエ ンジンを回して,運動エネルギーを取り出すことができ るが,前者はできない.エントロピーが高いエネルギー は,エネルギーの取出し効率が低くなるのである. もっとわかりやすい例として,金鉱を考えよう.実は 金はどんな岩の中にも少量は含まれている.金鉱石は, その中でも金の含有量の高いものである.石から金を取 り出す操作を製錬というが,どちらの製錬が容易かはい うまでもないだろう. 情報の世界でエントロピーとは平均情報量を指す.コ ンピュータが情報処理を行うことは,エントロピーを操 作することに相当する. 例えば,緻密なマッチングを行うということは,高い エントロピーを有する対象のエントロピーを低下させ, ��������� �����)����� ���� ������� ������ ���� ������� ������ �������� �����)� ���� ���� ��� ��� ������������ 図 2 ライフステージ構成の変化

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利用可能性を向上させたことになる. 図 3 は,エントロピーの高い高齢者群からエントロ ピーの低い労働力を取り出す仕組みを描いたものであ る.エントロピーの高い高齢者労働力を細分化し,適切 な組合せを行うことによって,利用率を向上させようと いうアイディアである.いうまでもないことだが,細分 化するほどマッチングが容易になり,利用率は向上する が,運用の繁雑さが増すことはいうまでもない. 労働力を利用可能な基本的要素に分割して,再合成し て利用しようという,新しい労働の形を「モザイク就労」 と呼んでいる. モザイクには,いろいろな意味がある.時間的に細分 化された労働力を再統合する,すなわち,月,火,金に 働ける人間と水,木,に働ける人間を組み合わせればフ ルタイムの労働力がつくり出せるという考え方は,時間 モザイクと呼ぶ. 複数人のスキルを統合するという考え方もある.人を 雇う場合,どういう人が必要かの定義が必要であろう. 大学の人事はその典型で,例えば一人の先生を雇うとき, ① コンピュータプログラムの専門家であること,② 国 際的人脈を有すること,③ 企業経営の経験があること など,いくつかの要求事項を並べるのが普通である.通 常,一人の人格でそのすべてを満足することは不可能な ので,どこかで妥協することになるわけだが,雇用が複 数の人格にまたがってよいとなれば話は別である.この ようにスキルを分割するという考え方を,スキルモザイク という. 労働力と職場の偏在問題もある.労働を必要とする場 に必ずしも労働力が存在するとは限らず,その逆,すな わち,労働力はあるが求人がないという場合もあるだろ う.これにはテレプレゼンス技術が適用可能である.空 間を超えて人々が結合し,いつでもどこでもの就労が可 能になるだろう.これを空間モザイクと称する. 2・3 実証フィールドについて 以上を踏まえて,具体的な施策システムのインプリメ ンテーションを実証的に展開していくわけであるが,最 初からすべてを対象とすることは不可能なので,ある程 度絞ったフィールドを定める必要がある.プロジェクト では,高齢者の働き方について二つの特徴的なスタイル を想定している. 一つは「指導的な職種」であり,もう一つは「生きが い就労的職種」である.前者は従来の企業組織の中に落 とし込むことが可能であり,実際,こうした就労を支援 する企業も登場しつつある.本プロジェクトでは,リタ イヤした経営的企業人材の紹介ビジネスを行っている企 業である,(株)サーキュレーションと協働して実証実 験を行うこととした.この場合,重要なのは能力を因数 分解することであり,それによって,ジョブマッチング の可能性が大きく広がることになる.求人のキーワード を深く分析する情報技術が力を発揮する. 後者はもう少し,野心的な試みである.そもそも仕 事と考えられていなかったような行為も,仕事としてク ローズアップすれば,それは高齢者の就労機会を拡大す ることにつながるであろう.小さい求人と働きたい就労 者をつなぐツールが必要である.この場合,その仕事が 「好きなこと」であることが必要であり,大事なことは, 個々人のプロファイルを十分に考慮に入れた小回りのき くシステムを構築することができるであろう. 言うまでもなく,この二つの就労タイプの間にはさま ざまな形が存在する.むしろ就労を希望する高齢者の多 くは,その中間領域であろう. 本プロジェクトでは,まずは二つの極端なタイプを橋 頭堡として,しだいにより多くの領域をカバーしていく ことができればと考えている.

3.人材スカウター:人材マッチングのノウハウ

を学習する検索エンジン

「指導的な」仕事とそれにふさわしい経験・知識をも つ高齢人材を結び付けるには,仕事の情報と人材の情報 をともに詳しく記述し,細部を加味したマッチングを行 う必要がある.アドバイザとしての高齢人材には,業種・ 職種や資格といった単純な属性ではなく,個々の現場で の特定のニーズに即した具体的な経験・知識の有無が問 われるからである.そのためには,「いかに仕事や人材 の情報を詳細に引き出すか」,「引き出された情報同士を いかにマッチングするか」という 2 段階の技術課題が存 在する.「高齢者クラウド」プロジェクトではその両方 に取り組んでいるが,本章では特に後者について述べる. 3・1 システムの概要 仕事の情報(求人情報,案件情報)や人材の情報(職 務経歴書など)が非定型のテキスト文書として記述され ているとすると,人材集合の中からある仕事に合う人材 を選び出すタスクは文書検索の問題となる.ここで,あ る検索クエリに対する検索結果リストは機械学習の枠組 図 3 労働力の仮想化─モザイク就労

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みを用いて改善することが可能であり,さまざまな種類 のランキング学習(learning to rank)手法が提案されて いる(図 4 右).一方,人材紹介ビジネスを行う現場でヒ アリングすると,検索結果リストから適切な人材を選び 出す前の段階,すなわち仕事の情報が与えられたときに 適切な検索クエリを決めることのほうに困難が存在し, ノウハウが必要となることを指摘される.専門的な経験・ 知識の記述にヒットするキーワードを選択するには検索 者自身に一定のドメイン知識が必要となるためである. 人材検索タスクにおける検索クエリの決定は,単純化 して考えれば,仕事情報テキスト全文に含まれる語の集 合から適切なサブセットを選択する query reduction(long query reduction)の問題と言い換えることができる.例 えば「アナリティクスを活用した課題分析,戦略・施策 立案,パイロット展開∼本格展開支援プロジェクトの獲 得と実行のため,グローバルの事例を調査し,日本企業 にとって意味のある情報を抽出し,日本での知見を加え てお客様へ知見を提供するコンサルティング業務」とい う仕事情報テキストが与えられたとき,検索クエリとし て「アナリティクス 施策立案 グローバル」と「アナリ ティクス 展開支援 日本」のどちらがより有効かといっ たことは自明ではない.適切なキーワードを(半)自動 的に抽出することができれば検索の効率や精度の向上を 見込めるが,キーワードの抽出には取り扱う業界や事業 についてのドメイン知識のみならず検索対象となる人材 集合についての理解も要求される.そのため TF-IDF な どの単純な統計指標を用いた自動化は有効性に乏しく, 事前に十分な訓練データを準備することも困難である. 上記の課題を踏まえ,人材検索プロセスの中にシー ムレスに訓練データ収集の機能を埋め込む形でオンライ ン学習の仕組みを導入した人材検索エンジン「人材スカ ウター」が開発された [Shinkawa 17].図 5 に画面を示 す.仕事情報テキスト全文がシステムに入力されると, そこに含まれるクエリ単語(キーワード)の候補が右側 にリスト表示される.検索者は×印をクリックして不要 なキーワードを削除し,適切なキーワードを残す.この ユーザインタフェースは,手作業での query reduction を容易にし,個々のキーワード操作を明確に記録できる ようにすることを意図して設計されている.また,スラ イダ操作によるキーワードの重み付けや新たなキーワー ドの追加をサポートする.検索結果リストの中に有望な 人材を見つけたら,検索者はアイコンをクリックして人 材を候補者リストに加える.候補者リストはオンライン ショッピングサイトにたとえると「カートに入れる」に 相当する機能である.最終的に,候補者を含む検索結果 リストの生成に寄与したキーワード操作を訓練データと し,システムにフィードバックする(図 4 左). 3・2 キーワード操作の学習 具体的には,仕事情報テキスト全文に含まれる単語集 合 Q が与えられたとき,任意の単語 w ∈ Q が理想的なク エリの中に含まれない確率 P(w)を,最大事後確率推定 (MAP 推定)の考え方を用いて式(1)のように記述する [Shinkawa 18]. P(w)= D(w)+a-1 N(w)+a+b-2 (1) N(w)および D(w)はそれぞれ w の累積出現回数, 累積削除回数であり,a および b は事前ベータ分布のパ ラメータである.なお,上記は説明のために単純化され た式であり,実際には w に対する重み付け操作の履歴も 考慮するよう拡張した式を用いる.P(w)が得られたら, キーワードを削除する操作のほうが追加する操作よりも 容易であることを踏まえ,追加操作コストと削除操作コ ストの比を k > 1 として単語 w のスコア S(w)を以下 のように計算し,S(w)があるしきい値以上となる語を キーワード候補として提示する(式(2)). S(w)=k(1−P(w))−P(w) (2) これにより,検索者が「仕事情報テキストの入力→キー ワード操作→候補者リストの作成」という一連の人材検 索プロセスを繰り返すにつれて,最初に提示されるキー ワード候補が徐々に改善されていく.訓練データ作成の ための特別な作業は不要である.キーワード操作は特定 の業界・事業に関連するドメイン知識や検索対象となる 人材集合についての理解を反映しており,ノウハウをも つ検索者によるキーワード操作を訓練データとすること で,ノウハウをもたない者による人材マッチングの支援 にもなることを期待している. 上記の手法の効果について,(株)サーキュレーション 図 4 人材検索プロセス 図 5 「人材スカウター」システムの画面

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における案件情報 90 件を用いた予備検証を行った(80 件を学習,10 件を評価に用いた交差検証).人材スカウ ターのユーザインタフェースを利用して 80 件の案件情 報テキストの中からそれぞれ理想的なクエリ単語集合を 選び出し,その過程で記録されたキーワード操作を訓練 データとする.残る 10 件の案件情報から上記手法によ りキーワード候補を抽出し,10 件それぞれに対する理 想的なクエリ単語集合との比較により評価したところ, baseline(TF-IDF スコアに基づく教師なし手法)より も precision,recall ともに向上した.図 6 は,k=5 と して学習データ数を 10 ∼ 80 件に変化させたときの精度 の推移である.10 件を学習した時点で recall が大きく 改善するのに対し,precisionは徐々に改善している.キー ワード削除操作のほうが追加操作よりも低コストである ことから,これは好ましい性質である. ここでは案件ごとの業界の違いやキーワードごとの共 起関係といった複雑な指標は考慮していないが,一定の 性能が見られる.また,実際の人材検索においてはもと もとの仕事情報テキストに含まれないキーワードをあえ て追加して良い結果を得ることもあり,キーワード削除 操作に基づく query reduction の自動化だけでなくキー ワード追加操作に基づく query expansion の仕組みを導 入することで,人材検索プロセスをさらに改善できる可 能性もある. 3・3 実 証 実 験 著者らは(株)サーキュレーションの協力のもと,実 際の高齢人材紹介事業の現場に「人材スカウター」を導 入し,運用実験を継続している [経営].「人材スカウター」 はキーワード操作の履歴に基づく検索者(マッチング担 当者)のノウハウを学習することによる検索効率・精度 の改善を目的としているため,まずは利用頻度の向上と 操作履歴の蓄積が重要となる.利便性・実用性を確保し て実業務中での利用促進を図るため,サーキュレーショ ンにおいて通常利用される業務システムと人材スカウ ターを統合してシームレスな運用を可能にし,実際の利 用状況および実利用者からのフィードバックをもとに訓 練データ生成の条件やユーザインタフェースに継続的な 改良を加えてきた. 本稿執筆時点までの間に,10 000 名規模の人材集合を 対象として 17 000 件以上の検索に伴う 27 000 件以上の キーワード操作が記録され,5 000 語以上のキーワード スコアにフィードバックされた.蓄積されたデータをも とに,今後,実地におけるノウハウ学習の効果について さらなる検証を加えていく計画である.

4. GBER:生きがい就労のための地域密着型

ジョブマッチングシステム

こ の 目 的 の た め に 開 発 さ れ て い る の が,GBER: Gathering Brisk Elderly in the Regionと呼ばれるシス テムである.これは,ある種のジョブマッチングアプリ で,特徴としては,マルチデバイス対応で,簡単な UI である点,あえて地域内限定のマッチングを想定してい る点である.ある程度顔が見える状況にしているために, 信頼性保障など,より複雑な配慮を後回しにできる. 4・1 システムの概略 GBERにおいて重要な変数が興味タグと呼ばれる変数 である.仕事には,金銭的な仕事,料理に関する仕事, 芸術的な仕事……のように,N 個の種類が存在するとし よう.この基底的仕事の種類によって張られる N 次元 空間を興味空間と呼ぶ.具体的に発生する仕事(地域活 動タグ)T も,個人個人がどういうタイプの仕事を好む かの個人プロフィール(高齢者興味)I も,この興味空 間にマップされる. そして,空間内の距離が近いほど I と T のマッチング が良好なはずである.マッチング係数 M を MI・T |I| |T| (3) のように定義すると,M が大きいほど,良いマッチング ということになる. ベクトル I,T の各要素(ik, tk)は,興味タグとの関 係の深さを 0 ∼ 1 の数値にマッピングしたものを想定す ればよいが,今のところ簡単のために,0,1 の 2 値と している. すなわち,興味タグ k(1 ≤ k ≤ N)に高齢者が興味があ る場合に,ik=1,ない場合 0,求人内容が,k に関係す る場合,tk=1,しない場合 0 とする. この興味タグに関し,プロジェクトでは,柏市を例 題として実証実験を行った.まず,政府系資料をもとに 295項目の興味リストを候補として作成したうえで,柏 市を中心に募集した 97 名の高齢者に,興味のある項目 を選択してもらった.また同様に,柏市の募集のあった 823件の地域活動(求人)について,クラウドソーシン グにより関連するタグを同じく 295 項目,選択した. ここで高齢者興味と地域活動の両方もしくは一方から 一定数の回答のあったものは,マッチングが成立する分 野,地域で求人開拓すべき分野,働き手を必要としてい 図 6 予備検証の結果

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る分野のいずれかと判断できる(図 7).結局,295 項目 の中から,73 項目が抽出された(図 8). 次に,この 73 項目の中から,実際にマッチングを行っ てみることにした,上記の実験で行った興味タグベクト ルと地域活動タグベクトルを用いて,マッチング係数を 算定し,各高齢者にマッチング係数の上位 10 件および 下位 10 件,中間 16 件の計 36 件を提示し,興味の有無 をマッチング係数ごとに集計してみたものが,図 9 の折 れ線グラフである.マッチング係数 M = 0.45 以下では グラフはほぼ横ばい,マッチング係数 0.55 を超えると 約 60%の確率で興味ありと答えてくれそうである. ところが,マッチング係数ごとの求人件数は,図 9 の 棒グラフのようであり,仮にマッチング係数 0.55 で推 薦しても,該当する案件は,全体の 2%ぐらいになって しまうことがわかった. 4・2 興味タグの修正 これは,人は自分のプロフィールをよくわかっていな いということである.そこで,興味タグ I をその後の反 応行動に応じて修正してみることにする.つまり,例え ば,「庭いじりに興味がある」と答えた回答者に,庭い じり関係の仕事を何度推薦しても,興味がある反応をし なければ,その人は庭いじりに興味がないのではないか と推測することは合理的である.逆に,芸術的なことに 興味がないと答えていても,芸術関係の仕事の推薦を受 け入れるようであれば,芸術に関連する興味タグにフラ グを立ててもよいわけである. すなわち,実際の地域活動への回答結果によって興味 ベクトルの修正を式(4)のように行う. IN= I → 0+α kN=1 bk Tk (4) ただし,INは地域活動への興味を N 回回答した後の 高齢者興味ベクトル,I→ 0は初期値,Tkは k 回目に回答 した地域活動タグベクトルである.bkは,k 回目の回答 が興味ありの場合+1,なしの場合−1 をとる変数である. この状況を概念的に図示すると図 10 のようになる. 言うまでもなく,αは結果の修正量の強さであり,α=0 の場合は,全く反映しない場合(図 9)に対応する. αをいろいろに変えてみると,マッチングの状況は図 11のようになる.α=0.1 の場合,マッチング率は 14% にまで上昇する.GBER の本質的貢献はまさにここに存 在すると考えてよい. 言うまでもなく,αは大きければよいというわけでは なく,柏市のデータでは,α= 0.1 が一番良く,それ以 上になるとマッチング率はかえって低下する [有田 17a]. αの値は地域や住民の組合せによっていろいろへ変化す るものと思われる.学習のメカニズム自体はそれほど難 しいわけではないが,こうしたパラメータの設定自体が, この種の研究のポイントである. 4・3 実 証 実 験 GBERは現在,簡単なテスト版が作成され,興味のあ 図 8 選定された興味タグ(例) 図 10 興味ベクトルの漸進更新 図 11 修正係数(α)による推薦精度・件数の違い 図 9 マッチング係数による推薦精度(興味あり率)および 提示可能な求人件数の違い 図 7 必要十分な興味タグの選定

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る運用者とプロジェクト共同で実証実験を行いはじめた 状況である.先行した実機を使っての実証実験は,東京 大学高齢社会総合研究機構(IOG)と関連の深い一般社 団法人セカンドライフファクトリー(SLF)との共同で, 2016年 4 月から開始された.実験ではまだ始まったば かりであるが,2017 年までの総計では,登録ユーザは 106名,年齢層は定年後の高齢者が大半を占めている. 参考のため,スマートフォン上の画面のうち代表的な ものを図 12 に示しておこう [Arita 17b].スマートフォ ンが一般化したとはいえ,高齢者と ICT の間にはまだ まだ距離があるため,できるだけ簡潔なインタフェース を心掛けている.とはいうものの,この部分については, 今後大きく改善が必要なことはいうまでもない. GBERは,まだ,実証モデルが始まったばかりである し,就労であるからには,金銭のやり取りや作業結果の 信用問題などが発生するはずである.プロジェクトでは, 今のところマッチングの状況にのみ注目しており,こう した実施上の問題には踏み込んでいない.幸いにして同 様な問題意識をもったさまざまな領域の企業,団体から 協働がもちかけられており,研究プロジェクトの枠を超 えて,いろいろな角度から展開できればと思っている.

5.お わ り に

65歳以上の高齢者の就労率が,65 歳以下のいわゆる 労働可能人口と等しくなったとき,GDP に与える影響 は 23 兆円近くになるといわれている. しかしながら,さらに大きい効果は,働き続けること によって,いわゆる廃用症候群を防ぐことができること ではないだろうか.これによって,社会保障費の伸びを 確実に抑制できる.本来はプラスであるはずの人的資産 をマイナスに作用させてしまっているのが現在の問題な のである. 高齢者クラウドは一つの可能性に過ぎない.この問題 に関し,情報技術の貢献できる可能性は我々が考える以 上に大きいのだ. 謝 辞 本研究の一部は科学技術振興機構(JST)の研究成果 展開事業【戦略的イノベーション創出推進プログラム】 (S- イノベ)の支援によって行われたものです(本成果 の二次的著作物を公開する際も,この謝辞を含める必要 があります).

◇ 参 考 文 献 ◇

[有田 17a] 有田祥馬,檜山 敦,廣瀬通孝:アクティブシニアの地 域参加を活性化するウェブインタフェース,第 31 回人工知能学 会全国大会,ウインクあいち(愛知県産業労働センター)(2017. 5)

[Arita 17b] Arita, S., Hiyama, A. and Hirose, M.: GBER: A social matching app which utilizes time, place, and skills of workers and jobs, Companion of the 2017 ACM Conf. on Computer

Supported Cooperative Work and Social Computing(CSCW’

17 Companion, pp. 127-130, ACM, New York, NY, USA(2017) [廣瀬 17] 廣瀬通孝:今後の成長産業と VR,地銀協月報・2017 年 10月号,pp. 9-14,一般社団法人全国地方銀行協会(2017) [経営] 経営課題と人の「経験・知見」のマッチング高度化を目 指した実証実験開始∼ IBM 東京基礎研究所が東京大学との 共同研究で開発した技術を活用「人材スカウター」を導入∼, https://www.circu.co.jp/news/20171113/000368. html

[Shinkawa 17] Shinkawa, K., Saito, K., Kobayashi, M. and Hiyama, A.: Towards extracting recruiters’ tacit knowledge based on interactions with a job matching system, Proc. HCI

International 2017, pp. 557-568, Springer(July 2017) [Shinkawa 18] Shinkawa, K., Itoko, T. and Kobayashi, M.: online

learning for long-query reduction in interactive search for experienced workers, Proc. HCI International 2018, Springer, in press(July 2018) 2018年 3 月 13 日 受理

著 者 紹 介

廣瀬 通孝(正会員) 1979年東京大学大学院工学系研究科修士課程修了, 1982年同大学院工学系研究科博士課程修了,工学 博士.同年東京大学工学部講師,1983 年助教授, 1999年 先 端 科 学 技 術 研 究 セ ン タ ー 教 授 を 経 て, 2006年東京大学大学院情報理工学系研究科教授.専 門はシステム工学,ヒューマンインタフェース,バー チャルリアリティ.主な著書に「バーチャル・リア リティ」(産業図書,1993)など. 小林 正朋 2003年東京大学理学部情報科学科卒業.2008 年同 大学院情報理工学系研究科博士課程修了.同年,日 本アイ・ビー・エム株式会社入社.東京基礎研究所 アクセシビリティ & 高齢社会工学グループ所属,高 齢社会工学担当マネージャー.JST「高齢者クラウド」 プロジェクト開発リーダー.博士(情報理工学). 図 12 GBER ユーザインタフェース

図 1 我が国の人口ピラミッドの変遷

参照

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