幼児期から児童期にかけての怒りの主張的表出の発
達
著者
平川 久美子
雑誌名
東北教育心理学研究
巻
13
ページ
11-20
発行年
2013-10-31
URL
http://hdl.handle.net/10097/00120647
幼児期から児童期にかけての怒りの主張的表出の発達
平 川 久 美 子
(石巻専修大学人間学部)問題と目的
私たちは他者との関わりの中で、怒りや悲しみ、喜び など様々な情動を経験し、その情動は表情や声の調子に よって表出される。この情動表出はそれを知覚する人に それを発した人の心的状態について多くの情報を与える (遠藤,1993)。しかし、私たちは他者との関わりの中で 常に自分の情動を感じるままに表出しているわけではな く、自分の情動を隠すこともあれば誇張して表現するこ ともある。情動には他者との関係を確立・維持する機能 だけでなく、関係を悪化させる機能もあるため(Campos, Campos, & Barrett,1989)、私たちは年齢が上がるにつれ て情動表出をその状況に適切な質や量へと調整すること が求められるようになっていく。このような情動表出の 制御は他者と良好な関係を構築する上で非常に重要であ ると考えられる。 私たちは、例えば「人からもらったプレゼントが期 待外れのものだったとしても、にっこり微笑むJとい うように、どのような場面でどのような情動表出をす べきかというような情動表出を管理するガイドライン である表示規則(displayrule)に従って情動表出を制御 している。この情動表出の制御の発達の規定因として、 Saarni(1984)は3つの要因を挙げている。 1つ目は、ある 状況における情動表出に関する社会的慣習やルール、つ まり表示規則の気づきである。 2つ目は、そのような慣 習的に規定された情動表出を作り出す能力である。 3つ 甘は、慣習的に規定された情動表出を行うための動機づ けである。つまり、ここには表出の側面と理解の側面が あると考えることができる。表出の側面とは、ある場面 においてどのような情動表出をするかというように行動 として捉えることができる部分であり、 1つ目および2 つH
の要因と関連する。一方、理解の側面とは、情動表 出によってどのような対人的影響が生じるかというよう に表出の背景にある理解の部分であり、 3つ目の要因と 関連する。情動表出の制御は、発達に伴って表出の側面 と理解の側面が連動して生じるようになると考えられる が、本研究では表出の側面に着目し、情動表出の制御の 発達について検討する。 11 幼 児 期 の 表 出 の 側 面 に 焦 点 を 当 て た も の の1つに Cole(1986)の研究がある。 Cole(1986)は期待外れのプレ ゼントを受け取ったときの子どもの表情を観察し、どの ように情動表出を制御するかを調べた。その結果、 3、4 歳児でもプレゼントの送り主の前ではネガティブな情動 表出を抑制することが明らかになり、その後の研究に おいても同様の結果が得られている(Josephs,1994)。一 方、情動表出の制御が求められるような仮想場面におい て主人公はどのような表情をするかを尋ねた研究では、 6歳頃になると本当の情動とは異なる表情をすると回答 することが一貫して示されている(e.g.Gross& Harris, 1988; Harris, Donnelly, Guz, & Pitt-Watson,1986; Jones, Abbey, & Cumberland, 1998; Josephs,1994; 溝川,2007)。 同様に仮想場面を用いた研究では、動機の種類によって も異なる情動表出をすることが示されているが、その 時期は幼児期後期または児童期と研究によって異なっ ている(e.g.Gnepp & Hess,1986;平川,2008;溝川,2007; Saarni,1979)。 さ ら に 、 児 童 期 に は 相 手 と の 関 係 (e.g. 塙,1999;Underwood, Coie, & Herbsman,1992; Zeman & Garber,1996)による情動表出の差異についても明確 に理解するようになっていく。表示規則は発達のごく 初期に獲得され、その規則に従った情動表出は意識的 に 行 わ れ る の で は な く 自 動 的 に 行 わ れ る とEkman& Friesen(1975/1987)が指摘するように、発達初期に行わ れる情動表出の制御は、その意味や対人的影響について の理解に基づいたものではなL、。しかし、そのような情 動表出の制御を行っていく中で、表出の側面である表示 規則に関する明示的な知識が獲得され、さらに理解の側 面である情動表出を制御する動機や対人的影響などの理 解の発達が促されると考えられる。このように、表出の 側面、理解の側面がともに幼児期から児童期後期頃まで 年齢の増加に伴って発達し続け(Gnepp& Hess, 1986)、 様々な状況に合わせたより柔軟な制御が可能になってい くと推測される。 幼児や児童を対象とした表出の側面に関するこれまで の研究を概観してみると、ネガティブな情動表出を抑え てポジティブまたはニュートラルな情動表出を行うとい うような実際の情動を抑えて表出するというような抑制的表出を扱ったものがほとんどである。これらはEkman の泣きや怒りを喚起する、被表出者に嫌われるなど)だ & Friesen(1975/1987)が示した情動表出の制御の方略に けでなく、ポジティブな機能(第三者が怒りの理由を尋 おける代用(実際の情動とは異なる情動の表情を示す) ねる、当事者が謝罪するなど)についても言及するよう や中3~l化 (実際にはある情動を感じているが表情には になることが示されている。また平川(2009)では仮想場 何も表さな、し)に対応している。そして、情動表出を抑 面を用いて、主人公が 「少し怒っているJ場面で 「とて 制する子どものほうが仲間からの評価が高い(平林・柏 も怒っている顔」をするなど実際の情動よりも強めて表 木.1993)などネガティブな情動表出を抑制することが対 情に表わす場面における主人公の動機を尋ねている。そ 人関係においてポジティブな影響をもたらすことが多く の結果、小学1・2年生の半数以上の子どもが主人公は相 の研究において指摘されてきた。しかし、 情動表出を 手に自分の気持ちに気づかせたり行動変容を求めたりす 制御する方略は抑制的なものだけではない。Ekman& るなどの動機[意図伝達動機]に基づいて怒りを強めて表 Friesen(1975/1987)が示した情動表出の制御の方略の中 出したと回答していた。これらのことから、 幼児期後期 には実際の情動よりも強めて表出する主張的な方略も含 頃になると怒りを表出することが対人関係においてネガ まれているように、私たちは対人葛藤場面においてネガ ティブな影響を及ぼすだけでなくポジティブな影響も及 ティブな情動を感じた時に、その情動が相手に伝わるよ ぼし得るということについて理解するようになると考え うにあえて強めて表出をすることもある。 られる。 そしてこのような情動表出のコミュニケーショ lin!かにネガティブな情動の表出は他者との関係を悪化 ン機能の理解の発達を基盤として、幼児期から児童期に させる可能性があるが、自分の情動や意図を明確に伝え かけて悠りの主狼的表出が発達すると考えられる。した ることが良好な対人関係の形成・維持において重要であ がって、本研究では、他者に自分の気持ちに気づかせた るという指摘もある。木野(2003)は、怒りの適切な表出 り他者に行動変容を求めたりするなどの動機を 「意図伝 には他者との聞に共感や相互理解をもたらし、対人聞の 達動機」 とし、仮想場面において意図伝達動機に基づい 信頼や親密さを地す機能があると述べている。また幼児 た怒りの主張的表出が幼児期から児童期にかけてどのよ の怒りへの対処行動と社会的コンピテンスおよび仲間 うに発達するかを明らかにすることを目的とする。 からの人気との関連を調べたFabes& Eisenberg(1992) は、教師iから社会的に有能であると評価され友達からも 人気のある子どもは、怒りが喚起される対人葛藤場聞に 参加児 方 法 おいて相手に直接怒、りを言葉で表現するなどの直接的で 年中児50名(男児25名・女児25名;平均年齢5歳1か月)、 積極的なやり方で怒りに対処することを明らかにしてい 年長児50名(男児25名・女児25名,平均年齢6歳1か月)、 る。このように特に怒りに関しては、情動表出を抑制す 1年生36名(男児21名・女児15名,平均年齢7歳2か月)、 ることだけでなく状況に応じて表出することもまた対人 2年生25名(男児11名・女児14名;平均年齢8歳2か月)、 関係において非常に重要であると考えられる。しかしな 計161名。 がら、このような情動表出の主張的側面に関しては平川 材料 (2009;2011)を除いてほとんど研究されておらず、更なる 状況を姉写したお話カード(各場而3枚)、 「怒っていな 検討が必要であると考えられる。本研究では、「自分の い気持ちJI少し悠っている気持ちJI悠っている気持ち 情動を実際よりも弱めた表出やニュートラルな表出」 を 」が描かれた情動マグネット、「悠っていない顔JI少し 情動の抑制的表出、 「自分の情動そのままの表出や自分 怒っている顔JI怒っている顔」 が描かれた表情マグネッ の情動を実際よりも強めた表出」を情動の主張的表出と トを使用した。お話カードは貨場人物が男児のものと女 それぞれ定義し、 とりわけ主張的表出の発達に焦点を当 児のものを作成し、 参加児の性別と一致するものを使用 てる。 した。使用したお話カードと情動・表情マグネットは 情動の主張的表出を行う背景には、情動を表出するこ Figure 1、2、3に示した。 とによってポジティブな結果を得るというような動機が あると考えられる。情動表出のコミュニケーション機能 について級った久保(2006)では、 様々な情動の表出にど のような機能があるかについて幼児にインタ ビューを 行っている。その結果、 5歳から 6歳にかけて、怒りの情 動表出の対人関係におけるネガティブな機能(被表出者 -12一 Figure 1 お話カード (友達・少し怒っている・被害あり場面女児版)
きもち
⑦ ⑨ ⑧
おこっていない すこし おこっている おこっている Figure 2 情動マグネッ ト かお⑦ ⑨ ⑧
おこっていない おこっているすこし おこっている Figure 3 表情マグネァ ト 課 題 Harris et al.(1986)を始めとする多くの研究において用 いられている架空の物語を提示し、その主人公の情動や 表情について尋ねるという方法を採用し、仮想場面にお ける主人公の表情を推測する課題を実施した。 具体的に は、まず対入場而における出来事とその際の主人公の情 動を示した。次に主人公の情動をもう一度確認した上で、 主人公の意図伝達動機 [相手に00
しないでほしいと伝 えたい]を提示し、そのとき主人公はどのような表情を するかをく怒っていない顔〉く少し怒っている顔> <怒っ ている顔〉の3つの表情から選択してもらった。その際、 主人公の情動と表情とを子どもが混同することを避ける ために、主人公の情動を示した情動マグネットを主人公 の胸の位置に、主人公の表情を示した表情マグネッ トを 主人公の顔の位置にそれぞれ置き、 子どもにとって視覚 的に分かりやすい設定とした。 また、幼児期から児童期にかけては仲間関係の重要性 がより一層増していく時期であり、 仲間とのやり取りの 中で情動に関する様々な知識を獲得していくと考えられ ることから、本研究では友達場面における怒りの主張的 表山が年齢とともにどのように発達するかを明らかにす ることを中心とした。しかしながら、そのような理解は Table 1 場面 主人公の情動状態や主人公への被害の有無などの状況の 特徴によって異なる可能性もあるため、友達場面におい て①主人公の情動(少し怒っている・怒っていなし、)、 ② 主人公への被害状況(被害あり ・被害なし)の組み合わせ から 4場面構成した。加えて、対入場面による主張的な 怒り表出の差異も補足的に検討することを目的として、 親子場面についても主人公の情動(少し怒っている・怒っ ている)に基づいて2場面を構成し、合わせて6場面を用 いた (Table1)。そのうち、く友達・少し怒っている ・被 害あり場面〉とく友達・少し怒っている・被害なし場面〉 については表情選択の理由も尋ねた。主人公の情動が少 し怒っている場面は、実際の情動よりも弱めた表出と 実際の情動よりも強めた表出の両方が生じる可能性があ る。それぞれの表出がどのような理由に基づいて選択さ れたのかを尋ねることは、表出の背景にある理解の側面 を明らかにする上で特に重要であると考えられるため、 とりわけこの 2つの場面について表情選択の理由を尋ね た。お話の具体的な内容は資料に示した。 手続き 課題は、幼稚園および児童館の一室において調査者1 名と参加児 1名が隣り合う形で座って実施された。本課 題の実施に先立ち、課題で使用する表情の選択肢である く怒っていない顔><少し怒っている顔〉く怒っている顔〉 が捕かれた表情マグネッ トを提示し、 「少し怒っている顔 はどれかな」と 3つの表情それぞれについて質問し、 参 加児が 3つの表情を正確に理解していることを確認した。 課題を始めるにあたっては、「お話が終わったらその お話について教えてほしいことがあるので、お話をよく 聞いていてね。」と教示し、お話カードを用いて各課題 を提示した。例えば、く友達・少し怨っている・被害あ り場面〉では Figure1のお話カードを1枚ずつ提示しな がら以下のようなお話を読み聞かせた。 (1)ななちゃんはゾウの絵を搭きましたが、あまり上 手に描けませんでした。 (2)そこへ友達が来て fへんな絵だなj と言ってその 課題の内容 ストーリー 被害あり 自分の描いた絵を友達に破られた 少し怒っている 被害なし 友達が片づけの時間なのにまだ遊んでいる 友達 被害あり 片づけようとしているボールを友達に取られた 怒っていない 被害なし 友達がまだお弁当を食べ終わっていないのに立ち歩いている 少し怒っている 親子 被害なし お母さんから触ってはいけないと言われているはさみを触った 怒っていない 被害なし お母さんから残してはいけないと言われているにんじんを残した 13Table 2 場 面 別 の 各 選 択 肢 を 選 択 し た 割 合 場面 選択肢 年中児 年長児 1年生 2年生 怒っていない 24.0 34.0 27.8 36.0 友達 ・ 少し怒っている a 被害あり 少し怒っている 40.0 32.0 25.0 20.0 怒っている 36.0 34.0 4Z2 44.0 怒っていない 28.0 品官
o
38.9 36.0 友達 少し怒っている ・ 被害なし 少し怒っている 32.0 32.0.
a
丘9 44.0 怒っている 40.0 30.0 22.2 20.0 怒っていない 50.0 46.0 36.1 36.0 友達 怒っていない ・ 被害あり 少し怒っている 40.0 40.0 55.6 60.0 怒っている 10.0 14.0 8.3 4.0 怒っていなし、 60.0 54.0 41.7 56.0 友達 怒っていない ー 被害なし 少し怒っている 28.0 34.0 且0.0 44.0 怒っている 12.0 12.0 8.3 0.0 怒っていない 26.0 26.0 25.0 12.0 親子 ・ 少し怒っている ー 被害なし 少し怒っている 26.0 38.0 30.6 40.0 怒っている 48.0 36.0 44.4 48.0 怒っていない 50.0 34.0 22.2 20.0 親子 怒っていない ー 被害なし 少し怒っている 30.0 44.0 66.7 61且O 怒っている 20.0 22.0 11.1 20.0 絵を破いてしまいました。ななちゃんは少し怒っ ています。 ※学年ごとに最も多く選択された選択肢を斜体で示した 結 果 仰」交差に泌さt:Qtろld:?lでM0(lと宏之たれと/1!!っτ
(
1 )表情選択 れそ5とま、 ld:ld:ちゃんM;
ぶ
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(,ld:ffffをすQ;j'ld:,。 各年齢群において場面ごとに各選択肢を選択した割合 3枚目のカードを提示する際、最初に調査者が少し怒っ をTable2に示す。まず、年長児における結果を見てみ ているという主人公の情動と一致する情動マグネット ると、 4つの友達場面全てにおいて、〈怒っていない顔〉 (Figure 2)をお話カードの主人公の胸の位置に置いて主 が最も多く選ばれていることが分かる。一方、 1年生で 人公が少し怒っている気持ちであることを確認した。そ はく友達・少し怒っている・被害なし場面〉を除いた3 の上でお話を提示し、表情マグネット(Figure3)を用い つの友達場面において、実際の情動よりも1段階強めた てく怒っていない顔〉く少し怒っている顔〉く怒っている顔〉 表情が最も多く選択されていることが分かる。 の3種類の表情から主人公の表情を選択するよう求めた。 次に、怒りをより強く表出すると同答したほうが得点 さらにく友達・少し怒っている・被害あり場面〉とく友達・ が高くなるように、く怒っていない顔〉は1点、く少し怒っ 少し怒っている・被害なし場面〉の2場面についてのみ、 ている顔〉は2点、く怒っている顔〉は3点として得点 続けて表情選択の理由も尋ねた。 イヒを行い、友達場面(4場面)における年齢群、場面別の なお、課題の提示順序は参加児問で偏りのないように 平均得点をFigure4および、Figure5に示す。この得点に 配慮した。 基づいて、く友達・少し怒っている・被害あり場面〉と 3,0 2.5 得 点 2,0 1.5 1.0 国被害あり口被害なし 年中児(n=50) 年長児(n=50)1年生(n=36) 2年生(n=25) 年齢群 Figure 4 友 達 ・ 少 し 怒 っ て い る 場 面 に お け る 年齢群別平均得点と標準偏差 14 く 友 達 ・ 少 し 怒 っ て い る ・ 被 害 な し 場 面 〉 に つ い て4 (1f 3,0 2.5 得 点2.0 1.5 1.0 固被害あり 口被害なし 年中兜(n=50) 年長児 (n=50) 1年生(n=36) 2年生(n=25) 年齢群 Figure 5 友 達 ・ 怒 っ て い な い 場 面 に お け る 年齢群別平均得点と標準偏差齢 群:年 中 児・年 長児・1年 生・2年生)x 2 (被害 の りである。(親子・少し怒っている ・被害なし場面 :年 有 無:被害あり・被害なし)の2要因の分散分析を行っ 中児2.22(.84);年長児2.10(.79); 1年生2.19(.82); 2年 た。そ の 結 果 、 被害の 有 無 の主効 果 のみが 有 意 で あり 生2.36(.70);親子 ・怒っていない・被害 なし場 面 :年 中 (F(1,157)=5.26,p< .05)、 被害がない場 合よりも被害があ 児1.70(.79);年 長 児1.88(.75); 1年生1.89(.58); 2年生 る場合のほうが 怒りをより強く表出すると理解されてい 2.00(.65))。 ることが明らかになった。また く友達 ・怒っていない・ ( 2) 表情選択の理由の分類 被害あり場面〉と く友達・怒っていない・被害なし場面〉 く友 達 ・ 少 し 怒っている・被害あ り 場 面〉とく友 達・ についても同様の分析を行ったところ、被害の有無の主 少し怒っている・被害なし場 面〉における表情選択の理 効果のみが有 意であり(F(1,157)=4.80,pく.05)、被害がな 由について、カテゴリーに分けて分析を行った。その際、 い場合よりも被害がある場 合のほうが怒りをより強く表 複 数のカテゴリーに当てはまるような理由については、 出すると理解されていることが明らかになった。これら それぞれのカテゴリーにおいてカウントした。例え ば、 の分析結果からは年齢群による差はみられなかったもの 「怒っていると友達が泣くから、怒らないで『片 づけよう』 の、特に被害あり場面では実際の情動よりも強い怒りの と言う」という回答 は、「怒 り の 表 出の他者 への否 定 的 表情の選択の割合が年 長児 から1年生 に かけて増えてい 影響」 と 「言語による主張的表出Jの2つのカテゴリー ることがTable2から分かる[友達・少し怒っている・被 においてそれぞれカウントされた。 害あり場而 :年 長児34.0%、1年 生47.2%;友達・怒って まず、 く怒っていない顔〉の選択 理 由をカテ ゴリーに いない・被害あり場面:年長児54.0%、1年生63.9%]。 分 類した 結 果をTable3およ びTable4に示す。これよ さらに、〈親子・少し怒っている・被害なし場 面〉とく親 り、「怒った顔をすると友達 が泣くからjなど怒りを表 子・怒っていない ・被害なし場面〉についても年齢群を 出することが他者に否定的影響を与えるということ関 す 被 験者間要 因とする1要因の 分 散分析を行ったが、いず る言及が多く、その 割合 は く友達・少し怒っている・被 れの場面においても有 意な差はみられなかった。各 場 面 害あり場面〉では年齢とともに高くなっていることが分 における年齢 群別の 平均値 お よ び 標準偏差は以下 の 通 かる(年中児16.7%;年 長児41.2% ; 1年生50.0%; 2年 Table3 <友達・少し怒っている・被害あり場面〉における く怒っていない顔〉の選択理由 カテゴリー 年中児 年 長 児 1年生 2年 生 全体 (n=12) (n=17) (n=10) (n=9) (n=48) 書簡による主張的表出・優しく伝える 15 『破らないでjと言うから/優しく伝えるから 怒りの表出の他者への否定的彫響 20 怒った顔をすると友達が泣くから/怒って言うと伝わらないから 他者の行動および自己の情動
。
。
4 友達が絵を破いたから/友達に絵を破かれて嫌だったから その他。
無回答。
わからない 計 12 18 10 11 51 Table 4 <友達・少し怒っている・被害なし場面〉におけるく怒っていない頗〉の選択理由 カテゴリー 年中児 年 長 児 1 ,年生 2年 生 全 体 (n=14) (n=19) (n=14) (n=9) (n=56) 冒栢による主張的表出・優しく伝える 「お片づけの時間だよ』と言うから/優しく伝えるから 12 22 怒りの表出の他者への否定的彫響 怒った顔をすると友達が泣くから/怒って言うと伝わらないから 24 他者の行動および自己の情動。
。
友達が絵を破いたから/友達に絵を破かれて嫌だったから その他 無回答 わからない 計 14 20 18 10 62 -15-生66.7%)。一方、表情で怒りを表出するのではなく
r
w
破 らないで』と言うから」など言語による主張的表出に関 する言及も3割以上みられた(被害あり場面31.3%;被害 なし場面39.3%)。 次に、〈怒っている顔〉および〈少し怒っている顔〉 を選択した理由としては、「友達が絵を破いたから」な どの他者の行動や、「友達に絵を破られて嫌だったから」 などの自己の情動に関する理由が最も多く挙げられてい た(少し怒っている顔:被害あり場面71.2%;被害なし 場面65.5%;怒っている顔:被害あり場面 78.1%、被害 なし場面84.0%)。 さらに、く少し怒っている顔〉の選択理由の中には、「 怒った顔だと友達が泣いて伝えられないし、怒っていな い顔だと優しすぎるからJ
(年長児)、「怒っている顔だ と友達がかわいそうだし、怒っていない顔だと気持ちが 伝えられないからJ( 1年生)なども含まれていた。この ように、怒りの表出が他者に与える否定的影響だけでな く、全く表出しないと相手に自分の気持ちが伝わらない という抑制がもたらす否定的影響も同時に考慮した結果 として、中程度の表出であるく少し怒っている顔〉を選 択した子どももいたことがうかがえる。 考 察 本研究では、情動表出の制御における表出の側面とし て、怒りの主張的表出が幼児期から児童期にかけてどの ように発達するのかを明らかにすることを目的とした。 その結果、 Figure4および Figure5から分かるように、 友達場面においては自分に対する直接的な被害がない場 合より被害がある場合のほうが怒りをより強く表出する ことが明らかになった。本研究では被害あり場面として 描いた絵を友達に破られる、友達にボールを取られるな どの対人葛藤場面を用いた。仮想場面を用いた自己主張 行動に関する多くの研究では、使っていたおもちゃを友 達に取られる、作ったものを友達に壊される、友達に順 番を抜かされるなど物や順番を巡る対人葛藤場面が用い られている (e.g.子安・鈴木,2003;丸山(山本), 1999;長演・ 高井,2011;鈴木,2005;山本,1995)。このことからも、直 接的な被害を受ける対人葛藤場面では怒りの主張的表出 が生じやすいと考えられる。 一方、 Table2からく友達・少し怒っている・被害あ り場面〉および〈友達・怒っていない・被害あり場面〉 では年長児から 1年生にかけて実際よりも強めた表出の 割合が増加していたものの、怒りの表出の強さにおいて は明確な年齢群による差はみられなかった。この背景に は、主人公の情動に関わらず怒りを表出しないニュート -16 ラルな表出を選択する割合が年齢が上がっても依然とし て高いということがある。 Table3および Table4から分 かるように、ニュートラルな表出をする理由として怒り の表出が他者へ与える否定的影響を挙げた者が多く、他 者の気持ちゃ他者との関係を守るために怒りを表出しな いことが強く動機づけられていると考えられる。就学前 の子どもの葛藤場面における反応としてアメリカの子ど もに比べて日本の子どもでは攻撃的な言動が少ないこと (Zahn-Waxler, Friedman, Cole, Mizuta, & Hiruma,1996) や、 Lewis(1993)が日本は怒りの経験や表出を不適切な ものとして忌避する傾向が強い文化であると指摘してい ることからも、とりわけ日本の場合には怒りの表出を抑 制することへの社会的望ましさの影響が現れやすいと推 測される。その背景には、 Markus& Kitayama(1991)が 「相互協調的自己観」と表現したことに象徴されるよう に、他者との調和を重んじるという日本特有の価値観が 存在していると考えられる。 しかしながら、 Table3および Table4に示したよう に、ニュートラルな表出をする理由には言語による主張 的表出も多く挙げられていたことを踏まえると、怒りの 主張的表出において明確な発達的変化がみられなかった という本研究の結果は、情動表出を表情と言語という2 つのモードから捉えることで解釈可能であると考えられ る。本研究では、意図伝達動機に基づいた怒りの表出の 制御が表情だけでなく言語においても働き、言語表出が 主張的になったことで表情表出が抑制的になったと推測 される。言語による自己主張については、仮想場面を用 いた先行研究において年長児頃に言語的主張が多くなる ことが示されている(子安・鈴木,2003;鈴木,2005)。こ のことから、本研究において怒りの主張的表出の発達 的変化がみられなかったことには、このような言語的主 張の発達が影響していると考えられる。さらに、児童 を対象として怒りの表現方法について調べたShipman, Zeman, Nesin, & Fitzgerald(2003)では、怒りを表現する 際には表情と言語という2つの方法を使用すること、怒 りを表情で表現するよりも言語で表現するほうが相手は 受け入れてくれやすいことが示されている。このような 言語的主張の発達と表情表出と言語表出の受け入れられ やすさの違いによって、怒りを相手に受け入れられやす い言語によって表出した結果として、表情においては 主張的表出がみられにくくなったと推測される。この ように情動表出において表情と言語という 2つのモード は相補的に機能すると考えられるが、表情と言語の両 方を扱った先行研究(e.g.Gnepp & Hess,1986; Zeman & Shipman, 1996; 1998)はあってもそれらの関連を示した研究はない。したがって、表情と言語という2つのモード がどのように関連するのか、またその関連は年齢ととも にどのように変化するのかについては明らかになってい ない。従来の情動表出の制御に関する研究は表情に焦点 を当てたものがほとんどであったが、このように表情と 言語という2つのモードから情動表出を捉えることで、 情動表出の制御の発達をより明確に明らかにすることが できると考えられる。したがって、今後は表情と言語と いう2つのモードがどのように関連し合いながら発達す るのかを明らかにする必要がある。 さらに、言語では主張するが表情では抑制するという ことから分かるように、情動表出の制御においては主張 的表出と抑制的表出が同時に生じる可能性がある。木野 (2004)は怒り喚起場面で怒りの表出者が持つ目標として、 二者関係の維持・強化を目指す「関係目標」と、怒りの 伝達や受け手の反省を目指す「伝達白標」の2つを取り 上げている。また、演口(1992)は小学生を対象とした質 問紙調査の結果から、仲間による挑発場面において、相 手との友好的な関係の維持などの友好的目標設定ともた らされた被害に対する正当な償いの要求などの主張的 目標設定の両方が主張的行動を予測することを示してい る。このように、情動表出の制御においては、自分の情 動や意図の伝達などの主張的表出を方向づける動機と、 相手への配慮や対人関係の維持などの抑制的表出を方向 づける動機の両方が働き、それらのバランスの中でどの ような情動表出をするかが決定されると考えられる。そ して、それは言語では主張するが表情では抑制するとい うように表情と言語という2つのモードの中で生じるだ けでなく、本研究において抑制的表出の必要性は認識し ながらも抑えすぎると相手に気持ちが伝わらないためあ えて伝わるように中程度の表出をすると答えたfどもが いたということからも示唆されるように、表情という モード内でも生じると考えられる。したがって、今後は 主張と抑制の同時的制御という観点からも情動表出の制 御の発達を捉えることが必要であると考えられる。 引用文献
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付 記
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資料 課題のストーリーと質問(女児用) 友達・被害あり・少し怒っている場面 友達・被害あり・怒っていない場面 ななちゃんはゾウの絵を描きましたが、あまり上手に ゆきちゃんは帰る時間になったのでボールを片づけ 描けませんでした。そこへ友達が来て「へんな絵だな」と ようとしています。そこへ友達がやってきてそのボールを 言ってその絵を破いてしまいました。ななちゃんは少し 取ってしまいました。ゆきちゃんは怒っていません。友達 怒っています。友達に絵を破らないでほしいと伝えたい にボールをとらないでほしいと伝えたいと思っていると と思っているとき、ななちゃんはどんな顔をするかなっ き、ゆきちゃんはどんな顔をするかなっ 友達・被害なし圃少し怒っている場面 友達・被害なし・怒っていない場面 りさちゃんはお片づけの時聞になったのでおもちゃを さきちゃんはお弁当を食べ終わったのでごちそうさま 片づけています。でも友達はお片づけの時間なのにま をしました。でも友達はまだお弁当を食べ終わっていな だ遊んでいました。りさちゃんは少し怒っています。友達 いのに立ち歩いていました。さきちゃんは怒っていませ にお片づ、けのときに遊ばないでほしいと伝えたいと,思っ ん。友達にお弁当を食べ終わっていないのに立ち歩か ているとき、りさちゃんはどんな顔をするかな? ないでほしいと伝えたいと思っているとき、さきちゃんは どんな顔をするかなっ 親子・被害なし・少し怒っている場面 親子町被害なし・怒っていない場面 みかちゃんはいつもお母さんからはさみをさわっては あきちゃんはにんじんが嫌いですが、いつもお母さん いけないと言われています。でもみかちゃんがはさみを からにんじんを残してはいけないと言われています。で さわってしまいました。お母さんは少し怒っています。み もあきちゃんはにんじんを残してしまいました。お母さん かちゃんにはさみをさわらないでほしいと伝えたいと思 は怒っていません。あきちゃんににんじんを残さないで っているとき、お母さんはどんな顔をするかなっ ほしいと伝えたいと,思っているとき、お母さんはどんな顔 をするかな? 19
幼 児 期 か ら 児 童 期 に か け て の 怒 り の 主 張 的 表 出 の 発 達 本研究は幼児期から児童期にかけての怒りの主張的表出の発達を明らかにすることを目的とした。本研究では年中児 50名、年長児50名、1年生36名、2年生25名を対象に、仮想の対入場面において主人公はどのような表情をするかを尋ねた。 課題は、友達聞の葛藤場面が4場岡、親子聞の葛藤場面が2場面の計6場面から構成された。さらに、友達聞の葛藤場 面のうちの2場面は主人公が友達から被害を受ける場面(被害あり場面)であり、残りの2場面は友達がルールを仮る場 面(被害なし場面)であった。 その結果,被害なし場面よりも被害あり場面のほうが怒りを強く表出することが明らかになった。その一方で、どの 年齢群においてもニュートラルな表出を選択した子どもの割合は高く、選択理由としては怒りの表出が他者へ与える否 定的影響だけでなく、言語による主張的表出も挙げられていた。 本研究から、怒りの主張的表出は直接的な被害を受ける対人葛藤場面において生じやすいことが示された。さらに、 言語表出が表情表出に影響を与える可能性も示唆された。
The Development of the Assertive Anger Expression in the Preschool and Elementary School Children
The purpose of the present study was to investigate the development of the assertive anger expression in the preschool and elementary school children. The participants were 50 five-year-olds, 50 six-year-olds, 36 seven-year-olds and 25 eight-year-olds. In the experiment, children were presented hypothetical stories, and they were asked the facial expression of the protagonist.They heard six stories; four stories were about the conflict with peers, other stories were about the conflict between mother and child. Furthermore in two of four peer stories, the peer damaged the protagonist (Damage situations), and in other stories, the peer broke the rules (Rule situations).
As a result, children chose the more intense anger facial expression in Damage situations than in Rule situations. However, the percentage of the children chose the neutral face was high regardless of children' s age. Moreover, they answered that the protagonist made the neutral face not only to avoid the negative interpersonal influence but also to assert his anger by words.
Therefore these results suggest children tend to use the assertive anger expression in the interpersonal conflict situations that children are damaged directly. Moreover, the results of the present study also show the possibility that facial expressions is in毘uencedby verbal expressions.
key words: Assertive Emotional Expression, Preschool Children, Elementary School Children