医療的ケアのある重症児の社会的自立を促す教育的
支援に関する研究
著者
樫木 暢子
号
9
学位授与機関
Tohoku University
学位授与番号
教情博第46号
URL
http://hdl.handle.net/10097/00128566
教情 1 かし き なが こ
樫 木 暢 子
学 位 の 種 類 博士(教育情報学) 学 位 記 番 号 教情博 第 46 号 学位授与年月日 令和元年 9 月 25 日 学位授与の要件 学位規則第 4 条 1 項該当 研 究 科 ・ 専 攻 東北大学大学院教育情報学教育部(博士課程後期3年の課程) 教育情報学専攻 学 位 論 文 題 目 医療的ケアのある重症児の社会的自立を促す教育的支援に 関する研究 論 文 審 査 委 員 (主査) 教 授 熊 井 正 之 教 授 渡 部 信 一 准教授 佐 藤 克 美< 論 文 内 容 の 要 旨 >
医療の進歩により、地域で生活できるものの医療的ケアのある重症児が増加している。医 療的ケアのある重症児は退院後の家庭生活、就園・就学、通学などの困難があるとともに、 各ライフステージにおける社会参加が課題となっている。 本研究では、第1章で、まず、医療的ケアのある重症児への教育に関するこれまでの研究 を概観し、従来の教育と研究の課題を指摘した。そのうえで、医療的ケアにより活動制限の ある重症児の社会的自立を促す教育的支援のあり方を検討することを目的に、以下、6 つの 研究を実施した。 第 2 章では、医療的ケアのある重症児への教育の現在の状態と課題を明らかにするため、 訪問教育を行っている特別支援学校及び訪問教育担当教員を対象に質問紙調査を行った。そ の結果、交通事情、校内での医療的ケアの実施状況など、教育制度上の理由により訪問教育 を受けている児童生徒がいることが明らかになった。訪問教育担当教員には、少ない訪問回 数と短い指導時間の中で個に応じた教育を行うための高い指導力と専門性が求められてい教情 2 るが、十分な研修機会が保障されていなかった。教育条件の整備と担当教員の専門性向上が 喫緊の課題であることが明らかになった。また、第 3 章では、本人・保護者の教育的ニーズ を把握するため、重症児の保護者を対象に質問紙調査を行った。その結果、医療的ケアの種 類、頻度、時間等によって保護者の付添状況が変わり、登校に影響を与えていること、吸引 が頻回な場合は、看護師の配置が限定的であることや教員による医療的ケアの実施がないこ とから保護者の負担が大きくなっていること、通学による発達機会を保障するために医療的 ケアへの対応と教員の専門性の向上が求められていることが明らかになった。 次に、第 4 章では、教員の専門性向上に必要な教員養成カリキュラムを検討・開発するた め、特別支援学校教員養成課程の 2 科目を履修生のルーブリック評価結果を基に修正したう えで、新たな科目として再構築した。この新規科目を学校教育教員養成課程カリキュラムに 加え、専門家による外部評価によってその有効性を確認した。また、第 5 章では、医療及び 教育の視点から、教育制度のはざまにいる重症児への教育的支援を検討するため、学習支援 ボランティア養成に資するルーブリック評価を作成した。そのうえで、学習支援ボランティ ア養成プログラムに、先に作成したルーブリック評価を適用し、プログラム内容を検討した。 その結果、医療的ケアのある重症児の教育的ニーズに応じるためには、学習支援の必要性や 配慮事項に対する知識等に加え、心理面の理解が重要であることが明らかになった。 さらに、医療的ケアのある重症児に対する教育実践と社会的自立に向けた成長過程の関連 を明らかにするため、教員と本人の視点からの実践研究を行った。第 6 章では、重症児のニ ーズを十分に把握し、物理的・人的環境を活用することで、校内の支援体制を確立し、また 校外の諸機関と連携して支援ネットワークを形成した過程を示した。訪問教育で個に応じた 指導を継続したことで、本人が希望する生活を実現する力が育ち、教育・福祉・医療による 包括的な支援により、卒業後には自立生活の可能性を探るまでに至ったことから、学齢期に おける将来を見通した指導・支援が不可欠であることが示唆された。第 7 章では、アイデン ティティ発達に焦点をあて、本人の語りからその社会的自立に向けた心理的変容について検 討した。第 6 章で示唆された将来を見通した指導・支援により、医療的ケアのある重症児の アイデンティティの発達が促され、自己像が明確になり、目指す「自立」に近づくことがで きることが示唆された。 最後に、第 8 章では、研究全体を総括した。本研究で開発した教員養成カリキュラム及び 学習支援ボランティア養成プログラムでは医療機関での実習を組み込み、NPO 法人と協働す るなど医療・福祉・教育の学際的連携による教育機会の保障を可能にするものである。また、 長期的な展望に基づく実践により、医療的ケアのある重症児の自己像の形成、社会的自立が 促されることが明らかになった。このような実践研究によって得られた示唆は教員の専門性 向上につながる。医療的ケアのある重症児の社会的自立を促すためには、教育制度の充実と 教員の専門性向上が相補的に進むことが重要であることが示唆された。さらに、重症児及び 教員の立場からの事例検討は、実践研究の新たな方法であり、こうした実践研究によって得 られた示唆は重症児教育の進展につながるであろう。
教情 3