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国立大学研究者が発明した特許の民間企業への権利譲
渡に関する分析
Author(s)
中山, 保夫; 細野, 光章
Citation
年次学術大会講演要旨集, 28: 119-124
Issue Date
2013-11-02
Type
Conference Paper
Text version
publisher
URL
http://hdl.handle.net/10119/11680
Rights
本著作物は研究・技術計画学会の許可のもとに掲載す
るものです。This material is posted here with
permission of the Japan Society for Science
Policy and Research Management.
1.はじめに
国立大学法人(以下「国大」と略す)に所属する研究者が 職務として発明した特許に関して、民間企業への権利譲渡 の実態について述べた文献は数少ない。 ここでいう国大の研究者が発明した特許とは、大学法人 又は関係 TLO を出願人とする特許のみならず、個人や他 機関による出願も含めた国大研究者の職務として発明がな された特許全体を指す。 文部科学省や特許庁より各大学の特許出願数等の実績 データ1は公開されているが、大学法人(又は TLO)から出 願した特許が前提であり、権利2を承継せず企業に譲渡した 特許や出願人(又は権利人)名義を国大から企業に変更し た特許、さらに、それら特許個々の審査請求の状況や査定 結果などが定量的に報告された事例は見当たらない。 そこで、本稿では、国大の研究者が職務として発明した 特許に関して、可能な限り再現した特許データベース(以 下、「特許 DB」と略す)を構築し、特に、企業に権利移転さ れた特許を中心にその状況や他の特許群との差異、さらに 企業発明者や特許引用関係などの情報を手掛かりとして、 企業側の特許の活用状況を推定してみたい。2.特許 DB の構築と検証
(1)特許 DB の構築 国大の特許出願は、当該大学の研究者からの届け出に 基づき発明委員会で審議が行われ、職務発明等に該当し、 且つ、大学が権利を承継することを決定した場合は大学に 帰属する形態で出願される。共同研究による場合は、共同 出願契約書に基づいた権利持分割合で共同出願される。 国内出願の場合、こうした特許は、出願後 18 ヶ月を経ず取 下げされた特許を除いて公開公報で確認することができる。 一方、国大の研究者が職務として発明した特許であっても、 以下の場合は国大(又は TLO)で出願人情報を検索しても 見つけ出すことは出来ない。 a.発明委員会が、職務発明であるが大学がその権利を承 継しないとした特許で発明者、企業等から出願 b.補助金などにより発明が行われた場合で、別途定められ た権利者から出願 c.共同研究者間で、ローカルに権利譲渡されて出願 1 文部科学省 産学官連携の実績 http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/sangaku/sangakub.htm 特許庁 特許行政年次報告書 http://www.jpo.go.jp/index/toukei.html 2 ここでいう権利とは特許法第 29 条第 1 項に規定する「特許を受ける そこで、ここでは 2004~2007 年度の国内出願特許を対 象に、出願人に国大又は TLO が含まれる特許を見つけ出 すとともに、所属する国大の住所を発明者住所としている特 許を抽出し特許 DB を構成した。さらに、前述の b.の場合、 居所を発明者住所としていることが多く、科学技術振興機 構(JST)のファンドにより発明された特許については、別途、 それら特許群の全発明者を調査し、国大の研究者の存在 が確認された場合のみ特許 DB に収めている。結果、特許 DB は、見つけ出せた限りという条件付きとなるが、対象期 間に出願された国大の研究者が発明者として含まれる特許 群(20,485 件)を構成する。 (2)出願人の構成 図1は、特許 DB を出願人別に区分したものである。 図の「他機関による出願」は、2004~2007 年度の累積数 では 3,241 件(特許 DB の 15.8%)を占めるが、残念ながら、 この数字が、そのまま大学の公表する出願実績と実発明と の差異とはいえない。何故ならば、大学が権利を承継せず、 企業等が出願した特許に国大研究者が発明者として含ま れても住所が居所である場合は抽出できないし、逆に、可 能性として、住所を国大としている中にも職務発明に該当し ない特許が混入することを否定できないからである。 7,553 228 742 7,260 516 945 1,525 445 1,271 8,523 8,721 3,241 36.9% 1.1% 3.6% 35.4% 2.5% 4.6% 7.4% 2.2% 6.2% 41.6% 42.6% 15.8% 合計 20485 国大(又はTLO)による出願 国大(又はTLO)と他機関との共願 他機関による出願 国大の出願 TLOの出願 国大とTLOの共願 企業との共願 企業および独・団等 との共願 独・団等との共願 企業の出願 企業および独・団等 との共願 独・団等の出願 独:独立行政法人 団:財団法人・社団法人など 等:地方自治体、国研、個人など 注:企業には、企業法人化された TLOは含まれていない 図 1 出願人の構成 (3)特許 DB の網羅性 文科省の「大学等における産学連携等実施状況調査」の 国内出願数は特許 DB に含まれる特許の網羅性を検証す る際の一つの参考値となる。しかし、公開公報の国大出願 特許総数と比較すると調査値の方が大きく、年度を追って 900→1,400 件程度の右肩上がりの差が生じている。 この要因として TLO の出願分や公報発行までの 18 ヶ月 の間に取下げされた特許の存在、表記揺れで抽出不可の国立大学研究者が発明した特許の民間企業への権利譲渡に関する分析
中山 保夫 文部科学省科学技術政策研究所 ○細野 光章 同 上1D04
特許などがあげられるが、それだけでは説明しきれない大 きさの数値でもある。 このように、前述の発明者住所などとも合わせ、国大の研 究者が発明した特許を実態と同じく公報から探し出し、DB 化するのは事程左様に簡単な話ではない。 結局、特許 DB の網羅性を見極めるには、その抽出特性 を認識した上で分析・評価を行うという形態とせざるを得な い。 ここでは、唯一対比可能な金間らによる調査データ3の 2004 年度出願分を利用し、限定的ではあるが特性を見て みる。この調査データは、3 つの国大に所属する研究者リス ト(国大の協力により入手)をもとに特許の発明者情報とマッ チングさせ関係特許を抽出する手法を採っている。このた め、より国大の特許発明の実態に近いデータと考えられる が、リストの研究者記載漏れや同姓同名者の特許の誤認、 職務発明以外の特許が含まれてしまうことも否定できない。 図 2 は、対比結果を図式化したもので、調査データと筆 者らの特許 DB との包含関係を示している。この結果から、 集合A∪Bが国大の特許発明の実態に近い数字と考えら れ、以下のように纏められる。 ①国大が権利を承継せず発明者帰属となる特許は、対 象大学の全発明特許の 30~40%程度存在する。 ②発明者帰属の特許は、発明者住所を国大又は居所と する場合があり、両者の件数比は約半々である。 ③居所の場合、公開公報からの抽出は難しい。特許 DB では対象大学(大規模大学)の全発明特許の 17~25% 程度がこの要因で不足する。 ただし、上記は 2004 年度出願という法人化初年度の比 較で、特に筑波大学では従来の慣習を引きずっている様子 も窺え、参考値としてご覧頂きたい。 見つける手掛かりのない特許(D) 金間らの調査データ(B) 特許データベース(A) Bに含まれない特許(E) 国大が権利承継しない特許(F) 見つける手掛かりのある特許(C) 広島大学 筑波大学 東北大学 特許データベース(A) 176(82.6) 75(70.7) 360(74.5) 金間らの調査データ(B)+(G) 195( ‐ ) 87( ‐ ) 443( ‐ ) 金間らの調査データ(B) 実質 191(89.6) 87(82.1) 437(90.4) 見つける手掛かりのある特許(C) 34(15.9) 42(39.6) 74(15.3) 見つける手掛かりのない特許(D) 37(17.3) 31(29.2) 123(25.4) 企業が出願 24 12 75 企業と国大研究者が共願 6 5 36 国大研究者が出願 3 11 3 その他の出願 4 3 9 誤認特許(G) 4 0 6 Bに含まれない特許(E) 22(10.3) 19(17.9) 46(9.5) 国大が承継しない特許(F)=(C)+(D) 71(33.3) 73(68.8) 197(40.7) 全特許数 A∪B 213(100) 106(100) 483(100) 誤認特許(G) 出願人:国大・TLO以外、発明者住所:国大 出願人:国大・TLO以外、発明者住所:居所 ・リストに掲載漏れした研究者の存在 図 2 特許 DB の網羅性の検証 ともあれ、特許 DB には、国大が権利を承継しなかった特 許の網羅性に実態との誤差(不足)が存在することは確認 できた。 以下、それを踏まえた上で分析を進めたい。 3 科学技術政策・学術研究所/調査資料―154(2008 年発行) 「大学 関連特許の総合調査(Ⅱ)」において、3 大学(筑波大学・広島大学・ 東北大学)分析のために抽出した特許データ
3.企業に権利を譲渡した特許
(1)発明者帰属特許の譲渡 国大の法人化後、大学評価の指標の一つとして特許の 出願実績を重要視した時期があった。 しかし、法人経営として知財がもたらす収益と審査・維 持・管理等に要する支出とのバランスを保つ困難さに直面 し、収益の見込めない特許は国大が特許を受ける権利を承 継せず発明者帰属とし、企業に譲渡されるケースが増えて いる。 この状況は、公表データを使い国大出願実績の減少とい う形で間接的に見ることが出来るが、それ以外にも外国出 願・国際出願への振替、発明の生産性低下など他要因も考 えられ、企業譲渡特許数の変遷という直接的な見方は出来 ない。 そこで、ここでは、発明者帰属とされ企業に譲渡された特 許の状況を年度別に直接表してみよう。 結果は図 3 に示す通りであり、譲渡特許には実態との差 異(不足)があることを考慮すると、図はもう少し顕著な形で 譲渡が行われている様が示されることになろう。 なお、2004 年度については、法人化以前に行われた研 究成果に基づく特許が出願されることから、前述の筑波大 学の例のように、法人化以前の慣習の中で大学が関与しな いまま譲渡が行われたケースもあるのではないかと推測さ れる。 0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 2004 2005 2006 2007 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 4,296 5,401 5,756 5,032 371 296 381 471 8.64 5.48 6.62 9.36 特 許出願件数 年度 企 業 譲 渡 特 許 割 合 (件) (%) 国立大学研究者の発明特許 発明者帰属とされ企業に譲渡された特許 図 3 発明者帰属とされ企業へ譲渡された特許 0 500 1000 1500 2000 東 京 大 東 北 大 大 阪 大 東 京 工 業 大 京 都 大 北 海 道 大 名 古 屋 大 九 州 大 広 島 大 東 京 農 工 大 名 古 屋 工 大 信 州 大 山 口 大 千 葉 大 静 岡 大 岡 山 大 筑 波 大 九 州 工大 神 戸 大 電 気 通 信 大 長 岡 技 大 徳 島 大 横 浜 国 大 豊 橋 技 科 大 群 馬 大 岐 阜 大 J A I S T 熊 本 大 金 沢 大 新 潟 大 鹿 児 島 大 東 京 医 歯 大 三 重 大 香 川 大 福 井 大 N A I S T 長 崎 大 富 山 大 宮 崎 大 岩 手 大 埼 玉 大 京 都 工 繊 大 愛 媛 大 山 梨 大 鳥 取 大 佐 賀 大 宇 都 宮 大 大 分 大 高 知 大 秋 田 大 弘 前 大 山 形 大 0 10 20 30 40 50 60 特 許 数 割 合 (件) (%) 当 該 大 学 の 研 究 者 が 「発明者」として含まれる特許 国大が権利を承継せず 企業に譲渡された特許 当該大学、関係TLO、又 は研究者個人が権利を 承 継 し て い る 特 許 国立大学が権利を承継せず 企業に譲渡した特許の割合 図 4 発明者帰属とされ企業へ譲渡された特許(大学別)次に、大学別にみた結果を図 4 に示す。図は、特許 DB において、所属研究者の発明特許が 100 件超の 52 大学に ついて示している。企業に譲渡された特許の数は、10%以 下というのが実情であり、さらに、23 大学では 5%以下である。 例外的に、富山大、京都工繊大、山形大の割合が高く、特 に、山形大では、過半数が権利譲渡され、多くの譲渡特許 に共通する数名の研究者の名前が見られる。当然ここでも 実態との差異(不足)のある大学も存在する。 図 5 には、出願前に企業に譲渡した特許に占める当該 大学研究者が筆頭発明者である特許の割合を示した。 発明者の記載順序には特許法上の規定はなく、キーマ ンと考えられる発明者が一番後に記載される事例も一部存 在する。しかし、企業が出願した特許の筆頭発明者が国大 の研究者であるならば、常識的に同人の発明貢献度が高 い特許と見做して差し支えないと考えている。 0 20 40 60 80 100 120 140 160 東 京 大 東 北 大 大 阪 大 東 京 工 業 大 京 都 大 北 海 道 大 名 古 屋 大 九 州 大 広 島 大 東 京 農 工 大 名 古 屋 工 大 信 州 大 山 口 大 千 葉 大 静 岡 大 岡 山 大 筑 波 大 九 州 工 大 神戸 大 電 気 通 信 大 長 岡 技 大 徳 島 大 横 浜 国 大 豊 橋 技 科 大 群 馬 大 岐 阜 大 J A I S T 熊 本 大 金 沢 大 新 潟 大 鹿 児 島 大 東 京 医 歯 大 三 重 大 香 川 大 福 井 大 N A I S T 長 崎 大 富 山 大 宮 崎 大 岩 手 大 埼 玉 大 京 都 工 繊 大 愛 媛 大 山 梨 大 鳥 取 大 佐 賀 大 宇 都 宮 大 大 分 大 高 知 大 秋 田 大 弘 前 大 山 形 大 0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 70.0 80.0 90.0 100.0 企 業 譲 渡特 許 数 国 大 発 明 者 が 筆 頭 発 明 者 特 許 の 割 合 (件) (%) 国立大学が権利を継承せず企業に譲渡した特許に占める 当該大学研究者が筆頭発明者である特許の割合 棒線下部は大学研究者が筆 頭発明者である特許を示す 図 5 大学研究者が筆頭発明者である特許の割合 (2)権利承継特許の譲渡 権利承継特許の譲渡とは、国大又は TLO が出願(他機 関との共願を含む)した特許について、後日、権利の持分 を企業に譲渡し名義変更(有償無償は問わない)が行われ た特許をいう。当該特許は次の論理積により特許 DB から抽 出する。 ①公開公報の出願人に国大又は TLO の名義を含む特 許であること ②出願人(最新)において、国大又は TLO の名義が抹消 され、且つ、企業の名義のみとなっている特許 ここで、最新とは 2013 年 6 月 28 日現在で確認した出願 人(又は権利人)の最新情報である。公開公報の共願企業 がそのまま最新出願人となっている場合は共願企業への権 利譲渡と称し、最新出願人が異なる企業となっている場合 は新規企業への権利譲渡と称する。 ただし、公報と最新において、異なる企業名称となってい ても、それが単なる名称変更(合併等の形態変化を伴う場 合も含む)であり、実質的に権利の承継に変化がないと判 断できる場合は新規企業への権利譲渡とは見なさない。 図 6 に示す通り、国大が出願した後に他機関に権利を譲 渡した特許は 697 件(特許 DB の 3.4%)あり、うち、545 件(同 2.7%)が企業に対する譲渡である。共願企業への権利譲渡 数と新規企業への譲渡数はほぼ 3:1 である。 152 396 149 国立大学(又はTLO)が他機関に権利を譲渡した特許(697件) 共願企業への権利譲渡 新規企業への権利譲渡 独法・団体等への権利譲渡 企業に権利を譲渡した特許 図6 国大が出願後に企業に権利譲渡している特許 図 7 は国大が出願後に企業譲渡した特許数が 5 件以上 の国大及び TLO について示したものである。ちなみに、権 利承継後の譲渡実績は 50 大学、22TLO で確認できる。 0 10 20 30 40 50 60 70 80 京 都 大 大 阪 大 東 京 工業 大 東 北 大 北 海 道 大 東 京 大 (株 )信 州 T L O 名 古 屋 大 岐 阜 大 金 沢 大 熊 本 大 徳 島 大 香 川 大 静 岡 大 電 気 通 信 大 関 西 テ ィ ー ・エ ル ・ オ ー (株 ) 名 古 屋 工 業 大 (公 財 )大 阪 産 業 振 興 機 構 (公 財 )名 古 屋 産 業 科 学 研 究 所 (株 )東 北 テ ク ノ ア ー チ 横 浜 国 立 大 長 崎 大 (公 財 )新 産 業 創 造 研 究 機 構 岡 山 大 千 葉 大 東 京 農 工 大 J A I S T 企 業 譲 渡 特 許 件 数 図 7 国立大学/TLO別企業譲渡件数 (3)譲渡先企業の特性 ①業種 譲渡先となる企業の業種を示したのが図 8 である。図は 譲渡受け(権利取得)件数が合計 20 件以上の企業に関し て日本標準産業分類(中分類)で示している。特徴的なの は、化学工業への譲渡件数が多く、特に発明者帰属特許 の譲渡で突出している。業種細目として、化学工業には医 薬品製造業が含まれ、それら企業のファクターが大きく効い ている。これは、医薬品特有の現象と言っても良く、国大が 承継しない理由や譲渡の有償・無償等今後背景を詰めて ゆきたい。次の専門サービス業・技術サービス業は多くが大 学発ベンチャーへの譲渡となっている。 0 20 40 60 80 100 120 140 化 学 工 業 専 門 サ ー ビ ス 業 業 務 用 機 械 器 具 製 造 業 食 料 品 製 造 業 電 気機 械 器 具 製 造 業 電 子 部 品 ・デ バ イ ス ・電 子 回 路 製 造 業 生 産 用 機 械 器 具 製 造 業 情 報 サ ー ビ ス 業 情 報 通 信 機 械器 具 製 造 業 機械器 具 卸 売 業 繊 維工 業 非鉄金 属 製 造 業 窯 業 ・土 石 製 品 製 造 業 は ん 用 機 械 器 具 製 造 業 総 合 工 事 業 輸 送 用 機 械 器 具 製 造 業 金 属 製 品 製 造 業 プ ラ ス チ ッ ク 製 品 製 造 業 鉄 鋼業 技術サ ー ビ ス 業 譲 渡 件 数 発 明者 帰 属 特 許 の 企 業 譲 渡 国 大 出 願 後 の 共 願 企 業 譲 渡 国 大 出 願 後 の 新 規 企 業 譲 渡 図8 譲渡先企業の特性(業種) ②大学発ベンチャー 特許の譲渡先企業には、大学発ベンチャー企業の名称 が散見される。そこで、発明者帰属・権利承継特許別に、大
学発ベンチャー企業への譲渡状況を図 9 に示した。 譲渡先企業が大学発ベンチャーであることの確認は、筆 者らの保有する大学発ベンチャー企業リスト(1,334 社)によ る。経済産業省による平成 20 年度(FY2008)の「大学発ベ ンチャーに関する基礎調査」では、同年度末時点で事業活 動を行っている大学発ベンチャーの総数は 1,809 社と なっている。また、創出ベースで 2,121 社との記述がある。 その数値と保有リストとは差があるため、図 9 は最低限の数 値として紹介する。 大学発ベンチャーには、件数で言えば国大が承継せず 発明者帰属となった後に譲渡される数が多く、当該譲渡特 許件数の約 20%を占める。なかでも、東京大学、京都大学、 大阪大学、東北大学の 4 大学発ベンチャーが 2 桁件数の 譲渡を受けている。 件数比で高いのは、国大が出願後、大学発ベンチャー (共願ではない)に権利を譲渡するケースである。当該ベン チャーは国大の研究者が関与する企業が殆どで、共願して いないことは肯ける。一方、特許権自身を取得することは、 優遇措置のあるライセンシングという受け身の利用ではなく、 技術こそが大学発ベンチャーの生命線であり、特許の権利 化が事業の基本であることを端的に示していると言えよう。 0 50 100 150 200 250 300 350 発明者帰属特許の企業譲渡 国大出願後の共願企業譲渡 国大出願後の新規企業譲渡 0 10 20 30 40 50 303 30 47 60 10 38 8.4 5.7 33.6 19.9 7.6 31.5 大 学 発 ベ ン チ ャ ー 譲 渡 特 許 数 / 譲 渡 企 業 数 大 学 発 ベ ン チ ャ ー 譲 渡特 許 数 比 / 企 業 数 比 (%) 譲渡特許数 譲渡企業数 大学発ベンチャーへの 譲渡特許数比 大学発ベンチャーの 企業数比 図9 譲渡先企業の特性(大学発ベンチャー) (4)審査請求率・特許査定率・特許維持率 発明者帰属特許の企業譲渡と国大出願後に企業譲渡し た特許について、審査請求、査定、特許維持の各状況に ついて比較してみる。 図 10 は当該特許の審査請求の状況を、2011 年 8 月 11 日を初回とする調査日ごとに記載した状況である。各特許 群で調査日を追うごとに若干右肩下がりとなっているのは、 審査請求後取り下げが行われた特許があることに起因す る。 国大が出願後に権利を譲渡した特許は、共願企業、新 規企業にかかわりなく、95%超の高率であるのに対し、発明 者帰属特許の企業譲渡は 70%強であり、審査請求に対する スタンスが明らかに異なる。 企業が、国大が出願した特許の権利を後日取得する場 合は、権利の行使を必要とする事業戦略上の強い意思が あるため、審査請求率が極めて高いと考えられる。 一方、発明者帰属となった特許の譲渡を受ける場合は、 図の結果から、それとは異なる様々な事情が見え隠れする。 すなわち、審査請求を断念した特許には、自ら保持して権 利を行使するよりも他に特許を取らせないよう防衛的に出 願をしたり、出願をする代わりに先んじて公開し、事業上の 保全を図ることに意義を見いだすものや、考え過ぎかも知 れないが、産学連携成果を見える形で残しておく実績作り の側面もあるかもしれない。 60 70 80 90 100 2011.8.11 2012.4.9 2013.2.5 2013.6.28 審 査 請 求率 審査請求状況の調査日 (%) 参考:2004-2007年度国大研究者による発明特許(20,485件) 発明者帰属特許で企業譲渡した特許(1,525件) 国大が出願後に共願企業に権利を譲渡した特許(396件) 国大が出願後に新規企業に権利を譲渡した特許(149件) 図10 審査請求率 同じく、図 11 は特許査定率と特許維持率を示している。 特許査定率が右肩上がりとなっているのは、審査中の特許 の数に影響されているためである。2013 年 2 月 5 日調査の 段階では特許 DB の審査請求特許 16,007 件のうち審査中 の特許が 463 件残されていたが、6 月 28 日の段階では 33 件に減少している。企業に譲渡された特許に限ると 1 件を 残すのみあり、査定率は安定したと考えてよい。 20 30 40 50 60 70 80 90 100 2011.8.11 2012.4.9 2013.2.5 2013.6.28 90.0 91.0 92.0 93.0 94.0 95.0 96.0 97.0 98.0 99.0 100.0 特 許 査 定 率 調査日 特 許 維 持 率 (%) (%) 特許査定率 特許維持率 × 国大研究者の発明特許(20,485件) 参考用 発明者帰属特許で企業譲渡した特許(1,525件) 国大が出願後に権利を共願企業へ譲渡した特許(396件) 国大が出願後に権利を新規企業へ譲渡した特許(149件) 図11 特許査定率・特許維持率 ここでも発明者帰属特許の企業譲渡と国大出願後に企 業譲渡した特許では査定率は明らかに異なり、後者が高い 状況にある。特許庁の特許行政年次報告書では、近年特 許査定率は上昇を続けており 2011、2012 年度では、其々 60.5%、66.8%である。単純比較はできないが、発明者帰属 特許の企業譲渡はほぼ同等、国大出願後に企業譲渡した 特許はそれよりも高い結果となっている。さらに、国大出願 後に企業譲渡した特許の中でも、共同出願企業に対して 譲渡した特許が高率の傾向がある。 特許維持率は、登録した特許のうち年金を支払い、特許 権を継続維持している特許の割合を言う。企業にとって直 接的に富をもたらす特許であれば維持するはずであり、特 許の価値を測る一つの指標となる。図 9 で特徴的なのが国 大出願後に新規企業に譲渡した特許群であり、企業は、一
旦取得した特許権をリストラしている率が他よりも高い。単純 に考えれば、新規に特許を取得する企業は、事業の必要 性に応じて、大学を含む他機関から知財を獲得し、逆に、 維持する必要性がなくなれば手放す傾向がより強いというこ とになるが、更なる検証が必要である。
4.企業が権利取得した特許の活用状況
ここでは、国大から企業に権利を譲渡した特許について、 当該特許を介在して新たな発明が行われるなど企業側でど の様に活用されているかサンプル抽出した特許を対象に推 定試行した結果を報告する。 サンプルとした特許は、国大と企業が連携研究して発明 した特許(発明者に双方の所属者が含まれる特許)のうち、 国大の権利を企業に移転し名義変更がなされた特許を対 象にランダム抽出した。これは占有的実施権だけでなく特 許権そのものを企業が保有するメリットを持った特許と推定 され、企業側の活用状況がより明示的に現れることを期待し てのことである。 分析は、サンプル抽出した産学連携による発明特許につ いて、企業側の主たる発明者に着目し同人が関与する全て の特許を抽出する。これらの特許の特徴や類似性、さらに 出願日や特許間の引用関係などの情報を手掛かりとして企 業の当該特許の活用状況を推定する。 特許の特徴や類似性の判別は、各特許明細書のマイニ ングを行い、形態素解析により切り出しした抽出語に関し双 対尺度法により解析し、結果を可視化する。なお、マイニン グ ツ ー ル と し て KH Corder4、 形 態 素 解 析 エ ン ジ ン は MeCab5、専門用語抽出は TermExtract6を用いた。また、多 変量解析および可視化ツールとしてエクセル統計を用い た。 図 10 は、眼科関連の医療・測定機器に強みを持つ光学 機器メーカの発明者に関して、同氏が関与した特許を解析 し可視化したものである。同氏が産学連携により発明した特 許は 1 件のみであり、2004 年度に出願(登録済)している。 同氏の発明領域の変遷を図に付置された特許の年度ご との重心を計算し、太矢印で示した。 すなわち、産学連携研究実施以前は眼特性測定の高精 度化等測定装置について広く研究を行っており、その一環 として高次収差(微細なレベルの角膜の歪み)測定につい て産学連携研究を実施したと推測される。また、以降の研 究は眼底測定およびそのイメージング手法の領域に絞り込 み実施している様が窺える。権利を取得した産学連携発明 特許は、後年、同氏による別特許から引用され、かつ、海外 を含む同業企業出願の特許からも引用されており、高次収 差測定に一定のインパクトを持つ特許であると推定できる。 図 11 は、粘接着素材など機能性材料の開発・製造を主 業とするメーカの発明者に関して、同氏が関与した特許を 解析し可視化したものである。産学連携特許は 10 件(図の □ラベル)存在し、うち 2 件が共願大学の権利を取得した特 許である。 同氏の特許は、3 つのクラスターに明確に分かれる。特許 の出願は 2004 年から開始されており、粘着剤、シール材等 を始めとする幅広い組成物の研究を行っていた(クラスター 1)。次に 2006~2009 年にかけて、ポリロタキサン7に注目し 産学連携にて要素研究を実施している(クラスター2)。これ による成果である特許 9 件は全て国大との共同出願である。 2009 年以降は企業にて応用研究に移行し、ポリロタキサン の架橋物を中心に大学からの支援を受けつつ開発を実施 している様が窺える(クラスター3)。 権利を取得した産学連携発明特許は、上記 9 件のうち 1 件であり、残り 1 件は応用研究に関する特許である。両特許 に特徴的なのは、他の特許から引用されている特許(特許 間の矢印で示す)であり、権利取得するに値するコアになる 特許であることが推測できる。 ‐1 ‐0.8 ‐0.6 ‐0.4 ‐0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 ‐1.4 ‐1.2 ‐1 ‐0.8 ‐0.6 ‐0.4 ‐0.2 0 0.2 0.4 0.6 3 2 0 0 0 0 0 0 0 1 1 1 1 1 1 1 4 5 3 2 2 2 3 3 3 1 4 4 2 2 22 2 3 5 7 7 6 6 6 6 6 9 88 4 4 9 10 10 10 4 6 眼の高次収差測定 波面収差測定 ↑眼特性測定方法に関する領域 測定時間の短縮 照明・受光条件の最適化 ビーム位置変化 波面検出 当該発明者が産学連携により発明した特許 6 出願年度を示す数値に下線があるものは、「産学連携に より発明した特許」よりも出願日が後であることを示す 「産学連携により発明した特許」を引用する他メーカ(海外含)の特許 自己引用 撮影画像 波長 分光眼底画像 分光特性 主な抽出語 表示 収差 被測定眼 選択 主な抽出語 受光部 照明光学系 光束 変化 主な抽出語 変換部材 メモリ 受光信号 受光光学系 主な抽出語 ↓眼の収差測定に関する領域 →測定装置化に関する領域 ←眼底測定・画像化に関する領域 X X X X X X X 0~9 当該発明者が発明した特許(数字は出願年度) 2軸の累積寄与率:30.86% 図12 光学機器メーカの事例‐3.5 ‐3 ‐2.5 ‐2 ‐1.5 ‐1 ‐0.5 0 0.5 1 1.5 2 ‐1 ‐0.5 0 0.5 1 1.5 2 2.5 8 9 当該発明者が発明した特許 9 産学連携により当該発明者が発明した特許 (大学と共願、数字は出願年度) 6~ 6 6 6 7 7 7 7 7 分子 鎖状 高分子架橋体 環状分子 ポリマー 重合性 刺激応答性 官能基 フィルム 高分子架橋前駆体 粘着剤 アクリル酸 重合体 エステル 組成物 偏光 成分 反応性 官能基 粘着シート このグループは全て産学連携特許 主な抽出語 主な抽出語 主な抽出語 シクロデキストリン ポリロタキサン 実施例 分子 軸分子 鎖状 輪成分 擬ポリロタキサン アシル化 キャッピング剤 大学の権利持分を取得し企 業単独で権利人となった特許 大学の権利持分を取得し企 業単独で権利人となった特許 2軸の累積寄与率:30.27% クラスター1 クラスター3 クラスター2 図13 粘接着素材メーカの事例